(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】炭素複合部材
(51)【国際特許分類】
C04B 41/87 20060101AFI20240709BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20240709BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C04B41/87 H
C04B41/87 U
C04B41/89 K
C23C16/26
(21)【出願番号】P 2020089681
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】北口 比呂
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏樹
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-320208(JP,A)
【文献】特開平06-122578(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0074790(KR,A)
【文献】特開2016-169422(JP,A)
【文献】特開平06-166568(JP,A)
【文献】特開平05-285735(JP,A)
【文献】特開平05-047670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/87
C04B 41/89-41/90
C04B 35/52-35/536
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛基材上に複数の熱分解炭素層が形成された炭素複合部材であって、
一の前記熱分解炭素層とこれに隣接する他の前記熱分解炭素層との境界に、気孔が存在する気孔領域を有
し、
前記気孔領域の厚さは、0.5~20μmであり、かつ、前記熱分解炭素層の合計厚さが5~400μmであることを特徴とする炭素複合部材。
【請求項2】
前記複数の熱分解炭素層を、前記黒鉛基材に近い側から順に第1層、第2層、・・・、第n-1層、第n層とするとき、
前記第1層が第1の開口部を有し、前記第n層が第nの開口部を有するともに、
前記第1の開口部と前記第nの開口部とは、前記黒鉛基材に対して異なる位置に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の炭素複合部材。
【請求項3】
前記第2層が前記第1の開口部を覆うとともに、前記第1の開口部周辺における前記第1層と前記第2層との境界の前記気孔領域は、前記黒鉛基材に向かって傾斜して伸びていることを特徴とする請求項2に記載の炭素複合部材。
【請求項4】
前記第n層と前記第n層の直下の前記第n-1層との境界に前記気孔領域を有し、前記第n層は、前記第nの開口部に向かって徐々に薄くなっていることを特徴とする請求項2または3に記載の炭素複合部材。
【請求項5】
前記気孔は、最大気孔径が0.5~3.0μmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素複合部材。
【請求項6】
前記黒鉛基材が等方性黒鉛材であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の炭素複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛等の炭素材料は、化学的安定性、耐熱性、機械特性に優れていることから、半導体製造、化学工業、機械、原子力等、多くの分野にわたって使用されている。また、黒鉛自体は多孔体であるため、細孔の内部にガス、水分、不純物等を吸着しやすいため、細孔内部が汚染されやすい。そのため、これら汚染物質が細孔から再放出しないように熱分解炭素のコーティングを施すことで、黒鉛の悪影響を軽減する技術が知られている。
【0003】
熱分解炭素は、硬く、気体不浸透で緻密な膜を形成するため、特に高純度の環境下での使用に適している。
