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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】粒状固形化粧料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/92 20060101AFI20240709BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240709BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240709BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20240709BHJP
   A61Q 1/08 20060101ALI20240709BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240709BHJP
   B01J 2/00 20060101ALI20240709BHJP
   B01J 2/02 20060101ALI20240709BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61K8/92
A61K8/02
A61Q1/02
A61Q1/04
A61Q1/08
A61Q5/00
B01J2/00 B
B01J2/02 A
A61K8/25
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020003186
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021109850
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 康彦
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-520416(JP,A)
【文献】特開昭52-024984(JP,A)
【文献】特開2008-094788(JP,A)
【文献】特開2005-220035(JP,A)
【文献】特開2008-142006(JP,A)
【文献】特開2017-094239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
B01J 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDremIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧料の原料を粒状にし、
粒状にされた前記化粧料の原料の表面に粉体を付着させる、粒状固形化粧料の製造方法であって、
前記化粧料の原料が20℃で固体状である油性成分を3質量%以上30質量%以下含み、且つ20℃で液状である油性成分を18質量%以上97質量%以下含み、
前記粉体が球状シリカであり、
固形である前記化粧料の原料(ただし、マイクロカプセル中にカプセル化された化粧料の原料を除く。)を液状化し、
液状化した該化粧料の原料を液滴にし、
前記液滴を前記粉体中に滴下して、前記化粧料の原料の表面に該粉体を付着させる、粒状固形化粧料の製造方法。
【請求項2】
液滴にされた前記化粧料の原料を冷却して固化させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
粒状にされた前記化粧料の原料の表面に粉体を付着させた後に、該表面に固着していない該粉体を除去する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
篩がけによって前記粉体を除去する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記化粧料の原料を、平均投影面積で表して0.5mm以上2500mm以下の粒状にする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
平均粒径が0.01μm以上500μm以下の前記粉体を、粒状にされた前記化粧料の原料に付着させる、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記化粧料の原料が粉体成分を含む、請求項1ないしのいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒状固形化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで知られている固形化粧料は一般に、ファンデーションのように粉体を圧縮成形して浅底のトレイ内に収容した形態や、口紅のように室温で固体の組成物を所定形状に成形した形態のものであった。このような形態の固形化粧料のほかに、近年では粒状の形態をした固形化粧料が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、液状化した固形化粧料を、該化粧料と相溶性がない液状オイル中に滴下して粒状に成形し、粒状に成形された化粧料の温度を下げて固形化した後、該液状オイルから分離する方法で、1~5mmの粒状に賦形された化粧料を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-274974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の粒状固形化粧料は、その製造過程において液状オイルを用いているので、該液状オイルの分離を十分に行わないと、粒状固形化粧料の表面に該液状オイルが残存してしまう。そのことに起因して、製造過程において粒状固形化粧料が他の物、例えば容器や他の固形化粧料と結合しやすくなり、容器への充填性などのハンドリング性が低下してしまう。また、仮に粒状固形化粧料の表面から液状オイルを完全に除去したとしても、該粒状固形化粧料には油性成分が含まれていることから、該油性成分に起因して、やはり粒状固形化粧料が他の物と結合しやすくなり、ハンドリング性が低下してしまう。
【0006】
