(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】配線材
(51)【国際特許分類】
H01B 7/42 20060101AFI20240709BHJP
H01R 4/34 20060101ALN20240709BHJP
H02G 3/30 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
H01B7/42 D
H01R4/34
H02G3/30
(21)【出願番号】P 2020086880
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇木 一高
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-221842(JP,A)
【文献】特開2019-160706(JP,A)
【文献】特開2019-129007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/42
H01R 4/34
H02G 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機器間に配索されて前記機器同士の間での給電を行う配線材であって、
導体の外周を絶縁樹脂製の外被で覆った複数本の電線から構成され、
前記複数本の電線における前記導体は、同一の導電性金属材料からなり、互いに同一断面積を有しかつ同一長さに形成されて内部抵抗が整合され、
前記複数本の電線が
、互いに並列に配置されると共に、並び方向に直交する方向の両側には積層配置されず、
前記複数本の電線は、それぞれ両端が
前記並び方向に間隔を空けて前記機器の共通の端子台に電気的に接続されて同一方向に電流が流される、
ことを特徴とする配線材。
【請求項2】
前記電線は、複数本の素線を束ねた断面円形状の前記導体を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の配線材。
【請求項3】
前記複数本の電線の端部に、前記導体と導通された接続端子がそれぞれ設けられ、
前記接続端子は、その先端に接点を有する端子部と、周方向にわたって形成された係合溝とを有し、
前記端子台は、前記接続端子の前記端子部が嵌合される孔部を有するソケットと、前記ソケットの両側から延在する板バネからなる一対の係止片部とを有し、
前記一対の係止片部の間に前記電線の前記接続端子が挿し込まれることで、前記接点を有する前記端子部が前記ソケットに嵌合されるとともに前記係止片部に設けられた係止爪が前記係合溝に係合して、前記電線の前記接続端子が前記端子台に電気的に接続される、
請求項1または請求項2に記載の配線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線材に関する。
【背景技術】
【0002】
幅方向に配列された複数本の平角導体の外周が絶縁体で被覆された第1のフラットケーブルと、1本または2本以上の平角導体の外周が絶縁体で被覆されて第1のフラットケーブルのいずれかの平角導体に厚さ方向に重なるように積層される第2のフラットケーブルとを備えた配線材がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハイブリッド車や電気自動車等の給電線として用いられる配線材では、大電流が流されるため、断面積の大きな導体を有する大径の電線が用いられる。しかし、大径の電線に大電流が流されると発熱が大きくなってしまうため、電線をパイプ内に通して放熱させるなどの放熱構造を要することとなり、コストアップを招いてしまう。また、大径の電線は、それ自体、製造コストが高く、また、大径であるとともに可撓性が低いため車両の床下などの隙間への配索が困難である。
【0005】
また、上記の特許文献1に記載の配線材では、絶縁体で被覆された平角導体を厚さ方向に積層させるため、良好な放熱効果を得ることが困難であった。しかも、単に、平角導体を増やした場合、内部抵抗の低い平角導体に多くの電流が流れて集中的に発熱が生じて高温となってしまう。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストを抑えつつ良好な放熱効果を得ることが可能な配線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 複数の機器間に配索されて前記機器同士の間での給電を行う配線材であって、導体の外周を絶縁樹脂製の外被で覆った複数本の電線から構成され、前記複数本の電線における前記導体は、同一の導電性金属材料からなり、互いに同一断面積を有しかつ同一長さに形成されて内部抵抗が整合され、前記複数本の電線が、互いに並列に配置されると共に、並び方向に直交する方向の両側には積層配置されず、前記複数本の電線は、それぞれ両端が前記並び方向に間隔を空けて前記機器の共通の端子台に電気的に接続されて同一方向に電流が流される、ことを特徴とする配線材。
【0008】
上記(1)の構成の配線材によれば、複数本の電線から構成され、それぞれの電線の導体が、同一の導電性金属材料からなり、互いに同一断面積を有しかつ同一長さに形成されて内部抵抗が整合されている。したがって、合計断面積が同一の一本の大径の電線からなる配線材と比べ、電流が流された際に生じる発熱を複数本にバランスよく分散させて良好な放熱効果を得ることができ、しかも、コストのかかる放熱構造を省くことができる。また、複数本の電線としたことにより、それぞれの電線として、製造コストの高い大径の電線よりも低コストの小径の電線を用いることができる。つまり、コストを抑えつつ良好な放熱効果を得ることができる。
また、小径の電線を用いることができるので、可撓性を高め、複雑な配索経路に対しても容易に配索させることができる。
