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特許7517867動作速度変更時の補正量修正機能を備えた機械システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】動作速度変更時の補正量修正機能を備えた機械システム
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020090045
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183373
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】鷲頭 伸一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-149606(JP,A)
【文献】特開2019-13984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象部位の位置を検出するためのセンサを備えた機械機構部と、前記機械機構部の動作を制御する制御装置と、を備えた機械システムであって、
前記制御対象部位の目標軌跡又は目標位置に関する動作指令によって前記機械機構部を動作させて、前記センサに基づき検出された前記制御対象部位の位置を前記目標位置に近づけるための補正量を導出する補正制御部と、
前記動作指令が与えられ、与えられた前記動作指令及び導出された補正量を用いて前記機械機構部の動作を制御する機械制御部と、
を備え、
前記補正制御部は、前記機械機構部の動作速度を変更しながら前記補正量を算出し、過去の前記動作速度の変更前後の補正量の差分に対して前記補正量の修正分を求め、前記修正分を前記補正量に加算することで、前記動作速度の変更直後に適用する前記補正量を修正する補正量修正部を有する、
機械システム。
【請求項2】
前記補正制御部は前記動作速度を変更するための動作速度変更率を調整しながら前記補正量を算出し、前記補正量修正部は、過去の前記動作速度変更率の調整前後の補正結果に基づき、前記動作速度変更率の調整直後に適用する前記補正量を修正する、請求項1に記載の機械システム。
【請求項3】
前記補正量修正部は、過去の前記動作速度変更率の調整前後の前記補正量と、現在及び過去の動作速度変更率調整量と、に基づき、前記動作速度変更率の調整直後に適用する前記補正量を修正する、請求項2に記載の機械システム。
【請求項4】
前記補正制御部は、前記動作速度変更率の調整前後の前記動作速度変更率に基づき、前記動作速度変更率の調整直後に適用する前記補正量の適用時間を修正する適用時間修正部をさらに備える、請求項2又は3に記載の機械システム。
【請求項5】
前記補正制御部は、前記補正量修正部及び前記適用時間修正部の少なくとも一方による前記補正量の修正分を考慮して前記動作速度変更率の調整直後に適用する前記補正量を修正し、修正された前記補正量と、修正された前記補正量を適用して発生した振動成分と、に基づき、新たな前記補正量を算出する学習制御を行う、請求項4に記載の機械システム。
【請求項6】
前記補正量修正部は、過去の前記動作速度変更率の調整前後の前記補正量の差分に対して現在及び過去の動作速度変更率調整量の比を乗算することで前記補正量の修正分を求め、前記補正量の修正分を前記動作速度変更率の調整時に算出された前記補正量に加算することで前記補正量の修正を行う、請求項2から5のいずれか一項に記載の機械システム。
【請求項7】
前記補正量は時系列データであり、前記補正量修正部は、ピーク値を含む区間に前記補正量を分割し、前記区間毎に求めた修正前後の前記補正量の前記ピーク値に基づき前記動作速度変更率の調整直後に適用する前記補正量を前記区間毎に修正する、請求項2から6のいずれか一項に記載の機械システム。
【請求項8】
前記補正量修正部は、前記修正前後の前記補正量のピーク値に基づき区間修正率を区間毎に求め、前記区間内の任意の前記補正量に対して前記区間修正率を乗算することで前記補正量を区間毎に修正する、請求項7に記載の機械システム。
【請求項9】
前記センサが、加速度センサ、ジャイロセンサ、慣性センサ、力センサ、レーザトラッカ、カメラ、又はモーションキャプチャシステムである、請求項1から6のいずれか一項に記載の機械システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械システムに関し、特に動作速度変更時の補正量修正機能を備えた機械システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット、工作機械等の機械の動作を高速化し、タクトタイムを短縮することは作業効率に直結する。しかし、機械の動作を一定以上高速化した場合には、減速機や機械機構部の剛性不足等に起因して機械先端部に振動が発生してしまう。斯かる問題の対処法としては次の文献が公知である。
