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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】エンコーダおよびモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/215 20160101AFI20240709BHJP
   H02K 11/02 20160101ALI20240709BHJP
   H02K 7/102 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H02K11/215
H02K11/02
H02K7/102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020160336
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022053616
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 豊
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-229972(JP,A)
【文献】特開2016-031342(JP,A)
【文献】特開2016-169981(JP,A)
【文献】特開2016-226094(JP,A)
【文献】特開2017-123731(JP,A)
【文献】特開2017-034779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 11/215
H02K 11/02
H02K 7/102
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を備えたロータと、前記ロータに径方向で対向するステータと、前記ステータに対して前記回転軸の軸線方向の一方側に配置される電磁ブレーキと、を備えたブレーキ付きモータの回転を検出するエンコーダであって、
前記回転軸の前記軸線方向の一方側の端部に固定されるマグネットホルダと、
前記マグネットホルダに保持されるマグネットと、
前記マグネットに前記軸線方向の一方側から対向する磁気センサ、および、前記磁気センサが配置されるセンサ基板と、
前記磁気センサの出力から求められる検出角度を補正する補正部と、を有し、
前記マグネットホルダは、前記マグネットの外周側を囲む周壁を備えるとともに、前記回転軸の先端面と前記マグネットとの間に所定のギャップが設けられる位置に前記マグネットを保持しており、
前記周壁は、前記軸線方向の一方側の先端に設けられた環状突部と、前記環状突部の内周側に設けられた第1環状段部と、を備え、前記第1環状段部の内周側に前記マグネットが嵌まる第2環状段部が設けられ、
前記補正部は、前記電磁ブレーキに通電するときの電圧が前記電磁ブレーキの仕様電圧である第1電圧と一致するとき、および、前記第1電圧と異なるときのいずれの場合においても、前記第1電圧よりも低い第2電圧で前記電磁ブレーキに通電したときに発生するブレーキ磁界の影響による検出誤差を打ち消す補正を行うことを特徴とするエンコーダ。
【請求項2】
前記補正部は、各回転位置で発生する検出誤差のデータを補正値として記憶し、
前記補正値は、前記第2電圧で前記電磁ブレーキに通電したときに発生するブレーキ磁界の影響による検出誤差のデータであることを特徴とする請求項1に記載のエンコーダ。
【請求項3】
前記第2電圧は、前記第1電圧の75%の電圧であることを特徴とする請求項1または2に記載のエンコーダ。
【請求項4】
前記回転軸の先端面と前記マグネットとの間に、0.5mm以上のエアギャップが設けられており、
前記環状突部は、前記マグネットの前記軸線方向の一方側の表面よりも前記軸線方向の一方側に突出していることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のエンコーダ
【請求項5】
前記環状突部と前記マグネットとの隙間は、前記マグネットを固定する接着剤が収容される接着剤溜まりであることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のエンコーダ。
【請求項6】
前記マグネットホルダは、磁性材であることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のエンコーダ。
【請求項7】
