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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
H01L21/304 648J
H01L21/304 651Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020066517
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021163916
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】墨 周武
(72)【発明者】
【氏名】折坂 昌幸
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-291151(JP,A)
【文献】特開2018-082043(JP,A)
【文献】特開2005-340834(JP,A)
【文献】特開2002-224627(JP,A)
【文献】特開2001-257170(JP,A)
【文献】特開平10-321528(JP,A)
【文献】特開2018-147970(JP,A)
【文献】特開2013-163846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/302
H01L 21/205
C23C 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面を処理流体により処理する基板処理装置において、
上面に前記基板を水平姿勢で載置可能な平板状の基板保持部と、
前記基板が載置された前記基板保持部を収容可能な処理空間を内部に有するとともに、前記処理空間に連通し前記基板保持部が通過可能な開口部を側面に有するチャンバと
を備え、
前記チャンバには、前記処理空間と連通し前記チャンバ外から供給される前記処理流体を受け入れる導入流路と、前記処理空間と連通するバッファ空間と、前記バッファ空間から前記チャンバ外へ前記処理流体を排出する排出流路とが設けられ、
前記導入流路は、平面視において前記処理空間の一方端部で、前記処理空間の壁面のうち天井面と前記基板保持部の上面との隙間に形成されるギャップ空間に臨んで開口する吐出口に接続され、該吐出口の形状および該吐出口に至る流路の断面形状が、前記ギャップ空間の断面形状と略同一であり、
前記バッファ空間は、平面視において前記基板を挟んで前記一方端部とは反対側の他方端部で前記処理空間に接続され、前記一方端部から前記他方端部へ向かう前記処理流体の流通方向に直交する幅方向において、前記ギャップ空間と略同一の幅を有しており、
前記バッファ空間のうち前記幅方向における両端部に設けられた1対の開口のそれぞれに、前記排出流路が接続され
前記ギャップ空間と前記バッファ空間との接続部において前記処理流体の流通方向が90度以上変化し、かつ前記処理流体の流通方向に直交する断面における断面積は前記バッファ空間において前記ギャップ空間よりも大きい、基板処理装置。
【請求項2】
記処理空間の壁面のうち底面と前記基板保持部の下面との隙間に形成される下側ギャップ空間に対応して前記処理空間と連通し前記チャンバ外から供給される前記処理流体を受け入れる下側導入流路、前記処理空間と連通する下側バッファ空間と、前記下側バッファ空間から前記チャンバ外へ前記処理流体を排出する下側排出流路が設けられる請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記排出流路が接続される前記開口は、平面視において前記基板の前記幅方向の両端部よりも外側に開口する請求項1または2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記一方端部は、前記流通方向における前記処理空間の両端部のうち前記基板からみて前記開口部とは反対側の端部であり、前記他方端部は、前記両端部のうち前記基板からみて前記開口部側の端部である請求項1ないし3のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記チャンバは、
前記処理空間となる空洞が設けられたチャンバ本体と、
シール部材を介して前記開口部を閉塞する蓋部と
を有しており、
前記バッファ空間は、前記蓋部、前記チャンバおよび前記シール部材で囲まれた空間である請求項1ないし4のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記導入流路の途中には、前記流通方向における上流側よりも流路断面積が拡大する拡大空間が設けられ、前記拡大空間から前記吐出口に至る流路において、前記流通方向が90度以上変化する請求項1ないしのいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記流通方向における前記拡大空間よりも下流側の前記導入流路は、前記吐出口まで一定の断面形状を有する請求項に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記幅方向において、前記拡大空間の長さは、前記流通方向における前記拡大空間よりも下流側の前記導入流路の長さ以上である請求項またはに記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記流通方向における前記拡大空間よりも上流側の前記導入流路が前記拡大空間に臨む開口位置と、前記流通方向における前記拡大空間よりも下流側の前記導入流路が前記拡大空間に臨む開口位置とが、上下方向において互いに重ならない請求項ないしのいずれかに記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャンバ内で基板を処理流体によって処理する基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理工程には、基板の表面を各種の処理流体によって処理するものが含まれる。処理流体として薬液やリンス液などの液体を用いる処理は従来から広く行われているが、近年では超臨界流体を用いた処理も実用化されている。特に、表面に微細パターンが形成された基板の処理においては、液体に比べて表面張力が低い超臨界流体はパターンの隙間の奥まで入り込むため効率よく処理を行うことが可能であり、また乾燥時において表面張力に起因するパターン倒壊の発生リスクを低減することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、超臨界流体を用いて基板の乾燥処理を行う基板処理装置が記載されている。この装置では、2つの板状部材が対向配置されてその隙間が処理空間として機能する処理容器が構成されている。処理空間の一方端部から薄板状の保持板に載置されたウエハ(基板)が搬入され、他方端部から超臨界状態の二酸化炭素が導入される。
