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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ノズル体
(51)【国際特許分類】
   B05B 7/04 20060101AFI20240709BHJP
   B05B 1/34 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B05B7/04
B05B1/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024042870
(22)【出願日】2024-03-18
【審査請求日】2024-03-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591205732
【氏名又は名称】マコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】徳長 靖
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 勇雄
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-268093(JP,A)
【文献】米国特許第06322327(US,B1)
【文献】特開2016-057053(JP,A)
【文献】特開昭62-058100(JP,A)
【文献】実開平01-105798(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 7/04
B05B 1/00
F04F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と液体とが混合されたスラリが導入されるスラリ導入口と、
前記スラリを噴射口から噴射する加圧エアを導入する加圧エア導入口と、
前記加圧エア導入口の先端に配置されたエアジェットと、
前記スラリ導入口と連絡すると共に、前記エアジェットが配置される混合室と、
先端部に前記噴射口が形成され、他端部が前記混合室内で前記エアジェットと対向する円筒形状のノズル本体とを備え、
前記混合室は、前記ノズル本体の延設方向と直交する断面において、円形状に形成され、
前記スラリ導入口は、前記延設方向と直交する断面において、前記円形状の中心からオフセットされて配置されることを特徴とするノズル体。
【請求項2】
請求項1に記載のノズル体において、
前記スラリ導入口は、前記混合室に配置された前記エアジェットの根元側に配置されていることを特徴とするノズル体。
【請求項3】
請求項1に記載のノズル体において、
前記加圧エア導入口は、前記ノズル本体と略同軸に配置されることを特徴とするノズル体。
【請求項4】
請求項1に記載のノズル体において、
前記噴射口の内径と、前記ノズル本体の他端と前記エアジェットの先端までの距離の比率は、0.75~1.25であることを特徴とするノズル体。
【請求項5】
請求項4に記載のノズル体において、
前記ノズル本体の他端側は、前記ノズル本体の延設方向に沿って縮径するように傾斜するノズル角度形成部を有することを特徴とするノズル体。
【請求項6】
請求項5に記載のノズル体において、
前記ノズル角度形成部の傾斜角度は、10°~30°であることを特徴とするノズル体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射材(例えば、砥粒と水などの液体とが混合されたスラリ)をワーク等に対して噴射するノズル体に関し、特に噴射材としてスラリとエアとを混合した噴射材を用いるウェットブラスト用のノズル体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体と砥粒とを混合したスラリを準備し、このスラリを圧縮エアを使って被加工物に噴射することにより被加工物の表面を処理するウェットブラスト処理方法が行われている。このウェットブラスト処理は、湿式ブラストや液体ホーニングとも呼ばれている。
【0003】
ここで、ウェットブラスト処理は、種々の処理に用いられ、例えば、特殊鋼製の伸線加工及び鍛造加工前に熱間圧延工程時に生成される表面の酸化被膜(スケール)や鍛造後の製品表面に形成された微細な傷及び表層を除去するため等に行われている。
【0004】
このようなウェットブラスト処理を行うためのノズル体は、種々の構成が知られており、例えば、特許文献1に記載されたノズル体(スラリ噴射体)が知られている。
【0005】
特許文献1に記載されたノズル体は、液体に砥粒が混合されたスラリが通過するスラリ通路部と圧縮空気が通過する圧縮空気通路部とを有し、前記スラリ通路部から導出されるスラリと前記圧縮空気通路部から導出される圧縮空気とは該圧縮空気通路部と連通する混合室において混合され、前記圧縮空気と混合したスラリが前記混合室に連設される噴射部の端部開口から被処理体へ噴射されるスラリ噴射体であって、前記混合室内に位置する前記圧縮空気通路部の端部開口は複数の小孔で構成されている。
【0006】