したがって本発明の課題は粒状固形化粧料の製造方法の改良にあり、更に詳しくは製造過程における粒状固形化粧料と他の物との結合を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、化粧料の原料を粒状にし、
粒状にされた前記化粧料の原料の表面に粉体を付着させる、粒状固形化粧料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造過程における粒状固形化粧料と他の物との結合が抑制されるので、容器への充填性などのハンドリング性の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)ないし(d)は、本発明の一実施形態の製造方法の工程を順次示す模式図である。
図2図2(a)及び(b)は、図1に示す製造方法の別の実施形態を示す模式図である。
図3図3(a)及び(b)は、図1に示す製造方法の別の実施形態を示す模式図である。
図4図4(a)及び(b)は、図1に示す製造方法の別の実施形態を示す模式図である。
図5図5(a)ないし(e)は、図1に示す製造方法の別の実施形態を示す模式図である。
図6図6は、図5(a)及び(b)に示す凸型の斜視図である。
図7図7(a)ないし(d)は、図1に示す製造方法の別の実施形態を示す模式図である。
図8図8(a)は、図7に示す製造方法により製造される粒状固形化粧料の平面視における模式断面図であり、図8(b)は、図8(a)のb-b線方向から見た前記粒状固形化粧料の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明は粒状固形化粧料の製造方法に関するものである。本発明の製造の対象となる化粧料は、粒状である固形のコア部と、該コア部の表面の少なくとも一部に付着している粉体とを有している。
「固形化粧料」とは、室温(25℃)において固体であり、室温よりも高い温度、例えば40℃~150℃に加熱したときに軟化又は溶融し得る性質を有する化粧料のことである。例えば油剤を含む油性化粧料や、寒天ゲルのような水性化粧料が、本発明にいう固形化粧料に包含される。粉体を圧縮成形してなる化粧料は、本発明にいう固形化粧料から除外される。
「粒状」とは、球状や略球状のみならず、扁平状、紡錘状、多面体状、繊維状の形状や、不定形の形状を包含し、更に、何らかの文字や記号を象った形状、並びに人物、動物及び物などのキャラクターを象った形状なども包含する。本発明の粒状固形化粧料は、これらの形状のうちの1種であり得るか、又は2種以上の組み合わせであり得る。
【0011】
コア部は、本発明の製造方法の製造対象となる粒状固形化粧料の主体をなす部位である。コア部は室温(25℃)において固体であり、且つ融点が好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは55℃以上であり、一層好ましくは60℃以上である。コア部がこの温度以上の融点を有することで、固形化粧料の使用感を良好にすることができる。また、コア部はその融点が好ましくは150℃以下であり、更に好ましくは120℃以下であり、一層好ましくは110℃以下である。コア部がこの温度以下の融点を有することでも、固形化粧料の使用感を良好にすることができる。特に、コア部の融点は、好ましくは50℃以上150℃以下であり、更に好ましくは55℃以上120℃以下であり、一層好ましくは60℃以上110℃以下である。
【0012】
コア部は通常複数の物質を含む組成物から構成されている。この場合、コア部の融点は、医薬部外品原料規格一般試験法の第1法、第2法、又は第3法のいずれかにより測定される。いずれの方法を採用するかは、主に融点によって選択され、融点が80℃を超えるような高い場合には第1法を、これより融点が低い場合には第2法を、更に融点が低い場合には第3法を用いることができる。
【0013】
コア部は好ましくは、1種又は2種以上の油性成分からなる連続相を有する。場合によっては、コア部は連続相中に分散した顔料等の粉体成分を含む。
油性成分としては、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、合成ワックス等の合成炭化水素;カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ライスワックス、サンフラワーワックス、水添ホホバ油、モクロウ等の植物系ワックス;ミツロウ、鯨ロウ等の動物性ワックス;シリコーンワックス、合成ミツロウ、合成モクロウ等の合成ワックス等のワックス;パルミチン酸デキストリン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸イヌリン、12-ヒドロキシステアリン酸、ジブチルラウロイルグルタミド、ジブチルエチルヘキサノイルグルタミド、ポリアミド樹脂等の油性ゲル化剤;ワセリン、ビニルレザーワックス、ヘキサ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ジペンタエリスリチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、水添パーム油、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリル、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、オレイン酸フィトステリル、(エチルヘキサン酸/ステアリン酸/アジピン酸)グリセリル、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)、硬質ラノリン、還元ラノリン、ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2等のペースト油;流動パラフィン、軽質流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、ミネラルオイル、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、ポリイソブチレン、ポリブテン、水添ポリイソブテン、水添ポリデセン等の直鎖又は分岐の炭化水素油;イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