(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】片面突合せ溶接方法及び溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/06 20060101AFI20240709BHJP
B23K 35/368 20060101ALI20240709BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240709BHJP
B23K 9/035 20060101ALI20240709BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20240709BHJP
B23K 26/348 20140101ALI20240709BHJP
B23K 35/362 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B23K37/06 G
B23K35/368 B
B23K35/30 320A
B23K35/30 A
B23K9/035 Z
B23K9/16 K
B23K26/348
B23K35/362 C
(21)【出願番号】P 2021159967
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】迎井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】八島 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 敬人
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/099004(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/155620(WO,A1)
【文献】特開2015-205280(JP,A)
【文献】特開2010-167466(JP,A)
【文献】特開2000-141082(JP,A)
【文献】特開2014-205166(JP,A)
【文献】特開2021-109243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/06
B23K 35/368
B23K 35/30
B23K 9/035
B23K 9/16
B23K 26/348
B23K 35/362
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の鋼板を突合せて略水平に配置し、前記一対の鋼板の間に構成された突合せ部の下側から裏当てフラックスを配置し、
先行させる第1熱源と、前記第1熱源に追従させる第2熱源とを、前記突合せ部の長手方向における間隔が任意の範囲となるように保持し、
前記突合せ部の上側から、前記第1熱源及び前記第2熱源を前記一対の鋼板に対して相対的に移動させることにより、前記突合せ部を溶接する溶接方法であって、
前記第1熱源及び前記第2熱源のうちいずれか一方を、スラグ形成剤を含有するフラックス入りワイヤを用いたガスメタルアーク熱源とし、
前記第1熱源及び前記第2熱源のうち他方を、レーザ熱源とし、
前記フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対して、前記スラグ形成剤を2.5質量%以上含有することを特徴とする、片面突合せ溶接方法。
【請求項2】
前記スラグ形成剤の含有量は、ワイヤ全質量に対して、18.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項3】
前記スラグ形成剤は、ワイヤ全質量に対して、
TiO
2:2.0質量%以上15.0質量%以下、
SiO
2:0.25質量%以上2.0質量%以下、
ZrO
2:0.15質量%以上1.0質量%以下、
Na
2O、K
2O及びLi
2Oの総量:0.02質量%以上0.50質量%以下、
を含み、
MnO:0.50質量%以下(0質量%を含む)、
Al
2O
3:0.50質量%以下(0質量%を含む)、
金属フッ化物:0.50質量%以下(0質量%を含む)、
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項4】
前記フラックス入りワイヤにおけるフラックス中の、前記スラグ形成剤を除く成分は、ワイヤ全質量に対して、
C:0.5質量%以下、
Si:2.0質量%以下、
Mn:3.0質量%以下、
Ni:5.0質量%以下、
Mo:3.0質量%以下、
W:3.0質量%以下、
Nb:3.0質量%以下、
V:3.0質量%以下、
Cr:5.0質量%以下、
Ti:3.0質量%以下、
Al:3.0質量%以下、
Mg:3.0質量%以下、
N:0.05質量%以下、
S:0.05質量%以下、
P:0.05質量%以下、
B:0.005質量%以下、
Cu:2.0質量%以下、
Ta:3.0質量%以下、
REM:0.1質量%以下、及び
アルカリ金属:3質量%以下であり、
残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項5】
前記フラックス入りワイヤは、外皮にフラックスが充填されたものであり、
前記外皮は、冷間圧延鋼帯により形成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項6】
前記裏当てフラックスは、
金属粉及びスラグ形成剤のうち、少なくとも1種を含有し、
残部が不可避的不純物であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項7】
前記裏当てフラックスは、さらに、
非金属粉、及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉のうち、少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項6に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項8】
前記裏当てフラックスが、前記金属粉を裏当てフラックス全質量に対して、90質量%以上含有する場合に、
前記金属粉は、Si粉及びFe-Si粉の少なくとも一方を含有し、
前記Si粉及び前記Fe-Si粉に含有されるSiの含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、0.5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項9】
前記裏当てフラックスが、前記スラグ形成剤を裏当てフラックス全質量に対して、10質量%超含有する場合に、
前記スラグ形成剤は、金属酸化物及び金属フッ化物を含み、残部が不可避的不純物であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項10】
前記裏当てフラックスが、前記スラグ形成剤を含有する場合に、
前記裏当てフラックスは、原料を水ガラスで混錬し、粒状に造形した後、焼結したものであることを特徴とする、請求項6~9のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項11】
前記第1熱源をガスメタルアーク熱源とし、
前記第2熱源をレーザ熱源とすることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項12】
前記第1熱源の狙い位置と、前記第2熱源の狙い位置との距離が、0mm以上10.0mm以下であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項13】
前記第1熱源のエネルギー照射角度は、前記突合せ部における溶接進行方向に対して45°以上80°以下であり、
前記第2熱源のエネルギー照射角度は、前記突合せ部における溶接進行方向に対して90°以上135°以下であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項14】
前記レーザ熱源を、前記突合せ部の長手方向に対して幅方向に振動させ、
前記レーザ熱源の幅方向の振幅をa
L(mm)、周波数をf
L(Hz)、前記レーザ熱源が狙う位置における前記一対の鋼板の開先幅をG
L(mm)とする場合に、
2a
L≦G
L+1、及び
f
L≦10、
を満足することを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項15】
前記ガスメタルアーク熱源を、前記突合せ部の長手方向に対して幅方向に振動させ、
前記ガスメタルアーク熱源の幅方向の振幅をa
A(mm)、周波数をf
A(Hz)、前記ガスメタルアーク熱源が狙う位置における前記一対の鋼板の開先幅をG
A(mm)とする場合に、
2a
A≦G
A+1、及び
f
A≦10、
