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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】動的光散乱を用いた水の不純物測定
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/0205 20240101AFI20240709BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G01N15/0205
G01N21/49 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021566520
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-15
(86)【国際出願番号】 SE2020050492
(87)【国際公開番号】W WO2020231318
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】1950577-5
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】521177304
【氏名又は名称】ナノサイズド、スウェーデン、アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】NANOSIZED SWEDEN AB
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド、ナースルンド
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-521967(JP,A)
【文献】国際公開第2006/132242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/1492
G01N 21/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の不純物の程度を決定するための方法であって、
-テストされる水の複数のサンプルの動的光散乱分析を実行するステップ(200)を備え、
前記複数のサンプルの各サンプルは、それぞれの径およびそれぞれの既知の量の添加された単一径ポリマビーズを含み、
且つ、さらに
-前記動的光散乱分析の粒径分布曲線(40)において、バックグラウンドノイズレベル(42)を超える識別可能な、検出可能な信号(44)を生じさせる前記単一径ポリマビーズの最小径を決定するステップ(220)と、
-前記動的光散乱分析の前記粒径分布曲線(40)において、前記バックグラウンドノイズレベル(42)を超える識別可能な、検出可能な信号(44)を生じさせる前記決定された最小径の前記単一径ポリマの最小量を決定するステップ(230)と、
-前記単一ポリマの前記決定された最小径および前記決定された最小量に依存して、前記テストされる水の不純物の程度を割り当てるステップ(240)と、
によって水の不純物の程度を決定する、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記テストされる複数の水サンプルの動的光散乱分析を実行するステップ(200)は、
-a)ある量の第1径の単一径ポリマビーズを、テストされる水サンプルに加えるステップ(202)と、
-b)前記水サンプルの動的光散乱分析を実行するステップ(204)と、
-c)前記動的光散乱分析の粒径分布曲線(40)において、バックグラウンドノイズレベル(42)を超える識別可能な、前記単一径ポリマビーズの検出可能な信号(44)が得られるまで、前記第1径の単一径ポリマビーズの量を連続的に増加させる(212)ために、前記ステップa)およびb)を繰り返すステップと、
-d)ある量の第2径の単一径ポリマビーズを水サンプルに加えるステップであって、前記第2径は、前記第1径よりも小さいことを特徴とし、
-e)前記第2径に対して前記a)、b)、c)のステップを実行するステップと、
