(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】被覆活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240709BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240709BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240709BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2022043954
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】村石 一生
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
(72)【発明者】
【氏名】西尾 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】長尾 賢治
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-181640(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175556(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを含有する活物質と、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有する被覆活物質であって、
前記活物質と前記被覆層との間にNiO層が形成されており、
前記NiO層の平均厚さが0.9nm以下である、被覆活物質。
【請求項2】
前記NiO層の最大厚さが0.9nm以下である、請求項1に記載の被覆活物質。
【請求項3】
Niを含有する活物質と、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有する被覆活物質であって、
前記活物質と前記被覆層との間にNiO層が形成されており、
前記NiO層の最大厚さが0.9nm以下である、被覆活物質。
【請求項4】
前記活物質は、Niを含有するリチウム遷移金属複合酸化物である、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の被覆活物質。
【請求項5】
前記活物質のNiの含有量は、前記活物質に含まれる金属元素(Liを除く)の合計に対して、50mol%以上である、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の被覆活物質。
【請求項6】
前記活物質が、Li(Ni
αCo
βMn
γ)O
2またはLi(Ni
αCo
βAl
γ)O
2である(α、βおよびγは、0.5≦α、0<β、0<γ、0<β+γ≦0.5およびα+β+γ=1を満たす)、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の被覆活物質。
【請求項7】
前記被覆層がNbを含有する、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の被覆活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
電池に用いられる活物質の表面に、酸化物等の被覆層を形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、転動流動コーティング装置を用いて、特定のコート液を活物質の表面に噴霧しつつ乾燥し、その後焼成することを経て、活物質複合体(被覆活物質)を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された転動流動コーティング装置を用いた製造方法では、高温多湿状態での長時間の加工が必要となり、Niを含有する活物質は表面でNiが酸化することでNiO層が厚膜化し、電池抵抗が増加する問題がある。
【0005】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、電池抵抗を低減できる被覆活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示においては、Niを含有する活物質と、上記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有する被覆活物質であって、上記活物質と上記被覆層との間にNiO層が形成されており、上記NiO層の平均厚さが0.9nm以下である、被覆活物質を提供する。
【0007】
本開示によれば、NiO層の平均厚さが所定の値以下であることにより、電池抵抗を低減できる被覆活物質とすることができる。
【0008】
上記開示においては、上記NiO層の最大厚さが0.9nm以下であってもよい。
【0009】
本開示においては、Niを含有する活物質と、上記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有する被覆活物質であって、上記活物質と上記被覆層との間にNiO層が形成されており、上記NiO層の最大厚さが0.9nm以下である、被覆活物質を提供する。
【0010】
本開示によれば、NiO層の最大厚さが所定の値以下であることにより、電池抵抗を低減できる被覆活物質とすることができる。
【0011】
上記開示においては、上記活物質は、Niを含有するリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。
【0012】
上記開示においては、上記活物質のNiの含有量は、上記活物質に含まれる金属元素(Liを除く)の合計に対して、50mol%以上であることが好ましい。
【0013】
上記開示においては、上記活物質が、Li(NiαCoβMnγ)O2またはLi(NiαCoβAlγ)O2である(α、βおよびγは、0.5≦α、0<β、0<γ、0<β+γ≦0.5およびα+β+γ=1を満たす)ことが好ましい。
【0014】
