(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 50/505 20210101AFI20240709BHJP
H01M 50/526 20210101ALI20240709BHJP
H01M 50/588 20210101ALI20240709BHJP
H01M 50/591 20210101ALI20240709BHJP
H01M 50/524 20210101ALI20240709BHJP
H01M 10/658 20140101ALN20240709BHJP
【FI】
H01M50/505
H01M50/526
H01M50/588
H01M50/591 101
H01M50/524
H01M10/658
(21)【出願番号】P 2022122199
(22)【出願日】2022-07-29
【審査請求日】2023-12-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】川崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/218775(WO,A1)
【文献】特開2015-220025(JP,A)
【文献】国際公開第2021/230489(WO,A1)
【文献】特開平11-093296(JP,A)
【文献】特開2019-050109(JP,A)
【文献】特開2018-195490(JP,A)
【文献】特開2014-107201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体が、
前記バスバー本体の表面に形成され、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1層と、前記第1層の表面に形成され、前記所定の温度未満で溶融する樹脂を含む第2層と、で構成される絶縁被膜により被覆されてなることを特徴とする、バスバー。
【請求項2】
前記絶縁材料は、発泡剤及び結合剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記発泡剤は、アンモニウム塩、アミノ化合物及び塩素化パラフィンのうち少なくとも1つであることを特徴とする、請求項2に記載のバスバー。
【請求項4】
前記結合剤は、合成樹脂エマルジョン、アルキッド、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂のうち少なくとも1つであることを特徴とする、請求項2に記載のバスバー。
【請求項5】
前記絶縁材料は、更に炭化剤を含むことを特徴とする、請求項2に記載のバスバー。
【請求項6】
前記炭化剤は、炭水化物及び多価アルコールのうち少なくとも1つであることを特徴とする、請求項5に記載のバスバー。
【請求項7】
前記発泡剤がポリリン酸アンモニウムであり、前記結合剤がウレタン樹脂であり、前記炭化剤が多価アルコールであることを特徴とする、請求項5に記載のバスバー。
【請求項8】
前記所定の温度は、300℃であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項9】
前記絶縁被膜の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項10】
前記絶縁被膜の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする、請求項8に記載のバスバー。
【請求項11】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体の表面に、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1の塗布液を塗布した後、乾燥させて、第1層を形成し、
前記第1層の表面に、前記所定の温度未満で溶融する樹脂を含む第2の塗布液を塗布した後、乾燥させて、第2層を形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項12】
前記絶縁材料は、発泡剤及び結合剤を含むことを特徴とする、請求項11に記載のバスバーの製造方法。
【請求項13】
前記絶縁材料は、更に炭化剤を含むことを特徴とする、請求項12に記載のバスバーの製造方法。
【請求項14】
前記所定の温度は、300℃であることを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項15】
前記
第1の塗布液を、乾燥後の膜厚が0.3mm以上となるように塗布することを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項16】
前記
第1の塗布液を、乾燥後の膜厚が0.3mm以上となるように塗布することを特徴とする、請求項14に記載のバスバーの製造方法。
【請求項17】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項1~7のいずれか1項に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【請求項18】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項8に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【請求項19】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項9に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【請求項20】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項10に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー及びその製造方法、並びに複数の電池セル又は電池モジュールをバスバーで接続した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器や、電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車、蓄電池などには、複数の電池セルを、バスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。また、電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
