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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】非水系電解質組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240709BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240709BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240709BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240709BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/054
H01M4/587
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021569890
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 GB2020051317
(87)【国際公開番号】W WO2020240209
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】1907612.4
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514065058
【氏名又は名称】ファラディオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】バーカー,ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ルドラ,アシュ
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181467(JP,A)
【文献】特開2014-002972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/0569
H01M 10/054
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系電解質組成物であって、
a)テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6、ビス(フルオロスルホニル)イミドナトリウム(Na(SO2F)2N)、およびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム(C2F6NNaO4S2 )から選定された1または2以上のナトリウム含有塩と、
b)溶媒系であって、
i)1または2以上の有機炭酸塩系溶媒を含む第1の溶媒成分、および
ii)1または2以上の界面活性剤を、前記溶媒系の重量比で、0.5超、10%以下の量で含む第2の溶媒成分であって、前記1または2以上の界面活性剤は、
カルボン酸塩、硫酸塩、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよびアルキルベンゼンスルホン酸から選定されたスルホン酸塩、ならびにリン酸エステルから選定されたアニオン性界面活性剤
RNH3Cl、RN(CH33Cl、塩化ジオタデシルジメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)、および臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)から選定されたカチオン性界面活性剤、ならびに
ポリオールエステル、ポリオキシエチレンエステル、およびロキサマーから選定された非イオン性界面活性剤、
からなる群から選定される、第2の溶媒成分、
を有する、溶媒系と、
を有する、非水系電解質組成物。
【請求項2】
前記溶媒系は、さらに、1または2以上のグライム(glyme)、1または2以上のグリコールエーテルアセテート、1または2以上のイオン液体、1または2以上のニトリル含有化合物、1または2以上の希釈剤、1または2以上の硫黄含有化合物、および1または2以上の難燃性化合物から選択された、1または2以上の追加の溶媒を有する、請求項1に記載の非水系電解質組成物。
【請求項3】
前記有機炭酸塩系溶媒は、一般式がR1O(C=O)OR2のカルボニル基を有する直鎖または環状の化合物であり、
ここで、R1およびR2は、独立に、水素、およびC1からC20の直鎖もしくは環状、分岐もしくは未分岐、置換もしくは未置換のアルキル基またはアルケニル基から選定される、請求項1または2に記載の非水系電解質組成物。
【請求項4】
前記有機炭酸塩系溶媒は、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、およびビニレンカーボネートから選択された1または2以上である、請求項3に記載の非水系電解質組成物。
【請求項5】
前記1または2以上の界面活性剤は、ポロキサマー123、ポロキサマー188、ポロキサマー407およびF127から選択される、請求項1に記載の非水系電解質組成物。
【請求項6】
前記1または2以上の硫黄含有化合物は、スルホン含有化合物、およびスルトン含有化合物から選択される、請求項2に記載の非水系電解質組成物。
【請求項7】
前記1または2以上の硫黄含有化合物は、1,3-プロパンジオール環状硫酸塩、1,3プロパンスルトン、1-プロペン1,3-スルホンおよびスルファロンから選択される、請求項6に記載の非水系電解質組成物。
【請求項8】
前記第1の溶媒成分は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、およびプロピレンカーボネートを、1:2:1の重量比で有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の非水系電解質組成物。
【請求項9】
前記第1の溶媒成分は、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートを、1:1の重量比で有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の非水系電解質組成物。
【請求項10】
前記第1の溶媒成分は、プロピレンカーボネートで構成される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の非水系電解質組成物。
【請求項11】
ナトリウムイオン電池であって、
負極と、正極と、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の非水系電解質組成物とを有する、ナトリウムイオン電池。
【請求項12】
前記負極は、非グラファイト化炭素材料を有する、請求項11に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項13】
前記負極は、硬質カーボンを有する、請求項12に記載のナトリウムイオン電池。
【請求項14】
負極と、正極と、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の非水系電解質組成物とを有する、エネルギー貯蔵装置。
【請求項15】
電池、再充電可能電池、電気化学的装置、およびエレクトロクロミック装置から選定される、請求項14に記載のエネルギー貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、新たな非水系電解質組成物、該新たな非水系電解質組成物を有するナトリウムイオンセル、ならびに前記非水系電解質組成物を有する、電池、再充電可能電池、およびエレクトロクロミック装置のような、エネルギー貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウムイオン電池は、現在一般に使用されているリチウムイオン電池と多くの点で類似している。どちらもアノード(負極)、カソード(正極)、および電解質材料を有する再利用可能な二次電池であり、どちらもエネルギーを貯蔵することができ、同様の反応機構により充電と放電を行う。ナトリウムイオン(またはリチウムイオン)バッテリが充電される際、Na +(またはLi+)イオンは、カソードから脱インターカレートし、アノードに挿入される。一方、電荷平衡電子は、カソードからインターカレートし、アノードに入る。一方、電荷をバランスするため、電子は、カソードから充電器を含む外部回路を介してアノードに入る。放電の間、反対方向において、同じプロセスが生じる。
【0003】
リチウムイオン電池技術は、近年多くの注目を集めており、現在使用されているほとんどの電子機器に対して、好適な携帯用電池を提供する。しかしながら、リチウムは、資源的に安価な金属ではなく、大規模な用途で使用するには高コストであると考えられる。対照的に、ナトリウムイオン電池技術は、未だ比較的初期の段階にあるものの、有意であると考えられる。ナトリウムは、リチウムよりもはるかに豊富であり、一部の研究者らは、特に電力グリッドにエネルギーを貯蔵するような大規模用途で、これが将来、エネルギーを貯蔵用のより安価で耐久性のある方法を提供すると予測している。にもかかわらず、ナトリウムイオン電池が商業的に実現されるには、まだ多くの研究がなされる必要がある。
【0004】
より注目が必要な分野の1つは、特にナトリウムイオン電池に適した電解質組成物の開発である。
【0005】
好適な電解質組成物の設計は、活性材料(電極)ほど注目されていないが、それらの重要性を見逃すことはできない。これらは、主に、電池寿命の鍵であり、例えば、容量、レート能力、安全性などの、セルによる達成可能な実際の特性を決めるためである。
【0006】
しかしながら、好適な電解質組成とするには、長い属性のリストを満たす必要がある。これには、
・化学的安定性-電解質自体の内部、またはセパレータ、電極、集電体、もしくは使用されるパッケージ材料との反応を含み、セルの動作中に反応が生じないこと;
・電気化学的安定性-広い電気化学的安定窓が必要である。すなわち、酸化または還元による分解の高い開始電位と低い開始電位の間の大きな間隔;
・熱安定性-電解質組成物は、通常のセル作動中および作動温度において、分解したり、化学的に崩壊したりしない必要がある;
・物理的特性-電解質組成物は、液体である必要があり、従って、その融点と沸点は、セルの内部作動温度から十分に外側にある必要がある;
・Na+輸送によるセルの動作を維持し、セルの自己放電を最小限に抑えるため、高いイオン伝導率および低い電子伝導率が必要となる;
・低い有毒性;
・持続可能な化学に基づくこと、すなわち、豊富な元素を使用し、影響の少ない合成(エネルギー、汚染など)を介して製造されること;ならびに
・コスト的に有効亜生産
が含まれる。
【0007】
リチウムイオン電池において最も一般的な電解質組成物には、有機炭酸塩系の溶媒に溶解したLiPF6またはLiBF4のいずれかが含まれる。EC(エチレンカーボネート)/DMC(炭酸ジメチル)、またはEC(エチレンカーボネート)/EMC(エチルメチルカーボネート)の混合物のいずれかに1MのLiPF6を含む電解質組成物は、ほとんどの研究者により、「標準的な」Liイオン電池電解質と見なされている。
【0008】
ナトリウムイオンセルの場合、LiPF6の代わりに、ナトリウム類似体であるNaPF6が使用され得る。しかしながら、コスト効果の高い代替物は、NaBF4である。後者は、NaPF6と比べて、改善された熱安定性を有するという利点がある。しかし、残念ながら、NaBF4は、有機炭酸塩系の電解質溶媒において、極めて低い溶解度を有し、その結果、通常、得られる電解質組成物のイオン伝導度は、実際の用途には低すぎる。従って、従来の有機炭酸塩系の溶媒におけるNaBF4含有電解質組成物の低い溶解度により、NaPF6を使用する同等のセルと比較した場合、電気化学的特性が低下する。
【0009】
また、リチウム系で使用される一部の材料は、ナトリウムの対応物にもそのまま残せるものの、リチウムの原子半径に比べてナトリウムの原子半径は、より大きいため、一部において、これが常に当てはまると仮定することは安全ではない。従って、リチウムイオン電池で作動する溶媒系が、ナトリウムイオン電池では作動しない可能性があり、その逆も同様である。この違いの顕著な例は、リチウムイオン電池における炭酸プロピレン(PC)溶媒とグラファイトアノード(現在、商用リチウムイオン系で最も一般的に使用されているアノード)との非互換性である。この非互換性のため、通常、市販のリチウムイオン電池は、前述のように、EC/DMCまたはEC/EMCの溶媒系を使用する。一方、ナトリウムイオン系は、有意なことに、PCを含む電解質溶媒に耐性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、高いナトリウムイオン電池の特性を促進する上で好適な電解質溶媒系を見出すことが望ましい。
【0011】
従って、本発明の目的は、好適な溶媒系に溶解したナトリウム含有塩を用いた、改善されたナトリウムイオン伝導性電解質組成物(すなわち、それらは、ナトリウムイオン二次電池で使用するために設計された電解質組成物である)を提供することである。本発明の電解質組成物は、コスト効果が高く、不燃性であり、特にポリオレフィンセパレータにおいて、高いセパレータ濡れ性を示し、ナトリウムイオンセルにおいて、優れた電気化学的特性を示す。本発明の電解質組成物は、硬質カーボン含有材料のような、非グラファイトカーボン含有材料を含むアノード電極、またはナトリウム導入材料、もしくは変換合金アノード材料を含むアノードを用いたナトリウムイオンセルにおいて特に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、これらの目的は、新たな非水系電解質組成物を提供することにより達成され、これは、