【0004】
この種の処理に用いられる処理容器は一種の高圧チャンバである。チャンバには基板を出し入れするための開口部が設けられ、蓋部がこれを閉塞することで処理空間が形成される。チャンバと蓋部との間には、弾性を有する、例えばゴム製のシール部材が介在することにより、処理空間の気密性が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-082043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、チャンバ内での処理流体がどのように流れるかについては詳しく言及されていない。しかしながら、本願発明者らの知見によれば、チャンバ内での処理流体の流れ方が、処理結果の良否、つまり処理後の基板の清浄度に影響を及ぼしていることがわかった。すなわち、チャンバ内での処理流体の流れに乱れがあると、例えばシール部材等から発生する不純物が基板に付着し基板を汚染するおそれがある。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、チャンバ内で基板を処理流体によって処理する基板処理装置において、不純物による基板の汚染を効果的に防止し、処理を良好に行うことのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一の態様は、基板の表面を処理流体により処理する基板処理装置であって、上記目的を達成するため、上面に前記基板を水平姿勢で載置可能な平板状の基板保持部と、前記基板が載置された前記基板保持部を収容可能な処理空間を内部に有するとともに、前記処理空間に連通し前記基板保持部が通過可能な開口部を側面に有するチャンバとを備えており、前記チャンバには、前記処理空間と連通し前記チャンバ外から供給される前記処理流体を受け入れる導入流路と、前記処理空間と連通するバッファ空間と、前記バッファ空間から前記チャンバ外へ前記処理流体を排出する排出流路とが設けられる。
【0009】
ここで、前記導入流路は、平面視において前記処理空間の一方端部で、前記処理空間の壁面のうち天井面と前記基板保持部の上面との隙間前記処理空間の壁面と前記基板保持部との隙間に形成されるギャップ空間に臨んで開口する吐出口に接続され、該吐出口の形状および該吐出口に至る流路の断面形状が、前記ギャップ空間の断面形状と略同一であり、前記バッファ空間は、平面視において前記基板を挟んで前記一方端部とは反対側の他方端部で前記処理空間に接続され、前記一方端部から前記他方端部へ向かう前記処理流体の流通方向に直交する幅方向において、前記ギャップ空間と略同一の幅を有しており、前記バッファ空間のうち前記幅方向における両端部に設けられた1対の開口のそれぞれに、前記排出流路が接続される。そして、前記ギャップ空間と前記バッファ空間との接続部において前記処理流体の流通方向が90度以上変化し、かつ前記処理流体の流通方向に直交する断面における断面積は前記バッファ空間において前記ギャップ空間よりも大きい。
【0010】
このように構成された発明では、処理空間のうち基板および基板保持部により占められる空間を除く空間、つまり処理空間の壁面と基板保持部との隙間に形成されるギャップ空間が、処理流体が流通する流路として機能する。処理流体を処理空間に導入する導入経路においては、ギャップ空間の断面形状と略同一の断面形状を有する流路および吐出口を経て処理流体が処理空間に流入する。そのため、吐出口よりも上流側の流路で形成された層流が、その状態を維持したまま処理空間に流入することになる。
【0011】
一方、処理空間を通過した後の処理流体については、ギャップ空間と略同一の幅を有するバッファ空間に流れ込んだ後、排出流路を介して外部へ排出される。詳しくは後述するが、バッファ空間に接続される排出流路の位置を、幅方向におけるバッファ空間の両端部とすることで、バッファ空間における処理流体の滞留を防止することができる。また、ギャップ空間内の処理流体の流れにおいて幅方向における中央側に向かう成分が生じるのを抑制する効果がある。これらにより、ギャップ空間内では層流の状態を保ったまま、処理流体をバッファ空間に流れ込ませることができる。
【0012】
このように、導入流路から処理空間を経てバッファ空間に至る処理流体の流れにおいて一方向の層流を維持するように流路を構成することにより、処理空間内で乱流が生じるのを抑制することができる。処理空間内での乱流は、基板から遊離した液体成分やその他の不純物を基板に付着させ基板を汚染する原因となるが、乱流の発生を抑えることで、基板の汚染を防止することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本発明では、処理流体の流通方向において処理空間よりも上流側の導入流路から下流側のバッファ空間までの間では、処理流体を略一定の断面形状の層流として流通させることができる。このため、処理空間内で乱流が発生するのを抑制し、乱流に起因する基板への不純物の付着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
図2】処理流体の流路を模式的に示す図である。
図3】チャンバの開口部周辺の構造を例示する図である。
図4】処理空間に導入される処理流体の流れを模式的に示す断面図である。
図5】処理空間から排出される処理流体の流れを模式的に示す断面図である。
図6】排出流路の位置と処理流体の流れとの関係を模式的に示す図である。
図7】処理チャンバの開口部周辺の他の構造を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。この基板処理装置1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を超臨界流体を用いて処理するための装置である。以下の各図における方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
