(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】タンパク質分泌増強のための細菌発現ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/72 20060101AFI20240709BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C12N15/72 Z ZNA
C12N15/31
(21)【出願番号】P 2021541576
(86)(22)【出願日】2020-02-15
(86)【国際出願番号】 IB2020051289
(87)【国際公開番号】W WO2020165874
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】201941005938
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】521315766
【氏名又は名称】オンコシミス バイオテック プライベート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ONCOSIMIS BIOTECH PRIVATE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】ロキレディ,サダーサナレディ
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0148894(US,A1)
【文献】特表2008-509682(JP,A)
【文献】KLEINER-GROTE, GRM et al.,Secretion of recombinant proteins from E. coli.,Eng Life Sci,18(8),2018年04月14日,pp.532-550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/72
C12N 15/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主細菌細
胞からの組換えタンパク質の分泌を増強するためのラクトースまたはラクトース類似体誘導性細菌発現ベクターであって、
少なくとも1つの分泌シグナル配列;
少なくとも1つの誘導性プロモーター、RBS、組換えタンパク質をコードするDNA配列、アフィニティタグをコードするDNA配列、及び少なくとも1つの遺伝子ターミネーターを含む少なくとも1つの遺伝子発現カセットであって、該遺伝子発現カセットは前記分泌シグナル配列に作動可能に連結され、前記アフィニティタグのDNA配列は前記組換えタンパク質のDNA配列に作動可能に連結されている遺伝子発現カセット;
宿主細菌細胞におけるベクターの複製のための少なくとも1つの細菌ori遺伝子配列;並びに
選択可能なマーカーをコードするDNA配列であって、当該選択可能マーカーコードDNA配列に隣接する適切なプロモーター配列、遺伝子ターミネーター配列、及び少なくとも1つの抗生物質抵抗性遺伝子配列を含む、選択可能なマーカーコードDNA配列;
を含み、
前記分泌シグナル配列は、下記a)とb)との組み合わせである発現ベクター
a)pelB、ompA、yebF、およびompFからなる群から選択される少なくとも1つのシグナル配列をコードするDNA配列
b)キャリアペプチド
である切断型yebFをコードする、配列番号ID5と配列番号ID6からなる群より選択される少なくとも1つのDNA配列(ここで、配列番号ID5は配列番号ID7の切断型yebFをコードし、配列番号ID6は配列番号ID8の切断型yebFをコードしていて、配列番号ID6は、配列番号ID5の40位のTGCコドンをGCGコドンに変異することで、配列番号ID7のアミノ酸配列の14位のCysを配列番号ID8のアミノ酸配列の14位のAlaに変異するように合成されたDNA配列である)。
【請求項2】
前記シグナル配列をコードするDNA配列が、
アミノ酸配列ID9をコードする配列番号ID1、
アミノ酸配列ID11をコードする配列番号ID2、
アミノ酸配列ID10をコードする配列番号ID3、および
アミノ酸配列ID12をコードする配列番号ID4によって表されるDNA配列からなる群より選択される、請求項1に記載の細菌発現ベクター。
【請求項3】
前記分泌シグナル配列は、配列番号ID4で表されるompFのシグナルペプチドのDNA配列と、切断型yebFペプチドをコードする配列番号ID6のDNA配列の組み合わせであり、
前記細菌発現ベクターは、配列番号ID13で表される6793塩基対である、
請求項1に記載の細菌発現ベクター。