しかし、充放電時に、電池セルに過電流が通電されると、接続に使用されているバスバーが発熱することがあり、場合によっては火炎を発することがある。このような電池の異常時には、バスバーも同様の高温や火炎に晒され、バスバー自体が損傷したり、バスバーを介して隣接する電池セルが高熱になる。そこで、特許文献1では、雲母シートでバスバーを被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、バスバー自身の発熱を抑えるための対策であり、電池の異常時における電池セルからの高温や火炎に対してバスバーを保護することに着目していない。しかも、雲母は、結晶水を含むため、電池の異常時に高温や火炎に晒された場合に、膨張したり、結晶水を放出したりして、構造的に不安定になる。
【0006】
また、特許文献1では、雲母シートをバスバーに巻き付ける作業が必要になる。電池セルの設置個所の空間的制限などにより、バスバーが複雑な形状を呈することもあるが、バスバーが複雑な形状になると、雲母シートをバスバーの隅々まで巻き付けるのが困難である。雲母シートに、巻きムラや隙間があると、目的とする上記効果が十分に得られない。更には、高温時に雲母シートの粘着面が剥がれることも想定される。
【0007】
そこで本発明は、電池の異常時における電池セルからの高温や火炎から保護できるバスバーを提供することを目的とする。また、雲母シートのような巻き付け作業が不要で、巻きムラやシートの隙間を生じることや、シートの剥がれの問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能に製造できるバスバーの製造方法を提供することを目的とする。更には、このようなバスバーにより複数の電池セル又は電池モジュール同士を接続し、異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、バスバーに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体が、
前記バスバー本体の表面に形成され、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1層と、前記第1層の表面に形成され、前記所定の温度未満で溶融する樹脂を含む第2層と、で構成される絶縁被膜により被覆されてなることを特徴とする、バスバー。
【0010】
また、バスバーに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[10]に関する。
【0011】
[2] 前記絶縁材料は、発泡剤及び結合剤を含むことを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
[3] 前記発泡剤は、アンモニウム塩、アミノ化合物及び塩素化パラフィンのうち少なくとも1つであることを特徴とする、[2]に記載のバスバー。
[4] 前記結合剤は、合成樹脂エマルジョン、アルキッド、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂のうち少なくとも1つであることを特徴とする、[2]又は[3]に記載のバスバー。
[5] 前記絶縁材料は、更に炭化剤を含むことを特徴とする、[2]~[4]のいずれか1つに記載のバスバー。
[6] 前記炭化剤は、炭水化物及び多価アルコールのうち少なくとも1つであることを特徴とする、[5]に記載のバスバー。
[7] 前記発泡剤がポリリン酸アンモニウムであり、前記結合剤がウレタン樹脂であり、前記炭化剤が多価アルコールであることを特徴とする、[5]に記載のバスバー。
[8] 前記所定の温度は、300℃であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載のバスバー。
[9] 前記絶縁被膜の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載のバスバー。
[10] 前記絶縁被膜の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする、[8]に記載のバスバー。
【0012】
また、本発明の上記目的は、バスバーの製造方法に係る下記[11]の構成により達成される。
【0013】
[11] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体の表面に、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1の塗布液を塗布した後、乾燥させて、第1層を形成し、
前記第1層の表面に、前記所定の温度未満で溶融する樹脂を含む第2の塗布液を塗布した後、乾燥させて、第2層を形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0014】
また、バスバーの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[12]~[16]に関する。
【0015】
[12] 前記絶縁材料は、発泡剤及び結合剤を含むことを特徴とする、[11]に記載のバスバーの製造方法。
[13] 前記絶縁材料は、更に炭化剤を含むことを特徴とする、[12]に記載のバスバーの製造方法。
