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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】塗工液
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/14 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
B01D39/14 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019179795
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2020082075
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2018215988
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 博道
(72)【発明者】
【氏名】小倉 慎一
(72)【発明者】
【氏名】篠田 賢
(72)【発明者】
【氏名】星 徹
【審査官】壷内 信吾
【協議】
この出願については、下記の出願人と特許法第39条の規定による協議が成立した。
協議により定めた1の特許出願人以外の出願人
【出願人】
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
上記の出願人の出願に係る発明の発明者
【発明者】
【氏名】松本 博道
【発明者】
【氏名】小倉 慎一
【発明者】
【氏名】篠田 賢
【発明者】
【氏名】星 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-082072(JP,A)
【文献】特表2008-535649(JP,A)
【文献】特開2008-272692(JP,A)
【文献】特開2003-126627(JP,A)
【文献】特開2004-202326(JP,A)
【文献】特表2015-520109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
B01F 17/00-17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、アルミナ又はヘマタイトの微粒子からなる粉粒体、ドーパミン塩酸塩、及び接着剤を含む集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液。
【請求項2】
粉粒体が球形シリカである請求項1記載の集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液。
【請求項3】
粉粒体の平均粒子径(D50値)が0.1~30.0μmである、請求項1又は2に記載の集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液。
【請求項4】
緩衝液にシリカ、アルミナ又はヘマタイトの微粒子および接着剤を投入し、攪拌し(均一にし)た後、ドーパミン塩酸塩を添加することを含む、集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集塵フィルターなどの材料として有用な、各種微粒子を主成分とした塗工液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている集塵フィルターのフィルタエレメントは、樹脂焼結体からなるラメラー構造を有するフィルタエレメント素材と、樹脂微粒子からなる粉塵捕集層とから構成される。また、フィルタエレメントの仕様によっては、導電性を呈するカーボン層を追加して構成することがある。
【0003】
特許文献1,2には、フィルタエレメント素材を、合成樹脂粉末を焼結して得る方法が記載され、これ等の方法で得られた合成樹脂の焼結体を構成する個々の合成樹脂の粒子の間には、空気の通過が可能な空隙が形成されている。
【0004】
集塵のフィルタエレメントの粉塵捕集層は、粉塵捕集層として使用する樹脂微粒子を水系の溶媒に懸濁させて、粉塵捕集層として使用する樹脂微粒子を含有した塗工液を調製し、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に、前記塗工液を塗布後、乾燥することにより、粉塵捕集層を形成する。