【請求項4】
前記細菌発現ベクターは
、組換えタンパク質を、収
量0.5g/Lか
ら5g/Lの範囲で提供する
、請求項3に記載の細菌発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質の、ペリプラズム空間または細胞外への分泌を増強することができる細菌発現ベクターに関する。より詳細には、本発明は、大腸菌から組換えタンパク質を発現および分泌するための発現ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
インビトロおよびインビボでの組換えタンパク質の異種発現および精製は、近代分子生物学のルーチンな応用により行われる。組換えタンパク質の発現は、典型的には原核宿主細胞において実施され、通常、微生物大腸菌(Eescherichia coli)が、医薬および工業的産業に関連する組換えタンパク質の大量生産のために使用されてきた。このように、公知の方法および機構を用いて、宿主細胞をわずかに改変するだけで、これらの宿主細胞における目的タンパク質の産生を高め、工業的生産におけるその有用性を最大にしてきた。
【0003】
工業的生産の場合、大量の目的タンパク質の精製、及びその後に続く処理を単純化するために、宿主細胞からタンパク質を分泌させることが必要である。大腸菌における目的タンパク質の細胞外産生を増強するために、細菌における発現適合化についての努力がずっと続いている。そのような重要な適合化の1つは、特定の分泌シグナルペプチドを用いて、目的の組換えタンパク質の、ペリプラズム空間または細胞外培地へのトランスロケーションを補助する分泌シグナルペプチドと共に、目的タンパク質を共発現させることである。
【0004】
いくつかの先行技術の引用文献は、宿主細胞から分泌される目的タンパク質を生成するための新規な発現系を提供している。
【0005】
US583038Aには、宿主細菌の発現タンパク質と異種のタンパク質を発現し、分泌するための発現ベクターが開示されている。この発現ベクターは、異種タンパク質の脂質アシル化および表面発現を達成するように設計され、少なくともリポタンパク質の分泌シグナルをコードするDNAをさらに含んでいる。使用する細菌系は、具体的にはミコバクテリアであり、開示された分泌シグナルは、外側表面タンパク質Aのミコバクテリアリポタンパク質分泌シグナル配列である。この発現ベクターは、ライム病を治療するために使用されるBorrelia Burgdorferiに対する抗体を誘発する抗原を発現および分泌するために特異的に設計された。
【0006】
US5432082Aは、異種タンパク質を調製するのに有用な酵母の発現ベクターを開示している。当該発現ベクターは、異種タンパク質の分泌を誘導する合成オリゴヌクレオチドを含み、該合成オリゴヌクレオチドは誘導性ハイブリッドプロモーターGAL-CYCと多部位ポリリンカーとの間に配置され、続いて酵母のRNAポリメラーゼによって認識される転写終結のシグナルが続くように配置されている。
【0007】
CN101687910Aは、哺乳動物細胞ベースの発現および分泌系を開示している。シグナルペプチド配列をコードするDNAは、MMRPをコードするアミノ酸配列([疎水性アミノ酸]nTSALA)のDNA配列、またはコードされたアミノ酸配列(MKT[疎水性アミノ酸]nCATVHC)のDNA配列から選択される。ここで、nは4~16の整数であり、疎水性アミノ酸はA、I、L、M、FまたはVである。
【0008】
CN107082801Aは、タンパク質の分泌効率を向上させることができるpelBシグナルペプチド変異体を開示している。
【0009】
大腸菌における分泌方法を操作することにより、多数のタンパク質を産生することに成功したが、依然として産生量を限定する要因がある。すなわち、正しくタンパク質がエクスポートされなかったり、細胞質内での凝集のために、機能的な状態でエクスポートされないといった限定的要因がある。また、細胞の分解;不正確なフォールディング;トランスロケーションまたはタンパク質の分解といった限定的要因もある。
【0010】
本発明は、このような先行技術の欠点を考慮し、組換えタンパク質の細胞外への分泌のための新規な細菌発現ベクターを提供する。
【発明の目的】
【0011】
本発明の主な目的は、組換えタンパク質の細胞外培地への分泌を誘導するための新規な分泌シグナル配列と当該分泌シグナル配列に作動可能に連結された組換えタンパク質をコードするDNA配列を担持した細菌発現ベクターを提供することにある。前記分泌シグナル配列は、シグナルペプチドのDNA配列とこれに直列的に結合したキャリアタンパク質のDNA配列との新規な組み合わせである。
【0012】