特許文献1には、このような用途として、炭素材料からなり、少なくとも原料ガスと接する面に熱分解炭素層が形成されており、上記原料ガスと接する面の濡れ張力が、62.0mN/m以上である半導体製造装置用部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記記載された技術は、比較的小さなウェハを対象とする半導体製造装置に関するものであり、内部へのガス、水分、不純物の吸着やそれらの放出を防止するためには、コーティング時にできる支持点を塞ぎ、黒鉛基材のような炭素材料の全面を覆う必要があるとともに、特にサイズの大きな炭素複合部材では、取扱時に熱分解炭素のコーティングにかかる衝撃が大きく剥がれを防止する必要がある。
本発明は上記課題に鑑み、黒鉛基材の全体を覆うとともに強固な熱分解炭素層を有する炭素複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明に係る炭素複合部材は、以下のとおりである。
【0007】
(1)黒鉛基材上に複数の熱分解炭素層が形成された炭素複合部材であって、
一の前記熱分解炭素層とこれに隣接する他の前記熱分解炭素層との境界に、気孔が存在する気孔領域を有することを特徴とする炭素複合部材。
【0008】
本発明に係る炭素複合部材によれば、熱分解炭素層が複数層からなるため、黒鉛基材のガス、水分、不純物の吸着及び放出の防止効果を高めることができる。
一方、熱分解炭素層は、黒鉛の結晶が面方向に広がった異方性の高い材料であり、面方向には強固な黒鉛のa軸方向が広がり、厚み方向にファンデルワールス力で弱く結合した黒鉛のc軸方向につながっている。このため、複数積層された熱分解炭素層は、一の熱分解炭素層とこれに隣接する熱分解炭素層との境界が弱く、剥離しやすくなる。一方、本発明に係る炭素複合部材では、一の熱分解炭素層とこれに隣接する他の熱分解炭素層との境界に、気孔が存在する気孔領域を有するため、気孔の周囲で熱分解炭素の結晶方向が乱され、アンカー効果を強くすることができ、層間剥離を防止する効果がある。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明に係る炭素複合部材は、以下の態様であることが好ましい。
【0010】
(2)前記複数の熱分解炭素層を、前記黒鉛基材に近い側から順に第1層、第2層、・・・、第n-1層、第n層とするとき、
前記第1層が第1の開口部を有し、前記第n層が第nの開口部を有するともに、
前記第1の開口部と前記第nの開口部とは、前記黒鉛基材に対して異なる位置に形成されていることを特徴とする(1)に記載の炭素複合部材。
【0011】
本発明の好ましい実施形態に係る炭素複合部材は、黒鉛基材に近い側の第1層にある第1の開口部と、最も外側の第n層にある第nの開口部とが黒鉛基材に対して異なる位置にあるため、第1の開口部が閉塞され、黒鉛基材からのガスや水分、不純物等の放出を防止するともに、外部からのガスや水分、不純物等の吸着を防止する。
【0012】
(3)前記第2層が前記第1の開口部を覆うとともに、前記第1の開口部周辺における前記第1層と前記第2層との境界の前記気孔領域は、前記黒鉛基材に向かって傾斜して伸びていることを特徴とする(2)に記載の炭素複合部材。
【0013】
本発明の好ましい実施形態に係る炭素複合部材は、第2層が第1層にある第1の開口部を覆っているため、黒鉛基材のガス、水分、不純物の放出及び外部からの吸着を防止する効果を高めることができる。また、第1の開口部の周辺における第1層と第2層との境界の気孔領域が、黒鉛基材に向かって傾斜して伸びているため、応力集中の起きやすい第1の開口部の境界部分の補強効果を高めることができる。
【0014】
(4)前記第n層と前記第n層の直下の前記第n-1層との境界に前記気孔領域を有し、前記第n層は、前記第nの開口部に向かって徐々に薄くなっていることを特徴とする(2)または(3)に記載の炭素複合部材。
【0015】
