(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】REIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤との併用による肝臓がんの治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240709BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20240709BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20240709BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20240709BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20240709BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20240709BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240709BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20240709BHJP
A61K 33/243 20190101ALI20240709BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240709BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240709BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20240709BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240709BHJP
C12N 15/861 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K31/282
A61K31/44
A61K31/47
A61K31/4439
A61K31/404
A61K31/506
A61K31/517
A61K33/243
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K35/761
C12N15/12 ZNA
C12N15/861 Z
(21)【出願番号】P 2021535456
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2020029407
(87)【国際公開番号】W WO2021020554
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019141677
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365318
【氏名又は名称】桃太郎源株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】公文 裕巳
(72)【発明者】
【氏名】白羽 英則
(72)【発明者】
【氏名】大山 淳史
(72)【発明者】
【氏名】内田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩室 雅也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕之
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-501924(JP,A)
【文献】SAWAHARA, H. et al.,Promising therapeutic efficacy of a novel reduced expression in immortalized cells/dickkopf-3 expressing adenoviral vector for hepatocellular carcinoma,J. Gastroenterol. Hepatol.,2017年,Vol.32, No.10,p.1769-1777
【文献】CAO, H. et al.,Improved chemotherapy for hepatocellular carcinoma,Anticancer Res.,2012年,Vol.32, No.4,p.1379-86
【文献】XU, F. et al.,Immune checkpoint therapy in liver cancer,J Exp Clin Cancer Res,2018年,Vol.37, No.1,Article 110
【文献】TANAKA, E. et al.,THE EFFICACY OF REIC/DKK-3 GENE THERAPY FOR CHOLANGIOCARCINOMA,Gastroenterology,Vol.154, No.6, Suppl.1,2018年,p.S951-S952 (Abstract),[retrieved on 2020.08.31], Retrieved from: STN, Accession No.2018:1100662 BIOSIS
【文献】SHIEN, K. et al.,Anti-cancer effects of REIC/Dkk-3-encoding adenoviral vector for the treatment of non-small cell lung cancer,PLoS One,2014年,Vol.9, No.2,e87900
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
REIC/Dkk-3遺伝子を有効成分として含む、
白金製剤又はソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、パゾパニブ及びエルロチニブからなる群から選択される1種又は2種以上であるチロシンキナーゼ阻害剤と併用される、肝臓がん治療用医薬。
【請求項2】
REIC/Dkk-3遺伝子が、アデノウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
白金製剤が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ミリプラチン、ミタプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン及びトリプラチンからなる群から選択される請求項
1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
白金製剤が、シスプラチンである請求項3記載の医薬。
【請求項5】
チロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ及びレンバチニブからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項6】
チロシンキナーゼ阻害剤が、
ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ及びパゾパニブからなる群から選択される、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項
1又は2に記載の医薬。
【請求項7】