回転軸を備えたロータと、前記ロータに径方向で対向するステータと、前記ステータに対して前記回転軸の軸線方向の一方側に配置される電磁ブレーキと、請求項1から6の何れか一項に記載のエンコーダと、を備えることを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダおよびモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒状のモータケースにステータおよびロータを収容したモータにおいて、モータケースの反出力側の端部にエンコーダケースを固定し、エンコーダケースの内部にロータの回転を検出するエンコーダを収容したエンコーダ付きモータが用いられている。特許文献1、2には、この種のモータが開示される。
【0003】
特許文献1、2のモータは、ステータに対して反出力側に配置される電磁ブレーキを備える。特許文献1のモータでは、電磁ブレーキは、回転軸(モータ軸)に固定される摩擦板と、スプリングによって摩擦板に押し付けられるアーマチュアと、スプリングの付勢力とは反対方向へ向けてアーマチュアを吸引する磁気吸引力を発生させるブレーキ用ステータを備える。
【0004】
ブレーキ付きモータは、ロータの回転を検出するエンコーダが電磁ブレーキから発生する漏れ磁束の影響を受けるおそれがある。特許文献1のモータは、ブレーキケースの反出力側の端部に磁性部材からなる仕切り板を配置して、ブレーキからエンコーダの側に向かう漏れ磁束を吸収する。また、仕切り板の内周面と回転軸の外周面に段部を形成してラビリンス構造とし、エンコーダの基板を保持する基板ホルダについても磁性部材とすることで、さらに漏れ磁束を低減させる。
【0005】
また、特許文献2のモータは、予め、電磁ブレーキから発生する漏れ磁束が存在することを前提として漏れ磁束の影響を排除するようにエンコーダの出力を補正することにより、漏れ磁束の影響によるエンコーダの検出精度の低下を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5943694号公報
【文献】特開平9-243398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンコーダの分解能の向上により、特許文献1のような対策を行った場合でも、検出精度に対する漏れ磁束の影響が問題になるレベルになることがある。漏れ磁束をさらに低減させるために、回転軸の反出力側と出力側を異なる材質とすることで回転軸を介してエンコーダ側に磁束が漏れることを抑制する対策も行われているが、部品コストが高くなるという問題がある。
【0008】
また、電磁ブレーキ付きのモータは、ユーザがブレーキ仕様どおりの電圧で使用しない場合がある。例えば、電磁ブレーキの発熱低減や消費電力低減を目的として、仕様電圧よりも低い電圧で使用されることがある。さらに、電磁ブレーキは、極性を逆にして接続しても動作するため、誤った極性で接続され、そのまま使用されることがある。特許文献2のように、電磁ブレーキから発生する漏れ磁束の影響を補正により打ち消す場合、ユーザがブレーキ仕様どおりの電圧および極性で使用した場合には補正によって漏れ磁束による検出角度の誤差を打ち消すことができるが、ユーザがブレーキ仕様と異なる電圧で使用した場合には、補正量が漏れ磁束による検出角度の誤差と一致せず、漏れ磁束の影響を目標
どおりに打ち消すことができない。また、ユーザがブレーキ仕様と逆の極性で使用した場合には、補正により逆に検出角度の誤差を大きく増大させてしまう過調整となってしまうことがある。
【0009】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、安価な構成で、電磁ブレーキが仕様どおりに使用されない場合も含めてエンコーダの検出精度の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、回転軸を備えたロータと、前記ロータに径方向で対向するステータと、前記ステータに対して前記回転軸の軸線方向の一方側に配置される電磁ブレーキと、を備えたブレーキ付きモータの回転を検出するエンコーダであって、前記回転軸の前記軸線方向の一方側の端部に固定されるマグネットホルダと、前記マグネットホルダに保持されるマグネットと、前記マグネットに前記軸線方向の一方側から対向する磁気センサ、および、前記磁気センサが配置されるセンサ基板と、前記磁気センサの出力から求められる検出角度を補正する補正部と、を有し、前記マグネットホルダは、前記マグネットの外周側を囲む周壁を備えるとともに、前記回転軸の先端面と前記マグネットとの間に所定のギャップが設けられる位置に前記マグネットを保持しており、前記周壁は、前記軸線方向の一方側の先端に設けられた環状突部と、前記環状突部の内周側に設けられた第1環状段部と、を備え、前記第1環状段部の内周側に前記マグネットが嵌まる第2環状段部が設けられ、前記補正部は、前記電磁ブレーキの仕様電圧である第1電圧よりも低い第2電圧で前記電磁ブレーキに通電したときに発生するブレーキ磁界の影響による検出誤差を打ち消す補正を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、エンコーダのマグネットと回転軸とが接していないので、回転軸の端部から発する漏れ磁束がマグネットに直接干渉しにくく、マグネットの磁界を乱しにくい。