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特許7517764樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法、樹脂フィルムの使用方法、及び抗微生物活性の付与方法
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  • 特許-樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法、樹脂フィルムの使用方法、及び抗微生物活性の付与方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法、樹脂フィルムの使用方法、及び抗微生物活性の付与方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240709BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240709BHJP
   B32B 23/00 20060101ALI20240709BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240709BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240709BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240709BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240709BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CFF
B32B27/18 F
B32B23/00
B32B27/34
B32B27/40
A01P1/00
A01N25/34 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024501402
(86)(22)【出願日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2023005206
(87)【国際公開番号】W WO2023157871
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2022021144
(32)【優先日】2022-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524172294
【氏名又は名称】株式会社リブロング
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】齊田 壮一郎
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-058643(JP,A)
【文献】特開2019-001755(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184481(WO,A1)
【文献】特開2019-017369(JP,A)
【文献】特開平07-069804(JP,A)
【文献】特開2020-093473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B32B 27/18
B32B 23/00
B32B 27/34
B32B 27/40
A01P 1/00
A01N 25/34
B65D 65/40
C08L 1/00;75/00;77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤浸透性の樹脂層及び薬剤層を備えた樹脂フィルムであって、
前記樹脂層が親水性であり、
炭素数1~36のカルボン酸、炭素数2~36のカルボン酸エステル、炭素数1~36のスルホン酸エステル、炭素数1~36のシロキサン化合物、炭素数13~38のベンゾフェノン化合物、炭素数1~80のリン酸エステル、及び炭素数1~80の亜リン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である薬剤が前記樹脂層に浸透し、かつ、前記薬剤が前記樹脂層の第一の面に存在し、
前記樹脂層の第二の面に前記薬剤を含む薬剤層が設けられている、樹脂フィルム。
【請求項2】
前記薬剤が、炭素数1~30のカルボン酸、炭素数2~30のカルボン酸エステル、炭素数1~18のスルホン酸エステル、炭素数1~18のシロキサン化合物、炭素数13~20のベンゾフェノン化合物、炭素数1~40のリン酸エステル、及び炭素数1~40の亜リン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂フィルム。
【請求項3】
前記樹脂層が、ポリアミド、セルロース樹脂、及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
【請求項4】
前記樹脂層がポリアミドを含み、前記ポリアミドがナイロン6及びナイロン66のいずれか一方又は両方を含む、請求項に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂層の膜厚が20μm以上である、請求項1又は2に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の樹脂フィルムの建材としての使用。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の樹脂フィルムの製造方法であって、
前記薬剤又は前記薬剤を含む組成物を前記樹脂層の第二の面に5秒以上接触させ、前記薬剤の少なくとも一部を前記樹脂層の第一の面まで浸透させて、前記樹脂層の第一の面に抗微生物活性を付与する、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の樹脂フィルムの使用方法であって、
微生物の活性を低減したい箇所に、前記樹脂層の第一の面が前記微生物と接触するように前記樹脂フィルムを設ける、樹脂フィルムの使用方法。
【請求項9】
親水性であり薬剤浸透性の樹脂層の第二の面に、炭素数1~36のカルボン酸、炭素数2~36のカルボン酸エステル、炭素数1~36のスルホン酸エステル、炭素数1~36のシロキサン化合物、炭素数13~38のベンゾフェノン化合物、及び炭素数1~80のリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である薬剤又は前記薬剤を含む組成物を前記薬剤の少なくとも一部を前記樹脂層の第一の面まで浸透させて、前記樹脂層の第一の面に抗微生物活性を付与する、抗微生物活性の付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法、樹脂フィルムの使用方法、及び抗微生物活性の付与方法に関する。
本願は、2022年2月15日に日本に出願された特願2022-021144号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
抗細菌活性等の抗微生物活性を有する樹脂フィルムは、例えば食品包装フィルム等に使用されている。
近年、フードロスが大きな社会問題となっている。抗微生物活性を有する食品包装フィルムを用いることにより食品の消費期間を延長できれば、フードロスを減少できると期待されている。
【0003】
抗微生物活性を有する樹脂フィルムとしては、基材層の一方の面に抗菌層が形成された積層構造の樹脂フィルムが知られている(特許文献1及び特許文献2)。このような樹脂フィルムは、通常、基材層の一方の面に抗菌効果を有する薬剤を含んだ溶液を塗布し、乾燥させて基材の一方の面に抗菌層を形成することで得られる。このようにして得られる樹脂フィルムは、抗菌層側の面が樹脂フィルムの表面であり、基材層側の面が樹脂フィルムの裏面であり、樹脂フィルムの表面が抗微生物活性を有することとなる。
【0004】
一方、揮発性の香料を徐放させるために、揮発性の薬剤を含包した薬剤入りフィルムとフィラーを添加することによって気体透過を抑制する徐放層からなるフィルムが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特表2008-545761号公報
