(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】化学分子の結晶化
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20240709BHJP
G01N 23/207 20180101ALI20240709BHJP
【FI】
G01N1/28 Z
G01N1/28 L
G01N23/207
(21)【出願番号】P 2021573563
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 GB2020051409
(87)【国際公開番号】W WO2020249951
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-21
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514314897
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ・オヴ・ニューカッスル・アポン・タイン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ホール
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・プロバート
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・タイラー
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-254969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
G01N 23/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子である化学分子又はその塩の結晶を形成する方法であって、
a)第1の液体及び第2の液体を含む液滴を形成する工程であって、第1の液体が、有機媒体に溶解した化学分子又はその塩を含み、第2の液体が油である、工程、及び
b)化学分子を含む結晶を液滴中で形成させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
化学分子が有機分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機媒体が、少なくとも1種の有機溶媒を含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
有機溶媒の総量が、有機媒体の75体積%超である、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
有機媒体中の少なくとも1種の有機溶媒が、80℃より高い沸点を有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
有機媒体中の少なくとも1種の有機溶媒が、125℃より高い沸点を有する、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
第1の液体が、1mg未満の有機分子又はその塩を含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1の液体が、100μg未満の有機分子又はその塩を含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
液滴中の第1の液体の全量が、1μL未満であってもよい、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
液滴中の第1の液体の全量が、200nL未満であってもよい、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
油がパーフルオロ化油である、請求項1から
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
液滴中、第2の液体が、第1の液体の上にコーティングを形成する、請求項1から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第2の液体が第1の液体を封入する、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
第1の液体:第2の液体の比が、体積基準で2:1~1:20の範囲にある、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
液滴がシッティング液滴である、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
液滴がハンギング液滴である、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
液滴が、最初に第2の液体の液滴を形成し、次に第1の液体を第2の液体に注入して液滴を形成することによって形成される、請求項1から
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程b)が、抗溶媒の存在下で行われる、請求項1から
17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
液滴が形成される表面が、マルチウェルプレートのウェルである、請求項1から
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
結晶を回収する工程、及び
結晶に単結晶X線結晶構造解析を行う工程
を含む、請求項1から
19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
低分子である化学分子又はその塩の構造を決定する方法であって、
請求項1から
18のいずれか一項に規定の複数の液滴を形成する工程、
前記複数の液滴から結晶を形成させる工程、
結晶形成の兆候を観察する工程、
形成した任意の結晶を回収する工程、
形成した結晶に単結晶X線結晶構造解析を行う工程、及び
単結晶X線結晶構造解析の結果を使用して、化学分子又はその塩の構造を決定する工程
