(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】鋼製支保工の連結構造及び鋼製支保工の建込み方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/18 20060101AFI20240709BHJP
E21D 11/40 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
E21D11/18
E21D11/40 A
(21)【出願番号】P 2020202443
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】関根 一郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 将史
(72)【発明者】
【氏名】辻川 泰人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 雅人
(72)【発明者】
【氏名】若竹 亮
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/215235(WO,A1)
【文献】特開2022-029535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/18
E21D 11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右対の鋼製支保工を天端の継手部で相互に連結するための鋼製支保工の連結構造であって、
前記鋼製支保工の継手部は、先行設置される鋼製支保工の切羽側の側面に、天端部の端縁から突出して切羽側添接部材が固設されるとともに、後行設置される鋼製支保工の坑口側の側面に、天端部の端縁から突出して坑口側添接部材が固設され、前記切羽側添接部材及び坑口側添接部材の各鋼製支保工から突出した部分が、反対側の鋼製支保工の側面に重ね合わされて構成され、
前記切羽側添接部材に、坑口側に突出する棒状の連結部材が設けられるとともに、前記鋼製支保工及び坑口側添接部材にそれぞれ、前記連結部材が挿嵌される開口が設けられており、
前記連結部材は、前記坑口側添接部材に設けられた前記開口が所定の位置まで嵌合した後、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにした抜脱防止手段を備えていることを特徴とする鋼製支保工の連結構造。
【請求項2】
前記抜脱防止手段は、前記連結部材の突出方向に対して先端側が回動支持され、基端側が押圧部材によって連結部材の外面から突出する方向に押圧された回動部材からなり、
前記坑口側添接部材に設けられた開口が前記回動部材を通過する際、前記回動部材が前記押圧部材の押圧力に抗して回動することで前記連結部材の内部に没入し、前記開口が前記回動部材を通過後、前記回動部材が前記押圧部材の押圧力により回動することで前記連結部材の外面から突出し、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにしている請求項1記載の鋼製支保工の連結構造。
【請求項3】
前記抜脱防止手段は、外面が、前記連結部材の突出方向に対して先端側から基端側に向けて徐々に外方側に突出する傾斜面とされるとともに、押圧部材によって外方側に押圧された出没部材からなり、
前記坑口側添接部材に設けられた開口が前記出没部材を通過する際、前記開口が前記傾斜面を移動するに従って、前記出没部材が前記押圧部材の押圧力に抗して徐々に前記連結部材の内部に没入し、前記開口が前記出没部材を通過後、前記出没部材が前記押圧部材の押圧力により前記連結部材の外面から突出し、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにしている請求項1記載の鋼製支保工の連結構造。
【請求項4】
前記抜脱防止手段は、前記連結部材の周方向に沿って形成された前記連結部材の突出方向基端側が低い段差部からなり、
前記坑口側添接部材に設けられた開口の周縁が前記段差部に嵌合し、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにしている請求項1記載の鋼製支保工の連結構造。
【請求項5】
前記坑口側添接部材に設けられた開口の周縁に切欠き部が形成されるとともに、前記坑口側添接部材に設けられた開口の直径より、前記連結部材の直径の方が大きい請求項4記載の鋼製支保工の連結構造。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の鋼製支保工の連結構造を用いた鋼製支保工の建込み方法であって、