従って、マグネットの磁束を安定化させることができるので、電磁ブレーキからの漏れ磁束による、エンコーダの検出精度の低下を抑制できる。
【0012】
また、本発明によれば、マグネットホルダの周壁の先端に第1環状段部が設けられ、マグネットは第1環状段部の内周側に設けられる第2環状段部に嵌まるので、マグネットホルダの周壁とマグネットとの間に隙間が確保される。電磁ブレーキの漏れ磁束が通過する磁路は、回転軸およびマグネットホルダを含んで構成されるが、本発明では、マグネットホルダの磁気センサ側の端部とマグネットとの間に隙間が確保されるので、電磁ブレーキからの漏れ磁束がマグネットに直接干渉しにくく、マグネットの磁界を乱しにくい。従って、磁気センサが検出する磁束を安定化させることができるので、電磁ブレーキからの漏れ磁束による、エンコーダの検出精度の低下を抑制できる。
【0013】
さらに、本発明によれば、上記のような構造上の対策を行っても電磁ブレーキからの漏れ磁束が磁気センサの出力に影響を与えることを前提として、エンコーダの検出角度に対して、電磁ブレーキが仕様電圧よりも低い電圧で通電された場合に発生するブレーキ磁界の影響による検出誤差を打ち消す補正を行う。このようにすると、ユーザが仕様電圧よりも低い電圧で電磁ブレーキを使用したときや、極性を逆にして電磁ブレーキを使用した場合にも含めて、エンコーダの検出精度に対する漏れ磁束の影響を低くすることができ、エンコーダの検出精度が大きく低下しにくい。また、補正により逆に検出誤差が大きくなる過調整を抑制できる。従って、高コストな部品を使用することなく、電磁ブレーキが仕様どおりに使用されない場合も含めて、電磁ブレーキからの漏れ磁束による、エンコーダの検出精度の低下を抑制できる。
【0014】
本発明において、前記回転軸の先端面と前記マグネットとの間に、0.5mm以上のエアギャップが設けられていることが好ましい。エアギャップを設けることで、ブレーキの
漏れ磁束が回転軸からマグネットに伝わる経路に磁気抵抗を持たせることができ、マグネットに向かう漏れ持続を減衰させることができる。従って、ブレーキからの漏れ磁束による、マグネットの磁束の乱れを少なくすることができる。
【0015】
本発明において、前記第2電圧は、前記第1電圧の75%の電圧であることが好ましい。このようにすると、電磁ブレーキが仕様電圧の50%の電圧で使用可能な場合に、仕様電圧と仕様電圧の50%の電圧の間のいずれの電圧で使用された場合においても、補正によって検出誤差を小さくすることができ、エンコーダの検出精度に対する漏れ磁束の影響が大きくなりにくい。また、本発明者らの検証によれば、電磁ブレーキが逆の極性で接続された場合も、補正によって検出誤差を小さくすることができ、エンコーダの検出精度に対する漏れ磁束の影響が大きくなりにくい。従って、エンコーダの検出精度が大きく低下しにくい。
【0016】
本発明において、前記環状突部は、前記マグネットの前記軸線方向の一方側の表面よりも前記軸線方向の一方側に突出していることが好ましい。このようにすると、ブレーキからの漏れ磁束がマグネットよりも周壁の先端に集まりやすい。従って、マグネットの磁束に対する電磁ブレーキからの漏れ磁束の影響を少なくすることができる。
【0017】
本発明において、前記環状突部と前記マグネットとの隙間は、前記マグネットを固定する接着剤が収容される接着剤溜まりであることが好ましい。このようにすると、電磁ブレーキからの漏れ磁束の影響を低減させるための構造を利用して、マグネットの固定強度を高めることができる。
【0018】
本発明において、前記マグネットホルダは、磁性材であることが好ましい。このようにすると、マグネットホルダがマグネットに対するヨークとして機能するので、磁気センサによって検出されるセンサ磁束を安定化させることができる。
【0019】
