(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20240709BHJP
A61K 6/16 20200101ALI20240709BHJP
A61K 6/17 20200101ALI20240709BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20240709BHJP
A61K 6/76 20200101ALI20240709BHJP
A61K 6/802 20200101ALI20240709BHJP
A61K 6/818 20200101ALI20240709BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/16
A61K6/17
A61K6/71
A61K6/76
A61K6/802
A61K6/818
(21)【出願番号】P 2019208125
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-05-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】松浦 亮
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216599(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129180(WO,A1)
【文献】特開平02-040310(JP,A)
【文献】特開2003-089759(JP,A)
【文献】特開2013-018712(JP,A)
【文献】歯科材料・器械,1990年,Vol.9, No.6,pp.778-785
【文献】歯科材料・器械,1992年,Vol.11, No.5,pp.830-836
【文献】歯科材料・器械,2000年,Vol.19, No.4,pp.367-381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が1.350以上1.460未満であるフッ素含有単量体(A)、屈折率が1.450以上1.600以下であるフッ素を有しない単量体(B)、屈折率が1.450以上1.500以下である無機充填材(C)、重合開始剤(D)及び屈折率が1.500超、かつ平均粒子径が200nm以下であるX線不透過性無機充填材(F)を含み、屈折率が1.450未満である無機充填材(E)の含有量が10質量%未満であり、
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、R
1
は、水素又はメチル基を示し、R
2
は、水素又は水酸基を示し、nは1又は2であり、mは0又は1である。)
で表されるフッ素芳香族ジ(メタ)アクリレートを含まず、
前記フッ素含有単量体(A)の重合性基の数が1つであり、
前記フッ素含有単量体(A)が、フッ素原子を4つ以上有し、分子内に主鎖として炭素数が2~15のアルキル基又はアルキレン基を有する単量体であり、
ガラス転移温度が25℃~50℃となる(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマー、及び/又は、ホモポリマーのガラス転移温度が37℃より高い(メタ)アクリル酸エステルとホモポリマーのガラス転移温度が37℃より低い(メタ)アクリル酸エステルとのランダム共重合体を含み、25℃~50℃の範囲のガラス転移温度を有し、動的粘弾性測定により求まる37℃におけるtanδが0.10以上であり、融点を有さない(メタ)アクリル酸エステル系重合体を含まない、歯科用組成物。
【請求項2】
前記無機充填材(C)が非晶質の無機酸化物である、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記無機充填材(C)の平均粒子径が0.0001~50μmである、請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記X線不透過性無機充填材(F)のX線不透過性元素がYb、Ba、Zr、Sr、及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記X線不透過性無機充填材(F)のX線不透過性元素がYb、Ba、及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記無機充填材(C)の粒形が球状である、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記フッ素含有単量体(A)の含有量が、全単量体100質量部において1~70質量部である、請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記フッ素を有しない単量体(B)が、酸性基を有する単量体(B-1)を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記フッ素を有しない単量体(B)が、酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、歯科用コンポジットレジン。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、自己接着性歯科用コンポジットレジン。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の歯科用組成物からなる、歯科用セメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の齲蝕やそれに伴う欠損の治療に際して、歯科用接着剤、歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント等の歯科用組成物を用いた修復治療が従来から一般的に行われている。治療の一例として、歯科用接着剤と歯科用コンポジットレジンを用いた修復治療においては、一般的に以下の手順で作業が行われる。まず、齲蝕部分を削って窩洞を形成した後、窩洞に歯科用接着剤を塗布し、続いて接着剤を塗布した部位に可視光を照射して硬化させる。次に、硬化した接着剤層の上に歯科用コンポジットレジンを充填し、最後に充填した歯科用コンポジットレジンに可視光を照射して硬化させる。
【0003】
歯科用組成物による歯の修復治療では、単に咬合を回復するだけではなく、操作性や機械的強度等の他に、自然な歯に見えるように審美性の良好さも要求される。そのためには天然歯質にできるだけ近い透明性を有することが要求される。例えば、一般に歯科用コンポジットレジンは、単量体、無機充填材、及び重合触媒を含むが、その硬化物の透明性を確保するためには、単量体が硬化して形成される有機マトリックスの屈折率と無機充填材の屈折率とがほぼ同等である必要がある。ところが、無機充填材として汎用性が高く、その種類も豊富、且つ機械的強度が高い非晶質シリカの屈折率は低い一方で、単量体は、機械的強度の観点からベンゼン骨格を有するものが相当量配合されているなど、その硬化物の屈折率は一般的に高い。従って、非晶質シリカをそのまま歯科用組成物の充填材として使用すると、有機マトリックスの屈折率と非晶質シリカの屈折率との間にかなりの差異を生じ、製造される歯科用組成物の透明性が著しく低下し審美性に劣るものとなってしまう。
【0004】
良好な審美性を得るために、例えば特許文献1のように、天然歯質のエナメル質と同様の、鉱物のオパールと同じ特異的光散乱現象(オパール効果)を生じる歯科用組成物として、単量体、平均粒子径が0.1~0.5μmの範囲であり、粒子径分布の標準偏差値が1.30以内である球状のシリカ系粒子、このシリカ系粒子を有機マトリックス中に分散させた有機無機複合充填材、及び重合開始剤を含んでなり、球状シリカ系粒子と重合性単量体の重合体との屈折率差が0.1以下であり、有機無機複合充填材と重合性単量体の重合体との屈折率差が0.1以下である歯科用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2は優れた審美性を有した歯科用組成物として、単量体成分、平均粒子径が260nm~1000nmの範囲内にある球状充填材及び重合開始剤を含むものであって、厚さ1mmの硬化体を形成した状態で、各々色差計を用いて測定した、黒背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5未満であり、彩度(C)が0.05以上であり、且つ白背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が6以上であり、彩度(C)が2未満である歯科用組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3は、高い審美性を有し、かつ調節可能な半透明性及び高い乳光性を有する歯科用組成物として、屈折率<1.45の単量体(例えばフッ素含有単量体)又は単量体混合物と、屈折率<1.45の乳光性充填材と、他の通常の充填材又は充填材混合物と、重合開始剤、安定剤及び着色剤からなる群から選ばれた少なくとも一種とを含む硬化性歯科材料であって、単量体と乳光性充填材の屈折率の差が≦0.04であり、乳光性充填材の平均粒子サイズが230nm+/-50nmである歯科材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/158742号
【文献】国際公開第2017/069274号
【文献】特表2007-532518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の歯科用組成物において、非晶質シリカの屈折率と単量体の屈折率との間にかなりの差異が生じるため、審美性の点でさらなる改良の余地があった。また、特許文献1及び2に記載された歯科用組成物が有するオパール効果は、一般に青系の色調を呈するため天然歯質のエナメル質部分の修復には適しているが歯頚部などの象牙質部分の色調を再現するには必ずしも適していない。そのため、天然歯質の様々な修復箇所の透明性や色調を再現するのは依然困難であった。さらに、特許文献3に記載された歯科用組成物は、乳光性充填材の屈折率が1.450未満に限定されているが、一般に、屈折率が低いと赤系の色調を呈するため、天然歯質の歯頚部などの象牙質部分の修復には適しているがエナメル質部分の色調を再現するには必ずしも適していない。そのため、天然歯質の様々な修復箇所の透明性や色調を再現するのは困難であった。また、特許文献1~3では、硬化物の機械的強度及び表面硬度については、検討されていなかった。
【0009】
そこで本発明は、透明性、硬化深度、表面硬度及び機械的強度に優れる歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定範囲の屈折率を有するフッ素含有単量体、フッ素を有しない単量体、特定範囲の屈折率を有する無機充填材、及び重合開始剤を組み合わせることによって、透明性、硬化深度、表面硬度及び機械的強度に優れる歯科用組成物となることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]屈折率1.460未満であるフッ素含有単量体(A)、フッ素を有しない単量体(B)、屈折率が1.450以上1.500以下である無機充填材(C)、及び重合開始剤(D)を含み、屈折率1.450未満である無機充填材(E)の含有量が、10質量%未満である、歯科用組成物;
[2]前記無機充填材(C)が非晶質の無機酸化物である、[1]に記載の歯科用組成物。
[3]前記無機充填材(C)の平均粒子径が0.0001~50μmである、[1]又は[2]に記載の歯科用組成物;
[4]さらに、屈折率が1.500超、かつ平均粒子径が200nm以下であるX線不透過性無機充填材(F)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用組成物;
[5]前記X線不透過性無機充填材(F)のX線不透過性元素がYb、Ba、Zr、Sr、及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[4]に記載の歯科用組成物;
[6]前記X線不透過性無機充填材(F)のX線不透過性元素がYb、Ba、及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[4]に記載の歯科用組成物;
[7]前記無機充填材(C)の粒形が球状である、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用組成物;
[8]前記フッ素含有単量体(A)の重合性基の数が1つである、[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用組成物;
[9]前記フッ素含有単量体(A)の含有量が、全単量体100質量部において1~70質量部である、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用組成物;
[10]前記フッ素を有しない単量体(B)が、酸性基を有する単量体(B-1)を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用組成物;