前記連結部材に、前記坑口側添接部材に設けられた開口を嵌合させつつ、後行設置される鋼製支保工をトンネル軸方向に押し込むことにより連結することを特徴とする鋼製支保工の建込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に山岳トンネルの掘削において、左右対の鋼製支保工を天端部で連結するための鋼製支保工の連結構造及び鋼製支保工の建込み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山岳トンネルの施工では、掘削方法の違いにより各種の工法が存在するが、いずれにしても施工手順は、概ね穿孔、装薬、発破、ズリ出し、一次吹付け、鋼製支保工建込み、二次吹付け、ロックボルト打設の工程を順にかつ段階的に踏むことにより掘削・支保工が行われる。
【0003】
図15及び
図16に示されるように、通常、鋼製支保工50にはH形鋼が用いられており、トンネル中心線Lで左右に分割された左右対の分割支保工50A、50Bが建て込まれるようになっている。この左右対の分割支保工は、天端に設けられた継手部51で連結されることにより、トンネル周面に沿ったアーチ状に形成される。
【0004】
従来の天端継手部51の構造は、
図16に示されるように、左右の分割支保工50A、50BのそれぞれのH形鋼の端部に継手板52が固設されるとともに、前記継手板52、52同士を突き合わせた状態で、H形鋼のウェブ部wの両側の2箇所において継手板52、52を一体的に貫通するボルト53によって締結するのが一般的であった。鋼製支保工の建て込み作業において、天端での分割支保工の接続作業は、
図17に示されるように、エレクター装置付き吹付け機などに備えられたマンゲージに作業員が乗り、切羽近傍に接近し、手で前記ボルト53を締めていた。このような作業は、一次吹付けコンクリートはあるものの、まだ二次吹付けがなされていない地山の不安定な状況下で、作業員がのぞき込みながら(もしくは手先の感覚で)、手締めする必要があるため、肌落ち時には重大な災害が発生する危険性があった。
【0005】
そのため、近年では、下記特許文献1、2などに記載されるワンタッチ式のクイックジョイントが開発されている。下記特許文献1、2には、トンネル坑壁に沿って建て込まれる円弧状に分割された一対の鋼製支保工をそれぞれの天端部同士で相互に連結するための連結構造であって、前記一対の鋼製支保工の天端部にそれぞれ設けられ、当該一対の鋼製支保工が連結される際に互いに当接される第1天端継手板及び第2天端継手板と、前記第1天端継手板に凹設された雌型連結部と、前記第2天端継手板に凸設された雄型連結部と、を備え、前記雄型連結部は、前記第2天端継手板から突出する棒状の雄型係止部材を有し、前記雌型連結部は、前記第1天端継手板に貫通形成される開口孔と、前記開口孔と連通すると共に前記雄型係止部材を挿入可能な挿入口が開口形成される収納室を内部に有するケーシングと、を含み、前記挿入口から前記収納室内へ挿入された前記雄型係止部材を係止する、鋼製支保工の連結構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-178451号公報
【文献】特開2019-163663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2記載の連結構造では、棒状の雄型連結部が第2天端継手板から対向する第1天端継手板に向けて突出した状態で設けられているため、この雄型連結部を雌型連結部に挿入するには、前記雄型連結部の突出する長さ分だけ鋼製支保工を地山側に広げなければならず、余掘の増加の要因になるという欠点があった。また、雄型連結部がトンネル軸方向の前後に設けられているため、雄型連結部を雌型連結部に挿入する際の位置合わせが難しいという課題があった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、鋼製支保工の建て込みにおいてボルトの締結作業をなくし、作業員が鋼製支保工に近づくことなく鋼製支保工の建て込み作業が完了できるようにするとともに、鋼製支保工の連結が簡単に精度良く行えるようにした鋼製支保工の連結構造及び鋼製支保工の建込み方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、左右対の鋼製支保工を天端の継手部で相互に連結するための鋼製支保工の連結構造であって、
