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特許7517815マルチジョイント医療器具の作動における張力制御
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】マルチジョイント医療器具の作動における張力制御
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/30 20160101AFI20240709BHJP
   B25J 18/06 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61B34/30
B25J18/06
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019219828
(22)【出願日】2019-12-04
(62)【分割の表示】P 2017130050の分割
【原出願日】2011-10-28
(65)【公開番号】P2020039922
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2019-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】12/945,734
(32)【優先日】2010-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510253996
【氏名又は名称】インテュイティブ サージカル オペレーションズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】オウ,サミュエル ウォク ワイ
(72)【発明者】
【氏名】プリスコ,ギュセッペ マリア
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】村上 哲
【審判官】井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-31662(JP,A)
【文献】特開2010-149274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0280659(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0082041(US,A1)
【文献】広瀬茂男,馬書根,“ワイヤ干渉駆動型多関節マニピュレータの開発”,計測自動制御学会論文集,1990年11月,Vol.26,No.11,p.1291-1298
【文献】馬書根,広瀬茂男,“ワイヤ干渉駆動型多関節マニピュレータの動的制御法”,日本機械学会論文集(C編),1995年11月,61巻,591号,p.4359-4364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30
B25J 18/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位先端、ジョイント、及び複数の伝達システムを有する医療器具を駆動するための医療器具システムであって、前記ジョイントは、前記遠位先端に結合され、前記ジョイントは、前記ジョイントが前記複数の伝達システムに張力を加えることによって駆動されるときに前記遠位先端の動きの回転又は並進の自由度を提供し、前記複数の伝達システムは、第1のコンプライアント要素を含む第1の伝達システム及び第2のコンプライアント要素を含む第2の伝達システムを有し、前記医療器具システムは:
第1のアクチュエータ及び第2のアクチュエータであって、使用中、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータが前記回転又は並進の自由度前記遠位先端の前記動きをもたらす前記ジョイントの動きを生じさせるよう動作可能であるように、前記第1の伝達システムは前記ジョイントを前記第1のアクチュエータに結合し、前記第2の伝達システムは前記ジョイントを前記第2のアクチュエータに結合する、第1のアクチュエータ及び第2のアクチュエータと;
前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータに動作可能に結合される制御システムであって:
前記ジョイントの所望の位置および所望の速度を受信することと;
第1の複数の寄与に基づいて第1の張力を計算することであって、前記第1の複数の寄与は:
第1の遠位張力であって:
前記ジョイントの現在の位置と前記ジョイントの前記所望の位置との間の第1の差、及び
前記ジョイントの現在の速度と前記ジョイントの前記所望の速度との間の第2の差、
に基づく、第1の遠位張力と、
前記ジョイントの前記所望の速度に基づく値と前記第1のアクチュエータの現在の速度に基づく値との間の第3の差に基づく第1の近位張力と
前記第1のアクチュエータの前記現在の速度と前記第2のアクチュエータの現在の速度との間の第4の差に基づく第1の対張力と、を含む、
第1の張力を計算することと;
第2の複数の寄与に基づいて第2の張力を計算することであって、前記第2の複数の寄与は:
前記第1の差及び前記第2の差に基づく第2の遠位張力と、
前記ジョイントの前記所望の速度に基づく前記値と前記第2のアクチュエータの前記現在の速度に基づく値との間の第5の差に基づく第2の近位張力と、
前記第4の差に基づく第2の対張力と、を含む、
前記第2の張力を計算することと;
前記遠位先端を前記回転又は並進の自由度で動かすように、前記第1のアクチュエータによって前記第1の伝達システムに前記第1の張力を加えること及び前記第2のアクチュエータによって前記第2の伝達システムに前記第2の張力を加えること、
を含む動作を行う命令を実行するように構成される、
制御システムと;を有する、
医療器具システム。
【請求項2】
前記第1の伝達システムに前記第1の張力を加えること及び前記第2の伝達システムに前記第2の張力を加えることは:
前記第1の張力及び前記第2の張力をそれぞれの最小張力以上に維持するように前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータを作動させることを含む、
請求項1に記載の医療器具システム。
【請求項3】
前記第1の差は、現在の時間間隔の間の位置誤差に対応し、
前記第1の張力を計算することは:以前の時間間隔の間の位置誤差に基づいて前記現在の時間間隔において前記第1の伝達システムを制御するための前記第1の張力を計算することを含む、
請求項1又は2に記載の医療器具システム。
【請求項4】
前記第1の張力を計算することは:
対応する複数の以前の時間間隔の間の複数の位置誤差に基づいて前記現在の時間間隔において前記第1の伝達システムを制御するための前記第1の張力を計算することを含む、
請求項3に記載の医療器具システム。
【請求項5】
前記第1の張力を加えること及び前記第2の張力を加えることは、前記ジョイントの動きが、所定の動作範囲に達することを防ぐように前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータを動作させることを含む、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の医療器具システム。
【請求項6】
前記第1の張力を計算することは:
(i)前記ジョイントの所望の剛性、(ii)前記ジョイントの所望の減衰、又は(iii)前記ジョイントの所望の応答性のうちの少なくとも1つを示す1つ又は複数のゲイン係数に基づいて前記第1の張力を計算することを含む、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医療器具システム。
【請求項7】
前記第1の張力を計算することは:
前記第1の差と前記1つ又は複数のゲイン係数の第1のゲイン係数との第1の積を計算すること;又は
前記第2の差と前記1つ又は複数のゲイン係数の第2のゲイン係数との第2の積を計算すること、を含む、
請求項6に記載の医療器具システム。
【請求項8】
前記第1の伝達システムに前記第1の張力を加えること及び前記第2の伝達システムに前記第2の張力を加えることは:
前記第1の張力及び前記第2の張力をそれぞれの最大張力以下に維持するように前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータを作動させることを含む、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の医療器具システム。
【請求項9】
前記第1の張力を計算することは:
事前に定義された最小張力である前記第2の張力に基づいて前記第1の張力を計算することを含む、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の医療器具システム。
【請求項10】
前記ジョイントの前記所望の速度に基づく前記値は、前記ジョイントの前記所望の速度と前記ジョイントのモーメントアームとの積に対応し、
前記第1のアクチュエータの前記現在の速度に基づく前記値は、前記第1のアクチュエータの前記現在の速度と前記第1のアクチュエータのモーメントアームとの積に対応する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の医療器具システム。
【請求項11】
医療器具システムの作動方法であって、前記医療器具システムは医療器具と、第1のアクチュエータと、第2のアクチュエータとを有し、前記医療器具は、遠位先端、前記遠位先端に結合されたジョイントであって、前記ジョイントが複数の伝達システムに張力を加えることによって駆動されるときに前記遠位先端の動きの回転又は並進の自由度を提供する、ジョイントとを有し、前記複数の伝達システムは、第1のコンプライアント要素を含む第1の伝達システム及び第2のコンプライアント要素を含む第2の伝達システムを有し、前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータが前記回転又は並進の自由度で前記遠位先端を動かす前記ジョイントの動きを生じさせるよう動作可能であるように、前記第1の伝達システムは前記ジョイントを前記第1のアクチュエータに結合前記第2の伝達システムは前記ジョイントを前記第2のアクチュエータに結合、前記方法は:
前記医療器具システムを制御するように構成された制御システムが、前記ジョイントの所望の位置および所望の速度を受信するステップと;
前記制御システムが、第1の複数の寄与に基づいて第1の張力を計算するステップであって、前記第1の複数の寄与は:
第1の遠位張力であって:
前記ジョイントの現在の位置と前記ジョイントの前記所望の位置との間の第1の差、及び
前記ジョイントの現在の速度と前記ジョイントの前記所望の速度との間の第2の差、
に基づく、第1の遠位張力と、
前記ジョイントの前記所望の速度に基づく値と前記第1のアクチュエータの現在の速度に基づく値との間の第3のに基づく第1の近位張力と
前記第1のアクチュエータの前記現在の速度と前記第2のアクチュエータの現在の速度との間の第4の差に基づく第1の対張力と、を含む、
第1の張力を計算するステップと;
前記制御システムが、第2の複数の寄与に基づいて第2の張力を計算するステップであって、前記第2の複数の寄与は:
前記第1の差及び前記第2の差に基づく第2の遠位張力と、
前記ジョイントの前記所望の速度に基づく前記値と前記第2のアクチュエータの前記現在の速度に基づく値との間の第5の差に基づく第2の近位張力と、
前記第4の差に基づく第2の対張力と、を含む、
第2の張力を計算するステップと;
前記制御システムが、前記第1のアクチュエータに、前記第1の伝達システムに第1の張力を加えるように、及び前記第2のアクチュエータに、前記第2の伝達システムに前記第2の張力を加えるように指令するステップであって、それによって前記遠位先端を前記回転又は並進の自由度で動かす、ステップ、を含む、
方法。
【請求項12】
前記第1のアクチュエータに、前記第1の伝達システムに前記第1の張力を加えるように、及び前記第2のアクチュエータに、前記第2の伝達システムに前記第2の張力を加えるように指令するステップは:
前記第1の張力及び前記第2の張力をそれぞれの最小張力以上に維持するように前記第1のアクチュエータ及び前記第2のアクチュエータを作動させること、
を含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の張力を計算するステップは:
(i)前記ジョイントの所望の剛性、(ii)前記ジョイントの所望の減衰、又は(iii)前記ジョイントの所望の応答性のうちの少なくとも1つを示す1つ又は複数のゲイン係数に基づいて前記第1の張力を計算することを含む、
請求項11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
低侵襲医療処置はしばしばコンピュータを用いて又はコンピュータインターフェースを介して制御される器具を用いる。例えば、図1は、現在のロボット制御された医療器具の基本的な動作原理を説明するために単純化された構造を有するロボット制御される器具100を示す。(ここで使われるように、用語「ロボット」又は「ロボットで」及び同様のものは、遠隔操作又は遠隔操作ロボットの態様を含む。)器具100は、細長いシャフト又はメインチューブ120の遠位端部にツール又はエンドエフェクタ110を含む。図示された例では、エンドエフェクタ110は独立した顎部112及び114を有する鉗子又ははさみのような顎部付きツールであり、少なくとも顎部112は顎部114に対して開閉するように移動可能である。医療処置中の使用において、メインチューブ120の遠位端部のエンドエフェクタ110は、患者の小さい切開部を通って挿入され得るとともに患者内の作業部位に位置決めされ得る。顎部112は次に、例えば、外科的な作業の遂行中、開閉され得るので、所望の動きのみを行うように精密に制御されなければならない。実際的な医療器具は、一般に、医療処置を行うために、顎部112及び114の開閉に加えて、多くの運動の自由度を必要とする。
