(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 25/04 20060101AFI20240709BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20240709BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240709BHJP
B29C 51/08 20060101ALI20240709BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08L25/04
C08L23/04
C08L53/02
B29C51/08
C08J5/18 CET
(21)【出願番号】P 2020009020
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2023-01-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 販売日:令和1年12月28日、販売した場所:イオングループの各店舗
(73)【特許権者】
【識別番号】396000422
【氏名又は名称】リスパック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 武士
(72)【発明者】
【氏名】竹山 陽一
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-263960(JP,A)
【文献】特開2004-099828(JP,A)
【文献】特開2004-249489(JP,A)
【文献】特開昭55-094948(JP,A)
【文献】特開2019-199568(JP,A)
【文献】特開2020-193274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/00-25/18
C08L 23/00-23/36
C08L 53/00-53/02
B29C 51/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂を70重量%以上含む樹脂シートを熱成形した成形品であって、
前記樹脂シートは
スチレン-ブタジエン系熱可塑性エラストマーから選択される相溶化剤を含み、
前記樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記樹脂シートはポリエチレン系樹脂を3~29質量%含み、且つ以下の式(I)により算出される前記成形品の成形収縮率が0.65%以下であることを特徴とする、成形品。
成形収縮率(%)=100×(金型寸法-成形品寸法)/金型寸法 (I)
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂が耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)及び汎用ポリスチレン(GPPS)の少なくとも一方を含み、且つ前記ポリエチレン系樹脂が高密度ポリエチレン(HDPE)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂がバイオポリエチレンを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項4】
樹脂シート全体を100重量%とした場合にポリエチレン系樹脂を3~29質量%含み、ポリスチレン系樹脂を70重量%以上含み、且つ
スチレン-ブタジエン系熱可塑性エラストマーから選択される相溶化剤を含む樹脂シートを、前記ポリスチレン系樹脂のシート軟化温度であり、且つ前記ポリエチレン系樹脂の融点以上の成形温度で熱成形することを特徴とする、成形品の製造方法。
【請求項5】
以下の式(I)により算出される前記成形品の成形収縮率が0.65%以下であることを特徴とする、請求項4に記載の成形品の製造方法。
成形収縮率(%)=100×(金型寸法-成形品寸法)/金型寸法 (I)
【請求項6】
前記ポリスチレン系樹脂が耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)及び汎用ポリスチレン(GPPS)の少なくとも一方を含み、且つ前記ポリエチレン系樹脂が高密度ポリエチレン(HDPE)を含むことを特徴とする、請求項4又は5に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形収縮率が小さく、耐衝撃性に優れ、シート温度が一定となるポリスチレン系樹脂成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂は、一般に透明性、剛性が高く、また、シート加工性、真空成形性等の加工特性に優れ、成形品を容易且つ大量に生産できる材料である。そのため、ポリスチレン系樹脂の成形品は、包装材料、食品容器等の様々な用途に用いられている。このような成形品は通常、ポリスチレン系樹脂シートを熱成形することにより製造される。
【0003】