従って、本発明の別の目的は、宿主細胞からの組換えタンパク質の分泌を増強するための細菌発現ベクターの構築のための新規な分泌シグナル配列を提供することにある。ここで前記分泌シグナル配列は、
a)配列番号ID1で表されるpelB;配列番号ID2で表されるompA;配列番号ID3で表されるyebF;及び配列番号ID4で表されるompFからなる群から選択される少なくとも1つのシグナル配列コード遺伝子のDNA配列と
b)キャリアタンパク質をコードするDNA配列、好ましくは、配列番号ID5および配列番号ID6(配列番号ID6のDNAは、配列番号ID5の変異体)で表される切断型ペプチドyebFをコードするDNA配列
との組み合わせである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、宿主細胞、より具体的には、大腸菌からの、組換えタンパク質の細胞外培地への分泌を増強するためのシステムを提供することである。
【発明の概要】
【0014】
本発明の主な実施態様では、本発明は、組換えタンパク質の容易かつ効率的な精製のために、宿主細菌細胞、好ましくは大腸菌からの組換えタンパク質の分泌を増強するための新規な細菌発現ベクターを提供する。宿主細菌細胞からの組換えタンパク質の分泌を増強するための前記細菌発現ベクターは、
少なくとも1つの分泌シグナル配列;
少なくとも1つの誘導性プロモーター、RBS、組換えタンパク質をコードするDNA配列、アフィニティタグをコードするDNA配列、及び少なくとも1つの遺伝子ターミネーターからなる少なくとも1つの遺伝子発現カセットで、前記分泌シグナル配列と前記遺伝子カセットとは作動可能に連結されていて、前記組換えタンパク質のDNA配列と前記アフィニティタグのDNA配列とが作動可能に連結されている遺伝子発現カセット;
宿主細菌細胞においてベクターを複製するための、少なくとも1つの細菌性ori遺伝子配列;並びに
好適なプロモータを伴った選択マーカーをコードする少なくとも1つのDNA配列と、当該選択マーカーのDNA配列に隣接する遺伝子ターミネーター配列
を含む。
【0015】
さらに、前記分泌シグナル配列は、以下のa)とb)との組み合わせである。
a)配列番号ID9のアミノ酸配列をコードする配列番号ID1に示されるpelBのDNA配列、配列番号ID11のアミノ酸配列をコードする配列番号ID2に示されるシグナルペプチドompAのDNA配列、配列番号ID10のアミノ酸配列をコードする配列番号ID3に示されるシグナルペプチドyebFのDNA配列、及び配列番号ID12のアミノ酸配列をコードする配列番号ID4に示されるシグナルペプチドompFのDNA配列からなる群より選択される少なくとも1つのシグナルペプチド遺伝子のDNA配列;及び
b)キャリアペプチドをコードする少なくとも1つのDNA配列、好ましくは、切断型yebFをコードするDNA配列。当該切断型yebFコードDNA配列は、配列番号ID5および配列番号ID6からなる群より選択される少なくとも1つのDNA配列で、配列番号ID5は、配列番号ID7の切断型yebFをコードし、配列番号ID6は、配列番号ID8の切断型yebFをコードする。また、配列番号ID6のDNAは、配列番号ID5のDNAを変異させることによって合成される。具体的には、配列番号ID5における40位のTGCコドンが、配列番号ID6ではGCGコドンに変異することで、配列番号ID7で表されるアミノ酸配列の14位のCysが配列番号ID8で表されるアミノ酸配列14位のAlaに変異する。
【0016】
配列番号ID13で表される細菌発現ベクターは、6793塩基対のベクターであり、分泌シグナル配列を含んでいる。当該分泌シグナル配列は、配列番号ID4で表されるompFのシグナルペプチドのDNA配列と、配列番号ID6でコードされる切断型yebFペプチドのDNA配列との組み合わせである。
【0017】
さらに別の実施形態では、組換えタンパク質の精製が可能な組換えタンパク質をコードするDNA配列に作動可能に連結された少なくとも1つのアフィニティタグ配列を含む新規な細菌発現ベクターを提供する。
【0018】
さらに別の実施形態では、ベクターとしての機能に必要な基礎的ベクター中で、分泌シグナル配列に、追加的要素を接合していてもよい。別の実施形態のベクターでは、少なくとも1つの抗生物質選択マーカー、および少なくとも1つの追加的選択マーカーを含む。選択マーカーは誘導性lacオペロンであり、ベクターはlacオペロン下で、ラクトース又はIPTGなどのラクトース類似体によって誘導される誘導性ベクターである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の目的は、本明細書の一部を形成する添付図面に示されている特定の実施形態を参照しつつ、上記で簡単に要約された本発明のより詳細かつより特定的に理解されることができる。添付図面は、本発明の好ましい実施形態を示しているだけであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、効果的に等しい他の等価的態様を含むことに留意されたい。