前記鋼製支保工の継手部は、先行設置される鋼製支保工の切羽側の側面に、天端部の端縁から突出して切羽側添接部材が固設されるとともに、後行設置される鋼製支保工の坑口側の側面に、天端部の端縁から突出して坑口側添接部材が固設され、前記切羽側添接部材及び坑口側添接部材の各鋼製支保工から突出した部分が、反対側の鋼製支保工の側面に重ね合わされて構成され、
前記切羽側添接部材に、坑口側に突出する棒状の連結部材が設けられるとともに、前記鋼製支保工及び坑口側添接部材にそれぞれ、前記連結部材が挿嵌される開口が設けられており、
前記連結部材は、前記坑口側添接部材に設けられた前記開口が所定の位置まで嵌合した後、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにした抜脱防止手段を備えていることを特徴とする鋼製支保工の連結構造が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、前記鋼製支保工の継手構造として、従来のように連結部材が鋼製支保工の天端側の端縁からトンネル周方向に突出して設けられるのではなく、鋼製支保工の側面にトンネル軸方向に突出して設けられており、後行設置される鋼製支保工をトンネル軸方向に移動させながら、坑口側添接部材に設けられた開口を前記連結部材に挿入して結合する構造となっている。そして、前記連結部材には、前記坑口側添接部材に設けられた開口が所定の位置まで嵌合した後、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにした抜脱防止手段が備えられている。このように、先行設置される鋼製支保工の切羽側添接部材に設けられた連結部材に、後行設置される鋼製支保工の坑口側添接部材に設けられた開口を所定位置まで嵌合させることで、前記連結部材に備えられた抜脱防止手段によって坑口側添接部材が容易に抜け出ないようになっているため、鋼製支保工の建て込みにおいてボルトの締結作業が無くなり、作業員が鋼製支保工に近づくことなく、鋼製支保工建て込み装置の操作のみによって建て込み作業が完了するとともに、鋼製支保工の連結が簡単に精度良く行えるようになる。
【0011】
請求項2に係る本発明として、前記抜脱防止手段は、前記連結部材の突出方向に対して先端側が回動支持され、基端側が押圧部材によって連結部材の外面から突出する方向に押圧された回動部材からなり、
前記坑口側添接部材に設けられた開口が前記回動部材を通過する際、前記回動部材が前記押圧部材の押圧力に抗して回動することで前記連結部材の内部に没入し、前記開口が前記回動部材を通過後、前記回動部材が前記押圧部材の押圧力により回動することで前記連結部材の外面から突出し、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにしている請求項1記載の鋼製支保工の連結構造が提供される。
【0012】
上記請求項2記載の発明は、前記連結部材に備えられた抜脱防止手段の第1形態例であり、連結部材の突出方向に対して先端側が連結部材の内部で回動支持され、基端側が押圧部材によって外方側に押圧された回動部材からなるものである。この回動部材は、前記坑口側添接部材に設けられた開口が通過する際、前記押圧部材の押圧力に抗して回動軸を中心に回動することで前記連結部材の内部に没入する。そして、前記開口が通過した後は、前記押圧部材の押圧力により回動軸を中心に回動することで前記連結部材の外面から突出する。これによって、坑口側添接部材の開口が回動部材を通過後は、坑口側添接部材が容易に抜け出ないようになる。
【0013】
請求項3に係る本発明として、前記抜脱防止手段は、外面が、前記連結部材の突出方向に対して先端側から基端側に向けて徐々に外方側に突出する傾斜面とされるとともに、押圧部材によって外方側に押圧された出没部材からなり、
前記坑口側添接部材に設けられた開口が前記出没部材を通過する際、前記開口が前記傾斜面を移動するに従って、前記出没部材が前記押圧部材の押圧力に抗して徐々に前記連結部材の内部に没入し、前記開口が前記出没部材を通過後、前記出没部材が前記押圧部材の押圧力により前記連結部材の外面から突出し、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにしている請求項1記載の鋼製支保工の連結構造が提供される。
【0014】