【0003】
特許文献1には、機械先端部にセンサを取付けて動作中の振動を計測することで機械の動作速度を高速化しながら機械先端部の振動を学習制御する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、スポット溶接ロボットの高速動作によって発生する軌跡誤差や振動成分によってロボットの最適動作が阻害されるという問題を解決するため、制御対象部位に設置されたセンサの検出結果から制御対象部位の軌跡又は位置を算出し、該軌跡と目標軌跡との間の軌跡誤差、又は該位置と目標位置との間の位置誤差を補正するための、若しくはロボット機構部を動作させたときに生じる制御対象部位の振動を抑制するための学習補正量を学習制御により算出する学習制御部を備え、学習制御部は、学習補正量を算出する過程でロボット機構部に設定可能な最大動作速度を算出し、最大動作速度に至るまで1回又は複数回に渡って動作速度を増加させながら学習補正量を算出することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、生産ラインにおける運用を考慮して学習制御を行うロボットにおいて、学習制御部は、ロボット機構部の動作速度を増加又は減少するために設定される動作速度変更率の最大値を超えない範囲内で、且つ、制御対象部位で発生する振動の許容条件の範囲内で、複数回に渡って動作速度変更率を増加又は減少させる動作速度変更率調整部を備えることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、速度一定が要求されるアプリケーションで学習制御を行うロボットにおいて、学習制御部は、速度一定を教示した作業プログラムに従って行われる加工作業中にロボット機構部の制約によって生じた最大速度及び最小速度を記憶しておき、最大速度と最小速度の比に相当する速度変動の許容条件を算出し、算出した速度変動の許容条件と記憶した最大速度及び最小速度とに基づいてロボット機構部の動作速度を増加又は減少させるために使用される動作速度変更率を設定する動作速度変更率調整部を備えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-167817号公報
【文献】特開2012-240142号公報
【文献】特開2018-149606号公報
【文献】特開2019-013984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
振動を打ち消すための補正量を算出して動作指令を補正するが、動作速度の変更直後に適用する補正量は動作速度の変更前に算出された補正量であるため、動作速度を変更したことによる振動の変化分が考慮されていない。例えば動作速度を増加させた直後にはそれに伴う振動の増加分を補正しきれずに振動が増加し、一方で、動作速度を減少させた直後には過度に補正することで振動が増加してしまう可能性がある。ひいては、動作速度の変更直後の振動の増加によって、機械がワーク等の周囲物体に干渉したり、補正量が収束するまでに時間が掛かったりすることがある。
【0009】
そこで、動作速度の変更直後の振動の増加を抑制する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様は、制御対象部位の位置を検出するためのセンサを備えた機械機構部と、機械機構部の動作を制御する制御装置と、を備えた機械システムであって、制御対象部位の目標軌跡又は目標位置に関する動作指令によって機械機構部を動作させて、センサに基づき検出された制御対象部位の位置を目標位置に近づけるための補正量を導出する補正制御部と、動作指令が与えられ、与えられた動作指令及び導出された補正量を用いて機械機構部の動作を制御する機械制御部と、を備え、補正制御部は、機械機構部の動作速度を変更しながら補正量を算出し、過去の動作速度の変更前後の補正量の差分に対して前記補正量の修正分を求め、前記修正分を前記補正量に加算することで、動作速度の変更直後に適用する補正量を修正する補正量修正部を有する、機械システムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、過去の動作速度の変更前後の補正結果に基づき、動作速度の変更直後に適用する補正量を修正するため、修正した補正量が動作速度の変更に伴う振動の増加分を抑制することになる。ひいては、動作速度変更時における周囲物体への機械の干渉を抑制でき、また、補正量の収束時間を低減できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る機械システムの構成を示す概略図である。
