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特許7517705フロピリミジン化合物の塩および結晶形ならびにその医薬用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】フロピリミジン化合物の塩および結晶形ならびにその医薬用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 491/20 20060101AFI20240709BHJP
   A61K 31/527 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 5/24 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240709BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C07D491/20 CSP
A61K31/527
A61P5/24
A61P35/00
A61P15/00
A61P37/02
A61P19/00
A61P17/10
A61P17/14
A61P11/00
A61P1/00
A61P25/28
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021530802
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 KR2019014164
(87)【国際公開番号】W WO2020111524
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】10-2018-0151990
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517147825
【氏名又は名称】ティウムバイオ カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TiumBio Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】イ,ミンヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソンミ
(72)【発明者】
【氏名】キム,フンテク
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129879(WO,A1)
【文献】特表2017-520565(JP,A)
【文献】特表2016-527238(JP,A)
【文献】特表2016-518443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1:
[式1]
【化1】
で示される化合物のジベシル酸塩、二塩酸塩、または二シュウ酸塩
【請求項2】
式1で示される化合物のジベシル酸塩、二塩酸塩、または二シュウ酸塩が、固体状態である、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
式1で示される化合物のジベシル酸塩が、固体状態である、請求項1に記載の塩。
【請求項4】
25℃および相対湿度60%で1週間放置した場合の塩の吸湿性が、0.5重量%未満であり、25℃での水への溶解度が15mg/mL以上である、請求項1に記載の塩。
【請求項5】
式1:
[式1]
【化2】
で示される化合物のジベシル酸塩の結晶形。
【請求項6】
結晶形が、5.97°、7.22°、10.23°、11.91°、15.25°、16.20°、18.26°、18.48°、20.53°、および23.94°の回折角(2θ±0.2°)にピークを含む粉末X線回折(PXRD)スペクトルを有する、請求項5に記載の結晶形。
【請求項7】
結晶形が、10℃/分の温度上昇条件下で示差走査熱量測定(DSC)分析によって測定した場合、225℃~245℃の範囲に吸熱ピークの最大値を有する、請求項5に記載の結晶形。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1つに記載の塩または請求項5~7のいずれか1つに記載の結晶形;および
薬学的に許容される添加剤;
を含む、医薬組成物。
【請求項9】
性ホルモン関連疾患を予防または治療するための、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
性ホルモン関連疾患が、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、下垂体がん、子宮内膜症、無月経、月経不順、子宮筋腫(uterine myoma)、子宮筋腫(uterine fibroids)、多嚢胞性卵巣疾患、エリテマトーデス、多毛症、思春期早発症、低身長、にきび、脱毛症、性腺栄養性下垂体腺腫、睡眠時無呼吸、過敏性腸症候群、月経前症候群、良性前立腺肥大症、不妊症、およびアルツハイマー病からなる群から選択されうる、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