局所投与剤の形態にある、請求項1~
6のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
白金製剤又はソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、パゾパニブ及びエルロチニブからなる群から選択される1種又は2種以上であるチロシンキナーゼ阻害剤とREIC/Dkk-3遺伝子とを組合せて含む、肝臓がん治療のための組合せ医薬キット。
【請求項9】
REIC/Dkk-3遺伝子が、アデノウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする、請求項
8記載の組合せ医薬キット。
【請求項10】
白金製剤が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ミリプラチン、ミタプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン及びトリプラチンからなる群から選択される請求項
8又は9に記載の組合せ医薬キット。
【請求項11】
白金製剤が、シスプラチンである、請求項10記載の組合せ医薬キット。
【請求項12】
チロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ及びレンバチニブからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項8又は9に記載の組合せ医薬キット。
【請求項13】
チロシンキナーゼ阻害剤が、
ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ及びパゾパニブからなる群から選択される、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤である、請求項
8又は9に記載の組合せ医薬キット。
【請求項14】
REIC/Dkk-3遺伝子が、局所投与剤の形態にある、請求項
8~
13のいずれか1項に記載の組合せ医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗肝臓がん組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌、殊に、進行肝がんの治療においては、抗癌剤を用いた化学療法が治療の重要な位置を占めている。進行肝がん治療の標準薬であるソラフェニブの臨床試験では、生存期間は中央値で15.6ヶ月と予後不良である(非特許文献1参照)。ソラフェニブ以外にレゴラフェニブ、レンバチニブが開発され、臨床応用され治療選択肢は増えたが、いずれもソラフェニブに対する非劣勢が証明された薬剤であり予後の大きな改善には至っていない。その他、進行肝がんの治療にシスプラチンが用いられているが、奏効率の点でいまだ十分とは言えない。
【0003】
REIC/Dkk-3遺伝子は細胞の不死化に関連していることが知られている。この遺伝子の発現はがん細胞で抑制されていることが報告されている。さらに、REIC/Dkk-3遺伝子ががん治療に用いられていることが報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Llovet JM. et al., N Engl J Med 2008; 359(4): 378-390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来の進行肝がん化学療法では、十分な治療効果を得ることが困難である。従来の進行肝がん化学療法では、いずれの抗癌剤も副作用が比較的強く、治療不耐により減量や休薬を余儀なくされるという問題がある。
【0007】
本発明は抗腫瘍剤をREIC/Dkk-3遺伝子と併用することによりがんを治療する方法の提供を目的とする。また、本発明は抗腫瘍剤と併用するためのREIC/Dkk-3遺伝子を有効成分として含む医薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、REIC/Dkk-3遺伝子と化学療法剤である抗腫瘍剤の併用による、肝臓がん治療に対する効果について検討を行った。
【0009】
本発明者らは、REIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤の併用が腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍増殖を阻害し、その効果がそれぞれを単独で用いた場合に比べ著しく高いことを見出した。このことはREIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤の併用が、がんの治療に極めて有用であることを示す。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] REIC/Dkk-3遺伝子を有効成分として含む、抗腫瘍剤と併用される、肝臓がん治療用医薬。
[2] REIC/Dkk-3遺伝子が、アデノウイルスベクターに組み込まれていること特徴とする、[1]の医薬。
[3] 抗腫瘍剤が、白金製剤である、[1]又は[2]の医薬。
[4] 白金製剤が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ミリプラチン、ミタプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン及びトリプラチンからなる群から選択される[3]の医薬。
[5] 抗腫瘍剤が、チロシンキナーゼ阻害剤である、[1]又は[2]の医薬。
[6] チロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、パゾパニブ及びエルロチニブからなる群から選択される1種又は2種以上である、[5]の医薬。
[7] チロシンキナーゼ阻害剤が、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤である、[5]の医薬。
[8] VEGFRを標的とするチロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ及びパゾパニブからなる群から選択される、[7]の医薬。
[9] 抗腫瘍剤が、免疫チェックポイント阻害剤である、[1]又は[2]の医薬。
[10] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路阻害剤である、[9]の医薬。
[11] 局所投与剤の形態である、[1]~[10]のいずれかの医薬。
[12] 抗腫瘍剤とREIC/Dkk-3遺伝子とを組合せて含む、肝臓がん治療のための組合せ医薬キット。
[13] REIC/Dkk-3遺伝子が、アデノウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする、[12]の組合せ医薬キット。
[14] 抗腫瘍剤が、白金製剤である、[12]又は[13]の組合せ医薬キット。
[15] 白金製剤が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ミリプラチン、ミタプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン及びトリプラチンからなる群から選択される[14]の組合せ医薬キット。
[16] 抗腫瘍剤が、チロシンキナーゼ阻害剤である、[12]又は[13]の組合せ医薬キット。
