(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240709BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240709BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M4/70 A
(21)【出願番号】P 2020557581
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2019045364
(87)【国際公開番号】W WO2020105662
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018217169
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 一正
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-060720(JP,A)
【文献】特開2008-198492(JP,A)
【文献】特開2016-207540(JP,A)
【文献】国際公開第2007/135790(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/64-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体層と正極活物質層とを有する正極と、負極集電体層と負極活物質層とを有する負極とが、固体電解質層を介して積層された積層体と、前記積層体の対向するいずれかの一対の側面に設けられた一対の正極外部電極及び負極外部電極とを含む全固体電池であって、
前記正極集電体層及び正極活物質層は前記正極外部電極と接合し、
前記負極集電体層及び負極活物質層は前記負極外部電極と接合し、
前記正極集電体層または前記負極集電体層の少なくとも一方が、前記正極外部電極または前記負極外部電極と接合する部分
である拡大接合部の前記積層の方向における厚みが
前記拡大接合部以外の部分
の前記積層の方向における厚みよりも厚く、
前記拡大接合部は、前記積層体の上面と下面とを結ぶ積層方向の前記上面側および前記下面側の両方に厚みが厚くなっている、全固体電池。
【請求項2】
正極集電体層と正極活物質層とを有する正極と、負極集電体層と負極活物質層とを有する負極とが、固体電解質層を介して積層された積層体と、前記積層体の対向するいずれかの一対の側面に設けられた一対の正極外部電極及び負極外部電極とを含む全固体電池であって、
前記正極集電体層及び正極活物質層は前記正極外部電極と接合し、
前記負極集電体層及び負極活物質層は前記負極外部電極と接合し、
前記正極集電体層または前記負極集電体層の少なくとも一方が、前記正極外部電極または前記負極外部電極と接合する部分
である拡大接合部の
前記積層の方向における厚みが
前記拡大接合部以外の部分
の前記積層の方向における厚みよりも厚く、
前記拡大接合部は、前記積層体の上面と下面とを結ぶ積層方向の前記上面側および前記下面側の両方に厚みが厚くなっており、
前
記拡大接合部の平均厚みをt1、前記拡大接合部以外の部分である非接合部の平均厚みをt
2とすると、式(1)を満たす、全固体電池。
1<(t
1/t
2)・・・(1)
【請求項3】
式(2)を満たす、請求項2に記載の全固体電池。
(t
1/t
2)≦4.0…(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
本願は、2018年11月20日に、日本に出願された特願2018-217169号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達は目覚ましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対しては、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。現在、汎用的に使用されているリチウムイオン二次電池は、イオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の電解質(電解液)が従来から使用されている。しかし、前記の構成の電池では、電解液が漏出するという危険性がある。また、電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質であるため、より安全性の高い電池が求められている。
【0003】
そこで、電池の安全性を高めるための一つの対策として、電解液に代えて、固体電解質を電解質として用いることが提案されている。さらに、電解質として固体電解質を用いるとともに、その他の構成要素も固体で構成されている全固体電池の開発が進められている。
【0004】
一般に全固体電池は、薄膜型とバルク型の2種類に分類される。薄膜型は、PVD法やゾルゲル法などの薄膜技術により作製することができ、また、バルク型は活物質や粒界抵抗の低い硫化物系固体電解質の粉末成型により作製することができる。薄膜型では活物質を厚くすることや多積層化が困難であるため容量が小さく、また製造コストが高いという問題がある。一方、バルク型には硫化物系固体電解質を用いるため、硫化物系固体電解質が水と反応した際に硫化水素が発生する。そのため大気中での取り扱いが困難であり、露点の管理されたグローブボックス内で電池を作製する必要があった。このように薄膜型とバルク型の全固体電池では、安全性と製造環境面での問題が課題となっている。
【0005】
一方、大気中で化学的に安定な酸化物系の固体電解質は、積層部品のプロセス技術を適用することができ、例えば特許文献1に積層型の全固体電池が開示されている。この全固体電池は、正極単位と負極単位とが、イオン伝導性無機物質層を介して交互に積層された積層型全固体電池であって、正極単位が、正極集電体層の両面に正極活物質層を備え、前記負極単位が、負極集電体層の両面に負極活物質層を備え、正極集電体層と負極集電体層との少なくとも一方が、Ag、Pd、Au及びPtのいずれかの金属、又はAg、Pd、Au及びPtのいずれかを含む合金、あるいはそれらの金属及び合金から選ばれる2種以上の混合物からなり、一括焼成された積層型全固体電池であることを特徴としている。
