(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】電線保護具、及び、電線保護具の車体パネルへの取付方法
(51)【国際特許分類】
H02G 3/22 20060101AFI20240709BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240709BHJP
H01B 17/58 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H02G3/22
B60R16/02 623T
B60R16/02 622
H01B17/58 C
(21)【出願番号】P 2020189402
(22)【出願日】2020-11-13
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】杉野 純希
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-039688(JP,A)
【文献】特開2018-186622(JP,A)
【文献】特開2012-039770(JP,A)
【文献】特開2014-138519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/22
B60R 16/02
H01B 17/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線を挿通することが可能な電線貫通孔が形成された車体パネルに前記電線貫通孔を塞ぐように取り付けられて前記電線を保護する電線保護具であって、
前記車体パネルの一方側で前記電線を保持し、前記車体パネルにおける前記電線貫通孔の周縁に密着されるグロメットと、
前記グロメットよりも剛性が高く、前記グロメットの内側に一部が配置されるようにした状態で前記グロメットに組み付けられるインナープロテクタと、
前記インナープロテクタに取り付けられて、前記車体パネルの他方側に引き出された前記電線の経路を規制する経路規制部材と、
を備え、
前記経路規制部材は、前記インナープロテクタを前記グロメットに組み付けた状態で、前記インナープロテクタに形成された被係合部に係合可能な係合部を備え
、
前記経路規制部材は、前記電線を収容することが可能な電線収容空間を画成する本体部を備え、
前記本体部には、前記電線を前記電線収容空間に出し入れすることが可能な電線導入開口が形成されており、
前記電線導入開口は、前記電線の前記電線導入開口と対向する部位における径方向に前記本体部を移動させることで、前記電線を前記電線収容空間に出し入れすることができるように構成されており、
前記電線導入開口は、
前記経路規制部材を前記インナープロテクタに取り付けた状態で前記インナープロテクタと対向するインナープロテクタ側開口と、
前記インナープロテクタ側開口と交差する方向に開口し、前記車体パネルの他方側に引き出された前記電線の経路を規制する経路規制開口と、
を備えており、
前記経路規制部材を、前記経路規制開口の開口方向が異なる複数の態様で前記インナープロテクタに取り付けられるようにした、
電線保護具。
【請求項2】
前記本体部は、前記経路規制部材を前記インナープロテクタに取り付けた状態で前記インナープロテクタと対向する天壁と、前記天壁の両端に連設される一対の側壁と、を備える、
請求項
1に記載の電線保護具。
【請求項3】
前記インナープロテクタは、複数のインナー部材を組み付けることで形成されている、
請求項1
または請求項2に記載の電線保護具。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の電線保護具を車体パネルに取り付ける電線保護具の車体パネルへの取付方法であって、
前記グロメットを前記電線に装着する第1工程と、
前記電線に装着された前記グロメットに、前記インナープロテクタを前記グロメットの内側に一部が配置されるようにした状態で組み付ける第2工程と、
前記電線を前記車体パネルの電線貫通孔に通しつつ、前記インナープロテクタが組み付けられた前記グロメットを、前記車体パネルの一方側から前記インナープロテクタを挿入先端側として前記電線貫通孔に押し込んで前記車体パネルに取り付ける第3工程と、
前記経路規制部材を、前記車体パネルに取り付けられた前記インナープロテクタに前記車体パネルの他方側から取り付けて、前記車体パネルの他方側に引き出された前記電線の経路を規制する第4工程と、
を備える、電線保護具の車体パネルへの取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線保護具、及び、電線保護具の車体パネルへの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の電線保護具としては、特許文献1に開示されたものが提案されている。この特許文献1では、電線保護具は、車体パネルの一端側において電線貫通孔の周縁に密着されるグロメットと、グロメットの内側に配置されるインナープロテクタと、を備えている。さらに、電線保護具は、インナープロテクタに支持され、車体パネルの他端側に引き出された電線の経路を規制する経路規制部材を備えている。そして、経路規制部材をインナープロテクタに回転自在に支持させることで、電線を所望の経路で配策できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、インナープロテクタは、一対のインナー部材を組み付けることで形成されている。そして、経路規制部材をインナー部材に嵌め込みつつインナー部材同士を組み付けることで、経路規制部材をインナープロテクタに回転自在に支持させている。
【0005】
このように、前記従来の技術では、電線保護具を組み立てる際に、経路規制部材をインナー部材に嵌め込みつつインナー部材同士を組み付ける必要があり、手間がかかっていた。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、より簡単に経路規制及び組付け作業ができる電線保護具、及び、電線保護具の車体パネルへの取付方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に係る電線保護具は、電線を挿通することが可能な電線貫通孔が形成された車体パネルに前記電線貫通孔を塞ぐように取り付けられて前記電線を保護するものである。この電線保護具は、前記車体パネルの一方側で前記電線を保持し、前記車体パネルにおける前記電線貫通孔の周縁に密着されるグロメットと、前記グロメットよりも剛性が高く、前記グロメットの内側に一部が配置されるようにした状態で前記グロメットに組み付けられるインナープロテクタと、前記インナープロテクタに取り付けられて、前記車体パネルの他方側に引き出された前記電線の経路を規制する経路規制部材と、を備える。そして、前記経路規制部材は、前記インナープロテクタを前記グロメットに組み付けた状態で、前記インナープロテクタに形成された被係合部に係合可能な係合部を備える。
