(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240709BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240709BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2019209163
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-11-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】奥 武憲
【審査官】渡邊 捷太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-178625(JP,A)
【文献】国際公開第2019/106875(WO,A1)
【文献】特開2018-013914(JP,A)
【文献】国際公開第2014/064816(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/073289(WO,A1)
【文献】特開2011-081697(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042616(WO,A1)
【文献】特許第6308591(JP,B2)
【文献】特開平06-241955(JP,A)
【文献】特開2012-078142(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0146432(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G01M 99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力機械が発生する動力によって駆動する第一駆動体の動作状態を検出し、前記第一駆動体の動作状態に応じた第一検出信号を出力する第一センサと、
前記第一駆動体を介して伝達された動力によって駆動する第二駆動体の動作状態を検出し、前記第二駆動体の動作状態に応じた第二検出信号を出力する第二センサと、
前記第二駆動体の正常状態を表す診断モデルであって、前記第一センサによって予め取得された前記第一駆動体の過去の動作状態に応じた第一検出信号と前記第二センサによって予め取得された前記第二駆動体の過去の動作状態に応じた第二検出信号とに基づいて生成されたモデル生成用データを用いて生成される診断モデルと、前記第二検出信号に基づいて生成された診断用データとに基づいて、前記第二駆動体の動作状態を診断し、前記診断の結果に基づいて、前記第二駆動体単独での動作異常又は動作異常を起こした前記第一駆動体を介して伝達された動力によって前記第二駆動体に生じた前記第二駆動体の動作異常に関する動作異常信号を生成して出力する状態検知部と、
を備
え、
前記状態検知部は、前記診断用データに基づいて、前記モデル生成用データの主成分分析により生成された前記診断モデルとしてのマハラノビス空間における正常空間中心からの距離であって、前記診断モデルの単位空間を構成する主成分の方向のうちの前記第二駆動体の正常状態から逸脱する前記主成分の方向に対応する距離を算出し、算出した前記距離に基づいて、前記第二駆動体の動作が異常であるか否かを診断して、前記動作異常信号を生成する
診断装置。
【請求項2】
前記状態検知部は、前記第一検出信号及び前記第二検出信号に基づいて生成された前記診断用データを用いて前記第二駆動体の動作状態を診断する
請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記状態検知部は、前記第二駆動体に異常が生じたとみなした時点から過去の一定期間を予兆除外期間として設定し、前記予兆除外期間を除いた期間における前記モデル生成用データに基づいて生成された前記診断モデルを用いて、前記第二駆動体の動作状態を診断する
請求項1又は2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記状態検知部は、前記診断モデルを生成するモデル生成部を備え、
前記モデル生成部は、前記モデル生成用データのデータセットによるマハラノビス距離を用いて生成した正常空間モデルを前記診断モデルとする
請求項
1から3のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項5】
前記状態検知部は、前記診断モデルを生成するモデル生成部を備え、
前記モデル生成部は、前記モデル生成用データのデータセットによるマハラノビス距離を用いて生成した正常空間モデルを前記診断モデルとし、
前記モデル生成部は、
前記予兆除外期間を除いた期間における前記モデル生成用データのデータセットを複数の異なる前記予兆除外期間ごとに生成し、前記データセットのそれぞれに基づいて複数の正常空間モデルを生成し、
複数の前記正常空間モデルを全期間における前記モデル生成用データに適用し、
複数の前記正常空間モデルのうち、最も早期に前記第二センサのセンサデータの異常を検出したモデルを前記診断モデルとする
請求項
3に記載の診断装置。
【請求項6】
前記モデル生成部は、
前記予兆除外期間として第1の期間を設定し、前記第1の期間において得られた前記モデル生成用データに基づき第1の仮診断モデルを生成し、
前記予兆除外期間として、前記第1の期間と異なる第2の期間を設定し、前記第2の期間において得られた前記モデル生成用データに基づき第2の仮診断モデルを生成し、
前記第1の仮診断モデルから出力された第1の仮動作異常信号が示す第1の異常発生時期と、前記第2の仮診断モデルから出力された第2の仮動作異常情報が示す第2の異常発生時期との差が所定値未満であるとき、前記第1の期間または前記第2の期間のうちの短い期間を、前記予兆除外期間として設定する、
請求項
5に記載の診断装置。
【請求項7】
前記モデル生成部は、
前記モデル生成用データとして、過去に前記第一検出信号に基づいて生成された前記第一センサの変位、変位速度、変位加速度、もしくはこれらの時系列変化を示す特徴量、並びに過去に前記第二検出信号に基づいて生成された前記第二センサの変位、変位速度、変位加速度、もしくはこれらの時系列変化を示す特徴量のうちのいずれかを用いて前記診断モデルを生成する
請求項
5又は
6に記載の診断装置。
【請求項8】
前記モデル生成部は、
複数の前記モデル生成用データを用いた総当たり探索により、予兆除外期間に該当する第1のデータ集合と前記予兆除外期間の以外の期間に該当する第2のデータ集合との複数の組み合わせを生成し、
前記第1のデータ集合と前記第2のデータ集合とに基づいて算出されるF値が相対的に大きくなる組み合わせの前記モデル生成用データを用いて、前記診断モデルを生成する
請求項
7に記載の診断装置。
【請求項9】
前記モデル生成部は、
前記F値が相対的に大きくなる組み合わせの前記モデル生成用データに主成分分析を適用することにより、予兆除外期間におけるモデル生成用データと、予兆除外期間以外の期間におけるモデル生成用データとの分離性が高くなる2つのモデル生成用データを前記モデル生成用データから抽出し、抽出された2つのモデル生成用データを用いて、前記診断モデルを生成する
請求項
8に記載の診断装置。
【請求項10】
前記モデル生成部は、
前記モデル生成用データとして、過去に取得された前記第一検出信号に基づいて生成された時系列変化を示す特徴量である前記第一センサの変位の移動平均と、過去に取得された前記第二検出信号に基づいて生成された時系列変化を示す特徴量である前記第二センサの変位の移動平均とを用いて、前記診断モデルを生成する
請求項
4から8のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項11】
前記動力機械の動作状態を検出し、前記動力機械の動作状態に応じた第三検出信号を出力する第三センサを備え、
前記状態検知部は、前記第三センサによって予め取得した前記動力機械の過去の動作状態に応じた第三検出信号と、前記第一検出信号及び前記第二検出信号とに基づいて生成された前記診断モデルを備える
請求項1から
10のいずれか1項に記載の診断装置。
【請求項12】
前記診断モデルを生成するモデル生成部を備え、
前記モデル生成部は、
モデル生成用データとして、前記第一検出信号に基づいて生成された前記第一センサの変位、変位速度、変位加速度、もしくはこれらの時系列変化を示す特徴量、前記第二検出信号に基づいて生成された前記第二センサの変位、変位速度、変位加速度、もしくはこれらの時系列変化を示す特徴量、並びに前記第三検出信号に基づいて生成された前記第三センサの変位、変位速度、変位加速度、もしくはこれらの時系列変化を示す特徴量のうちのいずれかを用いて前記診断モデルを生成する
請求項
11に記載の診断装置。
【請求項13】
第一センサにより、動力機械が発生する動力によって駆動する第一駆動体の動作状態に応じた第一検出信号を取得することと、
第二センサにより、前記第一駆動体を介して伝達された動力によって駆動する第二駆動体の動作状態に応じた第二検出信号を取得することと、
前記第二駆動体の正常状態を表す診断モデルであって、前記第一センサによって予め取得した前記第一駆動体の過去の動作状態に応じた第一検出信号と前記第二センサによって予め取得した前記第二駆動体の過去の動作状態に応じた第二検出信号とに基づいて生成されるモデル生成用データを用いて生成される診断モデルと、前記第二検出信号に基づいて生成された診断用データとに基づいて、前記第二駆動体の動作状態を診断することと、
前記診断の結果に基づいて、前記第二駆動体の単独での動作異常又は動作異常を起こした前記第一駆動体を介して伝達された動力によって前記第二駆動体に生じた前記第二駆動体の動作異常に関する動作異常信号を生成する異常検知処理を実行することと、
を含
み、