上記開示においては、上記被覆層がNbを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本開示における被覆活物質は、電池抵抗を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示における被覆活物質の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本開示における被覆活物質の製造方法の工程フロー図である。
【
図3】スラリー液滴の形態を例示的に示す図である。
【
図4】実施例1および比較例の内部抵抗の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示における被覆活物質の詳細を説明する。
図1は本開示における被覆活物質の一例を示す概略断面図である。
図1に示す被覆活物質1は、Niを含有する活物質2と、活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層3と、を有し、活物質2と被覆層3との間にNiO層4が形成されている。NiO層4は、平均厚さが0.9nm以下であることが好ましい。また、NiO層4は、最大厚さが0.9nm以下であることが好ましい。
【0018】
本開示によれば、活物質と被覆層との間に形成されているNiO層の平均厚さまたは最大厚さが所定の値以下であることにより、電池抵抗を低減することができる。
【0019】
1.NiO層
本開示におけるNiO層の平均厚さは、例えば0.9nm以下であり、0.8nm以下であってもよく、0.7nm以下であってもよく、0.65nm以下であってもよい。一方、NiO層の平均厚さは、例えば、0.1nm以上であり、0.2nm以上であってもよく、0.3nm以上であってもよい。NiO層の平均厚さは、例えば、被覆活物質の断面をHAADF-STEM(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡)によって観察し、複数の測定部位を測定した際の厚さの平均値をいう。測定部位の数は、例えば、5か所以上であり、10か所以上であってもよく、100か所以上であってもよい。
【0020】
また、本開示におけるNiO層の最大厚さは、例えば0.9nm以下であり、0.8nm以下であってもよい。一方、NiO層の最大厚さは、例えば、0.1nm以上であり、0.2nm以上であってもよく、0.3nm以上であってもよい。NiO層の最大厚さは、例えば、被覆活物質の断面をHAADF-STEM(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡)によって観察し、複数の測定部位を測定した際の厚さの最大値をいう。測定部位の数は、例えば、5か所以上であり、10か所以上であってもよい。
【0021】
NiO層が厚すぎると、抵抗の増加を抑制することができない。また、移動可能なリチウムイオンの量が少なくなり、容量低下が生じる。
【0022】
NiO層は、Niを含有する活物質と被覆層との間に形成されており、NiOを含む層である。NiO層がNiを含有する活物質と被覆層との間に形成されていることは、例えば、被覆活物質の断面に対し、HAADF-STEM分析(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡分析)により確認することができる。
【0023】
NiO層は、活物質の表面の一部に形成されていてもよく、全面に形成されていてもよい。NiO層による活物質の被覆率は、例えば70%以上であり、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。一方、被覆率は、100%であってもよく、100%未満であってもよい。被覆率は、例えば、HAADF-STEM分析(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡分析)により確認することができる。
【0024】
2.活物質
活物質は、正極活物質であってもよいし、負極活物質であってもよい。本開示における活物質は、Niを含有し、通常、さらにLiを含有する。また、活物質は、Oを含有することが好ましい。活物質は、Li、NiおよびOを少なくとも含有するリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。活物質は、LiおよびNi以外に、1または2以上の金属元素Mを含有していてもよい。金属元素Mの一例としては、遷移金属が挙げられる。また、金属元素Mの他の例としては、周期律表第12族から第16族までに属する金属(半金属を含む)が挙げられる。金属元素Mとしては、例えば、Co、Mn、Fe、V、Alが挙げられる。活物質は、Li、Ni、Co、MnおよびOを含むリチウム遷移金属複合酸化物、またはLi、Ni、Co、AlおよびOを含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0025】
活物質の結晶構造は、特に限定されないが、例えば、層状岩塩構造、スピネル構造、オリビン構造が挙げられる。
【0026】
活物質のNiの含有量は、活物質に含まれる金属元素(Liを除く)の合計に対して、例えば30mоl%以上である。例えば、活物質が、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2である場合、活物質における上記Niの含有量は、33mol%となる。本開示においては、中でも、上記Niの含有量が高いハイニッケル活物質であることが好ましい。ハイニッケル活物質は、ハイニッケル活物質以外の活物質と比べ、NiO層が形成されやすく、電池抵抗が増加しやすい傾向にある。従って、NiO層の平均厚さまたは最大厚さを所定の値以下とすることによる効果を顕著に得ることができる。「ハイニッケル活物質」とは、上記Niの含有量が50mol%以上である活物質を意味する。ハイニッケル活物質における上記Niの含有量は、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、または100mol%であってもよい。
【0027】
