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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】介護用椅子
(51)【国際特許分類】
   A61H 33/00 20060101AFI20240709BHJP
   A47C 7/42 20060101ALI20240709BHJP
   A47C 7/48 20060101ALI20240709BHJP
   A47K 3/12 20060101ALI20240709BHJP
   A61G 5/14 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61H33/00 310Z
A47C7/42
A47C7/48
A47K3/12
A61G5/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019098905
(22)【出願日】2019-05-27
(65)【公開番号】P2020192039
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100161230
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雅博
(72)【発明者】
【氏名】李 剛
(72)【発明者】
【氏名】土井 健史
(72)【発明者】
【氏名】青山 智行
(72)【発明者】
【氏名】岩本 楓
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】中屋 裕一郎
【審判官】鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-267293(JP,A)
【文献】特開2003-169836(JP,A)
【文献】特開2003-47535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/00 - 37/00
A61G 1/00 - 7/16
A47C 7/00 - 7/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が座る座部と、
その座部に座る使用者が背もたれとして用いる横長の背もたれクッションと、
その背もたれクッションの裏面側に設けられ前記背もたれクッションを支持する背もたれ支持部と、を備え、
前記背もたれクッションの表面には、前記背もたれクッションの長手方向の中央部に形成され前記使用者の背中を当てるための背当て面が含まれており、
前記背当て面は、前記背もたれクッションの裏面に対して前後方向に傾斜した傾斜面とされており、
前記背もたれクッションは、第1向きと、その第1向きに対して上下逆向きとされた第2向きとのそれぞれの向きで前記背もたれ支持部に着脱可能に取り付けられるようになっており、
前記背当て面は、前記背もたれクッションが前記第2向きとされている場合には前記第1向きとされている場合よりも後方へ大きく傾斜されるよう形成されており、
前記背当て面は、前記背もたれクッションが前記第1向きとされている場合には前記背もたれクッションの下部に位置し、前記背もたれクッションが前記第2向きとされている場合には前記背もたれクッションの上部に位置するよう形成されている、介護用椅子。
【請求項2】
前記背当て面は、その上下方向の長さが前記背もたれクッションの上下方向の長さの半分以上となっている、請求項1に記載の介護用椅子。
【請求項3】
前記背もたれクッションの前記表面は、その表面の外縁により囲まれる内側領域の全域に亘って形成されている、請求項1又は2に記載の介護用椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高齢者や要介護者等が浴室で腰掛ける際に使用する浴室用の椅子が知られている。浴室用椅子は、使用者が座る座部と、使用者の背中を受ける背もたれ部とを備える。例えば特許文献1には、背もたれ部が、基板と、その基板の前面側に着脱可能に取り付けられた背もたれクッションとを備える構成が開示されている。この特許文献1の構成では、背もたれクッションの裏面に突部が設けられ、その突部が基板に形成された孔部に嵌め込まれることにより、背もたれクッションが基板に着脱可能に取り付けられている。
【0003】
背もたれ部では、その背もたれクッションに使用者の背中を受ける背当て面が設けられている。背当て面は略鉛直方向に延びるように形成され、これにより、座部に座る使用者が座部から立ち上がる際、上下方向の重心移動がし易くなっている。そのため、使用者の立ち上がり動作がし易くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-47535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、浴室用椅子を使用する使用者が、自ら立ち上がることができない状態である場合には、その使用者を浴室用椅子から別の場所へ移乗する必要が生じうる。その場合、その移乗作業をし易くするために、使用者の背中を後方に深く倒して使用者の足を上げ易くするのが望ましい。