-f)前記動的光散乱分析の前記粒径分布曲線(40)において、所定の最大量を超える量の単一径ポリマビーズが、前記単一径ポリマビーズのバックグラウンドノイズレベル(42)を超える識別可能な信号(44)を生じさせなくなるまで、前記単一径ポリマビーズの径を連続的に小さくする(208)ために、ステップd)およびe)を繰り返すステップと、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出可能な信号(44)は、前記添加された単一径ポリマビーズに対応する径(S)で、バックグラウンドノイズレベル(42)を超えて識別可能な信号であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記単一径ポリマビーズの径は、所定の径のセットから選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記単一径ポリマビーズは、5-400nmの径範囲の単一径ポリマビーズを含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記単一径ポリマビーズは、単一径ラテックスビーズであることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記不純物の程度を割り当てるステップは、前記不純物の程度を、前記単一径ポリマの前記決定された最小径および前記決定された最小量を乾式分析による前記不純物の特性評価の結果と相関させたデータベースから、検索することを備えることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記不純物の程度は、典型的な不純物の粒径と体積単位あたりの不純物粒子の数を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
製造工程において使用される水の不純物分類方法であって、
-前記製造工程の不純物限界に対応する既知の不純物の程度を有する較正水サンプルについて、請求項1から8のいずれかに記載の、水の不純物の程度の決定を実行するステップ(250)と、
-前記較正水サンプルについて、前記単一径ポリマビーズの閾値径および閾値量を、それぞれ、前記単一径ポリマの前記決定された最小径および前記された最小量として定義するステップ(252)と、
-前記製造工程で使用される水から処理水サンプルを取得すること(260)と、
-前記閾値径の前記単一径ポリマビーズの前記閾値量を、前記処理水サンプルに加えるステップ(262)と、
-前記添加された単一径ポリマビーズを用いて、前記処理水サンプルの動的光散乱分析を実行するステップ(264)と、
-前記添加された単一径ポリマビーズが、前記動的光散乱分析の前記粒径分布曲線(40)において、バックグラウンドノイズレベル(42)を超える識別可能な、検出可能な信号(44)を生じさせるかを決定するステップ(266)と、
-信号(44)が検出可能である場合、前記処理水サンプルを前記不純物限界以下の不純物レベルを有すると分類(268)し、信号(44)が検出できない場合、前記処理水サンプルを、前記不純物限界より高い不純物レベルを有すると分類するステップと、
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に水の不純物測定に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の半導体業界では、より小さなサイズの電子部品を使う傾向にある。可能な限り細い線幅の部品を有するウェーハを製造するための継続的な努力がなされている。
【0003】
製造工程中のウェーハの洗浄は重要な要素の一つである。リンス水に不純物が含まれていると、これらの不純物が水の表面に付着し構造を破壊する可能性がある。一般的に、製造されるウェーハの不良率を安定的に低く維持するためには、リンス水の不純物がウェーハ構造の線幅より小さくなければならないと考えられている。
【0004】
不純物の径(サイズ)と量(数)を定量化及び評価するために利用可能な、様々な先行技術の分析方法がある。一つのアプローチは光電子分光法(PES:Photoelectron spectroscopy)を用いるもので、明確に定義されたエネルギーの電磁波をサンプルに入射させ、サンプルから電子の放出を誘発するものである。励起X線を使用する場合は化学分析用電子分光法(ESCA:Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)またはX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)と呼ばれる。励起X線のエネルギーと放出された光電子の運動エネルギーとの間のエネルギー差を測定することにより、原子内の電子の結合エネルギーを決定することが出来る。これらの結合エネルギーは元素の特性であり、原子レベルでの化学環境の一部でもあるため、表面の元素構成とその化学組成を決定するために利用することが出来る。物質中の光電子の平均自由行程は非常に限られているため、この方法は非常に表面に敏感である。良く特徴付けられた基板上で水サンプルを乾燥させることにより、水に溶解したパーティクルや物質が基板上に残って、ESCAなどの方法で簡単に識別及び測定出来る。
【0005】