【0008】
前記経路規制部材は、前記電線を収容することが可能な電線収容空間を画成する本体部を備え、前記本体部には、前記電線の延在方向と交差する方向に前記本体部を移動させて前記電線を前記電線収容空間に出し入れすることが可能な電線導入開口が形成されていてもよい。
【0009】
前記本体部は、前記経路規制部材を前記インナープロテクタに取り付けた状態で前記インナープロテクタと対向する天壁と、前記天壁の両端に連設される一対の側壁と、を備えていてもよい。
【0010】
前記電線導入開口は、前記経路規制部材を前記インナープロテクタに取り付けた状態で前記インナープロテクタと対向するインナープロテクタ側開口と、前記インナープロテクタ側開口と交差する方向に開口し、前記車体パネルの他方側に引き出された前記電線の経路を規制する経路規制開口と、を備え、前記経路規制部材を、前記経路規制開口の開口方向が異なる複数の態様で前記インナープロテクタに取り付けられるようにしてもよい。
【0011】
前記インナープロテクタは、複数のインナー部材を組み付けることで形成されていてもよい。
【0012】
本発明の他の態様に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法は、前記グロメットを前記電線に装着する第1工程と、前記電線に装着された前記グロメットに、前記インナープロテクタを前記グロメットの内側に一部が配置されるようにした状態で組み付ける第2工程と、前記電線を前記車体パネルの電線貫通孔に通しつつ、前記インナープロテクタが組み付けられた前記グロメットを、前記車体パネルの一方側から前記インナープロテクタを挿入先端側として前記電線貫通孔に押し込んで前記車体パネルに取り付ける第3工程と、前記経路規制部材を、前記車体パネルに取り付けられた前記インナープロテクタに前記車体パネルの他方側から取り付けて、前記車体パネルの他方側に引き出された前記電線の経路を規制する第4工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より簡単に経路規制及び組付け作業ができる電線保護具、及び、電線保護具の車体パネルへの取付方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る電線保護具の全体意匠の一例を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る電線保護具の全体意匠の一例を示す正面図である。
【
図3】本実施形態に係る電線保護具の全体意匠の一例を示す背面図である。
【
図4】本実施形態に係る電線保護具の全体意匠の一例を示す左側面図である。
【
図5】本実施形態に係る電線保護具の全体意匠の一例を示す右側面図である。
【
図6】本実施形態に係る電線保護具の全体意匠の一例を示す平面図である。
【
図7】本実施形態に係る電線保護具の全体意匠の一例を示す底面図である。
【
図8】本実施形態に係る電線保護具の一例を一方向から視た分解斜視図である。
【
図9】本実施形態に係る電線保護具の一例を他の方向から視た分解斜視図である。
【
図10】本実施形態に係る電線保護具の一例を示す垂直断面図である。
【
図11】本実施形態に係るインナープロテクタの一例を示す水平断面図である。
【
図12】本実施形態に係る電線保護具の使用状態の一例を示す垂直断面図である。
【
図13】本実施形態に係る電線保護具を用いて電線の配策経路を変更させる方法の一例を説明する図であって、
図12とは別の経路となるように電線を配策しつつ経路規制部材を電線の上に配置した状態を示す斜視図である。
【
図14】本実施形態に係る電線保護具を用いて電線の配策経路を変更させる方法の一例を説明する図であって、経路規制部材をインナープロテクタに取り付けることで、
図12とは別の経路となるように配策させた電線の経路を規制している状態を示す斜視図である。
【
図15】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、電線にグロメットを装着した状態を示す側面図である。
【
図16】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、グロメットの外壁を結束バンドで締め付けた状態を示す側面図である。
【
図17】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、グロメットの外壁にブチルテープを巻き付けた状態を示す側面図である。
【
図18】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、グロメットの外壁に防水用のテープを巻き付けた状態を示す側面図である。
【
図19】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、グロメットの上方で、インナープロテクタを組み付けた状態を示す側面図である。
【
図20】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、グロメットにインナープロテクタを嵌合させた状態を示す側面図である。
【
図21】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、インナープロテクタを嵌合させたグロメットを車体パネルに装着させた状態を示す側面図である。
【
図22】本実施形態に係る電線保護具の車体パネルへの取付方法の一例を示す図であって、所望の経路となるように電線を配策しつつ経路規制部材を電線の上に配置した状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本実施形態に係る電線保護具、及び、電線保護具の車体パネルへの取付方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0016】
また、以下では、グロメットが下方に位置し、経路規制部材が上方に位置するようにした状態で、電線保護具の上下方向を規定して説明する。
【0017】
(一実施形態)
本実施形態に係る電線保護具1は、例えば、エンジンルーム等の車室外ERと車室R内とを仕切る車体パネルPの貫通孔Paに組付けて使用するものである。このとき、電線保護具1の内部に配策されるワイヤーハーネス等の電線Wが、電線保護具1によって保護されている。
【0018】
本実施形態では、電線保護具1は、
図1から
図7等に示すように、車体パネルPの一方側(車室外ER側)で電線Wを保持し、車体パネルPにおける電線貫通孔Paの周縁に密着されるグロメット10を備えている。
【0019】
また、電線保護具1は、グロメット10よりも剛性が高く、グロメット10の内側に一部が配置されるようにした状態でグロメット10に組み付けられるインナープロテクタ20を備えている。
【0020】
さらに、電線保護具1は、インナープロテクタ20に取り付けられて、車体パネルPの他方側(車室内R側)に引き出された電線Wの経路を規制する経路規制部材30を備えている。