従来、ポリスチレン系樹脂及び成形品の特性を改善する様々な試みがなされている。例えば、特許文献1には、ポリスチレン系樹脂、ゴム変性ポリスチレン系樹脂、及び水素添加ポリスチレン系エラストマーを含み、果菜に傷が付くことを抑制することができるポリスチレン系樹脂発泡シート及びこれを用いてなる果菜包装容器が開示されている。特許文献2には、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、スチレン-ブタジエン系ブロック共重合体の非水添物、及びスチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、耐衝撃性及び樹脂やけの発生を抑制できるポリスチレン系樹脂組成物及び包装用容器が開示されている。特許文献3には、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、及びタルクを含み、良好な成形性、水蒸気バリア性、及び剛性を有する熱可塑性樹脂シート及びこれを用いた容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5523238号公報
【文献】特許第4987429号公報
【文献】特開2017-75210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱成形により成形品を製造する場合、熱成形後の成形品は収縮し、その寸法と金型の寸法との間にズレが生じることがある。このズレを示す数値が成形収縮率である。成形収縮率が大きいと、大きさが正確な成形品を得ることが困難となり、成形品の寸法の均一性に欠ける。よって、成形収縮率は小さいことが求められる。また、成形品を容器として用いる場合には、耐衝撃性に優れることも求められる。
【0006】
一般的に、結晶性樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂)の方が、非結晶性樹脂(例えば、ポリスチレン系樹脂)よりも成形収縮率が大きい。よって、結晶性樹脂と非結晶性樹脂とを含む樹脂組成物において、非結晶性樹脂の混合比率を高めれば、成形収縮率を低減することができる。しかし、結晶性樹脂の混合比率が低くなると、成形品の耐衝撃性が低下するという問題がある。
【0007】
また、熱成形を容易にするためには、シート温度の加熱量を高める方が好ましい。しかし、シート温度が上昇すると、ドローダウン(熱成形用の樹脂シートが軟化し過ぎて垂れてしまう現象)が生じ易くなる。ドローダウンは成型品の寸法の均一性が低下する要因となり得ることから、急激なシート温度の上昇を抑制することが好ましい。
【0008】
本発明は、成形収縮率が小さく、耐衝撃性に優れ、シート温度が一定となるポリスチレン系樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の成形品は、ポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂シートを熱成形した成形品であって、前記樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記樹脂シートはポリエチレン系樹脂を3~35質量%含み、且つ以下の式(I)により算出される前記成形品の成形収縮率が0.65%以下であることを特徴とする。
成形収縮率(%)=100×(金型寸法-成形品寸法)/金型寸法 (I)
【0010】
本発明の成形品の製造方法は、樹脂シート全体を100重量%とした場合、ポリエチレン系樹脂を3~35質量%含む、ポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂シートを、前記ポリスチレン系樹脂のシート軟化温度であり、且つ前記ポリエチレン系樹脂の融点以上の成形温度で熱成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、成形収縮率が小さく、耐衝撃性に優れると共に、成形収縮率が大きいポリエチレン系樹脂(結晶性樹脂)を含んでいても、成形収縮率の変化を抑制することができる。更に、熱成形において、シート温度の急激な上昇によるドローダウンを抑制し、これにより、成形品の寸法の均一性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】メス型の金型4及び該金型4で成形された容器の断面模式図である。
【
図2】オス型の金型5及び該金型5で成形された容器の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について以下に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(1)成形品
本実施形態に係る成形品(以下、「本成形品」という。)は、ポリスチレン系樹脂(PS系樹脂)を主成分とする樹脂シートを熱成形した成形品であって、前記樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記樹脂シートはポリエチレン系樹脂(PE系樹脂)を3~35質量%含み、且つ以下の式(I)により算出される前記成形品の成形収縮率が0.65%以下である。
成形収縮率(%)=100×(金型寸法-成形品寸法)/金型寸法 (I)
【0015】
前記樹脂シートは、非晶性樹脂である前記PS系樹脂を主成分とする。前記PS系樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、前記樹脂シートは、前記PS系樹脂以外に、他の重合体、樹脂、及びゴムの1種又は2種以上を副成分として含んでもよい。ここで「主成分」とは、樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記PS系樹脂が50重量%以上、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90質量%以上含まれることを意味する。
