(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ペット用排泄物処理材及びこれを用いたペット用排泄物処理システム
(51)【国際特許分類】
A01K 1/015 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
A01K1/015 B
A01K1/015 A
(21)【出願番号】P 2020149402
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】伴 武
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-178385(JP,A)
【文献】特開2010-247013(JP,A)
【文献】特開2015-133932(JP,A)
【文献】特開2006-345830(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0289543(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0118242(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/00 - 3/00
A01K 31/00 -31/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来の素材の粉砕物を70.0質量%以上98.9質量%以下含み、
合成樹脂を1.0質量%以上29.9質量%以下含み、
炭酸カルシウムを0.1質量%以上5.0質量%以下含み、且つ該炭酸カルシウムの平均粒子径が0.01μm以上0.1μm未満である、ペット用排泄物処理材。
【請求項2】
植物由来の素材の粉砕物を70.0質量%以上96.0質量%以下含み、
合成樹脂を1.0質量%以上27.0質量%以下含み、
炭酸カルシウムを3.0質量%以上5.0質量%以下含み、且つ該炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1μm以上1μm以下である、ペット用排泄物処理材。
【請求項3】
前記炭酸カルシウム以外の非水溶性無機物を更に含む、請求項1又は2に記載のペット用排泄物処理材。
【請求項4】
前記非水溶性無機物として酸化亜鉛を含む、請求項3に記載のペット用排泄物処理材。
【請求項5】
前記炭酸カルシウムと前記非水溶性無機物との合計量が5質量%以下である、請求項3又は4記載のペット用排泄物処理材。
【請求項6】
前記合成樹脂は、融点が60℃以上160℃以下であり、且つメルトフローレートが0.1g/10分以上200g/10分以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のペット用排泄物処理材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペット用排泄物処理材と、該ペット用排泄物処理材を敷設するための多孔部材と、尿を吸収するための吸収体とを備え、
前記吸収体の上に前記多孔部材が配されており、該多孔部材の上に前記ペット用排泄物処理材が敷設されている、ペット用排泄物処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペット用排泄物処理材及びこれを用いたペット用排泄物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫などのペットの排泄物の処理に関する技術が種々提案されている。本出願人は、消臭効果の向上を目的として、植物由来の素材の粉砕物、合成樹脂及びテクトケイ酸塩をそれぞれ所定量含むペット用排泄物処理材を提案した(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献2には、カビの発生や臭気の抑制を目的として、木粉、カルシウム化合物、パラフィンワックス及び結着剤を所定量含むペレット状のペット用排泄物処理材が開示されている。また特許文献3には、悪臭の抑制等を目的として、植物由来の素材の粉砕物、合成樹脂及び非水溶性無機物を含有する動物用トイレ砂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-345830号公報
【文献】特開2012-147694号公報
