(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】セルロース-樹脂複合組成物及びその製造方法、セルロース分散樹脂組成物、並びにセルロース分散樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20240709BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240709BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240709BHJP
C08J 3/07 20060101ALI20240709BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L23/00
C08J5/04 CES
C08J3/07 CEP
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020200884
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141323(JP,A)
【文献】特開2019-044070(JP,A)
【文献】特開2018-048218(JP,A)
【文献】特開2019-131774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08J
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維の水分散液と、カルボキシ基を有する熱可塑性樹脂Aをアルカリで中和した中和物の水分散液を混合して、混合分散液を得る工程と、
前記混合分散液に酸を添加して前記熱可塑性樹脂Aを析出させ、前記セルロース繊維及び前記熱可塑性樹脂Aを含有する含水ペーストを得る工程と、
前記含水ペーストをマイクロウェーブで加熱して水の一部を除去し、水分含有量20~
50質量%のセルロース-樹脂複合組成物を得る工程と、を有し、
前記熱可塑性樹脂Aが、酸価10~120mgKOH/gのポリオレフィンであるセルロース-樹脂複合組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混合分散液中の前記セルロース繊維の含有量が、前記セルロース繊維と前記熱可塑性樹脂Aの合計含有量を基準として、10~70質量%である請求項1に記載のセルロース-樹脂複合組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法によって製造されるセルロース-樹脂複合組成物。
【請求項4】
ベース樹脂としての熱可塑性樹脂Bと、請求項3に記載のセルロース-樹脂複合組成物と、を含有するセルロース分散樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のセルロース分散樹脂組成物からなるセルロース分散樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース-樹脂複合組成物及びその製造方法、セルロース分散樹脂組成物、並びにセルロース分散樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースはすべての植物の基本骨格物質であり、一兆トンを超える量のセルロースが地球上に蓄積されている。また、セルロースは植樹によって再生可能な資源であることから、有効活用が望まれている。近年、セルロースを解繊処理して得られる、その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロースナノファイバー(CNF、ミクロフィブリル化植物繊維)(以下、単に「セルロース繊維」とも記す)が軽量かつ高強度な材料として注目されており、それを用いた材料が数多く開発されている。例えば、樹脂等のマトリックス中にセルロース繊維をフィラーとして分散状態で含有させることで、機械的強度を向上させたセルロース繊維補強材料が提案されている。
【0003】
セルロース繊維は、その分子構造中に多くの水酸基を有するので、親水性であるとともに極性が高い。このため、セルロース繊維は、疎水性であるとともに極性が低い汎用性樹脂との相溶性に劣る。したがって、汎用性樹脂中にセルロース繊維を分散させようとしても、分散状態を良好にすることが困難であるといった側面がある。また、セルロース繊維を十分に乾燥させると、ナノサイズにまで微細化したとしても強い凝集力が生じて凝集物を形成するので、元のナノサイズに戻して樹脂中に分散させることは困難である。
【0004】
そこで、汎用性樹脂との相溶性を向上させるべく、化学処理によるセルロース繊維の表面改質や官能基導入等が検討されている。例えば、アセチル基やアルキルコハク酸エステル基等の官能基で分子構造中の水酸基を化学修飾したセルロース繊維の集合体にマトリックス材料を含浸させた繊維強化複合材料が提案されている(特許文献1)。また、化学変性処理することなく、高分子分散剤を用いてポリエチレン等の樹脂中への分散性を高めたセルロース組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-51266号公報