[11]前記フッ素を有しない単量体(B)が、酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の歯科用組成物;
[12][1]~[11]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、歯科用コンポジットレジン;
[13][1]~[11]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、自己接着性歯科用コンポジットレジン;
[14][1]~[11]のいずれかに記載の歯科用組成物からなる、歯科用セメント。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明性、硬化深度、表面硬度及び機械的強度に優れる歯科用組成物が提供される。また、本発明によれば、容易に天然歯質の色調を再現することができる歯科用組成物が提供される。さらに、本発明によれば、硬化物の表面硬度が高いため、硬化物の研磨が容易であり、滑沢耐久性が良好な硬化物が得られる歯科用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の歯科用組成物は、屈折率が1.460未満であるフッ素含有単量体(A)、フッ素を有しない単量体(B)、屈折率が1.450以上1.500以下である無機充填材(C)、及び重合開始剤(D)を含み、屈折率が1.450未満である無機充填材(E)の含有量は、10質量%未満である。当該構成とすることにより、透明性、硬化深度、及び機械的強度に優れる歯科用組成物となる。
【0014】
以下、本発明の歯科用組成物に用いられる各成分について、説明する。
【0015】
・屈折率が1.460未満であるフッ素含有単量体(A)
本発明の歯科用組成物は、フッ素を有しない単量体(B)と組み合わせた際に、高い透明性及び高い硬化深度を示しつつ、硬化物の機械的強度及び表面硬度に優れる点から、屈折率が1.460未満であるフッ素含有単量体(A)(以下、単に「フッ素含有単量体(A)」ともいう。)を含有する。また、フッ素含有単量体(A)を他の成分と組み合わせて用いることで、歯科用組成物の硬化が充填された周辺の天然歯質に近い良好な色調再現性が容易に得られる。フッ素含有単量体(A)としては、例えば、フッ素原子を少なくとも1つ有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1つ有する重合性単量体などが挙げられ、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル、フッ素含有(メタ)アクリルアミド等のフッ素含有(メタ)アクリル系単量体が好ましく、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、フッ素含有メタクリル酸エステルがさらに好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。
【0016】
フッ素含有単量体(A)の重合性基の数は1つ以上であれば特に制限はないが、硬化物の弾性率の観点から、1つが好ましい。
【0017】
本発明の歯科用組成物に含まれる単量体としては、機械的強度や歯質への接着性などの物性を調整するため、一般に、複数種の単量体を混合した、単量体混合物が使用されるが、透明性とオパール効果の観点から、単量体混合物の屈折率が充填材の屈折率より高くなるように単量体の種類及び配合割合を設定することが好ましい。この際、単量体混合物の屈折率の調製が容易となることから、フッ素含有単量体(A)の屈折率は1.459以下であることが好ましく、1.400以下であることがより好ましく、1.380以下であることがさらに好ましく、1.370以下であることが特に好ましい。また、下限値については特に限定されないが、例えば1.350以上とすることができる。なお、本明細書において重合性単量体の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて25℃の恒温室にて測定した値を指す。
【0018】
フッ素含有単量体(A)としては、フッ素原子を3つ以上有する単量体が好ましく、フッ素原子を4つ以上有する単量体がより好ましく、フッ素原子を4つ以上有し、分子内に主鎖として炭素数が2~15のアルキル基又はアルキレン基を有する単量体がさらに好ましい。
【0019】
フッ素含有単量体(A)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。フッ素含有単量体(A)として好ましく用いることのできる、フッ素含有(メタ)アクリル系単量体の具体例を以下に示す。
【0020】
フッ素含有単量体(A)としては、例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロブチル)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-(パーフルオロ-3-メチルブチル)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H-1-(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの中でも、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H-1-(トリフルオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレートが好ましく、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0021】
フッ素含有単量体(A)の含有量に特に制限はないが、硬化性及び接着性が向上し、また得られる硬化物の機械的強度が向上することなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部において、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましく、また、70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。
【0022】
・フッ素を有しない単量体(B)
フッ素を有しない単量体(B)としては、例えば、フッ素原子を有さず、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1つ有する重合性単量体などが挙げられ、フッ素を有しない(メタ)アクリル酸エステル、フッ素を有しない(メタ)アクリルアミド等のフッ素を有しない(メタ)アクリル系単量体が好ましく、フッ素を有しない(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、フッ素を有しないメタクリル酸エステルがさらに好ましい。フッ素を有しない単量体(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
フッ素を有しない単量体(B)の一例としては、例えば、(i)酸性基を有する単量体(B-1)、(ii)酸性基を有しない芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)(以下、単に「芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)」ともいう。)、(iii)酸性基を有しない脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)(以下、単に「脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)」ともいう。)、(iv)酸性基を有しない三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)(以下、単に「三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)」ともいう。)、(v)酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)、(vi)酸性基を有しない親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)(以下、単に「親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)」ともいう。)などが挙げられる。
【0024】
(i)酸性基を有する単量体(B-1)
本発明の歯科用組成物は、歯質の脱灰を促進し、歯質への接着性を向上させるだけでなく、接着界面での化学重合を促進させることを目的として、酸性基を有する単量体(B-1)を含んでもよい。
【0025】
酸性基を有する単量体(B-1)としては、例えば、酸性基を少なくとも1つ有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1つ有する重合性単量体などが挙げられ、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステル、酸性基を有する(メタ)アクリルアミド等の酸性基を有する(メタ)アクリル系単量体が好ましく、酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、酸性基を有するメタクリル酸エステルがさらに好ましい。
【0026】
上記酸性基としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、酸性基を有する単量体は、これらの酸性基のうちの1種のみを有していてもよいし、2種以上を有していてもよい。
【0027】
酸性基を有する単量体(B-1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。酸性基を有する単量体(B-1)として好ましく用いることのできる、各種酸性基を有する(メタ)アクリル系単量体の具体例を以下に示す。
【0028】
リン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等のリン酸基を有する単官能性の(メタ)アクリル系単量体、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩;ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート等のリン酸基を有する多官能性の(メタ)アクリル系単量体、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0029】
ピロリン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0030】
チオリン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンチオホスフェート、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0031】
ホスホン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0032】
カルボン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、分子内にカルボキシル基を1つ有する重合性単量体と、分子内にカルボキシル基を複数有する重合性単量体とが挙げられる。
【0033】
分子内にカルボキシル基を1つ有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0034】
分子内にカルボキシル基を複数有する重合性単量体としては、例えば、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-2,3,6-トリカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル-1,8-ナフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,8-トリカルボン酸、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0035】
スルホン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(酸塩化物等)、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0036】
上記の酸性基を有する単量体(B-1)の中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジンなどとして用いた場合に接着性が向上することなどから、リン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体及び/又はカルボン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体が好ましく、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートの酸無水物がより好ましく、10-メタクリロイルオキシデシルジヒドロジェンホスフェートがさらに好ましい。酸性基を有する単量体(B-1)としては、リン酸基を有する(メタ)アクリル系単量体が特に好ましい。