更に、上記(1)の構成の配線材によれば、複数本の電線が互いに並列に配置されているので、一本の大径の電線からなる配線材、導体を上下に積層させた配線材あるいは複数本の電線を撚ってツイストさせた配線材と比べ、低背化を図ることができる。これにより、車両の床下などの狭い隙間へ容易に配索させることができる。
【0009】
(2) 前記電線は、複数本の素線を束ねた断面円形状の前記導体を有する、ことを特徴とする(1)に記載の配線材。
【0010】
上記(2)の構成の配線材によれば、電線が複数本の素線を束ねた断面円形状の導体を有するので、平角導体を積層させた配線材と比べ、周方向にバランス良く放熱させて放熱性を向上させつつあらゆる方向へ容易に曲げることができる。
【0011】
(3) 前記複数本の電線の端部に、前記導体と導通された接続端子がそれぞれ設けられ、前記接続端子は、その先端に接点を有する端子部と、周方向にわたって形成された係合溝とを有し、前記端子台は、前記接続端子の前記端子部が嵌合される孔部を有するソケットと、前記ソケットの両側から延在する板バネからなる一対の係止片部とを有し、前記一対の係止片部の間に前記電線の前記接続端子が挿し込まれることで、前記接点を有する前記端子部が前記ソケットに嵌合されるとともに前記係止片部に設けられた係止爪が前記係合溝に係合して、前記電線の前記接続端子が前記端子台に電気的に接続される、(1)または(2)に記載の配線材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コストを抑えつつ良好な放熱効果を得ることが可能な配線材を提供できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る配線材が車両に用いられた一例を示す車両を側方から見た概略図である。
【
図3】配線材を構成する電線における電流及び内部抵抗を説明する模式図である。
【
図4】配線材の端部における接続構造の一例を示す斜視図である。
【
図5】配線材の端部における接続構造の一例を示す側面図である。
【
図6】配線材の端部における他の接続構造を示す図であって、(a)は接続前における平面図、(b)は接続状態における平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る配線材が車両に用いられた一例を示す車両を側方から見た概略図である。
図2は、本実施形態に係る配線材の斜視図である。
図3は、配線材を構成する電線における電流及び内部抵抗を説明する模式図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る配線材10は、例えば、ハイブリッド車や電気自動車等の車両20の給電線として配索される。
【0018】
車両20には、車体21の後方にバッテリ23が搭載されている。また、車両20には、車体21の前方側に、PCU(パワー・コントロール・ユニット)25及び駆動モータ27が搭載されている。
【0019】
配線材10は、バッテリ23及びPCU25に設けられた端子台50に電気的に接続されている。これにより、バッテリ23とPCU25とは、配線材10によって電力の授受が可能とされている。また、配線材10は、PCU25及び駆動モータ27に設けられた端子台50に電気的に接続されている。これにより、PCU25と駆動モータ27とは、配線材10によって電力の授受が可能とされている。配線材10は、それぞれ正極の給電系統と、負極の給電系統とを有している。
【0020】
図2に示すように、各給電系統の配線材10は、それぞれ複数本(本例では2本)の電線30A,30Bから構成されている。
【0021】
電線30A,30Bは、導体31と、この導体31の外周を覆う外被32とから構成された断面円形状の電線である。導体31は、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の導電性金属材料から形成されており、この導体31の外周を覆う外被32は、電気絶縁性を有する樹脂材料から形成されている。電線30A,30Bは、複数本の素線を撚り合わせた導体31を備えた撚線である。なお、導体31としては、断面円形状の単線であってもよい。
【0022】
これらの電線30A,30Bの導体31は、同一の導電性金属材料から形成されており、断面積が同一とされている。また、電線30A,30Bの各導体31は、長さが同一とされている。これにより、
図3に示すように、それぞれの電線30A,30Bの内部抵抗R1,R2が整合されて同一(R1=R2)とされている。
【0023】
次に、配線材10の端末における接続構造の一例を説明する。
図4及び
図5は、配線材の端部における接続構造の一例を示す斜視図及び側面図である。
【0024】
図4及び
図5に示すように、配線材10は、電線30A,30Bの端部に端子40が電気的に接続されている。端子40は、例えば、銅、銅合金、アルミニウムあるいはアルミニウム合金等の導電性金属材料から形成されている。この端子40は、ボルト挿通孔(図示略)を有する締結板部42と、一対の加締め片43を有する加締め部44とを備えている。
【0025】
電線30A,30Bは、端部において外被32から導体31が露出されている。端子40の加締め部44は、加締め片43によって電線30A,30Bの導体31に加締められている。これにより、電線30A,30Bの端部に端子40が電気的に接続されている。
【0026】
これらの電線30A,30Bの端部に電気的に接続された端子40は、バッテリ23、PCU25及び駆動モータ27からなる各機器に設けられた端子台50に電気的に接続される。端子台50には、ネジ孔(図示略)が形成されている。端子40は、締結板部42のボルト挿通孔に挿通させたボルト52を端子台50のネジ孔へねじ込むことにより、端子台50に締結されて電気的に接続される。
