(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
G09G 3/3233 20160101AFI20240709BHJP
G09G 3/20 20060101ALI20240709BHJP
H10K 59/12 20230101ALI20240709BHJP
【FI】
G09G3/3233
G09G3/20 621A
G09G3/20 624B
G09G3/20 670J
H10K59/12
(21)【出願番号】P 2020100388
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】520272868
【氏名又は名称】武漢天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河内 玄士朗
【審査官】村上 遼太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-023515(JP,A)
【文献】特開2006-309104(JP,A)
【文献】特開2008-176287(JP,A)
【文献】特開2011-209748(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0345358(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09G3/00-G09G5/42
H05B33/00-33/28
44/00
45/60
H10K50/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示装置であって、
樹脂基板と、
前記樹脂基板上の画素回路と、
前記画素回路を制御する制御回路と、を含み、
前記画素回路は、
発光素子と、
前記発光素子への電流量を制御する駆動薄膜トランジスタと、
を含み、
前記制御回路は、映像表示のための前記発光素子の発光期間外において、前記発光素子に電流を供給することなく、前記駆動薄膜トランジスタに、映像表示のための前記発光素子の最大電流より大きいストレス電流を流す、
表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表示装置であって、
前記制御回路は、映像表示期間におけ
る発光期間
と発光期間との間において、前記駆動薄膜トランジスタに前記ストレス電流を流す、
表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の表示装置であって、
前記制御回路は、前記駆動薄膜トランジスタのゲートにリセット電位を与えている間に、前記ストレス電流を前記駆動薄膜トランジスタに流す、
表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の表示装置であって、
前記制御回路は、前記表示装置の起動後表示期間の前において、前記駆動薄膜トランジスタに前記ストレス電流を流す、
表示装置。
【請求項5】
請求項1に記載の表示装置であって、
前記制御回路は、前記表示装置がスタンバイ状態にある期間において、前記駆動薄膜トランジスタに前記ストレス電流を流す、
表示装置。
【請求項6】
請求項1に記載の表示装置であって、
前記制御回路による前記画素回路の制御モードは、第1の制御モードと第2の制御モードとを含み、
前記制御回路は、
前記第1の制御モードにおいて
、映像表示期間における発光期間
と発光期間との間において、前記駆動薄膜トランジスタに前記ストレス電流を流し、
前記第2の制御モードにおいて、前記駆動薄膜トランジスタへの前記ストレス電流の供給を停止する、
表示装置。
【請求項7】
請求項6に記載の表示装置であって、
前記制御回路は、
前記表示装置の起動から予め設定されている期間において前記第1の制御モードにおいて前記画素回路を制御し、
前記予め設定されている期間の経過後に、前記第2の制御モードにおいて前記画素回路を制御する、
表示装置。
【請求項8】
樹脂基板上の画素回路の制御方法であって、
前記画素回路は、
発光素子と、
前記発光素子への電流量を制御する駆動薄膜トランジスタと、
を含み、
前記制御方法は、映像表示のための前記発光素子の発光期間外において、前記発光素子に電流を供給することなく、前記駆動薄膜トランジスタに、映像表示のための前記発光素子の最大電流より大きいストレス電流を流す、
制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の制御方法であって、
映像表示期間におけ
る発光期間
と発光期間との間において、前記駆動薄膜トランジスタに前記ストレス電流を流す、
