(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
F16C 33/20 20060101AFI20240709BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20240709BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20240709BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
F16C33/20 Z
F16C17/02 Z
F16C9/02
F16C33/10 Z
(21)【出願番号】P 2020192476
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】李 娜
(72)【発明者】
【氏名】安田 絵里奈
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119593(JP,A)
【文献】特開2016-205608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26,33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受合金層の摺動面側に、樹脂で形成されているオーバレイ層を備える摺動部材であって、
前記オーバレイ層の前記摺動面における突出谷部空間体積Vvv(μm
3/μm
2)をVv1とすると、
前記Vv1は、
0.015≦Vv1≦0.200
であ
り、
前記摺動面における突出谷部深さSvkをSv1とすると、
前記Sv1は、前記Vv1との間に、
Sv1=10×Vv1-0.1(±0.3)
の関係が成立する摺動部材。
【請求項2】
前記Vv1は、
0.020≦Vv1≦0.160
である請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記摺動面における突出山部実体体積Vmp(μm
3
/μm
2
)をVm1とすると、
前記Vm1は、
0.010≦Vm1≦0.080
である請求項1記載の摺動部材。
【請求項4】
前記摺動面における突出山部高さSpk(μm)をSp1とすると、
前記Sp1は、
0.100≦Sp1≦1.500
である請求項1記載の摺動部材。
【請求項5】
前記摺動面の展開界面面積率Sdr(-)をSd1とすると、
前記Sd1は、
0.000≦Sd1≦0.100
である請求項1記載の摺動部材。
【請求項6】
前記軸受合金層の前記オーバレイ層側の端面における突出谷部空間体積Vvv(μm
3
/μm
2
)をVv2、及び突出谷部深さSvk(μm)をSv2とすると、
前記Vv2及び前記Sv2は、それぞれ
0.010≦Vv2≦0.100
0.100≦Sv2≦1.000
である請求項1記載の摺動部材。
【請求項7】
前記Vv2及び前記Sv2は、それぞれ
0.020≦Vv2≦0.059
0.150≦Sv2≦0.480
である請求項6記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、自動車などの車両において、停車中に内燃機関を停止するいわゆるアイドリングストップが普及している。アイドリングストップを採用する車両は、内燃機関の停止と始動とを従来の車両と比較して頻繁に繰り返す。ところで、内燃機関の摺動部分は、運転時における駆動軸の回転によって潤滑油が供給される。そのため、内燃機関が頻繁に停止と始動とを繰り返す場合、停止時においても軸受部分では潤滑油を十分に保持することが求められる。
【0003】
特許文献1の場合、摺動部材は、摺動面を形成する樹脂製のオーバレイ層の表面に凹凸を有している。特許文献1の場合、このオーバレイ層の凹凸を粗く設定することにより、その凹部に潤滑油を保持している。これにより、内燃機関の停止時でも潤滑油を保持し、内燃機関の始動時における摺動部分への潤滑油の供給を図っている。
しかしながら、内燃機関及びこれを搭載する車両への要求が厳しくなるにつれて、摺動部における潤滑油の保持性能のさらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、潤滑油の保持性能がさらに向上し、耐焼付性を向上する摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本実施形態の摺動部材は、軸受合金層の摺動面側に、樹脂で形成されているオーバレイ層を備える。オーバレイ層の摺動面における突出谷部空間体積Vvv(μm3/μm2)をVv1とすると、Vv1は、0.015≦Vv1≦0.200である。