を満足することを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の片面突合せ溶接方法を用いて、溶接継手を製造することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板に対して片面側から突合せ溶接するための溶接方法及び溶接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造船等の分野においては、溶接線が長い板継工程を実施するが、鋼板の両側から溶接を行う溶接方法では、片側の溶接の完了後に母材を反転させるか、上向き溶接を行う必要がある。したがって、この板継工程が作業能率を低下させる原因となっており、従来より、板継工程に対する高能率化が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、銅板とフラックスを裏当てに使用し、3本又はそれ以上の電極を使用する片面サブマージアーク溶接方法が開示されている。また、特許文献2には、開先断面積に対する充填剤の充填率に応じて、第1電極の電流値が設計された多電極片面サブマージアーク溶接方法が開示されている。
上記特許文献1及び特許文献2に示すように、複数のソリッドワイヤを並列させてサブマージアーク溶接を実施すると、大溶着量を得ることができ、溶接速度を上昇させることができる。また、フラックスで裏当てを行うことにより、溶接金属の溶落を防止し、健全な継手を得ることができる。
【0004】
しかし、複数のソリッドワイヤによるサブマージアーク溶接は、大入熱溶接であるため、溶接後の熱変形が問題となる。また、開先加工が必要であるため、開先断面積が大きくなり、多量の溶着金属が必要となる。
【0005】
そこで、特許文献3には、金属板材の突合せ部を、少なくともレーザで溶接する突合せ溶接方法が開示されている。上記特許文献3には、開先を最小限にしてレーザを用いる溶接では、幅が狭く、深い溶け込みの溶接が可能であり、結果として入熱が少なくなり、熱歪みが小さい溶接継手を高効率に生成させることができることが記載されている。
なお、上記特許文献3には、レーザをアークと併せて用いるレーザ・アークハイブリッド溶接についても開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2860060号公報
【文献】特開2007-268551号公報
【文献】国際公開第2017/099004号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に記載の溶接方法によると、溶接母材の表面(溶接面)のビード近傍に、多量の大粒スパッタが付着するという問題点が発生する。大粒のスパッタが付着した溶接部は、美観が損なわれるとともに、塗装工程において不良が発生する原因となることから、溶接後にスパッタの除去を行う必要が生じる。したがって、多量のスパッタの付着は、作業コストを増大させる結果につながる。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、深い溶け込みであるとともに、高い溶接速度で施工すること(以降、高速溶接性とも称する。)ができ、熱変形を抑制し、スパッタ発生量を減少させることができる片面突合せ溶接方法及び溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、レーザ溶接を用いることの利点である深い溶け込み、優れた高速溶接性及び熱変形の抑制を確保しつつ、レーザ溶接を用いることにより発生するスパッタ発生量を抑制することができる溶接方法について、鋭意検討を行った。その結果、一方の熱源をレーザ熱源とし、他方の熱源として、スラグ形成剤を含有するフラックス入りワイヤを用いたガスメタルアーク熱源とすることにより、スパッタ発生量を大幅に低減することができることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0010】
本発明の上記目的は、片面突合せ溶接方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0011】
[1] 一対の鋼板を突合せて略水平に配置し、前記一対の鋼板の間に構成された突合せ部の下側から裏当てフラックスを配置し、
先行させる第1熱源と、前記第1熱源に追従させる第2熱源とを、前記突合せ部の長手方向における間隔が任意の範囲となるように保持し、
前記突合せ部の上側から、前記第1熱源及び前記第2熱源を前記一対の鋼板に対して相対的に移動させることにより、前記突合せ部を溶接する溶接方法であって、
前記第1熱源及び前記第2熱源のうちいずれか一方を、スラグ形成剤を含有するフラックス入りワイヤを用いたガスメタルアーク熱源とし、
前記第1熱源及び前記第2熱源のうち他方を、レーザ熱源とし、
前記フラックス入りワイヤは、ワイヤ全質量に対して、前記スラグ形成剤を2.5質量%以上含有することを特徴とする、片面突合せ溶接方法。
【0012】
また、片面突合せ溶接方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[15]に関する。
[2] 前記スラグ形成剤の含有量は、ワイヤ全質量に対して、18.0質量%以下であることを特徴とする、[1]に記載の片面突合せ溶接方法。
【0013】
[3] 前記スラグ形成剤は、ワイヤ全質量に対して、
TiO2:2.0質量%以上15.0質量%以下、
SiO2:0.25質量%以上2.0質量%以下、
ZrO2:0.15質量%以上1.0質量%以下、
Na2O、K2O及びLi2Oの総量:0.02質量%以上0.50質量%以下、
を含み、
MnO:0.50質量%以下(0質量%を含む)、
Al2O3:0.50質量%以下(0質量%を含む)、
金属フッ化物:0.50質量%以下(0質量%を含む)、
であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の片面突合せ溶接方法。
【0014】
[4] 前記フラックス入りワイヤにおけるフラックス中の、前記スラグ形成剤を除く成分は、ワイヤ全質量に対して、
C:0.5質量%以下、
Si:2.0質量%以下、
Mn:3.0質量%以下、
Ni:5.0質量%以下、
Mo:3.0質量%以下、
W:3.0質量%以下、
Nb:3.0質量%以下、
V:3.0質量%以下、
Cr:5.0質量%以下、
Ti:3.0質量%以下、
Al:3.0質量%以下、
Mg:3.0質量%以下、
N:0.05質量%以下、
S:0.05質量%以下、
P:0.05質量%以下、
B:0.005質量%以下、
Cu:2.0質量%以下、
Ta:3.0質量%以下、
REM:0.1質量%以下、及び
アルカリ金属:3質量%以下であり、
残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0015】
[5] 前記フラックス入りワイヤは、外皮にフラックスが充填されたものであり、
前記外皮は、冷間圧延鋼帯により形成されていることを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0016】
[6] 前記裏当てフラックスは、
金属粉及びスラグ形成剤のうち、少なくとも1種を含有し、
残部が不可避的不純物であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0017】
[7] 前記裏当てフラックスは、さらに、
非金属粉、及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉のうち、少なくとも1種を含有することを特徴とする、[6]に記載の片面突合せ溶接方法。
【0018】
[8] 前記裏当てフラックスが、前記金属粉を裏当てフラックス全質量に対して、90質量%以上含有する場合に、
前記金属粉は、Si粉及びFe-Si粉の少なくとも一方を含有し、
前記Si粉及び前記Fe-Si粉に含有されるSiの含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、0.5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする、[6]又は[7]に記載の片面突合せ溶接方法。
【0019】
[9] 前記裏当てフラックスが、前記スラグ形成剤を裏当てフラックス全質量に対して、10質量%超含有する場合に、
前記スラグ形成剤は、金属酸化物及び金属フッ化物を含み、残部が不可避的不純物であることを特徴とする、[6]又は[7]に記載の片面突合せ溶接方法。
【0020】
[10] 前記裏当てフラックスが前記スラグ形成剤を含有する場合に、
前記裏当てフラックスは、原料を水ガラスで混錬し、粒状に造形した後、焼結したものであることを特徴とする、[6]~[9]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0021】
[11] 前記第1熱源をガスメタルアーク熱源とし、