性ホルモン関連疾患を予防または治療するための医薬品の製造のための、請求項1~4のいずれか1つに記載の塩または請求項5~7のいずれか1つに記載の結晶形の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロピリミジン化合物の塩および結晶形、ならびにそれらの医薬用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、(R)-4-((2-(1-(2-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)ベンジル)-2,4-ジオキソ-1'-((5-(トリフルオロメチル)フラン-2-イル)メチル)-1H-スピロ[フロ[3,4-d]ピリミジン-5,4'-ピペリジン]-3(2H,4H,7H)-イル)-1-フェニルエチル)アミノ)ブタン酸の塩および結晶形、ならびにそれらの医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
(R)-4-((2-(1-(2-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)ベンジル)-2,4-ジオキソ-1'-((5-(トリフルオロメチル)フラン-2-イル)メチル)-1H-スピロ[フロ[3,4-d]ピリミジン-5,4'-ピペリジン]-3(2H,4H,7H)-イル)-1-フェニルエチル)アミノ)ブタン酸と称する、式1で示される化合物は、韓国特許第1495260号および米国特許第9,481,684号に開示されている。この化合物は、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体拮抗薬として作用し、したがって、性ホルモンに関連するさまざまな症状の予防または治療に有用であることが知られている。
[式1]
【化1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
先行文献に開示された式1の化合物(遊離塩基)は、医薬品有効成分(API)として使用するには物理的特性に関してあまり良くなかった。
【0004】
第1に、式1で示される化合物は固化せず、残留溶媒の制御が非常に困難であった。具体的には、式1で示される化合物は、溶解した状態の式1で示される化合物を可能な限り減圧下で濃縮乾固することにより、泡状物で得ることができた;しかしながら、泡状物形態の式1で示される化合物は、容易に湿って粘りのある油状物になる。
【0005】
第2に、式1で示される化合物は、安定性に乏しい。具体的には、式1で示される化合物は、構造中のアミノ酪酸部分がラクタム環を形成しやすいため、時間の経過とともに分解して関連物質を生成する。
【0006】
本発明者らは、式1で示される化合物のさまざまな塩および結晶形を製造し、それらの物理的特性を試験した。その結果、本発明者らは、化合物の特定の塩および結晶形が、分解および吸湿性を低減し、良好な安定性を有し、それにより、そのような塩および結晶形が、医薬組成物の製造などの医薬用途に適したものになることを見出し、したがって、本発明を完成させた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、式1で示されるフロピリミジン化合物の塩および結晶形、ならびにそれらの医薬用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ベシル酸塩、塩酸塩、シュウ酸塩、ナトリウム塩、およびカリウム塩からなる群から選択される、式1で示される化合物の塩を提供する。
【0009】
[式1]
【化2】
【0010】
さらに、本発明は、式1で示される化合物のベシル酸塩の結晶形を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、該塩または結晶形、および薬学的に許容される添加剤を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、性ホルモン関連疾患の予防または治療に用いられる。
【0012】
さらに、本発明は、性ホルモン関連疾患を抑制するための該塩または結晶形の使用、およびそのための薬剤の製造のための該塩または結晶形の使用を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、性ホルモン関連疾患を予防または治療するための該塩または結晶形の使用、およびそのための薬剤の製造のための該塩または結晶形の使用を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、それを必要とする対象に、該塩または結晶形を投与するステップを含む、性ホルモン関連疾患を予防または治療するための方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
発明の有利な効果
本発明の式1で示される化合物の塩および結晶形は、さまざまな物理化学的性質、すなわち、吸湿性、関連物質、化学的安定性などの点で良好であり、したがって、それ自体を有効成分として含む医薬組成物の製造などの医薬用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1による式1で示される化合物のベシル酸塩の結晶形の粉末X線回折(PXRD)スペクトルを示す。
図2】実施例1による式1で示される化合物のベシル酸塩の結晶形の赤外線(IR)スペクトルを示す。
図3】実施例1による式1で示される化合物のベシル酸塩の結晶形の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。
図4】50℃での保管の前後の、実施例1による式1で示される化合物のベシル酸塩の結晶形の粉末X線回折(PXRD)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
<式1で示される化合物の塩>
本発明は、式1で示される化合物の塩を提供し、該塩は、ベシル酸塩、塩酸塩、シュウ酸塩、ナトリウム塩、およびカリウム塩からなる群から選択される。
[式1]
【化3】