【0021】
この電線保護具1は、電線Wを挿通することが可能な電線貫通孔Paが形成された車体パネルPに電線貫通孔Paを塞ぐように取り付けられて電線Wを保護するものである。
【0022】
[グロメットの構成の一例]
次に、グロメット10の構成の一例を
図8から
図10等を用いて説明する。
【0023】
グロメット10は、内部に電線Wを配策させることが可能な筒形状をしており、例えばゴム材等の柔軟な材料を用いて一体に形成されている。
【0024】
本実施形態では、グロメット10は、上部に配置される大径筒部11と、この大径筒部11の下端に連設されて、電線Wを保持可能な電線保持筒部12と、を備えている。
【0025】
また、本実施形態では、大径筒部11の内部には、インナープロテクタ20が嵌合される略円柱状のインナー嵌合溝112が形成されている。そして、インナー嵌合溝112にインナープロテクタ20を嵌合させることで、インナープロテクタ20が、内側に一部が配置されるようにした状態でグロメット10に組み付けられるようにしている。
【0026】
そして、本実施形態では、大径筒部11におけるインナー嵌合溝112内の互いに対向する2か所に、一対の周り止め突起1121が形成されている(
図8参照)。そして、周り止め突起1121をインナープロテクタ20に形成された後述する切り欠き2121に挿入させた状態で、インナープロテクタ20をインナー嵌合溝112に嵌合させるようにしている。こうすることで、インナープロテクタ20が大径筒部11(グロメット10)に対して相対的に回転してしまうことが抑制されるようにしている。
【0027】
なお、本実施形態では、大径筒部11の平面視における外形が、略円形の一部を径方向の外側に突出したような形状となっている。すなわち、大径筒部11には、径方向に突出する突部111が形成されている。このような突部111を大径筒部11に形成すれば、電線保護具1を車体パネルPに取り付ける際に、この突部111を目印としたり、突部111によって電線保護具1が車体パネルPに対して相対的に回転してしまうことが抑制されるようにしたりできる。
【0028】
また、大径筒部11の上部の外周縁面には、上方に突出するリップ部113が突設されている。本実施形態では、リップ部113は、内周リップ部1131と外周リップ部1132とを備えており、内周リップ部1131及び外周リップ部1132は、大径筒部11の全周に亘って連続して形成されている。
【0029】
内周リップ部1131は、電線保護具1が電線貫通孔Paに装着される前では、根元から中心軸方向(上方)に向かって突出し、且つ、その先端側が中心軸に対し外側に開く方向に傾斜している。一方、外周リップ部1132は、電線保護具1が電線貫通孔Paに装着される前では、中心軸方向に対して外側に開く方向に突出している。
【0030】
そして、電線保護具1が電線貫通孔Paに装着された状態では、内周リップ部1131及び外周リップ部1132は、大径筒部11の外周縁面に倒れる方向に弾性変形され、車体パネルPの電線貫通孔Paの周縁面に密着されるようになっている。こうすることで、車体パネルPの一方側(車室外ER側)の面とリップ部113との間から水や塵等が電線保護具1内に浸入してしまうことが抑制されるようにしている。なお、
図12から
図14,
図21及び
図22では、内周リップ部1131及び外周リップ部1132は、電線保護具1が電線貫通孔Paに装着される前の状態を示している。
【0031】
電線保持筒部12は、上述したように、例えばゴム材等の柔軟な材料を用いて形成されている。そのため、電線保持筒部12は、電線Wと共に撓み変形でき、この撓み変形できる範囲で、車体パネルPの一方側のスペース(車室外ER側)に引き出された電線Wが所望の経路で配策可能とされている。
【0032】
本実施形態では、この電線保持筒部12は、上端が大径筒部11の下面に連設されて電線Wを挿入して保持することが可能な内壁122と、上端が大径筒部11の下面に連設されて、内壁122の周囲を囲うように配置される外壁121と、を備えている。
【0033】
この外壁121は、外壁121の内側面と内壁122の外側面との間に隙間が形成されるようにした状態で大径筒部11の下面に連設されている。
【0034】
このように、本実施形態では、電線保持筒部12を、外壁121と内壁122の二重壁構造としている。そして、外壁121と内壁122との間に、空気層Aが形成されるようにしている。こうすることで、電線保持筒部12が配置される空間(エンジンルーム等の車室外ER)で発生する音(ノイズ等)が、内壁122に衝突したり、反対側の空間(車室内R)に漏れたりすること等が抑制されるようにしている。
【0035】
このように、本実施形態では、電線保持筒部12を、外壁121と内壁122の二重壁構造としつつ空気層Aが間に形成されるようにすることで、一重構造の電線保持筒部とした場合と較べて、音振性能を向上させることができるようにしている。
【0036】
さらに、本実施形態では、内壁122は、
図10に示すように、下方に位置して上下方向に延在する略円筒状の小径鉛直壁1221と、小径鉛直壁1221の上端に連設されて、上方且つ外周側に向けて傾斜する(上方に拡径する)傾斜壁1222と、を備えている。また、内壁122は、傾斜壁1222の上端に連設されて、上下方向に延在する略円筒状の大径鉛直壁1223を備えており、大径鉛直壁1223の上端が大径筒部11の下面における貫通孔11aの周縁部の全周に亘って連設されている。
【0037】
一方、外壁121は、
図9及び
図10に示すように、内壁122の周囲を、略等距離を維持した状態で囲う周状部1211と、周状部1211に連設され径外方向に細長く延びる襞状部1212と、を備えている。
【0038】
本実施形態では、周状部1211の4か所に襞状部1212が等間隔で形成されるようにしており、4つの襞状部1212が十字状に配置されるようにしている。すなわち、外壁121の下端の輪郭形状は、4つの同一形状をした四半円弧を離間させた状態で円周に沿うように配置し、互いに隣り合う端部同士を径外方向に細長く延びる襞状部1212で連設させた形状をしている。言い換えると、外壁121の下端の輪郭形状は、略円形の周の位相を90度ずつずらした4か所を径外方向に細長く伸ばしたような形状をしている。
【0039】
このように、水密及び音振を確保するために電線保持筒部12を二重壁構造とし、十字構造となるように空気層Aを形成した場合、空気層Aがエンジンルーム等の車室外ERに配置されるようにするのが好ましい。こうすれば、空気層Aを車室内Rに配置する必要がなく、車室内Rのスペース(他の部材を配置するスペース)を確保することができるためである。また、車室内Rに空気層Aを配置するスペースがない場合でも、車室外ERで発生する音(ノイズ等)を低減させることができるためである。
【0040】
また、外壁121と内壁122との間に形成される空気層Aを十字の袋構造とすれば、グロメット10を成形した後で金型を抜く際に、グロメット10の口(後述する下側開口Aa)を四角く開くことができ、容易に金型を離型することができるようになる。