制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の制御方法であって、
前記駆動薄膜トランジスタのゲートにリセット電位を与えている間に、前記ストレス電流を前記駆動薄膜トランジスタに流す、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
OLED(Organic Light-Emitting Diode)素子は電流駆動型の自発光素子であるため、バックライトが不要となる上に、低消費電力、高視野角、高コントラスト比が得られるなどのメリットがあり、フラットパネルディスプレイの開発において期待されている。
【0003】
アクティブマトリックス(AM)タイプのOLED表示装置は、画素を選択するトランジスタと、画素に電流を供給する駆動トランジスタとを含む。OLED表示装置におけるトランジスタは、TFT(Thin Film Transistor)であり、LTPS(Low Temperature Poly-silicon)TFTや酸化物半導体TFTが使用される。
【0004】
TFTは、閾電圧や電荷移動度にばらつきを持っている。駆動トランジスタは、OLED表示装置の発光強度を決定するので、こうした電気特性にばらつきがあると、問題となる。そこで、一般のOLED表示装置には、駆動トランジスタの閾値電圧のバラツキや変動を補正する補正回路が実装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-321684号公報
【文献】特開2007-81094号公報
【文献】特開平8-211368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂フィルム、特に、ポリイミドフィルム上に形成されるフレキシブルOLED装置において、起動後1~2時間の間に輝度が数%低下する、大きな初期輝度変化が見られる。これは、駆動TFTにおいて大きな電流ドリフトが生じ、この電流ドリフトが、大きな初期輝度変化を引き起こすことがわかった。したがって、駆動トランジスタの電流ドリフトを低減して初期輝度変化を低減できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る表示装置は、画素回路と、前記画素回路を制御する制御回路と、を含む。前記画素回路は、発光素子と、前記発光素子への電流量を制御する駆動薄膜トランジスタと、を含む。前記制御回路は、映像表示のための前記発光素子の発光期間外において、前記発光素子に電流を供給することなく、前記駆動薄膜トランジスタに、映像表示のための前記発光素子の最大電流より大きいストレス電流を流す。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、自発光素子を含む表示装置における初期輝度変化を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】表示装置であるOLED表示装置の構成例を模式的に示す。
【
図2】ポリイミド基板OLED表示装置の起動からの輝度の時間変化の測定結果を示す。
【
図3】ポリイミド基板上のTFTの、電流バイアスストレス(CBS)による電流変動の測定結果を示す。
【
図4】
TFTへのストレス電流の電流instabilityに対する作用を説明する
ための図である。
【
図6】1フレーム期間において、画素回路を制御する信号のタイミングチャートを示す。
【
図7】ストレス印加モードにおける制御信号の時間変化と、ノーマルモードにおける制御信号の時間変化と、を示すタイミングチャートである。
【
図8】ストレス印加モードにおける動作遷移を模式的に示す。
【
図9】ノーマルモードにおける動作遷移を模式的に示す。
【
図11】表示停止期間と表示期間との間のストレス期間において、ストレス電流を駆動トランジスタに与える例を示す。
【
図12】スタンバイ状態である表示停止期間が、ストレス期間を含む例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、図面を参照して実施形態を具体的に説明する。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。説明をわかりやすくするため、図示した物の寸法、形状については、誇張して記載している場合もある。
【0011】
以下において、OLED(Organic Light-Emitting Diode)表示装置のように、駆動電流により発光する発光素子を使用する自発光型表示装置における、駆動電流ドリフトを改善するための技術を開示する。これにより、自発光型表示装置における輝度変化を低減できる。