【0016】
前記PS系樹脂は、スチレン系単量体の単独重合体でもよく、2種以上のスチレン系単量体又は1種以上のスチレン系単量体と1種以上の他の単量体との共重合体でもよい。前記スチレン系単量体として具体的には、例えば、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、t-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレンが挙げられる。前記他の単量体は、前記スチレン系単量体と共重合することができる限り、その種類に特に限定はない。前記他の単量体としては、例えば、ビニル単量体の1種又は2種以上が挙げられる。該ビニル単量体として具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0017】
前記PS系樹脂は、必要に応じてゴム変性を行ったものでもよい。前記ゴム変性として具体的には、例えば、共役ジエン系ゴム状重合体を加えたゴム変性が挙げられる。前記共役ジエン系ゴム状重合体としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンのランダムまたはブロック共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-イソプレンのランダム、ブロック又はグラフト共重合体、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム等が挙げられる。また、これらは一部水素添加されていてもよい。
【0018】
前記PS系樹脂として具体的には、例えば、ポリスチレン(汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)等)、ゴム変性ポリスチレン(耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)等)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)、MS樹脂(メチルメタクリレート-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレン-スチレン共重合体)が挙げられる。前記PS系樹脂がHIPS及びGPPSの少なくとも一方、好ましくは両方である。ここで、前記HIPSは、スチレン系単量体等以外にブタジエン等のゴム成分を含有するものであり、例えば、ゴム成分がスチレン系単量体と共重合している共重合体、又は該共重合体と他の単独重合体若しくは共重合体とのブレンド樹脂等が挙げられる。また、前記汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)は、樹脂成分が実質上スチレンモノマーのみを重合して繰り返し構成されたものである。
【0019】
前記PS系樹脂として、HIPS及びGPPSの両方を含む場合、両者の含有量には特に限定はない。樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記HIPSの含有量として好ましくは35~80重量%とすることができる。前記HIPSの含有量の下限値は35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、又は50重量%とすることができる。また、前記HIPSの含有量の上限値は、79、78、77、76、75、74、73、72、71、70、69、68、67、66、65、64、63、62、61、60、59、58、57、56、55、54、53、52、51、又は50重量%とすることができる。前記HIPSの含有量は、前記下限値及び上限値を任意に組み合わせた範囲とすることができる。また、樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記GPPSの含有量として好ましくは10~40重量%とすることができる。前記GPPSの含有量の下限値は11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20重量%とすることができる。また、前記GPPSの含有量の上限値は、39、38、37、36、35、34、33、32、31、又は30重量%とすることができる。前記GPPSの含有量は、前記下限値及び上限値を任意に組み合わせた範囲とすることができる。
【0020】
前記PS系樹脂として、HIPS及びGPPSの両方を含む場合、両者の含有割合には特に限定はない。好ましくは、前記HIPSとGPPSとの含有割合は(1.3~3.5):1とすることができる。前記含有割合におけるHIPSの割合の下限値は1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、又は2.5とすることができる。前記含有割合におけるHIPSの割合の上限値は3.5、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、又は2.0とすることができる。前記含有割合におけるHIPSの割合は、前記下限値及び上限値を任意に組み合わせた範囲とすることができる。
【0021】
