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  • 特許-変圧器の診断システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】変圧器の診断システム
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
H01F27/00 B
H01F27/00 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021135779
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030570
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】皆川 明樹
(72)【発明者】
【氏名】山岸 明
(72)【発明者】
【氏名】杉田 亮佑
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-073478(JP,A)
【文献】特開2011-171413(JP,A)
【文献】特開平07-297038(JP,A)
【文献】特開昭58-018909(JP,A)
【文献】特開2003-289008(JP,A)
【文献】特開2006-024800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00-27/22
H01F 27/28
H01F 27/29-27/30
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油と、巻線とを有する変圧器の診断システムであって、
前記絶縁油の上部と下部の温度および水素を検出する検出部と、
前記検出部からの検出値に基づいて前記上部と前記下部の前記絶縁油の温度から平均油温を算出し、
平均巻線温度と前記平均油温から前記巻線と前記絶縁油の平均温度差を算出し、
前記平均温度差と前記上部の絶縁油温度から巻線上部平均温度を算出し異常を判定する演算部とを有する変圧器の診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の変圧器の診断システムにおいて、
前記巻線に流れる負荷電流を検出する電流検出部を有し、
前記演算部は、検出した負荷電流値から負荷率を演算する変圧器の診断システム。
【請求項3】
請求項1に記載の変圧器の診断システムにおいて、
水素と下部の油温の温度は同じ検出部であり
前記演算部は、
検出した水素の量が、定めておいた閾値を超えると、異常と判定する変圧器の診断システム。
【請求項4】
請求項に記載の変圧器の診断システムにおいて、
前記演算部は、
巻線最高点温度を算出し、
算出した巻線最高点温度から寿命推定をする変圧器の診断システム。
【請求項5】
請求項に記載の変圧器の診断システムにおいて、
前記演算部は、
設計の際に定めるパラメータから巻線最高点温度を推定する変圧器の診断システム。
【請求項6】
請求項1に記載の変圧器の診断システムにおいて、
絶縁紙ポケットを有し、
前記絶縁紙ポケットから採取された絶縁紙を分析した結果に基づいて、前記演算部は、寿
命推定する変圧器の診断システム。
【請求項7】
請求項1に記載の変圧器の診断システムにおいて、
鉄心と、鉄心に装着され、絶縁紙により絶縁された巻線と、巻線及び鉄心を浸漬する絶縁
油とを備える変圧器。
【請求項8】
請求項1に記載の変圧器の診断システムにおいて、
絶縁油と、巻線とを有する変圧器の診断システムであって、
前記絶縁油の上部と下部の温度、および水素の検出データを通信する通信装置と、
前記通信装置から前記検出データを受け取るデータ処理部とを有し、
前記データ処理部は、
前記検出データに基づいて、異常であると診断する変圧器の診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器の異常を診断する技術として、特許文献1は、下部の温度センサと水分量により重合度を推定している。
特許文献2は、上下の温度センサにより負荷率や他の温度情報を取り込まずに監視する。
特許文献3は、温度上昇により劣化診断を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-102694
【文献】特開平5-283240
【文献】特開2006-24800
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油中水分量はその温度によって含有できる量が異なるため、変圧器の下部で水分量を測定した場合には稼働時よりも低い水分量となり、重合度推定値の誤差が大きくなる可能性がある。下部の温度センサと水分量により重合度を推定している特許文献1では、重合度推定値の誤差が大きくなる可能性がある。
【0005】
巻線と油の間では時定数が存在しており、油種や巻線構造によりその時定数が変化してしまうことや、絶縁紙へのダメージを考慮する上では、巻線の温度上昇がキーであり、負荷率を取り込まないで監視をする特許文献2では、異常診断の監視は不十分である。
【0006】
特許文献3は、温度上昇を中心に異常診断をしているが、変圧器の寿命を決定するパラメータは絶縁紙の劣化に加え、絶縁油の劣化や放電の有無など、他の要因についての異常診断も配慮すべきである。しかし、特許文献3では、そのような精度の高い診断は配慮されていない。
【0007】
特許文献1、特許文献2、および特許文献3の技術では、変圧器の寿命を高精度に診断するには十分ではない。
【0008】
