(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20240709BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240709BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 111
B41J2/01 401
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2020162075
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】辻野 直人
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-162262(JP,A)
【文献】特開2020-059140(JP,A)
【文献】特開2015-166159(JP,A)
【文献】特開2019-025767(JP,A)
【文献】特開2016-215626(JP,A)
【文献】特開2016-068328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに接続され、インクを貯留する貯留部と、
前記貯留部と前記インクジェットヘッドとの間でインクを循環させる循環駆動部と、
前記インクジェットヘッドをクリーニングするクリーニング部と、
前記貯留部内のインクの液面高さが所定高さを維持しつつ前記貯留部と前記インクジェットヘッドとの間でインクを循環させる循環動作を行うよう
前記循環駆動部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記循環動作の開始から前記貯留部内のインクの液面高さが前記所定高さとなるまでの時間が閾値を超えた場合、前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断
し、
前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断した場合、前記クリーニング部により前記インクジェットヘッドをクリーニングするよう制御し、
前記インクジェットヘッドのクリーニング後に前記循環動作を再開させ、前記循環動作の再開から前記貯留部内のインクの液面高さが前記所定高さとなるまでの時間が閾値を超えた場合、前記ノズル内のインクのメニスカスの破壊とは異なるエラーが発生していると判定することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記貯留部は、本装置が待機状態へ移行する際には貯留しているインクの液面高さが前記所定高さになっており、本装置が待機状態の期間中は密閉状態とされ、
前記制御部は、本装置の待機状態から前記循環動作を開始した際における、前記循環動作の開始から前記貯留部内のインクの液面高さが前記所定高さとなるまでの時間が閾値を超えた場合、前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記貯留部は、
前記インクジェットヘッドの前記ノズルが開口したノズル面より高い位置に配置され、前記インクジェットヘッドに供給するインクを貯留する第1タンクと、
前記第1タンクと同じ高さに配置され、前記インクジェットヘッドからインクを回収する第2タンクとを有し、
前記循環動作は、前記第1タンク内および前記第2タンク内のインクの液面高さを前記所定高さに維持しつつ前記第1タンク、前記インクジェットヘッド、および前記第2タンクの間でインクを循環させるものであり、
前記第1タンクおよび前記第2タンクは、本装置が待機状態へ移行する際には貯留しているインクの液面高さが前記所定高さになっており、本装置が待機状態の期間中は密閉状態とされ、
前記制御部は、本装置の待機状態から前記循環動作を開始した際における、前記循環動作の開始から前記第1タンク内および前記第2タンク内のインクの液面高さが前記所定高さとなるまでの時間が閾値を超えた場合、前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記循環駆動部は、
インクを貯留する第3タンクと、
前記第3タンクから前記第1タンクへインクを送液する送液部とを有し、
前記制御部は、前記循環動作中において、前記第1タンク内および前記第2タンク内のインクの液面高さが前記所定高さ未満の場合、前記第3タンクから前記第1タンクへインクを送液するよう前記送液部を制御することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット印刷装置。
【請求項5】
前記制御部は、インクの温度に応じて前記閾値を調整することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドの上流側に配置されたタンクと、インクジェットヘッドと、その下流側に配置されたタンクとの間でインクを循環させつつ、インクジェットヘッドからインクを吐出して印刷するインク循環式のインクジェット印刷装置が知られている。
【0003】
このようなインクジェット印刷装置において、インクジェットヘッドの上流側のタンクおよび下流側のタンクを、インクジェットヘッドのノズル面より上方に配置することがある。
【0004】
このような構成では、インク循環を行わない待機中は、インクジェットヘッドの上流側のタンクおよび下流側のタンクを密閉状態にする必要がある。タンクからインクジェットヘッドへインクが流れてノズルからインクが漏れることを防止するためである。
【0005】
上記のようなインクジェット印刷装置では、待機中において、環境温度の変化により、密閉状態のタンクの圧力が変動することがある。タンクの圧力が変動すると、インクジェットヘッドのノズル圧が変動し、ノズル内のインクのメニスカスが破壊されるおそれがある。ノズル内のインクのメニスカスが破壊されると、ノズルからのインク漏れや空気の吸い込みが生じることがある。
【0006】
ノズルからのインク漏れや空気の吸い込みが生じると、インクジェットヘッドのノズル面にインクが垂れた状態となることがある。ノズル面にインクが垂れた状態で印刷が行われると、印刷画質が低下することがある。
【0007】
ノズル内のインクのメニスカスが破壊されている場合に、それを判断できれば、インクジェットヘッドのクリーニング等により、上述のようなノズルからのインク漏れや空気の吸い込みによる印刷画質の低下に対処することができる。
【0008】