ハイニッケル活物質としては、例えば、Li(NiαCoβMnγ)O2(α、βおよびγは、0.5≦α、0<β、0<γ、0<β+γ≦0.5およびα+β+γ=1を満たす)、Li(NiαCoβAlγ)O2(α、βおよびγは、0.5≦α、0<β、0<γ、0<β+γ≦0.5およびα+β+γ=1を満たす)等が挙げられる。これらの一般式において、αは、0.6以上、0.7以上、0.8以上、または0.9以上であってもよい。中でも、LiNi0.8Mn0.15Co0.05O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Al0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2等が好ましい。
【0028】
上述した活物質のうち、充放電電位が相対的に貴である物質を正極活物質とし、充放電電位が相対的に卑である物質を負極活物質として用いることができる。上述した活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。活物質は、硫化物全固体電池に用いられるものであってもよい。
【0029】
活物質の形状は、スラリーの液滴化が可能である限り、特に限定されるものではない。例えば、活物質は粒子状であってもよい。活物質粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよい。活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。活物質粒子の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、または10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、または30μm以下であってもよい。尚、平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0030】
3.被覆層
被覆層は、NiO層を介して、活物質の表面の少なくとも一部を被覆する。被覆層は、例えば、活物質と他の物質との間の界面抵抗の上昇を抑制する機能を有するものであってもよい。コート液の種類は、被覆対象である活物質の種類や目的とする機能に合わせて選択することができる。
【0031】
被覆層は、LiとLi以外の元素Aとを含むリチウム酸化物を含む層であることが好ましい。元素Aの具体例としては、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。中でも、Nbが好ましい。
【0032】
被覆層は、例えば、LiとNbとを含むリチウム酸化物を含む層である。LiとNbとを含むリチウム酸化物の一例としては、ニオブ酸リチウム(例えば、LiNbO3)、リチウムニオブチタン系酸化物(例えば、LiNbTiO3)等が挙げられる。被覆層は、リチウム酸化物を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0033】
被覆層は、上記リチウム酸化物を主体として含むことが好ましい。被覆層におけるリチウム酸化物の割合は、例えば70重量%以上であり、80重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0034】
被覆層の厚さは、特に限定されず、例えば0.1nm以上、0.5nm以上、または1nm以上であってもよい。一方、500nm以下、300nm以下、100nm以下、50nm以下、または20nm以下であってもよい。被覆層は、NiO層を介して、活物質の表面の少なくとも一部を被覆する。被覆層は、活物質の表面の一部に形成されていてもよく、全面に形成されていてもよい。被覆層による活物質の被覆率は、例えば70%以上であり、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。一方、被覆率は、100%であってもよく、100%未満であってもよい。なお、活物質表面における被覆層の被覆率は、粒子の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像、高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)画像等を観測することにより算出することができるし、X線光電分光法(XPS)にて表面の元素比率を計算することにより算出することもできる。
【0035】
被覆層は、複数の空孔を備えていてもよい。空孔は、例えば、空洞、気泡(ボイド)または隙間(ギャップ)等であってもよい。各々の空孔の形状は特に限定されない。例えば、各々の空孔の断面形状は、円形状であってもよいし、楕円形状であってもよい。各々の空孔の大きさは、特に限定されない。例えば、被覆活物質の断面を観察した場合において、空孔の円相当直径が10nm以上であってもよく、300nm以下であってもよい。被覆層における空孔の数も特に限定されない。被覆層における空孔の位置も特に限定されず、活物質と被覆層との界面に空孔が存在していてもよいし、被覆層内に空孔が存在していてもよい。被覆層は、その最表面(活物質とは反対側の表面)よりも内側(活物質側)に内包される空孔を複数有するものであってもよい。
【0036】
被覆層が複数の空孔を備えることで、以下の効果が期待できる。例えば、被覆活物質と他の電池材料との接触が有利になって、電子やイオンの移動が促進される可能性がある。また、被覆活物質にクッション性が発現し、これにより、電極や電池とした場合の性能が向上する可能性がある。例えば、充放電時に活物質が膨張した場合や、電極のプレス加工等において被覆活物質に対して圧力が印加された場合においても、上記のクッション性によって活物質に加わる応力が低減され、活物質の割れが抑制されるものと考えられる。
【0037】
4.被覆活物質
被覆活物質の粒子径(D90)は、特に限定されず、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、または9μm以上であってもよい。一方、50μm以下、30μm以下、20μm以下、または10μm以下であってもよい。尚、粒子径D90は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径である。
【0038】
5.被覆活物質の製造方法
本開示における被覆活物質の製造方法は、特に限定されない。一方、本開示においては、上述した被覆活物質の製造方法であって、上記Niを含有する活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程と、上記スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程と、上記前駆体を焼成する第3の工程と、を含む被覆活物質の製造方法を提供することができる。例えば
