(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】積層ポリエステル樹脂被覆金属板、積層ポリエステル樹脂フィルム、及び缶蓋
(51)【国際特許分類】
B32B 15/09 20060101AFI20240709BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B32B15/09 Z
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020067721
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 悟史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優斗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由実
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-347176(JP,A)
【文献】特開2001-341258(JP,A)
【文献】特開2004-216891(JP,A)
【文献】特開2005-161707(JP,A)
【文献】特開2005-254630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/09
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
前記金属基材の少なくとも一方の面に形成された積層ポリエステル樹脂層と、を含み、
前記積層ポリエステル樹脂層は、前記金属基材側から順に、
2~30mol%の第1共重合成分で変性されたポリエステル樹脂(A)からなる下層と、
ポリエステル樹脂(B)及び当該ポリエステル樹脂(B)に非相溶である柔軟成分(C)を含み、
前記柔軟成分(C)は前記ポリエステル樹脂(B)中で相分離されて島状に分散されたポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、前記ポリエステル樹脂(B)と
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの合計を100質量%とした場合に
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量が2~50質量%である上層と、
を有することを特徴とする、積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(B)はガラス転移温度(Tg1)が60℃以上90℃以下の熱可塑性ポリエステル樹脂であり、
前記柔軟成分(C)の上層中における含有量(質量%)をWとしたとき、前記ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg1)と、前記上層のガラス転移温度(Tg2)の差の絶対値ΔTgが下記式(1)を満たす、請求項1に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
ΔTg<0.5×W ・・・ (1)
【請求項3】
前記島状に分散された柔軟成分(C)の平均長径が0.1~5.0μmであり、平均短径が0.01~2μmである、請求項1又は2に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項4】
上記ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレートを主体とし、前記第1共重合成分としてイソフタル酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項5】
前記下層が0.01~0.5mol%の多官能成分をさらに含む、請求項4に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量が40000~80000である、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂(A)に、平均粒径0.2~5.0μmの無機粒子が0.1~5.0質量%含有されてなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項8】
前記上層と前記下層の合計の厚さが10~50μmであり、前記上層の厚さが5~40μmであり、且つ、前記下層の厚さが5~30μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項9】
前記下層が、185℃・10分間の熱処理後、50℃環境下での破断伸度が50%以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項10】
前記上層の金属基材側と反対側に形成されて、ポリエステル樹脂からなる表層をさらに有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板。
【請求項11】
金属基材の少なくとも一方の面に形成され、2~30mol%の第1共重合成分で変性されたポリエステル樹脂(A)からなる下層と、
前記下層の上に形成され、ポリエステル樹脂(B)及び当該ポリエステル樹脂(B)に非相溶である柔軟成分(C)を含み、
前記柔軟成分(C)は前記ポリエステル樹脂(B)中で相分離されて島状に分散されたポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、前記ポリエステル樹脂(B)と
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの合計を100質量%とした場合に
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量が2~50質量%である上層と、
を有する積層ポリエステル樹脂フィルム。
【請求項12】
請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板を用いた缶蓋。
【請求項13】