[17] チロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、パゾパニブ及びエルロチニブからなる群から選択される1種又は2種以上である、[16]の組合せ医薬キット。
[18] チロシンキナーゼ阻害剤が、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤である、[16]の組合せ医薬キット。
[19] VEGFRを標的とするチロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ及びパゾパニブからなる群から選択される、[18]の組合せ医薬キット。
[20] 抗腫瘍剤が、免疫チェックポイント阻害剤である、[12]又は[13]の組合せ医薬キット。
[21] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路阻害剤である、[20]の組合せ医薬キット。
[22] REIC/Dkk-3遺伝子が、局所投与剤の形態である、[12]~[21]のいずれかの組合せ医薬キット。
[23] 抗腫瘍剤とREIC/Dkk-3遺伝子とを含む、抗肝臓がん組成物。
[24] REIC/Dkk-3遺伝子が、アデノウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする、[23]の抗肝臓がん組成物。
[25] 抗腫瘍剤が、白金製剤である、[23]又は[24]の抗肝臓がん組成物。
[26] 白金製剤が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ミリプラチン、ミタプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン及びトリプラチンからなる群から選択される[25]の抗肝臓がん組成物。
[27] 抗腫瘍剤が、チロシンキナーゼ阻害剤である、[23]又は[24]の抗肝臓がん組成物。
[28] チロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、パゾパニブ及びエルロチニブからなる群から選択される1種又は2種以上である、[27]の抗肝臓がん組成物。
[29] チロシンキナーゼ阻害剤が、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤である、[27]の抗肝臓がん組成物。
[30] VEGFRを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ及びパゾパニブからなる群から選択される、[29]の抗肝臓がん組成物。
[31] 抗腫瘍剤が、免疫チェックポイント阻害剤である、[23]又は[24]の抗肝臓がん組成物。
[32] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路阻害剤である、[31]の抗肝臓がん組成物。
[33] REIC/Dkk-3遺伝子が、局所投与剤の形態である、[23]~[32]の抗肝臓がん組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-141677号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
従来の進行肝癌に対する化学療法にAd-REICの局所投与を加えることにより、治療効果を効果的に高めることができる。
【0012】
Ad-REICの局所投与併用により、化学療法薬の用量を効果的に減量することが可能となり、その結果、化学療法薬の副作用を軽減でき、患者への負担を大幅に軽減できる。
【0013】
Ad-REICは、癌細胞特異的な細胞死の誘導及び免疫活性化作用を持つ。この抗癌効果は従来の化学療法薬による細胞障害による肝臓がん細胞に対する効果と異なる。すなわち、従来の化学療法薬では抗癌剤耐性化により効果の減弱、不応が治療上の問題となっているが、Ad-REICとの併用によるときには、化学療法薬の用量を大幅に軽減できるので、結果として、抗癌剤耐性化の問題を軽減できる。また、Ad-REICは、従来の化学療法薬と作用機序が異なることから、自体、抗癌剤耐性化の心配がないことはもとより、化学療法薬の抗癌剤耐性化を効果的に抑制できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】Ad-REIC/Dkk-3の構造の例を示す図である。
【
図2】Ad-REIC/Dkk-3の配列を示す図である。
【
図3】免疫ブロッティングによるREICの検出結果を示す図である
【
図4】Ad-REICによる細胞生存率の低下を示す図である。
【
図5】Ad-REICとシスプラチンとの併用による細胞生存率の低下を示す図である。
【
図6】肝癌細胞株におけるJNKシグナル伝達経路の免疫ブロッティング解析の結果を示す図である。
【
図7】マウス肝癌異種移植モデルにおけるAd-REIC及びシスプラチンの併用処置による腫瘍増殖抑制効果を示す図である。
【
図8】マウス肝癌同種移植モデルにおけるAd-REIC及びシスプラチンの併用処置による腫瘍増殖抑制効果を示す図である。
【
図9】マウス肝癌同種移植モデルにおけるAd-REIC及び抗PD-1抗体の併用処置による腫瘍増殖抑制効果を示す図である。
【
図10A】マウス肝癌同種移植モデルにおけるAd-REIC及びチロシンキナーゼ阻害剤(ソラフェニブ)の併用処置による腫瘍増殖抑制効果を示す図である。
【
図10B】マウス肝癌同種移植モデルにおけるAd-REIC及びチロシンキナーゼ阻害剤(レンバチニブ)の併用処置による腫瘍増殖抑制効果を示す図である。
【
図11】Ad-REICとチロシンキナーゼ阻害剤との併用による細胞生存率の低下を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の肝臓がんの併用療法においては、REIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤を組合せて用いる(併用する)。
【0016】
REIC/Dkk-3 DNAの塩基配列は、配列表の配列番号1に表される。また、REIC/Dkk-3 DNAがコードするREIC/Dkk-3タンパク質のアミノ酸配列は配列表の配列番号2に表される。配列番号1に表される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(NCBI)(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは少なくとも90%以上、さらに好ましくは少なくとも95%以上、特に好ましくは少なくとも97%以上の配列同一性を有しているDNAはREIC/Dkk-3 DNAに含まれる。
【0017】
REIC/Dkk-3の断片ヌクレオチドも使用できる。配列番号1に表わされるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基~第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列を含むヌクレオチドの例は、1番目の塩基から117番目の塩基の範囲のポリヌクレオチド(配列番号3)及び1番目の塩基から234番目の塩基の範囲のポリヌクレオチド(配列番号4)を含む。
【0018】
REIC/Dkk-3遺伝子は、従来法により被験体に導入することができる。被験体に遺伝子を導入する方法として、ウイルスベクターを用いた方法及び非ウイルスベクターを用いた方法が挙げられる。
【0019】