【0027】
このようにして各機器間に配線された配線材10では、同一断面積の導体31を有する各電線30A,30Bが同一長さとされて内部抵抗R1,R2が整合(R1=R2)されている。したがって、各電線30A,30Bの導体31に同一方向へ向かって電流を流した際に、これらの電線30A,30Bの導体31に流れる電流I1,I2が同一とされる。
【0028】
ところで、配線材10では、電線30A,30Bが同一の内部抵抗R1,R2に整合されているが、端子40の接続位置のずれ等により、内部抵抗R1,R2に僅かなずれを生じることがある。
【0029】
この場合でも、本実施形態に係る配線材10によれば、電流が流されることにより、電線30A,30Bにおける電流I1,I2のバランスがとられる。
【0030】
例えば、電線30Aの内部抵抗R1よりも電線30Bの内部抵抗R2が僅かに大きい場合(R1<R2)、電線30Aに流れる電流I1は、電線30Bに流れる電流I2よりも多くなり、電線30Aの発熱が、電線30Bよりも大きくなる。すると、電線30Aの内部抵抗R1が温度上昇に伴って増大し、電線30Bに流れる電流I2が増加し、電線30Aに流れる電流I1とのバランスがとられることとなる。
【0031】
以上、説明したように、本実施形態に係る配線材10によれば、複数本の電線30A,30Bから構成され、それぞれの電線30A,30Bの導体31が、同一の導電性金属材料からなり、互いに同一断面積を有しかつ同一長さに形成されて内部抵抗R1,R2が整合されている。したがって、合計断面積が同一の一本の大径の電線からなる配線材と比べ、電流が流された際に生じる発熱を複数本にバランスよく分散させて良好な放熱効果を得ることができ、しかも、コストのかかる放熱構造を省くことができる。また、複数本の電線30A,30Bとしたことにより、それぞれの電線として、製造コストの高い大径の電線よりも低コストの小径の電線を用いることができる。つまり、コストを抑えつつ良好な放熱効果を得ることができる。また、小径の電線を用いることができるので、可撓性を高め、複雑な配索経路に対しても容易に配索させることができ、
【0032】
また、配線材10を構成する電線30A,30Bは、複数本の素線を束ねた断面円形状の導体31を有するので、平角導体を積層させた配線材と比べ、周方向にバランス良く放熱させて放熱性を向上させつつあらゆる方向へ容易に曲げることができる。
【0033】
また、電線30A.30Bが互いに並列に配置されているので、一本の大径の電線からなる配線材、導体を上下に積層させた配線材あるいは複数本の電線を撚ってツイストさせた配線材と比べ、低背化を図ることができる。これにより、車両20の床下などの狭い隙間へ容易に配索させることができる。
【0034】
次に、配線材10の端末における他の接続構造を説明する。
図6は、配線材の端部における他の接続構造を示す図であって、(a)は接続前における平面図、(b)は接続状態における平面図である。
【0035】
図6の(a)に示すように、配線材10は、その電線30A,30Bの端部に、導体31と導通された接続端子61を備えている。この接続端子61は、その先端に接点62を有する端子部63と、周方向にわたって形成された係合溝64とを有している。
【0036】
また、端子台50Aは、接続端子61の端子部63が嵌合される孔部を有するソケット55と、ソケット55の両側から延在する板バネからなる係止片部56とを有している。係止片部56には、その先端近傍に、内側へ突出する係止爪57が形成されている。
【0037】
図6の(b)に示すように、端子台50Aには、係止片部56の間に電線30A,30Bの接続端子61が挿し込まれる。すると、この接続端子61の接点62を有する端子部63がソケット55に嵌合されるとともに、係合溝64に係止片部56の係止爪57が係合する。これにより、各電線30A,30Bは、接続端子61が端子台50Aに容易に接続されて電気的に接続された状態に維持される。
【0038】
なお、上記実施形態では、2本の電線30A,30Bから構成された配線材10を例示したが、配線材10を構成する電線の本数は2本に限らず、3本以上であってもよい。この場合も、互いの電線を並列に配置することにより、より低背化を図ることができる。
【0039】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0040】
ここで、上述した本発明に係る配線材の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[3]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 複数の機器間に配索されて前記機器同士の間での給電を行う配線材(10)であって、
導体(31)の外周を絶縁樹脂製の外被(32)で覆った複数本の電線(30A,30B)から構成され、
前記電線(30A,30B)の前記導体(31)は、同一の導電性金属材料からなり、互いに同一断面積を有しかつ同一長さに形成されて内部抵抗(R1,R2)が整合され、
前記電線(30A,30B)は、両端が前記機器の共通の端子台(50)に電気的に接続されて同一方向に電流(I1,I2)が流される、ことを特徴とする配線材。
[2] 前記電線(30A,30B)は、複数本の素線を束ねた断面円形状の前記導体(31)を有する、ことを特徴とする[1]に記載の配線材。
[3] 前記電線(30A,30B)が互いに並列に配置されている、[1]または[2]に記載の配線材。
【符号の説明】
【0041】
10:配線材
23:バッテリ(機器)
25:PCU(機器)
27:駆動モータ(機器)
30A,30B:電線
31:導体
32:外被
I1,I2:電流
R1,R2:内部抵抗