前記PE系樹脂は、エチレン単独重合体であることが好ましいが、エチレンと1種以上の他の単量体、例えばα-オレフィン(1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン)との共重合体でもよい。前記PE系樹脂が共重合体の場合、エチレン単位の割合は80重量%以上、90質量%以上、あるいは95質量%以上とすることができる。前記PE系樹脂として具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE;密度0.910~0.930)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE;密度0.910~0.925)、高密度ポリエチレン(HDPE;密度0.94g/cm3以上、好ましくは0.942~0.970g/cm3)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。また、前記PE系樹脂は結晶性であることが好ましい。前記PE系樹脂として、結晶性樹脂の高密度ポリエチレン(HDPE)を用いることができる。
【0022】
前記PE系樹脂を構成するエチレンの由来には特に限定はない。前記エチレンは通常の石油由来でもよく、あるいは植物由来でもよい。植物由来のエチレンは、例えば、植物原料(サトウキビ及びトウモロコシ等)から抽出する糖の発酵物又はセルロース発酵物からアルコール成分、特にエチルアルコールを蒸留分離し、その脱水反応により得ることができる。このような植物由来のエチレンから、通常の重合法によりPE系樹脂を得ることができる。このようなPE系樹脂は、バイオポリエチレンと呼ばれている。前記PE系樹脂は、このようなバイオポリエチレンでもよい。例えば、前記HIPSとして、バイオポリエチレンを含有するHIPSを用いることができる。
【0023】
前記樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記PE系樹脂の含有量は3~35重量%である。前記含有量が3重量%未満であると、耐衝撃性に劣るので好ましくない。一方、前記含有量が35重量%を超えると、成形収縮率が大きくなるので好ましくない。前記含有量の下限値は4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15重量%とすることができる。前記含有量の上限値は35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、又は5重量%とすることができる。前記含有量は、前記下限値及び上限値を任意に組み合わせた範囲とすることができる。
【0024】
前記PS系樹脂と前記PE系樹脂の組み合わせには特に限定はなく、必要に応じて種々選択することができる。本成型品では、前記PS系樹脂と前記PE系樹脂の組み合わせとして、PS系樹脂をHIPS及びGPPSの少なくとも一方、好ましくは両方とし、且つ前記PE系樹脂を高密度ポリエチレンとすることができる。前記PS系樹脂及び前記PE系樹脂の説明は、本段落における前記PS系樹脂と前記PE系樹脂の組み合わせにおいても妥当する。
【0025】
本成形品において、上記式(I)により算出される成形収縮率は0.65%以下である。前記成形収縮率が0.65%以下であると、金型と成形品との間の寸法のズレが小さく、また、従来のHIPS等のPS系樹脂の成型のための金型を流用できるので好ましい。
【0026】
式(I)中、「成形品寸法」とは、成形品の任意の2点間の寸法を意味する。また、「金型寸法」とは、前記成形品寸法を測定した2点間に対応する金型の2点間の寸法を意味する。具体的には、例えば、「成形品寸法」として、成形品頂部の凹部の2つの屈曲点間の水平寸法又は成形品底部の凹部の2つの屈曲点間の水平寸法のうち、いずれか厚みが厚い方とし、「金型寸法」とは、「成形品寸法」を測定した凹部に対応する金型の凸部の2つの屈曲点間の水平寸法とすることができる。
【0027】
「成形品寸法」及び「金型寸法」について、その一例を
図1及び
図2に基づいて説明する。成形品1は、成形品頂部2A、2B(成形品の最上部)と成形品底部3(成形品の最下部)を有する。成形品頂部2A、2Bには凹部21A、21Bが形成されており、成形品底部3にも凹部31が形成されている。成形品頂部2A、2Bの凹部21A、21Bは、上面部211A、211Bと、該上面部211Aを形成する屈曲点212a及び212b、並びに上面部211Bを形成する屈曲点212c及び212dと、を有する。同様に、成形品底部3の凹部31は、底面部311と屈曲点312a及び312bを有する。
【0028】
通常、成形品頂部2A、2Bの凹部21A、21Bは、金型4(メス型)で成形され、成形品底部3の凹部31は、金型5(オス型)で成形される。金型4は、成形品頂部2A、2Bの凹部21A、21Bを形成するための凸部41A、41Bを有する。同様に、金型5は、成形品底部3の凹部31を形成するための凸部51を有する。金型4の凸部41Aは、成形品頂部2Aの上面部211A及び屈曲点212a、212bに対応する上面部411A及び屈曲点412a、412bを有する。同様に、金型4の凸部41Bは、成形品頂部2Bの上面部211B及び屈曲点212c、212dに対応する上面部411B及び屈曲点412c、412dを有する。また、金型5の凸部51は、成形品底部3の底面部311及び屈曲点312a、312bに対応する底面部511及び屈曲点512a、512bを有する。
【0029】
メス型の金型で熱成形した場合は上面部211A、211Bが、オス型で熱成形した場合には底面部311が、最も真空引きされる部分で、且つ厚みが最も厚くなる部分である。そして、一実施態様として、「成形品寸法」とは、成形品頂部2Aの凹部21Aの2つの屈曲点212a及び212b間の水平寸法(X1)、又は成形品底部3の凹部31の2つの屈曲点312a、312b間の水平寸法(X2)のうち、いずれか厚みが厚い方とすることができる。