REIC/Dkk-3遺伝子は、上記ウイルスを用いなくとも、プラスミドベクター等遺伝子発現ベクターを導入したリコンビナント発現ベクターを用いて、細胞又は組織に導入することができる。
【0020】
遺伝子導入に用いる代表的なウイルスベクターとして、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス及びレトロウイルスが挙げられる。無毒化したレトロウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス(HVJ)、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNA又はRNAウイルスに目的とする遺伝子を導入し、細胞をそのようなリコンビナントウイルスにより感染させることによって、細胞内に標的遺伝子を導入することが可能である。好ましくは、アデノウイルスベクターを用いる。
【0021】
ベクターは、REIC/Dkk-3遺伝子を含むコンストラクトを含む。REIC/Dkk-3 DNAを含むコンストラクトは、適宜、プロモーター、遺伝子転写のためのエンハンサー、ポリAシグナル、遺伝子が導入された細胞の標識及び/又は選別のためのマーカー遺伝子等を含んでいてもよい。この際のプロモーターとしては、公知のプロモーターを用いることができる。
【0022】
該コンストラクトは、REIC/Dkk-3遺伝子と少なくとも1つの第1のプロモーターの下流に位置するポリA付加配列を含み、エンハンサー若しくは第2のプロモーターが該DNAコンストラクトの下流に連結した構造を有する。
【0023】
プロモーターはDNAを鋳型に転写を開始するDNA上の特定の塩基配列であり、一般的に、共通の配列を持つ。例えば、大腸菌などの原核生物では、通常、転写開始部位の-10塩基対部位にTATAATG配列を、-35塩基対部位にTTGACA配列を持つ。また、真核生物では、通常、-20塩基対部位にTATAボックスを持つ。本発明の発現用カセットは、発現させようとする遺伝子の上流に必ず第1のプロモーターを有し、また発現させようとする遺伝子の下流に第2のプロモーターを有してもよい。これら第1のプロモーター及び第2のプロモーターとして用いるプロモーターは限定されず、第1のプロモーターと第2のプロモーターは同じであっても異なっていてもよい。あらゆる細胞や組織で外来遺伝子の発現を促進させ得る非特異的プロモーターも組織若しくは器官特異的プロモーター、腫瘍特異的プロモーター、発生若しくは分化特異的プロモーター等の特異的あるいは選択的プロモーターも用いることができる。例えば、第1のプロモーターとして特異的プロモーターを用いて、第2のプロモーターとして、非特異的なプロモーターを用いることができる。本発明において用いるプロモーターとして、癌又は腫瘍特異的プロモーターとしてはhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)、PSA(前立腺特異的抗原)、c-myc、GLUTプロモーターなどが、ES細胞・癌幹細胞特異的プロモーターとしてはOCT3/4、NANOGプロモーターなどが、神経幹細胞特異的プロモーターとしてはNestinプロモーターなどが、細胞ストレス感知プロモーターとしてはHSP70、HSP90、p53プロモーターなどが、肝細胞特異的プロモーターとしてはアルブミンプロモーターなどが、放射線感受性プロモーターとしてはTNF-alphaプロモーターなどが、感染プラスミドのコピー数を上げるプロモーターとしてはSV40プロモーターなどが、増殖性細胞特異的プロモーターとしてEF1-alphaプロモーターなどが挙げられる。さらに具体的には、例えば、第1のプロモーターとして、CMV-iプロモーター(hCMV + イントロンプロモーター)、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、第2のプロモーターとしてCMVプロモーター等が用いられる。βアクチンプロモーターの由来動物種は限定されず、哺乳類βアクチンプロモーター、例えば、ヒトβアクチンプロモーターやニワトリアクチンプロモーターが用いられる。また、上記のCMV-iプロモーター等の人工的なハイブリッドプロモーターを用いることもできる。CMV-iプロモーターは、例えば、米国特許第5,168,062号明細書や米国特許第5,385,839号明細書の記載に基づいて合成することができる。プロモーターはプロモーター活性を有する最小配列からなるコアプロモーターの部分を用いてもよい。コアプロモーターとは、正確な転写開始を導く働きをもつプロモーター領域をいい、TATAボックスを含むことがある。上記のプロモーターのうち、hTERTプロモーター等の癌及び/又は腫瘍特異的プロモーターは、癌をターゲットとして遺伝子発現による遺伝子治療、癌診断用に好適に用いることができる。
【0024】
ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、polyA)の由来は限定されず、成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、例えばウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列やヒト成長ホルモン遺伝子由来ポリA付加配列、SV40ウイルス由来ポリA付加配列、ヒトやウサギのβグロビン遺伝子由来のポリA付加配列等が挙げられる。ポリA付加配列を発現用カセットに含ませることにより、転写効率が増大する。BGAポリA付加配列の塩基配列は配列番号5に示す塩基配列の13番目の塩基以降の配列に示される。
【0025】
エンハンサーは、転写により生成するメッセンジャーRNA(mRNA)の量を結果的に増加させるものであれば限定されない。エンハンサーはプロモーターの作用を促進する効果を持つ塩基配列であり、一般的には100bp前後からなるものが多い。エンハンサーは配列の向きにかかわらず転写を促進することができる。本発明で用いられるエンハンサーは1種類でもよいが、2つ以上の同一のエンハンサーを複数用いたり、又は異なる複数のエンハンサーを組合せて用いてもよい。また、異なる複数のエンハンサーを用いる場合、その順番は限定されない。例えば、CMVエンハンサー、SV40エンハンサー、hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー等を用いることができる。一例として、hTERTエンハンサー、SV40エンハンサー及びCMVエンハンサーをこの順で連結したものが挙げられる。
【0026】
さらに発現させようとするタンパク質をコードするDNA及びポリA付加配列を含むDNAコンストラクトの上流に複数のエンハンサー、例えば1~4個のエンハンサーが連結されていてもよい。この上流に連結するエンハンサーは限定されないが、CMVエンハンサーが好ましい。例えば、CMVエンハンサーを4つ連結した4×CMVエンハンサー等があげられる。
【0027】
エンハンサーを「プロモーター-発現させようとする遺伝子-poly A付加配列」からなるDNAコンストラクトのすぐ下流に挿入すると、従来の一般の遺伝子発現システムと比べて、強力な発現させようとする遺伝子のタンパク質発現が可能となる。
【0028】
特に、CMV iプロモーターとCMVエンハンサーの組合せにより、ほぼ全ての細胞(宿主細胞)において、あらゆる遺伝子を挿入した場合に、如何なるトランスフェクション試薬を用いた場合においても、発現させようとする遺伝子の強力なタンパク質発現が可能となる。
【0029】