【0006】
しかしながら、浴室用椅子では、上述したように、背もたれ部の背当て面が略鉛直方向に延びているため、使用者の背中を後方に深く倒すことが難しいと考えられる。このため、使用者の移乗作業を行うのが困難であると考えられる。
【0007】
なお、こうした問題は、浴室用椅子に限った問題ではなく、ポータブルトイレ等、背もたれを有する介護用椅子全般において生じうる問題である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、座部に座る使用者を別の場所へ移乗する移乗作業を容易に行うことができる介護用椅子を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、第1の発明の介護用椅子は、使用者が座る座部と、その座部に座る使用者が背もたれとして用いる横長の背もたれクッションと、その背もたれクッションの裏面側に設けられ前記背もたれクッションを支持する背もたれ支持部と、を備え、前記背もたれクッションの表面には、前記背もたれクッションの長手方向の中央部に形成され前記使用者の背中を当てるための背当て面が含まれており、前記背当て面は、前記背もたれクッションの裏面に対して前後方向に傾斜した傾斜面とされており、前記背もたれクッションは、第1向きと、その第1向きに対して上下逆向きとされた第2向きとのそれぞれの向きで前記背もたれ支持部に着脱可能に取り付けられるようになっており、前記背当て面は、前記背もたれクッションが前記第2向きとされている場合には前記第1向きとされている場合よりも後方へ大きく傾斜されるよう形成されている、ことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、背もたれクッションの表面に、背もたれクッションの長手方向の中央部に形成された背当て面が含まれており、その背当て面が背もたれクッションの裏面に対して前後方向に傾斜した傾斜面とされている。また、背もたれクッションは上下に互いに逆向きとなる第1向き及び第2向きのそれぞれの向きで背もたれ支持部に着脱可能に取り付けられるようになっている。そして、背もたれクッションが第2向きで取り付けられる場合には第1向きで取り付けられる場合よりも背当て面が後方へ大きく傾斜されるようになっている。
【0011】
かかる構成では、背もたれクッションを第1向きで取り付けることにより、背当て面の後方への傾斜を小さくすることができる。又は、背当て面を鉛直向きとすることができる。この場合、使用者が座部から立ち上がる際の上下方向の重心移動をし易くすることができるため、使用者の立ち上がり動作をし易くすることができる。また、背もたれクッションを第2向きで取り付けることにより、背当て面の後方への傾斜を大きくすることができる。この場合、使用者の背中を後方に深く倒すことができるため、使用者を座部から別の場所へ移乗する際使用者の足を上げ易く、その移乗作業を容易に行うことができる。
【0012】
ところで、介護用椅子に、背もたれ部の傾斜角度を変更可能とする傾き変更機構を設け、その傾き変更機構により背もたれクッションの背当て面の後方への傾斜角度を大小変更させる構成も考えられる。その場合にも、上述した第1の発明の効果と同様の効果を得ることが可能となる。ただし、この場合、傾き変更機構を設けることで介護用椅子の構成が著しく複雑になることが考えられる。その点、背もたれクッションを上下反転させて取り付けることで背当て面の後方への傾斜を大小変更させるようにした上記第1の発明によれば、介護用椅子の構成が複雑になるのを抑制しながら、上述した効果を得ることが可能となる。
【0013】
第2の発明の介護用椅子は、第1の発明において、前記背当て面は、その上下方向の長さが前記背もたれクッションの上下方向の長さの半分以上となっている、ことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、背当て面を広く確保することができるため、使用者の立ち座りの際や移乗の際に背当て面により使用者の背中を好適に支えることができる。
【0015】
第3の発明の介護用椅子は、第1又は第2の発明において、前記背当て面は、前記背もたれクッションが前記第1向きとされている場合には前記背もたれクッションの下部に位置し、前記背もたれクッションが前記第2向きとされている場合には前記背もたれクッションの上部に位置するよう形成されている、ことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、背もたれクッションが第1向きとされている場合には背当て面が下部に位置する。この場合、使用者の腰高さにおいて後方への傾斜が小さくされた背当て面を位置させることができる。このため、座部からの立ち上がり動作をよりし易くすることができる。一方、背もたれクッションが第2向きとされている場合には背当て面が上部に位置する。この場合、使用者の背中の上側部分に後方への傾斜が大きくされた背当て面を位置させることができる。そのため、使用者の背中を後方へより倒し易くすることができる。