【0016】
ここで、本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明するが、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。
【0017】
基板処理装置1は、処理ユニット10、供給ユニット50および制御ユニット90を備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものであり、供給ユニット50は、処理に必要な化学物質および動力を処理ユニット10に供給する。
【0018】
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90には、各種の制御プログラムを実行するCPU91、処理データを一時的に記憶するメモリ92、CPU91が実行する制御プログラムを記憶するストレージ93、およびユーザや外部装置と情報交換を行うためのインターフェース94などを備えている。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0019】
処理ユニット10は、処理チャンバ100を備えている。処理チャンバ100は、それぞれ金属ブロックにより形成された第1部材11、第2部材12および第3部材13を備えている。第1部材11と第2部材12とが図示しない結合部材により上下方向に結合され、その(+Y)側側面に、図示しない結合部材により第3部材13が結合されて、内部が空洞となった構造の処理チャンバ100が構成される。この空洞の内部空間が、基板Sに対する処理が実行される処理空間SPとなっている。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ100の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口部101が形成されており、開口部101を介して処理空間SPと外部空間とが連通している。
【0020】
処理チャンバ100の(-Y)側側面には、開口部101を閉塞するように蓋部14が設けられている。蓋部14の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられており、支持トレイ15の上面は基板Sを載置可能な支持面となっている。より具体的には、支持トレイ15は、略平坦な上面151に基板Sの平面サイズより少し大きく形成された凹部152が設けられた構造を有している。この凹部152に基板Sが収容されることで、基板Sは支持トレイ15上で所定位置に保持される。基板Sは、処理対象となる表面(以下、単に「基板表面」ということがある)Saを上向きにして保持される。このとき、支持トレイ15の上面151と基板表面Saとが同一平面をなしていることが好ましい。
【0021】
蓋部14は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。また、蓋部14は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ100に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が蓋部14をY方向に移動させる。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0022】
蓋部14が(-Y)方向に移動することにより、支持トレイ15が処理空間SPから開口部101を介して外部へ引き出されると、外部から支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部14が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
【0023】
液体の表面張力に起因するパターン倒壊を防止しつつ基板を乾燥させることを主たる目的とする超臨界乾燥処理においては、基板Sは、その表面Saが露出してパターン倒壊が発生するのを防止するために、表面Saが液膜で覆われた状態で搬入される。液膜を構成する液体としては、例えばイソプロピルアルコール(IPA)、アセトン等の表面張力が比較的低い有機溶剤を好適に用いることができる。
【0024】
蓋部14が(+Y)方向に移動し開口部101を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部14の(+Y)側側面と処理チャンバ100の(-Y)側側面との間にはシール部材16が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。シール部材16としては、弾性樹脂材料、例えばゴムにより形成された環状のものを用いることができる。また、図示しないロック機構により、蓋部14は処理チャンバ100に対して固定される。このようにして処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。
【0025】
この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、超臨界処理に利用可能な物質の流体、例えば二酸化炭素が、気体または液体の状態で処理ユニット10に供給される。二酸化炭素は比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。
【0026】
より具体的には、流体供給部57は、基板Sを処理する処理流体として、超臨界状態の流体、または、ガス状もしくは液状で供給され所定の温度・圧力が与えられることで事後的に超臨界状態となる流体を出力する。例えば、ガス状もしくは液状の二酸化炭素が加圧状態で出力される。流体は配管571およびその途中に介挿されたバルブ572,573を介して、処理チャンバ100の(+Y)側側面に設けられた入力ポート102,103に圧送される。すなわち、制御ユニット90からの制御指令に応じてバルブ572,573が開成されることで、流体は流体供給部57から処理チャンバ100へ送られる。
【0027】
