(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】フェーズドアレーアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/06 20060101AFI20240709BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20240709BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
H01Q21/06
H01Q13/08
H01Q21/24
(21)【出願番号】P 2022106073
(22)【出願日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100193389
【氏名又は名称】谷口 智利
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 将大
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0076086(US,A1)
【文献】国際公開第2019/064470(WO,A1)
【文献】米国特許第05786793(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/06
H01Q 13/08
H01Q 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のアンテナ素子、第二のアンテナ素子、第三のアンテナ素子、および、第四のアンテナ素子を有し、
前記
第一のアンテナ素子、前記第二のアンテナ素子、前記第三のアンテナ素子、および、前記第四のアンテナ素子は
それぞれ、
長辺と短辺を有する略長方形の基体、
前記基体の表面に配置された1つの素子部、および、
前記基体の裏面に、前記基体の略長辺方向に並んで配置された2つのコネクタを有し、
前記第一のアンテナ素子は、X軸方向に配置され、
前記第二のアンテナ素子は、X軸方向と90°をなす方向に
前記第一のアンテナ素子と略隣接して配置され、
前記第三のアンテナ素子は、X軸方向と180°をなす方向に
前記第二のアンテナ素子と略隣接して配置され、および、
前記第四のアンテナ素子は、X軸方向と270°をなす方向に
前記第三のアンテナ素子と略隣接して配置され、
前記第一のアンテナ素子、前記第二のアンテナ素子、前記第三のアンテナ素子、および、前記第四のアンテナ素子は、中央に略正方形の隙間空間を構成することを特徴とする、フェーズドアレーアンテナ。
【請求項2】
前記長辺が前記短辺の約2倍であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ。
【請求項3】
前記隙間空間が略長方形であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ。
【請求項4】
周波数が27GHz以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ。
【請求項5】
前記基体の誘電率が3以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ。
【請求項6】
前記アンテナ素子がパッチアンテナであることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ。
【請求項7】
前記基体の長辺が8.1mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ。
【請求項8】
サイドローブレベルが10dB以上のビーム走査範囲を25°以上有することを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェーズドアレーアンテナに関し、特にその素子構造および配列方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にフェーズドアレーアンテナ等の多素子の配列では、正方配列や三角配列が用いられ、素子や個々のアンテナは正方形の形状である。
図1、
図2、
図3は一般のアンテナ素子の表面、裏面、および、側面の断面図を示す。
図4は一般のフェーズドアレーアンテナを示す。
図1、
図2、
図3、
図4においてアンテナはパッチアンテナである。
図1に示されるように、アンテナ素子は基体の表面に1つの素子部を、裏面に2つのコネクタを備えている。
一辺がaである略正方形の基体の表面には素子が設けられ、裏面にはコネクタが設けられている。そして、素子間隔、つまり、隣接するアンテナ素子同士の間隔はaとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-114655号公報
【文献】特許第6641491号
【文献】特表2016-528840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周波数が高くなると、素子サイズとコネクタサイズの差が小さくなる。
2偏波共用の素子をアレー化する場合、通常は約λ/2となる素子サイズより、コネクタサイズの専有面積の方が大きい素子配列となり、素子間隔が広くなり広角にビームを走査できない。
つまり、2つの偏波を使用する2偏波共用のアンテナでは、素子サイズよりコネクタ2個分の専有面積の方が大きくなる。これにより、素子の間隔が広くなるため、広角にビーム走査しようとすると、大きなサイドローブが発生し、広角にビーム走査することが難しい。
特許文献1は、素子を密にすることは類似しているが、素子の構造が異なる。特許文献2は、サブアレー化に長方形構造を採用しているが、素子単体の構造ではない。特許文献3は、構造も異なるうえに、そもそも誘電絶縁体が、3よりも実質的に大きな誘電係数を有している。
本発明は、従来の構造・配列より、広角にビーム走査を可能にすることを目的とする。
本発明のその他の目的は、発明を実施するための形態においても説明される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係るフェーズドアレーアンテナは、
4以上のアンテナ素子を有し、
