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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】水素放出方法及び水素供給システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021018461
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022121222
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】504358148
【氏名又は名称】株式会社コベルコE&M
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健人
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 彰利
(72)【発明者】
【氏名】清水 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山内 太郎
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-008039(JP,A)
【文献】特開2006-177434(JP,A)
【文献】特開2019-138349(JP,A)
【文献】特開2019-019884(JP,A)
【文献】特開2006-283886(JP,A)
【文献】特開2015-169269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金及び樹脂で形成されている樹脂複合化水素吸蔵合金を収容する水素タンクに貯蔵されている水素ガスを水素圧縮機に放出する水素放出方法であって、
前記水素ガスの放出に伴う吸熱量Q1と、前記水素吸蔵合金と前記樹脂との合計熱量Q2との関係がQ1<Q2となる必要温度差ΔTを設定する設定工程と、
前記水素吸蔵合金の水素平衡圧及び水素吸蔵量の関係を示すPCT曲線のプラトー領域における前記水素圧縮機の吸い込み圧力に対応する第1温度に前記ΔTを加えた第2温度まで前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後、前記水素タンクが前記水素ガスを前記水素圧縮機に放出する水素放出工程と
を備える水素放出方法。
【請求項2】
前記水素放出工程後、前記水素圧縮機で圧縮した水素ガスをディスペンサで被供給物に供給する工程をさらに備え、
前記設定工程におけるQ1及びQ2を下記式1及び2で算出する請求項1に記載の水素放出方法。
Q1=M×ΔH ・・・・(1)
Q2=(Cpm×Wm+Cpp×Wp)ΔT ・・・・(2)
ただし、Mは、前記被供給物に供給する水素ガスの量[kg]、ΔHは、前記水素吸蔵合金の反応エンタルピー[kJ/mol]、Cpmは、前記水素吸蔵合金の比熱[kJ/kg・K]、Wmは、前記樹脂複合化水素吸蔵合金における前記水素吸蔵合金の含有量[kg]、Cppは、前記樹脂の比熱[kJ/kg・K]、Wpは、前記樹脂複合化水素吸蔵合金における前記樹脂の含有量[kg]である。
【請求項3】
前記水素放出工程後、再度の水素放出工程を行う前に、前記樹脂複合化水素吸蔵合金を再加熱する再加熱工程をさらに備える請求項1又は請求項2に記載の水素放出方法。
【請求項4】
前記水素タンクが複数配置され、この複数の水素タンクを交番運転する請求項1、請求項2又は請求項3に記載の水素放出方法。
【請求項5】
水素ガスを貯蔵する水素タンクと、
前記水素タンクから放出された水素ガスを圧縮する水素圧縮機と
を備え、
前記水素タンクが、水素吸蔵合金及び樹脂で形成され、加熱及び冷却が可能に構成されている樹脂複合化水素吸蔵合金を収容し、
前記水素吸蔵合金の水素平衡圧及び水素吸蔵量の関係を示すPCT曲線のプラトー領域における前記水素圧縮機の吸い込み圧力に対応する第1温度に、前記水素タンクからの水素ガスの放出に伴う吸熱量Q1と、前記水素吸蔵合金と前記樹脂との合計熱量Q2との関係がQ1<Q2となる必要温度差ΔTを加えた第2温度まで前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱することで、前記水素タンクが、貯蔵する水素ガスを前記水素圧縮機に放出する水素供給システム。
【請求項6】
前記水素タンクを複数備える請求項5に記載の水素供給システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素放出方法及び水素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池で作動する自動車又はフォークリフト等の車両の燃料として水素ガスが利用されている。この水素ガスを前記車両の燃料タンクに供給する方法として、水素ガスを吸蔵及び放出する水素吸蔵合金を収容した容器で水素ガスを貯蔵し、この容器から放出された水素ガスを高圧にして前記燃料タンクに供給する方法が用いられている。前記車両への水素ガスの供給は、短時間での供給が繰り返し効率的に行えることが求められている。