【0037】
酸性基を有する単量体(B-1)の含有量に特に制限はないが、硬化性及び接着性が向上し、また得られる硬化物の機械的強度が向上することなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、また、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0038】
(ii)酸性基を有しない芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)
芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称:Bis-GMA)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(例えば、エトキシ基の平均付加モル数が2.6のものなど)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられ、これらの中でも、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称:Bis-GMA)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの(通称:D-2.6E))が好ましい。
【0039】
(iii)酸性基を有しない脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)
脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称:TEGDMA)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジアクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称:UDMA)、1,2-ビス(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタンなどが挙げられ、これらの中でも、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称:TEGDMA)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称:UDMA)、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタンが好ましい。
【0040】
(iv)酸性基を有しない三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)
三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジ(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられ、これらの中でも、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
【0041】
上記、芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)及び三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、取り扱い性が向上し、また得られる硬化物の機械的強度が向上することなどから、芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)が好ましく、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称:Bis-GMA)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの。通称:D-2.6E)、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称:TEGDMA)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称:UDMA)がより好ましく、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)がさらに好ましい。
【0042】
本発明の歯科用組成物における、上記、芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)及び三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)の合計の含有量に特に制限はないが、硬化性、歯質への浸透性及び接着性が向上し、また得られる硬化物の機械的強度が向上することなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましく、40質量部以上であることが特に好ましく、また、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、85質量部以下であることがさらに好ましく、80質量部以下であることが特に好ましく、75質量部以下であることが最も好ましい。
【0043】
(v)酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)
フッ素を有しない単量体(B)の別の一例としては、酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)(以下、単に「多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)」ともいう。)が挙げられる。当該多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)において、それが有する2つ以上の重合性基は、その全てが(メタ)アクリルアミド基であってもよいし、そのうちの一部が(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、スチレン基等の(メタ)アクリルアミド基以外の重合性基であってもよい。また、当該多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)は、少なくとも1つのアミドプロトンを有することが好ましい。当該多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)は、(メタ)アクリルアミド基(好ましくはアミドプロトン)を少なくとも1つ有することから高い親水性を有し、象牙質のコラーゲン層へ浸透しやすく、且つ分子内に複数の重合性基を有するため、本発明の歯科用コンポジットレジンの他の成分と一緒になって非常に高い硬化性を示すようになり、象牙質に対してより高い接着力が得られるようになる。
【0044】
多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(3)で表される化合物などが挙げられる。
【0045】
【0046】
上記一般式(1)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキレン基(直鎖状でも分岐鎖状でもよい)であり、pは1~6の整数である。ただし、複数存在するR1及びR2は、それぞれ、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0047】
【0048】
上記一般式(2)中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキレン基(直鎖状でも分岐鎖状でもよい)であり、qは2又は3である。ただし、複数存在するR3及びR4は、それぞれ、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0049】
【0050】
上記一般式(3)中、R5は、置換基を有していてもよい炭素数1~8の脂肪族基(直鎖状でも分岐鎖状でも環状でもよい)又は置換基を有していてもよい芳香族基である。ただし、前記脂肪族基は、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-*、-O-CO-*、-NR6-、-CO-NR6-*、-NR6-CO-*、-O-CONR6-*、-NR6CO-O-*及び-NR6-CO-NR6-からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合基によって中断されていてもよい。ここで、*は、R5が直接結合している窒素原子の側とR5が直接結合している酸素原子の側のうちの、当該酸素原子の側であることを示す。また、R6は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~8の脂肪族基(直鎖状でも分岐鎖状でも環状でもよい)であり、複数存在するR6は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0051】
上記一般式(1)及び(2)において、R1及びR3は、歯質に対する接着性と硬化性の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0052】
上記一般式(1)及び(2)において、R2及びR4は、それぞれ、炭素数1~8のアルキレン基であり、炭素数2~8のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2~4のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基であることがさらに好ましい。また当該アルキレン基は、その水素原子の1つ又は2つ以上が置換基によって置換されていてもよいが、置換基によって置換されていないことが好ましい。
【0053】
上記一般式(1)及び(2)において、R2及びR4としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、1-メチルエチレン基、トリメチレン基、1-エチルエチレン基、1,2-ジメチルエチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、テトラメチレン基、1-プロピルエチレン基、2-プロピルエチレン基、1-エチル-1-メチルエチレン基、1-エチル-2-メチルエチレン基、1,1,2-トリメチルエチレン基、1-エチルトリメチレン基、2-エチルトリメチレン基、1,1-ジメチルトリメチレン基、1,2-ジメチルトリメチレン基、1,3-ジメチルトリメチレン基、1-メチルテトラメチレン基、2-メチルテトラメチレン基、ペンタメチレン基、1-ブチルエチレン基、1-メチル-1-プロピルエチレン基、1-メチル-2-プロピルエチレン基、1,1-ジエチルエチレン基、1,2-ジエチルエチレン基、1-エチル-1,2-ジメチルエチレン基、1-エチル-2,2-ジメチルエチレン基、1-メチルペンタメチレン基、2-メチルペンタメチレン基、3-メチルペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などが挙げられる。
【0054】
上記一般式(1)において、pは1~4の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、1又は2であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。また上記一般式(2)において、qは3であることが好ましい。
【0055】
上記一般式(3)において、R5で表される置換基を有していてもよい炭素数1~8の脂肪族基としては、飽和脂肪族基(アルキレン基、シクロアルキレン基(1,4-シクロへキシレン基等)など)及び不飽和脂肪族基(アルケニレン基、アルキニレン基など)のいずれであってもよく、入手性、製造の容易さ、化学的安定性などの観点から、飽和脂肪族基であることが好ましく、アルキレン基であることがより好ましい。当該アルキレン基の具体例としては、上記一般式(1)及び(2)におけるR2及びR4の説明において上記したのと同様のものが挙げられる。歯質に対する接着性と硬化性の観点から、R5は、置換基を有していてもよい炭素数1~4の脂肪族基であることが好ましく、置換基を有していてもよい炭素数2~4の脂肪族基であることがより好ましい。
【0056】
上記一般式(3)において、R5で表される置換基を有していてもよい炭素数1~8の脂肪族基は、前記した少なくとも1種の結合基によって中断されていてもよい。すなわち、前記脂肪族基には前記した少なくとも1種の結合基が挿入されていてもよい。前記脂肪族基が前記結合基によって中断されている場合、結合基の数は特に制限されず、1~10個程度とすることができ、好ましくは1~3個であり、より好ましくは1個又は2個である。なお、前記脂肪族基は連続する前記結合基によって中断されないことが好ましい。すなわち、前記結合基が隣接しないことが好ましい。