【0019】
式1で示される化合物は、韓国特許第1495260号および米国特許第9,481,684号に開示の方法にしたがって製造することができ、これらの開示は、全体を参照することにより本願に組み込まれる。
【0020】
式1で示される化合物のベシル酸塩は、ベンゼンスルホン酸と反応して得られ、ベンゼンスルホン酸塩とも呼ばれる。ベシル酸塩には、分子内にベシレート基を1つ含むモノベシル酸塩、分子内にベシレート基を2つ含むジベシル酸塩などが含まれる。これらのうち、ジベシル酸塩が結晶化に有利であり、物理化学的性質の点でより好ましい。
【0021】
式1で示される化合物の塩酸塩には、分子内にヒドロクロリド基を1つ含むモノ塩酸塩、分子内にヒドロクロリド基を2つ含む二塩酸塩などが含まれる。これらのうち、二塩酸塩が、物理化学的性質の点でより好ましい。
【0022】
式1で示される化合物のシュウ酸塩には、分子内にオキサレート基を1つ含むモノシュウ酸塩、分子内にオキサレート基を2つ含む二シュウ酸塩などが含まれる。これらのうち、二シュウ酸塩が、物理化学的性質の点でより好ましい。
【0023】
式1で示される化合物のナトリウムまたはカリウム塩は、分子内に1つのナトリウムまたはカリウム原子を含みうる。
【0024】
それと同時に、上記文献に記載されている式1で示される化合物(遊離塩基)は固化せず、医薬品有効成分(API)としての使用には不向きであった。しかしながら、本発明の式1で示される化合物の塩は、固体状態で得られ、良好な物理化学的性質を有し、そのような塩は、活性医薬成分としての使用に適している。
【0025】
具体的な例として、式1で示される化合物の塩は、固体状態であるジベシル酸塩、二塩酸塩、または二シュウ酸塩でありうる。より具体的な例として、式1で示される化合物の塩は、固体状態のジベシル酸塩でありうる。
【0026】
さらに、式1で示される化合物の塩は、分解および吸湿性を低下させ、安定性に優れているため、医薬組成物の製造に適用されうる。
【0027】
たとえば、塩の吸湿性は、25℃および60%の相対湿度で1週間放置した場合、10重量%未満、5重量%未満、3重量%未満、または1重量%未満でありうる。より具体的には、塩は、25℃および相対湿度60%で1週間放置した場合、吸湿性が0.5重量%未満でありうる。
【0028】
さらに、25℃での塩の水への溶解度は、10 mg/mL以上、15 mg/mL以上、20 mg/mL以上、または25 mg/mL以上でありえ、さらに具体的には、10 mg/mL~40 mg/mL、15 mg/mL~35 mg/mL、または20 mg/mL~30 mg/mLでありうる。
【0029】
一例として、25℃および相対湿度60%で1週間放置した場合の塩の吸湿性は、0.5重量%未満であり、25℃での水への溶解度は15mg/mL以上でありうる。
【0030】
さらに、塩は、80℃で20時間放置した場合、関連物質の増加が、初期重量に対して3重量%未満、または2重量%未満でありうる。具体的には、塩は、80℃で20時間放置した場合、関連物質の増加が、初期重量に対して1重量%未満でありうる。より具体的には、塩は、80℃で20時間放置した場合、関連物質の増加が、初期重量に対して0.5重量%未満または0.1重量%未満でありうる。
【0031】
<式1で示される化合物の結晶形>
式1で示される化合物の塩は、結晶形、非晶質形、またはそれらの混合物として製造することができ、結晶形が好ましい。
【0032】
したがって、本発明は、式1で示される化合物のベシル酸塩の結晶形を提供する。
【0033】
一般に、塩は、製薬分野に適用されるためには、特定の結晶形を製造する際の再現性、高い結晶性、結晶形の安定性、化学的安定性、および非吸湿性など、さまざまな物理化学的特性を備えていなければならない。
【0034】
この観点から、式1で示される化合物のベシル酸塩の結晶形は、良好な安定性および製剤化を容易にする物理化学的性質を有するため好ましい。具体的には、結晶形は、分子内に2つのベシレート基を含むジベシル酸塩の結晶形でありうる。
【0035】
式1で示される化合物のベシル酸塩については、特定の結晶形(以下「結晶形A」と称する)が、非吸湿性および物理化学的安定性の点でより有利であることが試験により示されている。このような特性は、有効医薬品成分およびその製剤の溶解、安定性、および物理的特性にプラスの影響を与える可能性があるため、結晶形は医薬品組成物の有効成分としてより適切である可能性がある。
【0036】
一方、式1で示される化合物のベシル酸塩は、少なくとも1つの結晶形で存在する可能性がある;しかしながら、このようにして得られた別の結晶形(以下、「結晶形B」と称する)は、比較的準安定な結晶状態にあり、経時変化によりいくつかの結晶転移を受ける可能性がある。
【0037】
ベシル酸塩の結晶形(結晶形A)は、5.97°、7.22°、10.23°、11.91°、15.25°、16.20°、18.26°、18.48°、20.53°、および23.94°の回折角(2θ±0.2°)にピークを含む粉末X線回折(PXRD)スペクトルを有しうる。
【0038】
さらに、結晶形(結晶形A)の粉末X線回折(PXRD)スペクトルは、上記ピークに加えて、6.70°、12.68°、13.41°、19.62°、19.79°、22.14°、22.96°、および24.34°の回折角(2θ±0.2°)にピークをさらに含みうる。
【0039】
さらに、さらに、結晶形(結晶形A)の粉末X線回折(PXRD)スペクトルは、上記ピークに加えて、9.88°、15.66°、17.23°、17.48°、18.85°、19.27°、および29.28°の回折角(2θ±0.2°)にピークをさらに含みうる。
【0040】