これに関し、インクジェットヘッドに設けたセンサによりノズルからのインク漏れを検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、メニスカスの破壊によるインク漏れや空気の吸い込みを検出するために、インクジェットヘッドにセンサを設けると、装置構成の複雑化を招く。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、装置構成の複雑化を抑えつつ、インクジェットヘッドのノズル内のインクのメニスカスが破壊されたか否かを判断できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット印刷装置は、インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに接続され、インクを貯留する貯留部と、前記貯留部と前記インクジェットヘッドとの間でインクを循環させる循環駆動部と、前記貯留部内のインクの液面高さが所定高さを維持しつつ前記貯留部と前記インクジェットヘッドとの間でインクを循環させる循環動作を行うよう循環駆動部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記循環動作の開始から前記貯留部内のインクの液面高さが前記所定高さとなるまでの時間が閾値を超えた場合、前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインクジェット印刷装置によれば、装置構成の複雑化を抑えつつ、インクジェットヘッドのノズル内のインクのメニスカスが破壊されたか否かを判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部および圧力生成部の概略構成図である。
【
図3】インクの温度と粘度との関係を示す図である。
【
図4】インクジェット印刷装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図5】待機状態の期間中の環境温度の上昇によるメニスカスの破壊が生じた場合の貯留部の状態を示す図である。
【
図6】待機状態の期間中の環境温度の低下によるメニスカスの破壊が生じた場合の貯留部の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0016】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。
図2は、
図1に示すインクジェット印刷装置の印刷部および圧力生成部の概略構成図である。なお、以下の説明における上下方向は鉛直方向であり、
図2における紙面の上下を上下方向とする。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、4つの印刷部2と、圧力生成部3と、クリーニング部4と、制御部5とを備える。
【0019】
印刷部2は、インクを循環させつつ、搬送部(図示せず)により搬送される用紙にインクを吐出して画像を印刷する。4つの印刷部2は、それぞれ異なる色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のインクを吐出する。4つの印刷部2は、吐出するインクの色が異なる以外は、同様の構成を有する。
【0020】
図2に示すように、印刷部2は、インクジェットヘッド11と、インク循環機構12と、インク供給部13とを備える。なお、
図2に示す印刷部2の構成は1色分であり、上述のように、4つの印刷部2がそれぞれ同様の構成を有する。
【0021】
インクジェットヘッド11は、インク循環機構12により供給されるインクを吐出する。インクジェットヘッド11は、複数のヘッドモジュール16を有する。
【0022】
ヘッドモジュール16は、インクを貯留するインクチャンバ(図示せず)と、インクを吐出する複数のノズル(図示せず)と、ノズルが開口したノズル面16aとを有する。インクチャンバ内には、ピエゾ素子(図示せず)が配置されている。ピエゾ素子の駆動により、ノズルからインクが吐出される。ノズル面16aは、搬送部により搬送される用紙に対向するヘッドモジュール16の下面である。
【0023】
インク循環機構12は、インクを循環させつつインクジェットヘッド11にインクを供給する。インク循環機構12は、貯留部21と、分配器22と、集合器23と、インク循環管24~26と、インク循環ポンプ27と、インク温度センサ28とを備える。
【0024】
貯留部21は、インクジェットヘッド11による印刷に使用されるインクを貯留する。貯留部21は、インク循環管24と分配器22とにより構成される経路、およびインク循環管24と集合器23とにより構成される経路を介してインクジェットヘッド11に接続されている。貯留部21は、加圧タンク31と、加圧タンク液面センサ32と、負圧タンク33と、負圧タンク液面センサ34とを備える。
【0025】
加圧タンク31は、インクジェットヘッド11に供給するインクを貯留する。加圧タンク31は、圧力生成部3により付与される正圧によりインクジェットヘッド11にインクを供給する。加圧タンク31のインクは、インク循環管24および分配器22を介してインクジェットヘッド11に供給される。すなわち、加圧タンク31は、インクの循環方向におけるインクジェットヘッド11の上流側に配置されている。加圧タンク31内には、インクの液面上に空気層36が形成されている。加圧タンク31は、インクジェットヘッド11のノズル面16aより高い位置(上方)に配置されている。
【0026】
加圧タンク液面センサ32は、加圧タンク31内のインクの液面高さが基準高さ(所定高さに相当)に達しているか否かを検出するためのものである。加圧タンク液面センサ32は、加圧タンク31内の液面高さが基準高さ以上である場合に「オン」を示す信号を出力し、基準高さ未満である場合に「オフ」を示す信号を出力する。
【0027】
負圧タンク33は、圧力生成部3により付与される負圧によりインクジェットヘッド11で消費されなかったインクを集合器23から回収して貯留する。すなわち、負圧タンク33は、インクの循環方向におけるインクジェットヘッド11の下流側に配置されている。負圧タンク33内には、インクの液面上に空気層37が形成されている。負圧タンク33は、加圧タンク31と同じ形状に形成されている。負圧タンク33は、加圧タンク31と同じ高さに配置されている。
【0028】
負圧タンク液面センサ34は、負圧タンク33内のインクの液面高さが基準高さに達しているか否かを検出する。負圧タンク33における基準高さは、加圧タンク31における基準高さと同じ高さである。負圧タンク液面センサ34は、負圧タンク33内のインクの液面高さが基準高さ以上である場合に「オン」を示す信号を出力し、基準高さ未満である場合に「オフ」を示す信号を出力する。
【0029】