【文献】特開2015-133932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~3に記載のペット用排泄物処理材は、ペットから排泄された尿を吸収することに起因して膨潤したり崩壊したりすることがあり、耐水性の点で改善の余地があった。また、排泄物処理材を製造するにあたり、その製造装置の負荷の低減に関して改善の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、製造時の装置負荷が低減され、且つ耐水性に優れるペット用排泄物処理材及びこれを用いたペット用排泄物処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、植物由来の素材の粉砕物を70.0質量%以上98.9質量%以下含み、
合成樹脂を1.0質量%以上29.9質量%以下含み、
炭酸カルシウムを0.1質量%以上5.0質量%以下含み、且つ該炭酸カルシウムの平均粒子径が0.01μm以上0.1μm未満である、ペット用排泄物処理材を提供するものである。
【0008】
また本発明は、植物由来の素材の粉砕物を70.0質量%以上96.0質量%以下含み、
合成樹脂を1.0質量%以上27.0質量%以下含み、
炭酸カルシウムを3.0質量%以上5.0質量%以下含み、且つ該炭酸カルシウムの平均粒子径が0.1μm以上1μm以下である、ペット用排泄物処理材を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記ペット用排泄物処理材と、該ペット用排泄物処理材を敷設するための多孔部材と、尿を吸収するための吸収体とを備え、
前記吸収体の上に前記多孔部材が配されており、該多孔部材の上に前記ペット用排泄物処理材が敷設されている、ペット用排泄物処理システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造時の装置負荷が低減され、且つ耐水性が高いペット用排泄物処理材及びペット用排泄物処理システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明のペット用排泄物処理システムの一実施形態の分解状態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明のペット用排泄物処理システムの一実施形態の組み立て状態を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すペット用排泄物処理システムのI‐I面での断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本実施形態におけるペット用排泄物処理材(以下、単に「排泄物処理材」ともいう。)は、植物由来の素材の粉砕物(以下、「植物粉砕物」ともいう。)と、合成樹脂と、炭酸カルシウムとを含むものである。
【0013】
本発明の排泄物処理材は、炭酸カルシウムを含むことを特徴の一つとしている。排泄物処理材に炭酸カルシウムを含むことによって、植物粉砕物を含む排泄物処理材の耐水性を向上させて、排泄物処理材と排泄物とが接触したときに、排泄物に含まれる水分に起因する排泄物処理材の膨張や崩壊を低減できることを本発明者は見出した。
【0014】
炭酸カルシウムの形状は、粒状、針状、板状、柱状、塊状等又はこれらの組み合わせとすることができる。また、結晶質又は非晶質であっていてもよい。取扱い性の観点から、炭酸カルシウムの形状は粒状であることが好ましい。
【0015】
排泄物処理材に含まれる炭酸カルシウムの含有量は、炭酸カルシウムの粒子径との関係に応じて調整されることが、排泄物処理材の製造時における装置負荷を低減しつつ、得られる排泄物処理材の耐水性を更に向上させる点から好ましい。具体的には、一実施形態における排泄物処理材に含まれる炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。
この場合において、排泄物処理材に含まれる炭酸カルシウムの平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、更に好ましくは0.03μm以上であり、好ましくは0.1μm未満、より好ましくは0.09μm以下、更に好ましくは0.08μm以下である。
【0016】
また、別の実施形態における排泄物処理材に含まれる炭酸カルシウムの含有量は、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは3.3質量%以上、更に好ましくは3.5質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.7質量%以下、更に好ましくは4.5質量%以下である。
この場合において、排泄物処理材に含まれる炭酸カルシウムの平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.9μm以下、更に好ましくは0.8μm以下である。