請求項11に記載の積層ポリエステル樹脂フィルムを用いた缶蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステル樹脂被覆金属板、金属板ラミネート用の積層ポリエステル樹脂フィルム、及びそれらを用いた缶蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料や食品用の金属缶に使用される缶蓋として、手で容易に開口でき開口部分を缶体に付着させたまま残すステイオンタブ(SOT)式や、開口部分を缶体と分離するティアオフ式等のイージーオープン(EO)蓋が広く使用されている。
このような缶蓋の素材として、アルミやスチール等の金属基材上にポリエステル樹脂等の樹脂層を形成してなる樹脂被覆金属板が知られている。
【0003】
缶蓋に用いられる樹脂被覆金属板に対する要求としては、上述の開口部分がスムーズに開口できることが求められる。例えば特許文献1には蓋に形成された場合にフェザリング現象の発生が抑制され開口性等の特性を向上させることを目的とした樹脂被覆金属板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された樹脂被覆金属板において、金属板上に積層された樹脂層としては、熱可塑性ポリエステル樹脂にオレフィン系重合体を配合された下層と、熱可塑性ポリエステルの結晶性を制御し伸度20%とした表層と、を有する多層構成の樹脂層が開示されている。このように特許文献1においては、耐食性及び加工性を両立させることを目的として樹脂層が多層化されているものである。しかしながらこの特許文献1の技術においては、開口性(耐フェザリング性)については課題が残されていた。
【0006】
すなわち、樹脂被覆金属板を用いた缶蓋に対する要求として、上述したような開口時のフェザリング現象発生の抑制(開口性)と、缶蓋におけるフィルム割れ等の発生抑制(加工性)を両立することが求められる。
【0007】
開口性に関し、缶蓋の開口時には、缶蓋上に形成されたスコアに沿って樹脂層が切断される。すなわち、開口部分における金属基材と樹脂層との間のデラミネーションの発生や、開口部付近に引き伸ばされた内面側被覆樹脂が残存する現象(フェザリング現象)の回避が求められる。この開口性の向上のためには、樹脂の軟らかさ(伸び)をある程度抑える必要があると考えられる。
【0008】
一方で加工性に関しては、缶蓋には一般的にスコア加工のほか、補強のためのリブ加工やリベット部となる張出し絞り加工が施されるため、金属基材に対する上記加工に樹脂層が追従できる必要がある。さらに、印刷等の熱処理工程に上記加工を施した場合において、上記のような加工が大きい箇所でのフィルム割れや剥離等の発生が回避される必要がある。そしてこのような加工性の向上のためには、使用する樹脂がある程度軟らかいことが必要とされる。
すなわち、上述の加工性と開口性とは相反する特徴であると言うことができ、樹脂被覆金属板を用いた缶蓋においてこれらの特徴を両立する樹脂の開発が求められていた。
【0009】
また缶蓋における一般的な課題として、内容物充填後におけるレトルト処理後の樹脂剥離の抑制(密着性)、及び、経時後における金属基材の腐食抑制(耐食性)の性能を備える必要があることは言うまでもない。
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、缶蓋製造用の積層ポリエステル樹脂フィルムや積層ポリエステル樹脂被覆金属板において、樹脂層の構成を所定のものとすることにより上記課題を高い次元で両立し得ることを見出し、本発明に想到したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態における積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(1)金属基材と、前記金属基材の少なくとも一方の面に形成された積層ポリエステル樹脂層と、を含み、前記積層ポリエステル樹脂層は、前記金属基材側から順に、2~30mol%の第1共重合成分で変性されたポリエステル樹脂(A)からなる下層と、ポリエステル樹脂(B)及び当該ポリエステル樹脂(B)に非相溶である柔軟成分(C)を含み、前記柔軟成分(C)は前記ポリエステル樹脂(B)中で相分離されて島状に分散されたポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、前記ポリエステル樹脂(B)と前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの合計を100質量%とした場合に前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量が2~50質量%である上層と、を有することを特徴とする。
【0012】
なお上記した(1)に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(2)前記ポリエステル樹脂(B)はガラス転移温度(Tg1)が60℃以上90℃以下の熱可塑性ポリエステル樹脂であり、前記柔軟成分(C)の上層中における含有量(質量%)をWとしたとき、前記ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg1)と、前記上層のガラス転移温度(Tg2)の差の絶対値ΔTgがΔTg<0.5×Wを満たすことが好ましい。
【0013】
また、上記した(1)又は(2)に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(3)前記島状に分散された柔軟成分(C)の平均長径が0.1~5.0μmであり、平均短径が0.01~2μmであることが好ましい。
【0014】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(4)上記ポリエステル樹脂(A)がポリエチレンテレフタレートを主体とし、前記第1共重合成分としてイソフタル酸を含むことが好ましい。
【0015】
また、上記した(4)に記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(5)前記下層が0.01~0.5mol%の多官能成分をさらに含むことが好ましい。
【0016】