分配器22は、インク循環管24を介して加圧タンク31から供給されるインクを、インクジェットヘッド11の各ヘッドモジュール16に分配する。
【0030】
集合器23は、インクジェットヘッド11で消費されなかったインクを各ヘッドモジュール16から集める。集合器23により集められたインクは、インク循環管25を介して負圧タンク33へと流れる。
【0031】
インク循環管24は、加圧タンク31と分配器22とを接続する。インク循環管25は、集合器23と負圧タンク33とを接続する。インク循環管26は、負圧タンク33と加圧タンク31とを接続する。インク循環管24~26、分配器22、および集合器23により、加圧タンク31、インクジェットヘッド11、および負圧タンク33の間でインクの循環を行うための循環経路が構成される。
【0032】
インク循環ポンプ27は、インク循環時において、インク循環管26を介して負圧タンク33から加圧タンク31へインクを送液する。また、インク循環ポンプ27は、インク供給部13からインク循環機構12へのインク供給時において、後述の接続管44およびインク循環管26の一部を介して後述のバッファタンク41から加圧タンク31へインクを送液する。インク循環ポンプ27は、インク循環管26の途中に配置されている。
【0033】
なお、インク循環ポンプ27、インク供給部13、および圧力生成部3により、貯留部21とインクジェットヘッドとの間でインクを循環させる循環駆動部が構成される。
【0034】
インク温度センサ28は、インク循環機構12におけるインクの温度を検出する。インク温度センサ28は、インク循環管24の途中に配置されている。
【0035】
インク供給部13は、インク循環機構12にインクを供給する。インク供給部13は、バッファタンク41と、バッファタンク液面センサ42と、インク供給弁43と、接続管44と、バッファタンク大気開放弁45と、バッファタンク大気開放管46と、エアフィルタ47と、インクカートリッジ48と、インクカートリッジポンプ49と、インク送液管50と、バッファタンク液面調整弁51と、バッファタンク液面調整管52とを備える。
【0036】
バッファタンク41は、インク循環機構12へ供給するインクを貯留する。バッファタンク41は、インクカートリッジ48からインクの供給を受け、供給されたインクを貯留する。バッファタンク41内には、インクの液面上に空気層53が形成されている。バッファタンク41は、接続管44およびインク循環管26を介して、加圧タンク31および負圧タンク33に接続されている。バッファタンク41は、インクジェットヘッド11のヘッドモジュール16のノズル面16aより低い位置(下方)に配置されている。
【0037】
バッファタンク液面センサ42は、バッファタンク41内のインクの液面高さが基準高さに達しているか否かを検出するためのものである。バッファタンク液面センサ42は、バッファタンク41内の液面高さが基準高さ以上である場合に「オン」を示す信号を出力し、基準高さ未満である場合に「オフ」を示す信号を出力する。
【0038】
インク供給弁43は、接続管44内のインクの流路を開閉することで、インク循環管26とバッファタンク41との間の連通、遮断を切り替える。
【0039】
接続管44は、インク循環管26とバッファタンク41とを接続する。接続管44は、一端がインク循環管26の負圧タンク33とインク循環ポンプ27との間の部分に接続され、他端がバッファタンク41に接続されている。
【0040】
バッファタンク大気開放弁45は、バッファタンク41を密閉状態(大気から遮断された状態)と大気開放状態(大気に通じた状態)との間で切り替えるために、バッファタンク大気開放管46内の空気の流路を開閉する。
【0041】
バッファタンク大気開放管46は、バッファタンク41を大気開放するための空気の流路を形成する。バッファタンク大気開放管46は、一端がバッファタンク41の空気層53に接続され、他端(大気開放端)がエアフィルタ47を介して大気に通じている。
【0042】
エアフィルタ47は、バッファタンク大気開放管46への空気中のゴミ等の進入を防止する。エアフィルタ47は、バッファタンク大気開放管46の大気開放端に設置されている。
【0043】
インクカートリッジ48は、インクジェットヘッド11による印刷に用いられるインクを収容している。
【0044】
インクカートリッジポンプ49は、インク送液管50を介してインクカートリッジ48からバッファタンク41へインクを送液する。
【0045】
インク送液管50は、インクカートリッジ48からバッファタンク41へインクを送液するための経路を構成する。インク送液管50は、一端がバッファタンク41に接続され、他端がインクカートリッジ48に接続されている。
【0046】
バッファタンク液面調整弁51は、バッファタンク液面調整管52内のインクの流路を開閉する。
【0047】
バッファタンク液面調整管52は、バッファタンク41からインクカートリッジ48にインクを戻すための経路を構成する。バッファタンク液面調整管52は、一端がバッファタンク41に接続され、他端がインク送液管50のインクカートリッジポンプ49とインクカートリッジ48との間の部分に接続されている。
【0048】
圧力生成部3は、各印刷部2の加圧タンク31および負圧タンク33にインク循環のための圧力を生成する。圧力生成部3は、各印刷部2に共通のものである。
図2に示すように、圧力生成部3は、加圧共通気室61と、加圧封止弁62と、加圧連通管63と、加圧エアポンプ64と、加圧ポンプ上流弁65と、大気連通管66と、エアフィルタ67と、加圧圧力調整弁68と、加圧圧力調整管69と、加圧圧力センサ70と、負圧共通気室71と、負圧封止弁72と、負圧連通管73と、負圧エアポンプ74と、負圧ポンプ下流弁75と、負圧圧力生成管76と、負圧圧力調整弁77と、負圧圧力調整管78と、負圧圧力センサ79と、加負圧連通弁80と、加負圧連通管81とを備える。
【0049】
加圧共通気室61は、各印刷部2の加圧タンク31の圧力を等しくするための気室である。加圧共通気室61は、各印刷部2に対応する加圧連通管63を介して、各印刷部2の加圧タンク31に接続されている。
【0050】
加圧封止弁62は、加圧連通管63内の空気の流路を開閉することで、加圧共通気室61と加圧タンク31との間の連通、遮断を切り替える。加圧封止弁62は、各印刷部2に1つずつ対応して設けられている。
【0051】
加圧連通管63は、加圧共通気室61と加圧タンク31の空気層36とを連通させる。加圧連通管63は、各印刷部2に1本ずつ対応して設けられている。加圧連通管63は、一端が加圧共通気室61に接続され、他端が加圧タンク31の空気層36に接続されている。
【0052】