【文献】特許第5825653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、セルロース繊維を化学変性処理する場合、反応工程を経由することになるので、工程が煩雑であるとともにコスト面で不利になる。また、化学変性処理した場合であっても、ポリオレフィン等の疎水性の樹脂中への分散性を十分に高めることは困難であった。さらに、セルロース繊維同士は強固に水素結合するため、高分子分散剤で処理した場合であっても、一度乾燥してしまうと著しく凝集しやすく、樹脂中に分散させるのに多大なエネルギーや時間を要する場合があった。また、混合や混練時の熱によってセルロース繊維に吸着した高分子分散剤が脱離してしまうことがある。高分子分散剤が脱離してしまうと、セルロース繊維は再度強く凝集するので、マトリックスとなる樹脂の全体に均一に拡散した状態で分散させることは困難になってしまい、十分に強化された複合材料を得ることは必ずしも容易ではなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維を疎水性媒体であるポリオレフィン等の熱可塑性樹脂中に効果的に分散させることが可能なセルロース-樹脂複合組成物、及びその簡便な製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記セルロース-樹脂複合組成物を用いたセルロース分散樹脂組成物、及びセルロース分散樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示すセルロース-樹脂複合組成物の製造方法が提供される。
[1]その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維の水分散液と、カルボキシ基を有する熱可塑性樹脂Aをアルカリで中和した中和物の水分散液を混合して、混合分散液を得る工程と、前記混合分散液に酸を添加して前記熱可塑性樹脂Aを析出させ、前記セルロース繊維及び前記熱可塑性樹脂Aを含有する含水ペーストを得る工程と、前記含水ペーストをマイクロウェーブで加熱して水の一部を除去し、水分含有量20~80質量%のセルロース-樹脂複合組成物を得る工程と、を有し、前記熱可塑性樹脂Aが、酸価10~120mgKOH/gのポリオレフィンであるセルロース-樹脂複合組成物の製造方法。
[2]前記混合分散液中の前記セルロース繊維の含有量が、前記セルロース繊維と前記熱可塑性樹脂Aの合計含有量を基準として、10~70質量%である前記[1]に記載のセルロース-樹脂複合組成物の製造方法。
【0009】
さらに、本発明によれば、以下に示すセルロース-樹脂複合組成物が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載の製造方法によって製造されるセルロース-樹脂複合組成物。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示すセルロース分散樹脂組成物及びセルロース分散樹脂成形品が提供される。
[4]ベース樹脂としての熱可塑性樹脂Bと、前記[3]に記載のセルロース-樹脂複合組成物と、を含有するセルロース分散樹脂組成物。
[5]前記[4]に記載のセルロース分散樹脂組成物からなるセルロース分散樹脂成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維を疎水性媒体であるポリオレフィン等の熱可塑性樹脂中に効果的に分散させることが可能なセルロース-樹脂複合組成物、及びその簡便な製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記セルロース-樹脂複合組成物を用いたセルロース分散樹脂組成物、及びセルロース分散樹脂成形品を提供することができる。
【0012】
上記のセルロース-樹脂複合組成物を用いれば、サブミクロンオーダー、より好適にはナノサイズに繊維化されたナノセルロース等のセルロース繊維が、ポリオレフィン等の疎水性の熱可塑性樹脂中に良好な状態で分散した状態で含有される、成形原料として有用なセルロース分散樹脂組成物、及びセルロース分散樹脂成形品を提供することができる。そして、このセルロース分散樹脂成形品は、フィラーとして機能するセルロース繊維の補強効果が有効に発揮されており、強度及び靭性等の諸特性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<セルロース-樹脂複合組成物>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明のセルロース-樹脂複合組成物(以下、単に「複合組成物」とも記す)の一実施形態は、後述するセルロース-樹脂複合組成物の製造方法(以下、単に「複合組成物の製造方法」とも記す)によって製造されるものであり、より具体的には、その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維、カルボキシ基を有する熱可塑性樹脂A、及び水を含有する。熱可塑性樹脂Aは、その酸価が10~120mgKOH/gのポリオレフィンである。そして、複合組成物の水分含有量は、複合組成物の全体を基準として、20~80質量%である。本実施形態の複合組成物を用いれば、凝集しやすいセルロース繊維を疎水性媒体であるポリオレフィン等の熱可塑性樹脂中に効果的に分散させることができる。すなわち、本実施形態の複合組成物は、ベース樹脂である熱可塑性樹脂中にセルロース繊維をより均一に分散させることが可能な、いわゆるマスターバッチとして使用しうる組成物である。
【0014】
(セルロース繊維)