また、上記した(1)~(5)のいずれかに記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(6)前記ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量が40000~80000であることが好ましい。
【0017】
また、上記した(1)~(6)のいずれかに記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(7)前記ポリエステル樹脂(A)に、平均粒径0.2~5.0μmの無機粒子が0.1~5.0質量%含有されてなることが好ましい。
【0018】
また、上記した(1)~(7)のいずれかに記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(8)前記上層と前記下層の合計の厚さが10~50μmであり、前記上層の厚さが5~40μmであり、且つ、前記下層の厚さが5~30μmであることが好ましい。
【0019】
また、上記した(1)~(8)のいずれかに記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(9)前記下層が、185℃・10分間の熱処理後、50℃環境下での破断伸度が50%以下であることが好ましい。
【0020】
また、上記した(1)~(9)のいずれかに記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、(10)前記上層の金属基材側と反対側に形成されて、ポリエステル樹脂からなる表層をさらに有することが好ましい。
【0021】
また上記目的を達成するため、本発明の一実施形態における積層ポリエステル樹脂フィルムは、(11)金属基材の少なくとも一方の面に形成され、2~30mol%の第1共重合成分で変性されたポリエステル樹脂(A)からなる下層と、前記下層の上に形成され、ポリエステル樹脂(B)及び当該ポリエステル樹脂(B)に非相溶である柔軟成分(C)を含み、ポリエステル樹脂(B)と柔軟成分(C)の合計を100質量%とした場合に柔軟成分(C)の含有量が2~50質量%である上層と、を有することを特徴とする。
【0022】
また上記目的を達成するため、本発明の一実施形態における缶蓋は、(12)上記した(1)~(10)のいずれかに記載の積層ポリエステル樹脂被覆金属板を用いてなる。
【0023】
また上記目的を達成するため、本発明の他の一実施形態における缶蓋は、(13)上記した(11)に記載の積層ポリエステル樹脂フィルムを用いてなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、例えば缶蓋としての用途に好適な、開口時における開口性に加え、缶蓋に設けられるリベット部付近のフィルム割れの抑制(加工性)、を高度な次元で兼ね備えた積層ポリエステル樹脂被覆金属板、積層ポリエステル樹脂フィルム、及び缶蓋を実現できる。また、本発明の積層ポリエステル樹脂被覆金属板、積層ポリエステル樹脂フィルム、及び缶蓋によれば、内容物充填後におけるレトルト処理後の樹脂剥離の抑制(密着性)、及び、経時後における金属基材の腐食抑制(耐食性)の各々の性能をも備えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態を用いて本発明の積層ポリエステル樹脂被覆金属板、積層ポリエステル樹脂フィルム、及び缶蓋について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
[積層ポリエステル樹脂被覆金属板]
まず本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100について
図1を用いて説明する。本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100は、金属基材MPと、金属基材MP上の少なくとも一方の面に形成された積層ポリエステル樹脂層200と、を有する。そして、積層ポリエステル樹脂層200は、金属基材MP上に順に形成された下層10と上層20を含む。
【0028】
換言すれば、本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100は、金属基材MPと、金属基材MPの少なくとも一方の面に形成されて、2~30mol%の第1共重合成分で変性されたポリエステル樹脂(A)からなり金属基材MPに近い側の下層10と、前記下層10の上(金属基材MP側とは反対側)に形成され、ポリエステル樹脂(B)及び当該ポリエステル樹脂(B)に非相溶である柔軟成分(C)とを含み、ポリエステル樹脂(B)と柔軟成分(C)の合計を100質量%とした場合に柔軟成分(C)の含有量が2~50質量%である上層20と、を有する。
【0029】
なお本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100は、
図1に示されるような下層10と上層20の2層構成に限られず、詳細は後述するとおり3層以上の構成であってもよい。
【0030】
<金属基材>
本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100に用いる金属基材MPとしては、従来イージーオープン蓋に使用されているアルミ材や鋼板等の公知の金属基材MPを使用することができる。
【0031】
アルミ材としては、純アルミやアルミ合金が使用される。アルミ材の厚みは蓋の大きさ等によっても相違するが、一般に0.20乃至0.50mm、特に0.23乃至0.30mmの範囲内にあるのがよい。またアルミ材の表面にはクロメート処理、ジルコニウム処理、リン酸処理、ポリアクリル酸処理等の表面処理膜が形成されていてもよい。
【0032】
鋼板としては、例えばTFS(ティンフリースチール)などのクロメート表面処理鋼板や、錫めっき量を0.3~2.8g/m2でめっき処理したぶりき鋼板など公知の種々の鋼板を好ましく使用できる。鋼板の厚みは0.1乃至0.4mm、特に0.12乃至0.35mmの範囲にあるのが望ましい。
【0033】
<下層>
次に本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100における下層10について説明する。下層10は