図2に示すように、Niを含有する活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程S1と、スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程S2と、前駆体を焼成する第3の工程S3とを含む、被覆活物質の製造方法を提供することができる。
【0039】
上述した特許文献1では、粉流動性確保のため、少しずつ被覆液を活物質に噴霧し、乾燥することを繰り返す方法であり、高温多湿状態での長時間(例えば2時間以上)の加工が必要となり、NiO層の厚膜化を抑制することができなかった。
【0040】
一方、上記方法によれば、スラリーの液滴化の処理と気流乾燥の処理を短時間(例えば、5秒以下、好ましくは1秒以下)で行うことができる。従って、NiO層の厚膜化を抑制しつつ、被覆層を形成することが可能となる。具体的には、被覆層の形成前後におけるNiO層の拡大率(%)を小さくすることができる。NiO層の拡大率(%)は、(被覆活物質のNiO層の厚さ-原料活物質のNiO層の厚さ)/(原料活物質のNiO層の厚さ)×100により算出される。
【0041】
NiO層の平均厚さの拡大率は、例えば125%未満であり、100%以下であってもよく、50%以下であってもよく、10%以下であってもよい。原料活物質のNiO層の平均厚さは、例えば1.2nm以下であり、1.0nm以下であってもよく、0.8nm以下であってもよい。一方、被覆活物質のNiO層の平均厚さは、例えば0.9nm以下であり、0.8nm以下であってもよい。
【0042】
NiO層の最大厚さの拡大率は、例えば114%未満であり、100%以下であってもよく、50%以下であってもよく、10%以下であってもよい。原料活物質のNiO層の最大厚さは、例えば1.2nm以下であり、1.0nm以下であってもよく、0.8nm以下であってもよい。一方、被覆活物質のNiO層の最大厚さは、例えば1.3nm以下であり、1.2nm以下であってもよく、1.0nm以下であってもよく、0.8nm以下であってもよい。
【0043】
NiO層の最小厚さの拡大率は、例えば150%未満であり、100%以下であってもよく、50%以下であってもよく、10%以下であってもよい。原料活物質のNiO層の最小厚さは、例えば0.6nm以下であり、0.5nm以下であってもよく、0.4nm以下であってもよい。一方、被覆活物質のNiO層の最小厚さは、例えば0.7nm以下であり、0.6nm以下であってもよく、0.5nm以下であってもよく、0.4nm以下であってもよい。
【0044】
(1)第1の工程
本工程は、Niを含有する活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る工程である。
【0045】
(a)活物質
活物質については、「2.活物質」と同様の内容であるためここでの記載は省略する。
【0046】
(b)コート液
コート液は、後述の気流乾燥および焼成後、活物質の表面において所定の機能を発揮する被覆層を構成する。コート液の種類は、被覆対象である活物質の種類や目的とする機能に合わせて選択することができる。活物質の表面にLiとLi以外の元素Aとを含む酸化物からなる層を設ける場合、コート液は、リチウム源とA源とを含んでよい。元素Aとしては、「3.被覆層」に記載の内容と同様であるため、ここでの記載は省略する。例えば、活物質の表面にニオブ酸リチウム層を設ける場合、コート液は、リチウム源およびニオブ源を含み得る。
【0047】
コート液は、リチウム源として、リチウムイオンを含んでもよい。例えば、溶媒にLiOH、LiNO3、Li2SO4等のリチウム化合物を溶解させることで、リチウム源としてリチウムイオンを含むコート液を得てもよい。或いは、コート液は、リチウム源として、リチウムのアルコキシドを含んでよい。
【0048】
また、コート液は、ニオブ源として、ニオブのペルオキソ錯体を含んでよい。コート液は、ニオブ源として、ニオブのアルコキシドを含んでよい。
【0049】
コート液に含まれるリチウム源とニオブ源とのモル比は、特に限定されないが、例えば、Li:Nb=1:1であってもよい。以下、(i)リチウムイオンおよびニオブのペルオキソ錯体を含むコート液、並びに(ii)リチウムのアルコキシドおよびニオブのアルコキシドを含むコート液を例示する。
【0050】
(i)リチウムイオンおよびニオブのペルオキソ錯体を含むコート液
コート液は、例えば、過酸化水素水、ニオブ酸、および、アンモニア水等を用いることにより透明溶液を作製した後、当該透明溶液にリチウム化合物を添加することによって得てもよい。尚、ニオブのペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)の構造式は、例えば、下記のとおりである。
【0051】
【0052】
(ii)リチウムのアルコキシドおよびニオブのアルコキシドを含むコート液
コート液は、例えば、エトキシリチウム粉末を溶媒に溶解させた後、ここに所定の量のペンタエトキシニオブを加えることにより得てもよい。この場合、溶媒としては、脱水エタノール、脱水プロパノール、脱水ブタノール等を例示することができる。
【0053】
(c)スラリー
「スラリー」とは、活物質とコート液とを含む懸濁体または懸濁液であって、液滴化できる程度の流動性を有するものであればよい。本開示の方法において、スラリーは、例えば、スプレーノズルやロータリーアトマイザーを用いて液滴化できる程度の流動性を有するものであってもよい。尚、スラリーは、上記した活物質およびコート液の他に、何らかの固体成分や液体成分を含んでいてもよい。
【0054】
液滴化が可能な固形分濃度等は、活物質の種類、コート液の種類、および液滴化の条件(液滴化に用いる装置の種類)等に応じて変化し得る。スラリーにおける固形分濃度は、特に限定されず、例えば、1重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上であってもよく、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下であってもよい。