a)1または2以上のナトリウム含有塩と、
b)溶媒系であって、
i)1または2以上の有機炭酸塩系溶媒を含む第1の溶媒成分、および
ii)前記溶媒系の重量比で、0.5超、10%以下の量の、1または2以上の界面活性剤で構成された、第2の溶媒系成分、
を有する、溶媒系と、
を有する。
【0013】
1または2以上のナトリウム含有塩は、1または2以上の弱配位アニオンを有することが好ましい。「弱配位アニオン」または「WCA」と言う用語は、当業者には良く知られており、いくつかの(2以上の)元素を有するアニオンを表す際に使用される。これは、ハロゲン原子および/または酸素原子を有してもよく、単一の負の電荷を共有してもよい。これは、負の電荷がアニオンにわたって広がり、例えば、集中した負の電荷または複数の負の電荷を有するアニオンの配位機能に対して、比較的弱いアニオンの配位機能が形成されることを意味する。ナトリウム含有塩は、一般式がNaMmXxの1または2以上の化合物;一般式がNaXO4の1または2以上の化合物;1または2以上のフルオロスルホニル含有化合物、1または2以上のフルオロスルホン酸塩含有化合物;1または2以上のオキサラートホウ酸塩化合物;ならびにテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボレートアニオン(B[3,5-(CF32C6H3] 4)、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオン(B(C6F5 4)、およびテトラキスカルボキシ(トリフルオロメチル)アルミネートアニオン(Al[OC(CF33] 4)のような、四面体アニオンを含む化合物から選択されることが好ましい。
【0014】
一般式がNaMmXxの好適な1または2以上のナトリウム含有塩において、Mは、1または2以上の金属または非金属であり、Xは、1または2以上のハロゲンから選定された1または2以上を含み、あるいはこれらからなる群である。Xは、好ましくはフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素から選定され、より好ましくは、フッ素である。1または2以上の金属および/または非金属Mの量mは、m=1乃至3が好ましく、m=1乃至2がより好ましく、m=1が最も好ましい。理想的には、1または2以上の金属および/または非金属Mは、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、インジウム、イリジウム、白金、スカンジウム、イットリウム、ランタン、アンチモン、ヒ素、およびリンから選択されることが好ましい。Mは、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、リン、およびヒ素から選定されることが特に好ましい。一般式がNaMmXxの最も好適なナトリウム含有塩は、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)から選択された1または2以上である。
【0015】
一般式NaXO4の好適な1または2以上のナトリウム化合物において、元素Xは、好ましくは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される1または2以上のハロゲンである。塩素が特に好ましく、一般式NaXO4の最も好ましいナトリウム含有塩は、NaClO4である。
【0016】
1または2以上のフルオロスルホニルの好適なナトリウム塩、および/または1または2以上のフルオロスルホン酸塩含有化合物のナトリウム塩には、
・ナトリウムトリフラートまたはNaOTf(CF3NaSO3)としても知られる、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム;
・NaFSI(NaN(SO2F)2)としても知られる、ビス(フルオロスルホニル)イミドナトリウム;
・NaTFSI(C2F6NNaO4S2)としても知られる、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム;
が含まれる。
【0017】
1または2以上のオキサラートホウ酸塩化合物の好ましいナトリウム塩には、
・ホウ酸NaBOBまたはNaB(C2O42としても知られる、ビス(シュウ酸塩)ナトリウム;および
・NaDFOBとしても知られる、ホウ酸ジフルオロ(オキサラート)ナトリウム;
が含まれる。
【0018】
1または2以上のナトリウム含有塩の量を、「溶媒系b)におけるa)の成分のモル濃度」、すなわち、溶媒系b)の単位リットル当たりの1または2以上のナトリウム含有塩の全モル数で表すことが好適である。好ましくは、a)におけるナトリウム含有塩のそれぞれのモル濃度は、0.1Mから5Mの範囲にあることが好ましく、0.1Mから2M以下の範囲にあることがさらに好ましい。特にa)の成分がNaBF4またはNaPF6である場合、モル濃度は、0.1Mから2M以下の範囲にあることがさらに好ましい。a)における全てのナトリウム含有塩の総モル濃度は、0.1Mから10Mの範囲であることが好ましく、0.1Mから6Mの範囲であることがより好ましく、0.1Mから4以下の範囲であることが最も好ましい。
【0019】
第1の溶媒成分i)に存在する1または2以上の有機炭酸塩系溶媒は、環状化合物であっても、非環状化合物であってもよく、これらは、それらが炭酸エステル基、すなわち1つまたは2つのアルコキシ基:R1O(C=O)OR2により隣接されたカルボニル基を有するという特徴を有する。R1基およびR2基は、水素;またはC1からC20の環状もしくは非環状、分岐または非分岐、置換または非置換のアルキル基;またはC1からC20の環状または非環状、分岐または非分岐、置換または非置換のアルケニル基;または、C1からC20に分岐または非分岐、置換または非置換のシクロアルキル基、フェニル基、または複素環含有基のいずれかから、独立して選択されることが好ましい(すなわち、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい)。とても好適な電解質溶媒には、プロピレンカーボネート(C4H6O3)およびエチレンカーボネート(C3H4O3)のような、C3からC10のシクロアルキル有機炭酸塩が含まれる。プロピレンカーボネート(C4H6O3)は、電極材料と特に好ましい適合性を示し、溶解度が高く、この材料の広い液相線範囲、および高い沸点により、この溶媒は、ナトリウムイオン電池での使用に有意である。
他のとても好適な有機炭酸塩系の化合物には、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、およびビニレンカーボネート(VC)が含まれる。
【0020】
本発明のとても好ましい電解質組成物は、第1の溶媒成分を有し、これは、プロピレンカーボネートを単独で、あるいは1または2以上の別の有機炭酸塩系の化合物と組み合わせて、含む。有機炭酸塩系化合物の混合物が使用される場合、1または2以上の有機炭酸塩系溶媒の各々の量を、重量比で表すことが便利である。例えば、好ましい有機炭酸塩系の溶媒は、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、およびプロピレンカーボネートの混合物を含んでもよく、これは、理想的には、重量比で、1~4:1~10:1~10wt%の範囲にあり、理想的には、重量比で、1~3:1~5:1~5wt%の範囲にあり、最も理想的には1:2:1wt%である。
【0021】
本発明の特に有意な電解質組成物は、有機炭酸塩系溶媒の重量比で、少なくとも40wt%、好ましくは少なくとも50wt%、さらに好ましくは少なくとも60wt%の量のプロピレンカーボネートを含む。特に好ましくは、プロピレンカーボネートが唯一の有機炭酸塩系溶媒であり、すなわち、これは、有機炭酸塩系溶媒の重量比で、100%の量で存在する。
【0022】
本発明の別の好ましい電解質組成物は、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートの混合物を有し、プロピレンカーボネートを含まない。これらの有機炭酸塩系成分は、好ましくは1~20:1~20の重量比、さらに好ましくは1~10:1~10の重量比、さらに好ましくは1~5:1~5の重量比で存在し、最も好ましくは1:1重量比である。
【0023】
本発明の第2の溶媒成分ii)で使用される1または2以上の界面活性剤は、電池のセパレータ(特にポリオレフィンセパレータ)を濡らす電解質組成物の能力を高めるように選択されることが好ましく、これは、今度は電池サイクル寿命を長期化することを支援する。そのような界面活性剤は、理想的には、
1)アニオン性(負帯電)界面活性剤;好適な例には、アルキルカルボン酸塩(例えば、脂肪酸塩)のようなカルボン酸塩、カルボン酸塩フルオロ界面活性剤;硫酸アルキル(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、アルキルエーテル硫酸塩(例えばラウレス硫酸ナトリウム)のような硫酸塩;スルホン酸塩;ドキュセート(例えばスルホコハク酸ジオクチルナトリウム)、アルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルアリールエーテルリン酸塩、およびアルキルエーテルリン酸塩のようなリン酸エステル;が含まれる:
2)双性イオン(両性)界面活性剤。これは、含まれる溶液のpHに応じて、アニオン性、カチオン性、または非イオン性であり得る。一例には、RNH2CH2COO、RN(CH32CH2CH2SO3 、ホスファチジルコリン(レシチン)のようなリン脂質が含まれる;
3)正電荷を有するカチオン性界面活性剤、例えば、RNH3Cl、RN(CH33Cl、塩化ジオタデシルジメチルアンモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)、および臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB);ならびに
4)非イオン性界面活性剤。これらは、電荷を有さず、例えば、ポリオールエステル(例:グリコール、グリセロールエステル、ソルビタンおよびソルビタンの脂肪酸エステルのようなソルビタン誘導体(Spans)、ならびにそれらのエトキシル化誘導体(Tweens))、ブロックコポリマを有するポリオキシエチレンエステルおよびポロキサマー、例えば、ポロキサマー84、ポロキサマー105、ポロキサマー123、ポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338、ポロキサマー407、およびポロキサマーF127;
から選択される1または2以上である。
【0024】
最も好ましくは、本発明の電解質組成物の第2の溶媒成分ii)は、1または2以上の非イオン性ブロックコポリマ含有界面活性剤を有する。
【0025】
本発明の電解質組成物に使用される1または2以上の界面活性剤の総量は、溶媒系の重量比で、0.5超、10%以下であり、好ましくは溶媒系の重量比で0.6以上、6%以下であり、さらに好ましくは0.6以上、4wt%以下であり、さらに好ましくは0.6以上、3wt%以下であり、理想的には、電解質組成物に使用される電解質溶媒系の総重量に対して、0.6wt%以上2.5wt%以下である。
【0026】
好適実施形態では、本発明による非水系電解質組成物は、さらに、少なくとも1つの追加の化合物を有し、これは、溶媒であってもなくてもよく、硫黄含有化合物、難燃性化合物(ポリアルキルリン酸含有化合物、好ましくは非フッ素化ポリアルキルリン酸含有化合物)、希釈剤(ヒドロフルオロエーテル含有化合物、好ましくはヒドロフルオロアルキルエーテル含有化合物など)、グリコールジエーテル(「グライム」としても知られる)、グリコールエーテルアセテート、イオン性液体、ニトリル含有化合物(アジポニトリル、グルタロニトリルなど)、および不活性希釈剤として機能することにより電解質の粘度の低下を促進できる任意の溶媒(ヒドロフルオロアルキルエーテル、好ましくは1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(HFEまたはTTE)など)から選択されることが好ましい。疑義を避けるため、少なくとも1つの追加の化合物は、第1の溶媒成分に記載されている有機炭酸塩系溶媒、または第2の溶媒成分に記載されている界面活性剤のいずれも含まない。
【0027】