【文献】米国特許出願公開第2005/0129937号明細書
【文献】日本国特開2019-069581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の樹脂フィルムの場合、抗菌層中の薬剤の濃度は、樹脂フィルムの製造段階、すなわち、基材層の一方の面に薬剤を含んだ溶液を塗布する段階で決まってしまう。そのため、抗菌層中の薬剤の濃度が薄いと抗菌効果を長時間維持できない。抗菌効果を持続させるためには抗菌層中の薬剤の濃度を高めればよいが、抗菌層は人の手等に触れやすいため、薬剤の種類によっては皮膚に対して刺激が強い場合がある。このように、樹脂フィルムの表面における薬剤の濃度を調節することは困難であった。
また、特許文献3に記載のフィルムは合成香料を徐放させる目的であり、抗微生物活性を有する樹脂フィルムとしては検討されていない。
【0007】
本発明は、表面における薬剤の濃度調節が容易である樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法、樹脂フィルムの使用方法、及び抗微生物活性の付与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 薬剤浸透性の樹脂層及び薬剤層を備えた樹脂フィルムであって、
炭素数1~36のカルボン酸、炭素数2~36のカルボン酸エステル、炭素数1~36のスルホン酸エステル、炭素数1~36のシロキサン化合物、炭素数13~38のベンゾフェノン化合物、炭素数1~80のリン酸エステル、及び炭素数1~80の亜リン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である薬剤が前記樹脂層に浸透し、かつ、前記薬剤が前記樹脂層の第一の面に存在し、
前記樹脂層の第二の面に前記薬剤を含む薬剤層が設けられている、樹脂フィルム。
[2] 前記薬剤が、炭素数1~30のカルボン酸、炭素数2~30のカルボン酸エステル、炭素数1~18のスルホン酸エステル、炭素数1~18のシロキサン化合物、炭素数13~20のベンゾフェノン化合物、炭素数1~40のリン酸エステル、及び炭素数1~40の亜リン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の樹脂フィルム。
[3] 前記樹脂層が親水性である、[1]又は[2]に記載の樹脂フィルム。
[4] 前記樹脂層が、ポリアミド、セルロース樹脂、及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[5] 前記樹脂層がポリアミドを含み、前記ポリアミドがナイロン6及びナイロン66のいずれか一方又は両方を含む、[4]に記載の樹脂フィルム。
[6] 前記樹脂層の膜厚が20μm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂フィルム。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂フィルムの建材としての使用。
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂フィルムの製造方法であって、
前記薬剤又は前記薬剤を含む組成物を前記樹脂層の第二の面に5秒以上接触させ、前記薬剤の少なくとも一部を前記樹脂層の第一の面まで浸透させて、前記樹脂層の第一の面に抗微生物活性を付与する、樹脂フィルムの製造方法。
[9] [1]~[6]のいずれかに記載の樹脂フィルムの使用方法であって、
微生物の活性を低減したい箇所に、前記樹脂層の第一の面が前記微生物と接触するように前記樹脂フィルムを設ける、樹脂フィルムの使用方法。
[10] 薬剤浸透性の樹脂層の第二の面に、炭素数1~36のカルボン酸、炭素数2~36のカルボン酸エステル、炭素数1~36のスルホン酸エステル、炭素数1~36のシロキサン化合物、炭素数13~38のベンゾフェノン化合物、及び炭素数1~80のリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である薬剤又は前記薬剤を含む組成物を前記薬剤の少なくとも一部を前記樹脂層の第一の面まで浸透させて、前記樹脂層の第一の面に抗微生物活性を付与する、抗微生物活性の付与方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面における薬剤の濃度調節が容易である樹脂フィルム、樹脂フィルムの製造方法、樹脂フィルムの使用方法、及び抗微生物活性の付与方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る樹脂フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明に係る樹脂フィルムの製造方法の一例を模式的に説明する断面図である。
図3】実施例1で得られた試験片及び比較例1で得られた比較試験片のTOF-SIMSの分析結果を示すグラフである。
図4】実施例1で得られた試験片及び比較例1で得られた比較試験片のTOF-SIMSの分析結果を示すグラフである。
図5】実施例2で得られた試験片及び比較例1で得られた比較試験片の抗菌性試験の結果を示すグラフである。
図6】実施例3及び実施例4で得られた試験片及び比較例1で得られた比較試験片の抗菌性試験の結果を示すグラフである。
図7】実施例1で得られた試験片及び比較例1で得られた比較試験片の抗ウイルス性試験の結果を示すグラフである。
図8】実施例5で得られた試験片及び比較例1で得られた比較試験片の抗ウイルス性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る樹脂フィルム等の一実施形態を挙げ、図1を適宜参照しながら詳述する。
なお、「~」を用いて表される数値範囲には、「~」の両端の数値を含むものとする。
また、以下の説明で用いる図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。
【0012】
[樹脂フィルム]
図1は本発明の第一の態様の樹脂フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示す樹脂フィルム10は、樹脂層11と、樹脂層11の第二の面11bに設けられた、薬剤Mを含む薬剤層12とを備え、薬剤Mが樹脂層11に浸透し、かつ、薬剤Mが樹脂層11の第一の面11aに存在している。
なお、本発明においては、樹脂層11の第一の面11aが樹脂フィルム10の表面10aである。樹脂フィルム10の表面10aは、微生物と接する面である。
また、本発明においては、樹脂フィルム10の表面10aとは反対側の面を樹脂フィルム10の裏面10bと称する。図1に示す樹脂フィルム10の場合、薬剤層12の樹脂層11とは反対側の面である第二の面12bが樹脂フィルム10の裏面10bである。
また、本発明においては、樹脂層11の第一の面11aを樹脂層11の表面ともいい、樹脂層11の第二の面11bを樹脂層11の裏面ともいう。
また、本発明においては、薬剤層12の樹脂層11側の面である第一の面12aを薬剤層12の表面ともいい、薬剤層12の第二の面12bを薬剤層12の裏面ともいう。
【0013】
<薬剤>
薬剤Mは、樹脂層11の第一の面11a、すなわち樹脂フィルム10の表面10aに抗微生物活性を付与するものである。
薬剤Mは、炭素数1~36のカルボン酸、炭素数2~36のカルボン酸エステル、炭素数1~36のスルホン酸エステル、炭素数1~36のシロキサン化合物、炭素数13~38のベンゾフェノン化合物、炭素数1~80のリン酸エステル、及び炭素数1~80の亜リン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である。
なお、図1においては薬剤Mを模式的に示しているに過ぎず、薬剤Mは必ずしも粒子状で存在している訳ではない。
【0014】
(炭素数1~36のカルボン酸)