上に例示されたようなピークは、約10%以上、20%以上、30%以上、または50%以上の相対強度を有するピークでありうる。本明細書では、ピークの相対強度は、相対強度比(I/I0)のパーセンテージとして表され、ここで、「I0」は、PXRDスペクトル上で100に設定された最大ピーク強度を示し、「I」は、対応するピーク強度を示す。
【0041】
結晶形(結晶形A)は、10℃/分の温度上昇条件下で示差走査熱量測定(DSC)分析によって測定した場合、200℃~300℃の範囲に吸熱ピークを有しうる。ここで、吸熱ピークの最大値は、約225℃~245℃、または約232℃~236℃の範囲に存在しうる。たとえば、結晶形(結晶形A)は、DSC分析で測定した場合、225℃~235℃で始まり、約230℃~240℃で最大に達する吸熱ピークを有しうる。
【0042】
さらに、結晶形(結晶形A)は、そのような結晶形が分解および吸湿性を低減し、良好な安定性を有するので、医薬組成物の製造に適用することができる。
【0043】
たとえば、結晶形(結晶形A)は、25℃および相対湿度60%で1週間放置した場合、10重量%未満、5重量%未満、3重量%未満、1重量%未満、または0.5重量%未満の吸湿性を有しうる。
【0044】
さらに、結晶形(結晶形A)は、10 mg/mL以上、15 mg/mL以上、20 mg/mL以上、または25 mg/mL以上、およびより具体的には、10 mg/mL~40 mg/mL、15 mg/mL~35 mg/mL、または20 mg/mL~30 mg/mLの25℃での水への溶解度を有しうる。
【0045】
さらに、結晶形(結晶形A)は、80℃で20時間放置した場合、初期重量に対して3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、または0.1重量%未満の関連物質の増加を有しうる。
【0046】
結晶形(結晶形A)は、少なくとも1つの溶媒を使用する結晶化によって、式1で示される化合物またはその塩から製造することができる。結晶化に使用する溶媒は、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、およびそれらの混合溶媒からなる群から選択することができる。あるいは、式1で示される化合物の塩を製造する方法は、その結晶形を製造する方法と同じであってもよい。
【0047】
<医薬用途>
米国特許第9,481,684号などに開示されているように、式1で示される化合物は、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体拮抗薬として作用し、したがって、さまざまな性ホルモン関連症状の予防または治療に有用であることが証明されている。
【0048】
この観点から、性ホルモン関連疾患の予防または治療には、式1で示される化合物の塩または結晶形を使用することができる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「予防」という用語は、式1で示される化合物の塩または結晶形の投与による疾患の発生、拡大、再発を阻害または遅延させる行為を示し、「治療」という用語は、 式1で示される化合物の塩または結晶形を投与することによる疾患を改善または有益に変化させる行為を示す。
【0050】
本発明は、性ホルモン関連疾患を予防または治療するための、式1で示される化合物の塩または結晶形使用を提供する。さらに、本発明は、性ホルモン関連疾患を予防または治療するための医薬品の製造のための、式1で示される化合物の塩または結晶形での使用を提供する。
【0051】
さらに、本発明は、それを必要とする対象に式1で示される化合物の塩または結晶形を投与するステップを含む、性ホルモン関連疾患を予防または治療するための方法を提供する。
【0052】
本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という用語は、ヒト(患者)、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、およびモルモットを含む、疾患を有するかまたは発症する可能性のある任意の動物、特に哺乳動物を示す。さらに、それを必要とする対象は、生物学的サンプルを示しうる。
【0053】
さらに、本明細書で使用される場合、「投与」という用語は、任意の適切な方法によって、それを必要とする対象に所定の物質を提供することを示す。本発明の化合物の投与経路について、経路が、化合物がその標的組織に到達することを可能にする限り、任意の一般経路を投与に使用することができる。
【0054】
さらに、本発明は、該塩または結晶形、および薬学的に許容される添加剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0055】
式1で示される化合物の塩または結晶形を含む医薬組成物は、性ホルモン関連疾患の予防または治療のために使用されうる。
【0056】
たとえば、性ホルモン関連疾患は、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、下垂体がん、子宮内膜症、無月経、月経不順、子宮筋腫(uterine myoma)、子宮筋腫(uterine fibroids)、多嚢胞性卵巣疾患、エリテマトーデス、多毛症、思春期早発症、低身長、にきび、脱毛症、性腺栄養性下垂体腺腫、睡眠時無呼吸、過敏性腸症候群、月経前症候群、良性前立腺肥大症、不妊症、およびアルツハイマー病からなる群から選択されうる。
【0057】
特に、式1で示される化合物の塩または結晶形を含む医薬組成物は、子宮内膜症および子宮筋腫の予防または治療に有効である。
【0058】