【0020】
【
図1】目的のタンパク質/ペプチドの、宿主細胞外への分泌を増強するための分泌シグナル配列の組み合わせを含む新規な細菌発現ベクターの概略図である
【
図2】pBacSec-LCベクターの概略図である
【
図3】ガウス型ルシフェラーゼアッセイを用いた、配列番号ID1、ID2、ID3及びID4の効率を比較したグラフである。
【
図4】配列番号ID4と配列番号ID6との組み合わせである分泌シグナル配列を有するpBacSec-LC発現ベクターの細菌細胞培養の培地成分及びライセートについてのSDS-PAGEゲルの写真である。
【
図5】IPTGによる誘導後、経過時間毎の組換えタンパク質の収量を表すグラフである。
【
図6】還元又は非還元条件下における、配列番号ID4とID5の組み合わせ、又は配列番号ID4とID6の組合せである分泌シグナル配列を有するpBacSec-LC発現ベクターの細菌細胞培養の培地成分に関するSDS-PAGEゲルの写真である。
【発明の詳細な説明】
【0021】
使用した略号は以下のとおり。
pelB:pectatelyase BのN末端アミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
ompA:外膜タンパク質Aのアミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
ompF:外膜タンパク質Fのアミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
yebF:タンパク質yebFのアミノ酸残基をコードするリーダーDNA配列。
Ampr/Kanr:アンピシリン/カナマイシン抵抗性遺伝子をコードするDNA配列。
Fl Ori:複製起点。
ptacプロモーター:RNAポリメラーゼまたはT7ポリメラーゼを結合するためのプロモーター。
LacまたはLacl:lacリプレッサー/オペロンをコードするDNA配列。
IPTG:イソプロピルβ-d-l-チオガラクトピラノシドで、lacオペロンの誘導剤。
Lactose:lacオペロンの二糖誘導剤。
RBS:リボソーム結合部位。
組換えタンパク質:発現ベクター中でクローニングされた遺伝子によりコードされ、且つ細菌細胞内で発現される目的タンパク質。
【0022】
以下、本発明を詳細な説明を参照して説明する。詳細な説明には、本発明のいくつかの実施形態が示されているが、全ての実施形態は示されていない。実際、本発明は、多くの異なる形態で実施することができ、本明細書に記載された実施形態に限定されるように解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用可能な法的要件を満たすように提供される。本発明は、非限定的な実施形態および例示的な実験を用いて本明細書に完全に記載される。
【0023】
本発明は、組換えタンパク質の容易かつ効率的な精製のために、宿主細菌細胞、好ましくはE.coliからの組換えタンパク質の分泌を増強するための新規な細菌発現ベクターに関する。
【0024】
主な実施形態において、本発明は、組換えタンパク質をコードするDNA配列(103)と直列に結合している分泌シグナル配列を含む、
図1に示される細菌発現ベクター(100)を提供する。ここで、分泌シグナル配列とは、下記a)とb)とからなる組み合わせである。
a)アミノ酸配列ID9をコードする配列番号ID1で表されるpelB(DNA)、アミノ酸配列ID11をコードするID2によって表されるompA(DNA)、アミノ酸配列ID10をコードするID3によって表されるyebF(DNA)、及びアミノ酸配列ID12をコードするID4によって表されるompF(DNA)からなる群より選択される少なくとも1つのシグナル配列コード遺伝子のDNA配列(101);並びに
b)キャリアペプチドをコードする少なくとも1つのDNA配列(102)、好ましくは、切断型yebFをコードする配列番号ID5およびID6で表されDNA配列。
配列番号ID5はID7で表される33アミノ酸のキャリアペプチドをコードし、配列番号ID6はID8で表されるペプチドをコードする。
DNA配列ID6は配列ID5を変異させることによって合成される。配列番号ID5の40位のTGCコドンがGCGコドンに変異することで、配列番号ID7の14位のCysが配列番号ID8の14位のAlaに変異される。