【0017】
炭酸カルシウムの平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば株式会社島津製作所製、型番:SALD-2300)を用いて、測定対象の炭酸カルシウムをイオン交換水に約100ppm分散した分散液を測定に供して、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50として求めることができる。
【0018】
上述のとおり、排泄物処理材は植物粉砕物を含む。このような粉砕物としては、木本及び草本を由来とした粉砕物が挙げられる。木本及び草本由来の素材を用いることによって、該素材自体が有する芳香に起因する臭いのマスキングや、臭い成分の該素材への吸着による消臭効果を発現できるとともに、排泄物処理材の製造コストを抑えることができる。また、これらの素材を粉砕物とすることによって、表面積の増大に起因した消臭効果を効果的に発現させることができる。
【0019】
植物粉砕物としては、例えば木粉(木質又は樹皮の粉砕物)や、種子油残査、穀物外皮粉砕物、草本粉砕物などが挙げられる。排泄物処理材の耐水性及び消臭性を高める観点から、植物粉砕物は、スギ科、マツ科又はヒノキ科などの針葉樹を由来とした木粉(以下、針葉樹由来木粉ともいう。)を主体として含むことが好ましい。詳細には、植物粉砕物の全量に対する含有量として、針葉樹由来木粉を60質量%以上用い、ブナ科、ニレ科又はカバノキ科などの広葉樹を由来とした木粉(以下、広葉樹由来木粉ともいう。)を40質量%以下用いることが好ましく、針葉樹由来木粉を75質量%以上且つ広葉樹由来木粉を25質量%以下用いることがより好ましく、針葉樹由来木粉を90質量%以上且つ広葉樹由来木粉を10質量%以下用いることが更に好ましい。
【0020】
消臭効果の持続性を高め、植物由来の素材特有の芳香を効率的に発現させる観点から、排泄物処理材中の植物粉砕物の含有量は、その総量で表して、好ましくは70.0質量%以上、より好ましくは80.0質量%以上、更に好ましくは85.0質量%以上である。同様の観点から、一実施形態において、排泄物処理材中の植物粉砕物の含有量は、好ましくは98.9質量%以下、より好ましくは95.0質量%以下、更に好ましくは93.0質量%以下である。
また同様の観点から、別の実施形態において、排泄物処理材中の植物粉砕物の含有量は、好ましくは96.0質量%以下、より好ましくは94.0質量%以下、更に好ましくは92.0質量%以下である。
【0021】
植物粉砕物の形状は、粉状、粒状、針状、板状又はこれらの集合体等が挙げられる。排泄物処理材の製造時の装置負荷を低減しつつ、取扱いを高める観点から、植物粉砕物の形状は粉状であることが好ましい。
また同様の観点から、植物粉砕物の平均粒子径は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、更に好ましくは0.07mm以上であり、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは2mm以下である。
【0022】
植物粉砕物の平均粒子径は、例えば多段式ふるい振とう機を用いて、以下の方法で測定することができる。詳細には、多段式ふるい振とう機(ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社製、AS200ベーシック)に、公称目開き0.3mm、0.6mm、1mm、2.36mm、及び3.35mmのふるい(東京スクリーン株式会社製)をこの順で載置し、最上段に位置する目開き3.35mmのふるいに植物粉砕物50gを投入して振とうを行う。振とう幅は1.2mm、振動数は3000回/分、ふるい時間は2分とし、植物粉砕物の粒度分布を測定する。その後、各目開き間の階級値に割合を掛けた値の和を求め、植物粉砕物の平均粒子径とする。このように測定した前記粉砕物の粒度分布及び平均粒子径において、平均粒子径が1mm以上2.36mm未満となる植物粉砕物の割合が最も多いことが好ましく、該割合が質量基準で全体の40%以上を占めることが消臭効果の向上の観点から一層好ましい。このような粒度分布とするために、植物粉砕物に粉砕処理を更に行ったり、ふるい分けを更に行って大径の植物粉砕物を除去したりするなどしてもよい。
【0023】
本発明の排泄物処理材は、合成樹脂を含む。合成樹脂を含むことによって、排泄物処理材を所望の形状に保形しやすくして、排泄物処理材の生産性を高めることができるとともに、排泄物処理材の耐水性を高めることができる。