【0012】
樹脂フィルム、特に、ポリイミドフィルム上に形成されるフレキシブルOLED装置において、起動後1~2時間の間に、輝度が数%低下する大きな初期輝度変化が見られる。フレキシブル基板上のTFT(Thin Film Transistor)とガラス基板上のTFTの比較評価の結果、フレキシブル基板上のTFTでは、電流バイアスを印加し続けると、ガラス基板上のTFTと比較して、大きな電流ドリフトが生じていることが分かった。これは、樹脂フィルム内の水分に起因する電荷が原因と考えられる。駆動TFTにおけるこの電流ドリフトは、OLED装置の初期輝度変化を引き起こす。
【0013】
本明細書の実施例は、駆動TFTにストレス電流を与えることで、駆動TFTの電流ドリフトを低減する。ストレス電流は、例えば、映像表示におけるOLED素子の最大輝度での電流(最大電流)より大きい。ストレス電流により駆動TFTの特性を劣化させて電流を低下させることで、下層電荷による駆動TFTの電流増加を抑制する。なお、本明細書の実施例の特徴は、OLED表示装置と異なる種類の自発光表示装置に適用することができる。
【0014】
[表示装置構成]
図1は、表示装置であるOLED表示装置10の構成例を模式的に示す。OLED表示装置10は、OLED素子(発光素子)が形成されるTFT(Thin Film Transistor)基板100と、OLED素子を封止する薄膜封止200と、を含んで構成されている。
【0015】
TFT基板100の表示領域(アクティブエリアとも呼ぶ)125の外側のカソード電極形成領域114の周囲に、走査回路131、発光制御回路132、ドライバIC134、デマルチプレクサ136が配置されている。ドライバIC134は、FPC(Flexible Printed Circuit)135を介して外部の装置と接続される。走査回路131はTFT基板100の選択線を駆動し、発光制御回路132は発光制御線を駆動する。走査回路131、発光制御回路132、ドライバIC134、デマルチプレクサ136は、OLEDパネルを制御する制御回路に含まれる。
【0016】
ドライバIC134は、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を用いて実装される。ドライバIC134は、回路131、132に電源及びタイミング信号(制御信号)を与える。さらに、ドライバIC134は、デマルチプレクサ136に、データ信号を与える。
【0017】
デマルチプレクサ136は、ドライバIC134の一つのピンの出力を、d本(dは2以上の整数)のデータ線に順次出力する。デマルチプレクサ136は、ドライバIC134からのデータ信号の出力先データ線を、走査期間内にd回切り替えることで、ドライバIC134の出力ピン数のd倍のデータ線を駆動する。
【0018】
表示領域125は、複数のOLED素子(画素)及び複数の画素それぞれの発光を制御する複数の画素回路を含む。カラーOLED表示装置において、各OLED素子は、例えば、赤、青又は緑のいずれかの色を発光する。複数の画素回路は、画素回路アレイを構成する。
【0019】
後述するように、各画素回路は、駆動TFT(駆動トランジスタ)と、駆動TFTの駆動電流を決める信号電圧を保持する保持容量を含む。データ線が伝送するデータ信号は、補正されて保持容量に蓄積される。保持容量の電圧は、駆動TFTのゲート電圧(Vgs)を決定する。補正されたデータ信号が駆動TFTのコンダクタンスをアナログ的に変化させ、発光階調に対応した順バイアス電流をOLED素子に供給する。なお、本実施例の特徴は補正回路が組み込まれていない画素回路の表示装置にも適用できる。
【0020】
[TFTの電流instability]
本明細書の実施例のOLED表示装置10は、起動後の輝度変化(初期輝度変化)を低減するための駆動TFTを加熱する。
図2は、ポリイミド基板OLED表示装置の起動からの輝度の時間変化の測定結果を示す。具体的には、
図2は、周囲温度が50°における輝度相対値の時間変化と、周囲温度が室温における輝度相対値の時間変化を示す。X軸は輝度相対値を示し、Y軸は起動からの経過時間を示す。
【0021】
図2における破線の円25において示すように、OLED表示装置10の輝度は、起動後1~2時間の間に低下する。周囲温度50℃において、初期輝度低下は小さいが、周囲温度が室温の場合に、輝度が大きく低下し、起動直後の輝度に対して、2時間後の輝度は3%近く低下している。ポリイミド基板上のTFTでは、電流バイアスが印加され続けると電流ドリフトが生じ、この電流ドリフトがOLED表示装置の初期輝度低下を引き起こす。