【0002】
メインチューブ120の近位端部は、バックエンド機構130と呼ばれることもある伝達又は駆動機構130に付く。撚り線、ロッド、チューブ、又はこれらの構造の組合せであり得る、テンドン122及び124は、バックエンド機構130からメインチューブ120を通って延びるとともにエンドエフェクタ110に付く。典型的な手術器具はまた、バックエンド機構130が器具100のエンドエフェクタ110及び/又は他の駆動される要素を作動させるためにテンドンを操作し得るように、バックエンド機構130をエンドエフェクタ110、手首機構(図示せず)、又はメインチューブ120の駆動される脊椎骨部に接続する、追加的なテンドン(図示せず)も含む。図1は、顎部112の1自由度の動きをもたらすピンジョイント構造116を有するような顎部112を示す。2つのテンドン122及び124は、プーリ132の回転が顎部112を回転させるように、顎部112及びバックエンド機構130のプーリ132に取り付けられる。
【0003】
プーリ132は、メカニカルアーム(図示せず)の端部にあり得る、駆動モータ140に取り付けられ、制御システム150は駆動モータ140を電気的に制御する。制御システム150は、一般的に、適切なソフトウェア、ファームウェア、及び周辺ハードウェアとともにコンピュータシステムを含む。他の機能の中で、制御システム150は一般的に外科医又は他のシステムオペレータに作業部位及びエンドエフェクタ110の画像(例えば、立体視)を提供するとともに、外科医がエンドエフェクタ110の動きを制御するように操作することができる制御装置又はマニピュレータを提供する。制御装置のユーザの操作の解釈及び顎部112の対応する動きを生じさせるためのモータ信号の生成に必要とされるソフトウェア又はファームウェアは一般的に現実のロボット医療器具において複雑である。制御タスクの一部を検討すると、駆動モータ140のための制御信号の生成は通常、顎部112の角度又は位置とバックエンド機構130の駆動モータ140又はプーリ132の角度又は位置との間の関係を用いる。テンドン122及び124が剛である場合(例えば、テンドンの伸張が無視できる場合)、制御システム150は、外科医が指示するように顎部112を動かすのに必要な制御信号を決定するのに器具100の幾何学的配置によって決定されるような駆動モータ140の角度位置と顎部112の角度位置との間の直接的関係を使うことができる。例えば、使用荷重の下での、テンドン122及び124の小さい伸張は、モータ位置をエンドエフェクタに関連付ける幾つかの数学的なモデルによって対処され得る。しかし、エンドエフェクタ110、テンドン122及び124、並びにバックエンド機構130を含む機械的な構造が高いコンプライアンスを有する場合、モータ140(又はプーリ132)の角度位置と顎部112の角度位置との間の関係は、医療器具のための十分な正確さでモデル化することが困難又は不可能になり得る。その結果、このようなシステムは、与えられたアクチュエ-タ制御信号と駆動された要素の位置との間の固定した関係に頼らない制御プロセスを必要とする。
【0004】
以下では医療器具のジョイントが、ピンジョイント構造又は器具の先端の1又は多自由度の動きを提供する構造になり得ることに留意されるべきである。例えば、ジョイントは、連続的な柔軟な部分、又は連続的な柔軟な部分を近付けるピンジョイントの組合せ、又は純粋な回転ではないがあるローリングジョイントを提供する単一の回転ジョイントであり得る。例えば、Cooper他による、“Flexible Wrist for Surgical Tool”という名称の特許文献1、Cooper他による、“Surgical Tool Having a Positively Positionable Tendon-Actuated Multi-disk Wrist Joint”という名称の特許文献2、を参照。
【0005】
最先端の医療用ロボット器具では、アクチュエータの位置は、所望の器具先端動作又は位置を生じさせるためにサーボ制御されることにも留意されたい。このようなアプローチは、アクチュエータと器具ジョイントとの間の伝達システムが全ての実用的な目的に関して剛である限り効率的である。例えば、“Camera Referenced Control in a Minimally Invasive Surgical Apparatus”という名称の特許文献3を参照。このようなアプローチはまた、伝達システムの柔軟性が正確にモデル化され得るとともにBarbagli他による“Robotic Instrument Control System”という名称の特許文献4に記載されたようなコントローラに含まれるモデルであり得る場合に効率的になり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第7,320,700号
【文献】米国特許第6,817,974号
【文献】米国特許第6,424,885号
【文献】米国特許出願公開第2009/0012533号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様によれば、多自由度を有する器具のための制御システム及び方法は、近位アクチュエータが一連の伝達システムを通じて器具に加える力を決定するとともに制御するために、器具の現在の配置/速度と器具の所望の配置/速度との間の差を使用する。加えた力及び医療器具の結果として生じる配置を示すフィードバックの使用は、器具の伝達システムが近位アクチュエータと離れて駆動される要素との間に無視できないコンプライアンスを有するとしても、医療器具のロボット制御を可能にする。フィードバックアプローチは特に、器具の配置が近位アクチュエータの位置から直接推測されることができないときでさえ、正確な器具の操作を可能にする。
【0008】
本発明の1つの実施形態では、エンドエフェクタ又は先端の配置が測定される又はそうでなければ決定され、現在と所望の先端の配置の間の差が所望の先端の配置を実現するために必要とされる必要なジョイントトルク及び印加力を決定するのに用いられる。この制御方法の実施形態は、例えば、器具の他の部分において柔軟性を許容しながら、組織との器具の相互作用を促進するように、動的挙動の選択を可能にし得る。
【0009】
本発明の他の実施形態では、器具の各ジョイントの配置が測定され、現在と所望のジョイントの配置の間の差が、所望の配置に全てのジョイントを動かすために必要なアクチュエータ力を決定するために使用される。
【0010】
本発明の1つの特定の実施形態は、複数のジョイント、アクチュエータ、伝達システムを含む医療用システムである。伝達システムは、アクチュエータに結合される近位端部をそれぞれ有し、それぞれの伝達システムは、関連するジョイントの関節動作のために力の伝達を可能にするように、関連するジョイントの1つに結合される遠位端部を有する。医療用システムのセンサは、ジョイント又は器具の先端の配置を測定し、伝達システムに力を加えるためにアクチュエータを作動させる制御システムは、センサから配置の測定結果を受信するとともに伝達システムに加えられる駆動力を決定するために配置の測定結果を使用する。
【0011】
本発明の他の特定の実施形態は、医療器具を制御するための方法である。方法は、医療器具の複数のジョイントの配置を測定するステップ、医療器具の所望の配置を示す命令を受信するステップ、それぞれのアクチュエータをジョイントに接続する伝達システムの張力をそれぞれ決定するステップ、及び力を伝達システムにそれぞれ加えるようにアクチュエータを作動させるステップ、を含む。印加力の決定は、アクチュエータの位置に無関係である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、既知のロボット制御医療器具の特徴を示す。
図2図2は、器具の関節接合された脊椎骨部を制御するためにコンプライアント(compliant)伝達システムを通じて加えられる力を制御する本発明の実施形態による制御プロセスを使用して操作され得る医療器具を示す。
図3A図3Aは、本発明の実施形態による制御プロセスが機械的なジョイントを操作するために最小及び最大の力の伝達を有する伝達システムで動作し得る医療器具を示す。
図3B図3Bは、ジョイントが連続的な柔軟な構造を含む本発明の実施形態を示す。
図3C図3Cは、図3Bのジョイントの1自由度の動きを制御するために使用される1対のテンドンの位置を示す。
図4図4は、ロボット医療システムを概略的に示すとともに、コンプライアント伝達システムを通じてアクチュエータに接続される遠隔操作のジョイントを制御する本発明の実施形態に使用される量を示す。
図5A図5Aは、本発明の実施形態による制御プロセスのフローチャートである。
図5B図5Bは、アクチュエータ速度とジョイント速度との間の差に関連付けられた張力修正値を決定するためのプロセスのフローチャートである。
図5C図5Cは、同じジョイントを操作するアクチュエータの速度の間の差に関連付けられた張力修正値を決定するためのプロセスのフローチャートである。
図5D図5Dは、最大及び最小の印加張力の制御のための関数を示す。
図6図6は、ロボット医療システムを概略的に示すとともに、特にマルチジョイント器具を制御する本発明の実施形態に使用される量を示す。
図7A図7Aは、測定されたジョイントの配置と所望のジョイントの配置との間の差に基づいて印加張力を選択する本発明の実施形態によるプロセスのフローチャートである。
図7B図7Bは、測定された先端の配置と所望の先端の配置との間の差に基づいて印加張力を選択する本発明の実施形態によるプロセスのフローチャートである。
図8A図8Aは、平行駆動軸でジョイントを制御する本発明の実施形態による駆動力制御を使用して操作され得るマルチジョイント器具の一部の側面図である。
図8B図8Bは、本発明の実施形態による駆動力制御を使用して操作され得る直交作動軸を持つジョイントを有するマルチジョイント器具の一部の側面図を示す。
図8C図8Cは、本発明の実施形態による駆動力制御を使用して操作され得る直交作動軸を持つジョイントを有するマルチジョイント器具の一部の端面図を示す。
図9A図9Aは、ジョイントが2自由度の動きをもたらす連続的な柔軟な構造を含む本発明の実施形態を示す。
図9B図9Bは、図9Aのジョイントの2自由度の動きを制御するための4つのテンドンを用いる本発明の実施形態を示す。
図9C図9Cは、図9Aのジョイントの2自由度の動きを制御するための3つのテンドンを用いる本発明の実施形態を示す。
図9D図9Dは、各ジョイントが連続的な柔軟な構造を含むとともに2自由度の動きを提供する2つのジョイントの医療器具の実施形態を示す。
図9E図9Eは、図9Dの器具の2つのジョイントによって提供される4自由度の動きを制御するために6つのテンドンを用いる本発明の実施形態を示す。
図10図10は、マルチジョイント器具のジョイントの連続的な評価を通じて張力を決定する本発明の実施形態によるプロセスを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
異なる図面における同じ参照符号の使用は、同様または同一の品目を示す。
【0014】
本発明の一態様によれば、医療器具は、アクチュエータ位置とジョイント位置との間の固定の関係を提供しない伝達システムを介して制御され得る。特に、システムオペレータ(例えば外科医)の動作が医療用器具のための現在の所望の配置/速度を示す一方、センサは器具の実際の配置/速度を想定する。力、張力、又はトルクが、次に所望の及び測定された配置にしたがって選択され、器具をその所望の配置に向けて動かすために伝達システムを通じて加えられる。加えられる力、張力、又はトルクの選択基準は、加えられる力、張力、又はトルクの以前の選択基準がジョイントにオーバーシュート又は所望の位置に到達し損なうことをもたらす場合、変更され得る。
【0015】
図2は、全体が参照により本願に援用される、“Compliant Surgical Device,”という名称の米国特許出願第12/494,797号に記載されたような伝達システムを有するコンプライアント医療器具(compliant medical instrument)200の一部を示す。器具200は、テンドン222及び224のそれぞれの張力の制御を通じて操作される接合された要素210を含む。一般に、器具200は、接合された要素210と同様の多くの機械的ジョイントを含み得るとともに、各ジョイントはテンドン222及び224と同様なテンドンを使用して制御され得る。例示的な実施形態では、器具200は、患者の自然な管腔に追従するように操作され得るエントリガイドである。エントリガイドは、典型的には(要素210を含む)脊椎骨部を囲む柔軟な外側シース(さや)部(図示せず)を含み、そこを通って他の機械的器具が作業部位へのアクセスために挿入され得る1つ又は複数の中央管腔部を提供する。コンプライアンスは特に、エントリガイドの作用又は反作用が、エントリガイドに対して動く又は押し付け得る周囲の組織に損傷を与えることを防ぐために、エントリガイドにおいて望ましくなる。しかし、他のタイプの医療器具も、図2に示されたタイプのコンプライアント駆動機構から利益を得ることができる。
【0016】