、イソノナン酸イソトリデシル、イソノナン酸トリシクロデカンメチル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸イソブチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸2-ヘキシルデシル、コハク酸ジ2-へチルヘキシル、コハク酸ビスエトキシジグリコール、ラウリン酸ヘキシル、ジ(カプリル酸/カプリン酸)プロパンジオール、ジイソノナン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジイソステアリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸プロパンジオール、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、テトライソステアリン酸ジグリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、リンゴ酸オクチルドデシル、グリセリン脂肪酸エステル、ホホバ油、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、トリ2-ヘチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、2-エチルヘキサン酸2-ヘキシルデシル、ジ2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシステアリン酸エチルヘキシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリオクタン酸グリセリル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、トリメリト酸トリトリデシル、テトライソステアリン酸ジペンタエリスリチル、テトライソステアリン酸ペンタエリトリット、メトキシケイヒ酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ダイマー酸ジイソプロピル、炭酸プロピレン等のエステル油;ラウリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール;ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、トリメチルペンタフェニルトリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン油;フルオロポリエーテル、パーフルオロアルキルエーテルシリコーン、フッ素変性シリコーン等のフッ素油;フェノキシエタノール等が挙げられる。これらの油性成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
コア部は油性成分を40質量%以上含むことが、固形化粧料の使用感の点から好ましい。この観点から、コア部は油性成分を更に好ましくは50質量%以上、一層好ましくは55質量%以上含む。同様の観点から、コア部は油性成分を好ましくは100質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、一層好ましくは98質量%以下含む。特にコア部は、油性成分を好ましくは40質量%以上100質量%以下、更に好ましくは50質量%以上99質量%以下、一層好ましくは55質量%以上98質量%以下含む。
【0015】
コア部は20℃で固体状である油性成分(例えば前記ワックス)を含むことが、固形化粧料の保形性を高める観点から好ましい。コア部は、20℃で固体状である油性成分を3質量%以上含むことが保形性の観点から好ましく、20℃で固体状である油性成分を30質量%以下含むことが使用感の観点から好ましい。また、コア部は20℃で液状である油性成分を含むことが、固形化粧料の使用感を高める観点から好ましい。この観点から、コア部は20℃で液状である油性成分を好ましくは18質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、一層好ましくは35質量%以上含む。同様の観点から、コア部は20℃で液状である油性成分を好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、一層好ましくは93質量%以下含む。特にコア部は、20℃で液状である油性成分を好ましくは18質量%以上97質量%以下、更に好ましくは25質量%以上95質量%以下、一層好ましくは35質量%以上93質量%以下含む。
【0016】
油性成分が20℃で液状であるか否かは、各成分の安全データシート(SDS)・物理的状態に記載されている内容によって判定できる。コア部に20℃で液状である油性成分が上述の範囲で含まれていると、コア部の表面に該油性成分が存在することになり、そのことに起因してコア部が他の物と結合しやすくなってしまう。これに対し、コア部の表面に粉体が付着しており、該粉体によってコア部の表面が被覆されていると、固形化粧料と他の物との意図しない結合が抑制される。
【0017】
コア部に含まれる粉体成分としては、化粧料に従来用いられている各種のもの等を特に制限なく用いることができる。粉体成分は無機粉体でもよく、あるいは有機粉体でもよい。無機粉体と有機粉体とを併用してもよい。粉体成分を構成する粒子の形状に特に制限はなく、例えば球状、多面体状、フレーク状、紡錘状、繊維状、不定形、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0018】
コア部に含まれる粉体成分としては、例えば着色顔料、光輝顔料及び体質顔料等の顔料を用いることができる。コア部に占める粉体成分の割合は0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、1質量%以上であることが一層好ましい。また、コア部に占める粉体成分の割合は60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、45質量%以下であることが一層好ましい。特に、コア部に占める粉体成分の割合は0.01質量%以上60質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上50質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以上45質量%以下であることが一層好ましい。