【0005】
また、帯電防止仕様のフィルタエレメントは、導電性を呈するカーボン粉を水系の溶媒に懸濁させて、導電性を呈するカーボン粉を含有する塗工液を調製し、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に前記カーボン塗工液を塗布後、乾燥することにより、導電性を呈するカーボン層を形成し、その後、粉塵捕集層として使用する樹脂微粒子を含有した塗工液を塗布後、乾燥することにより、粉塵捕集層を形成し、製造される。
【0006】
前記フィルタエレメントの粉塵捕集層として使用する樹脂の微粒子は、集塵フィルターを用いて捕集する粉塵の性質および粒子径に応じて、樹脂の材質および粒子径を選択する。粉塵捕集層として使用する樹脂の材質としては、PE、PTFEなどから選択し、樹脂の粒子径は、1~100μmの範囲から選択するのが普通である。
【0007】
粉塵捕集層は、該捕集層に使用する樹脂の微粒子を個々に積層して形成し、該捕集層を構成する個々の樹脂微粒子の間には、空気の通過が可能な空隙を有する構造を成し、捕集対象粒子を含有する含塵空気の塵分は、粉塵捕集層で捕捉され、前記粉塵捕集層によって塵分が捕集された後の清浄空気は、前記捕集層に形成された空気の通過が可能な空隙を通過して、更にフィルタエレメント素材の空隙を通過して前記フィルタエレメントの内側に流れ込む。
【0008】
このようにして製造された集塵フィルターのフィルタエレメントは、長期間に亘って連続使用が可能な集塵フィルタエレメントとして、国内外の鉱山、砕石所、製鉄所等に於ける発塵箇所の環境集塵手段として広く採用されてきたが、近年では電子写真プリントシステムによる印字用途等の微粉末製品の回収用途にも採用されるようになった。
【0009】
近年、電子写真プリントシステムに於いては、描画の高画質化が進み、高級印刷分野に於いてはフルカラー画質または銀塩写真に近い高画質品位が求められている。これに伴い、印字用途として使用される微粉体(トナー)の粒子径は、年代とともに小径化する傾向にあり、1990年頃に従来の混練粉砕法を用いて製造されていたトナーの平均粒子径が8~12μmであったのに対し、2000年以降はその製造方法がケミカル製法に移行し、平均粒子径も5~9μm が主流となっている(非特許文献1参照)。
【0010】
このような状況から、当該微粒子を製造する電子写真プリントシステム機器メーカーからは、小粒子径の微粉体製品の捕集に対応が可能な集塵フィルタエレメントが強く要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-126627号公報
【文献】特開2004-202326号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】テクニカルレポートNo.20(2011)「EA-Ecoトナー」富士ゼロックス社発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の要望を受け、樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に形成する粉塵捕集層に使用する樹脂微粒子の選定および前記樹脂微粒子を塗工する際の塗工液の調製方法について試行錯誤を重ね、フィルタエレメント素材の表面に樹脂微粒子の均一な層を形成し、微細な粒子の捕集に対応することが可能なエレメントの製作方法の開発を行った。
【0014】
しかしながら、従前の方法及び処方によって樹脂焼結体からなるフィルタエレメント素材の表面に対して形成された樹脂微粒子からなる粉塵捕集層は、該粉塵捕集層に鋭利な素材を接触させることで、容易にフィルタエレメント素材から剥離してしまうという本質的な問題があった。
【0015】
さらに、微細な粉塵の捕集をするため、捕集層に使用する粒子も微細化すると、塗工液内での分散性が損なわれ、均一の塗布が困難になるという問題も生じた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、微粒子の分散剤としてドーパミン塩酸塩を含む溶液を使用する事により、粉塵捕集層とフィルタエレメント素材との接合を強固とし、さらに、シリカ粉のように樹脂微粒子よりも分散性の優れた粒子を使用することにより、微粒子であっても分散性を確保すれば、上記問題を解決できることを見出した。
