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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置の帯電制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/08 20060101AFI20240709BHJP
   B41J 2/06 20060101ALI20240709BHJP
   B41J 2/09 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B41J2/08
B41J2/06
B41J2/09
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020097579
(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公開番号】P2021187133
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木佐貫 祥一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝磨
(72)【発明者】
【氏名】石井 英二
(72)【発明者】
【氏名】盛合 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 学
(72)【発明者】
【氏名】上田 文臣
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-289702(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0009523(US,A1)
【文献】特開平06-305147(JP,A)
【文献】特表2005-506227(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031510(WO,A1)
【文献】特開2020-026057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク液をインク液滴として噴出するインクノズルと、前記インク液滴を帯電させる帯電電極と、帯電した前記インク液滴に偏向をかける偏向電極正極、及び偏向電極負極と、印字に使われなかった前記インク液滴を捕集するガターと、前記帯電電極で前記インク液滴を帯電制御する制御手段と備えるインクジェット記録装置の帯電制御方法であって、
前記制御手段は、多段印字を行う場合には、
異なった段の夫々の同一列に対して、最下行から最上行に向けて、或いは最上行から最下行に向けて順番に印字するように帯電制御を実行すると共に、
前記順番に印字する過程で、少なくとも所定の同一の段の印字に使用されマージ、もしくはスキャッタが発生する恐れが大きいと見なされる2つのインク液滴と、この2つのインク液滴の前、或いは後に、他の段の印字に使用されるインク液滴が連続して存在している場合は、前記2つのインク液滴の間に、前記他の段の印字に使用されるインク液滴を挿入して、前記同一の段の前記2つのインク液滴に働くクーロン力の向きを変更する帯電制御を行う
ことを特徴とするインクジェット記録装置の帯電制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録装置の帯電制御方法であって、
前記マージ、もしくは前記スキャッタが発生する恐れが大きいと見なされる前記2つのインク液滴は、前記同一の段の隣接する印字ドットである
ことを特徴とするインクジェット記録装置の帯電制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット記録装置の帯電制御方法であって、
前記多段印字は、上段の印字文字と下段の印字文字からなる2段印字であり、前記2段印字を実施する場合、Nを前記上段の縦1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、Mを前記下段の縦1列に前記印字ドットを配置可能な位置の行数、xを任意の行、pを1度のスキャンで印字される前記印字ドットの数とし、N≧x、M≧x、かつN+M≧pの関係に定め、
前記縦1列の前記印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、前記上段に前記印字ドットを配置可能な位置はN個であり、前記上段にあるN個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にn_1~n_Nとし、また、前記下段に前記印字ドットを配置可能な位置はMであり、前記下段にあるM個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にm_1~m_Mとし、
前記上段と前記下段に存在する前記印字ドットを配置可能な位置内に、1度のスキャンでp個の位置に前記印字ドットを形成し、前記スキャンを任意回数繰り返すことで印字文字を形成すると共に、
(1)前記下段の行m_x、前記上段の行n_x、及び前記上段の行n_x+1において前記印字ドットを形成する場合に、前記上段の行n_x、及び前記上段の行n_x+1の前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記下段の行m_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(2)前記下段の行m_x、前記上段の行n_x-2、及び前記上段の行n_x-1において前記印字ドットを形成する場合に、前記上段の行n_x-2、及び前記上段の行n_x-1へ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記下段の行m_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(3)前記上段の行n_x、前記下段の行m_x+1、及び前記下段の行m_x+2において前記印字ドットを形成する場合に、前記下段の行m_x+1、及び前記下段の行m_x+2へ前記印字ドットを形成する前記2つのインク液滴の間に、前記上段の行n_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(4)前記上段の行n_x、前記下段の行m_x-1、及び前記下段の行m_xにおいて前記印字ドットを形成する場合に、前記下段の行m_x-1、及び前記下段の行m_xへ前記印字ドットを形成する前記2つのインク液滴の間に、前記上段のn_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する
といういずれか1つ、もしくは複数を組み合わせた帯電制御を実行する
ことを特徴とするインクジェット記録装置の帯電制御方法。
【請求項4】
請求項2に記載のインクジェット記録装置の帯電制御方法であって、
前記多段印字は、上段の印字文字、中段の印字文字、及び下段の印字文字からなる3段印字であり、前記3段印字を実施する場合、Nを前記上段の縦1列に前記印字ドットを配置可能な位置の行数、Mを前記中段の縦1列に前記印字ドットを配置可能な位置の行数、Qを前記下段の縦1列に前記印字ドットを配置可能な位置の行数、xを任意の行、pを1度のスキャンで印字される前記印字ドットの数とし、N≧x、M≧x、Q≧x、かつN+M+Q≧pの関係に定め、
前記縦1列の前記印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、前記上段に前記印字ドットを配置可能な位置はN個であり、前記上段にあるN個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にn_1~n_Nとし、前記中段に前記印字ドットを配置可能な位置はM個であり、前記中段にあるM個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にm_1~m_Mとし、前記下段に前記印字ドットを配置可能な位置はQ個であり、前記下段にあるQ個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にq_1からq_Qとし、
前記上段、前記中段、及び前記下段に存在する前記印字ドットを配置可能な位置内に、
1度のスキャンでp個の位置に前記印字ドットを形成し、前記スキャンを任意回数繰り返すことで印字内容を形成すると共に、
(1)前記中段の行m_x、前記上段の行n_x、前記上段の行n_x+1において前記印字ドットを形成する場合に、前記上段の行n_x、及び前記上段の行n_x+1へ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記中段の行m_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(2)前記下段の行q_x、前記上段の行n_x-2、前記上段の行n_x-1において前記印字ドットを形成する場合に、前記上段の行n_x-2、前記上段の行n_x-1へ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記下段の行q_xの前記印字ドットを形成するための前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(3)前記下段の行q_x、前記中段の行m_x、前記中段の行m_x+1において前記印字ドットを形成する場合に、前記中段の行m_x、及び前記中段の行m_x+1へ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記下段の行q_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(4)前記上段の行n_x、前記中段の行m_x-1、前記中段の行m_xにおいて前記印字ドットを形成する場合に、前記中段の行m_x-1、前記中段の行m_xへ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記上段の行n_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(5)前記中段の行m_x、前記下段の行q_x-1、前記下段の行q_xにおいて前記印字ドットを形成する場合に、前記下段の行q_x-1、前記下段の行q_xへ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記中段の行m_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を隣接するように挿入する、