【0041】
さらに、本実施形態では、周状部1211は、下方に位置して上下方向に延在する略円筒状の鉛直壁1211aと、鉛直壁1211aの上端に連設されて、上方且つ外周側に向けて傾斜する(上方に拡径する)傾斜壁1211bと、を備えている。そして、傾斜壁1211bの上端が大径筒部11の下面に連設されている。このとき、傾斜壁1211bは、大径鉛直壁1223の全周を、略等距離を維持した状態で囲うようにして、大径筒部11の下面に連設されている。
【0042】
このように、本実施形態では、外壁121と内壁122との間に下方のみに開口する空気層Aが形成されるようにしている。すなわち、空気層Aは、下方に開口する下側開口Aaを有している(
図10参照)。
【0043】
さらに、本実施形態では、グロメット10を電線Wに組み付けた後で、外壁121を結束バンドBで締め付けることで、袋形状構造(中空構造)の空気層Aが形成されるようにしている。こうすることで、外壁121から入ってくる音を空気層Aでぶつかり合わせて音を打ち消し合うことができるようにし、以て、電線保護具1の音振性能を向上させることができるようにしている。
【0044】
なお、本実施形態では、4つの襞状部1212の上下2か所に結束バンドBの抜けを抑制するための突起1212aが形成されている。
【0045】
[インナープロテクタの構成の一例]
次に、インナープロテクタ20の構成の一例を
図8から
図11等を用いて説明する。
【0046】
本実施形態に係るインナープロテクタ20は、
図8及び
図9に示すように、2個(複数個)のインナー部材21を互いに組み付けることで形成されている。
【0047】
本実施形態では、同一の形状をした2個のインナー部材21が用いられており、2個のインナー部材21を互いに組み付けることで、中央部に電線Wが挿通される貫通孔H1を有する略円環状のインナープロテクタ20を形成している。なお、貫通孔H1は、インナープロテクタ20をグロメット10に嵌合させたときに、上下方向に貫通した状態で、大径筒部11の貫通孔11aと連通するように形成されている。
【0048】
インナー部材21(インナープロテクタ20)は、例えば合成樹脂等の材料を用いて形成されており、グロメット10よりも剛性を有している。
【0049】
そして、このようなインナープロテクタ20をグロメット10の大径筒部11に嵌合させることで、グロメット10、特に大径筒部11の形状維持がインナープロテクタ20によって図られている。
【0050】
インナー部材21は、平面視で略半円状をしたインナー本体部211と、このインナー本体部211から径方向の外側に向かって突出するフランジ部212と、を備えている。
【0051】
本実施形態では、インナー本体部211は、インナープロテクタ20をグロメット10に嵌合させたときに、上方に位置する天壁2111を備えている。また、インナー本体部211は、天壁2111の一端側に連設され、インナー本体部211の内周側を画成する内壁2112と、天壁2111の他端側に連設され、インナー本体部211の外周側を画成する外壁2113と、を備えている。
【0052】
そして、外壁2113の下端には、フランジ部212が径方向の外側に向かって突出するように連設されている。また、本実施形態では、平面視でフランジ部212の略中央部には、切り欠き2121が径方向の外方に開口するように形成されている。この切り欠き2121には、上述したように、インナープロテクタ20をグロメット10に嵌合させたときに、大径筒部11に形成された周り止め突起1121が挿入されるようになっている。
【0053】
さらに、本実施形態では、一対のインナー部材21を組み付けた状態では、2つのフランジ部212によって略円形のフランジが形成されることになる。そして、略円形のフランジの対向する2か所に一対の切り欠き2121が形成されることになる。
【0054】
そして、インナープロテクタ20をグロメット10に嵌合させたときには、フランジ部212が大径筒部11の内部に形成されたインナー嵌合溝112に嵌合されることになる。このように、本実施形態では、フランジ部212がグロメット10の内側に配置される部位(インナープロテクタ20の一部)になっている。
【0055】
また、インナー部材21の平面視における両端には、インナー部材21同士を係合させてロックすることが可能なロック部213が形成されている。
【0056】
具体的には、ロック部213は、インナー部材21の平面視における周方向の一端に周方向外側に突出するように連設されたフック2131を備えている。また、ロック部213は、インナー部材21の平面視における周方向の他端に形成され、フック2131が引っ掛けられる係合壁2132を備えている。
【0057】
本実施形態では、係合壁2132は、
図10及び
図11に示すように、外壁2113の下部に径方向の内側に突出するように形成されており、この係合壁2132に、フック2131が解除可能に引っ掛けられるようにしている。すなわち、本実施形態では、一対のインナー部材21が着脱可能に組み付けられるようになっている。なお、フック2131は、径方向に弾性変形できるように形成されており、係合壁2132に引っ掛けられるフック部が径方向の外側に形成されている。
【0058】
ここで、本実施形態では、係合壁2132の近傍にフック2131を挿入可能な空間S1が、上方(天壁2111側)及び周方向に開口するように形成されている。そして、空間S1の周方向に開口する部分が、フック2131が挿入される挿入開口S1aとなっており、上方に開口する部分が、フック2131と係合壁2132との係合を解除する作業を行うための係合解除用開口S1bとなっている。
【0059】
さらに、本実施形態では、インナー部材21の平面視における周方向の一端には、周方向外側に突出するようにガタツキ防止突起214が連設されている。一方、インナー部材21の平面視における周方向の他端には、ガタツキ防止突起214を押さえることが可能な押さえ壁215が形成されている。
【0060】
具体的には、ガタツキ防止突起214は、フック2131よりも径方向内周側且つ上側に形成されており、空間S1の径方向内側には天壁2111と押さえ壁215とで画成され、ガタツキ防止突起214が挿入される挿入空間S2が形成されている。
【0061】
このような構成とすることで、一対のインナー部材21を組み付ける際には、まず、一方のインナー部材21の周方向の一端を他方のインナー部材21の周方向の他端に対向させるようにする。そして、フック2131を挿入開口S1aから空間S1に挿入させるとともに、ガタツキ防止突起214を挿入空間S2に挿入させ、フック2131を係合壁2132に引っ掛けて係合させる。こうすることで、一対のインナー部材21が組み付けられて、中央部に電線Wが挿通される貫通孔H1を有する略円環状のインナープロテクタ20が形成される。このとき、一方のインナー部材21を他方のインナー部材21に対して上下方向(貫通孔H1の貫通方向)に回動させる力が生じたとしても、ガタツキ防止突起214が天壁2111または押さえ壁215に当たって、それ以上の回動が抑制されるようになっている。