ドーパミンの重合体であるポリドーパミン(PDA)は、ムール貝などのイガイ科の貝の足糸腺から分泌される接着タンパク質であり、濡れた岩場であっても貝が荒波にはがされないほど強力に張り付く接着物質として知られている。
【0017】
さらに、本発明者らは、塗工液の調製に当たり、ドーパミン塩酸塩を緩衝液に添加し、これに球状シリカ等を投入してシェイクした塗工液よりも、予め緩衝液に球状シリカなどを投入し攪拌してから、ドーパミン塩酸塩を添加して塗工液を調製することによって、調製した塗工液中でドーパミンの重合度を制御することが可能となり、より良好な粉塵捕集層を得ることが出来ることも見出した。
すなわち、ドーパミン塩酸塩を緩衝液に添加してDOPA液を調製し、これに球状シリカ等を投入した場合は、予め調製したDOPA液中でドーパミン塩酸塩が自己重合して消費されてしまうことによって、塗工液中の成分にばらつきが生じてしまうのに対し、本方法によって塗工液を調製した場合は、ドーパミン塩酸塩が自己重合で消費されず、塗工液中の成分にばらつきが生じにくいため、良好な粉塵捕集層を得ることが出来るものである。
【0018】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次の通りのものである。
(1)有機微粒子又は無機微粒子からなる粉粒体、ドーパミン塩酸塩、接着剤を含む集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液。
(2)粉粒体が球形シリカである(1)記載の集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液。
(3)粉粒体の平均粒子径(D50値)が0.1~30μmである、(1)又は(2)に記載の集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液。
(4)緩衝液に無機微粒子および接着剤を投入し、攪拌して均一にした後、ドーパミン塩酸塩を添加することを含む、集塵フィルターの粉塵捕集層形成用の塗工液の製造方法。
【0019】
本発明の技術による粉塵捕集層として使用される微細粉粒体としては、有機微粒子、無機微粒子のいずれも使用できる。その粒子径は、0.1~100μmの範囲から選択が可能で、好ましくは平均粒子径が0.1~30μmである。ここで述べる平均粒子径とは、マイクロトラックおよびHELOS&RODOSなどに例示される粒度分布測定装置で測定した際のD50値を指す。
【0020】
また、上記微粒子に分散剤を添加し、塗工液として使用する場合には、塗り易くするため界面活性剤を添加することができる。
【0021】
前記塗工液に含有される微粒子として、分散性に優れたシリカ微粒子を用いた場合について、以下例示する。
シリカ微粒子の添加率は、塗工液の全成分に対して占める割合が1wt%~50wt%から選択することができる。より好ましくは、球状シリカを25wt%~35wt%、界面活性剤を0.1wt%~10.0wt%の範囲で添加する。
【0022】
塗工液に含有される球状シリカの量が1wt%未満の場合は、球状シリカが塗布によって形成される粉塵捕集層全体に行き渡らず、フィルタエレメント素材の気孔が十分に満たされず、また、50wt%を超える場合は、球状シリカが塊となり、フィルタエレメント素材表面に塗布する場合、均質に塗布することが困難になる。前記の範囲であれば、球状シリカ添加時に溶液の粘度が急速に上昇するものの、強撹拌することで一時的に液状になり、塗布するためにエレメント上に乗せる際には半固体様であるが、ブラシ等で伸ばすと液体様となり容易に塗布することができる。これはスプレーによる吹き付け塗布でも同様である。
【0023】
前記塗工液に界面活性剤を含有させる場合は、塗工液の全成分に対して占める割合を10wt%以下とすべきである。界面活性剤の量が10wt%を超えると塗工液がフィルタエレメント素材の表面で撥かれてしまい、塗布が困難となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の塗工液に含まれるドーパミン塩酸塩は、弱アルカリ条件下でドーパミンが自己重合し、ポリドーパミンとなって微粒子表面を被覆し、塗工液に配合される水溶性接着剤との相互作用によって、塗工液の塗布によりエレメント素材表面に形成された粉塵捕集層中の微粒子相互の接着性を発現させる。また、塗膜とエレメント素材との相互作用を高め、塗工液の塗布により形成された粉塵捕集層とエレメント素材との接合を強固とすることができるため、強度に優れたろ過エレメントを作製することができる。さらに、本発明の分散剤を含む塗工液は、固化後の強度にも優れているので、薄膜化すれば、微細空隙を有する自立性薄膜が得られる。