(6)前記上段の行n_x、前記下段の行q_x+1、前記下段の行q_x+2において前記印字ドットを形成する場合に、前記下段の行q_x+1、前記下段の行q_x+2へ前記印字ドットを形成する前記2つのインク液滴の間に、前記上段の行n_xの前記印字ドットを形成するための前記インク液滴を隣接するように挿入する
といういずれか1つ、もしくは複数を組み合わせた帯電制御を実行する
ことを特徴とするインクジェット記録装置の帯電制御方法。
【請求項5】
請求項2に記載のインクジェット記録装置の帯電制御方法であって、
前記多段印字は、Y段の印字文字からなるY段印字であり、前記Y段印字を実施する場合、最上段の印字文字をY段目、最下段を1段目とし、任意の段をtとして、1≦t≦Yの関係に定め、
t段目において、縦1列の前記印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、前記印字ドットを配置可能な行数はYt個であり、前記t段目にあるYt個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にyt_1~yt_Ytとし、
Y段に印字する前記印字ドットを配置可能な位置内で、1度のスキャンでp個の位置に前記印字ドットを形成し、前記スキャンを任意回数繰り返すことで印字文字を形成すると共に、xを任意の行と定義したとき、
(1)Yt≧x、かつYt+1≧xとした時に、前記t段目のyt_x、t+1段目の行yt+1_x、前記t+1段目の行yt+1_x+1において前記印字ドットを形成する場合に、前記t+1段目の行yt+1_x、前記t+1段目の行yt+1_x+1へ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記t段目の行yt_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を挿入する、
(2)Yt≧x、かつYt-1≧xとした時に、前記t段目の行yt_x、t-1段目の行yt―1_x-1、t-1段目の行yt―1_xにおいて前記印字ドットを形成する場合に、前記t-1段目の行yt―1_x-1、前記t-1段目の行yt―1_xへ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記t段目の行yt_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を挿入する、
(3)Y1≧x、かつYY≧xとした時に、Y段目の行yY_x、1段目の行y1_x+1、前記1段目の行y1_x+2において前記印字ドットを形成する場合に、前記1段目の行y1_x+1、前記1段目の行y1_x+2へ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記Y段目の行yY_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を挿入する、
(4)Y1≧x、かつYY≧xとした時に、前記1段目の行y1_x、前記Y段目の行yY_x-2、前記Y段目の行yY_x-1において前記印字ドットを形成する場合に、前記Y段目の行yY_x-2、前記Y段目の行yY_x-1へ前記印字ドットを形成するための前記2つのインク液滴の間に、前記1段目の行y1_xの前記印字ドットを形成する前記インク液滴を挿入する
といういずれか1つ、もしくは複数を組み合わせた帯電制御を実行する
ことを特徴とするインクジェット記録装置の帯電制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置の帯電制御方法に係り、特に連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置の帯電制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置は、本体にインクを貯留するインク容器を設けており、そのインク容器のインクをインク供給ポンプによって印字ヘッドへ供給している。印字ヘッドに供給されたインクは、インクノズルから連続的に噴出され、インク液滴化される。インク液滴のうち、印字に使用するインク液滴には、帯電・偏向処理を行い、印字対象物の所望の印字位置へ飛翔させて文字を形成(以下、印字された文字を「印字文字」と定義する)し、印字に使用しないインク液滴には、帯電・偏向処理を行わず、ガターで捕集してインク回収ポンプによりインク容器へ戻す構成とされている。
【0003】
ところで、この種のインクジェット記録装置においては、例えば、特開2012-162036号公報(特許文献1)には、飛翔している帯電インク液滴同士の合体、及びクーロン力による反発を低減するために、帯電インク液滴が偏向される方向に沿って縦に並ぶドットの縦配列に無帯電インク液滴を付加し、先頭に印字する帯電インク液滴と次に印字する帯電インク液滴の間に無帯電インク液滴を介在させることが提案されている。
【0004】
また、例えば、特表2005-506227号公報(特許文献2)には、着目したインク液滴における前後数個のインク液滴の帯電の有無、及びそれらの帯電量を考慮して、着目したインク液滴の印字対象物への着滴高さが所望の位置になるように帯電量を決定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-162036号公報
【文献】特表2005-506227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置は、1秒間に数万個のインク液滴を吐出して印字を行っており、このため、高速な印字が可能である。一方で、飛翔している帯電インク液滴に対しては、インク液滴の帯電に起因するクーロン力や、インク液滴の径と周囲の流れ場に応じた空気抗力が働いている。そのため、近接して飛翔している複数の帯電インク液滴に着目した場合、「マージ」、もしくは「スキャッタ」という2種類の印字不良が発生する恐れがある。
【0007】
マージは、飛翔中に接近した帯電インク液滴同士が衝突して合体し、大径化して印字対象物に着滴する現象である。また、スキャッタは、帯電インク液滴同士が飛翔中に接近した場合、クーロン力の影響で、2つの帯電インク液滴の飛翔方向が変化し、印字対象物上で形成された印字ドットの間隔が不自然に離れる現象である。
【0008】
特許文献1には、飛翔している帯電インク液滴のマージ、もしくはスキャッタの発生を低減する制御方法が示されている。特許文献1に記載されている制御方法においては、縦に並ぶ印字ドットの縦配列に無帯電インク液滴を挿入するものである。このため、無帯電インク液滴を新規に挿入した分だけ、印刷速度が低下する問題があった。また、特許文献1に記載されている制御方法では、印字される先頭の帯電インク液滴と、これに続く次に印字する帯電インク液滴の間に発生するマージ、及びスキャッタに着目している。そのため、その他の帯電インク液滴で発生するマージ、もしくはスキャッタは低減できない課題がある。
【0009】
また、特許文献2には、着目したインク液滴の前後数個のインク液滴の帯電の有無、及び帯電量を考慮して、着目したインク液滴の着滴高さが所望の位置になるよう帯電量を決定する制御方法が示されている。特許文献2に記載されている制御方法では、帯電するインク液滴の順序は変更されず、帯電インク液滴の着滴高さの調整のために帯電量の変更のみが行われている。そのため、帯電インク液滴の飛翔軌道の変化は微小であり、帯電インク液滴同士の接近が避けられず、マージ、もしくはスキャッタの低減は困難である。
【0010】
特に、高さ方向に印字文字を複数積み重ねて印字する多段印字方式を実行する場合は、特許文献1の方法では印字速度が遅くなり、また、特許文献2の方法ではマージ、もしくはスキャッタを生じる恐れが大きい。
【0011】
以下では、「段」とは、高さ方向の印字文字を意味し、この印字文字の積み重ねが2個であれば2段印字、3個であれば3段印字、…Y個であればY段印字となる。また、これらをまとめて多段印字と定義する。
【0012】
本発明の目的は、多段印字を行う場合において、印字速度を低下させることなく、また、マージ、及びスキャッタの発生を抑制できるインクジェット記録装置の帯電制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の特徴は、多段印字を行う場合に、少なくとも所定の同一の段でマージ、もしくはスキャッタが発生する恐れが大きいと見なされる2つの帯電インク液滴の間に、他の段の印字に使用される帯電インク液滴を挿入して、同一の段の2つの帯電インク液滴に働くクーロン力の向きを変更する帯電制御を行う、ところにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多段印字時に印字速度を低下させることなく、かつマージ、或いはスキャッタを発生させることなく印字が可能なインクジェット記録装置の帯電制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】インクジェット記録装置の構成と、使用方法を説明する概略図である。
図2】インクジェット記録装置による印字原理を説明する概略図である。
図3】2段印字時の印字マトリクスを説明する説明図である。
図4】従来の2段印字制御方式の帯電制御を説明する説明図である。
図5図4で示した2段印字制御方式を適用した時の、偏向電極内部におけるインク液滴の飛翔状態を説明する説明図である。
図6図4で示した2段印字制御方式を適用した時の、偏向電極外部におけるインク液滴の飛翔状態を説明する説明図である。
図7】本発明の第1の実施形態における2段印字制御方式の帯電制御を説明する説明図である。
図8】第1の実施形態のインク液滴帯電制御による偏向電極内部におけるインク液滴の飛翔状態を説明する説明図である。
図9図4で示した従来の2段印字制御方式と異なる従来の2段印字制御方式による帯電制御を説明する説明図である。
図10図9で示した2段印字制御方式を適用した時の、偏向電極内部におけるインク液滴の飛翔状態を説明する説明図である。
図11】本発明の第2の実施形態における2段印字制御方式の帯電制御を説明する説明図である。
図12】3段印字時の印字マトリクスを説明する説明図である。
図13】従来の3段印字制御方式の帯電制御を説明する説明図である。
図14】本発明の第3の実施形態における3段印字制御方式の帯電制御を説明する説明図である。
図15】第3の実施形態のインク液滴帯電制御による偏向電極内部におけるインク液滴の飛翔状態を説明する説明図である。
図16図13で示した従来の3段印字制御方式と異なる従来の3段印字制御方式による帯電制御を説明する説明図である。
図17】本発明の第4の実施形態における3段印字制御方式の帯電制御を説明する説明図である。
図18】第4の実施形態のインク液滴帯電制御による偏向電極内部におけるインク液滴の飛翔状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明が適用される連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置の構成と使用方法について、図1を用いて簡単に説明する。