合成樹脂としては、熱可塑性樹脂が好適に用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニルやポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、並びにポリビニルアルコールなどが挙げられる。これらの合成樹脂は単独で又は組み合わせて使用いることができる。特に、植物粉砕物及び炭酸カルシウムとの混合時における均一性を高めつつ、樹脂成分に起因する耐水性を発現して、排泄物処理材としての耐水性をより一層高める観点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)を少なくとも含むことが更に好ましい。
【0024】
排泄物処理材の製造時における装置などの製造負荷を低減しつつ、排泄物処理材の保形性を高める観点から、排泄物処理材中の合成樹脂の含有量は、その総量で表して、1.0質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることが更に好ましい。同様の観点から、一実施形態において、排泄物処理材中の合成樹脂の含有量は、その総量で表して、好ましくは29.9質量%以下、より好ましくは21.0質量%以下、更に好ましくは12.0質量%以下である。
また同様の観点から、別の実施形態において、排泄物処理材中の合成樹脂の含有量は、その総量で表して、好ましくは27.0質量%以下、より好ましくは20.0質量%以下、更に好ましくは15.0質量%以下である。
【0025】
以上の構成を有する排泄物処理材は、所定の粒子径を有する炭酸カルシウムを所定の含有量で含むことによって、排泄物処理材の耐水性を向上させて、水分存在下での長期間の使用に耐えうる形状維持性を発現させることができる。また、植物粉砕物を含むことによって、該素材自体が有する芳香に起因する臭いのマスキングや、該素材への臭い成分の吸着による物理的な消臭効果を発現することができる。更に、合成樹脂を含むことによって、排泄物処理材の製造時における成形性を高めつつ、製造時における運転時間の意図しない増加や装置内の意図しない電流変化等の装置負荷を低減することができ、また合成樹脂が有する疎水性を排泄物処理材に発現させて、排泄物処理材の耐水性を更に向上させることができる。
【0026】
排泄物処理材の耐水性を向上させることに加えて、排泄物処理材による消臭性能を一層高める観点から、排泄物処理材は、炭酸カルシウムに加えて、炭酸カルシウム以外の非水溶性無機物を更に含むことが好ましい。非水溶性無機物とは、水への溶解度(1気圧、25℃における、水1Lに対する溶解質量)が2g未満である無機物のことを指す。本発明における炭酸カルシウムも上述の水への溶解度の条件を満たす非水溶性の無機物であるが、以下の説明では、特に断りのない限り、非水溶性無機物と単に表記する場合、炭酸カルシウム以外の無機物を指す。
【0027】
非水溶性無機物としては、例えば金属酸化物、金属水酸化物及び金属塩を用いることができ、その具体例として、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等のカルシウム化合物、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物、酸化亜鉛などの亜鉛化合物、酸化チタンなどのチタン化合物、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム化合物等が挙げられる。
また非水溶性無機物として、例えばベントナイト、珪藻土、珪酸白土、カオリン、ゼオライト、セピオライト等の無機鉱物や、シリカ、ホワイトカーボン、タルク等のケイ素化合物を用いることもできる。
これらの非水溶性無機物は、単独で又は複数組み合わせて用いることができる。これらの化合物の形状は粒状、針状、板状、柱状、塊状等又はこれらの組み合わせとすることができ、取り扱い性の観点から好ましくは粉体である。
【0028】
排泄物処理材に非水溶性無機物を更に含む場合、非水溶性無機物として酸化亜鉛を含むことが好ましい。非水溶性無機物が酸化亜鉛を含むことによって、排泄物処理材の耐水性を向上させつつ、ペットの排泄物に含まれる不快な臭いの成分であるプロピオン酸、酪酸及びイソ吉草酸などの低級飽和脂肪酸を物理的又は化学的に吸着して、臭いの消臭効果を一層効果的に発現し、排泄物処理材の使用者が排泄物の臭いに起因する不快感を知覚しにくくすることができる。また酸化亜鉛を含むことよって、排泄物処理材の地色の明度が高くなる、すなわち排泄物処理材の色を白色又は白色に近い色とすることができるので、排泄物処理材の使用者に清潔感を与えるという利点も奏される。
【0029】