【0055】
(d)スラリーの液滴化
スラリーの「液滴化」とは、活物質およびコート液を含むスラリーを、活物質とコート液とを含む粒とすることを意味する。
【0056】
第1の工程において、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させる方法は、例えば、活物質およびコート液を含むスラリーを、スプレーノズルを用いて噴霧することによって液滴化させる方法が挙げられる。スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する方法としては、加圧ノズル法や二流体ノズル法、四流体ノズル法等が挙げられるが、これらに限定されない。本開示においては、四流体ノズル法が好ましい。
【0057】
スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する場合、ノズル径は特に限定されるものではない。ノズル径は、例えば、0.1mm以上であってもよいし、1mm以上であってもよい。一方、10mm以下であってもよいし、1mm以下であってもよい。また、スラリーの噴霧速度(スプレーノズルに対するスラリーの供給速度)も特に限定されるものではない。噴霧速度は、例えば、0.1g/秒以上であってもよいし、1g/秒以上であってもよい。一方、5g/秒以下であってもよいし、0.5g/秒以下であってもよい。スラリーの粘度や固形分濃度、ノズル寸法等に応じて噴霧速度を調整してもよい。
【0058】
スラリーを液滴化させる方法としては、上記したようなスプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する方法の他、例えば、回転している円板上に活物質およびコート液を含むスラリーを一定速度で供給して遠心力により液滴化させる方法も例示できる。この場合においても、スラリーの供給速度は、例えば、0.1g/秒以上または1g/秒以上であってもよく、5g/秒以下または0.5g/秒以下であってもよく、スラリーの粘度や固形分濃度等、ノズル寸法に応じて供給速度を調整してもよい。或いは、活物質およびコート液を含むスラリーの表面に高い電圧を印加して液滴化させる方法等を採用することもできる。
【0059】
本開示の方法においては、例えば、スプレードライヤーを用いて、スラリーの液滴化(第1の工程)と気流乾燥(第2の工程)とを行ってもよい。スプレードライヤーの方式は特に限定されるものではなく、上記のスプレーノズルを用いる方式や、回転円板を用いる方式等が挙げられる。
【0060】
(e)スラリー液滴
「スラリー液滴」は、活物質とコート液とを含むスラリーの粒である。スラリー液滴の大きさは特に限定されるものではない。スラリー液滴の径(球相当直径)は、例えば、0.5μm以上であってもよいし、5μm以上であってもよい。一方、5000μm以下であってもよいし、1000μm以下であってもよい。スラリー液滴の径は、例えば、スラリー液滴を撮像して得られる2次元画像を用いて測定することができるし、レーザー回折式の粒度分布計を用いて測定することもできる。或いは、スラリー液滴を形成する装置の運転条件等から液滴径を推定することもできる。
【0061】
本開示の方法においては、一滴のスラリー液滴が、例えば、一つの活物質粒子とそれに付着したコート液とを含んでもよいし、複数の活物質粒子(粒子群)とそれらに付着したコート液とを含んでもよい。
図3は、スラリー液滴の形態を例示的に示す図である。なお、
図3においては便宜上、NiO層は省略されている。
【0062】
図3(a)に示されるように、スラリー液滴11は、一つの活物質粒子12とそれに付着したコート液13とを含んでいてもよく、コート液13は、活物質粒子12の表面全体を被覆していてもよい。
【0063】
図3(b)に示されるように、スラリー液滴21は、一つの活物質粒子22とそれに付着したコート液23とを含んでいてもよく、コート液23は、活物質粒子22の表面の一部を被覆していてもよい。
【0064】
図3(c)に示されるように、スラリー液滴31は、複数の活物質粒子32とそれらに付着したコート液33とを含んでいてもよい。コート液33は、複数の活物質粒子32の全体を被覆していてもよいし、一部を被覆していてもよい。
【0065】
(2)第2の工程
第2の工程においては、第1の工程で得られたスラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る。「前駆体」は、目的とする被覆活物質の前駆体を指し、後述する第3の工程における焼成処理の前の状態を指す。第2の工程においては、スラリー液滴を気流乾燥させて、活物質の表面にコート液由来の成分を含む層が形成された前駆体を得てもよい。
【0066】
なお、本開示の方法において「気流乾燥」とは、スラリー液滴を高温の気流中で浮遊させつつ乾燥することを意味する。「気流乾燥」は、乾燥だけではなく、動的な気流を用いることによる付随的な操作を含み得る。気流乾燥によってスラリー液滴または前駆体に熱風を当て続けることで、スラリー液滴または前駆体に対して力が印加され続けることとなる。これを利用して、例えば、第2の工程は、気流乾燥によって、スラリー液滴や前駆体を解す(解砕する)ことを含んでいてもよい。
【0067】
具体的には、スラリー液滴を気流乾燥させる際に、一つのスラリー液滴を活物質粒子または活物質粒子群毎に解砕して、複数のスラリー液滴を得てもよいし、凝集した一つの前駆体を活物質粒子または活物質粒子群毎に解砕して、複数の前駆体を得てもよい。言い換えれば、本開示の方法においては、スラリー液滴や前駆体の造粒体が生じた場合でも、気流乾燥によって造粒体を解砕することができる。そのため、固形分濃度の低いスラリーを用いることもでき、処理速度を増加させ易い。このように、第2の工程において、気流乾燥によってスラリー液滴や前駆体を解砕することによって、製造時間を短縮し易くなるとともに、性能の高い被覆活物質を製造し易くなる。
【0068】
第2の工程においては、上記の乾燥と解砕とが同時に行われてもよいし、別々に行われてもよい。第2の工程においては、スラリー液滴の乾燥が優位となる第1の気流乾燥と、前駆体の解砕が優位となる第2の気流乾燥とを行ってもよい。また、第2の工程を繰り返し行ってもよい。
【0069】