セルロース繊維の繊維径は、サブミクロンオーダーである。すなわち、セルロース繊維の繊維径は、通常、数nm以上1mm未満であり、好ましくは4~200nmである。その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維を用いることで、セルロース繊維の高度な強度及び補強効果を発揮させることができる。セルロース繊維の繊維長は、短くてもよく、長くてもよい。
【0015】
セルロース繊維は、木材パルプ等の繊維をナノサイズレベルにまで解繊処理したものである。植物の細胞壁中には、幅4nm程度のセルロースミクロフィブリル(シングルセルロースナノファイバー)が最小単位として存在する。セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリルそのもの、又は複数のセルロースミクロフィブリルが凝集して形成されるナノサイズの凝集物である。
【0016】
セルロース繊維の繊維径は、4~200nmであることが好ましく、8~150nmであることがさらに好ましく、10~100nmであることが特に好ましい。また、セルロース繊維の繊維長は、例えば約5nm以上である。セルロース繊維の比表面積は、70~300m2/gであることが好ましく、70~250m2/gであることがさらに好ましく、100~200m2/gであることが特に好ましい。比表面積が大きいセルロース繊維を用いることで、熱可塑性樹脂と組み合わせた場合に接触面積が大きくなるので、強度を向上させることができる。
【0017】
本明細書における「セルロース繊維の繊維径」とは、「セルロース繊維の数平均繊維径」を意味する。セルロース繊維の数平均繊維径は、走査型電子顕微鏡を使用し、任意の視野内のセルロース繊維20本について繊維径の長径を観察した結果から算出することができる。
【0018】
セルロース繊維の原料となる木材やパルプ(植物繊維)としては、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、及び布等の天然植物原料から得られる天然セルロース;紙、レーヨン、セロファン等の再生セルロース繊維等を挙げることができる。木材としては、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等を挙げることができる。紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等を挙げることができる。パルプの主成分であるリグノセルロースは、主としてセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成されるとともに、各々が結合して植物繊維を形成している。リグノセルロースを含む植物繊維を機械処理や化学処理してヘミセルロース及びリグニンを除去し、セルロースの純分を高めることでパルプを得ることができる。また、必要に応じて漂白処理したり、脱リグニン量を調整したりすることで、得られるパルプのリグニン量を制御することができる。
【0019】
パルプとしては、植物繊維を機械処理又は化学処理して得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TWP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP);これらのパルプを主成分とする脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプなどを挙げることができる。なかでも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))が好ましい。パルプ中のリグニン含有量は、通常、0~40質量%、好ましくは0~10質量%である。パルプ中のリグニン含有量は、KLASON法により測定することができる。
【0020】
セルロース繊維は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。ナノ化させるための工程(解繊工程)では、パルプを解繊してナノ化された含水状態のセルロース繊維(含水セルロース)を得ることが好ましい。例えば、セルロース含有材料の水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸混錬機、二軸混錬機、多軸混練機、ビーズミル等を使用して機械的に摩砕又は叩解する方法などがある。なかでも、水系媒体中でパルプを解繊することで、ナノサイズのセルロース繊維を容易に得ることができる。
【0021】
水系媒体中でパルプを解繊して得たナノサイズのセルロース繊維は、水分子と水素結合することで安定化している。しかし、乾燥して水分を除去したり、有機溶媒を添加したりすると、セルロースの水酸基同士が水素結合してセルロース繊維が凝集しやすくなり、ナノサイズを維持することが困難になる。これに対して、本実施形態の複合組成物では、セルロース繊維を熱可塑性樹脂Aと複合化するとともに、さらに水を含有させることで、セルロース繊維同士の凝集を抑制している。また、後述するように、セルロース繊維と熱可塑性樹脂Aを含有する含水ペーストをマイクロウェーブで加熱することで、含水ペーストの表面からだけではなく、含水ペーストの内部からも水分を均一に除去して高濃度化する。このため、乾燥ムラが生じたり、乾燥しすぎたりすることがなく、セルロース繊維が部分的に凝集するなどの不具合が生じにくい。
【0022】
(熱可塑性樹脂A)