【0017】
第4の発明の介護用椅子は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記背もたれクッションの前記表面は、その表面の外縁により囲まれる内側領域の全域に亘って形成されている、ことを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、背もたれクッションに貫通孔が形成されておらず、そのため背もたれクッションにおいて使用者の背中と向き合う表面を広く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】浴室用椅子を斜め前方から見た斜視図。
図2】浴室用椅子を斜め後方から見た斜視図。
図3】浴室用椅子を示す平面図。
図4】背もたれクッションを取り外した状態で浴室用椅子を斜め前方から見た斜視図。
図5】(a)が背もたれクッションを斜め前方から見た斜視図であり、(b)が背もたれクッションを斜め後方から見た斜視図である。
図6】浴室用椅子を示す正面図であり、(a)が背もたれクッションが第1向きとされている状態を示し、(b)が背もたれクッションが第2向きとされている状態を示している。
図7】背もたれ部の構成を示す縦断面図であり、(a)が背もたれクッションが第1向きとされている状態を示し、(b)が背もたれクッションが第2向きとされている状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、本発明の介護用椅子を、浴室で用いられる浴室用椅子として具体化している。図1は浴室用椅子を斜め前方から見た斜視図である。図2は浴室用椅子を斜め後方から見た斜視図である。図3は、浴室用椅子を示す平面図である。以下の説明では、使用者が浴室用椅子に座った状態を基準として、前後左右をいうものとする。
【0021】
図1図3に示すように、浴室用椅子10は、脚フレーム11と、その脚フレーム11に取り付けられた座部12及び背もたれ部13とを備える。脚フレーム11は、前脚フレーム15と後脚フレーム16とを有している。これら各脚フレーム15,16は金属製のパイプ材により形成されている。
【0022】
前脚フレーム15は、左右一対の前脚部17と、それら各前脚部17を連結して設けられる背もたれフレーム18とを有している。各前脚部17は、上方に向かうにつれ後方に傾斜するように延びており、その下端部には樹脂製のキャップ19が取り付けられている。
【0023】
背もたれフレーム18は、背もたれ部13が取り付けられる部分であり、座部12よりも上方に延在させて設けられている。背もたれフレーム18は、各前脚部17からそれぞれ上方に延びる一対の縦フレーム部21と、それら各縦フレーム部21の上端部をつなぐ横フレーム部22とを有している。各縦フレーム部21は、各前脚部17からそれぞれ上向きに後方傾斜して延びており、横フレーム部22は、左右方向に水平に延びている。なお、背もたれフレーム18と各前脚部17とはパイプ材により一体形成されている。
【0024】
後脚フレーム16は、左右一対の後脚部23を有している。各後脚部23は、上方に向かうにつれ前方に傾斜するように延びており、その下端部には樹脂製のキャップ24が取り付けられている。
【0025】
なお、図示は省略するが、前脚フレーム15と後脚フレーム16とは互いに回動可能に連結され、その回動により、互いの下部同士が離間する開脚状態と、互いの下部同士が接近する閉脚状態とに移行可能となっている。
【0026】
座部12は、樹脂材料により形成された板状の座部本体27と、その座部本体27の上に取り付けられた座部クッション28とを備える。座部本体27は、脚フレーム11に取り付けられている。また、座部クッション28は、防水性を有するクッション材料により形成され、その上面が座面となっている。なお、図示は省略するが、座部12は折り畳み可能とされている。
【0027】
背もたれ部13は、前脚フレーム15の背もたれフレーム18に取り付けられている。背もたれ部13は、座部12から上方に離間した位置に設けられ、背もたれフレーム18の横フレーム部22に取り付けられている。また、背もたれフレーム18には、背もたれ部13の他に、左右一対の肘掛け部29が取り付けられている。各肘掛け部29は、背もたれフレーム18の各縦フレーム部21にそれぞれ取り付けられている。
【0028】
続いて、背もたれ部13の構成について図1図3に加え、図4及び図5を用いながら説明する。図4は、背もたれクッション32を取り外した状態で浴室用椅子10を斜め前方から見た斜視図である。図5は、(a)が背もたれクッション32を斜め前方から見た斜視図であり、(b)が背もたれクッション32を斜め後方から見た斜視図である。
【0029】