前記第二駆動体の動作状態を診断する際に、前記診断用データに基づいて、前記モデル生成用データの主成分分析により生成された前記診断モデルとしてのマハラノビス空間における正常空間中心からの距離であって、前記診断モデルの単位空間を構成する主成分の方向のうちの前記第二駆動体の正常状態から逸脱する前記主成分の方向に対応する距離を算出し、算出した前記距離に基づいて、前記第二駆動体の動作が異常であるか否かを診断する
診断方法。
【請求項14】
第一センサにより、動力機械が発生する動力によって駆動する第一駆動体の動作状態に応じた第一検出信号を取得することと、
第二センサにより、前記第一駆動体を介して伝達された動力によって駆動する第二駆動体の動作状態に応じた第二検出信号を取得することと、
前記第二駆動体の正常状態を表す診断モデルであって、前記第一センサによって予め取得した前記第一駆動体の過去の動作状態に応じた第一検出信号と前記第二センサによって予め取得した前記第二駆動体の過去の動作状態に応じた第二検出信号とに基づいて生成されるモデル生成用データを用いて生成される診断モデルと、前記第二検出信号に基づいて生成された診断用データとに基づいて、前記第二駆動体の動作状態を診断することと、
前記診断の結果に基づいて、前記第二駆動体の単独での動作異常又は動作異常を起こした前記第一駆動体を介して伝達された動力によって前記第二駆動体に生じた前記第二駆動体の動作異常に関する動作異常信号を生成する異常検知処理を実行することと、
前記第二駆動体の動作状態を診断する際に、前記診断用データに基づいて、前記モデル生成用データの主成分分析により生成された前記診断モデルとしてのマハラノビス空間における正常空間中心からの距離であって、前記診断モデルの単位空間を構成する主成分の方向のうちの前記第二駆動体の正常状態から逸脱する前記主成分の方向に対応する距離を算出し、算出した前記距離に基づいて、前記第二駆動体の動作が異常であるか否かを診断すること
をコンピュータに実行させる診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、診断装置、診断方法及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラントや設備等の動作異常を検知する診断装置が知られている。このような設備は、複数の装置や部品が連結されて構成されており、連結された各部にセンサを配置し、各センサの出力に基づき各部の故障を検知することが行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、センサを配置した部分の運動エネルギーが低い場合、そのセンサの出力の挙動を監視するのみではセンサを配置した部分の故障の予兆を検出できないことがある。例えば、モータ、減速機、軸受け、撹拌部等が連結された撹拌設備において、撹拌部が低速回転(例えば100rpm以下)で運転される場合、軸受け等における運動エネルギーが低く、軸受けに配置したセンサからの出力のみから故障の予兆を検出することが困難であった。
【0005】
そこで、本開示は、センサを配置した部分の運動状態に関わらず、センサ配置部分の故障の予兆の検知が可能な診断装置、診断方法及び診断プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る診断装置は、動力機械が発生する動力によって駆動する第一駆動体の動作状態を検出し、第一駆動体の動作状態に応じた第一検出信号を出力する第一センサと、第一駆動体を介して伝達された動力によって駆動する第二駆動体の動作状態を検出し、第二駆動体の動作状態に応じた第二検出信号を出力する第二センサと、第二駆動体の正常状態を表す診断モデルであって、第一センサによって予め取得された第一駆動体の過去の動作状態に応じた第一検出信号と第二センサによって予め取得された第二駆動体の過去の動作状態に応じた第二検出信号とに基づいて生成されたモデル生成用データを用いて生成される診断モデルと、少なくとも第二検出信号に基づいて生成された診断用データとに基づいて、第二駆動体の動作状態を診断し、診断の結果に基づいて、第二駆動体の動作異常に関する動作異常信号を生成して出力する状態検知部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の他の態様に係る診断方法は、第一センサにより、動力機械が発生する動力によって駆動する第一駆動体の動作状態に応じた第一検出信号を取得することと、第二センサにより、第一駆動体を介して伝達された動力によって駆動する第二駆動体の動作状態に応じた第二検出信号を取得することと、第二駆動体の正常状態を表す診断モデルであって、第一センサによって予め取得した第一駆動体の過去の動作状態に応じた第一検出信号と第二センサによって予め取得した第二駆動体の過去の動作状態に応じた第二検出信号とに基づいて生成されるモデル生成用データを用いて生成される診断モデルと、少なくとも第二検出信号に基づいて生成された診断用データとに基づいて、第二駆動体の動作状態を診断することと、診断の結果に基づいて、第二駆動体の動作異常に関する動作異常信号を生成する異常検知処理を実行することを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の他の態様に係る診断プログラムは、第一センサにより、動力機械が発生する動力によって駆動する第一駆動体の動作状態に応じた第一検出信号を取得することと、第二センサにより、第一駆動体を介して伝達された動力によって駆動する第二駆動体の動作状態に応じた第二検出信号を取得することと、第二駆動体の正常状態を表す診断モデルであって、第一センサによって予め取得した第一駆動体の過去の動作状態に応じた第一検出信号と第二センサによって予め取得した第二駆動体の過去の動作状態に応じた第二検出信号とに基づいて生成されるモデル生成用データを用いて生成される診断モデルと、少なくとも第二検出信号に基づいて生成された診断用データとに基づいて、第二駆動体の動作状態を診断することと、診断の結果に基づいて、第二駆動体の動作異常に関する動作異常信号を生成する異常検知処理を実行することと、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、センサを配置した部分の運動状態に関わらず、部分の故障の予兆の検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る診断装置及び診断装置により異常状態が検知される撹拌装置の一構成例を示す模式図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る診断装置及び診断装置と接続されるサーバの一構成例を示す概略図である。
【
図3】本開示の第一実施形態に係るモデル生成方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本開示の第一実施形態に係るモデル生成方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の第一実施形態に係る診断装置において生成されるモデル生成用データの一例を示す図である。
【
図6】本開示の第一実施形態に係る診断装置において生成されるモデル生成用データの一例を示す図である。
【
図7】本開示の第一実施形態に係る診断方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本開示の第一実施形態に係る診断方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本開示の第二実施形態に係るモデル生成方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】本開示の第二実施形態に係るモデル生成方法の一例を説明する模式図である。
【
図11】本開示の第二実施形態に係るモデル生成方法の一例を説明する模式図である。
【
図12】本開示の第三実施形態に係るモデル生成方法の一例を示すフローチャートである。
【
図13】本開示の第三実施形態に係るモデル生成方法の一例を示すフローチャートである。
【
図14】本開示の第三実施形態に係るモデル生成部での処理を説明するためのグラフである。
【
図15】本開示の第三実施形態に係る診断装置で用いる診断モデルの単位空間を模式的に示す図である。
【
図16】本開示の第三実施形態に係る診断装置で用いる診断モデルを説明する図である。
【
図17】本開示の第四実施形態に係る診断装置及び診断装置と接続されるサーバの一構成例を示す概略図である。
【
図18】本開示の第二実施形態に係る診断方法の一例を示すフローチャートである。
【
図19】本開示の各実施形態に係る診断装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を通じて本実施形態に係る診断装置を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
また、このような診断装置は、汎用のコンピュータなどの情報処理装置であるハードウェアと、コンピュータプログラムであるソフトウェアとの協働によって実現される。コンピュータプログラムは、情報処理装置が備える一又は複数のプロセッサによって読み取り可能であり、ハードディスクにインストールされることによりプロセッサが診断装置の各部として機能する。
【0013】
1.第一実施形態
以下、第一実施形態に係る診断装置と、診断装置で実行される診断方法及び診断プログラムについて、
図1から
図8を参照して説明する。
本実施形態に係る診断装置は、モータ、減速機、軸受、撹拌部等が連結された撹拌設備の故障の予兆を診断する診断装置である。本実施形態の診断装置は、撹拌設備の各部にそれぞれ配置した複数のセンサそれぞれの出力の挙動と各センサ間の連動性(相関)とを監視することにより、撹拌設備の各部(保全対象部)の故障の予兆を検知する。本実施形態では、特に、他の部分に比べて交換作業が困難な軸受の故障の予兆を検知する場合について説明する。