排泄物処理材に非水溶性無機物を更に含む場合、排泄物処理材に含まれる炭酸カルシウム及び非水溶性無機物の総含有量は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上である。このような含有量の範囲とすることによって、製造時における装置の製造負荷を更に低減して、より耐水性の高い排泄物処理材を生産性高く得ることができる。
【0030】
排泄物処理材に非水溶性無機物を更に含む場合、排泄物処理材に含まれる非水溶性無機物の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下である。非水溶性無機物を二種以上含む場合、含有量はその総量に基づく。このような含有量の範囲とすることによって、より耐水性の高い排泄物処理材を生産性高く得られることに加えて、非水溶性無機物の配合に起因する保形性や消臭性能等の良好な諸性能を効率よく発現させることができる。
【0031】
非水溶性無機物の配合に起因する保形性や消臭性能等の良好な諸性能を一層効果的に発現させる観点から、非水溶性無機物の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.9μm以下、更に好ましくは0.8μm以下である。非水溶性無機物の平均粒子径は、上述した測定方法と同様の方法にて測定した体積累積粒径D50とすることができる。非水溶性無機物として上述した複数の成分を含む場合、各非水溶性無機物の平均粒子径は上述の範囲をそれぞれ独立して満たすことが好ましい。
【0032】
後述するように、排泄物処理材は、上述した各材料を混合して製造することができる。合成樹脂の溶融状態を維持しやすくして他の成分との混合を均一に行い、成分が均一に分散した排泄物処理材を生産性高く得る観点から、合成樹脂の融点は、60℃以上であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。
また合成樹脂の熱分解等を防ぐ観点から、160℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることが更に好ましい。このような融点を有する合成樹脂を用いることによって、植物粉砕物が、温度上昇による焦げつき等によって変性することなく、植物由来の素材の芳香を保持した状態となり、消臭効果に優れた排泄物処理材を製造できるという利点がある。
合成樹脂の融点は、例えば示差走査熱量計で測定した値とすることができる。また合成樹脂の融点は該樹脂の分子量を変更する等によって適宜調整することができる。
【0033】
製造時における均一分散性を高めて製造効率を高める観点から、合成樹脂は、そのメルトフローレート(MFR)が0.1g/10分以上であることが好ましく、1g/10分以上であることがより好ましく、10g/10分以上であることが更に好ましく、またその上限は200g/10分以下であることが好ましく、100g/10分以下であることがより好ましく、50g/10分以下であることが更に好ましい。
メルトフローレートは、荷重2.16kg、温度230℃の条件でJIS K 7210に従って測定することができる。このような合成樹脂を含むことによって、他の成分との混合を均一に行って、消臭効果を首尾よく発現できるとともに、排泄物処理材の成形性及び保形性がより一層高くなるという利点も奏される。
【0034】
本発明の効果が奏される限りにおいて、排泄物処理材は、上述した各成分に加えて、必要に応じて抗菌剤、着色剤等の他の成分を含有してもよい。抗菌剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ジデシルメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ポリフェノール類、銀、銅等が挙げられる。他の成分の含有量は、その総量として、0.01質量%以上0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0035】
次に、排泄物処理材の好適な製造方法を以下に説明する。まず、植物由来の素材の粉砕物と、合成樹脂と、炭酸カルシウムと、必要に応じて非水溶性無機物とを、上述した所定の割合で十分に混合して、混合物を調製する(混合工程)。
【0036】
混合工程において、合成樹脂は、粉末や顆粒などの固体として混合してもよく、あらかじめ樹脂を溶融した状態で混合してもよい。また合成樹脂以外の他の成分は、粉末や顆粒などの固体として混合することができる。混合工程における各原料の混合順序は特に制限されず、例えば各原料の一括混合であってもよく、順次添加による混合であってもよい。