図2は処理流体の流路を模式的に示す図である。より具体的には、図2(a)は流路の輪郭を示す模式図であり、図2(b)はその平面図である。また、図2(c)は流路の側面断面図である。以下、図1および図2を参照しながら、処理流体の流路の構造について説明する。
【0028】
入力ポート102,103から処理空間SPに至る流体の流路17は、流体供給部57から供給される処理流体を処理空間SPに導入する導入流路として機能する。具体的には、入力ポート102には、流路171が接続されている。入力ポート102とは反対側の流路171の端部には、流路断面積が急激に拡大するように形成されたバッファ空間172が設けられている。
【0029】
バッファ空間172と処理空間SPとを接続するように、流路173がさらに設けられている。流路173は、上下方向(Z方向)に狭く、水平方向(X方向)に長い幅広の断面形状を有しており、その断面形状は、処理流体の流通方向において略一定である。バッファ空間172とは反対側の流路17の端部は、処理空間SPに臨んで開口する吐出口174となっており、この吐出口174から処理流体が処理空間SP内に導入される。
【0030】
望ましくは、流路173の高さは、支持トレイ15が処理空間SPに収容された状態で、処理空間SPの天井面と基板表面Saとの距離と等しい。そして、吐出口174は、処理空間SPの天井面と支持トレイ15の上面151との間のギャップに臨んで開口している。例えば、流路173の天井面と処理空間SPの天井面とが同一平面をなすようにすることができる。このように、吐出口174は、処理空間SPに臨んで水平方向に細長いスリット状に開口している。
【0031】
支持トレイ15の下方にも同様にして処理流体の流路が形成される。具体的には、入力ポート103には流路175が接続されている。入力ポート103とは反対側の流路175の端部には、流路断面積が急激に拡大するように形成されたバッファ空間176が設けられている。
【0032】
そして、バッファ空間176と処理空間SPとは流路17を介して連通している。流路176は、上下方向(Z方向)に狭く、水平方向(X方向)に長い幅広の断面形状を有しており、その断面形状は、処理流体の流通方向において略一定である。バッファ空間176とは反対側の流路177の端部は、処理空間SPに臨んで開口する吐出口178となっており、この吐出口178から処理流体が処理空間SP内に導入される。
【0033】
望ましくは、流路177の高さは、処理空間SPの底面と支持トレイ15の下面との距離と同等とされる。そして、吐出口178は、処理空間SPの底面と支持トレイ15の下面との間のギャップに臨んで開口している。例えば、流路177の底面と処理空間SPの底面とが同一平面をなすようにすることができる。つまり、吐出口178は、処理空間SPに臨んで水平方向に細長いスリット状に開口している。
【0034】
Z方向において、流路171の配設位置と流路173の配設位置とが異なっていることが望ましい。両者が同一高さにあるとき、流路171からバッファ空間172に流入した処理流体の一部がそのまま直進して流路173に流入することになる。そうすると、流通方向に直交する流路の幅方向、つまりX方向においては、流路171に対応する位置とそれ以外の位置とで、流路173に流れ込む処理流体の流量や流速に差が生じるおそれがある。このことは、流路173から処理空間SPに流れ込む処理流体の流れにX方向の不均一性を生じさせ、乱流の原因となる。
【0035】
流路171と流路173とをZ方向に異ならせて配置することにより、このような流路171から流路173への処理流体の直進は生じなくなり、幅方向において均一な層流として処理流体を処理空間SPに導入することが可能となる。
【0036】
このように構成された導入流路17から導入される処理流体は、処理空間SP内で支持トレイ15の上面および下面に沿って流れ、以下のように構成される流路18を介してチャンバ外へ排出される。基板Sよりも(-Y)側において、処理空間SPの天井面と支持トレイ15の上面151とはいずれも水平な平面をなしており、両者は一定のギャップを保って平行に対向している。このギャップが、支持トレイ15の上面151および基板Sの表面Saに沿って流れた処理流体を後述の排出流路に導く上側流路181として機能する。すなわち、上側流路181は上下方向(Z方向)に狭く、水平方向(X方向)に長い幅広の断面形状を有している。
【0037】
上側流路181の処理空間SPとは反対側の端部はバッファ空間182に接続している。詳しい構造については後述するが、バッファ空間182は、チャンバ100と、蓋部14と、シール部材16とで囲まれた空間である。X方向におけるバッファ空間182の幅は上側流路181の幅と同等またはこれより大きく、Z方向におけるバッファ空間182の高さは上側流路181の高さよりも大きい。したがって、バッファ空間182は上側流路181より大きな流路断面積を有している。
【0038】
バッファ空間182の上部に排出流路183が接続されている。排出流路183はチャンバ100を構成する上部ブロックである第1部材11を貫通して設けられた貫通孔である。その上端はチャンバ100の上面に開口する出力ポート104を構成し、下端はバッファ空間182に臨んで開口している。
【0039】
同様に、処理空間SPの底面と支持トレイ15の下面とはいずれも水平な平面をなしており、両者は一定のギャップを保って平行に対向している。このギャップが、支持トレイ15の下面に沿って流れた処理流体を排出流路に導く下側流路185として機能する。すなわち、下側流路185は上下方向(Z方向)に狭く、水平方向(X方向)に長い幅広の断面形状を有している。
【0040】
下側流路185の処理空間SPとは反対側の端部はバッファ空間186に接続している。バッファ空間182と同様、バッファ空間186は、チャンバ100と、蓋部14と、シール部材16とで囲まれた空間である。X方向におけるバッファ空間186の幅は下側流路185の幅と同等またはこれより大きく、Z方向におけるバッファ空間186の高さは下側流路185の高さよりも大きい。したがって、バッファ空間186は下側流路185より大きな流路断面積を有している。
【0041】
