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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】回転体
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/10 20060101AFI20240709BHJP
   F02B 75/32 20060101ALI20240709BHJP
   F16C 3/20 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F16C3/10
F02B75/32 B
F16C3/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020068836
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021165575
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123607
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】河村 地宗
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117630(JP,A)
【文献】特開2007-024155(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02566709(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/10、 3/20
F02B 75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線(A1)を中心に回転可能なクランクシャフト(20)に取付けられる樹脂製の回転体(50)であって、
前記クランクシャフト(20)は、前記回転軸線(A1)上に配置され且つベアリングに支持されるシャフト部(22)と、前記回転軸線(A1)と垂直に前記シャフト部(22)の端部に結合されたアーム部(24)及びカウンターウエイト部(26)と、前記回転軸線(A1)からオフセットされ且つ前記アーム部(24)から前記回転軸線(A1)と平行に延びるクランクピン部(28)を有し、前記アーム部(24)は、前記シャフト部(22)の側の外面(24a)と、前記クランクピン部(28)の側の内面(24b)を有し、
前記回転体(50)は、前記アーム部(24)の外面(24a)に取付けられる外側プレート要素(32)と、前記アーム部(24)の内面(24b)に取付けられる内側プレート要素(36)と、前記外側プレート要素(32)と前記内側プレート要素(36)の間に且つ前記アーム部(24)の両側に配置される1対のフィラー要素(54)を有し、前記外側プレート要素(32)と前記1対のフィラー要素(54)は互いに結合され、前記1対のフィラー要素(54)と前記内側プレート要素(36)は互いに結合され 前記1対のフィラー要素の各々(54)は中実であり、
前記外側プレート要素(32)と前記1対のフィラー要素(54)は、外側部品(31)として予め一体に形成され、前記内側プレート要素(36)は、ピン(44b)を有し、前記外側プレート要素(32)と前記1対のフィラー要素(54)は、前記ピン(44a)に嵌合する貫通孔(54a)を有し、前記ピン(44b)と前記貫通孔(54a)とが互いに結合され、
前記ピン(44b)と前記貫通孔(54a)は、前記1対のフィラー要素(54)の各々の重心の位置に設けられる、回転体(50)。
【請求項2】
前記外側プレート要素(32)は、前記シャフト部(22)に嵌合する孔(38a)を有し、前記内側プレート要素(36)は、前記アーム部(24)に位置決めされる係合部(42)を有する、請求項1に記載の回転体(50)。
【請求項3】
前記外側プレート要素(32)は、前記クランクピン部(28)に位置決めされる係合部(40)を有する、請求項2に記載の回転体(50)。
【請求項4】
前記外側プレート要素(32)は、前記シャフト部(22)を支持するベアリング(17)と隣接して配置され、前記ベアリング(17)の外輪(17a)と内輪(17b)の間に延びる環状凸部(41)を有する、請求項1~の何れか1項に記載の回転体(50)。
【請求項5】
回転軸線(A1)を中心に回転可能なクランクシャフト(20)に取付けられる樹脂製の回転体(30、50)であって、
前記クランクシャフト(20)は、前記回転軸線(A1)上に配置され且つベアリングに支持されるシャフト部(22)と、前記回転軸線(A1)と垂直に前記シャフト部(22)の端部に結合されたアーム部(24)及びカウンターウエイト部(26)と、前記回転軸線(A1)からオフセットされ且つ前記アーム部(24)から前記回転軸線(A1)と平行に延びるクランクピン部(28)を有し、前記アーム部(24)は、前記シャフト部(22)の側の外面(24a)と、前記クランクピン部(28)の側の内面(24b)を有し、