好適な硫黄含有化合物には、環状および/または非環状の硫黄含有化合物が含まれ、好ましくは、カソード上の安定なカソード電解質中間相(CEI)および/またはアノード上の安定な固体電解質中間相(SEI)の形成が可能となるように選択される。これにより、第1サイクルのクーロン効率が高まり、サイクル寿命が向上するなどの利点が得られる。好ましくは、1または2以上の硫黄系の化合物は、スルホンであり、すなわち、これは、2つの炭素原子に結合されたスルホニル官能基を有する。中央の6価の硫黄原子は、2つの酸素原子の各々に二重結合され、2つの炭素原子の各々に単結合を有する。そのような化合物の一般式は、R-SO2-R’であり、RおよびR’は、任意の直鎖または分岐、置換または未置換のC1からC6のアルキル基;直鎖または分岐、置換または未置換のC1からC6のアルケニル基;直鎖または分岐、置換または非置換のC1からC6のアルコキシ基;または置換または未置換のC3からC6のシクロアルキル基、フェニル基、もしくはヘテロ環含有基から、独立に選択されてもよい(すなわち、これらは、互いに同じまたは異なっていてもよい)。さらに好ましくは、硫黄系化合物は、環状スルホン、非環状スルホン、および環状スルトンから選択される。好適な例には、スルホラン((CH24SO2)、3-メチルスルホラン((CH3)CH(CH23SO2)、)1.3-プロパンジオール環状硫酸塩(PCS)、別名1,3,2-ジオキサチアン2,2-ジオキシド(DTDまたは(CH23SO4))、トリメチルスルホン、1-プロペン1,3-スルホン((CH)2CH2SO3)、1,3-プロパンスルトン(CH23SO3、トリメチルアンスルホン((CH23SO2)およびメチルフェニルスルホン((CH3)(C6H5)SO2)が含まれる。1または2以上の環状スルホンおよび/または環状スルトンおよび/または1,3-プロパンジオール環状硫酸塩が特に好ましい。溶媒系で使用される硫黄含有化合物は、スルホキシド含有化合物、亜硫酸塩含有化合物、または硫化物含有化合物を含まないことが特に好ましく、理想的には、電解質組成物は、スルホキシド含有化合物、亜硫酸塩含有化合物、または硫化物含有化合物を含まない。
【0028】
本発明の電解質組成物に使用される際、1または2以上の硫黄系化合物の総量は、電解質組成物に使用される溶媒系の総重量に基づいて、80wt%以下以下であることが好ましく、80wt%以下であることがより好ましく、理想的には0wt%以下から60wt%以下であり、最も理想的には1wt%から55wt%以下である。
【0029】
好適な任意の難燃性材料には、1または2以上のポリアルキルリン酸塩含有化合物が含まれ、これらが本発明の電解質組成物中に存在する場合、可燃性が抑制された電池が形成されるのみならず、それらの使用により、ポリアルキルリン酸塩含有化合物を有さない従来の有機炭酸塩電解質と比べて、電池サイクル寿命が大きく高められ、特に、特にポリオレフィンセパレータの濡れの場合、好ましいセパレータの濡れが促進されることが見出されている。
【0030】
好適なポリアルキルリン酸塩には、リン酸トリアルキルが含まれ、特に好ましくはリン酸トリメチルおよび/またはリン酸トリエチルが含まれる。
【0031】
本発明の電解質組成物において使用される場合、1または2以上のポリアルキルリン酸含有化合物の総量は、好ましくは、電解質組成物に使用される溶媒系の総重量の、少なくとも1wt%~90wt%であり、さらに好ましくは少なくとも2wt%~70wt%、より好ましくは少なくとも5wt%~70wt%であり、理想的には10wt%~70wt%である。ある実施形態では、1または2以上のポリアルキルリン酸含有化合物の5wt%未満の量は、可燃性を低下させる点、および/またはサイクル寿命を向上させる点、および/またはセパレータの濡れ性を増大させる点で有効であることが見出されている。
【0032】
好適なグリムは、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグリムCH3-O-CH2CH2-O-CH3)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリムCH3-O-(CH2-O)2-CH3)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム、CH3-O-(CH2-O)3-CH3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグリム、CH3-O-(CH2-O)4-CH3)、エチレングリコールジエチルエーテル(エチルグリム、CH3CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH3)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(エチルジグリム、CH3CH2-O-(CH2-O)2-CH2CH3)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(ブチルジグリム、CH3CH2-O-(CH2-O)2-CH2CH3)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(ポリグリム、CH3-O-(CH2-O)n-CH3)、およびジプロピレングリコールジメチルエーテル(プログリム、CH3-O-(CH2CH3-O)2-CH3)から選定されてもよい。
【0033】
ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグリム)、およびテトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグリム)が特に好ましい。
【0034】
好適な1または2以上のグリコールエーテルアセテートは、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、およびジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートから選択されてもよい。
【0035】
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、およびエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが特に好ましい。
【0036】
好適なイオン性液体は、イミダゾリウム、ピロリジニウム、およびアンモニウム族に基づくカチオン、ならびにテトラフルオロボレート(BF4 )、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)、トリ(フルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)、過塩素酸塩(ClO4 )、ヘキサフルオロリン酸塩(hexafluorophaphate)(PF6 )、および過塩素酸鉄(FeCl4 )に基づくアニオンの任意の組み合わせを有してもよい。
【0037】
本発明の電解質組成物に使用される1または2以上の追加化合物の量は、好ましくは、電解質組成物に使用される溶媒系の全重量の、0.1wt%~80wt%、好ましくは0.1wt%~70wt%、さらに好ましくは0.2wt%~55wt%、最も好ましくは0.5wt%~50wt%の範囲である。
【0038】
また、本発明による電解質組成物は、必要な場合、1または2以上の特性添加剤を有してもよく、典型的には、電解質組成物に使用される溶媒系の全重量の、15wt%未満、好ましくは10wt%未満、さらに好ましくは0.1wt%から5wt%未満の量で含まれ、好ましくは、電解質のバルク中ではなく、電解質-電極界面で作用してもよい。そのような特性添加剤は、特に、液体電解質系において有益である。ここでは、不溶性の分解生成物は、負極の表面(SEI)に固体パッシベーション層を形成し、SEIのイオン伝導性および電子伝導性を最適化し、その強度および負極の表面に対する接着性を最大限に高めることができる。また、特性添加剤は、セパレータの表面の濡れ性を高め、過充電からセルを保護し、流動性改善剤、粘度低下剤、および/または不純物もしくはラジカルの捕捉剤として機能する点で有益である。さらに、そのような特性添加剤は、セルの過充電の際、または電解質に別の不燃性特性を付与する際に、フェールセーフを提供するなど、セル特性に追加の利点を与えることができる。
【0039】
好適な特性添加剤は、ビフェニル、ジフェニルアミン、ジメトキシジフェニルシラン(DDS)、3-クロロアニソール(3-C)、N-フェニルマレイミド、キシレン(メチル置換ベンゼン)、およびシクロヘキシルベンゼンのような、過充電保護を促進する重合可能添加剤;2,5-ジ-tert-ブチル-1,4ジメトキシベンゼン(DDB)、4-tert-ブチル-1,2-ジメトキシベンゼン(TDB)、1,4ビス(トリメチルシリル)-2,5-ジメトキシベンゼン(BTMSDB)、および1,4-ビス(2-メトキシエトキシエトキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼンのような、酸化還元-シャトル機構に基づいて過充電保護を促進する添加剤;メチルホスホン酸ジメチル(DMMP)、エトキシ-ペンタフルオロ-シクロトリホスファゼン(N3P3F5OCH2CH3、EFPN)、トリ(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイト、および/またはトリ(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスフェート(TFEP)、メチルノナフルオロブイルエーテル(MFE)、およびシラン-Al2O3ナノ粒子のような、電解質に別の難燃機能を付与する添加剤;ならびに無水コハク酸のような、より良好な高温サイクルを促進する添加剤から選定されてもよい。
【0040】
本発明の電解質組成物は、ナトリウムイオン電池において好適に使用される。従って、別の態様では、本発明は、負極、正極、および前述の本発明による電解質組成物を有するナトリウムイオン電池を提供する。そのようなナトリウムイオン電池は、エネルギー貯蔵装置、例えば、電池、再充電可能電池、電気化学装置、およびエレクトロクロミック装置に使用されてもよい。
【0041】
理想的には、本発明の電解質組成物は、活性負極(アノード)電極材料として炭素含有材料を使用するナトリウムイオン電池に使用される。好ましくは、炭素含有材料は、非グラファイト化(黒鉛化)炭素含有材料である。そのような炭素材料には、これに限られるものではないが、改質グラファイト炭素、非黒鉛炭素、等方性カーボン、部分黒鉛炭素、剥離グラファイト、膨張グラファイト、非晶質炭素、非結晶化炭素、軟質カーボン、および硬質カーボン材料が含まれる。疑義を避けるため、本願で使用される「非グラファイト化炭素材料」には、天然グラファイト構造を長距離秩序で有する任意の炭素(構造のバルクに広がる)、または天然グラファイト材料と同一の構造を有する合成グラファイト材料は含まれない。非グラファイト化炭素を製造する典型的な方法は、開始材料、例えば、スクロース、コーンスターチ、グルコース、有機ポリマー(例えば、ポリアクリロニトリルまたはレゾルシノールホルムアルデヒドゲル)、セルロース、石油コークスまたはピッチコークスを、約1200℃に加熱するステップを使用する。市販の非グラファイト化炭素材料は、「硬質カーボン材料」と呼ばれ、これには、クレハ社から「Carbotron(登録商標)硬質炭素材料」の名称で販売されているもの、およびKuraray社およびクレハ社から「Bio-Carbotron(登録商標)硬質カーボン材料」の名称で販売されているものが含まれる。
【0042】
理想的には、本発明のナトリウムイオン電池は、非グラファイト化可能な炭素(例えば、硬質カーボン)のみを含有するアノード活性材料を使用する。しかしながら、Na貯蔵可能な金属もしくは合金、またはその元素もしくは化合物の形態の金属もしくは非金属のような、1または2以上の他の材料(混合物としてまたは複合物として)と、非グラファイト化炭素を組み合わせた材料を使用することも有意である。特に好ましいアノード活性材料には、硬質カーボン/X材料が含まれ、ここでXは、アンチモン、スズ、リン、硫黄、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、鉛、ヒ素、ビスマス、チタン、モリブデン、セレン、テルル、シリコンまたは炭素のような、1または2以上の元素であってもよい。硬質カーボン/Sb、硬質カーボン/Sn、硬質カーボン/SbxSny、および硬質カーボン/Pは全て、好適な硬質カーボン含有材料である。
【0043】
「膨張」または「剥離」グラファイトと称される非グラファイト化炭素材料は、天然グラファイトの構造と同様の構造を有すると認識できる。ただし、改質により、その炭素が3.35オングストロームを超える(001)方向の中間層間隔を示すため、それと同一ではない。
【0044】
本発明の非水系電解質組成物は、非グラファイト化炭素含有アノード、好ましくは硬質カーボンアノードとともに使用されることが最も好ましい。
【0045】
従って、非常に好ましい実施形態では、本発明は、非グラファイト化炭素材料、好ましくは硬質カーボンアノードを含むアノードを有するナトリウムイオン電池での使用に適した、前述の非水系電解質組成物を提供する。
【0046】
別の例では、本発明の電解質組成物は、ナトリウム挿入材料を有するアノードを用いたナトリウムイオン電池に使用されてもよい。ナトリウム挿入材料は、例えば、チタン酸塩化合物(未ドープまたは少量の他の金属で置換された、および/または他の遷移金属で置換されたTi、および/または他のハロゲンで置換されたO)であり、例えば、Na2Ti3O7、NaHTi3O7、Na2Ti6O13、Na2Li2Ti5O12、K2Ti3O7、K2Ti6O13、TiO2、NaTiO2、およびH2Ti3O7である。未ドープまたは(各種他の金属および/またはハロゲンの少量で)ドープされた、または部分的に置換された(任意の金属、非金属、半金属および/またはハロゲン)NaTi2(PO4)3およびTiS2のような、他のナトリウム挿入材料は、非グラファイト化炭素材料とともに、またはその代替として、使用されてもよい。
【0047】