熱可塑性樹脂Aは、カルボキシ基を有する、その酸価が10~120mgKOH/gのポリオレフィンである。ポリオレフィンとしては、従来公知のものを用いることができる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ1-ペンテン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)、ポリ1-ヘキセン、ポリ(3-メチル-1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリ(1-ヘプテン)、ポリ(4-メチル-1-ヘキセン)、ポリ(5-メチル-1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(5-メチル-1-ヘプテン)等の単独ポリマー;これらのポリマーを構成するモノマーに由来する構成単位を2種以上含む共重合ポリマー、グラフトコポリマー、及びブロックコポリマー等;を挙げることができる。これらのポリオレフィンの構造は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。ポリオレフィンの融点は、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。ポリオレフィンの融点が低すぎると、マイクロウェーブで加熱した際に熱溶融して塊になりやすい。
【0023】
熱可塑性樹脂Aの酸価は10~120mgKOH/gであり、15~60mgKOH/gであることが好ましく、15~40mgKOH/gであることがさらに好ましい。酸価が10mgKOH/g未満であると、水に分散させることができない場合がある。一方、酸価が120mgKOH/g超であると、ベース樹脂と混合して得られる樹脂組成物や成形品の物性や耐水性が低下する。熱可塑性樹脂Aの酸価は、以下の手順にしたがって測定することができる。まず、測定対象となる熱可塑性樹脂Aをキシレンやオクタン等の可溶性溶媒に熱溶解して測定用試料を調製する。次いで、フェノールフタレイン溶液を指示薬とし、0.1mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定することで測定することができる。
【0024】
スチレンカルボン酸、アクリル酸、マレイン酸無水物、及びメタクリル酸等のカルボキシ基を有するモノマーを共重合させたり、これらのモノマーのエステル化物を共重合させた後、加水分解したりすること等によって、カルボキシ基を有する熱可塑性樹脂Aを得ることができる。また、ポリオレフィンをオゾン酸化処理、プラズマ処理、又は放射線処理したり、ポリオレフィンに過酸化物等を反応させたりして、カルボキシル基を導入してもよい。さらには、アクリル酸、無水マレイン酸、及びマレイン酸等のカルボキシ基を有するモノマーをポリオレフィンの側鎖に導入してグラフト化してもよい。
【0025】
(複合組成物)
複合組成物中のセルロース繊維の含有量は、セルロース繊維と熱可塑性樹脂Aの含有量の合計を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがさらに好ましく、30~50質量%であることが特に好ましい。セルロース繊維の含有量を上記の範囲とすることで、ベース樹脂として用いる熱可塑性樹脂B中にセルロース繊維をより良好な状態で分散分散させることができる。セルロース繊維の含有量が少なすぎると、得られる樹脂組成物や樹脂成形品中のセルロース繊維の含有量が少なくなりすぎることがある。さらに、熱可塑性樹脂Aの含有量が相対的に多くなるので、得られる樹脂組成物や樹脂成形品に熱可塑性樹脂Aの性質が表れやすくなり、ベース樹脂として用いる熱可塑性樹脂Bの物性が損なわれることがある。一方、セルロース繊維の含有量が多すぎると、セルロース繊維が凝集しやすくなることがある。
【0026】
本実施形態の複合組成物は、所定量の水を含有する含水物である。複合組成物の水分含有量は20~80質量%であり、好ましくは30~50質量%である。水分含有量が20質量%未満であると、セルロース繊維が凝集しやすくなり、分散性が低下する。一方、水分含有量が80質量%超であると、ベース樹脂である熱可塑性樹脂Bと混合及び混錬する際に水分を除去することが困難になる。また、ベース樹脂である熱可塑性樹脂Bに練り込む複合組成物の仕込み量が多くなるので、作業性が低下する。
【0027】
本実施形態の複合組成物は、後述するセルロース-樹脂複合組成物の製造方法によって製造されるものであり、セルロース繊維及び熱可塑性樹脂Aを含有する含水物である。この複合組成物は、セルロース繊維及び熱可塑性樹脂Aを含有する含水ペーストをマイクロウェーブで加熱し、水の一部を除去することで得ることができる。一方、後述するように、マイクロウェーブを用いる方法以外の方法で含水ペーストから水の一部を除去しても、目的とする本実施形態の複合組成物を得ることは実質的に困難である。すなわち、特定の効果を奏する本実施形態の複合組成物の構成を、セルロース繊維の分散状態等の構造や物性等で特定することは実質的に不可能である。
【0028】
複合組成物は、セルロース繊維、熱可塑性樹脂A、及び水以外の成分(その他の成分)をさらに含有してもよい。但し、本実施形態の複合組成物は、後述するように水系媒体中で製造するので、その他の成分は水溶性であることが好ましい。さらに、本実施形態の複合組成物は、後述するように水系媒体中で酸を添加し、熱可塑性樹脂を析出させて製造するので、その他の成分は水系媒体中において酸で析出しうる成分であることが好ましい。その他の成分としては、例えば、酸性基を有する紫外線吸収剤や、酸性基を有するポリマー型の顔料分散剤などを挙げることができる。