【0007】
本件発明者は、摺動部材のオーバレイ層の表面形状において、3次元の特性が耐焼付性の向上に寄与していることを見出した。具体的には、摺動面における突出谷部空間体積VvvをVv1とすると、Vv1は、0.015≦Vv1≦0.200にあるとき、耐焼付性が向上する。これは、オーバレイ層の表面である摺動面の凹凸が特許文献1と比較して細かいものの、3次元的な特性を設定することにより、細かな凹凸により多くの潤滑油が保持されるためである。つまり、本実施形態の場合、3次元の特性を設定することにより、摺動面により細かな凹凸が形成され、凹部の体積が増大する。そして、潤滑油は、この凹部により多く保持される。そのため、内燃機関の停止と始動とが頻繁に繰り返されるような潤滑油が不足しやすい環境下でも摺動部分に潤滑油が供給され、内燃機関の始動時に摺動部材と相手部材との間には油膜が形成される。したがって、より厳しい条件下においても潤滑油の保持性能が向上し、耐焼付性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態による摺動部材の模式的な断面を示す概略図
【
図2】一実施形態による摺動部材の構成を示す模式的な斜視図
【
図3】一実施形態による摺動部材のVv1とSv1との関係を説明するための概略図
【
図4】一実施形態による摺動部材の製造方法を示す模式的な斜視図
【
図5】一実施形態による摺動部材の製造方法において、オーバレイ層を形成する条件とVv1との関係を概略的に示す模式図
【
図6】一実施形態による摺動部材の耐焼付性を評価するための試験条件を示す概略図
【
図7】一実施形態による摺動部材の実施例を示す概略図
【
図8】一実施形態による摺動部材の実施例を示す概略図
【
図9】一実施形態による摺動部材の実施例を示す概略図
【
図10】一実施形態による摺動部材の実施例を示す概略図
【
図11】一実施形態による摺動部材の耐疲労性を評価するための試験条件を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、一実施形態による摺動部材を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2に示すように摺動部材10は、裏金層11、軸受合金層12及びオーバレイ層13を備えている。なお、摺動部材10は、裏金層11と軸受合金層12との間に図示しない中間層を備えていてもよい。また、摺動部材10は、
図1に示す例に限らず、裏金層11とオーバレイ層13との間に、複数の軸受合金層12や中間層、その他の機能を有する層を備えていてもよい。摺動部材10は、オーバレイ層13側の端部に図示しない相手部材と摺動する摺動面14を形成する。
図1に示す本実施形態の場合、摺動部材10は、裏金層11の摺動面14側に、軸受合金層12及びオーバレイ層13が順に積層されている。軸受合金層12は、裏金層11と反対側の端部に、オーバレイ層13が積層される端面15を有している。裏金層11は、例えば鉄や銅などの金属又は合金で形成されている。軸受合金層12は、例えばAl若しくはCu又はそれらの合金などで形成されている。本実施形態の場合、オーバレイ層13の厚さは、3μmから20μmであり、5μmから15μmであることが好ましい。
【0010】
オーバレイ層13は、図示しない樹脂バインダ及び固体潤滑剤で構成されている。樹脂バインダは、オーバレイ層13の主成分であり、例えばポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂及びエラストマー樹脂から選択される一種以上が用いられる。また、樹脂バインダは、ポリマーアロイであってもよい。本実施形態では、樹脂バインダとして、ポリアミドイミドを用いている。また、固体潤滑剤は、例えば無機化合物やフッ素樹脂などが用いられる。無機化合物としては、例えば黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、h-BN、フッ化黒鉛、グラファイト、マイカ、タルク、メラミンシアヌレートなどから選択される一種以上が用いられる。フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが用いられる。これらの他にも、フタロシアニン、グラフェンナノプレートレット、フラーレン、超高分子量ポリエチレン、N-ε-ラウロイル-L-リジンなどを用いてもよい。本実施形態の場合、オーバレイ層13は、固体潤滑剤を5vol%~50vol%含んでいる。