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)は小さな特徴を画像化するための方法である。集束された電子ビームのラスタースキャンパターンで表面がスキャンされる。電子はサンプル内の原子と相互作用し、表面トポグラフィー及び場合によってはサンプルの組成に関する情報までも含む様々な信号を生じる。ビームの位置は、検出された信号の強度と組み合わされて画像を生成する。最も一般的なSEMモードでは、電子ビームによって励起された原子から放出された二次電子が検出される。検出出来る二次電子の数、したがって信号強度は、とりわけ、試料のトポグラフィーに依存する。SEMは1ナノメートルより優れた解像度を達成できるため、乾燥サンプルとして提供される不純物のサイズを分析するために利用出来る。
【0006】
水質のテストに使用出来る他の分析方法も多数ある。ある報告は、M.P.Herrling and P.Rychen,”Review of nanoparticles in ultrapure water:definitions and current metrologies of detection and control”,Ultrapure micro,vol.1 No.1,Nov.30 2017,pp.34-43.に記載されている。ここでは、10nm未満の目標粒径(target particle size)は、今のところ、凝縮粒子カウンターを使用するシステムとバッチ測定モードを使用する手法によってのみカバー出来ると結論付けられている。
【0007】
動的光散乱(DLS:Dynamic Light Scattering)は、サンプル内のブラウン運動の記録に基づくトラッキング解析法である。粒子が10nm未満の径の場合に行われている。しかし、測定可能な信号を達成するためには、粒子の濃度は非常に高くなければならなく、この濃度は半導体業界でリンス水に要求される純度レベルよりも数桁は高い。
【0008】
したがって、非常に狭い線幅を目指す場合、リンス水が許容できる品質であることを直接、オンラインで確認するための適切な方法は存在しない。
【0009】
半導体製造工程における水の不純物を確認する方法は、品質が不十分な水が使用されたバッチを迅速に検出するために十分高速でないといけない。そうすることで、追加のバッチが影響を受ける前にそのようなバッチを拒否することと、水質が悪い理由を調査することが可能となる。同時に、今後の線幅と互換性を持たせるために、少なくとも5-20nmの領域の不純物に敏感でなければいけない。さらに、現在構築中のサブナノメートルのライン幅を備えた誘導自己組織化(DSA:Directed Self-Assembly)を利用するプロセスラインは、さらに高い純度の処理水を必要とする可能性がある。
【発明の概要】
【0010】
一般的な目的は、製造工程でのオンライン確認方法として使用するのに適した水の不純物を決定する方法を実現することである。
【0011】
上記の目的は、独立請求項に係る方法及びデバイスによって達成される。好ましい実施形態は、従属請求項に規定されている。
【0012】
第一の態様では、一般的に、水の不純物の程度を決定する方法は、テストされる水の複数のサンプルのDLS分析を実行することを備える。複数のサンプルの各サンプルは、それぞれの径及びそれぞれの既知の量の添加された単一径ポリマビーズを含む。さらに、DLS分析の粒径分布曲線において、バックグラウンドノイズレベルを超える識別可能な、検出可能な信号を生じさせる単一径ポリマビーズの最小径を決定することを備える。同様に、DLS分析の粒径分布曲線において、バックグラウンドノイズレベルを超える識別可能な、検出可能な信号を生じさせる、決定された最小径の単一径ポリマの最小量が決定される。テストされる水の不純物の程度は、決定された単一径ポリマの最小径及び最小量に応じて割り当てられる。
【0013】
第二の態様では、製造工程で使用される水の不純物分類のための方法は、製造工程の不純物限界に対応する既知の不純物の程度を有する較正水サンプルについて、第1の態様に係る水の不純物の程度を決定することを実行することを備える。較正水サンプルについて、単一径ポリマビーズの閾値径及び閾値量は、それぞれ、単一径ポリマの決定された最小径及び最小量として定義される。処理水サンプルは製造工程で使用される水から取得される。閾値径の単一径ポリマビーズの閾値量が、処理水サンプルに添加される。添加された単一径ポリマビーズを用いて、処理水サンプルのDLS分析を実行する。添加された単一径ポリマビーズが、DLS分析の粒径分布曲線において、バックグラウンドノイズレベルを超える識別可能な、検出可能な信号を生じさせるかを決定する。信号が検出可能である場合、処理水サンプルが不純物限界以下の不純物レベルを有すると分類し、信号が検出できない場合、処理水サンプルが不純物限界より高い不純物レベルを有すると分類する。