加圧エアポンプ64は、加圧タンク31にインク循環のための正圧を付与するために、加圧共通気室61へ空気を送る。加圧エアポンプ64は、大気連通管66の途中に配置されている。
【0053】
加圧ポンプ上流弁65は、大気連通管66内の空気の流路を開閉する。加圧ポンプ上流弁65は、加圧圧力調整管69が大気連通管66に接続する地点と加圧エアポンプ64との間において大気連通管66に配置されている。
【0054】
大気連通管66は、加圧エアポンプ64により加圧共通気室61へ空気を送るための空気の流路を形成する。大気連通管66は、一端が加圧共通気室61に接続され、他端(大気開放端)がエアフィルタ67を介して大気に通じている。大気連通管66には、加圧圧力調整管69、負圧圧力生成管76、および負圧圧力調整管78が接続されている。これにより、加圧圧力調整管69、負圧圧力生成管76、および負圧圧力調整管78が大気に連通される。
【0055】
エアフィルタ67は、大気連通管66への空気中のゴミ等の進入を防止する。エアフィルタ67は、大気連通管66の大気開放端に設置されている。
【0056】
加圧圧力調整弁68は、加圧共通気室61および加圧タンク31の圧力を調整するために、加圧圧力調整管69内の空気の流路を開閉する。
【0057】
加圧圧力調整管69は、加圧共通気室61および加圧タンク31の圧力調整のための空気の流路を形成する。加圧圧力調整管69は、一端が加圧共通気室61に接続され、他端が大気連通管66に接続されている。
【0058】
加圧圧力センサ70は、加圧共通気室61内の圧力を検出する。加圧共通気室61内の圧力は、加圧封止弁62が開放されている状態では、加圧タンク31内の圧力と等しい。加圧共通気室61と各印刷部2の加圧タンク31の空気層36とが連通されているためである。
【0059】
負圧共通気室71は、各印刷部2の負圧タンク33の圧力を等しくするための気室である。負圧共通気室71は、各印刷部2に対応する負圧連通管73を介して、各印刷部2の負圧タンク33に接続されている。
【0060】
負圧封止弁72は、負圧連通管73内の空気の流路を開閉することで、負圧共通気室71と負圧タンク33との間の連通、遮断を切り替える。負圧封止弁72は、各印刷部2に1つずつ対応して設けられている。
【0061】
負圧連通管73は、負圧共通気室71と負圧タンク33の空気層37とを連通させる。負圧連通管73は、各印刷部2に1本ずつ対応して設けられている。負圧連通管73は、一端が負圧共通気室71に接続され、他端が負圧タンク33の空気層37に接続されている。
【0062】
負圧エアポンプ74は、負圧タンク33にインク循環のための負圧を付与するために、負圧共通気室71から空気を吸引する。負圧エアポンプ74は、負圧圧力生成管76の途中に配置されている。
【0063】
負圧ポンプ下流弁75は、負圧圧力生成管76内の空気の流路を開閉する。負圧ポンプ下流弁75は、負圧圧力生成管76の負圧エアポンプ74より大気連通管66側に配置されている。
【0064】
負圧圧力生成管76は、負圧エアポンプ74により負圧共通気室71から空気を吸引するための空気の流路を形成する。負圧圧力生成管76は、一端が負圧共通気室71に接続され、他端が大気連通管66に接続されている。
【0065】
負圧圧力調整弁77は、負圧共通気室71および負圧タンク33の圧力を調整するために、負圧圧力調整管78内の空気の流路を開閉する。
【0066】
負圧圧力調整管78は、負圧共通気室71および負圧タンク33の圧力調整のための空気の流路を形成する。負圧圧力調整管78は、一端が負圧共通気室71に接続され、他端が大気連通管66に接続されている。
【0067】
負圧圧力センサ79は、負圧共通気室71内の圧力を検出する。負圧共通気室71内の圧力は、負圧封止弁72が開放されている状態では、負圧タンク33内の圧力と等しい。
【0068】
加負圧連通弁80は、加圧共通気室61と負圧共通気室71との間の連通、遮断を切り替えるために、加負圧連通管81内の空気の流路を開閉する。
【0069】
加負圧連通管81は、加圧共通気室61と負圧共通気室71とを連通させるための空気の流路を形成する。加負圧連通管81は、一端が加圧共通気室61に接続され、他端が負圧共通気室71に接続されている。
【0070】
クリーニング部4は、インクジェットヘッド11をクリーニングする。クリーニング部4は、インクジェットヘッド11の各ヘッドモジュール16のノズル面16aをワイプするワイパを有するワイプユニット(図示せず)を備える。ワイプユニットは、各印刷部2に1つずつ対応して設けられている。
【0071】
制御部5は、インクジェット印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部5は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
【0072】
制御部5は、印刷時には、貯留部21内のインクの液面高さが基準高さを維持しつつ貯留部21とインクジェットヘッド11との間でインクを循環させる循環動作を行いつつ、インクジェットヘッド11からインクを吐出するよう印刷部2および圧力生成部3を制御する。ここで、循環動作は、貯留部21内のインクの液面高さを基準高さに維持するための後述の液面維持制御によるインク供給部13(バッファタンク41)からのインクの供給を含む動作である。
【0073】
制御部5は、インクジェット印刷装置1が循環動作を行わない待機状態から循環動作を開始した際における循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2がある場合、当該印刷部2のインクジェットヘッド11のノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断する。
【0074】
ここで、循環動作の起動時間は、循環動作の開始から貯留部21内のインクの液面高さが基準高さとなるまでの時間、すなわち循環動作の開始から加圧タンク31内および負圧タンク33内のインクの液面高さが基準高さとなるまでの時間である。
【0075】
循環動作の起動時間の閾値は、待機状態の期間中にインクジェットヘッド11のノズル内のインクのメニスカスの破壊が生じたか否かを、循環動作の起動時間から判断するための閾値である。制御部5は、循環動作の起動時間の閾値を、インクの温度に応じて調整する。
【0076】
ここで、
図3に示すように、インクの温度が高いほど、インクの粘度が低くなる。なお、
図3には、ブラック、シアン、マゼンタ、およびイエローのインクの温度と粘度との関係を示している。インクの粘度が低いほど、インクが流れやすくなり、循環動作の起動時間が短くなる。
【0077】