【0057】
上記一般式(3)において、上記結合基の一部を構成するR6で表される置換基を有していてもよい炭素数1~8の脂肪族基としては、飽和脂肪族基(アルキル基、シクロアルキレン基(シクロヘキシル基等)など)及び不飽和脂肪族基(アルケニル基、アルキニル基など)のいずれであってもよく、入手性、製造の容易さ、化学的安定性などの観点から、飽和脂肪族基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。当該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、n-オクチル基などが挙げられる。R6は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0058】
前記結合基としては、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-*、-O-CO-*、-NH-、-CO-NH-*、-NH-CO-*、-O-CONH-*、-NHCO-O-*及び-NH-CO-NH-からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、-O-、-S-、-CO-、-NH-、-CO-NH-*及び-NH-CO-*からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0059】
上記一般式(3)において、R5で表される置換基を有していてもよい芳香族基としては、例えば、アリール基、芳香族性ヘテロ環基などが挙げられ、アリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和であり、例えば、フラン基、チオフェン基、ピロール基、オキサゾール基、イソオキサゾール基、チアゾール基、イソチアゾール基、イミダゾール基、ピラゾール基、フラザン基、トリアゾール基、ピラン基、ピリジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、1,3,5-トリアジン基などが挙げられる。芳香族性ヘテロ環は5員環又は6員環であることが好ましい。
【0060】
上記一般式(1)、(2)及び(3)において、R2、R4及びR5が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数1~8のアルキル基でモノ置換又はジ置換されたアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数1~8のアルキルチオ基などが挙げられ、ハロゲン原子が好ましい。置換基の数は特に制限されず、1~8個程度とすることができ、好ましくは1~3個である。
【0061】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、以下に示すものなどが挙げられる。
【0062】
【0063】
これらの中でも、歯質に対する接着性と硬化性の観点から、式(1-1)で表される化合物、式(1-3)で表される化合物、式(1-5)で表される化合物、式(1-7)で表される化合物が好ましく、式(1-1)で表される化合物、式(1-5)で表される化合物がより好ましく、象牙質のコラーゲン層への浸透に関わる親水性の高さの観点から、式(1-5)で表される化合物がさらに好ましい。
【0064】
上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、以下に示すものなどが挙げられる。
【0065】
【0066】
これらの中でも、歯質に対する接着性と硬化性の観点から、式(2-1)で表される化合物、式(2-3)で表される化合物、式(2-5)で表される化合物、式(2-7)で表される化合物が好ましく、式(2-1)で表される化合物、式(2-3)で表される化合物がより好ましく、象牙質のコラーゲン層への浸透に関わる親水性の高さの観点から、式(2-1)で表される化合物がさらに好ましい。
【0067】
上記一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、以下に示すものなどが挙げられる。
【0068】
【0069】
これらの中でも、歯質に対する接着性と硬化性の観点から、式(3-1)で表される化合物、式(3-3)で表される化合物、式(3-4)で表される化合物、式(3-9)で表される化合物、式(3-10)で表される化合物が好ましく、象牙質のコラーゲン層への浸透に関わる親水性の高さの観点から、式(3-1)で表される化合物、式(3-4)で表される化合物がより好ましく、式(3-1)で表される化合物がさらに好ましい。
【0070】
多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、式(3)で表される化合物とを併用すると、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから好ましい。
【0071】
本発明の歯科用組成物における、上記多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)の含有量に特に制限はないが、硬化性及び接着性が向上し、また得られる硬化物の機械的強度が向上することなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることが特に好ましく、また、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。
【0072】
(vi)親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)
フッ素を有しない単量体(B)のさらに別の一例としては、親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)が挙げられる。当該親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)は、典型的には、酸性基を有さず、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を1つのみ有する。当該親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)は、25℃における水(純水)への溶解度が5質量%以上であることが好ましく、同溶解度が10質量%以上であることがより好ましく、同溶解度が15質量%以上であることがさらに好ましい。本発明の歯科用組成物が当該親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)を含むことで、象牙質に対してより高い接着力が得られるようになる。
【0073】
親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)は、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロプレン基、アミド基等の親水性基を有する。親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)としては、親水性の単官能性の(メタ)アクリル酸エステル、親水性の単官能性の(メタ)アクリルアミド等の親水性の単官能性の(メタ)アクリル系単量体が好ましい。
【0074】
親水性の単官能性の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシ-2-プロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
【0075】
親水性の単官能性の(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、下記一般式(4)で表される化合物、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-トリ(ヒドロキシメチル)メチル-N-メチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0076】
【0077】
上記一般式(4)中、R7は水素原子又はメチル基であり、R8は炭素数1~3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基など)である。ただし、複数存在するR8は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0078】
これらの親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、一般式(4)で表される化合物、ジアセトン(メタ)アクリルアミドが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、一般式(4)で表される化合物がより好ましく、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアクリルアミドがさらに好ましい。
【0079】
親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0080】
本発明の歯科用組成物における、上記親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)の含有量に特に制限はないが、硬化性及び接着性が向上し、また得られる硬化物の機械的強度が向上することなどから、本発明の歯科用コンポジットレジンに含まれる全単量体100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、7質量部以上であることが特に好ましく、また、30質量部以下であることが好ましく、28質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが特に好ましく、12質量部以下であることが最も好ましい。
【0081】
フッ素を有しない単量体(B)としては、上記した酸性基を有する単量体(B-1)、芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)、三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)、多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)、親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)以外の他の重合性単量体をさらに含んでいてもよい。フッ素を有しない単量体(B)は、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、上記した芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)及び三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)からなる群より選ばれる少なくとも1種、上記した多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)をともに含むことが好ましい。
【0082】
フッ素を有しない単量体(B)の含有量に特に制限はないが、硬化性及び接着性が向上し、また得られる硬化物の機械的強度が向上することなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、60質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましく、また、99質量部以下であることが好ましく、98質量部以下であることがより好ましく、95質量部以下であることがさらに好ましい。
【0083】