【0062】
また、インナー部材21には、経路規制部材30の後述する係合部321が係合する被係合部216が形成されている。
【0063】
本実施形態では、被係合部216には、内壁2112の一部と、内壁2112と径方向で対向する中間壁2163と、内壁2112と中間壁2163とを連結する一対の連結壁2161とで画成され、上下方向に開口する空間S3が形成されている(
図8参照)。この空間S3は、経路規制部材30の係合部321が挿入される空間になっている。ここで、中間壁2163は、内壁2112よりも径方向の外側に位置するとともに外壁2113よりも径方向の内側に位置し、周方向に延在する壁部のことである。
【0064】
また、空間S3内には、係合部321の後述する外壁3211に引っ掛けられるフック2162が形成されている。本実施形態では、フック2162は、内壁2112の下端から上方に立ち上がるように連設されており、径方向に弾性変形できるように形成されている。また、フック2162の外壁3211に引っ掛けられるフック部は、径方向の外側に形成されている。
【0065】
なお、本実施形態では、空間S3の上側開口S3aは、フック2162と外壁3211との係合を解除する作業を行うための係合解除用の開口としての機能も有している。
【0066】
さらに、本実施形態では、被係合部216は、インナー部材21の2か所に周方向に間隔を置いて設けられている。具体的には、インナー部材21の平面視で、周方向の中央から約45度回転させた位置にそれぞれ形成されている。すなわち、インナー部材21には、一対の被係合部216が、一方の被係合部216を90度回転させたときに他方の被係合部216と重なるように形成されている。そして、インナープロテクタ20を形成した状態では、略円形の周の位相を90度ずつずらした4か所に被係合部216が形成されている。すなわち、インナープロテクタ20の平面視で略円形の周を4等分する位置に被係合部216がそれぞれ形成されている。この4つの被係合部216は、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態でも外部に露出するように形成されている。
【0067】
また、インナー部材21の外周部には、2個のパネル係止爪217が周方向に間隔を置いて設けられている。本実施形態では、外壁2113の上端からフランジ部212にかけて切り欠かれた切り欠き空間S4が形成されており、パネル係止爪217が、この切り欠き空間S4内に配置されている。切り欠き空間S4は、本実施形態では、被係合部216と対応する位置に形成されている。したがって、パネル係止爪217も、インナープロテクタ20の平面視で略円形の周を4等分する位置にそれぞれ形成されている。
【0068】
このパネル係止爪217は、天壁2111の外周端から下方に向けて突出するように設けられており、径方向の内側に弾性変形できるようになっている。
【0069】
そして、このようなパネル係止爪217を設けることで、インナープロテクタ20の4個(複数個)のパネル係止爪217とグロメット10のリップ部113とによって車体パネルPが挟持されるようにしている。すなわち、パネル係止爪217とリップ部113との挟持力によって、電線保護具1が車体パネルPの電線貫通孔Paに装着されるようにしている。
【0070】
[経路規制部材の構成の一例]
次に、経路規制部材30の構成の一例を
図8から
図10等を用いて説明する。
【0071】
本実施形態に係る経路規制部材30は、インナープロテクタ20に取り付けられて、車体パネルPの他方側(車室内R側)に引き出された電線Wの経路を規制するものである。
【0072】
この経路規制部材30は、例えば合成樹脂等の材料を用いて形成されており、内部に電線Wが収容された状態で自らの形態を少なくとも維持できる剛性を有するように形成されている。
【0073】
本実施形態では、経路規制部材30は、電線Wを収容することが可能な電線収容空間S5を画成する本体部31と、本体部31の下端に連設されて、水平方向の外側に延在するフランジ部32と、を備えている。
【0074】
具体的には、本体部31は、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態でインナープロテクタ20(貫通孔H1)と対向する天壁311と、天壁311の3辺から下方(インナープロテクタ20)に向けて延設される周壁312と、を備えている。
【0075】
さらに、本実施形態では、周壁312は、天壁311の両端に連設される一対の側壁3121と、天壁311及び一対の側壁3121に連設される奥壁3122と、を備えている。
【0076】
そして、一方側の側壁3121の下辺、奥壁3122の下辺及び他方側の側壁3121の下辺にフランジ部32が連設されている。このフランジ部32は、本実施形態では、平面視で外周が円の周囲の一部となるように形成されている。そして、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態の平面視で、フランジ部32の外周がインナープロテクタ20の天壁2111の外周よりも内側に位置するようにしている(
図6参照)。
【0077】
また、本実施形態では、天壁311、一対の側壁3121及び奥壁3122の内側に電線Wを収容することが可能な電線収容空間S5が形成されている。
【0078】
さらに、本実施形態では、本体部31には電線導入開口H2が形成されている。そして、この電線導入開口H2を電線Wに対向させた状態で、電線Wの延在方向と交差する方向に本体部31を移動させることで、電線Wを電線収容空間S5に出し入れできるようにしている。
【0079】
この電線導入開口H2は、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態でインナープロテクタ20と対向するインナープロテクタ側開口H2bを備えている。すなわち、電線導入開口H2は、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態で、水平方向に延在して下方に開口するインナープロテクタ側開口H2bを備えている。
【0080】
このインナープロテクタ側開口H2bは、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態では水平面になっており、一対の側壁3121及び奥壁3122によって3方向が画成されている。そして、電線収容空間S5が、このインナープロテクタ側開口H2bを介して貫通孔H1に連通されている。
【0081】
さらに、電線導入開口H2は、インナープロテクタ側開口H2bの開口方向である下方と交差する方向である水平方向に開口し、車体パネルPの他方側(室内R側)に引き出された電線Wの経路を規制する経路規制開口H2aを備えている。この経路規制開口H2aは、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態では鉛直面になっており、天壁311及び一対の側壁3121によって3方向が画成されている。