【0006】
さらに前記積層型全固体電池の異なる端面においては、正極集電体層と接する正極引出電極(以降、正極外部電極と呼ぶ)及び負極集電体層と接する負極引出電極(以降、負極外部電極と呼ぶ)を、それぞれ有する。
【0007】
しかし、係る前記積層型全固体電池は、充放電反応によって生じる活物質の体積膨張によって、正極外部電極と正極集電体層、及び負極外部電極と負極集電体層との接合面(直接接合する場合と他の層を介して接合する場合とを含む)において、剥離が生じる場合があり、サイクル特性が低下する懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係る全固体電池は、正極集電体層と正極活物質層とを有する正極と、負極集電体層と負極活物質層とを有する負極とが、固体電解質層を介して積層された積層体と、前記積層体の対向するいずれかの一対の側面に設けられた一対の正極外部電極及び負極外部電極とを含む全固体電池であって、前記正極集電体層は前記正極外部電極と接合し、前記負極集電体層は前記負極外部電極と接合し、前記正極集電体層または前記負極集電体層の少なくとも一方が、前記正極外部電極または前記負極外部電極と接合する部分の厚みがそれ以外の部分よりも厚い。
【0011】
本発明の第2の態様に係る全固体電池は、正極集電体層と正極活物質層とを有する正極と、負極集電体層と負極活物質層とを有する負極とが、固体電解質層を介して積層された積層体と、前記積層体の対向するいずれかの一対の側面に設けられた一対の正極外部電極及び負極外部電極とを含む全固体電池であって、前記正極集電体層は前記正極外部電極と接合し、前記負極集電体層は前記負極外部電極と接合し、前記正極集電体層または前記負極集電体層の少なくとも一方が、前記正極外部電極または前記負極外部電極と接合する部分の厚みがそれ以外の部分よりも厚く、
前記接合する部分である拡大接合部の平均厚みをt1、前記拡大接合部以外の部分である非接合部の平均厚みをt2とすると、式(1)を満たす。
1<(t1/t2)…(1)
【0012】
さらに、本発明の上記態様に係る全固体電池は、式(2)を満たすことが好ましい。
(t1/t2)≦4.0…(2)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に掛る全固体電池10の外観投影図を表す。
【
図2】本発明の一実施形態に係る全固体電池の積層体20の外観投影図を表す。
【
図3】本発明の一実施形態に係る全固体電池10の側面23及び側面24に平行な面に沿った断面図を表す。
【
図4A】
図3と同様の断面において、正極30について説明をするための拡大図面を表す。
【
図4B】
図3と同様の断面において、負極40について説明をするための拡大図面を表す。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る全固体電池10の側面23及び側面24に対する平行断面図を表す。
【
図6】実施例6に係る全固体電池の正極外部電極及び負極外部電極に対する垂直断面のFE-SEM写真を表す。
【
図7】比較例1に係る全固体電池の極外部電極及び負極外部電極に対する垂直断面のFE-SEM写真を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の全固体電池について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、図面に記載の各構成要素の寸法比率などは、実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0016】
(第1の実施形態)
まず、はじめに本発明に係る第1の実施形態について説明する。本実施形態においては、
図1に示すように、全固体電池10は、積層体20と正極外部電極60と負極外部電極70とを有する。
図2に示すように、本実施形態における積層体20は、6面体であり、4つの側面21、側面22、側面23、側面24と、上面25及び下面26を有する。さらに対向する一対のいずれかの側面において、正極外部電極60及び負極外部電極70が形成される。なお、
図1の全固体電池10の一実施形態は、
図2の積層体20の側面21に正極外部電極60が、側面22に負極外部電極70が形成されたものである。
図3の積層体の断面図に示すように、積層体20は、正極30と負極40とが、固体電解質層50を介して積層され、正極30は、正極集電体層31と正極活物質層32とを有する。負極40は、負極集電体層41と負極活物質層42とを有する。また、正極30と負極外部電極70との間、及び、負極40と正極外部電極60の間には、正極30と同程度の厚みのマージン層80、負極40と同程度の厚みのマージン層80がそれぞれ形成されている。さらに正極30は、側面21を介して電気的に正極外部電極60と接合し、負極40は、側面22を介して電気的に負極外部電極70と接合している。
なお、この電気的な接続は、正極の正極集電体層が正極外部電極と接続することによってなされている。負極も同様に、負極の負極集電体層が負極外部電極と接続することによってなされている。
【0017】
以降の明細書中の説明として、正極活物質及び負極活物質のいずれか一方または両方を総称として活物質と呼び、正極集電体層31及び負極集電体層41のいずれか一方または両方を総称して集電体層と呼び、正極活物質層32及び負極活物質層42のいずれか一方または両方を総称して活物質層と呼び、正極及び負極のいずれか一方または両方を総称して電極と呼び、正極外部電極60及び負極外部電極70のいずれか一方または両方を総称して外部電極と呼ぶことがある。
【0018】