を含み、
複数の液滴のうちの少なくとも2つが異なる、
方法。
【請求項22】
低分子である化学分子又はその塩の多形をスクリーニングする方法であって、
請求項1から
18のいずれか一項に規定の複数の液滴を形成する工程、
前記複数の液滴から結晶を形成させる工程、
結晶形成の兆候を観察する工程、
形成した任意の結晶を回収する工程、
形成した結晶に単結晶X線結晶構造解析を行う工程、並びに
場合により、各結晶の単結晶X線結晶構造解析の結果を、他の結晶の単結晶X線結晶構造解析の結果と互いに比較する、及び/又は化学分子若しくはその塩の既知の多形形態と比較する工程、
を含み、
複数の液滴のうちの少なくとも2つが異なる、
方法。
【請求項23】
各液滴が、マルチウェルプレートの個々のウェル中で形成される、請求項
21又は請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
複数の液滴が、それぞれ異なっていてもよい、請求項
21から
23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分子の結晶を形成する方法に関する。本方法は、わずか微量の化合物しか入手可能でない場合でさえも有効であり、化学分子の多形相、塩、溶媒和物及び共結晶等のための最適結晶化条件をスクリーニングすることを含めた、実験的な結晶化空間を探索するため、及び単結晶X線結晶構造解析によって未知分子の構造決定を行うための単結晶を得るために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
有機低分子の多くは、効率的に一緒に充填して、結晶状態とすることができる。これらの系は、多くの場合、塩、溶媒和物、共結晶、並びに分子の相対的な三次元(3D)配列及びその構成原子の空間によってしか違いのない多形相を含めた、複数の形態を示す。分子の好適な結晶を一旦得ることができると、結晶内のこの分子の原子連結及び三次元配列の両方に関するかなりの情報が、ラマン分光法、X線粉末回折(PXRD)及び単結晶X線回折(SCXRD)を含めた、ある範囲の分析技法によって求めることができる。
【0003】
最新のSCXRDは、依然として、高分解能構造分析(<0.9Å)のための最適な分析技法であり、異常分散測定による絶対立体化学の決定、並びにすべての分子内相互作用及び充填エネルギーと併せて結晶自体の内部の分子/原子配列の利用が可能となる。しかし、SCXRDは、分析対象の結晶化に伴う技術的課題のために、有機低分子のための分析方法として、普遍的に使用されていない。物質の必要量及び実験時間の制約により、多くの場合、初期実験が失敗した場合、伝統的実験手法(例えば、溶媒蒸発、溶媒/抗溶媒の拡散)と最新の実験手法(例えば、ゲル相)の両方による、分子の結晶化空間の探索が限定される。有機分子の結晶相の発見を加速するために利用される現行の自動化は、通常、数グラムの分析対象を使用する。
【0004】
任意の所与の結晶性固体は、固体状態で異なる3D充填配列をするために生じる、多形として知られている複数の相で存在する可能性を有する。これは、特定の多形相が、得られた固体形態の異なる物理特性(例えば、溶解度)をもたらし得る有機分子に特に関係する。これは、医薬品産業において利益をもたらすことができ、例えば、医薬品有効成分(API)の容易に形成される特定の多形形態は、管理工程を単純化することができるが、この多形形態はまた、問題を引き起こす恐れがあり、例えば、APIの安定な多形相の予期せぬ出現は、組成変更を必要とする重大な問題を引き起こす恐れがある。
【0005】
更に、多数の分子系は、所望の分子が、電荷移動を可能にするpKaがかなり異なる共形成剤(塩)、又は電荷移動が起こらないpKaが近い共形成剤(溶媒和物を含む、共結晶)のどちらか一方と共に結晶化される塩又は共結晶として結晶化され得る。得られた系は、次に、分析対象と共形成剤の両方を含有する結晶形態となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】International J. Pharm.1986、33、201~217頁、J. Pharm. Sci.、1977年1月、66(1)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、化学分子又はその塩の結晶を形成する方法であって、
a)第1の液体及び第2の液体を含む液滴を形成する工程であって、第1の液体が、有機媒体に溶解した化学分子又はその塩を含み、第2の液体が油である、工程、及び
b)化学分子を含む結晶を液滴中で形成させる工程
を含む、方法が提供される。
【0008】
本発明者らは、化学物質(例えば、分子)の結晶が、非常に少量(例えば、<1mg)の分子しか入手可能でない場合でさえも、単結晶X線回折(SCXRD)にとって十分に高い品質で形成され得ることを見出した。これは、上記の液滴を使用して実現される。理論によって拘泥されることを望むものではないが、油は、有機媒体の溶媒蒸発を減速させて、有機媒体中の分子の濃度勾配を一層の制御された速度で変化させることが可能となると考えられる。
【0009】
結晶は、化学(例えば、有機)分子又はその塩しか含み得ない。代替的に、形成された結晶は、共結晶であってもよい。第1の液体は、第2の化学(例えば、有機)分子又はその塩を含み、形成された結晶は、2つの化学分子(又はその塩)の共結晶であってもよい。形成された結晶は、化学(例えば、有機)分子(又はその塩)を含む、化学(例えば、有機)分子又はその塩と有機媒体中に含まれる溶媒との溶媒和物であってもよい。
【0010】
化学分子又はその塩は、有機分子又はその塩であってもよい。化学化合物は、有機金属分子又はその塩であってもよい。
【0011】
化学(例えば、有機)分子又はその塩は、タンパク質、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖又はそれらの塩であってもよい。化学(例えば、有機)分子又はその塩は、タンパク質、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖又はそれらの塩から選択される化学種との低分子のコンジュゲートであってもよい。
【0012】