上記請求項3記載の発明は、前記連結部材に備えられた抜脱防止手段の第2形態例であり、外面が、前記連結部材の突出方向に対して先端側から基端側に向けて徐々に外方側に突出する傾斜面とされるとともに、押圧部材によって外方側に押圧された出没部材からなるものである。この出没部材は、前記坑口側添接部材に設けられた開口が通過する際、前記開口が前記傾斜面を移動するに従って、前記押圧部材の押圧力に抗して徐々に前記連結部材の内部に没入する。そして、前記開口が通過した後は、前記押圧部材の押圧力により前記連結部材の外面から突出する。これによって、坑口側添接部材の開口が出没部材を通過後は、坑口側添接部材が容易に抜け出ないようになっている。
【0015】
請求項4に係る本発明として、前記抜脱防止手段は、前記連結部材の周方向に沿って形成された前記連結部材の突出方向基端側が低い段差部からなり、
前記坑口側添接部材に設けられた開口の周縁が前記段差部に嵌合し、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようにしている請求項1記載の鋼製支保工の連結構造が提供される。
【0016】
上記請求項4記載の発明は、前記連結部材に備えられた抜脱防止手段の第3形態例であり、前記連結部材の周方向に沿って形成された前記連結部材の突出方向基端側が低い段差部からなるものである。前記坑口側添接部材に設けられた開口が前記段差部まで挿入されると、開口と連結部材とが偏心し、開口の周縁の一部が前記段差部に嵌合することによって、前記坑口側添接部材が容易に抜け出ないようになる。
【0017】
請求項5に係る本発明として、前記坑口側添接部材に設けられた開口の周縁に切欠き部が形成されるとともに、前記坑口側添接部材に設けられた開口の直径より、前記連結部材の直径の方が大きい請求項4記載の鋼製支保工の連結構造が提供される。
【0018】
上記請求項5記載の発明では、前記抜脱防止手段が前記段差部からなる場合において、前記坑口側添接部材に設けられた開口の周縁に切欠き部を形成することによって、開口が若干拡大できるようにしておき、前記坑口側添接部材に設けられた開口の直径より、前記連結部材の直径を大きく形成することで、開口が段差部に嵌合したときより確実に坑口側添接部材が抜け出ないようにしている。
【0019】
請求項6に係る本発明として、請求項1~5いずれかに記載の鋼製支保工の連結構造を用いた鋼製支保工の建込み方法であって、
前記連結部材に、前記坑口側添接部材に設けられた開口を嵌合させつつ、後行設置される鋼製支保工をトンネル軸方向に押し込むことにより連結することを特徴とする鋼製支保工の建込み方法が提供される。
【0020】
上記請求項6記載の発明では、前記連結部材に、前記坑口側添接部材に設けられた開口を嵌合させつつ、後行設置される鋼製支保工をトンネル軸方向に押し込むだけで連結できるため、鋼製支保工の建込み作業が極めて簡単にできるようになる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、鋼製支保工の建て込みにおいてボルトの締結作業がなくなり、作業員が鋼製支保工に近づくことなく鋼製支保工の建て込み作業が完了するとともに、鋼製支保工の連結が簡単に精度良く行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】鋼製支保工4を設置したトンネルの縦断面図である。
【
図3】鋼製支保工4の継手部を拡大した、(A)は左側分割支保工4Aの正面図、(B)は右側分割支保工4Bの正面図、(C)は連結状態の正面図である。
【
図5】第1形態例に係る連結部材10を示す、(A)は自然状態の断面図、(B)は回動部材14を没入させた状態の断面図である。
【
図6】第1形態例に係る連結部材10を備えた鋼製支保工の建て込み手順を示す断面図である。
【
図7】第2形態例に係る連結部材10を示す、(A)は上面図、(B)は自然状態における(A)のB-B断面図、(C)は出没部材16を没入させた状態の(A)のB-B断面図である。
【
図8】第2形態例に係る連結部材10を備えた鋼製支保工の建て込み手順を示す断面図である。
【
図9】第3形態例に係る連結部材10を示す側面図である。
【
図10】第3形態例に係る連結部材10を備えた鋼製支保工の建て込み手順を示す断面図である。
【
図11】第3形態例の変形例に係る鋼製支保工4の継手部を拡大した、(A)は左側分割支保工4Aの正面図、(B)は右側分割支保工4Bの正面図、(C)は連結状態の正面図である。
【
図12】第3形態例の変形例に係る連結部材10と開口11の相対的位置関係を示す正面図である。
【
図13】鋼製支保工の建込み要領を示す平面図である。
【
図14】その正面図(
図13のXIV-XIV矢視図)である。