第2の工程において、加熱気体の温度は、スラリー液滴から溶媒を揮発させることが可能な温度であればよい。例えば、100℃以上、130℃以上、160℃以上、190℃以上、200℃以上、210℃以上、220℃以上、230℃以上、240℃以上、または250℃以上であってもよい。加熱気体の温度は高い方が、第2の工程における気流乾燥を短時間で行うことができ、NiO層の厚膜化を抑制することができるため好ましい。
【0070】
第2の工程において、加熱気体の給気量(流量)は、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流量は、0.10m3/分以上、0.20m3/分以上、0.30m3/分以上、0.40m3/分以上、0.60m3/分以上、0.80m3/分以上、1.00m3/分以上、1.10m3/分以上、または1.20m3/分以上であってもよい、一方、5.00m3/分以下、4.00m3/分以下、3.00m3/分以下、2.00m3/分以下であってもよい。加熱気体の給気量(流量)は多い方が、第2の工程における気流乾燥を短時間で行うことができ、NiO層の厚膜化を抑制することができるため好ましい。
【0071】
第2の工程において、加熱気体の給気速度(流速)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流速は、系内の少なくとも一部において、1m/秒以上であってもよく、5m/秒以上であってもよい。一方、50m/秒以下であってもよく、10m/秒以下であってもよい。
【0072】
第2の工程において、加熱気体による処理時間(乾燥時間)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。
【0073】
また、スプレードライヤーを用いて、スラリーの液滴化(第1の工程)と気流乾燥(第2の工程)とを行う場合、スラリーの液滴化の処理時間(噴霧時間)および加熱気体による気流乾燥の処理時間の和が、例えば5秒以下であり、1秒以下であってもよい。スラリーの液滴化処理および加熱気体による気流乾燥処理を短時間で行うことにより、NiO層の厚膜化を抑制することができるため好ましい。
【0074】
第2の工程においては、活物質やコート液に対して実質的に不活性である加熱気体を用いてもよい。例えば、空気等の酸素含有ガスや、窒素やアルゴン等の不活性ガス、低露点のドライエアー等を用いることができる。その場合の露点は、-10℃以下であってもよいし、-50℃以下であってもよいし、-70℃以下であってもよい。
【0075】
気流乾燥を行う装置としては、例えば、スプレードライヤーを用いることができるが、これに限定されない。
【0076】
(3)第3の工程
第3の工程においては、第2の工程で得られた前駆体を焼成する。これにより、Niを含有する活物質の表面の少なくとも一部に被覆層を有する被覆活物質が得られる。
【0077】
焼成の装置としては、例えばマッフル炉、またはホットプレート等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0078】
焼成の条件は、特に限定されず、被覆活物質の種類に合わせて適宜設定できる。以下では、正極活物質の表面にニオブ酸リチウムを含む被覆層を有する被覆活物質を製造する場合の焼成の条件を例示する。
【0079】
例えば、正極活物質として、LiおよびNiを含有する酸化物の粒子を用い、コート液としてリチウムイオンおよびニオブのペルオキソ錯体を含む溶液を用いて、上述の第1の工程および第2の工程を行って前駆体を得る。得られた前駆体を焼成することによって、正極活物質であるリチウムおよびニッケルを含有する酸化物の表面にニオブ酸リチウムを含む被覆層を形成することができる。
【0080】
この場合、焼成温度は、例えば、100℃以上、150℃以上、180℃以上、200℃以上、または230℃以上であってもよい。一方、350℃以下、300℃以下、または250℃以下であってもよい。第3の工程における焼成温度は、第2の工程における気流乾燥の温度よりも高くてもよい。焼成時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、または6時間以上であってもよい。一方、20時間以下、15時間以下、または10時間以下であってもよい。焼成の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、真空雰囲気、乾燥空気雰囲気、窒素ガス雰囲気、またはアルゴンガス雰囲気であってよい。
【0081】
6.電極層
本開示における被覆活物質は、例えば、全固体電池の電極層用の活物質として用いることができる。すなわち、本開示においては、全固体電池に用いられる電極層であって、上述した被覆活物質を含有する電極層を提供することができる。本開示において、「全固体電池」とは、固体電解質層(少なくとも固体電解質を含有する層)を備える電池をいう。電極層は、正極層であってもよく、負極層であってもよい。電極層は、上述した被覆活物質を含有し、固体電解質、導電剤およびバインダーを含んでも良い。
【0082】
固体電解質は、全固体電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。例えば、ペロブスカイト型、ナシコン型またはガーネット型のLi含有酸化物である酸化物固体電解質や、構成元素としてLiおよびSを含む硫化物固体電解質を用いることができる。特に硫化物固体電解質を用いる場合に、本開示の技術による一層高い効果が期待できる。硫化物固体電解質の具体例としては、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、Li3PS4等が挙げられるが、これらに限定されない。固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0083】
導電剤の具体例としては、気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料、または全固体リチウムイオン電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料等が挙げられるが、これらに限定されない。導電剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0084】