フッ素を有しない単量体(B)の屈折率は、特に制限されず、歯科用組成物の硬化が充填された周辺の天然歯質に近い良好な色調再現性を示す点から、1.450以上1.600以下が好ましく、1.455以上1.590以下がより好ましく、1.460以上1.570以下がさらに好ましい。酸性基を有する単量体(B-1)、芳香族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-2)、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)、三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル(B-4)、酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)、及び親水性の単官能性の重合性単量体(B-6)の屈折率が前記数値範囲にあることが好ましい。ある好適な実施形態としては、フッ素を有しない単量体(B)が、酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)を含み、多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)の屈折率が前記数値範囲にある、歯科用組成物が挙げられる。他の好適な実施形態としては、フッ素を有しない単量体(B)が、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)を含み、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)の屈折率が前記数値範囲にある、歯科用組成物が挙げられる。また、他の好適な実施形態としては、フッ素を有しない単量体(B)が、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)及び酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)を含み、脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)及び酸性基を有さず2つ以上の重合性基を有する多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)の屈折率が前記数値範囲にある、歯科用組成物が挙げられる。さらに、他の好適な実施形態としては、前記したいずれかの好適な実施形態において、フッ素を有しない単量体(B)がさらに酸性基を有する単量体(B-1)を含み、酸性基を有する単量体(B-1)の屈折率が前記数値範囲にある、歯科用組成物が挙げられる。
【0084】
・屈折率が1.450以上1.500以下である無機充填材(C)
屈折率が1.450以上1.500以下である無機充填材(C)(以下、単に「無機充填材(C)」ともいう。)により、歯科用組成物の硬化物の機械的強度を向上させることができ、また歯科用組成物の操作性を向上させることができる。当該無機充填材(C)としては、歯科用組成物に使用される屈折率が1.450以上1.500以下である公知の無機充填材を何ら制限なく使用することができる。また、無機充填材(C)をフッ素含有単量体(A)等の他の成分と組み合わせて用いることで、歯科用組成物の硬化が充填された周辺の天然歯質に近い良好な色調再現性が容易に得られる。無機充填材(C)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合としては、例えば、無機材料、粒度分布、形態などが異なる充填材を併用する場合などが挙げられる。無機充填材(C)としては、市販品を使用することができ、非晶質の無機酸化物が好ましい。
【0085】
無機充填材(C)としては、屈折率が1.450以上1.500以下の範囲のであれば公知の充填材を何ら制限なく使用できるが、歯科用組成物とした際の、透明性、オパール効果及び屈折率の調製が容易となることなどから、屈折率1.450以上が好ましく、硬化深度により優れる点から、1.453以上がより好ましく、1.455以上であることがさらに好ましく、また、屈折率1.500以下であることが好ましく、1.490以下であることがより好ましく、1.480以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において各種充填材の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて25℃の恒温室にて測定した値を指す。
【0086】
無機充填材(C)に用いる無機材料としては、例えば、シリカ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスなどが挙げられ、シリカが好ましい。
【0087】
無機充填材(C)の形状に特に制限はなく、歯科用組成物として高めたい特性に応じて適宜選択すればよく、具体的には、不定形又は球形の粒子の粉末として用いることができる。不定形の無機充填材(C)を用いると、得られる硬化物の機械的強度及び耐磨耗性が向上し、また、球形の無機充填材(C)を用いると、得られる硬化物の研磨滑沢性及び滑沢耐久性が向上することから、球状が好ましい。本明細書において、充填材が球状であるとは、走査型電子顕微鏡(SEM)で充填材の写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であることを意味する。
【0088】
無機充填材(C)の平均粒子径は、得られる歯科用組成物の操作性及び得られる硬化物の機械的強度などの観点から、0.0001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましく、0.003~5μmであることがさらに好ましく、0.005~1μmであることが特に好ましい。なお、本明細書において無機充填材(C)の平均粒子径とは、無機充填材(C)の一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を意味する。当該無機充填材(C)の平均粒子径としては、無機充填材(C)をアルコール及び水から選ばれる少なくとも1種からなる分散媒に分散させ、株式会社島津製作所製の「SALD-2300」等のレーザー回折式粒子径分布測定装置で測定した際の体積粒子径分布の中央値(メジアン径:d50)を採用することができる。無機充填材(C)の平均粒子径が小さく、前記レーザー回折式粒子径分布測定装置における測定下限(例えば、0.10μm)を下回る場合は、株式会社日立製作所製の「SU3500」や「SU9000」等の走査型電子顕微鏡を用い電子顕微鏡写真を撮影し、無作為に選択した20個の粒子の粒子径から得られた平均値を採用することができる。なお、粒子が非球状である場合には、粒子径は、粒子の最長と最短の長さの算術平均をもって粒子径とすればよい。
【0089】
無機充填材(C)は、粒子が凝集して形成された凝集粒子であってもよい。通常、市販の無機充填材は凝集体として存在しているが、水又は5質量%以下のヘキサメタリン酸ナトリウムなどの界面活性剤を添加した水(分散媒)300mLに無機充填材粉体10mgを添加し、出力40W、周波数39KHzの超音波強度で30分間分散処理すると、メーカー表示の粒子径まで分散される程度の弱い凝集力しか有しない。しかしながら、上記凝集粒子は、かかる条件でもほとんど分散されない粒子同士が強固に凝集したものである。
【0090】
市販の無機充填材の凝集体から粒子同士が強固に凝集した凝集粒子を作製する方法として、その無機充填材が融解する直前の温度付近まで加熱して、接触した無機充填材の粒子同士がわずかに融着する程度に加熱する方法が好適に採用される。またこの場合、凝集粒子の形状をコントロールするため、加熱前に凝集した形態としておいてもよい。その方法としては、例えば、無機充填材を適当な容器に入れて加圧する方法や、一度、溶剤に分散させた後、噴霧乾燥などの方法で溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0091】
また、凝集粒子を作製するための別の好適な方法として、湿式法で作製されたシリカゾル、等のゾルを用い、これを凍結乾燥や噴霧乾燥等の方法で乾燥し、必要に応じて加熱処理する方法が挙げられる。ゾルの具体例としては、株式会社日本触媒製、商品名「シーホスター」、日揮触媒化成株式会社製、商品名「OSCAL」、「QUEEN TITANIC」、日産化学工業株式会社製、商品名「スノーテックス」、「アルミナゾル」、「セルナックス」、「ナノユース」などが挙げられる。
【0092】
前記無機充填材(C)は、本発明の歯科用組成物に含まれる単量体との親和性を改善したり、単量体との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させたりするために、予め表面処理剤で表面処理を施しておくことが好ましい。当該表面処理剤としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物などが挙げられる。これらの表面処理剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。表面処理剤を2種以上併用する場合は、それによる表面処理層は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層であってもよいし、表面処理層が複数の表面処理層を積層した複層構造の表面処理層であってもよい。表面処理方法としては、特に制限なく公知の方法を用いることができる。
【0093】
有機ケイ素化合物としては、R9
nSiX4-nで表される化合物などが挙げられる(式中、R9は炭素数1~12の置換又は非置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは、0~3の整数である。ただし、R9及びXが複数存在する場合は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい)。
【0094】
有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン((メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン((メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等)、オルガノシラザン(ヘキサエチルジシラザン、ヘキサn-プロピルジシラザン、ヘキサイソプロピルジシラザン、1,1,2,2-テトラメチル-3,3-ジエチルジシラザン、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、1,1,1,3,3-ペンタメチルジシラザン等)などが挙げられる。
【0095】
これらの中でも、本発明の歯科用組成物に含まれる単量体と共重合し得る官能基を有する有機ケイ素化合物が好ましい。有機ケイ素化合物の好ましい具体例は、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン((メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12)、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン((メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、オルガノシラザン(1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、1,1,1,3,3-ペンタメチルジシラザン等)である。
【0096】
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネートなどが挙げられる。
【0097】
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテートなどが挙げられる。
【0098】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物などが挙げられる。
【0099】
無機充填材(C)の含有量に特に制限はないが、得られる歯科用組成物の操作性及び硬化物の機械的強度などの観点から、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、120質量部以上であることがより好ましく、140質量部以上であることがさらに好ましく、また、900質量部以下であることが好ましく、600質量部以下であることがより好ましく、450質量部以下であることがさらに好ましく、200質量部以下であることが特に好ましい。
【0100】
・屈折率が1.450未満である無機充填材(E)
屈折率が1.450未満である無機充填材(E)(以下、単に「無機充填材(E)」ともいう。)としては、歯科用組成物に使用される屈折率1.450未満である公知の無機充填材(E)を何ら制限なく使用することができる。無機充填材(E)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合としては、例えば、無機材料、粒度分布、形態などが異なる充填材を併用する場合などが挙げられる。無機充填材(E)としては、市販品を使用することができる。
【0101】
無機充填材(E)の形状に特に制限はなく、歯科用組成物として高めたい特性に応じて適宜選択すればよく、具体的には、不定形又は球形の粒子の粉末として用いることができる。不定形の無機充填材(E)を用いると、得られる硬化物の機械的強度及び耐磨耗性が向上し、また、球形の無機充填材(E)を用いると、得られる硬化物の研磨滑沢性及び滑沢耐久性が向上することから、球状が好ましい。
【0102】
無機充填材(E)の平均粒子径は、得られる歯科用組成物の操作性及び得られる硬化物の機械的強度などの観点から、0.0001~50μmであることが好ましく、0.001~30μmであることがより好ましく、0.003~10μmであることがさらに好ましく、0.005~5μmであることが特に好ましい。なお、本明細書において無機充填材(E)の平均粒子径とは、無機充填材(E)の一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を意味する。当該無機充填材(E)の平均粒子径の測定方法は、無機充填材(C)の測定方法と同様である。