【0022】
図3は、ポリイミド基板上のTFTの、電流バイアスストレス(CBS)による電流変動の測定結果を示す。具体的には、
図3は、ガラス基板上に形成されたポリイミド膜上のTFTの電流変動207と、ポリイミド膜を形成することなく、ガラス基板上に形成されたTFTの電流変動209とを示す。X軸は電流供給開始からの経過時間を示し、Y軸はドレインソース電流Idsを示す。周囲温度は27°であり、ドレインソース電圧Vdsは、-10.1Vであった。また、電流供給開始時のドレインソース電流Idsは、約29nAであった。
【0023】
ポリイミド膜が形成されていないガラス基板上のTFTは、ドレインソース電流Idsの大きな変化(Instability)を示していない(線209)。一方、ポリイミド層上に形成されたTFTは、ドレインソース電流Idsの大きな増加を示す。
【0024】
このように、TFTの下にポリイミド層が存在しない場合、ドレインソース電流のInstability(Ids増加)が見られないため、TFTの電流のInstability(Ids増大)は、ポリイミド層が原因であることが分かる。これは、水分を吸収したポリイミド膜に電界が印加されることで、ポリイミド膜中に負電荷が誘起され、これによりTFTのVth(閾値電圧)がシフトしていると推定される。
【0025】
また、画素回路内の補正回路(Vth補正回路)は、駆動TFTのVthの変化を補償するように、映像信号に応じた駆動TFTのゲートソース電圧を決定する。Vthのシフトに対して、補正回路が、Ids電流の増加を加味してVthを補正するので、映像信号に応じた駆動TFTのゲートソース電圧が減少し、OLED素子に供給される電流が低下する。その結果、OLED表示装置10の輝度が低下する。実際に、補正回路を含む特定の画素回路のシミュレーション結果は、20%の駆動TFTのドレインソース電流の増大により、OLED素子の発光電流が約2%低下することを示した。
【0026】
発明者の研究から、TFTにストレス電流を流すことで、電流instabilityを一時的に抑制できることが分かった。
図4は、TFTへのストレス電流の電流instabilityに対する作用を説明するための図である。グラフにおいて、線211は、ストレス電流供給前の初期状態におけるTFTのドレインソース電流の時間変化を示す。線213は、TFTにストレス電流を与えた後の、TFTのドレインソース電流の時間変化を示す。グラフ215は、ストレス電流供給に18時間放置した後の、TFTのドレインソース電流の時間変化を示す。
【0027】
グラフ213から理解されるように、TFTにストレス電流を流すことで、電流instabilityを消失させることができる。しかし、グラフ215が示すように、ストレス電流供給後、ある程度の時間放置すると、電流Instabilityが再現する。したがって、OLED表示装置10の製造におけるストレス電流はTFTの電流Instabilityに対する十分な対策にならず、OLED表示装置10内に駆動TFTにストレス電流を流す機能を組み込むことが重要である。
【0028】
[画素回路構成]
図5は、実施形態に係る画素回路の構成例500を示す。画素回路500は、駆動トランジスタにストレス電流を流す。ストレス電流によって、OLED表示装置10の起動後の初期輝度の低下を抑制できる。なお、ストレス電流による駆動トランジスタの電流instabilityの低減は、本例と異なる画素回路に適用でき、閾値電圧補正機能を有していない画素回路にも適用できる。
【0029】
画素回路500は、ドライバIC134から供給されるデータ信号を補正し、その補正したデータ信号によりOLED素子の発光を制御する。画素回路500は、ゲート、ソース及びドレインを持った7つのトランジスタ(TFT)M1~M7を含む。本例において、トランジスタM1~M7はP型TFTである。なお、本実施形態のストレス電流による電流instabilityの低減は、N型半導体トランジスタや酸化物半導体を使用する画素回路にても適用できる。
【0030】
トランジスタM3は、OLED素子E1への電流量を制御する駆動トランジスタである。駆動トランジスタM3は、電源線PVDDからOLED素子E1に与える電流量を、保持容量Cstが保持する電圧に応じて制御する。OLED素子E1のカソードは、カソード電源線VEEに接続されている。保持容量Cstは、駆動トランジスタM3のゲートソース間電圧(単にゲート電圧とも呼ぶ)を保持する。
【0031】