【0025】
また、本発明の塗工液を使用すれば、平均粒子径が4μm以下のシリカ微粒子を使用する場合に於いても、均一な粉塵捕集層を形成することが可能となる。この捕集層は捕集性能、強度および接着強度に優れ、耐水性を有しており、フィルタエレメント素材を構成する樹脂焼結体の気孔の大きさが大きな場合や塗布するエレメント素材が屈曲している場合でも塗工することが可能である。
【0026】
そして、前記の方法で調合した塗工液に使用するシリカ微粒子の含有量および粒子径を調整することによって、集塵捕集層に於ける気孔の大きさを調整することが可能である。
また、塗工液に含有される微粒子は、シリカ微粒子に限定される事はなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)等に例示される有機微粒子を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】クロスカット試験用多重歯カッターで切り込みを入れた、実施例1で作成したフィルタエレメント表面に形成した粉塵捕集層を撮影した写真
図2図1のカッターで切り込みを入れたフィルタエレメント表面に形成した粉塵捕集層の引き剥がし試験後のテープを撮影した写真
図3】実施例2のフィルタエレメントの集塵負荷確認試験に使用した集塵装置
図4図3の集塵装置を使用して実施した、1時間毎の圧力損失測定試験の結果を示すグラフ
図5】種々の微粒子を使用して調製した塗工液を塗布したサンプルの塗工面を撮影した写真
図6】実施例4および実施例5、比較例で調製した塗工液を用いて形成した、粉塵捕集層の鉛筆ひっかき強度試験の結果(画像)および粉塵負荷(侵入粉)確認試験の結果
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
本発明による、粉塵捕集層を形成するために使用する塗工液を調製する際の典型的な液組成を表1に示す。ここで、『DOPA液』は、ドーパミン塩酸塩0.2wt%、トリス塩基0.15wt%、残部水からなる水溶液である。
【0030】
【表1】
【0031】
粉塵捕集層として使用する微粒子として、平均粒子径が4μm以下の、球状シリカ、PTFE 微粒子を使用し、分散剤としてDOPA液を添加した塗工液とし、比較のために、DOPA液を添加しない塗工液を調製し、それぞれ樹脂焼結体からなるラメラー構造を有するフィルタエレメント素材に塗布後、乾燥することにより、フィルタエレメント表面に粉塵捕集層を形成した。
【0032】
このようにしてフィルタエレメント表面に形成した粉塵捕集層の付着強度を、JIS K 5600-5-6 を参考に以下の要領で測定した。
【0033】
<クロスカット試験方法>
(1)クロスカット試験用多重歯カッター(3mm 間隔、オールグッド社製)を用い、実施例1の方法によってフィルタエレメント表面に形成した粉塵捕集層に対し、90°の角度でクロスに6 本の切り込みを入れた状態で撮影した。撮影した写真を[図1]に示す。
(2)一定速度でセロハンテープ(市販品)を取り出して、約75mm の長さの小片にカットした。
(3)前記セロハンテープの中心をカット格子に平行な方向で置き、カット格子の部分と前後20mm を超える長さで、指でこれを平らにし、フィルタエレメント表面に形成した粉塵捕集層に密着させた。
(4)前記で密着させたセロハンテープは、5 分以内にフィルタエレメント表面に形成した粉塵捕集層から引き剥がす。この際、出来るだけフィルタエレメント表面に対して60°に近い角度でテープをつかみ、0.5~1.0 秒で確実に引きはがした。
(5)引き剥がした後のカット格子を並べて撮影した。撮影した写真を[図2]に示す。
(6)クリアファイルに貼り付け、テープを保存した。
【0034】