図4Aに示すように、正極集電体層31は、正極外部電極60と接合する部分31Aの厚みがそれ以外の部分31Bの平均厚みよりも厚い。正極集電体層31を係る構成とすることで、正極集電体層31と正極外部電極60との接合面積を増加させることができ、正極外部電極60と正極集電体層31との接合強度が高めることができる。以下では、部分31Aを拡大接合部31Aということがあり、また、部分31Bを非拡大部31Bということがある。正極集電体層31の側面21に露出する端面31aに対向する、積層体20の内部側の端面31bの厚み(厚み方向の長さ)をt
2bとすると、拡大接合部31Aはどの位置の厚みをとっても端面31bの厚みt
2bよりも厚い。
図4Aに示すように、拡大接合部31Aの厚みが非拡大部31Bとの厚みに対して急峻に変化するような構成の場合だけでなく、拡大接合部31Aの厚みが徐々に連続的に変化する構成や、段階的に変化する構成や、それらが組み合わさった構成の場合でも、拡大接合部はどの位置の厚みをとっても積層体の内部側の端面よりも厚い。
また、
図4Bに示すように、負極集電体層41は、負極外部電極70と接合する部分41Aの厚みがそれ以外の部分41Bの平均厚みよりも厚い。負極集電体層41を係る構成とすることで、負極集電体層41と負極外部電極70との接合面積を増加させることができ、負極外部電極70と負極集電体層41との接合強度が高めることができる。以下では、負極集電体層41の場合と同様に、部分41Aを拡大接合部41Aということがあり、また、部分41Bを非拡大部41Bということがある。
【0019】
拡大接合部の集電体層の平均厚みをt
1として定義する。また、非拡大部の集電体層の平均厚みをt
2として定義する。なお、ここにおける「平均厚み」とは、側面23及び側面24に平行な断面を、側面23から等間隔で側面24までを21分割するように20箇所抽出し、その20箇所の断面における側面21及び側面22に露出している箇所の集電体層の平均厚みと、側面に露出していない箇所の集電体層の平均厚みをそれぞれ断面SEM観察により測定した上で、それぞれの平均値から算出される。なお、
図3に記載の全固体電池10とは異なり、正極30と負極40がそれぞれ共に複数積層される全固体電池の場合には、側面に露出している箇所の集電体層と、側面に露出していない箇所の集電体層とが、1つの断面において複数存在する。この場合には、1つの断面における全ての集電体層において、側面に露出した箇所の集電体層厚みと、側面に露出していない箇所の集電体厚みを20箇所の断面においてそれぞれ測定した上で、それらの平均値を算出することで、同様にしてt
1とt
2を求める。
【0020】
t1とt2との関係が、1.0<(t1/t2)を満たす、換言すればt1がt2よりも厚く設定されていることが好ましい。係る構成とすることで、集電体層と外部電極との接合面積を増加させることができ、外部電極と集電体層との接合強度が高めることができる。したがって、充放電反応に伴う活物質層の体積膨張収縮に対し、外部電極と集電体層とが剥離するのを抑止でき、ひいては優れたサイクル特性を持つ全固体電池が得られる。t1/t2が1.0よりも小さいと、外部電極と集電体層との接合面積が小さいため、体積膨張/収縮による接合面でのクラックや剥離が発生する場合がある。
【0021】
さらにt1とt2との関係が、(t1/t2)≦4.0を満たすことがより好ましい。t1/t2が4.0を超える値とすると、外部電極と集電体層との接合面積は大きくなるものの、過度なバレル研磨により微細なクラックが入ってしまうため、内部抵抗が大きくなってしまい、サイクル特性を低下させる場合がある。
【0022】
本実施形態に係る全固体電池10における固体電解質層50は、少なくとも酸化物系リチウムイオン伝導体を含み、正極活物質層32及び負極活物質層42の一方、または両方は、少なくとも酸化物系リチウムイオン伝導体を含むことが好ましい。マージン層は、固体電解質層と同様に少なくとも酸化物系リチウムイオン伝導体を含むことが好ましい。なお、
図3では正極活物質層32及び負極活物質層42の両方に酸化物系リチウムイオン伝導体を含んでいるが、どちらか一方に含まれていてもよい。また、
図3上では、同じ番号を付け同じ材料を使った例を示している。もちろんこれに限らず同じ材料を使用しなくてもよい。
【0023】
(固体電解質)
本実施形態の全固体電池の固体電解質層50は、特に限定するものではなく、例えばナシコン型、ガーネット型、ペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物系リチウムイオン伝導体等の一般的な固体電解質材料を用いることができる。ナシコン型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体としては、LiとM(Mは、Ti、Zr、Ge、Hf、Snの内の少なくとも1つ)とPとOとを少なくとも含有するナシコン型の結晶構造を有するイオン伝導体、および、LiとZrとLaとOとを少なくとも含有するガーネット型の結晶構造、もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導体、および、LiとTiとLaとOとを少なくとも含有するペロブスカイト型構造を有するイオン伝導体の内の少なくとも1種を類が挙げられる。つまりは、これらのイオン伝導体を1種類で用いても、複数種類を混ぜて用いてもよい。
【0024】
本実施形態の固体電解質材料として、ナシコン型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体を用いることが好ましく、例えば、LiZr2(PO4)3、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、で表される固体電解質材料を含むことが好ましい。LiZr2(PO4)3はCaまたはY置換が好ましく、Li1.4Ca0.2Zr1.8(PO4)3、Li1.15Y0.15Zr1.85(PO4)3を例示できる。
【0025】
(正極活物質及び負極活物質)
前述した通り本実施形態の全固体電池10の正極活物質層32及び負極活物質層42は、少なくともリチウムイオンを吸蔵放出することが可能な公知の化合物を正極活物質及び負極活物質を活物質として含む。この他、導電助剤や導イオン助剤、結着剤等を含んでもよい。正極活物質及び負極活物質は、リチウムイオンを効率的に挿入、脱離できることが好ましい。