【0018】
図1において、インクジェット記録装置本体1に備わるディスプレイ2の入力部を用いて、印字内容を決定する。決定した印字内容は、印字ヘッド4からインク液滴を連続的に吐出することで、ベルトコンベア等の搬送手段5で搬送される印字対象物100へと印字される。インクジェット記録装置本体1は、ケーブル3を介して、印字ヘッド4へのインク供給と動作制御を実施する。
【0019】
次に、本発明が適用される連続噴射式荷電制御型のインクジェット記録装置の原理について、図2を用いて説明する。
【0020】
図2に、インクジェット記録装置の印字原理を模式的に示している。図2において、インク容器101に貯留されているインク液109は、インク供給ポンプ102で加圧されてインクノズル103に供給される。インクノズル103に設置された圧電素子104に、周期的に電圧を加えることで、インクノズル103内のインクが励振される。励振されたインクは、インクノズル103よりインク柱110として吐出されたのち、インク液滴となる。
【0021】
印字に使用するインクに対しては、インクの液滴化と同時に、帯電電極105によって帯電が行われる。帯電インク液滴111は、偏向電極正極106、及び偏向電極負極107間に生じる電場によって偏向されたのち、印字対象物100に着滴する。一方、印字に使用しないインク液滴112は帯電されず、この無帯電インク液滴112は、偏向が行われないため、ガター108で回収されて再使用される。
【0022】
図1に示すインクジェット記録装置本体1には、図2に示したインク容器101、及びインク供給ポンプ102等が格納されている。また、印字ヘッド4には、図2に示したインクノズル103、帯電電極105、偏向電極正極106、偏向電極負極107、及びガター108等が格納されている。
【0023】
次に、インクジェット記録装置において2段印字を実行する場合に、インク液滴に対して行う帯電電極105による帯電制御を図3、及び図4を用いて説明する。
【0024】
帯電電極105の帯電制御は、インクジェット記録装置本体1に備えられた制御手段(図示せず)によって実行される。制御手段は、マイクロコンピュータを主要な制御要素としており、入力部で入力された印字内容にしたがって、帯電させるインク液滴の選択や、その帯電量を制御する帯電制御機能を備えている。したがって、以下で説明するインク液滴の帯電制御は、マイクロコンピュータが備える帯電制御機能で実行される。
【0025】
図3に、数字の「9」、及びアルファベット文字の「t」を2段印字する場合の印字マトリクスを示している。ここで、「段」とは、高さ方向の印字文字の積み重ねを意味しており、図3では2つの印字文字が、下段と上段に配置される2段の例である。
【0026】
通常、インクジェット記録装置が、インク液滴によって形成する印字ドット113の位置は、印字マトリクスに基づき決定する。図3では、列数が「5列」と、行数が「7行」の印字ドットで形成された文字が、2段に積み重なることで、2段印字を形成している。ただし、2段印字が行われる場合に用いられる印字マトリクスは、5列と7行の印字ドットで構成される印字文字に限定されるものではない。以下では5列と7行の印字ドットで構成された印字文字を、「5×7フォント」の印字文字と表記する。
【0027】
また、上段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数をN個、下段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数をM個とすると、5×7フォントの2段印字の場合はN=7、かつM=7である。更に、上段の1列の印字ドットを配置可能な位置(行)を、下から順にn_1~n_7、また下段の1列の印字ドットを配置可能な位置(行)を、下からm_1~m_7とする。
【0028】
また、以下では、上段の印字文字を形成するインク液滴を「上段インク液滴」、下段の印字文字を形成するインク液滴を「下段インク液滴」として表記する。
【0029】
図4に、図3に示した印字マトリクスに従って印字する場合の、従来の2段印字制御方式を示している。インクジェット記録装置では、1列のスキャンを繰り返すことにより、印字内容を形成する。5×7フォントの2段印字を行う場合では、1列をスキャンする際に14個のインク液滴のみを用いることで、無駄なインク液滴を生成することなく印字可能である。
【0030】
また、2段印字を実施する場合は、上下段に存在する印字ドットを、下段の「最下行」から順に、上下段交互に印字する制御を実行する。この制御を用いて、例えば、図3に示した印字マトリクスに従って印字を行う場合は、図4に示したように、14個のインク液滴の中で、順番に下段インク液滴116、上段インク液滴115、及び上段インク液滴114を、帯電電極105によって帯電インク液滴として印字を実行する。一方で、印字マトリクス上に印字ドットがない場合は、インク液滴を帯電させないでガター108で回収する。
【0031】
次に、上述した2段印字制御方式を実施する場合の課題を図4図6を用いて説明する。図4に示した印字マトリクスにしたがって1列目の印字を行う場合においては、上段の印字文字を形成する上段インク液滴115、及び上段インク液滴114が飛翔中に接近し、スキャッタが発生していた。その理由は以下に示す通りである。
【0032】
図4に示したように、2段印字制御方式を用いて印字を行う場合は、例えば、1列目の下段段インク液滴116、及び上段インク液滴115は互いに隣接している。また、上段インク液滴115と上段インク液滴114の間には無体電インク液滴が1個挿入されている。この無帯電インク液滴は、上段インク液滴115と上段インク液滴114の間の距離を確保するためである。
【0033】
そして、飛翔しているインク液滴には、インク液滴の帯電量とインク液滴間の距離に応じて、クーロン力が働いている。或る着目する2つのインク液滴が点電荷であると仮定すると、クーロン力Fは、F={1/(4πε)}・(Q・Q)/rで表される。ここで、「ε」は真空中の誘電率(F/m)、「Q」、「Q」は着目する2つのインク液滴の夫々の帯電量(C)、及び「r」は2つのインク液滴間の距離(m)である。
【0034】
ここで、或る1つの飛翔している帯電インク液滴に着目する。着目した帯電インク液滴は、着目した帯電インク液滴以外の全ての帯電インク液滴から、インク液滴間の距離、及び帯電量に応じたクーロン力を受ける。クーロン力は、インク液滴間距離の二乗に反比例している。そのため、着目したインク液滴と隣接して帯電されたインク液滴のように、着目したインク液滴の近傍を飛翔する帯電インク液滴からのクーロン力の影響をより受け易くなる。
【0035】
図5に、偏向電極正極106、及び偏向電極負極107内の或る領域117を下段インク液滴116、上段インク液滴115、及び上段インク液滴114が飛翔している様子を模式的に示している。
【0036】
尚、領域117は、偏向電極のノズル側の位置で、インク液滴116~114の偏向が始まった付近を示している。図5のような領域を切り取ると、無帯電インクも存在しているが、図5では無帯電インクの表示を省略しており、以下に説明する例(図8図10図15、及び図18)も同様である。
【0037】
また、図5、並びに後述する図6図8図10図15、及び図18は、説明のため飛翔中の複数のインク液滴の位置関係を模式的に示した図であり、インク液滴の径、及びインク液滴間の距離等を厳密に描写したものではない。
【0038】
偏向電極の領域117において、隣接する下段インク液滴116、及び上段インク液滴115の間には、距離が短いため強いクーロン力が働いている。このため、上段インク液滴115では、インク液滴の飛翔方向(正方向と定義する)に対して逆の負方向にクーロン力が働くことになる。これにより、上段インク液滴115が減速し、上段インク液滴115が形成する後流の領域内に上段インク液滴114が進入する。その結果、上段インク液滴114に働く空気抗力が小さくなり、上段インク液滴114の減速は弱まる。言い換えれば、上段インク液滴114の速度低下が少なくなる。
【0039】
図6に、偏向電極正極106、及び偏向電極負極107を通過した後の領域118を、上段インク液滴115、及び上段インク液滴114が飛翔している様子を示している。上述した通り、上段インク液滴114の速度低下が少ないので、上段インク液滴114と上段インク液滴115は、領域118において接近することで、クーロン力によって上下方向に反発して、正規の位置に着滴しなくなり、結果的にスキャッタが発生する。尚、スキャッタが発生する恐れが大きいと見做される上下段の印字マトリクスは、数字「9」と文字「t」に限るものではない。
【0040】
クーロン力によるスキャッタが発生する原因となる、「同一の段」の隣接する印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴と、これら2つの帯電インク液滴の前で隣接する「他の段」の印字ドットを形成する帯電インク液滴による、1列の中の3つの印字ドットの配置位置(配置パターン)は、「x」を任意の各行とすると、
(1-1)m_x、 n_x、 n_x+1
(1-2)m_x、 n_x-2、 n_x-1
(1-3)n_x、 m_x+1、 m_x+2
(1-4)n_x、 m_x-1、 m_x
のいずれかである。
【0041】
尚、印字ドットの配置位置(1-1)、(1-2)は、上段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合であり、印字ドットの配置位置(1-3)、(1-4)は、下段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合である。
【0042】
ここで、上述した4つの印字ドットの配置位置のパターンは、図3の1列目の例である。これ以外に印字ドットが4個以上の場合でも、上述したパターンに一致する印字ドットを有する印字文字であれば、同様にスキャッタ、もしくはマージの発生する恐れが高い。
【0043】
図4に示した印字マトリクスでは、m_5、n_5、及びn_6に印字ドットが存在しているため、上述の印字ドットの配置位置(1-1)に該当する。また、上述の印字ドット配置位置に印字ドットが存在する場合、同一の段に着滴するインク液滴の飛翔軌跡が類似しており、同一の段に着滴するインク液滴同士のクーロン力による反発が小さければ、マージが発生する。
【0044】
このように、同一の段に隣り合う2つの印字ドットを印字する場合、2つのインク液滴の前に他の段のインク液滴が隣接すると、同一の段の2つのインク液滴が飛翔中に接近しやすい状況となり、スキャッタ、或いはマージを生じる。
【0045】