【0014】
プラントや設備の一部に故障が発生した場合、修理のためにプラントや設備の操業を停止すると、周辺工場や物流等も停止する。プラントや設備の操業を停止する場合、周辺工場や物流等と連携した計画停止を行うことが好ましい。しかしながら、プラントや設備の故障予兆が故障の直前であった場合、計画停止を行うことは困難である。
また、例えばモータ、減速機、軸受及び撹拌部等が連結された撹拌設備では、センサにより各部の振動等を監視し、故障予兆があった場合であっても、故障予兆が撹拌設備のいずれの部位に起因するのかを切り分けることが困難である。
また、設備等においては故障の発生頻度が顕著に小さいため、予め異常発生時における設備の保全対象部の動作状態を取得しておくことが困難である。
以上に鑑み、本実施形態では、保全対象部の正常な動作状態に着目し、設備の保全対象部の動作状態が正常な動作状態から逸脱した場合に異常状態と判断するアノマリー検知の手法により故障予兆を行う。
【0015】
(1.1)診断装置により異常検知される装置(撹拌装置)の構成
図1は、診断装置1と、診断装置1により異常状態が検知される撹拌装置100とを示す診断システムの構成を示す。
撹拌装置100は、モータ(動力機械の一例)110と、減速機(第一駆動体の一例)120と、軸受(第二駆動体の一例)140とを備えており、減速機120はモータ110と軸受140との間に設けられている。また、撹拌装置100は、回転軸130と、撹拌部150と、タンク160とを備えている。撹拌装置100は、モータ110からの動力によって軸受140及び撹拌部150が回転駆動する攪拌機である。
【0016】
モータ110は、動力を発生し、撹拌部150を回転駆動させるための動力を減速機120に供給する。
減速機120は、モータ110から得た動力を減速し、撹拌部150を低速回転で駆動させるための動力を回転軸130に供給して撹拌部150を低速回転させる。
回転軸130は、減速機120から得た動力に応じて回転する。
軸受140は、例えばスラスト軸受、すべり軸受、転がり軸受等であり、撹拌部150がタンク160内の所定の位置で回転するように回転軸130を支持する。
【0017】
撹拌部150は、タンク160内の液体同士、又は液体と固体とを混ぜ合わせる機能を有している。撹拌部150は、モータ110を上流とした場合に、軸受140よりも下流に設けられている。
撹拌部150は、例えば、軸受140に固定された回転軸151と撹拌用羽根152とを備えている。撹拌用羽根152は、撹拌される材料に応じて、タービン型、オール型、プロペラ型、螺旋軸型等の形状を有している。
タンク160は、撹拌部150によって撹拌される液体や固体を収容する。
【0018】
診断装置1は、回転体として撹拌部150を有する低速回転機器である撹拌装置100において異常が発生していないかどうかを判断し、撹拌装置100の診断を行う。ここで、「低速回転」とは、回転体の回転数が300rpm以下又はdn値が20000mm・rpm以下程度であることをいう。本開示による診断装置1及び診断方法は、回転数が300rpm以下又はdn値が20000mm・rpm以下程度の回転体を有する低速回転機器の診断に好適である。また、本開示による診断装置1及び診断方法は、回転数が100rpm以下の回転体を有する低速回転機器の診断により好適である。低速回転機器では、撹拌装置100の他、例えば低速回転の押出機等であっても良い。
【0019】
(1.2)診断装置の構成
図2は、
図1に示す本実施形態に係る診断装置1の詳細な構成を示すブロック図である。
図2に示すように、診断装置1は、複数のセンサ10(第一センサ10A及び第二センサ10B)と、センサデータ処理部20と、記憶部30と、状態検知部40とを備えている。
また、診断装置1は、出力装置200及びサーバ300とそれぞれ接続されている。出力装置200及びサーバ300については後述する。
【0020】
<センサ>
センサ10は、撹拌装置100の各部に対して取り付けられ、撹拌装置100の各部の振動等を検出する。本実施形態では、2つのセンサ10(第一センサ10A及び第二センサ10B)を用いる場合について説明する。
【0021】
(第一センサ)
第一センサ10Aは、第一駆動体である減速機120の回転動作状態を検出するセンサである。第一センサ10Aは、減速機120の回転動作の状態を検出可能であればどのようなセンサであってもよい。第一センサ10Aとしては、減速機120の回転を光学式又は磁気式の手法により検出する回転検出センサ、減速機120の回転による振動を検出する振動センサ又は減速機120の回転により生じる回転音を検出する音響センサ等が用いられる。第一センサ10Aは、減速機120に接触せずに動作状態を検出する非接触式の回転検出センサであることが好ましい。
第一センサ10Aは、例えば、減速機120の動作状態に応じて得られた速度(回転速度又は振動速度)、加速度(回転加速度又は振動加速度)及び変位を示すセンサデータを第一検出信号S1として出力する。
【0022】
(第二センサ)
第二センサ10Bは、第二駆動体である軸受140の回転動作状態を検出するセンサである。第二センサ10Bは、軸受け140の回転動作の状態を検出可能であればどのようなセンサであってもよい。
第二センサ10Bは、例えば、軸受140の動作状態に応じて得られた速度(回転速度又は振動速度)、加速度(回転加速度又は振動加速度)及び変位を示すセンサデータを第二検出信号S2として出力する。
センサ10が出力する検出信号は、加速度、速度、変位、のいずれかの検出信号のみであってもよい。例えば、センサ10から出力された変位の検出信号に基づいて、後述するセンサデータ処理部20において速度、加速度の値を算出してもよい。
【0023】
<センサデータ処理部>
センサデータ処理部20は、第一センサ10A及び第二センサ10Bから、第一検出信号S1及び第二検出信号S2をそれぞれ取得する。センサデータ処理部20は、第一検出信号S1及び第二検出信号S2に対してデータ処理を行い、処理済データを生成する。
センサデータ処理部20は、第一検出信号S1及び第二検出信号S2の処理済みデータを、第一処理済信号S1’及び第二処理済信号S2’として記憶部30に出力する。
【0024】
また、センサデータ処理部20は、生成した複数の処理済データから、撹拌装置100の動作状態を診断するための診断用データとして用いる処理済データを抽出し、第一処理済信号S1’’及び第二処理済信号S2’’として状態検知部40に出力する。センサデータ処理部20では、軸受140の故障の予兆を検知するために、第一センサ10A及び第二センサ10Bから得たセンサデータの少なくとも一つを抽出し、データ処理を行って第一処理済信号S1’’又は第二処理済信号S2’’とする。
【0025】
以下、センサデータ処理部20におけるデータ処理の一例について詳細に説明する。
センサデータ処理部20は、第一センサ10Aから、減速機120の速度、加速度及び変位を示すセンサデータを第一検出信号S1として取得する。また、センサデータ処理部20は、第二センサ10Bから、軸受140の速度、加速度及び変位を示すセンサデータを第二検出信号S2として取得する。
【0026】
センサデータ処理部20は、減速機120から得た各センサデータをデータ処理することにより、減速機120の速度データのO/A(オーバオール)値、加速度データのO/A値及び変位データのO/A値、並びに加速度データのCF(クレストファクタ)値を得る。以下、速度、加速度及び変位のデータのO/A値を、速度OA、加速度OA及び変位OAと言い、加速度データのCF値を加速度CFと言う場合がある。また、センサデータ処理部20は、単位時間(例えば1時間)毎に、減速機120の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFの平均値、最大値及び最小値をそれぞれ算出する。
【0027】
同様に、センサデータ処理部20は、軸受140から得た各センサデータをデータ処理することにより、軸受140の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFを得る。また、センサデータ処理部20は、単位時間(例えば1時間)毎に、軸受140の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFの平均値、最大値及び最小値をそれぞれ算出する。
【0028】
センサデータ処理部20は、データ処理により得られた減速機120の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFの平均値、最大値及び最小値を、第一処理済信号S1’として記憶部30に出力する。また、センサデータ処理部20は、データ処理により得られた軸受140の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFの平均値、最大値及び最小値を、第二処理済信号S2’として記憶部30に出力する。
サーバ300では、記憶部30から得られた第一処理済信号S1’及び第二処理済信号S2’に含まれる処理済データをモデル生成用データとして、後述する診断モデル42を生成する。診断モデル42については後述する。
【0029】
センサデータ処理部20は、データ処理により得られた各処理済データのうち、第一検出信号S1及び第二検出信号S2に基づいて生成された処理済データを診断用データとして、状態検知部40に出力する。すなわち、センサデータ処理部20は、少なくとも第二センサ10Bのセンサデータをデータ処理した処理済データを診断用データとし、診断用データを含む第三処理済信号S3’を状態検知部40に出力する。
【0030】