図2】機械機構部の一例を示す側面図である。
図3】制御装置の一例を示すブロック図である。
図4】補正量の修正例を示すタイムチャートである。
図5】補正量の修正例を示すグラフである。
図6】補正量の適用時間の修正例を示すグラフである。
図7】補正量の修正の変形例を示すグラフである。
図8】一実施形態に係る機械システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。
【0014】
図1は本実施形態に係る機械システム10の構成を示している。機械システム10は、制御対象部位の位置を検出するためのセンサ11を備えた機械機構部12と、センサ11を用いて機械機構部12の動作を制御する制御装置13と、を備えている。センサ11及び機械機構部12は、動力線や信号線等の線条体14を介して制御装置13に接続されるが、無線を介して接続されてもよい。センサ11は、制御対象部位である機械先端部15に取付けられるが、振動を発生し得る部位であれば他の制御対象部位に取付けられてもよい。センサ11は、制御対象部位の位置を検出可能なセンサであればよく、例えば加速度センサ、ジャイロセンサ、慣性センサ、力センサ、レーザトラッカ、カメラ、モーションキャプチャシステム等でよい。
【0015】
図2は機械機構部12の一例を示している。機械機構部12は、例えば多関節ロボットであるが、パラレルリンク型ロボット、ヒューマノイド、工作機械、建設機械等の他の機械機構部でもよい。多関節ロボットの場合、機械機構部12は複数の関節軸J1~J6を備え、各関節軸J1~J6には、例えばサーボモータ等の駆動源、減速機等(図示せず)のアクチュエータが配設される。関節軸J1の近傍にはワールド座標系C1が規定され、フランジ16の近傍にはインタフェイス座標系C2が規定されるが、他のユーザ座標系が規定されてもよい。制御装置13は、これら座標系に基づく制御対象部位の目標軌跡又は目標位置(以下「目標位置」と称する。)に関する動作指令に応じて機械機構部12を動作させ、センサ11に基づき検出された制御対象部位の位置(以下「センサ位置」と称する。)をこれら座標系に基づく位置に適宜変換する。
【0016】
図3は制御装置13の一例を示している。制御装置13は、CPU(central processing unit)、FPGA(field-programmable gate array)、ASIC(application specific integrated circuit)等のプロセッサ、半導体集積回路等を備えたコンピュータ装置でよい。制御装置13は機械制御部18及び補正制御部19を備えているが、補正制御部19は上位コンピュータ装置等の外部装置に実装されてもよい。機械制御部18は動作プログラム17に従って動作指令が与えられ、与えられた動作指令及び導出された補正量を用いて機械機構部12の動作を制御する。動作指令は、例えば時間に関する位置指令でよいが、速度指令、加速度指令、トルク指令等でもよい。
【0017】
機械制御部18は、機械機構部12に設けたモータ等の駆動源(図示せず)の位置を検出する位置検出器(図示せず)を用いて、制御対象部位の実位置、実速度、実加速度、実トルク等を、目標位置、目標速度、目標加速度、目標トルク等に一致させるように位置、速度、加速度、トルク等のフィードバック制御を行う。しかしながら、斯かる制御を行っても機械機構部12の動作を高速化した場合には、減速機や機械機構部の剛性不足等に起因して機械先端部15に振動が発生し、現在位置が目標位置から位置ずれして位置偏差を生じることがある。このため補正制御部19が振動を打ち消すための補正量を導出し、機械制御部18が導出された補正量に基づき動作指令を補正して機械機構部12の動作を制御することで、振動を抑制するとよい。
【0018】
補正制御部19は、制御対象部位の振動成分である差分量を算出する差分量算出部21を備えているとよい。差分量は、例えばセンサ位置と目標位置の差分量でよいが、センサ速度と目標速度の差分量、センサ加速度と目標加速度の差分量、センサトルクと目標トルクの差分量でもよい。このため、センサ位置と目標位置、センサ速度と目標速度、センサ加速度と目標加速度、センサトルクと目標トルク等を時系列に関連付けて第1メモリ20に記憶しておくとよい。