前記炭素数1~36のカルボン酸としては、例えばギ酸(CH)、酢酸(C)、プロピオン酸(C)、酪酸(C)、イソ酪酸(C)、吉草酸(C10)、等の短鎖脂肪酸(炭素数6未満の脂肪酸);カプロン酸(C12)、エナント酸(C14)、カプリル酸(C16)、、カプリン酸(C1020)、、ラウリン酸(C1224)、等の中鎖脂肪酸(炭素数6~12の脂肪酸);ミリスチン酸(C1428)、パルミチン酸(C1632)、ステアリン酸(C1836)、等の長鎖脂肪酸(炭素数13~21の脂肪酸);並びに、ベヘン酸(C2244)等の超長鎖脂肪酸(炭素数22~36の脂肪酸)が挙げられる。
前記炭素数1~36のカルボン酸としては、これらの例示された炭素数1~36のカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記炭素数1~36のカルボン酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
前記炭素数1~36のカルボン酸としては、炭素数1~30のカルボン酸が好ましく、炭素数2~20のカルボン酸がより好ましい。これらのカルボン酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
(炭素数2~36のカルボン酸エステル)
前記炭素数2~36のカルボン酸エステルとしては、例えばギ酸メチル(C)、ギ酸エチル(C)、等のギ酸エステル;酢酸メチル(C)、酢酸エチル(C)、酢酸ビニル(C)、酢酸プロピル(C10)、酢酸ブチル(C12)、、酢酸ペンチル(C14)、酢酸ヘキシル(C16)、酢酸ヘプチル(C18)、酢酸オクチル(C1020)、等の酢酸エステル;並びに、プロピオン酸メチル(C)、プロピオン酸エチル(C10)、プロピオン酸ビニル(C)、等のプロピオン酸エステルが挙げられる。前記炭素数2~36のカルボン酸エステルとしては、これらの例示された炭素数2~36のカルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記炭素数2~36のカルボン酸エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
前記炭素数2~36のカルボン酸エステルとしては、炭素数2~30のカルボン酸エステルが好ましく、炭素数2~20のカルボン酸エステルがより好ましく、炭素数3~8のカルボン酸エステルがさらに好ましい。これらのカルボン酸エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記炭素数2~36のカルボン酸エステルとしては、なかでも酢酸エステルがいっそう好ましく、前記酢酸エステルとしては、炭素数3~8の酢酸エステルが好ましい。
前記炭素数3~8の酢酸エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(炭素数1~36のスルホン酸エステル)
前記炭素数1~36のスルホン酸エステルとしては、例えばメチルベンゼンスルホン酸(トルエンスルホン酸)(CS)、エチルベンゼンスルホン酸(C10S)、プロピルベンゼンスルホン酸(C12S)、ブチルベンゼンスルホン酸(C1014S)、ペンチルベンゼンスルホン酸(C1116S)、ヘキシルベンゼンスルホン酸(C1218S)、ヘプチルベンゼンスルホン酸(C1320S)、オクチルベンゼンスルホン酸(C1422S)、ノニルベンゼンスルホン酸(C1524S)、及びデシルベンゼンスルホン酸(C1626S)等のアルキルベンゼンスルホン酸;並びに、メタンスルホン酸(CHS)、エタンスルホン酸(CS)、プロパンスルホン酸(CS)、ブタンスルホン酸(C10S)、等のアルカンスルホン酸が挙げられる。前記炭素数1~36のスルホン酸エステルとしては、炭素数1~36のスルホン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記炭素数1~36のスルホン酸エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記炭素数1~36のスルホン酸エステルとしては、炭素数1~18のスルホン酸エステルが好ましく、炭素数1~10のスルホン酸エステルがより好ましく、炭素数6~10のスルホン酸エステルがさらに好ましい。
【0021】
前記炭素数1~36のスルホン酸エステルとしては、なかでもアルキルベンゼンスルホン酸がいっそう好ましく、前記アルキルベンゼンスルホン酸エステルとしては、炭素数6~10のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸エステルが好ましい。
前記炭素数6~10のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(炭素数1~36のシロキサン化合物)
前記炭素数1~36のシロキサン化合物としては、例えば3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(C20Si)、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン(C20Si)、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン(C1124Si)、(3-(メタ)アクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(C1020Si)、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロピルメチルジメトキシシラン(C1020Si)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(C16SSi)、3-メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン(C16SSi)、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン(C22SSi)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(C17NOSi)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(C23NOSi)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(C22Si)、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン(C1221NOSi)、ビニルトリメトキシシラン(C12Si)、トリエトキシビニルシラン(C18Si)、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロピルメチルジエトキシシラン(C1224Si)、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン(C1326Si)、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(C22Si)、及び3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン(C15NOSi)が挙げられる。前記炭素数1~36のシロキサン化合物としては、炭素数1~36のシロキサン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記炭素数1~36のシロキサン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記炭素数1~36のシロキサン化合物としては、炭素数1~18のシロキサン化合物が好まく、炭素数1~10のシロキサン化合物がより好ましい。
【0024】
(炭素数13~38のベンゾフェノン化合物)
前記炭素数13~38のベンゾフェノン化合物としては、例えばベンゾフェノン(C1310O)、4-ヒドロキシベンゾフェノン(C1310)、4-メトキシベンゾフェノン(C1412)、等が挙げられる。前記炭素数13~38のベンゾフェノン化合物としては、炭素数13~38のベンゾフェノン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記炭素数13~38のベンゾフェノン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