【0082】
そして、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態では、経路規制開口H2aの開口方向に電線Wが引き出される(配策される)ことになる。
【0083】
さらに、本実施形態では、経路規制開口H2aの下端がインナープロテクタ側開口H2bの水平方向の一端に連設されており、経路規制開口H2aとインナープロテクタ側開口H2bとで電線導入開口H2が構成されるようにしている。すなわち、本体部31の形状を、天壁311と奥壁3122の反対側に壁部が形成されていない形状となるようにしている。
【0084】
ここで、本実施形態では、経路規制部材30が、インナープロテクタ20に形成された被係合部216に係合可能な係合部321を備えるようにしている。そして、インナープロテクタ20をグロメット10に組み付けた状態であっても、係合部321を被係合部216に係合させることができるようにしている。
【0085】
具体的には、係合部321は、外壁3211と、外壁3211と径方向で対向する内壁3212と、外壁3211と内壁3212とを連結する一対の連結壁3213と、を備えており、略直方体状の外観形状を有している。そして、略直方体状の係合部321が被係合部216に形成された空間S3内に挿入されるようにしている。
【0086】
本実施形態では、略直方体状の係合部321は、フランジ部32に形成された切り欠き322の内周側から下方に突出するように延設されている。
【0087】
また、係合部321には、外壁3211と、外壁3211と径方向で対向する内壁3212と、外壁3211と内壁3212とを連結する一対の連結壁3213とで画成され、上下方向に開口する空間S6が形成されている(
図9参照)。この空間S6は、被係合部216のフック2162が挿入される空間になっている。
【0088】
また、外壁3211には、上方に開口する切り欠き3211aが形成されており、このように切り欠かれた外壁3211の上部に、空間S6内に挿入させた被係合部216のフック2162を引っ掛けることで、係合部321を被係合部216に係合させている。
【0089】
さらに、本実施形態では、外壁3211の上部にフック2162が解除可能に引っ掛けられるようにしている。すなわち、本実施形態では、経路規制部材30がインナープロテクタ20に着脱可能に取り付けられるようになっている。
【0090】
なお、本実施形態では、外壁3211に上方に開口する切り欠き3211aを形成することで、フック2162と外壁3211との係合を解除する作業をより容易に行うことができるようにしている。
【0091】
さらに、本実施形態では、係合部321は、フランジ部32の3か所に周方向に間隔を置いて設けられている。具体的には、フランジ部32の奥壁3122に連設される部位に1つの係合部321が設けられており、フランジ部32の側壁3121に連設される部位に1つの係合部321がそれぞれ設けられている。そして、側壁3121に連設される部位に設けられた係合部321は、奥壁3122に連設される部位に設けられた係合部321を90度回転させた位置にそれぞれ設けられている。
【0092】
そして、インナープロテクタ20をグロメット10に組み付ける際には、3つの係合部321を、4つの被係合部216のうちの任意の3つの被係合部216に係合させるようにしている。
【0093】
このように、本実施形態では、経路規制部材30を、経路規制開口H2aの開口方向が異なる4つの態様(複数の態様)でインナープロテクタ20に取り付けられるようにしている。こうすることで、電線Wを所望の配策方向で規制することができるようにしている。すなわち、電線Wが配策される向きを経路規制部材30によって自由に変更できるようにしている。
【0094】
[電線保護具の使用状態の一例]
次に、電線保護具1の使用状態の一例を
図12から
図14を用いて説明する。
【0095】
図12に示すように、車体パネルPには、略円形の電線貫通孔Paが形成されている。そして、この電線貫通孔Paには、ワイヤーハーネス等の電線(電線集合体)Wが貫通されている。
【0096】
ワイヤーハーネス等の電線Wは、電線貫通孔Paを貫通することによって車体パネルPの一方側のスペース(車室外ER)と他方側のスペース(車室内R)に亘って配策されるものである。
【0097】
本実施形態では、電線Wの外周には電線保護具1が装着されており、この電線保護具1によって、車体パネルPの電線貫通孔Paが閉塞されるようにしている。
【0098】
そして、経路規制開口H2aの開口方向が所望の方向を向くようにした状態で、インナープロテクタ20に経路規制部材30を取り付けている。
【0099】
このように、インナープロテクタ20に経路規制部材30を付設することで、経路規制部材30が車体パネルPの他方側(車室内R側)に引き出された電線Wの経路を規制して電線Wを所望の経路で配策できるようにしつつ、電線Wを保護できるようにしている。
【0100】
また、本実施形態では、車体パネルPの電線貫通孔Paを、電線Wに装着された電線保護具1によって閉塞させた状態で、電線Wの経路を変更する必要が生じた場合であっても、経路規制部材30を着脱させるだけで、電線Wの経路を変更できるようになっている。
【0101】
具体的には、まず、経路規制部材30をインナープロテクタ20から取り外す。その後、電線Wの経路を変更したい方向に配策する。その後、経路規制開口H2aの開口方向が変更したい方向を向くようにした状態で、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付ける。こうすることで、車体パネルPの電線貫通孔Paを、電線Wに装着された電線保護具1によって閉塞させた状態で、電線Wの経路を変更させる(
図13及び
図14参照)。
【0102】
[電線保護具の車体パネルへの取り付け方法の一例]
次に、電線保護具1の車体パネルPへの取り付け方法の一例を
図15から
図22を用いて説明する。
【0103】
まず、
図15に示すように、グロメット10を電線Wに装着する(第1工程)。
【0104】
次に、グロメット10の外壁121と内壁122の間からの音の侵入を防ぐため、
図16に示すように、結束バンドBで外壁121を締め付ける。こうすることで、空気層Aの下方に開口する下側開口Aaが閉塞されるようにしている。このとき、4つの襞状部1212の上下2か所に形成された突起1212aの間に結束バンドBを取り付け、結束バンドBが外壁121から抜けてしまうことを抑制できるようにするのが好ましい。
【0105】
さらに、必要に応じて、電線保持筒部12に、ブチルテープBTを巻き付けるようにしてもよい(
図17参照)。このとき、ブチルテープBTを、外壁121の下端部から内壁122にかけて巻き付けることで、空気層Aの下方に開口する下側開口AaがブチルテープBTによって閉塞されるようにするのが好ましい。こうすれば、グロメット10の外壁121と内壁122の間からの音の侵入をより確実に防ぐことができるようになる。