【0019】
また補正制御部19は、算出された差分量(振動成分)に基づき、センサ位置を目標位置に近づけるための補正量を算出する補正量算出部22を備えているとよい。補正量は、振動を打ち消すために動作指令を補正するものでよく、例えば位置補正量、速度補正量、加速度補正量、トルク補正量等でもよい。また補正量は、時系列データであるとよい。補正量算出部22は、過去の補正量と、算出された差分量とに基づき、新たな補正量を算出する学習制御を行うが、差分量のみに基づき補正量を算出してもよい。学習制御を行うため又は後述する補正量の修正を行うため、過去及び現在の補正量を時系列に関連付けて第2メモリ23に記憶しておくとよい。
【0020】
さらに補正制御部19は、算出された差分量(振動成分)に基づき、動作速度を変更するために使用される動作速度変更率を調整する動作速度変更率調整部25を備えているとよい。動作速度変更率は、動作速度に乗算する倍率でよく、例えば110%、90%等として表される。動作速度変更率調整部25は、動作速度変更率の最大値を超えない範囲内で、且つ、振動の許容条件(例えば振幅の許容値等でよい。)の範囲内で、過去の動作速度変更率を新たな動作速度変更率に調整するとよい。動作速度変更率を調整するため又は後述する補正量の修正のため、過去及び現在の動作速度変更率を時系列に関連付けて第2メモリ23に記憶しておくとよい。また過去及び現在の動作速度変更率を過去及び現在の補正量と時系列に関連付けて第2メモリ23に記憶しておくとよい。さらに動作速度変更率の最大値及び振動の許容条件を満たすように動作速度変更率を調整するため、動作速度変更率の最大値と振動の許容条件を第4メモリ24に記憶しておくとよい。
【0021】
加えて補正制御部19は、過去の動作速度の変更前後の補正結果に基づき、動作速度の変更直後に適用する補正量を修正する補正量修正部26を備えているとよい。例えば補正量修正部26は、過去の動作速度変更率の調整前後の補正結果に基づき、動作速度変更率の調整直後に適用する補正量を修正するとよい。修正した補正量は動作速度の変更に伴う振動の増加分を抑制することになる。ひいては、動作速度変更時における周囲物体への機械の干渉を抑制でき、また、補正量の収束時間を低減できることになる。
【0022】
また補正制御部19は、動作速度の変更直後に適用する補正量の適用時間を修正する適用時間修正部27を備えているとよい。例えば適用時間修正部27は、動作速度変更率の調整前後の動作速度変更率に基づき、動作速度変更率の調整直後に適用する補正量の適用時間を修正するとよい。適用時間を修正した補正量の適用タイミングは動作速度の変更直後の動作に一致するようになるため、修正した補正量が動作速度の変更に伴う振動の増加分を適時に抑制するようになる。ひいては、動作速度変更時における周囲物体への機械の干渉を抑制でき、また、補正量の収束時間を低減できることになる。なお、補正制御部19は、補正量修正部26を備えず、適用時間修正部27のみを備えていてもよい。修正した補正量は過去及び現在の補正量として第2メモリ23に記憶しておくとよい。
【0023】
さらに補正制御部19は、現在の補正量と過去の補正量を比較し、現在の動作速度変更率と過去の動作速度変更率を比較する比較部28を備えているとよい。例えば比較部28は、現在の補正量と過去の補正量との比が所定範囲内であるか否かを判定し、現在の動作速度変更率と過去の動作速度変更率の比が所定範囲内であるか否かを判定するとよい。これにより、補正量及び動作速度変更率が収束したか否かを判定できる。収束した補正量と収束した動作速度変更率を機械システム10の電源切断後に再利用するため、収束した補正量と収束した動作速度変更率を時系列に関連付けて第3メモリ29に記憶しておくとよい。収束した補正量と収束した動作速度変更率を電源切断後であっても記憶しておくため、第3メモリ29は不揮発性メモリであるとよい。収束した補正量と収束した動作速度変更率を機械システム10の電源投入後に第3メモリ29から第2メモリ23に読み出して再利用するとよい。なお、第1メモリ20、第2メモリ23、第4メモリ24は、揮発性メモリでよいが、不揮発性メモリでもよい。
【0024】