以上の課題を解決する、本発明の第1の実施形態におけるインク液滴への帯電制御を、図7、及び図8を用いて説明する。この帯電制御は、上述したようにマイクロコンピュータの帯電制御機能によって実行されている。この帯電制御機能は、従来の帯電制御機能と同じであるが、要は上段と下段に印字する帯電インク液滴の帯電順序を変更する制御を行うものである。
【0046】
つまり、列毎の印字ドットの印字パターンを読み出し、読み出された印字すべき印字パターンが、上述した4つの印字パターンのいずれかを含む場合は、スキャッタ等を生じる恐れがあるので、以下に示す帯電制御を実行するものである。尚、これ以外の印字パターンは通常の順序で印字が実行される構成とされていてもよい。
【0047】
図7に、本発明の第1の実施形態における、インク液滴の帯電順序を示している。第1の実施形態においては、文字「t」の1列目の印字ドットを形成するための下段インク液滴119が、数字「9」の1列目の印字ドットを形成する上段インク液滴114、及び上段インク液滴115の間に隣接して連続して存在するように帯電制御されている。図7に示すように、連続して帯電インク液滴を生成する帯電制御だと、単位時間あたりの帯電インク液滴の生成量は従来の帯電制御と変わらない。そのため、印字速度の維持が可能となる。
【0048】
尚、図7の例では、上段インク液滴115⇒下段インク液滴119⇒上段インク液滴114の順で連続して帯電されているが、上段インク液滴115と下段インク液滴119の間、或いは、下段インク液滴119と上段インク液滴114の間に、支障のない範囲で無帯電インクを挿入することもできる。この無帯電インクの挿入により同段に着液する帯電インク液滴間の距離を更に広げて、帯電インク液滴間のクーロン力の相互作用を回避することができる。
【0049】
このように、同一の段の2つのインク液滴の間に隣接して他の段の印字ドットを形成する1つのインク液滴を挿入するということは、図7にあるように、連続して帯電インク液滴を生成して隣接させる場合や、無帯電インク液滴を挿入して帯電インク液滴を生成して隣接させる場合を含むものであり、以下の他の実施形態でも同様である。
【0050】
図8に、第1の実施形態において、偏向電極正極106、及び偏向電極負極107内の領域120を、インク液滴114、115、及び119が飛翔している様子を示している。図8のように、偏向電極内部において、上段インク液滴114と下段インク液滴119、並びに上段インク液滴115と下段インク液滴119が、矢印に示すようにそれぞれクーロン力によって反発する。
【0051】
上段インク液滴115は、インク液滴の飛翔方向側の正方向にクーロン力が働き、上段インク液滴114はインク液滴の飛翔方向の負方向にクーロン力が働くため、両者は上段側に向かうにしても上段インク液滴114、及び上段インク液滴115の飛翔中の接近が回避される。これによって、上段インク液滴114、及び上段115に着滴するインク液滴では、マージ、或いはスキャッタが発生しない。
【0052】
尚、下段インク液滴119は下段側に向かうので、上段インク液滴114、及び上段インク液滴115との間で、マージ或いはスキャッタを生じることはない。
【0053】
このように、同一の段に隣接した2つの印字ドットを印字する場合、2つの帯電インク液滴の間に、他の段の印字ドットを形成する1つの帯電インク液滴を挿入することで、図8に示すような理由で、同一の段の2つの帯電インク液滴の間の距離を長くすることができる。これによって、隣接した印字ドットを形成する飛翔インク液滴同士にスキャッタやマージが発生することを抑制できる。
【0054】
上述した第1の実施形態まとめると次のように定義できる。先ず、上段と下段に印字文字を印字する2段印字を実行する場合において、「N」を上段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「M」を下段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「x」を任意の行、「p」を1度のスキャンで印字される印字ドットの数とし、N≧x、M≧x、かつN+M≧pの関係に定めるものとする。
【0055】
上述の関係から、帯電インク液滴を用いて、縦1列の印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、上段に印字ドットを配置可能な位置はN個であり、上段にあるN個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にn_1~n_Nとする。また、スキャンを行う場合に、下段に印字ドットを配置可能な位置はM個であり、下段にあるM個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にm_1~m_Mとする。
【0056】
そして、上下段に存在する印字ドットを配置可能な位置内に、1度のスキャンでp個の位置に印字ドットを形成し、このスキャンを任意回数繰り返すことで印字文字を形成する。以上を前提にして、次のように印字ドットを形成するインク液滴の帯電制御を実行する。
【0057】
(1-1) 下段の行m_x、上段の行n_x、及び上段の行n_x+1において印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x、及び上段の行n_x+1の印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0058】
(1-2) 下段の行m_x、上段の行n_x-2、及び上段の行n_x-1において印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x-2、及び上段の行n_x-1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0059】
このように、上段インク液滴⇒下段インク液滴⇒上段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの上段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、これらによって形成する印字ドットでは、マージ、或いはスキャッタが発生しないようになる。
【0060】
以上の例は、上段に2つの印字ドットを印字する場合であるが、以下のように下段に2つの印字ドットを印字する場合も同様である。
【0061】
(1-3) 上段の行n_x、下段の行m_x+1、及び下段の行m_x+2において印字ドットを形成する場合に、下段の行m_x+1、及び下段の行m_x+2へ印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴の間に、上段の行n_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0062】
(1-4) 上段の行n_x、下段の行m_x-1、及び下段の行m_xにおいて印字ドットを形成する場合に、下段の行m_x-1、及び下段の行m_xへ印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴の間に、上段のn_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0063】
このように、下段インク液滴⇒上段インク液滴⇒下段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの下段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、マージ、或いはスキャッタが発生しないようになる。
【実施例2】
【0064】
次に、本発明の第2の実施形態を、図9から図11を用いて説明する。図9に、第1の実施形態で示した2段印字制御方式(下段の最下行から印字)とは異なる、第2の実施形態となる2段印字制御方式を示している。
【0065】
本実施形態では図9のように、上下段に存在する印字ドットを、上下段交互に印字する場合に、上段の「最上行」に存在する印字ドットから順に印字する点が異なっている。ただし、印字マトリクス上に印字ドットが存在しない場合、無帯電インク液滴を挿入する点は、第1の実施形態で示した2段印字制御方式と同様である。
【0066】
次に、上述の2段印字制御方式を実施する場合における、課題を図9、及び図10を用いて説明する。図9に示したように1列目の印字を行う場合、上段インク液滴203、上段インク液滴202、下段インク液滴201の順で印字を行うが、上段インク液滴203、及び上段インク液滴202が飛翔中に接近することで、スキャッタが発生していた。その理由は以下に示す通りである。尚、上段インク液滴203、上段インク液滴202の間には無帯電インク液滴が挿入されている。この無帯電インク液滴は、本来m_6に着液しうるものであるが、図9の印字マトリクス内のm_6には印字ドットが配置されないため、無帯電インク液滴となる。
【0067】
図10に、偏向電極正極106、及び偏向電極負極107内の領域204を上段インク液滴203、上段インク液滴202、及び下段インク201が飛翔している様子を模式的に示している。
【0068】
先ず、偏向電極内部において、隣接した下段インク液滴201、及び上段インク液滴202の間には、矢印で示すクーロン力が働いている。上段インク液滴202では、インク液滴の飛翔方向と同じ正方向へ力が働いている。一方、上段インク液滴203は、インク液滴の飛翔方向とは逆の負方向に空気抗力をうけて減速する。
【0069】
更に、上段インク液滴203は後流を形成しており、後流領域内に上段インク液滴202が進入すると、上段インク液滴202に働く空気抗力が小さくなり、インク液滴202の減速は弱まる。したがって、インク液滴の飛翔が進行するにつれて、上段インク液滴202と上段インク液滴203は次第に接近し、クーロン力が大きくなってスキャッタが発生する。
【0070】
尚、スキャッタが発生する上下段の印字マトリクスは、数字「9」と文字「t」に限るものではない。また、第1の実施形態と同様に、以下に示す印字ドット配置位置(2-1)~(2-4)に印字ドットが存在する印字マトリクスであれば、スキャッタが発生する可能性が高い。
【0071】
クーロン力によるスキャッタが発生する原因となる、「同一の段」の隣り合う印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴と、これら2つの帯電インク液滴の後で隣接する「他の段」の印字ドットを形成する帯電インク液滴による、1列の中の3つの印字ドットの配置位置は、「x」を任意の各行とすると、
(2-1)n_x、 n_x+1、 m_x
(2-2)n_x-2、 n_x-1、 m_x
(2-3)m_x+1、 m_x+2、 n_x
(2-4)m_x-1、 m_x、 n_x
のいずれかである。この配置パターンは実施例1と基本的には同様である。
【0072】