そこで、上述した循環動作の起動時間の閾値は、インクの温度が高いほど、小さい値(短い持間)になるように、複数のインク温度範囲ごとの値が設定されている。複数のインク温度範囲のそれぞれに応じた、循環動作の起動時間の閾値は、予め実験等に基づき設定され、制御部5に記憶されている。
【0078】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0079】
図4は、インクジェット印刷装置1の動作を説明するためのフローチャートである。
図4のフローチャートの処理は、インクジェット印刷装置1に印刷ジョブが入力されることにより開始となる。
【0080】
図4のステップS1において、制御部5は、循環動作を開始させる。具体的には、まず、制御部5は、加負圧連通弁80を閉鎖する。これにより、加圧共通気室61と負圧共通気室71との間が遮断される。
【0081】
なお、循環動作を開始する前の待機状態のインクジェット印刷装置1では、加負圧連通弁80は開放されている。加圧封止弁62および負圧封止弁72も開放されている。また、インク供給弁43、バッファタンク大気開放弁45、バッファタンク液面調整弁51、加圧ポンプ上流弁65、加圧圧力調整弁68、負圧ポンプ下流弁75、および負圧圧力調整弁77は閉鎖されている。
【0082】
次いで、制御部5は、液面維持制御を開始する。液面維持制御は、加圧タンク31、負圧タンク33、およびバッファタンク41の液面高さを基準高さに維持しつつインク循環するための制御である。液面維持制御において、制御部5は、加圧タンク31、負圧タンク33、およびバッファタンク41の液面高さに応じて、インク循環ポンプ27、インク供給弁43、およびインクカートリッジポンプ49を制御する。
【0083】
具体的には、加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34がともにオンの状態では、制御部5は、インク循環ポンプ27をオフとし、インク供給弁43を閉鎖する。加圧タンク液面センサ32がオンで負圧タンク液面センサ34がオフの状態でも同様に、制御部5は、インク循環ポンプ27をオフとし、インク供給弁43を閉鎖する。
【0084】
加圧タンク液面センサ32がオフで負圧タンク液面センサ34がオンの状態では、制御部5は、インク循環ポンプ27をオンとし、インク供給弁43を閉鎖する。これにより、負圧タンク33から加圧タンク31へインクが送液される。
【0085】
加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34がともにオフの状態では、制御部5は、インク循環ポンプ27をオンとし、インク供給弁43を開放する。これにより、バッファタンク41から加圧タンク31へインクが送液される。
【0086】
また、バッファタンク液面センサ42がオフの状態では、制御部5は、インクカートリッジポンプ49をオンとする。これにより、インクカートリッジ48からバッファタンク41へインクが送液される。バッファタンク液面センサ42がオンの状態では、制御部5は、インクカートリッジポンプ49をオフとする。
【0087】
また、制御部5は、圧力生成部3による圧力制御を開始させる。圧力制御は、加圧タンク31および負圧タンク33にそれぞれのインク循環時の設定圧(循環圧)を生成し、それらを維持するための制御である。インク循環時の加圧タンク31および負圧タンク33のそれぞれの設定圧は、インク循環機構12において所定のインク循環流量でインクを循環させつつ、インクジェットヘッド11のノズル圧を適正値(負圧)にするための圧力値として設定されたものである。加圧タンク31の設定圧は正圧であり、負圧タンク33の設定圧は負圧である。
【0088】
具体的には、制御部5は、加圧タンク31に設定圧を生成し、それを維持するよう加圧エアポンプ64および加圧圧力調整弁68を制御する。また、制御部5は、負圧タンク33に設定圧を生成し、それを維持するよう負圧エアポンプ74および負圧圧力調整弁77を制御する。ここで、制御部5は、圧力制御を開始するまでに、加圧ポンプ上流弁65および負圧ポンプ下流弁75を開放している。
【0089】
圧力制御が開始されると、加圧タンク31が加圧され、負圧タンク33が減圧されることで、加圧タンク31からインクジェットヘッド11を経由して負圧タンク33へ向かうインクの流れが生じ、インク循環が始まる。
【0090】
循環動作の開始により上述の液面維持制御および圧力制御を開始した後、制御部5は、加圧タンク31および負圧タンク33にそれぞれのインク循環時の設定圧が生成され、貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面高さが基準高さになっていると判断すると、循環動作が起動したと判断する。
【0091】
ここで、後述するように、インクジェット印刷装置1が印刷の終了により循環動作を終了して待機状態へ移行する際には、貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面高さが基準高さになっている。また、インクジェット印刷装置1が待機状態の期間中は、貯留部21は密閉状態とされている。具体的には、インクジェット印刷装置1が待機状態の期間中は、加圧タンク31および負圧タンク33は、それぞれの空気層36,37が互いに連通された状態で、密閉状態とされている。
【0092】
インクジェット印刷装置1が待機状態へ移行した時点から環境温度が変化すると、加圧タンク31および負圧タンク33の圧力が変動し、それによりインクジェットヘッド11のノズル圧が変動することで、ノズル内のインクのメニスカスが破壊されることがある。
【0093】
具体的には、待機状態の期間中に環境温度が上昇すると、加圧タンク31および負圧タンク33の圧力が上昇することで、インクジェットヘッド11のノズル内のインクのメニスカスが破壊されることがある。この環境温度の上昇によるメニスカスの破壊が生じると、インクジェットヘッド11のノズルからインクが漏れ、加圧タンク31内および負圧タンク33内のインクが減少する。
【0094】
この結果、
図5に示すように、加圧タンク31内および負圧タンク33内のインクの液面高さが、基準高さより低くなる。ここで、加圧タンク31および負圧タンク33は、それぞれの空気層36,37が互いに連通された状態であるため、加圧タンク31内のインクの液面高さと負圧タンク33内のインクの液面高さとは同じになる。
【0095】
また、上述のようなメニスカスの破壊によるノズルからのインク漏れが生じると、インクジェットヘッド11のノズル面16aにインクが垂れた状態となることがある。
【0096】