図4は補正量の修正例を示すタイムチャートである。図4には、動作速度変更率の初期値をO0に設定し、第一回から第六回までの補正回T1~T6において動作速度変更率がO1からO4へ調整されていき、第七回の補正回で補正量と動作速度変更率が収束した例が示されている。このとき、補正量算出部22の出力(補正量)がA1からA6へ変化し、補正量修正部26の出力(動作速度の変更に伴い修正した補正量)がA1'からA6'へ変化し、適用時間修正部27の出力(適用時間をさらに修正した補正量)がA1'tからA6'tへ変化し、適用時間修正部27の出力(適用時間のみを修正した補正量)がA1tからA6tへ変化していくとする。
【0025】
例えば第二回のT2時に動作速度変更率がO1からO2へ調整された場合、補正量修正部26は、過去の動作速度変更率の調整前後(例えばO0からO1への調整前後)の補正結果、つまり動作速度変更率O0で動作させて適用時間のみを修正した補正量A1tと、動作速度変更率O1で動作させて算出した補正量A2と、に基づき、動作速度変更率をO1からO2へ調整した直後の補正量A2を修正するとよい。修正後の補正量A2’は例えば次式から求めることができる。
【0026】
【数1】
【0027】
式中、A2-A1tは過去の動作速度変更率の調整前後(O0からO1への調整前後)の補正量の差分を表し、O2-O1は現在の動作速度変更率調整量(O1からO2への調整量)であり、O1-O0は過去の動作速度変更率調整量(O0からO1への調整量)であり、(O2-O1)/(O1-O0)は現在及び過去の動作速度変更率調整量の比である。
【0028】
つまり補正量修正部26は、過去の動作速度変更率の調整前後の補正量の差分に対して現在及び過去の動作速度変更率調整量の比を乗算することで補正量の修正分((A2-A1t)×(O2-O1)/(O1-O0))を求め、補正量の修正分を動作速度変更率の調整時に算出された補正量A2に加算することで補正量A2の修正を行うとよい。
【0029】
同様に第三回のT3時に動作速度変更率がO2からO3へ調整された場合、補正量修正部26は、過去の動作速度変更率の調整前後(O1からO2への調整前後)の補正結果、つまり動作速度変更率O1で動作させて算出し適用時間のみを修正した補正量A2tと、動作速度変更率O2で動作させて算出した補正量A3と、に基づき、動作速度変更率をO2からO3へ調整した直後の補正量A3を修正するとよい。修正後の補正量A3'は例えば次式から求めることができる。
【0030】
【数2】
【0031】
つまり補正量修正部26は、過去の動作速度変更率の調整前後の補正量の差分(A3-A2t)に対して現在及び過去の動作速度変更率調整量の比((O3-O2)/(O2-O1))を乗算することで補正量の修正分((A3-A2t)×(O3-O2)/(O2-O1))を求め、補正量の修正分を動作速度変更率の調整時に算出された補正量A3に加算することで補正量A3の修正を行うとよい。
【0032】
また第四回のT4時と第五回のT5時には動作速度変更率がO3のまま調整されていないため、補正量修正部26は補正量A4、A5を修正する必要はない。つまり、修正後の補正量A4'は修正前の補正量A4と同じでよく、修正後の補正量A5'は修正前の補正量A5と同じでよい。
【0033】
さらに第六回のT6時に動作速度変更率がO3からO4へ調整された場合、補正量修正部26は、過去の動作速度変更率の調整前後(O2からO3への調整前後)の補正結果、つまり動作速度変更率O2で動作させて算出し適用時間のみを修正した補正量A3tと、動作速度変更率O3で動作させて算出した補正量A4と、に基づき、動作速度変更率をO3からO4へ調整した直後の補正量A6を修正するとよい。修正後の補正量A6'は例えば次式から求めることができる。
【0034】
【数3】
【0035】
つまり補正量修正部26は、過去の動作速度変更率の調整前後の補正量の差分(A4-A3t)に対して現在及び過去の動作速度変更率調整量の比((O4-O3)/(O3-O2))を乗算することで補正量の修正分((A4-A3t)×(O4-O3)/(O3-O2))を求め、補正量の修正分を動作速度変更率の調整時に算出された補正量A6に加算することで補正量A6の修正を行うとよい。
【0036】
なお、補正量の修正で使用される「過去の動作速度変更率の調整前後の補正結果」は、「直前」の動作速度変更率の調整前後の補正結果でよいが、「それ以前」の動作速度変更率の調整前後の補正結果でもよい。例えば第六回のT6時に動作速度変更率がO3からO4へ調整された場合、補正量修正部26は、「直前」の動作速度変更率の調整(O2からO3への調整)前後の補正結果(A4-A3t)を使用するのではなく、「それ以前」の動作速度変更率の調整(O1からO2への調整)前後の補正結果(A3-A2t)を使用してもよい。この場合、修正後の補正量A6'は例えば次式から求めることができる。