合成樹脂を固体として用いる場合、その粒径は、0.01mm以上0.5mm以下程度であることが、他の構成成分と均一に混合し得る点から好ましい。いずれの混合方法においても、混合の際は、合成樹脂の融点以上に加熱されていることが好ましい。
【0037】
混合工程は、パドルミキサー等の混合機を用いて行うことができる。詳細には、例えば混合機としてリボンパドルミキサー(槇野産業株式会社製)を用いたときに、その回転数を好ましくは50rpm以上として、より好ましくは80rpm以上として、また、好ましくは150rpm以下として、より好ましくは120rpm以下として、3分以上10分以下にわたり混合することができる。また加熱を行う場合、その加熱温度は、上述した合成樹脂の融点以上の温度とすることができ、好ましくは60℃以上160℃以下である。このように混合することによって、構成成分を均一に混合することができ、その結果、得られる排泄物処理材に所望の耐水性及び消臭性能を発現させやすくすることができる。
【0038】
排泄物処理材に非水溶性無機物を更に含む場合、排泄物処理材の消臭性能を更に高める観点から、非水溶性無機物のBET比表面積として、好ましくは3m2/g以上、より好ましくは5m2/g以上、更に好ましくは7m2/g以上であり、好ましくは100m2/g以下、より好ましくは90m2/g以下、更に好ましくは80m2/g以下であるものを用いる。非水溶性無機物のBET比表面積は、例えば窒素ガスを利用した比表面積測定装置(例えば株式会社島津製作所製、型番:3Flex)を用いて測定することができる。
【0039】
非水溶性無機物として酸化亜鉛を含有させる場合、その25℃におけるpHが好ましくは7超以上、更に好ましくは7.5以上であり、好ましくは9未満、更に好ましくは8.5以下であるものを用いる。用いられる酸化亜鉛のpHは、例えば測定対象の酸化亜鉛0.1gを蒸留水10mLに分散させた分散液について、pH測定装置(例えば株式会社堀場製作所製、型番:F71S)を用いて25℃で測定することができる。このようなpHを有する酸化亜鉛は、その構造中に酸素格子欠陥を有しており、該格子欠陥の存在によってペットの排泄物に起因する不快な臭い成分が吸着されやすくなるので、上述の酸化亜鉛を用いることによって、ペットの排泄物に起因する不快な臭いを一層効果的に消臭することができる排泄物処理材を得ることができる。このような酸化亜鉛は、例えば後述する実施例に示すように、市販のものを用いることができる。
【0040】
非水溶性無機物として酸化亜鉛を含む場合、この酸化亜鉛は、亜鉛蒸気を空気中で酸化して冷却して得られたものであるか、又は硫酸亜鉛又は塩化亜鉛の水溶液にソーダ灰を加えて沈殿させた塩基性炭酸亜鉛をか焼して得られたものであることも好ましい。このような製造方法を経て得られた酸化亜鉛を用いることによって、ペットの排泄物に起因する不快な臭いの消臭効果を一層効果的に発現させることができる排泄物処理材を得ることができる。か焼とは、塩基性炭酸亜鉛を加熱して炭酸ガスなどの揮発成分を除去し、酸化亜鉛を得ることを指す。
【0041】
なお、上述した方法によって得られた酸化亜鉛は、本発明の効果に寄与するための粒子構造や特性の全部を解析することは実質的に不可能であり、その構造及び特性によって特定するには著しく過大な経済的支出及び時間を要する。そのため、前記酸化亜鉛には、本出願の出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情、すなわち「不可能・非実際的事情」が存在する。
【0042】
次に、得られた混合物をペレタイザー等の成形機を用いて造粒成形する(成形工程)。本工程における成形機としては、例えばF-5型成形機(株式会社ダルトン製)等を用いることができる。このような成形機を用いることによって、混合物を該成形機の内部で圧密化させることができ、その結果、尿などの液と接触しても容易に崩壊しない程度の保形性を有し、且つ多孔質の排泄物処理材を製造することができる。成形工程において、圧密化の際に負荷される圧力は、得られる排泄物処理材を所望の形状に造粒成形しやすくするとともに、製造後の保形性を高める観点から、9.8MPa以上であることが好ましく、29.4MPa以上であることがより好ましく、また、196MPa以下であることが好ましく、177MPa以下であることがより好ましい。
【0043】
このように製造された排泄物処理材の寸法は、成形機における押し出し口の孔径によって適宜変更可能であるが、例えば、その直径が1mm以上10mm以下程度であり、その高さが3mm以上30mm以下程度のペレット状に造粒されたものであることが好ましい。つまり、排泄物処理材は、その高さが直径よりも大きな円柱状のペレットとして製造されることが好ましい。