【0003】
水素吸蔵合金、潜熱蓄熱材及び熱交換器を収容する圧力容器を備え、前記潜熱蓄熱材が密閉容器に収められて前記水素吸蔵合金に混入されている水素貯蔵供給装置が発案されている(特開2006-177434号公報)。この水素貯蔵供給装置によれば、水素の吸収特性及び放出特性が低下することなく、外部からの冷却及び加熱のためのエネルギーを小さくできるとされている。
【0004】
前記公報所載の装置は、前記水素吸蔵合金の水素の吸蔵及び放出を阻害しないように、前記水素吸蔵合金と前記潜熱蓄熱材とを前記圧力容器内で分離するため、前記潜熱蓄熱材を密閉容器に収め、さらにこの密閉容器を均等に分散させている。このため、前記圧力容器は、構造が複雑になり、低コストで生産できないおそれがある。また、前記水素吸蔵合金及び前記潜熱蓄熱材の熱交換と、前記水素吸蔵合金及び前記熱交換器の熱交換とが個別に行われるため、前記水素吸蔵合金への伝熱効率が低下し、前記圧力容器が水素ガスの放出後に、再放出できる状態に短時間で復帰することができず、複数の前記車両への水素ガスの供給が、随時できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-177434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような事情に鑑みて、本発明は、水素タンクからの水素ガスの放出を効率的にできると共に、短時間で水素ガスの再放出ができる水素放出方法及び水素供給システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、水素吸蔵合金及び樹脂で形成されている樹脂複合化水素吸蔵合金を収容する水素タンクに貯蔵されている水素ガスを水素圧縮機に放出する水素放出方法であって、前記水素ガスの放出に伴う吸熱量Q1と、前記水素吸蔵合金と前記樹脂との合計熱量Q2との関係がQ1<Q2となる必要温度差ΔTを設定する設定工程と、前記水素吸蔵合金の水素平衡圧及び水素吸蔵量の関係を示すPCT曲線のプラトー領域における前記水素圧縮機の吸い込み圧力に対応する第1温度に前記ΔTを加えた第2温度まで前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱する加熱工程と、前記加熱工程後、前記水素タンクが前記水素ガスを前記水素圧縮機に放出する水素放出工程とを備える。
【0008】
本発明の水素放出方法に用いられる水素吸蔵合金は樹脂と複合化されているため、収容される水素タンクの内部を前記水素吸蔵合金と前記樹脂とに隔離するための区画を設ける必要がなく、前記水素タンクの構造を簡易なものとすることができる。また、樹脂複合化水素吸蔵合金とすることで、熱容量を大きくすることができる。当該水素放出方法は、前記水素タンクが、水素ガスを圧縮する水素圧縮機に水素ガスを放出するのに必要な吸熱量Q1と、前記水素吸蔵合金と前記樹脂との合計熱量Q2との関係がQ1<Q2となる必要温度差ΔTを設定する。当該水素放出方法は、前記水素吸蔵合金の水素平衡圧及び水素吸蔵量の関係を示すPCT(Pressure-Composition-Temperature)曲線のプラトー領域における前記水素圧縮機の吸い込み圧力に対応する第1温度に前記ΔTを加えた第2温度まで前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱し、前記水素吸蔵合金から水素ガスを放出させる。当該水素放出方法は、前記樹脂複合化水素吸蔵合金が、熱容量が大きく、水素ガスの放出による吸熱反応の温度低下を比較的緩やかにすることができ、かつ放出前の温度と放出後の温度との差を小さくできる。このため、当該水素放出方法は、水素ガスの放出後の前記水素吸蔵合金を、短時間で再放出可能な状態にとどめることができる。
【0009】
前記水素放出工程後、前記水素圧縮機で圧縮した水素ガスをディスペンサで被供給物に供給する工程をさらに備え、前記設定工程におけるQ1及びQ2を下記式1及び2で算出することが好ましい。
Q1=M×ΔH ・・・・(1)
Q2=(Cpm×Wm+Cpp×Wp)ΔT ・・・・(2)
ただし、Mは、前記被供給物に供給する水素ガスの量[kg]、ΔHは、前記水素吸蔵合金の反応エンタルピー[kJ/mol]、Cpmは、前記水素吸蔵合金の比熱[kJ/kg・K]、Wmは、前記樹脂複合化水素吸蔵合金における前記水素吸蔵合金の含有量[kg]、Cppは、前記樹脂の比熱[kJ/kg・K]、Wpは、前記樹脂複合化水素吸蔵合金における前記樹脂の含有量[kg]である。このようにすることで、前記ΔTを容易に算出して加熱する温度が必要以上に高くなることを抑制でき、効率的な水素ガスの放出ができる。