式1で示される化合物の塩または結晶形、またはそれを含む医薬組成物の投与量は、治療される対象、疾患または状態の重症度、投与速度、および処方医の判断によって異なりうる。通常、式1で示される化合物の遊離塩基を有効成分として使用する場合に基づいて、化合物は、経口または非経口経路を介して、1日1回から2回、またはオン/オフスケジュールを使用して、0.01 mg/kg(体重)~100 mg/kg(体重)、好ましくは、0.2 mg/kg(体重)~50 mg/kg(体重)の量で、ヒトを含む哺乳動物に投与されうる。場合によっては、上記の範囲よりも少ない投与量がより適切である可能性があり、有害な副作用を引き起こすことなく、より多くの投与量を使用することもできる。より多くの投与量が使用される場合、投与量は、一日にわたっていくつかのより少ない投与量に分割されうる。
【0059】
本発明による医薬組成物は、従来の方法にしたがって処方することができ、錠剤、丸剤、粉末、カプセル、シロップ、エマルジョン、およびマイクロエマルジョンなどのさまざまな経口剤形、あるいは筋肉内、静脈内投与、または皮下投与などの非経口剤形に製造することができる。
【0060】
医薬組成物は、担体、希釈剤、アジュバント、および賦形剤などの、任意の従来の非毒性の医薬的に許容される添加剤を含みうる。本発明による医薬組成物が経口剤形の形態で製造される場合、使用される担体の例には、セルロース、ケイ酸カルシウム、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、デキストロース、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ゼラチン、タルク、界面活性剤、懸濁剤、および乳化剤が含まれる。さらに、本発明による医薬組成物が経口剤形の形態で製造される場合、使用される希釈剤の例には、ラクトース、マンニトール、糖類、微結晶性セルロースおよびセルロース誘導体、ならびに乾燥トウモロコシデンプンが含まれる。本発明による医薬組成物が注射剤の形態で製造される場合、使用される担体の例には、水、生理食塩水、グルコース水溶液、疑似糖水溶液、アルコール、グリコール、エーテル(たとえば、ポリエチレングリコール400)、油、脂肪酸、脂肪酸エステル、グリセリド、界面活性剤、懸濁剤、および乳化剤が含まれる。
発明の形態
以下、本発明を具体例として説明する。しかしながら、以下の実施例は、本発明を説明するための単なる例であり、本発明の範囲はそれらに限定されない。
【実施例
【0061】
製造例1:式1で示される化合物の製造
本明細書に引用する米国特許第9,481,684号に記載の方法またはそれに類似した方法にしたがって、式1で示される化合物の遊離塩基、すなわち、(R)-4-((2-(1-(2-フルオロ-6-(トリフルオロメチル)ベンジル)-2,4-ジオキソ-1'-((5-(トリフルオロメチル)フラン-2-イル)メチル)-1H-スピロ[フロ[3,4-d]ピリミジン-5,4'-ピペリジン]-3(2H,4H,7H)-イル)-1-フェニルエチル)アミノ)ブタン酸を白色泡状物の形態で得た。
【0062】
1H-NMR (600MHz、DMSO-d6) δ 1.39 (d、1H、J=11.5Hz)、1.43-1.52 (m、3H)、2.00 (td、1H、J=13.2、4.5Hz)、2.09-2.21 (m、4H)、2.21-2.31 (m、3H)、2.63-2.72 (m、2H)、3.60 (s、2H)、3.78-3.87 (m、2H)、3.87-3.94 (m、1H)、4.88 (s、2H)、4.98 (s、2H)、6.53 (d、1H、J=3.4Hz)、7.12-7.19 (m、4H)、7.22 (t、2H、J=7.3Hz))、7.52-7.62 (m、2H)、7.62-7.66 (m、1H)。
【0063】
<式1で示される化合物の塩の製造>
実施例1:式1で示される化合物のベシル酸塩の製造
式1で示される化合物(遊離塩基、2.0 g)の酢酸エチル/アセトン(1/3、v/v)溶液(20 mL)を5℃に冷却し、次に、2.2当量のベンゼンスルホン酸(2 Mアセトン溶液、2.9 mL)を加えた。窒素雰囲気下、5℃にて3時間撹拌を行い、次に、室温にて12時間撹拌を行った。得られる固体をろ過し、室温にて12時間減圧乾燥して、2.6 gの白色固体を得た(91%収率)。
【0064】
1H-NMR (600MHz、DMSO-d6) δ 1.56 (d、1H、J=14.6Hz)、1.67-1.80 (m、3H)、2.13 (t、1H、J=12.1Hz)、2.23 (td、2H、J=7.2、3.0Hz)、2.27-2.35 (m、1H)、2.59-2.68 (m、1H)、2.86-2.94 (m、1H)、3.09-3.20 (m、2H)、3.32-3.51 (m、2H)、4.08-4.18 (m、1H)、4.40-4.51 (m、2H)、4.57 (s、2H)、4.98 (s、2H)、4.99 (s、2H)、6.93 (s、1H)、7.22 (s、1H)、7.23 (s、1H)、7.27-7.40 (m、10H)、7.57-7.68 (m、7H)、9.01 (br s、1H)、9.08 (br s、1H)、9.97 (br s、1H)、12.22 (br s、1H)。
【0065】
13C-NMR (600MHz、DMSO-d6) δ 21.12、30.33、31.11、31.23、41.80、43.82、45.06、48.13、50.57、59.21、69.05、82.90、109.39、114.46、115.73、116.17、117.94、119.71、120.76、120.90、121.48、121.75、121.84、122.50、122.60、124.42、125.52、127.73、128.19、128.62、128.69、128.80、129.43、130.39、130.47、132.07、141.26、147.84、147.92、151.10、153.85、157.47、160.23、161.87、173.47。