さらに、RU5’が発現させようとするタンパク質をコードするDNAの直ぐ上流に連結されていてもよい。直ぐ上流とは、他の特定の機能を有するエレメントを介さず直接連結していることをいうが、リンカーとして短い配列が間に含まれていてもよい。RU5'はHTLV由来のLTRで、挿入することにより、タンパク質発現を上昇させるエレメントである(Mol.Cell.Biol.,Vol.8(1),p.466-472,1988)。RU5'を報告されているのと逆に挿入することにより、プロモーターのエンハンサー挿入による発現増強効果が打ち消されることがある。
【0030】
さらに、エンハンサー及び/又はプロモーターの直ぐ上流にUASが連結されていてもよい。UASとは、GAL4遺伝子の結合領域であり、後にGAL4遺伝子を挿入することにより、タンパク質発現が上昇させられる。
【0031】
さらに、発現用カセットの最上流にSV40-oriが連結されていてもよい。SV40-oriはSV40遺伝子の結合領域であり、SV40遺伝子を挿入することにより、タンパク質発現が上昇する。上記の各エレメントは、機能的に連結している必要がある。ここで、機能的に連結しているとは、それぞれのエレメントがその機能を発揮して、発現させようとする遺伝子の発現が増強されるように連結していることをいう。
【0032】
上記DNAコンストラクトは、REIC/Dkk-3 DNAの上流にCMV(cytomegalovirus)プロモーターが連結され、REIC/Dkk-3 DNAの下流に、ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、polyA)が連結される。さらに、該ポリA付加配列の下流にhTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー及びCMV(cytomegalovirus)エンハンサーをこの順で連結したもの(3×enh)が連結されている。すなわち、上記DNAコンストラクトは、5'末端側から(i) CMVプロモーター、(ii) REIC/Dkk-3 DNA、(iii) polyA付加配列、並びに(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー及びCMVエンハンサーをこの順で連結したエンハンサーを連結したコンストラクトである。
【0033】
本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトのCMVプロモーターを除く部分の配列を
図2及び配列番号6に示す。
図2中、REIC/Dkk-3 DNAと3×enhの間にBGA polyA配列が含まれる。本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトは配列番号6に示す配列の上流(5'側)にCMVプロモーターを有する。配列番号7に上記コンストラクトに含まれるBGH poly Aと3つのエンハンサーを含む領域の塩基配列を示す。
図2の塩基配列中の(1)及び(2)の枠で囲んだ部分は、それぞれREIC/Dkk-3タンパク質をコードするDNA及び3つのエンハンサー(3×enh)を示す。
【0034】
上記の各エレメントは、機能的に連結している必要がある。ここで、機能的に連結しているとは、それぞれのエレメントがその機能を発揮して、発現させようとする遺伝子の発現が増強されるように連結していることをいう。
【0035】
上記の発現用カセットは、例えば、市販のCMVプロモーターの下流に外来遺伝子挿入部位を含み、さらにその下流にBGA polyA配列を含むpShuttleベクター(Clonetech社)にREIC/Dkk-3 DNAを挿入し、さらにBGA polyA配列の下流にhTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー及びCMVエンハンサーをこの順で連結することにより得ることができる。
【0036】
REIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトは、
[1] 5'末端側から、
(i) CMVプロモーター;
(ii) 以下のREIC/Dkk-3 DNA:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA、
(b) 配列番号1に表される塩基配列と少なくとも90%、95%、97%又は98%の配列同一性を有するDNA、
(iii) polyA付加配列;並びに
(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー及びCMVエンハンサーをこの順で連結したエンハンサーを連結した、REIC/Dkk-3タンパク質を発現させるためのDNAコンストラクト。
[2] polyA付加配列がウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列(BGA polyA)である、[1]のDNAコンストラクト。
[3] 配列番号6に示す、(ii) REIC/Dkk-3 DNA、(iii) polyA付加配列、及び(iv) hTERT(Telomerase Reverse Transcriptase)エンハンサー、SV40エンハンサー及びCMVエンハンサーをこの順で連結したエンハンサーを連結した塩基配列を含む、[1]又は[2]のDNAコンストラクト、である。
【0037】
DNAコンストラクトは、例えば、国際公開第WO2011/062298号、米国特許出願公開第2012-0309050号明細書、国際公開第WO2012/161352号及び米国特許出願公開第2014-0147917号明細書の記載に従って、調製することができる。
【0038】
本発明において、REIC/Dkk-3 DNAを含むアデノウイルスベクターを「Ad-REIC」又は「Ad-REIC/Dkk-3」と呼ぶ。
【0039】
本発明のDNAコンストラクトを含むベクターシステムをSGE(Super Gene Expression)システムと呼び、例えば、REIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトを含むアデノウイルスベクターをAd5-SGE-REIC/Dkk-3と呼ぶ。
図1は、Ad-REIC/Dkk-3の構造を例示し、
図2はAd-REIC/Dkk-3の配列を例示する。
【0040】
上記のDNAコンストラクトを含むアデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターに上記DNAコンストラクトを導入して組換えアデノウイルスを作製することにより得られる。アデノウイルスへのDNAコンストラクトの導入は、例えば上記の本発明のDNAコンストラクトを含むpShuttleベクター中のDNAコンストラクトをアデノウイルスに導入することにより行うことができる。
【0041】
アデノウイルスベクターの特徴として、(1)多くの種類の細胞に遺伝子導入ができる、(2)増殖停止期の細胞に対しても効率よく遺伝子導入ができる、(3)遠心により濃縮が可能であり、高タイター(10~11 pfu/mL以上)のウイルスが得られる、(4)in vivoの組織細胞への直接の遺伝子導入に適している、といった点が挙げられる。
【0042】