【0010】
前記水素放出工程後、再度の水素放出工程を行う前に、前記樹脂複合化水素吸蔵合金を再加熱する再加熱工程をさらに備えるのが好ましい。当該水素放出方法は、水素ガスの放出による前記水素吸蔵合金の急激な温度低下を抑制できるため、短時間で水素ガスの再放出が可能な温度まで前記水素吸蔵合金を再加熱できる。このため、応答性の早い水素ガスの放出ができる。水素ガスの放出と、前記水素吸蔵合金の加熱とを交互に繰り返し行うことで、断続的な水素ガスの放出ができ、例えば、複数の燃料電池自動車等の被供給物に対する水素ガスの供給を随時行うことができる。
【0011】
前記水素タンクが複数配置され、この複数の水素タンクを交番運転することが好ましい。このようにすることで、水素ガスを放出して内部圧力が低下した一の水素タンクに新たな水素ガスを充填している最中でも、他の水素タンクから水素ガスを放出できるため、連続して水素ガスを放出できる。
【0012】
前記課題を解決するためになされた本発明の他の態様は、水素ガスを貯蔵する水素タンクと、前記水素タンクから放出された水素ガスを圧縮する水素圧縮機とを備え、前記水素タンクが、水素吸蔵合金及び樹脂で形成され、加熱及び冷却が可能に構成されている樹脂複合化水素吸蔵合金を収容し、前記水素吸蔵合金の水素平衡圧及び水素吸蔵量の関係を示すPCT曲線のプラトー領域における前記水素圧縮機の吸い込み圧力に対応する第1温度に、前記水素タンクからの水素ガスの放出に伴う吸熱量Q1と、前記水素吸蔵合金と前記樹脂との合計熱量Q2との関係がQ1<Q2となる必要温度差ΔTを加えた第2温度まで前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱することで、前記水素タンクが、貯蔵する水素ガスを前記水素圧縮機に放出する水素供給システムである。
【0013】
当該水素供給システムは、熱容量の比較的大きい樹脂複合化水素吸蔵合金を含む水素タンクを備えるため、水素ガスの放出による水素吸蔵合金の急激な温度低下を抑制できる。このため、短時間で前記水素吸蔵合金を水素ガスの再放出に必要な温度に昇温でき、短時間で水素ガスの再放出ができる。
【0014】
前記水素タンクを複数備えるのが好ましい。複数の前記水素タンクを交番運転することで、連続して水素ガスを放出できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水素放出方法及び水素供給システムは、水素タンクからの水素ガスの放出を効率的にできると共に、短時間で水素ガスの再放出ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る水素供給システムの構成を示す模式図である。
図2図2は、図1とは異なる水素供給システムの構成を示す模式図である。
図3図3は、樹脂複合化水素吸蔵合金のPCT曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、各実施形態の構成部材(構成要素)の名称は、背景技術に用いられる名称と異なる場合がある。
【0018】
[第一実施形態]
図1に、本発明の一実施形態である水素供給システム1の構成を示す。
【0019】
<水素供給システム>
当該水素供給システム1は、水素ガスを貯蔵する水素タンク2と、この水素タンク2から放出された水素ガスを圧縮する水素圧縮機3とを主に備える。水素タンク2が貯蔵する水素ガスは、水素製造装置4から供給される。水素圧縮機3は、圧縮した水素ガスを被供給物(不図示)にディスペンサ5を介して供給する。
【0020】
〔水素製造装置〕
水素製造装置4は、高純度な水素ガスを製造して、水素タンク2に供給する。水素製造装置4としては、特に限定されるものでなく、公知の技術を用いることができる。例えば、炭化水素(天然ガス)の改質又は水素を含有する有機ハイドライドの脱水素化により水素リッチガスを得て、この水素リッチガスに含まれる水素以外の不純物を水素精製器で除去して高純度の水素ガスを得る装置などを採用できる。
【0021】
〔水素タンク〕
水素タンク2は、水素製造装置4が製造した水素ガスを貯蔵する。水素タンク2は、水素吸蔵合金及び樹脂で形成され、加熱及び冷却が可能に構成されている樹脂複合化水素吸蔵合金(不図示)を収容する。前記水素吸蔵合金が水素ガスを吸蔵及び放出することで、水素タンク2が水素ガスを貯蔵及び放出する。水素タンク2は、内部の温度を計測する温度計Tを有するのが好ましい。
【0022】