次に、本発明は、回転軸を備えたロータと、前記ロータに径方向で対向するステータと、前記ステータに対して前記回転軸の軸線方向の一方側に配置される電磁ブレーキと、上記のエンコーダを備えたブレーキ付きモータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、回転軸の端部から発する漏れ磁束がマグネットに直接干渉しにくく、マグネットの磁界を乱しにくい。また、本発明によれば、マグネットホルダの磁気センサ側の端部とマグネットとの間に隙間が確保されるので、電磁ブレーキからの漏れ磁束がマグネットに直接干渉しにくく、マグネットの磁界を乱しにくい。従って、磁気センサが検出する磁束を安定化させることができるので、電磁ブレーキからの漏れ磁束による、エンコーダの検出精度の低下を抑制できる。
【0021】
さらに、本発明によれば、上記のような構造上の対策を行っても電磁ブレーキからの漏れ磁束が磁気センサの出力に影響を与えることを前提として、エンコーダの検出角度に対して、電磁ブレーキが仕様電圧よりも低い電圧で通電された場合に発生するブレーキ磁界の影響による検出誤差を打ち消す補正を行う。このようにすると、様々な使用態様において、エンコーダの検出精度が大きく低下しにくい。また、補正により逆に検出誤差が大きくなる過調整を抑制できる。従って、高コストな部品を使用することなく、電磁ブレーキが仕様どおりに使用されない場合も含めて、電磁ブレーキからの漏れ磁束による、エンコーダの検出精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るエンコーダを備えたモータの断面図である。
図2】エンコーダの主要部の拡大断面図である。
図3】マグネットおよびマグネットホルダの平面図、ならびに、センサ基板の平面図である。
図4】エンコーダの信号処理回路を模式的に示すブロック図である。
図5】エンコーダの検出誤差に対する電磁ブレーキからの漏れ磁束の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(全体構成)
以下に、図面を参照して、本発明を適用したモータの実施形態を説明する。図1は本発明に係るエンコーダ10を備えたモータ1の断面図である。モータ1は、ブレーキ付きモータである。図1に示すように、モータ1は、回転軸20を備えたロータ2と、ロータ2の外周側に配置されるステータ3と、ステータ3を収容する筒状のモータケース4と、モータケース4の一端に固定される軸受けホルダ5と、モータケース4の他端に固定されるブレーキケース6と、ブレーキケース6に収容される電磁ブレーキ7と、ロータ2の回転を検出するエンコーダ10を備える。エンコーダ10は、エンコーダケース8に収容される。
【0024】
回転軸20は、モータ1の径方向の中心において軸線方向Lへ延びている。本明細書において、軸線方向Lの一方側をL1、軸線方向Lの他方側をL2とする。軸受けホルダ5は、モータケース4の軸線方向Lの他方側L2の端部に固定される。回転軸20は、軸受けホルダ5から軸線方向Lの他方側L2へ突出する出力軸20Aを備える。従って、本形態では、軸線方向Lの他方側L2は出力側であり、軸線方向Lの一方側L1は反出力側である。
【0025】
ロータ2は、回転軸20と、回転軸20の外周面に固定されるロータマグネット21を備える。回転軸20は磁性材からなる。回転軸20は、軸受けホルダ5の中央に形成された凹部に保持される第1軸受22、および、ブレーキケース6に保持される第2軸受23によって回転可能に保持される。本形態では、第1軸受22および第2軸受23はボールベアリングである。
【0026】
モータケース4は、アルミ等の金属からなる。ステータ3は、積層コアからなるステータコア30と、ステータコア30に設けられた複数の突極31のそれぞれにインシュレータ32を介して巻回されたコイル33を備える。ステータコア30は、モータケース4の内側に焼き嵌めあるいは圧入により固定される。ステータ3の一方側L1には、環状の配線基板34が配置される。配線基板34は、インシュレータ32から突出する端子ピン35を介してコイル33に電気的に接続される。
【0027】
モータケース4の側面には、モータケース4に形成された切欠き部40を覆うリード線ホルダ41が固定される。コイル33への給電用のリード線(図示せず)は、リード線ホルダ41の内部へ引き回され、切欠き部40からモータケース4の内側へ引き込まれて配線基板34に接続される。配線基板34に接続されるリード線は、電磁ブレーキ7への給電用のリード線を含む。
【0028】