尚、第1の実施形態と同様に、印字ドットの配置位置(2-1)、(2-2)は、上段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合であり、印字ドットの配置位置(2-3)、(2-4)は、下段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合である。
【0073】
ここで、上述した4つの印字ドットの配置位置のパターンは、図9の1列目の例である。これ以外に印字ドットが4個以上の場合でも、上述したパターンに一致する印字ドットを有する印字文字であれば、同様にスキャッタ、もしくはマージの発生する恐れが高い。
【0074】
図9に示した印字マトリクスでは、n_5、n_6、及びm_5に印字ドットが存在しているため、上述の印字ドット配置位置(2-1)に該当する。また、上述の印字ドット配置位置に印字ドットが存在する場合、同一の段に着滴するインク液滴の飛翔軌跡が類似しており、同一の段に着滴するインク液滴同士のクーロン力による反発が小さければ、マージが発生する。
【0075】
このように、1つの段に隣り合う2つの印字ドットを印字する場合、2つのインク液滴の後に他の段のインク液滴が隣接すると、同一の段の2つのインク液滴の間で相互にクーロン力が影響してスキャッタ或いはマージを生じる。
【0076】
以上の課題を解決する、本発明の第2の実施形態になるインク液滴の帯電制御を、図8、及び図11を用いて説明する。この帯電制御は、第1の実施形態と同様にマイクロコンピュータの帯電制御機能によって実行されている。つまり、列毎の印字ドットの印字パターンを読み出し、読み出された印字すべき印字パターンが、上述した4つの印字パターンのいずれかを含む場合は、スキャッタ等を生じる恐れがあるので、以下に示す帯電制御を実行するものである。尚、これ以外の印字パターンは通常の順序で印字が実行される構成とされている。
【0077】
図11に、本発明の第2の実施形態における、インク液滴の帯電順序を示している。第2の実施形態においては、文字「t」の1列目の印字ドットを形成するための下段インク液滴205が、上段インク液滴203、及び上段インク液滴202の間に隣接し、連続して存在するように帯電されている。
【0078】
第2の実施形態において、偏向電極内部での帯電インク液滴の飛翔位置関係は、図8で示したものと類似している。上段インク液滴202が上段インク液滴114に、上段インク液滴203が上段インク液滴115に、下段インク液滴205が下段インク液滴119に、それぞれ対応している。
【0079】
上段インク液滴203と下段インク液滴205、並びに上段インク液滴202と下段インク液滴205が、矢印に示すようにそれぞれクーロン力によって反発する。
【0080】
上段インク液滴203はインク液滴の飛翔方向側の正方向にクーロン力が働き、上段インク液滴202はインク液滴の飛翔方向の負方向にクーロン力が働くため、両者は上段側に向かうにしても、上段インク液滴203、及び上段インク液滴202の飛翔中の接近が回避される。これによって、上段インク液滴202、及び上段203では、マージ、及びスキャッタが発生しない。
【0081】
尚、下段インク液滴205は下段側に向かうので、上段インク液滴202、及び上段インク液滴205との間に、マージやスキャッタが生じることはない。
【0082】
この第2の実施形態によっても、上段インク液滴⇒下段インク液滴⇒上段インク液滴の順で帯電され、上段インク液滴203、及び上段インク液滴202の飛翔中の接近が回避され、マージ、及びスキャッタが発生しない。
【0083】
また、第2の実施形態のような2段印字制御方式を適用することで、印字対象物搬送方向における、1列の印字ドットの着滴位置のずれが軽減可能である。その理由は以下の通りである。
【0084】
ある1列をスキャンする場合に用いるインク液滴の飛翔を比較すると、印字対象物上部に着滴するインク液滴ほど、偏向量が大きくなる。このため、印字対象物上部に着滴するインク液滴ほど、ノズルから吐出されて、印字対象物に着滴するまでの飛翔時間が長い。
【0085】
第2の実施形態のような2段印字制御方式では、飛翔時間の長いインク液滴から順次生成され、印字される。これにより、1列のスキャン時の、各インク液滴の着滴時間差は各インク液滴の生成時間差によって軽減される。そのため、着滴時間差内での印字対象物の搬送距離が小さくなる。以上の理由により、印字対象物の搬送方向における、1列の印字ドットの着滴位置のずれが軽減される。
【0086】
このように、同一の段に隣接した2つの印字ドットを印字する場合、2つの帯電インク液滴の間に、他の段の印字ドットを形成する1つの帯電インク液滴を挿入することで、図8に示すような理由で、同一の段の2つのインク液滴が飛翔中に取る距離を長くすることができる。これによって、スキャッタやマージが発生することを抑制できる。
【0087】
また、上述した第2の実施形態まとめると次のように定義できる。先ず、上段と下段に印字文字を印字する2段印字を実行する場合において、「N」を上段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「M」を下段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「x」を任意の行、「p」を1度のスキャンで印字される印字ドットの数とし、N≧x、M≧x、かつN+M≧pの関係に定める。
【0088】
上述の関係から、帯電インク液滴を用いて、縦1列の印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、上段に印字ドットを配置可能な位置はN個であり、上段にあるN個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にn_1~n_Nとする。また、スキャンを行う場合に、下段に印字ドットを配置可能な位置はM個であり、下段にあるM個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にm_1~m_Mとする。
【0089】
そして、上下段に存在する印字ドットを配置可能な位置内に、1度のスキャンでp個の位置に印字ドットを形成し、このスキャンを任意回数繰り返すことで印字文字を形成する。以上を前提にして、次のように印字ドットを形成するインク液滴の帯電制御を実行する。
【0090】
(2-1) 上段の行n_x、上段の行n_x+1、及び下段の行m_xにおいて印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x、及び上段の行n_x+1の印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0091】
(2-2) 上段の行n_x-2、上段の行n_x-1、及び下段の行m_xにおいて印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x-2、及び上段の行n_x-1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0092】
このように、上段インク液滴⇒下段インク液滴⇒上段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの上段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、マージ、或いはスキャッタが発生しないようになる。
【0093】
以上の例は、上段に2つの印字ドットを印字する場合であるが、以下のように下段に2つの印字ドットを印字する場合も同様である。
【0094】
(2-3) 下段の行m_x+1、下段の行m_x+2、及び上段の行n_xにおいて印字ドットを形成する場合に、下段の行m_x+1、及び下段の行m_x+2へ印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴の間に、上段の行n_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0095】
(2-4) 下段の行m_x-1、下段の行m_x、及び上段の行n_xにおいて印字ドットを形成する場合に、下段の行m_x-1、及び下段の行m_xへ印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴の間に、上段のn_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0096】
このように、下段インク液滴⇒上段インク液滴⇒下段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの下段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、マージ、或いはスキャッタが発生しないようになる。
【0097】
このように、下段から上段に向けて印字を行う第1の実施形態、及び上段から下段に向けて印字を行う第2の実施形態においては、少なくとも所定の同一の段(上段、或いは下段)でマージ、或いはスキャッタが発生する恐れが大きいと見なされる2つの帯電インク液滴の間に、他の段(下段、或いは上段)の印字に使用される帯電インク液滴を挿入して、所定の同一の段の2つの帯電インク液滴に働くクーロン力の向きを変更するようにインク液滴の帯電制御を行うようにしている。
【0098】
これによれば、マージやスキャッタが発生する恐れがある2つのインク液滴の飛翔中の接近が回避されるので、多段印字時に印字速度を低下させることなく、かつマージ、及びスキャッタを発生させることなく印字可能な、インクジェット記録装置を提供することができる。
【実施例3】
【0099】
次に、本発明の第3の実施形態を、図12から図14を用いて説明する。まず、インクジェット記録装置において3段印字を行う場合に、インク液滴に対して行う帯電制御を、図12、及び図13を用いて説明する。3段印字を実施する場合は、上中下段に存在する印字ドットを、下段の「最下行」から順に中段、上段へと印字し、スキャン毎にこれを繰り返して印字する制御を実行する。
【0100】
図12に、数字「9」、文字「t」、及び数字「4」を3段印字する場合の印字マトリクスを示している。図12では、5×7フォントの印字が、3段に積み重なることで、3段印字を形成している。ただし、3段印字が行われる場合に用いられる印字マトリクスは、5×7フォントの印字に限定されるものではない。
【0101】