水素供給システム1は、前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱及び冷却可能に構成されている。前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱及び冷却するものとしては、特に限定されず、公知の技術を用いることができる。例えば、水素供給システム1が、温熱媒を供給及び回収する加熱部7と、冷熱媒を供給及び回収する冷却部8と、前記温熱媒及び冷熱媒の熱媒体を挿通する熱媒体流路9とを有し、前記熱媒体との熱交換によって前記複合化水素吸蔵合金を冷却又は加熱できるよう構成することができる。
【0023】
具体的には、熱媒体流路9は、前記温熱媒を前記複合化水素吸蔵合金に供給する温熱媒供給路91と、この温熱媒供給路91と合流し、前記冷熱媒を前記複合化水素吸蔵合金に供給する冷熱媒供給路92と、温熱媒供給路91及び冷熱媒供給路92の合流部分から前記樹脂複合化水素吸蔵合金まで配設される熱媒体供給路93とを有する。温熱媒供給路91及び冷熱媒供給路92それぞれは、開閉自在なバルブ94を含み、前記温熱媒又は冷熱媒が選択的に前記樹脂複合化水素吸蔵合金に送られる。熱媒体供給路93は、前記温熱媒又は冷熱媒を前記樹脂複合化水素吸蔵合金に送るポンプ95を含む。
【0024】
また、熱媒体流路9は、前記複合化水素吸蔵合金と熱交換した熱媒体を加熱部7又は冷却部8に還流する熱媒体還流路96と、熱媒体還流路96から分岐して加熱部7に前記温熱媒を還流する温熱媒還流路97と、熱媒体還流路96から分岐して冷却部8に前記冷熱媒を還流する冷熱媒還流路98とを有する。温熱媒還流路97及び冷熱媒還流路98それぞれは、開閉自在なバルブ94を含み、前記温熱媒又は冷熱媒は、選択的に加熱部7又は冷却部8に送られる。
【0025】
(樹脂複合化水素吸蔵合金)
樹脂複合化水素吸蔵合金は、水素吸蔵合金と樹脂とを混合して複合化されている。前記樹脂複合化水素吸蔵合金の形状としては、特に限定されるものでなく、例えば、シート状又はペレット状などとすることができる。前記樹脂複合化水素吸蔵合金における水素吸蔵合金の原材料としては、特に限定されるものでなく、公知のものを用いることができ、例えば、2元系合金、3元系合金、4元系合金、又は5元系合金等を採用できる。前記樹脂複合化水素吸蔵合金における樹脂の原材料としては、水素ガスの透過性が良好なものであれば特に限定されるものでなく、例えば、シリコーン樹脂等を採用できる。前記樹脂は、比較的熱容量が大きいものが好ましく、具体的には、比熱が1.5J/g・K以上であることが好ましい。
【0026】
前記樹脂複合化水素吸蔵合金における樹脂の含有量としては、特に限定されるものでなく、前記水素吸蔵合金が放出する水素ガスの量に応じた吸熱に相当する熱容量になるように設定されるのが好ましい。具体的には、水素供給システム1の規模などにもよるが、前記含有量としては、5質量%以上50質量%以下が好ましい。前記含有量が前記下限値に満たないと、前記樹脂複合化水素吸蔵合金の熱容量を十分なものにできないおそれがある。前記含有量が前記上限値を超えると、前記水素吸蔵合金の水素ガスの充填密度が低下し、水素タンク2による水素ガスの貯蔵及び放出が十分にできないおそれがある。
【0027】
前記樹脂複合化水素吸蔵合金は、所定量の前記樹脂を含むため、熱容量が比較的大きい。また、前記樹脂は、前記水素吸蔵合金のバインダーとして機能することができ、前記水素吸蔵合金の水素ガスの吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮による水素タンク2への応力を緩和できる。さらに、前記樹脂は、水素ガスを繰り返し吸蔵及び放出することによって微粉化した前記水素吸蔵合金の飛散を抑制できる。
【0028】
〔水素圧縮機〕
水素圧縮機3は、水素タンク2から放出された水素ガスを圧縮し、ディスペンサ5を介して燃料電池自動車などの被供給物に高圧の水素ガスを供給する。水素圧縮機3としては、特に限定されるものでなく、公知の技術を用いることができ、例えば、一般的に使用されている気体を圧縮するコンプレッサ等を採用することができる。また、水素圧縮機3を水素タンク2と同様の構成を有する高圧水素タンクとして、吸蔵合金を用いた多段昇圧システムとしてもよい。
【0029】
当該水素供給システム1が、水素圧縮機3の下流側に高圧蓄圧器6を備えるのが好ましい。高圧蓄圧器6は、水素圧縮機3が圧縮した高圧の水素ガスを貯蔵する。具体的には、当該水素供給システム1が高圧蓄圧器6を備え、高圧蓄圧器6とディスペンサ5とに選択的に水素圧縮機3が水素ガスを供給し、水素タンク2による水素ガスの放出ができない状態にある場合に、高圧蓄圧器6がディスペンサ5に水素ガスを供給できるようにするのが好ましい。このようにすることで、ディスペンサ5から前記被供給物への水素ガスの供給を連続的に行うことができる。
【0030】
<水素放出方法>