しかし、好ましくは、化学(例えば、有機)分子は、低分子である。本明細書の目的のため、「低分子」は、5000gmol-1未満の分子質量を有する、化学(例えば、有機)分子(又はその塩)と見なすことができる。「低分子」は、1000gmol-1未満の分子質量を有してもよい。「低分子」は、100個未満の原子しか含まない、化学(例えば、有機)分子(又はその塩)であってもよい。有機溶媒から少量(例えば、<1mg)の低分子を結晶化する一般的な方法は、本発明より前では可能ではなかった。
【0013】
化学分子は、塩の形態でなくてもよい。
【0014】
本発明の方法は、物質の微量の結晶化に特に、有効である。
【0015】
第1の液体は、有機媒体に溶解した化学(例えば、有機)分子を含む。有機媒体は、通常、少なくとも1種の有機溶媒を含む。
【0016】
しかし、代替的に、有機媒体は、有機成分として、イオン性液体又は深共晶溶媒を含んでもよい。
【0017】
有機媒体(例えば、少なくとも1種の有機溶媒)の有機成分は、有機媒体の25体積%超の総量で存在してもよい。有機媒体(例えば、少なくとも1種の有機溶媒)の有機成分は、有機媒体の50体積%超の総量で存在してもよい。有機媒体(例えば、少なくとも1種の有機溶媒)の有機成分は、有機媒体の75体積%超の総量で存在してもよい。有機媒体(例えば、少なくとも1種の有機溶媒)の有機成分は、有機媒体の90体積%超の総量で存在してもよい。有機媒体(例えば、少なくとも1種の有機溶媒)の有機成分は、有機媒体の95体積%超の総量で存在してもよい。有機媒体は、通常、20%未満の水しか含まない。有機媒体は、5%未満の水、例えば1%未満の水しか含まなくてもよい。有機媒体は水を含まない、すなわち有機媒体は、単一有機溶媒を含んでもよい。
【0018】
有機媒体が、単一有機溶媒を含む場合、有機溶媒は、極性有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、極性プロトン性有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、極性非プロトン性有機溶媒であってもよい。有機媒体が、1種超の有機溶媒を含む場合、少なくとも1種の有機溶媒は、極性有機溶媒であってもよい。有機溶媒はそれぞれ、極性有機溶媒であってもよい。少なくとも1種の有機溶媒は、極性プロトン性有機溶媒であってもよい。有機溶媒はそれぞれ、極性プロトン性有機溶媒であってもよい。少なくとも1種の有機溶媒は、極性非プロトン性有機溶媒であってもよい。有機溶媒はそれぞれ、極性非プロトン性有機溶媒であってもよい。
【0019】
本発明において使用するために好適な有機溶媒は、25℃で通常、液体である。例示的な有機溶媒には、炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、石油エーテル)、芳香族溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、ニトロベンゼン)、クロロ化溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン)、フッ素化溶媒(例えば、フルオロベンゼン、ヘキサ-フルオロベンゼン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-ブチル-エーテル、ジオキサン、プロピレングリコール若しくはエチレングリコールのメチルモノエーテル又はエチルモノエーテル、プロピレングリコール若しくはエチレングリコールのメチルジエーテル又はエチルジエーテル、ジプロピレングリコール若しくはジエチレングリコールのメチルモノエーテル又はエチルモノエーテル、ジプロピレングリコール若しくはジエチレングリコールのメチルジエーテル又はエチルジエーテル)、エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジヒドロレボグルコセノン)、アミド(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP))、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO))、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、i-プロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール)、ジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、ウレア(例えば、N,N'-ジメチルプロピレンウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、ホスホルアミド(例えば、ヘキサメチルホスホルアミド)が含まれる。
【0020】
好適な有機溶媒は、極性の非プロトン性溶媒、例えばDMSO、DMF、DMA及びNMPを含む。
【0021】
有機媒体が、単一有機溶媒を含む場合、有機溶媒は、50℃より高い沸点を有してもよい。有機溶媒は、80℃より高い沸点を有してもよい。有機溶媒は、125℃より高い沸点を有してもよい。有機溶媒は、50℃~80℃の範囲の沸点を有してもよい。有機媒体が、1種超の有機溶媒を含む場合、少なくとも1種の有機溶媒は、50℃より高い沸点を有してもよい。少なくとも1種の有機溶媒は、80℃より高い沸点を有してもよい。少なくとも1種の有機溶媒は、125℃より高い沸点を有してもよい。少なくとも1種の有機溶媒は、50℃~80℃の範囲の沸点を有してもよい。有機溶媒はそれぞれ、50℃より高い沸点を有してもよい。有機溶媒はそれぞれ、80℃より高い沸点を有してもよい。有機溶媒はそれぞれ、125℃より高い沸点を有してもよい。有機溶媒はそれぞれ、50℃~80℃の範囲の沸点を有してもよい。有機媒体は、250℃より高い沸点を有する溶媒を含まなくてもよい。有機媒体は、200℃より高い沸点を有する溶媒を含まなくてもよい。有機媒体は、150℃より高い沸点を有する溶媒を含まなくてもよい。本発明者らは、一層高い沸点を有する溶媒が、本発明の方法に特に有効であることを見出した。一層多い溶媒量及び一層大きな試料サイズに基づいた公知の結晶化法は、一般に、不成功であり、一層高い沸点の溶媒は良くても非実用的である。高沸点溶媒でさえもその溶媒蒸発速度は、そのような高沸点溶媒の量が少ない実用的な方法をもたらすほど十分速い。疑いがないよう、上記で言及された沸点は、1atmでの沸点である。