図1に示すように、金属基材MPの少なくとも一方の面に形成される。そして後述する積層ポリエステル樹脂層200における下層10と上層20のうち、下層10は金属基材MPに近い方に形成される。
【0034】
本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100おける下層10に適用されるポリエステル樹脂(A)は、共重合ポリエステル樹脂であり、2~30mol%の第1共重合成分で変性されている。ポリエステル樹脂(A)は具体的にはポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂であることが好ましい。
【0035】
上述の第1共重合成分としては、イソフタル酸(IA)、オルソフタル酸、p-(β-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、ナフタレン2,6-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸及びピロメリット酸から成る群より選ばれた少なくとも一種を挙げることができる。このうち、上記の第1共重合成分は、イソフタル酸であることが加工性や密着性の観点からは好ましい。
【0036】
これらの第1共重合成分は、下層10の共重合ポリエステル樹脂中に2~30mol%含まれることが好ましい。第1共重合成分が2mol%未満の場合、金属基材MPと下層10との密着性が低下する可能性があり好ましくない。一方で第1共重合成分が30mol%を超える場合には、経済的に好ましくないことに加え、下層10の製膜性やバリア性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0037】
なお、下層10の共重合ポリエステル樹脂中における第1共重合成分の量は、5~15mol%であることがより好ましい。
【0038】
なお本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100における下層10に適用される共重合ポリエステル樹脂において、含まれるグリコール成分としては、エチレングリコールの他、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の一種又は二種以上を挙げることができる。
【0039】
なお本実施形態において下層10の共重合ポリエステル樹脂中には、さらに上記第1共重合成分とは異なる第2共重合成分(多官能成分)を0.01~0.5mol%含むことが好ましい。この多官能成分は、架橋構造を導入し開口性を向上させることを目的として導入される。なお、この第2共重合成分(多官能成分)の含有量が0.5mol%を超える場合には、下層10の共重合ポリエステル樹脂中においてゲルが発生しやすいこと、及び経済的な観点から好ましくない。
【0040】
多官能成分としては例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールから選択される1種類又は2種類以上を挙げることができる。このうち特に、トリメリット酸(TMA)又はペンタエリスリトールが入手し易さ等の観点からは好ましい。
【0041】
本実施形態において下層の共重合ポリエステル樹脂の重量平均分子量が40000~80000であることが、下層樹脂の粘度調整の観点、及び開口性向上の観点等から好ましい。重量平均分子量が40000未満である場合、樹脂層の製膜性が低下する可能性があるため好ましくない。一方で重量平均分子量が80000を超える場合には、樹脂層の製膜時に混練機中におけるトルクが高くなりすぎる可能性があり、好ましくない。なお、重量平均分子量が40000~55000であることが同様の観点からはより好ましい。
【0042】
本実施形態において下層の共重合ポリエステル樹脂は、平均粒径0.2μm~5.0μmの無機粒子が0.1~5.0質量%含有されてなることが、フィルムの巻取り形状の改善や、フィルムしわ発生回避、蓋の開口性向上等の観点から好ましい。なお、これらの無機粒子としてはいわゆる滑剤と呼ばれるものを適用できる。
一方で、金属基材に溶融樹脂を直接押し出して樹脂被覆金属板を製造する方法(ダイレクトコート等とも称する)を採用する場合には、上記無機粒子が下層に含有されていない場合でも安定した生産が可能である。
【0043】
具体的には、脂肪族炭化水素系、高級脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸のエステルあるいはアミド誘導体、たとえば、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドなどの有機系滑剤、あるいは二酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどのシリカ系、ゼオライト、炭酸カルシウム、二酸化珪素、酸化アルミニウム、硫酸バリウムなどの無機系滑剤などの一般的な市販の滑剤を用いることができる。
【0044】
これらの無機粒子の粒径としては、上述のとおり平均粒径0.2μm~5.0μmであることが好ましく、1.0μm~3.0μmであることがより好ましい。また、これらの無機粒子の含有量としては、本実施形態における下層の共重合ポリエステル樹脂中に0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.4~3.0質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態の下層10は、185℃・10分間の熱処理後、50℃環境下での破断伸度が50%以下であることが好ましい。
すなわち本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板は、缶蓋製造時において、印刷時やレトルト処理時に熱処理がなされる。一般的に樹脂においては、熱処理後の破断伸度は、熱処理前の破断伸度よりも低下することが知られている。本発明においては、下層10が、上記条件の熱処理後において特定温度下(50℃環境下)でのフィルム破断伸度が50%以下であるとき、得られた缶蓋において気温が高い地域においても安定した開口性を確保するとともに加工性等の課題をも両立し得ることを見出した。