水素タンク2に貯蔵されている水素ガスを水素圧縮機3に放出する水素放出方法は、水素ガスの放出に伴う吸熱量Q1と、前記水素吸蔵合金と前記樹脂との合計熱量Q2との関係がQ1<Q2となる必要温度差ΔTを設定する設定工程と、前記水素吸蔵合金の水素平衡圧及び水素吸蔵量の関係を示すPCT曲線のプラトー領域における水素圧縮機3の吸い込み圧力に対応する第1温度に前記ΔTを加えた第2温度まで前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱する加熱工程と、前記加熱工程後、水素タンク2が水素ガスを水素圧縮機3に放出する水素放出工程とを主に備える。
【0031】
また、当該水素放出方法は、予め水素タンク2に水素ガスを貯蔵する工程を有する。
【0032】
〔水素ガス貯蔵工程〕
水素ガス貯蔵工程は、水素製造装置4で製造された高純度な水素ガスを水素タンク2が貯蔵する。具体的には、水素製造装置4で製造された水素ガスは、貯蔵流路10を介して水素タンク2に供給され、前記水素吸蔵合金が水素ガスを吸蔵することで水素タンク2に水素ガスが貯蔵される。貯蔵流路10は、開閉自在な貯蔵バルブ10aを含む。貯蔵バルブ10aは、水素ガスが供給される際には開放される。所定量の水素ガスが水素タンクに供給されると、貯蔵バルブ10aが閉じられて水素ガスが水素タンク2に貯蔵される。
【0033】
〔設定工程〕
設定工程では、水素ガスの放出に伴う吸熱量Q1と、前記水素吸蔵合金と前記樹脂との合計熱量Q2との関係がQ1<Q2となる必要温度差ΔTを設定する。前記水素吸蔵合金は、吸熱反応によって水素ガスを放出するため、後述する加熱工程で、必要量の水素ガスを放出できる温度に前記水素吸蔵合金を加熱する。必要以下の温度に加熱すると、前記水素吸蔵合金が水素ガスを十分に放出することができなくなる恐れがある。必要な温度以上に加熱すると、加熱するために消費されるエネルギー及び加熱時間が増大し、水素ガスの放出が非効率になるおそれがある。予め前記Q1及びQ2の関係がQ1<Q2となるのに必要な温度差ΔTを設定することで加熱を効率的に行える。
【0034】
〔加熱工程〕
加熱工程では、前記水素吸蔵合金の水素平衡圧及び水素吸蔵量の関係を示すPCT曲線のプラトー領域における水素圧縮機3の吸い込み圧力に対応する第1温度に前記ΔTを加えた第2温度まで前記樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱する。前記水素吸蔵合金が放出する水素ガスの圧力が、水素圧縮機3の吸い込み圧力より小さいと水素圧縮機3は水素ガスを取り込むことができない。このため、水素圧縮機3の吸い込み圧力より大きい圧力で水素ガスを放出できるように前記水素吸蔵合金を加熱する。この加熱は、前記PCT曲線のプラトー領域における水素圧縮機3の吸い込み圧力に対応する第1温度に前記ΔTを加えた第2温度まで行う。前記樹脂複合化水素吸蔵合金を前記第2温度まで加熱することで、水素圧縮機3が吸い込み可能な圧力以上で水素ガスを放出でき、かつ水素圧縮機3が被供給物に供給するのに十分な量の水素ガスを放出できる。加熱は、水素タンク2内の水素ガスの圧力及び温度を計測する圧力計P及び温度計Tに基づいて行うことが好ましい。なお、PCT曲線とは、一定温度Tにおける、水素吸蔵合金(金属水素化物)の組成Cと、それに平衡な水素圧力Pとの関係を示すものである。
【0035】
具体的には、水素ガスを吸蔵して放出する前の水素吸蔵合金は、図3のPCT曲線におけるAの状態にある。状態Aにおける前記水素吸蔵合金は、常温である。この状態Aから、前記水素吸蔵合金を加熱して前記第2温度のBの状態に移行させる。
【0036】
〔水素ガス放出工程〕
水素ガス放出工程では、前記加熱工程後、水素タンク2が、水素ガスを水素圧縮機3に放出する。具体的には、加熱されることで水素圧縮機3の吸い込み圧力より高圧力となった前記水素吸蔵合金が水素ガスを放出し、この水素ガスが水素タンク2から水素圧縮機3に放出流路11を介して放出される。放出流路11は、開閉自在な放出バルブ11aを含む。放出バルブ11aは、水素ガスが放出される際には開放される。所定量の水素ガスが水素圧縮機3に放出されると、放出バルブ11aが閉じられて水素ガスの放出が停止する。前記水素吸蔵合金は、水素ガスを放出することで吸熱し、状態BからCの状態に移行する(図3)。放出流路11は、放出バルブ11aの上流側に水素タンク2内の圧力を計測する圧力計Pが配設されることが好ましい。
【0037】
前記水素放出工程後、再度の水素放出工程を行う前に、前記樹脂複合化水素吸蔵合金を再加熱する再加熱工程をさらに備えることが好ましい。このようにして、前記水素放出工程と、前記水素放出工程とを交互に繰り返し行うことで、断続的な水素ガスの放出ができ、複数の被供給物、例えば、複数の燃料電池自動車等の車両に対して、水素ガスを随時供給することができる。
【0038】
具体的には、状態Cに移行した前記水素吸蔵合金を再加熱してB1の状態に移行させる(図3)。水素ガスを再放出してC1の状態に移行した前記水素吸蔵合金をさらに再加熱し、B2の状態に移行させる。このように、加熱と放出とを繰り返すことで、前記複数の車両に水素ガスを随時供給することが容易にできる。