【0029】
<セルロース-樹脂複合組成物の製造方法>
本発明のセルロース-樹脂複合組成物の製造方法(以下、単に「複合組成物の製造方法」とも記す)の一実施形態は、セルロース繊維及びカルボキシ基を有する熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液である混合分散液を得る工程(混合分散液調製工程)と、セルロース繊維及び熱可塑性樹脂Aを含有する含水ペーストを得る工程(含水ペースト調製工程)と、含水ペーストをマイクロウェーブで加熱して複合組成物を得る工程(複合組成物調製工程)と、を有する。そして、その酸価が10~100mgKOH/gのポリオレフィンを熱可塑性樹脂Aとして用いる。
【0030】
(混合分散液調製工程)
混合分散液調製工程では、セルロース繊維の水分散液と、熱可塑性樹脂Aをアルカリで中和した中和物の水分散液とを混合する。これにより、セルロース繊維及び熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液である混合分散液を得ることができる。その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維(ナノ化されたセルロース繊維)の水分散液は、白色若しくはほぼ透明のゼリー状又はペースト状の水分散体であり、流動性をほとんど示さない。セルロース繊維の水分散液中のセルロース繊維の含有量は、0.1~20質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液は、カルボキシ基を有する熱可塑性樹脂Aをアルカリで中和して調製することができる。この水分散液中における、動的光散乱法により測定される熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の数平均粒子径は、10~300nmであることが好ましく、50~150nmであることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液中のアルカリ中和物の含有量は、1~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂Aを中和するアルカリとしては、アンモニア;トリエチルアミン等の有機アミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;等を用いることができる。熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液を調製する際に脱溶剤する場合がある。この場合、アンモニアや有機アミンを用いると、脱溶剤中に揮発して熱可塑性樹脂Aが析出しやすくなることがある。このため、熱可塑性樹脂Aを中和するアルカリとしてはアルカリ金属の水酸化物を用いることが好ましい。
【0033】
熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液は、例えば、溶融した熱可塑性樹脂Aをアルカリで中和した後、徐々に水を添加する方法;有機溶媒に溶解した熱可塑性樹脂Aとアルカリ水を混合した後、必要に応じて有機溶媒を留去する方法;等によって調製することができる。有機溶媒としては、水溶性有機溶媒及び水不溶性(水難溶性)有機溶媒のいずれも用いることができる。
【0034】
水溶性有機溶媒を用いる場合、水溶性有機溶媒を留去しなくてもよい。一方、水不溶性有機溶媒を用いる場合、水溶性有機溶媒を留去することが好ましい。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、メチルピロリドン、エチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類;等を挙げることができる。
【0035】
水不溶有機溶媒としては、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、及びエステル系溶媒等を挙げることができる。熱可塑性樹脂Aはポリオレフィンであることから、ポリオレフィンを溶解しうる水不溶性有機溶媒を用いることが好ましい。なかでも、炭化水素系溶媒を用いることが好ましく、トルエン、キシレン、オクタン、及びドデカン等を用いることがさらに好ましい。
【0036】
混合分散液中のセルロース繊維の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましい。ナノ化されたセルロース繊維は表面積が大きく、水との親和性が高い。このため、セルロース繊維の含有量が3質量%超であると、混合分散液の流動性が不足しやすいとともに、セルロース繊維が十分に解れていない状態になりやすいので、析出させた熱可塑性樹脂Aによってセルロース繊維を包み込むことがやや困難になることがある。なお、粘度を調整するため、又はセルロース繊維の水への親和性を高めたりするために、必要に応じて前述の水溶性有機溶媒を混合分散液に添加してもよい。
【0037】
セルロース繊維の水分散液は、中性~アルカリ性であることが好ましい。セルロース繊維の水分散液が酸性であると、熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液と混合した際に、脱イオン化して熱可塑性樹脂Aが析出してしまう場合がある。
【0038】