3段印字において、上段の1列に印字ドットを配置可能な行数をN個、中段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数をM個、下段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数をQ個とすると、5×7フォントの3段印字の場合N=7、M=7、かつQ=7である。更に、上段の1列の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にn_1~n_7、中段の1列の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にm_1~m_7、また、下段の1列の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にq_1からq_7とする。
【0102】
図13に、図12に示した印字マトリクスに従って印字する場合の、従来の3段印字制御方式を示す。5×7フォントの3段印字を行う場合、1列をスキャンする際に21個のインク液滴のみを用いることで、無駄なインク液滴を生成することなく印字可能である。また、3段印字を実施する場合は、下段の印字ドットの最下行を起点として、下段、中段、上段の順に印字ドットを印字した後、再び下段から順に、印字ドットを印字することを繰り返している。
【0103】
この制御を用いて、例えば、図12に示した印字マトリクスに従って印字を行う場合は、図13のように、21個のインク液滴中、下段インク液滴305、下段インク液滴304、中段インク液滴303、及び上段インク液滴302、上段インク液滴301の順序で帯電インク液滴として、印字を行う。一方で、印字マトリクス上に印字ドットがない場合は、2段印字制御方式の場合と同様に、インク液滴を帯電させていない。
【0104】
ここで、下段インク液滴305、304は隣接する印字ドットであるが、前後に他の段のインク液滴が隣接して生成されていないこと、及び無帯電インク液滴が2つ挿入されていることから、下段インク液滴305、304の間にスキャッタやマージは発生しづらくなっている。
【0105】
次に、上述の3段印字制御方式を実施する場合の課題を図4図5図6図12、及び図13を用いて説明する。図13に示したように1列目の印字を行う場合、上段インク液滴302、及び上段インク液滴301が飛翔中に接近し、スキャッタが発生していた。その理由は以下に示す通りである。
【0106】
図13に示したように、上述の3段印字制御方式を用いて印字を行う場合は、中段インク液滴303、及び上段インク液滴302は隣接している。また、第3の実施形態における帯電インク液滴の飛翔位置関係は、図4図5、及び図6に示したものと類似している。上段インク液滴301は上段インク液滴114に、上段インク液滴302は上段インク液滴115に、中段インク液滴303は下段インク液滴116に、それぞれ対応している。
【0107】
そのため、偏向電極内部において、中段インク液滴303、及び上段インク液滴302の間には、距離が短いので大きなクーロン力が働いている。上段インク液滴302では、インク液滴の飛翔方向とは逆の負方向にクーロン力が働いている。これにより、上段インク液滴302が減速し、上段インク液滴302が形成する後流の領域内に上段インク液滴301が進入する。
【0108】
その結果、上段インク液滴301に働く空気抗力が小さくなり、上段インク液滴301の減速は弱まる。したがって、インク液滴の飛翔が進行するにつれて、上段インク液滴302と上段インク液滴301は次第に接近し、クーロン力が大きくなってスキャッタが発生する。尚、スキャッタが発生する3段の印字マトリクスは、数字「9」、文字「t」、及び数字「4」に限るものではない。
【0109】
クーロン力によるスキャッタが発生する原因となる、「同一の段」の隣り合う印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴と、これら2つの帯電インク液滴の前で隣接す「他の段」の印字ドットを形成する帯電インク液滴による、1列の中の3つの印字ドットの配置位置(配置パターン)は、「x」を任意の各行とすると、
(3-1)m_x、 n_x、 n_x+1
(3-2)q_x、 n_x-2、 n_x-1
(3-3)q_x、 m_x、 m_x+1
(3-4)n_x、 m_x、 m_x-1
(3-5)m_x、 q_x、 q_x-1
(3-6)n_x、 q_x+1、 q_x+2
のいずれかである。
【0110】
尚、印字ドットの配置位置(3-1)、(3-2)は、上段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合であり、印字ドットの配置位置(3-3)、(3-4)は、中段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合であり、印字ドットの配置位置(3-5)、(3-6)は、下段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合である。
【0111】
ここで、上述した6つの印字ドットの配置位置の配置パターンは、図13の1列目の例である。これ以外に印字ドットが4個以上の場合でも、上述した配置パターンに一致する印字ドットを有する印字文字であれば、同様にスキャッタ、もしくはスキャッタの発生する恐れが高い。
【0112】
図12に示した印字マトリクスでは、m_5、n_5、及びn_6に印字ドットが存在しているため、上述の(3-1)の印字ドット配置位置に該当する。また、上述の印字ドット配置位置に印字ドットが存在する場合、同一の段に着滴するインク液滴の飛翔軌跡が類似しており、同一の段に着滴するインク液滴同士のクーロン力による反発が小さければ、マージが発生する。
【0113】
このように、1つの段に隣り合う2つの印字ドットを印字する場合、2つのインク液滴の前に他の段のインク液滴が隣接すると、同一の段の2つのインク液滴の間で相互にクーロン力が影響してスキャッタ、或いはマージを生じる。
【0114】
以上の課題を解決する、本発明の第3の実施形態におけるインク液滴への帯電制御を、図14、及び図15を用いて説明する。この帯電制御は、第1の実施形態と同様にマイクロコンピュータの帯電制御機能によって実行されている。つまり、列毎の印字ドットの印字パターンを読み出し、読み出された印字すべき印字パターンが、上述した6つの印字パターンのいずれかを含む場合は、スキャッタ等を生じる恐れがあるので、以下に示す帯電制御を実行するものである。尚、これ以外の印字パターンは通常の順序で印字が実行される構成とされていてもよい。
【0115】
図14に、本発明の第3の実施形態における、インク液滴の帯電順序を示している。第3の実施形態においては、アルファベット文字「t」の1列目の印字ドットを形成するための中段インク液滴306が、上段インク液滴302、及び上段インク液滴301の間に存在するように帯電制御されている。ただ、この場合は上段インク液滴302と中段インク液滴306の間に無帯電インク液滴が1つ挿入されている。
【0116】
この無帯電インクが挿入されているのは、3段印字が実行されるためである。3段印字では、下段⇒中段⇒上段の順で着滴する帯電インク液滴が順番に生成される。したがって、上段インク液滴302が生成された後に、下段に着滴すべきインク液滴はないため、上段インク液滴302と中段インク液滴306の間に無帯電インク液滴が挿入されている。その次の着滴するインク液滴は、中段インク液滴306である。この中段インク液滴306で「t」の1列目の印字ドットを形成しなければならないため、帯電された中段インク液滴306とされている。
【0117】
第3の実施形態において、図15に偏向電極正極106、及び偏向電極負極107内の領域307を、インク液滴302、306、及び301が飛翔している様子を示している。図15のように、偏向電極内部において、隣接する上段インク液滴301、及び中段インク液滴306間には、距離が短いため大きなクーロン力が働いている。
【0118】
このとき、上段インク液滴301はインク液滴の飛翔方向で逆の負方向に力が働き、インク液滴301は減速する。そのため、上段インク液滴301、及び上段インク液滴302の飛翔中の接近が回避されてクーロン力の影響が少なくなり、上段インク液滴301、及び上段インク液滴302では、マージ、或いはスキャッタが発生しなくなる。
【0119】
この第3の実施形態においても、上段インク液滴⇒中段インク液滴⇒上段インク液滴の順で帯電され、上段インク液滴302、及び上段インク液滴301の飛翔中の接近が回避され、マージ、或いはスキャッタが発生しないようになる。
【0120】
また、上述した第3の実施形態をまとめると次のように定義できる。先ず、上段、中段、下段に印字文字を印字する3段印字を実行する場合において、「N」を上段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「M」を中段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「Q」を下段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「x」を任意の行、「p」を1度のスキャンで印字される印字ドットの数とし、N≧x、M≧x、Q≧x、かつN+M+Q≧pの関係に定める。
【0121】
上述の関係から、インク液滴を用いて、縦1列の印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、上段に印字ドットを配置可能な位置はN個であり、上段にあるN個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にn_1~n_Nとする。また、スキャンを行う場合に、中段に印字ドットを配置可能な位置はM個であり、中段にあるM個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にm_1~m_Mとする。更に、スキャンを行う場合に、下段に印字ドットを配置可能な位置はQ個であり、下段にあるQ個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にq_1からq_Qとする。
【0122】
そして、上中下段に存在する印字ドットを配置可能な位置内で、1度のスキャンでp個の位置に印字ドットを形成し、このスキャンを任意回数繰り返すことで印字内容を形成する。以上を前提にして、次のように印字ドットを形成するインク液滴の帯電制御を実行する。
【0123】
(3-1) 中段の行m_x、上段の行n_x、上段の行n_x+1において印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x、及び上段の行n_x+1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、中段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0124】