バインダーの具体例としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)系バインダー、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー等が挙げられるが、これらに限定されない。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0085】
本開示の電極を製造する方法は、上述した被覆活物質の製造方法により被覆活物質を得ること、上記被覆活物質と、固体電解質とを混合して、電極合剤を得ること(混合工程)、および上記電極合剤を成形して、電極を得ること(成形工程)を含んでいてもよい。
【0086】
混合工程においては、被覆活物質と固体電解質とを混合して電極合剤を得る。混合工程においては、被覆活物質と固体電解質とに加えて、さらに任意に、導電剤およびバインダーを混合してもよい。電極合剤における被覆活物質の含有量は、特に限定されず、例えば40重量%以上99重量%以下であってよい。被覆活物質と固体電解質とは、乾式で混合してもよいし、有機溶媒(好ましくは無極性溶媒)を用いて湿式で混合してもよい。
【0087】
電極合剤は乾式にて成形されてもよいし、湿式にて成形されてもよい。また、電極合剤はそれ単独で成形されてもよいし、集電体とともに成形されてもよい。さらには、後述する固体電解質層の表面において電極合剤を一体成形してもよい。成形工程の一例としては、電極合剤を含むスラリーを集電体の表面に塗工し、その後、乾燥して任意にプレスする過程を経て、電極を作製する形態や、或いは、粉体状の電極合剤を金型等に投入して、乾式にてプレス成形することで、電極を作製する形態が挙げられる。
【0088】
7.全固体電池
本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極層および上記負極層の少なくとも一方が、上述した被覆活物質を含有する、全固体電池を提供することができる。全固体電池は、通常、正極層の集電を行う正極集電体、および、負極層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体は、例えば、正極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。一方、負極集電体は、例えば、負極層の固体電解質層とは反対側の面に配置される。負極集電体の材料としては、例えば、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0089】
固体電解質層は、例えば、固体電解質とバインダーとを含む層であってよい。固体電解質やバインダーの種類については上述した通りである。電極と固体電解質層との積層、電極への端子の接続、電池ケースへの収容、電池の拘束等の自明な工程を経て、全固体電池を製造することができる。
【0090】
全固体電池は、上記発電要素を収容する外装体を備えていてもよい。外装体としては、例えば、ラミネート型外装体、ケース型外装体が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、上記発電要素に対して、厚さ方向の拘束圧を付与する拘束治具を備えていてもよい。拘束治具として、公知の治具を用いることができる。拘束圧は、例えば、0.1MPa以上50MPa以下であり、1MPa以上20MPa以下であってもよい。拘束圧が小さいと、良好なイオン伝導パスおよび良好な電子伝導パスが形成されない可能性がある。一方、拘束圧が大きいと、拘束治具が大型化し、体積エネルギー密度が低下する可能性がある。
【0091】
全固体電池の種類は、特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0092】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0093】
[実施例1]
(コート液の調製)
濃度30重量%の過酸化水素水870.4gを入れた容器へ、イオン交換水987.4gおよびニオブ酸(Nb2O5・3H2O(Nb2O5 含水率72%))44.2gを添加した。次に、上記容器へ、濃度28重量%のアンモニア水87.9gを添加した。そして、アンモニア水を添加した後に容器内の内容物を十分に攪拌することにより、透明溶液を得た。さらに、得られた透明溶液に、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)10.1gを加えることにより、コート液として、ニオブのペルオキソ錯体およびリチウムイオンを含有する錯体溶液を得た。
【0094】
(スラリーの調製)
原料の活物質として、LiNi0.8Co0.1Al0.1O2(NCA)をミキサー容器に入れ、上記で調製したコート液中に、スラリーの固形分濃度が66重量%となるように加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これにより、スラリーを得た。
【0095】
(被覆活物質の前駆体の作製)
送液ポンプを用いて、上記で調製したスラリーを0.5g/秒の速度でスプレードライヤー(GF社製、マイクロミストスプレードライヤー MDL-050MC)へ供給して、スラリーの液滴化と、スラリー液滴の気流乾燥とを行い、前駆体を得た。なお、スラリーの液滴化の処理時間(噴霧時間)と気流乾燥の処理時間との和は、1秒とした。スプレードライヤーの運転条件は、以下のとおりである。
給気温度:250℃
給気風量:1.1m3/分
【0096】
(前駆体の焼成)
マッフル炉を用いて前駆体230℃で6時間焼成し、ニオブ酸リチウムを活物質表面で合成した。これにより、被覆活物質を得た。
【0097】
[実施例2]
原料の活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM)を用いた以外は、実施例1と同様にして、コート液の調製、スラリーの調製、被覆活物質の前駆体の作製、および前駆体の焼成を行った。これにより、被覆活物質を得た。
【0098】
[比較例]
上記で調製したコート液650gを、転動流動造粒コーティング装置「MP-01」(パウレック社製)を用いて、活物質としてのLiNi0.8Co0.1Al0.1O2(NCA)(住友金属鉱山株式会社製)2kgに対して噴霧、乾燥を2.3時間繰り返すことで、被覆活物質の前駆体を得た。得られた前駆体に対して、上述した実施例と同じ条件で焼成を行い、比較例に係る被覆活物質を得た。