前記回転体(30、50)は、前記アーム部(24)の外面(24a)に取付けられる外側プレート要素(32)と、前記アーム部(24)の内面(24b)に取付けられる内側プレート要素(36)と、前記外側プレート要素(32)と前記内側プレート要素(36)の間に且つ前記アーム部(24)の両側に配置される1対のフィラー要素(34、54)を有し、前記外側プレート要素(32)と前記1対のフィラー要素(34、54)は互いに結合され、前記1対のフィラー要素(34、54)と前記内側プレート要素(36)は互いに結合され
前記外側プレート要素(32)は、前記シャフト部(22)を支持するベアリング(17)と隣接して配置され、前記ベアリング(17)の外輪(17a)と内輪(17b)の間に延びる環状凸部(41)を有する、回転体(30、50)。
【請求項6】
前記外側プレート要素(32)は、前記シャフト部(22)に嵌合する孔(38a)を有し、前記内側プレート要素(36)は、前記アーム部(24)に位置決めされる係合部(42)を有する、請求項に記載の回転体(30、50)。
【請求項7】
前記外側プレート要素(32)は、前記クランクピン部(28)に位置決めされる係合部(40)を有する、請求項に記載の回転体(30、50)。
【請求項8】
前記1対のフィラー要素(34)の各々は、前記外側プレート要素(32)及び前記内側プレート要素(36)によって密閉された内部空間(34a)を有する、請求項5~7の何れか1項に記載の回転体(30)。
【請求項9】
前記1対のフィラー要素の各々(54)は中実である、請求項5~7の何れか1項に記載の回転体(50)。
【請求項10】
前記外側プレート要素(32)と前記1対のフィラー要素(34、54)は、外側部品(31)として予め一体に形成され、前記内側プレート要素(36)は、前記外側部品に結合される、請求項8又は9に記載の回転体(30、50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランクシャフトに取付けられる回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
チェンソー、刈払機、ブロワなどの多くの小型作業機械に、2サイクルエンジンが採用されている。
【0003】
2サイクルエンジンでは、ピストンが上昇する間、燃焼室内の燃料と空気の混合ガスを圧縮すると共に、クランク室内が負圧になり、吸入通路がクランク室に通じると、燃料と空気の混合ガスが吸入通路を通ってクランク室内に充填される。次いで、燃焼室内の爆発によりピストンが下降する間、排気通路が燃焼室に通じると、燃焼ガスが排気通路から排気される。また、クランク室内に充填された混合ガスが圧縮され、掃気通路を介してクランク室と燃焼室が通じると、混合ガスがクランク室から掃気通路を介して燃焼室内に流入する。
【0004】
2サイクルエンジンにおいて、クランク室内の容積、即ち、空間を小さくすることにより、クランク室内における混合ガスの圧縮比(一次圧縮比)が大きくなり、エンジンの出力性能、加速性能、エミッション(炭化水素等の大気汚染物質の排出)の低減を向上させることが知られている。
【0005】
また、クランクシャフトは、回転軸線上に配置されるシャフト部と、シャフト部から半径方向に延びるアーム部と、アーム部の半径方向反対側に設けられた略半円形状のカウンターウエイト部を有し、アーム部とカウンターウエイト部は、略T字形の形態を構成している。このため、アーム部及びカウンターウエイト部に隣接した空間を充填する1対のフィラー要素をクランクシャフトに取付けることにより、クランク室内の空間を小さくすることが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。なお、カウンターウエイト部の反対側に取付けられるフィラー要素は、軽量であり、即ち、樹脂製であり、カウンターウエイト部の機能を大きく損なうことはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6062180号明細書
【文献】特開2005-140170号公報
【文献】特開2012-117630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アーム部及びカウンターウエイト部に隣接した空間を、樹脂製のフィラー要素で充填するとき、フィラー要素が高回転時に変形することがある。かかる変形を抑制するために、樹脂製のフィラー要素を包囲する金属製のカップやバンドを使用することがあった(引用文献1及び2参照)。この場合、金属製のカップやバンドの重量により、カウンターウエイト部の機能を損なうおそれがあった。
【0008】
また、引用文献3では、樹脂製のフィラー要素を取付けるために、S字形のワイヤを使用している。この場合、ワイヤの周りの空間をフィラー要素で充填できれば、クランク室内の空間を更に小さくすることが可能である。
【0009】