特許文献1に記載されたノズル体は、圧縮空気通路部の端部開口は複数の小孔で構成されているため、被処理体の表面を迅速且つ良好にウェットブラスト処理し得るなど、極めて実用性に秀れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-18329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のノズル体によると、被処理体の表面を迅速かつ良好にウェットブラスト処理することができ、実用化に秀でるものの、被処理体の種類や数の増加に伴って、更なる加工性能の向上が求められてきた。具体的には、エア消費量の低減や加工速度の向上などが求められている。
【0009】
このような要求について、本発明の発明者らは、鋭意検討によって、以下のような知見を得た。即ち、従来のノズル体は、図10(a)に示すように、加圧エア導入口120及びスラリ導入口130が混合室140にそれぞれ連絡しており、スラリ導入口130は、混合室140に配置されたエアジェット121に向けて開口しており、(b)に示すように、スラリ導入口130から導入されたスラリは、混合室140内でエアジェット121に衝突する。このとき、スラリの流れがエアジェット121の左右に分配されることで混合室140内に分散され、混合室140内でスラリの流れに乱れが生じ、この乱れによってスラリの圧力損失が増加しているという知見を得た。
【0010】
したがって、ノズル体100内でこのようなスラリの流れの乱れを生じさせず、また、ノズル体の加圧エアやスラリの流路の寸法などを最適化することで、更なるエア消費量の削減や加工速度の向上といった問題を解決することができるのではないかとの課題に至った。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、スラリを噴射するノズル体のエア消費量の削減や加工速度の向上を図ることができるノズル体及びこのノズル体を用いたブラスト処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係るノズル体は、砥粒と液体とが混合されたスラリが導入されるスラリ導入口と、前記スラリを噴射口から噴射する加圧エアを導入する加圧エア導入口と、前記加圧エア導入口の先端に配置されたエアジェットと、前記スラリ導入口と連絡すると共に、前記エアジェットが配置される混合室と、先端部に前記噴射口が形成され、他端部が前記混合室内で前記エアジェットと対向する円筒形状のノズル本体とを備え、前記混合室は、前記ノズル本体の延設方向と直交する断面において、円形状に形成され、前記スラリ導入口は、前記延設方向と直交する断面において、前記円形状の中心からオフセットされて配置されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るノズル体において、前記スラリ導入口は、前記混合室に配置された前記エアジェットの根元側に配置されていると好適である。
【0014】
また、本発明に係るノズル体において、前記加圧エア導入口は、前記ノズル本体と略同軸に配置されると好適である。
【0015】
また、本発明に係るノズル体において、前記噴射口の内径と、前記ノズル本体の他端と前記エアジェットの先端までの距離の比率は、0.75~1.25であると好適である。
【0016】
また、本発明に係るノズル体において、前記ノズル本体の他端側は、前記ノズル本体の延設方向に沿って縮径するように傾斜するノズル角度形成部を有すると好適である。
【0017】
また、本発明に係るノズル体において、前記ノズル角度形成部の傾斜角度は、10°~30°であると好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るノズル体及びこのノズル体を用いたブラスト処理方法によれば、スラリ導入口が、混合室の断面形状である円形状の中心からオフセットして配置されているので、スラリ導入口から導入されたスラリは、混合室の内壁を旋回して噴射口から噴射されるので、直接エアジェットにぶつかることによる混合室内での流れに乱れが生じることが無く、スラリの圧力損失を低減させて、エア消費量の削減及び加工時間の短縮並びに処理品質の均一性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るノズル体の斜視図。
図2図1におけるA-A断面図。
図3図2におけるB-B断面図。
図4】本発明の実施形態に係るノズル体のエア消費量及び加工時間を示すグラフ。
図5】本発明の実施形態に係るノズル体のノズル位置とノズル径の比率が性能に与える影響を示すグラフで合って、従来のノズル体に対して(a)は、エア消費比率、(b)は、加工時間比率を示すグラフ。
図6】本発明の実施形態に係るノズル体のノズル角度が性能に与える影響を示すグラフで合って、従来のノズル体に対して(a)は、エア消費比率、(b)は、加工時間比率を示すグラフ。
図7】本発明の実施形態に係るノズル体のエア流量とスラリ流量の比率による削れ量、エア消費量及び加工時間を示すグラフ。
図8】本発明の実施形態に係るノズル体と従来のノズル体の性能を示すグラフ。