【0046】
<上層>
次に本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100における上層20について説明する。上層20は、
図1に示すように、上述した下層10の、金属基材MPとは反対側に形成される。換言すれば、金属基材MPから順に、下層10、上層20の順に形成される。また、下層10を中間にした場合に一方の面に金属基材MP、他方の面に上層20が形成されていると言うこともできる。
なお、缶蓋に適用された場合においては、この上層20が缶の内容物側になるように缶蓋が製造されることが好ましい。
【0047】
上記上層20の樹脂組成としては、主剤としてのポリエステル樹脂(B)と、当該ポリエステル樹脂(B)に非相溶である柔軟成分(C)と、を含有する。また、当該柔軟成分(C)の含有量としては、ポリエステル樹脂(B)と柔軟成分(C)の合計を100質量%とした場合に柔軟成分(C)の含有量が2~50質量%である。
なお上記においては、上層20を形成する固形成分(水や溶剤などの揮発する物質を除いた不揮発成分)の中で、最も含有量(質量割合)が多い成分を、主剤として定義する。
【0048】
上記柔軟成分(C)の含有量が2質量%未満の場合、本実施形態の積層ポリエステル樹脂被覆金属板の加工性が低下する可能性があるため好ましくない。一方で柔軟成分(C)の含有量が50質量%を超える場合、缶蓋とした際の開口性が低下する可能性があるため好ましくない。本実施形態において、柔軟成分(C)の含有量は、5~20質量%であることがより好ましい。
【0049】
上記ポリエステル樹脂(B)は、熱可塑性ポリエステル樹脂であることが、耐熱性や耐衝撃性の観点からは好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂の具体例としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレートおよび、これらにイソフタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等のジカルボン酸成分;エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール;ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール等;を共重合したポリエステルが挙げられる。また、上述した熱可塑性樹脂は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
熱可塑性ポリエステルのなかでも、エチレンテレフタレート及び/又はエチレンイソフタレートを主たる構成成分とする熱可塑性ポリエステルが、コストやフレーバー性等の観点から好ましい。この場合、主たる構成成分とは、エチレンテレフタレートおよび/またはエチレンイソフタレートのうち、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸成分、イソフタル酸成分に由来の単位が、全ジカルボン酸成分に由来の単位のうち、50mol%以上を占めることをいう。
【0051】
また、ポリエステル樹脂(B)として用いる熱可塑性ポリエステルには、3官能以上の多塩基酸および多価アルコールから選択される多官能成分が共重合されていてもよい。多官能成分が共重合されることで、フィルムを高速で製造する際や溶融したフィルムを高速で直接金属板にラミネートしてラミネート金属板を製造する際に、フィルムの端部(耳)が揺れて、膜厚が変動するドローレソナンス(耳揺れ)が低減されるため好ましい。3官能以上の多塩基酸および多価アルコールから選択される多官能成分としては、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの多官能成分の含有量は、熱可塑性ポリエステル中、0.01~0.5mol%、好ましくは0.07~0.3mol%である。多官能成分の含有量が上記範囲であると、熱可塑性ポリエステル中におけるゲル化の発生を抑制しながら、ドローレソナンス低減効果を適切に高めることができる。
【0052】
上層20に用いられる上記ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg1)は、60℃以上90℃以下であることが好ましく、65~85℃であることがさらに好ましく、70~80℃であることがより好ましい。Tg1が60℃未満である場合には、得られるフィルムの耐熱性が低くなること、及びフレーバー性が低下する可能性があることから好ましくない。一方でTg1が90℃を超えると、得られるフィルムの加工性や耐衝撃性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0053】
なおガラス転移温度の測定方法としては公知の方法を適用することが可能であり、たとえば示差走査熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で行うことが可能である。
【0054】
ポリエステル樹脂(B)として用いられる熱可塑性ポリエステルは、極限粘度〔η〕が0.5~1.4dl/gであることが好ましく、0.7~1.2dl/gであることがより好ましく、0.8~1.0dl/gであることがさらに好ましい。なお極限粘度〔η〕は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン=1/1の混合溶媒に溶解させて、30℃で測定した値とするものである。極限粘度〔η〕を上記範囲とすることにより、得られるフィルムの耐衝撃性を良好なものとしながら、フィルムとする際における成形性をより高めることができる。
【0055】
次に、本実施形態の上層20において、主剤としてのポリエステル樹脂(B)にブレンドされ、当該ポリエステル樹脂(B)に非相溶である柔軟成分(C)について説明する。なおここで「非相溶である」とは、上層20を観察したときにポリエステル樹脂(B)と柔軟成分(C)との境界が観察し得る状態を意味する。
【0056】