【0022】
有機媒体は、化学(例えば、有機)分子又はその塩が有機媒体に可溶性となるよう、通常、選択される。有機媒体は、化学(例えば、有機)分子又はその塩が可溶性である少なくとも1種の溶媒を通常、含む。
【0023】
本発明の方法は、微量の物質の結晶化に特に有効である。したがって、第1の液体は、1mg未満の化学(例えば、有機)分子又はその塩を含んでもよい。第1の液体は、500μg未満の化学(例えば、有機)分子又はその塩を含んでもよい。第1の液体は、100μg未満の化学(例えば、有機)分子又はその塩を含んでもよい。第1の液体は、10μg未満の化学(例えば、有機)分子又はその塩を含んでもよい。第1の液体は、5μg未満の化学(例えば、有機)分子又はその塩を含んでもよい。
【0024】
液滴中の第1の液体の全量は、1μL未満であってもよい。液滴中の第1の液体の全量は、500nL未満であってもよい。液滴中の第1の液体の全量は、200nL未満であってもよい。液滴中の第1の液体の全量は、100nL未満であってもよい。理論によって拘泥されることを望むものではないが、第1の液体の試料のサイズが小さいことが、SCXRDに好適な結晶を得る際の、本方法の成功に寄与すると考えられる。これは、第1の液体の試料中の対流が効果的に欠如していることにより、形成し始める結晶の安定した成長が可能になる、及び/又は第1の液体の試料中に存在する最小限の核生成点により、最小数の結晶の形成の開始が可能になるのが理由となり得る。
【0025】
有機媒体中の化学(例えば、有機)分子又はその塩の濃度は、1mg/mL~1g/mLの範囲にあり得る。有機媒体中の化学(例えば、有機)分子又はその塩の濃度は、10mg/mL~500mg/mLの範囲にあり得る。より典型的には、有機媒体中の化学(例えば、有機)分子又はその塩の濃度は、10mg/mL~800mg/mLの範囲にあり得る。
【0026】
第2の液体は、油である。油は、第1の液体と完全に混和性であってもよいが、より典型的には、第1の液体と部分的に混和性であるか、又は非混和性である。
【0027】
油は、化学(例えば、有機)分子又はその塩が、油中に実質的に不溶性となるよう、通常、選択される。
【0028】
油は、通常、0.1cP~1200cPの範囲の粘度(25℃及び1atm)を有する。油は、1cP~500cPの範囲の粘度(25℃及び1atm)を有してもよい。油は、2cP~60cPの範囲の粘度(25℃及び1atm)を有してもよい。
【0029】
油は、鉱物油、パラフィン油、シリコーンオイル又はパーフルオロ化油であってもよい。油は、シリコーンオイル、例えばポリジメチルシロキサンであってもよい。油は、パーフルオロ化油であってもよい。
【0030】
油は、パーフルオロカーボン、例えば、パーフルオロオクタンであってもよい。
【0031】
油は、パーフルオロ化アミンであってもよい。油は、パーフルオロ化三級アミンであってもよい。油は、200~900gmol-1の範囲の平均分子量を有するパーフルオロ化三級アミンであってもよい。油は、300~700gmol-1の範囲の平均分子量を有するパーフルオロ化三級アミンであってもよい。油は、パーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロジブチルメチルアミン又はそれらの混合物から選択される油であってもよい。例示的な例には、Fluorinert(商標)FC-40(CAS番号51142-49-5)、Fluorinert(商標)FC-43(CAS番号311-89-7)、Fluorinert(商標)FC-770(CAS番号1093615-61-2)、Fluorinert(商標)FC-104(CAS番号70852-06-1)が含まれる。
【0032】
油は、パーフルオロエーテル又はパーフルオロポリエーテルであってもよい。例示的な例には、パーフルオロ(2-n-ブチルテトラヒドロフラン)、Fomblin YR-1800、Fomblin Y、Fomblin-M、Fomblin Z-15が含まれる。
【0033】
油は、パラフィン油でなくてもよい。
【0034】
第2の液体は、第1の液体の上にコーティングを形成してもよい。第2の液体は、第1の液体を封入してもよい。代替的に、第1の液体の表面のわずかな一部が、第2の液体によりコーティングされなくてもよい。したがって、90%を超える、例えば95%の第1の液体の表面(すなわち、支持体表面と接触しない第1の液体の表面)は、第2の液体によりコーティングされてもよい。
【0035】
第1の液体:第2の液体の比は、体積基準で2:1~1:20の範囲にあってもよい。第1の液体:第2の液体の比は、体積基準で1:1~1:10の範囲にあってもよい。第1の液体:第2の液体の比は、体積基準で1:2~1:6の範囲にあってもよい。
【0036】
通常、第1及び第2の液体を含む液滴が一旦形成されると、この液滴(第1の液体及び第2の液体を含む)は、結晶が形成されている間、移動しない。第1の液体は移動しなくてもよい。第2の液体は移動しなくてもよい。したがって、第1の液体は、第2の液体の連続流と接触していない。したがって、第1及び第2の液体を含む液滴は、外部液体の連続流に曝露されていなくてもよい。
【0037】
液滴は、シッティング液滴(sitting droplet)であってもよい。したがって、第1及び第2の液体を含むシッティング液滴は、移動しなくてもよい。代替的に、液滴は、ハンギング液滴であってもよい。したがって、第1及び第2の液体を含むハンギング液滴は、移動しなくてもよい。油の量、表面張力及び粘度は、液滴の形態に応じて選択される。
【0038】
シード物質の結晶は、液滴中に存在してもよい。しかし、通常、シード物質の結晶は存在しない。
【0039】
工程b)は、抗溶媒の存在下で行われてもよい。抗溶媒は、液滴内に存在してもよいか、又は抗溶媒は、液滴の一部でなくてもよく、例えば、抗溶媒は液滴に対して並んでいてもよく、こうして、抗溶媒からの蒸気は、液滴に接触するようになることができる。抗溶媒は、第2の液滴(例えば、工程a)において形成される第1の液滴の一部ではない)中に存在してもよいか、又はより典型的には、抗溶媒は開放容器中にある。
【0040】