【0025】
表1は、シグナル配列またはキャリアペプチドをコードするDNA配列を提供する。
【表1】
【0026】
別の実施形態では、細菌発現ベクターは、さらに、少なくとも1つの誘導性プロモーター、RBS、組換えタンパク質をコードするDNA配列、アフィニティタグをコードするDNA配列、および少なくとも1つの遺伝子ターミネーターを含む少なくとも1つの遺伝子発現カセットで、分泌シグナル配列が当該遺伝子発現カセットに作動可能に連結され、アフィニティタグのDNA配列が組換えタンパク質のDNA配列に作動可能に連結されている。この細菌発現ベクターは、さらに、プロモーター下で組換えタンパク質のDNA配列のクローニングを可能にする少なくとも1つの多重クローニング部位(MSC)を含む。
【0027】
さらに別の実施形態では、細菌発現ベクターは、少なくとも1つの抗生物質抵抗性遺伝子、およびそれぞれの遺伝子プロモーターによって制御される少なくとも1つの選択マーカーをさらに含む。
【0028】
さらに別の実施形態では、細菌発現ベクターは、宿主細胞における発現ベクターの複製を可能にするための少なくとも1つのori配列を含む。
【0029】
さらに別の実施形態では、細菌発現ベクターであるpBacSec-LCは、lacオペロン下で誘導可能であり、ラクトースまたはIPTG等のラクトース類似体によって誘導される。
図2に示されているように、新規な細菌発現ベクターであるpBacSec-LCは、分泌シグナル配列と直列的に結合された組換えタンパク質の効率的かつ分泌増強のための分泌シグナル配列を含んだ、約6793塩基対である。pBacSec-LCベクターは、以下のものを含む。
tacプロモーターおよび誘導性プロモーターとしてのlacオペレーター;
RBS;
配列番号ID1~4からなる群より選択されるシグナル配列遺伝子のDNA配列と、配列番号ID5または配列番号ID6で表されるDNA配列との組み合わせである分泌シグナル配列;
アフィニティタグである6-Hisタグ及びFLAGタグをコードするDNA配列;
組換えタンパク質をコードするDNA配列;
組換えタンパク質の転写終結のための遺伝子ターミネーター;
E.coli内のベクターの複製を可能にするためのori配列;
青色-白色組換えコロニー選択のための選択マーカーとしてのlacオペロン;並びに
抗生物質選択マーカーとしてのカナマイシン抵抗性遺伝子。
【0030】
配列番号ID13で表されるpBacSec-LCベクターは、ompFのシグナル配列をコードする配列番号ID4で表されるDNA配列と、切断型yebFをコードする配列番号ID6で表されるDNA配列との組み合わせである分泌シグナル配列を含む。
【実施例1】
【0031】
シグナル配列とキャリアペプチドとの異なる組み合わせの分泌効率
A.ルシフェラーゼアッセイ
E.coli株、NEB5-alphaおよびBL21(DE3)を、形質転換およびルシフェラーゼアッセイのために使用した。
【0032】
組み合わせが異なる、以下のような分泌シグナルを構築した。
a)配列番号ID1で表されるシグナル配列と、配列番号ID5で表されるキャリアタンパク質との組み合わせ。
b)配列番号ID2で表されるシグナル配列と、配列番号ID5で表されるキャリアタンパク質との組み合わせ。
c)配列番号ID3で表されるシグナル配列と、配列番号ID5で表されるキャリアタンパク質との組み合わせ。
d)配列番号ID4で表されるシグナル配列と、配列番号ID5で表されるキャリアタンパク質の組み合わせ。
【0033】
大腸菌の分泌活性の検査のためのレポーター系として、ガウス型ルシフェラーゼを使用した。ガウス型ルシフェラーゼ分析は、Pierce Gaussia Luciferase glowアッセイキットを用いて行った。製造業者のプロトコルに記載されているように、誘導後に、一定時間間隔で培地を採集し、培地のルシフェラーゼ活性を測定した。
【0034】
図3に示すように、配列番号ID5で表されるキャリアタンパク質と各シグナルペプチドとの組み合わせのうち、配列ID4で表されるompFのシグナルペプチドとID5で表されるキャリアタンパク質との組み合わせが、より優れた分泌効率を示した。
【0035】
B.5-20kDaのペプチド分泌の効率
i 発現ベクターの構築:5kDa、10kDa、15kDa、および20kDaのペプチドをコードする組換えタンパク質のDNA配列を、配列番号ID4および配列番号ID6を含む分泌シグナル配列を有するpBacSec-LCベクター中にクローン化した。
ii スターター培養の調製:オートクレーブ処理した増殖培地3ml(pH6.90)を、無菌スナップキャップ管に入れた。Luria-Bertani寒天プレートから1CFUを採取し、増殖培地に無菌的に接種し、回転インキュベーター内で225rpmで37℃で一晩インキュベートした。