【0044】
以上は排泄物処理材に関する説明であったところ、以下に該排泄物処理材を用いたペット用排泄物処理システム(以下、単に「排泄物処理システム」ともいう。)を
図1ないし
図3を参照しながら説明する。
【0045】
図1ないし
図3に示す排泄物処理システム10は、上述の排泄物処理材20と、排泄物処理材20を敷設するための多孔部材30と、尿を吸収するための吸収体40とを備えている。取り扱い性の観点から、排泄物処理システム10は、その下層に容器50を有しており、該容器50は、吸収体40を収容可能なトレイ52を有していることが好ましい。
【0046】
多孔部材30は、浅底のトレイ状の形状をしており、その底部にすのこ状の多孔部31を有している。多孔部31は、互いに平行に延びる複数本の線材を有して構成されている。線材どうしの間は、排泄物処理材20が落下しない程度の空隙を有している。また、多孔部材30は、容器50から着脱可能な構成となっている。
【0047】
吸収体40は、尿などの液体を吸収可能なシート状のものである。吸収体40は、例えば(1)植物繊維又はパルプを主体とする基材に、抗菌剤と、バインダー、架橋剤及び水の少なくとも一種とを混合して得られた混合物をシート状に成形したもの、(2)所定の粒径に粉砕した粘土鉱物(カオリン、ベントナイト、ゼオライト、珪藻土等)、水及びバインダーを混合してスラリーとし、該スラリーを所定形状の型枠内に流し込み、所定の含水率になるまで所定温度で乾燥させた後に脱型して作製したもの、又は(3)パルプと吸水性ポリマーとの混合物を不織布等のシートで包んでシート状にしたもの等を用いることができる。挙げられる。特に、前記(1)の構成原料からなる吸収体40を用いることが、尿の吸収性の向上及び取り扱い性が容易になる点から好ましい。
【0048】
容器50は、上部が開口した有底の形状のものであり、多孔部材30の底部及び吸収体40を収容し得る容積を有する。容器50の一側面には、略矩形の切り欠き51が形成されており、該切り欠き51を通じてトレイ52が容器50内に出し入れ可能になっている。トレイ52は、平面視に矩形形状を有する薄型のものであり、容器50に収容可能となっている。
図3に示すように、トレイ52には、尿等の排泄液を吸収保持する吸収体40が収容される。
【0049】
排泄物処理システムの使用状態においては、
図3に示すように、排泄物処理システム10は、吸収体40の上に多孔部材30が配されており、多孔部材30の上に排泄物処理材20が敷設されている構成となっている。詳細には、同図に示す収容状態では、容器50は、多孔部材30の底部によって上下に区画されており、容器50の上層部分は、多孔部材30上に排泄物処理材20が敷設されており、また容器50の下層部分は、吸収体40がトレイ52内に敷設されている。吸収体40は、尿を効果的に吸収する観点から、多孔部材30の多孔部31が配されている面積と略一致する大きさを有することが好ましい。
【0050】
本発明の排泄物処理材を、
図1ないし
図3に示す排泄物処理システム10に用いると、ペットから排泄された尿は、排泄物処理材20間を通過して、多孔部材30の下に敷設された吸収体40に素早く吸収される。尿の臭い成分は、尿と接触した排泄物処理材20及び吸収体40によって消臭されることになる。また、ペットから排泄された糞は、排泄物処理材20上に又は排泄物処理材20と混在して残り、糞から生じる臭い成分が排泄物処理材20に吸着され、消臭効果が奏される。
排泄物処理材20は耐水性が高く、尿と接触しても膨張したり崩壊したりしないので、排泄物処理材を長期間使用することができ、取り換えの手間が低減される。また、排泄物処理材を長期間使用した場合でも、取り換えの際やペットが該処理材上を歩く際に、該処理材が崩壊することがなく、取り扱い性に優れているものとなる。
【0051】
以上の構成を有するペット用排泄物処理材、及び該処理材を用いたペット用排泄物処理システムによれば、ペットの尿や糞等の排泄物の臭いを効果的に消臭することができる。これらは、特に猫用の排泄物の処理材として有用であるが、これ以外のペット、例えば犬等の小動物用の排泄物を処理するために用いることもできる。
【0052】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、上述の実施形態では、排泄物処理材の形状は円柱状のものとして説明したが、その形状は特に限定されず、三角柱状、四角柱状などの多角柱状や、楕円柱状などとすることができる。排泄物処理材の形状は、成形機における押し出し口の形状を変更することによって、適宜変更可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。以下の表中、「‐」は非含有であることを意味する。