図9】本発明の実施形態に係るノズル体の削れ深さと均一性を示すグラフであって、(a)は、実施例(本実施形態に係るノズル体)を(b)は比較例(従来のノズル体)を示すグラフ。
図10】従来のノズル体を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係るノズル体の斜視図であり、図2は、図1におけるA-A断面図であり、図3は、図2におけるB-B断面図であり、図4は、本発明の実施形態に係るノズル体のエア消費量及び加工時間を示すグラフであり、図5は、本発明の実施形態に係るノズル体のノズル位置とノズル径の比率が性能に与える影響を示すグラフで合って、従来のノズル体に対して(a)は、エア消費比率、(b)は、加工時間比率を示すグラフであり、図6は、本発明の実施形態に係るノズル体のノズル角度が性能に与える影響を示すグラフで合って、従来のノズル体に対して(a)は、エア消費比率、(b)は、加工時間比率を示すグラフであり、図7は、本発明の実施形態に係るノズル体のエア流量とスラリ流量の比率による削れ量、エア消費量及び加工時間を示すグラフであり、図8は、本発明の実施形態に係るノズル体と従来のノズル体の性能を示すグラフであり、図9は、本発明の実施形態に係るノズル体の削れ深さと均一性を示すグラフであって、(a)は、実施例(本実施形態に係るノズル体)を(b)は比較例(従来のノズル体)を示すグラフであり、図10は、従来のノズル体を示す断面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係るノズル体10は、図示しないウェットブラスト処理装置に好適に用いられる。ウェットブラスト処理装置は、処理槽内に保持したワークの表面に噴射材Sを噴射してワークに表面処理を施す。ノズル体10は、ノズル本体12の先端に形成された噴射口13から噴射材Sを噴射する。なお、ウェットブラスト処理に際し、ノズル体10とワークとは相対的に移動することが可能であり、ワークの表面全体にウェットブラスト処理を施すことが可能となっている。
【0023】
噴射材Sは、液体と砥粒とを混合した混合物であるスラリを用いると好適である。スラリに含まれる液体は、後述する砥粒を被加工物の表面に運ぶ役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であれば、引火性のある物質を除き、いかなる液体をも用いることができる。具体的には、環境面への配慮やコストの関係から水を用いることが好ましい。
【0024】
砥粒は、上記液体によって被加工物表面に運ばれ、被加工物表面に対し所望の加工を施す役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であればいかなる砥粒をも用いることができる。
【0025】
具体的には、砥粒の材質としては、セラミックス、樹脂、および金属などを挙げることができ、より具体的には、アルミナ、ガラス、ジルコニア、およびステンレスなどを挙げることができる。また、砥粒の形状としては、多角形状、球形状、真球形状などを挙げることができる。また、砥粒の大きさとしては、1μm程度から300μm程度のものを適宜選択して用いることができる。
【0026】
砥粒のスラリ全体に対する含有割合についても特に限定されることはなく、被加工物の材質や加工面積、さらには所望する加工の程度などに応じて適宜設計可能である。たとえば、スラリ全体の体積に対して30vol%(72重量%)以上の高濃度とすると好適である。この場合、ワークに対しより効果的かつ効率的に応力を付与することができる。
【0027】
また、スラリは、上記液体および砥粒の他に、種々の機能を有する混合材を用いることができ、例えば、防錆剤を含有することも可能である。ウェットブラスト加工方法において用いられるスラリ中に防錆剤を含有することにより、被加工物の表面に従来通りのウェットブラスト加工を施すと同時に、防錆効果をも付与することが可能となる。また、防錆剤に変えて、各成分の作用効果を阻害しない程度において、各種添加剤を添加してしてもよい。
【0028】
本実施形態に係るノズル体10は、加圧エア導入口20及びスラリ導入口30が形成されたハウジング11と、ハウジング11の下端に固定手段16を介して固定されたノズル本体12とを備えている。固定手段16は、ハウジング11の下端に螺着自在に組み付けられた部材であり、ノズル本体12の外周に形成されたフランジ17を挟持してハウジング11とノズル本体12を固定している。また、ハウジング11とフランジ17との間には、スペーサ18が介在しており、スペーサ18の厚さを変更することで後述するノズル位置Lの変更を行うことが可能となっている。
【0029】
加圧エア導入口20は、ノズル本体12の先端に形成された噴射口13から噴射される噴射材Sの噴射方向と略平行に加圧エアが導入されるように、ハウジング11の上方に形成されており、スラリ導入口30は、加圧エア導入口20に対して略直交する方向からスラリを導入するために、ハウジング11の側面に形成されている。即ち、加圧エア導入口20は、後述するノズル本体と略同軸に配置されていると好適である。
【0030】