【0039】
再加熱する温度としては、再度設定工程を行うことで必要温度差ΔTを設定し、水素圧縮機3の吸い込み圧力に対応する温度に、再設定したΔTを加えた温度まで再加熱すればよく、又は、加熱工程の第2温度まで加熱すればよい。第2温度は、前記再設定したΔTを加えた温度以上であるため、再放出できる温度として十分である。前記第2温度以上に加熱してもよいが、加熱するエネルギー、加熱時間が増大するおそれがある。
【0040】
水素吸蔵合金の熱容量が小さいと、水素ガスの放出による水素吸蔵合金の吸熱が比較的大きくなり、状態BからDの状態に移行し(図3)、所定の圧力で水素ガスを再放出できるように前記水素吸蔵合金の温度を復帰させることが容易にできないないおそれがある。このため、一般的に、水素吸蔵合金の吸蔵容量を増大することで、水素ガスの放出速度を増大させている。しかし、水素吸蔵合金の吸蔵容量を増大すると水素タンクが大型化し、ひいては水素供給システムが大型化する。このような大型の水素供給システムは、起動に長時間を要するため、工場などで24時間稼働する設備としては問題が生じにくいが、燃料電池自動車、燃料電池フォークリフト等に水素ガスを供給する水素ステーション等は、日々起動及び停止をするDSS(Dairy Start and Stop)運転を行うため、問題となることがある。
【0041】
本発明の発明者達は、水素吸蔵合金を樹脂と複合化して熱容量を大きくすることで、所定の能力での水素ガスの放出が繰り返しできることを発見し、本発明を完成させた。前記熱容量を増大すると、一括的、或いは一時的な水素ガスの放出に対して、吸熱によって低下した水素吸蔵合金の温度を早く復帰できるため、再放出するまでの間隔を短縮できる。特に、本発明の水素放出方法は、水素ステーションのように、燃料電池自動車などの車両に対して、例えば3分間など、数分の一時的な水素ガスの放出を行い、例えば3分間から7分間など、数分で次の車両に水素ガスを再放出をしなければならない設備に適している。また、当該水素放出方法は、前記吸蔵容量を増大するのではなく、前記熱容量を増大しているため、水素タンクを大型化する必要がなく、広大な設置面積と長時間の起動とを要する大型の水素供給システムとなることを抑制できる。この点でも、当該水素放出方法は、DSS運転を行う水素ステーションに適している。
【0042】
水素吸蔵合金は、水素ガスの吸蔵及び放出に際し、熱のやり取りが必要である。この熱のやり取りは、一般的には、水素吸蔵合金を伝熱管、熱交換プレート等にできるだけ薄く接触させることで、伝熱面からの伝熱抵抗を減らし、伝熱速度を向上している。本発明では、水素吸蔵合金と複合化されている樹脂が、伝熱面から離れたところで予め熱を蓄えることで、水素吸蔵合金への伝熱速度を向上している。
【0043】
前記水素放出工程後、水素圧縮機3で圧縮した水素ガスをディスペンサ5で被供給物に供給する工程をさらに備え、前記設定工程におけるQ1及びQ2を下記式1及び2で算出することが好ましい。
Q1=M×ΔH ・・・・(1)
Q2=(Cpm×Wm+Cpp×Wp)ΔT ・・・・(2)
ただし、Mは、前記被供給物に供給する水素ガスの量[kg]、ΔHは、前記水素吸蔵合金の反応エンタルピー[kJ/mol]、Cpmは、前記水素吸蔵合金の比熱[kJ/kg・K]、Wmは、前記樹脂複合化水素吸蔵合金における前記水素吸蔵合金の含有量[kg]、Cppは、前記樹脂の比熱[kJ/kg・K]、Wpは、前記樹脂複合化水素吸蔵合金における前記樹脂の含有量[kg]である。
【0044】
前記の式1及び2を用いることで、ΔTの算出が容易にできるため、必要以上に加熱して加熱用のエネルギーコストが増大すること、及び加熱時間が増大することを抑制でき、効率的な水素ガスの放出ができる。
【0045】
〔水素ガス供給工程〕
水素ガス供給工程は、水素圧縮機3で圧縮した水素ガスをディスペンサ5で被供給物に供給する。水素圧縮機3に放出された水素ガスは、水素圧縮機3で圧縮され、供給流路12を介してディスペンサ5に送られ、ディスペンサ5は、前記車両等に水素ガスを供給する。供給流路12が、分岐され、ディスペンサ5用供給流路12aと、高圧蓄圧器6用供給流路12bとを有し、前記車両等への水素ガスの供給がない場合には、水素圧縮機3が高圧蓄圧器6に水素ガスを供給するのが好ましい。
【0046】
前記式1及び2について、以下に仮定してΔTを算出する。
前記車両などへの水素ガスの供給量 M:3[kg]
水素圧縮機3の吸い込み圧力 Pc:0.6[MPaG]
水素吸蔵合金の平衡圧 Pm:0.1[MPaA at -20℃]
樹脂複合化水素吸蔵合金における前記水素吸蔵合金含有量 Wm:3800[kg]
前記水素吸蔵合金の反応エンタルピー ΔH:-26[kJ/mol]