前記炭素数13~38のベンゾフェノン化合物としては、炭素数13~20のベンゾフェノン化合物が好ましく、炭素数13~18のベンゾフェノン化合物がより好ましく、炭素数13~17のベンゾフェノン化合物がさらに好ましい。
【0026】
(炭素数1~80のリン酸エステル)
前記炭素数1~80のリン酸エステルとしては、例えばリン酸メチル(CHP)等のリン酸モノエステル;リン酸ジエチル(C11P)、等のリン酸ジエステル;並びに、リン酸トリメチル(CP)、リン酸トリフェニル(C1815P)等のリン酸トリエステルが挙げられる。前記炭素数1~80のリン酸エステルとしては、炭素数1~80のリン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記炭素数1~80のリン酸エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
前記炭素数1~80のリン酸エステルとしては、炭素数1~40のリン酸エステルが好ましく、炭素数1~20のリン酸エステルがより好ましく、炭素数1~10のリン酸エステルがさらに好ましい。
【0028】
(炭素数1~80の亜リン酸エステル)
前記炭素数1~80の亜リン酸エステルとしては、例えば亜リン酸トリフェニル(C1815P)、亜リン酸トリス(4-ノニルフェニル)(C4569P)、亜リン酸トリクレジル(C2121P)、亜リン酸トリステアリル(C54111P)、亜リン酸トリエチル(C15P)、亜リン酸トリス(2-エチルヘキシル)(C2451P)、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー、水添ビスフェノールAホスファイトポリマー、亜リン酸ジエチル(C11P)、亜リン酸ビス(2-エチルヘキシル)(C1635P)、亜リン酸ジラウリル(C2451P)、亜リン酸ジオレイル(C3671P)、及び亜リン酸ジフェニル(C1211P)が挙げられる。前記炭素数1~80の亜リン酸エステルとしては、炭素数1~80の亜リン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
前記炭素数1~80の亜リン酸エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
前記炭素数1~80の亜リン酸エステルとしては、炭素数1~40の亜リン酸エステルが好ましく、炭素数1~20の亜リン酸エステルがより好ましく、炭素数1~10の亜リン酸エステルがさらに好ましい。
【0030】
(薬剤Mの好ましい態様)
薬剤Mは、炭素数1~30のカルボン酸、炭素数2~30のカルボン酸エステル、炭素数1~18のスルホン酸エステル、炭素数1~18のシロキサン化合物、炭素数13~20のベンゾフェノン化合物、炭素数1~40のリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
薬剤Mは、炭素数2~20のカルボン酸、炭素数2~20のカルボン酸エステル、炭素数1~10のスルホン酸エステル、炭素数1~10のシロキサン化合物、炭素数13~18のベンゾフェノン化合物、炭素数1~20のリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
薬剤Mは、炭素数3~8の酢酸エステル、炭素数6~10のアルキルベンゼンスルホン酸、炭素数1~10のシロキサン化合物、炭素数13~17のベンゾフェノン化合物、炭素数1~10のリン酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましく、特に炭素数3~8の酢酸エステルを少なくとも含んでいることがより好ましい。
【0031】
<樹脂層>
図1を参照しながら説明する。
樹脂層11は、薬剤浸透性を有するフィルムである。
本発明において、「薬剤浸透性」とは、樹脂層11の表面又は裏面に付着した薬剤が樹脂層11の内部まで染み込み、また、樹脂層11の内部まで染み込んだ薬剤が樹脂層11の表面又は裏面に染み出す性質をいう。
【0032】
樹脂層11には、薬剤Mが浸透している。
薬剤Mは、樹脂層11の第二の面11bから第一の面11aまで浸透していることが好ましい。薬剤Mが樹脂層11の第二の面11bから第一の面11aまで浸透していることで、薬剤Mに起因する樹脂フィルム10の表面10aのベタつきを抑制できる。
【0033】
樹脂層11の第一の面11aには、薬剤Mが存在している。樹脂層11の第一の面11aに薬剤Mが存在していることで、樹脂層11の第一の面11a、すなわち樹脂フィルム10の表面10aに抗微生物活性が付与されている。
しかも、薬剤Mは樹脂層11に浸透しているので、樹脂層11の第一の面11aに存在する薬剤Mが消費されて減少しても、樹脂層11に浸透している薬剤Mの少なくとも一部が、徐々に樹脂層11の第一の面11aに染み出るため、抗微生物活性を長時間維持できる。
【0034】
抗微生物活性としては、抗細菌活性、抗カビ活性及び抗ウイルス活性からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0035】
抗細菌活性は、例えばJIS Z 2801:2012(抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果)の試験方法等によって評価する。
【0036】
抗カビ活性は、例えばJIS Z 2911:2018(かび抵抗性試験方法)の試験方法等によって評価する。
【0037】
抗ウイルス活性は、例えばISO 21702:2019(プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定)の試験方法等によって評価する。
【0038】
樹脂層11の第一の面11aに抗細菌活性が付与されている場合、樹脂フィルム10は、大腸菌以外のグラム陰性細菌、例えばサルモネラ菌(Salmonella)、腸内細菌(Enterobacter)、シュードモナス(Pseudomonas)、モラクセラ(Moraxella)、ヘリコバクター(Helicobacer)、ブデロビブリオ(Bdellovibrio)、アセトバクター(Acetobacter)及びレジオネラ(Legionella)からなる群より選択される少なくとも1種に対して抗細菌活性を有することが望ましい。
また、樹脂フィルム10は、黄色ブドウ球菌以外のグラム陽性細菌、例えばバシラス(Bacillus)、ラクトバシラス(Lactobacillus)、クロストリジウム(Clostridium)、サーモアネロバクター(Thermoanaerobacter)、ハロアネロビウム(Haloanaerobium)、ナトラナエロビウス(Natraanaerobius)及びエリュシペロトリクス(Erysipelotrichus)等のフィルミクテス類、並びにアクチノマイセス(Actinomyces)、ストレプトマイセス(Sterptomyces)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)等の放線菌類からなる群より選択される少なくとも1種に対して抗細菌活性を有することが望ましい。
【0039】
樹脂層11の第一の面11aに抗カビ活性が付与されている場合、樹脂フィルム10は、アスペルギルス(Aspergillus)及びクラドスポリウム(Cladosporium)以外のカビ及び酵母、例えばペニシリウム(Penicillium)、トリコデルマ(Trichoderma)、フザリウム(Fusarium)、ニューロスポラ(Neurospora)、アウレオバシヂウム(Aureobasidium)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、カンジダ(Candida)、クリプトコッカス(Cryptococcus)及びシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)からなる群より選択される少なくとも1種に対して抗カビ活性を有することが望ましい。
【0040】