本実施形態の上層20における柔軟成分(C)としては、上述した主剤としてのポリエステル樹脂(B)に配合(ブレンド)された際に微細に分散され、海島構造(相分離)を構成し得るものである。また柔軟成分(C)は主剤としてのポリエステル樹脂(B)に室温においてゴム弾性を付与し得る。さらに柔軟成分(C)が主剤としてのポリエステル樹脂(B)に配合(ブレンド)された場合、ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)へはほとんど影響しないことが好ましい。
【0057】
このような観点から本実施形態においては、柔軟成分(C)として具体的には、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びポリオレフィンの、いずれか又は両方を用いることができる。
【0058】
柔軟成分(C)として用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ガラス転移温度(Tg)が室温(25℃)以下であるものが好ましく、20℃未満であるものがより好ましく、10℃以下であるものがさらに好ましい。なお、本実施形態で用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーのガラス転移温度(Tg)の下限は、特に限定されないが、好ましくは-50℃以上である。
【0059】
上記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの構造は、一般的に硬い結晶構造を形成するハードセグメントと柔らかいソフトセグメントからなる。本実施形態において用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーのハードセグメントを構成する成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,6-ナフタレンジカルボン酸、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【0060】
またソフトセグメントを構成する成分としては、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、および1,6-ヘキサンジオール、1,8オクタンジオール、1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルが挙げられ、これらの中でもポリエーテルが好ましく、ポリエーテルの中でも特にポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0061】
そして、好ましいポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ジカルボン酸からなるハードセグメントと、ポリエーテル単位からなるソフトセグメントとが、エステル結合を介して結合されてなるポリエーテルエステルが挙げられる。これらの中で、ポリエーテル単位をポリエステル系熱可塑性エラストマー中において50質量%以上含むものが好ましい。 ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリエーテル単位の含有割合は、より好ましくは50~70質量%であり、上記ポリエーテル単位の含有量が50質量%未満の場合は、熱可塑性ポリエステルと溶融混練した際、相溶化しやすくなり、フィルムの耐熱性が低下するため好ましくない。
【0062】
ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリエーテル単位(ポリエーテルセグメント)の分子量は特に限定されないが、500~5000のものが好ましく用いられる。さらに、金属との密着性向上のため、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、無水マレイン酸等で変性されていてもよい。なおポリエーテル単位は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー中に、少なくとも1つ含まれていればよく、複数含まれていてもよい。
【0063】
本実施形態において特に好ましいポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレートにポリテトラメチレングリコール(PTMG)を共重合した樹脂が挙げられる。
【0064】
次に、本実施形態の上層20における柔軟成分(C)のうち、ポリオレフィンについて説明する。柔軟成分(C)として用いられるポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、またはエチレン/プロピレン共重合体をはじめとするエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィン同士のランダム共重合体またはブロック共重合体などの鎖式ポリオレフィン樹脂が挙げられる。また、これらのポリオレフィンのいずれかに、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸やそれらの無水物を2%以下グラフト重合してなる、いわゆる酸変性ポリオレフィンを用いることができる。エチレン酢酸ビニル(EVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等も用いることができる。
上記したポリオレフィンにおいては製膜性の観点から、メルトフローレート(以下、単にMFRという)MFRが30g/10min以下であることが好ましい。
【0065】
さらには、上記ポリオレフィンのいずれかにおいて、カルボキシル基の一部又は全部が金属陽イオンでイオン架橋されたアイオノマー樹脂(イオン架橋オレフィン共重合体)等をも用いることができる。
【0066】
アイオノマー樹脂は、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の一部又は全部が金属陽イオンで中和されたイオン性塩であり、中和の程度、すなわちイオン濃度がその物理的性質に影響を及ぼしている。一般に、アイオノマー樹脂のメルトフローレート(以下、単にMFRという)はイオン濃度に左右され、イオン濃度が大きいとMFRが小さく、また融点はカルボキシル基濃度に左右され、カルボキシル基濃度が大きいほど融点も小さくなる。従って、本発明に用いるアイオノマー樹脂としては、勿論これに限定されるものではないが、MFRが15g/10min以下、特に5g/10min乃至0 . 5g/10minの範囲にあり、且つ融点が100℃以下、特に97℃乃至80 ℃の範囲にあるものであることが望ましい。