【0019】
コア部の硬度は、固形化粧料の使用感等に影響を与える要素の一つである。この観点からコア部の硬度は500g以下であることが好ましく、350g以下であることが更に好ましく、250g以下であることが一層好ましい。一方、コア部の硬度を好ましくは0.5g以上、更に好ましくは5g以上、一層好ましくは15g以上とすることで、コア部と他の物との意図しない結合を抑制できる。これらの観点から、コア部の硬度は0.5g以上500g以下であることが好ましく、5g以上350g以下であることが更に好ましく、15g以上250g以下であることが一層好ましい。コア部の硬度は、115℃にて加熱溶解した剤を樹脂製軟膏壺(直径30mm、高さ14mm)に高さ10mmまで充填した後、20℃で2時間冷却固化し、30℃で6時間以上静置した後でレオテック社製レオメーターを用いて、直径φ2mmの冶具にてtable speedが2mm/sの速さで冶具を深さ2mmまで針入させたときの最大値を読み取ることによって測定できる。
【0020】
コア部の表面に付着している粉体は多層でも単層でもよい。粉体を構成する粒子間に隙間があってもよい。このように設けられた粉体によって、コア部と他の物とが意図せず結合することが抑制される。この利点を一層顕著なものとする観点から、コア部の表面において、粉体によって覆われていない領域のうち、最も面積の広い領域の面積が、該コア部の表面の面積に対して50%以下であることが好ましく、30%以下であることが更に好ましく、10%以下であることが一層好ましく、最も好ましくは0%である。
【0021】
前記の「粉体によって覆われていない領域」及びその面積は、種々の方法により決定及び測定することが可能であるが、例えばコア部の表面における単位面積(1mm)当たりの粉体のカバー率が50%未満であれば、「粉体によって覆われていない」と判断できる。例えばデジタルマイクロスコープを用いて固形化粧料の表面を観察及び計測することにより前記カバー率を測定可能である(必要に応じて2値化等の画像処理を用いてもよい)。また、コア部の表面の面積は、種々の方法により測定することが可能であるが、例えば球状形態であればノギス等を用いて直径Rを測定し、表面積S=4×円周率π×(R/2)により算出することが可能である。
【0022】
粒状固形化粧料は、その大きさに特に制限はないが、手に取りやすい等の使用のしやすさ、転がりにくさ、潰しやすさ、意匠性、及び製造のしやすさなどの点から、平面上に載置したときの平均投影面積が好ましくは0.5mm以上であり、更に好ましくは1mm以上であり、一層好ましくは1.5mm以上である。また粒状固形化粧料は、手に取りやすい等の使用のしやすさ、潰しやすさ、及び意匠性などの点から、前記平均投影面積が好ましくは2500mm以下であり、更に好ましくは1500mm以下であり、一層好ましくは900mm以下である。特に、粒状固形化粧料は、前記平均投影面積が好ましくは0.5mm以上2500mm以下であり、更に好ましくは1mm以上1500mm以下であり、一層好ましくは1.5mm以上900mm以下である。「平均投影面積」とは、10個以上の粒状固形化粧料を対象として、該粒状固形化粧料が、水平面上において最も安定した状態で載置された状態において該水平面に投影される面積の算術平均値を意味する。
【0023】
本発明の方法は、製造の対象である粒状固形化粧料の原料を粒状にする工程を備えている。化粧料の原料を粒状にすることで得られる粒状体の大きさは、本発明の製造方法の対象物である粒状固形化粧料の大きさと実質的に同じである。つまり粒状体の大きさは、粒状体を平面上に載置したときの平均投影面積で表して上述の範囲であることが好ましい。
【0024】
化粧料の原料を粒状にするには種々の手法を採用することが可能である。その手法としては例えば以下の(a)ないし(c)が挙げられる。
(a)原料が固形の塊状のものである場合には、公知の粉砕機等を用いて塊状の原料を粒状に分割することができる。「分割」とは、原料のバルク体をそれよりも小さな複数の単位に分けることをいう。
(b)原料が軟化可能なものである場合には、固形の原料を例えば加熱して軟化させ、軟化した該原料を所定の手段を用いて粒状にすることができる。
(c)原料が液状化可能なものである場合には、固形の原料を軟化させるだけでなく液状化させ、液状化した原料を液滴にすることができる。つまり本発明において「液状化」は「軟化」の一態様である。
【0025】
前記の(c)の手法を採用する場合、液状化の具体的な方法としては以下の(c1)ないし(c3)が挙げられる。
(c1)化粧料の原料が熱によって溶融可能である場合には、該原料を加熱して溶融させて液状化させる。
(c2)化粧料の原料が溶媒に溶解可能である場合には、該原料を溶媒、例えば揮発性有機溶媒に溶解させて溶液となす。
(c3)化粧料の原料が外力によって結晶構造が変化し液状化可能である場合、例えばカードハウス構造、網目構造、アルキル鎖の結晶構造、又は分子どうしの水素結合を有する油性固形物のような場合には、混練等によって外力を加えることで結晶構造を破壊して液状化させる。
【0026】
前記の(a)ないし(c)の手法のうち、原料が例えば油剤を含む固形物である場合には前記の(b)又は(c)の手法を採用することが簡便である。(c)の手法を採用する場合には、前記の(c1)ないし(c3)のうち、(c1)の手法を採用することが簡便である。
【0027】
上述した手法を採用して化粧料の原料を粒状にすることで粒状体が得られる。この粒状体は固体であり得るか又は液体であり得る。本発明の製造方法は、この粒状体の表面に粉体を付着させる工程を備える。図1(a)及び(b)には粒状体10に粉体11を付着させる工程が示されている。
【0028】
図1(a)に示すとおり、容器12内には粉体11が充填されている。粉体11は、例えばアンカー翼等の撹拌手段(撹拌装置)13によって撹拌されるようになっている。粉体11の直上には、化粧料の原料の粒状化装置14が配置されている。粒状化装置14は、例えば化粧料の固形原料を粉砕する装置、化粧料の固形原料を軟化させ、軟化した該原料を分割する装置、又は化粧料の固形原料を加熱によって溶融させ液状化し、液状化した原料を液滴に分割する装置であり得る。粒状化装置14によって粒状体10にされた化粧料の原料は、静置状態下にある粉体11上に供給される。