なお、加圧エア導入口20及びスラリ導入口30はそれぞれ円筒状に形成されており、図示しない加圧エア導入ホース及びスラリ導入ホースが組み付けられる。なお、本実施形態において、加圧エア導入口20やスラリ導入口30は、ハウジング11内に形成された後述する混合室40との連絡部分である開口部として説明を行う。
【0031】
図2に示すように、ハウジング11内には、混合室40が形成されており、当該混合室40は、加圧エア導入口20の先端に取り付けられたエアジェット21が配置されている。また、混合室40の先端にはエアジェット21と対向するようにノズル本体12が取り付けられており、混合室40の内壁にはスラリ導入口30が開口している。
【0032】
ノズル本体12は、内部に噴射通路14が貫通して形成された概略円筒形状の部材であって、先端側に噴射口13が形成され、基端側に噴射通路14の延設方向に向かって縮径するように傾斜するロート状のノズル角度形成部15が形成されている。ノズル角度形成部15の傾斜角度(以下、「ノズル角度θ」という)は、10°~30°に形成されると好適である。
【0033】
また、エアジェット21とノズル本体12の基端面との距離(以下、「ノズル位置L」という)は、噴射口13の内径であるノズル径φとの比率が、0.75~1.25となるように配置されると好適である。
【0034】
また、図3に示すように、混合室40は、ノズル本体12の延設方向と直交する断面において、円形状に形成されており、その内壁には、スラリ導入口30が円形状の中心からオフセットされて配置されている。なお、スラリ導入口30は、スラリ導入口30から導入されるスラリの流入方向が混合室40の円形状の接線方向と一致するように配置されると好適である。
【0035】
なお、スラリ導入口30は、図2に示すように、混合室40内に配置されたエアジェット21の根元側(図2における混合室40の左端側)に寄せて配置されていると好適である。
【0036】
さらに、エアジェット21の先端には、加圧エアを噴射する加圧エア噴射口22,23が形成されており、エアジェット21の中心部に配置された第一孔部22と、当該第一孔部22の周方向に配置された複数の第二孔部23とを有している。
【0037】
このように構成されたノズル体10は、混合室40に導入されるスラリが混合室40の内壁に沿って旋回するので、混合室40内で流れが乱されることなく、エアジェット21から噴射される加圧エアによって効率よく噴射口13から噴射材Sとして噴射することが可能となる。また、スラリ導入口30が混合室40に配置されたエアジェット21の根元側に開口しているので、混合室40内を基端側から先端側に向けて軸方向に沿って旋回することができるので、スラリの流れに乱れが生じることがない。
【0038】
また、本実施形態に係るノズル体10は、ノズル角度θやノズル位置Lとノズル径φとの比率が最適となるように設定されているので、加圧エアのエア消費量や加工時間の低減や噴射した噴射材Sによる処理品質の向上といった処理性能の向上を図ることが可能となる。
【0039】
[実施例]
次に、実施例を参照して本発明についてさらに詳しく説明を行う。まず、本実施形態に係るノズル体10を用い、以下の実験条件で被加工物としてステンレス鋼(SUS304)に噴射材Sを噴射してウェットブラスト処理を行った。なお、比較例として用いた従来のノズル体は、図10に示したノズル体100を用いて同一の実験条件で実験を行った。
【0040】
[実験条件]
砥粒としての投射材は、多角型のステンレス材で粒子径が140μmの投射材を用いた。スラリの濃度は、15vol%、スラリ圧は、0.20MPa、加圧エア圧は、0.40MPaとし、ノズル体から被加工物までの投射距離は、100mm、投射角度は90°とし、ノズル体及び被加工物は相対的に停止した状態で停止処理を行った。なお、投射時間は30秒とした。また、被加工物は、上述したようにステンレス鋼(SUS304)を用い、厚さ3mm、50mm四方の正方形板を用いた。
【0041】
図4に示すように、本実施形態に係るノズル体10を投射した場合は、従来のノズル体を1とした場合、エア消費比率が0.90、加工時間比率が0.75となり、エア消費量及び加工時間が削減できていることが確認できた。これは、従来スラリがエアジェットに衝突してスラリの急激な流れ方向の変化によって圧力損失が発生していたところ、本実施形態に係るノズル体10では、混合室40内でスラリの旋回流が発生することで、圧力損失の低減が図られていることが確認できた。
【0042】
次に、ノズル位置Lによる効果の確認を行った。ノズル位置Lによる効果の確認は、ノズル角度θを15°、ノズル径φを12.5mmに設定し、ノズル本体12の位置を調整することで、ノズル位置/ノズル径の比率と、エア消費量及び加工時間の比率の関係を測定した。
【0043】
図5に示すように、エア消費量、加工時間共に、比較例と比較すると、ノズル位置/ノズル径が0.16~1.36の範囲で比較例よりもエア消費量及び加工時間が短縮できていることが確認できた。また、特に0.75~1.25の範囲においては、より処理性能が向上していることが確認できた。
【0044】
次に、ノズル角度θによる効果の確認を行った。ノズル角度θによる効果の確認は、ノズル径をφ12.5mmとし、上述したノズル位置Lによって確認された最適範囲であるノズル位置L12mmに設定し、ノズル角度θを調整することでノズル角度θとエア消費量及び加工時間の比率の関係を測定した。