樹脂層11の第一の面11aに抗ウイルス活性が付与されている場合、樹脂フィルム10は、エンベロープを持つウイルス、例えば水痘・帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、風疹ウイルス、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、D型肝炎ウイルス、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス、狂犬病ウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、A型インフルエンザウイルス(H1N1、H3N2等)及び成人T細胞白血病ウイルスからなる群より選択される少なくとも1種に対して抗ウイルス活性を有することが望ましい。
また、樹脂フィルム10は、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの代替)以外のエンベロープを持たないウイルス、例えばアデノウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、ノロウイルス及びロタウイルスからなる群より選択される少なくとも1種に対して抗ウイルス活性を有することが望ましい。
また、樹脂フィルム10は、新型コロナウイルスに対して抗ウイルス活性を有することが望ましい。
【0041】
樹脂層11を構成する樹脂としては、薬剤浸透性を有するものであれば特に限定されないが、親水性樹脂であることが好ましい。樹脂の親水性は、例えばASTM D570法で測る吸水率で表すことができる。本発明の薬剤Mの浸透性及び薬剤Mの濃度調節が容易となることから、吸水率0.5以上の樹脂が好ましく、吸水率0.75以上の樹脂がより好ましく、吸水率1.0以上の樹脂が最も好ましい。
具体的には、ポリアミド、セルロース樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。これらの中でも、薬剤浸透性及び濃度調整に特に優れる点で、ポリアミドが好ましい。
樹脂層11は、上述した樹脂を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上の樹脂を含んでいてもよい。
また、樹脂層11は、単層フィルムであってもよいし、複数の単層フィルムが積層された積層フィルムであってもよい。樹脂層11が積層フィルムの場合、各単層フィルムを構成する樹脂は同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよいが、少なくとも1つの単層フィルムはポリアミドを含むことが好ましい。
【0042】
前記ポリアミドとしては、例えばナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612等のナイロンなどが挙げられる。これらの中でも、フィルムにした場合の引張り強さ及び破裂強さに優れている点で、ナイロン6又はナイロン66が好ましく、ナイロン6がより好ましい。
【0043】
前記セルロース樹脂としては、例えばニトロセルロース、アセチルセルロースなどが挙げられる。
【0044】
前記ポリウレタンとしては、例えばポリエステル系熱可塑性ポリウレタン、ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン、ポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタンなどが挙げられる。
【0045】
前記ポリアミド、前記セルロース樹脂、及び前記ポリウレタンはそれぞれ、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
樹脂層11の厚さは特に制限されないが、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、30μm以上がよりさらに好ましく、50μm以上が特に好ましい。また、5000μm以下が好ましく、2500μm以下がより好ましく、1000μm以下がさらに好ましく、500μm以下がよりさらに好ましく、300μm以下が特に好ましい。樹脂層の厚みが上記下限値以上であることで、使用時のフィルムの破損を防止し、また薬剤Mの徐放期間が維持される傾向にある、また、樹脂層の厚みが上記上限値以下であることで、樹脂フィルムの柔軟性が保持されやすくなり、曲面等の様々な場所に樹脂フィルム10を設けることができる。また、薬剤Mの樹脂層表面への到達が長くなり過ぎず、使用が容易になる傾向にある。
【0047】
<薬剤層>
薬剤層12は、薬剤Mを含む層であり、樹脂層11の第二の面11bに設けられている。
図1に示す樹脂フィルム10の場合、薬剤層12に含まれる薬剤Mの少なくとも一部が、樹脂層11の第二の面11bから第一の面11aまで浸透し、第一の面11aに染み出ている。
【0048】
薬剤層12は、薬剤M以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。
前記他の成分は、薬剤層の他の成分と樹脂層は親和性と粘着性を持っていることが好ましい。前記他の成分は薬剤M同様に樹脂層表面に移動してもよく、薬剤層としてとどまっていてもよい。
前記他の成分としては、例えば(メタ)アクリル系重合体などが挙げられる。(メタ)アクリル系重合体としては、例えばアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体;アルキル(メタ)アクリレートと、これと共重合可能なモノマー成分とを共重合することにより得られる共重合体などが挙げられる。
薬剤層12に粘着性を付与する点では、アルキル(メタ)アクリレートと、これと共重合可能なカルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、これら以外の他のビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマー成分とを共重合することにより得られる共重合体などが好ましい。すなわち、前記共重合体は、アルキル(メタ)アクリレート単位と、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマー成分由来の単位とを含み、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート単位と、カルボキシル基含有モノマー、水酸基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、これら以外の他のビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種のモノマー成分由来の単位とを含む。
前記他の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
薬剤層12中の薬剤Mの含有量は特に制限されず、樹脂フィルム10を設ける箇所に応じて、薬剤層12が含有可能な量の範囲内で薬剤Mの含有量を決定すればよい。
【0050】
薬剤層12の厚さは特に制限されないが、例えば、0.005μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが特に好ましい。また、50000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが特に好ましい。薬剤層12の厚さが上記下限値以上であれば、樹脂フィルム10に含まれる薬剤Mの総量が増えるため、抗微生物活性をより長時間維持できる。薬剤層12の厚さが上記上限値以下であれば、樹脂フィルム10の柔軟性が保持されやすくなり、様々な場所に樹脂フィルム10を設けることができる。
ここで樹脂層と薬剤層は異なる樹脂で構成されることが好ましい。その理由は各々の層が担う役割が異なるからである。即ち、樹脂層を外部環境に直接曝されるため耐摩擦性や耐水性を有していた方がよいが、一方、薬剤層は薬剤Mの濃度をコントロールし、薬剤Mの移動を妨げないように柔らかい樹脂で構成されるのが好ましいためである。
上記の点より特に好ましい組み合わせとしては、樹脂層の樹脂がポリアミド、薬剤層の他の成分がアルキル(メタ)アクリレートと、これと共重合可能なカルボキシル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、これら以外の他のビニルモノマーである。