バッファ空間186の下部に排出流路187が接続されている。排出流路187はチャンバ100を構成する下部ブロックである第2部材12を貫通して設けられた貫通孔である。その下端はチャンバ100の下面に開口する出力ポート105を構成し、上端はバッファ空間186に臨んで開口している。
【0042】
処理空間SPにおいて支持トレイ15の上方を流れた処理流体は、上側流路181、バッファ空間182および排出流路183を介して出力ポート104へ送出される。出力ポート104は、配管551によって流体回収部55に接続されており、配管551の途中にはバルブ552が介挿されている。
【0043】
同様に、処理空間SPにおいて支持トレイ15の下方を流れた処理流体は、下側流路185、バッファ空間186および排出流路187を介して出力ポート105へ送出される。出力ポート105は、配管553によって流体回収部55に接続されており、配管553の途中にはバルブ554が介挿されている。
【0044】
バルブ552,554は制御ユニット90により制御されている。制御ユニット90からの制御指令に応じてバルブ552,554が開成すると、処理空間SP内の処理流体が配管551,553を介して流体回収部55に回収される。
【0045】
図2(a)および図2(c)に示すように、流体供給部57から入力ポート10へ圧送されてくる処理流体は、流路171を経て比較的大空間であるバッファ空間172に放出される。流体が液体として供給される場合であっても、流路上での圧力損失の変動等に起因して、流路内で気化し膨張することがあり得る。このような急激な膨張が基板Sの近傍で発生すると、基板Sにダメージを与えてしまうおそれがある。
【0046】
これを回避するため、処理空間SPに至る流路171の一部に圧力損失が大きく変動する部分を設けておき、起こり得る気化、膨張はこの部分で起こるようにする。このための空間としてバッファ空間172が設けられている。また、管状の流路171を流通する流体を、処理空間SPに対し薄層状に供給可能とするために整流するマニホールドとしての作用も、バッファ空間172は有している。バッファ空間176の機能も同様である。
【0047】
バッファ空間172から一定の流路断面積を有する流路173を経て、吐出口174から処理空間SPに供給される処理流体は、図2(a)に点線矢印で模式的に示すように、一定幅および一定厚さを維持した層流として基板表面Saの上方を通過することになる。同様に、バッファ空間176から一定の流路断面積を有する流路177を経て、吐出口178から処理空間SPに供給される処理流体は、一定幅および一定厚さを維持した層流として支持トレイ15の下面に沿って流れる。
【0048】
基板Sの周囲を通過した処理流体は上側流路181、下側流路185を経てさらに下流側へ流れる。ここでも流路の断面形状が概ね同じに維持されているため、層流の状態が保たれる。上側流路181、下側流路185を流れた処理流体はバッファ空間182,186に放出された後、排出流路183,187を経てチャンバ外へ排出される。このように、処理空間SP内での処理流体は一方向、具体的には(-Y)方向に流れる。そのため、基板Sの周囲で処理流体の乱流が発生することは回避されている。
【0049】
開口部101から処理空間SPを見ると、図2(c)に点線矢印で模式的に示すように、処理流体は処理空間SP内で基板Sの(+Y)側(奥側)から(-Y)側(手前側)に向けて、略一様で連続したな層流として流れることになる。処理空間SPの奥側から常に清浄な処理流体が供給されており、基板Sの周囲を通過した処理流体は下流側、つまり開口部101側へ流れる。したがって、基板Sから遊離した残存液体成分等は、処理流体とともに開口部101まで一方向に押し流されることとなり、基板Sの周囲の乱流により運ばれて基板Sに再付着することは防止される。
【0050】
図2(a)に示すように、X方向に細長く延びるバッファ空間182の両端部それぞれの近傍に、1対の排出流路183,183が設けられている。バッファ空間182に臨む排出流路183,183の開口は、図2(b)に示すように、処理空間SPに収容される基板SのX方向における両端部よりも外側に設けられることが望ましい。その理由については後で詳しく説明する。
【0051】
図3はチャンバの開口部周辺の構造を例示する図である。より具体的には、図3(a)はチャンバ100の開口部101を示す外観図である。また、図3(b)は、チャンバ100の内部構造を見やすく示すために、図3(a)からシール部材16および第1部材11と第2部材との境界線の図示を省き、代わりに図3(a)では隠れている構造を隠れ線(点線)によって示したものである。
【0052】
これらの図に示されるように、チャンバ100の(-Y)側端面には、環状のシール部材16が取り付けられ、シール部材16に囲まれた内部領域に開口部101が設けられている。より具体的には、チャンバ100を構成する第1部材11、第2部材12の(-Y)側端面に、表面が(+Y)側に後退した凹部111,121が設けられている。そして、第1部材11の凹部111の下端には、X方向における幅が処理空間SPの幅と同じかこれよりも少し大きく、かつ上下方向(Z方向)に薄い鍔状の隔壁112が(-Y)方向に突出して設けられている。また、第2部材12の凹部121の上端にも、X方向における幅が処理空間SPの幅と同じかこれよりも少し大きく、かつ上下方向(Z方向)に薄い鍔状の隔壁122が(-Y)方向に突出して設けられている。
【0053】
隔壁112,122の(-Y)側先端部と、凹部111,121の(-X)側および(+X)側端面とが開口部101を形成している。隔壁112の下面は処理空間SPの天井面と同一平面をなす一方、隔壁122の上面は処理空間SPの底面と同一平面をなしている。つまり、隔壁112,122により挟まれる空間が、開口部101に連通する処理空間SPの(-Y)側端部となっている。このように、隔壁112は、凹部111内を処理空間SPとその上方に隣接する上部空間とに隔てる隔壁となっている一方、隔壁122は、凹部121内を処理空間SPとその下方に隣接する下部空間とに隔てる隔壁となっている。
【0054】