【0106】
さらに、必要に応じて、電線保持筒部12に、ビニルテープTを巻き付けるようにしてもよい(
図18参照)。このとき、ビニルテープTを、外壁121の上部から内壁122の下端から露出する電線Wにかけて巻き付けるようにするのが好ましい。こうすれば、グロメット10の外壁121と内壁122の間からの音の侵入をより確実に防ぐことができるようになる上、より確実に水密及び音振を確保することができるようになる。
【0107】
なお、ブチルテープBTを用いずに、結束バンドBとビニルテープTを用いることも可能である。
【0108】
次に、
図19に示すように、中央に電線Wを配置した状態で、一対のインナー部材21同士を組み付けてインナープロテクタ20を形成する。
【0109】
具体的には、まず、中央に配置される電線Wを囲うようにした状態で、一方のインナー部材21の周方向の一端を他方のインナー部材21の周方向の他端に対向させるようにする。
【0110】
そして、フック2131を挿入開口S1aから空間S1に挿入させるとともに、ガタツキ防止突起214を挿入空間S2に挿入させ、フック2131を係合壁2132に引っ掛けて係合させることで、略円環状のインナープロテクタ20を形成する。
【0111】
こうすれば、貫通孔H1に電線Wが挿通されたインナープロテクタ20をより簡単に形成することができる。なお、
図19から
図22では、結束バンドB、ブチルテープBT及びビニルテープTの図示を省略している。
【0112】
次に、
図20に示すように、貫通孔H1に電線Wが挿通されたインナープロテクタ20を下方に移動させ、インナープロテクタ20をグロメット10に一部が内側に配置されるようにした状態で嵌合させる(第2工程)。すなわち、インナー嵌合溝112にインナープロテクタ20のフランジ部212を嵌合させることで、インナープロテクタ20を、内側に一部が配置されるようにした状態でグロメット10に組み付ける。具体的には、グロメット10の大径筒部11を広げる方向に弾性変形させ、グロメット10のインナー嵌合溝112にインナープロテクタ20のフランジ部212を嵌め込む。
【0113】
なお、結束バンドBによる締め付け、ブチルテープBT及びビニルテープTの巻き付けは、
図20に示す状態とした後に行うことも可能である。さらに、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態で行うことも可能である。
【0114】
次に、
図21に示すように、インナープロテクタ20及びグロメット10によって車体パネルPの電線貫通孔Paが閉塞されるようにする(第3工程)。具体的には、電線Wを車体パネルPの電線貫通孔Paに通し、車体パネルPの一方側(車室外ER側)から、インナープロテクタ20を挿入先端側としてグロメット10を電線貫通孔Paに押し込む。すると、インナープロテクタ20が電線貫通孔Paに入り込む。このとき、インナープロテクタ20の各パネル係止爪217が電線貫通孔Paの周縁に突き当たるが、各パネル係止爪217は、径方向の内側に弾性変形するため、インナープロテクタ20の電線貫通孔Paへの挿入が許容される。そして、インナープロテクタ20が挿入完了位置まで挿入されると、各パネル係止爪217が弾性復帰して車体パネルPにおける電線貫通孔Paの反対側の周縁に係止される。こうすることで、インナープロテクタ20の4個(複数個)のパネル係止爪217とグロメット10のリップ部113とによって車体パネルPが挟持されるようにしている。すなわち、パネル係止爪217とリップ部113との挟持力によって、電線保護具1が車体パネルPの電線貫通孔Paに装着されるようにしている。
【0115】
そして、車体パネルPの他方側(車室内R側)に引き出された電線Wの経路を所望の方向に配策する。その後、経路規制開口H2aの開口方向が所望の方向を向くようにした状態で、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付ける(第4工程)。
【0116】
具体的には、電線Wを所望の方向に配策しつつ、経路規制部材30の係合部321をグロメット10から露出するインナープロテクタ20の被係合部216に対向させた状態で、経路規制部材30を下方に移動させて、係合部321を被係合部216に係合させる。このとき、経路規制開口H2aの開口方向を4方向から選択し、経路規制開口H2aの開口方向が選択した方向を向くようにした状態で、係合部321を被係合部216に係合させている。
【0117】
こうすることで、電線Wを所望の配策方向で規制することができるようにしている。
【0118】
[作用・効果]
以下では、上記実施形態で示した電線保護具、及び、電線保護具の車体パネルへの取付方法の特徴的構成及びそれにより得られる効果を説明する。
【0119】
上記実施形態で示した電線保護具1は、電線Wを挿通することが可能な電線貫通孔Paが形成された車体パネルPに電線貫通孔Paを塞ぐように取り付けられて電線Wを保護するものである。この電線保護具1は、車体パネルPの一方側(車室外ER側)で電線Wを保持し、車体パネルPにおける電線貫通孔Paの周縁に密着されるグロメット10を備えている。また、電線保護具1は、グロメット10よりも剛性が高く、グロメット10の内側に一部が配置されるようにした状態でグロメット10に組み付けられるインナープロテクタ20を備えている。さらに、電線保護具1は、インナープロテクタ20に取り付けられて、車体パネルPの他方側(車室内R側)に引き出された電線Wの経路を規制する経路規制部材30を備えている。そして、経路規制部材30は、インナープロテクタ20をグロメット10に組み付けた状態で、インナープロテクタ20に形成された被係合部216に係合可能な係合部321を備えている。
【0120】
こうすれば、インナープロテクタ20をグロメット10に組み付ける前に、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付ける必要がなくなるため、電線Wの経路規制が可能な電線保護具1をより簡単に組み立てることができるようになる。その結果、電線保護具1の組付作業性をより向上させることができるようになる。
【0121】
また、経路規制部材30が、電線Wを収容することが可能な電線収容空間S5を画成する本体部31を備えていてもよい。そして、本体部31に、電線Wの延在方向と交差する方向に本体部31を移動させて電線Wを電線収容空間S5に出し入れすることが可能な電線導入開口H2が形成されていてもよい。
【0122】
こうすれば、インナープロテクタ20を車体パネルPの電線貫通孔Paに挿入する前に、経路規制部材30及び電線Wをインナープロテクタ20に取り付ける必要がなくなるため、より簡単に電線保護具1を車体パネルPに取り付けることができる。その結果、電線保護具1の車体パネルPへの取り付け作業性をより向上させることができるようになる。