器具200は、テンドン222及び224を持ち接合された要素210と駆動モータ242及び244に接続するコンプライアント駆動システムを提供するバックエンド機構230を含む。特に、バックエンド機構230は、テンドン222及び224並びに駆動モータ242及び244に取付けられたバネシステム235を含む。図2の各バネシステム235は、機械的駆動システム232及び定荷重バネ234を含む。各駆動システム232は、モータ242又は244を結合するとともに駆動モータ242又は244の回転運動を付随する定荷重バネ234によってテンドン222又は224に加えられる定荷重を変更する直線運動に変換する。図示された実施形態では、各定荷重バネ234は、従来のフックの法則バネ236及びカム238を含む。各バネ236は、駆動システム232の直線運動がバネ236の近位端部を動かすように、付随する駆動システム232に接続する。各カム238は、その上で付随するバネ236の遠位端部に取付けられたケーブル237が付くとともに支えられて動く第1のガイド面及びその上でテンドン222又は224の一部が付くとともに支えられて動く第2のガイド面を有する。各カム238のガイド面は概して、取付けられたケーブル237及び取付けられたテンドン222又は224の動作のための異なるモーメントアームを提供するとともに、テンドン220又は224の長さの手繰り出し又は手繰り寄せが取付けられたバネ236によって加えられる力を変化させるときにテンドン222又は224の張力が一定に留まるように、成形される。各カム238の各表面は、テンドン222又は224において一定の張力を保持しながらテンドン222又は224の所望の動きの範囲を提供するように、1つ又は複数の回転のために延びる螺旋面であり得る。
【0017】
各駆動システム232は、対応するバネ236の近位端部の位置を制御し、したがって対応するバネ236の基準の伸びの量及び取付けられたテンドン222又は224の張力に影響を与える。動作中、バネシステム235の駆動システム232が取付けられたバネ236を引く場合、バネ236は伸張し始め、要素210及びバネシステム235に取付けられたテンドン222又は224が固定して保持される場合、バネ236がカム238に加える力は増加し、したがって取付けられたケーブル222又は224の張力は増加する。したがって、テンドン222又は224の張力は、(フックの法則、カム238のモーメントアーム、及びバネ236のバネ定数に従って)それぞれのバネ236の近位端部の動きに直線的に決まるが、各バネシステム235は、非対称に振る舞う、すなわち、テンドン222又は224を動かす外部の又は遠位の力に応じた一定の力で作動する。定荷重バネ234及び駆動システム232は、代替的には、上述の米国特許出願12/494,797にさらに記載されたような様々な方法で実装され得る。
【0018】
接合された要素210は、1自由度の動き(例えば、軸周りの回転)を有するとともに、概して、駆動モータ242又は244が取付けられた定荷重バネ238によって加えられる力を変化させるように駆動システム232を回転させる場合に動く。しかし、この駆動機構は、外力が駆動システム232の対応する回転なしに要素210を動かすことができるように、コンプライアントである。結果として、接合された要素210の位置又は向きと駆動システム232又は駆動モータ242の位置との間に固定された関係が無い。本発明の態様によれば、制御システム250は、要素210の向きを測定するためのセンサ260を使用する。センサ260は、例えば、要素210を含む器具200の長さに沿って接合された要素210の形状を検知する、形状センサであり得る。形状センサの幾つかの例が、Larkin他による“Robotic Surgery System Including Position Sensors Using Fiber Bragg Gratings” という名称の米国特許出願公開2007/0156019A1(2006年7月20日出願)、Giuseppe M. Priscoによる"Fiber optic shape sensor"という名称の米国特許出願12/164,829(2008年6月30日出願)に記載され、いずれも参照によって本願に援用される。しかし、接合された要素210の角度位置を測定することができる任意のセンサが代替的に使用され得る。さらに以下で説明される制御プロセスが、接合された要素210を操作するために必要な印加力の計算のためにこのような測定を用いる。
【0019】
器具200は、バックエンド機構230がモータパックから取り外される場合、「バックドライビング(backdriving)」能力を有し、定荷重バネ235は、依然としてテンドン222及び224が緩むことを防ぎ、器具の遠位部分が、バックエンド機構230に損傷を与えること無しに又はテンドン222又は224に緩みを作ること無しに、手動で配置される(又はある姿勢を取らされる)ことを可能にする。この「バックドライビング」能力は一般的に、手術器具、特に器具が制御システム250による能動的な制御下にない間の器具の挿入中に曲げられ得る又は操作され得る柔軟なメインチューブを持つ器具、の望ましい特性である。例えば、器具200は、ある姿勢に手動でされ得るとともに、メインシャフト内のテンドンは過度な張力又は緩みに見舞われない。
【0020】
医療器具のジョイントのためのコンプライアント伝達システムの他の例が図3Aに示される。図3Aは、全体が参照により本願に援用される、“Passive Preload and Capstan Drive for Surgical Instruments”という名称の米国特許出願第12/286,644号に記載されたように、器具の動作中に駆動モータが自由に回転する又は駆動テンドンが駆動モータに対してスリップすることを可能にする駆動プロセスを用いる医療器具300の例示的な実施形態を示す。医療器具300は、メインチューブ320の端部にエンドエフェクタ310を有し、バックエンド機構330が、エンドエフェクタ310の1自由度の動きを制御するために、メインチューブ320を通って延びる、テンドン322及び324を操作する。図示された実施形態では、テンドン322及び324は、テンドン322及び324の張力が、エンドエフェクタ310をピボットジョイント構造周りに反対方向に回転させ易くするように、エンドエフェクタ310の機械的部材に付く。
【0021】
図3Aのジョイント構造は単なる例であり、1組のテンドンに加えられる張力に応じて1自由度の運動を提供する他のジョイント構造が本発明の代替的な実施形態に用いられ得る。例えば、図3Bは、カテーテル、消化管、結腸、及び気管支用内視鏡、ガイドワイヤ、又は例えば組織サンプリングために使用される把持装置及び針等の他の内視鏡器具に一般的に見られるようなジョイント310の実施形態を示す。
【0022】
これは、テンドン322及び324を通じて加えられる力に応じて屈曲する又は曲がることができる。カテーテルジョイントは、テンドン322及び324の張力の差に応じて曲がるプラスチック材料の押出成形品を単に含み得る。1つの構造では、テンドン322及び324は、図3Cに示されるように、カテーテル内の管腔を通って延びるとともに、カテーテルの端部に付く。したがって、テンドン322及び324の力は、より大きい張力を有するテンドン322又は324に応じた方向にカテーテルを曲げるために使用され得る。カテーテルの曲げは、例えば、挿入中にカテーテルを誘導するために、使用され得る。図3Bの実施形態では、遠位端部センサ360が「ジョイント」角度及び速度を測定又は計算するために、カテーテルの遠位部分の曲げ角度を測定し得る。1つの特定の実施形態では、曲げ角度は、カテーテルの遠位の柔軟部分のベースに対するカテーテルの先端の向きとして定義され得る。図3Bのカテーテルジョイント310のためのバックエンド及び制御アーキテクチャは、測定されたジョイント角度及び速度が、アクチュエータケーブル管腔と遠位柔軟部分の中心との間の距離の掛け算によってテンドンの位置および速度に変換され得ることを除いて、図3Aの実施形態のものと同一であり得る。
【0023】
メインチューブ320の近位端部に付く、バックエンド機構330は、駆動モータ342及び344によって加えられるトルクをそれぞれのテンドン322及び324の張力並びにエンドエフェクタ310の駆動ジョイントに加えられる力又はトルクに変換する伝達部として、作用する。図示された実施形態では、駆動モータ342及び344は、その周りをそれぞれのテンドン322及び324が巻き付くキャプスタン332及び334に直接結合するダイレクトドライブ電動モータであり得る。特に、テンドン322は、対応するキャプスタン332の周りに(全部の回転より小さい或いは1又は複数の回転と同じくらい大きくなり得る)設定された巻付角度で巻き付き、キャプスタン332に固定されていないがキャプスタン332から受動的予荷重システム333に延びる端部を有する。同様に、テンドン324は、対応するキャプスタン334の周りに設定された巻付角度で巻き付き、キャプスタン334から受動的予荷重システム335に延びる端部を有する。テンドン322及び324は、キャプスタン332及び334に永久的に取り付けられる必要がないので、テンドン322及び324は、キャプスタン332及び334に対して並びにそれぞれキャプスタン332及び334に結合する駆動モータ342及び344の軸に対して滑ることができる。
【0024】
テンドン322及び324の近位端部は、それぞれの受動的予荷重システム333及び335に付き、それぞれは、図3Aにおいて一緒に定荷重バネとして作動するカム及びフックの法則バネとして実装される。受動的予荷重システム333及び335は、システム332及び334が器具300の動きの範囲全体に渡ってテンドン322及び324に0でない力又は張力を加えるように、付勢される。この構造を使って、キャプスタン332及び334は自由に回転でき、受動的予荷重システム333及び335は、テンドン322及び324の張力を制御するとともに、必要な長さのテンドン322及び324を引き入れる又は繰り出すことによってテンドン322及び324の緩みを避ける。バックエンド機構330がモータ342及び344から取り外されるとき、受動的予荷重システム333及び335は、依然としてテンドン322及び324が緩むことを防ぎ、メインチューブ320が(柔軟な場合に)バックエンド機構330に損傷を与えること無しに又はテンドン322又は324に緩みを作ること無しに、手動で配置される(又はある姿勢を取らされる)ことを可能にする。したがって、器具300はまた、図2の器具200に関して上述されたものと同様の「バックドライビング」能力を有する。
【0025】
エンドエフェクタ310は、制御システム350及び人間の入力(例えば、マスタスレーブサーボ制御システムにおけるマスタ制御入力)の能動制御下で駆動モータ342及び344を用いて操作され得る。例えば、モータ342がテンドン322を引き寄せるとき、モータトルクは、テンドン322の遠位部分における印加張力として伝達される。(キャプスタン332がテンドン322の近位部分に加えることができる最大張力は、テンドン322がキャプスタン332に対して滑り始める張力に依存するが、一般的に、実際使用される最大張力は、テンドン322及び324がキャプスタン332及び334を滑ることを防ぐように選択され得る。)同時に、モータ344への動力が止まり、モータ344及びキャプスタン334が自由に回転することを許容するとき、テンドン324は、受動的予荷重システム335がキャプスタン334を通してテンドン324の近位端部に加える定荷重である最小張力に保たれ得る。テンドン322におけるより大きい張力はその結果エンドエフェクタ310を図3Aの反時計周りに回転させる傾向がある。同様に、テンドン324を通じてエンドエフェクタ310に力を加えるためにモータ342への動力を止めるとともにモータ344に動力を供給することは、エンドエフェクタ310を図3Aに時計回りに回転させる傾向がある。テンドン322及び324が張力下にある一方モータ342及び344が自由に回転する能力並びにテンドン322及び324のキャプスタン332及び334での滑りの許容は、制御システム350がモータ340及びエンドエフェクタ310の角度位置の間の固定された関係に依存することを許容しない。しかし、制御システム350は、テンドン322及び324を通じて駆動されるジョイントに対するエンドエフェクタ310の角度位置を測定するためにセンサ360を使用することができる。
【0026】
図2、3A、及び3Bの器具は、特に柔軟なメインチューブを持つ器具に望ましい、コンプライアンスを提供するアクチュエータと駆動されるジョイントとの間の伝達システムを有し得る。しかし、コンプライアンスを持つ伝達システムはまた、従来の器具にも存在し得る。例えば、図1の既知の器具は、屈曲する器具の部分における被覆又はボーデンケーブル及び直線部分におけるロッド要素を使用し得る。ロッド要素は、アクチュエータ及びジョイント位置の直接の関係に干渉する伸張を減少させ得る。しかし、幾つかの用途において、より柔軟な材料のテンドン(例えば、電気絶縁又は最小の摩擦が望まれる場合のポリマーテンドン)を使用することが望ましくなり得るが、このようなテンドンは、アクチュエータとジョイント位置との間の直接の関係に依存する制御プロセスに対して、許容できない量の伸びをもたらし得る。ワイヤを引く固体の鋼もまた、伝達システムの中に又は伝達システムとして使用され得る。
【0027】
本発明の態様によれば、図2、3A、及び3Bの医療器具又は他のコンプライアント伝達システムを有する器具のための制御プロセスは、機械的なジョイントを駆動するために加えられることになる張力を決定するために、機械的なジョイントの位置の遠隔測定を用いることができる。制御プロセスはまた、剛性伝達システムを有する器具に用いられ得る。図4は、角度又は位置θに対応する1自由度の動きを有する機械的ジョイント410を有する医療器具400の概念を概略的に示す。位置の用語は、デカルト座標の位置、角度位置、又は機械的システムの1自由度の構成の他の表示を含むように、ここでは広く用いられる。センサ(図示せず)は、遠隔ジョイント410における位置θを測定するとともに、測定された位置θを制御システム450に、例えば、器具400の遠位端部におけるセンサから器具のメインチューブ(図示せず)を通って器具の近位端部の制御システム450に延びる信号線(図示せず)を通じて、提供する。センサは、追加的にジョイント410の動きに関する速度dθ/dtを測定し得る、又は速度dθ/dtは、位置θの2つ以上の測定値と測定値の間の時間から決定され得る。
【0028】