隔壁112上方の上部空間は、その(-Y)側開口を蓋部14により閉塞されることによってバッファ空間182を形成する。また、隔壁122下方の下部空間は、その(-Y)側開口を蓋部14により閉塞されることによってバッファ空間186を形成する。凹部111の上面には、そのX方向両端部近傍に排出流路183,183が接続されている。排出流路183,183は、第1部材11の上面に設けられた出力ポート104,104に連通している。また凹部121の下面には、そのX方向両端部近傍に排出流路187,187が接続されている。排出流路187,187は、第2部材12の下面に設けられた出力ポート105,105に連通している。
【0055】
図4は処理空間に導入される処理流体の流れを模式的に示す断面図である。基板Sの上方における処理流体の流れは以下の通りである。矢印は処理流体の流れの方向を模式的に示す。流路171に圧送されてくる処理流体は、バッファ空間172において広い空間に放出されることで圧力が調整された後、上下方向に狭く水平方向に広い流路173を通って吐出口174から処理空間SPに導入される。
【0056】
流路173および吐出口174と、処理空間SPの天井面と基板S(支持トレイ15)との間のギャップ空間との間で断面形状がほぼ等しいため、流路173から処理空間SPにかけて、処理流体は層流の状態を保ったまま流れる。したがって、処理流体は基板表面Saに沿った層流として、さらに下流側、つまり(+Y)側に向けて流れる。基板S(支持トレイ15)の下方においても同様に、流路175に圧送されてくる処理流体がバッファ空間176および流路177を経て吐出口178から処理空間SPに導入され、層流として支持トレイ15の下方を流れる。
【0057】
図5は処理空間から排出される処理流体の流れを模式的に示す断面図である。基板Sの上方における処理流体の流れは以下の通りである。矢印は処理流体の流れの方向を模式的に示す。蓋部14が開口部101を閉塞し、処理空間SPに基板Sを載置した支持トレイ15が収容された状態では、処理空間SP内を(-Y)方向に流れる処理流体は蓋部14によってその流通方向を上下方向に変えられ、バッファ空間182,186および排出流路183,187を経由して最終的にチャンバ外へ排出される。
【0058】
基板表面Saに沿って流れた処理流体は、層流の状態を維持したまま、処理空間SPの天井面と支持トレイ15との間に形成される上側流路181を(-Y)方向に流れる。そして、蓋部14の(+Y)側側面に当たって流通方向を上向きに変えバッファ空間182に流入する。バッファ空間182では、処理流体は(+Y)方向に流れ、上部に接続された排出流路183を介して外部へ排出される。つまり、上側流路181からバッファ空間182に流れ込む際、処理流体の流通方向は反転する。さらに、バッファ空間182から排出流路183までの間においても、流路の方向が90度変えられている。
【0059】
このように、上側流路181を通過した処理流体はその流通方向を変えながら最終的にチャンバ外へ排出される。流路断面積の小さい上側流路181から流路断面積の大きいバッファ空間182に流入するとき、処理流体はその圧力が解放されて勢いよくバッファ空間182に流れ込む。しかもこのとき、流通方向が変えられており、バッファ空間182から見た上側流路181の流路抵抗が大きくなっている。このため、バッファ空間182では処理流体の渦が発生し得るが、高圧で噴き出す流れに逆らって処理流体が狭い上側流路181に逆流することはない。図2(a)に示すように、バッファ空間182はX方向に長く延びており、具体的には、X方向における幅は上側流路181の幅と同じまたはこれより少し大きい。
【0060】
図5に示すように、バッファ空間182は、チャンバ100の上部を構成する第1部材11の(-Y)側端面に設けられた凹部111の開口面を蓋部14により閉塞することで形成される。バッファ空間182は第1部材11と、蓋部14と、シール部材16とで囲まれた空間であり、第1部材11と蓋部14との隙間にはシール部材16が介在している。このため、シール部材16の一部がバッファ空間182に露出しており、バッファ空間182を満たす処理流体は、不可避的にシール部材16に接触する。シール部材16がゴム製である場合、有機物成分が溶出し処理流体に不純物として混入することがある。
【0061】
バッファ空間182内では、点線矢印で示すように、一部の処理流体が蓋部14と第1部材11との隙間に流れ込み、シール部材16に触れて再びバッファ空間182に戻るような流れが生じ得る。上側流路181からバッファ空間182に流れ込む際に処理流体の流通方向が上向きに変えられているため、むしろ積極的に処理流体をシール部材16側に送り込むような流れが生じやすくなっている。
【0062】
したがって、シール部材16から混入する不純物は、バッファ空間182内の処理流体に混入した状態でシール部材16から引き離され、処理流体とともにバッファ空間182から排出される。このように、シール部材16の周辺では、不純物を含む処理流体の滞留が起きにくくなっているため、不純物の濃度が次第に上昇することは回避されている。また、バッファ空間182内の処理流体は、上側流路181に逆流することなく外部へ排出される。これらのことから、シール部材16から遊離した不純物が処理空間SP内の基板Sに付着し基板Sを汚染することが効果的に防止される。
【0063】
バッファ空間182から上側流路181への処理流体の逆流を効果的に防止するためには、上側流路181とバッファ空間182との接続部分において、流路断面積が急激に変動することが有効である。つまり、バッファ空間182に到達するまでは、処理流体の流路はその断面積および形状ができるだけ一定であることが好ましい。これを実現するために、蓋部14が開口部101を閉塞する状態における隔壁112,122と蓋部14との間のギャップ、つまり隔壁112,122の(-Y)側先端部と、蓋部14の(+Y)側主面との距離は、上側流路181の高さ、つまり処理空間SPの天井面と支持トレイ15の上面151との間の距離と同等であることが望ましい。
【0064】
支持トレイ15の下方を流れる処理流体についても同様であり、支持トレイ15の下面と処理空間SPの底面との間に形成される下側流路185からバッファ空間186に処理流体が放出されることで、下側流路185への処理流体の逆流が防止されている。そして、シール部材16から遊離してバッファ空間186に混入する不純物は処理流体とともに排出流路187から外部へ排出される。これらのことから、シール部材16から生じた不純物が処理空間SPに入り込み基板Sを汚染することが防止される。
【0065】