そこで、本発明は、金属を使用せずにクランクシャフトに取付け可能であり、且つ、クランク室内の空間を小さくすることが可能である回転体を提供することを目的とする。本発明は、更に好ましくは、クランクシャフトへの取付けが容易な回転体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明による回転体は、回転軸線を中心に回転可能なクランクシャフトに取付けられる樹脂製の回転体であって、クランクシャフトは、回転軸線上に配置され且つベアリングに支持されるシャフト部と、回転軸線と垂直に前記シャフト部の端部に結合されたアーム部及びカウンターウエイト部と、回転軸線からオフセットされ且つアーム部から回転軸線と平行に延びるクランクピン部を有し、アーム部は、シャフト部の側の外面と、クランクピン部の側の内面を有し、回転体は、アーム部の外面に取付けられる外側プレート要素と、アーム部の内面に取付けられる内側プレート要素と、外側プレート要素と内側プレート要素の間に且つアーム部の両側に配置される1対のフィラー要素を有し、外側プレート要素と1対のフィラー要素は互いに結合され、1対のフィラー要素と内側プレート要素は互いに結合されることを特徴としている。
【0011】
このように構成された回転体は、樹脂製であり、アーム部の外面に取付けられる外側プレート要素とアームの外面に取付けられる内側プレート要素と、外側プレート要素と内側プレート要素の間に且つアーム部の両側に配置される1対のフィラー要素が、アーム部を包囲するようにクランクシャフトに取付けられるので、金属を使用する必要がない。また、回転体をクランクシャフトに取付けることにより、クランク室内の空間を小さくすることができる。
【0012】
本発明の実施形態において、好ましくは、外側プレート要素は、シャフト部に嵌合する孔を有し、内側プレート要素は、アーム部に位置決めされる係合部を有し、更に好ましくは、外側プレート要素は、クランクピン部に位置決めされる係合部を有する。
【0013】
このように構成された回転体は、孔及び係合部によって、クランクシャフトに位置決めされるので、高速回転時の変形を抑制することができる。
【0014】
本発明の実施形態において、好ましくは、1対のフィラー要素の各々は、外側プレート要素及び内側プレート要素によって密閉された内部空間を有する。
【0015】
このように構成された回転体では、1対のフィラー要素の各々が内部空間を有しているので、回転体を更に軽くすることができる。
【0016】
本発明の実施形態において、1対のフィラー要素の各々は、中実であってもよい。
【0017】
本発明の実施形態において、好ましくは、外側プレート要素と1対のフィラー要素は、外側部品として予め一体に形成され、内側プレート要素は、外側部品に結合される。
【0018】
このように構成された回転体では、1対のアーム部の間の距離が小さくても、回転体をクランクシャフトに取付けることが可能である。それにより、クランク室内の空間を小さくすることができる。
【0019】
1対のフィラー要素が中実である本発明の実施形態において、好ましくは、外側プレート要素と1対のフィラー要素は、外側部品として予め一体に形成され、内側プレート要素は、ピンを有し、外側プレート要素と1対のフィラー要素は、ピンに嵌合する貫通孔を有し、ピンと貫通孔とが互いに結合され、更に好ましくは、ピンと貫通孔は、1対のフィラー要素の各々の重心の位置に設けられる。
【0020】
このように構成された回転体では、内側プレート要素と外側部品を結合させるとき、貫通孔の外側からピンにアクセス可能である。それにより、回転体をクランクシャフトに容易に取付けることが可能である。また、ピンと貫通孔は、1対のフィラー要素の各々の重心の位置に設けられると、高速回転時、内側プレート要素と外側部品の結合されていない部分の変形が抑制される。
【0021】
本発明の実施形態において、好ましくは、外側プレート要素は、シャフト部を支持するベアリングと隣接して配置され、ベアリングの外輪と内輪の間に延びる環状凸部を有する。
【0022】
このように構成された回転体では、ベアリングの外輪と内輪の間に延びる環状凸部により、クランク室内の空間を更に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による回転体を有するエンジンの部分的な正面断面図である。
図2】クランクシャフトの部分的な斜視図である。
図3】クランクシャフトの左側面から見た断面図である
図4】回転体の分解斜視図である。
図5】回転体の分解正面断面図である。
図6】外側部品の左側面図である。
図7】内側プレート要素の斜視図である。
図8】内側プレート要素の右側面図である。
図9】外側部品をクランクシャフトに組立てた斜視図である。
図10】第2の実施形態の回転体の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明による回転体の第1の実施形態を説明する。
【0025】
図1は、エンジン10の一部分を示しており、エンジン10は、例えば、チェンソー、刈払い機、ブロワなどの小型作業機械に用いられる1気筒の2サイクルエンジンである。エンジン10は、クランク室12を構成するシリンダブロック14と、クランクシャフト20と、クランクシャフト20とピストン(図示せず)を連結するコンロッド16を有している。
【0026】