以上のようにして行った試験結果を、以下の表2に示す評価基準に従って評価した。テープによる引き剥がし試験の前後の塗工面の写真を図1に、引き剥がし試験に使用したテープの表面の写真を図2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
図1図2の結果から明らかなように、シリカ微粉末については、分散剤としてDOPA液を添加した例4は、DOPA液を含まない例3と比べ付着強度が著しく向上した。一方、PTFE微粉末については、DOPA液を添加したにも拘わらず強度は向上せず(例1、例2)、DOPA液を添加していないシリカ微粒子(例3)よりも劣っていた。これは、PTFE微粒子が撥水性、撥油性を示し、他の化合物との相互作用に乏しいことや、PTFEの溶解度パラメーターが他の高分子と比較して低く、相溶性に乏しいことが原因と考えられる。
【実施例2】
【0037】
市水100gに対し、トリス塩基を1.5g/Lとなるように添加して溶解した。次にドーパミン塩酸塩を2.0g/Lとなるように加えて溶解し、DOPA液を調製した。前記DOPA液59.8gを分取し、水溶性接着剤を10.0wt%、界面活性剤を0.2wt%加えて混合し、30分間静置した。
【0038】
静置後のDOPA液をポリ瓶に移し、球状シリカ(商品名:サンスフェアH-31 AGC社製)を30g添加し、30秒間振とうした。溶液の粘度が高くなるため、スパチュラを用いてフィルタエレメント素材の上に乗せ、刷毛で10往復塗布し、その後乾燥して粉塵捕集層を形成し、本発明の塗工液を塗布したフィルタエレメントを作製した。
【0039】
[比較例1]
平均粒子径が10μmのPTFE粒子を20.0wt%、水溶性接着剤を4.0wt%、消泡剤を0.3wt%、水を75.7wt%の割合で調合した。
以下は実施例2と同様の方法を用いて、比較例1のフィルタエレメントを作製した。
【0040】
<得られたフィルタエレメントの集塵評価>
前記で得られたフィルタエレメントを、図3に示す集塵装置に装着し、ろ過時における圧力損失と集塵層内への粉塵の侵入量を調べた。集塵装置は、2つの集塵シリンダ部1a、1bからなり、前記フィルタエレメント7は、2つのシリンダ部1a、1bの間に装着される。一方のシリンダ部1a内は、真空ポンプ5により吸引されて減圧するので、片方のシリンダ部1b内には、フィード口2より試験用含塵ガスが流入する。シリンダ部1aと真空ポンプ5を接続する吸引ラインには、フローメーター3、含塵濃度計4が備えられ、フィルタエレメント7で除塵された試験用含塵ガスに残留する含塵量とガスの流量を測定する。さらに所定時間の集塵処理により前記フィルタエレメント7内に侵入した粉体量を測定するための払い落とし装置8がシリンダ部1aに取り付けられ、フィルタエレメント7の圧力損失は差圧計6により測定される。
【0041】
実験集塵粉として、AGC社製の球状シリカ「サンスフェアH-31」(平均粒子径:3.7μm)をフィード口2から導入し、濾過風速6m/min.(処理風量30L/min)、粉塵フィード濃度10g/m3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、フィルタエレメントを通過して清浄空気側に侵入粉として抜ける粉体の量について評価を行った。
【0042】
フィルタエレメントには、集じん負荷確認試験終了後、前記払い落とし装置8により、80cmの高さの一定位置から8.3gの金属球を落とし、負荷試験によって前記フィルタエレメントの表面に付着した集塵粉を払い落とした後の重量を測定し、事前に量った重量との差を侵入粉とした。係る集塵負荷確認試験の結果を表3(集塵負荷(侵入粉)確認試験結果)示す。実施例2のシリカ微粒子のフィルタエレメントでは、5分間の集塵負荷確認試験で、ほとんど侵入粉は認められなかったのに対し、比較例1のPTFE粒子のフィルタエレメントでは、有意の侵入粉が認められた。これは、比較例1と比較して表面の平滑性が向上し、前記フィルタエレメントの表面に付着した集塵粉の払い落とし性が改善したことや、それに伴いフィルタエレメント素材に繋がる微粉の流路が減少したためと考えられる。以上の結果から、本発明による集塵層は、従来のものと比べ目詰まりし難いことがわかる。
【0043】
【表3】
【0044】
上記集塵負荷確認試験をさらに継続して5時間行い、1時間毎の圧力損失を測定した結果を図4に示す。このグラフから明らかなように、実施例2のシリカ微粒子のフィルタエレメントは、比較例1のPTFE粒子のフィルタエレメントと比べ、圧力損失の増加率が小さく、寿命が長いことがわかる。