【0037】
【数4】
【0038】
図5は補正量の修正例を示すグラフである。太い実線及び細い実線は夫々、過去の動作速度変更率の調整(100%から110%への調整)前後の補正量A1t(動作速度変更率100%で動作させて算出し適用時間のみを修正した補正量)と補正量A2(動作速度変更率110%で動作させて算出した補正量)とを表している。また太い破線は、過去の動作速度変更率の調整前後の補正量の差分A2-A1tを表している。さらに細い破線は、過去の動作速度変更率の調整前後の補正量の差分A2-A1tに基づき、動作速度変更率の調整(110%から120%への調整)直後に適用する補正量A2を修正した補正量A2'(適用時間修正前)を表している。このグラフによれば、修正した補正量A2’が修正前の補正量A2より大きくなっていることが分かる。つまり修正した補正量A2’は動作速度の変更に伴う振動の増加分を抑制できることが分かる。
【0039】
図6は補正量の適用時間の修正例を示すグラフである。太い破線は、動作速度変更率100%で動作させて修正した適用時間修正前の補正量A1'を表している。また太い実線は、動作速度変更率100%で動作させて修正した適用時間修正後の補正量A1'tを表している。第一回のT1時に動作速度変更率が100%から110%へ調整された場合、機械先端部15は動作開始から11秒後に到達していた位置に10秒後に到達するようになるため、動作速度変更率100%で動作させて修正した補正量A1'を動作速度変更率110%の動作にそのまま適用すると、補正量の適用タイミングが動作速度の変更に伴う動作に一致しなくなってしまう。そこで、適用時間修正部27は、補正量A1'の適用時間を100%/110%に縮めるように補正量A1'を修正するとよい。適用時間を修正した補正量A1'tの適用タイミングは動作速度変更率110%へ調整した直後の動作に一致するようになるため、修正した補正量A1'tが動作速度の変更に伴う振動の増加分を適時に抑制できるようになる。
【0040】
図7は補正量の修正の変形例を示している。補正量修正部26は、ピーク値を含む区間に時系列の補正量を分割し、区間毎に求めた修正前後の補正量のピーク値に基づき動作速度変更率の調整直後に適用する補正量を区間毎に修正する点で、前述のものと異なる。例えば補正量修正部26は、補正量が0である時点を境界として補正量の山に分割すればよい。そして、補正量修正部26は、区間毎に求めた修正前後の補正量のピーク値に基づき区間修正率を区間毎に求め、区間内の任意の補正量に対して区間修正率を乗算することで補正量を区間毎に修正するとよい。
【0041】
例えば第一区間の場合、補正量修正部27は、次式から、過去の動作速度変更率の調整(100%から110%への調整)前後の補正量のピーク値の差分(A2P1-A1tP1)に基づき、修正後の補正量のピーク値A2'P1を区間毎に求める。
【0042】
【数5】
【0043】
次に補正量修正部27は、次式から、修正前後の補正量のピーク値の比(A2'P1/A2P1)に基づき、区間修正率I1を区間毎に求める。
【0044】
【数6】
【0045】
そして補正量修正部27は、第一区間内の任意の補正量A2に対して区間修正率I1を乗算することで動作速度変更率の調整直後に適用する補正量A2を区間毎に修正するとよい。第一区間の修正後の補正量A2’は例えば次式から求めることができる。
【0046】
【数7】
【0047】
また、例えば第四区間より後の区間では、補正量のピーク値の変化が小さいため、補正量修正部27は補正量を修正しないと判定してもよい。
【0048】
このように振動の影響が大きい時点を示す補正量のピーク値に基づき区間修正率を求め、動作速度変更率の調整直後に適用する補正量を区間修正率に基づき修正することで、計算速度向上、メモリ容量節約といった種々の利点を得ることができる。
【0049】
図8は本実施形態に係る機械システム10の動作を示すフローチャートである。先ずステップS10では、振動の許容条件が作業者によって手動で設定される。このため機械システム10は振動の許容条件を入力する手段を備えているとよい。ステップS11では、動作指令に基づき機械機構部を動作させ、動作速度の最大値ω_maxjとトルクの最大値τ_maxj(jは軸番号)を夫々記憶しておき、その動作に対して設定可能な動作速度変更率の最大値αmaxを予め算出する。動作速度変更率の最大値αmaxは例えば次式から求めることができる。ここで、ω_alwj、τ_alwjは夫々、動作速度の許容値、トルクの許容値である。
【0050】
【数8】
【0051】