さらに別の例では、本発明の電解質組成物は、変換および/または合金材料を有するアノードを用いたナトリウムイオン電池に使用されてもよい。これは、非グラファイト化炭素材料とともに、またはその代替として、変換および/または合金材料と、変換および合金型反応機構を示す金属とを有し、ナトリウムが貯蔵され、例えば、スズ、アンチモン、モルブデン、リン、硫黄、インジウム、鉛、鉄、マンガン、およびゲルマニウムであり、これらは元素の形態、または好ましくは酸素、炭素、窒素、リン、硫黄、ケイ素、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素(SnO、SnO2、SnF2、SiP2、Fe2O3、Fe3O4、FeS、FeS2、MoS2、MoO3、Sb、Sb2O3、SnSb、およびSbOなど)から選択された1または2以上との化合物の形態である。
【0048】
二次炭素含有材料を前述のアノード活性材料と組み合わせて、アノードの導電性を改善してもよい。例えば、活性炭素材料、粒子状カーボンブラック材料、グラフェン、カーボンナノチューブ、およびグラファイトがある。粒子状カーボンブラック材料の例には、「C65(登録商標)カーボン(Super P(登録商標)カーボンブラックとしても知られている)(BET窒素表面積62m2/g)((Timcal社から入手可能)」が含まれるが、BET窒素表面積が900m2/gの他のカーボンブラック、例えば、BET窒素表面積が770m2/gのカーボンブラックである「Ensaco 350g(登録商標)」(ゴム組成の特殊カーボンとしてImerys Graphite and Carbon社から入手可能)も利用可能である。カーボンナノチューブは、100~1000m2/gのBET窒素表面積を有し、グラフェンは、約2630m2/gであり、活性炭素材料は、3000m2/gを超えるBET窒素表面積を有する。
【0049】
また本発明は、前述の本発明による負極、正極、および非水系電解質組成物を有するナトリウムイオン電池を提供する。負極は、非グラファイト化炭素材料、好ましくは硬質カーボン材料を有する。そのようなナトリウムイオン電池は、エネルギー貯蔵装置、例えば、電池、再充電可能電池、電気化学装置、およびエレクトロクロミック装置に使用されてもよい。本発明による電解質組成物は、ポリオレフィンセパレータを有するナトリウムイオン電池に使用された場合、特に有意な利用性が得られることが認められている。
【0050】
本発明によるナトリウムイオン二次電池は、任意のカソード電極活性材料を有する。ただし、好ましいカソード電極活性材料は、以下の一般式で表される:

A1±δM1 VM2 WM3 XM4 YM5 ZO2-c

ここで、Aは、ナトリウム、カリウムおよびリチウムから選択される1または2以上のアルカリ金属であり、
M1は、酸化状態が+2の1または2以上の酸化還元活性金属を含み、好ましくはニッケル、銅、コバルトおよびマンガンからなる群から選択され、
M2は、0よりも大きく+4以下の酸化状態の金属を有し、
M3は、酸化状態+2の金属を有し、
M4は、0よりも大きく+4以下の酸化状態の金属を有し、
M5は、酸化状態+3の金属を有し、
0≦δ≦1、
V>0、
W≧0、
X≧0、
Y≧0、
WとYの少なくとも1つは>0であり、
Z≧0、
Cは、0≦c<2の範囲であり、
ここで、V、W、X、Y、ZおよびCは、電気化学的中性を維持するように選択される。
【0051】
理想的には、金属M2は、1または2以上の遷移金属を有し、好ましくは、マンガン、チタンおよびジルコニウムから選択され、M3は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、スズ、亜鉛およびコバルトから選択された1または2以上の遷移金属を有し、M4は、1または2以上の遷移金属を有し、好ましくは、マンガン、チタンおよびジルコニウムから選択され、M5は、好ましくは、アルミニウム、鉄、コバルト、スズ、モリブデン、クロム、バナジウム、スカンジウムおよびイットリウムから選択された1または2以上の遷移金属を有する。
【0052】
特に好ましいカソード電極活性材料は、ニッケル酸塩系材料である。
【0053】
任意の結晶構造を有するカソード電極活性材料が使用されてもよい。ただし、構造は、好ましくは、O3またはP2またはその誘導体であり、具体的には、カソード電極活性材料が相混合物を含み、すなわち、いくつかの異なる結晶形態で構成された不均一構造を有することも可能である。例えば、カソード活性材料は、O3およびP2相の混合物において、前述の一般式を有する化合物を含む。O3:P2相の比は、1~99:99~1が好ましい。
【0054】
以下の特定の例に示すように、本発明の電解質組成物は、本発明の組成物から外れる電解質組成物と比較した場合、すなわち、前述の1または2以上の界面活性剤と組み合わされた、1または2以上の有機炭酸塩系の溶媒を含まない化合物と比較した場合、高められたサイクル寿命、高められた容量および不燃性に関し、驚くべき優れた利点を提供する。
【0055】
別の態様では、非水系電解質組成物が提供される。これは、a)1または2以上のナトリウム含有塩と、b)溶媒系であって、i)1または2以上の有機炭酸塩系の溶媒を含む第1の溶媒成分と、ii)グリム、グリコールエーテルアセテート、イオン性液体、ニトリル含有化合物、希釈剤(ヒドロフルオロアルキルエーテル希釈剤など)、硫黄含有化合物、および難燃剤(ポリアルカリ性リン酸塩含有化合物など)、から選択される少なくとも1つの化合物を含む第2の溶媒成分を含む溶媒系と、を有し、任意で1または2以上の界面活性剤との組み合わせを有してもよい。好ましくは、好適なグリム、グリコールエーテルアセテート、イオン性液体、ニトリル含有化合物、希釈剤、ヒドロフルオロアルキルエーテル希釈剤、硫黄含有化合物、難燃剤、ポリアルクリルリン酸塩含有化合物、および界面活性剤は、上記の通りである。
【0056】
さらに別の態様では、前述の別の態様による非水系電解質組成物を含むナトリウムイオン電池、およびエネルギー貯蔵装置が提供される。
【0057】
以下、図面を参照して本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1a】本発明の電解質組成物(サンプルTEL3、TEL3a、TEL3b、TEL4、TEL4a、TEL4b)のND525セパレータ(旭化成株式会社)による取り込みを、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)の取り込みと比較して示した図である。
図1b】硬質カーボン電極による本発明の電解質組成物(サンプルTEL3、TEL3a、TEL4およびTEL4a)の電解質取り込みを、対照電解質組成物を使用した電池(サンプルTEL0)の取り込みと比較して示した図である。
図2a】本発明の電解質組成物を使用した10mAhセル(サンプルTEL3、TEL3a、TEL4およびTEL4a)について、C/5での長期サイクル特性を示すための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットを、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較して示した図である。
図2b】対照電解質組成(サンプルTEL0)を使用した電池の特性に対する電解質組成物TEL3bおよびTEL4bの特性の比較を提供するため、C/A質量バランスが1.4の10mAhフル電池のカソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットを示した図である。
図3】本発明の電解質組成物(サンプルTEL3a、TEL4a)を使用した5Ahセルの長期サイクル特性を、対照電解質組成物(サンプルTEL0)を使用したセルのサイクル特性と比較し、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットを示した図である。
図4】異なる電解質組成物(本発明ではないサンプルTEL19、TEL19a、TEL19b)を使用した10mAhセルの長期サイクル特性を、対照電解質組成を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較して示した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図5a】異なる電解質組成物を含む10mAhセル(本発明ではないサンプルTEL19、および本発明によるサンプルTEL24、サンプルTEL24a)の長期サイクル特性を、対照電解質組成を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較して示した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図5b】異なる電解質組成物を含む0.6Ahセル(本発明ではないサンプルTEL19、本発明よるTEL24)の長期サイクル特性を、対照電解質組成を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較して示した、カソード比容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図6】本発明の異なる電解質組成物を含むセル(サンプルTEL24、TEL24a)の3.75~2.5V窓内のサイクル安定性を、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較して示した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図7a】4.2~1.0V窓内の、異なる電解質組成物(本発明ではないサンプルTEL19、および本発明によるサンプルTEL24、TEL24a、TEL37、TEL38a)のサイクル特性を、対照電解質組成物(サンプルTEL0、TEL36、TEL38)を使用した電池のサイクル特性と比較して示した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図7b】3.75~2.5V窓内の、異なる電解質組成物(本発明ではないサンプルTEL39、本発明による39a)のサイクル特性を、対照電解質組成物を使用したセルのサイクル特性(サンプルTEL0)と比較して示した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図8】4.2~1.0V窓内の、異なる電解質組成物(本発明ではないサンプルTEL19、TEL34およびTEL35、本発明によるサンプルTEL17b、TEL24およびTEL24a)のサイクル特性を、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較して示した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図9】ND525セパレータ(旭化成株式会社)による電解質組成物(本発明ではないTEL2、TEL2a、本発明によるTEL9、TEL10)の電解質取り込みを、対照電解質組成物を使用したセル(TEL0、TEL1a)の取り込みと比較して示した図である。
図10】電解質組成物(本発明ではないサンプルTEL2)の大きなパウチセルのサイクル特性を示すための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図11】4.0~1.0V窓内の電解質組成物(本発明ではないサンプルTEL2)の3Eサイクル特性を示すための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図12】3Eフルセルにおける4.2~1.0V窓内の電解質組成物(本発明ではないサンプルTEL 2および本発明によるサンプルTEL 23)の第1サイクルのクーロン効率特性を、対照電解質組成物を使用した電池(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較して示した、電位(V対Na/Na)対活性アノード容量(mAh/g)のプロットである。
図13】本発明の異なる電解質組成物を使用した10mAhの2Eセル(本発明ではないTEL2およびTEL14b、本発明によるTEL14c、TEL17およびTEL23)のサイクル特性を、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図14a】本発明の電解質組成物サンプルTEL24bを使用した10mAhの3Eフルセルのサイクル特性を、対照電解質組成物(サンプルTEL0およびTEL0c)を使用したセルのサイクル特性と比較した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数、および%クーロン効率対サイクル数のプロットである。
図14b】本発明の電解質組成物、サンプルTEL24、TEL24bおよびTEL24cを使用した10mAhの3Eフルセルのサイクル特性を示し、比較するための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数、およびクーロン効率%対サイクル数のプロットである。