【0029】
粒状体10が粉体11に供給されたら、図1(b)に示すとおり、撹拌手段13の運転を開始し粉体11を撹拌する。粉体11の撹拌によって粒状体10は粉体中に分散され、粒状体10の表面に粉体11が付着する。
【0030】
粉体11としては、化粧料に一般的に用いられるものと同様のものを特に制限なく用いることができる。例えばシリカ、マイカ、合成フルオロフロゴパイト、ガラス末、硫酸バリウム、カオリン、ベントナイト、ヘクトライト、ゼオライト、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びタルク等の無機粉体;ナイロン、ポリエチレン、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー等のシリコーンエラストマー、ポリメタクリル酸メチル、ラウロイルリシン、シルクパウダー、セルロース末、及び各種ワックスパウダー等の有機粉体などの体質顔料:マイカ、合成フルオロフロゴパイト、ガラス、シリカ、アルミナ、タルク等の板状粉体等の表面を酸化チタン、酸化鉄、酸化ケイ素、紺青、酸化クロム、酸化スズ、水酸化クロム、金、銀、カルミン、赤色202号や黄色4号等の有機顔料等の着色剤で被覆したもの、及びポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層末、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム蒸着末、ポリエチレンテレフタレート・金蒸着積層末等のフィルム原反を任意形状に断裁したもの等の光輝顔料:酸化チタン、酸化亜鉛、黄酸化鉄、ベンガラ、黒酸化鉄、紺青、群青、酸化クロム、水酸化クロム等の金属酸化物;マンガンバイオレット、チタン酸コバルト等の金属錯体;更にカーボンブラック等の無機顔料;赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色227号、赤色228号、赤色230号、赤色401号、赤色405号、赤色505号、橙色203号、橙色204号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色401号、青色1号、青色404号等の合成有機顔料;β-カロチン、カラメル、パプリカ色素等の天然有機色素などの着色顔料などを用いることができる。これらの粉体は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0031】
粉体11としては、本発明の製造方法の対象物である粒状固形化粧料が、その製造過程において他の物に付着することが効果的に防止されるような大きさのものが好適に用いられる。例えば粉体11を構成する粒子の大きさを、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表した場合、D50は0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましく、1μm以上であることが一層好ましい。この大きさの粉体11を用いることで、粉体11の除去操作(これについては後述する。)を容易に行える。また、D50は500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、160μm以下であることが一層好ましい。この大きさの粉体11を用いることで、粉体11を容易に付着させることができる。特にD50は0.01μm以上500μm以下であることが好ましく、0.1μm以上300μm以下であることが更に好ましく、1μm以上160μm以下であることが一層好ましい。
【0032】
粒状固形化粧料の製造過程における粒状体と他の物との付着を効果的に防止する観点から、粉体はその吸油量が5ml/100g以上であることが好ましく、15ml/100g以上であることが更に好ましく、20ml/100g以上であることが一層好ましい。また粉体の吸油量は、粒状体10に含まれる油性成分が過度に粉体に吸収されないようにする観点から、500ml/100g以下であることが好ましく、400ml/100g以下であることが更に好ましく、350ml/100g以下であることが一層好ましい。吸油量はJIS K5101-13-1:2004に準拠して測定される。
【0033】
前記の(a)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させる時点において、粒状体10は硬化している。
前記の(b)又は(c)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させる時点において、粒状体10は硬化していてもよく、あるいは硬化していなくてもよい。換言すれば、化粧料の原料を軟化させ粒状にした後のいずれかの工程において、得られた粒状体10を硬化させることができる。化粧料の原料を軟化させる場合における「硬化」とは、軟化した化粧料の原料が、軟化する前の固さに向けて戻ることをいう。したがって、化粧料の固形原料を加熱によって溶融させ液状化させ、液状化した原料を液滴に分割してなる粒状体を「固化」させることは「硬化」の一態様である。
【0034】
粒状体10を硬化させる手段は、粒状体10の状態に応じて適切に選択すればよい。
例えば化粧料の原料を加熱によって軟化させた後に粒状化を行い粒状体10を得た場合には、粒状体10を冷却することで粒状体10を硬化させることが可能である。
化粧料の原料を加熱によって溶融させて液状化させ、液状化した原料を液滴にして粒状体を得た場合にも、粒状体10を冷却することで粒状体10を硬化させる(固化させる)ことが可能である。
化粧料の原料を例えば揮発性有機溶媒に溶解させて溶液となし、該溶液を液滴にして粒状体10を得た場合には、粒状体10から揮発性有機溶媒を揮発させて除去することで固形分を残留させ、粒状体10を硬化させることが可能である。