【0051】
<製造方法>
樹脂フィルム10は、例えば薬剤M又は薬剤Mを含む組成物(以下、「組成物(C)」ともいう。)を樹脂層11の第二の面11bに接触させ、薬剤Mの少なくとも一部を樹脂層11の第一の面11aまで浸透させて、樹脂層11の第一の面11aに抗微生物活性を付与することで得られる。
樹脂層11は薬剤浸透性を有するため、例えば図2に示すように、樹脂層11の裏面(すなわち第二の面11b)に付着した薬剤Mが樹脂層11の内部まで染み込み、さらに、樹脂層11の内部まで染み込んだ薬剤Mが樹脂層11の表面(すなわち第一の面11a)に染み出る。よって、樹脂層11の表面側から薬剤M又は組成物(C)を塗布しなくても、樹脂層11の第一の面11aに薬剤Mが存在するようになり、抗微生物活性を発現できる。
【0052】
組成物(C)は、薬剤Mを含むものである。
組成物(C)は、薬剤Mの代わりに、薬剤Mの由来となる成分を含んでいてもよい。薬剤Mの由来となる成分とは、分解等により薬剤Mを生成する成分のことである。
組成物(C)は、他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分としては、薬剤層12の説明において先に例示した他の成分が挙げられる。前記他の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、組成物(C)は、薬剤M以外の溶剤を含んでいてもよい。前記溶剤としては、例えば水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、へプタン、トルエン、キシレン等の有機溶剤などが挙げられる。前記溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
薬剤M又は組成物(C)を樹脂層11の第二の面11bに接触させる方法は特に限定されないが、例えば薬剤M又は薬剤Mの由来となる成分を含んだフィルム(以下、「フィルム(F)」ともいう。)を樹脂層11の第二の面11bに貼り合わせることにより薬剤Mを樹脂層11の第二の面11bに接触させる方法(1);スプレー塗布、ローラー塗布等により薬剤M又は組成物(C)を樹脂層11の第二の面11bに接触させる方法(2);樹脂層11の第二の面11bを薬剤又は組成物(C)に浸漬することにより薬剤M又は組成物(C)を樹脂層11の第二の面11bに接触させる方法(3)などが挙げられる。
フィルム(F)としては、市販品を用いることができる。
【0054】
薬剤M又は組成物(C)を樹脂層11の第二の面11bに接触させる際の接触時間は、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、1分以上がさらに好ましく、5分以上が特に好ましい。接触時間は20分以上でもよいが、通常、20分間の接触で十分な抗微生物活性が得られる。
薬剤M又は組成物(C)を樹脂層11の第二の面11bに接触させる際の接触温度は特に限定されないが、例えば0~50℃が好ましく、5~35℃がより好ましい。
【0055】
上述した方法(2)又は方法(3)で薬剤M又は組成物(C)を樹脂層11の第二の面11bに接触させる場合、接触後に樹脂層11の第二の面11bと必要に応じて第一の面11aとを乾燥させることが好ましい。樹脂層11は、例えば0~50℃で風乾することが好ましく、5~35℃で風乾することがより好ましい。
【0056】
薬剤M又は組成物(C)を樹脂層11の第二の面11bに接触させる前に、樹脂層11の第二の面11bを表面処理することが好ましい。樹脂層11の第二の面11bを表面処理することで、薬剤M又は組成物(C)の付着性がより高まり、その結果、薬剤層12の樹脂層11に対する付着性が高まる。特に、フィルム(F)を樹脂層11の第二の面11bに貼り合わせる場合、フィルム(F)の樹脂層11に対する付着性が高まる。
表面処理としては、例えばコロナ処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理オゾン・紫外線処理等の表面酸化処理、あるいはサンドブラスト等の方法が挙げられる。これらの中でも、表面処理の効果や生産性及び製造コストの観点から、表面酸化処理が好ましく、コロナ処理が特に好ましい。
【0057】
<樹脂フィルムの使用方法>
樹脂フィルム10は、微生物の活性を低減したい箇所において広範に利用できる。具体的には、微生物の活性を低減したい箇所(例えば、建築物の壁材、壁紙、天井材、床材、ドアノブ、扉、つり革、手すり等の建材用途、自動車、電車、船舶、飛行機等の移動体の内装材、医療施設内の建材や設備、医療器具の包装材など)に樹脂フィルム10を設けるだけで、微生物の活性を低減できる。
これらの箇所に樹脂フィルム10を設ける際は、樹脂層11の第一の面11a、すなわち樹脂フィルム10の表面10aが微生物と接触するように樹脂フィルム10を設ける。
樹脂フィルム10を設ける方法としては特に制限されず、例えば粘着剤や接着剤を用いて樹脂フィルム10を所定の箇所に貼り付けてもよい。また、薬剤層12が粘着性を有していれば、薬剤層12の第二の面12b、すなわち樹脂フィルム10の裏面10bが所定の箇所と接触するように、樹脂フィルム10を貼り付けてもよい。
樹脂フィルム10は、建築、建材用途としても有用である。建材用途として用いる際には折り曲げやすい性質を持つことが好ましく、曲げても亀裂や破壊が生じない曲げ強度が求められる。
その指標としてはASTM D790法で測る曲げ強度が用いられ、300kg/cm以上が好ましく、400kg/cm以上がより好ましく、500kg/cm以上がさらに好ましい。また、2000kg/cm以下が好ましく、1500kg/cm以下がより好ましく、1000kg/cm以下がさらに好ましい。
また、外部からの引っ掻きに対しても耐えられる強度を持つことが好ましい。その指標としてはASTM D785法で測るロックウェル硬度が用いられ、R50以上が好ましく、R75以上が好ましく、R100以上がさらに好ましい。また、R200以下が好ましく、R150以下が好ましく、R125以下がさらに好ましい。
【0058】
壁等に貼り付けるために粘着させる場合は、柔らかい方が取り扱いが容易であるので、ガラス転移温度が常温、即ち0℃以下であることが好ましい。より好ましくは-10℃、さらに好ましくは-20℃以下である。また、貼り付ける対象に接着しやすい性質、即ちタック性を備えていることが好ましく、―5℃から20℃においてタック性を備えていることが好ましい。
【0059】
<作用効果>
本実施形態の樹脂フィルム10は、薬剤Mが樹脂層11に浸透し、かつ薬剤Mが樹脂層11の第一の面11a、すなわち樹脂フィルム10の表面10aに存在しているので、抗微生物活性を発現できる。しかも、薬剤Mは樹脂層11に浸透しているので、樹脂層11の第一の面11aに存在する薬剤Mが消費されて減少しても、樹脂層11に浸透している薬剤Mの少なくとも一部が、徐々に樹脂層11の第一の面11aに染み出るため、抗微生物活性を長時間維持できる。
さらに、本実施形態の樹脂フィルム10は、薬剤層12を備えているので、薬剤層12に含まれる薬剤Mの少なくとも一部も徐々に樹脂層11の第二の面11bから第一の面11aまで浸透し、第一の面11aに染み出るため、抗微生物活性をより長時間維持できる。
なお、薬剤Mの濃度が平衡に達すると、樹脂層11の内部及び薬剤層12から樹脂層11の第一の面11aへの薬剤Mの染み出しはそれ以上進まないため、常に一定量の薬剤Mが樹脂層11の第一の面11aに存在している状態を維持しやすい。
【0060】
このように、本実施形態の樹脂フィルム10は、裏面10b側から表面10a側に向かって薬剤Mが染み出てくるため、樹脂フィルム10の表面10aにおける薬剤Mの濃度調節が容易である。特に、薬剤層12の厚さを調節することで薬剤層12における薬剤Mの濃度を容易に調整できるので、抗微生物活性の持続性を容易に制御できる。
また、薬剤層12は樹脂フィルム10の裏面10b側に位置しているので、人の手等に触れにくい。よって、皮膚に対して刺激が強い薬剤Mを薬剤層12が高濃度に含んでいたとしても、人の手等に触れにくいため、取り扱い性にも優れる。
【0061】