図15】本発明ではない電解質組成物サンプルTEL40を使用した2Eの10mAhパウチセルのサイクル特性を示すための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図16】電解質組成物サンプルTEL41を使用した2Eの10mAhパウチセルのサイクル特性を、対照電解質組成物を使用したセル(サンプTEL0)のサイクル特性と比較した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図17】本発明の電解質組成物を使用した2Eの10mAhパウチセルのサイクル特性を、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図18】本発明ではないサンプルTEL19、および本発明によるTEL24、TEL37a、およびTEL43の電解質組成物を使用した2Eの1Ahパウチセルのサイクル特性を、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図19】本発明のサンプルTEL58aおよびTEL43eをの電解質組成物を使用した2Eの0.1Ahパウチセルのサイクル特性を示すための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図20】本発明のサンプルTEL24b、TEL58a、TEL43e、およびTEL42d、ならびに本発明ではないTEL43gを使用した電解質組成物の2Eの0.1Ahパウチセルのサイクル特性を示すたための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図21】本発明のサンプルTEL24およびTEL37eの電解質組成物を使用した3Eの10 mAhパウチセルのサイクル特性を、対照電解質組成物(サンプルTEL0およびTEL36)を使用したセルのサイクル特性と比較して示した、電流(mA/cm2)対電圧(V対Na/Na)のプロットである。
図22】本発明のサンプルTEL24b、TEL61、およびTEL61bの電解質組成物を使用した2Eの0.1Ahパウチセルのサイクル特性を示すための、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
図23】本発明ではないサンプルTEL44bの電解質組成物を使用した2Eの10mAhパウチセルのサイクル特性を、対照電解質組成物を使用したセル(サンプルTEL0)のサイクル特性と比較した、カソード放電容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下の一般的な手順を用いて、評価対象の電解質組成物を調製した。アルゴン充填グローブボックス内で所望の溶媒系の溶媒の適切な量を秤量し、褐色ガラス瓶に添加した。形成された溶媒を完全に乾燥させるため、4Åモレキュラーシーブ(Sigma-Aldrich)を添加し、溶媒混合物を少なくとも24時間乾燥させた。その後、依然グローブボックス内のままで、この溶媒混合物を磁気撹拌棒を含む別の褐色ガラス瓶に移した。次に、アルゴン充填グローブボックス内で、1または2以上のナトリウム含有化合物の適正量を秤量し、攪拌しながらゆっくりと溶媒混合物に添加した。磁気スターラプレート上で塩が溶解したことが目視で確認されるまで、電解質混合物を撹拌した。次に、電解質混合物をスターラプレートから取り出し、アルゴン充填グローブボックスを用いて保管した。
【0060】
以下の表1には、評価した電解質組成物の各々の正確な組成を詳細に示す。
【0061】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
(使用した略語)
EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート、PC=プロピレンカーボネート、TMP=リン酸トリメチル、PCS=1,3-プロパンジオール環状硫酸塩、P123=ポロキサマー(プルロニック(登録商標))P123、F127=ポロキサマー(プルロニック)F127、TEP=リン酸トリエチル、HFE=1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3-テトラフルオロプロピルエーテル、TMSB=トリス(トリメチルシリル)ボレート、D2=1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、Tetraglyme=テトラエチレングリコールジメチルエーテル。
【0062】
前述の表1において、種々の溶媒および/または添加剤のwt%は、全溶媒重量に対して記載されていることが留意される(これらは、1または2以上のナトリウム含有塩の重量を考慮していない)。
【0063】
(セル構成)
(硬質カーボンNaイオン電池を製造する一般的な方法)
活性材料電極、セパレータ、および電解質を用いて、ナトリウムイオンパウチセルを製造した。電極のそれぞれにアルミニウムタブを接続し、ポリマー被覆アルミニウムパウチにセルを収容した。正極(カソード)電極は、活性材料、導電性カーボン、バインダおよび溶媒のスラリーを溶媒キャスティングすることにより調製される。使用される導電性カーボンは、C65(Imerys)である。バインダとしてPVdFコポリマ(例えば、クレハ化学社のW#7500)が用いられ、溶剤としてNMPが用いられる。次に、炭素被覆アルミニウム箔上にスラリーがキャストされ、約80℃で乾燥される。電極膜は、重量パーセント表記で以下の成分:89%の活性材料、5%のC65炭素、および6%のW#7500バインダを有する。
【0064】
硬質カーボン負極(アノード)電極は、硬質カーボン活性材料(Kuranode Type 1、Kureha社供給)、導電性炭素、バインダおよび溶媒のスラリーを溶媒キャスティングすることにより調製される。使用される導電性炭素は、C65(Imerys)である。バインダとしてPVdFコポリマ(例えば、W#9300、クレハ化学社)を使用し、溶媒としてNMPを使用する。次に、炭素被覆アルミニウム箔上でスラリーをキャストし、約80℃で乾燥する。電極膜は、重量パーセント表記で以下の成分:88%の活性材料、3%のC65炭素、および9%のW#9300バインダを有する。
【0065】
(セル評価)
以下のように、定電流(ガルバノスタティック)サイクル法を用いてセルを評価した。
【0066】
セルは、予め設定された電圧限界の間で、所定の電流密度でサイクルされる(充電の上部では、定電圧ステップが実施される)。Maccor社(Tulsa,OK,USA)の市販のバッテリサイクラーが使用される。充電の際、アルカリイオンがアノード材料に挿入される。放電中は、アノードからアルカリイオンが抽出され、カソード活性材料に再挿入される。
【0067】
(実験1:セパレータによる電解質組成物の取り込み、および硬質カーボンアノード電極上の電解質組成物による濡れ性に及ぼす界面活性剤の影響の評価)
ポロキサマー(プルロニック)P123およびポロキサマー(プルロニック)F127の2つのブロックコポリマの非イオン性界面活性剤材料を評価した。前述の表1に示すように、電解質組成物TEL3、TEL3a、TEL3b、TEL4、TEL4a、TEL4b、TEL9、TEL10を調製し、これらの各サンプルのセパレータ(旭ND525)および硬質カーボン電極(クラレのタイプ1硬質カーボン)による取り込みを測定し、その結果を非界面活性剤含有対照電解質組成物サンプルTEL0の取り込みと比較した。
【0068】
電解質の取り込みの値は、
【0069】
【数1】

を用いて算出した。
ここで、M0は、裸のセパレータ(または硬質カーボン電極)の重量であり、Mは、電解質に浸漬した後のセパレータ(または硬質カーボン電極)の重量である。このため、全てのセパレータ/電極を電解質のプールに1時間浸漬した。3つの異なる測定から、標準偏差が計算される。
【0070】
図1aおよび1bの結果が示すように、セパレータおよび硬質カーボンの両方における(それぞれの)電解質取り込みは、界面活性剤含有電解質の場合に増加した。具体的には、図1aおよび1bから、TEL0電解質に0.2、1または2wt%のP123またはF127界面活性剤を添加すると、セパレータにおいて5~50%の電解質取り込みの増加が生じ、硬質カーボン電極において約9%の増加が生じることは明らかである。
【0071】
これらは、統計的に有意な値であり、下記の実施例2を用いて、改善された取り込みが、良好な電気化学的特性に変換されるかどうかを評価した。
【0072】
(実験2:界面活性剤を含む電解質組成物を用いた電池のサイクル特性)
前述の一般的な方法を用いて、サンプル電解質組成物TEL3、TEL3a、TEL4、TEL4a、および対照電解質組成物TEL0の各々を用いて、10mAh試験セルを調製した。次に、4.2と1.0Vの間のサイクルにより、各試験セルの電気化学的特性を評価した。図2aに示された結果から、1wt%のP123またはF127では、0.2wt%のP123またはF127よりも長いサイクル寿命を達成し、これらのwt%の界面活性剤の両方が、TEL0の性能を上回ることは明らかである。電解質組成物TEL3a(1wt%のP123)を含むセルにおいて最高の特性が観測され、これは、TEL4a(1wt%のF127)の特性よりもわずかに良好であった。
【0073】
図2bから、界面活性剤の添加をさらに2wt%まで増加させると、特性が大きく低下し、TEL3bおよびTEL4bのサンプルでは、対照電解質組成物TEL0を使用したセルの結果と比べて、同様の特性の低下が生じることがわかる。
【0074】
図3には、TEL0、TEL3aまたはTEL4aの電解質組成物のいずれかを用いた大規模5Ahセルの長期サイクルデータを示す。大規模5Ahセルにおいても、1wt%のP123またはF127界面活性剤を用いた場合、サイクル寿命の延長の傾向が確認される。また、電解質組成物TEL3aを用いたセルでは、電解質組成物TEL0を用いた同様のセルと比べて、51サイクルのサイクル寿命の増加が観察された。
【0075】
組み合わせを考慮すると、図2および3に示された結果から、1wt%のP123界面活性添加剤(TEL3a)では、電気化学的特性が実質的に改善されるという結論が導かれる。
【0076】
(実験3:硫黄含有化合物を含む電解質組成物を用いたセルのサイクル特性の評価)
対照電解質組成物TEL0に、1,3-プロパンジオール環状硫酸塩(PCS)を添加し、電解質組成物サンプル、すなわち、本発明ではないTEL19(1wt%のPCS)、TEL19a(2wt%のPCS)およびTEL19b(3wt%のPCS)を作製した。
【0077】
図4に示すように、全てのPCS含有サンプル(TEL19、TEL19aおよびTEL19b)は、対照電解質組成物試料TEL0による特性と比べて、供給容量(TEL0を使用したセルで観測されたものよりも約10mAh/g高い容量増加)およびサイクル寿命(TEL0を使用した電池に比べて、40~120サイクルのサイクル寿命増加が得られた)の両方の点で、良好なサイクル特性を示した。
【0078】
また、PCS含有サンプルでは、第1サイクルのクーロン効率が(TEL0電解質組成物を用いたセルの場合の)77%から、(TEL19、19aおよび19b電解質組成物を用いたセルの)80%に増加した。この特性の増加により、カソードからNaのより少ない量が不可逆的に消費されたとして、PCS系の電解質で観測されたより高い容量が説明できる。
【0079】
1wt%のPCS添加剤(サンプルTEL19)を含有する電解質組成物を用いたセルでは、最高のサイクル特性が観測された。
【0080】
(実験4a:硫黄含有化合物(PCS)および界面活性剤を含む電解質組成物を用いた10mAhセルのサイクル特性の評価)
TEL0の電解質組成物(対照)、または1%のPCSを有するTEL0(サンプルTEL19)の組成物、またはTEL0および1wt%のPCS+1wt%のP123の組成物(サンプルTEL24)、またはTEL0および0.5wt%のPCS+0.5wt%のP123(サンプルTEL24a)組成物のいずれかを有する、10mAhセルの長期サイクル特性を評価した。
【0081】
図5aから、硫黄含有化合物、PCS、および界面活性剤、ポロキサマーP123の添加により、対照電解質組成物TEL0を含むセルのサイクル特性と比べて、改善されたサイクル特性が得られることがわかる。特に、TEL24電解質組成物セルを含むセルにおいて、TEL19電解質組成物セルを含むセルに対して、72サイクルも上回ったことは、注目に値する。さらに、TEL24セル電解質組成物を含むセルでは、TEL0対照セルに比べて、191サイクルのサイクル寿命増加(72%の増加)が生じた。しかしながら、TEL24は、界面活性剤のwt%を0.5wt%(TEL24aの場合)から1wt%(TEL24の場合)に高める利点を強調する、最も良好な特性のサンプルであることがわかる。
【0082】
(実験4b:硫黄含有化合物(PCS)および界面活性剤を含む電解質組成物を用いた、0.6Ahセルのサイクル特性の評価)
TEL0の電解質組成物(対照)、または本発明の組成物:1%のPCSを有するTEL0(サンプルTEL19)、または1wt%のPCS+1wt%のP123を有するTEL0(サンプルTEL24)のいずれかを有する、より大規模な0.6Ahセルについて、長期サイクル特性をさらに評価した。
【0083】
図5bに示すように、上記の実験5aに示したTEL24の良好な特性は、より大きな0.6Ahセルでも達成された。さらに、図5bに示した結果から、1wt%のPCS添加剤(TEL19またはTEL24のいずれか)を用いたセルのサイクル寿命は、TEL0を用いたセルのサイクル寿命よりも長くなる傾向にあり、これは、図5bのプロットにおいて「ハンプ」として示されている、容量対サイクル数における最大の位置に基づく。具体的には、X軸に沿った「ハンプ」の位置は、TEL0におけるサイクル77から、TEL24におけるサイクル134まで増加した(57サイクルの増加)。TEL19のセルに関しては、140サイクル後に最大点に達した。
【0084】
図6には、現在自動車で使用されているスタータ点火-ライティング(SLI)バッテリの電圧プロファイルをシミュレートするための3.75~2.5Vの窓内のサイクル安定性を示す。特に、C/A質量バランスが2.27のセルでは、3.75~2.5Vの窓内で、電解質組成物TEL24およびTEL24aにおいて、同様の電圧条件下でサイクルした電解質組成物TEL0を用いた同様の対照セルよりも有意に高い容量が得られた。具体的には、電解質組成物TEL0を用いた対照セルのサイクル60での供給容量は、50.4mAh/gであるのに対して、電解質組成物TEL24を使用したセルでは、53.1mAh/gであり、電解質組成物TEL24aを用いたセルでは、54.3mAh/gであった。