本発明の目的は、高精度な診断を可能とする変圧器の診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一例としては、絶縁油と、巻線とを有する変圧器の診断システムであって、
前記絶縁油の上部と下部の温度および水素を検出する検出部と、
前記検出部からの検出値に基づいて、異常を判定する演算部とを有する変圧器の診断システムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高精度な診断が行える変圧器の診断システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1おける変圧器と診断システムを説明する構成図である。
図2】実施例1における巻線温度と油温度との関係を示す図である。
図3】実施例2における変圧器と診断システムを説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1における変圧器と診断システムを説明する構成図である。
【0014】
変圧器1は、図示は省略するが、鉄心と、鉄心に装着され、絶縁紙(巻線絶縁紙)により絶縁された巻線と、巻線及び鉄心を浸漬する絶縁油とを備える油入変圧器である。
【0015】
水素検出部2は、変圧器1の下部の絶縁油における水素ガス成分を検出するセンサからのデータに基づいて水素ガス成分を検出する。ここでは、変圧器1の絶縁油の下部における温度も検出する検出部でもある。水素を検出する検出部と変圧器1の下部における温度を検出する温度検出部を別々のセンサとしてもよい。
【0016】
温度検出部3は、変圧器1の絶縁油の上部における温度を検出する温度センサ(測温抵抗体など)からのデータに基づいて温度を検出する。
【0017】
電流検出部4は、負荷に流れる負荷電流(二次電流)を検出する。
【0018】
変換器6は、水素検出部2、温度検出部3、および電流検出部4からの検出データを、演算用PC(personal computer)7で処理するためにデータ変換を行う。
【0019】
演算用PC7(演算部)は、CPUなどのプロセッサー(処理装置)、メインメモリ、記憶装置、通信装置等を備え、各種情報の処理を行うコンピュータ装置である。演算用PC7のプロセッサー(処理装置)が、後述する演算を実行して、変圧器の異常判定の診断や寿命予測を実行する。
【0020】
本実施例の変圧器の診断システムは、水素ならびに絶縁油の下部の温度を検出する温度検出部2、絶縁油の上部の温度を検出する検出部3、負荷に流れる負荷電流(二次電流)を検出する電流検出部(CT)4、絶縁紙サンプルを採取する絶縁紙ポケット5、データ変換を行う変換器6、および変圧器の異常診断や寿命予測を実行する演算用PC7を有する。
【0021】
本実施例の変圧器の診断システムは、負荷率、上部油温、下部油温にて巻線最高点温度を測定し、温度履歴情報を有線または無線にて演算用PC7が取得する。併せて、演算用PC7が水素センサの情報を取得し、その挙動から異常診断を行う。負荷率は、電流検出部4からの負荷電流から算出できる。検出する電流は負荷電流に限らず、変圧器の一次側の電流から負荷電流を検出するようにしてもよい。
【0022】
巻線最高点温度 θ Hは、以下の式1にて定義されている(変圧器信頼性調査専門委員会「油入変圧器運転指針」社団法人電気学会電気学会技術報告(1部)第143号昭61年11月P.1-2)。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、
θ H :巻線最高点温度(℃)
θ a :周囲温度(℃)(冷却空気または冷却水温度)
θ 0 N:定格負荷時の最高油温上昇(K)
θ g N:定格負荷時の巻線最高点温度と最高油温の差(K)
K:実負荷Pの定格負荷PNに対する比(ここでは負荷率)
R:定格負荷時の負荷損と無負荷損の比(ここではR=Wc(負荷損)/Wi(無負荷損))
m:冷却方式により定まる定数
n:冷却方式により定まる定数
【0025】
式1の中で直接測定可能なパラメータはθa、Kであり、変圧器固有のパラメータで出荷時に規定が可能なパラメータはθ0N、R、m、nである。よって、未知の値はθgNであり、この推定技術が、いろいろと定義されている。
【0026】
事前に測定した値を用いて推定する技術が多く採用されていたが、新規設計の場合、これまでの知見が生かされず事前測定の結果とは異なる問題点があった。
【0027】
本実施例では、実測結果に加えて、それらに起因するパラメータを分析して、機械学習による推定に加え、高精度に巻線最高点温度を推定できる。
【0028】
図2は、実施例1における巻線温度と絶縁油温度との関係を示す図である。
図2の縦軸は、変圧器1の巻線の高さを示し、横軸は変圧器1の温度上昇を示す。
【0029】
実線の丸で囲まれた部位は温度が実測される部位を示す。点線の丸で囲まれた部位は実測された温度から温度が計算される部位を示す。
【0030】
図2の平均巻線温度は、変圧器の運転前の温度試験をすることで実測できる。上部油温(最高油温度)および下部(底部)油温は、変圧器の運転中に上部の絶縁油の温度検出部および下部の絶縁油の温度検出部から、それぞれで温度が実測できる。
【0031】
演算用PC7の処理装置は、実測される上部油温と下部(底部)油温と、既知である巻線の高さから平均油温を計算し、実測された平均巻線温度と平均油温との差から「巻線と油の平均的温度差」Δθwoを計算する。そして、演算用PC7の処理装置は、実測された上部油温(最高油温度)と「巻線と油の平均的温度差」Δθwoから「平均巻線上部温度」を計算する。このように実測した温度から、「平均巻線上部温度」を算出することができる。「平均巻線上部温度」、実測された上部油温(最高油温度)などの情報から、演算用PC7の処理装置は、巻線最高点温度を精度よく推定できる。