なお、上述した形態は一例であり、センサデータ処理部20は、上述した速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFの平均値、最大値及び最小値のうちの少なくとも1つを出力してもよい。
また、センサデータ処理部20は、第一センサ10A及び第二センサ10Bから取得したセンサデータに基づいて他のセンサデータを算出しても良い。例えば、センサデータ処理部20は、第一センサ10A及び第二センサ10Bから速度を示すセンサデータを取得し、当該センサデータから加速度を示すセンサデータを算出しても良い。
【0031】
<記憶部>
記憶部30には、センサデータ処理部20から第一処理済信号S1’及び第二処理済信号S2’が入力される。記憶部30は、第一処理済信号S1’及び第二処理済信号S2’を記憶する。第一処理済信号S1’及び第二処理済信号S2’は、診断モデル42を生成するためのモデル生成用データや、撹拌装置100の動作状態を診断するための診断用データ等となる。
【0032】
<状態検知部>
状態検知部40は、サーバ300で生成された診断モデル42を備えている。状態検知部40は、診断モデル42と、第一検出信号S1及び第二検出信号S2の少なくとも一方とに基づいて生成された診断用データとに基づいて、軸受140の動作状態(軸受140の動作状態が異常であるか否か)を診断する。状態検知部40は、少なくとも、軸受140の動作異常を示す動作異常信号を出力装置200に出力する。また、状態検知部40は、軸受140の動作異常を示す動作異常信号を記憶部30に出力しても良い。
【0033】
診断モデル42は、軸受140の正常状態を示す診断モデルである。診断モデル42は、設備が正常に動作している場合のセンサデータを用いて生成した正常空間モデルである。診断モデル42は、現在のセンサデータに由来する判定用データを、正常空間中心からの確率距離であるマハラノビス距離を用いて評価する。マハラノビス距離の経時変化を監視し、マハラノビス距離が大きくなってきた場合、判定用データが正常空間から外れてきたことを意味する。診断モデル42は、減速機120の過去の動作状態に応じた第一検出信号S1と、軸受140の過去の動作状態に応じた第二検出信号S2とに基づいて生成されたモデル生成用データを用いて生成される。
【0034】
診断モデル42は、診断用データを入力として、軸受140の動作状態を示す動作状態データを出力する。
動作状態データは、例えば、軸受140の動作が異常であることを示す動作異常データ又は軸受140の動作が正常であることを示す動作正常データである。状態検知部40は、診断モデル42から出力された動作状態データが動作異常データである場合に、動作異常信号を生成し、出力装置200に出力する。
【0035】
以上説明した本実施形態の診断装置1は、以下の出力装置200及びサーバ300と接続されている。
【0036】
<サーバ>
サーバ300は、診断モデル42を生成するモデル生成部310を備えている。サーバ300は、
図1に示すように、サーバ300を操作するためのコンピュータ400と接続されていても良い。
モデル生成部310は、特徴抽出部311と、学習部312とを有している。
特徴抽出部311は、記憶部30から入力された、診断モデル42の生成に用いるモデル生成用データの特徴を抽出する。特徴抽出部311において特徴を抽出するアルゴリズムとしては、例えば、移動平均、周波数解析、平滑化法等を用いることができる。このようなアルゴリズムは、特徴量抽出プログラムとして特徴抽出部311内の図示しない記憶部に記憶されており、特徴量の抽出処理時には、例えば図示しないRAM(Random Access Memory)に展開される。
【0037】
特徴抽出部311は、入力されたモデル生成用データである速度、加速度及び変位の全てについて、時系列変化を示す特徴量を算出する変数変換を行い、さらなるモデル生成用データを生成する。時系列変化を示す特徴量とは、例えば所定期間の移動平均及び移動標準偏差等である。変数変換は、動作状態の推定の前処理である。換言すると、特徴抽出部311は、変数変換により時系列変化を示す特徴量を算出することで、モデル生成用データに含まれるデータの項目を増幅させる。
ここで、時系列変化を示す特徴量として用いられる、トレンドを示す所定期間の移動平均及びばらつきを示す所定期間の移動標準偏差は、保全対象部の故障の予兆傾向を捉えていると考えられる。このため、モデル生成用データとして時系列変化を示す特徴量を含む場合、診断モデル42の正常空間モデルとしての精度が向上する。
特徴抽出部311は、変数変換により生成されたモデル生成用データ(解析データ)を含むデータセットを学習部312に出力する。
【0038】
学習部312は、入力された解析データを含むデータセットを用いて正常空間モデルを生成する。学習部312は、既存の診断モデル42に対して、特徴抽出部311から入力された正常稼働時のセンサデータに基づくモデル生成用データを入力とする機械学習(追加学習)を行うことにより、新たな診断モデル42を生成する。
なお、モデル生成部310は、診断装置1の内部に設けられていても良い。
【0039】
<出力部>
出力装置200は、例えば例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro-Luminescence Display)等の表示装置である。また、出力装置200は、プリンタ等の印字機能を有する端末や、スピーカ等の音声出力部であっても良い。出力装置200は、診断装置1の状態検知部40と接続され、診断装置1から出力された撹拌装置100の診断結果(例えば撹拌装置100の動作異常情報)を取得する。
【0040】
出力装置200が表示装置である場合、出力装置200は、撹拌装置100の診断結果を表示する。この場合、出力装置200は、状態検知部40から取得した動作異常情報に基づいて、軸受140の異常に関する情報をグラフや図表として表示することができる。
【0041】
(1.3)診断モデルの生成
図2を参照しつつ
図3から
図6を用いて、本実施形態に係る診断装置1で用いられる診断モデル42の生成方法について説明する。本実施形態では、診断モデル42の生成にアノマリー検知の手法を用い、設備が正常に動作している場合のセンサデータを用いて生成した正常空間モデルを診断モデル42とする。
【0042】
図3は、サーバ300における診断モデル42の生成の一例を示すフローチャートである。
図3に示すように、診断モデル42を生成するためのモデル生成用データが記憶部30に蓄積される(ステップS11)。以下、
図4を用いて、ステップS11におけるモデル生成用データの蓄積処理について、ステップS111~S114により詳細に説明する。
【0043】
診断装置1では、図示しない演算装置等によって第一センサ10A及び第二センサ10Bからのセンサデータの検出タイミングが所定のタイミングに合致するか否かを判断する(ステップS111)。検出タイミングが所定のタイミングに合致すると判断された場合(ステップS111のYes)、第一センサ10A及び第二センサ10Bは、そのタイミングにおけるセンサデータを第一検出信号S1及び第二検出信号S2としてセンサデータ処理部20に出力する。センサデータ処理部20は、第一検出信号S1及び第二検出信号S2を受信することにより、第一センサ10A及び第二センサ10Bのセンサデータをそれぞれ取得する(ステップS112)。センサデータ処理部20は、第一センサ10A及び第二センサ10Bから所定周期で(例えば1時間ごとに)振動データ等のセンサデータを取得する。このとき、センサデータ処理部20は、所定時間(例えば30秒間又は軸受140の5回転分の時間)に亘り、センサデータを取得する。センサデータ処理部20は、センサデータとして、第一センサ10Aから減速機120の速度、加速度及び変位のデータを取得する。また、センサデータ処理部20は、センサデータとして、第二センサ10Bから軸受140の速度、加速度及び変位のデータを取得する。
【0044】
センサデータ処理部20は、第一センサ10A及び第二センサ10Bのセンサデータを含むデータ群をデータ処理することにより、モデル生成用データを生成する(ステップS113)。センサデータ処理部20は、モデル生成用データとして、例えば減速機120の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFそれぞれの平均値、最大値及び最小値のデータを生成する。また、センサデータ処理部20は、モデル生成用データとして、例えば軸受140の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFそれぞれの平均値、最大値及び最小値のデータを生成する。すなわち、センサデータ処理部20は、
図5に示す24項目のモデル生成用データを生成し、記憶部30に出力する。
【0045】
これらのモデル生成用データは、所定時間(例えば30秒間)において取得した減速機120及び軸受140の速度、加速度及び変位のデータに基づいて算出される。例えば、第二センサ10Bからの加速度に基づいて算出される加速度OAは、所定時間(例えば30秒間)における加速度の振動波形の平均的な高さを示し、軸受140の劣化を示す。また、第二センサ10Bからの加速度に基づいて算出される加速度CFは、加速度OAに対するピーク値(加速度の振動波形の最高値)の比であり、軸受140の状態の変化を捉えようとする値である。加速度CFは、欠陥の判定等に用いられる。
【0046】
センサデータ処理部20から出力された24項目のモデル生成用データは、記憶部30に記憶される(ステップS114)。記憶部30に記憶された24項目のモデル生成用データは、モデル生成用データの候補であっても良い。すなわち、記憶部30に記憶された24項目のモデル生成用データの全てがモデル生成に用いられず、24項目未満のモデル生成用データがモデル生成に用いられてもよい。
ステップS111~S114の処理が所定期間に亘って繰り返されることにより、モデル生成用データが記憶部30に蓄積される(ステップS11)。