[14] 前記所定の温度は、300℃であることを特徴とする、[11]~[13]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
[15] 前記第1の塗布液を、乾燥後の膜厚が0.3mm以上となるように塗布することを特徴とする、[11]~[13]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
[16] 前記第1の塗布液を、乾燥後の膜厚が0.3mm以上となるように塗布することを特徴とする、[14]に記載のバスバーの製造方法。
【0016】
また、本発明の上記目的は、蓄電装置に係る下記[17]~[20]の構成により達成される。
【0017】
[17] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[1]~[7]のいずれか1つに記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
[18] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[8]に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
[19] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[9]に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
[20] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[10]に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明のバスバーは、バスバー本体の表面に形成され、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1層と、第1層の表面に形成され、上記所定の温度未満で溶融する樹脂を含む第2層と、で構成される絶縁被膜により被覆されたものである。そのため、電池の通常使用時には、第2層による安定した絶縁性能が機能して、電池セルや他の部品との短絡を防ぐことができる。そして、電池の異常時には第2層が溶融・消失して第1層が露出し、絶縁材料が膨張し、更に好ましくは炭化するため、熱暴走を起こした電池セルからの高温や火炎から保護される。
【0019】
また、本発明のバスバーの製造方法は、上記した第1層及び第2層を形成する各塗布液を、バスバー本体に塗布するだけでよいため、製造工程が簡易であり、バスバー本体の形状に関係なく、隙間なく均一に絶縁被膜を形成することができる。
【0020】
さらに、本発明の蓄電装置は、このようなバスバーにより複数の電池セルや電池モジュールを接続しているため、異常時においても高い安全性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明のバスバーの一例を電池セルに装着した状態を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、バスバーの実施形態を、
図1のA-A矢視に沿って示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例における、火炎照射時の裏面温度(℃)を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例及び比較例における、絶縁被膜の火炎照射前後の膜厚(mm)を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1及び比較例1の各サンプルの絶縁被膜について、火炎照射後に撮影した図面代用写真であって、
図5(A)は実施例1のものを、
図5(B)は比較例1のものを示す。
【
図6】
図6は、実施例1のサンプルの側面について、火炎照射後に撮影した図面代用写真である。
【
図7】
図7は、本発明の蓄電装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0023】
[バスバー]
図1は、本実施形態に係るバスバー1を電池セル110に装着した状態を示す分解斜視図である。
図1に示されるように、導電性材料からなるバスバー本体5は、例えば、全体がZ字状の金属製の板部材であり、一方の先端の接続孔6aに電池セル110の電極111を挿入し、端子キャップ112を被せて固定される。また、バスバー本体5の他方の先端の接続孔6bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。そして、バスバー本体5の接続孔6a,6bを除く部分(表面)を、後述される絶縁被膜10で覆い、バスバー1が構成される。
【0024】
なお、図示は省略するが、バスバー本体5は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セル110の設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0025】
バスバー本体5が、
図1に示されるZ字状のような屈曲部5aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献1のバスバーのように雲母シートを巻き付ける方式では、屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、後述するように、本実施形態では、所定の塗布液を用いた塗布により絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらない。
【0026】
続いて、
図2は、
図1のA-A矢視に沿って示すバスバー1の断面図である。なお、図示は省略するが