遺伝子治療用のアデノウイルスとしては、E1/E3領域を欠失させた第1世代のアデノウイルスベクター(Miyake,S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,93,1320,1996)から、E1/E3領域に加え、E2若しくはE4領域を欠失させた第2世代のアデノウイルスベクター(Lieber,A.,et al.,J.Virol.,70,8944,1996;Mizuguchi,H.&Kay,M.A.,Hum.Gene Ther.,10,2013,1999)、アデノウイルスゲノムをほぼ完全に欠失させた(GUTLESS)第3世代のアデノウイルスベクター(Steinwaerder,D.S.,et al.,J.Virol.,73,9303,1999)が開発されているが、本発明に係る遺伝子を導入するには、特に限定されずいずれのアデノウイルスベクターも使用可能である。
【0043】
本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含むDNAコンストラクトを含む組換えアデノウイルスベクター(以下、単に「本発明のアデノウイルスベクター」という場合がある)をヒトやその他の哺乳動物である被験体に投与することにより、被験体の肝臓がん細胞に癌治療用遺伝子がデリバリーされ、癌細胞中で遺伝子が発現し、腫瘍細胞増殖を抑制し癌治療効果を発揮する。
【0044】
本発明のアデノウイルスベクターは、遺伝子治療の分野において使用可能な方法、例えば、静脈内投与や動脈内投与などの血管内投与、経口投与、腹腔内投与、気管内投与、気管支内投与、皮下投与、経皮投与等により投与することができる。特に、本発明のアデノウイルスベクターは特定の組織、細胞への指向性が大きく、標的遺伝子を効率的に特定の組織、細胞へデリバリーすることができるので、血管内投与によっても、効率的に診断、治療を行うことができる。
【0045】
本発明のアデノウイルスベクターは、治療上有効量を投与すればよい。治療上の有効量は、遺伝子治療分野の当業者であれば容易に決定することができる。さらに、投与量は、被験者の病態の重篤度、性別、年齢、体重、習慣等によって適宜変更することができる。例えば、本発明のアデノウイルスベクターを、0.3×1010~3×1012vp(ウイルス粒子数)の量を腫瘍内に局所投与すればよい。
【0046】
本発明において、REIC/Dkk-3遺伝子又はREIC/Dkk-3 DNAを用いるという場合、REIC/Dkk-3 DNAを含むREIC/Dkk-3 DNAアデノウイルスベクター(Ad-REIC)として用いる場合も含む。
【0047】
REIC/Dkk-3遺伝子と併用する抗腫瘍剤としては、白金製剤、チロシンキナーゼ阻害剤及び免疫チェックポイント阻害剤が挙げられる。
【0048】
白金製剤として、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ミリプラチン、ミタプラチン、サトラプラチン、ピコプラチン、トリプラチン等が挙げられる。
【0049】
チロシンキナーゼ阻害剤として、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ、パゾパニブ及びエルロチニブが挙げられる。また、チロシンキナーゼ阻害剤として、VEGFR(血管内皮細胞増殖因子受容体)を標的とするチロシンキナーゼ阻害剤が挙げられ、VEGFRを標的とするチロシンキナーゼ阻害剤として、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、カボザンチニブ、アキシチニブ、スニチニブ及びパゾパニブが挙げられる。これらの中でも、ソラフェニブ、レゴラフェニブ及びレンバチニブが好ましい。
【0050】
免疫チェックポイント阻害剤は抗PD-1(Programmed cell death 1)抗体、抗PD-L1(Programmed cell-death ligand 1)抗体等を含む。抗PD-1(Programmed cell death 1)抗体および抗PD-L1(Programmed cell-death ligand 1)抗体等のPD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路阻害剤である。PD-1/PD-L1免疫チェックポイント経路は、PD-1/PD-L1などの免疫チェックポイント分子を介して、T細胞の活性化を妨げることによって免疫系をダウンレギュレートする。また、これら免疫チェックポイント分子は、リンパ節における抗原特異的T細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を促進し、制御性T細胞(Treg)のアポトーシスを減少させることが知られている。
【0051】
これらの抗腫瘍剤をREIC/Dkk-3遺伝子と併用した場合、がんの治療効果が顕著に向上するだけではなく、これらの化学療法薬の使用量を大幅に減量することが可能になり、その結果として、抗腫瘍剤の副作用を軽減することができる。
【0052】
また、化学療法薬を用いる場合、がん細胞が化学療法薬に抵抗性(耐性)を示すことがある。REIC/Dkk-3遺伝子と併用した場合、がん細胞の化学療法剤に対する耐性化を効果的に抑制することが可能である。
【0053】
これらの抗腫瘍剤の投与量は、症状、年齢、体重及び他の状態により変化する。1日当たり0.001mg~100mgの用量を1回又は数回に分けて、数日、数週間又は数ヶ月の間隔で投与すればよい。
【0054】
REIC/Dkk-3遺伝子によってコードされるREIC/Dkk-3タンパク質は、抗がん免疫系をアップレギュレートすることによってがんを治療又は予防することができる。さらに、がん細胞のアポトーシスをも誘導する。具体的には、REIC/Dkk-3タンパク質はCTL(細胞傷害性Tリンパ球)を誘導し、CTLは全身のがん細胞を攻撃する。
【0055】
REIC/Dkk-3遺伝子及び抗腫瘍剤は、がんの治療において相乗的効果を奏する。REIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤の併用は、REIC/Dkk-3遺伝子単独又は抗腫瘍剤単独よりも癌の治療に有効である。
【0056】
REIC/Dkk-3遺伝子は、抗腫瘍剤の投与と同時に、別々に又は連続して投与することができる。REIC/Dkk-3遺伝子は、抗腫瘍剤の投与前又は投与後に投与することもできる。好ましくは、REIC/Dkk-3遺伝子は、抗腫瘍剤と同時に投与される。同時に投与する場合、別々の製剤として投与することもできるし、REIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤の両方を含む抗腫瘍組成物として投与する場合も含む。REIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤を別々に投与する場合、抗腫瘍剤は、REIC/Dkk-3遺伝子の投与の1~24時間前、1~30日前又は後に投与される。さらに、抗腫瘍剤は、REIC/Dkk-3遺伝子と同じ間隔で投与することができる。REIC/Dkk-3遺伝子を複数回投与する場合、抗腫瘍剤を1回投与する。あるいは、抗腫瘍剤を複数回投与する場合、REIC/Dkk-3遺伝子を1回投与する。
【0057】
REIC/Dkk-3遺伝子若しくは抗腫瘍剤、又はREIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤を含む組成物の投与形態は限定されず、皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射により、投与することができる。全身投与剤でも局所投与剤でもよいが、好ましくは、REIC/Dkk-3遺伝子はがん部位を標的とした局所投与剤であり、併用する抗腫瘍剤は、全身投与剤又は局所投与剤である。また、シスプラチン等の白金製剤は、好ましくは静脈内注射投与剤である。
【0058】