本発明の好ましい実施形態に係る炭素複合部材は、第n層と第n層の直下の第n-1層との境界に前記気孔領域を有し、第n層が第nの開口部に向かって徐々に薄くなっているので、応力集中を緩和して、他の部位と比べて厚さの薄い第2の開口部の境界部分の補強効果を高めることができる。
【0016】
(5)前記気孔は、最大気孔径が0.5~3.0μmであることを特徴とする(1)~(4)のいずれか1つに記載の炭素複合部材。
【0017】
本発明の好ましい実施形態に係る炭素複合部材は、気孔の最大気孔径が0.5μm以上であることにより、気孔の周囲にできる配向の方向性の異なる熱分解炭素の成分を十分に確保することができ、気孔の生成によってアンカー効果を十分に発揮することができる。また、気孔の最大気孔径が3.0μm以下であることにより、気孔の周囲への応力集中を低減し、気孔が存在することにより強度が低下することを防止することができる。
【0018】
(6)前記熱分解炭素層の合計厚さが5~400μmであることを特徴とする(1)~(5)のいずれか1つに記載の炭素複合部材。
【0019】
本発明の好ましい実施形態に係る炭素複合部材は、熱分解炭素層の合計厚さが5μm以上であることにより、多孔体である黒鉛基材の凹凸を十分に覆うことができ、気体の不浸透性を確保することができる。また、熱分解炭素層の合計厚さが400μm以下であることにより、黒鉛基材と熱分解炭素層の熱歪みによる反りや剥がれを防止することができる。
【0020】
(7)前記黒鉛基材が等方性黒鉛材であることを特徴とする(1)~(6)のいずれか1つに記載の炭素複合部材。
【0021】
本発明の好ましい実施形態に係る炭素複合部材は、黒鉛基材が等方性黒鉛材であり、等方性黒鉛は、特性の異方性が小さく均一性が高いため、熱分解炭素層との熱膨張係数差が場所、方向による差異が小さく、剥がれにくくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る炭素複合部材によれば、熱分解炭素層が複数層からなるため、黒鉛基材のガス、水分、不純物の吸着及び放出の防止効果を高めることができる。
一方、熱分解炭素層は、黒鉛の結晶が面方向に広がった異方性の高い材料であり、面方向には強固な黒鉛のa軸方向が広がり、厚み方向にファンデルワールス力で弱く結合した黒鉛のc軸方向につながっている。このため、複数積層された熱分解炭素層は、一の熱分解炭素層とこれに隣接する熱分解炭素層との境界が弱く、剥離しやすくなる。一方、本発明に係る炭素複合部材では、一の熱分解炭素層とこれに隣接する他の熱分解炭素層との境界に、気孔が存在する気孔領域を有するため、気孔の周囲で熱分解炭素の結晶方向が乱され、アンカー効果を強くすることができ、層間剥離を防止する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る炭素複合部材の断面の拡大図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態1に係る炭素複合部材の製造工程を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態2に係る炭素複合部材の断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態2に係る炭素複合部材のA部断面の拡大図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態2に係る炭素複合部材のB部断面の拡大図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態2に係る炭素複合部材の製造工程を示す図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す製造工程における、(C)工程、(D)工程及び(E)工程で形成される各層を示す拡大図である。
【0024】
(発明の詳細な説明)
<実施の形態1>
まず、本発明の実施の形態1について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る炭素複合部材を示す図であり、詳細には表面近傍の断面の拡大図である。