【0026】
正極活物質及び負極活物質は、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物である。正極活物質及び負極活物質は、具体的には例えば、リチウムマンガン複合酸化物Li2MnaMa1-aO3(0.8≦a≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、スピネル構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、一般式:LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMbPO4(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、リン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO4)3又はLiVOPO4)、Li2MnO3-LiMcO2(Mc=Mn、Co、Ni)で表されるLi過剰系固溶体正極、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、酸化チタン(TiO2)、LisNitCouAlvO2(0.9<s<1.3、0.9<t+u+v<1.1)で表される複合金属酸化物等である。
【0027】
本実施形態の正極活物質及び負極活物質としては、リン酸化合物を主成分として含むことが好ましく、例えば、リン酸バナジウムリチウム(LiVOPO4、Li3V2(PO4)3、Li4(VO)(PO4)2)、ピロリン酸バナジウムリチウム(Li2VOP2O7、Li2VP2O7)、及びLi9V3(P2O7)3(PO4)2のいずれか一つまたは複数であることが好ましく、特に、LiVOPO4及びLi3V2(PO4)3の一方または両方であることが好ましい。
【0028】
本実施形態における主成分とは、正極活物質層及び負極活物質層における正極活物質及び負極活物質全体に対する、リン酸化合物の占める割合が50質量部より大きいことを指し、リン酸化合物の占める割合が80重量部以上であることが好ましい。
【0029】
また、これらの正極活物質及び負極活物質は、各元素の一部を異種元素に置換していたり、化学両論組成から変化していてもよい。LiVOPO4及びLi3V2(PO4)3は、リチウムの欠損がある方が好ましく、LixVOPO4(0.94≦x≦0.98)やLixV2(PO4)3(2.8≦x≦2.95)であればより好ましい。
【0030】
また、負極活物質としては、例えば、Li金属、Li-Al合金、Li-In合金、炭素、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiOx)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、酸化チタン(TiO2)を用いることができる。
【0031】
ここで、正極活物質層32または負極活物質層42を構成する活物質には明確な区別がなく、正極活物質層中の化合物と負極活物質層中の化合物の2種類の化合物の電位を比較して、より貴な電位を示す化合物を正極活物質として用い、より卑な電位を示す化合物を負極活物質として用いることができる。また、リチウムイオン放出とリチウムイオン吸蔵を同時に併せ持つ化合物であれば、正極活物質層32及び負極活物質層42を構成する材料は、同じ材料を用いてもよい。
【0032】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、活性炭等の炭素材料、金、銀、パラジウム、白金、銅、スズ等の金属材料が挙げられる。
【0033】
導イオン助剤としては、例えば、固体電解質である。固体電解質は、具体的に例えば、固体電解質層50に用いられる材料と同様の材料を用いることができる。
【0034】
導イオン助剤として固体電解質を用いる場合、導イオン助剤と、固体電解質層50に用いる固体電解質とが同じ材料を用いることが好ましい。
【0035】
(正極集電体及び負極集電体)
本実施形態の全固体電池10の正極集電体層32及び負極集電体層42を構成する材料は、導電率が大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅、ニッケルなどを用いるのが好ましい。特に、銅は酸化物系リチウムイオン伝導体と反応し難く、さらに全固体電池の内部抵抗の低減効果があるためより好ましい。正極集電体層32及び負極集電体層42を構成する材料は、同じ材料を用いてもよく、異なる材料を用いてもよい。
【0036】
また、本実施形態の全固体電池10の正極集電体層31及び負極集電体層41は、それぞれ正極活物質及び負極活物質を含むことが好ましい。
【0037】
正極集電体層及び負極集電体層が、それぞれ正極活物質及び負極活物質を含むことにより、正極集電体層と正極活物質層及び負極集電体層と負極活物質層との密着性が向上するため望ましい。
【0038】
本実施形態の正極集電体層31及び負極集電体層41における正極活物質及び負極活物質の比率は、集電体として機能する限り特に限定はされないが、正極集電体と正極活物質、または負極集電体と負極活物質が、体積比率で90/10から70/30の範囲であることが好ましい。
【0039】
(マージン層)
本実施形態の全固体電池10のマージン層80は、固体電解質層50と正極30との段差、ならびに固体電解質層50と負極40との段差を解消するために設けることが好ましい。したがって、マージン層80は、正極30以外の領域を示す。このようなマージン層80の存在により、固体電解質層50と正極電極30ならびに負極40との段差が解消されるため、電極の緻密性が高くなり、全固体電池10の焼成による層間剥離(デラミネーション)や反りが生じにくくなる。
【0040】