図2中の下側に電池セル110が存在しており、電池の異常時には、電池セル110からの熱の伝達による高温や火炎が発生する。このため、バスバー本体5を所定の絶縁被膜10で被覆している。なお、この絶縁被膜10は、図示のように、バスバー本体5の全面を覆うように、側面(板厚部分)及び上下面に形成することもできるが、少なくとも電池セル110と対向する面(ここでは下面)のみに形成してもよい。
【0027】
絶縁被膜10は、図示されるように、バスバー本体5の表面から順に、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1層11と、上記所定の温度未満で溶融する樹脂を含む第2層12と、を積層したものである。
【0028】
バスバー1は、平常時であっても、通電時(電池の通常使用時)には概ね100℃程度になるため、電池の通常使用時に第1層11が膨張しないように、第1層11の膨張開始温度を、電池の通常使用時に第1層11が膨張しない所定の温度以上、具体的には、例えば、300℃以上(第1層11に含まれる絶縁材料の膨張開始温度が300℃以上)、又は350℃以上(第1層11に含まれる絶縁材料の膨張開始温度が350℃以上)、又は400℃以上(第1層11に含まれる絶縁材料の膨張開始温度が400℃以上)とするのがよい。
【0029】
第1層11は、上記所定の温度以上の高温によって膨張を開始することにより、その内部に空気が取り込まれ、空気層が形成されることにより、発生した高熱がバスバー1へ伝達されるのが抑制され、断熱性能が高まる。ひいてはバスバー1自体の溶解(すなわち、高熱によるバスバー1の損傷)を効果的に抑制することができる。
なお、断熱性能を効果的に向上させるためには、第1層11の膨張率が大きいほど好ましく、その膨張率は、膨張前の体積に対して10%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、15%以上であることが更に好ましい。
【0030】
本実施形態のバスバー1は、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1層11により、導電性材料を含むバスバー本体5を被覆したものであることから、電池の通常使用時(最大でも概ね100℃程度)においては、バスバー1の周囲における他の部品や機器との絶縁性を確保するための絶縁材として機能しつつ、電池の異常時(少なくとも300℃以上)においては、第1層11が膨張することにより、導通部との接触距離が大きくなり、短絡のリスクを下げることができる。
【0031】
また、絶縁性の更なる向上を考慮すれば、第1層11に用いる絶縁材料が、発泡剤及び結合剤を含むことが好ましく、より具体的には、第1層11に用いる絶縁材料が、発泡樹脂であることが好ましい。なお、絶縁材料が発泡剤及び結合剤を含むものであると、発泡した泡の中に空気が効果的に取り込まれることから、断熱性が効果的に期待できる。
【0032】
なお、上記所定の温度として、例えば膨張開始温度が300℃以上である絶縁材料の種類は特に制限はないが、絶縁材料が発泡剤を含む場合において、発泡剤は、アンモニウム塩、アミノ化合物及び塩素化パラフィンのうち少なくとも1つであることが好ましく、これらのうち少なくとも一部の組み合わせであってもよい。なお、アンモニウム塩として、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミンなどが例として挙げられる。また、アミノ化合物として、ジシアンアミド、尿素、メラミンなどが例として挙げられる。
【0033】
また、絶縁材料が結合剤を含む場合において、結合剤は、合成樹脂エマルジョン(水系)、アルキッド(溶剤系)、塩化ビニル樹脂(溶剤系)、ウレタン樹脂(溶剤系)及びエポキシ樹脂(溶剤系)のうち少なくとも1つであることが好ましく、これらのうち少なくとも一部の組み合わせであってもよい。
【0034】
さらに、結合剤としてのウレタン樹脂としては、ウレタンプレポリマーを挙げることができる。ウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物と過剰のポリイソシアネート化合物とを反応させることによって得られ、分子末端にイソシアネート基を有するものである。
【0035】
ウレタンプレポリマーを構成するポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。これらの重量平均分子量は通常300~5000(好ましくは500~3000)である。
【0036】
また、ポリイソシアネート化合物としては、一般のポリウレタンの製造に用いられる脂肪族、脂環族又は芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。具体的には、例えばテトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0037】
ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応比率は、ポリオール化合物中の水酸基に対して、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基が過剰となる比率に設定すればよく、(NCO/OH)が1.2~2.2程度となるように設定することが好ましい。
【0038】
なお、上記発泡剤は、炭化層形成剤としても機能し得る。ここでいう炭化層形成剤は、炭化成分である上記した発泡樹脂のカーボン化を促進させる成分のことである。発泡樹脂が発泡した後、周囲を不活性ガス雰囲気として樹脂中の炭素を炭化させて炭化層を形成し、それ以上の燃焼を止める作用を有する。このような作用を有する化合物としては、上記したアンモニウム塩の1つであって、不活性ガスの発生作用が大きい、ポリリン酸アンモニウムであることが好ましい。ポリリン酸アンモニウム中のアンモニウム基から窒素ガスが生成し、空気中の酸素との接触を効果的に遮断する。