樹脂フィルム10の表面10aに存在する薬剤Mの量は、抗微生物活性を発現できる量であれば特に限定されない。例えば、実施例の表面分析やpH試験にて薬剤Mが特定できる程度に存在していれば抗微生物活性を有することができる。例えば、樹脂フィルム表面1平方センチメートル当たり5.5×10―10モル以上の薬剤Mが存在していることが好ましく、より好ましくは1.0×10-9モル以上、さらに好ましくは2.5×10―9モル以上の薬剤Mが存在していることが好ましい。
【0062】
また、薬剤Mにより樹脂フィルム10の表面10aのpHが7未満となることが好ましい。表面10aのpHはつぎのとおり測定する。
樹脂フィルム10の表面10aに、pH試験紙(PH1-14試紙)を1.5cmの長さに切断したものを配置する。pH試験紙の上にpH7の水を1滴滴下して5分経過した後、pH試験紙の色の変化を目視にて観察する。pH試験紙の色をカラーチャートと対比し、pH測定値を得る。
【0063】
<他の実施形態>
本発明の樹脂フィルムは上述した実施形態のものに限定されない。例えば、薬剤層の第二の面には、剥離可能な被覆層(図示略)が設けられていてもよい。特に、薬剤層が粘着性を有する場合は、樹脂フィルムの使用直前まで被覆層が設けられていることが好ましく、樹脂フィルムの使用直前に被覆層を薬剤層から剥離すればよい。
被覆層としては、例えば基材フィルムの一方の面に剥離剤が塗布されて剥離処理されたフィルムなどが挙げられる。
基材フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂などが挙げられる。
剥離剤としては、例えばシリコーン樹脂などが挙げられる。
【0064】
また、薬剤層は樹脂層の第二の面に設けられていなくてもよいが、抗微生物活性の持続性を高める観点では、薬剤層は樹脂層の第二の面に設けられていることが好ましい。
薬剤層を備えていない樹脂フィルムは、例えば、上述した方法(1)~(3)のいずれかにより、薬剤を樹脂層の第一の面まで浸透させた後に、形成された薬剤層を剥離することで得られる。
また、薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第一の面に接触させて、薬剤を樹脂層の第二の面まで浸透させることで、樹脂フィルムを製造してもよい。ただし、薬剤に起因する樹脂フィルムの表面のベタつきを抑制できる観点から、薬剤は樹脂層の第二の面から第一の面まで浸透させることが好ましい。なお、フィルム(F)を樹脂層の第一の面に貼り合わせることにより薬剤を樹脂層の第一の面に接触させる場合は、薬剤が樹脂層に浸透した後、好ましくは樹脂層の第二の面まで浸透した後に、フィルム(F)を樹脂層から剥離する。
さらに、樹脂層の第一の面を薬剤又は組成物(C)に浸漬することにより薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第一の面に接触させ、樹脂層に薬剤を浸透させることで樹脂フィルムを製造してもよい。また、樹脂層の全体を薬剤又は組成物(C)に浸漬することにより薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第一の面及び第二の面に接触させ、樹脂層に薬剤を浸透させることで樹脂フィルムを製造してもよい。なお、樹脂層の第一の面に薬剤層が形成された場合は、この薬剤層を剥離する。
【0065】
[抗微生物活性の付与方法]
本発明の第二の態様の抗微生物活性の付与方法は、薬剤浸透性の樹脂層の第二の面に、薬剤又は薬剤を含む組成物(C)を接触させ、薬剤の少なくとも一部を樹脂層の第一の面まで浸透させて、樹脂層の第一の面に抗微生物活性を付与する方法である。
抗微生物活性の付与対象である樹脂層としては、上述した本発明の第一の態様の樹脂フィルムの説明において先に例示した樹脂層が挙げられる。また、樹脂層は、例えばポリアミド製、セルロース樹脂製、ポリウレタン製等の製品(例えばカーテン、スポンジ等)などであってもよい。
薬剤及び組成物(C)としては、上述した本発明の第一の態様の樹脂フィルムの説明において先に例示した薬剤及び組成物(C)がそれぞれ挙げられる。
薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第二の面に接触させる方法としては、上述した本発明の第一の態様の樹脂フィルムの説明において先に例示した方法(1)~(3)などが挙げられる。
【0066】
薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第二の面に接触させる際の接触時間は、5秒以上が好ましく、10秒以上がより好ましく、1分以上がさらに好ましく、5分以上が特に好ましい。接触時間は20分以上でもよいが、通常、20分間の接触で十分な抗微生物活性が得られる。
薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第二の面に接触させる際の接触温度は特に限定されないが、例えば0~50℃が好ましく、5~35℃がより好ましい。
【0067】
上述した方法(2)又は方法(3)で薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第二の面に接触させる場合、接触後に樹脂層の第二の面と必要に応じて第一の面とを乾燥させることが好ましい。樹脂層は、例えば0~50℃で風乾することが好ましく、5~35℃で風乾することがより好ましい。
薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第二の面に接触させる前に、樹脂層の第二の面をコロナ処理することが好ましい。
【0068】
なお、薬剤又は組成物(C)を樹脂層の第一の面に接触させて、薬剤を樹脂層の第二の面まで浸透させることで樹脂層の第一の面に抗微生物活性を付与してもよい。また、樹脂層の第一の面又は樹脂層の全体を薬剤又は組成物(C)に浸漬することにより薬剤又は組成物(C)を樹脂層の少なくとも第一の面に接触させ、樹脂層に薬剤を浸透させることで樹脂層の第一の面に抗微生物活性を付与してもよい。なお、樹脂層の第一の面に薬剤層が形成された場合は、この薬剤層を剥離する。
【実施例
【0069】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の実施の形態は、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形が可能である。
【0070】
[実施例1]
樹脂層として、片面にコロナ処理が施されているナイロン6製フィルム[三菱ケミカル株式会社製、商品名「ダイアミロン(登録商標)C」、50mm×70mm×厚さ100μm、単層フィルム、吸水率は1.6%(ASTM D570法により測定)]を用いた。
薬剤層となるフィルム(F)として、アクリル両面粘着フィルム(厚さ150μm)を用いた。
アクリル両面粘着フィルムは、アクリル酸4重量部、酢酸ビニル10重量部、2-エチルヘキシルアクリレート70重量部を混合して得た共重合体1Kgに、ペンタエリスリトールテトラアクリレート90g、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン15g、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10gを混合して作成した粘着剤組成物をポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さ150μmとなるように賦形し、軽セパレータ(剥離層)としてポリエチレンテレフタレートフィルムで被覆して作成した。
粘着フィルムの軽セパレータ(剥離層)を剥がして、ナイロン6製フィルムのコロナ処理面に粘着フィルムを貼り付けて、試験片を得た。
なお、ナイロン6製フィルムのコロナ処理が施されている側の面が樹脂層の第二の面(裏面)であり、ナイロン6製フィルムのコロナ処理が施されていない面が樹脂層の第一の面(表面)である。また、試験片のナイロン6製フィルム側の面、すなわち樹脂層の第一の面が試験片の表面であり、試験片の粘着フィルム側の面が試験片の裏面である。
【0071】
[実施例2]
実施例1と同様の試験片を11カ月間室内に保管した。
【0072】
[実施例3]