アンテナ素子は、
長辺と短辺を有する略長方形の基体、
基体の表面に配置された1つの素子部、および、
基体の裏面に、基体の略長辺方向に並んで配置された2つのコネクタを有し、
アンテナ素子は、
X軸方向に配置された第一のアンテナ素子、
X軸方向と90°をなす方向に第一のアンテナ素子と略隣接して配置された第二のアンテナ素子、
X軸方向と180°をなす方向に第二のアンテナ素子と略隣接して配置された第三のアンテナ素子、および、
X軸方向と270°をなす方向に第三のアンテナ素子と略隣接して配置された第四のアンテナ素子、を含み、
第一のアンテナ素子、第二のアンテナ素子、第三のアンテナ素子、および、第四のアンテナ素子は、中央に略正方形の隙間空間を構成することを特徴とする、フェーズドアレーアンテナである。
本構成により、2方向に略均等に、広角にビームを走査できる。また、どちらの向きに設置しても性能が変わらないため、設置時に自由度が高くなる。
本発明の請求項2に係るフェーズドアレーアンテナは、
長辺が短辺の約2倍であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナである。
本発明の請求項3に係るフェーズドアレーアンテナは、
隙間空間が略長方形であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナである。
本発明の請求項4に係るフェーズドアレーアンテナは、
周波数が27GHz以上であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナである。
本発明の請求項5に係るフェーズドアレーアンテナは、
基体の誘電率が3以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナである。
本発明の請求項6に係るフェーズドアレーアンテナは、
アンテナ素子がパッチアンテナであることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナである。
本発明の請求項7に係るフェーズドアレーアンテナは、
基体の長辺が8.1mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナである。
本発明の請求項8に係るフェーズドアレーアンテナは、
サイドローブレベルが10dB以上のビーム走査範囲を25°以上有することを特徴とする、請求項1に記載のフェーズドアレーアンテナである。
本発明は、以上の構成により、正方配列の場合には、正方形構造素子と同じ素子数比較で、広角にビーム走査が可能となる。また、より小型のコネクタが使用できる場合は、より広角にビーム走査が可能となる。さらに、同時に同素子数で小型化できる。
本発明のその他の効果は、発明を実施するための形態においても説明される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図5】本発明の一実施例におけるアンテナ素子の表面を示す。
【
図6】本発明の一実施例におけるアンテナ素子の裏面を示す。
【
図7】本発明の一実施例におけるアンテナ素子の側面の断面図を示す。
【
図8】本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナを示す。
【
図9】本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナの構成例を示す。
【
図10】本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナの構成例を示す。
【
図11】本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナの構成例を示す。
【
図12】従来の正方配列によるフェーズドアレーアンテナの構成例を示す。
【
図13】従来の正方配列によるフェーズドアレーアンテナの結果例を示す。
【
図14】本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナの構成例を示す。
【
図15】本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナの結果例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図5、
図6、
図7は、本発明の一実施例におけるアンテナ素子の表面、裏面、および、側面の断面図を示す。
図8は本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナ1を示す。
図8に示されるように、フェーズドアレーアンテナ1は、4以上のアンテナ素子100,200,300,400を有する。
本実施例では、アンテナ素子100,200,300,400はパッチアンテナであるが、2個分のコネクタ103,104専有面積より小さい素子であれば、ダイポールアンテナなど様々な形状の素子で適用可能である。
【0008】
それぞれのアンテナ素子100,200,300,400は、長辺と短辺を有し長辺の方が短辺より長い略長方形の基体101、基体101の表面に配置された1つの素子部102、および、基体101の裏面に、基体101の略長辺方向に並んで配置された2つのコネクタ103,104を有する。
つまり、
図5および
図7に示されるように基体101の表面に1つの素子部102を有し、
図6に示されるように基体101の裏面に2つのコネクタ103,104を有する。素子部102は基体101の内部に埋め込まれるように構成されてるが、表側に構成されるのであれば、埋め込まれる構成以外でもよい。
本実施例においては、コネクタ103,104はSMPSコネクタであり、100GHzまで対応可能であるが、SMPMコネクタや他のコネクタでも良い。
【0009】
アンテナ素子100,200,300,400は、第一のアンテナ素子100、第二のアンテナ素子200、第三のアンテナ素子300、および、第四のアンテナ素子400を含む。
第一のアンテナ素子100は、
図8における横方向である、X軸方向に配置されている。
第二のアンテナ素子200は、
図8における縦方向の、X軸方向と90°をなす方向に第一のアンテナ素子100と略隣接して配置されている。