モータ1はACサーボモータであり、ステータ3は3相のコイル33を備える。本形態では、コイル33が配置されるスロット数は12である。また、ロータマグネット21は、外周面にN極とS極が周方向に交互に着磁された8極着磁マグネットである。つまり、本形態のモータ1は、8極12スロットである。なお、モータ1の極数およびスロット数は、上記と異なっていてもよい。
【0029】
ブレーキケース6は、アルミ等の金属からなる。ブレーキケース6は、中央に第2軸受23を保持する凹部が形成された厚肉状の底部61と、底部61の外周縁から軸線方向Lの他方側L2へ延びる側壁部62を備える。側壁部62の先端には、モータケース4の内周側に嵌まる小径部63が形成される。また、軸受けホルダ5の軸線方向Lの一方側L1の面には、モータケース4の内周側に嵌まる環状リブ51が形成されている。モータケース4の両端に軸受けホルダ5およびブレーキケース6を組み付ける際、小径部63および環状リブ51とモータケース4との隙間は、図示しないシール材によって封止される。
【0030】
電磁ブレーキ7は、回転軸20と一体に回転する摩擦板71と、摩擦板71に軸線方向Lの一方側L1から対向するアーマチュア72と、アーマチュア72を摩擦板71に向けて付勢するトルクスプリング(図示せず)と、摩擦板71に軸線方向Lの他方側L2から対向するプレート73と、アーマチュア72に対して軸線方向Lの一方側L1に配置されるブレーキ用ステータ74を備える。ブレーキ用ステータ74は、ブレーキケース6に固定される。
【0031】
電磁ブレーキ7は、ブレーキ用ステータ74のコイルに通電しない状態では、トルクスプリングによってアーマチュア72が摩擦板71に押し付けられて回転軸20に回転負荷が加えられる。従って、ブレーキ力が発生する。また、ブレーキ用ステータ74のコイルに通電した状態では、アーマチュア72がトルクスプリングの付勢力に抗してブレーキ用ステータ74に吸引されるため、アーマチュア72と摩擦板71との間に隙間が発生する。従って、回転軸20に摩擦による回転負荷が加えられないので、ブレーキ力が解除される。
【0032】
エンコーダケース8は、非磁性の樹脂からなる。エンコーダケース8は、ブレーキケース6の底部61と軸線方向Lに対向する底部81と、底部81の外周縁から底部61に向けて他方側L2へ立ち上がる側壁部82を備える。側壁部82の先端と底部61との隙間はシール材9によりシールされる。側壁部82には、エンコーダ10に接続されるエンコーダ配線19を外部に引き出すためのエンコーダ配線取り出し部83が設けられている。
【0033】
(エンコーダ)
エンコーダ10は磁気式エンコーダである。エンコーダ10は、マグネットホルダ11を介して回転軸20に固定されるマグネット12と、マグネット12に対して軸線方向Lの一方側L1から対向する磁気センサ13を備える。マグネットホルダ11は磁性材からなる。マグネット12は、磁気センサ13と対向する着磁面にN極とS極が1極ずつ着磁されている。
【0034】
磁気センサ13が配置されるセンサ基板14は、基板ホルダ15を介してブレーキケース6の底部61に固定される。基板ホルダ15は、樹脂などの絶縁材により形成される。マグネット12およびセンサ基板14は、エンコーダケース8の内側に固定されるカップ状のシールド部材16によって外周側および一方側L1が囲まれている。シールド部材16は磁性金属からなる。
【0035】
図2は、エンコーダ10の主要部の拡大断面図である。図3(a)は、マグネット12およびマグネットホルダ11の平面図であり、を軸線方向Lの一方側L1から見た図である。図3(b)は、センサ基板14の平面図であり、軸線方向Lの他方側L2から見た図である。図2図3(a)に示すように、マグネットホルダ11は、軸線方向Lから見て円形の保持部110と、保持部110の中心から軸線方向Lの他方側L2へ突出する筒状の固定部120を備える。回転軸20の一方側L1の端部は、保持部110および固定部120の径方向の中心を貫通する中心孔130に嵌まっている。
【0036】
図3(b)に示すように、磁気センサ13は、センサ基板14の中央に配置される感磁素子131と、感磁素子131の近傍に配置される2個のホール素子132を備える。2個のホール素子132は、90度離れた角度位置に配置される。
【0037】
保持部110は、円形の底部111と、底部111の外周縁から軸線方向Lの一方側L1へ突出する周壁112を備える。周壁112の先端に一方側L1へ突出する環状突部113が設けられ、環状突部113の内周側に他方側L2へ凹む第1環状段部114が設けられている。マグネット12は、第1環状段部114の内周側に設けられた第2環状段部115に嵌合する。図2に示すように、回転軸20の一方側L1の先端面24とマグネット12との間には、所定寸法のエアギャップGが設けられている。