【0066】
実施例2:式1で示される化合物の二塩酸塩の製造
式1で示される化合物(遊離塩基、1.4 g)の1,4-ジオキサン溶液(50 mL)を5℃に冷却し、次に、2.2当量の塩酸(350 μLの濃HCl水溶液)を加えた。室温にて1時間にて撹拌を行った。反応溶液に硫酸ナトリウムを加えた。得られる物質を乾燥し、ろ過し、次に、1,4-ジオキサン(10 mL)で洗浄した。ろ液を減圧濃縮して、1/5の体積にした。得られる固体をろ過し、室温にて24時間減圧乾燥して、1.5 gの白色固体(収率:94%)を得た。
【0067】
1H-NMR (400MHz、MeOD-d4) 1.85-2.03 (m、4H)、2.40 (t、2H、J=6.9 Hz)、2.43-2.60 (m、2H)、2.80-2.89 (m、1H)、2.95-3.04 (m、1H)、3.33-3.42 (m、2H)、3.45-3.55 (m、2H)、4.42 (dd、1H、J=13.7、7.5 Hz)、4.51 (dd、1H、J=13.8、6,7 Hz)、4.56 (s、2H)、4.66 (t、1H、J=7.1 Hz)、5.02 (s、2H) 5.13 (dd、2H、J=32.2、16.2 Hz)、6.96 (d、1H、J=3.3 Hz)、7.15 (d、1H、J=2.8 Hz)、7.37-7.47 (m、6H)、7.58-7.66 (m、2H)。
【0068】
実施例3:式1で示される化合物の二シュウ酸塩の製造
式1で示される化合物(遊離塩基、1.5 g)の酢酸エチル溶液(10 mL)を5℃に冷却し、次に、2.2当量のシュウ酸(0.55 M酢酸エチル溶液、8 mL)を加えた。窒素雰囲気下、室温にて4時間撹拌を行った。反応溶液を1/2の体積に濃縮し、5℃にて5時間撹拌した。得られる固体をろ過し、室温にて12時間減圧乾燥して、1.8 gの白色固体(収率:93%)を得た。
【0069】
1H-NMR (300MHz、MeOD-d4) δ 1.78-1.98 (m、4H)、2.33 (t、2H、J=7.0 Hz)、2.40-2.60 (m、2H)、2.71-2.82 (m、1H)、2.87-2.98 (m、1H)、3.22-3.29 (m、2H)、3.42-3.51 (m、2H)、4.32 (dd、1H、J=13.3、6.4 Hz)、4.44-4.51 (m、3H)、4.70 (dd、1H、J=8.3、6.0 Hz)、4.96 (s、2H)、5.13 (dd、2H、J=42.8、16.2 Hz)、6.88 (d、1H、J=3.4 Hz)、7.07-7.11 (m、1H)、7.37-7.44 (m、6H)、7.52-7.64 (m、2H)。
【0070】
実施例4:式1で示される化合物のナトリウム塩の製造
メタノール中の式1で示される化合物(遊離塩基、1.5 g)の溶液(5 mL)に、1.1当量の水酸化ナトリウム(2 mLのメタノール溶液)を加えた。室温にて2時間撹拌を行った。反応溶液を濃縮した。次に、蒸留水(13 mL)およびn-ブタノール(12 mL)の添加を行った。30 wt% NaOH水溶液(2 mL)の添加を行った。反応溶液振とうして層を分離した。次に、有機層を回収し、水層をn-ブタノール(5 mL)で2回抽出した。有機層を集め、飽和塩化ナトリウム水溶液(10 mL)および蒸留水(10 mL)で連続的に洗浄した。有機層を濃縮し、減圧乾燥して、黄色泡状物を得た。これを、メチルt-ブチルエーテル(MTBE、20 mL)に溶解し、次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜(0.45 μm)を通してろ過した。ろ液を濃縮した。濃縮液をMTBE(2 mL)に溶解し、次に、n-ヘプタン(10 mL)をゆっくりと加えながら撹拌した。得られる物質をさらに1時間撹拌し、ろ過し、減圧乾燥して、1.2 gの白色固体(収率:82%)を得た。
【0071】
1H-NMR (300MHz、CDCl3) δ 1.30-1.57 (m、4H)、1.88-2.02 (m、2H)、2.11-2.35 (m、6H)、2.63-2.74 (m、2H)、3.54 (s、2H)、3.87-4.09 (m、3H)、4.57 (s、2H)、4.96-5.11 (m、2H)、6.25 (d、1H、J=3.2 Hz)、6.65-6.69 (m、1H)、7.05-7.24 (m、6H)、7.34-7.49 (m、2H)。
【0072】
実施例5:式1で示される化合物のカリウム塩の製造
式1で示される化合物(遊離塩基、1.5 g)のメタノール溶液(5 mL)に、1.1当量の水酸化カリウム(2 mLのメタノール溶液)を加えた。室温にて17時間撹拌を行った。反応溶液を濃縮した。次に、蒸留水(13 mL)およびn-ブタノール(12 mL)の添加を行った。30 wt% KOH水溶液(2 mL)の添加を行った。反応溶液振とうして層を分離した。次に、有機層を回収し、水層をn-ブタノール(10 mL)で1回抽出した。有機層を集め、飽和塩化カリウム水溶液(10 mL)および蒸留水(10 mL)で連続的に洗浄した。有機層を濃縮し、減圧乾燥して、黄色泡状物を得た。これを、メチルt-ブチルエーテル(MTBE、20 mL)に溶解し、次に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜(0.45 μm)を通してろ過した。ろ液を濃縮した。濃縮液をMTBE (2 mL)に溶解し、次に、n-ヘプタン(10 mL)をゆっくりと加えながら撹拌した。得られる物質をさらに1時間撹拌し、ろ過し、減圧乾燥して、1.3 gの白色固体(収率:84%)を得た。