ジョイント410は、ジョイント410がアクチュエータ440から離れるように、例えば、アクチュエータ440が器具の近位端部にある一方ジョイント410が器具の遠位端部にあり得るように、伝達システム420を通じてアクチュエータ440に接続される。図示された実施形態では、伝達システム420は、アクチュエータ440によって伝達システム420に加えられた張力Tがジョイント410を時計回りの方向に回転させる傾向があるように、ジョイント410に接続する。一般的に、伝達システム420は、アクチュエータ440からジョイント410に力を伝達するために使われる全体の機構を含み、アクチュエータ440は、ケーブル又は伝達システム420の他の構成要素に張力をもたらす伝達システム420に力又はトルクを加え得る。しかし、このような張力は、概して加えられた力又はトルクに比例するので、張力の用語は、ここでは一般性を失うことなく、力又はトルクも示すように使用されることが意図される。伝達システム420は(必ずしも必要ではないが)、非常にコンプライアントなのでジョイント410の位置とアクチュエータ440の位置との間の直接の関係がジョイント410の制御のために十分正確でないことも留意されるべきである。例えば、伝達システム420は、伝達システム420に加えられる張力Tの最小及び最大の間で、伝達システム420の有効長さの差がジョイントの関節の45°に対応し得るように、伸張し得る。その一方、典型的な医療装置は、アクチュエータ位置に基づいてジョイントの位置を正確にモデル化することができるように、ジョイントの関節の数度より小さい角度に対応する伸びを許容する。一般的な場合、コンプライアンスはバネ構造の単純なフックの方向の伸びに限定されないことが理解されるべきである。伝達システム420は、例えば、テンドン222及び図2の実施形態のバックエンド機構230の少なくとも一部又はテンドン322及び図3Aの実施形態のバックエンド機構330の少なくとも一部を含み得る。一般的に、伝達システム420の近位端部に加えられる張力Tへの及びジョイント410又は伝達システム420の長さに沿って加えられる外力への伝達システム420の応答は、モデル化することが難しくなり得る。
【0029】
図2又は3Aの駆動モータ242又は342を含み得る、アクチュエータ440は、伝達システム420の近位端部に張力Tを加えるとともに、伝達システム420を通じてジョイント410に力又はトルクを加えるが、他の力又はトルクもジョイント410に加えられる。特に、1つ又は複数の他の伝達システム420が、ジョイント410に接続され得るとともにジョイント410を回転させる傾向がある正味の張力又は力を全体として加え得る。図示された図4の実施形態では、伝達システム442は、伝達システム442の張力が、加えられた張力Tに対抗する傾向があるとともにジョイント410を図4の反時計回りに回転させる傾向があるように、ジョイント410及び駆動モータ442に接続される。追加的な伝達システム422又はジョイント410に接続された伝達システムは、伝達システム422がジョイント410に接続する相違以外は、伝達システム420と同じであり得る。
【0030】
制御システム450は、アクチュエータ440が伝達システム420に加える張力Tを制御する駆動信号を生成するように、プログラムを実行する汎用コンピュータ又は配線された回路であり得る。アクチュエータ440が電動モータである場合、駆動信号は、アクチュエータ440からのトルク出力を制御する駆動電圧又は電流であり得るとともに、張力TはテンションTが伝達システム420に加えられるところの有効モーメントアームによって割られるモータトルクと等しい。さらに以下に記載されるように、制御システム450は、ジョイント410に関する所望の位置θ、所望の速度dθ/dt、及び現在の及び先の時間におけるジョイント410に関する位置θの1つ又は複数の測定値を用いて、張力T又はモータトルクの大きさを計算し得る。ユーザ(例えば、システム400を制御する外科医)は、コントローラ460を操作することによって所望の位置θ及び速度dθ/dtを提供することができる。コントローラ460の正確な構成は、そこから所望の位置θ及び速度dθ/dtに関する値が決定され得る信号をコントローラ460が提供することができることを除いて、本発明に重要ではない。手動コントローラは、医療器具の動きに関する多くの同時の指示を示す信号を一般的に提供する複雑な医療器具に適しており、このような動きは、器具の複数のジョイントに作用する。コントローラ460としての使用のための適切なマニピュレータは、例えば、Intuitive Surgical, Inc.から入手できるda Vinci Surgical Systemのマスタコントローラに与えられている。
【0031】
現在の測定された位置θから所望の位置θに時間間隔Δtでジョイント410を動かすために必要な張力Tは概して、次のものを含む多くの要因に依存する:印加張力Tに抵抗するジョイント410の有効慣性、張力Tを加えるアクチュエータ440の慣性、ジョイント410に結合されるとともに所身の有効な力を加える任意の他の伝達システム422、ジョイント410に加えられる外力、ジョイント410の駆動又は伝達システムの動きに対抗する内部及び外部摩擦力、ジョイント410の現在の速度dθ/dt、及び内部及び外部減衰力。多くのこれらの要因は、器具400の動作環境に応じて変化し得るとともに、測定又はモデル化することが困難であり得る。しかし、モデルは、システムの力学に基づいて又は医療器具の特定のジョイントに関して経験的に開発され得る。1つの特定の実施形態では、制御システム450は、張力Tを、それぞれジョイント410の測定された位置と所望の位置との間の差及びジョイント410の測定された速度と所望の速度との間の差である、遠位ジョイントの誤差(θ-θ)及び(dθ/dt-dθ/dt)から決定する。
【0032】
図5Aは、図4のシステム400の基本構造を有する医療器具を制御するためのプロセス500のフローチャートである。プロセス500は、ジョイント410の位置θの現在の値を読み込むこと及びジョイント速度dθ/dtに関する現在の値を決定することによってステップ510で開始する。速度dθ/dtは、直接測定され得る又は決定され得る又は現在の位置θ、以前の位置θ’、測定値の間の時間間隔Δtを用いて、例えば一定速度の仮定の下で(例えば、dθ/dt=(θ-θ’)/Δt)又は速度の以前の決定が与えられる一定加速度の仮定の下で、良く知られた方法で近似され得る。ステップ515は次に、ジョイント410に関する所望の位置θ及び所望の速度dθ/dtを取得し、ステップ520は、測定された位置と所望の位置との間の差又は誤差(θ-θ)及び測定された速度と所望の速度との間の差又は誤差(dθ/dt-dθ/dt)を計算する。
【0033】
ステップ520において計算された位置及び速度の誤差は、所望の位置θに到達するためにジョイント410に必要とされる張力Tを決定するために使用され得る。図5Aの実施形態では、印加張力Tは、複数の寄与を含み得るとともに、主要な寄与は、位置誤差(θ―θ)及び速度誤差(dθ/dt-dθ/dt)の関数fとして決定される、遠位張力TDISTである。遠位張力TDISTは、アクチュエータの位置、例えばモータシャフトの角度に無関係であり、これは、ジョイント410の位置とアクチュエータ440の位置との間に直接の関係が無い場合でさえ、遠位張力TDISTの決定を可能にする。1つの特定の実施形態では、関数fは、式1の形であり、g1及びg2はゲイン係数であり、Cは定数又は形状依存パラメータであり、Tsignは符号、すなわち±1である。符号Tsignは伝達システム420の張力によって作り出されるジョイント410の動きに関連付けられ、例えば、伝達システム420のテンションTが位置座標θを増加させる傾向にある場合に正(例えば+1)になり得るとともに、伝達システム420のテンションTが位置座標θを減少させる傾向にある場合に負(例えば-1)になり得る。他の実施形態では、関数fは、例えば、力が常に正であるとともに伝達システムにおける緩みを避けるのに十分であるように、力の下限を強制する。パラメータCは、システムの他の部分によってジョイント410に加えられる既知の又はモデル化された力に従って選択される定数であり得る。例えば、パラメータCは、ジョイント410に力を加える他の伝達システムによってもたらされるトルクをバランスさせるように選択される定数であり得る、又は予想される摩擦力又は外力に相当し得る。しかし、パラメータCは、厳密に定数である必要はなく、有効にモデル化され得る重力又は機械的剛性等の特性を補償する非定数項を含むことができ、したがって、パラメータCは測定されたジョイント位置又は速度に依存し得る。ゲイン係数g1及びg2は、ジョイント410の所望の剛性及び減衰にしたがって選択され得る。特に、ジョイント410が静的把持部として使用されるとき、組織に加えられる正味の把持力又はトルクは、式1の項g1(θ-θ)によって決まる。一般的に、ゲイン係数g1及びg2並びに定数Cは、ジョイント410の所望の剛性及び減衰又は応答性に従って、或いは誤差の蓄積に従って選択され得る。例えば、器具400を患者内の自然な管腔に追従するように挿入するとき、ゲイン係数g1は、ジョイント410が優しく振る舞うようにさせるとともにジョイント410が周囲の組織を傷つけることを防ぐように、低い値に設定され得る。挿入後、ゲイン係数g1は、外科医が器具を用いて正確な外科的な仕事を実行することを可能にする高い値に設定され得る。
式1:F=Tsign*(g1(θ-θ)+g2(dθ/dt-dθ/dt)+C)
式1の項g1(θ-θ)+g2(dθ/dt-dθ/dt)+Cは、伝達システム420を用いて与えられた時間Δtで所望の位置θまで到達するようにジョイント410を回転させるためのジョイント410において現在必要とされるトルク、張力、又は力をほぼ決定するために使用され得る。トルク及び力又は張力は、トルクが力と有効モーメントアームRの積であることに関連し、この有効モーメントアームは、伝達システム420のジョイント410への接続部とジョイント410の回転軸との間の垂直距離によって定められる。有効モーメントアームRは、ゲイン係数g1及びg2並びに定数Cに吸収され得る又は計算された遠位張力TDISTを計算されたトルクに変換するために使用され得る。
【0034】
関数fの適切な選択、例えば、式1のパラメータg1、g2及びCの適切な選択と伴う、遠位張力TDISTは、アクチュエータ440が手動コントローラ460の人間のオペレータによる操作に応じた方法でジョイント410を動かすために加えるのに必要とされる力を近似し得る。しかし、オプションの修正値が、幾つかの状況下でステップ530、535、540及び545によって提供され得る。特に、オプションのステップ530及び535はそれぞれ、位置誤差(θ-θ)の飽和の合計又は積分Iを計算するとともに積分張力TINTを計算する。正、ゼロ、又は負であり得る、積分張力TINTは、ステップ525で計算された遠位張力TDISTの修正値として加えられ得る。積分張力TINTは、飽和した積分Iの関数fとして計算され得るとともに単純に積分Iとゲイン係数の積であり得る。ステップ530で計算された飽和した積分Iは、単に過去のN個の間隔の位置誤差(θ-θ)又は間隔の終わりにおける測定された位置と達成されるべきであった所望の位置との間の差(θD,i-θi-1)に関する合計であり得る。合計に含まれる間隔の数Nは、制限されてもされなくてもよく、積分Iは、積分の大きさが最大飽和値を超えることが許されないという点で飽和し得る。飽和値は一般的に、積分張力TINTの最大値又は最小値を制限するように選択され得る。しかし、積分張力TINTの最大値又は最小値は代替的には、関数fの値を計算するときに制限され得る。
【0035】
オプションのステップ540は、近位張力TPROXと本願では表される他の修正値を計算する。この近位張力は正、ゼロ、又は負であり得る。近位張力TPROXは、ステップ525で計算された遠位張力TDISTに加算され得る。図5Bは、近位張力TPROXを計算するためのプロセスのフローチャートである。プロセス540は、アクチュエータ440の速度dθ/dtの現在の値を読み込むことによってステップ542において開始する。速度dθ/dtは、アクチュエータ440の基部に付く標準的なタコメータによって測定され得る。計算効率を向上させるために、ステップ542はまた、図5Aのステップ510と515との間に実行するように計画され得る。ステップ544は次に、近位速度差又は誤差dePROX/dtを計算し、この近位速度差又は誤差dePROX/dtは、ジョイント410の所望速度dθ/dtに基づいて計算された所望速度と現在のアクチュエータ速度dθ/dtに基づいて計算された現在の速度との間の差又は誤差として定義される。1つの特定の実施形態では、所望速度は、有効モーメントアームR、符号Tsign、及びジョイント410の所望速度dθ/dtの積になり得る一方、現在の速度はアクチュエータ440の有効モーメントアーム及びアクチュエータ速度dθ/dtの積になり得る。図5Bの実施形態では、近位張力TPROXは、近位速度誤差dePROX/dtの関数fとして決定される。1つの特定の実施形態では、関数fは単純に近位速度誤差dePROX/dtとゲイン係数の積であり得る。ゲイン係数は、伝達システム420に対する追加的な減衰効果を提供するように選択され得る。
【0036】
図5Aのオプションのステップ550は、対張力TPAIRを計算する。この対張力TPAIRは、正、ゼロ、又は負の遠位張力TDISTに対する修正値であり得る。この遠位張力TDISTはステップ525で計算された。図5Cは、対張力TPAIRを計算するためのプロセス550のフローチャートである。プロセス550は、アクチュエータ440の速度dθ/dtの現在の値及びジョイント410に関連付けられた全ての他のアクチュエータの速度値を読み込むことによってステップ552において開始する。図4のシステムでは、ジョイント410に結合された2つのアクチュエータ440及び442並びに2つのアクチュエータ速度dθ/dt及びdθA’/dtがある。ステップ552はまた、図5Aのステップ510と515との間に実行するように計画され得る。ステップ556は次に、対速度差又は誤差dePAIR/dtを計算し、この対速度差又は誤差dePAIR/dtは、アクチュエータ440及び442が実質的に同一である場合、例えば、それぞれの伝達システムの作動のために同じ有効モーメントアームを有する場合、ジョイント410に関連付けられたアクチュエータ440及び442の現在の速度dθ/dt及びdθA’/dtの間の差又は誤差として定義される。1つの特定の実施形態では、現在の速度誤差dePAIR/dtは、差(dθ/dt-dθA’/dt)とアクチュエータ440及び442の有効モーメントアームの積になり得る。図5Cの実施形態では、対張力TPAIRは、対速度誤差dePAIR/dtの関数fとして決定される。1つの特定の実施形態では、関数fは単純に対速度誤差dePAIR/dtとゲイン係数の積であり得る。ゲイン係数は、伝達システム420に対する追加的な減衰効果を提供するように選択され得る。