REIC/Dkk-3遺伝子若しくは抗腫瘍剤、又はREIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤を含む組成物は、製剤の分野で一般的に用いられる担体、希釈剤及び賦形剤を含有する。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、ブドウ糖、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖類(エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコールを含む)、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロースなどの二糖類(ラクチトール、マルチトールなどの糖アルコールを含む)の他、オリゴ糖、多糖類(増粘多糖類、澱粉、粉末セルロース、微結晶セルロース、デキストリン、デキストラン、マルトデキストリン、イソマルトデキストリンなどを含む)、更には、炭酸カルシウム、カオリン、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖などの前記糖類やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用してもよい。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。前記担体、希釈剤及び賦形剤はそれぞれ、単独又はそれらの1種又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
【0059】
治療対象となるがん(癌)は、肝臓がんである。肝臓がんは、原発性肝臓がんと転移性肝臓がんを含む。
【0060】
本発明は、REIC/Dkk-3遺伝子及び抗腫瘍剤を含む組合せ、組合せ製剤又は組合せ医薬キットを含む。
本発明はまた、がんを治療するための医薬品の製造におけるREIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤とを組合せる方法を含む。
本発明はまた、REIC/Dkk-3遺伝子及び抗腫瘍剤を含む医薬を含む。
さらに、本発明は、抗腫瘍剤と併用するためのREIC/Dkk-3遺伝子を含む。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0062】
[実施例1] REIC/Dkk-3とシスプラチンとの併用による腫瘍増殖阻害(in vitro)
<材料及び方法>
細胞株及び細胞培養:
肝癌細胞株Hep3B及びHuh7(以下、それぞれ、「Hep3B細胞」、「Huh7細胞」という場合がある)は、Japanese Cancer Resources Bank(Tokyo、Japan)から購入した。それらは、10%FBS、1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及びアムホテリシンB(0.5μg/mL)を添加したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium中で維持した。細胞は常法により、加湿した5%CO2インキュベータ中、37℃で培養し、サブコンフルエントになった時点で、実験前に24時間、0.1%透析FBSを含む培地で前処理し、実験に供した。
【0063】
アデノウイルスベクターの構築と生産
ヒトREIC/Dkk-3遺伝子の全長相補的DNAをコスミドベクターpAxCAwtに組み込み、そしてCOS-TPC法(Takara Bio、Shiga、Japan)に従ってアデノウイルスベクターに移した。次に、挿入されたREIC/Dkk-3遺伝子のポリA配列の後に、hTERT、SV40、及びCMVの3つのエンハンサーを追加し、REIC/Dkk-3遺伝子を導入したアデノウイルスベクター(Ad-REIC)を得た。一方、LacZ遺伝子を導入したアデノウイルスベクター(Ad-LacZ)を対照ベクターとして使用した。
【0064】
<肝癌細胞株におけるREICタンパク質発現>
REICタンパク質発現を肝癌細胞株(Hep3B細胞及びHuh7細胞)で評価し、OUMS-24細胞を陽性対照として使用した。REICの発現は、免疫ブロッティングにより検出した。β-アクチンの免疫ブロッティングを行って、細胞タンパク質が等量であることを確認した。
図3に結果を示す。
図3に示すとおり、REIC発現は、全ての肝癌細胞株において喪失又は減弱していた。
【0065】
<Ad-REICによる肝癌細胞株の細胞生存率の低下作用>
肝癌細胞株Hep3B及びHuh7をAd-LacZ又はAd-REICの存在下又は非存在下で72時間培養した。細胞生存率はMTTアッセイを用いて評価した。すなわち、細胞(2×105個)を平底6ウェルプラスチック組織培養プレートに播種し、常法に従い、24時間培養した。細胞を0.5mLの無血清培地中において、それぞれ50 MOI(multiplicity of infection)のAd-LacZ及びAd-REICで1時間処置した。その後、1.5mLの新鮮培地を添加した。細胞を72時間培養した後、200μLのMTT試薬を各ウェルに添加し、細胞をさらに4時間37℃でインキュベートした。青紫色ホルマザン沈殿物をDMSOを用いて溶解し、100μLの溶液を平底96ウェルマイクロプレートに移した。細胞生存率を反映するミトコンドリア活性は、マイクロプレートリーダーを用いて570 nmでの吸光度を測定することによって評価した。結果は平均値±標準偏差(n=5)として表示した(** p <0.01)。
【0066】
図4に結果を示す。
図4に示すとおり、Ad-REIC(50 MOI)で処置すると、肝癌細胞株における細胞生存率が低下した。Hep3B及びHuh7の減少率は、Ad-LacZ処置と比較して、それぞれ80.8±3.42%及び82.2±1.84%であった。
【0067】
<Ad-REICとシスプラチンの併用による肝癌細胞株の細胞生存率の低下作用>
Hep3B細胞及びHuh7細胞を、シスプラチンの非存在下又は存在下(1μg/mL)で72時間、Ad-Lac Z(50 MOI)又はAd-REIC(50 MOI)の共存下又は非共存下で培養した。細胞生存率は前記MTTアッセイを用いて評価した。結果は平均値±標準偏差(n=5)として表示した(** p <0.01)。
【0068】
結果を
図5に示す。
図5に示すとおり、Ad-REIC(50 MOI)及びシスプラチンで処置した場合、肝癌細胞株における細胞生存率が減少した。Hep3B細胞及びHuh7細胞の減少率はAd-LacZ+シスプラチンで処置した場合と比較した場合、それぞれ58.0±8.57%と78.6±0.63%であった。さらに、Hep3B細胞及びHuh7細胞の両方の細胞生存率はシスプラチンの投与量に依存して減少した。
【0069】
<Ad-REICによるJNKシグナル伝達経路を介してのアポトーシスの誘導>
以前に、REICの過剰発現が前立腺癌細胞株、膵臓癌細胞株及び肝細胞癌細胞株においてERストレスを増加させることによってアポトーシスを誘導することが報告されている[Uchida D. et al., J Gastroenterol Hepatol (2014) 29: 973-983]。
【0070】
Ad-REICのアポトーシス誘導のメカニズムについて検討を行った。免疫ブロッティングにて、Ad-REIC及びシスプラチンによるJNKシグナル伝達経路のシグナル伝達分子の活性化を評価した。Hep3B及びHuh7細胞に10 MOIのAd-LacZ及びAd-REICをトランスフェクトし、48時間後に細胞溶解物を収集した。phospho-ASK1(p-ASK1)、phospho-IRE1α(p-IRE1α)、phospho-JNK(p-JNK)、phospho-c-Jun(p-c-Jun)β-アクチンのタンパク質発現を、特異的抗体を用いた免疫ブロッティングで分析した。β-アクチンに対する免疫ブロッティングは、細胞タンパク質の均等なローディングを検証するため行った。