(3-2) 下段の行q_x、上段の行n_x-2、上段の行n_x-1において印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x-2、上段の行n_x-1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行q_xの印字ドットを形成するための帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0125】
このように、上段インク液滴⇒中段インク液滴⇒上段インク液滴、或いは上段インク液滴⇒下段インク液滴⇒上段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの上段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、これらによって形成する印字ドットでは、マージ、或いはスキャッタが発生しない。また、以下のように中段に2つの印字ドットを印字する場合も同様である。
【0126】
(3-3) 下段の行q_x、中段の行m_x、中段の行m_x+1において印字ドットを形成する場合に、中段の行m_x、及び中段の行m_x+1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行q_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0127】
(3-4) 上段の行n_x、中段の行m_x-1、中段の行m_xにおいて印字ドットを形成する場合に、中段の行m_x-1、中段の行m_xへ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、上段の行n_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0128】
このように、中段インク液滴⇒下段インク液滴⇒中段インク液滴、或いは中段インク液滴⇒上段インク液滴⇒中段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの中段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、これらによって形成する印字ドットでは、マージ、或いはスキャッタが発生しない。また、以下のように下段に2つの印字ドットを印字する場合も同様である。
【0129】
(3-5) 中段の行m_x、下段の行q_x-1、下段の行q_xにおいて印字ドットを形成する場合に、下段の行q_x-1、下段の行q_xへ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、中段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0130】
(3-6) 上段の行n_x、下段の行q_x+1、下段の行q_x+2において印字ドットを形成する場合に、下段の行q_x+1、下段の行q_x+2へ印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴の間に、上段の行n_xの印字ドットを形成するための帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0131】
このように、下段インク液滴⇒中段インク液滴⇒下段インク液滴、或いは下段インク液滴⇒上段インク液滴⇒下段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの下段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、マージ、或いはスキャッタが発生しない。
【実施例4】
【0132】
次に、本発明の第4の実施形態を、図16、及び図17を用いて説明する。図16に、第3の実施形態で示した3段印字制御方式(下段の最下行から印字)とは異なる3段印字制御方式を示している。
【0133】
図16のように、第4の実施形態になる3段印字を実施する場合は、上中下段に存在する印字ドットを、上段の「最上行」から順に中段、下段へと印字し、スキャン毎にこれを繰り返して印字するという点が異なる。ただし、印字マトリクス上に印字ドットが存在しない場合、無帯電インク液滴を投入する点は、第3の実施形態で示した3段印字制御方式と同様である。
【0134】
次に、上述の3段印字制御方式(上段の最上行から印字)を実施する場合の課題を、図10、及び図16を用いて説明する。図16に示したように1列目の印字を行う場合、上段インク液滴405、及び上段インク液滴40が飛翔中に接近することで、スキャッタが発生していた。その理由は以下の通りである。
【0135】
図16において、帯電されたインク液滴の飛翔位置関係は、図10で示したものと類似している。上段インク液滴405が上段インク液滴203に、上段インク液滴404が上段インク液滴202に、中段インク液滴403が下段インク液滴201に、それぞれ対応する。よって、以下ではこれにしたがって説明する。
【0136】
そして、偏向電極内部において、上段インク液滴404、及び中段インク液滴403の間には、クーロン力が働いている。上段インク液滴404では、インク液滴の飛翔方向の正方向へ力が働いている。一方、上段インク液滴405は、インク液滴飛翔負方向に空気抗力をうけ、減速する。
【0137】
更に、上段インク液滴405は後流を形成しており、後流領域内に上段インク液滴404が進入すると、上段インク液滴404に働く空気抗力が小さくなり、上段インク液滴404の減速は弱まる。したがって、上段インク液滴404と上段インク液滴405は次第に接近し、スキャッタが発生する。
【0138】
尚、スキャッタが発生する3段印字マトリクスは、数字「9」、文字「t」、及び数字「4」に限るものではない。上述した第3の実施形態に示した印字ドット配置位置(1)~(6)に印字ドットが存在する印字マトリクスであれば、スキャッタが発生する可能性がある。
【0139】
クーロン力によるスキャッタが発生する原因となる、「同一の段」の隣接する印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴と、これら2つの帯電インク液滴の後で隣接する「他の段」の印字ドットを形成する帯電インク液滴による、1列の中の3つの印字ドットの配置位置は、「x」を任意の各行とすると、
(4-1)n_x、 n_x+1、 m_x
(4-2)n_x-2、 n_x-1、 q_x
(4-3)m_x、 m_x+1、 q_x
(4-4)m_x、 m_x-1、 n_x
(4-5)q_x、 q_x-1、 m_x
(4-6)q_x+1、 q_x+2、 n_x
のいずれかである。
【0140】
尚、印字ドットの配置位置(4-1)、(4-2)は、上段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合であり、印字ドットの配置位置(4-3)、(4-4)は、中段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合であり、印字ドットの配置位置(4-5)、(4-6)は、下段に2つの印字ドットを隣接して配置する場合である。
【0141】
ここで、上述した6つの印字ドットの配置位置のパターンは、図16の1列目の例であるが、これ以外に印字ドットが4個以上の場合でも、上述したパターンに一致する印字ドットを有する印字文字おいても、同様にスキャッタを発生する恐れが高い。
【0142】
図16に示した印字マトリクスでは、m_5、n_5、及びn_6に印字ドットが存在しているため、上述の(4-1)の印字ドット配置位置に該当する。また、上述の印字ドット配置位置に印字ドットが存在する場合、同一の段に着滴するインク液滴の飛翔軌跡が類似しており、同一の段に着滴するインク液滴同士のクーロン力による反発が小さければ、マージが発生する。
【0143】
このように、1つの段に隣り合う2つの印字ドットを印字する場合、2つのインク液滴の後に他の段のインク液滴が隣接すると、同一の段の2つのインク液滴の間で相互にクーロン力が影響してスキャッタ或いはマージを生じる。
【0144】
以上の課題を解決する、本発明の第4の実施形態におけるインク液滴への帯電制御を、図17、及び図18を用いて説明する。この帯電制御は、第1の実施形態と同様にマイクロコンピュータの帯電制御機能によって実行されている。つまり、列毎の印字ドットの印字パターンを読み出し、読み出された印字すべき印字パターンが、上述した6つの印字パターンのいずれかを含む場合は、スキャッタ等を生じる恐れがあるので、以下に示す帯電制御を実行するものである。尚、これ以外の印字パターンは通常の順序で印字が実行される構成とされている。
【0145】
図17に、本発明の第4の実施形態における、インク液滴の帯電順序を示している。第4の実施形態においては、文字「t」の1列目の印字ドットを形成するための中段インク液滴406が、上段インク液滴405、及び上段インク液滴406の間に存在する。
【0146】
図18に、第4の実施形態における偏向電極正極106、及び偏向電極負極107内の領域407を、上段インク液滴405、中段インク液滴406、及び上段インク液滴4064飛翔している様子を示している。
【0147】
図18のように偏向電極内部において、上段インク液滴405、及び中段インク液滴406間に、大きなクーロン力が働いている。このとき、上段インク液滴405はインク液滴の飛翔方向で正方向にクーロン力が働き、上段インク液滴405の減速が抑制される。このため、上段インク液滴405、及び上段インク液滴404の飛翔中の接近が回避されてクーロン力が弱まり、上段インク液滴405、及び上段インク404が形成する印字ドットでは、マージ、及びスキャッタが発生しなくなる。
【0148】
この第4の実施形態においても、上段インク液滴⇒中段インク液滴⇒上段インク液滴の順で帯電され、上段インク液滴405、及び上段インク液滴404の飛翔中の接近が回避され、これらによって形成する印字ドットでは、マージ、及びスキャッタが発生しない。
【0149】
また、第4の実施形態のような3段印字制御方式を適用することで、印字対象物の搬送方向における、1列の印字ドットの着滴位置のずれが軽減可能である。その理由は、以下の通りである。
【0150】
ある1列をスキャンする場合に用いるインク液滴の飛翔を比較すると、印字対象物の上部側に着滴するインク液滴ほど、偏向量が大きくなる。このため、印字対象物の上部側に着滴するインク液滴ほど、ノズルから吐出されて、印字対象物に着滴するまでの飛翔時間が長くなる。
【0151】
第4の実施形態のような3段印字制御方式では、飛翔時間の長いインク液滴から順次帯電、生成されて印字される。これにより、1列のスキャン時の、各インク液滴の着滴時間差は各インク液滴の生成時間差によって軽減される。そのため、着滴時間差内での印字対象物の搬送距離が小さくなる。以上の理由により、印字対象物の搬送方向における、1列の印字ドットの着滴位置のずれが軽減される。
【0152】