【0037】
張力Tは、遠位張力TDIST、近位張力TPROX、対張力TPAIR及び、積分張力TINTの和の関数として図5Aのステップ560において決定される。図5Dの実施形態では、関数fは張力Tの最大及び最小値を制限する。最大張力TMAX及び最小張力TMINは、制御システム450のプログラムに(例えば、ソフトウェアに)設定され得る。しかし、コンプライアントシステムそれ自体が、バックエンド機構の適切な設計を用いて最小又は最大張力を有し得る。例えば、図3Aに示された伝達システムは、モータ/アクチュエータ342又は344が自由に回転する場合に予荷重システム333又は335の設定によって制御される最小張力TMIN、及びカップルモータ342又は344のトルクが、テンドン322又は324がキャプスタン332又は334を滑る時のレベルを超える場合に、滑りから生じる最大張力TMAXを有する。一般的に、ハードウェア及びソフトウェアの両方によって設定される最大及び最小張力TMAX及びTMINを有することが望ましい。特に、最大張力TMAXは、大きい力により生じる器具に対する損傷を避けるように設定されるべきであり、張力TMINは、伝達システムのテンドンが、緩まない及び、外れる又はもつれるようにならないことを確実にするように設定されるべきである。
【0038】
図5Aのステップ565は、アクチュエータ440にステップ560で計算された張力Tを加えさせる制御信号を生成する。例えば、制御信号は、アクチュエータ440がダイレクトドライブ電動モータである場合、計算された張力Tに比例するように制御される駆動電流であり得る。ステップ570において制御システム450は、アクチュエータ440に時間間隔Δtの間、計算された張力Tを加えさせるとともに保持させ、この時間の間、ジョイント410は現在の所望の位置θに向かって移動する。張力Tが変化する場合、完全な張力Tの印加は、アクチュエータ440の慣性に依存してある時間だけ遅れる。好ましくは、アクチュエータ440の慣性は、迅速な応答のために比較的小さい。例えば、アクチュエータ440として作動する駆動モータの慣性は、好ましくは、ジョイント410の慣性の5倍より小さい。時間Δt後、プロセス500は、ジョイント位置の測定、目標位置及び速度の取得、及び次の時間間隔の間に加えられることになる張力Tの計算を繰り返すために、ステップ510に分岐して戻る。一般的に、時間Δtは、器具のオペレータに滑らかであるように見えるとともに器具の望ましくない振動を起こさない動きを提供するのに十分小さくなるべきである。例えば、毎秒250回又はそれ以上の張力Tの計算及び設定は、人間の目に滑らかに見える動きを提供するとともに、人間の指令、例えばコントローラ460の人間の操作に応答する器具の操作を提供する。張力Tの計算における誤差の使用は概して、ジョイント410を、積分張力TINTの計算の有無にかかわらず且つ器具又は外部環境の詳細なモデル化又は測定無しに、所望の位置に収束させる。しかし、上述のように、印加張力Tを計算するのに使用したゲインg1及びg2等のパラメータは、特定の器具のために調整され得るとともに、さらに器具の外部環境における変化の補償するために使用中に調整され得る。
【0039】
アクチュエータ442が伝達システム422に加える張力はまた、図5Aの制御プロセス500を使用して制御され得るとともに、アクチュエータ442及び伝達システム422のためにプロセス500で使用されるパラメータは、アクチュエータ440及び伝達システム420と比較したときのアクチュエータ442及び伝達システム422の類似点及び差異に基づいて、アクチュエータ440及び伝達システム420のために用いられるものと同じ又は異なり得る。特に、図4の構成のアクチュエータ442のための符号値Tsignは、伝達システム422及び420がジョイント410を反対方向に回転させるように接続するので、アクチュエータ440のための符号値Tsignとは逆になる。結果として、ステップ525で計算された主要な著力の寄与TDISTは典型的には、1つのアクチュエータ440又は442に関して負である。印加張力Tを計算するステップ560は、負の張力の合計TDIST+TPROX+TPAIR+TINT図5Dに示された最小張力TMINに設定し得る。したがって、ステップ525における遠位張力TDISTの計算のためのパラメータ、例えば定数Cは、概して、他のアクチュエータが最小張力TMINを加えるという仮定に基づいて選択され得る。
【0040】
医療器具の単一のジョイントの制御のための上述された原理はまた、器具の複数のジョイントを同時に制御するために用いられ得る。図6は、マルチジョイント医療器具600及び器具600のための制御プロセスで使用される幾つかの量を概略的に示す。器具600は、ここではジョイント610と総称的に表される、L個のジョイント610-1乃至610-Lを含む。各ジョイント610は、隣接する機械的部材の相対位置又は向きの範囲を提供し、以下にさらに述べるように、典型的には1又は2自由度の動きを有する。器具600のジョイント610は、前部でN自由度を提供し、自由度の数Nはジョイントの数L以上であり、ジョイント610の構造の自由度は、N成分又はベクトルθを用いて記載され得る。N成分速度ベクトルdθ/dtはベクトルθに関連付けられる。ジョイント610-1乃至610-Lを動かすトルクτ乃至τは、それぞれ、トルクτ乃至τが、それぞれのベクトルθの成分を変化させる傾向があるという点で、ベクトルθのN成分に対応する。
【0041】
ジョイント610は、M個の伝達システム620-1乃至620-M(ここでは伝達システム620と総称的に表される)及びM個のアクチュエータ640-1乃至640-M(ここではアクチュエータ640と総称的に表される)を用いて駆動される。伝達システム620及びアクチュエータ640は、図4を参照して上述された、伝達システム420及びアクチュエータ440と同様または同一であり得る。一般的に、伝達システム620及びアクチュエータ640の数Mは、自由度の数Nより大きいが、MとNとの間の関係は、特定の医療器具及び器具のジョイントの機構に依存する。例えば、1自由度の動きを提供するジョイント610は2つの伝達システム620を使用して駆動され得るとともに、2自由度を提供するジョイント610は3つ又は4つの伝達システム620を用いて駆動され得る。自由度と駆動伝達システムとの間の他の関係も可能である。制御システム650は、アクチュエータ640-1乃至640-Mがそれぞれ伝達システム620-1乃至620-Mに加えるそれぞれの張力T乃至Tを選択するために、アクチュエータ640-1乃至640-Mを操作する。
【0042】
器具600のための制御システム650は、ジョイント610に関連付けられた位置及び速度ベクトルθ及びdθ/dtを決定するために遠位センサ(図示せず)を使用し得る。(位置及び速度は、直線又は角座標の値及び動きを含むようにここでは使用される。)制御システム650はまた、ジョイント610の所望の位置及び速度ベクトルθ及びdθ/dtを決定する。以下にさらに記載されるように、所望の位置及び速度ベクトルθ及びdθ/dtは、器具600を使って外科医によって操作され得る手動コントローラからの入力によって決まる。一般的に、所望の位置及び速度ベクトルθ及びdθ/dtはさらに、制御システム650を使用して実装される制御プロセスに定められる基準又は制限によって決まる。
【0043】
図7は、図6の器具600等のマルチジョイント器具を制御するための本発明の実施形態による制御プロセス700を示す。プロセス700は、器具の1つ又は複数のセンサからジョイント位置ベクトルθを読み込むことによってステップ710で開始する。速度ベクトルdθ/dtは、ジョイントの動きの直接測定を用いて又は2つの時点の間の位置測定値における変化の計算を通じて決定され得る。制御システム650は、ステップ715において外科医の指示を受信する。外科医の指示は、器具の特定の作業部分の所望の位置及び速度を示し得る。例えば、手動コントローラ660の操作を通じて外科医は、参照により本願に援用される、"Aspects of a Control System of a Minimally Invasive Surgical Apparatus"という名称の米国特許第6,493,608号に記載されたような、器具の遠位端部又はエンドエフェクタの所望の位置、速度、向き、及び回転を示し得る。ステップ720は次に、手動コントローラ660からの指示をジョイント610の所望の位置及び速度ベクトルθ及びdθ/dtに変換する。例えば、図6の器具600の遠位先端の所望の位置、向き、速度、及び角速度が与えられると、制御システム650は、所望の先端配置を達成する所望のジョイント位置及び速度ベクトルθ及びdθ/dtを計算し得る。変換ステップ720は、参照により本願に援用される、"Modeling and Control of Robot Manipulators," L. Sciavicco and B. Siciliano, Springer, 2000, pp. 104-106及び"Springer Handbook of Robotics," Bruno Siciliano & Oussama Khatib, Editors, Springer, 2008, pp. 27-29に記載された微分運動学的逆変換等、良く知られた技法を用いて達成され得る。上述の"Aspects of a Control System of a Minimally Invasive Surgical Apparatus"という名称の米国特許第6,493,608号も、所望の先端配置を達成する所望のジョイント位置及び速度ベクトルθ及びdθ/dtを決定するための技法を記載する。運動学的冗長性をもつ器具に関して、すなわち、ジョイント610によって提供される動きの自由度の数が手動コントローラ660によって特定される指令の動きの自由度の数より大きい場合、冗長性は、Yoshihiko Nakamura, "Advanced Robotics: Redundancy and Optimization," Addison-Wesley (1991)に記載されたような標準的な技法で解決され得ることが留意されるべきである。
【0044】
器具のジョイントの間のソフトウェアの強制的な制約もまた器具のための所望の指令に関する逆運動学問題を解く場合に実行され得ることも理解されるべきである。例えば、2つのジョイントのジョイント位置及び速度指令は、強制的に同じ又は反対又はある比率にされることができ、ジョイントの間の仮想的なカム機構を効果的に実現する。
【0045】
ステップ725は、位置誤差ベクトル(θ-θ)及び速度誤差ベクトル(dθ/dt-dθ/dt)を計算し、ステップ730は、それぞれのトルク成分τ乃至τの計算のために、誤差ベクトル(θ-θ)及び(dθ/dt-dθ/dt)の成分を使用する。1つの特定の実施形態では、1からNの添え字iに関する各トルク成分τは、式2を用いて決定される。式2では、g1及びg2はゲイン係数であり、Cは定数又はシステムの他の部分によってジョイントに加えられる既知の又はモデル化された力に従って選択され得る形状依存パラメータである。しかし、パラメータCは、厳密に定数である必要はなく、有効にモデル化され得る重力又は機械的剛性等の特性を補償する非定数項を含むことができ、したがって、Cはトルクτが作用するジョイント610-iの測定された位置又は速度に依存し得る。一般的に、ゲイン係数g1及びg2並びに定数Cは、ジョイントの所望の剛性及び減衰又は応答性に従って、或いは誤差の蓄積に従って選択され得る。例えば、器具600を患者内の自然な管腔に追従するように挿入するとき、ゲイン係数g1は、ジョイントを優しく振る舞うようにさせるとともにジョイントが周囲の組織を傷つけることを防ぐように、低い値に設定され得る。挿入後、ゲイン係数g1は、外科医が器具を用いて正確な外科的な仕事を実行することを可能にする高い値に設定され得る。他の方程式又は式2の修正値がトルクの決定に用いられ得る。例えば、計算されたトルクは、ジョイント位置の現在の測定値と先に印加されたトルクが達成することが意図される所望のジョイント位置との間の差の飽和積分に比例する修正値を含み得る。飽和積分を使用するこのような修正値は、図5Aの単一ジョイント制御プロセスに関して記載されたように、特に図5Aのステップ530及び535に示されたように決定され得る。
式2:τ=g1(θ-θ)+g2(dθ/dt-dθ/dt)+C
ステップ735は、遠位張力TDISTを決定するためにステップ730で計算されたトルクを使用する。遠位張力TDISTは、伝達システム620-1乃至620-M及びアクチュエータ640-1乃至640-Mに対応するM成分ベクトルである。遠位張力の決定は、器具ジョイントと伝達システムの間のジオメトリ又は機構に依存する。特に、マルチジョイントでは、各ジョイントは、ジョイントに取付けられた伝達システムによって直接加えられる力によってだけでなく、器具の遠位端部に近いジョイントに接続する伝達システムによっても影響され得る。医療器具におけるトルク及び張力は、一般的に式3の形の式を用いてモデル化され得る。式3では、τ乃至τはトルクベクトルの成分であり、T乃至Tはジョイント610を関節動作させるMの伝達システムそれぞれの遠位張力である。添え字I=1からNであり添え字J=1からMである各係数aIJは、一般的に、ジョイントの張力T及びトルクτに対応する回転軸の有効モーメントアームに対応する。