【0038】
本形態では、エンコーダ10を組み立てる際、治具を用いて回転軸20の先端にマグネットホルダ11を位置決めする。その際、回転軸20の先端面24とマグネット12との間のエアギャップGが0.5mm以上、好ましくは0.6mm以上1.0mm以内の寸法となるように、回転軸20に対してマグネットホルダ11を位置決めする。これにより、マグネット12と回転軸20の先端面24との間にエアギャップGが確保される。
【0039】
本形態では、マグネットホルダ11の周壁112には2段階に段部が設けられており、内周側の段部である第2環状段部115にマグネット12が嵌まっているので、マグネット12は環状突部113から径方向に離間している。マグネット12は、接着剤によりマグネットホルダ11に固定されており、第1環状段部114は、マグネット12を固定するための接着剤(図示せず)を配置する接着剤溜まりとして利用される。従って、マグネット12の固定強度が確保される。
【0040】
図2に示すように、本形態では、環状突部113の先端は、マグネット12の軸線方向Lの一方側L1の表面12Aよりも一方側L1へ突出している。電磁ブレーキ7で発生する磁束が回転軸20およびマグネットホルダ11を通過して漏れ磁束となる際には、マグネット12を囲む周壁112が磁路となり、環状突部113からマグネットホルダ11の外部へ漏れ磁束が出て磁気センサ側へ向かうが、本形態では周壁112に第1環状段部114が設けられているため、環状突部113がマグネット12から径方向に離れている。また、環状突部113の先端は、マグネット12の表面12Aよりも軸線方向Lの一方側L1に位置する。従って、マグネット12から離れた位置から漏れ磁束が出るように磁路が構成されているので、マグネット12の磁界に及ぼす漏れ磁束の影響が少ない。
【0041】
エンコーダ10は、回転軸20の回転に伴ってマグネット12が回転し、マグネット12の回転による磁界の変化を磁気センサ13の出力から検出する。エンコーダ10は、1回転で得られる感磁素子131の出力の周期を2個のホール素子132の出力により判別することでロータ2の回転位置を検出するアブソリュートエンコーダとして機能する。
【0042】
(エンコーダの角度補正)
図4は、エンコーダ10の信号処理回路を模式的に示すブロック図である。エンコーダ10は、磁気センサ13の出力が入力されるエンコーダ回路17を備える。エンコーダ回路17は、センサ基板14に配置される回路素子および配線パターンによって構成される。エンコーダ回路17は、磁気センサ13の出力から求められる検出角度を補正する補正部18を備える。補正部18により補正された検出角度は、センサ基板14上のコネクタに接続されたエンコーダ配線19を介して外部に出力される。
【0043】
補正部18は、電磁ブレーキ7から発生する漏れ磁束が存在することを前提として、漏れ磁束を打ち消すように検出角度を補正する処理を行う。本形態では、補正部18は、電磁ブレーキ7の仕様電圧である第1電圧よりも低い第2電圧で電磁ブレーキ7を駆動した
ときに発生するブレーキ磁界の影響を打ち消す補正を行う。ここで、第2電圧は、電磁ブレーキ7の仕様電圧の75%の電圧である。例えば、電磁ブレーキ7の第1電圧が24Vである場合には、第2電圧は、第1電圧の75%の電圧であり、18Vである。
【0044】
図5は、エンコーダ10の検出誤差に対する電磁ブレーキ7からの漏れ磁束の影響を示すグラフである。図5の横軸はロータ2の回転位置である。縦軸は検出誤差であり、エンコーダパルスのカウント数で示されている。図5のデータは、第1電圧(仕様電圧)が24Vである場合に、以下の6種類の態様で電磁ブレーキ7を駆動した場合に得られた検出誤差のデータである。
(1)駆動電圧24V、正規接続
(2)駆動電圧18V、正規接続
(3)駆動電圧12V、正規接続
(4)駆動電圧24V、逆接続
(5)駆動電圧18V、逆接続
(6)駆動電圧12V、逆接続
【0045】
逆接続は、電磁ブレーキ7に対して給電配線を極性を逆にして接続した状態である。図5に示すように、逆接続にした場合は、ロータ2の回転位置により検出誤差が大きく変動する。一方、正規接続では、検出誤差の変動は少なく、検出誤差の絶対値も逆接続の場合よりも小さい。また、正規接続と逆接続のいずれの場合も、電磁ブレーキ7の駆動電圧が小さくなるのに従って、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束による検出誤差の絶対値が小さくなっている。
【0046】