また、上述した第4の実施形態をまとめると次のように定義できる。先ず、上段、中段、下段に印字文字を印字する3段印字を実行する場合において、「N」を上段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「M」を中段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「Q」を下段の1列に印字ドットを配置可能な位置の行数、「x」を任意の行、「p」を1度のスキャンで印字される印字ドットの数とし、N≧x、M≧x、Q≧x、かつN+M+Q≧pの関係に定める。
【0153】
上述の関係から、インク液滴を用いて、縦1列の印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、上段に印字ドットを配置可能な位置はN個であり、上段にあるN個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にn_1~n_Nとする。また、スキャンを行う場合に、中段に印字ドットを配置可能な位置はM個であり、中段にあるM個の前記印字ドットを配置可能な位置を、下から順にm_1~m_Mとする。更に、スキャンを行う場合に、下段に印字ドットを配置可能な位置はQ個であり、下段にあるQ個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にq_1からq_Qとする。
【0154】
そして、上中下段に存在する印字ドットを配置可能な位置内で、1度のスキャンでp個の位置に印字ドットを形成し、このスキャンを任意回数繰り返すことで印字内容を形成する。以上を前提にして、次のように印字ドットを形成するインク液滴の帯電制御を実行する。
【0155】
(4-1) 上段の行n_x、上段の行n_x+1、中段の行m_xにおいて印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x、及び上段の行n_x+1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、中段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0156】
(4-2) 上段の行n_x-2、上段のn_x-1、下段の行q_xにおいて印字ドットを形成する場合に、上段の行n_x-2、上段の行n_x-1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行q_xの印字ドットを形成するための帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0157】
このように、上段インク液滴⇒中段インク液滴⇒上段インク液滴、或いは上段インク液滴⇒下段インク液滴⇒上段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの上段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、これらによって形成する印字ドットでは、マージ、或いはスキャッタが発生しない。また、以下のように中段に2つの印字ドットを印字する場合も同様である。
【0158】
(4-3) 中段の行m_x、中段の行m_x+1、下段の行q_xにおいて印字ドットを形成する場合に、中段の行m_x、及び中段の行m_x+1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、下段の行q_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0159】
(4-4) 中段の行m_x-1、中段の行m_x、上段の行n_xにおいて印字ドットを形成する場合に、中段の行m_x-1、中段の行m_xへ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、上段の行n_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0160】
このように、中段インク液滴⇒下段インク液滴⇒中段インク液滴、或いは中段インク液滴⇒上段インク液滴⇒中段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの中段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、これらによって形成する印字ドットでは、マージ、或いはスキャッタが発生しない。また、以下のように下段に2つの印字ドットを印字する場合も同様である。
【0161】
(4-5) 下段の行q_x-1、下段の行q_x、中段の行m_xにおいて印字ドットを形成する場合に、下段の行q_x-1、下段の行q_xへ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、中段の行m_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0162】
(4-6) 下段の行q_x+1、下段の行q_x+2、上段の行n_xにおいて印字ドットを形成する場合に、下段の行q_x+1、下段の行q_x+2へ印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴の間に、上段の行n_xの印字ドットを形成するための帯電インク液滴を隣接するように挿入する。
【0163】
このように、下段インク液滴⇒中段インク液滴⇒下段インク液滴、或いは下段インク液滴⇒上段インク液滴⇒下段インク液滴の順で帯電され、これによって、2つの下段インク液滴の飛翔中の接近が回避され、これらによって形成する印字ドットでは、マージ、或いはスキャッタが発生しない。
【0164】
このように、第3の実施形態、及び第4の実施形態においては、少なくとも1つの所定の同一の段(上段、中段、或いは下段)でマージ、もしくはスキャッタが発生する恐れが大きいと見なされる2つの帯電インク液滴の間に、他の段(下段、中段、或いは上段)の印字に使用される帯電インク液滴を挿入して、所定の同一の段の2つの帯電インク液滴に働くクーロン力の向きを変更するインク液滴帯電制御を行うようにしている。
【0165】
これによれば、マージやスキャッタが発生する恐れがある2つのインク液滴の飛翔中の接近が回避されるので、多段印字時に印字速度を低下させることなく、かつマージ、及びスキャッタを発生させることなく印字可能な、インクジェット記録装置を提供することができる。
【0166】
最後に、第1の実施形態~第4の実施形態を一般化した場合について説明するが、これは印字文字が積み重ねられたY段の文字列を、同時に印字するY段印字を実施する場合である。
【0167】
最上段の印字文字をY段目、最下段を1段目とし、任意の段を「t」として、1≦t≦Yの関係を有するものとする。またt段目において、縦1列の印字ドットを形成するスキャンを行う場合に、印字ドットを配置可能な位置(行数)はY個であり、t段目にあるY個の印字ドットを配置可能な位置を、下から順にy_1~y_Yとする。例えば、1段目の場合は、下から順にy_1~y_Yとなり、Y段目の場合は、下から順にy_1~y_Yとなる。
【0168】
そして、Y段に印字する印字ドットを配置可能な位置内で、1度のスキャンでp個の位置に印字ドットを形成し、このスキャンを任意回数繰り返すことで印字文字を形成する。以上を前提にして、以下のように印字ドットを形成する帯電インク液滴を制御する。ここで、「x」は任意の行と定義する。
【0169】
(Y-1) Y≧x、かつYt+1≧xとした時に、t段目のy_x、並びにt+1段目のyt+1_x、t+1段目(例えば上段)のyt+1_x+1において印字ドットを形成する場合において、t+1段目のyt+1_x、及びyt+1_x+1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、t段目のy_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を挿入するように帯電制御する。
【0170】
(Y-2) Y≧x、かつYt-1≧xとした時に、t段目のy_x、並びにt-1段目のyt―1_x-1、t-1段目のyt―1_xにおいて印字ドットを形成する場合に、t-1段目のyt―1_x-1、及びt-1段目のyt―1_xへ印字ドットを形成する2つの帯電インク液滴の間に、t段目のy_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を挿入するように帯電制御する。
【0171】
(Y-3) Y≧x、かつY≧xとした時に、Y段目のy_x、並びに1段目のy_x+1、及び1段目のy_x+2において印字ドットを形成する場合に、1段目のy_x+1、及び1段目のy_x+2へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、Y段目のy_xの印字ドットを形成する帯電液滴を挿入するように帯電制御する。
【0172】
(Y-4) Y≧x、かつY≧xとした時に、1段目のy_x、並びにY段目のy_x-2、Y段目のy_x-1において印字ドットを形成する場合に、Y段目のy_x-2、Y段目のy_x-1へ印字ドットを形成するための2つの帯電インク液滴の間に、1段目のy_xの印字ドットを形成する帯電インク液滴を挿入するように帯電制御する。
【0173】
これによれば、マージやスキャッタが発生する恐れがある2つのインク液滴の飛翔中の接近が回避されるので、多段印字時に印字速度を低下させることなく、かつマージ、及びスキャッタを発生させることなく印字可能な、インクジェット記録装置を提供することができる。
【0174】
以上述べたように、本発明によれば、多段印字を行う場合に、少なくとも1つの所定の同一の段でマージ、もしくはスキャッタが発生する恐れが大きいと見なされる2つの帯電インク液滴の間に、他の段の印字に使用される帯電インク液滴を挿入して、所定の同一の段の2つの帯電インク液滴に働くクーロン力の向きを変更するインク液滴帯電制御を行うようにした。
【0175】
これによれば、多段印字時に印字速度を低下させることなく、かつマージ、或いはスキャッタを発生させることなく印字可能な、インクジェット記録装置を提供することができる。
【0176】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0177】
1…連続噴射式荷電制御型インクジェット記録本体、2…ディスプレイ、3…ケーブル、4…印字ヘッド、100…印字対象物、103…インクノズル、105…帯電電極、106…偏向電極正極、107…偏向電極負極、111…帯電インク液滴、112…無帯電インク液滴、113…印字ドット。
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