混合分散液中のセルロース繊維の含有量は、セルロース繊維と熱可塑性樹脂Aの合計含有量を基準として、10~70質量%とすることが好ましく、20~60質量%とすることがさらに好ましく、30~50質量%とすることが特に好ましい。すなわち、混合分散液中のセルロース繊維の含有量が上記の範囲内となるように、セルロース繊維の水分散液と、熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液とを混合することが好ましい。セルロース繊維の水分散液と、熱可塑性樹脂Aのアルカリ中和物の水分散液とを混合した後、必要に応じてよく撹拌して均一化する。撹拌にするには、従来公知の撹拌装置や分散機を使用することができる。撹拌装置や分散機としては、スターラー、モーター付き撹拌機、高速ディゾルバー、ホモミキサー等を挙げることができる。また、ビーズミルや高圧ホモジナイザー等の分散機を使用して再度分散及び混合してもよい。
【0039】
(含水ペースト調製工程)
含水ペースト調製工程では、混合分散液に酸を添加する。酸を添加することで、分散したセルロース繊維を包み込むように、熱可塑性樹脂Aが水不溶化して析出し、セルロース繊維及び熱可塑性樹脂Aを含有する含水ペーストを得ることができる。酸としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸;を用いることができる。酸を原液のまま添加してもよいが、10質量%以下程度の酸の水溶液を添加することが好ましい。添加する酸の濃度が高いと、熱可塑性樹脂Aが局部的に析出しやすくなるので、得られる含水ペーストが団子状になることがある。添加する酸の量は、添加後の混合水溶液のpHが4以下となる量であることが好ましく、pHが3以下となる量であることがさらに好ましい。
【0040】
酸を添加して熱可塑性樹脂Aを析出させた後は、従来公知の方法にしたがってろ過及び洗浄することで、目的とする複合組成物の前駆体である含水ペーストを得ることができる。なお、ろ過する前に、酸を添加後の混合分散液を加熱することが好ましい。酸を添加後の混合分散液を加熱することで析出物が凝集するので、ろ過しやすくなる。
【0041】
(複合組成物調製工程)
複合組成物調製工程では、含水ペーストをマイクロウェーブで加熱して水の一部を除去し、水分含有量20~80質量%の複合組成物を得る。マイクロウェーブを使用することで、含水ペーストの内部に浸透したマイクロ波によって水分子の熱運動を促進させることができるので、含水ペーストの全体を均一に加熱して脱水することができる。これに対して、熱乾燥、送風乾燥、真空乾燥、及び凍結乾燥等の乾燥方法によると、含水ペーストの表面のみが乾燥して内部が乾燥しなかったり、乾燥ムラが生じたりする。含水ペーストの表面のみが乾燥してしまうと、表面のセルロース繊維が固く凝集してしまうので、ベース樹脂である熱可塑性樹脂Bと混合した場合にセルロース繊維を十分に分散させることができずに「ブツ」等が生じやすくなる。
【0042】
マイクロウェーブの周波数は1,000~3,000MHzとすることが好ましい。マイクロウェーブの出力は、通常、100~1,000Wである。マイクロウェーブの出力が高すぎると、得られる複合組成物の水分含有量を所定の範囲内に調整するのが困難になる場合がある。このため、マイクロウェーブの出力は、300~600Wとすることが好ましい。マイクロウェーブの照射方式は、バッチ式及びベルトコンベアー式等のいずれの方式であってもよい。バッチ式のマイクロウェーブ照射装置としては、家庭用の電子レンジ、業務用オーブン電子レンジ等を挙げることができる。また、工業的又は産業的に使用可能な市販のマイクロウェーブ照射装置を使用することもできる。マイクロウェーブの照射時間等の条件は、含水ペーストの量、水分含有量、及び照射するマイクロウェーブの出力等を考慮しながら、得られる複合組成物の水分含有量が所定の範囲内となるように適宜調整すればよい。
【0043】
<セルロース分散樹脂組成物>
本発明のセルロース分散樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも記す)の一実施形態は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂Bと、前述の複合組成物とを含有する。
本実施形態の樹脂組成物は、前述の複合組成物を用いて製造されるものであるため、その繊維径がサブミクロンオーダーのセルロース繊維が、疎水性媒体であるポリオレフィン等の熱可塑性樹脂B中に効果的に分散されている。
【0044】
熱可塑性樹脂Bとしては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アクリル樹脂等を挙げることができる。なお、複合組成物を構成する熱可塑性樹脂Aはポリオレフィンであることから、熱可塑性樹脂Bとしては、ポリオレフィンと相溶しうる樹脂を用いることが好ましい。なかでも、熱可塑性樹脂Aと同じ組成のポリオレフィンを熱可塑性樹脂Bとして用いることが好ましい。
【0045】
樹脂組成物中のセルロース繊維の含有量は、1~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがさらに好ましい。セルロース繊維の含有量が1質量%未満であると、セルロース繊維のフィラーとしての効果が発揮されない場合がある。一方、セルロース繊維の含有量が20質量%超であると、セルロース繊維の量が多すぎるので、ベース樹脂である熱可塑性樹脂Bの物性が損なわれやすくなる場合がある。
【0046】