前記第2熱源をレーザ熱源とすることを特徴とする、[1]~[10]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0022】
[12] 前記第1熱源の狙い位置と、前記第2熱源の狙い位置との距離が、0mm以上10.0mm以下であることを特徴とする、[1]~[11]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0023】
[13] 前記第1熱源のエネルギー照射角度は、前記突合せ部における溶接進行方向に対して45°以上80°以下であり、
前記第2熱源のエネルギー照射角度は、前記突合せ部における溶接進行方向に対して90°以上135°以下であることを特徴とする、[1]~[12]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0024】
[14] 前記レーザ熱源を、前記突合せ部の長手方向に対して幅方向に振動させ、
前記レーザ熱源の幅方向の振幅をaL(mm)、周波数をfL(Hz)、前記レーザ熱源が狙う位置における前記一対の鋼板の開先幅をGL(mm)とする場合に、
2aL≦GL+1、及び
fL≦10、
を満足することを特徴とする、[1]~[13]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0025】
[15] 前記ガスメタルアーク熱源を、前記突合せ部の長手方向に対して幅方向に振動させ、
前記ガスメタルアーク熱源の幅方向の振幅をaA(mm)、周波数をfA(Hz)、前記ガスメタルアーク熱源が狙う位置における前記一対の鋼板の開先幅をGA(mm)とする場合に、
2aA≦GA+1、及び
fA≦10、
を満足することを特徴とする、[1]~[14]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法。
【0026】
本発明の上記目的は、溶接継手の製造方法に係る下記[16]に関する。
[16] [1]~[15]のいずれか1つに記載の片面突合せ溶接方法を用いて、溶接継手を製造することを特徴とする、溶接継手の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、深い溶け込みであるとともに、高い溶接速度で施工することができ、熱変形を抑制し、スパッタ発生量を減少させることができる片面突合せ溶接方法及び溶接継手の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る片面突合せ溶接方法の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における溶接条件を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、試験No.1の溶接時の様子を示す図面代用写真である。
【
図5】
図5は、試験No.1の溶接後の継手表面の様子を示す図面代用写真である。
【
図6】
図6は、試験No.6の溶接時の様子を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0030】
[1.片面突合せ溶接方法]
本実施形態に係る片面突合せ溶接方法は、一対の鋼板を突合せて略水平に配置し、一対の鋼板の間に構成された突合せ部の下側から裏当てフラックスを密着させ、突合せ部の上側から、前記突合せ部を溶接する溶接方法である。熱源としては、先行させる第1熱源と、第1熱源に追従する第2熱源とを使用する。そして、第1熱源及び第2熱源を、突合せ部の長手方向における間隔が任意の範囲となるように保持し、これらを一対の鋼板に対して相対的に移動させることにより、鋼板同士を溶接する。
また、第1熱源及び第2熱源のうちいずれか一方を、スラグ形成剤を含有するフラックス入りワイヤを用いたガスメタルアーク熱源とし、第1熱源及び前記第2熱源のうち他方を、レーザ熱源とする。
【0031】
以下、
図1及び
図2を用いて、本実施形態に係る片面突合せ溶接方法の一例を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る片面突合せ溶接方法の一例を示す模式図であり、
図2は、熱源の代表的配置の側面図である。
図1に示すように、一対の鋼板1a、1bを、任意の開先幅Gで突合せて水平に配置し、突合せ部2の下側に、裏当てフラックス11を配置する。裏当てフラックス11は、下敷きフラックス12を介してエアホース13内の気体の圧力によって、突合せ部2側に押圧されている。また、裏当てフラックス11、下敷きフラックス12及びエアホース13は、コの字形の金属ケース15に収納されている。さらに、金属ケース15は、その下方に配置されたエアホース14内の気体の圧力によって持ち上げられ、突合せ部に近接されており、これにより、エアホース13による裏当てフラックス11の押圧を確実にしている。このようにして、裏当てフラックス11を、所定の位置に保持する。
【0032】
次に、突合せ部2の上側に、フラックス入りワイヤ7aを用いたアーク溶接用トーチ7及びレーザ溶接用ヘッド8を任意の間隔で配置する。その後、突合せ部2に、例えば第1熱源としてアーク7bを発生させるとともに、例えば第2熱源としてレーザ光8aを照射しつつ、両者を矢印で示す方向に移動させる。すなわち、アーク7bが先行し、レーザ光8aが追従する形となる。
これにより、突合せ部2並びにその上面及び下面に、それぞれスラグ4、5で被覆された溶接金属3が形成され、これにより、鋼板1aと鋼板1bとが接合される。
【0033】
なお、
図1及び
図2に示す上述の実施形態においては、ガスメタルアーク熱源であるアーク7bを、先行させる第1熱源とし、レーザ熱源であるレーザ光8aを、上記第1熱源に追従させる第2熱源としたが、本発明はこれに限定されない。すなわち、レーザ光8aを先行させ、アーク7bを追従させてもよい。
【0034】
以下、本実施形態に係る片面突合せ溶接方法において使用することができるフラックス入りワイヤ、裏当てフラックス及び溶接条件等について、詳細に説明する。
【0035】
<フラックス入りワイヤ>
本実施形態においては、先行する第1熱源及び追従する第2熱源のうちいずれか一方を、スラグ形成剤を含有するフラックス入りワイヤを用いたガスメタルアーク熱源とする。なお、スラグ形成剤又は金属粉等は、後述する裏当てフラックスにも含まれるため、便宜上、フラックス入りワイヤに含まれるスラグ形成剤、合金を含む金属粉、その他非金属化合物を指す場合は、それぞれ、スラグ形成剤<FCW>、金属粉<FCW>、化合物<FCW>と示し、裏当てフラックスに含まれるスラグ形成剤、合金を含む金属粉、非金属粉、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉を指す場合は、それぞれ、スラグ形成剤<FLUX>、金属粉<FLUX>等、非金属粉<FLUX>、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉<FLUX>と示す。
【0036】
(スラグ形成剤<FCW>:2.5質量%以上18.0質量%以下)
本実施形態においては、ワイヤ中にスラグ形成剤<FCW>を含有することにより、スパッタを防止することができる。ワイヤ中のスラグ形成剤<FCW>が、ワイヤ全質量に対して2.5質量%未満であると、フラックス中に融点の高い酸化物が不足し、フラックス柱を確実に形成することが困難となって、安定して溶滴移行させることができない。仮に、ソリッドワイヤを使用した場合には、他方の熱源として使用するレーザ光が発する金属蒸気により溶滴が跳ね上がり、大粒のスパッタが多量に発生する。
したがって、スラグ形成剤<FCW>の含有量は、ワイヤ全質量に対して、2.5質量%以上とし、3.0質量%以上であることが好ましく、3.4質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
一方、ワイヤ中のスラグ形成剤<FCW>が、ワイヤ全質量に対して18.0質量以下であると、ワイヤ外皮に対するフラックスの量が多くなることによる外皮の薄肉化を抑制することができ、伸線中の断線等の製造上の問題点が発生することを防止することができる。また、フラックスの量を制御することにより、所望の溶着量を得ることができる。したがって、ワイヤ全質量に対するスラグ形成剤<FCW>の含有量は、18.0質量%以下であることが好ましく、15.0質量%以下であることがより好ましく、13.0質量%以下であることがさらに好ましく、10.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0038】
上述のとおり、フラックス入りワイヤ中にはスラグ形成剤<FCW>が含有される。本願明細書において、スラグ形成剤<FCW>とは、ワイヤ中に積極添加している金属酸化物粉、複合酸化物粉、金属フッ化物粉、及び複合フッ化物粉を指す。本実施形態において、含有されることが好ましいスラグ形成剤<FCW>の成分及び好ましい含有量について、以下に具体的に説明する。
【0039】
(TiO2:2.0質量%以上15.0質量%以下)