化粧料の原料が例えばカードハウス構造、網目構造、アルキル鎖の結晶構造、又は分子どうしの水素結合を有する油性固形物のような場合には、原料に対して混練等の外力を加える操作により流動体となっている粒状体10を、加熱により軟化、又は融解させて液状化させた後に、冷却することで硬化させることが可能である。
【0035】
粒状体10を硬化させたものが、冒頭に述べたコア部である。つまり、前記の(b)又は(c)の手法を用いる場合において、粒状体10とは、化粧料の原料を粒状にして得られたものであり、且つ硬化する前の状態のものである。したがって粒状体10には、溶融液や溶液の状態のものも包含される。
なお、前記の(a)の手法を用いる場合において、粒状体10とは、化粧料の原料を粒状にして得られたものであり、且つ硬化した状態のものである。
【0036】
粒状体10を硬化させるタイミングと、粒状体10の表面に粉体11を付着させるタイミングとは、粒状体10の性質等に応じて適切に設定が可能である。例えば(i)未硬化の状態にある粒状体10の表面に粉体11を付着させた後に、粒状体10を硬化させることができる。あるいは(ii)粒状体10を硬化させた後に、粒状体10の表面に粉体11を付着させることができる。あるいは(iii)未硬化の状態にある粒状体10の表面に粉体11を付着させつつ、粒状体10を硬化させることができる。
【0037】
上述した(i)ないし(iii)の態様のうち、(i)又は(iii)の態様を採用すると、粒状体10の内部へ粉体11が入り込みやすくなるので、粉体11を粒状体10へ比較的強固に付着させることが可能となる。一方、(ii)の態様を採用すると、粒状体10の内部へ粉体11が入り込みにくくなるので、粒状体10への粉体11の付着は比較的弱いものとなる。
【0038】
特に(i)又は(iii)の態様を採用すると、粉体を構成する粒子のうちの少なくとも一部の粒子は、当該一部の粒子の一部分がコア部の内部に入り込むようになる。場合によっては、粉体を構成する粒子のうちの少なくとも一部の粒子は、当該一部の粒子の全体がコア部の内部に入り込むようになる。
【0039】
図1(a)及び(b)に示す工程に代えて、図2(a)及び(b)に示す工程を行うことによって粒状体10の表面に粉体11を付着させることも可能である。詳細には、例えば、図2(a)に示すとおり、撹拌手段13によって流動状態になっている粉体11上に、粒状化装置14によって複数の粒状体10となった化粧料の原料を供給する。粒状体10は硬化していてもよく、あるいは硬化していなくてもよい。
【0040】
粒状体10が粉体11に供給された後も粉体11の撹拌を引き続き継続する。粉体11の撹拌によって粒状体10は粉体中への分散が促進され、粒状体10の表面に粉体11が付着する。
【0041】
上述した図1(a)及び(b)並びに図2(a)及び(b)に示す工程においては、粉体11中に撹拌手段13を配置して粉体11の撹拌を行ったが、これに代えて別の手段によって粉体11の撹拌を行うこともできる。これを図3(a)及び(b)を参照しながら説明する。
【0042】
先ず図3(a)に示すとおり、静置状態下にある粉体11上に、粒状化装置14によって複数の粒状体10となった化粧料の原料を供給する。粒状体10は硬化していてもよく、あるいは硬化していなくてもよい。
【0043】
粒状体10が粉体11に供給されたら、図3(b)に示すとおり、粉体11が収容されている容器12に振動を与え、その振動を粉体11に伝播させて粉体11を撹拌する。粉体11の撹拌によって粒状体10は粉体中に分散され、粒状体10の表面に粉体11が付着する。容器12に振動を与えるためには、例えば振盪機を用いることができる。あるいは超音波発振機を用いることもできる。
【0044】
図4(a)及び(b)には、図3(a)及び(b)の別の実施形態が示されている。詳細には、図4(a)に示すとおり、粉体11が収容されている容器12に振動を与え、その振動を粉体11に伝播させて粉体11を流動状態にする。流動状態になっている粉体11上に、粒状化装置14によって複数の粒状体10となった化粧料の原料を供給する。粒状体10は硬化していてもよく、あるいは硬化していなくてもよい。
【0045】
粒状体10が粉体11に供給された後も粉体11への振動を引き続き継続する。粉体11の撹拌によって粒状体10は粉体中への分散が促進され、粒状体10の表面に粉体11が付着する。
【0046】
上述した撹拌手段13による粉体11の流動化や、振動の付与による粉体11の流動化のほかに、粉体11を粒状体10に向けて噴霧することで、粒状体10の表面に粉体11を付着させることも可能である。
【0047】
以上の工程によって粒状体10の表面に粉体11を付着させることができる。前記の(a)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させることで、本発明の製造方法の対象物である粒状固形化粧料が得られる。前記の(b)又は(c)の手法を用いる場合、粒状体10の表面に粉体11を付着させ、且つ粒状体10を硬化させることで、本発明の製造方法の対象物である粒状固形化粧料が得られる。粒状固形化粧料が得られたら、その後、付加的な工程として粒状固形化粧料の冷却を行うことができる。なお、先に述べたとおり、粒状体10の硬化物(固化物)が、冒頭に述べた粒状固形化粧料のコア部に相当する。冷却を行うことでコア部への粉体の付着を一層確実なものとすることができる。冷却は例えば自然冷却であってもよく、あるいは強制冷却であってもよい。
自然冷却する場合、コア部の表面に粉体が付着してなる化粧料、つまり本発明の製造の対象である粒状固形化粧料を室温下に静置すればよい。
強制冷却する場合には、粒状固形化粧料に気体を吹き付けたり、粒状固形化粧料を冷蔵庫内に載置したり、粒状固形化粧料を冷媒に接触させたりすればよい。
【0048】
粒状体10の表面に粉体11を付着させた後、粒状固形化粧料の冷却に先立ち、又は冷却後に、又は冷却と同時に、コア部の表面に固着していない粉体11を除去することができる。コア部の表面に固着していない粉体とは、粒状固形化粧料を例えば搬送するときに加わる振動等の外力によってコア部から脱落する程度にコア部に弱く固着しているか、又はコア部に全く固着していない粉体のことである。
【0049】