【0099】
なお、転動流動造粒コーティング装置の運転条件は、以下のとおりである。
雰囲気ガス:露点-65℃以下のドライエアー
給気温度:200℃
給気風量:0.45m3 /分
ロータ回転数:400rpm
噴霧速度:4.8g/分~9.6g/分に段階的に上昇
【0100】
[電池の作製]
(正極ペーストの調製)
各実施例および比較例の被覆活物質、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-37.5Li3PS4)、導電材としての気相法炭素繊維(VGCF)とアセチレンブラック(AB)、バインダーとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)、およびテトラリン溶媒を秤量し、超音波ホモジナイザーを用いて混合することにより、正極ペーストを調製した。
【0101】
(負極ペーストの作製)
負極活物質としてのLi4Ti5O12粒子、導電材としてのVGCF、SBRバインダー、およびジイソブチルケトンを所定量混合し、超音波ホモジナイザーを使用して混合し、スラリーを得た。その後、スラリーに硫化物固体電解質を添加し、再度、超音波ホモジナイザーを用いて混合し、負極ペーストを調製した。
【0102】
(固体電解質層用ペースト)
ポリプロピレン製容器に、ヘプタンと、ブタジエンゴム系バインダーを5質量%含んだヘプタン溶液と、固体電解質としてのLiI-LiBr-Li2S-P2S5系ガラスセラミックとを加え、超音波ホモジナイザーを用いて30秒間混合した。次に、容器を振とう器で3分間振とうさせて、固体電解質層用ペーストを得た。
【0103】
(正極、負極、固体電解質層の作製)
まず、アプリケーターを使用したブレード法にて、正極集電体(アルミニウム箔)上に正極ペーストを塗工した。塗工後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、正極集電体および正極層を有する正極を得た。次に、負極集電体(銅箔)上に負極ペーストを塗工し、乾燥させた。これにより、負極集電体および負極層を有する負極を得た。ここで、正極の充電比容量を200mAh/gとした場合に、負極の充電比容量が1.15倍となるように、負極層の目付量を調整した。次に、固体電解質層用ペーストを、アルミニウム箔状に塗工し、100℃のホットプレート上で30分乾燥させることにより、アルミニウム箔および固体電解質層を有する積層体を得た。
【0104】
(正極側積層体および負極側積層体の作製)
得られた正極および積層体を、正極活物質層と固体電解質層とが対向するように貼り合わせ、175℃、5ton/cmの条件でロールプレスを行い、固体電解質層上のアルミニウム箔を剥離することで、正極集電体(アルミニウム箔)、正極層および固体電解質層を備える、正極側積層体を得た。次に、負極についても同様の条件で、負極集電体(銅箔)、負極層、固体電解質層を備えた負極側積層体を得た。
【0105】
正極側積層体と負極側積層体とをそれぞれ打ち抜き加工し、固体電解質層同士を対向させて重ね合わせた。ここで、正極側積層体の固体電解質層と、負極側積層体の固体電解質層との間に、未プレスの固体電解質層(固体電解質層用ペースト)を転写した状態で重ね合わせた。その後、130℃にて、2ton/cm2でプレスし、正極と固体電解質層と負極とをこの順に有する発電要素を得た。得られた発電要素をラミネート封入し、5MPaで拘束することで、評価用の全固体リチウムイオン二次電池を得た。
【0106】
[NiO層の厚さ測定]
予め、実施例1、実施例2および比較例で使用した原料の活物質の断面をHAADF-STEM(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡)により観察し、原料活物質の表面に形成されているNiO層の厚さを測定した。実施例1および実施例2では6カ所、比較例では3カ所で測定を行った。また、これらの複数の測定部位でのNiO層の厚さの平均値、最小値および最大値を求めた。結果を表1に示す。
【0107】
上述の方法で製造した被覆活物質の断面を、HAADF-STEM(高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡)により観察し、NiO層の厚さを測定した。実施例1では12カ所、実施例2では6カ所、比較例では3カ所で測定を行った。また、これらの複数の測定部位でのNiO層の厚さの平均値、最小値および最大値を求めた。結果を表1に示す。
【0108】
被覆層の形成前後におけるNiO層の平均厚さの拡大率を以下の式により算出した。
拡大率(平均厚さ)(%)=(被覆活物質のNiO層の平均厚さ-原料活物質のNiO層の平均厚さ)/(原料活物質のNiO層の平均厚さ)×100
同様に、NiO層の最小厚さの拡大率、最大厚さの拡大率について算出した。結果を表1に示す。
【0109】
【0110】
[抵抗の測定]
上述の方法で作製した実施例1および比較例の全固体リチウムイオン電池のそれぞれについてDCIR測定を行い、抵抗を求めた。測定は、25℃において、SOC(state of charge)25%から6C放電を、表2に記載の時間行い、その電圧降下量および電流値から、内部抵抗を求めた。また、SOC90%から6C放電を、表2に記載の時間行い、その電圧降下量および電流値から、内部抵抗を求めた。結果を表2および
図4に示す。
【0111】
【0112】
表1の結果から、実施例1および実施例2におけるNiO層の厚さは、比較例におけるNiO層の厚さより小さいことが確認された。なお、表1において、拡大率が負の値になっている理由は、NiO層の厚さのバラつきが大きいためであると推測される。一方、拡大率が負または0付近の値になるということは、NiO層の厚さが、スプレードライ法によって、ほとんど増加していないことを示唆している(バラつきの影響>NiO層増加の影響)。また、表2および
図4の結果から、実施例1は比較例よりも、抵抗値が小さいことが確認された。
【符号の説明】
【0113】
1 …被覆活物質
2 …活物質
3 …被覆層
4 …NiO層
11,21,31 …スラリー液滴
12,22,32…活物質
13,23,33…コート液