【
図16】従来の鋼製支保工50の継手部51を示す、(A)は正面図、(B)は端面図である。
【
図17】従来の鋼製支保工50の建て込み作業状況を示す、トンネルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
山岳トンネルの掘削では、
図1に示されるように、トンネル掘削面1に対して一次吹付けコンクリート2を吹き付け、切羽3近傍に鋼製支保工4を建て込んだ後、1サイクル前に建て込んだ鋼製支保工4との間に、前記一次吹付けコンクリート2に積層して二次吹付けコンクリート5を吹き付ける、という工程を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことによりトンネル支保工が構築される。なお、必要に応じて、二次吹付けコンクリート5の内周面から一次吹付けコンクリート2を貫通して地山に打設される複数のロックボルト(図示せず)を設けてもよい。
【0025】
前記鋼製支保工4は、
図2に示されるように、地山の崩落防止のために、前記一次吹付けコンクリート2が吹き付けられたトンネル掘削面に沿って建て込まれるアーチ状の部材であり、トンネル軸方向に沿って一定間隔毎に設置されている。前記鋼製支保工4は、ウェブ部wとその両端のフランジ部fとからなるH形鋼によって形成され、
図2に示される形態例では、上端部(天端部)で左右に分割され、分割された円弧状の左側分割支保工4Aと右側分割支保工4Bとが上端の継手部8で連結されることで、アーチ状に形成されている。
【0026】
図3に示されるように、前記継手部8の構造は、先行設置される前記左側分割支保工4Aのウェブ部wの切羽側の側面に、天端部の端縁からトンネル周方向に突出して切羽側添接部材6Aが固設されるとともに、後行設置される前記右側分割支保工4Bのウェブ部wの坑口側の側面に、天端部の端縁からトンネル周方向に突出して坑口側添接部材6Bが固設されている。前記切羽側添接部材6A及び坑口側添接部材6Bの各分割支保工4A、4Bから突出した部分は、前記左側分割支保工4Aと右側分割支保工4Bとの天端部の端部同士を突き合わせて配置した状態で、それぞれ反対側の分割支保工のウェブ部wに重ね合わされる。これによって、継手部8における両分割支保工4A、4Bに跨がって、ウェブ部wの両側に切羽側添接部材6A及び坑口側添接部材6Bがそれぞれ配置されるようになる。
【0027】
前記切羽側添接部材6A及び坑口側添接部材6Bは、H形鋼からなる鋼製支保工4のウェブ部wのみを覆う板材でもよいが、
図3及び
図4に示されるように、鋼製支保工4のウェブ部wを覆うとともに、その上下の略半分のフランジ部fを覆う、断面コ字形に形成するのが好ましい。前記切羽側添接部材6A及び坑口側添接部材6Bはそれぞれ、部材長手方向の略半分が左側分割支保工4A又は右側分割支保工4Bに積層され、残りの略半分が左側分割支保工4A又は右側分割支保工4Bから突出している。前記切羽側添接部材6Aは、左側分割支保工4Aとの積層部分において溶接によって強固に接合されており、前記坑口側添接部材6Bは、右側分割支保工4Bとの積層部分において溶接によって強固に接合されている。
【0028】
図3及び
図4に示されるように、前記切羽側添接部材6Aには、坑口側に突出する棒状の連結部材10、10…が設けられるとともに、前記鋼製支保工4及び坑口側添接部材6Bにはそれぞれ、前記連結部材10が挿嵌される開口11、11…が設けられている。
【0029】
前記連結部材10を切羽側添接部材6Aに配置するには、切羽側添接部材6Aに設けられた開口に連結部材10を挿入し、連結部材10の先端を坑口側に突出させた状態で、連結部材10の基端部を切羽側添接部材6Aに溶接する。
【0030】
前記連結部材10は、図示例では、切羽側添接部材6Aのうち、左側分割支保工4Aに積層された部分及び左側分割支保工4Aから突出する部分にそれぞれ2個ずつ、合計4個配置されているが、これに限るものではなく、2~8個の範囲内で配置することができる。また、図示例のように、複数の連結部材10…は、切羽側添接部材6Aの部材長手方向中心線に沿って一列に列設するのが好ましいが、複数列で配置してもよいし、切羽側添接部材6Aの部材短手方向に沿って列設してもよい。
【0031】
前記連結部材10は、
図5に示されるように、断面円形の突出方向に長い棒状部材であり、突出方向の先端部が先端に向かうに従って徐々に断面が小さくなる先細の形状で形成されている。
【0032】