樹脂組成物は、水をほとんど含有しないことが好ましい。水が含まれていると、樹脂組成物としての物性が損なわれやすくなる場合がある。具体的には、樹脂組成物の水分含有量は1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
ベース樹脂としての熱可塑性樹脂Bと、含水状態の複合組成物とを混合し、必要に応じて加熱することで、セルロース繊維が良好な状態で分散した樹脂組成物を得ることができる。熱可塑性樹脂Bと複合組成物とは、例えば、加熱条件下で混合して水を除去しつつ混錬する。混練には、押出機、ニーダーミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を使用することができる。処理温度及び圧力は、使用する熱可塑性樹脂Bの熱的性質等を考慮して適宜調整すればよい。具体的には、高温条件下で混錬すればよく、100~300℃で混合及び混錬することが好ましい。開放系で熱可塑性樹脂Bと複合組成物を混合及び混錬する場合には、ダクトで吸引して水分を除去すればよい。また、押出機等を用いる閉鎖系で熱可塑性樹脂Bと複合組成物を混合及び混錬する場合には、ベントから水分を除去すればよい。所定の条件下で熱可塑性樹脂Bと複合組成物を混合及び混錬することで、ペレット状やフレーク状に造粒された樹脂組成物を得ることができる。
【0048】
樹脂組成物には、種々の添加剤をさらに含有させることができる。添加剤としては、染料、顔料、安定剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、充填剤、着色剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0049】
<セルロース分散樹脂成形品>
本発明のセルロース分散樹脂成形品(以下、単に「樹脂成形品」とも記す)の一実施形態は、上述の樹脂組成物によって形成されたものである。本実施形態の樹脂成形品は、前述の樹脂組成物を公知の成形方法で成形することで得ることができる。成形方法としては、射出成形法、押出成形法、プレス成形法等を挙げることができる。さらに、発泡成形法、2色成形法、インサート成形法、アウトサート成形法、インモールド成形法等の公知の複合成形技術を適用することもできる。成形品としては、射出成形品、シート、未延伸フィルム、延伸フィルム、丸棒、異形押出品などの押出成形品、繊維、フィラメント等を挙げることができる。
【0050】
本実施形態の樹脂成形品は、前述の複合組成物を用いて調製された樹脂組成物を成形して得られる成形品であることから、ベース樹脂である樹脂組成物B中にフィラーとして機能するセルロース繊維が良好な状態で分散されている。このため、本実施形態の樹脂成形品は、フィラーであるセルロース樹脂の特性が十分に発揮されており、軽量で機械的強度に優れている等の特性を示す。したがって、本実施形態の樹脂成形品は、例えば、自動車、家電、電子部材、ディスプレー材料、建築物、容器、フィルム、電池等の様々な分野に用いられる部材等として有用である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0052】
<複合組成物の製造>
(実施例1)
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)(リファイナー処理済み、固形分:25%)1200部に水38,800部を添加し、パルプスラリー濃度0.75%の水懸濁液(スラリー)を調製した。グラインダーを使用して得られたスラリーを機械的に解繊処理した後、ヌッチェでろ過し、含水状態のセルロース繊維(固形分:2%)約15,000部を得た。得られたセルロース繊維10,000部を60Lのバットに入れ、イオン交換水30,000部を添加し、ホモミキサーを使用して5,000回転で30分間撹拌した。この時点で測定したpHは7.9であった。次いで、水浴を設置したディスパーを使用し、600回転で撹拌して、セルロース繊維の水分散液(セルロース繊維:0.5%)を得た。得られた水分散液中のセルロース繊維の数平均繊維径は、20nmであった。また、別容器に、ポリオレフィン(P-1)の水分散液1,000部、及びセルロース繊維の水分散液40,000部を入れて撹拌し、セルロース繊維とポリオレフィンを含有する混合分散液(pH:8.9)を得た。
【0053】
P-1の水分散液は、以下に示す手順で調製した。まず、有機過酸化物を用いてポリプロピレンに無水マレイン酸をグラフトしたポリマーを用意した。次いで、強力撹拌装置を設置した容器に用意したポリマー及びトルエンを入れ、加熱撹拌してポリマーを溶解させた。その後、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して水分散体としてから、減圧してトルエンを除去し、固形分20%、pH9.2、若干透明感のある青白いP-1の水分散液を得た。P-1の酸価は53mgKOH/gであり、軟化点は110℃であった。また、粒子径測定機(動的光散乱法)により測定したP-1の水分散液中の粒子の数平均粒子径は、89nmであった。
【0054】
混合分散液を600回転で撹拌しながら、pH3になるまで1%塩酸を徐々に添加した。なお、pH5~6付近で増粘した。水浴で60℃まで加温して1時間撹拌した後、吸引ろ過した。ろ液のpHが中性になるまでイオン交換水でよく洗浄して、固形分12.1%である白色の含水ペースト3,190部を得た。得られた含水ペーストに含まれる、セルロース繊維とポリオレフィン(P-1)の質量率は、セルロース繊維/ポリオレフィン(P-1)=50/50である。なお、含水ペーストの固形分は、固形分測定機を使用し、恒量に達するまで180℃に加熱して測定した。