式3:
【0046】
【数1】


したがって、ステップ735での計算は、M個の変数T乃至Tに対するN個の方程式を解くことに対応する。Mは概してNより大きいので、解は一意的ではなく、したがって、全ての張力が最小値のセットより大きいという制約等の、不等式の制約が選択されることができ、最も低い最大値のセットが選択されるという条件等の、最適性条件が、全ての又は選択されたジョイントにおける所望の閾値より上に留まる最小張力のような所望の特性を持つ一意的な解を提供するために適用され得る。最小の張力の制約等不等式及び最適性条件を伴う式3の逆行列問題は、線形計画法のシンプレックス法等の幾つかの良く知られた技法によって解かれ得る。(例えば、その全体が参照により本願に援用される、"Linear Programming 1: Introduction," George B. Dantzig and Mukund N. Thapa, Springer-Verlag, 1997を参照。)本発明のさらなる態様によれば、遠位張力は、最も遠位のジョイントとから始まるジョイントを連続して評価する(調べる、数値を求める)とともに幾何学的パラメータ及びより遠位のジョイントに関して以前に計算された張力に基づいて各ジョイントに接続する伝達システムにおける張力を解くプロセスを使用して決定され得る。
【0047】
プロセス700の1つの実施形態における制御システム650は、それぞれの伝達システム620にステップ735で計算された遠位張力を加えるようにアクチュエータ640を動かす。代替的には、遠位張力の修正値がステップ740及び745に示されるように決定され得る。特に、ステップ740は、修正張力TPROXを計算する。この修正張力TPROXは、所望のジョイント速度dθ/dtに基づいて計算された、所望の伝達速度ベクトルdθDL/dtと、現在のアクチュエータ速度dθ/dtに基づいて計算された、現在の伝達速度ベクトルdθ/dtとの間の差によって決まる。1つの特定の実施形態では、所望の伝達速度は、式3の結合行列Aの転置行列の所望のジョイント速度dθ/dtとの積であり得る一方、現在の伝達速度は、アクチュエータ速度dθ/dt及びアクチュエータ640のそれぞれのモーメントアームの積であり得る。修正張力TPROXは、慣性又はアクチュエータ640と接続されたジョイント610との間のほかの影響を補償することができ、1つの実施形態では、差(dθDL/dt-dθ/dt)及びゲイン係数の積等、差(dθDL/dt-dθ/dt)の関数である。ステップ745は修正張力TPAIRを計算し、この修正張力TPAIRは同じジョイントを駆動するアクチュエータの速度の間の差によって決まる。例えば、ジョイントが、1自由度の動きを提供するとともに一対の伝達システムを通じてジョイントに接続された一対のアクチュエータによって駆動される場合、修正張力TPAIRは、2つのアクチュエータの速度の間の差の関数として決定され得る。(例えば、上述の図5Aのステップ550を参照。)修正張力TPAIRと同様である修正値は、3つ以上の伝達システム及びアクチュエータが2自由度の動きを有するジョイントを駆動する場合に、一般化され得る。
【0048】
ステップ750は、アクチュエータによって加えられる組合せ張力Tを決定するために、遠位張力TDISTと任意の修正張力TPROX又はTPAIRを組み合わせる。一般的に、組合せ張力Tの各成分T乃至Tは、計算された遠位張力TDIST並びに修正張力TPROX及びTPAIRの和が図5Dを参照して上述された所望の最大値又は最小値より大きい又は小さい場合、最大張力TMAX又は最小張力TMINに飽和するように制限され得る。ステップ755及び769は次に、アクチュエータ640を、プロセス700がステップ710に戻り新しいジョイント位置を読み込む前に、時間間隔Δtの間、組合せ張力Tを加えるとともに保持するように作動させる。250Hz以上の速さに対応する、おおよそ4ms以下の間隔の間張力を保持することは、医療処置のための器具の滑らかな動きをもたらし得る。
【0049】
医療器具は一般に、器具の作業先端部又はエンドエフェクタが外科医等のオペレータが制御し得る位置及び向きを有することを必要とする。他方、各ジョイントの特定の位置及び向きは、ジョイントの位置又は向きがそこを通って器具が延びる管腔によって強制される場合を除いて、一般的に実行される処置にとって重要ではない。本発明の態様によれば、マルチジョイント器具を制御するための1つのアプローチは、器具の先端部の現在と所望の配置との間の差を使用してテンドンを通じて加えられる張力を選択する。例えば、器具の先端部の測定された位置、向き、速度、及び角速度と、器具の先端部の所望の位置、向き、速度、及び角速度との間の差は、医療器具のテンドンに加えられる張力を制御し得る。
【0050】
図7Bは本発明の実施形態による制御プロセス700Bを示す。プロセス700Bは、幾つかのプロセス700と同じステップを用い、これらのステップは図7A及び7Bで同じ参照番号を有する。プロセス700Bはステップ710において、医療器具の1つ又は複数のセンサからジョイント位置θ及びジョイント速度dθ/dtを読み込む又は決定し、ステップ712において、器具の先端部の位置、向き、速度、及び角速度を読み込む又は決定する。先端部は、ここでは器具の特定の機械的な構造を表すとともに、器具の遠位端部の鉗子、はさみ、外科用メス、又は焼灼装置等のエンドエフェクタであり得る。一般的に、先端部は6自由度の動きを有し、6つの成分の値、例えば、先端部の特定のポイントの3つのデカルト座標及び先端部のピッチ、ロール及びヨーを示す3つの角度によって定義され得る配置を有する。時間を通しての配置座標の変化に関連付けられる速度は、直接測定され得る又は異なる時間における測定値を用いて計算され得る。ジョイントの位置及び速度θ及びdθ/dt並びに器具610の運動学的な演繹的な知識が与えられると、器具610の座標系に対する先端部のデカルト座標の位置、向き、並進速度、及び角速度の計算を可能にする順運動学モデル及び微分運動学モデルの両方を作ることができる。運動学的連鎖の順運動学モデル及び微分運動学モデルは、既知の方法にしたがって容易に構成することができる。例えば、参照により本願に援用される、John J. Craig, “Introduction to Robotics: Mechanics and Control,” Pearson Education Ltd. (2004)に記載された手順が使用され得る。ステップ715は所望の先端部の位置、向き、並進速度、及び角速度を決定し、これは上述の方法で実行され得る。
【0051】
他の実施形態では、センサ、例えば形状センサが、参照により本願に援用されるGiuseppe M. Priscoによる"Fiber optic shape sensor"という名称の米国特許出願公開第20090324161号に記載されたように、デカルト座標の位置及び方向を直接測定するために使用され得る。時間を通しての配置座標の変化に関連付けられる並進速度は、異なる時間における測定値を使用して計算され得る。並進速度と異なり、角速度は、角度の性質の量のために差分アプローチによって単純に計算することができない。しかし、向きの変化に関連付けられた角速度を計算する方法は、技術分野で知られており、例えば、L. Sciavicco and B. Sicilianoによる"Modelling and Control of Robot Manipulators," Springer 2000, pp. 109-111に記載されている。
【0052】
プロセス700Bはステップ722において、先端部誤差を計算する。1つの実施形態では、ステップ722は、先端部の所望のデカルト座標と先端部の現在のデカルト座標との間の位置誤差又は差ePOS、先端部の所望の並進速度と先端部の現在の並進速度との間の並進速度誤差又は差eVT、先端部の所望の向きの座標と先端部の現在の向きの座標との間の向きの誤差又は差eORI、及び先端部の所望の角速度と先端部の現在の角速度との間の角速度誤差又は差eVA、を計算することを含む。位置誤差ePOSとは異なり、向きの誤差eORIは、角度の性質の量のために差分アプローチによって単純に計算することができない。しかし、向きの変化を計算する方法は、技術分野で知られており、例えば、L. Sciavicco and B. Sicilianoによる"Modelling and Control of Robot Manipulators," Springer 2000, pp. 109-111に記載されている。
【0053】
ステップ724では、プロセス700Bは、先端部を現在の配置から所望の配置に動かすことが意図される先端部力FTIP及び先端部トルクτTIPを決定する。本発明のこの実施形態では、先端部力FTIPは、誤差ePOS及びeVTによって決まる。例えば、先端部力FTIPの角成分F、F、又はFは式4を用いて計算されることができ、gp及びgvはゲイン係数でありCfは定数である。先端部トルクτTIPは同様の方法で決定されることができ、この方法では、先端部トルクの各成分τは、式5に示されるように、ゲイン係数及び定数のもう1つのセットgori、gva、及びCτを持つ誤差eORI及びeVAの関数である。一般的に、異なる力又はトルクの成分F及びτに関連付けられるゲイン係数gp及びgvは異なり得る。先端部力FTIP及び先端部トルクτTIPの各成分に対して異なるゲイン係数及び定数を有することは、エンドエフェクタ又は器具先端部の動的挙動を特定する柔軟性を提供し、より効果的な器具の組織との相互作用を高める。例えば、器具を小さい管腔内に誘導する場合、挿入方向に沿うゲイン係数に対して高い値を有する一方、挿入方向と直交する先端部力のゲイン係数に対して低い値を設定し得る。それによって、器具は、組織に対する低い横方向の抵抗を有する一方、挿入に関して十分堅く、周辺組織への損傷を防ぐ。他の例では、ある方向に組織に穴を開けるために器具を使う場合、先端部トルクのゲイン係数並びに先端部力の挿入方向に沿ったゲイン係数に高い値にすることが、穴開け作業を容易にする。
式4:F=gp*ePOS+gv*eVT+Cf
式5:τ=gori*eORI+gva*eVA+Cτ
ステップ732は、ステップ724で決定された先端部力FTIP及び先端部トルクτTIPを提供するジョイントトルクのセットを決定する。ジョイントトルクベクトルτ、先端部力FTIP及び先端部トルクτTIPの間の関係は、文書で十分に立証されており、通常は式6のように記載され、Jは器具の運動学的連鎖の良く知られたヤコビ行列Jの転置行列である。

式6
【0054】
【数2】



ヤコビ行列Jは、器具の幾何学的形状及びステップ710で決定された現在のジョイント位置によって決まり、既知の方法を使用して作ることができる。例えば、参照により本願に援用される、John J. Craig, "Introduction to Robotics: Mechanics and Control," Pearson Education Ltd.(2004)は、ロボット機構のためのヤコビ行列を作るために使用され得る技法を記載する。幾つかの場合、医療器具に提供された余分な又は冗長な動きの自由度の、例えば、6自由度より大きい先端部の動き、がある場合、先端部力FTIP及び先端部トルクτTIPを提供するジョイントトルクのセットは一意的ではなく、制約条件が、所望の特性を有するジョイントトルクのセットを選択するために、例えば、ジョイントが動きの範囲又は支持荷重におけるそれらの機械的なジョイントの限界に達することを防ぐジョイントトルクのセットを選択するために、或いは操作中に器具の任意の特定のジョイントに余分な用役を実行させるために、使用され得る。例えば、中央範囲のジョイント位置からの、ヤコビ行列の転置行列Jに関連するゼロ空間からの偏差を最小にする、ジョイントトルクのセットを選択することによってジョイントがそれらの機械的なジョイントの限界に達することを防ぐことができる。ジョイントトルクのセットは、式7にしたがって選択され得る。式7では、P(θ)は解によって提供されることになる追加有用性を定めるポテンシャル関数であり、∇は勾配演算子、N()は、入力に関連したヤコビ行列の転置行列Jのゼロ空間からジョイントトルクのセットを選択するゼロ空間射影演算子である。1つの実施形態では、ポテンシャルP(θ)は、ジョイントがそれらの動きの範囲の中心にある場合に最小値を有するジョイント位置の2次関数である。ポテンシャル関数の勾配-∇P(θ)は、動きの範囲の中心に向かって動くようにジョイントを引くジョイントトルクのセットを選択する一方、ゼロ空間射影演算子N()は、所望の先端部力及び先端部トルクを提供する選択されたジョイントトルクのセットもまた追加的な有用性を満足することを強制する。冗長な動きの自由度を提供するロボットシステムにおいて制約条件を使用するための技法は、技術分野で知られているとともに、ロボット工学の文献に見つけることができる。例えば、Yoshihiko Nakamura, "Advanced Robotics: Redundancy and Optimization," Addison-Wesley (1991)、及びOussama Khatib,による文献“The Operational Space Framework," JSME International Journal, Vol. 36, No. 3, 1993を参照。

式7
【0055】
【数3】



ステップ732の後、プロセス700Bは、上述のプロセス700と同じ方法で継続する。特に、ステップ732で決定されたジョイントトルクに基づいて、ステップ735は張力TDISTを決定する。ステップ740及び745は張力TDISTへの修正値TPROX及びTPAIRを決定し、ステップ750は組合せ張力ベクトルTを決定する。ステップ755及び760は、次に医療器具を時間間隔Δtの間駆動するために、伝達システムに組合せ張力ベクトルTの成分を加えるとともに保持する。
【0056】
図7A及び7Bのプロセス700及び700Bは、特定のジョイントトルクのセットを生み出す張力の決定を必要とする。1つの単独のジョイントのためのテンドンの張力は、単純にジョイントトルクを張力が加えられる所におけるモーメントアームによって割ることによってジョイントトルクから決定され得る。マルチジョイントの場合、伝達システム及びケーブル経路の幾何学的形状並びに駆動ケーブルの冗長性のために、問題は、制約条件を持つ連立方程式を解くことになる。1つの特定の実施形態では、連立方程式を解く場合、ケーブル又は伝達システムにおける他のテンドンの緩みを防ぐように、非負のテンドン張力の制約条件(或いは最小張力の制約条件)を適用し得る。問題の入力は各ジョイントのための決定されたジョイントトルクである一方、ケーブル経路の幾何学的形状は連立方程式(又は式3の結合行列A)を定める。式3を満たすとともに最小張力制約条件より大きい適切なテンドン張力が必要とされる。シンプレックス法と呼ばれる、標準的な最適化法が、不等式及び最適制約条件を持つこの逆行列問題を扱うために使用され得る。シンプレックス法は、比較的大きい計算時間を必要とし、実時間アプリケーションに使用されることが有利でない場合がある。また、シンプレックス法は、ジョイントトルクが変化するとき解の連続性を保証しない。計算効率をスピードアップするとともに連続的な出力解を提供するために、結合行列Aの三角形の性質に依存する反復アプローチが考慮され得る。図8A、8B、8C、9A、9B、9C、9D、及び9Eは、マルチジョイント器具におけるジョイントの幾つかの特定の例を示し、ここでは式3の結合行列Aの幾つかの特性を説明するために使用される。
【0057】
図8Aは、例えば、複数の機械的ジョイント810、820、及び830を含む器具の一部を示す。各ジョイント810、820、及び830は、ジョイントの軸z1、z2、又はz3周りの回転に対応する、1自由度を提供する。図8Aでは、テンドンC1及びC2は、ジョイント810の駆動のためにジョイント810に接続する。テンドンC3及びC4は、ジョイント810を貫通し、ジョイント820の駆動のためにジョイント820に接続する。テンドンC5及びC6は、ジョイント810及び820を貫通し、ジョイント830の駆動のためにジョイント830に接続する。テンドンC1乃至C6の近位端部(図示せず)は、図2又は3Aに示されたようなコンプライアント伝達システムを通じて、それぞれの駆動モータ又はアクチュエータに接続され得る。器具のための制御システムは、テンドンC1、C2、C3、C4、C5、及びC6にそれぞれの張力T1、T2、T3、T4、T5、及びT6を加えるようにアクチュエータを制御する。
【0058】
ジョイント830は図示された実施形態の器具の遠位端部にあり、ジョイント830の駆動は、図5A、5B、5C、及び5Dを参照して上述されたようなシングルジョイントプロセスを使用して制御され得る。しかし、ジョイント820の全トルクは、ケーブルC3及びC4の張力だけでなく、ジョイント830に接続されるテンドンC5及びC6によって加えられるトルクによっても決まる。ジョイント810の全トルクは同様に、テンドンC1及びC2の張力だけでなく、遠位端部に近いジョイント820及び830に接続されるテンドンC3、C4、C5、及びC6によって加えられるトルクによっても決まる。器具の幾何学的又は運動学的性質に基づくモデルは、ジョイント810、820、及び830のトルクτ1、τ2、及びτ3を、テンドンの張力T1、T2、T3、T4、T5、及びT6と関連付けるように作られ得る。式3Aは、このような数学的モデルの1つを示し、上述の式3の特定の例を提供する。式3Aでは、τ、τ、及びτは、ジョイント810、820、及び830のそれぞれの駆動トルクであり、r、r、及びrは、テンドンC1、C3、及びC5が付く所における有効モーメントアームであり、T1、T2、T3、T4、T5、及びT6は、それぞれのテンドンC1、C2、C3、C4、C5、及びC6における張力である。式3Aをもたらすモデルは、回転軸z1、z2、又はz3が平行であるとともに同じ平面内にあり、テンドンC1及びC2、C3及びC4、C5及びC6がそれぞれ有効モーメントアームr1、r2、又はr3で付き、テンドンC1、C3、及びC5がそれぞれのジョイント810、820、及び830を、それぞれテンドンC2、C4、及びC6の操作の反対の回転方向に操作することを含む、ジョイント810、820、及び830を含み器具の幾何学的又は機械的性質の特定のセットを適用する。

式3A
【0059】
【数4】



図8B及びbCは、互いに直交するそれぞれの回転軸z1及びz2を持つジョイント810及び820を含む医療器具の特性を示す。一般的に、各ジョイント810及び820における正味のトルクは、ジョイントを通って遠位端部に延びるテンドンの張力及びジョイントの駆動軸に対するテンドンに関連する有効モーメントアームによって決まる。図8Cは、各テンドンC1、C2、C3、及びC4が軸z1及びz2周りの異なるモーメントアームで動作する典型的な例を示すために、ジョイント810の基部の図を示す。ジョイント810及び820を孤立系又は器具の遠位端部の最後の2つの作動するジョイントとして考えると、ジョイント810及び820の正味のトルクτ及びτは、式3Bに示されるように、それぞれのテンドンC1、C2、C3、及びC4の張力T1、T2、T3、及びT4に関連する。特に、ジョイント820は、テンドンC3の張力T3及びテンドンC3がジョイント820に付く軸z2に関するモーメントアームa32、並びにテンドンC4の張力T4及びテンドンC4がジョイント820に付く軸z2に関するモーメントアームa42によって決まる正味のトルクτにさらされる。ジョイント810のトルクτは、ジョイント810に取付けられるテンドンC1及びC2の張力T1及びT2、ジョイント820に取付けられるテンドンC3及びC4の張力T3及びT4、並びにモーメントアームa11、a21、a31、及びa41によって決まる。モーメントアームa21及びa41は、引っ張りテンドンC2及びC4がジョイント810のトルクτのための慣例定義の正の方向の反対の方向への回転を作り出すため、負符号が与えられる。同じ理由で、モーメントアームa31もまた、引っ張りテンドンC3がジョイント820の正の回転の方向と反対の回転を作り出すので、負符号が与えられる。