【0014】
提案する技術による1つの利点は、低ナノメートル範囲で水の純度を決定するための、高速、湿式、且つオンラインの作業が利用可能なことである。他の利点は、詳細な説明を読むことにより、明瞭となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明は、その更なる目的及び利点とともに、添付図面と併せて以下の説明を参照することにより、最良に理解されるであろう。
図1図1は、DLS分析装置の簡単な略図を示している。
図2A図2Aは、小さい粒子が分散している水サンプルの散乱強度の時間的変化の概略図を示している。
図2B図2Bは、大きい粒子が分散している水サンプルの散乱強度の時間的変化の概略図を示している。
図2C図2Cは、図2Aの散乱強度曲線に対応する相関曲線の概略図を示している。
図2D図2Dは、図2Bの散乱強度曲線に対応する相関曲線の概略図を示している。
図3図3は、粒径分布曲線を示している。
図4図4は、分析点の量/径図を示している。
図5A図5Aは、ある分析点に対応して特徴付けられたサンプルの粒径分布曲線を示している。
図5B図5Bは、ある分析点に対応して特徴付けられたサンプルの粒径分布曲線を示している。
図5C図5Cは、ある分析点に対応して特徴付けられたサンプルの粒径分布曲線を示している。
図5D図5Dは、ある分析点に対応して特徴付けられたサンプルの粒径分布曲線を示している。
図6図6は、分析結果を伴う分析点の量/径図を示している。
図7図7は、水の不純物の程度を決定するための方法の実施形態における各ステップのフロー図を示している。
図8図8は、図7のステップ200の実施形態を示している。
図9図9は、図8の実施形態による分析結果を伴う分析点の量/径図を示している。
図10図10は、製造工程で使用される水の不純物分類の実施形態における各ステップのフロー図を示している。
図11図11は信号検出方法の例を示している。
図12図12は信号検出方法の例を示している。
【詳細な説明】
【0016】
図面を通して、同様のまたは対応する構成要素に関しては、同じ参照符号を使用する。
【0017】
提案された技術をより良く理解するためには、DLSの簡単な概要から始めることが役立つだろう。
【0018】
動的光散乱(DLS)はサブマイクロメートルの範囲の粒径分析のための、確立された、標準的な技術である。通常、DLSは平均粒径と粒径分布に関する情報を提供する。これは低ナノメートル範囲から数マイクロメートルまでの広い範囲をカバーする。少ないサンプル量のみを必要とし、測定後サンプルを再利用することも出来る。
【0019】
背景技術で説明した通り、DLSは分散粒子のブラウン運動に基づく。水中の分散した粒子は全ての方向に無作為に移動し、水分子と頻繁に衝突する。衝突には移動が含まれ、粒子の動きに影響を与える。小さい粒子は大きい粒子よりも影響を受ける。粒子の動きに影響を与える全てのパラメータが分かれば、粒子の速度を測定するだけで流体力学的直径を決定することが出来る。
【0020】
DLS分析装置の簡単な概略図が図1に示されている。分散または溶解した粒子22を含む水サンプル14は、通常、キュベット16と呼ばれる測定領域内に満たされる。キュベット16は、明確に定義された単一波長の光線12を与えるレーザー10によって照射される。入射レーザー光は、分散または溶解した粒子22によって全方向に散乱される。散乱光18は、時間の経過とともに特定の角度Θで、検出器20で検出され、ストークス-アインシュタイン方程式によって拡散係数及び粒径を決定するために利用される。
【0021】
【0022】
ストークス-アインシュタイン方程式が有効であるための基本的要件は、粒子の動きが純粋なブラウン運動に従うことである。例えば測定するサンプルに沈殿が有る場合、動きは無作為ではなくなり、不正確な結果につながる。対照的に、径の下限は信号対雑音比によって定義される。小さな粒子は光をあまり散乱しないため、不十分な測定信号につながる。
【0023】
粒子の動きを監視するために、散乱光の強度の時間変化が検出される。小さい粒子は大きい粒子よりも速い変動を示す。しかし、大きい粒子の方は散乱しやすく、大きい振幅になる可能性が高い。図2Aおよび図2Bは、それぞれ小さな粒子と大きな粒子を含むサンプルの時間による散乱強度の変化を示す。小さい粒子はより速い変動を示し、大きい粒子はより大きい振幅の変動を示す。自己相関関数が生成され、異なる時間での強度変化間の類似度を示す。これにより、相関関数は粒子が水溶液内の同じ場所にどれだけの時間位置しているかを表す。相関関数の指数関数的減衰は、粒子が移動していることを意味する。したがって、そのような減衰は、粒子がそれらの相対位置を変更するに必要な時間の間接的な尺度を表す。図2Cおよび図2Dは、それぞれ図2Aおよび図2Bの強度曲線に対応する相関関数を示している。これらの計算は通常的に、対数の時間軸上にプロットされる。粒子が小さいほど、相関関数の速い減衰を示す。