【0123】
また、本体部31は、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態でインナープロテクタ20と対向する天壁311と、天壁311の両端に連設される一対の側壁3121と、を備えていてもよい。
【0124】
このように、経路規制部材30の本体部31の形状を略U字状にすれば、本体部31の構成の簡素化を図りつつ、より簡単に電線保護具1を車体パネルPに取り付けることができるようになる。その結果、電線保護具1の車体パネルPへの取り付け作業性をより一層向上させることができるようになる。また、経路規制部材30の本体部31の形状を略U字状にすれば、本体部31が掴みやすくなるため、電線保護具1の車体パネルPへの取り付け作業性をさらに向上させることができるようになる。
【0125】
また、電線導入開口H2は、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けた状態でインナープロテクタ20と対向するインナープロテクタ側開口H2bを備えていてもよい。さらに、電線導入開口H2は、インナープロテクタ側開口H2bと交差する方向に開口し、車体パネルPの他方側(室内R側)に引き出された電線Wの経路を規制する経路規制開口H2aを備えていてもよい。そして、経路規制部材30を、経路規制開口H2aの開口方向が異なる複数の態様でインナープロテクタ20に取り付けられるようにしていてもよい。
【0126】
こうすれば、車体パネルPの他方側(室内R側)に引き出された電線Wを所望の経路で配策させることができるようになる。
【0127】
また、インナープロテクタ20が、複数のインナー部材21を組み付けることで形成されていてもよい。
【0128】
こうすれば、電線Wの端部からインナープロテクタ20を挿入させる必要がなくなるため、より簡単にインナープロテクタ20を電線Wの所望の位置に配置させることができるようになる。また、経路規制部材30を取り付けることなく、複数のインナー部材21を組み付けることが可能になるため、より簡単にインナープロテクタ20を組み立てることができるようになる。
【0129】
また、上記実施形態で示した電線保護具の車体パネルへの取付方法は、上記電線保護具1を車体パネルPに取り付ける方法であり、下記の第1工程から第4工程を備えている。
第1工程:グロメット10を電線Wに装着する工程。
第2工程:電線Wに装着されたグロメット10に、インナープロテクタ20をグロメット10の内側に一部が配置されるようにした状態で組み付ける工程。
第3工程:電線Wを車体パネルPの電線貫通孔Paに通しつつ、インナープロテクタ20が組み付けられたグロメット10を、車体パネルPの一方側(車室外ER側)からインナープロテクタ20を挿入先端側として電線貫通孔Paに押し込んで車体パネルPに取り付ける工程。
第4工程:経路規制部材30を、車体パネルPに取り付けられたインナープロテクタ20に車体パネルPの他方側(車室内R側)から取り付けて、車体パネルPの他方側(車室内R側)に引き出された電線Wの経路を規制する工程。
【0130】
こうすれば、電線保護具1の組付作業性及び電線保護具1の車体パネルPへの取り付け作業性をより向上させることができるようになる。
【0131】
また、経路規制部材30をインナープロテクタ20に取り付けない状態で、インナープロテクタ20が組み付けられたグロメット10を車体パネルPに取り付けることが可能になる。その結果、電線保護具1の車体パネルPへの取り付け作業性をより向上させることができるようになる。
【0132】
このように、本実施形態によれば、より簡単に経路規制及び組付け作業ができる電線保護具1、及び、電線保護具1の車体パネルPへの取付方法を提供することができる。
【0133】
[その他]
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0134】
例えば、上記実施形態では、電線Wの延在方向と交差する方向に本体部31を移動させて電線Wを電線収容空間S5に出し入れすることが可能な経路規制部材30を例示したが、経路規制部材30は、このような構成に限られるものではない。
【0135】
例えば、L字状のパイプの下端に係合部321を設けた経路規制部材とすることも可能である。このような構成としても、電線Wの経路規制が可能な電線保護具1をより簡単に組み立てることが可能である。
【0136】
また、L字状のパイプの下壁部分に電線導入開口を、一端側の開口と他端側の開口とを連通するように形成してもよい。このような構成としても、電線Wの経路規制が可能な電線保護具1をより簡単に組み立てることが可能である。
【0137】
また、上記実施形態では、本体部31の形状を略U字状としたものを例示したが、本体部31の形状は、このような形状に限られるものではない。
【0138】
例えば、本体部の形状を、球殻を4等分したような形状とし、電線Wの延在方向と交差する方向に本体部を移動させて電線を電線収容空間に出し入れできるようにすることが可能である。このような構成としても、電線保護具1の車体パネルPへの取り付け作業性をより向上させることができるようになる。
【0139】
また、上記実施形態では、複数のインナー部材21を組み付けることでインナープロテクタ20を形成したものを例示したが、インナープロテクタ20は、このような構成に限られるものではない。
【0140】
例えば、複数のインナー部材に分割せず、一体に形成された環状のインナープロテクタとすることも可能である。このような構成としても、電線Wの経路規制が可能な電線保護具1をより簡単に組み立てることが可能である。
【0141】
また、上記実施形態では、経路規制部材30を上下方向に移動させることで、経路規制部材30がインナープロテクタ20に取り付けられるようにしたものを例示したが、このような構成に限られるものではない。
【0142】
例えば、経路規制部材30を水平方向に移動させることで、経路規制部材30がインナープロテクタ20に取り付けられるようにすることも可能である。このような構成としても、電線Wの経路規制が可能な電線保護具1をより簡単に組み立てることが可能である。
【0143】
このように、経路規制部材30の係合部321及びインナープロテクタ20の被係合部216の形状は、様々な形状とすることができるし、係合部321や被係合部216が形成される位置も様々な位置とすることができる。
【0144】
また、車体パネルやグロメット、その他細部のスペック(形状、大きさ、レイアウト等)も適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0145】
1 電線保護具
10 グロメット
20 インナープロテクタ
21 インナー部材
216 被係合部
30 経路規制部材
31 本体部
311 天壁
3121 側壁
321 係合部
ER 車室外
H2 電線導入開口
H2a 経路規制開口
H2b インナープロテクタ側開口
P 車体パネル
Pa 電線貫通孔
R 車室内
S5 電線収容空間
W 電線