黒鉛基材1の上には、一の熱分解炭素層である第1層2A、及び他の熱分解炭素層である第2層2Bが積層して形成されている。また、第1層2Aと第2層2Bとの境界には、多数の気孔3が層状に広がるように形成されている。気孔3が層状に存在している領域が、気孔領域4である。
【0025】
第1層2A及び第2層2Bとなる熱分解炭素層は、CVD法により形成することができる。熱分解炭素層の主要部分では、黒鉛基材1の面方向に沿ってa軸方向が広がり、垂直方向に沿ってc軸方向が延びている。そのため、複数の熱分解炭素層が積層したものであると、熱歪みなどの発生した境界領域から剥がれが生じやすくなる。そこで、本実施の形態に係る炭素複合部材では、互いに隣接する第1層2Aと第2層2Bとの境界に、気孔3が存在する気孔領域4を形成することにより、熱分解炭素層の配列を乱して剥離しにくくしている。
【0026】
このような気孔領域4は、次のようにして得ることができる。
図2は、
図1に示した炭素複合部材の製造工程を示す図である。まず、目的の形状の黒鉛基材1を準備する。黒鉛基材1に熱分解炭素層を形成すると、厚さ分だけ大きくなるので、炭素複合部材としてのサイズや、形成する熱分解炭素層の厚さに応じて小さ目に加工することが好ましい。また、熱分解炭素層との密着性を高めるために黒鉛基材1の表面を粗面に加工してもよい。
【0027】
そして、黒鉛基材1をCVD炉の中に置き、成膜温度まで上昇させたのち、原料ガスを導入する。成膜温度は特に限定されないが、例えば800~2000℃とすることができる。熱分解炭素層を得るための原料ガスは、炭化水素であれば特に限定されない。例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン、エチレン、プロピレンなどのアルケン、アセチレン等のアルキンの他、ベンゼン、トルエン等の芳香族系の原料ガスを用いてもよい。
そして、成膜温度を保持し、一定時間原料ガスを導入することで、第1層2Aとなる一の熱分解炭素層を黒鉛基材1の表面に成膜する。なお、キャリアガスとしては、Ar等の不活性ガスを用いることができる。
【0028】
続いて、熱分解炭素層である第1層2Aが所定の厚さになった段階で、第1層2Aの表面に、下記で詳述するような方法により気孔領域4を形成する。さらに、気孔領域4を形成した後、熱分解炭素を成膜のCVD条件で一定にして、気孔領域4が形成された熱分解炭素層の上に連続して、第2層2Bとなる他の熱分解炭素層を形成する。
【0029】
熱分解炭素層は、安定した成膜状態であれば、黒鉛基材1に対して水平方向(図中の左右方向)にa軸方向が広がり、黒鉛基材1に対して垂直方向(図中の上下方向)にc軸方向となるように、方向性の揃った状態で形成されるが、不安定な成膜状態であると黒鉛基材1の上方で原料ガスが熱分解し、パーティクルとなって黒鉛基材1に降り積もり、熱分解炭素層に配列の乱れを生じさせる。このような配列の乱れが、熱分解炭素層の主要部分に生成されると気密性が悪くなるなど熱分解炭素層の機能を低下させる原因となる。
しかし、本実施の形態に係る炭素複合部材では、第1層2Aと第2層2Bとの境界に気孔領域4を生成させるため、炭素複合部材の性能を劣化させる原因とはならず、むしろ複数の熱分解炭素層である第1層2Aと第2層2Bとの接合力を強めるように作用し、剥がれにくくする効果がある。
【0030】
気孔領域4は、第1層2Aの成膜終了時、または第2層2Bの成膜開始時のいずれでも形成することができる。例えば、第2層2Bの成膜開始時に形成する場合には、開始時にガス分圧を上げる、または温度を上げるなど一旦不安定な状況におき、第1層2Aの表面にパーティクルを生成させたのち、安定な条件で第2層2Bとなる熱分解炭素層の形成を行う。また、第1層2Aの成膜終了時に形成する場合には、終了時にガス分圧を上げる、または温度を上げるなどして一旦不安定な状況におき、パーティクルを生成させたのち、安定な条件で第2層2Bとなる熱分解炭素層の形成を行う。パーティクルは第1層2Aの表面上に点在して降り積もるため、その上に第2層2Bとなる熱分解炭素層が成膜されると、パーティクルの周辺には気孔3が形成される。この気孔3は、第1層2Aと第2層2Bとの境界に層状に広がっており、気孔領域4となる。