図1及び図2に示すように、クランクシャフト20は、回転軸線A1を中心に回転可能であり、回転軸線A1上に配置された1対のシャフト部22と、シャフト部22から回転軸線A1に対して垂直方向に延びる1対のアーム部24及び1対のカウンターウエイト部26と、1対のアーム部24の一方から他方に回転軸線A1と平行に延び且つ回転軸線A1からオフセットされたクランクピン部28を有している。シャフト部22は、ベアリング17に回転可能に支持され、オイルシール18を介してシリンダブロック14の外部に延びている。例えば、一方のシャフト部22に、フライホイール及びリコイルスタータ(図示せず)が取付けられ、他方のシャフト部22にクラッチ機構(図示せず)が取付けられる。クランクシャフト20は、SCM材等の金属で作られるのがよい。以下、各アーム部24に対して、他方のアーム部24に向かう側を「内側」と称し、その反対側を「外側」と称する(図2参照)。
【0027】
図3に示すように、回転軸線A1の方向に見ると、アーム部24及びカウンターウエイト部26は、略T字形状に配置され、回転軸線A1を中心とする仮想円29の中に配置される。したがって、仮想円29の内部に、アーム部24及びカウンターウエイト部26が存在しない空間29aが、アーム部24の両側に生じる。
【0028】
図2に示すように、アーム部24は、外面24aと内面24bを有する。また、カウンターウエイト部26は、アーム部24の外面24aと同じ平面に位置する外面26aと、アーム部24の内面24bよりも内側に位置する内面26bを有する。すなわち、アーム部24の回転軸線方向の厚さは、カウンターウエイト部26の回転軸線方向の厚さよりも小さい。
【0029】
図4及び図5はそれぞれ、本発明による回転体30の分解斜視図及び分解正面断面図である。回転体30は、上記仮想円29内に配置され、アーム部24の外面24a(及びカカウンターウエイト部26の外面26a)に取付けられる外側プレート要素32と、アーム部24の両側の空間29aに配置される1対のフィラー要素34と、アーム部24の内面24bに取付けられる内側プレート要素36を含む。外側プレート要素32と1対のフィラー要素34は互いに結合され、本実施形態では、一体の外側部品31として予め形成されている。1対のフィラー要素34と内側プレート要素36は、外側部品31と内側プレート要素32をクランクシャフト20に取付けた後、互いに結合される。回転体30は、軽量である樹脂で作られ、かかる樹脂は、例えば、PA6,PA66,PPSである。
【0030】
図1に示すように、外側プレート要素32は、アーム部24とベアリング17の間に位置決めされる。外側プレート要素32の回転軸線方向の厚さは、例えば、1~2mmである。図4図6に示すように、外側プレート要素32を回転軸線A1に対して位置決めするための第1の係合部38が設けられる。第1の係合部38は、例えば、シャフト部22の一部分と、それに嵌合するように外側プレート要素32に設けられた孔38aである。
【0031】
外側プレート要素32をアーム部24及びクランクピン部28に対して位置決めするための第2の係合部40が設けられる。第2の係合部40は、例えば、クランクピン部28に設けられた孔40a(図1参照)と、それに嵌合するように外側プレート要素32に設けられたピン40bである。
【0032】
図1及び図5に示すように、外側プレート要素32(図1には符号を示さず)は、ベアリング17の外輪17aと内輪17bの間に延びる環状凸部41を有することが好ましい。
【0033】
各フィラー要素34は、図3及び図6から分るように、仮想円29とアーム部24とカウンターウエイト部26によって囲まれる空間を充填する輪郭を有する。本実施形態では、各フィラー要素34は、内部空間34aを有し、外側プレート要素32と一体に形成されている。フィラー要素34の回転軸線方向の厚さは、アーム部24の回転軸線方向の厚さと等しいことが好ましい。
【0034】
図7及び図8に示すよう、内側プレート要素36は、1対のフィラー要素34に一致する輪郭部分と、カウンターウエイト部26の輪郭と一致する輪郭部分と、クランクピン部28との干渉を回避する切欠き36aを有する。内側プレート要素36の回転軸線方向の厚さは、好ましくは、カウンターウエイト部26の回転軸線方向の厚さとアーム部24の回転軸線方向の厚さの差と同じであり、例えば、1~2mmである。
【0035】
図7図9に示すように、内側プレート要素36をアーム部24に対して位置決めするための第3の係合部42が設けられる。第3の係合部42は、例えば、アーム部24の内面24bに且つ回転軸線A1上に設けられた孔42aと(図9参照)、内側プレート要素36に設けられたピン42bである。このように、第3の係合部42と、外側プレート32の孔38aとは、回転軸線A1と同軸上に配置されるように形成されている。
【0036】
図6図9に示すように、内側プレート要素36を1対のフィラー要素34に対して位置決めするための第4の係合部44が設けられる。第4の係合部44は、例えば、フィラー要素34に設けられた凹部44aと、内側プレート要素36に設けられたピン44bである。ピン42b及びピン44bを含む内側プレート要素36の厚さは、好ましくは、1対のカウンターウエイト部26の間の距離よりも短い。
【0037】
次に、回転体30の組立てを説明する。
【0038】