【0039】
なお、上記のとおり、絶縁被膜10に含まれる絶縁材料の膨張開始温度として、所定の温度以上、例えば300℃以上であるが、熱暴走を起こした電池セルからの高温や火炎に対する防炎効果をより高めるためには、膨張開始温度が550℃以下、又は540℃以下、又は530℃以下であることが好ましい。特に、絶縁材料が発泡剤を含む場合に、上述したような炭化層が形成されることで、より有効な防炎効果が期待できるものの、膨張開始温度が高すぎると、十分に発泡された表層に炭化層をうまく形成することができず、より有効な防炎効果が得られないおそれがある。したがって、絶縁被膜10に含まれる絶縁材料の膨張開始温度は、例えば300℃以上550℃以下の範囲とすることが好ましい。
【0040】
なお、後述するように第1層11の形成のために塗布液を用いるが、ポリリン酸アンモニウムは、長時間放置しておくと塗布液内で分解が起こり、アンモニアガスを発生し、経時劣化して炭化層の形成性能の低下を起こしてしまうおそれがある。そこで、この経時変化を防ぐために、耐水性を有する樹脂で薄く被覆し、マイクロカプセル化することが好ましい。
【0041】
さらに、第1層11は、更に炭化剤を含むことが好ましい。なお、炭化剤は、炭水化物及び多価アルコールのうち少なくとも1つであることが好ましく、これらのうち少なくとも一部の組み合わせであってもよい。第1層11が、上記した発泡剤及び結合剤に加え、更に炭化剤を含むことにより、例えば、発泡剤(兼、炭化形成剤)がポリリン酸アンモニウムであり、炭化剤が多価アルコールである場合に、第1層11の温度が250~300℃になったタイミングで、反応触媒としてのポリリン酸アンモニウムが分解し、生成したリン酸塩により、炭化剤である多価アルコールが分解し、更に脱水作用によって、より効果的に炭化層を形成し得る。
【0042】
なお、この反応と並行して、発泡剤であるポリリン酸アンモニウムが更に分解することで、アンモニアガス、水蒸気、炭酸ガス等が発生し、形成された炭化層を大幅に膨張させることで、断熱層を形成させる。
【0043】
また、第1層11は、上記した発泡剤、結合剤(樹脂)、炭化剤の他にも、従来より耐熱性や難燃性の塗膜に含まれる各種の添加剤(例えば、無機粒子、有機高分子など)を含有してもよく、他の添加剤としては、難燃剤、分散剤、着色顔料(酸化チタンなど)、体質顔料が例として挙げられる。
【0044】
続いて、第1層11における発泡剤及び結合剤の合計含有量は、被膜全量の0.5~1.8kg/m2であることが好ましく、0.5~0.7kg/m2であることがより好ましい。発泡剤及び結合剤の合計含有量、及び、炭化剤ともに、上記したそれぞれの下限値未満では、異常時の高温や火炎に対して十分な耐熱性が得られず、上記したそれぞれの上限値を超えたとしても、更なる耐熱性の向上を見込めない。
【0045】
また、第1層11の膜厚は、0.3mm以上であることが好ましく、0.4mm以上であることがより好ましい。後述する試験例に示すように、第1層11の膜厚が0.3mm未満では、電池の異常時における高温や火炎に対して十分な耐熱性が得られない。なお、第1層11の膜厚の上限には制限はなないが、必要以上に厚くなったとしても耐熱性の更なる向上は見込めなくなり、むしろ第1層11に亀裂が生じるなど膜質に不具合が見られるようになるため、第1層11の膜厚の上限としては2.0mmが適当である。
【0046】
続いて、第2層12は、所定の温度未満で溶融する樹脂を含む。したがって、融点又はガラス転移点が、所定の温度未満の樹脂であれば特に制限はない。なお、ここでいう所定の温度としては、上記した第1層11に含まれる絶縁材料が膨張を開始する所定の温度に対応して設定する必要がある。すなわち、例えば、第1層11に含まれる絶縁材料の膨張開始温度が300℃以上である場合には、第2層12に含まれる樹脂の溶融温度は300℃未満であればよく、また、第1層11に含まれる絶縁材料の膨張開始温度が350℃以上である場合には、第2層12に含まれる樹脂の溶融温度は350℃未満であればよい。
言い換えれば、本実施形態に係るバスバー1の作用効果を奏するためには、第1層11に含まれる絶縁材料の膨張開始温度が、第2層12に含まれる樹脂の溶融温度よりも高いものである必要がある。
【0047】
なお、上記したように、電池の通常使用時においても、バスバー1は100℃程度の高温になるため、第2層12に含まれる樹脂としては、融点又はガラス転移点が100℃以上の樹脂であることが好ましく、150℃以上の樹脂であることがより好ましく、200℃以上の樹脂であることが更に好ましい。
【0048】
また、第2層12は、積層体である絶縁被膜10の最表層になるため、耐熱温度が高い方が好ましい。具体的には、入手性や取扱性などを考慮すると、300℃未満で溶融する樹脂の例として、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、塩化ビニル(PVC)、AS樹脂(SAN)、ABS樹脂(ABS)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、フッ素樹脂(PTFE)、フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、ユリア樹脂(UF)、ポリウレタン(PUR)、エポキシ樹脂(EP)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)などを挙げることができる。
【0049】
また、第2層12には、その他の材料を含有することができるが、下記で示すような、本実施形態に係るバスバー1の作用効果を妨げるものでなければ、特に制限されない。具体的には、例えば、難燃剤、着色剤、無機フィラー等を含めることができる。
ただし、第2層12に含まれる所定の温度未満で溶融する樹脂は、第2層12中に主成分、すなわち第2層12全量の50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることが好ましい。