【0011】
オーバレイ層13は、例えば充填剤をはじめとする添加剤を加えてもよい。この場合、添加剤は、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ムライト、リン酸カルシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化マグネシウムなどの酸化物、モリブデンカーバイド、炭化ケイ素などの炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、立方晶窒化ホウ素などの窒化物、ダイヤモンドなどから選択される一種以上が用いられる。
【0012】
本実施形態の場合、オーバレイ層13は、摺動面14における3次元の形状を測定している。具体的には、オーバレイ層13は、突出谷部空間体積Vvv(μm3/μm2)、及び突出谷部深さSvkを測定している。以下、本実施形態のオーバレイ層13の摺動面14における突出谷部空間体積VvvはVv1と定義し、同じく摺動面14における突出谷部深さSvkはSv1と定義する。Vv1及びSv1をはじめとする摺動面14における3次元の形状は、3次元光学プロファイラーシステムを用いて測定している。本実施形態の場合、オーバレイ層13の摺動面14におけるVv1は、0.015≦Vv1≦0.200である。特に、オーバレイ層13の摺動面14におけるVv1は、0.020≦Vv1≦0.160の範囲にあることが好ましい。
【0013】
このように、オーバレイ層13の摺動面14における3次元の特性を設定することにより、摺動面14にはより細かな凹凸が形成される。そのため、摺動面14における谷部つまり凹部の体積は増大する。そして、潤滑油は、この凹部により多く保持される。これにより、内燃機関の停止と始動とが頻繁に繰り返されるような潤滑油が不足しやすい環境下でも、相手部材との摺動部分には潤滑油が供給され、内燃機関の始動時に摺動部材10と相手部材との間には油膜が形成される。一方、Sv1が過大になると、凹部の体積も過大となる。そのため、Sv1が過大となると、凹部には温度が上昇した潤滑油が滞留しやすく、耐焼付性の低下を招く。そこで、本実施形態のように、Vv1は特定の範囲に設定する。
【0014】
また、本実施形態の場合、オーバレイ層13は、Sv1とVv1との間に、
Sv1=10×Vv1-0.1(±0.3) 式(1)
の関係が成立することが好ましい。すなわち、Sv1とVv1とは、
図3に示すように2本の1次関数の直線に挟まれた領域が定義され、この範囲にSv1及びVv1が含まれる。そして、Vv1は、上述の0.015≦Vv1≦0.200、好ましくは
図3の網掛けで示すように0.020≦Vv1≦0.160であることが好ましい。当然ながら、Sv1は、Sv1>0である。
【0015】
本実施形態では、Vv1及びSv1に加え、摺動面14における突出山部体積Vm1(μm3/μm2)、突出山部高さSpk(μm)、及び展開界面面積率Sdr(-)をそれぞれ測定している。以下、本実施形態のオーバレイ層13の摺動面14における突出山部実体体積VmpはVm1と定義し、同じく摺動面14における突出山部高さSpkはSp1と定義し、同じく摺動面14における展開界面面積率SdrはSd1と定義する。これらのようにVm1を測定するとき、Vm1は、0.010≦Vm1≦0.080であることが好ましい。同様に、Sp1は、0.100≦Sp1≦1.500であることが好ましく、Sd1は、0.000≦Sd1≦0.100であることが好ましい。Vm1、Sp1及びSd1をこれらの範囲に設定することにより、摺動部材10は耐焼付性が向上する。
【0016】
上記の他、本実施形態では、軸受合金層12の端面15における突出谷部空間体積Vvv及び突出谷部深さSvkをそれぞれ測定している。以下、本実施形態の軸受合金層12の端面15における突出谷部空間体積VvvはVv2と定義し、突出谷部深さSvkはSv2と定義する。本実施形態の場合、Vv2及びSv2は、それぞれ0.010≦Vv2≦0.100であり、0.100≦Sv2≦1.000である。特に、Vv2及びSv2は、0.020≦Vv2≦0.059であり、0.150≦Sv2≦0.480であることが好ましい。