マージン層80を構成する材料は、例えば固体電解質層50と同じ材料を含むことが好ましい。したがって、ナシコン型、ガーネット型、ペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物系リチウムイオン伝導体を含むことが好ましい。ナシコン型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体としては、LiとM(Mは、Ti、Zr、Ge、Hf、Snの内の少なくとも1つ)とPとOとを少なくとも含有するナシコン型の結晶構造を有するイオン伝導体、および、LiとZrとLaとOとを少なくとも含有するガーネット型の結晶構造、もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導体、および、LiとTiとLaとOとを少なくとも含有するペロブスカイト型構造を有するイオン伝導体の内の少なくとも1種を類が挙げられる。つまりは、これらのイオン伝導体を1種類で用いても、複数種類を混ぜて用いてもよい。
【0041】
(全固体電池の製造方法)
本実施形態の全固体電池10は、次のような手順で製造することができる。正極集電体層31、正極活物質層32、固体電解質層50、負極集電体層41、負極活物質層42、マージン層80の各材料をペースト化する。ペースト化の方法は、特に限定されないが、例えば、ビヒクルに前記各材料の粉末を混合してペーストを得ることができる。ここで、ビヒクルとは、液相における媒質の総称であり、溶媒、バインダー等が含まれる。グリーンシートまたは印刷層を成形するためのペーストに含まれるバインダーは特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを用いることができ、これらの樹脂のうち少なくとも1種をスラリーが含むことができる。
【0042】
また、ペーストには可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤の種類は特に限定されないが、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル等のフタル酸エステル等を使用してもよい。
【0043】
係る方法により、正極集電体層用ペースト、正極活物質層用ペースト、固体電解質層用ペースト、負極活物質層用ペースト、負極集電体層用ペースト、マージン層用ペーストを作製する。
【0044】
作製した固体電解質層用ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材上に所望の厚みで塗布し、必要に応じ乾燥させ、固体電解質用グリーンシート(固体電解質層)50を作製する。固体電解質用グリーンシートの作製方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等の公知の方法を採用することができる。次いで固体電解質用グリーンシート(固体電解質層)50の上に正極活物質層32、正極集電体層31、正極活物質層32を順にスクリーン印刷で印刷積層し、正極30を形成する。さらに、固体電解質用グリーンシート(固体電解質層)50と正極30との段差を埋めるために、正極以外の領域にマージン層80をスクリーン印刷で形成し、正極ユニットを作製する。
【0045】
負極ユニットも正極ユニットと同様の方法で作製することができる。
【0046】
そして正極ユニットと負極ユニットを交互にそれぞれの一端が一致しないようにオフセットを行い積層し、全固体電池の素子が複数含まれた積層基板が作製される。なお積層基板には必要に応じて、積層体の両主面に、外層を設けることができる。外層は固体電解質と同じ材料を用いることができ、固体電解質用グリーンシートを用いることができる。
【0047】
前記製造方法は、並列型の全固体電池10を作製するものであるが、直列型の全固体電池の製造方法は、正極の一端と負極の一端とが一致するように、つまりオフセットを行わないで積層すればよい。この全固体電池では、各集電体層は対向する両端面で外部電極と接合するが、接合強度を高める観点でその両端面側にそれぞれ拡大接合部を有していることが好ましい。
【0048】
さらに作製した積層基板を一括して金型プレス、温水等方圧プレス(WIP)、冷水等方圧プレス(CIP)、静水圧プレスなどで加圧し、密着性を高めることができる。加圧は加熱しながら行う方が好ましく、例えば40~95℃で実施することができる。
【0049】
作製した積層基板は、ダイシング装置を用いて未焼成の全固体電池の積層体20に切断することができる。
【0050】
全固体電池の積層体20を脱バイ及び焼成することで、積層体20を焼結する。脱バイ及び焼成は、窒素雰囲気下で600℃~1000℃の温度で焼成を行うことができる。脱バイ、焼成の保持時間は、例えば0.1~6時間とする。
【0051】
(拡大接合部の形成方法)
拡大接合部は公知の成形・加工方法を用いて形成することができる。一例を挙げると、バレル研磨によって積層体20の側面21および22に露出した集電体層31および41を積層方向に延ばす方法がある。
【0052】
バレル研磨は、未焼成の全固体電池の積層体20に実施してもよく、焼成後の全固体電池の積層体20に実施してもよい。バレル研磨の方式は、水を用いない乾式バレル研磨と、水を用いた湿式バレル研磨がある。湿式バレル研磨を行う場合は、バレル研磨機内に水などの水溶液が別途投入される。
【0053】
バレル処理条件は特に限定するものではなく、適宜調整することができ、積層体に割れや欠けなどの不良が生じない範囲で、t1を大きくすることができればこれに限定されるものではない。
【0054】
まず、バレル研磨機のバレル内に焼結させた積層体20、研磨材、緩衝材を投入し、バレルを回転させることにより、t1の平均厚みを大きくすることができる。回転速度としては30~100rpmで、処理時間としては1~5時間程度行ってもよい。また、積層体同士の衝突により側面に延出する集電体層の厚みが大きくなるのであれば、バレル内に投入する水、研磨材、緩衝材の量を減らしたり、バレル内への投入を省いたりしてもよい。
【0055】