【0031】
この熱分解炭素のパーティクルを生成し、沈積させるための条件の一例としては、CVD炉内の圧力を10~10000Pa、温度を800~2000℃とすることが挙げられる。
また、より多くの熱分解炭素のパーティクルを第1層2Aの表面に沈積させ、気孔3をより多く形成させるためには、CVD炉において、熱分解炭素層の上部空間が広くなるようにすればよい。上部空間が広いと、生成する熱分解炭素のパーティクルの量が多くなり、より多くの熱分解炭素のパーティクルを第1層2Aの表面に沈積させることができる。
【0032】
なお、上記では熱分解炭素層を第1層2Aと第2層2Bとの2層構造とした場合を例として示しているが、本実施の形態に係る熱分解炭素層は3層以上の複数層とすることができる。その場合に、気孔領域4の形成は、同様にして各層の製膜の開始時に形成してもよいし、終了時に形成することもできる。さらに、熱分解炭素層が3層以上の場合において、上記気孔領域4は、少なくとも1組の隣接する熱分解炭素層間の境界に有していれば、本願発明の効果を奏するが、層間剥離を防止する効果を十分に発揮するためには、隣接する1組の熱分解炭素層間の境界すべてに気孔領域4を有することが好ましい。
【0033】
また、熱分解炭素層は、黒鉛基材1の両面に形成することができ、黒鉛基材1のある表面に熱分解炭素層を形成した後、黒鉛基材1を裏返して他方の面が上面となる成膜を行えばよい。または、黒鉛基材1の全面を覆うように熱分解炭素層を形成してもよい。そして、各層の成膜開始時、または成膜終了時に同様にして気孔領域4を形成すればよい。
【0034】
続いて、気孔3は、最大気孔径が0.5~3.0μmであることが好ましい。気孔3の最大気孔径が0.5μm以上であることにより、気孔3の周囲にできる配向の方向性の異なる熱分解炭素の成分を十分に確保することができ、気孔3の生成によってアンカー効果を十分に発揮することができる。また、気孔3の最大気孔径が3.0μm以下であることにより、気孔3の周囲への応力集中を低減し、気孔3が存在することにより強度が低下することを防止することができる。なお、より好ましい気孔3の最大気孔径は、1~2μmである。
【0035】
気孔領域4は、厚すぎると気孔3を起点とする剥離が生じやすく、薄すぎると熱分解炭素の配向を乱す効果が少なく、上下の熱分解炭素層同志の接合力を強める効果が得られなくなる。したがって、気孔領域4の厚さは、0.5~20μmが好ましく、1~5μmがより好ましい。
【0036】
熱分解炭素層の合計厚さは5~400μmであることが好ましい。熱分解炭素層の合計厚さが5μm以上であることにより、多孔体である黒鉛基材1の凹凸を十分に覆うことができ、気体の不浸透性を確保することができる。また、熱分解炭素層の合計厚さが400μm以下であることにより、黒鉛基材1と熱分解炭素層の熱歪みによる反りや剥がれを防止することができる。なお、より好ましい熱分解炭素層の合計厚さは、10~200μmである。
【0037】
ここで、熱分解炭素層の厚さは、気孔領域4を除いた厚さであって、例えば、第1層2Aの厚さについては、黒鉛基材1に成膜した第1層2Aの膜厚であり、パーティクルを生成させるために成膜条件を変えて成膜した熱分解炭素の堆積厚さは含まれない。また、第2層2Bの厚さについては、パーティクルを生成した後に成膜したときの熱分解炭素層の膜厚である。
【0038】
黒鉛基材1となる黒鉛材料としては、等方性黒鉛材であることが好ましい。等方性黒鉛は、特性の異方性が小さく均一性が高いため、熱分解炭素層との熱膨張係数差が場所、方向による差異が小さく剥がれにくくすることができる。
【0039】
<実施の形態2>
続いて、本発明の実施の形態2について説明する。
図3は、本発明の実施の形態2に係る炭素複合部材の断面図である。
【0040】
図3で示すような形態、すなわち黒鉛基材1の全面に複数の熱分解炭素層を形成するような形態の炭素複合部材は、例えば、特開2016-169422号の