【0103】
無機充填材(E)は、粒子が凝集して形成された凝集粒子であってもよい。通常、市販の無機充填材は凝集体として存在しているが、水又は5質量%以下のヘキサメタリン酸ナトリウムなどの界面活性剤を添加した水(分散媒)300mLに無機充填材粉体10mgを添加し、出力40W、周波数39KHzの超音波強度で30分間分散処理すると、メーカー表示の粒子径まで分散される程度の弱い凝集力しか有しない。しかしながら、上記凝集粒子は、かかる条件でもほとんど分散されない粒子同士が強固に凝集したものである。
【0104】
市販の無機充填材の凝集体から粒子同士が強固に凝集した凝集粒子を作製する方法として、その無機充填材が融解する直前の温度付近まで加熱して、接触した無機充填材の粒子同士がわずかに融着する程度に加熱する方法が好適に採用される。またこの場合、凝集粒子の形状をコントロールするため、加熱前に凝集した形態としておいてもよい。その方法としては、例えば、無機充填材を適当な容器に入れて加圧する方法や、一度、溶剤に分散させた後、噴霧乾燥などの方法で溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0105】
また、凝集粒子を作製するための別の好適な方法として、湿式法で作製されたシリカゾル等のゾルを用い、これを凍結乾燥や噴霧乾燥等の方法で乾燥し、必要に応じて加熱処理する方法が挙げられる。ゾルの具体例としては、株式会社日本触媒製、商品名「シーホスター」、日揮触媒化成株式会社製、商品名「OSCAL」、「QUEEN TITANIC」、日産化学工業株式会社製、商品名「スノーテックス」、「アルミナゾル」、「セルナックス」、「ナノユース」などが挙げられる。
【0106】
無機充填材(E)は、無機充填材(C)と同様に本発明の歯科用組成物に含まれる単量体との親和性を改善したり、単量体との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させたりするために、予め表面処理剤で表面処理を施しておくことが好ましい。当該表面処理剤としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物などが挙げられる。これらの表面処理剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。表面処理剤を2種以上併用する場合は、それによる表面処理層は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層であってもよいし、表面処理層が複数積層した複層構造の表面処理層であってもよい。表面処理方法としては、無機充填材(C)と同様に特に制限なく公知の方法を用いることができる。
【0107】
無機充填材(E)の含有量は、得られる歯科用組成物の操作性及び硬化物の機械的強度などの観点から、本発明の歯科用組成物100質量部に対して、10質量%未満であり、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であってもよい。含有量が10質量%以上となると赤系の色調を強く呈するため、天然歯質の象牙質部分の色調の再現には適するが、エナメル質部分の色調の再現が困難となる。
【0108】
・重合開始剤(D)
重合開始剤は歯科用組成物の重合硬化を促進する。重合開始剤(D)としては、一般工業界で使用されている重合開始剤を用いることができ、特に歯科用途に用いられる重合開始剤を好ましく用いることができる。重合開始剤(D)としては、例えば光重合開始剤(D-1)及び化学重合開始剤(D-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができ、光重合開始剤(D-1)が好ましい。重合開始剤(D)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0109】
光重合開始剤(D-1)としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキシド類(塩を含む)、チオキサントン類(第4級アンモニウム塩等の塩を含む)、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル類、α-アミノケトン類などが挙げられる。
【0110】
これらの光重合開始剤(D-1)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類(塩を含む)、α-ジケトン類及びクマリン類からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これにより、可視光域及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用組成物が得られる。
【0111】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。
【0112】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0113】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類は、水溶性(ビス)アシルホスフィンオキシド類であってもよい。当該水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、上記で例示したような(ビス)アシルホスフィンオキシド類の塩などが挙げられる。当該塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩;アルカリ土類金属塩;ピリジニウム塩;アンモニウム塩などが挙げられる。水溶性(ビス)アシルホスフィンオキシド類は、例えば、欧州特許第0009348号明細書、特開昭57-197289号公報などに開示されている方法により合成することができる。
【0114】
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩が好ましく、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドがより好ましい。
【0115】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。これらの中でも、可視光域に極大吸収波長を有する観点から、カンファーキノンが好ましい。
【0116】
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエニルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどが挙げられる。これらの中でも、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好ましい。
【0117】
化学重合開始剤(D-2)としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネート等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0118】
重合開始剤(D)の含有量に特に制限はないが、接着性及び硬化性により優れた歯科用組成物が得られることなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましく、0.1質量部以上であることが特に好ましい。また、接着性により優れた歯科用組成物が得られるとともに、歯科用組成物からの析出を抑制することができることなどから、重合開始剤(D)の含有量は、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。
【0119】
本発明の歯科用組成物における、上記したフッ素含有単量体(A)、フッ素を有しない単量体(B)、無機充填材(C)、及び重合開始剤(D)の合計の含有量は、本発明の歯科用組成物の使用形態や目的などに応じて適宜変更することができるが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上、99質量%以上、さらには100質量%であってもよい。
【0120】
・任意成分
本発明の歯科用組成物は、上記したフッ素含有単量体(A)、フッ素を有しない単量体(B)、無機充填材(C)、及び重合開始剤(D)のみから構成されていてもよいが、それ以外の任意成分のうちの1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。当該任意成分としては、例えば、屈折率が1.500超、かつ平均粒子径が200nm以下であるX線不透過性無機充填材(F)、重合促進剤、重合禁止剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、増粘剤、抗菌剤、香料などが挙げられる。本発明の歯科用組成物は、着色剤として、公知の染料、顔料を含んでいてもよい。
【0121】
・屈折率が1.500超、かつ平均粒子径が200nm以下であるX線不透過性無機充填材(F)
本発明の歯科用組成物には、歯科用組成物へのX線不透過性の付与、又は硬化物としての強度あるいは操作性の向上を目的として、屈折率が1.500超、かつ平均粒子径が200nm以下であるX線不透過性無機充填材(F)(以下、単に「X線不透過性無機充填材(F)」ともいう。)をさらに含むことが好ましい。なお、「X線不透過性」は、X線が透過できない物質の性質を表し、X線写真上のX線不透過性の領域は白く見える。本明細書においては、従来の方法で標準的な歯科用X線装置を使用して、天然歯質と硬化した歯科用組成物とを区別するための能力を表す。X線不透過性を有する歯科用組成物は、X線を使用して歯の状態を診断する特定の場合において有利である。X線不透過性無機充填材(F)としては、歯科用組成物に使用される公知の充填材を何ら制限なく使用することができる。X線不透過性無機充填材(F)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合としては、例えば、無機材料、粒度分布、形態などが異なる充填材を併用する場合などが挙げられる。X線不透過性無機充填材(F)としては、市販品を使用することができる。
【0122】
X線不透過性無機充填材(F)としては、例えば、バリウムガラス、ストロンチウム・ボロシリケートガラス、ランタンガラスセラミックス等の歯科用ガラス粉末、シリカ-ジルコニア等の複合酸化物、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のフッ化イッテルビウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の硫酸バリウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の二酸化ジルコニウム、などが挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用することもでき、X線不透過性元素としては、Yb、Ba、Zr、Sr、及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、Yb、Ba、及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0123】
X線不透過性無機充填材(F)の形状に特に制限はなく、歯科用組成物として高めたい特性に応じて適宜選択すればよく、具体的には、不定形又は球形の粒子の粉末として用いることができる。不定形のX線不透過性無機充填材(F)を用いると、得られる硬化物の機械的強度及び耐磨耗性が向上し、また、球形のX線不透過性無機充填材(F)を用いると、得られる硬化物の研磨滑沢性及び滑沢耐久性が向上する。
【0124】
X線不透過性無機充填材(F)の平均粒子径は、得られる歯科用組成物の操作性及び得られる硬化物の透明性、機械的強度などの観点から、0.0001~200nmであることが好ましく、0.001~180nmであることがより好ましく、0.003~160nmであることがさらに好ましく、0.005~150nmであることが特に好ましい。なお、本明細書においてX線不透過性無機充填材(F)の平均粒子径とは、X線不透過性無機充填材(F)の一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を意味する。当該X線不透過性無機充填材(F)の平均粒子径の測定方法は、無機充填材(C)の測定方法と同様である。
【0125】
X線不透過性無機充填材(F)は、粒子が凝集して形成された凝集粒子であってもよい。通常、市販の無機充填材は凝集体として存在しているが、水又は5質量%以下のヘキサメタリン酸ナトリウムなどの界面活性剤を添加した水(分散媒)300mLに無機充填材粉体10mgを添加し、出力40W、周波数39KHzの超音波強度で30分間分散処理すると、メーカー表示の粒子径まで分散される程度の弱い凝集力しか有しない。しかしながら、上記凝集粒子は、かかる条件でもほとんど分散されない粒子同士が強固に凝集したものである。