トランジスタM1及びM6は、OLED素子E1の発光の有無を制御する。トランジスタM1は、ソースが電源線PVDDに接続され、ドレインに接続された駆動トランジスタM3への電流供給をON/OFFする。トランジスタM6は、ソースが駆動トランジスタM3のドレインに接続され、ドレインに接続されたOLED素子E1への電流供給をON/OFFする。トランジスタM1及びM6は、それぞれ、発光制御線EMIからゲートに入力される発光制御信号により制御される。トランジスタM1及びM6は、さらに、駆動トランジスタM3にストレス電流を流すために動作する。
【0032】
トランジスタM5は、OLED素子E1のアノードへのリセット電位の供給のために動作する。トランジスタM5は、選択線S1からの選択信号によりONにされると、リセット線VRSTからリセット電位をOLED素子E1のアノードへ与える。トランジスタM5は、さらに、駆動トランジスタM3にストレス電流を流すために動作する。
【0033】
トランジスタM7は、駆動トランジスタM3のゲートへのリセット電位の供給の有無を制御する。トランジスタM7は、選択線S1からゲートに入力される選択信号によりONにされると、リセット線VRSTからリセット電位を駆動トランジスタM3のゲートに与える。なお、OLED素子E1のアノードへのリセット電位と駆動トランジスタM3のゲートへのリセット電位は異なっていてもよい。
【0034】
トランジスタM2は、データ信号を供給する画素回路500を選択するための選択トランジスタである。トランジスタM2のゲート電位は、選択線S2から供給される選択信号により制御される。選択トランジスタM2は、ONのとき、データ線VDATAを介して供給されるデータ信号を、駆動トランジスタM3のゲート(保持容量Cst)に与える。
【0035】
本例において、選択トランジスタM2(ソース及びドレイン)は、データ線VDATAと駆動トランジスタM3のソースとの間に接続されている。さらに、トランジスタM4は、駆動トランジスタM3のドレインとゲートとの間に接続されている。
【0036】
トランジスタM4は、駆動トランジスタM3の閾値電圧を補正するために動作する。トランジスタM4のゲート電位は、選択線S2から供給される選択信号により制御される。トランジスタM4がONであるとき、駆動トランジスタM3はダイオード接続状態のトランジスタを構成する。データ線VDATAからのデータ信号は、ONである選択トランジスタM2、駆動トランジスタM3及びトランジスタM4のチャネル(ソース及びドレイン)を介して、保持容量Cstに与えられる。
【0037】
保持容量Cstは、駆動トランジスタM3の閾値電圧Vthに応じて補正されたデータ信号(ゲートソース間電圧)を保持する。
図5の例において、保持容量Cstの一方の電極は駆動トランジスタM3のゲートに接続され、他方の電極は電源線PVDDに接続されている。
【0038】
図5に示すように、ストレス電流ISは、電源線PVDDからトランジスタM1を介して、駆動トランジスタM3に与えられる。本例において、ストレス電流ISは、映像表示のためのOLED素子E1の最大輝度のための電流(最大電流)より大きい、駆動トランジスタM3を通過したストレス電流ISは、トランジスタM6及びM5を通過して、リセット線VRSTに流れる。後述するように、ストレス電流ISは、駆動トランジスタM3及びOLED素子E1のリセット期間において与えられる。これにより、効率的に、ストレス電流を与えることができる。ストレス電流は一定でもよく又は変化してもよい。
【0039】
[画素回路制御]
図6は、1フレーム期間において、
図5に示す画素回路500を制御する信号のタイミングチャートを示す。
図6は、1フレーム期間において、N番目の行を選択し、データ信号を画素回路500に書き込むためのタイミングチャートを示す。以下において、説明の容易のため、信号を伝送する線と同様の符号により、信号を識別する。具体的には、
図6は、発光制御線EMIの信号(発光制御信号EMI)、選択線S1の信号(選択信号S1)、そして選択線S2の信号(選択信号S2)の、1フレーム期間における変化を示す。
【0040】
時刻T1において、選択信号S1が、HighからLowに変化する。これに応じて、時刻T1においてトランジスタM5及びM7はONとなる。時刻T1において、発光制御信号EMIはLowである。そのため、トランジスタM1及びM6はONである。一方、選択信号S2はHighであり、トランジスタM2及びM4はOFFである。
【0041】
時刻T1から時刻T2まで、上記状態が続く。トランジスタM7がONであるため、駆動トランジスタM3のゲートにはリセット電位が与えられる。トランジスタM5がONであり、OLED素子E1のアノードへリセット電位が与えられる。トランジスタM1、M6及びM5がONであるため、ストレス電流ISが電源線PVDDからトランジスタM1、M3、M6及びM5を介して、リセット線VRSTに流れる。トランジスタM5がONであることで、ストレス電流ISがOLED素子E1に流れないようにできる。