TiO2は高融点成分であるため、スラグ形成剤<FCW>として、ワイヤ中に適切な含有量でTiO2が含有されていると、フラックス柱が残りやすくなり、アーク安定剤として作用するため、スパッタを低減することができる。
したがって、スラグ形成剤<FCW>中のTiO2の含有量は、ワイヤ全質量に対して、2.0質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましい。
【0040】
一方、スラグ形成剤<FCW>中のTiO2の含有量が15.0質量%より多くなると、溶接中に十分に溶融せず、溶融池中に取り込まれてスラグ巻込みを生じるおそれがある。したがって、スラグ形成剤<FCW>中のTiO2の含有量は、ワイヤ全質量に対して、15.0質量%以下であることが好ましく、13.0質量%以下であることがより好ましく、10.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
(SiO2:0.25質量%以上2.0質量%以下)
SiO2は、TiO2と同様に高融点成分であるため、スラグ形成剤<FCW>として、ワイヤ中に適切な含有量でSiO2が含有されていると、フラックス柱が残りやすくなり、アーク安定剤として作用するため、スパッタを低減することができる。
したがって、スラグ形成剤<FCW>中のSiO2の含有量は、ワイヤ全質量に対して、0.25質量%以上であることが好ましく、よりアーク安定剤として作用させるためには0.30質量%以上であることがより好ましく、0.35質量%以上であることがさらに好ましい。
【0042】
一方、スラグ形成剤<FCW>中のSiO2の含有量が2.0質量%以下であると、スラグ剥離性をより向上させることができる。したがって、スラグ形成剤<FCW>中のSiO2の含有量は、ワイヤ全質量に対して、2.0質量%以下であることが好ましく、1.60質量%以下であることがより好ましく、1.10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
(ZrO2:0.15質量%以上1.0質量%以下)
ZrO2は、TiO2と同様に高融点成分であり、スラグ形成剤<FCW>として、ワイヤ中に適切な含有量でZrO2が含有されていると、フラックス柱が残りやすくなって、ZrO2がアーク安定剤として作用するため、スパッタを低減することができる。また、ZrO2は、スラグの溶融物性に影響を与える成分であり、ビード形状の改善に寄与する。
したがって、スラグ形成剤<FCW>中のZrO2の含有量は、アーク安定剤としての作用をより高めるためには、ワイヤ全質量に対して、0.15質量%以上であることが好ましく、0.19質量%以上であることがより好ましい。
【0044】
一方、スラグ形成剤<FCW>中のZrO2の含有量が1.0質量%以下であると、スラグを、ビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整することができる。したがって、スラグ形成剤<FCW>中のZrO2の含有量は、ワイヤ全質量に対して、1.0質量%以下であることが好ましく、0.95質量%以下であることがより好ましく、0.90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
(Na2O、K2O及びLi2Oの総量:0.02質量%以上0.50質量%以下)
Na2O、K2O及びLi2Oは、アーク安定性を向上させる効果を有する成分である。また、Na2O、K2O及びLi2Oは、スラグの溶融物性に影響を与える成分でもあり、ビード形状の改善に寄与する。本実施形態においては、Na2O、K2O及びLi2Oの全ての成分がワイヤ中に含有されている必要はなく、少なくとも1種の上記アルカリ金属酸化物が含有されていることが好ましく、好ましい含有量はこれらの総量で規定する。
スラグ形成剤<FCW>中のNa2O、K2O及びLi2Oの含有量が、ワイヤ全質量に対して、総量で0.02質量%以上であると、アーク安定性を向上させる効果を得ることができる。したがって、Na2O、K2O及びLi2Oの総量は、ワイヤ全質量に対して、0.02質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。
【0046】
一方、スラグ形成剤<FCW>中のNa2O、K2O及びLi2Oの含有量が、ワイヤ全質量に対して、総量で0.50質量%以下であると、スラグを、ビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整することができる。したがって、Na2O、K2O及びLi2Oの総量は、ワイヤ全質量に対して、0.50質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
(MnO:0.50質量%以下(0質量%を含む))
MnOはスラグの溶融物性に影響を与える成分であり、スラグ形成剤<FCW>として、ワイヤ中に適切な含有量でMnOが含有されていると、ビード形状を向上させることができる。
本実施形態において、スラグ形成剤<FCW>中のMnOの含有量は0質量%であってもよいが、スラグをビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整するために、ワイヤ全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。
【0048】
一方、スラグ形成剤<FCW>中のMnOの含有量が0.50質量%以下であると、スラグをビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整することができる。したがって、スラグ形成剤<FCW>中のMnOの含有量は、ワイヤ全質量に対して、0.50質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましく、0.25質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
(Al2O3:0.50質量%以下(0質量%を含む))
Al2O3は、スラグの溶融物性を調整する成分であり、溶接時のビード形状を良好にする効果を有する。
本実施形態において、スラグ形成剤<FCW>中のAl2O3の含有量は0質量%であってもよいが、スラグをビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整するために、ワイヤ全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。
【0050】
一方、スラグ形成剤<FCW>中のAl2O3の含有量が0.50質量%以下であると、スラグをビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整することができる。したがって、スラグ形成剤<FCW>中のAl2O3の含有量は、ワイヤ全質量に対して、0.50質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
(金属フッ化物:0.50質量%以下(0質量%を含む))
金属フッ化物は、スラグの溶融物性やアーク安定剤として作用する。
本実施形態において、スラグ形成剤<FCW>中の金属フッ化物の含有量は0質量%であってもよいが、アーク安定剤としての作用をより一層高めるためには、ワイヤ全質量に対して、0.02質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上であることがより好ましい。
【0052】
一方、スラグ形成剤<FCW>中の金属フッ化物の含有量が0.50質量%以下であると、スラグをビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整することができる。したがって、スラグ形成剤<FCW>中の金属フッ化物の含有量は、ワイヤ全質量に対して、0.50質量%以下であることが好ましく、0.40質量%以下であることがより好ましく、0.30質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、金属フッ化物としては、K2SiF6、NaF、KF、CeF3、Na3AlF6、Na2SiF6、AlF3、MgF2、K2ZrF6等が挙げられる。
【0053】
また、本実施形態に係る溶接方法において使用されるフラックス入りワイヤは、上記のスラグ形成剤<FCW>以外の成分について特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。本実施形態に対して好適な用途は、深い溶け込み、高速溶接性、低スパッタが特に求められる軟鋼、高張力鋼、低温鋼または耐候性鋼の溶接が挙げられる。よって、スラグ形成剤<FCW>を除くフラックス入りワイヤの任意成分は、軟鋼、高張力鋼若しくは低温鋼用のJIS Z 3313:2009年、又は、耐候性鋼用のJIS Z 3320:2012年に規定される溶着金属の化学成分範囲と同様の成分範囲とすることが好ましい。また、任意の用途に合わせて、軟鋼、高張力鋼若しくは低温鋼用のJIS Z 3313:2009年、又は、耐候性鋼用のJIS Z 3320:2012年に規定されている元素以外の成分が、一般技術常識内でフラックス入りワイヤ中にさらに添加されていてもよく、これにより、機械的性能の調整や溶接作業性を改善してもよい。