【0054】
〔実施例1~3〕
植物由来の素材の粉砕物として木粉(大日産業株式会社製、平均粒子径:700μm、針葉樹由来木粉90%以上)と、合成樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)(東ソー株式会社製、ウルトラセン(登録商標)710;融点:69℃、MFR:18g/10分)と、炭酸カルシウムA(白石工業株式会社製、白艶華CC;平均粒子径:0.04μm)と、非水溶性無機物として酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、微細酸化亜鉛;平均粒子径:0.28μm、BET比表面積:11m2/g)とを以下の表1に示す分量で混合した。混合は、リボンパドルミキサー(槇野産業株式会社製)を用い、回転数95rpmで5分間行った。その後、ペレタイザー(株式会社ダルトン製、F-5型)と、押し出し口の孔径を6mm、厚みを40mmとしたダイスとを用いて、底面の直径6mm×高さ40mmの寸法を有する円柱状のペット用排泄物処理材を製造した。
【0055】
〔実施例4〕
炭酸カルシウムAに代えて、炭酸カルシウムB(備北粉化工業株式会社製、ソフトン3200;平均粒子径:0.7μm)を用い、各成分を以下の表1に示す分量で混合したほかは、実施例1と同様にペット用排泄物処理材を製造した。
【0056】
〔比較例1〕
炭酸カルシウムAの含有量を変更し、且つ各成分を以下の表1に示す分量で混合したほかは、実施例1と同様にペット用排泄物処理材を製造した。
【0057】
〔比較例2~3〕
炭酸カルシウムBの含有量を変更し、且つ各成分を以下の表1に示す分量で混合したほかは、実施例1と同様にペット用排泄物処理材を製造した。
【0058】
〔比較例4~7〕
炭酸カルシウムAに代えて、炭酸カルシウムC(三共精粉株式会社製、特級;平均粒子径:4.4μm)を用い、各成分を以下の表1に示す分量で混合したほかは、実施例1と同様にペット用排泄物処理材を製造した。
【0059】
〔参考例1〕
炭酸カルシウムを非含有とし、各成分を以下の表1に示す分量で混合したほかは、実施例1と同様にペット用排泄物処理材を製造した。
【0060】
〔耐水性の評価〕
実施例、比較例及び参考例のペット用排泄物処理材につき、以下の方法で耐水性の評価を行った。まず、測定対象のペット用排泄物処理材70gをメッシュシーブ内に収容した。メッシュシーブは、東京スクリーン社製、内径100mm×高さ45mm、線径1.12mm、眼開き2.8mmのステンレス製のものを用いた。次いで、メッシュシーブに収容したペット用排泄物処理材を、水温を25℃に設定した水浴(アズワン、EW-100RD)に投入し、20分間浸漬させた。そして、浸漬後のペット用排泄物処理材の質量を測定し、以下の計算式(I)から吸水率(%)を算出した。参考例1の吸水率よりも低い吸水率を示すものは耐水性に優れることを意味し、参考例1の吸水率よりも高い吸水率を示すものは耐水性に劣ることを意味する。結果を表1に示す。
吸水率(%)=100×〔(浸漬後のペット用排泄物処理材の質量[g])-(浸漬前のペット用排泄物処理材の質量[g])〕/(浸漬前のペット用排泄物処理材の質量[g]) ・・(I)
【0061】
〔製造時における装置負荷の評価〕
実施例、比較例及び参考例のペット用排泄物処理材を製造するにあたり、製造時の装置への負荷を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
○:製造時において、単位時間当たりの造粒個数が設定値の範囲内となり、また、装置内の意図しない電流・電圧変化が観察されず、装置負荷の低減に優れる。
×:製造時において、単位時間当たりの造粒個数が少なくなったり、装置内の意図しない電流・電圧変化が観察されたりして、装置負荷が生じている。
【0062】
【0063】
表1に示すように、各実施例の排泄物処理材は、所定の粒子径を有する炭酸カルシウムを所定の含有量で配合することによって、比較例の排泄物処理材と比較して、耐水性が高く、尿などの水分存在下における長期間の使用において形状維持性が良好であるとともに、装置負荷が低減されていることが判る。比較例1及び7の排泄物処理材は、耐水性が良好であるものの製造時における装置負荷が過大となり、生産効率に劣ることも判る。また、各実施例の排泄物処理材は、高い消臭効果を発現できる。
【符号の説明】
【0064】
10 ペット用排泄物処理システム
20 ペット用排泄物処理材
30 多孔部材
40 吸収体
50 容器
51 切り欠き
52 トレイ