一方、待機状態の期間中に環境温度が低下すると、加圧タンク31および負圧タンク33の圧力が低下することで、インクジェットヘッド11のノズル内のインクのメニスカスが破壊されることがある。この環境温度の低下よるメニスカスの破壊が生じると、インクジェットヘッド11のノズルから空気が吸い込まれる。これにより、インクジェットヘッド11、分配器22、集合器23、インク循環管24,25の内部のインクが、加圧タンク31および負圧タンク33に流入することで、加圧タンク31内および負圧タンク33内のインクが増加する。
【0097】
この結果、
図6に示すように、加圧タンク31内および負圧タンク33内のインクの液面高さが、基準高さより高くなる。この場合も、加圧タンク31内のインクの液面高さと負圧タンク33内のインクの液面高さとは同じになる。
【0098】
また、上述のようなメニスカスの破壊によるノズルからの空気の吸い込みが生じると、一部のインクがノズルから漏れ、インクジェットヘッド11のノズル面16aにインクが垂れた状態となることがある。
【0099】
上述のようなことから、待機状態から循環動作を開始する際の貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面高さが、基準高さから変化していることがある。すなわち、待機状態の期間中に環境温度の変化によるメニスカスの破壊が生じたことにより、待機状態から循環動作を開始する際の貯留部21内のインクの液面高さが、基準高さから変化していることがある。待機状態の期間中に環境温度の変化によるメニスカスの破壊が生じていない場合は、待機状態から循環動作を開始する際の貯留部21内のインクの液面高さは、待機状態へ移行した時点から基準高さのまま維持されている。
【0100】
循環動作の開始時における貯留部21内のインクの液面高さが基準高さとなっている場合、上述の圧力制御が開始されると、まず、前述のように加圧タンク31からインクジェットヘッド11を経由して負圧タンク33へインクが流れることで、加圧タンク液面センサ32がオフで負圧タンク液面センサ34がオンの状態になる。
【0101】
この状態になると、上述の液面維持制御により、インク循環ポンプ27により負圧タンク33から加圧タンク31へインクが送液される。これにより、加圧タンク液面センサ32がオンで負圧タンク液面センサ34がオフの状態となることで、上述の液面維持制御により、インク循環ポンプ27による負圧タンク33から加圧タンク31への送液が停止される。
【0102】
この後、加圧タンク31からインクジェットヘッド11を経由して負圧タンク33へインクが流れることで、再度、加圧タンク液面センサ32がオフで負圧タンク液面センサ34がオンの状態になる。そして、インク循環ポンプ27により負圧タンク33から加圧タンク31へインクが送液される。
【0103】
上記のような動作が繰り返されることで、加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが互いに入れ替わる動作が短い周期で繰り返される。
【0104】
このことから、インクジェット印刷装置1では、循環動作の開始後に加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが互いに入れ替わる動作が所定時間間隔で所定回数繰り返されると、貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面高さが基準高さになっていると判断する。
【0105】
ここで、加圧タンク31および負圧タンク33への設定圧の生成は短時間で終了する。このため、循環動作の開始後、加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが所定時間間隔で互いに入れ替わる回数が所定回数に達するときには、加圧タンク31および負圧タンク33への設定圧の生成は終了している。
【0106】
したがって、制御部5は、循環動作の開始後に加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが互いに入れ替わる動作が所定時間間隔で所定回数繰り返されると、循環動作が起動したと判断する。すなわち、循環動作の開始から、加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが所定時間間隔で互いに入れ替わる回数が所定回数に達するまでの時間が、循環動作の起動時間である。
【0107】
図5のように貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面高さが基準高さより低い状態から循環動作が開始された場合、液面維持制御により、まず、インク循環ポンプ27によりバッファタンク41から加圧タンク31へインクが送液される。加圧タンク液面センサ32がオンになると、インク循環ポンプ27によるバッファタンク41から加圧タンク31へのインクの送液が停止される。
【0108】
この後、液面維持制御により、貯留部21内のインクの液面高さが基準高さに達した状態になると、加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが互いに入れ替わる動作が所定時間間隔で繰り返される。この加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが所定時間間隔で互いに入れ替わる回数が所定回数に達すると、制御部5は、循環動作が起動したと判断する。
【0109】
この場合、上述のようにバッファタンク41から貯留部21へインクを補給する必要があるため、循環動作の開始時における貯留部21内のインクの液面高さが基準高さとなっている場合よりも、循環動作の起動時間が長くなる。
【0110】
図6のように貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面高さが基準高さより高い状態から循環動作が開始された場合、貯留部21とインクジェットヘッド11との間でインクが循環されつつ、内部のインクが抜けていたインクジェットヘッド11、分配器22、集合器23、およびインク循環管24,25がインクで満たされる。インクジェットヘッド11、分配器22、集合器23、およびインク循環管24,25を満たすインクの分だけ、貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面は低下する。
【0111】