図1図5に示すように、背もたれ部13は、樹脂材料により形成された板状の背もたれ支持部31と、その背もたれ支持部31の前面側に取り付けられた板状の背もたれクッション32とを備える。背もたれ支持部31と背もたれクッション32とは前後に重ね合わせられた状態で設けられている。背もたれ支持部31と背もたれクッション32とはいずれも左右方向に長い横長形状とされ、詳しくは左右方向に長い小判形の形状とされている。また、より詳しくは、背もたれ支持部31と背もたれクッション32とは、後方に凸となる緩やかな円弧状をなしている。
【0030】
背もたれ支持部31と背もたれクッション32とは正面視において(換言するとそれら両者31,32の重なる方向から見て)互いの外縁形状が略同じであってかつ略同じ大きさとなっている。また、背もたれ支持部31と背もたれクッション32とは正面視において互いの外縁形状が上下対称となる形状となっている。
【0031】
背もたれ支持部31は、背もたれフレーム18の横フレーム部22に取り付けられている。背もたれ支持部31は、横フレーム部22の前方に配置され、その配置状態で横フレーム部22に取付金具34を用いて取り付けられている。この取付状態において、背もたれ支持部31は、後方に傾斜した状態で配置されている。
【0032】
背もたれクッション32は、防水性を有するクッション材料により形成されている。背もたれクッション32は、表面41と裏面42とを有している。背もたれクッション32は、その裏面42を背もたれ支持部31の表面31a(前面)に対向させた状態で、詳しくはその裏面42を背もたれ支持部31の表面31aに当接させた状態で配置されている。この場合、背もたれ支持部31の表面31aは背もたれクッション32を受けるクッション受け面となっている。また、背もたれクッション32の裏面42と背もたれ支持部31の表面31aとはともに上下に向けて同じ方向に延びる面となっており、詳しくはともに後方に傾斜した傾斜面となっている。
【0033】
背もたれクッション32には、その厚み方向に貫通する孔部が設けられていない。換言すると、背もたれクッション32には、表面41にて開口する孔部が一切設けられていない。そのため、背もたれクッション32の表面41は、その表面41の外縁により囲まれる内側領域の全域に亘って形成されている。また、背もたれクッション32は、左右方向に対称となる形状を有している。
【0034】
背もたれクッション32の表面41は、第1面41aと第2面41bとを含んで形成されている。第1面41aは、背もたれクッション32の長手方向の中央部に形成され、使用者の背中が当たる背当て面となっている。第1面41aは、背もたれクッション32の短手方向(換言すると上下方向)の一方側に形成されている。また、第1面41aは、表面41における上記一方側の端部を含んで形成されている。また、第1面41aは、上下方向の長さが背もたれクッション32の上下方向の長さの半分以上となっている。
【0035】
第2面41bは、背もたれクッション32の表面41のうち第1面41a以外の面となっており、第1面41aと連続して形成されている。第2面41bは、概ね背もたれクッション32の裏面42と同じ方向に上下に延びる面となっている。このため、背もたれクッション32において第2面41bが形成されている範囲ではその厚みが概ね同じとされている。また、背もたれクッション32の長手方向の中央部においては、第2面41bが第1面41aと上下に並んでおり、それら上下に並ぶ各面41,42が互いに連続している(図7等も参照)。
【0036】
第1面41aは、背もたれクッション32の裏面42に対して前後方向に傾斜した傾斜面とされている。第1面41aは、上下方向において第2面41bとの境界部43から第2面41bとは反対側の端部に向けて裏面42側に近づくように傾斜している(図7等も参照)。これにより、背もたれクッション32において第1面41aが形成されている範囲では、その厚みが上記端部に向けて徐々に小さくなっている。したがって、背もたれクッション32の厚みは上記端部において最小となっている。
【0037】
また、第1面41aは第2面41bに対して前後方向に傾斜した面となっている。このため、第1面41aと第2面41bとの境界部43では、これら各面41a,41bにより裏面42とは反対側に凸となる凸部が形成されている。なお、第1面41aと第2面41bとの境界部43は、背もたれクッション32の正面視にて、上下方向における第2面41b側に凸となる略円弧状に延びている(図6参照)。
【0038】
背もたれクッション32は、背もたれ支持部31に着脱可能に取り付けられている。背もたれクッション32の裏面42には、背もたれ支持部31側に突出する複数(具体的には2つ)の突部36が設けられている。各突部36は円柱状をなしており、左右方向に互いに離間して配置されている。また、各突部36は、背もたれクッション32の長手方向の中央部を基準として左右対称となる位置に配置されている。また、各突部36は、背もたれクッション32における短手方向(換言すると上下方向)の中央部に配置されている。