図1で示すような所定の支持具を用いた製造方法により製造することができる(本製造方法の詳細については後述する。)。この場合において、熱分解炭素層の一部に第1の開口部10や第2の開口部11が形成される。
【0041】
図3に示すように、本実施の形態に係る炭素複合部材では、黒鉛基材1が第1層2A及び第2層2Bで覆われているとともに、第1層2Aは黒鉛基材1の一方の面(図中の上面)に第1の開口部10(
図3では2箇所)を有し、第2層2Bが第1の開口部10を覆っている。そのため、第1の開口部10から黒鉛基材1への気密性は、第2層2Bで確保されている。一方、黒鉛基材1の他方の面(図中の下面)には第1の開口部10はなく、全面が第1層2Aで覆われているとともに、第2層2Bに第2の開口部11(
図3では2箇所)を有する。そのため、第2の開口部11から黒鉛基材1への気密性は、第1層2Aで確保されている。
【0042】
すなわち、黒鉛基材に近い側の第1層2Aにある第1の開口部10と、外側の第2層2Bにある第2の開口部11とが黒鉛基材1に対して異なる位置にあるため、第1の開口部10が閉塞され、黒鉛基材1からのガスや水分、不純物等の放出を防止するともに、外部からのガスや水分、不純物等の吸着を防止することができる。なお、第1の開口部10や第2の開口部11は、第1層2A及び第2層2Bのそれぞれに1つでもよいし、複数箇所に形成されていてもよい。
【0043】
図3においては、複数の熱分解炭素層として第1層2A及び第2層2Bの2層の場合について説明しているが、例えば、複数の熱分解炭素層を、黒鉛基材1に近い側から順に第1層、第2層、・・・、第n-1層、第n層とするとき、第1層が第1の開口部を有し、第n層が第nの開口部を有するともに、第1の開口部と第nの開口部とは、黒鉛基材1に対して異なる位置に形成されていれば、上記と同様の効果を奏することができる。なお、nは2以上の整数である。
【0044】
図4は、
図3のA部断面の拡大図であり、第1層2Aに形成された第1の開口部10の周辺(図中のC領域)を詳細に示している。
【0045】
図4に示すように、第2層2Bが第1の開口部10を覆うとともに、第1の開口部周辺(C領域)における第1層2Aと第2層2Bとの境界の気孔領域4が、黒鉛基材1に向かって傾斜して伸びている。すなわち、第2層2Bが第1層2Aにある第1の開口部10を覆っているため、黒鉛基材1のガス、水分、不純物の放出及び外部からの吸着を防止する効果を高めることができる。また、第1の開口部の周辺(C領域)における第1層2Aと第2層2Bとの境界の気孔領域4が、黒鉛基材1に向かって傾斜して伸びているため、応力集中の起きやすい第1の開口部10の境界部分の補強効果を高めることができる。
【0046】
図5は、
図3のB部断面の拡大図であり、第2層2Bに形成された第2の開口部11の周辺(D領域)を詳細に示している。
【0047】
図5に示すように、第1層2Aには開口部がなく、また、第2層2Bは第1層2Aの上面(図中では下側)に積層して形成されており、第2層2Bには第2の開口部11を有する。そして、第2層2Bと第2層2Bの直下の第1層2Aとの境界に気孔領域4を有し、図中のD領域で示されるように、第2層2Bが第2の開口部11に向かって徐々に薄くなっているので、応力集中を緩和して、他の部位と比べて厚さの薄い第2の開口部の境界部分の補強効果を高めることができる。
【0048】
図5においては、複数の熱分解炭素層として第1層2A及び第2層2Bの2層の場合について説明しているが、
図3において説明した場合と同様、第n層と第n層の直下の第n-1層との境界に気孔領域4を有し、第n層が第nの開口部に向かって徐々に薄くなっていれば、上記と同様の効果を奏することができる。なお、nは2以上の整数である。
【0049】
続いて、本発明の実施の形態2に係る炭素複合部材の製造方法について詳述する。このような炭素複合部材を製造するには、例えば
図6に示す工程に従うことができる。
同図の(A)は黒鉛基材1、(B)は第1層2Aの形成工程、(C)は黒鉛基材1の第1面1a側に対する気孔領域4の形成工程、(D)は黒鉛基材1の第2面1b側(すなわち、第1の開口部10が形成された側)に対する気孔領域4の形成工程、(E)は第2層2Bの形成工程を、それぞれ示している。なお、同図(A)に示すように、黒鉛基材1の一方の面(図中の上面)を第1面1a、他方の面(図中の下面)を第2面1bとしている。また、