【0030】
「成形品寸法」が
図1に示すX1であれば、「金型寸法」とは、成形品頂部2Aの凹部21A(成形品寸法を測定した凹部)に対応する金型4の凸部41の2つの屈曲点412a及び412b間の水平寸法(Y1)を意味する。一方、「成形品寸法」が
図1に示すX2であれば、「金型寸法」とは、成形品底部3の凹部31(成形品寸法を測定した凹部)に対応する金型5の凸部51の2つの屈曲点512a及び512b間の水平寸法(Y2)を意味する。
【0031】
尚、
図1では、屈曲点212a、212b間の水平寸法を「X1」と表示している。メス型の金型で成形した場合の「成形品寸法」は、成形品頂部2Bの凹部21Bの2つの屈曲点212a、212d間等、成形品頂部における任意の2つの屈曲点の間を水平寸法とすることができる。同様に、
図1では、屈曲点412a、412b間の水平寸法を「Y1」と表示している。メス型の金型で成形した場合の「金型寸法」は、成形品寸法を測定した凹部に対応する金型4の凸部41の屈曲点412a、412d間等、成形品頂部における任意の2つの屈曲点の間を水平寸法とすることができる。
【0032】
前記樹脂シートは、更に相溶化剤を1種又は2種以上含有してもよい。前記相溶化剤を含有することにより、前記樹脂シート中の成分、特に前記PS系樹脂及びPE系樹脂をより均一に分散させることができるので好ましい。前記相溶化剤の種類には特に限定はない。前記相溶化剤として具体的には、例えば、スチレン-ブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、水添スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。より具体的には、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体や、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体が挙げられる。
【0033】
前記相溶化剤の含有量は、必要に応じて適宜の範囲とすることができる。前記樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記相溶化剤の含有量として好ましくは1~20重量%である。前記含有量の下限値として、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3重量%とすることができる。また、前記含有量の上限値として、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9.5、9、8.5、8、7.5、又は7重量%とすることができる。前記含有量は、前記下限値及び上限値を任意に組み合わせた範囲とすることができる。
【0034】
前記樹脂シートは、前記PS系樹脂を主成分とし、且つ前記樹脂シート全体を100重量%とした場合、前記PE系樹脂を3~35質量%含む層(以下、「PE含有PS樹脂層」という。)を含む限り、その具体的構造には特に限定はない。前記樹脂シートは、PE含有PS樹脂層のみで構成される単層構造でもよく、該層と他の層を含む2層以上の多層シートでもよい。前記樹脂シートが多層シートの場合、その全てがPE含有PS樹脂層でもよく、あるいは、一部の層が該層でもよい。例えば、前記樹脂シートとして、スキン層とコア層を含み、且つ前記コア層が前記PE含有PS樹脂層である樹脂シートとすることができる。
【0035】
前記樹脂シートの具体的形状には特に限定はない。前記樹脂シートの具体的形状は、必要に応じて適宜決定することができる。よって、前記「シート」の用語には、フィルム状も含まれる。本シートの厚みは、例えば、0.1~5mm、あるいは0.5~3mmとすることができる。
【0036】
前記樹脂シートは、成形性を著しく損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分として具体的には、例えば、公知の樹脂シートに用いられている添加剤、例えば、難燃剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、及び抗菌剤が挙げられる。
【0037】
本成形品は、前記樹脂シートを熱成形することにより得ることができる。該熱成形の具体的方法には特に限定はなく、公知の熱成形方法、例えば、熱盤成形、真空成形、圧空成形又は真空圧空成形を用いることができる。また、熱成形の条件も特に限定はない。成形条件は必要に応じて適宜決定することができる。本成形品は好ましくは、前記PS系樹脂のシート軟化温度であり、且つ前記PE系樹脂の融点以上の成形温度で熱成形することにより製造することができる(この点についての詳細は後述する。)。
【0038】
本成形品の形状、寸法、及び具体的用途には特に限定はない。本成形品の用途としては、包装用容器等の容器、例えば、飲食品包装用容器が挙げられる。尚、前記「容器」は、容器全体だけでなく、容器の一部も含む。例えば、前記「容器」には、容器の本体のみならず、容器の蓋体も含まれる。
【0039】
(2)成形品の製造方法
本実施形態に係る成形品の製造方法(以下、「本方法」という。)は、樹脂シート全体を100重量%とした場合、PE系樹脂を3~35質量%含む、PS系樹脂を主成分とする樹脂シートを、前記PS系樹脂のシート軟化温度であり、且つ前記PE系樹脂の融点以上の成形温度で熱成形することを含む。
【0040】