【0042】
時刻T2において、発光制御信号EMIがLowからHighに変化する。これにより、トランジスタM1及びM6がOFFとなる。これにより、ストレス電流ISが停止される。選択信号S1はLowのままであり、選択信号S2はHighのままである。したがって、他のトランジスタの状態は維持される。上述のように、時刻T1からT2の期間はストレス電流印加期間であって、ストレス電流ISが駆動トランジスタM3を流れる。
【0043】
時刻T3において、選択信号S1がLowからHighに変化する。これにより、トランジスタM5及びM7はOFFとなる。駆動トランジスタM3のゲート及びOLED素子E1へのリセット電位の供給が停止される。発光制御信号EMI及び選択信号S2はHighのままである。したがって、トランジスタM1、M2、M4及びM6はOFFのままである。上述のように、時刻T1からT3の期間はリセット期間であって、OLED素子及び駆動トランジスタM3にリセット電位が与えられる。
【0044】
時刻T4において、選択信号S2がHighからLowに変化する。これにより、トランジスタM2及びM4はONとなる。これにより、データ線VDATAからデータ信号が、トランジスタM2、M3及びM4を介して保持容量Cstに与えられる。保持容量Cstに書き込まれる電圧は、データ信号に対して駆動トランジスタM3の閾値電圧Vthに対する補正がなされた電圧である。時刻T4から時刻T5までの期間において、画素回路500へのデータ信号の書き込み及びそのVth補正がなされる。
【0045】
時刻T5において、選択信号S2は、LowからHighに変化する。時刻T5において、発光制御信号EMI及び選択信号S1はHighである。選択信号S2の変化に応じて、トランジスタM2及びM4がOFFとなる。トランジスタM1、M2、M4~M7はOFFである。時刻T5から時刻T6まで、制御信号及びトランジスタの状態は、維持される。
【0046】
時刻T6において、発光制御信号EMIがHighからLowに変化し、トランジスタM1及びM6がOFFからONに変化する。選択信号S1及びS2はHighであり、トランジスタM2、M4、M5及びM7はOFFのままである。駆動トランジスタM3は、保持容量Cstに保持されている補正されたデータ信号に基づき、OLED素子E1に与える駆動電流を制御する。つまりOLED素子E1が発光する。
【0047】
図6を参照して説明した制御方法は、1フレーム期間内において、発光期間外にストレス電流を駆動トランジスタM3に与える。より具体的には、駆動トランジスタM3及びOLED素子E1のリセット期間において、ストレス電流を駆動トランジスタM3に与える。以下に説明する例において、ドライバIC134は、TFT基板100及び薄膜封止200を含むOLEDパネルの二つの制御モードを有する。第1の制御モードは、
図6を参照して説明したストレス印加モードであり、第2の制御モードは、ストレス電流を駆動トランジスタに与えないノーマルモードである。
【0048】
図7は、ストレス印加モードにおける制御信号S1、S2及びEMIの時間変化と、ノーマルモードにおける制御信号S1、S2及びEMIの時間変化と、を示すタイミングチャートである。ストレス印加モードにおける制御信号の時間変化は、
図6を参照して説明した通りである。選択信号S1、S2の時間変化は、ストレス印加モードとノーマル
モードとにおいて同一である。
【0049】
発光制御信号EMIの時間変化は、ストレス印加モードとノーマル
モードとにおいて異なる。
図7は、ストレスモードにおける発光制御信号EMIの時間変化221と、ノーマルモードにおける発光制御信号EMIの時間変化223を示す。
【0050】
ノーマルモードにおいて、発光制御信号EMIは、時刻T1の直前の時刻T0に、LowからHighに変化する。これにより、トランジスタM1及びM6は、ONからOFFに変化する。トランジスタM1がOFFであるため、ストレス印加モードで電源線PVDDからトランジスタM1を介して駆動トランジスタM3に流れるストレス電流は、トランジスタM1により遮断される。発光制御信号EMIは、時刻T6までHighのままである。このように、ノーマルモードにおいては、ストレス電流が駆動トランジスタM3に与えられず、停止されている。
【0051】
図8は、ストレス印加モードにおける動作遷移を模式的に示す。