【0017】
次に、上記の構成による摺動部材10の製造方法について説明する。
図4に示すように裏金層11の一方の面側に軸受合金層12が形成されたバイメタル20は、例えば半円筒形状や板状などに形成される。バイメタル20は、半円筒形状や板状に限らず、円筒形状または円筒を周方向へ複数に分割した形状であってもよい。
【0018】
バイメタル20は、軸受合金層12の端面15に処理が施される。バイメタルは、例えばショットピーニングやエッチングで端面15のVv2及びSv2が制御される。端面15をショットピーニングで処理する場合、例えば鋼、ステンレス、亜鉛やアルミニウムなどの金属、アルミナ、炭化ケイ素やジルコニアなどのセラミックス、ガラス、又は樹脂などがショット材として用いられる。また、端面15をピーニングで処理する場合、レーザやキャビテーションが用いられる。
【0019】
バイメタル20の軸受合金層12の端面15に処理が施されると、
図4に示すようにオーバレイ層13が形成される。オーバレイ層13の形成では、図示しない治具に保持されたバイメタル20の移動速度が制御される。移動速度の制御は、例えば図示しない治具に保持されたバイメタル20を回転駆動する場合、回転速度の制御によって実施される。また、例えば
図4に示すようにスプレーコーティングを用いてオーバレイ層13を形成する場合、摺動面14の形状つまりVv1やSv1などは、オーバレイ層13を形成する樹脂を噴射するノズル21の孔径、噴射圧力、樹脂と溶媒との混合割合、樹脂若しくはバイメタル20の予熱温度、治具の回転速度、又は樹脂の乾燥にかける時間などを複合的に調整することにより制御される。これら、ノズル21の孔径、噴射圧力、溶媒に対する樹脂の混合割合、予熱温度、回転速度及び乾燥時間とVv1との関係の概略的な傾向は、
図5に示す通りである。
以上の手順によって、バイメタル20にオーバレイ層13が形成され、摺動部材10が作成される。
【0020】
以下、本実施形態による摺動部材10の実施例を比較例と対比しながら説明する。
各実施例及び比較例は、
図6に示す条件を用いて耐焼付性の評価として焼き付かない最大面圧(MPa)を測定した。実施例及び比較例に用いた摺動部材10の試料は、内径56mm、軸方向の全長が15mm、及び厚さが1.5mmの筒状とした。試料は、相手部材との相対的な回転速度である周速を20m/sと設定して相手部材と摺動させた。このとき、試料と相手部材との間に加わる荷重は、5MPa/10minと設定した。潤滑油は、VG22を100ml/minで供給した。
【0021】
(オーバレイ層のVv1の耐焼付性に対する評価)
図7は、オーバレイ層13の摺動面14における突出谷部空間体積であるVv1が摺動部材10の耐焼付性に与える影響の評価を示している。実施例1から実施例5は、いずれもVv1が0.015≦Vv1≦0.200である。これに対し、比較例1は、Vv1が0.229と上記の上限を上回っている。また、比較例2は、Vv1が0.010と上記の下限を下回っている。このように、Vv1を適切に設定した実施例1から実施例5は、耐焼付性の評価を示す焼き付かない最大面圧が比較例1及び比較例2よりも向上する。特に、Vv1が0.020≦Vv1≦0.160である実施例2、実施例3及び実施例4は、この範囲外である実施例1及び実施例5と比較して、耐焼付性がより向上する。
【0022】
これら実施例1から実施例5は、オーバレイ層13を形成するとき、ノズル21の孔径、噴射圧力及び乾燥時間を調整することにより、オーバレイ層13のVv1を所定の範囲に制御した。特に、オーバレイ層13のVv1は、オーバレイ層13を形成する樹脂の乾燥時間によって制御される。
【0023】
(オーバレイ層のSv1の耐焼付性に対する評価)
図8は、オーバレイ層13の摺動面14における突出谷部深さであるSv1が耐焼付性に与える影響の評価を示している。実施例6から実施例9は、いずれもSv1がVv1に対して、式(1)であるSv1=10×Vv1-0.1(±0.3)の関係を満たしている。これら実施例6から実施例9は、Vv1が0.020≦Vv1≦0.160の範囲にある実施例10から実施例13と比較して、耐焼付性がより向上している。このことから、Sv1とVv1との間に式(1)の関係が成立するとき、耐焼付性がより向上することがわかる。