抗溶媒は、液滴中に含まれていてもよい。この場合、抗溶媒は、第1の液体の一部を形成してもよい。抗溶媒は、第1の液体の一部を形成しなくてもよい。代替的に、抗溶媒は、最初(すなわち、液滴が形成されるとき)に、第3の液体を形成してもよい。第3の液体は、第1の液体をコーティングし、第2の液体は、第3の液体をコーティングしてもよい。第1の液体は、第3の液体をコーティングし、第2の液体は、第1の液体をコーティングしてもよい。第1の液体及び第3の液体は接触しており、第2の液体は、第3の液体及び互いに接触しない第1の液体の表面、又は液滴が形成された支持体表面をコーティングしてもよい。
【0041】
第1の液体及び第3の液体は、非混和性であってもよい。第1の液体及び第3の液体は、わずかに混和性であり、工程b)の経過中に混合してもよい。
【0042】
抗溶媒は、上で言及した好適な有機溶媒のリストから選択される溶媒であってもよい。抗溶媒は、水であってもよい。抗溶媒は、水でなくてもよい。抗溶媒は、エタノールであってもよい。抗溶媒は、非極性溶媒、例えばトルエンであってもよい。
【0043】
通常、化学分子が、第1の液体中よりも抗溶媒中で可溶性が低くなるよう、抗溶媒は選択される。
【0044】
液滴は、容器、例えば、ウェル中で形成されてもよい。これは、通常、液滴がシッティング液滴である場合である。本方法は、液滴が一旦、形成されると、液滴が形成される容器、例えばウェルを密封する更なる工程を含んでもよい。液滴は、表面に形成されてもよい。これは、通常、液滴がハンギング液滴である場合である。本方法は、液滴が一旦、形成されると、容器、例えばウェルを、液滴が形成される表面により密封する更なる工程を含んでもよい。密封容器、例えば、密封ウェルを使用すると、有機媒体の蒸発を遅くすることができ、一層良好な品質の結晶を得ることができる。しかし、本発明者らは、液滴が密封容器中に存在しない、本発明の方法を使用して良好な品質の結晶を形成した。
【0045】
抗溶媒が使用され、抗溶媒が液滴の一部ではない場合、液滴は、通常、密封した系に置かれる。
【0046】
液滴は、支持体表面上で形成される。
【0047】
液滴が形成される支持体表面は、平坦であってもよい。液滴が形成される支持体表面は、凹面であってもよい。この実施形態は、シッティング液滴に特に適用する。液滴が形成される支持体表面は、凸面であってもよい。これは、特にハンギング液滴に適用する。
【0048】
液滴が形成される支持体表面は、ガラスであってもよい。液滴が形成される支持体表面は、プラスチックであってもよい。
【0049】
液滴が形成される支持体表面は、未修飾であってもよい。代替的に、支持体表面は、第1の液体及び/又は第2の液体との親和性が改変されるように修飾されていてもよく、例えば、その特性を改変する物質によってコーティングされていてもよい。
【0050】
液滴は、通常、最初に第2の液体の液滴を形成し、次に第1の液体を第2の液体に注入して液滴を形成することによって形成される。
【0051】
代替的に、第1の液体の液滴が形成されて、第2の液体は、第1の液体表面にコーティングされて、液滴を形成してもよい。
【0052】
液滴が形成される支持体表面は、容器の底部であってもよい。これは、通常、シッティング液滴の場合である。容器は、ウェル、例えば、マルチウェルプレートのウェルであってもよい。
【0053】
液滴は支持体表面に形成され、その支持体表面は、次に、液滴が支持体表面の下に存在するように反転されてもよい。これは、ハンギング液滴として知られている。代替的に、第2の液体の液滴が支持体表面上に形成され、この表面が反転されて第2の液体のハンギング液滴を形成し、次に、第1の液体が第2の液体に注入されてもよい。
【0054】
結晶の形成が可能になる工程は、通常、例えば、結晶形成が観察されるまで、ある期間の間、液滴を静置することを含む。したがって、本方法は、例えば、裸眼を使用して、又はより典型的には光学顕微鏡法を使用して、結晶形成の兆候を観察する工程を含んでもよい。液滴は、2時間~31日間のある期間、例えば、1日間~14日間のある期間、静置されてもよい。
【0055】
液滴は、室温及び大気圧で静置されてもよい。代替的に、液滴は、室温未満の温度で、例えば、-25℃~15℃の範囲の温度で静置されてもよい。代替的に、液滴は、室温より高い温度、例えば、30℃~60℃の範囲の温度で静置されてもよい。
【0056】
結晶は、形成した固体だけであってもよい。より典型的には、形成した結晶は、形成した複数の結晶の1つであるか、又は結晶は、他の固体形態、例えばアモルファス固体若しくは多結晶性物質と共に形成される。
【0057】
本方法は、結晶を回収する工程を含んでもよい。液滴が密封容器中に存在した場合、この工程は、容器を開封して、この容器から結晶を取り出す工程を含む。
【0058】
本方法は、結晶に単結晶X線結晶構造解析を行う工程を含んでもよい。
【0059】
第1の態様の方法は、
化学(例えば、有機)分子又はその塩の構造を決定する方法であって、
第1の態様による、複数の液滴を形成させる工程、
上記複数の液滴から結晶を形成させる工程、
結晶形成の兆候を観察する工程、
形成した任意の結晶を回収する工程、
形成した結晶に単結晶X線結晶構造解析を行う工程、及び
単結晶X線結晶構造解析の結果を使用して、化学(例えば、有機)分子又はその塩の構造を決定する工程
を含み、
複数の液滴のうちの少なくとも2つが異なる、
方法であってもよい。
【0060】
複数の液滴のいずれも、複数の液滴の任意の他の1つと同じでなくてもよい。したがって、複数の液滴は、それぞれ異なっていてもよい。
【0061】
各液滴は、マルチウェルプレートの個々のウェル中で形成されてもよい。液滴は、ロボットによって形成されてもよい。
【0062】
この方法では、必ずしも、結晶が各液滴から形成されるとは限らない。結晶は、液滴の一部だけで形成してもよい。結晶は、液滴のたった1つで形成してもよい。単結晶でさえも、有機分子の構造を決定するのに十分となり得る。
【0063】
複数の液滴は、同じ化学(例えば、有機)分子又はその塩を通常、含む。それらは、その組成の任意の他の態様の点で異なっていてもよい。例には、第2の液体の油、第1の液体か含まれる単数又は複数の溶媒、1種より多い溶媒が第1の液体に存在する場合、第1の液体中のそのような溶媒の相対量、第1の液体中の化学(例えば、有機)分子又はその塩の濃度、化学(例えば、有機)分子又はその塩の量、第1の液体の量、第1の液体に対する第2の液体の比、抗溶媒の存在又は不在、存在する場合、抗溶媒が何であるか、シード物質の存在又は不在、存在する場合、シード物質が何であるか等が含まれる。