【0067】
アイオノマー樹脂中の金属陽イオンとしては、Na+,K+,Li+,Zn+,Z2 +,Mg2+,Ca2+,Co2+,Ni2+,Mn2+,Pb2+,Cu2+ 等を挙げることができる。本実施形態においては、特に亜鉛により中和されているものが、架橋の程度が大きく、湿度敏感性が少ないことから、好適に用いることができる。また、金属イオンで中和されていない残余のカルボキシル基の一部は低級アルコールでエステル化されていてもよい。
【0068】
本実施形態における上層20中において、前記ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg1)と、この主剤としてのポリエステル樹脂(B)に前記柔軟成分(C)を混合させた後のガラス転移温度(Tg2)との関係としては、上層20中の前記柔軟成分(C)の含有量(質量%)をWとしたとき、下記式(1)を満たすことが好ましい。
ΔTg<0.5×W ・・・ (1)
ただし、ΔTgはTg1とTg2との差の絶対値とする。
【0069】
本発明者らが鋭意検討した結果、上層20中において柔軟成分(C)を主剤であるポリエステル樹脂(B)に混合した場合、柔軟成分(C)が前記上層のポリエステル樹脂(B)中において島状に分散したいわゆる「海島構造」を構成することを見出した。その場合、柔軟成分(C)はポリエステル樹脂(B)に非相溶であり、且つ柔軟成分(C)の含有量に対して上記式(1)を満たすことにより、柔軟成分をブレンドした後におけるTgの変化も抑制し、これにより開口性と加工性を満たすことを見出した。
【0070】
上記の式(1)において、△Tgが0.5×W以上の場合は、耐衝撃性を向上させるためにポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量を増やすと、フィルムのTgが低下して耐熱性が低下するため、フィルムの耐衝撃性と耐熱性を両立できない。
なお特に好ましくは、下記式(2)を満たすことが好ましい。
ΔTg<0.2×W ・・・ (2)
【0071】
また、本実施形態における積層ポリエステル樹脂フィルムの上層中において、前記柔軟成分(C)が前記上層のポリエステル樹脂(B)中において島状に分散してなり、前記島状に分散された柔軟成分の平均長径が0.1~5.0μmであり、平均短径が0.01~2μmであることが好ましい。
上記平均長径と平均短径に関して、平均長径と平均短径のいずれかの値が上記数値範囲を超える場合には、柔軟成分の分散粒径が大きく、且つアスペクト比が大きいため、缶蓋としたときの開口性が低下する可能性があり好ましくない。
【0072】
本実施形態の積層ポリエステル樹脂フィルムは、光安定剤、耐衝撃改良剤、相溶化剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、反応触媒、着色防止剤、ラジカル禁止剤、可塑剤、帯電防止剤、末端封鎖剤、酸化防止剤、熱安定剤、離型剤、難燃剤、抗菌剤、抗黴剤等の添加剤を添加してもよい。
【0073】
次に、本実施形態における積層ポリエステル樹脂層200の厚みについて説明する。本実施形態における積層ポリエステル樹脂層200の厚みとしては10μm~50μmの範囲内であることが好ましい。積層ポリエステル樹脂層200の厚みが50μmを超える場合には経済的な観点や開口性の観点から好ましくない。一方で積層ポリエステル樹脂層200の厚みが10μm未満の場合には缶蓋に成形する場合の加工性やバリア性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0074】
また本実施形態における積層ポリエステル樹脂層200において、下層10と上層20との厚み比は、下層:上層=1:5乃至3:1の範囲にあることが、開口性及び加工性の両方を満足する上で好ましい。すなわち、上記範囲よりも下層が厚いと開口性や耐衝撃性が不充分になるおそれがあり、また上記範囲よりも下層が薄いと加工性や耐食性が不充分になるおそれがある。なお、下層10と上層20との厚み比は、下層:上層=1:3乃至1:1の範囲にあることがさらに好ましい。
また各層の厚みはこれに限定されないが、上層20は5μm乃至40μm、特に5乃至15μmの範囲にあることが好ましい。上層20が5μm未満の場合、缶蓋に成形する場合の加工性が低下する可能性があり好ましくない。
また下層10は5μm乃至30μm、特に10乃至25μmの範囲にあることが好ましい。下層10が5μm未満の場合、缶蓋としての開口性が低下する可能性があり好ましくない。
【0075】
本実施形態の積層ポリエステル樹脂層200は、上述の下層10及び上層20以外の層を含むものであってもよい。すなわち、本実施形態の積層ポリエステル樹脂層200は、缶蓋に適用された場合は上層20が缶の内容物に近い側になるように缶蓋が製造されることが好ましいことは上述したとおりである。その場合、例えば上層20のさらに金属基材側と反対側(缶の内容物側)に、ポリエステル樹脂からなる表層30を設けることが可能である。例えば表層30としてポリエチレンテレフタレート層を設けることで、フィルムのフレーバー性を向上させたり、ポリエチレンナフタレート層を設けることでフィルムのバリア性を向上させることができる。
【0076】
本実施形態においては、フレーバー性を向上させる目的、すなわち、缶内容物の風味変化を回避する、あるいは缶内容物に含まれる香気成分の吸着を回避するために表層30を形成することが好ましい。これらの目的のため本実施形態において、表層30としてはポリエチレンテレフタレート層が好ましい。表層30となるポリエチレンテレフタレート層は共重合成分を含んでいてもよく、例えばイソフタル酸を5mol%以下含んでいてもよい。このような表層30の厚みとしては、0.1~乃至10μmの範囲にあることが好ましい。
【0077】
[積層ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法]