【0024】
(軸受合金層のVv2、Sv2の耐焼付性に対する評価)
図9は、軸受合金層12の端面15における突出谷部空間体積であるVv2、及び突出谷部深さであるSv2が耐焼付性に与える影響の評価を示している。実施例14から実施例16は、軸受合金層12の端面15の形状的な特性と耐焼付性との関係を示している。これら実施例14から実施例16によると、軸受合金層12の端面15におけるVv2及びSv2は、オーバレイ層13を形成した摺動部材10の耐焼付性に与える影響が小さいことがわかる。
【0025】
(軸受合金層のVv2、Sv2の耐疲労性に対する評価)
図10は、軸受合金層12の端面15における突出谷部空間体積であるVv2、及び突出谷部深さであるSv2が摺動部材10の耐疲労性に与える影響の評価を示している。上述の
図9で説明したように、軸受合金層12のVv2及びSv2が摺動部材10の耐焼付性に与える影響は小さい。これに対し、軸受合金層12のVv2及びSv2を適切に調整することにより、
図10に示すように摺動部材10の耐疲労性は向上する。軸受合金層12の端面15におけるVv2及びSv2は、端面15を処理する際のショットの粒径やショットの圧力によって制御される。耐疲労性の試験は、
図11に示す条件で行なった。
【0026】
図10に示す実施例17から実施例29では、軸受合金層12は、裏金層11と反対側の端面15にオーバレイ層13が形成されている。オーバレイ層13は、厚さを3μmに設定した。ここで、オーバレイ層13のVv1及びSv1は、上述のように耐焼付性の向上を達成するために、それぞれ0.020≦Vv1≦0.160、0.100≦Sv1≦1.800に設定した。
【0027】
実施例17から実施例29における耐疲労性の評価では、
図11に示す条件において、疲労しない最大面圧(MPa)を測定した。実施例に用いた摺動部材10の試料は、内径56mm、軸方向の全長が15mm、及び厚さが1.5mmの筒状とした。試料は、相手部材の回転数を3000rpmと設定して相手部材と摺動させた。潤滑油は、温度が160℃のVG22を用いた。そして、摺動部材10の背面側、つまり裏金層11の外壁において温度が上昇した位置を疲労が発生した位置として判断した。具体的には、0.1sの間に、温度が1℃以上、上昇すると、疲労が発生したと判断した。つまり、摺動部材10に疲労にともなうクラックが発生すると、摺動部材10と相手部材とは局部的な固体接触を生じる。そのため、疲労にともなうクラックが発生した位置には、局部的な温度の上昇が見られる。そこで、摺動部材10の背面側において温度を計測し、局部的な温度の上昇が生じると、疲労にともなうクラックが発生したと判断した。
【0028】
実施例17から実施例29によると、0.010≦Vv2≦0.100であり、かつ0.100≦Sv2≦1.000である実施例17から実施例19、及び実施例22から実施例28は、疲労しない最大面圧が他の実施例と比較して向上している。特に、実施例22から実施例25は、0.020≦Vv2≦0.059であり、かつ0.150≦Sv2≦0.480であることにより、疲労しない最大面圧がさらに向上している。これに対し、Vv2又はSv2の範囲を、いずれか一方しか満たさない実施例20は、実施例17から実施例19、及び実施例22から実施例28に比較して疲労しない最大面圧がやや低下している。また、Vv2及びSv2の範囲を、いずれも満たさない実施例21及び実施例29は、この実施例20に比較して疲労しない最大面圧が低下している。これらのことから、軸受合金層12の端面15におけるVv2及びSv2を適切な範囲に制御することにより、疲労しない最大面圧の向上が図られる。
【0029】
疲労にともなうクラックは、軸受合金層12の端面15における微細な凹凸の凹部を起点として、板厚方向つまり径方向の外側へ進展しやすいことが考えられる。そのため、軸受合金層12のVv2及びSv2は、その範囲を制御することにより、軸受合金層12の端面15の形状にクラックの起点となる凹部が形成されにくくなる。その結果、
図10の各実施例に示すように、耐疲労性が向上すると考えられる。
【0030】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
図面中、10は摺動部材、11は裏金層、12は軸受合金層、13はオーバレイ層、14は摺動面、15は端面を示す。