iii 振盪フラスコ培養:一晩培養したスターター培地(1ml)を、pH6.90の増殖培地(25ml)がはいったバッフル付きフラスコ(250ml)に接種した(1:25希釈液)。フラスコは、37℃、225rpmに維持した回転振盪器インキュベーター中でインキュベートした。4時間培養後、OD600は、1.8から2.0に達した。細胞を0.2mMイソプロピルβ-d-l-チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導した。IPTGは、lacオペロンの誘導剤である。誘導後、グリシン、グルタミン酸、アルギニン、還元型グルタチオンを添加した。誘導後、1時間毎にサンプルを採取し、300μlの培養物を、14Krpmで3分間遠心分離することにより、細胞と培地を分離し、タンパク質の発現および分泌を確認した。細胞を破砕し、細胞ライセートを得た。得られた細胞ライセートと培地成分を比較することにより、組換えペプチドの存否を調べた。
iv SDS-PAGE:誘導後の培養培地から目的の組換えタンパク質の異種遺伝子発現を、SDS-PAGEにより分析した。
図4に示すように、5~20kDaの組換えペプチドは、細胞ライセートよりも、培地成分中に存在することが明確に認められた。5~20kDaの全ペプチドが同程度の効率で等しく分泌された。このことは、この分泌配列が5~20kDaの範囲のペプチドを分泌できることを示す。
【0036】
C.組換えタンパク質の収量
組換えタンパク質のDNA配列を、配列番号ID13のpBacSec-LCベクター中にクローニングし、大腸菌(E.coli)中で形質転換した。大腸菌(E.coli)スターター培養物を調製し、そして前述の実施例1のセクションBよりもさらにスケールアップした。E.coli培養物を、組換えタンパク質発現のために0.2mM IPTGで誘導し、そしてIPTGによる誘導後の異なる時間間隔で、分泌された組換えタンパク質の量を測定した。
【0037】
図5に示すように、誘導1時間後の組換えタンパク質の収率は約0.5g/lであり、6時間後には、組換えタンパク質の収率は5g/l以上となった。組換えタンパク質の収量は誘導後、1時間毎に一貫して増加する。このことは、本発明の細菌分泌技術により、所望の細胞密度に達成した後は、誘導による細胞のタンパク質発現および分泌について、細胞を最大限利用できることが可能になったことを示唆している。誘導後の最初の1時間は、細胞増殖機構を止めることなく、組換えタンパク質が培地中に分泌される。
【実施例2】
【0038】
配列番号ID5と配列番号ID6の分泌効率の比較
配列番号ID4と配列番号ID5との組み合わせ、または配列番号ID4と配列番号ID6の組み合わせからなる分泌シグナル配列を有するpBacSec-LCベクターに、組換えタンパク質のDNA配列をクローン化した。
【0039】
配列番号ID6は、配列番号ID5を変異させることにより合成され、配列番号ID5の40位のTGCコドンが配列番号ID6ではGCGコドンに変異し、配列番号ID7の14位のCysが配列番号ID8においてAlaに変異している。ペプチドの14位のCys残基は二量体化することができ、封入体を発生しやすくする。CysをAlaに変異することによりペプチドの二量体化を抑制でき、これにより封入体の形成可能性を低減し、結果として、ペプチドおよび組換えペプチドの分泌を増強できるであろう。
【0040】
E.coli細胞をそれぞれのベクターで形質転換し、そして2組の培養物を還元条件下および非還元条件下で調製し、次いで、IPTGを用いてペプチド分泌を誘導した。
【0041】
図6に示すように、配列番号ID5を用いた場合、還元条件下では、非還元条件下よりも多くの分泌を示した。このことは、還元条件下では、コードされたペプチドの14位のCys残基の二量体化による封入体の発生が、減少したためと考えられる。したがって、14位でのCysのAlaへの変異は分泌に重要であると考えられる。配列番号ID6の場合は、還元条件下及び非還元条件下で同じ結果を示した。
【0042】
特定の例示的な実施形態が添付の図面に記載および示されているが、そのような実施形態は単なる例示であり、広範な発明を限定するものではない。以上に記載された態様に、他の様々な変更、組み合わせ、省略、修正および置換が可能であるから、本発明は、示される特定の構造および配置に限定されないことを理解されたい。当業者は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、今説明した実施形態の様々な適合および修正を構成できることを理解するであろう。
【配列表】