バレル研磨に用いられるバレル形状は、円柱状や多角注状であることが好ましく、研磨条件により、適宜形状を変更することができる。またバレルのサイズは特に限定はされない。
【0056】
バレルに内に投入される研磨材としては、アルミナ、ジルコニア、ポリマー、金属などのメディアを用いることができる。研磨材として用いられるメディアのサイズは、その直径が0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。緩衝材としては、たとえば、水、有機溶媒などの溶液、タンパク質、多糖類、ポリマーなどの有機微粉末を用いることができる。有機微粉末の緩衝材として用いられるメディアのサイズは、その直径が0.01mm以上1mm以下であることが好ましい。研磨材ならびに緩衝材は、単独で使用してもよく、複数の種類が混合されて使用してもよい。また、バレル内に投入される積層体、研磨材、緩衝材の量は、バレル容積の8割以上10割以下であることが好ましく、研磨材と緩衝材の固形分としては、バレル容積の5割以上7割以下であることが好ましい。
【0057】
さらに全固体電池の積層体20から効率的に電流を引き出すため、外部電極(正極外部電極60及び負極外部電極70)を設けることができる。外部電極は、積層体20の対向する一対のいずれかの側面において、正極外部電極60及び負極外部電極70が形成される。外部電極の形成方法としては、スパッタリング法、スクリーン印刷法、またはディップコート法などが挙げられる。スクリーン印刷法、ディップコート法では、金属粉末、樹脂、溶剤を含む外部電極用ペーストを作製し、これを外部電極6として形成させる。次いで、溶剤を飛ばすための焼き付け工程、ならびに外部電極の表面に端子電極を形成させるため、めっき処理を行う。一方、スパッタリング法では、外部電極ならびに端子電極を直接形成することができるため、焼き付け工程、メッキ処理工程が不要となる。
【0058】
前記全固体電池の積層体20は、耐湿性、耐衝撃性を高めるために、例えばコインセル内に封止してもよい。封止方法は特に限定されず、例えば焼成後の積層体を樹脂で封止してもよい。また、Al2O3等の絶縁性を有する絶縁体ペーストを積層体の周囲に塗布またはディップコーティングし、この絶縁ペーストを熱処理することにより封止してもよい。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る全固体電池について説明する。なお、第2の実施形態の説明では、第1の実施形態の全固体電池10と重複する構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0060】
本実施形態に係る全固体電池は、正極あるいは負極のいずれかの集電体層のみが拡大接合部を有する。
図5に示す例では、正極30のみが正極集電体層31に拡大接合部を有し、負極40では負極集電体層41に拡大接合部を有さない。係る構成としても、第1の実施形態と同様に、従来と比して体積膨張による応力負荷が緩和され、全固体電池内でのクラックが抑制され、ひいては、サイクル特性に優れる全固体電池を提供することができる。なお、
図5に示した例では正極のみが集電体層に拡大接合部を有する構成を示したが、負極のみが集電体層に拡大接合部を有する構成とすることでも同様の効果を達成できる。
【0061】
本実施形態では、積層体20の側面21を被覆材で被覆した後にバレル研磨を行う点で第1の実施形態と異なる。一方の側面21を被覆材で被覆することで、バレル研磨の際に側面21側の研磨を行わないものとすることができる。したがって、側面21に露出している正極集電体層の厚みを変えずに、側面22に露出している負極集電体層のみの厚みを変えることができる。なお被覆材は、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を用いることができる。被覆材を用いてバレル研磨を行った後は、有機溶媒にて被覆材を洗浄し除去することができる。有機溶媒は特に限定されないが、Nメチル2ピロリドン等が挙げられる。
【0062】
以上、本発明に係る実施形態について詳細に説明したが、前記の実施形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【実施例】
【0063】
以下、前記の実施形態に基づいて、さらに実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、ペーストの作製における材料の仕込み量の「部」表示は、断りのない限り、「質量部」を意味する。
【0064】
(実施例1)
【0065】
(正極活物質及び負極活物質の作製)
正極活物質及び負極活物質として、以下の方法で作製したリン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO4)3)を用いた。その作製方法としては、Li2CO3とV2O5とNH4H2PO4とを出発材料とし、ボールミルで16時間湿式混合を行い、脱水乾燥した後に得られた粉体を850℃で2時間、窒素水素混合ガス中で仮焼した。仮焼品をボールミルで湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して正極活物質粉末及び負極活物質粉末を得た。この作製した粉体の組成および結晶構造がLi3V2(PO4)3であることは、ICP発光分光分析法、及びX線回折装置を使用して確認した。
【0066】
(正極活物質層用ペースト及び負極活物質層用ペーストの作製)
正極活物質層用ペースト及び負極活物質層用ペーストは、ともにLi3V2(PO4)3の粉末100部に、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、混合・分散して正極活物質層用ペースト及び負極活物質層用ペーストを作製した。
【0067】
(固体電解質層用ペーストの作製)