【0054】
なお、軟鋼用、高張力鋼用、低温鋼用、耐候性鋼用等として用いられるフラックス入りワイヤにおいて、スラグ形成剤<FCW>を除く任意成分の組成としては、例えば、ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.5質量%以下、Si:2.0質量%以下、Mn:3.0質量%以下、Ni:5.0質量%以下、Mo:3.0質量%以下、W:3.0質量%以下、Nb:3.0質量%以下、V:3.0質量%以下、Cr:5.0質量%以下、Ti:3.0質量%以下、Al:3.0質量%以下、Mg:3.0質量%以下、N:0.05質量%以下、S:0.05質量%以下、P:0.05質量%以下、B:0.005質量%以下、Cu:2.0質量%以下、Ta:3.0質量%以下、REM:0.1質量%以下、及びアルカリ金属:3質量%以下とすることが好ましい。
また、これらの元素は、特に説明がない限り、0質量%も含むものとする。さらに、一般的に軟鋼用、高張力鋼用、低温鋼用、耐候性鋼用等として用いられるフラックス入りワイヤはFe基合金を外皮としている。
【0055】
以下、本実施形態において使用することができるフラックス入りワイヤの任意成分、すなわちスラグ形成剤<FCW>を除く成分について、その限定理由とともにより具体的に説明する。なお、各成分の含有量は、特に規定しない限り、フラックス入りワイヤ全質量に対する質量%で表示する。また、以下に規定するC、P、Sといった非金属成分及び金属成分(合金成分と称してもよい)は、フラックス入りワイヤのフープ(金属帯)及びフラックス中に含まれる金属粉<FCW>、化合物<FCW>等に基づく。
【0056】
(C:0.5質量%以下)
Cは、溶接金属の強度に影響を及ぼす成分であり、含有量が増すほど強度が高まる。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる強度範囲を満足するために、ワイヤ中のCの含有量は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。一方、強度を調整するため、Cの含有量は、0.001質量%以上であることが好ましい。
【0057】
(Mn:3.0質量%以下)
Mnは、溶接金属の強度、靱性に影響を及ぼす成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のMnの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましい。一方、Mnの含有量は、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0058】
(Si:2.0質量%以下)
Siは、溶接金属の脱酸剤として作用して、溶接金属中の酸素含有量を低減し、靱性の向上に寄与する成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のSiの含有量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。一方、Siの含有量は、0.1質量%以上であることが好ましい。
【0059】
(Ni:5.0質量%以下)
Niは、溶接金属のオーステナイト組成を安定化させ、低温での靱性を向上させる成分であり、また、フェライト組成の晶出量を調整できる成分である。ワイヤ中のNiの含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。一方、低温鋼等の溶接に用いられる場合は、Niの含有量は、0.20質量%以上であることが好ましい。
【0060】
(Mo:3.0質量%以下)
Moは、高温強度及び耐孔食性を向上させる成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のMoの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。一方、高張力鋼や耐熱鋼等の溶接に用いられる場合は、Moの含有量は、0.10質量%以上であることが好ましい。
【0061】
(W:3.0質量%以下)
Wは、高温強度及び耐孔食性を向上させる成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のWの含有量は、3.0%質量以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
(Nb:3.0質量%以下)
Nbは、強度等の機械的性能に影響を及ぼす成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のNbの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
(V:3.0質量%以下)
Vは、溶接金属の強度を向上させる効果を発揮する一方で、靱性や耐割れ性を低下させる。そのため、ワイヤ中のVの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
(Cr:5.0質量%以下)
Crは、溶接金属の強度等、機械的性能に影響を及ぼす成分である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のCrの含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることが好ましい。また、耐熱鋼等に用いられる場合は、Crの含有量は、0.10質量%以上であることが好ましい。
【0065】
(Ti:3.0質量%以下)
Tiは、C、Nと結合して結晶粒の微細化に寄与し、主に溶接金属の靱性を向上させる成分となる。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種において、靱性の向上を目的としてワイヤ中にTiを含有させる場合は、ワイヤ中のTiの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。また、Tiの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。
【0066】
(Al:3.0質量%以下)
Alは、脱酸成分であり、溶接金属中の溶存酸素量を低下させ、気孔欠陥発生量を減少させる作用を有する。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種において、靱性の向上を目的としてワイヤ中にAlを含有させる場合は、ワイヤ中のAlの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。また、Alの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.10質量%以上であることがさらに好ましい。
【0067】
(Mg:3.0質量%以下)
Mgは、Alと同様に脱酸成分であり、溶接金属中の溶存酸素量を低下させ、気孔欠陥発生量を減少させる作用を有する。
本実施形態において、ワイヤ中のMgの含有量は0質量%であってもよいが、軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種において、靱性の向上を目的としてワイヤ中にMgを含有させる場合は、ワイヤ中のMgの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。また、Mgの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、ワイヤ全質量に対して、0.10質量%以上であることが好ましく、0.20質量%以上であることがより好ましい。
【0068】
(N:0.05質量%以下)
Nは、結晶構造内に侵入型固溶して強度を向上させる成分である。一方、Nは、溶接金属にブローホールやピットといった気孔欠陥を発生させる原因ともなることから、特に強度を必要とする場合以外は積極的な添加は行わない。したがって、ワイヤ中のNの含有量は、0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。また、Nの含有量は、0.0010質量%以上であることが好ましい。
【0069】
(S:0.05質量%以下)
Sは、ワイヤが溶融した際の溶滴の粘性や表面張力を低下させ、溶滴移行を円滑にすることによって、スパッタを小粒化させ、溶接作業性を向上させる効果を発揮する一方で、耐割れ性を低下させる元素である。そのため、ワイヤ中のSの含有量は、0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましい。また、Sの含有量は、0.0005質量%以上であることが好ましい。