前記水素吸蔵合金の比熱 Cpm:0.6[kJ/kg・K]
前記樹脂複合化水素吸蔵合金における樹脂の含有量 Wp:760[kg]
前記樹脂の比熱 Cpp:1.8[kJ/kg・K]
【0047】
式1より、
Q1=3×1000÷2.016×26=38.69[MJ]
式2より、
Q2=(0.6×3800+1.8×760)×ΔT=3.65ΔT[MJ]
従って、Q1<Q2とするためには、ΔT>10.6[℃]となる。
【0048】
図3で、プラトー領域のC[H/M]:0.8程度から当該水素放出方法を開始する(状態A)。水素圧縮機3の吸い込み圧力Pc:0.6[MPaG]の平衡圧である前記水素吸蔵合金の温度Tは22[℃]付近であるため、この温度にΔT>10.6[℃]を加算して、前記水素吸蔵合金の温度Tが33[℃]程度になるように加熱する(状態B)。水素ガスの放出後(状態C)に再放出するためには、熱媒体で所定時間(例えば、10分)前記水素吸蔵合金を再加熱し、前記水素吸蔵合金の温度を33[℃]程度にする(状態B1)。このようにすることで、所定能力での水素ガスの再放出が可能となる。水素ガスの再放出後(状態C1)にさらに再放出するためには、熱媒体で所定時間、前記水素吸蔵合金を再加熱し、前記水素吸蔵合金の温度を33[℃]程度にする(状態B2)。複数回の加熱及び放出を行い、水素タンク2内の水素ガスが所定量以下になると、前記水素ガス貯蔵工程を行う。これにより、前記水素吸蔵合金は、状態Aに復帰する。なお、熱容量としては、前記水素吸蔵合金及び樹脂の他、水素タンク2、熱媒体流路9、熱媒体、周辺水素ガス等が考慮されるが、前記樹脂複合化水素吸蔵合金と比較すると、短時間での熱の移動は小さいと考えられるため、Q2の熱量に加算しなくともよいと考察される。
【0049】
<利点>
当該水素供給システム1及び水素放出方法は、熱容量の大きい樹脂複合化水素吸蔵合金を収容している水素タンク2を備えるため、水素ガスの放出による水素吸蔵合金の急激な温度低下を抑制することができる。また、水素吸蔵合金を樹脂と複合化することで、水素供給システムが大型化することを抑制できる。
【0050】
また、当該水素供給システム1及び水素放出方法は、水素吸蔵合金の急激な温度低下を抑制するため、水素タンク2が水素ガスを再放出できる温度まで前記水素吸蔵合金を加熱する時間を短縮でき、複数の被供給物への水素ガスの供給を効率的に行うことができる。
【0051】
[第二実施形態]
図2に、本発明の他の実施形態である水素供給システム20の構成を示す。なお、上述の水素供給システム1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
<水素供給システム>
水素供給システム20は、複数の水素タンクと、この複数の水素タンクから放出された水素ガスを圧縮する水素圧縮機3とを主に備える。本実施形態では、第一水素タンク2a及び第二水素タンク2bの二つの水素タンクを備えた水素供給システム20で説明する。
【0053】
水素製造装置4で製造された水素ガスは、貯蔵流路10と、この貯蔵流路10が分岐した第一貯蔵流路101及び第二貯蔵流路102を介して二つの水素タンク2a,2bに供給される。第一貯蔵流路101及び第二貯蔵流路102それぞれは、開閉自在な貯蔵バルブ10aを含む。
【0054】
二つの水素タンク2a,2bから水素圧縮機3に放出される水素ガスの流路は、第一水素タンク2aと接続されている第一放出流路111と、第二水素タンク2bと接続されている第二放出流路112と、第一放出流路111及び第二放出流路112が合流して水素圧縮機3に接続されている放出流路11とで構成されている。第一放出流路111及び第二放出流路112それぞれは、二つの水素タンク2a,2bの内圧を計測する圧力計Pと、開閉自在なバルブ11aとを含む。
【0055】
二つの水素タンク2a,2bは、それぞれの樹脂複合化水素吸蔵合金を加熱及び冷却するための熱媒体流路9aを有する。加熱部7からの温熱媒を供給する温熱媒供給路91は、第一水素タンク2aに前記温熱媒を供給する第一温熱媒供給路911と、第二水素タンク2bに前記温媒体を供給する第二温熱媒供給路912とに分岐する。冷熱媒を供給する冷熱媒供給路92は、第一水素タンク2aに前記冷熱媒を供給する第一冷熱媒供給路921と、第二水素タンク2bに前記冷媒体を供給する第二冷熱媒供給路922とに分岐する。第一温熱媒供給路911と第一冷熱媒供給路921とは、第一切替バルブ941に接続される。第一切替バルブ941は、第一熱媒体供給路931を介して前記温熱媒又は冷熱媒を選択的に第一水素タンク2aに供給する。第二温熱媒供給路912と第二冷熱媒供給路922とは、第二切替バルブ942に接続される。第二切替バルブ942は、熱媒体供給路932を介して前記温熱媒又は冷熱媒を選択的に第二水素タンク2に供給する。
【0056】