【0085】
また、有意なことに、C/A質量バランスを2.27から2.61および2.95に増加させることにより、供給容量をさらに高めることができることがわかった。
【0086】
(実験5a:電解質組成物における唯一の有機炭酸塩系溶媒としてのプロピレンカーボネートを含有させることによる10mAhセルのサイクル特性に及ぼす影響の評価)
純粋なプロピレンカーボネート(対照サンプルTEL36)、またはプロピレンカーボネートと1wt%のPCSと1wt%のP123の混合物(サンプルTEL37)、または対照電解質組成物(対照サンプルTEL0)のいずれかを有する電解質組成物を用いたセルについて、10mAh、4.2~1Vの間で、長期サイクル特性を評価した。
【0087】
図7aの結果に示すように、唯一の有機炭酸塩系溶媒としてプロピレンカーボネートを有する(他の第2の溶媒成分添加物も含まない)電解質組成物、対照サンプルTEL36では、対照電解質TEL0を使用したセルと比較して、サイクル安定性が劣っていた。しかしながら、唯一の有機炭酸塩系の溶媒としてプロピレンカーボネートを有するものの、さらに1wt%のPCSおよび1wt%のP123添加剤を有する電解質組成物(サンプルTEL37)では、対照電解質TEL0を用いた同様のセルと比較して、60サイクルにわたってより高い初期放電容量、およびより良好なサイクル安定性が得られた。この結果は、界面活性剤および硫黄含有添加剤が存在する場合、硬質カーボン系のナトリウムイオン電池において、純粋なPC系電解質組成物が特に有効であることを示唆するものである。
【0088】
(実験5b:プロピレンカーボネートが存在しない電解質組成物を用いた10mAhセルのサイクル特性に対する影響の評価)
10mAhセルの4.2~1Vの間の長期サイクル特性を評価した。セルは、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートを有する(すなわち、プロピレンカーボネートを含まない)第1の溶媒成分を有する電解質組成物(対照サンプルTEL38)、または1wt%のPCSおよび1wt%のP123を含むエチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートを有する(すなわち、プロピレンカーボネートを含まない)電解質組成物(サンプルTEL38a)、または対照電解質組成物(サンプルTEL0)を有する。
【0089】
図7aに示すように、1 wt%のPCSおよび1 wt%のプロキサマーP123を含む非PC系の電解質組成物(サンプルTEL38a)のサイクル特性は、同じEC:DEC溶媒を用いたものの、PCSおよび界面活性添加剤を使用していない電解質組成物を用いた比較セル(サンプルTEL38)に関して、5サイクルにおいて(C/10での4回の形成サイクル後)、非常に高い容量(112.4mAh/g)を示し、有意に高いサイクル安定性を示した。比較セルは、非常に低い5サイクル容量(97.5 mAh/g)を示し、有意に低いサイクル安定性を示した。この結果は、有機炭酸塩含有電解質組成物の電気化学的特性は、硫黄含有化合物および界面活性添加剤の含有により、大きく向上できることを示している。
【0090】
また、2つの電極(2E)の10mAhセルについて、3.75~2.5Vの間の長期サイクル特性を評価した。このセルには、第1の溶媒成分を有する電解質組成物を使用した。これは、本発明ではない、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートと、TMP (1:1 wt%)とを含み(すなわち、プロピレンカーボネートを含まない)(サンプルTEL39)、またはエチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートと、1wt%のPCSおよび1wt%のP123とを有するTMP(1:1wt%)とを含み(すなわち、プロピレンカーボネートを含まない)(サンプルTEL39)、(本発明によるサンプルTEL39a)、または対照電解質組成物(サンプルTEL0)を含む。
【0091】
図7bの結果に示すように、非PC系のTEL、TEL39およびTEL39a(50重量%のEC:DEC溶媒および50重量%のTMPを使用)では、初期サイクルにおいて、TEL0セルに対して安定した有意に高い容量を示した。これにより、TMP系の電解質は、非PC系の溶媒との適合性が高いことが示された。また、ホン結果から、PCSおよびP123添加剤の含有により、同様に安定したサイクル容量および高い容量が得られることが確認された。さらに、そのような非PC系の電解質組成物は、スタータ-点火‐ライティング(SLI)バッテリに有益である可能性が高いことが示された。
【0092】
(実験6:電解質組成物に異なる硫黄含有化合物を用いた10mAhセルのサイクル特性に及ぼす影響の評価)
10mAhセルの4.2~1Vの間の長期サイクル特性を評価した。セルには、有機炭酸塩:1wt%の界面活性剤P123を有するスルホランが1:1重量比の電解質組成物(サンプルTEL17)、または5wt%スルホランと1wt%の界面活性剤P123の混合物の電解質組成物(サンプルTEL17b)、または1wt%の1,3-プロパンジオール環状硫酸塩の電解質組成物(サンプルTEL19、本発明ではない)、または1wt%の1-プロペン1,3-スルトンの電解質組成物(サンプルTEL34、本発明ではない)、または1wt%の1,3プロパンスルトンの電解質組成物(サンプルTEL 35、本発明ではない)、または対照電解質組成物(対照サンプルTEL0)を使用した。
【0093】
図8の結果に示すように、スルホラン系の化合物を含有する電解質組成物(サンプルTEL17およびTEL17b)は、良好なサイクル性を示し、スルホランの存在により、不燃性であると予想される。対照電解質組成物TEL 0に比べて、サイクル安定性は低下するが、これは、スルホラン含有セルの最適化により改善されると予想される。また、後述の実験11で示すように、3.75~2.5V窓内でTEL17を使用するセルのサイクル寿命は、対照TEL0セルで見られたものと同様に良好であり得る(図13参照)。従って、スルホラン系の電解質は、依然として優れたサイクル安定性を示す。電解質サンプル34および35はいずれも、対照電解質組成物TEL0を用いた同様のセルのサイクル結果と比較して、上昇した初期放電容量およびサイクル安定性(180サイクル以上)を示す。
【0094】
(実験7:リン酸トリメチル含有電解質組成物の可燃性試験の評価)
4つの異なる電解質組成物を調製した。1つは、対照電解質組成物TEL0を含み、別の1つは対照電解質組成物TEL0+を含み、別の1つは、(EC:DEC:PC=1:2:1重量比):リン酸トリメチルの1:1重量比の混合物を含み(サンプルTEL2)、4つ目は、(EC:DEC:PC=1:3:1 重量比):リン酸トリメチルの1:1重量比の混合物を含む(サンプルTEL2a)。次に、同量の各電解質組成物に、ライターで直接点火し、電解質組成物が引火した時点から完全に自己消火した時点までの経過時間を記録し、「自己消火時間」(SET)を算出した。4つの電解質組成物の各々に対して3回実験を行い、結果を用いて、各組成物の平均SETを得た。SETが6s/g未満の場合、不燃性電解質組成物とした以下の表2には、評価した電解質組成物の各々のSETを詳細に示す。
【0095】
【表2】
表2に示された結果から、リン酸トリメチル(TMP)含有電解質組成物サンプルTEL2およびTEL2aが非可燃性であり、従って、非TMP含有組成物よりも有意であることは、容易に明らかである。
【0096】
(実験8:旭ND525セパレータによる取り込みに及ぼす、電解質組成物にリン酸トリメチルを添加する影響を評価した試験の検討)
電解質組成物、TEL0、TEL1a、TEL2、TEL2a、TEL9およびTEL10(前述の表1に記載の組成物)のサンプルを調製し、旭ND525セパレータによるそれらの取り込みを測定した。
【0097】
図9に示すように、全てのTMP含有電解質組成物は、対照組成物TEL0よりも高いセパレータによる取り込みを示した。TEL2およびTEL2aの取り込み結果は、TEL0よりも約20%高いが、リン酸トリメチルおよび界面活性剤含有組成物において、より大きな取り込みが観測され、TEL9およびTEL10は、それぞれ、TEL0よりも約28%および70%以上改善された。これらの結果に基づき、他のTMP+界面活性剤系の電解質組成物、例えば、TEL14cおよびTEL23もまた、有意に高いセパレータによる取り込みを示すことが予想される。
【0098】
(実験9:リン酸トリメチル含有電解質組成物を用いた0.5Ahセルの電気化学的特性の評価)
C/Aマスバランスが1.52、1.94および2.26であり、電解質組成物TEL2(1:1重量比の溶媒比におけるリン酸トリメチル(TMP)と電解質組成物TEL0の組み合わせ)を有する0.5Ahセルの長期サイクル特性(4.2~1Vの間)。
【0099】
図10に示すように、電解質組成物TEL2を使用したTMP含有セルのサイクル寿命は、セルのマスバランスが1.52から2.26に増加すると、約185サイクルから約300サイクルに増加する。
【0100】
図11からわかるように、TMP系のTEL2のサイクル寿命は、4V~1Vの間でのサイクルの場合、より長くすることができる。これらの脱定格条件下では、通常のGSMタイプ1硬質カーボンアノード(83GSM活性)および低GSMタイプ1硬質カーボンアノード(52GSM活性)の両方が、88%の容量保持で400サイクルを超える優れたサイクル安定性を示した。従って、4~1Vの窓内では、TMP系の電解質は、極めて安定したサイクルを形成することができる。また、これらのナトリウムイオン電池は、不燃性であるという追加の利点を有する。
【0101】
(実験10:硫黄含有化合物として1,3-プロパンジオール環状硫酸塩を含み、ナトリウム含有化合物としてNaPF6を含む、電解質組成物の電気化学的特性の評価)
電解質組成物TEL2およびTEL23を用いた3電極(3E)フルセルの4.2~1Vの間での第1回目のサイクルクーロン効率を評価し、その結果を対照TEL0電解質組成物を用いた同様のセルの結果と比較した。
【0102】
図12に示すように、PCS+P123+TMP系の電解質組成物(本発明に係るTEL23)は、TEL2(本発明ではない)およびTEL0(対照サンプル)と比較して、改善された第1回目のサイクル効率を示す。
【0103】
(実験11:本発明による電解質組成物の電気化学的特性に及ぼす影響と比較した、2E、10mAhセルの電気化学的特性の評価)
電解質組成物TEL2、TEL14b、TEL14c、TEL17およびTEL23を用いて、2Eの10mAhセルを調製し、長期サイクル特性(3.75~2.5Vの間)の結果を取得し、対照電解質組成物TEL0を用いた同様のセルのサイクル結果と比較した。
【0104】
前述のように、3.75~2.5Vの窓は、現在自動車に使用されているスタータ-点火-照明(SLI)バッテリの電圧プロファイルをシミュレートする。従って、図13に示された結果は、TMPおよびNaBF4(サンプルTEL14b、TEL14c)を含有する電解質組成物、ならびにスルホランおよび界面活性剤P123を含有する組成物(TEL17)が、この最終用途に非常に適することを示す。また、これらの電圧条件下で、電解質組成物TEL2も、300サイクル超の優れたサイクル安定性を示した。
【0105】
従って、NaBF4は、NaPF6(サンプルTEL14b)の代わりに使用されてもよく、NaBF4系のTMP電解質は、1wt%のPCSおよび1wt%のP123添加剤(TEL14c)とも適合することが確認された。本発明の電解質組成物は、大きなコスト節約、および電解質塩の選択におけるより大きな柔軟性を提供することが期待される。
【0106】
(実験12:本発明の電解質組成物を用いたナトリウムイオン電池の充電許容性の評価)
任意のバッテリ技術において、迅速にバッテリを安全に充電するため、充電許容性は、商業的に重要である。急速充電は、アルカリイオンセルにおけるアノードでのアルカリ金属のめっきの可能性を増大させ(特に低電圧アノードが使用される場合)、これが爆発を引き起こす可能性がある。これは、当業者には良く知られている。従来のリチウムイオン電池では、塩濃度の増加により、電解質の導電率が増加し、これが充電許容性に影響することが一般に知られているが、ナトリウムイオン系では、そのような称呼はこれまで示されていない。図14aには、塩濃度の上昇により、ナトリウムイオンセルの充電許容性がどのように高められるかの一例を示す。図に示すように、この実施例では、3Eの10 mAhセルが、各種速度で充電された。放電サイクルは、常にC/5である(動作温度は30℃)。4~1Vの窓内では、TEL0cは、2.5Cまたは3Cで高速充電可能であるが、TEL0は、硬質カーボンアノード上のナトリウムメッキにより、2Cを超える急激な容量低下を引き起こした(右のパネルに示すTEL0の2.5Cおよび3Cでの低いクーロン効率は、ナトリウムめっきの代用として捉えることができる)。また、本発明による電解質組成物TEL24bは、迅速な2.5Cおよび3Cの充電速度で、TEL0cよりも良好な容量保持を達成した。TEL24bセルでは、3Cで充電された場合に90.2mAh/gが得られるのに対し、TEL0cセルでは、同様の条件で87.5mAh/gであった。