【0070】
(P:0.05質量%以下)
Pは、耐割れ性や溶接金属の機械的性質を低下させる元素であるため、ワイヤ中のPの含有量は、0.05質量%以下に抑制することが好ましく、0.03質量%以下とすることがより好ましい。
【0071】
(B:0.005質量%以下)
Bは、溶接金属中の窒素による靱性の低下を防止する一方で、耐割れ性を低下させる元素である。そのため、ワイヤ中のBの含有量は、0.005質量%以下であることが好ましく、0.003質量%以下であることがより好ましい。また、靱性の確保を目的としてワイヤ中にBを含有させる場合に、Bの含有量は、0.0005質量%以上であることが好ましい。
【0072】
(Cu:2.0質量%以下)
Cuは、溶接金属の強度や耐候性の向上に寄与する元素である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる範囲で、強度及び耐候性を満足するために、ワイヤ中のCuの含有量は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。また、溶接金属の強度や耐候性を確保することを目的として、ワイヤ中にCuを含有させる場合に、Cuの含有量は、0.01%質量以上であることが好ましい。
【0073】
(Ta:3.0質量%以下)
Taは、強度等機械的性能に影響を及ぼす元素である。軟鋼、高張力鋼、低温鋼用等のように、よく用いられる鋼種に求められる機械的性能を満足するために、ワイヤ中のTaの含有量は、3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
(REM合計:0.1質量%以下)
REM(Rare Earth Metals)は、希土類元素を意味し、CeやLa等が挙げられる。REMはSとの親和性が高く、Sの粒界偏析を抑制し、Sによる高温割れを抑制する効果も発揮する。一方、アーク安定性はREMの添加量が少ないほど好ましいため、求められる耐割れ性及びアーク安定性を満足するために、ワイヤ中のREMの合計の含有量は、0.1質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以下とすることがより好ましい。
【0075】
(アルカリ金属の合計:3質量%以下)
アルカリ金属元素はアーク安定剤として作用する。本実施形態におけるアルカリ金属は、1種又は複数のアルカリ金属元素を含有する金属粉<FCW>及び化合物<FCW>に基づくものである。なお、アルカリ金属元素としては、K、Li、Na等が挙げられる。ワイヤ中のアルカリ金属の合計の含有量とは、アルカリ金属元素から構成される金属粉<FCW>及び化合物<FCW>から換算されるワイヤ中のアルカリ金属の合計の含有量を表す。ワイヤ中のアルカリ金属の合計は、ビード形状の改善に好ましい溶融物性に調整しやすくなるという観点から、ワイヤ全質量に対して、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
(残部:Fe及び不可避的不純物)
本実施形態におけるフラックス入りワイヤにおいて、スラグ形成剤<FCW>と、上記元素を除く残部は、Fe及び不可避的不純物であることが好ましい。
残部となるFeの含有量は、80質量%以上であることが好ましく、また、98質量%以下であることが好ましい。不純物とは、意図的に添加しないものを意味し、上記以外の元素として、例えばSn、Co、Sb、As等が挙げられる。また、上記元素が酸化物として含まれる場合に、Oも残部に含まれることとなる。ワイヤ中の不純物の含有量は、合計で0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましい。
【0077】
なお、本実施形態において使用することができるフラックス入りワイヤは、外皮にフラックスが充填されたものであり、外皮は、冷間圧延鋼帯により形成されていることが入手性、経済性の観点から好ましい。冷間圧延鋼帯として、例えば、JIS G 3141:2017に記載された種類の記号SPCC、SPCD、SPCE、SPCF、SPCG等の鋼帯を使用することが好ましい。
【0078】
よって、上述をまとめると、本実施形態において使用することができるフラックス入りワイヤとしては、少なくとも以下とすることが好ましい。
【0079】
すなわち、鋼製外皮の内部に充填されたフラックスを備えるフラックス入りワイヤであって、
フラックス中に、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、スラグ形成剤<FCW>を、2.50%以上18.0%以下、含有し、
スラグ形成剤<FCW>を除く化学成分が、フラックス入りワイヤの全質量に対する質量%で、C:0.5%以下、Si:2.0%以下、Mn:3.0%以下、Ni:5.0%以下、Mo:3.0%以下、W:3.0%以下、Nb:3.0%以下、V:3.0%以下、Cr:5.0%以下、Ti:3.0%以下、Al:3.0%以下、Mg:3.0%以下、N:0.05%以下、S:0.05%以下、P:0.05%以下、B:0.005%以下、Cu:2.0%以下、Ta:3.0%以下、REM:0.1%以下、及びアルカリ金属:3%以下であり、残部は、Fe及び不可避的不純物であるフラックス入りワイヤを使用することが好ましい。
【0080】
<裏当てフラックス>
本実施形態において、裏当てフラックスとしては、金属粉<FLUX>及びスラグ形成剤<FLUX>のうち、少なくとも1種を含有し、残部が不可避的不純物であることが好ましい。なお、裏当てフラックスは、さらに、非金属粉<FLUX>、及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉<FLUX>のうち、少なくとも1種を含有していてもよい。金属粉<FLUX>としては、Fe粉、Si粉、Fe-Si粉の他、Fe-Mn粉、Fe-Al粉やそれらの混合物等が挙げられ、非金属粉<FLUX>としては、グラファイト等が挙げられ、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉<FLUX>としては、スラグ形成剤を除く炭化物、窒化物、硫化物が挙げられる。
【0081】
裏当てフラックスとしては、裏当てフラックス全質量に対して、金属粉<FLUX>を90質量%以上含む、メタルタイプのフラックスと、裏当てフラックス全質量に対して、スラグ形成剤<FLUX>を10質量%超含む、スラグ積極添加フラックスとがあり、用途に応じて適宜使い分ければよい。なお、メタルタイプのフラックスは、溶接金属の酸素低減効果があるため、溶接金属の機械的性能を重視する場合は、メタルタイプのフラックスを選択すればよく、裏ビード形状やスラグ剥離性を重視する場合は、スラグ積極添加フラックスを選択すればよい。
以下、メタルタイプのフラックスとスラグ積極添加フラックスについて説明する
【0082】
<メタルタイプのフラックス>
メタルタイプのフラックスに含まれる金属粉<FLUX>以外の残り10質量%未満は、任意でスラグ形成剤<FLUX>、非金属粉<FLUX>、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉<FLUX>を添加すればよく、これらを除く残部は不純物とする。なお、スラグ剥離性をよくするのであれば、詳細を後述するスラグ形成剤<FLUX>を10質量%未満の範囲で調整すればよく、機械的性能を向上させるのであれば、非金属粉<FLUX>及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉<FLUX>を合計で5質量%以下の範囲で調整させればよい。言い換えれば、スラグ形成剤<FLUX>、非金属粉<FLUX>、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉<FLUX>は必須ではなく、金属粉及び残部不純物としてもよい。なお、非金属粉及びスラグ形成剤を除く非金属化合物粉を構成する主な元素としては、C、N、S等が挙げられ、より好ましくは、C、N、Sの合計量が5質量%以下の範囲で調整されるとよい。
【0083】
金属粉<FLUX>に含有する元素は、Siが含まれていると好ましく、さらにMn、Feが含まれることがより好ましく、Si、Mn、Feのみで構成されることがさらにより好ましい。次に金属粉に含まれるSi、Mn、Feについて詳細を説明する。
【0084】
(裏当てフラックス中のSi:0.5質量%以上50質量%以下)
裏当てフラックス中にSiを含有させると、裏ビード形状を安定化することができ、外観が滑らかになる効果を得ることができる。裏当てフラックス中に金属粉<FLUX>として含有されるSi粉及びFe-Si粉に基づくSiの含有量が、裏当てフラックス全質量に対して、0.5質量%以上であると、裏ビードの外観を良好にすることができる。したがって、裏当てフラックス中のSiの含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。