【実施例3】
【0045】
種々の微粒子を使用して調製した塗工液を塗布したサンプルの塗工面を、写真機VHX-6000(キーエンス社製)で撮影し、その表面粗さSa、及び強度について観察した。
ここで、表面粗さSa(算術平均高さ)は、表面の平均面に対して各点の高さの差の絶対値の平均であり、具体的には、200倍の画像を5箇所撮影し、3D表示した画像から解析し、最大値と最小値を除いた平均値を採用した。
また塗工面の強度は、以下の基準で評価した。

×:指で触ると剥がれる
△:指に力を加えて触ると剥がれる
○:指で強く繰り返し擦らないと剥がれない
◎:指の力で剥がすことが困難
各サンプルの塗工液の組成を表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
図5に各サンプルの表面写真を示し、表5に各サンプルの測定結果を示す。
【0048】
【表5】
【0049】
表5の結果から明らかなように、塗工液に含有される微粒子(コート粉)として球状シリカを使用した例では、従来例(例5)と比べ表面が滑らかで、強度も向上した。特に、DOPA液を加え、接着剤を使用した例6では、強度が著しく向上した。
【0050】
また、コート粉としてアルミナを使用した例では、従来例(例5)と比べ強度が向上したが、エレメント素材の空隙に粒子が入り込みやすく、粉塵捕集層の表面にエレメント素材樹脂由来の凹凸が残りやすかった。さらに、他の無機粉粒体としてヘマタイトを使用したところ、やはり従来例(例5)と比較して強度が増加しており、DOPA液を添加することにより、種々の無機粉粒子及び有機微粒子を使用して強度の優れた粉塵捕集層を形成できることがわかった。
【実施例4】
【0051】
<球状シリカ分散後にドーパミン塩酸塩を添加して調製した塗工液の塗工例1>
表6の配合量によって球状シリカ「サンスフェアH-31」(平均粒子径:3.7μm)を分散させた均一なスラリーを得て、このスラリーにドーパミン塩酸塩を添加して、塗工液を調製した。
【表6】
前記で調製した塗工液をフィルタエレメント素材の上に乗せ、フィルタエレメント素材のラメラー構造凹凸に応じた形状のゴム製ヘラを用いて塗布し、その後乾燥して粉塵捕集層を形成し、本発明の塗工液を塗布したフィルタエレメントを作製した。
【0052】
<実施例4で得られたフィルタエレメントの集塵評価>
前記で得られたフィルタエレメントを、図3に示す集塵装置に装着し、ろ過時における集塵層内への粉塵の侵入量を調べた。
【0053】
実験集塵粉として、AGC社製の球状シリカ「サンスフェアH-31」(平均粒子径:3.7μm)をフィード口2から導入し、濾過風速6m/min.(処理風量30L/min)、粉塵フィード濃度10g/m3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、フィルタエレメントを通過して清浄空気側に侵入粉として抜ける粉体の量について評価を行った。
【0054】
係る集塵負荷確認試験の結果を表7(集塵負荷(侵入粉)確認試験結果)に示す。実施例4のシリカ微粒子のフィルタエレメントでは、5分間の集塵負荷確認試験で、ほとんど侵入粉は認められなかったのに対し、比較例1のPTFE粒子のフィルタエレメントでは、有意の侵入粉が認められた。これは、比較例1と比較して表面の平滑性が向上し、前記フィルタエレメントの表面に付着した集塵粉の払い落とし性が改善したことや、それに伴いフィルタエレメント素材に繋がる微粉の流路が減少したためと考えられる。以上の結果から、本発明による集塵層は、従来のものと比べ目詰まりし難いことがわかる。
【0055】
【表7】
【実施例5】
【0056】
<球状シリカ分散後にドーパミン塩酸塩を添加して調製した塗工液の塗工例2>
表8の配合量によって球状シリカ「サンスフェアH-31」(平均粒子径:3.7μm)を分散させた均一なスラリーを得て、このスラリーにドーパミン塩酸塩を添加して、塗工液を調製した。
【表8】
前記で調製した塗工液をフィルタエレメント素材の上に乗せ、フィルタエレメント素材のラメラー構造凹凸に応じた形状のゴム製ヘラを用いて塗布し、その後乾燥して粉塵捕集層を形成し、本発明の塗工液を塗布したフィルタエレメントを作製した。
【0057】
<実施例5で得られたフィルタエレメントの集塵評価>