本連結構造では、前記連結部材10は、前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11が所定の位置まで嵌合した後、前記坑口側添接部材6Bが容易に抜け出ないようにした抜脱防止手段を備えているのが特徴的である。前記抜脱防止手段は、連結部材10の長手方向(突出方向)の中間部に設けられており、坑口側添接部材6Bの開口11を突出方向の所定の位置まで嵌入した後、該抜脱防止手段により坑口側添接部材6Bが容易に抜け出ないようになっている。以下、この抜脱防止手段について、詳細に説明する。
【0033】
〔抜脱防止手段の第1形態例〕
前記抜脱防止手段の第1形態例は、
図5に示されるように、連結部材10の突出方向に対して先端側が回動軸12によって回動自在に支持され、連結部材10の突出方向の基端側が押圧部材13によって連結部材10の外面から突出する方向に押圧された回動部材14で構成している。前記回動部材14は、
図5に示されるように、外面が連結部材10の外面と同様に湾曲した小片状、ブロック状又は板状の部材であり、連結部材10の側面に設けられた凹部又は開口部に左右対で嵌装されるとともに、連結部材10の突出方向先端側が、この突出方向と直交する回動軸12によって、連結部材10の内部において回動支持され、この回動軸12を中心に回動することで、連結部材10の突出方向基端側が連結部材10の外面から出没可能となっている。前記回動部材14は、
図5(A)に示されるように、自然状態では、押圧部材13の押圧力によって、連結部材10の中心軸に対して連結部材10の突出方向基端側が外側に向けて傾斜し、連結部材10の外面から所定の高さだけ突出した状態で配置されており、前記回動部材14の外面に外力が加わったとき、
図5(B)に示されるように、回動部材14が押圧部材13の押圧力に抗して前記回動軸12を中心に回動し、連結部材10の外面とほぼ同じ高さまで没入できるようになっている。なお、前記回動部材14の回動軸12が設けられた側の端部は、連結部材10の外面から突出することなく、連結部材10の内部に設置された回動軸12を中心とする回動のみを行う。
【0034】
前記連結部材10による鋼製支保工4の連結の手順について、
図6に基づいて説明すると、
図6(A)に示されるように、先行設置された左側分割支保工4Aに対し、右側分割支保工4Bを後行設置する際、右側分割支保工4Bを坑口側から切羽側に向けてトンネル軸方向とほぼ平行する方向に移動させながら、右側分割支保工4Bに固設された坑口側添接部材6Bの開口11を、連結部材10に挿入する。このときの鋼製支保工4の建込み要領については、後段で更に詳細に説明する。
【0035】
図6(B)に示されるように、前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11が前記回動部材14を通過する際、前記回動部材14が押圧部材13の押圧力に抗して回動軸12を中心に回動することで、連結部材10の突出方向基端側が連結部材10の内部に没入する。
【0036】
前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11が前記回動部材14を通過した後は、前記回動部材14が押圧部材13の押圧力により回動軸12を中心に回動することで、連結部材10の突出方向基端側が連結部材10の外面から突出する。これによって、坑口側添接部材6Bが連結部材10から容易に抜け出ないようになる。
【0037】
上述の通り、本発明に係る鋼製支保工の建込み方法では、前記連結部材10に、坑口側添接部材6Bに設けられた開口11を嵌合させつつ、後行設置される右側分割支保工4Bをトンネル軸方向に押し込むだけで連結できるため、鋼製支保工4の建込み作業が極めて簡単になる。
【0038】
また、先行設置される左側分割支保工4Aの切羽側添接部材6Aに設けられた連結部材10に、後行設置される右側分割支保工4Bの坑口側添接部材6Bに設けられた開口11を所定の位置まで嵌合させることで、連結部材10に備えられた抜脱防止手段(回動部材14)によって坑口側添接部材6Bが容易に抜け出ないようになるため、鋼製支保工4の建て込みにおいてボルトの締結作業が無くなり、作業員がマンゲージに乗って鋼製支保工4に近づくことなく、鋼製支保工を把持するエレクター装置付き吹付け機の操作によって建て込み作業が完了し、左側分割支保工4A及び右側分割支保工4Bの連結が簡単に精度良く行えるようになる。
【0039】