【0039】
一方、背もたれ支持部31には、背もたれクッション32の各突部36が嵌め込まれる複数(具体的には2つ)の孔部37が設けられている。これらの孔部37は円形状をなしており、背もたれ支持部31を厚み方向に貫通している。なお、これらの孔部37は背もたれ支持部31の表面31aにおいて開口する有底の孔部であってもよい。
【0040】
背もたれクッション32は、各突部36がそれぞれ背もたれ支持部31の各孔部37に前方から嵌め込まれることにより、背もたれ支持部31に着脱可能に取り付けられている。これにより、本浴室用椅子10では、背もたれクッション32を背もたれ支持部31から取り外して洗浄等することが可能となっている。
【0041】
ここで、本浴室用椅子10では、背もたれクッション32を上下に反転させて背もたれ支持部31に取り付けることが可能となっている。すなわち、背もたれクッション32を、第1向きとその第1向きに対して上下逆向きとされた第2向きとのそれぞれの向きで背もたれ支持部31に着脱可能に取り付けることが可能となっている。そこで、以下では、それら各向きで背もたれクッション32を背もたれ支持部31に取り付けた場合の構成について図6及び図7を参照しながら説明する。図6は浴室用椅子10を示す正面図であり、(a)が背もたれクッション32が第1向きとされている状態を示し、(b)が背もたれクッション32が第2向きとされている状態を示している。また、図7は背もたれ部13の構成を示す縦断面図であり、(a)が背もたれクッション32が第1向きとされている状態を示し、(b)が背もたれクッション32が第2向きとされている状態を示している。なお、図7(a)は図6(a)のA-A線断面図に相当し、図7(b)は図6(b)のB-B線断面図に相当する。
【0042】
まず、背もたれクッション32が第1向きで背もたれ支持部31に取り付けられる場合について図6(a)及び図7(a)に基づき説明する。
【0043】
図6(a)及び図7(a)に示すように、背もたれクッション32が背もたれ支持部31に第1向きで取り付けられる場合には、第1面41aが背もたれクッション32の下部に位置する。具体的には、この場合、背もたれクッション32の長手方向の中央部では、背もたれクッション32の下側に第1面41aが位置し、背もたれクッション32の上側に第2面41bが位置する。
【0044】
背もたれクッション32が第1向きとされている場合には、第1面41aが後方に若干傾斜した傾斜面とされる。詳しくは、第1面41aは上方に向けて後方に傾斜する傾斜面とされる。また、この場合、第2面41bも、第1面41aと同様、後方に傾斜した傾斜面とされる。第2面41bの後方への傾斜(傾斜角度)は第1面41aの後方への傾斜よりも大きくされる。
【0045】
続いて、背もたれクッション32が第2向きで背もたれ支持部31に取り付けられる場合について図6(b)及び図7(b)に基づき説明する。
【0046】
図6(b)及び図7(b)に示すように、背もたれクッション32が背もたれ支持部31に第2向きで取り付けられる場合には、第1面41aが背もたれクッション32の上部に位置する。具体的には、この場合、背もたれクッション32の長手方向の中央部では、背もたれクッション32の上側に第1面41aが位置し、背もたれクッション32の下側に第2面41bが位置する。
【0047】
背もたれクッション32が第2向きとされている場合には、第1面41aが後方に傾斜した傾斜面とされる。この場合、第1面41aの後方への傾斜(傾斜角度)は、背もたれクッション32が第1向きとされている場合における第1面41aの後方への傾斜(傾斜角度)よりも大きくされる。また、この場合、第2面41bも、第1面41aと同様、後方に傾斜した傾斜面とされる。第2面41bの後方への傾斜(傾斜角度)は第1面41aの後方への傾斜よりも小さくされる。
【0048】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0049】
背もたれクッション32の長手方向の中央部に、使用者の背中を当てる背当て面を第1面41aとして設け、その第1面41aを背もたれクッション32の裏面42に対して前後方向に傾斜する傾斜面とした。また、背もたれクッション32を上下に互いに逆向きとなる第1向き及び第2向きのそれぞれの向きで背もたれ支持部31に着脱可能に取り付けられるようにした。そして、背もたれクッション32が第2向きで取り付けられる場合には第1向きで取り付けられる場合よりも第1面41aが後方へ大きく傾斜されるようにした。
【0050】
このような構成では、背もたれクッション32を第1向きで取り付けることにより、第1面41aの後方への傾斜を小さくすることができる。この場合、使用者が座部12から立ち上がる際の上下方向の重心移動をし易くすることができるため、使用者の立ち上がり動作をし易くすることができる。また、背もたれクッション32を第2向きで取り付けることにより、第1面41aの後方への傾斜を大きくすることができる。この場合、使用者の背中を後方に深く倒すことができるため、使用者を座部12から別の場所へ移乗する際使用者の足を上げ易く、その移乗作業を容易に行うことができる。