粉体の除去工程の一例が図1(c)及び(d)に示されている。詳細には、図1(c)に示すとおり、上方が開口した受け容器15を用意し、受け容器15の開口部をフィルタ部材16で覆う。フィルタ部材16としては、粉体11を通過させるが、粒状固形化粧料1は通過させない程度の目開きを有する篩を用いることができる。フィルタ部材16を受け容器15に設置した状態下に、複数の粒状固形化粧料1が分散してなる粉体11をフィルタ部材16上に供給する。これによってフィルタ部材16による篩がけが行われ、図1(d)に示すとおり粒状固形化粧料1がフィルタ部材16上に残存するとともに、粉体11がフィルタ部材16を通過して受け容器15内に集められる。このようにして粉体11が除去される。なお、受け容器15(フィルタ部材16)を振動させる等により粉体の除去を促進してもよい。
【0050】
図5ないし図8には、本発明の別の実施形態が示されている。これまでに説明した実施形態においては、主として略球形状の粒状固形化粧料1を製造していたが、図5(a)ないし(e)に示す工程を行うことによって、略球形状以外の形状を有する粒状固形化粧料を製造することができる。詳細には、図5(a)及び(b)に示すとおり、容器12内に充填された粉体11に、直上から凸型17を押し当てる。本実施形態で用いる凸型17は、図6に示すとおり、所定形状を有する凸部17aを2つ備えている。凸部17aは、例えばハート形の立体形状を有している。
【0051】
粉体11に凸型17を押し当てた後、図5(c)に示すとおり、凸型17を除去する。これにより、容器12内に充填された粉体11の上部に、凸部17aの形状と相補的な形状の凹部18が2つ形成される。
【0052】
次に、図5(d)に示すとおり、粒状化装置14によって複数の液状の粒状体10となった化粧料の原料を凹部18に供給する。これによって凹部18内に化粧料の原料が充填される。凹部18に供給される粒状体10が軟化状態にあり流動性を有しているため、凹部18内において粒状体10どうしが結合して、該粒状体10よりも大きな結合体が形成されるが、該結合体も本発明にいう「粒状体」の一態様である。
【0053】
2つの凹部18それぞれに化粧料の原料が充填され、前記大きな結合体である粒状体10が形成された後に、図5(e)に示すとおり、該粒状体10の上から粉体11を散布し、粒状体10を粉体11中に埋没させる。これにより、凹部18内に形成された粒状体10の表面における、凹部18と接していない部分にも粉体11が付着する。以上のようにして、凸部17aの形状に応じた形状を有する粒状固形化粧料1を製造することができる。粒状体10の表面に粉体11を付着させた後に、図1(c)及び(d)に示す工程と同様にして、粉体11の除去工程を行ってもよい。
【0054】
図5(a)ないし(e)に示す工程によれば、意匠性の高い粒状固形化粧料1を容易に製造することができる。また、化粧品らしいデザインの粒状固形化粧料1を製造することも容易である。その上、載置面に載置したときに転がりにくい粒状固形化粧料1を容易に製造することもできる。図5(a)ないし(e)に示す工程によれば、粒状固形化粧料1の表面の一部が平面状となる。粒状固形化粧料1の表面のうち平面状となっている部分は、図5(e)に示す工程において、凹部18と対向している側とは反対側の面(上方を向いている面)である。
【0055】
図5(a)ないし(e)に示す工程に代えて、図7(a)ないし(d)に示す工程を行うことによって、所定の形状を有する粒状固形化粧料1を製造することもできる。先ず、図7(a)に示すとおり、一対の割型21,22のキャビティ形成面21a,22aに粉体11を付着させる。次いで、図7(b)に示すとおり、各割型21,22の突き合わせ面どうしを突き合わせる。これによって各割型21,22のキャビティ形成面21a,22aで囲まれた空間がキャビティ23となる。キャビティ23は、図7(a)及び(b)から分かるとおり、ハート形の立体形状を有している。なお、キャビティ形成面21a,22aに粉体11を付着させるのに先立って、キャビティ形成面21a,22aに揮発溶媒等を噴霧しておき、粉体11の付着性を向上させておくことが好ましい。また、割型21,22の形状や粉体11の付着方法によっては、割型21,22を突き合わせた状態でキャビティ形成面21a,22aに粉体を付着させてもよい。
【0056】
次いで、図7(c)に示すとおり、キャビティ23内に連通する連通路24又は連通路25を介して、キャビティ23内に液状の粒状体10を供給する(同図では連通路24を介して粒状体10を供給する状態が示されている。他方の連通路25は、キャビティ23内の空気を排出する通気口として機能する)。キャビティ23に供給される粒状体10が軟化状態にあり流動性を有しているため、キャビティ23内において粒状体10どうしが結合して、該粒状体10よりも大きな結合体が形成されるが、該結合体も本発明にいう「粒状体」の一態様である。
【0057】
キャビティ23内に前記大きな結合体である粒状体10が形成された状態で、キャビティ形成面21a,22aの粉体11が該粒状体10の表面に付着する。この状態で、図7(d)に示すとおり、連通路24,25内に粉体11を充填し、キャビティ23内の粒状体10の表面のうち連通路24,25に対向する部分に粉体11を付着させてもよい。なお、粒状体10の表面全体に粉体11を付着させる必要がない場合、連通路24,25内に粉体11を充填する必要はない。
【0058】
その後、突き合わせた割型21,22を分離し、所定形状を有する粒状体10をキャビティ23内から取り出す。以上のようにして、キャビティ23の形状に応じた所定形状を有する粒状固形化粧料1を製造することができる。粒状体10の表面に粉体11を付着させた後に、図1(c)及び(d)に示す工程と同様にして、粉体11の除去工程を行ってもよい。コア部の表面に付着していない粉体11の量が少ない場合、粉体11の除去工程を行わなくてもよい。
【0059】
図7(a)ないし(d)に示す実施形態によれば、先に説明した図5(a)ないし(e)に示す実施形態と同様に、意匠性の高い粒状固形化粧料1を容易に製造することができる。また、化粧品らしいデザインの粒状固形化粧料1を製造することも容易である。また、載置面に載置したときに転がりにくい粒状固形化粧料1を容易に製造することもできる。
【0060】