固体電解質として、以下の方法で作製したリン酸チタンアルミニウムリチウム(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3)を用いた。その作製方法とは、Li2CO3とAl2O3とTiO2とNH4H2PO4を出発材料として、ボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥し、次いで得られた粉末を800℃で2時間、大気中で仮焼した。仮焼後、ボールミルで16時間湿式粉砕を行った後、脱水乾燥して固体電解質の粉末を得た。
【0068】
(X線回折パターン)
固体電解質粉末の結晶構造について、CuKα線を用いて、X線回折パターンを測定した。得られたX線回折パターンについて解析した結果、ICDDカード35-0754のLiTi2(PO4)3(リン酸チタンリチウム)と同じX線回折パターンを示したことから、ナシコン型の結晶構造であることを確認した。
【0069】
次いで、この粉末に、溶媒としてエタノール100部、トルエン200部を加えてボールミルで湿式混合した。その後、ポリビニールブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合して固体電解質層用ペーストを作製した。
【0070】
(固体電解質層用シートの作製)
固体電解質層用ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシートを成形し、厚さ15μmの固体電解質層用シート(固体電解質層)を得た。
【0071】
(正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストの作製)
正極集電体及び負極集電体として、CuとLi3V2(PO4)3とを体積比率で80/20となるように混合した後、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて混合・分散し、正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストを作製した。
【0072】
(マージン層用ペーストの作製)
マージン層用ペーストは、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3の粉末に、溶媒としてエタノール100部、トルエン100部を加えてボールミルで湿式混合し、次いでポリビニールブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合してマージン層用ペーストを作製した。
【0073】
(外部電極ペーストの作製)
銀粉末とエポキシ樹脂、溶剤とを混合及び分散させて、熱硬化型の外部電極ペーストを作製した。
【0074】
これらのペーストを用いて、以下のようにして全固体電池を作製した。
【0075】
(正極ユニットの作製)
前記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極活物質層(第一正極活物質層と呼ぶ)を形成し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上にスクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極集電体層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらにその上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの正極活物質層(第二正極活物質層と呼ぶ)を再度形成し、80℃で10分間乾燥することで、固体電解質層用シートに正極を作製した。次いで、正極の一端の外周に、スクリーン印刷を用いて前記正極と略同一平面の高さのマージン層80を形成し、80℃で10分間乾燥した。次いで、PETフィルムを剥離することで、正極ユニットのシートを得た。
【0076】
(負極ユニットの作製)
前記の固体電解質層用シート上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極活物質層(第一負極活物質層と呼ぶ)を形成し、80℃で10分間乾燥した。次に、その上にスクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極集電体層を形成し、80℃で10分間乾燥した。さらにその上に、スクリーン印刷を用いて厚さ5μmの負極活物質層(第二負極活物質層と呼ぶ)を再度形成し、80℃で10分間乾燥することで、固体電解質層用シートに負極を作製した。次いで、負極の一端の外周に、スクリーン印刷を用いて負極と略同一平面の高さのマージン層を形成し、80℃で10分間乾燥した。次いで、PETフィルムを剥離することで、負極ユニットのシートを得た。
【0077】
(積層体の作製)
正極ユニットと負極ユニットを交互にそれぞれの一端が一致しないようにオフセットしながら複数積層し、積層基板を作製した。さら前記積層基板の両主面に、外層として固体電解質シートを複数積層し、500μmの外層を設けた。これを金型プレスにより熱圧着した後、切断して未焼成の全固体電池の積層体を作製した。次いで、前記積層体を脱バイ・焼成することで、全固体電池の積層体を得た。前記焼成は、窒素中で昇温速度200℃/時間で焼成温度750℃まで昇温して、その温度に2時間保持し、自然冷却後に取り出した。
【0078】
焼成後の前記積層体において、対向する2つの側面に露出した集電体層と露出していない集電体層の平均厚みt1及びt2を測定した結果、t1は2.1μm、t2は3.0μmであるのを確認した。なお、焼成後において、積層体の対向する側面に露出した集電体層の厚みが、露出していない集電体層の厚みよりも小さい理由については、側面に露出した集電体層の方が、積層体内部の集電体層よりも焼成による熱的影響を受けやすいため、側面に露出した集電体層の厚みが小さくなりやすい。
【0079】
(バレル研磨)
前記積層体は、バレル研磨により対向する2つの側面に露出する集電体層の厚みを延伸させ、その厚みを大きくした。なお、バレル研磨は湿式にて行った。
【0080】