図5(A)に示されるように、前記坑口側添接部材6Bの開口11を連結部材10に嵌入しやすくするため、連結部材10の先端が左側分割支保工4Aのフランジ部fより坑口側に突出するように設けるのが好ましい。これにより、後行設置する右側分割支保工4Bを先行設置した左側分割支保工4Aに近づけたとき、右側分割支保工4Bに固設された坑口側添接部材6Bの開口11が先行的に連結部材10に挿入され、この連結部材10にガイドされつつ、坑口側添接部材6Bが左側分割支保工4Aの上下のフランジf、f間に挿入されるようになる。
【0040】
また、複数の連結部材10…が切羽側添接部材6Aから坑口側に突出する突出長さは、全てほぼ同じ長さとしてもよいし、異なる長さとしてもよい。異なる長さとする場合は、一列に列設された複数の連結部材10…のうち、両端の連結部材10、10を相対的に長くし、中間の連結部材10、10を相対的に短くしてもよいし、一方端から他方端に向けて徐々に短くしてもよい。複数の連結部材10…を全て同じ長さで突出させると、坑口側添接部材6Bに設けられた全ての開口11…を同時に連結部材10…に嵌合させる必要があるが、一部を異なる長さで形成した場合には、段階的に開口11に嵌合できるため、位置合わせが容易になる。
【0041】
〔抜脱防止手段の第2形態例〕
次に、前記抜脱防止手段の第2形態例について説明すると、第2形態例に係る抜脱防止手段は、
図7に示されるように、外面が、前記連結部材10の突出方向に対して先端側から基端側に向けて徐々に外方側に突出する傾斜面とされるとともに、押圧部材15によって外方側に押圧された出没部材16で構成されている。前記出没部材16は、
図7に示されるように、略円柱形の外形を成し、連結部材10の周面の対向する位置に設けられた2箇所の凹部にそれぞれ押圧部材15を介して嵌装されており、連結部材10の外面側の端面が前述の傾斜面とされている。前記出没部材16は、自然状態では、
図7(B)に示されるように、押圧部材15の押圧力によって、外方側に押圧された状態で配置されており、この状態では、連結部材10の突出方向の先端側が連結部材10の外面から突出せず、連結部材10の突出方向の基端側が連結部材10の外面から突出した状態で配置されている。また、出没部材16の外面に外力が加わったときは、
図7(C)に示されるように、出没部材16が押圧部材15の押圧力に抗して凹部の深さ方向に移動し、連結部材10の突出方向基端側が連結部材10の外面とほぼ同じ高さまで没入するようになっている。
【0042】
前記連結部材10による鋼製支保工4の連結の手順について、
図8に基づいて説明すると、本形態例でも同様に、
図8(A)に示されるように、先行設置された左側分割支保工4Aに対し、右側分割支保工4Bを後行設置する際、右側分割支保工4Bを坑口側から切羽側に向けてトンネル軸方向とほぼ平行する方向に移動させながら、右側分割支保工4Bに固設された坑口側添接部材6Bの開口11を、連結部材10に挿入する。
【0043】
図8(B)に示されるように、前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11が前記出没部材16を通過する際、開口11が出没部材16外面の傾斜面を移動するに従って、出没部材16が押圧部材15の押圧力に抗して徐々に連結部材10の内部に没入する。
【0044】
前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11が前記出没部材16を通過した後は、前記出没部材16が押圧部材15の押圧力により連結部材10の外面から突出する。これによって、坑口側添接部材6Bが連結部材10から容易に抜け出ないようになる。
【0045】
〔抜脱防止手段の第3形態例〕
次に、前記抜脱防止手段の第3形態例について説明する。第3形態例に係る抜脱防止手段は、
図9に示されるように、前記連結部材10の周方向に沿って形成された連結部材10の突出方向基端側に低い段差部17によって構成されている。
図9(A)に示される形態例では、前記段差部17より連結部材10の突出方向基端側がその端部に亘って縮径しており、
図9(B)に示される形態例では、前記段差部17から連結部材10の突出方向基端側に一定の幅、具体的にはほぼ坑口側添接部材6Bの開口11の厚み分だけ縮径した溝部が形成されるとともに、この溝部より基端側は前記段差部17より先端側と同じ径で形成されている。
【0046】
前記連結部材10による鋼製支保工4の連結の手順について、
図10に基づいて説明すると、本形態例でも同様に、
図10(A)に示されるように、先行設置された左側分割支保工4Aに対し、右側分割支保工4Bを後行設置する際、右側分割支保工4Bを坑口側から切羽側に向けてトンネル軸方向とほぼ平行する方向に移動させながら、右側分割支保工4Bに固設された坑口側添接部材6Bの開口11を、連結部材10に挿入する。