【0126】
市販の無機充填材の凝集体から粒子同士が強固に凝集した凝集粒子を作製する方法として、その無機充填材が融解する直前の温度付近まで加熱して、接触した無機充填材の粒子同士がわずかに融着する程度に加熱する方法が好適に採用される。またこの場合、凝集粒子の形状をコントロールするため、加熱前に凝集した形態としておいてもよい。その方法としては、例えば、無機充填材を適当な容器に入れて加圧する方法や、一度、溶剤に分散させた後、噴霧乾燥などの方法で溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0127】
X線不透過性無機充填材(F)は、無機充填材(C)と同様に、本発明の歯科用組成物に含まれる単量体との親和性を改善したり、単量体との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させたりするために、予め表面処理剤で表面処理を施しておくことが好ましい。当該表面処理剤としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物などが挙げられる。これらの表面処理剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。表面処理剤を2種以上併用する場合は、それによる表面処理層は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層であってもよいし、表面処理層が複数積層した複層構造の表面処理層であってもよい。表面処理方法としては、無機充填材(C)と同様に特に制限なく公知の方法を用いることができる。
【0128】
X線不透過性無機充填材(F)の含有量に特に制限はないが、得られる歯科用組成物の操作性及び硬化物の機械的強度などの観点から、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、また、120質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、30質量部以下であることが特に好ましい。
【0129】
本発明の歯科用組成物は、さらに、より高いオパール効果を得るために、有機-無機複合充填材を含んでいてもよい。有機-無機複合充填材としては、特に限定されないが、屈折率が1.500超のものを使用してもよく、屈折率が1.500以下のものを使用してもよい。ある実施形態では、有機-無機複合充填材の屈折率は、1.510以上1.590以下であってもよく、1.530以上1.580以下であってもよい。また、他のある実施形態では、有機-無機複合充填材の屈折率は、1.400以上1.500以下であってもよく、1.440以上1.490以下であってもよい。有機-無機複合充填材に用いる単量体としては、上記したフッ素を有しない単量体(B)を用いることができる。有機-無機複合充填材に用いる無機材料は、無機充填材(C)と同様のものを使用できる。
【0130】
・重合促進剤
前記重合促進剤は、重合開始剤(D)などとともに歯科用組成物の重合硬化を促進することができる。重合促進剤としては、公知の重合促進剤を用いることができ、例えば、アミン類、スルフィン酸類(塩を含む)、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられ、アミン類が好ましい。重合促進剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0131】
前記アミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。前記脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0132】
前記芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用組成物に優れた硬化性を付与することができることから、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンが好ましく、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチルがより好ましい。
【0133】
前記スルフィン酸類(塩を含む)、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物の具体例としては、例えば、国際公開第2008/087977号に記載のものなどが挙げられる。
【0134】
重合促進剤の含有量に特に制限はないが、接着性及び硬化性により優れた歯科用組成物が得られることなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることがさらに好ましく、0.1質量部以上であることが特に好ましい。また、接着性により優れた歯科用組成物が得られるとともに、歯科用組成物からの析出を抑制することができることなどから、重合促進剤の含有量は、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。
【0135】
・重合禁止剤
重合禁止剤としては、例えば、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、ヒドロキノン、ジブチルヒドロキノン、ジブチルヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどが挙げられる。重合禁止剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0136】
重合禁止剤の含有量に特に制限はないが、所望の効果が得られることなどから、本発明の歯科用組成物に含まれる全単量体100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.02質量部以上であることがさらに好ましく、0.05質量部以上であることが特に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましく、0.5質量部以下であることが特に好ましい。
【0137】
・歯科用組成物の形態
本発明の歯科用組成物は、例えば、歯科用コンポジットレジン、歯科用セメント、小窩裂溝填塞材、動揺歯固定材、矯正用接着材などに用いることができ、中でも歯科用コンポジットレジン、又は歯科用セメントとして用いられる。この時、形態に特に制限はなく、本発明の歯科用組成物の成分を2つに分けた2剤型(2ペースト型、2液型)として用いてもよい。以下、歯科用組成物を適用する場合の具体的な実施形態を示す。
【0138】
<歯科用コンポジットレジン>
本発明の歯科用組成物を歯科用コンポジットレジン(特に自己接着性歯科用コンポジットレジン)として用いることが好適な実施形態の一つである。特に、近年、歯科用コンポジットレジンに接着性を持たせた自己接着性歯科用コンポジットレジンの開発がされており、従来の歯科用接着剤を用いた接着システムよりもさらに工程が簡素化されるため使用上のメリットが大きい。本発明の歯科用組成物を自己接着性歯科用コンポジットレジンとして用いる場合、フッ素含有単量体(A)、フッ素を有しない単量体(B)、無機充填材(C)、重合開始剤(D)、及びX線不透過性無機充填材(F)を含み、フッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)を含むことが好ましく、さらにフッ素を有しない単量体(B)が多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)を含むことがより好ましく、さらにこれに加えて重合促進剤を含むことがさらに好ましい。
【0139】
自己接着性歯科用コンポジットレジンにおける各成分の含有量は、全単量体100質量部において、フッ素含有単量体(A)1~70質量部、及びフッ素を有しない単量体(B)10~95質量部を含み、フッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)1~40質量部を含み、全単量体100質量部に対して、無機充填材(C)100~900質量部、重合開始剤(D)0.001~20質量部、及びX線不透過性無機充填材(F)1~120質量部を含むことが好ましく、全単量体100質量部において、フッ素含有単量体(A)10~60質量部、及びフッ素を有しない単量体(B)20~90質量部を含み、フッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)2~30質量部及び多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)2~30質量部を含み、全単量体100質量部に対して、無機充填材(C)120~600質量部、重合開始剤(D)0.01~10質量部、及びX線不透過性無機充填材(F)3~90質量部を含むことがより好ましく、全単量体100質量部において、フッ素含有単量体(A)20~50質量部、及びフッ素を有しない単量体(B)30~85質量部を含み、フッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)5~20質量部、及び多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)3~15質量部を含み、全単量体100質量部に対して、無機充填材(C)140~450質量部、重合開始剤(D)0.05~5質量部、及びX線不透過性無機充填材(F)5~60質量部を含むことがさらに好ましい。また、前記いずれかの実施形態において、自己接着性歯科用コンポジットレジンがさらに重合促進剤を含有し、重合促進剤の含有量が、全単量体100質量部に対して、0.001~30質量部であることが好ましく、0.01~20質量部であることがより好ましく、0.05~10質量部であることがさらに好ましい。
【0140】
<歯科用セメント>
本発明の歯科用組成物を歯科用セメントとして用いることも好適な実施形態の一つである。歯科用セメントとしては、レジンセメント、グラスアイオノマーセメント、レジン強化型グラスアイオノマーセメントなどが好適なものとして例示される。歯科用セメントは、歯科用接着剤やセルフエッチングプライマーなどを前処理材として用いてもよい。本発明の歯科用組成物を歯科用セメントとして用いる場合、フッ素含有単量体(A)、フッ素を有しない単量体(B)、無機充填材(C)、及び重合開始剤(D)、X線不透過性無機充填材(F)を含むことが好ましく、さらにフッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)を含むことがより好ましく、さらに多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)を含むことがさらに好ましく、さらに重合促進剤を含むことがよりさらに好ましい。また、重合開始剤(D)が化学重合開始剤(D-2)を含むことが好ましい。
【0141】
歯科用セメントにおける各成分の含有量は、全単量体100質量部において、フッ素含有単量体(A)1~70質量部、及びフッ素を有しない単量体(B)10~95質量部を含み、フッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)1~40質量部を含み、全単量体100質量部に対して、無機充填材(C)100~900質量部、重合開始剤(D)0.001~20質量部、及びX線不透過性無機充填材(F)1~120質量部を含むことが好ましく、全単量体100質量部において、フッ素含有単量体(A)は10~60質量部、及びフッ素を有しない単量体(B)20~90質量部を含み、フッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)2~30質量部、及び多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)2~30質量部を含み、全単量体100質量部に対して、無機充填材(C)120~600質量部、及び重合開始剤(D)0.01~10質量部、及びX線不透過性無機充填材(F)3~90質量部を含むことがより好ましく、全単量体100質量部において、フッ素含有単量体(A)20~50質量部、及びフッ素を有しない単量体(B)30~85質量部を含み、フッ素を有しない単量体(B)が酸性基を有する単量体(B-1)5~20質量部、及び多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)3~15質量部を含み、全単量体100質量部に対して、無機充填材(C)140~450質量部、重合開始剤(D)0.05~5質量部、及びX線不透過性無機充填材(F)5~60質量部を含むことがさらに好ましい。また、前記いずれかの実施形態において、歯科用セメントがさらに重合促進剤を含有し、重合開始剤(D)が化学重合開始剤(D-2)を含有し、全単量体100質量部に対して、化学重合開始剤(D-2)の含有量が0.001~20質量部であり、かつ重合促進剤の含有量が0.001~30質量部であることが好ましく、化学重合開始剤(D-2)の含有量が0.01~10質量部であり、かつ重合促進剤の含有量が0.01~20質量部であることがより好ましく、化学重合開始剤(D-2)の含有量が0.05~5質量部であり、かつ重合促進剤の含有量が0.05~10質量部であることがさらに好ましい。また、前記いずれかの実施形態において、デュアルキュア型の歯科用セメントとする場合、歯科用セメントがさらに重合促進剤を含有し、重合開始剤(D)が化学重合開始剤(D-2)に加えて光重合開始剤(D-1)を含有し、全単量体100質量部に対して、光重合開始剤(D-1)の含有量が0.001~20質量部であり、かつ重合促進剤の含有量が0.001~30質量部であることが好ましく、光重合開始剤(D-1)の含有量が0.01~10質量部であり、かつ重合促進剤の含有量が0.01~20質量部であることがより好ましく、光重合開始剤(D-1)の含有量が0.05~5質量部であり、かつ重合促進剤の含有量が0.05~10質量部であることがさらに好ましい。