【0024】
拡散係数を相関関数に適合させるために、ISO標準化された手順が使われる。その後、流体力学的直径、すなわち粒径の尺度を式(1)によって容易に得ることが出来る。流体力学的直径は、実際には粒子の流体力学的特性の尺度であり、完全に球形の粒子の流体力学的特性に対応することを目的とする。同じ径であるが別の形状の粒子なら、僅かに異なる流体力学的直径を割り当てることができる。 しかし、繊維型の粒子などを除く殆どの小さな粒子の場合、流体力学的直径は粒子の実際の粒径の良好な見積もりである。
【0025】
相関関数は、信号対雑音比、そして様々な径の粒子の存在に関する情報を提供する。単峰性分散、つまり単一径粒子の分散の場合、相関関数は滑らかで、単一の指数関数的減衰を伴うだろう。こぶを含む場合などの非線形ベースラインはさらに他の径の粒子の存在を示唆する。十分な信号が収集されていない場合、差は小さくなり、有意な相関関数は生成出来ない。この場合、非常に小さい粒子が測定されたか、粒子濃度が低すぎる場合の可能性がある。
【0026】
粒径分布を構築して、径測定サンプル内の様々な径を有する粒子に関する情報を得ることが出来る。このような粒径分布曲線は図3に模式的に示されており、粒子の量を表すDLS信号が径の関数としてプロットされている。同じ径の粒子を持つ単分散サンプルの場合、単一ピークが現れる。ピークの幅は、粒径がどれほど均一であるかという情報を提供する。
【0027】
異なる径の粒子が存在して、複数の減衰を伴う相関関数を与える場合、この方法は理想的には粒径分布曲線に複数のピークを生じさるだろう。しかし、大きな粒子は小さな粒子よりも遥かに高い散乱断面積を持っているため、大きな粒子の中から小さな粒子を検出する可能性は限られている。径の差は大きくなければならず、小さい径の粒子の量は、通常、少なくとも大きい径の粒子と同じ量でなければならない。
【0028】
十分な信号が収集されていない場合、相関関数は明確な特徴を示さず、粒径分布曲線において明確な粒径を決定することは出来ない。上記のように、非常に小さい粒子が測定されたか、粒子濃度が低すぎると、このような場合になる可能性がある。この粒径分布曲線は「バックグラウンド」のみを示す。
【0029】
キュベット壁において、レーザーによって生成されたフレアが検出光学系に入ることを遮ると、より混じっていない結果を導くため、約90°での側方散乱は、小さな粒子の、弱く散乱するサンプルのために選択された角度である。したがって、側面角度を利用して行われる測定は、キュベット壁の汚れや引っかき傷に敏感でなくなる。
【0030】
以上の説明から、DLSによって径や組成が幅広い範囲の不純物を含む液体サンプルを詳細に検出することは難しいとわかる。代わりに、散乱は、分析においてバックグラウンドノイズレベルを発生させる。さらに、大きな不純物粒子は小さな不純物粒子より遥かに高い散乱強度を示し、通常、小さな不純物粒子からの信号をバックグラウンドに埋めることもわかる。
【0031】
しかし、これらの考察は新しい分析アプローチを生み出すことに利用できる。様々な粒径に関連する実際の検出可能なピークを測定する代わりに、バックグラウンドレベルの測定が役立つ可能性がある。しかし、DLSプロセスの一般的な信号強度は多数の幾何学的特性及びその他の特性に依存し、特定の不純物レベルにバックグラウンドの特定の値を直接割り当てることは困難である。したがって、不純物量と不純物径の両方に関して、バックグラウンドレベルを定量化するための較正測定方法が必要である。
【0032】
DLSを使用することにより、同一径のある量の粒子の発生を検出する方法は知られている。粒子の量に関する検出限界は、サンプル内の他の粒子の存在に主に依存し、バックグラウンドノイズレベルを引き起こす。つまり、検出限界は粒子が供給される液体の不純物に依存する。
【0033】
検証テストでは、水の不純物含有量を検証するために乾式分析法が使用され、DLSで使用される、十分に特徴付けされた径の粒子の検出限界が実際の不純物レベルと非常によく相関することが分かっている。DLSは比較的速い分析方法であるため、このような相関関係の知見は、オンライン水不純物測定方法の分析法の一つとしての利用を切り開く。
【0034】
よく特徴付けられた径の市販のビーズがある。これらのビーズは、金などの金属、ラテックスなどのポリマ、など様々な材料である。含有量が極端に低い場合でも検出可能な信号を生じさせるため、高い光散乱断面積を有するビーズは、検出限界を決定するためには、あまり有用ではない。より信頼性の高い検出限界を達成するには、散乱断面積のより小さいビーズを使用することが良好である。下記のプロセスでは、通常、ラテックスの単一径ポリマビーズが使われている。