【0045】
図6に示すように、エア消費量、加工時間共に、比較例と比較すると、ノズル角度が15°~80°の範囲で比較例よりもエア消費量及び加工時間が短縮できていることが確認できた。これは、混合室40内での旋回流の影響によるものと考えられる。また、特に角度が小さい範囲、好適には10°~30°の範囲においては、より処理性能が向上していることが確認できた。
【0046】
次に、加圧エア導入口20から導入される加圧エアのエア流量とスラリ導入口30から導入されるスラリのスラリ流量による傾向を測定した。これらの測定は、上述したノズル位置Lとノズル角度θで最適とされた範囲として、ノズル径φが12.5mm、ノズル位置Lが12mm、ノズル角度θが15°として、加圧エア導入口20及びスラリ導入口30の開口径を増減して流路断面積比を調整することで測定を行った。なお、本実施例では、加圧エア導入口20及びスラリ導入口30の開口径を変更することでエア流量及びスラリ流量を変化させたが、加圧エア圧やスラリ圧を変更させることでも同様の効果が確認できる。
【0047】
図7に示すように、流量比による傾向では、1分間に被加工物をどの程度削るかを測定した削れ量の測定では、流量比が320付近で削れ量が最大となることが確認できた。また、エア消費量及び加工時間は、流量比が320付近で最小となることが確認でき、エア消費量と加工時間を考慮すると、流量比が320付近で、処理性能が向上することが確認できた。なお、流量比は、280~370とすると、削れ量、エア消費量及び加工時間が最も優れた状態でウェットブラスト処理を行う事ができることが確認された。
【0048】
なお、図8に示すように、加圧エア導入口20の開口径をφ10mm、スラリ導入口30の開口径をφ12として断面積比率を0.69として流路を構成し、上述した実験条件の加圧エア圧及びスラリ圧で処理を行う事で流量比を327としてウェットブラスト処理を行った結果を示した。この場合、削れ量が53%向上、エア消費量が23%削減、加工時間が35%削減と比較例と比較して大幅に処理性能が向上していることが確認できた。
【0049】
このように、本実施形態に係るノズル体10を用いたウェットブラスト処理方法は、流量比を280~370とすることで最も処理性能に優れた処理を行う事が確認できた。
【0050】
また、図9に示すように、被加工物の処理面に対してX方向(水平方向)及びY方向(垂直方向)での削れ量の差について確認すると、(b)に示すように比較例では、中心(噴射口の直下)から径方向に向かって、X方向及びY方向の削れ深さのずれが生じているのに対し、(a)に示すように、本実施形態に係るノズル体10は、X方向及びY方向でそのずれがなく、被加工物の中心から径方向に真円に近い状態で均一に処理を行うことができることが確認できた。
【0051】
このように構成された本実施形態に係るノズル体10は、従来のノズル体に比較して、削れ量の向上、エア消費量及び加工時間の削減といった処理性能が向上していることが確認できた。
【0052】
また、本実施形態に係るノズル体10は、エアジェットの加圧エア噴射口を第一孔部22及び第二孔部23を有する形態として説明を行ったが、エアジェットの加圧エア噴射口については、これに限らず、従来周知の種々のエアジェットを用いることが可能である。
【0053】
また、本実施形態に係るノズル体10は、加圧エア導入口20から導入される加圧エアの導入方向を噴射材Sの噴射方向と略平行に配置した場合について説明を行ったが、加圧エアの導入方向はこれに限らず、噴射方向と交差する方向から導入しても構わない。また、実施例において、流量比の傾向は、エア圧0.4MPa、スラリの濃度15vol%の場合について説明を行ったが、投射圧や濃度に応じて、最適な流量比も変更されても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0054】
10 ノズル体, 11 ハウジング, 12 ノズル本体, 13 噴射口, 14 噴射通路, 15 ノズル角度形成部, 16 固定手段, 20 加圧エア導入口, 21 エアジェット, 22 第一孔部, 23 第二孔部, 30 スラリ導入口, 40 混合室, S 噴射材。
【要約】
【課題】スラリを噴射するノズル体のエア消費量の削減や加工速度の向上を図ることができるノズル体を提供する。
【解決手段】砥粒と液体とが混合されたスラリが導入されるスラリ導入口と、前記スラリを噴射口から噴射する加圧エアを導入する加圧エア導入口と、前記加圧エア導入口の先端に配置されたエアジェットと、前記スラリ導入口と連絡すると共に、前記エアジェットが配置される混合室と、先端部に前記噴射口が形成され、他端部が前記混合室内で前記エアジェットと対向する円筒形状のノズル本体とを備え、前記混合室は、前記ノズル本体の延設方向と直交する断面において、円形状に形成され、前記スラリ導入口は、前記延設方向と直交する断面において、前記円形状の中心からオフセットされて配置される。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10