図14bは、本発明の別の実施形態に対する前記洞察を拡張したものである。TEL24(0.5mのNaPF6)、TEL24b(1mのNaPF6)、およびTEL24c(1.5mのNaPF6)の3つの電解質を用いた、4.2~1Vでサイクルされたナトリウムイオンセルに対する3Eの10 mAhのフルセルの高速充電サイクルデータを示す。前述のように、3つのセルは、図に示されているように、各種速度で充電された。放電サイクルは、常にC/5である(動作温度は30℃)。TEL24セル(A3PC377)は、1C後に急激な容量低下を示した。これは、TEL24bセル(A3PC402)およびTE 24cセル(A3PC398)では生じなかった。実際、TEL24cは、各種速度で最も優れた充電受容特性を示した。サイクル26の放電容量は、A3PC398では、3C速度で112.3mAh/gであったが、A3PC377の対応する値は、わずか54.8mAh/gであり、またはA3PC398で得られた値の49%であった。
【0107】
これらの結果は、本発明の実施形態では、高速度および可変電圧窓においても、ナトリウムイオン電池の優れた充電許容性が得られることを示す。これらの実験から、セルのC/Aマスバランスおよび電圧窓を変化させることにより、そのような電解質を用いて、より速い充電許容性を達成できることは、当業者には明らかである。さらに、本願で得られた結果により、テーパ充電(80%、90または100% SOCに対して、2CまたはC/5のような低い値にまで、充電速度を低減する前に、60または80%SOCのような4Cまたは10Cのような設定%SOCまでの超高速充電速度)のような、別の充電モードも可能であることは当業者には明らかである。
【0108】
(実験13:別のリン酸ポリアルキル含有電解質サンプルTEL40(本発明ではない)の電気化学的特性に関する検討)
図15には、TEP含有TEL40電解質(本発明ではない)を用いた2E、10mAhセルの長期サイクルを示す。TEPは、実験7-9に示した本発明の実施形態である、TMPを含有するものと同じクラスのリン酸ポリアルキルファミリーであることが理解される。
【0109】
図15から、TEL40を電解質として使用した場合、セルAPFC221の約1.4のC/Aマスバランスにおいて、196サイクルのサイクル寿命において、20%の容量減少が得られた。前述の実験9の図10を参照すると、APFC221に使用されるものと同様のC/Aマスバランス(1.52対1.4)を有するTEL2を用いたセルFPC180622では、約175サイクルのサイクル寿命が得られることがわかる(TEL2はTMP系電解質)。実験9で示されているように、TMP系の電解質のC/Aマスバランスを増加させると、同様のセルのサイクル寿命が大きく改善される。TEPは、TMPと同じ溶媒ファミリーに属するので、C/Aマスバランスが適切に調整された場合、TEP系電解質でも、長いサイクル寿命が得られることは、当業者には明らかである(この特定のカソード/アノードの組み合わせでは、高められる)。
【0110】
(実験14:希釈溶媒HFEサンプルTEL41(本発明ではない)の使用に関する検討)
全電解質粘度を低下させ、電解質特性を向上させるため、図16では、TEL0(APFC76)を用いた2E、10mAhセルの長期サイクル特性を、ハイドロフルオロエーテルHFE(TEL41)の50重量%を有するTEL0を用いたAPFC222と比較した。高濃度リチウムイオン電解質(塩濃度は、通常、4M未満である)の従来技術から、HFEは、塩基溶媒との塩相互作用の性質を変化させない、良好な希釈溶媒であることが最近確認されている。また、これは、低コストであり、良好な電気化学的および熱的安定性を有する。従って、電解質の全体的な粘度が低下すると、アルカリイオン電池の特性が向上することは、当業者には明らかである。希釈の概念に関し、非金属(ナトリウム)系のアノードを用いた希釈ナトリウムイオン電解質の先行技術は存在しなかった。従って、(本願において前述したもののような)確立された希釈電解質に、この希釈溶媒のある量を加えて、得られたナトリウムイオン電池の特性を向上させ、またはその特性を損なうことは、当業者に明らかではない(結合に名前を付けるため、このヒドロフルオロエーテルが、炭素系アノードまたは合金系アノードのような、多くの既知のナトリウムイオン、非ナトリウム金属アノードとどのように相互作用するかを予測することは、容易ではない)。この問題を解決するため、図16を参照すると、希釈系のTEL41を含むAPFC222が、初期放電容量が高く(107.5mAh/g対105mAh/g)、20%の容量減衰までのサイクル寿命が長い(サイクル288対サイクル265)点で、対照TEL0電解質を含むAPFC76より特性が優れていることは明らかである。従って、希釈ハイドロフルオロエーテル溶媒を、市販のナトリウムイオン電解質に添加することにより、得られるナトリウムイオン電解質の特性がさらに向上することが、本実験により確認された。
【0111】
(実験15a:本発明によるPC系電解質における希釈溶媒HFEの使用に関する検討:小規模10mAhパウチセル)
実験15aは、本発明の実施形態に従い、溶媒として大部分のPCを含むナトリウムイオン電解質の領域における実験14を拡張する。図17には、TEL0(対照)、TEL37a(2wt%のPCSおよび1wt%のP123界面活性添加剤を含むPC系電解質)、TEL43(20wt%のHFE希釈剤を含むTEL37a)、およびTEL43c(40wt%のHFE希釈剤および1mのNaPF6を含むTEL37a)のいずれかを用いた、2E、10 mAhのフルナトリウムイオンセルの長期サイクル特性を示す。PCSおよびP123添加剤を有するPC溶媒のみをベースとするナトリウムイオン電解質が、対照TEL0およびTEL36(添加剤を含まないPCのみの電解質)の電解質を上回ることは、実験5aにおいて既に確認済みである(図7a参照)。図17に関し注目すべき点は、これらの10mAhフル電池が、特許出願(PCT出願番号PCT/GB2019/053519の「軽量GSM アノード」)に従い、約52GSM (5.2mg/cm2)の重量の硬質カーボン活性材料を含む、低GSM硬質カーボンアノードを用いて製造されることである。また、図に示すように、全てのセルにおいて、市販のリチウム/ナトリウムイオン電池に使用されている標準ポリオレフィン型セパレータである、旭ND525セパレータが用いられる。図17を参照すると、示された4つの電解質のうち、TEL0は、20%の容量減衰までのサイクル寿命が最も低く(271サイクル)、TEL37aは、実際、最も長いサイクル寿命(389サイクル)を示すことがわかる。2種類の希釈剤系電解質は、TEL0電解質よりも長いサイクル寿命(TEL43の304サイクル寿命、TEL43cの320サイクルのサイクル寿命)を示し、そのようなPC+HFE系電解質は、対照TEL0電解質よりも特性が優れていることが示唆された。
【0112】
(実験15b:本発明によるPC系電解質における希釈溶媒HFEの使用に関する検討:大規模1Ahパウチセル)
実験15bは、1Ahパウチセルのような、商業用途で実際に使用されるタイプの大規模ナトリウムイオンパウチセルの領域に実験15aを拡張する。図18には、市販のCelgard2500セパレータ(これらは、市販の旭ND525セパレータに似たポリオレフィンセパレータであり、そのようなセパレータから得られた結果は、市販のポリオレフィンセパレータの全てに拡張できることが理解される)を用いた、30℃での±C/3速度での、そのような1Ahセルの長期サイクル特性を示す。5種類の異なる電解質の結果が示されている。TEL0電解質を用いた対照セル(FPC190601)は、20%の容量低下までに、308サイクルのサイクル寿命を示した(図において、20%の容量低下までのサイクル寿命は、括弧内に記載されている)。他の4つの電解質は、本発明の異なる実施形態による。具体的には、PCS添加剤(TEL19(本発明ではない);FPC190605)のみ、またはPCSおよびP123添加剤(TEL24;FPC190607(本発明による))を有する、EC:DEC:PC=1:2:1重量比の混合炭酸塩-エステル共溶媒に基づく電解質はいずれも、27~119サイクルだけ、対照セルを上回る特性を示した。これは、前述の他の記載と一致する。PC系電解質に関し、まず、TEL37aを用いたセルFPC190609(PC系、共溶媒なし)は、C/10速度での形成サイクルの間、全くサイクルしなかった(C/10でも0mAh/gが得られた)ことに留意する必要がある。この結果は、実験5a(セルAPFC243)の10mAhスケールでのTEL37aの特性と比較される。ここで、TEL37aでは、同様のGSM硬質カーボンアノードおよび同様のC/Aマスバランスを用いたにもかかわらず、±C/2のより速いサイクル速度で、389サイクルのサイクル寿命が得られた。この結果は、PCのみの電解質に特有である。対照TEL0電解質は、実際に1Ahスケール(308サイクル)で、図17に示される10mAhスケール(271サイクル)で見られるものよりも、わずかに長いサイクル寿命を示す。
【0113】
PC系のTEL37a電解質が1Ahスケールで全くサイクル特性を示さない理由は、本願で実証されているように、PC溶媒の良く知られた比較的高い粘度である。この粘度が高いと、小型セル(例えば、10mAhパウチセル、または従来より主に使用されているスウェージロックまたはコインセル)でも有効に機能させることができるが、PCのみの電解質の高い粘度は、実際の商業規模のセルで使用された場合、克服できない障壁を課す。特に、PCのみの電解質の高い粘度は、市販の電池に使用されるポリオレフィンセパレータに対する電解質の濡れ性を大きく低下させる。そのようなPCのみの電解質を大規模セルで機能させる唯一の別の方法は、ガラス繊維セパレータを使用することである。これは、通常、単位重量当たり大量の電解質を保持する。これにより、濡れ性の問題が解消され得る。ただし、ポリオレフィンセパレータを使用するバッテリと比べて、同様の容量定格セルにおいて、より多くの量の電解質を使用するため、得られるバッテリには、重大な重量(およびコスト)の問題が課される。従って、バッテリのエネルギー密度は、かなり低くなり、これは明らかに商業上魅力的ではない。従って、小規模セルにおけるPCのみの電解質の良好な特性を示す(少量の添加剤を有する/有しない)従来技術は、商業的には全く関連しないこと、およびそのようなPCのみの電解質の商業的利用可能性の立証責任は、従来技術にあり、市販の関連する材料および方法を用いて、商業的なスケール(大規模セル)で実証する必要があることは、当業者には明らかである。このことを考慮し、図18には、20重量%のHFE希釈剤および1重量%の界面活性剤P123を有するPC系の電解質、TEL43(本発明による)の長期サイクル特性を示す。図に示すように、わずか20重量%のHFE希釈剤および1重量%のP123により、PC系電解質は、極めて効果的に機能する。実際、このセル、FPC190610は、20%の容量減衰(610サイクル)まで、十分に長いサイクル寿命(610サイクル)を提供し、これは、同様の条件下での対照TEL0サンプルのサイクル寿命のほぼ2倍である。
【0114】
(実験16:本発明によるPC系電解質における別の希釈溶媒の使用に関する評価)
実験16では、PC主体の電解質が大規模商業的ナトリウムイオン電池において機能できるように使用される、希釈剤の別の例が提供される。この例では、図19に示すように、HFE系のTEL43e(FPC200116)またはD2系のTEL58a(FPC191023)電解質のいずれかを用いて、4.2~1V窓内での30℃での、高速±1Cでのサイクル寿命が評価される(図には、20%容量減衰でのサイクル寿命が示されている)。この高速1Cでの両電解質のサイクル寿命は、4.2~1Vでの、対照TEL0電解質を用いた小規模セルで見られるサイクル寿命よりも高いことがわかる。これらの希釈PC系電解質を用いた場合、約467~562サイクルのサイクル寿命が達成される。これは、対照TEL0電解質(ナトリウムめっきの可能性がさらに低い、小規模10mAhセル、およびより遅い±C/2サイクル速度)の方が好ましい条件にもかかわらず、対照TEL0電解質(図17およびセルAPFC89参照)を用いた場合の271サイクルのサイクル寿命のほぼ2倍である。
【0115】
これらの結果に基づき、他の種類の希釈溶媒でも、PC主体のナトリウムイオン電解質から、そのような優れた特性を引き出すことができることが理解される。幾つかの例には、これに限られるものではないが、他のヒドロフルオロエーテル、または好適な誘電率、不活性/安定性および配位特性を有する低粘度エーテル、炭酸エステル、もしくはポリアルキル溶媒が含まれるそれらは、PC溶媒を含む塩の溶媒和にあまり影響を及ぼさない一方で、得られる電解質の物理的特性に影響を及ぼす。
【0116】
(実験17:本発明によるPC+希釈剤系の電解質における別の添加剤の使用に関する評価)
実験17では、現実的な大規模0.1Ahパウチセルにおいて、PC+希釈剤系電解質に他の種類の電解質添加剤を用いた例が提供される。図20には、TEL24b、TEL58a、TEL43eおよび2つの新しいタイプのPC+HFE系の電解質:本発明によるTEL42d(1wt%のPCS、1wt%のP123および1wt%のTMSB添加剤を使用)、および本発明ではないTEL43g(2.5wt%のEC添加剤を使用)を用いた、30℃、4.2~1Vの窓内での±C/2での0.1Ahセルの長期サイクル特性を示す。全てのセルの150~180サイクルにわたるサイクル特性は、極めて似通っていることがわかる。全てのPC+HFE系の電解質は、TEL24bよりもわずかに良好な特性を示し、TEL42dは、高い特性を示す電解質であり、TEL43eのPCS添加剤の半分をTMSB添加剤と置換する(TEL42dを形成する)ことの有益な役割が指摘される。ECは、市販のリチウムイオンおよびナトリウムイオンの電解質において、通常大量に使用される高価な溶媒であるため、コスト面では、添加剤としてのECが最も好ましい。明らかに、従来の電解質では、ECそれ自体が、容量パーセントまたは重量パーセントで、例えば20%または50%のような共溶媒として存在する。本願に記載のPC+希釈剤系の電解質では、好適な電気化学的特性を有する安価な電解質添加剤としてECを使用するオプションを有することにより、得られるバッテリのコストを低減する可能性が開かれ、そのようなバッテリシステムのコスト/kWhに影響が生じる。これは商業的に重要である。