【0051】
第1面41aの上下方向の長さを背もたれクッション32の上下方向の長さの半分以上とした。この場合、背当て面となる第1面41aを広く確保することができるため、使用者の立ち座りの際や移乗の際に第1面41aにより使用者の背中を好適に支えることができる。
【0052】
背もたれクッション32が第1向きとされている場合には第1面41aが背もたれクッション32の下部に位置し、背もたれクッション32が第2向きとされている場合には第1面41aが背もたれクッション32の上部に位置するようにした。かかる構成では、背もたれクッション32が第1向きとされている場合には、使用者の腰高さにおいて後方への傾斜が小さくされた第1面41a(背当て面)を位置させることができる。このため、座部12からの立ち上がり動作をよりし易くすることができる。その一方、背もたれクッション32が第2向きとされている場合には、使用者の背中の上側部分に後方への傾斜が大きくされた第1面41a(背当て面)を位置させることができる。そのため、使用者の背中を後方へより倒し易くすることができる。
【0053】
背もたれクッション32の表面41を、その表面41の外縁により囲まれる内側領域の全域に亘って形成した。この場合、背もたれクッション32に貫通孔が形成されていない状態とされているため、背もたれクッション32において使用者の背中と対向する表面41を広く確保することができる。
【0054】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、第1面41aを背もたれクッション32の上下方向の一部にのみ形成したが、第1面41aを背もたれクッション32の上下方向の全域に亘って形成するようにしてもよい。
【0056】
・上記実施形態では、背もたれクッション32が第1向きとされている場合には第1面41aが後方に若干傾斜した状態とされていたが、背もたれクッション32が第1向きとされている場合に第1面41aが後方に傾斜せず略鉛直の向きで延びるように配置されるようにしてもよい。この場合にも、背もたれクッション32が第1向きとされている場合には、使用者が座部12から立ち上がる際の上下方向の重心移動をし易くすることができるため、その立ち上がり動作をし易くすることができる。なお、この場合にも、上記実施形態と同様、背もたれクッション32が第2向きとされている場合には第1向きとされている場合よりも後方に大きく傾斜されるようにする。
【0057】
・上記実施形態では、背もたれクッション32に突部36を設け、背もたれ支持部31に孔部37を設けたが、これを逆にして、背もたれ支持部31に突部を設け、背もたれクッション32に孔部を設けてもよい。すなわち、背もたれ支持部31の表面31aに背もたれクッション32側に突出する突部を設け、背もたれクッション32にその突部が嵌め込まれる孔部を設けてもよい。この場合、背もたれクッション32の孔部に背もたれ支持部31の突部を嵌め込むことで、背もたれクッション32を背もたれ支持部31に着脱可能に取り付けることができる。なお、この場合には、背もたれクッション32の孔部を裏面42においてのみ開口する有底の孔部とするのが望ましい。
【0058】
・上記実施形態では、突部36と孔部37との嵌め込みにより、背もたれクッション32を背もたれ支持部31に着脱可能に取り付けるようにしたが、背もたれクッション32を背もたれ支持部31に着脱可能に取り付ける構成は必ずしもこれに限らない。例えば、背もたれクッション32と背もたれ支持部31との対向部分に面ファスナを設け、その面ファスナを用いて背もたれクッション32を背もたれ支持部31に着脱可能に取り付けるようにしてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、本発明の背もたれ構造を浴室用椅子10に適用した場合について説明したが、本発明の背もたれ構造は背もたれ部を有する介護用椅子全般に適用することが可能である。こうした介護用椅子としては、浴室用椅子の他に、例えば高齢者や要介護者等が排泄する際に利用するポータブルトイレが挙げられる。ポータブルトイレには、座部と、背もたれ部とを備えているものがある。こうしたポータブルトイレを使用する使用者が自ら立ち上がることができない場合には、やはり使用者を別の場所へ移乗させる作業が発生することになる。そのため、こうしたポータブルトイレに、本発明の背もたれ構造を適用すれば、使用者の移乗作業を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0060】
10…浴室用椅子、11…脚フレーム、12…座部、13…背もたれ部、31…背もたれ支持部、32…背もたれクッション、41…表面、41a…第1面、41b…第2面。
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図7