【0085】
一方、裏当てフラックス中に金属粉<FLUX>として含有されるSi粉及びFe-Si粉に基づくSiの含有量が、裏当てフラックス全質量に対して、50質量%以下であると、裏ビードに含有されるSi量が過大になることにより発生する表面割れを低減することができる。したがって、裏当てフラックス中のSiの含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0086】
(裏当てフラックス中のMn:50質量%以下)
Mnは、焼入れ性を向上させる効果があり、機械的性能の向上に有効な成分である。そこで、本実施形態に係る裏当てフラックスでは、必要に応じて、機械的性能の調整のために含有させればよく、下限は特に問わない。また、軟鋼、高張力鋼若しくは低温鋼用で適用を想定した機械的性能の調整を鑑みると、50質量%以下の範囲で調整することが好ましい。なお、Mnは、Mn単体の他、Fe-Mnなどの合金の形態でフラックスに添加できる。
【0087】
(裏当てフラックス中のFe:99.5質量%以下)
Feはフラックスの見掛密度を高くすることができるため、耐発塵性を必要とする場合は、必要に応じて添加すればよく、下限は特に問わない。また、Feは溶接金属の合金コストを低下させることもできるため、上述のSiやMnを除く、残りの金属粉を、コストの観点からFeとしてもよい。上述のとおり、Siが0.5質量%以上であると、裏ビードの外観を良好にすることができるため、裏ビードの外観の観点から、少なくともFeは、99.5質量%以下であれば好ましいと言える。
なお、Feは、Fe単体の他、Fe-Mn、Fe-Siなどの合金の形態で裏当てフラックス中に添加できる。
【0088】
また、本実施形態において、裏当てフラックスとしては、上記金属粉<FLUX>の他に、スラグ形成剤<FLUX>を含有するものでもよい。裏当てフラックスにスラグ形成剤<FLUX>が含有されると、裏ビードがスラグで保護され、スラグを剥離した後に、光沢のある良好な外観を得ることができる。なお、スラグ形成剤<FLUX>は、金属酸化物及び金属フッ化物を含み、残部が不可避的不純物であることが好ましい。
【0089】
スラグ形成剤<FLUX>中に含有させることができる金属酸化物としては、TiO2、SiO2、ZrO2、MnO、Al2O3、Na2O、K2O、Li2Oが挙げられる。また、スラグ形成剤<FLUX>中に含有させることができる金属フッ化物としては、K2SiF6、NaF、KF、CeF3、Na3AlF6、Na2SiF6、AlF3、MgF2、K2ZrF6等が挙げられる。なお、後述するスラグ積極添加フラックスを用いる場合は、裏当てフラックス全質量に対する質量%で、TiO2:2.00%以上16.00%以下、SiO2:5.00%以上20.00%以下、ZrO2:3.00%以上9.00%以下、Al2O3:3.00%以上9.00%以下、Na2O、K2O及びLi2Oの合計:3.00%以下、K2SiF6、NaF、KF、CeF3、Na3AlF6、Na2SiF6、AlF3、MgF2及びK2ZrF6の合計:35.00%以下とすることが好ましい。
【0090】
<スラグ積極添加フラックス>
なお、裏当てフラックス中のスラグ形成剤<FLUX>の含有量は、高いほどスラグ剥離性が良好となる。したがって、裏当てフラックスとして、スラグ積極添加フラックスを採用する場合、裏当てフラックス中のスラグ形成剤<FLUX>の含有量は、裏当てフラックス全質量に対して、10質量%超含むことが好ましく、14.0質量%以上であることがより好ましい。また、スラグ形成剤<FLUX>の含有量の上限は特に問わないが、スラグ形成剤<FLUX>以外の成分として、必要に応じて、金属粉、非金属元素、スラグ形成剤を除く非金属化合物粉を添加すればよい。例えば、上述のとおり、金属粉に含まれるSiの含有量が、裏当てフラックス全質量に対して、0.5質量%以上であると、裏ビード形状の安定化の観点から好ましいため、スラグ剥離性と裏ビード形状の安定化の両方を望む場合は、スラグ形成剤<FLUX>の含有量は、99.5質量%以下としておくとよい。なお、金属粉に含まれる元素、スラグ形成剤等の詳細については、上述のメタルベースのフラックスにおいて詳細説明したものと同様であり、その効果も同じである。
【0091】
さらに、本実施形態において、裏当てフラックスが上記スラグ形成剤<FLUX>を含有する場合に、裏当てフラックスは、原料を水ガラスで混錬し、粒状に造形した後、焼結したものであることが好ましい。微細な粉末状の裏当てフラックスは、飛散して作業環境を劣化させるおそれがあり、また、振動によって偏析し、溶接結果に偏りをもたらすことがある。
一方、粒状に造形した後、焼結することにより得られた裏当てフラックスは、飛散し難く、偏析が起こり難いため、好適に使用することができる。
【0092】
<溶接条件>
次に、先行させる第1熱源と、これに追従させる第2熱源、及び各熱源による溶接条件について、より詳細に説明する。
【0093】
(第1熱源及び第2熱源)
本実施形態において、先行させる第1熱源をガスメタルアーク熱源とし、これに追従させる第2熱源をレーザ熱源とすることが好ましい。ガスメタルアーク熱源により得られた溶融池上にレーザ熱源を照射することで、ギャップを有する(開先幅Gが0mm超である)場合であっても、裏当てフラックスに熱を逃がすことなく、開先面に熱が伝わりやすくなり、健全な継手を容易に得ることができる。
【0094】
(第1熱源の狙い位置P
1と、第2熱源の狙い位置P
2との距離:0mm以上10.0mm以下)
図3は、本実施形態における溶接条件を説明するための模式図である。
図3において、鋼板1aと不図示の鋼板とが突合せて配置され、突合せ部2が構成されている。また、トーチ17が先行し、レーザヘッド18は、トーチ17に追従しているものとする。
トーチ17から発生する第1熱源の狙い位置P
1と、レーザヘッド18から発生する第2熱源の狙い位置P
2との距離(P
1-P
2間距離)が若干離れていると、フラックス入りワイヤから離脱した溶滴を、レーザに干渉させることなく落下させることができる。一方、P
1-P
2間距離を近くすることにより、溶融効率を高くすることができる。
【0095】
本実施形態においては、第1熱源と第2熱源とを、突合せ部の長手方向における間隔が任意の範囲となるように保持している。第1熱源と第2熱源とは、常に一定の距離を保持しながら移動するものでも、装置のたわみ等を考慮し、任意の範囲内で第1熱源と第2熱源との間隔が増減してもよい。任意の範囲とは、具体的には、先行する第1熱源により溶融した溶融池が溶融している期間内に、追従する熱源が入るような範囲を示す。
具体的には、P1-P2間距離が0mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましい。また、P1-P2間距離は10.0mm以下であることが好ましく、7mm以下であることがより好ましい。
【0096】
(第1熱源のエネルギー照射角度θ1:45°以上80°以下)
(第2熱源のエネルギー照射角度θ2:90°以上135°以下)
第1熱源及び第2熱源は、水平に配置された鋼板1aに対して垂直となるように、各トーチ17、18を配置すると、突合せ部2の深さ方向に効率よく入熱することができる。しかし、トーチ17とトーチ18と干渉しないようにするため、装置の干渉の問題が生じる為、トーチ17、18の角度は適切な範囲を有する。
先行する第1熱源を発生するトーチ17の角度、すなわち第1熱源のエネルギー照射角度θ1は、突合せ部2における溶接進行方向に対して、45°以上80°以下とすることが好ましい。
また、第1熱源に追従する第2熱源を発生するトーチ18の角度、すなわち第2熱源のエネルギー照射角度θ2は、突合せ部2における溶接進行方向に対して、90°以上135°以下とすることが好ましい。
なお、エネルギー照射角度とは、第1熱源、第2熱源の軸中心延長線と、溶接進行方向における溶接線とがなす角度をいう。
【0097】
(2a
L≦G
L+1、f
L≦10)
レーザ熱源によるレーザ溶接は、エネルギー密度が高いとともに、ビード幅が狭い溶接部が得られるため、開先幅に応じて、レーザ熱源を、突合せ部の長手方向に対して幅方向(
図1の左右方向)に振動させることが好ましい。
すなわち、レーザ熱源の幅方向の振幅をa
L(mm)、周波数をf
L(Hz)、レーザ熱源が狙う位置における一対の鋼板の開先幅をG
L(mm)とする場合に、
2a
L≦G
L+1、及び
f
L≦10、を満足することが好ましい。
【0098】
(2aA≦GA+1、fA≦10)
本実施形態においては、レーザ熱源のみを振動させてもよいが、レーザ熱源は振動させず、ガスメタルアーク熱源のみを振動させてもよいし、レーザ熱源及びガスメタルアーク熱源の両方を振動させてもよい。ガスメタルアーク熱源については、振幅、周波数ともに低くし、高加速度となることを防止することが好ましい。一方、ガスメタルアーク熱源を振動させる振幅及び周波数を調整すると、入熱の幅方向範囲を適切に広くすることができ、開先面の溶融状態を健全にすることができる。