前記で得られたフィルタエレメントを、図3に示す集塵装置に装着し、ろ過時における集塵層内への粉塵の侵入量を調べた。
【0058】
実験集塵粉として、日鉄鉱業井倉鉱業所製の「排煙脱硫用タンカル」(平均粒子径:12.0μm)をフィード口2から導入し、濾過風速6m/min.(処理風量30L/min)、粉塵フィード濃度10g/m3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、フィルタエレメントを通過して清浄空気側に侵入粉として抜ける粉体の量について評価を行った。
【0059】
係る集塵負荷確認試験の結果を表9(集塵負荷(侵入粉)確認試験結果)に示す。実施例5のシリカ微粒子のフィルタエレメントでは、5分間の集塵負荷確認試験で、ほとんど侵入粉は認められなかった。これは、比較例と比較して表面の平滑性が向上し、前記フィルタエレメントの表面に付着した集塵粉の払い落とし性が改善したことや、それに伴い捕集対象粉が侵入する気孔を著しく減少したためと考えられる。以上の結果から、本発明による集塵層は、従来のものと比べ目詰まりし難いことがわかる。
【0060】
【表9】
【実施例6】
【0061】
<平均粒子径が異なる球状シリカを分散後にドーパミン塩酸塩を添加して調製した塗工液の塗工例>
表10の配合量によって、市水に対しトリス塩基を添加して溶解し、この溶液に接着剤、予め混合した平均粒子径が異なる2種類の球状シリカ「サンスフェアH-31」(平均粒子径:3.7μm)および「サンスフェアH-201」(平均粒子径:23.1μm)を分散させた均一なスラリーを得て、このスラリーにドーパミン塩酸塩を添加して塗工液を調製した。この塗工液はチキソ性を呈した。
なお、2種類の球状シリカを混合後の平均粒子径は、23.07μmであった。平均粒子径は、レーザー回折式粒度測定装置の「HELOS(BR-multi)&RODOS」を使用して測定を行った。
【表10】
前記で調製した塗工液を充分に攪拌して粘度を低下させた上で、フィルタエレメント素材の上に乗せ、フィルタエレメント素材のラメラー構造凹凸に応じた形状のゴム製ヘラを用いて塗布し、その後乾燥して粉塵捕集層を形成し、本発明の塗工液を塗布したフィルタエレメントを作製した。
【0062】
<実施例6で得られたフィルタエレメントの集塵評価>
前記で得られたフィルタエレメントを、図3に示す集塵装置に装着し、ろ過時における集塵層内への粉塵の侵入量を調べた。
【0063】
実験集塵粉として、日鉄鉱業井倉鉱業所製の「排煙脱硫用タンカル」(平均粒子径:12.0μm)をフィード口2から導入し、濾過風速6m/min.(処理風量30L/min)、粉塵フィード濃度10g/m3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、フィルタエレメントを通過して清浄空気側に侵入粉として抜ける粉体の量について評価を行った。
【0064】
[比較例2]
<得られたフィルタエレメントの集塵評価>
比較例1と同様の処方で調製した塗工液を用いて作製したフィルタエレメントを、図3に示す集塵装置に装着し、ろ過時における集塵層内への粉塵の侵入量を調べた。
【0065】
実験集塵粉として、日鉄鉱業井倉鉱業所製の「排煙脱硫用タンカル」(平均粒子径:12.0μm)をフィード口2から導入し、濾過風速6m/min.(処理風量30L/min)、粉塵フィード濃度10g/m3の条件下で集塵負荷確認試験を5分間行った。集塵負荷確認試験に於いては、フィルタエレメントを通過して清浄空気側に侵入粉として抜ける粉体の量について評価を行った。
【0066】
係る集塵負荷確認試験の結果を表11(集塵負荷(侵入粉)確認試験結果)に示す。実施例6のシリカ微粒子のフィルタエレメントでは、5分間の集塵負荷確認試験で、ほとんど侵入粉は認められなかった。これは、比較例2と比較して表面の平滑性が向上し、前記フィルタエレメントの表面に付着した集塵粉の払い落とし性が改善したことや、それに伴い捕集対象粉が侵入する気孔を著しく減少したためと考えられる。以上の結果から、本発明による集塵層は、従来のものと比べ目詰まりし難いことがわかる。
【0067】
【表11】
【0068】
<得られたフィルタエレメント粉塵捕集層強度の評価>
実施例4および5、6に示した手順によってフィルタエレメントの表面に形成した粉塵捕集層の強度を、JIS K 5600-5-4(鉛筆ひっかき強度試験)を参考に以下の要領で測定した。係る粉塵捕集層の強度の評価結果を図6に示す。また、図6には集塵負荷(侵入粉)確認試験結果を併記した。