【0073】
1H-NMR (300MHz、CDCl3) δ 1.26-1.54 (m、4H)、1.85-1.97 (m、2H)、2.08-2.35 (m、6H)、2.64-2.74 (m、2H)、3.54 (s、2H)、3.89-4.06 (m、3H)、4.58 (s、2H)、5.02 (s、2H)、6.25 (d、1H、J=3.1 Hz)、6.66-6.70 (m、1H)、7.05-7.24 (m、6H)、7.36-7.49 (m、2H)。
【0074】
比較例1:式1で示される化合物の二リン酸塩の製造
式1で示される化合物(遊離塩基、1.5 g)のジクロロメタン溶液(2 mL)を5℃に冷却し、次に、2.2当量のリン酸(1Mメタノール溶液、4.4 mL)を加えた。窒素雰囲気下、室温にて12時間撹拌を行った。反応溶液を減圧濃縮し、5 mLのエタノールに溶解し、窒素雰囲気下、5℃にて5時間撹拌を行った。反応溶液を減圧濃縮し、次に、室温にて12時間減圧乾燥して、1.9 gの白色泡状物(収率:98%)を得た。
【0075】
1H-NMR (300MHz、MeOD-d4) δ 1.73-1.92 (m、4H)、2.33 (t、2H、J=6.9 Hz)、2.37-2.56 (m、2H)、2.69-2.89 (m、2H)、3.06 (t、2H、J=11.2 Hz)、3.22-3.32 (m、2H)、4.28 (s、2H)、4.33-4.43 (m、2H)、4.56 (t、1H、J=7.1 Hz)、4.91 (s、2H)、4.99-5.12 (m、2H)、6.85 (d、1H、J=3.5 Hz)、7.01-7.05 (m、1H)、7.30-7.41 (m、6H)、7.48-7.60 (m、2H)。
【0076】
比較例2:式1で示される化合物の二硫酸塩の製造
式1で示される化合物(遊離塩基、0.50 g)のジクロロメタン溶液(1 mL)を5℃に冷却し、次に、2.2当量の硫酸(77μLの硫酸を1mLのジクロロメタンに溶解して得られた溶液)を加えた。窒素雰囲気下、室温にて1時間撹拌を行った。反応溶液を減圧濃縮し、室温にて12時間減圧乾燥して、0.40 gの白色泡状物(収率:64%)を得た。
【0077】
1H-NMR (300MHz、MeOD-d4) δ 1.65-1.90 (m、4H)、2.34-2.54 (m、4H)、2.76-2.92 (m、4H)、3.16 (d、2H、J=12.0 Hz)、4.13 (s、2H)、4.32-4.47 (m、2H)、4.59 (t、1H、J=7.2 Hz)、4.93 (s、2H)、5.02-5.15 (m、2H)、6.80 (d、1H、J=3.5 Hz)、7.00-7.04 (m、1H)、7.35-7.44 (m、6H)、7.52-7.63 (m、2H)。
【0078】
比較例3:式1で示される化合物の二トシル酸塩の製造
式1で示される化合物(遊離塩基、0.50 g)のジクロロメタン溶液(1 mL)を5℃に冷却し、次に、2.2当量のトシル酸(276mgのトシル酸を1 mLのエタノール/酢酸エチル(3/7、v/v)に溶解して得られた溶液)を加えた。窒素雰囲気下、室温にて12時間撹拌を行った。反応溶液を減圧濃縮し、次に、室温にて12時間減圧乾燥して、0.59 gの白色泡状物(収率:81%)を得た。
【0079】
1H-NMR (300MHz、MeOD-d4) δ 1.76-1.86 (m、2H)、1.90-1.98 (m、2H)、2.22 (t、2H、J=7.0 Hz)、2.37 (s、6H)、2.40-2.58 (m、2H)、2.68-2.78 (m、1H)、2.82-2.92 (m、1H)、3.33-3.41 (m、2H)、3.44-3.54 (m、2H)、4.33-4.48 (m、2H)、4.54 (s、2H)、4.61-4.66 (m、1H)、4.98 (s、2H)、5.12 (dd、2H、J=36.9、16.2 Hz)、6.93 (d、1H、J=6.94 Hz)、7.11-7.14 (m、1H)、7.24 (d、4H)、7.36-7.45 (m、6H)、7.54-7.64 (m、2H)、7.69-7.73 (m、4H)。
【0080】
<式1で示される化合物の塩の物理的特性の評価>
試験例1:吸湿性
上記の例で製造した各塩(ジベシル酸塩、二塩酸塩、二シュウ酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩)を25℃および相対湿度60%または90%で1週間放置し、それらの吸湿性を測定した。ここで、吸湿性は、初期重量に対する吸湿性試験後に測定された重量増加のパーセンテージとして測定された。結果を以下の表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
上記の表に示すように、実施例の塩は、25℃および相対湿度60%下で低い吸湿性を示し、特に、実施例1のジベシル酸塩は、25℃および90%相対湿度下でも非常に低い吸湿性を示した。それに対して、比較例で製造した塩、すなわち、二リン酸塩、二硫酸塩、および二トシル酸塩は、遊離塩基のような泡の形態で得られ、容易に湿って粘着性の油に変わった。
【0083】
試験例2:化学的純度