バレル容器内に前記積層体と、水と、研磨材として直径1mmのジルコニアメディアと、緩衝材として直径30μm片栗粉とを4:1の割合で投入し、50rpmで回転させ、バレル時間は表1に記載の通りとし、積層体の対向する2つの側面に露出する集電体層の厚みt1を延伸させた。そして前記集電体層の厚みt1を3.3μmになるようにバレル研磨を行った。次いでバレル研磨後、洗浄及び乾燥をさせて実施例1に係る全固体電池の積層体を得た。
【0081】
バレル研磨を行った後、集電体が露出していない対向する2つの側面と平行な断面を、前記一方の側面から対向する側面まで等間隔で21分割するように20箇所の断面を抽出し、その20箇所の断面における側面に露出している箇所の集電体層の平均厚みと、側面に露出していない箇所の集電体層の平均厚みを、それぞれ断面SEM観察により測定し、t1及びt2をそれぞれ算出した。その結果を表1に示す。
【0082】
(外部電極形成工程)
バレル研磨した前記全固体電池の積層体において、集電体が露出している対向する2つの側面に外部電極ペーストを塗布し、150℃、30分の熱硬化を行い、一対の外部電極を形成した。
【0083】
(実施例2~7)
実施例2~7に係る全固体電池は、バレル研磨のバレル時間を表1に記載の通りとすることで、t1を、表1に示す厚みになるように調整した以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0084】
(実施例8)
実施例8に係る全固体電池は、積層体の負極集電体層が露出している側面を、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)で被覆した後にバレル研磨を行い、前記側面に対向する側面に露出している正極集電体層のみを、表1に示す厚みになるように調整した以外は、実施例4と同様にして全固体電池を作製した。なお、バレル研磨後に、Nメチル2ピロリドンの有機溶媒で前記PVdFを洗浄することで除去した。
【0085】
(実施例9)
実施例9に係る全固体電池は、積層体の負極集電体層が露出している側面を、PVdFで被覆した後にバレル研磨を行ったこと以外は、実施例8と同様にして全固体電池を作製した。
【0086】
(比較例1)
比較例1に係る全固体電池は、バレル研磨を行わなかった全固体電池とした。
【0087】
(比較例2)
比較例2に係る全固体電池は、バレル研磨のバレル時間を表1に記載の通りとすることでt1を、表1に示す厚みになるように調整した以外は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0088】
(電池評価)
本実施例ならびに比較例で作製した全固体電池は、下記の電池特性について評価することができる。
【0089】
[充放電サイクル試験]
本実施例ならびに比較例で作製した全固体電池は、例えば以下に示す充放電条件によって充放電サイクル特性を評価することができる。充放電電流の表記は、以降C(シー)レート表記を使う。CレートはnC(またはμA)と表記され(nは数値)、公称容量(μAh)を1/n(h)で充放電できる電流を意味する。例えば1Cとは、1hで公称容量を充電できる充放電電流であり、2Cであれば、0.5hで公称容量を充電できる充放電電流を意味する。例えば、公称容量100μAhの全固体電池の場合、0.1Cの電流は10μA(計算式100μA×0.1=10μA)である。同様に0.2Cの電流は20μA、1Cの電流は100μAである。
【0090】
充放電サイクル試験条件は、25℃の環境下において、0.2Cレートの定電流で1.6Vの電池電圧になるまで定電流充電(CC充電)を行い、その後、0.2Cレートの定電流で0Vの電池電圧になるまで放電させた(CC放電)。前記の充電と放電を1サイクルとし、これを1000サイクルまで繰り返した後の放電容量維持率を充放電サイクル特性として評価した。なお、本実施形態における充放電サイクル特性は、以下の計算式によって算出した。
1000サイクル後の放電容量維持率(%)=(1000サイクル後の放電容量÷1サイクル後の放電容量)×100
【0091】
(結果)
代表として実施例6と比較例1に係る全固体電池の断面のFE-SEM写真を
図6及び
図7に示す。
図6に記載の通り、実施例6では全固体電池の積層体の側面に露出した箇所の正極集電体層の厚みが、積層方向に延伸していることが確認できた。なお、図は省略しているが、負極集電体層においても同様に、積層方向において延伸していることが確認できた。一方、
図7に記載の通り、比較例1に係る全固体電池の断面写真では、積層体の端面に露出した箇所での正極集電体層の厚みは延伸している様子は確認できなかった。なお、図は省略しているが、負極集電体層においても同様に、積層方向において厚みが延伸していることは確認できなかった。
【0092】
表1に実施例1~9ならびに比較例1~2に係る全固体電池のサイクル特性の結果を示す。全固体電池の積層体の側面に露出する、集電体層の拡大接合部の平均厚みt1が、それ以外の非接合部の平均厚みt2よりも大きい実施例1~7に係る全固体電池では、比較例に係る全固体電池よりも優れたサイクル特性が確認され、特に1.0<t1/t2≦4.0を満たす場合において、より優れたサイクル特性が確認された。また、実施例8~9に係る全固体電池の結果から、正極または負極のいずれか一方において、側面に露出した、集電体層の拡大接合部の平均厚みが、それ以外の非接合部の平均厚みt2よりも大きい場合であっても、本発明に係る作用効果が得られることが確認された。一方、側面に露出する、集電体層の拡大接合部の平均厚みt1が、側面に露出しない非接合部の平均厚みt2以下である比較例1~2に係る全固体電池では、サイクル特性が低かった。
【0093】
【0094】
以上、本発明を詳細に説明したが、前記実施形態及び実施例は例示にすぎず、ここに開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0095】
10……全固体電池
20……積層体
30……正極
31………正極集電体層
32………正極活物質層
40……負極
41………負極集電体層
42………負極活物質層
50……固体電解質層
60……正極外部電極
70……負極外部電極
80……マージン層