式3B
【0060】
【数5】



式3の行列Aを計算するための同様の方法が、ジョイント軸が互いに平行又は直行せず、むしろ任意の相対的な向きであるとき、それに応じて各ジョイント軸に関する各テンドンのモーメントアームを計算することによって、利用され得ることが理解されるべきである。
【0061】
図9は、医療用カテーテル、消化管、結腸、及び気管支用内視鏡、ガイドワイヤ、並びに組織サンプリングために使用される把持装置及び針等の他の内視鏡器具に一般的に見られるような連続的な柔軟なジョイント910を含む器具の一部900を示す。ジョイント910は、図3Bを参照して上述された柔軟構造と同様である。しかし、ジョイント910は、2自由度の動きを持つジョイントを提供するように、3つ以上のテンドン920の使用を通じて操作される。例えば、図9Bは、柔軟なジョイント910の端部に接続する、図9Bにc1、c2、c3、及びc4で標識される、4つのテンドン920の実施形態の基部の図を示す。テンドンc1及びc2における張力の差は、ジョイント910を第1の方向に回転させる、例えばX軸周りの回転を生じさせることができ、テンドンc3及びc4における張力の差は、ジョイント910を第1の方向と直交する第2の方向に回転させる、例えばY軸周りの回転を生じさせることができる。ジョイント910を曲げる傾向がある正味のトルクの成分τ及びτは、式3Cに示されるように、テンドンc1、c2、c3、及びc4の張力T1、T2、T3、及びT4それぞれから決定され得る。式3Cから分かるように、トルク成分τ及びτのための式は、成分τが張力T1及びT2のみによって決まるとともに成分τが張力T3及びT4のみによって決まるという点で結合しない。

式3C
【0062】
【数6】



図9Cは、ジョイント910を駆動するために、図9Cにc1、c2、及びc3で標識される、3つのテンドン920を使用する実施形態の基部の図を示す。この配置を用いて、ジョイント910を曲げる傾向がある正味のトルクの成分τ及びτは、式3Dに示されるように、テンドンc1、c2、及びc3の張力T1、T2、及びT3それぞれから決定され得る。ここで、raはX軸周りのテンドンc1のモーメントアームであり、-rbはX軸周りのテンドンc2及びc3のモーメントアームであり、rc及び-rcはそれぞれY軸周りのテンドンc2及びc3のモーメントアームである。X軸周りのテンドンc2及びc3のモーメントアームは、引っ張りテンドンc2及びc3が、引っ張りテンドンc1がジョイント910をX軸周りに曲げる方向と反対の方向に、ジョイント910を曲げるため、慣例により負符号が与えられる。同じ理由で、Y軸周りのテンドンc3のモーメントアームは慣例により負符号が与えられる。

式3D
【0063】
【数7】



図9Dは、柔軟な器具950、例えば柔軟なカテーテルが2つのジョイントを含む実施形態を示す。ジョイント910は、2自由度の動きを提供するようにテンドン920を通じて駆動され、ジョイント940は、別の2自由度の動きを提供するようにテンドン930を通じて駆動される。図9Eは、ジョイント910のために3つのテンドン920(図9Eにおいてc1、c2、及びc3で標識される)及びジョイント940のために3つのテンドン930(図9Eにおいてc4、c5、及びc6で標識される)を使用する特定の場合におけるジョイント940の基部を示す。最遠位ジョイント910におけるトルクと力の間の関係は、上述の式3Dを使用してモデル化され得る。しかし、ジョイント940におけるトルクは、柔軟な部分940を通過するテンドン920及び930の全ての張力によって決まる。したがって、器具950のトルク及び張力は、式3Eに示されるような1つの特定の例に関係し得る。式3Eにおいて、τ1及びτ1はジョイント910におけるトルク成分であり、τ2及びτ2はジョイント940におけるトルク成分であり、ra、rb、及びrcはモーメントアームの大きさであり、T1,T2、及びT3はテンドン920における張力であり、T4,T5、及びT6はテンドン930における張力である。

式3E
【0064】
【数8】



式3A乃至3Eは、多くの医療器具において、最遠位ジョイントにおいて特定のトルクを提供する張力を見つける問題が系における他の張力と独立して解かれ得ることを示す。より一般的には、各ジョイントのためのジョイントトルクは、そのジョイントに接続するテンドンにおける張力及び最遠位ジョイントに加えられる張力によって決まる。したがって、図7A及び7Bのプロセス700及び700Bのステップ735は、あるジョイントトルクのセットを作り出す張力のセットを決定するために、器具の遠位端部から器具の近位端部に向かって順番にジョイントを反復的に解析するプロセスを使用して実行され得る。
【0065】
図10は、あるジョイントトルクのセットを作る張力を計算するための反復プロセス735を示す。図10の実施形態におけるプロセス735は、最後の又は最遠位のジョイントのための張力決定で開始し、次に順次第1の又は最近位のジョイントに向かう順にジョイントのための張力を決定する。ステップ1010はインデックスjを初期化する。このインデックスjは、解析のためのジョイントを識別するとともに、最初はジョイントの数Lに設定される。ステップ1020は次に、j番目のジョイントのためのトルクτを取得する。ジョイントトルクτは、例えば、上述のプロセス700のステップ730又はプロセス700Bのステップ732にあるように決定され得るとともに、1自由度の動きを提供するジョイントのための1つの非ゼロの成分又は2自由度の動きを提供するジョイントのための2つの非ゼロの成分を有し得る。
【0066】
ステップ1030は次に、例えば図7A又は7Bのステップ730又は732で計算された、正味のトルク、を作るように、j番目のジョイントに取付けられたリンクを通じてj番目のジョイントに加えられることになる張力を計算する。図10の例では、ステップ1030の計算は、直接加えられる張力の1つが目標又は公称張力であるという制約条件下にある。公称張力は、伝達システムの張力が開放されるようにゼロ又は代替的には伝達システムのテンドンが緩まないことを確実にする最小張力であり得るが、これは必須ではない。公称張力は、アクチュエータの力が開放される場合に対応する、例えば、図6の駆動モータ640が自由に回転し、この場合張力は用いられる伝達システムの種類によって決まり得る場合に対応するが、これは必須ではない。
【0067】
医療器具のj番目のジョイントが1自由度の動きを提供するとともに2つのテンドン又は伝達システムに直接結合される特定の場合、ジョイントトルクは、式3の中からの1つの式によって張力に関連付けられる1つの成分を有する。L番目又は最遠位ジョイントのためのステップ1030は次に、ジョイントトルクを最遠位ジョイントに結び付けられた2つの張力に関連付ける線形方程式を解くことを伴う。2つの未知の張力を含む1つの線形方程式に、1つの張力が公称張力であるという制約条件を適用することは、もう1つの張力に関する一意的な解を保証する。特に、もう1つの張力が、最遠位ジョイントのトルク及び結合行列Aの関連する係数から一意的に決定され得る。代替的には、L番目のジョイントが、2自由度の動きを提供するとともに3つのテンドン又は伝達システムに結合される場合、ジョイントトルクは、2つの成分を有するとともに式3の中からの2つの式に対応する。2つの式は3つの張力を含むので、張力の1つが公称張力と等しいという制約条件を用いて、残りの2つの張力は、ジョイントトルクの成分及び結合行列Aの関連する成分から一意的に決定され得る。提案された方法は、同様の方法で、mが3より大きい、m個のテンドンが2自由度を提供する同じジョイントに接続される場合、次に(m-2)の張力が同時に公称張力になるように制約され得る一方、残りの2つの張力がジョイントトルクの成分及び結合行列Aの関連する成分から一意的に決定され得る、という意味で一般的であることが留意されるべきである。
【0068】
ステップ1030は、最初に最遠位ジョイント(すなわち、j=L)に関して実行される。ステップ1030のサブステップ1032は最初に、最遠位ジョイントに取付けられた伝達システムの1つを選択し、サブステップ1034は、サブステップ1036の試算のために張力を公称張力に設定する。サブステップ1036は最初に、ジョイントに取付けられた他の伝達システムのための張力(又は複数の張力)を計算し、計算された張力は、計算されたジョイントトルク及び最遠位ジョイントに直接加えられる他の張力のみによって決まる。ステップ1038は、全ての計算された張力が最小許容張力以上であるかどうかを決定する。そうでない場合、ステップ1040は、ステップ1034及び1036が繰り返される場合に公称張力を持つ伝達システムになるように、ジョイントに直接結合された他の伝達システムを選択する。いったんステップ1040が、計算された張力が全て最小許容張力以上であることを決定すると、最遠位ジョイントに関する張力の決定は完了し、ステップ1050は、プロセス735がステップ1020の繰返しのためにステップ1060から戻って分岐する前に、ジョイントインデックスjをデクリメントする。
【0069】
2つの伝達システムが接続されるとともに1自由度の動きを提供するジョイントの場合におけるj番目のジョイントのためのステップ1030は、式3の中から1つの式の評価(数値を求めること)を含む。上述のように、結合行列Aの性質は、j番目のジョイントのための式がJ番目のジョイントに直接結び付けられた張力及びより遠位のジョイントに結び付けられた張力のみを含むというものである。したがって、より遠位のジョイントのための張力が既に決定されている場合、j番目のジョイントに関連する式は、2つの未知数だけを含み、この2つの未知数は、ジョイントに直接結合された伝達システムの張力である。張力の1つが公称張力であるという制約条件は、公称張力以上であるもう一つの張力の一意的な決定を可能にする。j番目のジョイントが3つの伝達システムに接続するとともに2自由度の動きを提供する場合は、ジョイントトルクの2つの成分に関連する2つの式の評価を含む。より遠位のジョイントのための張力が既に決定されている場合、j番目のジョイントに関連する式は3つの未知数だけを含み、この3つの未知数は、ジョイントに直接結合されたテンドンの張力である。張力の1つが公称張力であるという制約条件は、公称張力以上である残りの2つの張力の一意的な決定を可能にする。
【0070】
図10のプロセス735は、したがって、最遠位ジョイントが評価されていることをステップ1060が決定するとき、ステップ1070で出力される完全な遠位張力のセットを生成するために、器具の遠位端部のジョイントから順の張力の決定を使用し得る。プロセス735は、医療処置に十分滑らかな動きを提供する速さで、例えば250Hzまで、またはそれより大きい速さで変更される張力の実時間決定のために動作するコンピュータ又は他のコンピュータシステムを使用して効率的に実装され得る。さらに、各ジョイントが、少なくとも1つの目標又は公称値で直接加えられる張力を有するという制約条件は、連続的な時間において決定される張力の間の連続性を提供する。
【0071】
上述のプロセスは、汎用コンピュータによる実行のための電子メモリ或いは磁気又は光学ディスク等、コンピュータ可読媒体に保存され得るソフトウェアを使用して実装又は制御され得る。代替的には、上述のプロセスの制御又は上述のプロセスに用いられた計算は、特定用途向けハードウェア又は電子機器を使用して実装され得る。
【0072】
本発明は特定の実施形態を参照して記載されているが、記載は本発明の応用の単なる例であり、限定として受け止められるべきではない。開示された実施形態の特徴の様々な適合及び組み合せは、以下の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲内である。
【0073】
次の付記を記す。
(付記1) 医療器具システムであって:
複数のジョイントと;
複数のアクチュエータと;
それぞれ前記アクチュエータに結合される近位端部を有する複数の伝達システムであって、それぞれの前記伝達システムは、前記医療器具システムの関節のために力の伝達を可能にするように、関連図けられた前記ジョイントの1つに取り付けられる遠位端部を有する、複数の伝達システムと;
前記医療器具の配置を測定するように結合されたセンサと;
配置測定値を受信するように結合された制御システムであって、前記制御システムは、前記伝達システムのための張力を決定するために前記配置測定値を使用するとともに前記伝達システムに前記張力を作り出すように前記アクチュエータを操作する、制御システムと;を含む、
医療器具システム。
(付記2) 前記伝達システムのそれぞれは、コンプライアントであるとともに、調整された値のアクチュエータ力の下でジョイント関節において許容された不正確さより多いものに対応する量だけ伸びる、
付記1に記載のシステム。
(付記3) 前記制御システムは、前記アクチュエータの位置に無関係であるように、前記伝達システムに加えられる前記張力を制御する、
付記1に記載のシステム。
(付記4) 前記制御システムは、前記伝達システム又は前記ジョイントのコンプライアンスに無関係であるように、前記伝達システムに加えられる前記張力を制御する、
付記1に記載のシステム。
(付記5) 前記制御システムは、前記伝達システムの前記近位端部から前記遠位端部への長さに無関係であるように、前記伝達システムに加えられる前記張力を制御する、
付記1に記載のシステム。
(付記6) 前記制御システムは、前記伝達システムの前記近位端部から前記遠位端部への形状に無関係であるように、前記伝達システムに加えられる前記張力を制御する、
付記1に記載のシステム。
(付記7) 前記制御システムは:
前記ジョイントの所望の配置と前記ジョイントの現在の配置との間の差を決定するステップ;
前記差から、前記差を減らすように前記ジョイントを作動させるジョイントトルクを決定するステップ;及び
前記ジョイントトルクを発生させる前記張力を決定するステップ;
を有する、プロセスを使用して前記張力を決定する、
付記1に記載のシステム。
(付記8) 前記制御システムは:
選択された前記ジョイントの1つの現在の配置と前記選択されたジョイントの所望の配置との間の第1の差を決定するステップ;及び
前記第1の差及び第1のゲイン係数の第1の積を前記選択されたジョイントを作動させるジョイントトルクを決定するのに使用するステップ;
を含む、プロセスにおいて、前記配置測定値を使用する、
付記1に記載のシステム。
(付記9) 前記制御システムが前記配置測定値を使用する前記プロセスは:
前記選択されたジョイントにおける現在の速度と前記ジョイントにおける所望の速度との間の第2の差を決定するステップ;及び
前記第2の差及び第2のゲイン係数の第2の積を決定するステップであって、前記選択されたジョイントを作動させる前記ジョイントトルクがさらに前記第2の積によって決まる、ステップ;
をさらに有する、
付記8に記載のシステム。
(付記10) 前記制御システムは:
前記器具の先端の所望の配置と前記先端の現在の配置との間の差を決定するステップ;
前記差から、前記先端に加えられるときに前記差を減少させる先端力及び先端トルクを決定するステップ;
前記器具の前記先端に前記先端力及び前記先端トルクを発生させるジョイントトルクを決定するステップ;及び
前記ジョイントトルクを発生させる前記張力を決定するステップ;
を有する、プロセスを使用して、前記張力を決定する、
付記1に記載のシステム。
(付記11) 前記先端力を決定するステップは:
前記先端の第1の位置座標の現在の値と前記先端の前記第1の位置座標の所望の値との間の第1の差を決定するステップ;
前記第1の差及び第1のゲイン係数の第1の積を決定するステップ;及び
前記先端力の第1の成分を決定するのに前記第1の積を使用するステップ;
を有する、
付記10に記載のシステム。
(付記12) 前記先端力を決定するステップは、
前記先端の第2の位置座標の現在の値と前記先端の前記第2の位置座標の所望の値との間の第2の差を決定するステップ;
前記第2の差及び第2のゲイン係数の第2の積を決定するステップであって、前記第2のゲイン係数は前記第1のゲイン係数と異なる、ステップ;及び
前記先端力の第2の成分を決定するのに前記第2の積を使用するステップ;
をさらに有する、
付記11に記載のシステム。
(付記13) 前記先端トルクを決定するステップは:
前記先端の第1の角度座標の現在の値と前記先端の前記第1の角度座標の所望の値との間の第1の差を決定するステップ;
前記第1の差及び第1のゲイン係数の第1の積を決定するステップ;及び
前記先端トルクの第1の成分を決定するのに前記第1の積を使用するステップ;
を有する、
付記10に記載のシステム。
(付記14) 前記先端トルクを決定するステップは:
前記先端の第2の角度座標の現在の値と前記先端の前記第2の角度座標の所望の値との間の第2の差を決定するステップ;及び
前記第2の差及び第2のゲイン係数の第2の積を決定するステップであって、前記第2のゲイン係数は前記第1のゲイン係数と異なるように設定される、ステップ;