図6から明らかなように、実施例4により形成した粉塵捕集層の強度は、比較例により形成された粉塵捕集層と比較して、強靭で且つ侵入粉がほとんど認められないことが判る。また、実施例5および6により形成された粉塵捕集層は、強度こそ6Bに留まったが、侵入粉がほとんど認められないことが判る。
<鉛筆ひっかき強度試験の定義>
鉛筆硬度 (pencil hardness) 規定した寸法,形状及び硬度の鉛筆の芯を塗膜面で押しつけて動かした結果生じるきず跡又はその他の欠陥に対する塗膜の抵抗性。鉛筆の芯によって生じる塗膜面の欠陥には、幾つかの種類がある。
その欠陥は、次のとおり定義する。
a)塑性変形 (plastic deformation) 塗膜に永久くぼみを生じるが、凝集破壊はない。
b)凝集破壊 (cohesive fracture) 表面に、塗膜材質がとれた引っかききず又は破壊が、肉眼で認められる。
c)上記の組合せ 最終段階では、すべての欠陥が同時に生じることがある。

<鉛筆ひっかき強度試験の方法>
(1)試験は温度 23±2℃、相対湿度 (50±5) %で行う。
(2)鉛筆けずり器を用い、鉛筆の芯がきずのない滑らかな円柱状になるように注意して木部を除き、芯を5~6mm露出させる。
(3)鉛筆を垂直に保ち、90°の角度を保持しながら芯を研磨紙上にあてて前後に動かして、芯の先端を平らにしなければならない。芯の角の部分に破片や欠けがなく、平滑で円形の断面が得られるまで続ける。この操作は、鉛筆を使用するたびに繰り返す。
(4)塗板を、平らで堅固な水平面に置く。鉛筆を取り付け、鉛筆の先端が塗膜に接するときに試験装置が水平になるような位置で止め具を締める。
(5)鉛筆の先端が塗膜上に載った後、直ちに装置を操作者から0.5~1mm/sの速度で離れるよう、少なくとも7mmの距離を押す。
(6)肉眼で塗面を検査し、上記に定義した圧こん(痕)の種別を肉眼で調べる。塗膜面の鉛筆芯の粉を、柔らかな布又は脱脂綿と不活性溶剤を用いてふき取ると、破壊の評価が容易になる。
この操作を行うときには、試験部位の硬度に影響のないように注意する。
きず跡が生じないときは、重ならないように、試験部位が、少なくとも長さ3mm以上のきず跡が生じるまで、硬度スケールを上げて試験(3)~(6)を繰り返す。
きず跡が生じたときは、きず跡が生じなくなるまで硬度スケールを下げて試験(3)~(6)を繰り返す。
上記に定義する欠陥について、その種類を判定する。きず跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を、鉛筆硬度という。
(7)試験は2回行い、2回の結果が一単位以上異なるときは放棄し、試験をやり直す。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の技術による塗工液を乾燥固化して成型体としたものは、捕集性能、強度および接着強度に優れ、耐水性を有しており、ある程度曲げてもひび割れし難いことから、フィルタエレメントの樹脂焼結体様の成型体を作製し、シンターラメラーフィルタ(登録商標)のような既存フィルターのエレメントとして使用することができる。
【0070】
このことにより、本発明の技術による塗工液を、樹脂焼結体からなるラメラー構造を有するフィルタエレメント素材に塗工し、フィルタエレメント表面に粉塵捕集層を形成した場合および塗工液を乾燥固化して成型体として集塵フィルターのエレメントとして使用した場合だけでなく、捕集対象粒子の平均粒子径が10μm以下の微細な粉体を長時間捕集した場合に於いても、捕集対象粒子が粉塵捕集層を構成する微粒子間の空隙を通過し、清浄空気側に抜けてしまう「目抜け」や、粉塵捕集層を構成する微粒子間の空隙に微細な粒子が侵入する「目詰まり」の発生頻度が大幅に低減したエレメントを得ることが可能となり、集塵機ユーザーに於いての集塵機保守の効率化および生産性の向上に資することが期待できる。
【符号の説明】
【0071】
1a,1b 集塵シリンダ部
2 フィード口
3 フローメーター
4 含塵濃度計
5 真空ポンプ
6 差圧計
7 フィルタエレメント
8 払い落とし装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6