【0055】
プラスチック製のバットに含水ペースト100部を入れ、マイクロウェーブ(家庭用電子レンジ、商品名「MOR-1550」、ヤマゼン社製)を使用し、出力500Wで5分間加熱するサイクルを2回実施した。これにより、表面にしっとり感のある白色でふわっとした外観の複合組成物(CPM-1)を得た。得られたCPM-1の固形分は24.6%であった。
【0056】
(実施例2~7)
実施例1で得た含水ペーストを表1に示す条件で加熱したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、複合組成物(CPM-2~7)を得た。得られたCPM-2~7の固形分及び外観を表1に示す。
【0057】
【0058】
(実施例8~11)
表2に示す条件としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、複合組成物(CPM-8~11)を得た。得られたCPM-8~11の固形分及び外観を表2に示す。表2中の「P-2」及び「P-3」は以下に示すポリオレフィンである。なお、P-2の水分散液としては、P-2のナトリウム塩の水分散液(固形分:27%、pH:10)を用いた。また、P-3の水分散液としては、P-3のジメチルアミノエタノールアミン塩(固形分:20%、pH:9.0)を用いた。
・P-2:ポリエチレンアクリル酸、酸価102mgKOH/g、軟化点60℃
・P-3:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、酸価30mgKOH/g、軟化点135℃
【0059】
【0060】
(比較例1)
マイクロウェーブを使用し、出力500Wで5分間加熱するサイクルを1回のみ実施したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、複合組成物(CPM-C1)を得た。得られたCPM-C1の固形分は15.2%であった。
【0061】
(比較例2)
実施例1で得た含水ペーストを室温で24時間放置して乾燥して、複合組成物(CPM-C2)を得た。得られたCPM-C2の固形分は25.2%であった。なお、得られたCPM-C2は表面が硬くなっていたが、内部は水分を含有している状態であった。
【0062】
(比較例3)
実施例1で得られた含水ペーストを、送風乾燥機を使用して50℃で2時間乾燥し、複合組成物(CPM-C3)を得た。得られたCPM-C3の固形分は50.5%であった。なお、得られたCPM-C3は、表面だけでなく全体的に硬い固形物であり、一部で完全な固体となっていた。
【0063】
(比較例4)
実施例1で得られた含水ペーストを、送風乾燥機を使用して80℃で24時間乾燥し、複合組成物(CPM-C4)を得た。得られたCPM-C4の固形分は96.7%であった。なお、得られたCPM-C4は、全体が収縮した硬い固体物であった。
【0064】
<評価>
製造した各複合組成物、及び粉末状のポリエチレン(低密度ポリエチレン、商品名「サンテック F2270」、旭化成ケミカルズ社製、粒子径:0.1~1mm)を、セルロース繊維が1%となるようにブレンダーミキサーに入れた後、25℃で3分間高速撹拌混合して混合物を得た。なお、比較例1の複合組成物(CPM-C1)は、水分含有量が多くて嵩高いものであったため、粉末状のポリエチレンと混合することが困難であった。
【0065】
二軸押出機(商品名「TEX30MM」、日本製鋼所社製)を使用し、ベントから水を蒸発除去しながら各混合物を180℃で溶融混練して、セルロース繊維を分散状態で含有する薄い褐色でペレット状の樹脂組成物を得た。なお、比較例1の複合組成物(CPM-C1)を用いた混合物は、二軸押出機への供給が困難であり、ペレット化することができなかった。ベルトダイを装着した押出機を使用し、得られた各樹脂組成物を押出成形して、厚さ約0.5mmのシートを製造した。また、得られた各樹脂組成物をプレス成形して、厚さ約20mmのシートを製造した。光学顕微鏡を使用して製造した各シートを観察し、セルロース繊維の凝集状態を確認した。
【0066】
実施例1~11の複合組成物(CPM-1~11)を用いて製造したシートは、いずれも薄い茶色で半透明であった。また、セルロース繊維が凝集しておらず、非常に良好な状態で分散していた。一方、比較例2の複合組成物(CPM-C2)を用いて製造したシートは、目視では「ブツ」がほとんど認められなかったが、光学顕微鏡による観察では「ブツ」が認められた。観察された「ブツ」は、CPM-C2の硬くなった表面の部分が分散しきれずに残存したものであると考えられる。
【0067】
比較例3の複合組成物(CPM-C3)を用いて製造したシートでは、目視により大きな「ブツ」が認められた。さらに、比較例4の複合組成物(CPM-C4)を用いて製造したシートでは、セルロース繊維がほとんど分散しておらず、多くの「ブツ」や「ブツの塊」が目視にて確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のセルロース-樹脂複合組成物は、例えば、自動車用部材;テレビ、白物家電、電話、時計等の電化製品の筺体;携帯電話等の移動通信機器等の筺体;印刷機器、複写機、スポーツ用品等の筺体等の構造材を構成するセルロース分散樹脂組成物を製造するための材料として有用である。