【0064】
化学(例えば、有機)分子又はその塩の構造を決定する方法は、第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴を形成させる工程を更に含んでもよい。第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴の形成は、第1の態様による、複数の液滴の形成前に起こってもよい。第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴の形成は、第1の態様による、複数の液滴の形成と同時に起こってもよい。第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴の形成は、第1の態様による、複数の液滴の形成後に起こってもよい。第1の態様によらない1つ又は複数の液滴の形成は、結晶を形成させる工程の前のある時点で通常、起こる。
【0065】
第1の態様によらない1つ又は複数の液滴の少なくとも1つは、油を含まなくてもよい。第1の態様によらない、油を含まない1つ又は複数の液滴の少なくとも1つは、高沸点溶媒、例えば、125℃より高い沸点を有する溶媒を含んでもよい。
【0066】
第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴を形成する工程を更に含む、化学(例えば、有機)分子又はその塩の構造を決定する方法はまた、第1の態様によらない1つ又は複数の液滴に上で言及したその後の方法の工程(すなわち、第1の工程後の各工程)を施す工程を含む。
【0067】
第1の態様の方法は、
化学(例えば、有機)分子又はその塩の多形をスクリーニングする方法であって、
第1の態様による、複数の液滴を形成させる工程、
上記複数の液滴から結晶を形成させる工程、
結晶形成の兆候を観察する工程、
形成した任意の結晶を回収する工程、
形成した結晶に単結晶X線結晶構造解析を行う工程、並びに
場合により、各結晶の単結晶X線結晶構造解析の結果を、他の結晶の単結晶X線結晶構造解析の結果と互いに比較する、及び/又は化学(例えば、有機)分子若しくはその塩の既知の多形形態と比較する工程
を含み、
複数の液滴のうちの少なくとも2つが異なる
方法であってもよい。
【0068】
複数の液滴のいずれも、複数の液滴の任意の他の1つと同じでなくてもよい。したがって、複数の液滴は、それぞれ異なっていてもよい。
【0069】
各液滴は、マルチウェルプレートの個々のウェル中で形成されてもよい。液滴は、ロボットによって形成されてもよい。
【0070】
この方法では、必ずしも、結晶が各液滴から形成されるとは限らない。結晶は、液滴の一部だけで形成してもよい。液滴中で形成された結晶は、いくつかの異なる多形形態を有してもよい。
【0071】
複数の液滴は、同じ化学(例えば、有機)分子又はその塩を通常、含む。それらは、その組成の任意の他の態様の点で異なっていてもよい。例には、第2の液体の油、第1の液体か含まれる単数又は複数の溶媒、1種より多い溶媒が第1の液体に存在する場合、第1の液体中のそのような溶媒の相対量、第1の液体中の化学(例えば、有機)分子又はその塩の濃度、化学(例えば、有機)分子又はその塩の量、第1の液体の量、第1の液体に対する第2の液体の比、抗溶媒の存在又は不在、存在する場合、抗溶媒が何であるか、シード物質の存在又は不在、存在する場合、シード物質が何であるか等が含まれる。
【0072】
化学(例えば、有機)分子又はその塩の多形のスクリーニング方法は、第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴を形成させる工程を更に含んでもよい。第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴の形成は、第1の態様による、複数の液滴の形成前に起こってもよい。第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴の形成は、第1の態様による、複数の液滴の形成と同時に起こってもよい。第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴の形成は、第1の態様による、複数の液滴の形成後に起こってもよい。第1の態様によらない1つ又は複数の液滴の形成は、結晶を形成させる工程の前のある時点で通常、起こる。
【0073】
第1の態様によらない1つ又は複数の液滴の少なくとも1つは、油を含まなくてもよい。第1の態様によらない、油を含まない1つ又は複数の液滴の少なくとも1つは、高沸点溶媒、例えば、125℃より高い沸点を有する溶媒を含んでもよい。
【0074】
第1の態様によらない、1つ又は複数の液滴を形成する工程を更に含む、化学(例えば、有機)分子又はその塩の多形をスクリーニングする方法はまた、第1の態様によらない1つ又は複数の液滴に上で言及したその後の方法の工程(すなわち、第1の工程後の各工程)を施す工程を含む。
【0075】
本発明の実施形態は、添付の図面を参照しながら、本明細書のこれ以降に更に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】(S)-メチル1-トリチルアジリジン-2-カルボキシレートの構造及びSCXRDを示す図である。
【
図2】アスピリンの構造及びSCXRDを示す図である。
【
図3】ニコチン酸の構造及びSCXRDを示す図である。
【
図4】BODIPYの構造及びSCXRDを示す図である。
【
図5】アリピプラゾールの構造及びSCXRDを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
用語「有機媒体」は、有機成分、すなわち結晶化される化学分子以外の有機成分を含む液体を意味することが意図されている。有機成分は、有機溶媒、すなわち非荷電有機分子であってもよいか、又は有機イオン、例えば、イオン性液体又は深共晶溶媒を含む有機成分を構成してもよい。有機媒体の成分は、それらが使用される相対濃度において、通常、混和性であるが、有機媒体はまた、他の形態、例えばエマルションの形態をとることができる。