第三のアンテナ素子300は、X軸方向と180°をなす方向に第二のアンテナ素子200と略隣接して配置されている。
第四のアンテナ素子400は、X軸方向と270°をなす方向に第三のアンテナ素子300と略隣接して配置されている。
そして、第一のアンテナ素子100、第二のアンテナ素子200、第三のアンテナ素子300、および、第四のアンテナ素子400は、中央に略長方形の隙間空間を構成する。
【0010】
素子自体は、略長方形であり、面取りされた構造でもよい。あるいは、略円形でもよい。
また、略隣接して配置されているとは、必ずしも物理的に接触している必要はないが、基本的に極めて近接して、つまり、短辺方向の0.1倍以下の隙間を有して配置されている構成を含むことを意味する。もちろん、本実施例のように隙間がない方が有利であることは言うまでもない。
【0011】
以上のように、従来の正方形の素子構造に対し、長方形の素子構造とする。そして、長方形の素子を90°回転させて隣接させる配列とする。これにより、素子間隔を従来に比べて狭くすることができ、より広角なビーム走査が可能となる。
また、正方配列の場合には、正方形構造素子と同じ素子数比較で、広角にビーム走査が可能となる。また、より小型のコネクタが使用できる場合は、より広角にビーム走査が可能となる。さらに、同時に同素子数で小型化できる。
特に隙間空間が略正方形であるため、2方向に略均等に、広角にビームを走査できる。また、どちらの向きに設置しても性能が変わらないため、設置時の自由度も高くなる。
【0012】
一実施例において、長辺は短辺の約2倍とすることができる。ここで「長辺が短辺の約2倍である」とは、長辺が短辺の1.5倍以上かつ2.5倍以下であることを意味する。
本例では、基体101がおよそ正方形2つ分となり、図示されるように、各正方形の略中央にコネクタ103,104(端子)を配置することができる。これにより、基体101の力学的重心および電気特性を安定化することができる。
【0013】
図9は一実施例におけるフェーズドアレーアンテナ1の構成例を示す。理解を容易にするため、本図では、フェーズドアレーアンテナの全体ではなく一部が示されていることに注意が必要である。
一実施例において、90%以上の素子が、第一のアンテナ素子100、第二のアンテナ素子200、第三のアンテナ素子300、および、第四のアンテナ素子400のいずれかである構成とすることができる。
実際には、周辺部を除く90%以上の素子が、第一から第四のアンテナ素子100、200,300,400である。
【0014】
そして、フェーズドアレーアンテナ1の端部においては、中央に略長方形の隙間空間を構成しない素子も配置され、左右の縦線にて示されるアンテナ面の端部に対し、ぎりぎりまでアンテナ素子500が配置されている。
本構成により、フェーズドアレー素子の端部のぎりぎりの部分までアンテナ素子100を配置することができ、フェーズドアレーアンテナとしての特性をより一層向上させることができる。
すべての素子が、第一から第四のアンテナ素子100,200,300,400である構成としてもよい。
【0015】
図10は一実施例におけるフェーズドアレーアンテナ1の構成例を示す。
本発明の一実施例において、隙間空間が略長方形である。
最も広角なビーム走査が求められる方向などが決まっている場合、アンテナをこの方向に密に配置し、つまり、隙間空間の略長方形の短辺方向を最も広角なビーム走査が求められる方向などに合わせることにより、必要な方向とそうでない方向とに合わせて、より効率よくアンテナ素子100,200,300,400を配置することができる。
本実施例では、フェーズドアレーアンテナ1は、縦方向と横方向で、基体101の長辺と短辺の長さの比が異なる2種類のアンテナ素子100,300およびアンテナ素子200,400を備えているが、
図11に示されるように、1種類のアンテナ素子100,200,300,400を備え、隙間空間が完全に閉じてはいない略長方形となる配置としてもよく、このような形状も請求項に記載の「略長方形」に含まれる。
【0016】
本発明の一実施例において、周波数が27GHz以上である。請求項も含めて、ここでの「周波数」は、アンテナ素子が送信または受信する電波の周波数を意味する。ただし、27GHz以上の周波数を送信または受信するものであれば、27GHz未満の周波数の送信または受信も行う構成も含まれる。
特に第5世代移動通信システムである5Gにおいて、アンテナ素子部102に対してコネクタ103,104が相対的により大きくなるため、本構成が非常に有利になる。
【0017】
本発明の一実施例において、基体101の誘電率が3以下である。
本発明の一実施例において、 基体101の長辺が8.1mm以下である。素子間隔は6.1mm以下とすることができる。
本構成により、アンテナ素子100を密に配置することができ、より広角なビーム走査が可能となる。
【0018】
図12ないし
図15は従来の正方配列によるフェーズドアレーアンテナ1と、本発明の一実施例におけるフェーズドアレーアンテナ1を、6素子×6素子の構成で比較したものである。
図13および
図15において、縦軸は相対電力、横軸は角度を示し、A1、B1、C1はそれぞれ、ビーム走査角度が0°、18°、35°の場合を示す。
本実施例では、サイドローブレベルが10dB以上のビーム走査範囲を25°以上有する。つまり、許容サイドローブレベルを10dBとして、ビーム走査範囲は、従来の正方配列では約18°であるのに対して、本実施例では約35°となることが分かる。他のパラメータでも、おおよそ類似の結果が得られる。ここで、請求項を含め、「サイドローブレベルが10dB以上」とは、メインローブに対してサイドローブが-10dB以下の大きさである、つまり、メインローブとサイドローブの差が10dB以上であることを意味する。
【0019】
本発明は以上の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な実施例を含むことは言うまでもない。
例えば、フェーズドアレーアンテナは、平面状以外に、曲面状に配置することもできる。
【符号の説明】
【0020】
1 フェーズドアレーアンテナ
100,200,300,400,500 アンテナ素子
101 基体
102 素子部
103,104 コネクタ