すなわち、ガスメタルアーク熱源の幅方向の振幅をaA(mm)、周波数をfA(Hz)、ガスメタルアーク熱源が狙う位置における一対の鋼板の開先幅をGA(mm)とする場合に、
2aA≦GA+1、及び
fA≦10、を満足することが好ましい。
【0099】
(シールドガス)
本実施形態において、シールドガスの種類については特に限定されず、100%CO2ガスや、ArガスとCO2ガスとの混合ガス等を使用することができる。一般的に、Ar含有量の高い混合ガス、例えば80%Ar-20%CO2のガスをシールドガスとして使用すると、スパッタ発生量を抑制することができることが公知である。
本実施形態に係る溶接方法によると、安価な100%CO2ガスを使用しても、スパッタ発生量を十分に抑制することができるため、溶接にかかるコストを低減することができる。
【0100】
[2.溶接継手の製造方法]
本実施形態に係る溶接継手の製造方法は、上記[1.片面突合せ溶接方法]で説明した溶接方法を用いて、溶接継手を製造する方法である。
使用する熱源、ガスメタルアーク熱源用のフラックス入りワイヤの組成、裏当てフラックスの組成及び溶接条件等は、上記[1.片面突合せ溶接方法]で説明したとおりである。
【実施例】
【0101】
以下、発明例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
[1.片面突合せ溶接]
(1-1.被溶接材、ワイヤ及び裏当てフラックスの準備)
被溶接材として、厚さが12mmであるSM490Aの鋼板を2枚準備するとともに、ガスメタルアーク熱源用としての種々の組成を有するワイヤと、種々の組成を有する裏当てフラックスとを準備した。ワイヤとしては、ソリッドワイヤとフラックス入りワイヤを準備した。ソリッドワイヤの種類を下記表1に示し、フラックス入りワイヤのサイズ及び組成を下記表2に示す。また、裏当てフラックスの組成を下記表3に示す。
なお、裏当てフラックス記号BF-Lは、原料を水ガラスで混錬し、粒状に造形した後、焼結したものである。
また、表3において、スラグ形成剤<FLUX>を除く成分としては、Mn、Siの他に、Feも99.5質量%以下の範囲で含まれるが、表中には記載していない。さらに、裏当てフラックスの成分においては、表中に記載の成分の他に、不可避的不純物が含まれる。
【0103】
表2に示すフラックス入りワイヤの外皮としては、JIS G 3141:2017に記載された種類の記号SPCG相当の鋼帯を使用した。SPCG鋼帯に含有される成分の含有量は、C:0.02質量%以下、Mn:0.25質量%以下、P:0.020質量%以下、S:0.020質量%以下である。
表2において、ワイヤ記号F-BのMnOの含有量は、0.004質量%以下であることを示す。
また、表2及び表3において、「-」は、該当する成分を積極的に添加していないことを示す。
【0104】
(1-2.レーザ・アークハイブリッド溶接)
図1及び
図2に示すように、一対の鋼板1a、1bを、開先幅Gで突合せて水平に配置し、突合せ部2の下側に、裏当てフラックス11を配置した。そして、先行させる第1熱源として、アーク(ガスメタルアーク熱源)7b、第1熱源に追従させる第2熱源として、レーザ光(レーザ熱源)8aを使用し、シールドガスとして、100%CO
2ガスを使用して、第1熱源及び第2熱源を、所定の間隔を保持した状態で同時に
図2の矢印で示す方向に移動させた。このようにして、突合せ部2に対してレーザ・アークハイブリッド溶接を実施した。使用したワイヤ及び裏当てフラックスの種類、並びにレーザ条件、アーク条件及び熱源移動条件を下記表4に示す。
【0105】
ただし、表4におけるレーザ条件のフォーカス位置とは、母材である鋼板1a、1bの上面の位置とレーザの焦点位置とのズレを示しており、フォーカス位置が正の値であるとき、レーザの焦点位置が鋼板1a、1bの上面よりも上方であることを示す。また、第1熱源及び第2熱源は、溶接速度、振幅及び周波数をそれぞれ同一としたため、移動条件の欄においては、共通の条件を記載した。なお、振幅の欄において、0とは、振動、すなわちウィービングを実施していないことを示す。したがって、振動させなかったものについては、周波数の欄に「-」と示した。
さらに、
図3に示す第1熱源(ガスメタルアーク熱源)のエネルギー照射角度θ
1を50°、第2熱源(レーザ熱源)のエネルギー照射角度θ
2を100°とし、第1熱源の狙い位置P
1と、第2熱源の狙い位置P
2との距離(P
1-P
2間距離)を3mmとした。また、各熱源の狙い位置中央は、
図1に示す開先幅Gの中央とした。
【0106】
[2.評価]
上記片面突合せ溶接後の継手の表面(溶接面)及び裏面を観察し、以下に示す種々の項目で継手の外観を評価した。
【0107】
(2-1.継手表面のスパッタ)
継手表面におけるスパッタの発生量を目視により観察した。
評価基準としては、1mm以上の大粒スパッタの付着がない状態であったものを「A」(優良)とした。また、溶接線長100mmの範囲において、1mm以上の大粒スパッタの付着が10個未満であったものを「B」(良好)とした。さらに、溶接線長100mmの範囲において、1mm以上の大粒スパッタの付着が10個以上であったものを「NA」(不良)とした。
【0108】
(2-2.継手表面のビード形状)
継手表面のビード形状を目視により観察した。
評価基準としては、滑らかなビード形状であったものを「A」(優良)とした。また、凸形状のビードが得られたものを「B」(良好)とした。さらに、アンダカットやアンダーフィルが発生し、手直し溶接等の追加処理が必要な状態であるが、利用可能であったものを「C」(許容可能)とした。
【0109】
(2-3.継手裏面の溶融状態)
継手裏面の溶融状態を目視により観察した。
評価基準としては、裏面に未溶融の開先が確認されなかったものを「A」(優良)とした。また、裏面に未溶融の開先が確認されたものを「NA」(不良)とした。
【0110】
(2-4.継手裏面の滑らかさ)
継手裏面の滑らかさを目視により観察した。
評価基準としては、スラグの付着が無く、裏ビードの表面が滑らかであったものを「A」(優良)とした。また、スラグの付着残留していた面積が、ビード裏面全面積に対して40%未満であったか、又は上記「A」よりも金属フラックスの付着状態が悪く、凹凸が大きかったものを「B」(良好)とした。さらに、スラグの付着残留していた面積が、ビード裏面全面積に対して40%以上であったが、利用可能であったものを「C」(許容可能)とした。
【0111】
(2-5.継手裏面のビードの垂れ落ち)
継手裏面のビードの垂れ落ちを目視により観察した。
評価基準としては、裏ビードの高さが均一であり、高さが3mm未満であったものを「A」(優良)とした。また、裏ビードの高さが3mm未満であったが、その高さが不均一であったものか、又は裏ビードの高さ3mm以上6mm未満の範囲であったものを「B」(許容可能)とした。さらに、裏ビードの高さが6mm以上であったものを「NA」(不良)とした。
各評価結果を下記表5に併せて示す。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
図4は、試験No.1の溶接時の様子を示す図面代用写真である。また、
図5は、試験No.1の溶接後の継手表面の様子を示す図面代用写真である。比較例である試験No.1は、レーザ・アークハイブリッド溶接であるが、特許文献3に記載された方法と同様に、第1熱源として、ソリッドワイヤ27を用いている。したがって、
図4及び
図5に示すように、溶融池19から大粒のスパッタ21が跳ね上がり、継手表面における溶接線20の両側に、大粒のスパッタ21が多量に付着した。
また、比較例である試験No.2は、フラックス入りワイヤ中のスラグ形成剤の含有量が本発明において規定する範囲の下限値未満であるため、大粒のスパッタが発生した。
【0118】
図6は、試験No.6の溶接時の様子を示す図面代用写真である。発明例である試験No.6は、本発明において規定する片面突合せ溶接方法により溶接を実施したものであり、第1熱源として、スラグ形成剤を含有するフラックス入りワイヤ7aを用いている。したがって、
図6に示すように、ワイヤの先端にフラックス柱10が形成され、これに沿って溶滴が移行したため、大粒のスパッタの飛散が減少した。
【0119】
このように、本発明に係る片面突合せ溶接方法、及び本発明に係る溶接継手の製造方法によると、深い溶け込み及び大溶着量を得ることができるとともに、スパッタ発生量を減少させることができ、熱変形が抑制された溶接継手を得ることができた。また、シールドガスとして、100%CO2ガスを使用しても、スパッタの発生を減少させることができるため、溶接継手の製造コストを低減することができた。
【符号の説明】
【0120】
1a,1b 鋼板
2 突合せ部
3 溶接金属
4,5 スラグ
7a フラックス入りワイヤ
7b アーク
8a レーザ光
10 フラックス柱
11 裏当てフラックス
21 スパッタ