【0035】
相関データベースは、下記のプロセスで構築されている。ただし、相関はデータベース以外の用語で表現できることに注意されたい。しかし、基本的に検出限界と不純物レベルとの間の依存関係は同じような関係データを利用して確立されている。
【0036】
テストされる水サンプルが取得され、いくつかの分析ボリュームに分割される。各ボリュームに、既知の径の単一径のビーズの既知の量が添加される。例えば、これはいくつかの分析ポイント30が示されている図4に従って実行されることができる。ここでは、25個の分析ボリュームが使用されており、各ボリュームは分析ポイント30に対応する、S1-S5のセットから選択された径とA1-A5のセットから選択された量の組み合わせを有する。点線で示されている量限界32は、それを超えるとさらなる分析は有用でないと考えられる限界である。径のセットは、必ずしも径範囲全体に均等に分散されているわけではなく、より大きな径においてより大きな差を伴って有利に選択され得る。同様に、量のセットも非等距離な方法で提供され得る。最も一般的な実施形態では、分析ポイント30は、不規則的な方法で量/径の次元に広がっていてもよい。
【0037】
DLS測定は、分析ボリュームごとに実行される。場合によっては、単一径ビーズからのシグナルが検出されないこともある。そのような結果は図5Aに概略的に示されている。DLSの粒径分布曲線40からの結果は、単にノイズ信号、すなわち、径範囲全体をカバーするバックグラウンドノイズレベル42である。しかしながら、場合によっては、単一径ビーズからの信号44が検出可能であった。図5Bは、検出可能な信号44を与えるのに十分な量の径S5の単一径ビーズを有する分析ボリュームからの結果を概略的に示している。同様に、図5Cは、検出可能な信号44を与えるのに十分な量の径S4の単一径ビーズを有する分析ボリュームからの結果を概略的に示す。図5Dでは、径S3の単一径ビーズの量は、ある程度有意にバックグラウンドノイズから区別できる信号44を与えるのにちょうど十分である。したがって、検出可能な信号44は、DLS分析の粒径分布曲線40におけるバックグラウンドノイズレベル42を超えて識別可能な信号である。
【0038】
一実施形態では、検出可能な信号は、添加された単一径ポリマビーズに対応する径において、バックグラウンドノイズレベルを超えて識別可能な信号である。
【0039】
図6は、測定バッチの一例の要約であり、十字56は検出可能な信号を与える測定を示し、円58は単一径ビーズから検出可能な信号を与えない測定を示す。図の2つの領域を定義することができ、1つの領域は信号が存在する領域50であり、1つの領域は信号がバックグラウンドで隠されている領域52である。これらの2つの領域間の境界54の形状及び位置は、バックグラウンドを生じさせる粒子含有量の特徴である。このプロットから、DLS分析で検出可能な信号を発生させる単一径ポリマビーズの最小径を見つけることが出来る。この例では、ビーズ径S2が最小径である。また、DLS分析において検出可能な信号を生じさせる、決定された最小径の単一径ポリマの最小量を決定することができる。この例では、径S2の検出可能な信号を与える最小量はA4である。S2とA4の組み合わせは、2つの領域50、52の間の境界54がどこに位置するかの概算を与え、水の不純物含有量の表現として使用することができる。
【0040】
さらに、このDLS分析の後に、同じ水サンプルの乾式分析などを行うことが好ましい。この分析は、ESCAまたはSEMなどで実行出来る。このような乾式分析により、サンプルの真の不純物の特性評価が確定される。
【0041】
不純物レベルが異なる様々な水サンプルに対して上記のスキームを繰り返すことにより、最小検出可能径とその径の最小検出可能量の組み合わせと、乾式分析による不純物の特性評価との間の相関関係を構築出来る。
【0042】
このような相関関係または参照が利用できる場合は、同じタイプのアプローチを、さらに水の不純物レベルのオンライン分析方法として代わりに利用出来る。
【0043】
図7は、水の不純物の程度を決定するための方法の実施形態における各ステップのフロー図を示している。ステップ200において、テストされる水の複数のサンプルに対してDLS分析が実行される。複数のサンプルの各サンプルは、それぞれの径及びそれぞれの既知の量の添加された単一径ポリマビーズを含む。好ましい実施形態をさらに以下に提示する。ステップ220では、DLS分析の粒径分布曲線(40)において、バックグラウンドノイズレベル(42)を超えて識別可能な、検出可能な信号を生じさせる単一径ポリマビーズの最小径が決定される。ステップ230では、DLS分析の粒径分布曲線(40)において、バックグラウンドノイズレベル(42)を超えて識別可能な、検出可能な信号を生じさせる、決定された最小径の単一径ポリマビーズの最小量が決定される。