【0071】
結果を
図6に示す。
図6に示すとおり、イムノブロット分析を用いて、Ad-REICによる処置に応答して、p-ASK1、p-IRE1α、p-JNK及びp-c-Junの発現が肝癌細胞株(Huh7)において活性化されることを確認した。シスプラチンを加えた場合、Ad-REICの有無にかかわらず、各発現は独立して活性化された。
【0072】
[実施例2] REIC/Dkk-3とシスプラチンとの併用処置によるマウス異種移植モデルにおける腫瘍増殖阻害
<材料及び方法>
実験動物:
BALB/c-nu/nu雌マウス(6~8週齢)を日本SLC社から購入し、岡山大学動物実験施設でSPF環境下、食餌及び水に自由にアクセスできるように維持した。マウスは、実験を始める前に、1週間以上かけて飼育環境に適応させた。マウスは、岡山大学医学部の施設内動物管理委員会のガイドラインに従って厳密に飼育、処置した。
マウス異種移植モデルにおける腫瘍増殖アッセイ:
Ad-REIC及びシスプラチンの治療的有用性を決定するために、Huh7細胞を用いてマウス異種移植モデルを構築した。Huh7細胞(1.0×108 cells、200μLのPBSに懸濁)をBALB/c-nu/nuマウスの右脇腹に皮下注射し、腫瘍サイズが直径約5~10 mmになった後、それぞれ5匹ずつ4つの処置群(Ad-LacZ、Ad-REIC、Ad-LacZ+シスプラチン、Ad-REIC+シスプラチン)に無作為に割り当てた。投与開始日をDay 0とし、Ad-LacZ(control、1.0×109pfu)、Ad-REIC(1.0×109pfu)をDay 0、7及び14に腫瘍内投与した。シスプラチン(1 mg/kg)はDay 0、7及び14に腹腔内投与した。腫瘍サイズを毎週測定し、腫瘍体積を以下の数式を用いて計算した:V=1/2×(最短直径)×1/2×(最短直径)×1/2×(最長径)×4/3×π。さらに、平均腫瘍体積を算出し、腫瘍増殖曲線を作成した。結果は平均値±SE(n=5)として表示した(* p <0.05、** p <0.01)。
【0073】
結果を
図7に示す。
図7に示すとおり、Ad-LacZを投与した対照群では、腫瘍は進行性に増殖した。Ad-REIC投与群、Ad-REIC+シスプラチン投与群、及びAd-LacZ+シスプラチン投与群においては、腫瘍増殖は抑制された。殊に、Ad-REIC+シスプラチン併用群では腫瘍増殖は著明に抑制され、Ad-LacZ+シスプラチン投与群と比較して、実に68.7±4.9%抑制された。
【0074】
[実施例3] REIC/Dkk-3とシスプラチンとの併用処置によるマウス同種移植モデルにおける腫瘍増殖阻害
<材料及び方法>
実験動物:
C57BL/6雌マウス(6~8週齢)を日本SLC社から購入し、岡山大学動物実験施設でSPF環境下、食餌及び水に自由にアクセスできるように維持した。マウスは、実験を始める前に、1週間以上かけて飼育環境に適応させた。マウスは、岡山大学医学部の施設内動物管理委員会のガイドラインに従って厳密に飼育、処置した。
マウス同種移植モデルにおける腫瘍増殖アッセイ:
マウス肝細胞癌株Hep1-6(2.0×108 cells、200μLのPBSに懸濁)をC57BL/6マウスの右脇腹に接種し(Day 0)、腫瘍サイズが直径5~10 mmとなった後、Ad-REIC及びシスプラチンの投与を開始した。Ad-REIC(1.0×109 pfu)はDay 14及び16に腫瘍内投与した。シスプラチン(1 mg/kg)はDay 14及び21に腹腔内投与した。腫瘍のサイズを週2回測定し、腫瘍体積を算出した。
【0075】
結果を
図8に示す。PBSを投与した対照群では、腫瘍は進行性に増殖した。Ad-REIC群及びシスプラチン群においては、腫瘍体積が減少し、抗腫瘍効果が認められた。さらに、Ad-REIC+シスプラチン併用群では、Ad-REIC群及びシスプラチン群と比較して強い抗腫瘍効果が認められた。
【0076】
[実施例4] REIC/Dkk-3と抗PD-1抗体との併用処置によるマウス同種移植モデルにおける腫瘍増殖阻害
マウス肝細胞癌株Hep1-6(2.0×108 cells、200μLのPBSに懸濁)をC57BL/6マウスの右脇腹に接種し(Day 0)、腫瘍サイズが直径5~10 mmとなった後、Ad-REIC及び抗PD-1抗体の投与を開始した。Ad-REIC(1.0×109 pfu)はDay 14及び16に腫瘍内投与した。抗PD-1抗体(10 mg/kg)はDay 21に腹腔内投与した。腫瘍のサイズを週2回測定し、腫瘍体積を算出した。
【0077】
結果を
図9に示す。PBSを投与した対照群では、腫瘍は進行性に増殖した。Ad-REIC群及び抗PD-1抗体群においては、腫瘍体積が減少し、抗腫瘍効果が認められた。さらに、Ad-REIC+抗PD-1抗体併用群では、Ad-REIC群及び抗PD-1抗体群と比較して強い抗腫瘍効果が認められた。
【0078】
[実施例5] REIC/Dkk-3とチロシンキナーゼ阻害剤との併用処置によるマウス同種移植モデルにおける腫瘍増殖阻害
マウス肝細胞癌株Hep1-6(2.0×108 cells、200μLのPBSに懸濁)をC57BL/6マウスの右脇腹に接種し(Day 0)、腫瘍サイズが直径5~10 mmとなった後、Ad-REIC及びチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の投与を開始した。Ad-REIC(1.0×109 pfu)はDay 14及び16に腫瘍内投与した。TKI(Sorafenib(ソラフェニブ): 25mg/kg、Lenvatinib(レンバチニブ): 1.5mg/kg)はDay 14、16、21及び23に腹腔内投与した。腫瘍のサイズを週2回測定し、腫瘍体積を算出した。
【0079】
結果を
図10A(ソラフェニブ)及び10B(レンバチニブ)に示す。PBSを投与した対照群では、腫瘍は進行性に増殖した。Ad-REIC+TKI併用群では、Ad-REIC群及びTKI群と比較して強い抗腫瘍効果が認められた。
【0080】
[実施例6] REIC/Dkk-3とチロシンキナーゼ阻害剤による腫瘍増殖阻害(in vitro)
Hepa1-6細胞を、TKIの非存在下又は存在下(ソラフェニブ:1μg/mL、レゴラフェニブ:0.2μg/mL、レンバチニブ:0.06μg/mL)で72時間、Ad-Lac Z(50 MOI)又はAd-REIC(50 MOI)の共存下又は非共存下で培養した。細胞生存率は前出のMTTアッセイを用いて評価し、結果は平均値±標準偏差(n=9)として表示した(** p <0.01)。
【0081】
結果を
図11に示す。
図11に示すとおり、Ad-REIC(50 MOI)及びTKIで処置した場合、肝癌細胞株における細胞生存率が減少した。その減少率はAd-LacZ+TKIで処置した場合と比較した場合、ソラフェニブでは72.2±0.1%、レゴラフェニブでは76.2±0.0%、レンバチニブでは31.8±0.3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
REIC/Dkk-3遺伝子と抗腫瘍剤との併用は新たながん治療薬として有用である。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】