【0032】
今までは、通常、変圧器の最高油温度と巻線平均温度を測定しているが、最高点油温と巻線最高点温度との差は15℃で定義されていた。油の種類や設計が異なると巻線温度上昇の傾きと油温度上昇の傾きに変化が生じ、この値がそのまま適用できない例が発生する。
【0033】
本実施例の演算用PC7の処理装置は、油温を上部と下部の2か所で測定、巻線高さの情報からその平均油温を算出し、実測で得られた巻線平均温度との差分を取ることで前述した「定格負荷時の巻線最高点温度と最高油温度の差」であるθgNを15℃一定ではなく、実測に基づいて定義できる。
【0034】
そして、本実施例の演算用PC7の処理装置は、油の種類や設計が異なる場合の巻線温度上昇の傾きと油温度上昇の傾きの変化に従った、最高油温度と巻線最高点温度との差θgNを計算できる。そして、より精度高く巻線最高点温度θHを式1から計算できる。
【0035】
さらに、本実施例の演算用PC7の処理装置は、設計時に決定する各種パラメータ(油種、容量、巻線高さ、冷却ダクト本数、電線断面積、電線形状、損失など)の情報、実測される上部油温と下部(底部)油温、および平均巻線温度などの情報から重回帰曲線により、機械学習をして巻線最高点温度を推定する。推定する巻線最高点温度を、新規設計へ反映することで設計段階での寿命予測を高精度に行うことが可能となる。
【0036】
上記によって得られた巻線最高点温度を用いて、本実施例の演算用PC7の処理装置は、変圧器の寿命予測を行う。変圧器の寿命は絶縁紙の劣化で定義されており、アレニウスの法則にて温度が80℃から150℃の範囲内ではMontsingerの式に近似でき、6℃半減則にて定義すると以下の式2が導出できる。
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、
Y0:最高点温度95℃で連続運転した場合の寿命(25~30年)
Y:最高点温度θで連続運転した場合の寿命
θ:最高点温度θ(巻線最高点温度θHで定義できる)
【0039】
本実施例の演算用PC7の処理装置は、式2に従い、Y/Y0を算出する。式2により、実際に使用した熱履歴の情報から変圧器の余寿命が推定できるようになる。
【0040】
さらに、実際の絶縁紙の劣化についても、変圧器1の上部に取り付けた絶縁紙ポケット5より絶縁紙サンプルを採取し分析することで平均重合度を測定する構成とする。寿命推定が分析結果と合わない場合などに、測定した平均重合度から、補正した式2とし、補正後の式に従って、本実施例の演算用PC7の処理装置が推定演算を実行する。このようにオンライン監視とオフライン監視とで2重に監視をすることができる。そのような構成にすることで、より信頼性の高い、診断システムが構成できる。
【0041】
局所加熱など突発的に発生する異常を見逃したまま放置してしまい、重大な事故が発生しないように、本実施例では、変圧器1のタンク下部に水素検出部2を設ける。演算用PC7の処理装置は、水素検出部2から取得した水素成分があらかじめ定めておいた値(閾値)を超えたことを判定することで、変圧器の異常であると診断をする。
【0042】
水素は全ての異常現象の起因となり、放電、加熱、絶縁紙の劣化に対してもその効果を発揮する。絶縁紙の劣化は油中水分量で代用される場合もあるが、この場合、採取時の温度が変化すると油中の飽和水分量が異なり、析出した水分が絶縁紙へ移行してしまうため、測定結果を見誤る危険性が存在する。その点、気体である水素の場合では、温度変化による溶解度の変化は存在するものの水分量よりはその変化が数倍小さいため、分析精度が格段に向上する。
【0043】
上記した変圧器の検出データは、変換器6を通じて演算用PC7へ取り込まれ、各種演算を実施することで変圧器の異常判定や余寿命診断が実行される。
【0044】
本実施例によれば、高精度な診断が行える変圧器の診断システムを実現できる。
【実施例2】
【0045】
図3は、実施例2における変圧器と診断システムを説明する構成図である。
【0046】
実施例2では、タッチパネル8と第1の無線通信機器9、第2の無線通信機器11、データサーバ10を備えることで、実施例1の演算用PC7を不要とし、第1の無線通信機器9、第2の無線通信機器11を介してデータサーバ10で、変圧器の異常判定や寿命予測の診断が可能である。また、本実施例では絶縁油の上部と下部の温度、水素、負荷電流などの検出データはデータサーバ10に格納可能である。以下、実施例1と同じ事項の説明は省略する。
【0047】
タッチパネル8は、絶縁油の上部と下部の温度、水素、負荷電流などの検出データを変換器6経由で取得する。利用者は、タッチパネル8により、これらの検出データをモニタすることができる。
【0048】
第1の無線通信機器9、第2の無線通信機器11は、タッチパネル8とデータサーバ10との間のデータを通信する。
【0049】
データサーバ10は、第2の無線通信機器11から取得した変圧器1からの検出データに基づいて、実施例1の演算用PC7と同様に、変圧器の異常判定や余寿命診断を行う。
【0050】
本実施例によれば、実施例1の効果に加えて、データサーバ10に複数の変圧器の検出データを格納して、それぞれの変圧器の診断を、集中して管理することができる。
【符号の説明】
【0051】
1:変圧器、2:水素検出部、3:温度検出部、4:電流検出部、5:絶縁紙ポケット、6:変換器、7:演算用PC、8:タッチパネル、9:第1の無線通信機器、10:データサーバ、11:第2の無線通信機器
図1
図2
図3