【0044】
ステップ240において、テストされる当該水の不純物の程度は、決定された単一径ポリマビーズの最小径及び最小量に応じて割り当てている。好ましい実施形態では、所定のデータベースに記載されているように、最小検出可能径とその径の最小検出可能量の組み合わせと、乾式分析による不純物の特性評価との間の相関関係を定義する。測定によって決定された最小検出可能径とその径の最小検出可能量の組み合わせに相関する、乾式分析による不純物の特性評価を取得することにより、不純物の程度が得られる。
【0045】
複数のサンプルに対してDLS分析を実行する場合、様々なアプローチに従って実行され得る。一実施形態では、サンプルに対する単一径ポリマビーズの径及び量を、関心のある量/径の範囲全体に広げることが出来る。これは図6に示された状況に似ている。分析全体が自動化されており、次のサンプルを分析する前に中間分析結果を利用できない場合に、このアプローチは便利である。
【0046】
しかし、前のサンプルの分析結果が利用できる場合は、分析の数を大幅に減らせることが分かる。図8は、ステップ200の一実施形態の一部ステップを示している。ステップ202において、ある量のビーズが水サンプルに添加される。好ましくは、ビーズの径は、ビーズ径の利用可能なセットの中で最大のものである。ビーズの量は、好ましくは、最少使用量に選択される。つまり、最初のサンプルは、量/径図の右下隅に配置される。ステップ204において、水サンプルに対してDLS分析が実行される。ステップ206において、添加されたビーズからの検出可能な信号があるかどうかが決定される。
【0047】
ステップ206において、検出可能な信号があると結論付けられた場合、プロセスはステップ208に進み、新たに減少されたビーズ径が選択される。プロセスは次にステップ202に戻り、新たに減少されたビーズ径の、新たな水サンプルが準備される。好ましくは、この新しいサンプル中のビーズの量は、前のものと同じである。量が最少使用量の場合、選択は明らかである。また、前のビーズ径が、より少ない量でテストされても、検出可能な信号を生じなかった場合、ビーズ径を小さくしてもやはりその量に対して信号が生じない可能性が非常に高い。
【0048】
ステップ206において、検出可能な信号があると結論付けられた場合、プロセスはステップ210に進み、ビーズの最大使用量に達したかどうかが決定される。つまり、量制限に達したかどうかがチェックされる。
【0049】
ステップ210において、ビーズの最大使用量にまだ達していないと結論付けられた場合、プロセスはステップ212に進み、新たに増加したビーズ量が選択される。次に、プロセスはステップ202に戻り、新たに増加したビーズ量の、新たな水サンプルが用意される。ここでは、前と同じように、同一のサンプルにビーズをさらに添加したものを利用出来る。あるいは、元の水サンプルから新たなサンプルを準備し、新たな量のビーズを添加することも出来る。
【0050】
ステップ210において、ビーズの最大使用量に達したと結論付けられた場合、分析は終了する。したがって、DLS分析で検出可能な信号を生じさせる単一径ポリマビーズの最小径は、最後から2番目のビーズ径である。また、DLS分析で検出可能な信号を生じさせる、決定された最小径の単一径ポリマの最小量は、最後から2番目のビーズ径のサンプルの最大量である。
【0051】
この実施形態に係るプロセスは、以下のように表現することも出来る。テストされる水の複数のサンプルのDLS分析を実行するステップは、ある量の第1径の単一径ポリマビーズが、テストされる水サンプルに加えられるステップa)を備える。ステップb)において、水サンプルのDLS分析が実行される。ステップc)では、DLS分析の粒径分布曲線(40)において、バックグラウンドノイズレベル(42)を超えて識別可能な、検出可能な信号が得られるまで、第1径の単一径ポリマビーズの量を連続的に増加させるために、ステップa)及びb)が繰り返される。ステップd)において、第2径のある量の単一径ポリマビーズが水サンプルに添加される。 第2径は第1径より小さい。ステップe)において、ステップa)、b)、c)が第2の径に対して実行される。ステップf)では、所定の最大量を超える単一径ポリマビーズの量が、DLS分析において単一径ポリマビーズの検出可能な信号を生じさせなくなるまで、単一径ポリマビーズの径を連続的に小さくするために、ステップd)及びe)が繰り返される。
【0052】