【0047】
モデル生成部310は、記憶部30から診断モデル42の生成に用いるモデル生成用データを取得する(ステップS12)。モデル生成部310の特徴抽出部311は、取得された24項目のモデル生成用データ全てについて、例えば所定期間の移動平均及び移動標準偏差を算出する変数変換を行う(ステップS13)。このとき、モデル生成部310は、今回取得したモデル生成用データと、過去の所定期間に取得して記憶部30に記憶されたモデル生成用データとに基づいて、所定期間の移動平均及び移動標準偏差を算出する。算出された所定期間の移動平均及び移動標準偏差は、解析データに追加される。
【0048】
このとき、モデル生成部310は、軸受140に異常が生じたとみなした時点から過去の一定期間を、設備の保全対象部の故障の予兆が生じている期間とみなし、「予兆除外期間」として予め設定する。第一実施形態において、「予兆除外期間」はユーザの経験等により決定される。特徴抽出部311は、予兆除外期間を除いた期間(保全対象部の故障の予兆が生じていないとみなされた期間)におけるモデル生成用データを、学習部322に出力する。これにより、特徴抽出部311は、撹拌装置100が正常に動作していると想定される期間におけるモデル生成用データのみを、学習部322に出力することができる。
【0049】
ここで、解析データの項目数(S個)は、解析データの項目数(S個)=モデル生成用データの項目数(P個)+モデル生成用データの項目数(P個)×変数変換の種類数(K個)(すなわち、S=P(1+K))で表される。例えば、
図6は、一定期間中に取得された変位OAの平均値を、第1の所定期間(x1日)の移動平均及び移動標準偏差と、第2の所定期間(x2日)の移動平均及び移動標準偏差と、第3の所定期間(x3日)の移動平均及び移動標準偏差に変数変換した場合の解析データを示している。ここで、第2の所定期間(x2日)は第1の所定期間(x1日)より長く、第3の所定期間(x3日)は第1の所定期間(x1日)及び第2所定期間(x2日)よりも長いものとする。
図6に示すように、変位OAの平均値を上述した6種類の値に変数変換した場合、解析データの項目数(S個)は1×(1+6)=7個となる。同様に、残りの23項目のモデル生成用データに対して6種類の値への変数変換を行った場合、全ての解析データの項目数(S個)は24×(1+6)=168個となる。
特徴抽出部311は、変数変換により生成されたS個の解析データを含むデータセットを学習部312に出力する。
【0050】
続いて、学習部312は、S個の解析データを含むデータセットを用いて正常空間モデルを生成する。学習部312は、S個(例えば168個)の解析データの項目に出現し得る数値範囲の組み合わせにて正常空間を規定する。S個の解析データの具体的な分析手法としては、マハラノビス距離などを活用することができる。解析データの分析においてマハラノビス距離を用いる場合には、現在のセンサデータが正常空間の範囲内からいつ範囲外に出たかを単一指標でみることができる。
モデル生成部310は、以上のようにして生成した正常空間モデルを診断モデル42として決定する。モデル生成部310は、診断モデル42を複製して状態検知部40に送信する。状態検知部40は、送信された診断モデル42を記憶する。
【0051】
(1.4)診断装置の動作
図2を参照しつつ
図7及び
図8を用いて、本実施形態に係る診断装置1により実行される診断方法について説明する。
以下では、第一センサ10A及び第二センサ10Bから得たセンサデータの少なくとも一つを用いて軸受140の故障の予兆を検知する場合について説明する。
【0052】
図7は、診断装置1により実行される診断方法を示すフローチャートである。
図7に示すように、診断装置1では、図示しない演算装置等によって第一センサ10A及び第二センサ10Bからのセンサデータの検出タイミングが所定のタイミングに合致するか否かを判断する(ステップS21)。検出タイミングが所定のタイミングに合致すると判断された場合(ステップS21のYes)、第一センサ10A及び第二センサ10Bは、そのタイミングにおけるセンサデータを第一検出信号S1及び第二検出信号S2としてセンサデータ処理部20に出力する。
【0053】
センサデータ処理部20は、第一検出信号S1及び第二検出信号S2を受信することにより、第一センサ10A及び第二センサ10Bのセンサデータを取得する(ステップS22)。センサデータ処理部20は、第一センサ10A及び第二センサ10Bから所定周期で(例えば1時間ごとに)振動データ等のセンサデータを取得する。このとき、センサデータ処理部20は、所定時間(例えば30秒間又は軸受140の5回転分の時間)に亘り、センサデータを取得する。
【0054】
センサデータ処理部20は、第一センサ10A及び第二センサ10Bのセンサデータを含むデータ群をデータ処理することにより、判定用データを生成する(ステップS23)。センサデータ処理部20は、判定用データとして、減速機120及び軸受140の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFそれぞれの平均値、最大値及び最小値のデータを生成する。すなわち、センサデータ処理部20は、
図5に示す24項目の判定用データを生成し、状態検知部40に出力する。
【0055】
また、状態検知部40の特徴抽出部41は、入力された24項目の判定用データ全てについて、例えば時系列変化を示す特徴量(所定期間の移動平均及び移動標準偏差等)を算出する変数変換を行い、判定用データを生成する(ステップS23)。
ステップS23では、センサデータ処理部20におけるセンサデータのデータ処理と、特徴抽出部41における判定用データの変数変換により、判定用データを生成する。特徴抽出部41は、ステップS13における処理と同様に、今回取得した判定用データと過去の所定期間に取得して記憶部30に記憶された判定用データとに基づいて、所定期間の移動平均及び移動標準偏差を算出する。
センサデータ処理部20で生成された判定用データと、状態検知部40の特徴抽出部41で生成された判定用データは、それぞれ診断モデル42に入力される。
【0056】
状態検知部40は、正常空間モデルである診断モデル42と判定用データとに基づいて保全対象部の異常度合いを推定し、保全対象部の異常度合いを含む動作異常信号を生成する(ステップS24)。すなわち、判定用データを入力した際の診断モデル42の出力が動作異常信号となる。保全対象部の異常度合いは、例えば判定用データを用いて推定されたマハラノビス距離により示すことができる。診断モデル42は、現在のセンサデータに由来する判定用データを、正常空間中心からの確率距離であるマハラノビス距離を用いて評価する。マハラノビス距離の経時変化を監視し、マハラノビス距離が大きくなってきた場合、判定用データが正常空間から外れてきたことを意味する。
【0057】
診断モデル42は、動作異常信号に基づいて、保全対象部の異常度合いが予め定められた閾値以上となるか否かを判断する(ステップS25)。保全対象部の異常度合いが予め定められた閾値以上である場合(ステップS25のYes)、診断モデル42は、保全対象部の動作状態が異常状態であるものとして動作異常信号を出力装置200に出力する(ステップS26)。一方、保全対象部の異常度合いが予め定められた閾値以上でない場合(ステップS25のNo)、処理がステップS21に戻り、センサデータの取得が継続する。
【0058】
図8は、判定用データに基づいて得たマハラノビス距離で示される保全対象部の異常度合いの時系列での推論結果を示すグラフである。状態検知部40は、保全対象部の異常度合いに対して予め定められた閾値Dthを有している。状態検知部40は、保全対象部の異常度合いが閾値Dth以上となった場合(
図8中、異常度合いが三角で示される場合)に、保全対象部の動作状態が異常であるものとして、動作異常信号を出力装置200に出力する。出力装置200は、動作異常信号に基づいて診断装置1による撹拌装置100の診断結果を表示する。以上により、診断装置1による診断処理が終了する。
【0059】
ここで、保全対象部の診断は、
図4で説明したモデル生成用データ蓄積処理と並行して行われても良い。この場合、ステップS21のタイミング検出処理は、
図4に示すステップS111と同時に行われても良い。また、ステップS22のセンサデータ取得処理は、
図4に示すステップS112と同時に行われても良い。さらに、ステップS23の判定用データ生成処理は、
図4に示すステップS113のモデル生成用データ生成処理と同時に行われても良い。
【0060】
(1.5)診断プログラム
本実施形態に係る診断装置1により実行される診断プログラムについて説明する。診断装置1は、以下の(a)~(d)の各動作をコンピュータに実行させる診断プログラムに従って、診断を行う。以下の診断プログラムは、例えばハードディスクドライブ、メモリ等の記録媒体やDVDディスク又はBlu-ray(登録商標)等の光ディスクに記録される。以下のプログラムは、インターネットを介して配布されても良い。さらに、以下のプログラムは、クラウドサーバに記録され、インターネットを介して各ステップが実行されても良い。
【0061】
(a)第一センサにより、動力機械が発生する動力によって駆動する第一駆動体の動作状態に応じた第一検出信号を取得することと、
(b)第二センサにより、第一駆動体を介して伝達された動力によって駆動する第二駆動体の動作状態に応じた第二検出信号を取得することと、
(c)第二駆動体の正常状態を表す診断モデルであって、第一センサによって予め取得した第一駆動体の過去の動作状態に応じた第一検出信号と第二センサによって予め取得した第二駆動体の過去の動作状態に応じた第二検出信号とに基づいて生成されるモデル生成用データを用いて生成される診断モデルと、少なくとも第二検出信号に基づいて生成された診断用データとに基づいて、第二駆動体の動作状態を診断することと、