処理流体に混入する不純物としては、上記のようにシール部材16から発生するものの他にも、例えば基板Sの搬入時に外部から飛来して、開口部101や蓋部14等に付着するものがあり得る。本実施形態は、このような不純物による基板Sの汚染の問題に対しても有効である。というのは、開口部101から見て基板Sよりも奥側から処理流体が供給され、しかも処理空間SP内において処理流体の流れが手前側へ向かう一方向に規制されているため、開口部101の周辺で処理流体に不純物が混入したとしても、それが処理空間SPに逆流して基板Sに付着することは未然に回避されているからである。
【0066】
図2(a)および図3(b)に示すように、バッファ空間182(186)から処理流体を排出する排出流路183(187)は、バッファ空間182(186)のX方向における両端部に接続されている。このようにする理由について、図6を参照しながら説明する。
【0067】
図6は排出流路の位置と処理流体の流れとの関係を模式的に示す図である。本願発明者は、バッファ空間182(186)に対する排出流路183(187)の接続位置を種々に異ならせて処理流体の流れを解析するシミュレーション実験を行い、次のような知見を得た。なお、処理空間SPにおいて一様な層流を形成するという観点から、排出流路の配置はX方向において(つまりYZ平面に対して)対称性を有することを前提とする。
【0068】
図6(a)に矢印で示すように、処理流体は一様な層流として処理空間SP内を(-Y)方向に流れ、流路181(185)からバッファ空間182(186)を経て排出流路183(187)に流れ込む。排出流路183(187)がバッファ空間182(186)のX方向における両端部に接続されているとき、バッファ空間182(186)内での処理流体の流れがX方向において両側に分散される。このため、少なくとも流路181(185)からバッファ空間182(186)に流れ込むまでは、処理流体はX方向においてほぼ均一な流れが維持される。
【0069】
一方、比較例として、排出流路がより中央側、例えば図6(b)に示す排出流路Pのように配置されている場合では、バッファ空間182(18)を経て排出流路Pに向かう処理流体の流れが中央部に集中する。この影響で、流路181(185)においても中央側へ向かう処理流体の流れが発生する。このことは、処理空間SP内での乱流の原因となり得る。
【0070】
また、処理流体が中央方向に集中することで、図6(b)に網掛けを付して示すバッファ空間182(186)のX方向における両端部付近で、処理流体の滞留が生じる。前記したようにバッファ空間182(186)内の処理流体は基板Sやシール部材16から遊離した不純物を含み得る。このような不純物を含む処理流体の滞留や処理空間SPでの層流の乱れは、不純物が基板Sに付着し基板Sを汚染するリスクを上昇させる原因となる。排出流路Pを複数箇所に配置し流れを分散させるとしても、処理流体が中央側へ向かうような流れが形成されるような配置であると、層流を乱すという点において同様のリスクが残る。
【0071】
排出流路183(187)をバッファ空間182(18)の両端部付近に配置することで、このような問題は解消される。図2(b)に示したように、処理空間SP内の基板SのX方向端部よりもさらにX方向の外側で排出流路183(187)が開口するようにすることが、特に効果的である。このようにすると、基板Sに沿って流れる処理流体に乱流が生じることが回避され、乱流によって運ばれる不純物の付着についても効果的に防止することが可能となる。
【0072】
なお、ここまでは、処理空間SPとバッファ空間182(18)とを隔てる隔壁112(122)が、処理チャンバ100を構成する第1部材11(第2部材12)と一体的に形成されているものとして説明してきた。より現実的には、以下のような構造で隔壁を設けることが可能である。
【0073】
図7は処理チャンバの開口部周辺の他の構造を例示する図である。より具体的には、図7(a)はこの例の処理チャンバ100aの開口部周辺を示す分解組立図であり、図7(b)は開口部周辺の断面構造を示す図である。なお、図7およびその説明において、実質的に図3(a)に記載のものと同様の機能を有する構造には同一符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0074】
この処理チャンバ100aでは、その(-Y)側側面に、表面が(+Y)側に後退した凹部101aが設けられている。凹部101aの中央部には、処理空間SPに連通する開口部101bが設けられている。開口部101bの上部には、チャンバ100aとは別体として形成され、断面が略L字型のアングル状部材である隔壁形成部材112aが固定ねじ113aにより固結される。同様に、開口部101bの下部には、隔壁形成部材122aが固定ねじ123aにより固結される。
【0075】
このような構造によっても、図7(b)に示すように、処理空間SPに連通する開口部101と、その上下に設けられる凹部111,121とが隔壁112,122によって隔てられた構造を実現することが可能である。
【0076】
以上説明したように、この実施形態においては、主として第1ないし第3部材11~13により構成される処理チャンバ100が、本発明の「チャンバ本体」として機能し、これと蓋部14とが組み合わされて、本発明の「チャンバ」が構成される。また、支持トレイ15が本発明の「基板保持部」として機能し、開口部101が本発明の「開口部」に相当している。また、流路17が本発明の「導入流路」に相当し、バッファ空間172,176が本発明の「拡大空間」に相当している。
【0077】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の基板処理装置1では、処理空間のうち支持トレイ15の上方および下方のそれぞれに対応して、本発明に係る導入流路、バッファ空間および排出流路が設けられている。しかしながら、乱流により不純物が基板に付着するのを防止するという意味においては、少なくとも基板の上方を通過する処理流体の流路について本発明が適用されていれば足りる。この意味において、支持トレイ15の下方を流れる処理流体の流路については、上記構成に限定されるものではない。ただし、支持トレイ15の上方の流れと下方の流れとは物理的に完全に分離されているわけではないから、上記実施形態のように、支持トレイ15の上下両方で層流を維持するような流路構成となっているのが最も好ましい。