補正部18は、各回転位置で発生する検出誤差のデータを記憶し、エンコーダ回路17から出力される検出角度に対して、検出誤差を打ち消す補正を行う。その際、電磁ブレーキ7を第1電圧(24V)で駆動したときの検出誤差のデータではなく、電磁ブレーキ7を第2電圧(18V)で駆動したときの検出誤差のデータを補正値として用いる。このようにすると、電磁ブレーキ7を仕様電圧(24V)で駆動した場合だけでなく、仕様電圧と異なる電圧(18V、12V)で駆動した場合にも、検出誤差を小さくすることができる。
【0047】
すなわち、本形態では、上記(2)の態様で電磁ブレーキ7を駆動した場合は、発生する検出誤差どおりの補正値で補正が行われるので、最も検出誤差を小さくすることができる。次に、上記(1)の態様で電磁ブレーキ7を駆動した場合は、発生する検出誤差が補正値よりも大きい。そのため、検出誤差の一部は除去できないものの、検出誤差を少なくすることができる。また、上記(3)の態様で電磁ブレーキ7を駆動した場合は、発生する検出誤差が補正値よりも小さい。そのため、正負が逆の検出誤差が残るものの、検出誤差の絶対値は小さくすることができる。
【0048】
次に、上記(4)~(6)の態様で電磁ブレーキ7を駆動する場合には、発生する検出誤差と補正値の正負が逆になっている範囲を除き、検出誤差を小さくすることができる。図5のデータによれば、発生する検出誤差と補正値の正負が逆になっている範囲では、補正によって逆に検出誤差が増大する過調整となるが、そのような範囲は小さい。また、補正値が小さめに設定されている(すなわち、仕様電圧である24Vよりも低い18Vで電磁ブレーキ7を駆動したときの検出誤差を補正値として用いる)ので、過調整を少なくすることができる。
【0049】
(本形態の主な効果)
以上のように、本形態のモータ1は、回転軸20を備えたロータ2と、ロータ2に径方向で対向するステータ3と、ステータ3に対して回転軸20の軸線方向Lの一方側L1に
配置される電磁ブレーキ7と、を備えたブレーキ付きモータであって、ロータ2の回転を検出するエンコーダ10を備えている。本形態のエンコーダ10は、回転軸20の軸線方向Lの一方側L1の端部に固定されるマグネットホルダ11と、マグネットホルダ11に保持されるマグネット12と、マグネット12に軸線方向Lの一方側L1から対向する磁気センサ13、および、磁気センサ13が配置されるセンサ基板14と、磁気センサ13の出力から求められる検出角度を補正する補正部18と、を有する。マグネットホルダ11は、マグネット12の外周側を囲む周壁112を備えるとともに、回転軸20の先端面24とマグネット12との間に所定のギャップ(本形態では、エアギャップG)が設けられる位置にマグネット12を保持している。また、周壁112は、軸線方向Lの一方側L1の先端に設けられた環状突部113と、環状突部113の内周側に設けられた第1環状段部114と、を備え、第1環状段部114の内周側にマグネット12が嵌まる第2環状段部115が設けられている。さらに、補正部18は、電磁ブレーキ7の仕様電圧である第1電圧よりも低い第2電圧で電磁ブレーキ7に通電したときに発生するブレーキ磁界の影響を打ち消す補正を行う。
【0050】
本形態では、エンコーダ10のマグネット12と回転軸20とが接していないので、回転軸20の端部から発する漏れ磁束がマグネット12に直接干渉しにくく、マグネット12の磁界を乱しにくい。従って、マグネット12の磁束を安定化させることができるので、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束による、エンコーダ10の検出精度の低下を抑制できる。
【0051】
また、本形態では、マグネットホルダ11の周壁112の先端に第1環状段部114が設けられ、第1環状段部114の内周側に設けられた第2環状段部115にマグネット12が配置されるので、マグネットホルダ11とマグネット12との間に径方向の隙間が確保され、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束が通過する磁路とマグネット12との間に隙間が確保される。従って、漏れ磁束がマグネット12に直接干渉しにくく、マグネット12の磁界を乱しにくい。よって、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束による、エンコーダ10の検出精度の低下を抑制できる。
【0052】