(d)診断の結果に基づいて、第二駆動体の動作異常に関する動作異常信号を生成する異常検知処理を実行すること
【0062】
<第一実施形態の効果>
第一実施形態に係る診断装置1では、以下の効果を有する。
(1)診断装置1は、センサから取得した保全対象部の速度、加速度及び変位等のセンサデータに基づいて診断モデル42を生成し、当該診断モデル42を用いて保全対象部の診断を行う。このとき、診断モデル42は、予め定められた予兆除外期間を除いた期間における生成用データを用いて生成される。予め定められた予兆除外期間は、設備の保全対象部の故障の予兆が生じている期間とみなした期間であり、軸受140に異常が生じたとみなした時点から過去の一定期間である。このため、診断装置1では、保全対象部が正常に動作しているとみなされた期間のモデル生成用データのみをモデル生成に用いるため、高い精度の診断モデルを得ることができる。
【0063】
(2)診断装置1は、上述した診断モデルを用いることにより、目的とする下流の保全対象部の故障予兆のみを検出し、上流の保全対象部の故障予兆には反応しないようにすることができる。このため、診断装置1は、より高い精度で故障予兆の検出を行うことができる。特に、複数の駆動体が連結され、ある動力発生源(動力機械)に対して下流側に位置する駆動体の故障予兆の検出に好適である。
【0064】
2.第二実施形態
以下、第二実施形態に係る診断装置と、診断装置で用いられる診断モデルの生成方法について、
図9から
図11を参照して説明する。
本実施形態に係る診断装置1では、診断モデル42に代えて診断モデル42Aを有する点で、第一実施形態に係る診断装置1と相違する。診断モデル42Aは、診断モデル42と異なる方法により生成された診断モデルである。
以下、モデル生成部310におけるモデル生成方法及び診断モデル42Aについて説明する。その他の各部は、診断装置1における同一の符号が付された各部と共通するため、説明を省略する。
【0065】
(2.1)診断装置の構成
<サーバ>
サーバ300は、診断モデル42Aを生成するモデル生成部310を備えている。
モデル生成部310は、特徴抽出部311と、学習部312とを有している。
特徴抽出部311は、軸受140に異常が生じたとみなした時点から過去の一定期間を、設備の保全対象部の故障の予兆が生じている期間とみなし、「予兆除外期間」として設定する。第二実施形態において、「予兆除外期間」は、サーバ300において最適な期間が探索されて決定される点で第一実施形態の「予兆除外期間」と相違する。特徴抽出部311は、予兆除外期間を除いた期間(すなわち、保全対象部の故障の予兆が生じていないとみなされた期間)におけるモデル生成用データを、学習部322に出力する。
学習部312は、予兆除外期間を除いた期間におけるモデル生成用データに基づいて生成された正常空間モデルを、診断モデル42Aとする。
診断モデル42Aは、保全対象部の故障の予兆が生じている期間におけるセンサデータをモデル生成用データとして用いていない。このため、診断モデル42Aの正常空間モデルは、より精度の高い正常空間モデルとなる。
【0066】
(2.2)診断モデルの生成
図2を参照しつつ
図9を用いて、本実施形態に係る診断装置1で用いられる診断モデル42Aの生成方法について説明する。
なお、
図9におけるステップS31~ステップS33は、第一実施形態におけるステップS11~ステップS13(
図3参照)と同様の処理であるため、説明を省略する。
【0067】
モデル生成部310の特徴抽出部311は、予め設定した複数の異なる予兆除外期間ごとにモデル生成用データのデータセットを生成する(ステップS34)。モデル生成用データは、予兆除外期間を除いた期間に取得されるデータであり、予兆除外期間を除いた期間に取得されるデータを統合してデータセットが生成される。
例えば、モデル生成部320は、予兆除外期間として第1の期間(y1月)、第2の期間(y2月)及び第3の期間(y3月)を設定する。モデル生成部320は、第1の期間(y1月)を除いた期間(
図10(A)において斜線で示す期間を除いた期間)におけるモデル生成用データの第1のデータセットを生成する。モデル生成部320は、第2の期間(y2月)を除いた期間(
図10(B)において斜線で示す期間を除いた期間)におけるモデル生成用データの第2のデータセットを生成する。モデル生成部320は、第3の期間(y3月)を除いた期間(
図10(C)において斜線で示す期間を除いた期間)におけるモデル生成用データの第3のデータセットを生成する。
【0068】
モデル生成部310の学習部312は、複数の異なる予兆除外期間ごとに生成されたデータセットのそれぞれに基づいて、複数の正常空間モデルを生成する(ステップS35)。
例えば、モデル生成部320は、予兆除外期間として第1の期間(y1月)を設定し、第1の期間(y1月)において得られた第1のデータセットに基づいて正常空間モデルを生成し、第1の仮診断モデルとする。モデル生成部320は、予兆除外期間として第2の期間(y2月)を設定し、第2の期間(y2月)において得られた第2のデータセットに基づいて生成した正常空間モデルを第2の仮診断モデルとする。モデル生成部320は、予兆除外期間として第3の期間(y3月)を設定し、第3の期間(y3月)において得られた第3のデータセットに基づいて生成した正常空間モデルを第3の仮診断モデルとする。
【0069】
モデル生成部310は、学習部312で生成された複数の正常空間モデル(第1の仮診断モデル~第3の仮診断モデル)を、全期間(予兆除外期間を含む)におけるモデル生成用データに適用する。
図11(A)~
図11(C)は、第1、第2、第3の仮診断モデルを全期間におけるモデル生成用データに適用することで、仮診断を行った例を示している。
図11(A)に図示されるデータのプロットは、第1のデータセット(
図11(A))に含まれるモデル生成用データである。同様に、
図11(B)及び
図11(C)に図示されるデータのプロットは、それぞれ、第2のデータセット(
図11(B))、または、第3のデータセット(
図11(C))に含まれるモデル生成用データである。
モデル生成部310は、複数の正常空間モデルのうち、最も早期に第二センサ10Bのセンサデータの異常を検出したモデルにおける予兆除外期間を、診断装置1における予兆除外期間に決定する(ステップS36)。また、モデル生成部310は、最も早期に第二センサ10Bのセンサデータの異常を検出したモデルを診断モデル42Aに決定する(ステップS38)。
【0070】
このとき、モデル生成部320は、第1の仮診断モデルから出力された第1の仮動作異常信号が示す第1の異常発生時期と、第2の仮診断モデルから出力された第2の仮動作異常情報が示す第2の異常発生時期との差を算出する。モデル生成部320は、第1の異常発生時期及び第2の異常発生時期との差が所定値未満であるとき、第1の期間(y1)または第2の期間(y2)のうちの短い期間を、予兆除外期間として設定する。
第3の期間(y3)が設定されている場合も同様にして、第1の期間(y1)から第3の期間(y3)のうちの最も短い期間を、予兆除外期間として設定する。
【0071】
以下、予兆除外期間の設定の具体例を、
図11(A)~
図11(D)に基づき説明する。例えば
図11(A)~
図11(C)に示すように、第1の仮診断モデル~第3の仮診断モデルを、全期間におけるモデル生成用データに適用した場合、
図11(C)に示す第3の仮診断モデルが最も早期に第二センサ10Bのセンサデータの異常を検出している。このため、モデル生成部310は、第3の仮診断モデルにおける予兆除外期間(y3月)を診断装置1における予兆除外期間に決定する。また、モデル生成部310は、第3の仮診断モデルを診断モデル42Aに決定する。
【0072】
図11(D)は、予兆除外期間を1月ごとに設定した場合における、診断装置1の予兆検出可能日数を上述した方法により検出した結果を示すグラフである。ここで、予兆検出可能日数は、実際に故障とみなされた比を基準として、何日前に予兆の検出が可能であったかを示す日数である。
図11(D)に示す結果より、予兆除外期間が(N-3)カ月からNカ月に長くなるにつれて予兆検出可能日数が増加するものの、予兆除外期間がNカ月を超えると予兆検出可能日数が略一定となる。この結果から、予兆除外期間をNカ月と設定することにより、予兆検出可能日数を長くし、かつ予兆除外期間以外の期間(正常期間)を長くとってモデル生成用データ及び診断用データのデータ数を多くすることができる。
以上により、診断モデル42Aの生成処理が終了する。
【0073】
<第二実施形態の効果>
第二実施形態に係る診断装置1では、第一実施形態における効果に加えて、以下の効果を有する。
(3)本実施形態では、診断モデル生成時に、複数の異なる予兆除外期間ごとにモデル生成用データのデータセットを生成し、データセットのそれぞれに基づいて、複数の正常空間モデルを生成し、仮診断モデルとする。また、仮診断モデルを、全期間におけるモデル生成用データに適用し、仮診断を行う。仮診断の結果から、最も早期にセンサデータの異常を検出したモデルを診断モデルとして採用する。このため、診断装置1は、より精度の高い診断モデルにより診断を行うことができる。
【0074】
3.第三実施形態
以下、第三実施形態に係る診断装置と、診断装置で用いられる診断モデルの生成方法について、
図12から
図16を参照して説明する。
本実施形態に係る診断装置1では、診断モデル42に代えて診断モデル42Bを有する点で、第一実施形態に係る診断装置1と相違する。診断モデル42Bは、診断モデル42及び診断モデル42Aと異なる方法により生成された診断モデルである。
以下、モデル生成部310におけるモデル生成方法及び診断モデル42Bについて説明する。その他の各部は、診断装置1における同一の符号が付された各部と共通するため、説明を省略する。
【0075】
(3.1)診断装置の構成
<サーバ>