本発明の積層ポリエステル樹脂被覆金属板100は、溶融樹脂膜を金属基材MP上に直接押し出してラミネートロール間に通して押圧一体化させることによる方法(直接押出法)によって製造することができる。この際、上層樹脂用の押出機及び下層樹脂用の押出機を使用し、各押出機からの樹脂流を多重多層ダイ内で合流させ、下層樹脂が金属基材側となるようにしてT-ダイから樹脂を薄膜状に押し出すことにより製造することが可能である。
【0078】
また、積層ポリエステル樹脂被覆金属板100の製造方法は上記に限られるものではない。たとえば、公知の方法で下層10と上層20とを有するフィルムを製造し、次いで当該フィルムを金属基材MPに下層10が金属基材MP側となるように熱接着させることによっても製造することができる。
【0079】
[積層ポリエステル樹脂フィルム]
本実施形態における積層ポリエステル樹脂フィルムは、上述のとおり公知の方法で製造することが可能である。例えば、上層20となる樹脂用の押出機及び下層10となる樹脂用の押出機を使用し、各押出機からの樹脂流を多重多層ダイ内で合流させ、T-ダイから樹脂を薄膜状に押し出した後に公知の方法によって巻き取ることによって、積層ポリエステル樹脂フィルムを得ることができる。本実施形態の積層ポリエステル樹脂フィルムを用いて、金属基材MPに下層10が金属基材MP側となるように熱接着させることによって、積層ポリエステル樹脂被覆金属板100を製造することが可能である。
【0080】
[缶蓋]
本実施形態の缶蓋は、上述した積層ポリエステル樹脂被覆金属板100を用いて、上述の下層10及び上層20が形成された面を缶蓋の内面側となるようにして成形することができる。なお、本実施形態の缶蓋の形状は、公知のプルオープン方式やステイオンタブ方式のイージーオープン蓋とすることができる。なお、缶蓋の製造方法は公知の方法を適用できるため、ここでは説明を省略する。
【実施例】
【0081】
次に、本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0082】
〔評価および測定方法〕
(積層ポリエステル樹脂被覆金属板の製造方法)
板厚0.22mmのTFS(ティンフリースチール)を金属基材として用いた。表1に示す上層及び下層の樹脂材料を2軸押出機に供給し、バレルおよびTダイの温度を樹脂材料に適した温度で押出すことでフィルムを得、そのフィルムを250℃に加熱した上記TFS(ティンフリースチール)上にラミネートし、直ちに水冷することで、積層ポリエステル樹脂被覆金属板を得た。このとき、蓋内面樹脂厚みが表2に示す厚みとなるようにした。得られた片面ラミネート材の蓋外面となる側に塗装をした後、185℃で10分間塗装焼き付けした。
【0083】
(缶蓋の製造方法)
EO蓋については、上記積層ポリエステル樹脂被覆金属板について、直径95.0mmブランクから蓋を成形し、これに蓋の外面からスコア加工(残厚75μm)、リベット加工ならびに開封用タブの取り付け、蓋を作成した。
【0084】
(開口性評価)
上記のようにして得られた蓋に対して、120℃60分のレトルト処理を行った。その後、50℃付近の温度で蓋を手で開口し、開口部周辺を目視で観察し、評価した。評価基準として、蓋開口時の板とフィルムの剥離の長さ(デラミ長さ)、開口部のフィルム伸びの最大値を計測し以下のとおり評価した。結果を表2に示す。
デラミ長さ ◎:0.5mm以下
○:0.5mm超1.0mm以下
×:1.0mm超
フィルム伸び ◎:0.5mm以下
○:0.5mm超1.0mm以下
×:1.0mm超
【0085】
(加工性評価)
得られた缶蓋の内面全体に6.30Vの電圧を4.0秒間かけた時の電流値で評価した。
◎:0.01mA以下
○:0.01mA超0.5mA以下
×:0.5mA超
【0086】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査熱量計(商品名「DSC8500」、パーキンエルマー社製)にて溶融後、200℃/分で-50℃まで冷却した。そして-50℃から280℃まで10℃/分で昇温したときに観測されるガラス転移の補外開始温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0087】
<上層中に分散した柔軟成分の長径、短径>
フィルムの断面を走査電子顕微鏡で観察し、10μm四方中に分散しているポリエステル系熱可塑性エラストマー又はポリオレフィンの長径と短径を測定し、それぞれを平均することで、平均長径および平均短径を求めた。
【0088】
<実施例1~11>
実施例1~実施例9は、上層に柔軟成分として熱可塑性エラストマー(ポリテトラメチレングリコール共重合ポリブチレンテレフタレート)を用いた。実施例4~6、8は下層に多官能成分としてトリメリット酸(TMA)を含有させた。実施例9は、下層に滑剤を添加した。実施例10は上層に柔軟成分としてポリオレフィン(MFR:0.9、融点80℃、Zn架橋のアイオノマー)を用いた。実施例11は表層に2.0μmのPET/IA2(イソイソフタル酸2mol%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂)層を形成した3層構成とした。
実施例により示されるように、本発明の積層ポリエステル樹脂フィルム、積層ポリエステル樹脂被覆金属板及び缶蓋はいずれも優れた開口性及び加工性を兼ね備えるものである。
【0089】
<比較例1~6>
比較例1~3は、従来公知の2層フィルムを適用した。また、比較例4~6は、本発明の下層と上層の構成を逆にしたものとした。比較例に示す積層ポリエステル樹脂フィルム、積層ポリエステル樹脂被覆金属板及び缶蓋は、開口性及び加工性を兼ね備えるものではなかった。
【0090】
【0091】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、複雑かつ過酷な製蓋加工に対応しつつ製品要求を満たすことが可能であり、金属加工の分野において好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0093】
MP 金属基材
100 積層ポリエステル樹脂被覆金属板
10 下層
20 上層
30 表層
200 積層ポリエステル樹脂層