【0078】
また、上記実施形態では、処理チャンバ100の側面に設けられた凹部111,121を蓋部14が(シール部材16を介して)閉塞することでバッファ空間182,186が形成される。しかしながら、この凹部については蓋部14に設けられてもよい。
【0079】
また、上記実施形態の処理で使用される各種の化学物質は一部の例を示したものであり、上記した本発明の技術思想に合致するものであれば、これに代えて種々のものを使用することが可能である。
【0080】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理装置は、処理空間の壁面のうち天井面と基板保持部の上面との隙間に形成されるギャップ空間に対応して導入流路、バッファ空間および排出流路が設けられるとともに、処理空間の壁面のうち底面と基板保持部の下面との隙間に形成されるギャップ空間に対応して導入流路、バッファ空間および排出流路が設けられてもよい。基板表面への汚染防止という観点からは、少なくとも基板の上方を通過する処理流体の流路について、本発明の技術思想が適用されればよいこととなる。しかしながら、基板保持部の下面側を流れる処理流体についても同様の流路構成とすることで、乱流に起因する汚染の防止効果をより高めることが可能である。
【0081】
また例えば、排出流路が接続される開口は、平面視において基板の幅方向の両端部よりも外側に開口してもよい。このような構成によれば、少なくとも基板の上方を通過する処理流体については、幅方向の中央側に向かう流れを生じさせず層流状態を維持することができる。
【0082】
また例えば、一方端部は、流通方向における処理空間の両端部のうち基板からみて開口部とは反対側の端部であり、他方端部は、両端部のうち基板からみて開口部側の端部であってもよい。このような構成によれば、処理流体の流れは、開口部からみて基板よりも奥側の処理空間から手前側に向かって一方向に流れることになる。基板の出し入れの度に開閉が必要なチャンバの開口部の周りでは、例えば気密を維持するためのシール部材等から生じる不純物や外部から混入する不純物が避けられない。処理流体が基板よりも奥側から開口部側に向かって流れるようにし、かつ乱流の発生を抑えることで、このような不純物が基板に付着するのを防止することが可能である。
【0083】
また例えば、チャンバは、処理空間となる空洞が設けられたチャンバ本体と、シール部材を介して開口部を閉塞する蓋部とを有している場合には、バッファ空間は、蓋部、チャンバおよびシール部材で囲まれた空間であってもよい。シール部材を介して開口部を閉塞するという構造上、シール部材の一部が流路に露出し処理流体に触れることは避けられない。処理空間よりも下流のバッファ空間においてシール部材が露出するようにし、かつ処理空間内では層流が維持されるようにすれば、シール部材から処理流体への不純物の混入があったとしても、それが基板に付着することは回避される。
【0084】
また例えば、ギャップ空間とバッファ空間との接続部において処理流体の流通方向が90度以上変化する構成であってもよい。このような構成によれば、このような構成によれば、バッファ空間から見て上流側の流路の流路抵抗が大きくなるため、バッファ空間から処理空間への逆流防止効果を高めることができる。
【0085】
また例えば、導入流路の途中には、流通方向における上流側よりも流路断面積が拡大する拡大空間が設けられ、拡大空間から吐出口に至る流路において、流通方向が90度以上変化する構成であってもよい。このような構成によれば、外部から流入する処理流体をいったん拡大空間に貯留し整流した上で処理空間に供給することが可能となる。
【0086】
この場合さらに、流通方向における拡大空間よりも下流側の導入流路が、吐出口まで一定の断面形状を有していてもよい。このような構成によれば、処理空間に導入される前における流路の断面形状が一定の長さにおいて同一となるため、処理空間に導入される時点での層流をより整ったものとすることができる。
【0087】
さらに、幅方向における拡大空間の長さは、流通方向における拡大空間よりも下流側の導入流路の長さ以上であってもよい。拡大空間よりも下流側の流路の幅が拡大空間の幅よりも大きい場合、当該流路を流れる処理流体は水平方向に広がる方向の運動成分を有することになる。このように流通方向と異なる方向成分を有することは乱流の原因となる。拡大空間から下流側の流路に流入する時点で流路幅が維持または絞られるようにすることで、この問題を回避することができる。
【0088】
これらの場合、流通方向における拡大空間よりも上流側の導入流路が拡大空間に臨む開口位置と、下流側の導入流路が拡大空間に臨む開口位置とが、上下方向において互いに重ならないことが好ましい。これらの開口位置に重なりがあると、拡大空間に流れ込んだ処理流体の一部がそのまま直進して下流側の流路へ流入することになる。そうすると、下流側の流路では、上流側の流路が開口する位置とそれ以外の位置とで処理流体の流入量および流速の少なくとも一方が異なることになり、このような不均一さが乱流の原因となる。開口位置が重ならないようにすることで、このような処理流体の直進が解消され、より均一化された層流を創出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
この発明は、チャンバ内に導入した処理流体を用いて基板を処理する基板処理装置全般に適用することができる。特に、高圧流体を用いた処理、例えば半導体基板等の基板を超臨界流体によって乾燥させる基板乾燥処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 基板処理装置
11~13 第1~第3部材(チャンバ本体)
14 蓋部(チャンバ)
15 支持トレイ(基板保持部)
16 シール部材
17 流路(導入流路)
57 流体供給部
100,100a チャンバ(チャンバ本体、チャンバ)
101 開口部
172,174 バッファ空間(拡大空間)
181 上側流路
182,186 バッファ空間
183,187 排出流路
185 下側流路
S 基板
SP 処理空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7