図7(a)ないし(d)に示す工程においては、ハート形の形状を有するキャビティ23を使用しているので、製造される粒状固形化粧料1はハート形の立体形状を有する。詳細には、図8(a)に示すとおり、粒状固形化粧料1は平面視の断面形状がハート形である。同図におけるb-b線方向から見た粒状固形化粧料1の断面形状は、図8(b)に示すとおり、略楕円形ないし長円形である。図7(a)ないし(d)に示す工程によれば、製造される粒状固形化粧料1は、表面に平面状の部分を有しない、すなわち表面がすべて曲面からなる。なお、キャビティ23の形状は、上述した形状に限られるものではなく、製造される粒状固形化粧料の形状に応じた形状とすることができる。
【0061】
更に上述の方法に加え、略球形状以外の形状を有する粒状固形化粧料は、軟化又は液状化させた原料を、所望の形状(例えば、ハート形、ドーナツ形、文字形状等)の吐出口を有するノズルから所定量吐出させることで、前記所望の形状を有する粒状固形化粧料として、製造することも可能である。
【0062】
以上の方法で得られた粒状固形化粧料は、コア部の表面に粉体が付着してなるものであることから、コア部が例えば粘着性を有しているとしても、その粘着性が粉体の付着によって減殺されるので、粒状固形化粧料を例えば搬送するときに搬送装置への意図しない付着が防止されるという利点がある。また、粒状固形化粧料を例えば容器へ充填するときに、粒状固形化粧料が容器の内壁に意図せず付着して充填性を低下させることや、容器内に充填された後の粒状固形化粧料が容器の内壁や他の固形化粧料に意図せず付着して容器からの取り出し性を低下させることが防止されるという利点もある。更に、粒状固形化粧料を使用するときに、粒状固形化粧料が皮膚や他の物に意図せず付着して取り扱い性を低下させることも防止される。このように本発明によれば、様々な場面における粒状固形化粧料のハンドリング性が向上する。
【0063】
本発明に従い製造された粒状固形化粧料は、例えばこれを潰して美容の目的でヒトの身体に塗布するという化粧方法に用いることができる。具体的には、粒状固形化粧料を化粧料パレット上に載置し、化粧筆を用いて潰した後に、化粧筆を用いて口紅のように口唇に塗布することができる。あるいは、粒状固形化粧料を手の甲上で潰してチークやコンシーラーのように頬に指で塗布することができる。あるいは、粒状固形化粧料を手の甲上で潰してハンドクリームのように指や手の甲に指で塗布することができる。更に、粒状固形化粧料を手の甲上で潰してオイルクレンジングのように使用することもできる。更に、粒状固形化粧料を手や道具を用いて潰し髪に塗布することで、トリートメントやヘアワックスのように使用することもできる。
【0064】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては粉体11の撹拌手段13としてアンカー翼を例示したが、粉体11中での粒状体10の形状が損なわれない限りアンカー翼以外の撹拌手段を用いてもよい。
【0065】
また前記実施形態においては、粒状固形化粧料1と粉体11との分離に用いるフィルタ部材16として篩を例示したが、篩以外のフィルタ部材を用いて粒状固形化粧料1と粉体11とを分離してもよい。また、粉体の除去工程として、例えば気体を吹き付けることで、余分な粉体11を粒状固形化粧料1から吹き飛ばして除去してもよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0067】
〔実施例1〕
(1)化粧料の原料の調製
以下の表1に原料の組成を示す。基材原料(色材及び体質顔料以外)を110℃で30分間加熱溶解し、ディスパーにて均一混合した。次に、色材原料及び体質顔料を加えて更に15分間均一混合し、脱泡後に自然冷却にて固化させることで化粧料の固形原料のバルク体を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
(2)粒状体の製造
図1(a)に示す操作によって、化粧料の固形原料のバルク体から複数の粒状体10を得た。粒状体10の形成は、前記バルク体を110℃に加熱して溶融させた状態でシリンジ内に充填し、この溶融原料をシリンジの先端から吐出させ、液滴を粉体11に滴下することで行った。粉体11は静止状態とした。粉体11としては、平均粒径D50が15μmであり、吸油量が150ml/100gである球状シリカを用いた。粉体11に滴下されて形成された粒状体10は、その平均投影面積が6mmである略球状のものであった。
【0070】
(3)粉体の付着及び冷却
次に図1(b)に示すとおり、アンカー翼からなる撹拌手段13を回転させて粉体11を流動状態にして、粒状体10の表面に粉体11を付着させた。その後、粉体11の撹拌を停止し、2分静置して粒状体10を自然冷却した。これによって目的とする粒状固形化粧料1を得た。
以上の(2)及び(3)操作はいずれも室温(25℃)下で行った。
【0071】
(4)粉体の除去
その後、図1(c)及び(d)に示すとおり、粉体11と粒状固形化粧料1とを分離するとともに、固着していない粉体11を除去した。
(5)評価
このようにして得られた粒状固形化粧料を、口首部の直径が7mmであるプラスチック製の容器に充填したところ、充填操作中に粒状固形化粧料が容器の内壁や他の粒状固形化粧料へ付着する現象は観察されなかった。
【0072】
〔比較例1〕
(1)化粧料の原料の調製
本比較例は特許文献1(特開2009-274974号公報)の実施例を追試したものである。
以下の表2に原料の組成を示す。表2に示す原料を90℃で溶融し、液状の原料を得た。
【0073】
【表2】
【0074】
(2)粒状体の製造
60℃に加熱したシリコーンオイル(信越化学工業社製、ジメチルシリコーンオイル KF-96A-100cs)を溜めた槽内に、液状にした前記原料を、ノズル径2mmの滴下ノズルを用いて滴下し、シリコーンオイル中で球状に固形化して取り出し、粒状固形化粧料を得た。
【0075】
(3)評価
このようにして得られた粒状固形化粧料を、口首部の直径が7mmであるプラスチック製の容器に充填したところ、充填操作中に粒状固形化粧料が容器の内壁や他の粒状固形化粧料へ付着してしまい所定量を充填することが困難であった。
【符号の説明】
【0076】
1 粒状固形化粧料
10 粒状体
11 粉体
12 容器
13 撹拌手段
14 粒状化装置
15 受け容器
16 フィルタ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8