本方法では、前記PS系樹脂のシート軟化温度であり、且つ前記PE系樹脂の融点以上の成形温度で熱成形することにより、熱成形時にシート温度が一定となり、ドローダウンを抑制することができる。これは、かかる成形温度で成形した場合、熱量が増加しても、熱エネルギーはPE系樹脂の融解に消費され、その結果、シート温度が上がらないためと考えられる(当該記載は単に発明者の見解の表明に過ぎず、本発明を定義ないし限定する趣旨の記載ではない。)。
【0041】
本方法において、前記PS系樹脂、樹脂シート、及びPE系樹脂の内容については、上記の説明が妥当する。
【0042】
本方法により得られる成形品は、通常、前記式(I)により算出される成形収縮率が0.65%以下である。前記成形収縮率が0.65%以下であると、金型と成形品との間の寸法のズレが小さく、また、従来のHIPS等のPS系樹脂の成型のための金型を流用できるので好ましい。尚、式(I)の「成形品寸法」及び「金型寸法」については、上記の説明が妥当する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0044】
1.PSシートの製造
原料として、以下の各成分を用いた。
<非結晶性樹脂>
(A)HIPS;東洋スチレン株式会社製「E640N」
(B)GPPS;PSジャパン株式会社製「G9305」
<結晶性樹脂>
(C)バイオPE系樹脂;ブラスケム社製「SHC7260」
<相溶化剤>
(D)SBS;クレイトン社製「DX408」
【0045】
前記(A)~(D)の各原料を表1に示す割合で混合した後、押出機に投入し加熱溶融した。次いで、該溶融樹脂を押出成形することにより、実施例1~4、参考例及び比較例1~2の単層PSシート(厚さ:0.50mm)を得た。また、前記(A)~(D)の各原料を表2に示す割合で混合した後、同様の方法によりコア層用シート及びスキン層用シートを得て、これを積層することにより、コア層及びスキン層を含む多層PSシート(厚さ:0.50mm)を得た。
【0046】
【0047】
【0048】
2.成形品の製造
金型を用いて実施例1~4、6、参考例及び比較例1~3の樹脂シートを間接ヒーター温度上430℃、下380℃、加熱時間8.5sで熱成形して、実施例1~6及び比較例1~3の方形状の容器(215mm角、深さ38mm)を製造した。
【0049】
3.性能評価
(1)成形収縮率
実施例1~4、6、参考例及び比較例1~3の容器について、成形品頂部の凹部の2つの屈曲点間の水平寸法(成形品寸法)を測定した。また、この部分に対応する金型の凸部の2つの屈曲点間の水平寸法(金型寸法)を測定した。上記式(I)に基づいて、得られた測定値から成形収縮率(%)を算出した。結果を表1及び表2に併記する。
【0050】
(2)ドローダウン
熱成形前の間接ヒーターでのシート加熱時に、ドローダウンにより成形品にしわが入っていないか目視で確認する方法により、実施例1~4、6、参考例及び比較例1~3のドローダウンを評価した。表1及び表2中、「○」は良好(ドローダウンが小さく、成形品にしわが入っていない)を意味し、「×」は不良(ドローダウンが大きく、成形品にしわが入る)を意味する。
【0051】
(3)耐衝撃性
成形品内に重り500gを入れ、高さ1.5m、雰囲気温度5℃の環境下で成形品を落とす落下試験の方法により、実施例1~4、6、参考例及び比較例1~3の耐衝撃性を評価した。その結果を表1及び表2に併記する。表1及び表2中、「○」は良好(落下後の成形品に割れが発生しない)を意味し、「×」は不良(落下後の成形品に割れの発生が見られる)を意味する。
【0052】
4.結果
表1より、実施例1~4は、成形収縮率が大きい結晶性樹脂(PE)を含んでいても、これを含まない比較例1と同程度の成形収縮率であった。また、実施例1~4はいずれも、耐衝撃性に優れていた。一方、結晶性樹脂(PE)を含まない比較例1は、成形収縮率が実施例1~4と同程度である反面、耐衝撃性に劣り、熱成形時のシート表面温度の上昇に伴うドローダウンも大きかった。また、結晶性樹脂の量が多い比較例2では、耐衝撃性に優れているが、成形収縮率が実施例1~4よりも大きかった。この結果から、本願発明の実施態様である実施例1~4の成形品は、結晶性樹脂を含むことにより耐衝撃性が改善され、且つ成形収縮率が大きい結晶性樹脂(PE)を含んでいても、成形収縮率の変化が小さく、成形性に優れていることが分かる。
【0053】
表2より、実施例6は、成形収縮率が大きい結晶性樹脂(PE)を含んでいても、これを含まない比較例3と同程度の成形収縮率であった。また、実施例6では、ドローダウンが小さく、耐衝撃性も良好であった。一方、結晶性樹脂(PE)を含まない比較例3は、成形収縮率が実施例6と同程度である反面、耐衝撃性に劣り、熱成形時のシート表面温度の上昇に伴うドローダウンも大きかった。この結果は、多層シートであっても、単層シートと同様の結果であることを示している。
【符号の説明】
【0054】
1;成形品、2A,2B;成形品頂部、21A,21B;成形品頂部の凹部、211A,211B;上面部、212a,212b,212c,212d;屈曲点、3;成形品底部、31;成形品底部の凹部、311;底面部、312a,312b;屈曲点、4;金型、41A,2B;金型4の凸部、411A,411B;上面部、412a,412b,412c,412d;屈曲点、5;金型、51;金型5の凸部、511;上面部、512a,512b;屈曲点、X1;屈曲点212a,212b間の水平寸法、X2;屈曲点312a,312b間の水平寸法、Y1;屈曲点412a,412b間の水平寸法、Y2;屈曲点512a,512b間の水平寸法。