第一水素タンク2aの前記複合化水素吸蔵合金と熱交換した熱媒体を加熱部7又は冷却部8に還流する第一熱媒体還流路961は、第三切替バルブ943と接続される。第三切替バルブ943は、接続されている第一温熱媒還流路971及び第一冷熱媒還流路981に、前記温熱媒又は冷熱媒を選択的に供給する。第二水素タンク2bの熱媒体を還流する第二熱媒体還流路962は、第四切替バルブ944と接続される。第四切替バルブ944は、接続されている第二温熱媒還流路972及び第二冷熱媒還流路982に、前記温熱媒又は冷熱媒を選択的に供給する。第一温熱媒還流路971及び第二温熱媒還流路972は、加熱部7に接続されている温熱媒還流路97に合流する。第一冷熱媒還流路981及び第二冷熱媒還流路982は、冷却部8に接続されている冷熱媒還流路98に合流する。
【0057】
<水素放出方法>
複数の水素タンクは、同時に水素ガスを放出してもよいが、複数の水素タンクを交番運転するのが好ましい。すなわち、二つの水素タンク2a,2bでは、一方が水素ガス貯蔵工程を行っているとき、他方が水素ガス放出工程を行うのが好ましい。
【0058】
具体的には、水素製造装置4で製造した高純度な水素ガスを二つの水素タンク2a,2bに貯蔵する。第一放出流路111のバルブ11aを開放して第一水素タンク2aから水素ガスを放出し、被供給物に水素ガスを供給する。第一水素タンク2aからの水素ガスの放出は、複数回行われてもよく、第一水素タンク2a内の水素ガスの量が所定量以下になるまで行う。この間、第二放出流路112のバルブ11aは閉鎖し、第二水素タンク2bからの水素ガスの放出は行わない。
【0059】
第一水素タンク2a内の水素ガスの量が所定量以下になると、第一放出流路111のバルブ11aを閉鎖し、第一水素タンク2aによる水素ガスの放出を停止する。同時に、第二放出流路112のバルブ11aを開放し、第二水素タンク2bによる水素ガスの放出を開始する。
【0060】
第一貯蔵流路101のバルブ10aを開放し、水素製造装置4で製造した高純度の水素ガスを第一水素タンク2aに供給する。第一水素タンク2a内の水素ガスの量が所定量以上になると第一貯蔵流路101のバルブ10aを閉鎖し、第一水素タンク2aへの水素ガスの供給を停止する。第一水素タンク2aは、第二水素タンク2b内の水素ガスが所定量以下になると水素ガスの放出を開始する。同時に、第二貯蔵流路102の貯蔵バルブ10aを開放して第二水素タンク2bに水素製造装置4から水素ガスを供給する。
【0061】
<利点>
水素供給システム20は、複数の水素タンクを交番運転することで、一の水素タンクが水素ガスを放出できない状態にあっても、他の水素タンクが水素ガスを放出できるため、被供給物への水素ガスの供給を連続的に行うことができる。
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0062】
前記実施形態では、圧力計Pを放出流路11に配設される構成で説明したが、圧力計Pは水素タンク2に配設されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の水素放出方法及び水素供給システムは、水素ガスを燃料として消費する設備に好適に用いることができ、特にDSS運転を行う水素ステーション等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1,20 水素供給システム
2 水素タンク
2a 第一水素タンク
2b 第二水素タンク
3 水素圧縮機
4 水素製造装置
5 ディスペンサ
6 高圧蓄圧器
7 加熱部
8 冷却部
9,9a 熱媒体流路
91 温熱媒供給路
911 第一温熱媒供給路
912 第二温熱媒供給路
92 冷熱媒供給路
921 第一冷熱媒供給路
922 第二冷熱媒供給路
93 熱媒体供給路
931 第一熱媒体供給路
932 第二熱媒体供給路
94 バルブ
941 第一切替バルブ
942 第二切替バルブ
943 第三切替バルブ
944 第四切替バルブ
95 ポンプ
96 熱媒体還流路
961 第一熱媒体還流路
962 第二熱媒体還流路
97 温熱媒還流路
971 第一温熱媒還流路
972 第二温熱媒還流路
98 冷熱媒還流路
981 第一冷熱媒還流路
982 第二冷熱媒還流路
10 貯蔵流路
101 第一貯蔵流路
102 第二貯蔵流路
10a 貯蔵バルブ
11 放出流路
111 第一放出流路
112 第二放出流路
11a 放出バルブ
12 供給流路
12a ディスペンサ用供給流路
12b 高圧蓄圧器用供給流路
A 水素ガスを吸蔵した水素吸蔵合金の常温での状態
B 加熱工程後の水素吸蔵合金の状態
B1 再加熱工程後の水素吸蔵合金の状態
B2 さらに再加熱工程を行った水素吸蔵合金の状態
C 放出工程後の水素吸蔵合金の状態
C1 再放出工程後の水素吸蔵合金の状態
D 熱容量の小さい水素吸蔵合金の放出工程後の状態
P 圧力計
T 温度計
図1
図2
図3