実施例1と同様のナイロン6製フィルムを二軸延伸し、厚さ25μmまで薄くした二軸延伸単層フィルムを作製した。実施例1と同様に、アクリル両面粘着フィルムの軽セパレータ(剥離層)を剥がして、二軸延伸単層フィルムに粘着フィルムを貼り付け、試験片を得た。
【0073】
[実施例4]
厚さ125μmの低融点ナイロンフィルムを準備した。実施例1と同様にアクリル両面粘着フィルムの軽セパレータ(剥離層)を剥がし、低融点ナイロンフィルムに粘着フィルムを貼り付けて、試験片を得た。
【0074】
[比較例1]
片面にコロナ処理が施されているナイロン6製フィルム[三菱ケミカル株式会社製、商品名「ダイアミロン(登録商標)C」、50mm×70mm×厚さ100μm、単層フィルム]を比較試験片として用いた。
なお、ナイロン6製フィルムのコロナ処理が施されている側の面が樹脂層の第二の面(裏面)であり、ナイロン6製フィルムのコロナ処理が施されていない面が樹脂層の第一の面(表面)である。また、樹脂層の第一の面が比較試験片の表面であり、樹脂層の第二の面が比較試験片の裏面である。
【0075】
<表面分析>
(TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)による表面分析)
飛行時間型二次イオン質量分析装置(ION-TOF社製、製品名「TOF-SIMSIV」)を用い、下記条件にて試験片及び比較試験片の表面、すなわち樹脂層の第一の面の表面分析を行った。図3、4に主要イオン強度を示す。
(TOF-SIMS測定条件)
・定性分析:マイクロスペクトル測定、
・一次イオン:Bi 2+
・加速電圧:25kV、
・測定範囲:200μm角、
・測定モード:正・負イオン検出、
・積算回数:30回、
・帯電補正:Flood Gun使用。
【0076】
図3、4の結果より、実施例1で得られた試験片の表面、すなわち樹脂層の第一の面には、炭素数1~36のカルボン酸、炭素数2~36のカルボン酸エステル、炭素数1~36のスルホン酸エステル、炭素数1~36のシロキサン化合物、炭素数13~38のベンゾフェノン化合物、炭素数1~80のリン酸エステル由来の薬剤が存在していることが示された。
これらの結果から、実施例1の場合、粘着フィルムに含まれる薬剤が樹脂層の第二の面から第一の面まで浸透して、第一の面に染み出ていることが明らかとなった。
【0077】
(pH測定による表面分析)
試験片及び比較試験片の表面、すなわち樹脂層の第一の面に、pH試験紙(PH1-14試紙)を1.5cmの長さに切断したものを配置した。pH試験紙の上にpH7の水を1滴滴下して5分経過した後、pH試験紙の色の変化を目視にて観察した。
【0078】
その結果、実施例1で得られた試験片の表面に配置されたpH試験紙はやや明るい橙色を示し、pHは6であった。
一方、比較例1で得られた比較試験片の表面に配置されたpH試験紙は緑色を示し、pHは7であった。
これらの結果から、実施例1で得られた試験片の表面には酸性成分が存在していることが明らかとなった。
【0079】
<抗菌性試験>
JIS Z 2801:2012に準拠して抗菌性試験を行った。
供試菌として、以下に示す黄色ブドウ球菌及び大腸菌を用いた。
・黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus (ATCC12732)。
・大腸菌:Escherichia coli (ATCC3972)。
供試菌を普通寒天培地に移植し、35℃で24時間培養した。培養により生成した、菌の集落3~5個を1/500濃度の普通ブイヨン培地2mLに均一に分散させ、そのうち100μLを1/500濃度の普通ブイヨン培地10mLに均一に分散させたものを試験菌液とした。
【0080】
試験片の表面、すなわち樹脂層の第一の面に、試験菌液300μLを滴下し、その上からアクリルフィルム(40mm×40mm)を被せ、試験菌液が全体に行き渡るように押さえつけた。
試験片を温度35℃、相対湿度90%以上で24時間静置した。24時間静置後の試験片を滅菌ストマッカー袋に入れ、これにSCDLPブイヨン培地10mLを加え、菌液を十分に洗い出して試料とした。試料1mLを、標準寒天培地を用いて35℃で48時間培養した後、生菌数を測定し、洗液中の生菌数で抗菌性を評価した。
なお、試験片は3枚作製して、全ての試験片について抗菌性試験を行い、生菌数の平均値を求めた。結果を図5及び図6に示す。図5及び図6における縦軸は常用対数目盛である。
【0081】
別途、比較試験片の表面、すなわち樹脂層の第一の面に、試験菌液300μLを滴下し、その上からポリエチレンテレフタレート板(40mm×40mm)を被せ、試験菌液が全体に行き渡るように押さえつけた。
比較試験片の1つは、その直後に生菌数を測定した(比較試験片(初発))。
比較試験片の別の1つは、温度35℃、相対湿度95%で24時間静置した。24時間静置後の比較試験片を滅菌ストマッカー袋に入れ、これにSCDLPブイヨン培地10mLを加え、菌液を十分に洗い出して試料とした。試料1mLを、標準寒天培地を用いて35℃で48時間培養した後、生菌数を測定し、洗液中の生菌数で抗菌性を評価した(比較試験片(24時間後))。
なお、比較試験片は6枚作製して、3枚ずつに分け、全ての比較試験片について抗菌性試験を行い、生菌数の平均値を求めた。結果を図5及び図6に示す。
【0082】
図5に示す結果より、比較例1で得られた比較試験片は抗菌性を有していないが、実施例2で得られた試験片は高い抗菌性を有していることが明らかとなった。
【0083】
図6に示す結果より、比較例1で得られた比較試験片は抗菌性を有していないが、実施例3及び実施例4で得られた試験片は高い抗菌性を有していることが明らかとなった。
【0084】
<抗ウイルス性試験1>
ISO 21702:2019に準拠して抗ウイルス性試験を行った。
試験ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H1N1)A/PR/8/34 ATCC VR-1469を用いた。
細胞培養後のウイルス培養液を遠心分離して得られた上澄み液を精製水で10倍希釈してウイルス液を作製した。
試験片及び比較試験片を3cm×3cmに切断し、70体積%エタノール水に浸漬した後に風乾し、試験片及び比較試験片の表面、すなわち樹脂層の第一の面にウイルス液0.1mLを滴下し、室温(20℃)下で所定の時間保存した。
保存の開始から1時間後、6時間後、及び24時間経過した後、それぞれ試験片及び比較試験片を細胞維持培地2mLで洗い出し、TCID50法で感染価を測定した。結果を図7に示す。図7における縦軸は常用対数目盛である。
【0085】
図7に示す結果より、比較例1で得られた比較試験片は抗ウイルス性を有していないが、実施例1で得られた試験片は高い抗ウイルス性を有していることが明らかとなった。
【0086】
<抗ウイルス性試験2>
A型インフルエンザウイルスと同じエンベロープ型である新型コロナデルタ株ウイルス液、及びノンエンベロープ型であるカリシウイルス液を各々滅菌ミリQ水で10倍に希釈した。希釈したウイルス液150μLを試験片の上に垂らし、25mm角のアクリルフィルムでカバーした。25℃、湿潤状態で24時間静置した。1.35mLの培地液でウイルス液を各々回収し、プラーク法により感染価を測定した。結果を図8に示す。
【0087】
図8に示す結果より、比較例1で得られた比較試験片は抗ウイルス性を有していないが、実施例5で得られた試験片は新型コロナデルタ株ウイルスに対しても、ネコカリシウイルスに対しても高い抗ウイルス性を有していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の樹脂フィルムは、優れた抗微生物活性を有するので、食品包装用フィルムとして用いた場合に、微生物による食品の変敗を長期に渡って抑制できる。そのため、廃棄する食品が減少し、フードロスを大きく減少させることができる。また、本発明の樹脂フィルムは抗菌性、抗ウイルス性を有していることから、病院や学校等の建材としても有用である。
【符号の説明】
【0089】
10 樹脂フィルム
10a 表面
10b 裏面
11 樹脂層
11a 第一の面
11b 第二の面
12 薬剤層
12a 第一の面
12b 第二の面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8