貯留部21内のインクの液面高さが基準高さにまで低下した状態になると、加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが互いに入れ替わる動作が所定時間間隔で繰り返される。この加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34のオン、オフが所定時間間隔で互いに入れ替わる回数が所定回数に達すると、制御部5は、循環動作が起動したと判断する。
【0112】
この場合、上述のように貯留部21内のインクの液面高さが基準高さにまで低下するのに時間を要するため、循環動作の開始時における貯留部21内のインクの液面高さが基準高さとなっている場合よりも、循環動作の起動時間が長くなる。
【0113】
図4に戻り、ステップS2において、制御部5は、すべての印刷部2における循環動作の起動時間が前述の閾値以下であるか否かを判断する。ここで、制御部5は、それぞれの印刷部2について、インク温度センサ28で検出されたインクの温度に応じた閾値を用いて、循環動作の起動時間が閾値以下であるか否かを判断する。
【0114】
すべての印刷部2における循環動作の起動時間が閾値以下であると判断した場合(ステップS2:YES)、ステップS3において、制御部5は、印刷ジョブに基づく印刷を行うよう各印刷部2のインクジェットヘッド11を制御する。ここで、循環動作は継続されている。
【0115】
循環動作を行いつつ印刷を行う印刷動作中は、加圧タンク31からインクジェットヘッド11へインクが供給され、インクジェットヘッド11で消費されなかったインクが負圧タンク33に回収される。加圧タンク液面センサ32がオフで負圧タンク液面センサ34がオンの状態になると、上述の液面維持制御により、インク循環ポンプ27が負圧タンク33から加圧タンク31へインクを送液する。このようにしてインクが循環されつつ、印刷が行われる。
【0116】
また、加圧タンク液面センサ32および負圧タンク液面センサ34がともにオフの状態になると、上述の液面維持制御により、インク循環ポンプ27がバッファタンク41から加圧タンク31へインクを送液する。これにより、インク循環機構12にインクが供給される。
【0117】
また、バッファタンク液面センサ42がオフの状態になると、上述の液面維持制御により、インクカートリッジポンプ49がインクカートリッジ48からバッファタンク41へインクを送液する。これにより、バッファタンク41にインクが補給される。
【0118】
印刷ジョブに基づく印刷が終了すると、制御部5は、液面維持制御および圧力生成部3による圧力制御を終了し、加負圧連通弁80を開放する。これにより、循環動作が終了してインクジェット印刷装置1が待機状態へ移行する。この結果、一連の動作が終了となる。
【0119】
ここで、前述のように、待機状態のインクジェット印刷装置1では、加負圧連通弁80、加圧封止弁62、および負圧封止弁72は開放されている。また、加圧ポンプ上流弁65、加圧圧力調整弁68、負圧ポンプ下流弁75、および負圧圧力調整弁77は閉鎖されている。
【0120】
したがって、インクジェット印刷装置1が待機状態の期間中は、加圧タンク31および負圧タンク33は、それぞれの空気層36,37が互いに連通された状態で、密閉状態とされている。
【0121】
また、循環動作が終了するまで液面維持制御が行われているので、循環動作を終了して待機状態へ移行する際には、貯留部21(加圧タンク31および負圧タンク33)内のインクの液面高さが基準高さになっている。
【0122】
ステップS2において、循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2があると判断した場合(ステップS2:NO)、ステップS4において、制御部5は、循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2のインクジェットヘッド11のノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断する。
【0123】
次いで、ステップS5において、制御部5は、循環動作を終了させる。
【0124】
次いで、ステップS6において、制御部5は、メニスカスが破壊されていると判断したインクジェットヘッド11(循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2のインクジェットヘッド11)のクリーニングを行う。
【0125】
具体的には、まず、制御部5は、循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2に対応する加圧封止弁62および加圧ポンプ上流弁65を開放し、他の印刷部2に対応する加圧封止弁62、加圧圧力調整弁68、および加負圧連通弁80を閉鎖した状態で、加圧エアポンプ64を駆動させる。ここで、各印刷部2の負圧タンク33は大気開放状態とされている。
【0126】
これにより、循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2のインクジェットヘッド11であるクリーニング対象のインクジェットヘッド11に対するパージが行われ、当該インクジェットヘッド11のノズルからインクが排出される。パージによりノズルから排出されたインクは、各ヘッドモジュール16のノズル面16aに付着する。
【0127】
次いで、制御部5は、クリーニング対象のインクジェットヘッド11の各ヘッドモジュール16のノズル面16aをワイパでワイプするようクリーニング部4を制御する。これにより、ノズル面16aに付着したインクやゴミ等が除去される。
【0128】
ここで、前述のように、メニスカスの破壊によるノズルからのインク漏れやノズルからの空気の吸い込みが生じると、ノズル面16aにインクが垂れた状態となることがある。ノズル面16aにインクが垂れた状態で印刷が行われると、印刷画質が低下することがある。
【0129】
これに対し、上述のように、メニスカスが破壊されていると判断したインクジェットヘッド11をクリーニングすることで、ノズル面16aにインクが垂れた状態が解消される。また、上述のようなパージを含むクリーニングが行われることで、ノズル内のインクのメニスカスが回復する。
【0130】
次いで、ステップS7において、制御部5は、ステップS1と同様に、循環動作を開始(再開)させる。
【0131】
次いで、ステップS8において、制御部5は、ステップS2と同様に、すべての印刷部2における循環動作の起動時間が前述の閾値以下であるか否かを判断する。
【0132】
すべての印刷部2における循環動作の起動時間が閾値以下であると判断した場合(ステップS8:YES)、制御部5は、ステップS3へ進む。
【0133】