図9は、この実施形態のプロセスを量/径図において示している。この特定の例では、最初に分析されたサンプルは、ビーズ径S5で量A1を備える。このサンプルは添加されたビーズの検出可能な信号を生じる。したがって、次のサンプルは、量は同じA1だが、より小さいビーズ径S4を有するように選択される。このサンプルもまた検出可能な信号を生じる。第3のサンプルは、径S3のビーズの量A1を含む。今度は、信号は検出されない。したがって、径S3の、より大きな量A2を備える次のサンプルが準備される。すると、検出可能な信号が再び生じる。次のサンプルは径S2で量A2を備えるように準備される。信号は検出されない。量A3への増加は、ビーズ径S2に検出可能な信号を与えない。量A4が使用されるまで、信号は検出されない。次のサンプルは径S1で量A4を備えるように準備される。しかし、このサンプルも、径S1で量A5を有する次のサンプルも、検出可能な信号を生じない。A5が最大量限界に対応しているため、分析は終了する。検出されたビーズ信号を与える最後の測定が、最小径と最小量、この場合はそれぞれS2とA4、を決定するために使用される。
【0053】
上記の方法は、乾式分析結果との所定の相関関係を用いて、純度の完全な分析を提供する。
【0054】
しかし、多くの工程状況では、通常、完全な分析は要求されない。代わりに、水の純度が特定の所定のレベルを下回っているかどうかを決定することだけが要求される。このような用途では、必要なDLS分析の数をさらに減らすことが出来る。
【0055】
図10は、製造工程で使用される水の不純物分類のための方法の実施形態におけるステップのフロー図を示している。この方法は2つの段階で構成されている。準備段階では、添加されるビーズの量と径に関して、要求される純度のレベルを決定する。検証段階は、使用済みの水が純度要件を満たしているかどうかを検証するために、製造工程で実際に実行される段階である。通常、準備段階は1回実行され、検証段階はオンラインで水質の分類が要求されるたびに実行される。
【0056】
ステップ250において、較正水サンプルが分析される。較正水サンプルには、水を使用することを意図した製造工程の不純物限界に対応する既知の不純物の程度を有する。水の不純物の程度の決定は、上記の実施形態のいずれかによって実行される。そのような決定において、最小径及び最小量が得られる。ステップ252において、単一径ポリマビーズの閾値径は、較正水サンプルに対して得られた最小径に等しいと定義される。同様に、単一径ポリマビーズの閾値量は、較正水サンプルに対して得られた最小量に等しいと定義される。
【0057】
検証段階はステップ260から始まり、製造工程で使用される水からの処理水サンプルが得られる。ステップ262において、閾値径の単一径ポリマビーズの閾値量が、処理水サンプルに添加される。単一径ポリマビーズが添加された処理水サンプルのDLS分析は、ステップ264で実行される。ステップ266では、DLS分析の当該粒径分布曲線において、添加された単一径ポリマビーズが、バックグラウンドノイズレベルを超えて識別可能な、検出可能な信号を生じるかどうかが決定される。ステップ268において、信号が検出可能である場合、処理水サンプルは不純物限界以下の不純物レベルを有すると分類される。同様に、処理水サンプルは、信号が検出できない場合、不純物限界より高い不純物レベルを有すると分類される。
【0058】
ノイズの多いバックグラウンド内の信号の存在の決定方法として利用可能ないくつかの先行技術が有る。以下に、2つの任意の例を示す。しかしながら、ここに提示された技術の主な着想は、特定の決定方法に決定的に依存してはいないので、本着想は、以下に提示された例によって制限されるべきではない。
【0059】
【0060】
図12と関連して、識別可能な信号の存在を決定する別の例を示す。ここで、バックグラウンドノイズはほぼ一定ではない。しかしながら、フィルタリングされたバックグラウンドレベル46を計算することができ、フィルタリングされたバックグラウンドレベルの周りの元の曲線42の標準偏差σを計算することが出来る。径Sにおける元の曲線42とフィルタリングされたバックグラウンドレベル46との間の差Dで、信号が現れると予想される。この差Dが標準偏差σより特定の係数α倍以上大きい場合、検出可能な信号が存在すると決定される。
【0061】
上述の実施形態は、本発明のいくつかの例示として理解されるべきである。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、それら実施形態に対して、様々な改変や組合せや変更を加え得ることは、理解されるであろう。特に、技術的に可能であれば、異なる実施形態における異なる部分的な解決方法は、他の構成において組み合わせることができる。しかしながら、本発明の範囲は、添付の請求項によって規定される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12