さらに、本形態では、上記のような構造上の対策を行っても電磁ブレーキ7からの漏れ磁束が磁気センサ13の出力に影響を与えることを前提として、エンコーダ10の検出角度に対して、電磁ブレーキ7が仕様電圧(第1電圧)よりも低い第2電圧で駆動された場合に発生するブレーキ磁界の影響による検出誤差を打ち消す補正を行う。これにより、仕様電圧よりも低い電圧での使用や、極性を逆にした使用を行った場合においても、エンコーダ10の検出精度に対する漏れ磁束の影響を少なくすることができる。また、補正により逆に検出誤差が大きくなる過調整を抑制できる。従って、高コストな部品を使用することなく、電磁ブレーキ7が仕様どおりに使用されない場合も含めて、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束による、エンコーダ10の検出精度の低下を抑制できる。
【0053】
本形態では、回転軸20の先端面24とマグネット12との間に、0.5mm以上のエアギャップGが設けられている。エアギャップGを設けることにより、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束が回転軸20からマグネット12に伝わる経路に磁気抵抗を持たせることができ、マグネット12に向かう漏れ持続を減衰させることができる。従って、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束による、マグネット12の磁束の乱れを少なくすることができる。なお、回転軸20の先端面24とマグネット12との隙間は、エアギャップGでなくてもよく、非磁性の接着剤が充填されていてもよい。
【0054】
本形態では、第2電圧は、第1電圧の75%の電圧である。このように補正値を設定すると、電磁ブレーキ7が仕様電圧と異なる電圧で使用された場合においても、エンコーダ10の検出精度に対する漏れ磁束の影響が大きくなりにくく、検出誤差を小さくすること
ができる。例えば、ブレーキを解除可能な最低電圧はブレーキによって異なるが、ユーザが電磁ブレーキ7の電圧を仕様電圧の50%に下げて使用する可能性がある場合には、仕様電圧と仕様電圧の50%の電圧の中間の電圧を第2電圧に設定しておくことにより、仕様電圧と仕様電圧の50%の電圧の間のいずれの電圧で使用された場合においても、エンコーダ10の検出誤差を最大限小さくすることができる。また、電磁ブレーキ7が逆の極性で接続された場合も、このような補正値を用いることにより、エンコーダ10の検出精度に対する漏れ磁束の影響が大きくなりにくい。従って、エンコーダ10の検出精度が大きく低下しにくい。
【0055】
本形態では、環状突部113は、マグネット12の軸線方向Lの一方側L1の表面12Aよりも軸線方向Lの一方側L1に突出している。環状突部113は、電磁ブレーキ7の磁束が通過する磁路を構成しているので、環状突部113の先端がマグネット12から離れていれば、マグネット12から離れた位置から漏れ磁束が外部に出る。従って、マグネット12の磁界に及ぼす漏れ磁束の影響が少ないので、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束による、エンコーダ10の検出精度の低下を抑制できる。
【0056】
本形態では、環状突部113とマグネット12との隙間は、マグネット12を固定する接着剤が収容される接着剤溜まりである。従って、電磁ブレーキ7からの漏れ磁束の影響を低減させるための構造を利用して、マグネット12の固定強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…モータ、2…ロータ、3…ステータ、4…モータケース、5…ホルダ、6…ブレーキケース、7…電磁ブレーキ、8…エンコーダケース、9…シール材、10…エンコーダ、11…マグネットホルダ、12…マグネット、12A…マグネットの軸線方向の一方側の表面、13…磁気センサ、14…センサ基板、15…基板ホルダ、16…シールド部材、17…エンコーダ回路、18…補正部、19…エンコーダ配線、20…回転軸、20A…出力軸、21…ロータマグネット、22…第1軸受、23…第2軸受、24…先端面、30…ステータコア、31…突極、32…インシュレータ、33…コイル、34…配線基板、35…端子ピン、40…切欠き部、41…リード線ホルダ、51…環状リブ、61…底部、62…側壁部、63…小径部、71…摩擦板、72…アーマチュア、73…プレート、74…ブレーキ用ステータ、81…底部、82…側壁部、83…エンコーダ配線取り出し部、110…保持部、111…底部、112…周壁、113…環状突部、114…第1環状段部、115…第2環状段部、120…固定部、130…中心孔、131…感磁素子、132…ホール素子、G…エアギャップ、L…軸線方向、L1…軸線方向の一方側、L2…軸線方向の他方側
図1
図2
図3
図4
図5