【0142】
〔調製方法〕
本発明の歯科用組成物の調製方法に特に制限はなく、上記した各成分を配合することにより得ることができる。配合の順序に特に制限はなく、各成分を一括して配合してもよいし、2回以上に分けて配合してもよい。
【0143】
上記した歯科用コンポジットレジン、及び歯科用セメントのいずれの好適な実施形態においても、上述の明細書中の説明に基づいて、各成分の含有量を適宜変更でき、任意の成分について、追加、削除等の変更をすることができる。
【0144】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。以下の実施例及び比較例で用いた各成分とその略称、構造、並びに試験方法は、以下の通りである。
【0146】
〔屈折率が1.460未満であるフッ素含有単量体(A)〕
8FMA:1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレート(屈折率1.360)
【0147】
〔フッ素を有しない単量体(B)〕
・酸性基を有する単量体(B-1)
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジヒドロジェンホスフェート(屈折率1.460)
【0148】
・脂肪族系の二官能性の(メタ)アクリル酸エステル(B-3)
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(屈折率1.480)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート(屈折率1.460)
DD:1,10-デカンジオールジメタクリレート(屈折率1.460)
【0149】
・多官能性の(メタ)アクリルアミド(B-5)
MAEA:N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(化合物(3-1))(屈折率1.460)
【0150】
〔屈折率が1.450以上1.500以下である無機充填材(C)〕
SC2500-SMJ:球状微粒子シリカ(アドマテックス株式会社製、アドマファインSC2500-SMJ、平均粒子径0.4-0.6μm、非晶質、屈折率1.460)
YC100C-SM1:球状微粒子シリカ(アドマテックス株式会社製、アドマナノYC100C-SM1、平均粒子径0.1μm、非晶質、屈折率1.460)
SO-C5:球状微粒子シリカ(アドマテックス株式会社製、アドマファインSO-C5、平均粒子径1.3-1.7μm、非晶質、屈折率1.460)
Sciqas:球状微粒子シリカ(堺化学工業株式会社製、平均粒子径0.4μm、非晶質、屈折率1.470)
【0151】
〔重合開始剤(D)〕
CQ:dl-カンファーキノン
【0152】
〔屈折率が1.500超、かつ平均粒子径が200nm以下であるX線不透過性無機充填材(F)〕
YbF-20-AV330:フッ化イッテルビウム粒子(MATHYM社製、平均粒子径20-40nm、屈折率1.520)
YBF100:シリカコートフッ化イッテルビウム粒子(株式会社SG JAPAN製、平均粒子径110nm、球状、商品名「SG-YBF100」、屈折率1.530)
バリファイン BF-40:超微粒子硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、平均粒子径10nm、屈折率1.640)
バリファイン BF-1L:超微粒子硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、平均粒子径100nm、屈折率1.640)
ナノジルコニア TZ-0:ジルコニア粉末(東ソー株式会社製、平均粒子径20-30nm、商品名「TZ-0」、屈折率2.130)
【0153】
〔屈折率が1.500超、かつ平均粒子径が200nm超である無機充填材〕
無機充填材1:シラン処理珪石粉
珪石粉(株式会社ニッチツ製、商品名:ハイシリカ)をボールミルで粉砕し、粉砕珪石粉を得た。得られた粉砕珪石粉の平均粒子径をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて測定したところ、2.2μmであった(屈折率1.560)。この粉砕珪石粉100質量部に対して、常法により4質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理珪石粉を得た。
無機充填材2:シラン処理バリウムボロアルミノシリケートガラス
バリウムボロアルミノシリケートガラス(SCHOTT社製、GM27884 UF0.7グレード、平均粒子径:0.7μm、屈折率1.550)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン6g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、シラン処理バリウムボロアルミノシリケートガラスを得た。
【0154】
〔重合促進剤〕
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
〔重合禁止剤〕
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
[実施例1及び比較例1 歯科用組成物の歯科用コンポジットレジンへの適用]
<実施例1-1~1-11及び比較例1-1~1-4>
前記した成分を用いて、表1~2に記載の各成分を常温下で混合及び混練することにより、実施例1-1~1-11及び比較例1-1~1-4の歯科用コンポジットレジンを調製した。次いで、これらの歯科用コンポジットレジンを用い、後述の方法に従って、硬化物の透明性、硬化深度、曲げ強さ、表面硬度、及び色調再現性を測定した。表1~2に、各実施例及び比較例の歯科用コンポジットレジンの配合比(質量部)及び試験結果を示す。
【0155】
[硬化物の透明性]
スライドガラス上に、カバーガラス、さらにその上に直径20mm、厚さ1mmの円状のステンレス製金型をセットし、該金型内に各実施例、比較例で得られた歯科用組成物を少し溢れる程度に充填した。さらにその上から別のカバーガラス、続いてスライドガラスをかぶせ、金型から余剰な歯科用組成物を押し出すように上から力を加えた。これを、LED重合機「αライトV」(株式会社モリタ製)を用いて表裏各2分間ずつ照射し硬化させ、カバーガラス及びスライドガラス、金型を除去することで硬化物の試料を得た。
【0156】
透明性は、分光測色計(CM-3610d、(JIS Z 8722:2009、条件cに準拠)株式会社コニカミノルタジャパン製)を用いて評価した。具体的には、試料の背後に標準白板を置いて色度を測定した場合のJIS Z 8781-4:2013のL*a*b*表色系における明度指数L*を表す明度(L1)と、同じ試料の背後に標準黒板を置いて色度を測定した場合のL*a*b*表色系における明度指数L*を表す明度(L2)を測定し、両者の差(ΔL=L1-L2)を算出して、透明性の指標とした(N=1)。ΔLの値が大きいほど透明性が高いことを意味する。
【0157】
[硬化深度]
JIS T 6514:2015(歯科修復用コンポジットレジン)に従って、硬化深度を評価した。具体的には次のように行った。製造した歯科用組成物をステンレス製の金型(厚さ12mm、直径4mm)に充填した。上下面をフィルム、スライドガラスの順で重ね圧接し、片面からガラス板を外したフィルム圧接面から歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、10秒光照射して硬化させた。硬化物を金型から取り出した後、未硬化部分を拭き取り、マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)を用いて光照射面からの硬化深度を測定し、実測値の半分の値を硬化深度とし(N=5)、平均値を算出した。
【0158】
[曲げ物性]
ISO4049:2009に準拠して曲げ試験により強度を評価した。具体的には以下のとおりである。歯科用組成物をSUS製の金型(縦2mm×横25mm×厚さ2mm)に充填し、歯科用組成物(ペースト)の上下(2mm×25mmの面)をスライドガラスで圧接した。次いで、歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、スライドガラス越しに10秒間ずつ片面5箇所でペーストの裏表に光照射して歯科用組成物を硬化させた。得られた硬化物について、万能試験機「オートグラフAG-I 100kN」(株式会社島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/分で曲げ試験を実施し、曲げ強さを測定し(N=5)、平均値を算出した。
【0159】
[表面硬度]
各実施例及び比較例で調製した歯科用組成物のペーストを、スライドガラスの上に適量載せ、1mmのゲージ(株式会社ミツトヨ製)を用いて上下面をスライドガラスで圧接し、上側からのみ歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、10秒間光照射して硬化させ、直径10mm×厚さ1mmの円盤を作製した。綺麗な平滑面を#1500研磨紙を用いて乾燥条件下で研磨し、最後にダイヤモンドペーストで鏡面研磨した。ここで作製したサンプルを、微小硬さ試験機(HM-221、株式会社ミツトヨ製)を用いて、200gで10秒間荷重をかけて、ビッカース硬度(Hv)を測定し(N=5)、平均値を算出した。
【0160】
[色調再現性の評価]
適当量の顔料を配合した各実施例及び比較例で調整した歯科用組成物のペーストを用いて、I級窩洞とIV級窩洞に対して色調の再現性を評価した。具体的には、I級窩洞として、エンデュラポステリオ(株式会社松風製)の色調がM32A3の第1大臼歯を用いて、咬合面中央にBox状の窩洞(横約4mm、縦約3mm、深さ約2mm)を作製し、これに対して調整した歯科用組成物を充填し、成形後、歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、10秒間光照射して硬化し、研磨を行った。
【0161】
また、IV級窩洞として、VITAPAN classical(VITA社製)のシェードガイドにおける色調がA3のサンプルを用い、近心にBox状の窩洞(横約3mm、縦約4mm)を作製し、これに対して調製した歯科用組成物を充填し、成形後、歯科用可視光照射器「ペンキュアー2000」(株式会社モリタ製)で、10秒間光照射して硬化し、研磨を行った。修復した箇所の色調の再現性について、それぞれ下記基準で目視による評価を行った。
<修復歯牙との色調適合性>
A:I級窩洞とIV級窩洞の両方において、歯科用組成物の色調が周辺部位と良く適合している。
B:I級窩洞とIV級窩洞の両方において、歯科用組成物の色調が周辺部位と適合しているが、修復箇所が分かる。
C:I級窩洞とIV級窩洞の両方において、歯科用組成物の色調が周辺部位より明確に暗く適合していない。
【0162】
【0163】
【0164】
表1に示すように、本発明にかかる歯科用コンポジットレジン(実施例1-1~1-11)は、その硬化物が13.0以上の透明性を有し、かつ3.0mm以上の硬化深度を発現したことから、高い透明性と硬化深度を示すことが確認された。また、本発明にかかる歯科用コンポジットレジンは、良好な色調再現性を示すことを確認した。さらに、本発明にかかる歯科用コンポジットレジンは、表面硬度が28以上であることが確認された。それに対し、表2に示すように、屈折率が1.460未満であるフッ素含有単量体(A)を含まない、又は屈折率が1.450以上1.500以下である無機充填材(C)を含まない歯科用コンポジットレジン(比較例1-1~1-4)は、それぞれ透明性が13.0未満かつ硬化深度が3.0mm未満であり、透明性が十分でないことが確認され、色調再現性も十分でないことが確認された。また、比較例1-1及び1-2では、表面硬度も26以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明によれば、本発明にかかる歯科用組成物は、歯科医療の分野において、歯科用コンポジットレジン、歯科用セメントとして好適に用いられる。