上記実施例で製造した各塩(ジベシル酸塩、二塩酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩)を80℃で20時間放置し、関連物質の変化量を測定した。さらに、各塩を80℃で21日間放置し、次に、主化合物(式1で示される化合物)の残留量を測定した。関連物質および主化合物の測定のために、サンプルを80℃への暴露の前後に採取し、1 mg/mLの濃度で希釈された溶液に溶解し、次に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付した。得られたデータから、主化合物のピーク面積に対するラクタム系関連物質のピーク面積を測定することにより、関連物質の増加を計算した。さらに、比較のために、式1で示される化合物の遊離塩基についても同様の試験を行った。結果を以下の表2および3に示す。
【0084】
さらに、同様の方法で、上記実施例で製造したジベシル酸塩を3ヶ月間(40℃および相対湿度75%)保管し、ラクタム系関連物質および主化合物の変化量を測定した。結果を以下の表4に示した。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
表2および表3に示すように、遊離塩基は関連物質の約79%までの増加を示したが、実施例の塩は関連物質のわずかな増加しか示さず、したがって良好な安定性を示した。特に、実施例1のジベシル酸塩は、関連物質を生成せず、非常に良好な安定性を有した。さらに、表4に示すように、実施例の塩は、40℃、相対湿度75%で3ヶ月間放置しても非常に安定していることが確認された。
【0089】
試験例3:水溶性
吸湿性および安定性試験で最良の結果を示したジベシル酸塩を、水溶性に関して遊離塩基と比較した。水溶性は以下のようにして得られた。遊離塩基およびジベシル酸塩を、それぞれ25℃の蒸留水に溶解して、過飽和にした。次に、溶液を溶解用の希釈剤で20倍に希釈した。次に、得られたものを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付した。得られたデータにおいて、溶解量を主化合物のピーク面積から計算した。結果を以下の表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
表5に示すように、ジベシル酸塩は、遊離塩基の低い水溶性と比較して、大幅に改善された水溶性を示した。この水溶性の増加は、その医薬品の崩壊と溶解速度を改善し、その化合物を医薬品有効成分(API)としての使用に非常に望ましいものにする。
【0092】
試験例4:医薬品の安定性
上記の実施例で製造した各塩(ジベシル酸塩、二塩酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩)を用いて、以下の表6に示す賦形剤組成物を有する経口カプセルの形態で医薬品を製造した。医薬品を50℃および湿度80%で3週間放置し、関連物質の変化量を測定した。関連物質の測定のために、内容物をカプセルから分離し、次に、それらすべてを希釈された溶液に入れ、有効成分が1 mg/mLの濃度になるようにした。振とうを5分間行った。上清を採取し、ろ過した。ろ液を採取し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付した。得られるデータから、主化合物(有効成分)のピーク面積とラクタム系関連物質のピーク面積のパーセンテージを測定した。さらに、比較のために、式1で示される化合物の遊離塩基についても同様の試験を行った。試験に使用した塩および遊離塩基はすべて、98%以上の化学的純度を有していた。結果を以下の表7に示す。
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
表7に示すように、実施例の塩は、遊離塩基と比較して高い化学的純度を維持した。特に、実施例1のジベシル酸塩は、非常に良好な安定性を示した。それに対して、遊離塩基系医薬品は、50℃および相対湿度80%で3週間保存した場合、安定性が大幅に低下した。
【0096】
<式1で示される化合物のジベシル酸塩の結晶分析>
試験例5:粉末X線回折(PXRD)
実施例1で得られた固体生成物(結晶形A)を粉末X線回折(PXRD)に付した。結果を図1および以下の表8に示す。
装置:Maker Bruker AXS、D8 FOCUS
条件:40 kV、30 mA、2θ/θ走査範囲3°~50°
【0097】
【表8】
【0098】
試験例6:赤外(IR)分光法
実施例1で得られた固体生成物(結晶形A)を赤外(IR)分光法に付した。赤外分光法の装置および条件、ならびにその結果を以下の表9と図2に示す。
【0099】
【表9】
【0100】
試験例7:示差走査熱量測定(DSC)
示差走査熱量測定(DSC)を、実施例1で得られた固体生成物(結晶形A)に対して行った。結果を図3に示す。
装置:PERKIN ELMER DSC8000
分析条件:3.8 mgのサンプル、10℃/分の温度上昇
【0101】
図3に示すように、DSC曲線は、230.73℃で始まり、約235.18℃で最大に達する吸熱ピークを示す。
【0102】
試験例8:結晶形の安定性の評価
実施例1で得られた固体生成物(結晶形A)を50℃で真空乾燥し、次に、上記のように粉末X線回折に付した。結果を図4に示す。
【0103】
図4に示すように、実施例1で得られた固体生成物(結晶形A)は、50℃で真空乾燥した後も初期と同じ結晶構造を維持しており、良好な安定性を有することが見出された。
【0104】
一方、1,4-ジオキサンを溶媒として用いて、実施例1と同様の方法で固体生成物(結晶形B)を得、上記のように粉末X線回折に付した。その結果、この固体生成物は、50℃で真空乾燥した後、初期の結晶構造の一部を維持せず、実施例1で得られた固体生成物(結晶形A)と比較して安定性が比較的低いことが確認された。
図1
図2
図3
図4