をさらに有する、
付記13に記載のシステム。
(付記15) 前記先端力を決定するステップは:
前記先端の現在の速度の成分と前記先端の所望の速度の成分との間の差を決定するステップ;
前記差及びゲイン係数の積を決定するステップ;及び
前記先端力の成分を決定するのに前記積を使用するステップ;
を有する、
付記10に記載のシステム。
(付記16) 前記先端力を決定するステップは:
前記先端の角速度と前記先端の所望の角速度との間の差を決定するステップ;
前記差及びゲイン係数の積を決定するステップ;及び
前記先端力の成分を決定するのに前記積を使用するステップ;
を有する、
付記10に記載のシステム。
(付記17) 前記ジョイントは、6を超える動作の自由度を提供し、前記先端の動きに関して冗長である動作の自由度を含み、前記ジョイントトルクは、前記ジョイントの動きの範囲の限界に前記ジョイントが近付かないように又はジョイントトルク限界に近づかないように、計算される、
付記10に記載のシステム。
(付記18) 前記制御システムは:
前記ジョイントにおいてそれぞれジョイントトルクを決定するために前記配置測定値を使用するステップ;及び
前記ジョイントトルクを使用して前記伝達システムのための前記張力を決定するステップ;
を有するプロセスを使用して前記張力を決定する、
付記1に記載のシステム。
(付記19) 前記制御システムは:
前記器具の前記遠位端部から前記器具の前記近位端部に向かう順に連続して前記ジョイントを評価するステップであって、各ジョイントを評価する前記ステップは、その前記ジョイントのための前記ジョイントトルク及び前記器具の前記遠位端部により近いジョイントに関して決定された張力を、評価されている前記ジョイントに直接加えられる張力を決定するために使用するステップを有する、ステップ、
を有するプロセスを使用して前記張力を決定する、
付記18に記載のシステム。
(付記20) 各ジョイントを評価するとき、評価されている前記ジョイントに直接加えられる前記伝達システムの前記張力は、公称値と等しくなるように選ばれ、前記ジョイントに直接加えられる残りの前記伝達システムの前記張力は、そのジョイントのための前記ジョイントトルクを生成するように且つ前記公称値以上になることが検証されるように計算される、
付記19に記載のシステム。
(付記21) 前記公称値は、前記伝達システムにおいて全ての張力を効果的に開放するように選ばれる、
付記20に記載のシステム。
(付記22) 前記公称値は、前記伝達システムにおいて前記張力を効果的に保持するように選ばれる、
付記20に記載のシステム。
(付記23) 前記ジョイントトルクを使用して前記張力を決定する前記ステップは:
前記ジョイントトルクから遠位張力を決定するステップ;及び
前記ジョイントの速度と前記ジョイントに結合された前記アクチュエータの対応する速度との間のそれぞれの差に依存する修正値を決定するステップであって、前記伝達システムのための前記張力は、前記遠位張力及び前記修正値に依存する、ステップ;
を有する、
付記18に記載のシステム。
(付記24) 前記ジョイントトルクを使用して前記張力を決定する前記ステップは:
前記ジョイントトルクから遠位張力を決定するステップ;及び
前記ジョイントに結合された前記伝達システムに結合されたアクチュエータの速度の間の差に依存する修正値を各前記ジョイントに関して決定するステップであって、前記伝達システムのための前記張力は、前記遠位張力及び前記修正値に依存する、ステップ;
を有する、
付記18に記載のシステム。
(付記25) 医療器具を制御するための方法であって:
前記医療器具の複数のジョイントの配置を測定するステップ;
前記医療器具の所望の配置を示す指令を受信するステップ;
複数のアクチュエータを前記ジョイントにそれぞれ接続する複数の伝達システムそれぞれの張力を決定するステップであって、前記張力の決定は前記アクチュエータの位置に無関係である、ステップ;及び
前記伝達システムそれぞれに前記張力を加えるように、前記アクチュエータを操作するステップ;
を有する、
方法。
(付記26) 1つ又は複数の前記伝達システムは、前記ジョイントの位置と前記伝達システムに結合された前記アクチュエータの位置との間の関係を提供しないように、コンプライアンスを有し、前記伝達システムは前記関係を使用している前記ジョイントの制御に関して十分正確である、
付記25に記載の方法。
(付記27) 前記張力を決定するステップは:
前記ジョイントの所望の配置と前記ジョイントの現在の配置との間の差を決定するステップ;
前記差から、前記差を減らすように前記ジョイントを作動させるジョイントトルクを決定するステップ;及び
前記ジョイントトルクを発生させる前記張力を決定するステップ;
を有する、
付記25に記載の方法。
(付記28) 前記張力を決定するステップは:
前記器具の先端の所望の配置と前記先端の現在の配置との間の差を決定するステップ;
前記差から、前記先端に加えられるときに前記差を減少させる先端力及び先端トルクを決定するステップ;
前記器具の前記先端に前記先端力及び前記先端トルクを発生させるジョイントトルクを決定するステップ;及び
前記ジョイントトルクを発生させる前記張力を決定するステップ;
を有する、
付記25に記載の方法。
(付記29) 前記先端力を決定するステップは:
前記先端の第1の位置座標の現在の値と前記先端の前記第1の位置座標の所望の値との間の第1の差を決定するステップ;
前記第1の差及び第1のゲイン係数の第1の積を決定するステップ;及び
前記先端力の第1の成分を決定するのに前記第1の積を使用するステップ;
を有する、
付記28に記載の方法。
(付記30) 前記先端力を決定するステップは、
前記先端の第2の位置座標の現在の値と前記先端の前記第2の位置座標の所望の値との間の第2の差を決定するステップ;
前記第2の差及び第2のゲイン係数の第2の積を決定するステップであって、前記第2のゲイン係数は前記第1のゲイン係数と異なる、ステップ;及び
前記先端力の第2の成分を決定するのに前記第2の積を使用するステップ;
をさらに有する、
付記29に記載の方法。
(付記31) 前記先端トルクを決定するステップは:
前記先端の第1の角度座標の現在の値と前記先端の前記第1の角度座標の所望の値との間の第1の差を決定するステップ;
前記第1の差及び第1のゲイン係数の第1の積を決定するステップ;及び
前記先端トルクの第1の成分を決定するのに前記第1の積を使用するステップ;
を有する、
付記28に記載の方法。
(付記32) 前記先端トルクを決定するステップは、
前記先端の第2の角度座標の現在の値と前記先端の前記第2の角度座標の所望の値との間の第2の差を決定するステップ;及び
前記第2の差及び第2のゲイン係数の第2の積を決定するステップであって、前記第2のゲイン係数は前記第1のゲイン係数と異なるように設定される、ステップ;

をさらに有する、
付記31に記載の方法。
(付記33) 前記先端力を決定するステップは:
前記先端の現在の速度の成分と前記先端の所望の速度の成分との間の差を決定するステップ;
前記差及びゲイン係数の積を決定するステップ;及び
前記先端力の成分を決定するのに前記積を使用するステップ;
を有する、
付記28に記載の方法。
(付記34) 前記先端力を決定するステップは:
前記先端の角速度と前記先端の所望の角速度との間の差を決定するステップ;
前記差及びゲイン係数の積を決定するステップ;及び
前記先端力の成分を決定するのに前記積を使用するステップ;
を有する、
付記28に記載の方法。
(付記35) 前記ジョイントは、6を超える動作の自由度を提供し、前記先端の動きに関して冗長である動作の自由度を含み、前記ジョイントトルクを決定するステップは、前記ジョイントの動きの範囲の限界に前記ジョイントが近付かないように又はジョイントトルク限界に近づかないように、前記冗長な動作の自由度を使用する、
付記28に記載の方法。
(付記36) 前記張力の決定は:
前記ジョイントにおいてそれぞれジョイントトルクを決定するために前記配置測定値を使用するステップ;及び
前記ジョイントトルクを使用して前記伝達システムのための前記張力を決定するステップ;
を有する、
付記25に記載の方法。
(付記37) 前記張力を決定するステップは:
前記器具の前記遠位端部から前記器具の前記近位端部に向かう順に連続して前記ジョイントを評価するステップであって、各ジョイントを評価する前記ステップは、その前記ジョイントのための前記ジョイントトルク及び前記器具の前記遠位端部により近いジョイントに関して決定された張力を、評価されている前記ジョイントに直接加えられる張力を決定するために使用するステップを有する、ステップ、
をさらに有する、
付記36に記載の方法。
(付記38) 各ジョイントを評価するとき、評価されている前記ジョイントに直接加えられる前記伝達システムの前記張力は、公称値と等しくなるように選ばれ、前記ジョイントに直接加えられる残りの前記伝達システムの前記張力は、そのジョイントのための前記ジョイントトルクを生成するように且つ前記公称値以上になることが検証されるように計算される、
付記37に記載の方法。
(付記39) 前記公称値は、前記伝達システムにおいて全ての張力を効果的に開放するように選ばれる、
付記38に記載の方法。
(付記40) 前記公称値は、前記伝達システムにおいて前記張力を効果的に保持するように選ばれる、
付記38に記載の方法。
(付記41) 前記張力を決定するステップは:
前記ジョイントトルクから遠位張力を決定するステップ;及び
前記ジョイントの速度と前記ジョイントに結合された前記アクチュエータの対応する速度との間のそれぞれの差に依存する修正値を決定するステップであって、前記伝達システムのための前記張力は、前記遠位張力及び前記修正値に依存する、ステップ;
を有する、
付記36に記載の方法。
(付記42) 前記ジョイントトルクを使用して前記張力を決定する前記ステップは:
前記ジョイントトルクから遠位張力を決定するステップ;及び
前記ジョイントに結合された前記伝達システムに結合されたアクチュエータの速度の間の差に依存する修正値を各前記ジョイントに関して決定するステップであって、前記伝達システムのための前記張力は、前記遠位張力及び前記修正値に依存する、ステップ;
を有する、
付記36に記載の方法。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10