【0078】
用語「有機溶媒」とは、通常、25℃及び1atmにおいて、液体を形成する正味の電荷を有さない有機分子を指す。通常、有機溶媒は、30gmol-1~150gmol-1、例えば、40gmol-1~100gmol-1の範囲の分子質量を有する。
【0079】
用語「油」とは、25℃及び1atmにおいて、液体である不活性化学物質を通常、指す。油は、通常、水と非混和性である。通常、油は、250℃より高い沸点を有する。通常、油は、500gmol-1を超える分子量を有する。
【0080】
「有機分子」は、通常、少なくとも1つの炭素-炭素共有結合を含み、通常、H、C、N、O、P、S、F、Cl、Br及びIから選択される原子しか含まず、上記原子は、共有結合によって一緒に結合している。
【0081】
有機金属分子は、通常、金属原子と共有結合により、又は配位結合した有機部分(すなわち、部分は、少なくとも1つの炭素-炭素共有結合を含み、H、C、N、O、P、S、F、Cl、Br及びIから選択される原子しか含まない)を含む。
【0082】
接頭語「パーフルオロ-」及び用語「パーフルオロ化されている」は、炭素-フッ素結合、炭素-炭素結合、及び炭素-ヘテロ原子結合しか含有しない、ヘテロ原子を含有するものを含めた有機分子に関し、すなわち、いかなるC-H結合も含まない。
【0083】
本明細書の目的のため、液滴とは、支持体の単一表面と接触している液体の本体のことであり、上記支持体表面は非連続性である。したがって、本発明の液滴は、平坦、凸又は凹な支持体表面に接触している。そのような支持体表面は、容器の底部又は容器の上部を形成してもよい。この用語は、容器の側面及び底部に同時に接触している液体の本体、並びに管(例えば、キャピラリー)の単一連続表面に接触している液体の本体を除外することが意図されている。
【0084】
理論によって拘泥されることを望むものではないが、液滴を使用する利益は、液滴の使用は、非常に少ない量の有機媒体の使用を可能にし、したがって、非常に少ない量の分析対象から結晶を形成するのに好適であることである。理論によって拘泥されることを望むものではないが、量が少ないことはまた、試料内部の対流を最小化して、核生成部位の数を低下させて、これは、小スケールでの結晶形性にやはり利益をもたらすと考えられる。
【0085】
用語「封入した」とは、「完全に封入された」ことを意味することが意図されている。第1の液体は、第2の液体によって封入され、この場合、支持体表面と接触していない第1の液体の表面はすべて、第2の液体によりコーティングされている。
【0086】
化学分子は、塩、例えば薬学的に許容される塩の形態で存在してもよい。医薬における使用の場合、本発明の化合物の塩とは、「薬学的に許容される塩」を指す。FDAにより承認されている薬学的に許容される塩形態(参照、International J. Pharm.1986、33、201~217頁、J. Pharm. Sci.、1977年1月、66(1))は、薬学的に許容される酸性/陰イオン性塩、又は塩基性/陽イオン性塩を含む。好適な酸性/陰イオン性塩は、以下に限定されず、酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、炭酸水素塩、酒石酸水素塩、臭化物塩、エデト酸カルシウム塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物塩、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストル酸塩(estolate)、エシル酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルタミン酸、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、ヨウ化物塩、イセチオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メチル臭化物塩、メチル硝酸塩、メチル硫酸塩、ムチン酸塩、ナプシル酸塩、硝酸塩、パモ酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩、二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩及びトリエチオジド塩を含む。好適な塩基性/陽イオン性塩は、以下に限定されず、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、リチウム、マグネシウム、カリウム、プロカイン、ナトリウム及び亜鉛を含む。しかし、ある種の実施形態では、化学分子は、塩の形態ではなく存在してもよい。
【0087】
本明細書の説明及び特許請求の範囲の全体を通じて、語「含む」及び「含有する」、並びにそれらの変化形は、「含むが、以下に限定されない」を意味し、それらの語は、他の部分、添加物、整数又は工程を除外することを意図するものではない(及び除外しない)ことを意味する。本明細書の説明及び特許請求の範囲の全体を通じて、単数は、その文脈が特に必要としない限り、複数を包含する。特に、不定冠詞が使用されている場合、本文脈が特に必要としない限り、本明細書は、複数及び単数を企図すると理解されたい。
【0088】
本発明の特定の態様、実施形態又は実施例と関連して記載されている特徴、整数、特性、化合物、化学部分又は基は、それらと適合しない限り、本明細書に記載されている任意の他の態様、実施形態又は実施例に適用可能なものと理解されたい。本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約及び図面)において開示されている特徴のすべて、及び/又はそのように開示されている任意の方法又はプロセスの工程のすべてを、任意の組合せで一緒にしてもよいが、このような特徴及び/又は工程の少なくとも一部が相互に排他的となる場合を除く。本発明は、前述の実施形態のいずれかの詳細に限定されない。本発明は、本明細書に開示されている特徴の、任意の新規な1つ若しくは任意の新規な組合せ(任意の添付の特許請求の範囲、要約及び図面を含む)、或いはそのように開示されている任意の方法若しくはプロセスの工程の任意の新規な1つ、又は任意の新規な組合せに展開する。