循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2があると判断した場合(ステップS8:NO)、ステップS9において、制御部5は、エラーが発生していると判定する。エラーが発生していると判定すると、制御部5は、循環動作を終了させて、一連の動作を終了させる。
【0134】
ここで、ステップS8において、ステップS6でクリーニングを行った印刷部2(ステップS2で循環動作の起動時間が閾値を超えたと判断された印刷部2)における循環動作の起動時間が閾値を超えたと判断された場合、当該印刷部2はクリーニングをしても循環動作の起動時間が閾値を超える不具合があるということである。このため、当該印刷部2における循環動作の起動時間が閾値を超えた原因は、メニスカスの破壊とは異なる可能性が高い。
【0135】
また、ステップS8において、ステップS6でクリーニングを行った印刷部2とは異なる印刷部2における循環動作の起動時間が閾値を超えたと判断された場合、当該印刷部2はステップS2で循環動作の起動時間が閾値以下と判断されているためメニスカスの破壊はないと考えられ、ステップS7の循環動作開始時に当該印刷部2における循環動作の起動時間が閾値を超えた原因は、メニスカスの破壊とは異なる可能性が高い。
【0136】
このため、ステップS8で循環動作の起動時間が閾値を超えたと判断された印刷部2がある場合、そのなかにステップS6でクリーニングを行った印刷部2とは異なる印刷部2が含まれている場合でも、制御部5は、ステップS9において、エラーが発生していると判定する。エラーの原因としては、インク循環機構12におけるインク漏れ等がある。
【0137】
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、制御部5は、循環動作の起動時間が閾値を超えた印刷部2がある場合、当該印刷部2のインクジェットヘッド11のノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断する。これにより、メニスカスの破壊によるインク漏れや空気の吸い込みを検出するためのセンサ等を設けることなく、メニスカスが破壊されたか否かを判断できる。したがって、インクジェット印刷装置1によれば、装置構成の複雑化を抑えつつ、インクジェットヘッド11のノズル内のインクのメニスカスが破壊されたか否かを判断できる。
【0138】
また、インクジェット印刷装置1では、制御部5は、メニスカスが破壊されていると判断したインクジェットヘッド11をクリーニングするようクリーニング部4を制御する。これにより、メニスカスが破壊されたことによるノズル面16aにインクが垂れた状態が解消されるので、印刷画質の低下を抑制できる。
【0139】
また、インクジェット印刷装置1では、制御部5は、メニスカスの破壊が生じたか否かを循環動作の起動時間から判断するための閾値を、インクの温度に応じて調整する。これにより、インクの温度によって循環動作の起動時間が変動するのに対し、適切な閾値を設定することで、メニスカスの破壊が生じたか否かの判断の精度を向上できる。
【0140】
なお、上述した実施の形態では、複数の印刷部2を有するインクジェット印刷装置1について説明したが、印刷部2が1つの構成でもよい。
【0141】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0142】
[付記]
本出願は、以下の発明を開示する。
【0143】
(付記1)
インクを吐出するノズルを有するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドに接続され、インクを貯留する貯留部と、
前記貯留部と前記インクジェットヘッドとの間でインクを循環させる循環駆動部と、
前記貯留部内のインクの液面高さが所定高さを維持しつつ前記貯留部と前記インクジェットヘッドとの間でインクを循環させる循環動作を行うよう循環駆動部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記循環動作の開始から前記貯留部内のインクの液面高さが前記所定高さとなるまでの時間が閾値を超えた場合、前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断することを特徴とするインクジェット印刷装置。
【0144】
(付記2)
前記貯留部は、本装置が待機状態へ移行する際には貯留しているインクの液面高さが前記所定高さになっており、本装置が待機状態の期間中は密閉状態とされ、
前記制御部は、本装置の待機状態から前記循環動作を開始した際における、前記循環動作の開始から前記貯留部内のインクの液面高さが前記所定高さとなるまでの時間が閾値を超えた場合、前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断することを特徴とする付記1に記載のインクジェット印刷装置。
【0145】
(付記3)
前記インクジェットヘッドをクリーニングするクリーニング部をさらに備え、
前記制御部は、前記ノズル内のインクのメニスカスが破壊されていると判断した場合、前記クリーニング部により前記インクジェットヘッドをクリーニングするよう制御することを特徴とする付記1または2に記載のインクジェット印刷装置。
【0146】
(付記4)
前記制御部は、インクの温度に応じて前記閾値を調整することを特徴とする付記1乃至3のいずれかに記載のインクジェット印刷装置。
【符号の説明】
【0147】
1 インクジェット印刷装置
2 印刷部
3 圧力生成部
4 クリーニング部
5 制御部
11 インクジェットヘッド
12 インク循環機構
13 インク供給部
16 ヘッドモジュール
16a ノズル面
21 貯留部
22 分配器
23 集合器
24~26 インク循環管
27 インク循環ポンプ
28 インク温度センサ
31 加圧タンク
32 加圧タンク液面センサ
33 負圧タンク
34 負圧タンク液面センサ
41 バッファタンク
42 バッファタンク液面センサ
43 インク供給弁
44 接続管
45 バッファタンク大気開放弁
46 バッファタンク大気開放管
47 エアフィルタ
48 インクカートリッジ
49 インクカートリッジポンプ
50 インク送液管
51 バッファタンク液面調整弁
52 バッファタンク液面調整管
61 加圧共通気室
62 加圧封止弁
63 加圧連通管
64 加圧エアポンプ
65 加圧ポンプ上流弁
66 大気連通管
67 エアフィルタ
68 加圧圧力調整弁
69 加圧圧力調整管
70 加圧圧力センサ
71 負圧共通気室
72 負圧封止弁
73 負圧連通管
74 負圧エアポンプ
75 負圧ポンプ下流弁
76 負圧圧力生成管
77 負圧圧力調整弁
78 負圧圧力調整管
79 負圧圧力センサ
80 加負圧連通弁
81 加負圧連通管