サーバ300は、診断モデル42Bを生成するモデル生成部310を備えている。
モデル生成部310は、特徴抽出部311と、学習部312とを有している。
特徴抽出部311は、軸受140に異常が生じたとみなした時点から過去の一定期間を、設備の保全対象部の故障の予兆が生じている期間とみなし、「予兆除外期間」として設定する。
また、特徴抽出部311は、予兆除外期間の検出能力を高めるために、複数のモデル生成用データから、ノイズとなるモデル生成用データを除外する。特徴抽出部311は、予兆除外期間を除いた期間(すなわち、保全対象部の故障の予兆が生じていないとみなされた期間)において取得され、かつノイズとなるデータが除外されたモデル生成用データを、学習部322に出力する。
本実施形態において、モデル生成用データに含まれるノイズを除外する処理は、モデル生成用データに含まれる複数の解析データの項目から、予兆に適した特定の項目を抽出することに相当する。ここで、特定の項目は、予兆診断に適する少なくとも1つの項目であってよく、2以上の項目(組み合わせ)であってもよい。
学習部312は、予兆除外期間を除いた期間において取得され、かつノイズとなるモデル生成用データが除外されたモデル生成用データに基づいて生成された正常空間モデルを、診断モデル42Bとする。
診断モデル42Bは、保全対象部の故障の予兆が生じている期間におけるセンサデータノイズとなるデータが除外されたモデル生成用データに基づいて生成されている。このため、診断モデル42Bの正常空間モデルは、より精度の高い正常空間モデルとなる。
【0076】
(3.2)診断モデルの生成
図2を参照しつつ
図12及び
図13を用いて、本実施形態に係る診断装置1で用いられる診断モデル42Bの生成方法について説明する。
なお、
図12におけるステップS41~ステップS46は、第二実施形態におけるステップS31~ステップS36(
図9参照)と同様の処理であるため、説明を省略する。
【0077】
モデル生成部310の特徴抽出部311は、診断モデル42Bの生成に用いられるモデル生成用データの組み合わせを最適化する(ステップS47)。以下、ステップS47におけるモデル生成用データの組み合わせ最適化処理について、
図13のステップS471~ステップS474により詳細に説明する。
【0078】
状態検知部40は、モデル生成用データの主成分分析により生成された診断モデル42Bを用いて動作異常情報を生成する
モデル生成部310は、複数のモデル生成用データを用いた総当たり探索により、予兆除外期間に該当する第1のデータ集合と予兆除外期間以外の期間(正常期間)に該当する第2のデータ集合との複数の組み合わせを生成し、各組み合わせのF値を算出する(ステップS471)。
【0079】
図14(A)は、減速機120及び軸受140の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFそれぞれの平均値、最大値及び最小値のデータと、これらのデータをx1日移動平均及びx1日移動標準偏差、x2日移動平均及びx2日移動標準偏差、並びにx3日移動平均及びx3日移動標準偏差に変数変換した168個(168項目)のデータによるマハラノビス距離を時系列で示すグラフである。本実施形態では、診断モデルの検出能力を測る指標として、診断モデルによって正常と診断されたデータ群と、予兆(異常)があると診断されたデータ群との分布の差を表すF値を用いる。なお、指標は、F値に限定されず、双方のデータ群の分布の差を表す指標であればよい。例えば、平均値の差、標準偏差の差を用いることができ、また、例えば、LDA(線形判別分析)等の多変量解析により、データ群の分布の差を表してもよい。
【0080】
図14(B)に示すように、モデル生成部310は、
図14(A)のグラフに示すマハラノビス距離を、予兆除外期間におけるマハラノビス距離(図中、三角で示す)と、予兆除外期間以外の期間(正常期間)におけるマハラノビス距離(図中、丸で示す)とに分類する。ここで、
図14(B)は、
図14(A)に示すマハラノビスよりを対数変換した値である。モデル生成部310は、予兆除外期間のマハラノビス距離と、正常期間のマハラノビス距離の分布域をF値を用いて比較する。モデル生成部310は、予兆除外期間のマハラノビス距離の平均値μ1、正常期間のマハラノビス距離の平均値μ2及び全体のマハラノビス距離の平均値μtotalを用いて、以下の式(1)からF値を算出する。
F=群間変動V
A/群内変動Ve
={n2(μtotal-μ2)
2+n1(μtotal-μ1)
2}/[{Σ(x-μ
2)
2+Σ(x-μ1)
2}/n-2] ・・・(1)
ここで、F値を用いるF検定は、2つのデータ群の分布が等しいかを検定する。
【0081】
図14(B)は、上述した式により、F値は1.5×10
k(kは0以上の整数)である例を示している。このF値は、F検定によれば、有意に2つのデータ群の分布が等しくないことを示す。
【0082】
続いて、モデル生成部310は、第1のデータ集合と第2のデータ集合とに基づいて算出されるF値を比較し、F値が相対的に大きくなる組み合わせのモデル生成用データを検出する(ステップS472)。このとき、モデル生成部310は、F値が最も大きくなる組み合わせのモデル生成用データを検出することがより好ましい。モデル生成部310は、
図14(B)に示すデータ群から、例えばF値が4.5×10
k(kは0以上の整数)となる16個のモデル生成用データの組み合わせを抽出する。モデル生成用データの組み合わせを168個から16個に減らすことにより、F値を3倍程度に大きくすることができる。
【0083】
続いて、モデル生成部310は、ステップS472において検出された組み合わせのモデル生成用データに対して主成分分析を適用する(ステップS473)。これにより、モデル生成部310は、16個(16項目)のモデル生成用データから、例えば、主要な2個のモデル生成用データを抽出する(ステップS474)。
【0084】
モデル生成部310は、F値が相対的に大きくなる組み合わせのモデル生成用データに主成分分析を適用し、予兆除外期間におけるモデル生成用データと、予兆除外期間以外の期間におけるモデル生成用データとの分離性が高くなる2つのモデル生成用データを抽出する。モデル生成部310は、例えば、モデル生成用データとして、減速機120の変位の移動平均と、軸受140変位の移動平均を抽出する。減速機120の変位の移動平均は、過去に取得された第一検出信号S1に基づいて生成された時系列変化を示す特徴量であり、軸受140変位の移動平均は、過去に取得された第二検出信号に基づいて生成された時系列変化を示す特徴量である。
【0085】
図15は、要となる2個のモデル生成用データとして軸受140の変位の移動平均及び減速機120の変位の移動平均が抽出された場合における、診断モデル42Bの単位空間を模式的に示す図である。
図15に示すように、正常期間におけるデータ(丸で示す)は、楕円で示す領域に集中しており、軸受140の変位の移動平均と減速機120の変位の移動平均とには高い相関関係があることがわかる。一方、予兆除外期間におけるデータ(三角で示す)は、楕円で示す領域に存在せず、上述した相関関係から逸脱していることがわかる。
図16は、診断モデル42Bの単位空間に対して主成分分析を行った結果を示しており、第1主成分は、2変数の相関の方向(楕円の長径方向)の成分、第2主成分は、2変数の相関の方向(楕円の長径方向)から直交回転させた方向の成分を示している。
主成分方向に基づいて、軸受140の変位の移動平均及び減速機120の変位の移動平均の相関関係を説明すると、予兆除外期間における軸受140の変位の移動平均(三角で示す)の第2主成分の方向に対応する距離は、軸受140の変位の移動平均及び減速機120の変位の移動平均の相関関係(楕円形で示す領域)から逸脱している。一方、診断モデル42Bの単位空間では、予兆除外期間外における軸受140の変位の移動平均(円形で示す)の第2主成分の方向に対応する距離は、軸受140の変位の移動平均及び減速機120の変位の移動平均の相関関係(楕円形で示す領域)からほとんど逸脱しない。
これによれば、第2主成分方向の値の変動を監視することで、正常期間(正常動作時)における、軸受140と減速機120との動作状態からの逸脱度、すなわち、軸受140の異常およびその予兆を精度よく検出することができる。
【0086】
以上のようにして生成した
図16(A)に示す診断モデル42Bを用いて保全対象部の診断を行う場合、状態検知部40は、診断モデル42Bの単位空間を構成する第2主成分に対応する診断用データを少なくとも取得する。
状態検知部40は、減速機120の変位の移動平均と軸受140の変位の移動平均とにより構成された診断モデル42Bの単位空間における第2主成分の方向であって、正常状態から逸脱する方向に対応する距離を算出し、算出した距離に基づいて軸受140の動作が異常であるか否かを検知する。状態検知部40は、軸受140の変位の移動平均の距離が、診断モデル42Bにおける第1主成分及び第2主成分の相関関係から逸脱する方向に外れる場合には、軸受140の動作が異常であると判断する。
【0087】
図16(B)は、第2主成分に基づいて算出された危険度の時系列変化を示すグラフである。ここで、危険度は、例えば以下の式(2)により示される。
危険度=a1×(軸受140の変位の移動平均)-a2×(減速機120の変位の移動平均)-a3 ・・・(2)
ここで、a1、a2、a3、は、それぞれ係数である。
図16(B)に示すように、第2主成分に基づいて保全対象部の診断を行った場合、保全対象部の故障の数か月以上前に動作異常を検知することができる。
【0088】
<第三実施形態の効果>
第三実施形態に係る診断装置1では、第一実施形態及び第二実施形態における効果に加えて、以下の効果を有する。