【0089】
読み手の注意は、本出願と共にした本明細書と同時に又はこれより前に出願されており、本明細書を用いて公に調査されやすい、すべての文献及び文書に向けられており、このような文献及び文書のすべての内容が、参照により本明細書に組み込まれている。
【0090】
本発明による化学分子の結晶を形成する例示的な方法が、以下に記載されている。
【0091】
一般手順
試料調製
各結晶化実験のために、結晶化させる化学分子の保存溶液を調製した。化学分子の試料は、所望の溶媒に溶解した。この溶液は、30分間、最大で40℃まで加熱し、固体のすべてが溶解したことを確実にして、次いで室温まで冷却することができる。
基質の結晶化
【0092】
結晶化実験は、100ミクロンのスペーサーを備えており、ガラス製カバースリップを用いて密封したlaminex(商標)ガラス96ウェルプレートを使用する、TTP labtech Mosquito液体取扱いロボットを使用して完了した。
【0093】
油の粘度のために、ゆっくりとした吸引(1.0mm/分)及び分注速度(1.0mm/分)を使用して、laminex(商標)プレート表面に使用する油(通常、50~300nL)を分散させた。油の分注が完了した後に、化学分子溶液(通常、50mg/mLの溶液を50nL)を各油の液滴に注入した。次に、所望の場合、抗溶媒(通常、50~150nL)を追加注入した。次に、ガラス製カバースリップを用いてこのプレートを密封し、室温で保管して、定期的な間隔で結晶成長を調べた。
【0094】
プレートの可視化は、交差ポラライザーを装備したNikon SMZ1000顕微鏡を用いて行い、GXCAM-U3-5 5.1MPカメラを用いて写真を撮影した。
【0095】
結晶の分析
プレート内の結晶の観察の後、結晶をウェルから抜き取り、スライドガラスに移して、パーフルオロ化油の下で分離して、分析用の単結晶X線回折計上にマウントした。
【0096】
例示的な結晶化した化学分子
以下の化学分子は、上記の一般手順及び以下の各実施例に列挙されている具体的な条件を使用して結晶化した。求めた、各分子の空間群及びR因子を示す。R因子とは、結晶学的モデルと実験によるX線回折データとの間の一致の尺度のことである。可能な最小値は、ゼロであり、完全な一致を示す。
【実施例1】
【0097】
(S)-メチル1-トリチルアジリジン-2-カルボキシレート
図1を参照されたい。
P2
1、R=3.68%
Flack=0.0(2)
条件
ポリジメチルスルホキシド(PDMSO、200nL)、抗溶媒として水100nLを含む40mg/mLのDMF溶液(50nL)。
【実施例2】
【0098】
アスピリン
図2を参照されたい。
P2
1/c、R=5.37%
条件
鉱物油(100nL)、抗溶媒として水50nLを含む100mg/mlの(±)-2-メチル-2,4-ペンタンジオール溶液(50nL)。
【実施例3】
【0099】
ニコチン酸
図3を参照されたい。
P2
1/c、R=4.10%
条件
鉱物油(200nL)、抗溶媒としてトルエン100nLを含む40mg/mLのDMSO溶液(50nL)。
【実施例4】
【0100】
【0101】
【0102】
R=2.91%
条件
PDMSO(300nL)、20mg/mLのDMF溶液(50nL)。
【実施例5】
【0103】
【0104】
【0105】
R=3.83%
条件
Fomblin Y(200nL)、20mg/mLのDMSO溶液(50nL)。
【0106】
求めたR因子は、各例示的な分子の結晶学的モデルと実験によるX線回折データとの間に優れた一致があることを示し、このことは、本発明の方法を使用して、良好な品質の結晶を形成することができることを示している。絶対立体化学の帰属はまた、(S)-メチル1-トリチルアジリジン-2-カルボキシレート(Flack=0.0(2))の場合と同様に、結晶学的にやはり決定することができることに留意すべきである。
多形スクリーニング手順
【0107】
典型的な多形スクリーニングは、先に議論した一般手順に従い、試験基質として5-メチル-2-[(2-ニトロフェニル)アミノ]-3-チオフェンカルボニトリル(ROY)を使用して行った。油(Flurinert FC-40、Flurinert FC-70、Fomblin YR、Fomblin Y、Fomblin M、Fomblin Z、鉱物油及びポリジメチルシロキサン(PDMSO))、次いでROYを含有するDMSO溶液(50mg/mL)を分注した。必要な場合、追加の抗溶媒(例えば水)を加えた。
【0108】
次に、プレートをLaminexカバーガラス(MD11-52)及びプレートを用いて、室温で最大で31日間、密封した。好適な結晶についてプレートを調べ、形成した任意の結晶を取り出し、先に議論した通り分析した。
多形の実施例
【0109】
SCXRDによって、ROYの以下の多形を特定した。各多形に使用した結晶化条件を括弧に示す。
1.イエローROY
P21/n、R=2.66%[FC-40(100nL)、50mg/mLのDMSO溶液(50nL)]
2.R18 ROY
【0110】
【0111】
R=2.99%[Fomblin Z(300nL)、50mg/mLのDMSO溶液(50nL)]
3.レッドROY
【0112】
【0113】
R=3.55%[FC-40(150nL)、抗溶媒として、水50nLを含む50mg/mlのDMSO溶液(50nL)]
4.ORP ROY
Pbca、R=3.36%[鉱物油(250nL)、50mg/mlのDMSO溶液(50nL)]
5.ON ROY
P21/c、R=3.57%[Fomblin Z(200nL)、抗溶媒としてEtOH50nLを含む50mg/mLのDMSO溶液(50nL)]
【0114】
公知のROY多形のうちの4種(イエロー、レッド、ON及びORP)は、上記の手順を使用して観察した。すべての例において、SCXRD分析に好適な単結晶を得た。
【0115】
ROY多形は、本明細書においてR18 ROYと称される深赤色の着色を示すことが観察され、これは、公知のROY多形の色/幾何形状プロファイルに一致しなかった。SCXRDにより、ROYの以前に発見されていない多形としてR18が確認された。多数の過去の多形スクリーニングが施された分子の新しい多形の特定は、本文脈では、本発明の方法の効力を示すものである。