図7に、
図6の(C)工程、(D)工程及び(E)工程で形成される各層を拡大して示す。
【0050】
まず、(B)工程に示すように、黒鉛基材1を支持具20に載置する。支持具20は、CVD装置の基板ホルダ(図示せず)に載置される。支持具20は、例えば円柱形状の支持具本体21と、支持具本体21の中央部から突出する支持部22とを有しており、一体的に形成されている。なお、これらを一体化させるには、例えば、支持具本体21と支持部22とが得られるように加工したり、支持具本体21と支持部22とを接着剤等で接着することにより実現できる。
【0051】
支持部22は全体が円錐台形状を呈しており、軸線に沿った断面において、頂面23から支持具本体21に向かって漸次拡径する傾斜面を有する形状を呈している。また、頂面23は、図示されるような平面の他、先端が尖る形状(円錐形状)とすることも可能である。この支持部22に、黒鉛基材1の第2面1bが接して支持される。
【0052】
この状態で、安定したCVD法を行って熱分解炭素層を成膜する。それにより、図示されるように、支持具20の支持部22の周辺を除いて黒鉛基材1を覆うように第1層2Aが形成される。その際、第1層2Aには、第1の開口部10が支持部22に外形に沿った形状に形成される。
【0053】
次いで、(C)工程に示すように、不安定なCVDを行って、第1層2Aの黒鉛基材1の第1面1aの側に、気孔領域4を全面にわたり十分に形成する。なお、黒鉛基材1の第2面1bの側にも少なからず気孔領域4が形成されると考えられるが、黒鉛基材1の第1面1aの側と比べると少ない。
【0054】
次いで、(D)工程に示すように、黒鉛基材1を表裏反転(上下反転)させて第1面1aを支持具20に載置する。それに伴い、第1層2Aの第1の開口部10が、図中の上方を向く。そして、再び不安定なCVDを行って、黒鉛基材1の第2面1b側(すなわち、第1の開口部10が形成された側)に、気孔領域4を全面にわたり十分に形成する。その際、第1の開口部10上にも熱分解炭素のパーティクルが降り積もるため、第1の開口部10上においても気孔領域4が形成される(
図4参照)。
【0055】
次いで、(E)工程に示すように、安定したCVDを行って第2層2Bを形成する。以上の工程を経て、第1の開口部10は第2層2Bにより閉塞されて
図4に示す状態となり、また、第2の開口部11にも気孔領域4が形成されて
図5に示す状態となる。すなわち、上記製造方法によれば、第2層2Bが第1の開口部10を覆うとともに、第1の開口部周辺(C領域)における第1層2Aと第2層2Bとの境界の気孔領域4が、黒鉛基材1に向かって傾斜して伸びており、更に、第2層2Bが第2の開口部11に向かって徐々に薄くなっているような炭素複合部材を製造することができる。
【0056】
なお、上述したように、支持具20として例えば円柱形状の支持具本体21と、支持具本体21の中央部から突出する円錐台形状の支持部22とを用いて、第1層2A及び第2層2Bを形成しているため、各層の開口部(第1の開口部10、第2の開口部11)において、各開口部に向かって徐々に薄くなる熱分解炭素層を形成することができる。
【0057】
以上、本発明に関して実施の形態1及び2を挙げて説明したが、これら実施の形態に限らず、変形、改良や変更等を適宜行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の炭素複合部材は、黒鉛基材を複数層の熱分解炭素層で覆ったことにより、全体としてより高性能であり、また熱分解炭素層同士の剥離も抑えられており、耐久性にも優れる。そのため、半導体製造、化学工業、機械、原子力等、多くの分野にわたって有効である。
【符号の説明】
【0059】
1 黒鉛基材
2A 第1層(一の熱分解炭素層)
2B 第2層(他の熱分解炭素層)
3 気孔
4 気孔領域
10 第1の開口部
11 第2の開口部
20 支持具
21 支持具本体
22 支持部
23 頂面