クランクシャフト20を組立てて調整した後、内側プレート要素36をクランクシャフト20に取付ける。ピン42b及びピン44bを含む内側プレート要素36の厚さは、1対のカウンターウエイト部26の間の距離よりも短いので、1対のカウンターウエイト部26の間を移動させることができる。第3の係合部42により、内側プレート要素36は、回転軸線A1に対して位置決めされる。
【0039】
次いで、外側部品31(一体に形成された外側プレート要素32及び1対のフィラー要素34)をクランクシャフト20に取付ける(内側プレート要素36を省略した図9参照)。第1の係合部38及び第2の係合部40により、外側部品31は、回転軸線A1に対して位置決めされると共に、アーム部24に対して位置決めされる。更に、第4の係合部44により、外側部品31(特に、1対のフィラー要素34)と内側プレート36が、互いに対して位置決めされる。次いで、フィラー要素34の内部空間34aが密封されるように、内側プレート要素36を1対のフィラー要素34の周縁に接着又は溶着する。溶着は、例えば、振動溶着である。
【0040】
上記のように構成された回転体30は、樹脂製であり、アーム部24を包囲するようにクランクシャフト22に取付けられるので、金属を使用する必要がない。それにより、回転体30が軽量であることを維持することができる。更に、1対のフィラー要素34の各々が内部空間34aを有しているので、回転体30を更に軽くすることができる。一方、回転体30は、係合部38、40、42、44によって、クランクシャフト20に位置決めされるので、回転体30の高速回転時の変形を抑制することができる。また、ベアリング17の外輪17aと内輪17bの間に延びる環状凸部41により、外側プレート要素32の強度を増大させることができる。
【0041】
また、各フィラー要素34は、仮想円29とアーム部24とカウンターウエイト部26によって囲まれる空間を充填する輪郭を有するので、クランク室12内の空間を小さくすることができる。また、内側プレート要素36と外側部材31の組合せにより、1対のアーム部24の間の距離を小さくすることができ、クランク室12内の空間を更に小さくすることができる。また、ベアリング17の外輪17aと内輪17bの間に延びる環状凸部41により、クランク室12内の空間を更に小さくすることができる。
【0042】
次に、回転体の第2実施形態を説明する。
【0043】
第2の実施形態の回転体50は、1対のフィラー要素54が中実であること以外、第1の実施形態の回転体30と同様の構成を有している。
【0044】
1対のフィラー要素54の各々は、中実である。また、内側プレート要素36を1対のフィラー要素54に対して位置決めするための第4の係合部44が設けられる。第4の係合部44は、例えば、フィラー要素54及び外側プレート要素32に設けられた貫通孔54aと、内側プレート要素36に設けられたピン44bである。ピン42b及びピン44bを含む内側プレート要素36の厚さは、好ましくは、1対のカウンターウエイト部26の間の距離よりも短い。
【0045】
次に、回転体50の組立てを説明する。
【0046】
クランクシャフト20を組立てて調整した後、第1の実施形態の回転体30と同様に、内側プレート要素36をクランクシャフト20に取付ける。次いで、第1の実施形態の回転体30と同様に、外側部品51(一体に形成された外側プレート要素32及び1対のフィラー要素54)をクランクシャフト20に取付ける。次いで、ピン44bと貫通孔54aを接着又は溶着する。溶着は、例えば、振動溶着である。
【0047】
このように構成された回転体50では、内側プレート要素36と外側部品51を結合させるとき、貫通孔54aの外側からピン44bにアクセスして、接着又は溶着が可能である。それにより、回転体50をクランクシャフト20に容易に取付けることが可能である。この場合、内側プレート要素36は、フィラー要素54の周縁に接着又は溶着されなくてもよい。高速回転時、内側プレート要素36及び又はフィラー要素54が変形することがあるが、ピン44bと貫通孔54aを1対のフィラー要素54の各々の重心の位置に設けることにより、かかる変形を最小にできることを、出願人は解析により確認した。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0049】
上記実施形態では、回転体30、50が2サイクルエンジン1のクランクシャフト20に取付けられる場合を説明したが、任意のクランクシャフトに適用してもよい。
【0050】
上記実施形態では、外側プレート要素32と1対のフィラー要素34、54を予め一体に形成したが、内側プレート要素36と1対のフィラー要素34、54を予め一体に形成して、外側プレート要素32を後から組立ててもよい。
【符号の説明】
【0051】
17 ベアリング
20 クランクシャフト
22 シャフト部
24 アーム部
24a 外面
24b 内面
26 カウンターウエイト部
28 クランクピン部
30、50 回転体
31、51 外側部品
32 外側プレート要素
34、54 フィラー要素
34a 内部空間
36 内側プレート要素
38a 孔(第1の係合部)
40 第2の係合部
41 環状凸部
44b ピン
54a 貫通孔
A1 回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10