図6を参照して説明したように、1フレーム期間は、リセット電位を駆動トランジスタ及びOLED素子に与えるリセット期間P1、ストレス電流を駆動トランジスタに与えるストレス期間P7、保持容量Cstにデータを書き込む、データ書き込み期間P3、及び発光期間P5を含む。ストレス期間P7は、リセット期間P1に重複している。なお、ストレス期間P7が、リセット期間P1に含まれていなくてもよい。
【0052】
図9は、ノーマルモードにおける動作遷移を模式的に示す。
図6及び7を参照して説明したように、1フレーム期間は、リセット電位を駆動トランジスタ及びOLED素子に与えるリセット期間P1、保持容量Cstにデータを書き込む、データ書き込み期間P3及び発光期間P5を含む。ノーマルモードにおいては、ストレス期間P7が存在しない。
【0053】
ドライバIC134は、例えば、電源OFF又はスタンバイ状態等の表示停止からの起動後、予め設定されている期間において、ストレスモードでOLEDパネルを制御して得映像を表示する。予め定められている期間の後、ドライバIC134は、ノーマルモードでOLEDパネルを制御して映像を表示する。これにより、OLED表示装置の初期輝度低下と消費電力を抑制できる。
【0054】
次に、画素回路500の他の制御方法を説明する。
図6及び7を参照して説明した例は、電源線PVDDからストレス電流を駆動トランジスタに流す。以下に説明する例は、データ線VDATAからストレス電流を駆動トランジスタに流す。
【0055】
図10は、本例におけるストレス電流ISの流れを示す。画素回路構成は、
図5に示す構成と同一である。ストレス電流ISは、データ線VDATAから、トランジスタM2を介して駆動トランジスタM3に与えられる。駆動トランジスタM3を通過したストレス電流ISは、トランジスタM4、M7及びM5を介して、リセット線VRSTに流れる。
【0056】
ドライバIC134は、ストレス電流ISを流すため、発光制御信号EMIをHigh、選択信号S1及びS2をLowにする。選択信号S1及びS2がLowであるため、トランジスタM2、M4、M7及びM5がONである。データ線VDATAからストレス電流は、これらトランジスタ及び駆動トランジスタM3を流れる。一方、発光制御信号EMIがHighであるため、トランジスタM6がOFFであり、ストレス電流ISのOLED素子E1へのパスは遮断される。
【0057】
図6を参照して説明した例と異なり、
図10に示す経路において、ストレス電流をリセット期間内に流すことはできない。そのため、フレーム期間内に上記経路でストレス電流を流すためには、ストレス期間が他の動作期間と重複しない(分離されている)ことが重要である。
【0058】
そこで、一例において、ドライバIC134は、映像表示期間(フレーム期間)外において、ストレス電流を画素回路において流す。これにより、映像表示に影響を与えることなく、ストレス電流を駆動トランジスタに与えることができる。ドライバIC134は、表示期間外において、
図5を参照して説明した経路においてストレス電流与えてもよい。
【0059】
図11は、起動後表示期間の前にストレス電流を駆動トランジスタに与える例を示す。具体的には、停止期間P11と表示期間P15との間のストレス期間P13において、ストレス電流を駆動トランジスタに与える例を示す。
【0060】
起動期間P14では、外部装置からの指示に応じて、表示装置の電源ICが所定のシーケンスに従って起動し、電源ICからの制御信号によってドライバICが所定のシーケンスに従って起動し、OLEDパネルの走査回路に制御信号が供給される。ストレス期間P13において、データ線VDATAには、黒表示に相当する電圧を供給し、前述したように、発光制御信号EMIをHigh、選択信号S1及びS2をLowにするような走査回路に制御信号を供給し、ストレス電流を印加する。
【0061】
他の例において、ドライバIC134は、スタンバイ期間P16において、
図10に示す経路においてストレス電流を与える。
図12は、スタンバイ期間P16が、ストレス期間P13を含む例を示す。ドライバIC134は、スタンバイ期間P16の一部の期間においてストレス電流を駆動トランジスタに与えてもよい。スタンバイ状態において映像表示は停止されているが、ドライバIC134に電力は供給され動作可能であり、外部装置からの指示に応答してすぐに映像表示できる。
【0062】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 OLED表示装置、100 TFT基板、114 カソード電極形成領域、125 表示領域、131 走査回路、132 発光制御回路、134 ドライバIC、136 デマルチプレクサ、500 画素回路、Cst 保持容量、EMI 発光制御線、M1-M7 トランジスタ、VRST リセット線、PVDD 電源線、VDATA データ線