なお、機械システム10は動作速度変更率の最大値を入力する手段を備えていてもよく、この場合には動作速度変更率の最大値は作業者によって手動で設定される。
【0052】
ステップS12では、動作速度変更率の最大値を超えない範囲内で且つ振動の許容条件の範囲内で初期設定した動作速度変更率に基づき機械機構部12を動作させ、センサ位置と目標位置との差分量を算出する。差分量は、センサ速度と目標速度の差分量、センサ加速度と目標加速度の差分量、センサトルクと目標トルクの差分量等でもよい。ステップS13では、差分量に基づきセンサ位置を目標位置に近づけるための補正量を算出する。補正量は学習制御に基づき算出されてもよい。
【0053】
ステップS14では、差分量に基づき動作速度変更率を調整する。例えば差分量が振動の許容条件を満たしていない場合には動作速度変更率を減少させ、差分量が振動の許容条件を満たしている場合には動作速度変更率を増加させる。この際、動作速度変更率の上限を動作速度変更率の最大値αmaxで制限するとよい。
【0054】
ステップS15では、過去の動作速度変更率の調整前後の補正結果に基づき、動作速度変更率の調整直後に適用する補正量を修正する。過去の動作速度変更率の調整前後の補正結果は、過去の動作速度変更率の調整前後の補正量の差分を使用してもよいし、又は修正前後の補正量のピーク値に基づき求めた区間修正率を使用してもよい。これにより、修正した補正量は動作速度の変更に伴う振動の増加分を抑制することになる。ひいては、動作速度変更時における周囲物体への機械の干渉を抑制でき、また、補正量の収束時間を低減できることになる。
【0055】
ステップS16では、動作速度変更率の調整前後の動作速度変更率に基づき、動作速度変更率の調整直後に適用する補正量の適用時間を修正する。これにより、適用時間を修正した補正量の適用タイミングが動作速度の変更直後の動作に一致するようになるため、修正した補正量が動作速度の変更に伴う振動の増加分を適時に抑制するようになる。ひいては、動作速度変更時における周囲物体への機械の干渉を抑制でき、また、補正量の収束時間を低減できることになる。
【0056】
ステップS17では、現在の補正量と過去の補正量との比、及び現在の動作速度変更率と過去の動作速度変更率との比が所定範囲内か否かを夫々判定する。つまり補正量と動作速度変更率が夫々収束したか否かを判定する。補正量と動作速度変更率の少なくとも一方が収束していない場合には(ステップS17のNO)、ステップS12に戻り、補正量と動作速度変更率が収束するまで補正制御を繰り返す。補正量と動作速度変更率の双方が収束した場合には(ステップS17のYES)、ステップS18において収束した補正量と収束した動作速度変更率を不揮発性メモリに記憶して終了する。
【0057】
以上の実施形態によれば、過去の動作速度の変更前後の補正結果に基づき、動作速度の変更直後に適用する補正量を修正するため、修正した補正量が動作速度の変更に伴う振動の増加分を抑制することになる。ひいては、動作速度変更時における周囲物体への機械の干渉を抑制でき、また、補正量の収束時間を低減できることになる。
【0058】
なお、前述のプロセッサで実行されるプログラムや前述のフローチャートを実行するプログラムは、コンピュータ読取り可能な非一時的記録媒体、例えばCD-ROM等に記録して提供してもよいし、或いは有線又は無線を介してWAN(wide area network)又はLAN(local area network)上のサーバ装置から配信して提供してもよい。
【0059】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0060】
10 機械システム
11 センサ
12 機械機構部
13 制御装置
14 線条体
15 機械先端部
16 フランジ
17 動作プログラム
18 機械制御部
19 補正制御部
20 第1メモリ
21 差分量算出部
22 補正量算出部
23 第2メモリ
24 第4メモリ
25 動作速度変更率調整部
26 補正量修正部
27 適用時間修正部
28 比較部
29 第3メモリ
T1~T6 補正回
O0~O4 動作速度変更率
A1~A6 補正量
A1'~A6' 動作速度の変更に伴い修正した補正量
A1't~A6't 適用時間をさらに修正した補正量
A1t~A6t 適用時間のみを修正した補正量
A1tP1 第一区間の補正量A1tのピーク値
A2P1 第一区間の補正量A2のピーク値
I1 第一区間の区間修正率
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8