【0047】
図10(B)に示されるように、前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11が前記段差部17に達すると、これまで連結部材10の側面に沿って移動した開口11が段差部17で縮径した連結部材10との間に大きな隙間が生じるため、開口11が任意の方向にずれて開口11と連結部材10とが偏心し、開口11の周縁の一部が前記段差部17に嵌合することにより、前記坑口側添接部材6Bが容易に連結部材10から抜け出ないようになる。
【0048】
本形態例の変形例として、
図11に示されるように、前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11の周縁に切欠き部18を形成するとともに、前記坑口側添接部材6Bに設けられた開口11の直径より、前記連結部材10の直径を大きく形成することができる。これにより、連結部材10に開口11を嵌合させた際、周縁に切欠き部18が形成されることにより変形しやすくなった前記開口11の周縁部が弾性変形して若干拡径することで、開口11より大きな径の前記連結部材10に挿入できるとともに、坑口側添接部材6Bが前記段差部17を通過した後、開口11周縁の弾性変形が解除され、開口11の周縁が段差部17に嵌合した状態を確実に維持することができるようになる。
【0049】
また、他の変形例として、
図12に示されるように、複数の連結部材10…及び開口11…のうち少なくとも一つの連結部材10又は開口11を、対応する開口11又は連結部材10に対して若干偏心した位置に設けることにより、前記開口11の周縁が段差部17に嵌合した状態をより確実に維持することができ、前記坑口側添接部材6Bが容易に連結部材10から抜け出ないようになる。
【0050】
〔鋼製支保工の建込み要領〕
次に、エレクター装置付き吹付け機(以下、単に吹付け機ともいう。)による鋼製支保工4の建込み要領について、
図13及び
図14に基づいて詳述する。
【0051】
図13に示されるように、吹付け機20をトンネル切羽近傍の鋼製支保工建込み部位に位置決めする。トンネル形状の座標データや鋼製支保工4の据え付け位置などの座標データは予めすべて制御器(コンピューター)に入力されている。
【0052】
吹付け機20に対してトータルステーション21が設置されるとともに、トンネル坑内には予め座標が既知とされる少なくとも2点の基準点22A、22Bが設置されており、前記トータルステーション21により前記2つの基準点22A、22Bを視準して得た測距・測角データに基づいて、後方交会法によりトータルステーション21の設置座標を求める。なお、このトータルステーション21の位置座標は位置ズレが生じていないかの照査のために適宜の時間間隔毎に行われる。
【0053】
前記鋼製支保工4は、天端で接続され1条のアーチ材とされるものが大半である。従って、
図14に示されるように、切羽に向かって左側の分割鋼製支保工4Aを左側に配置されたエレクター装置23Aで把持し持ち上げるとともに、右側の分割鋼製支保工4Bを右側に配置されたエレクター装置23Bで把持し持ち上げる。なお、前記分割鋼製支保工4A、4Bの把持位置は予め決めておき、把持位置にマーキングをしておくようにするのが望ましい。これは、前記トータルステーション21によって測量する対象は支保工挟持部24A、24Bに設けた視準ターゲット25A、25Bであり、これらの視準ターゲット25A、25Bと鋼製支保工4の脚端部との相対的位置関係に基づいて鋼製支保工4の端部座標を計算によって算出するためである。
【0054】
前記エレクター装置23Aで左側分割鋼製支保工4Aを把持し切羽近傍に移動させるとともに、前記エレクター装置23Bで右側分割鋼製支保工4Bを把持し切羽近傍に移動させる。前記トータルステーション21によって支保工挟持部24A、24Bに設けた視準ターゲット25A、25Bを測量することにより鋼製支保工4の両端部の座標を求め、鋼製支保工4の設置座標点まで移動させるようにして据え付ける。
【符号の説明】
【0055】
1…トンネル掘削面、2…一次吹付けコンクリート、3…切羽、4…鋼製支保工、4A…左側分割支保工、4B…右側分割支保工、5…二次吹付けコンクリート、6A…切羽側添接部材、6B…坑口側添接部材、8…継手部、10…連結部材、11…開口、12…回動軸、13…押圧部材、14…回動部材、15…押圧部材、16…出没部材、17…段差部、18…切欠き部