(4)本実施形態の診断装置1では、診断モデル生成時に、センサデータから得たモデル生成用データから、モデル生成用データに含まれる複数のデータ項目から、正常と異常(予兆)との分離性が相対的に高いデータ項目を絞り込むことができる。診断装置1は、F値が相対的に大きくなる組み合わせのモデル生成用データを取得し、また、F値が相対的に大きくなる組み合わせのモデル生成用データに主成分分析を適用することにより、予兆除外期間におけるモデル生成用データと予兆除外期間以外の期間におけるモデル生成用データの分離性が高くなるモデル生成用データの組み合わせを抽出するものである。
このようなモデル生成用データにより生成された診断モデルを用いることにより、診断装置1は、さらに精度の高い診断を行うことができる。また、本実施形態では、168個のデータ項目を2個に絞り込みを行う例を示した。この例によれば、相対的に動力源から下流側に位置する駆動体である軸受の異常を、通常動作時からの逸脱度により検出することができる。さらに、その故障原理の物理メカニズムを理解できる程度まで変数の絞込が行われることから、異常診断における説明性が向上する。
【0089】
4.第四実施形態
以下、第四実施形態に係る診断装置2について、
図17及び
図18を参照して説明する。
本実施形態に係る診断装置2では、第一センサ10A及び第二センサ10Bに加えて、減速機120及び軸受140の上流に設けられるモータ110の振動データ等を検出する第三センサ10Cを有する点で、第一から第三実施形態に係る診断装置1と相違する。
以下、診断装置1の第三センサ10Cの構成について説明する。その他の各部は、診断装置1における同一の符号が付された各部と共通するため、説明を省略する。
【0090】
(4.1)診断装置の構成
(第三センサ)
第三センサ10Cは、動力機械であるモータ110の回転動作状態を検出するセンサである。第三センサ10Cは、モータ110の回転動作の状態を検出可能であればどのようなセンサであってもよい。
第三センサ10Cは、モータ110の動作状態を検出し、モータ110の動作状態に応じて得られた速度(回転速度又は振動速度)、加速度(回転加速度又は振動加速度)及び変位を示すセンサデータを第三検出信号S3として出力する。
第三検出信号S3は、第一検出信号S1及び第二検出信号S2と同様に、モデル生成用データ及び診断等データとされる。
【0091】
(4.2)診断装置の動作
図17を参照しつつ
図18を用いて、本実施形態に係る診断装置2により実行される診断方法について説明する。
以下では、第一センサ10Aから第三センサ10Cのそれぞれから得たセンサデータの少なくとも一つを用いて軸受140の故障の予兆を検知する場合について説明する。
なお、
図18におけるステップS51、ステップS55及びステップS56は、第一実施形態におけるステップS21、ステップS25及びステップS26(
図7参照)と同様の処理であるため、説明を省略する。
【0092】
センサデータ処理部20は、第一検出信号S1から第三検出信号S3を受信することにより、第一センサ10Aから第三センサ10Cのセンサデータを取得する(ステップS52)。
センサデータ処理部20は、第一センサ10Aから第三センサ10Cのセンサデータを含むデータ群をデータ処理することにより、判定用データを生成する(ステップS53)。センサデータ処理部20は、判定用データとして、モータ110、減速機120及び軸受140の速度OA、加速度OA及び変位OA、並びに加速度CFそれぞれの平均値、最大値及び最小値のデータを生成する。すなわち、センサデータ処理部20は、36項目の判定用データを生成し、状態検知部40に出力する。
【0093】
また、状態検知部40の特徴抽出部41は、入力された36項目の判定用データ全てについて、例えば時系列変化を示す特徴量(所定期間の移動平均及び移動標準偏差等)を算出する変数変換を行い、判定用データを生成する(ステップS53)。特徴抽出部41は、ステップS13と同様に、今回取得した判定用データと過去の所定期間に取得して記憶部30に記憶された判定用データとに基づいて、所定期間の移動平均及び移動標準偏差を算出する。
状態検知部40は、正常空間モデルである診断モデル42Cと判定用データとに基づいて保全対象部の異常度合いを推定し、保全対象部の異常度合いを含む情報を動作異常信号を生成する(ステップS54)。
【0094】
診断モデル42Cは、動作異常信号に基づいて、保全対象部の異常度合いが予め定められた閾値以上となるか否かを判断する(ステップS55)。保全対象部の異常度合いが予め定められた閾値以上である場合(ステップS55のYes)、診断モデル42は、保全対象部の動作状態が異常状態であるものとして動作異常信号を出力装置200に出力する(ステップS56)。一方、保全対象部の異常度合いが予め定められた閾値以上でない場合(ステップS55のNo)、処理がステップS51に戻り、センサデータの取得が継続する。
【0095】
<第四実施形態の効果>
第四実施形態に係る診断装置2では、第一から第四実施形態における効果に加えて、以下の効果を有する。
(5)本実施形態では、センサ10として、減速機120の振動データ等を取得する第一センサ10Aと、軸受140の振動データ等を取得する第二センサ10Bとともに、モータ110の振動データ等を取得する第三センサ10Cを備えている。このため、より多くの保全対象部のセンサデータ同士の関連性に基づいて故障予兆の検知を行うことができる。
【0096】
5.ハードウェア構成
以下、各実施形態に係る診断装置1,2のハードウェア構成の一例について詳細に説明する。
【0097】
図19に示すように、診断装置1は、メモリを含む記憶部1001と、プロセッサを含む演算部1002と、を備える演算装置である。診断装置1は、さらに、ネットワークを介して他の演算装置と情報を送受信するための通信インタフェース(以下、「通信I/F」と称する。)1003、保全対象部に設けられたセンサ10が検出する情報を取得する外部インタフェース(以下、「外部I/F」)1004と、を備える。
【0098】
診断装置1は、保全対象部に設けられたセンサ10が検出する情報に基づき、当該保全対象部の異常の度合いを推定し、出力装置200に出力するように構成されている。なお、診断装置1は、他の演算装置とネットワークを介して接続されていてもよい。このとき、診断装置1は、図*に示すように、他の演算装置及び、ネットワークを介して、センサ10が検出する情報を取得してもよい。
【0099】
演算部1002は、ハードウェアプロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)1002A、RAM(Random Access Memory)1002B、及びROM(Read Only Memory)1002Cを含む。演算部1002は、後述する記憶部1001に記憶された所定のプログラムを実行することにより、特定の情報処理を実行する。なお、ハードウェアプロセッサとしては、CPU1002Aに限定されず、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の各種プロセッサを用いてもよい。
【0100】
記憶部1001は、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等のメモリにより構成される補助記憶装置であり、演算部1002による特定の情報処理に必要な所定のプログラム及び所定のデータを記憶している。本開示において、記憶部1001は、少なくとも、演算部1002が所定の情報処理を実行するための診断プログラムや、モデル生成用データ、判定用データ等を記憶している。なお、所定のデータ及び所定のプログラムは、常時記憶部1001に記憶されていなくてもよく、例えば、演算部1002が行う情報処理に必要な時に、他の演算装置の記憶部からネットワークを介して取得されてもよい。記憶部1001は、
図2における記憶部30に相当する。
【0101】
また、診断装置1は、CDドライブ、DVDドライブ等の、記憶媒体1006に記憶されたデータ及びプログラムを読み込むためのドライブ装置1005をさらに備えていてもよい。診断装置1は、所定のデータ及び所定のプログラムを、ドライブ装置1005を介して記憶媒体1006から読み込んでもよい。
【0102】
通信I/F1003は、例えば、有線LANモジュール、無線LANモジュール等であり、ネットワークを介した有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。なお、診断装置1は、入力装置1007、出力装置(表示装置)1008をさらに備えていてもよい。入力装置1007としては、マウス、キーボード、タッチパネル等を用いることができる。出力装置1008としてはディスプレイ、スピーカ等を用いることができる。
診断装置2は、上述した診断装置1と同様の構成を有している。
【0103】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の技術的範囲には限定されない。上述した実施形態に、多様な変更又は改良を加えることも可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0104】
1,2 診断装置
10 センサ
10A 第一センサ
10B 第二センサ
10C 第三センサ
20 センサデータ処理部
30 記憶部
40 状態検知部
41 特徴抽出部
42,42A,42B,42C 診断モデル
100 撹拌装置
110 モータ
120 減速機
130 回転軸
140 軸受
142 撹拌用羽根
150 撹拌部
151 回転軸
152 撹拌用羽根
160 タンク
200 出力装置
300 サーバ
310 モデル生成部
311 特徴抽出部
312 学習部
320 モデル生成部
322 学習部
400 コンピュータ
411 特徴抽出部
1001 記憶部
1002 演算部
1003 通信インタフェース
1004 外部インタフェース
1005 ドライブ装置
1006 記憶媒体
1007 入力装置
1008 出力装置