【0117】
(実験18:本発明によるPC系電解質の酸化的安定性の評価)
PC主体電解質への移行は、サイクル安定性の向上に加えて、全般に電解質の酸化に対する安定性が高く、そのようなセルでのガス発生の量が少なく抑制されるという、別のプラスの効果をもたらす可能性がある。特にリチウムイオン電池において、ECは、(低電圧で)優れた還元安定性を有するが、(高電圧で)酸化安定性が低いことは良く知られている。ECは、リチウムイオン電池に使用されるグラファイトアノードの表面で分解して、安定なSEIを形成することが知られている。PCは、リチウムイオン系において良好な酸化安定性を有することが知られているが、PCのみ、またはPC主体の電解質を、リチウムイオン電池に使用することは難しい。PCは、グラファイトアノードと剥離し、その結果、そのような電池のサイクル特性が著しく低下するからである。一方、前述の多数の例で示したたように、PCのみ、またはPC主体の電解質は、実際、ナトリウムイオン電池において、現在のEC系のナトリウムイオン電解質よりも優れたサイクル特性を可能にする。
【0118】
これが生じる理由の一つは、実験17で説明される。この例では、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)ループを介して、4つのナトリウムイオン電解質の酸化安定性が定量的に評価される。これらのLSV実験では、本願のいくつかの箇所に示されている10mAhパウチセルで使用されているものと同じカソードおよびアノードのフットプリントを用いて、3Eパウチセルが作製される。ただし、カソードおよびアノードの両方が純粋なAl集電体箔であるという、1つの主な違いがある。LSV実験では、これらのセルが関連する電解質で満たされ、2mV/sの遅い走査速度で、異なる上側カットオフ電位に晒された後、2.5Vまでサイクルダウンされ、その後プロセスが再度開始される。従って、そのような実験は、サイクリックボルタンメトリとLSV実験との間に近い。そのような改良されたLSV実験の利点は、3.8~4.2V、4.2~4.4V、4.4~5V、および5~8Vのような異なるV窓で、電解質の酸化によりAl電流コレクタを通過する電荷を正確に計算できることである。電極は、活性材料を含まない純粋なAl集電体箔であるため、理論上、通過した電荷は全て、電解質酸化と関連付けることができる。そのような実験では、消費電荷が少ないほど、電解質は、酸化され難い傾向にあり、従って、これらの電圧付近に充電された実際のナトリウムイオン電池に使用された際、電解質の特性は、より良好になる。本願で議論される大部分のセルは、4Vまたは4.2Vにサイクルされるが、電解質酸化がカソード活性材料、およびカソードに含まれる導電性炭素の存在により、触媒化されること、および改良されたLSV実験が、実際の設定では得られない理想的な場合のシナリオを表すことは、当業者には明らかである。このように、この改良されたLSV実験(4.4~5Vおよび5~8Vなど)において、高い電位バンドで電解質酸化により消費される電荷は、各種部材の触媒作用による、(一般に4Vまたは4.2Vに充電された)本願の実際のナトリウムイオン電池における酸化に関し、電解質が実際に経験することをより表していることは、当業者に理解され得る。
【0119】
図21および表3には、4つの電解質に関する改良されたLSV実験の結果を示す。すなわち、TEL0およびTEL36(対照サンプル)、ならびにTEL24およびTEL37eである。これらは、本発明の実施例である。
【0120】
【表3】
図21では、矢印に示されるように、特定の電圧値での電流が低く、完全な電解質の破壊(7Vを超える電流の指数関数的増加により示されている)の前の電圧値が高いほど、電解質は、酸化されにくくなる。この種の実験は、実験の走査速度に大きく影響される。10mV/sのような、速い走査速度(文献では良く用いられる)では、速度論的(分極)効果による電解質の酸化の程度が過小評価される傾向がある。このため、この実験では、2mV/sの遅い値を選択し、そのような煩雑さを回避した。図21から、本発明の実施形態によるPC系のTEL36とともに形成された2つの電解質が対照TEL0サンプルに対して優れていることは、定性的に明らかである。
【0121】
表3には、示された各種電圧範囲における異なる電解質の酸化過程において通過した電荷量Q(mC単位)の定量値を示す。表3から、TEL24、TEL37eおよびTEL36では、対照TEL0電解質において認められる値よりも、電解質酸化による電荷消費量が有意に少ないことは、明らかである。例えば、4.4~5Vの範囲では、TEL24は、TEL0の消費電荷に対して30.4%少ない電荷を消費し、これは、ベースのTEL0電解質を電解質酸化から保護するPCSおよびP123添加剤のプラスの効果を示唆するものである(TEL24は、単にTEL0にPCSおよびP123添加剤を加えたものである)。PC主体の電解質にシフトすると、添加剤を含まない純粋なPC系であるTEL36では、この電圧範囲を通過する電荷量が最も少なくなる一方(TEL0サンプルより61.4%低い)、PCS、P123およびEC添加剤を含むTEL37eでは、TEL0よりも28.6%少ない電荷を消費した。しかしながら、PCのみ、またはPC主体の電解質は、本発明に開示の添加剤の利益を得ることができ、このことは、3.8~8Vの範囲にわたって通過した電荷の総量を考慮することにより、理解できる。このフル電圧範囲では、TEL37eは、実際に最も低い電解質酸化を示し、従って、PCS、P123およびECのような添加剤が、PC系電解質をより耐酸化性にすることを助長することは明らかである。また、図21からもわかるように、本発明による2つの電解質の場合、完全な電解質分解の開始は、最も高い電位で生じた:EC:DEC:PC=1:2:1重量比の溶媒系では、TEL24とTEL0が比較され(TEL24では、破壊は、約7.3VvsNa/Na+で生じたが、TEL0では、約6.8VvsNa/Na+で生じた)、PC主体の電解質系では、TEL37eとTEL36とが比較される(TEL37eでは、破壊は、最高値の7.6VvsNa/Na+で生じたが、TEL36では、約6.8VvsNa/Na+で生じた)。従って、溶媒としてPCのみを単に使用するだけでは、得られる電解質の酸化安定性(および得られたナトリウムイオンセルのサイクル特性)を高めるには十分ではなく、むしろ本開示に詳細に記載されているように、添加剤および希釈剤とPCとの組み合わせが、優れた酸化安定性および電気化学的サイクル特性をもたらすことは、当業者には理解される。
【0122】
また、そのような酸化に対して安定な電解質では、得られたナトリウムイオンセルが顕著なガス化を示さないようになる。ガス化は、高電圧電池システムの当業者には良く知られており、そのような電池に使用される高電圧によって、電解質酸化による著しいガスが生じ、このガス化により、次に、密閉電池における不均一な圧力分布による容量低下、金属めっき、または最悪の場合には重大な爆発のような、有害なノックオン効果が生じることである。従って、そのようなLSV実験では、結論として、使用される溶媒系とは無関係に、本願に開示の添加剤により、ナトリウムイオン電解質の酸化的安定性を大きく高めることが示される。
【0123】
また、実験15~18に含まれる結果では、本願に開示のように、低温の大規模な商業用ナトリウムイオンセルにおいて、好適な添加剤および希釈共溶媒を有するPC主体の電解質が、現在の最先端の電解質よりもはるかに高いサイクル寿命で有効に機能し得ることが初めて示された。これらの結果は、これまで、達成できないものと考えられていた。
【0124】
(実験19:本発明によるナトリウムイオン電解質における別の塩の使用に関する評価)
図22には、±1C、30℃で、4~1Vの間でサイクルさせた、NaTFSI塩をベースとするナトリウムイオン電解質を用いた、大規模0.1Ahパウチセルのサイクル結果を示す。図からわかるように、240サイクル以上では、TEL61(TEL24bと同じであるが、NaPF6塩の代わりにNaTFSI塩を使用)およびPC+HFE系のTEL61bの両方が、TEL24bよりも高い容量を示し、NaTFSIは、好適な溶媒および添加剤と組み合わせた際に、より優れた特性をもたらす魅力的な塩であることが示された。
【0125】
(実験20:ナトリウムイオン電解質TEL44b(本発明ではない)におけるジュアル塩の使用に関する評価)
図23には、TEL0(対照サンプル)またはジュアル塩系のTEL44b(炭酸エステル、HFE希釈剤およびテトラグリム系の5つの溶媒系の混合物における0.5mのNaPF6+0.045mのNaBF4)のいずれかを用いて、30℃、4.2~1Vの間で、±C/2でサイクルさせた小型10mAhパウチセルにおけるサイクル試験結果を示す。3つの異なる種類の溶媒系を有するジュアル塩を用いた場合、TEL0セル(APFC89で約113mAh/g)と比べて、90サイクルにわたる同様のサイクル安定性を有する、得られたナトリウムイオンセルでは、わずかに高い容量(APFC246で約116mAh/g)が得られた。
【0126】
(実験21:本発明によるナトリウムイオン電解質の熱安定性(引火点試験)の評価)
近年、商業用リチウムイオン電池の可燃性が広く報告されている。異なる種類の家電または電気自動車のような各種用途において、リチウムイオン電池が引火し、爆発することに関する各種報告がある。当業者によく知られているように、リチウムイオン電池におけるこれらの火災/爆発の主な原因の一つは、それらに使用される液体電解質の高い可燃性である。簡単に言えば、そのような市販のリチウムイオン電池では、引火点の低い電解質が用いられる。引火点は、液体の固有の物理化学的性質ではなく、使用される測定技術および装置の種類によって変化する。この分野でよく知られ、Hessら(Journal of The Electrochemical Society,162(2),A3084-A3097(2015))のような各種従来技術に記載されているように、例えばアベル法(引火点が-30~70℃の液体の場合)、およびPensky-Martens法(引火点が>40℃の液体の場合)のような、標準化された密閉式引火点試験法では、通常、引火点試験に関して最も正確な結果が得られる。従って、ここでは、これらの方法を使用する、以下の表4に示す引火点測定の結果においても、同様である。
【0127】
表4を参照すると、第1のエントリーは、典型的な市販のリチウムイオン電解質、LP30(対照サンプル)である。明らかなように、LP30では、引火点32℃が得られ、これは、可燃性液体であり、Hessらのような以前の報告と一致している。さらに、他の2つの対照ナトリウムイオン制御電解質(TEL0+および151)も、可燃性であることがわかった。対照TEL0電解質は、38.5℃の高い引火点を示し、これは、他の大部分の対照サンプルよりも可燃性が低いことを示す。TEL24bは、PCSおよびP123添加剤のみを有する対照TEL0と同様の溶媒系に基づくため、引火点の値も38.5℃と同じであり、これは、これらのPCSおよびP123添加剤は、引火点に影響を及ぼさないことを示す。不燃性のTMP溶媒に基づくTEL14dは、44℃の高い引火点を示し、これは、その優れた熱安定性を表す。さらに、実験7で既に示されているように、TMP系の電解質は、たとえ引火しても、極めて急速に自己消火し、これは、そのようなTMP系の電解質は、引火点とは無関係に、実質的に非可燃性であることを表す。
【0128】
予想されたように、PC主体(TEL43c、TEL43eおよびTEL58a)、またはPC+TMP系の(TEL49d)電解質は、熱的に極めて安定であることがわかった。実際、引火点は、120℃まで測定されず、試験は、黒煙の大きな放出により中止された。この結果は、これらのPC主体電解質は、着火ではなく、むしろ分解することを示す。電池の安全性の観点から、これは、熱暴走の引き金となる破壊的な事象がある場合、非常に魅力的である。着火の代わりに、電解質が単に分解すれば、爆発が起きることを防ぐことができる。別の魅力的な点として、希釈剤の重量%が20重量%(TEL43eの場合)から40重量%(TEL43cの場合)まで増加しても、電解質の熱的挙動には影響が生じなかった。(引火点の結果が示すように)混合電解質中の希釈剤の割合が高いほど、その粘度がさらに低下し、熱安定性に影響を及ぼすことなく、電気化学的特性が向上する。これは、商業的な観点から、明らかに大きな利点である。
【0129】
要約すると、本発明の各種実施形態では、高い電気化学的特性の向上は別として、熱的により安定な電解質が得られることが示された。
【0130】
【表4】
図1a
図1b
図2a
図2b
図3
図4
図5a
図5b
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14a
図14b
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23