【0050】
なお、第2層12の膜厚は、特に制限されるものではないが、絶縁性の確保及び耐久性、膜質などを考慮すると、0.01~2.0mm、好ましくは0.1~1.0mmが適当である。
【0051】
以上のとおり、本実施形態のバスバー1は、バスバー本体の表面に形成され、膨張開始温度が所定の温度以上である絶縁材料を含む第1層11と、第1層11の表面に形成され、上記所定の温度未満で溶融する樹脂を含む第2層12と、で構成された、積層体からなる絶縁被膜10により被覆されたものである。そのため、電池の通常使用時には、第2層12による安定した絶縁性能が機能して、電池セル110や他の部品との短絡を防ぐことができる。そして、電池の異常時には、第2層12が溶融・消失して第1層11が露出し、絶縁材料10が膨張し(絶縁材料10が、発泡樹脂である場合には、発泡して膨張し)、更に好ましくは炭化するため、熱暴走を起こした電池セル110からの高温や火炎から保護される。
【0052】
[バスバーの製造方法]
バスバー1を製造するには、まず、少なくとも上記した膨張開始温度が所定の温度以上、例えば300℃以上で膨張する絶縁材料、好ましくは発泡剤及び結合剤、更に好ましくは炭化剤、そして、必要に応じて、その他の添加剤を秤量し、分散媒としてのシンナーに加え、十分に混合して、第1の塗布液を調製する。続いて、バスバー本体5における接続孔6a,6b(
図1参照)の周囲をマスキングし、上記第1の塗布液を塗布した後、塗膜を乾燥させて、本実施形態に係る絶縁被膜10中における第1層11を形成する。
また、第1層11を形成する前において、バスバー本体5の表面に、防錆用途向けの下塗り材を所定の厚みになるように刷毛を用いて塗布した後、塗膜を乾燥させて、下塗り塗膜を形成し、その下塗り塗膜の上に、第1層11を形成するのであってもよい。
【0053】
第1の塗布量としては、乾燥後の膜厚(すなわち、第1層11の膜厚)が0.3mm以上、好ましくは0.4mm以上となるように調整する。
【0054】
ここで、上記でいう乾燥とは、加熱処理による塗膜の硬化処理のみならず、常温での自然乾燥による塗膜の硬化処理も含まれる。また、乾燥に際して、絶縁材料が発泡して膨張しない温度、例えば硬化処理を促進させるために100℃程度に加熱してもよい。
【0055】
そして、少なくとも上記した所定の温度未満、例えば300℃未満で溶融する樹脂、必要に応じて他の添加剤を秤量し、分散媒としてのシンナーに加え、十分に混合して、第2の塗布液を調製する。そして、第1層11の表面に第2の塗布液を塗布し、塗膜を乾燥させて、本実施形態に係る絶縁被膜10中における第2層12を形成し、積層体からなる絶縁被膜10が、バスバー本体5の表面に形成され、バスバー1が完成する。
【0056】
なお、第1の塗布液及び第2の塗布液ともに、その塗布方法には制限はなく、刷毛やロールコータ、スプレー等を用いて塗布したり、各塗布液にバスバー本体5を浸漬するなど種々の方法が可能である。
【0057】
なお、上記特許文献1のように雲母シートを巻き付ける方法では、巻き付け作業が必要であり、特に屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするには、巻き付け作業に手間がかかる。また、振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、本発明では塗布により第1層11及び第2層12を形成するため、そのような問題は起こらない。
【0058】
なお、バスバー1は、発熱すると導電率が低下するため、それが適用される電池セルや電池パック(電池モジュール)の性能を低下させるおそれがあるが、本実施形態に係るバスバー1の製造方法のような、上記第1の塗布液及び第2の塗布液を塗布することにより絶縁被膜10(すなわち、第1層11及び第2層12)を形成する方法にあっては、絶縁被膜10を薄く形成することが可能であって、電池の通常使用時におけるバスバー1の効果的な放熱により、電池セルや電池モジュール全体の性能低下を軽減させることができる。
【0059】
また、絶縁被膜10が薄膜化できることにより、バスバー1全体が占める体積が大きくなりすぎず、電池パック内のバッテリースペースを有効に活用でき、電池パックの容量向上にも貢献し得る。
【0060】
[蓄電装置]
図7に示すように、蓄電装置100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、隣接する電池セル110と電池セル110とを上記バスバー1で接続している。
【0061】
バスバー1は、上記絶縁被膜10で被覆したものであり、ある電池セル110が熱暴走を起こしても、バスバー1を保護できるとともに、バスバー1を介して隣接する電池セル110への熱暴走の連鎖を防ぐことができる。
よって、本実施形態の蓄電装置は、このようなバスバー1により複数の電池セル110やモジュール(図示せず)を接続しているため、異常時においても高い安全性を示す。
【実施例】
【0062】
本実施形態に係るバスバー1の構成要素の1つである第1層11の絶縁材料の効果を検証するために、以下の試験を行った。
【0063】
(実施例1~4)
バスバー本体に見立てた一辺が100mmで、厚さ2mmのアルミニウム板の片面に、SKタイカコート下塗り材(防錆用途向け)を0.05mm程度の厚みになるように刷毛を用いて塗布し、乾燥させた。そして、形成された下塗り塗膜の上に、絶縁被膜としてSK化研(株)製「タイカコート」を、スクレーバーを用いて表1に示す膜厚(「絶縁被膜の厚み(mm)」欄の「火炎照射前」を参照)となるようにそれぞれ形成して、サンプルを作製した。
【0064】
(比較例1~3)
実施例と同一のアルミニウム板の片面に、絶縁材料として、比較例1では、(株)日本マイカ製作所製の厚み0.11mmのマイカテープを2重に重ねて粘着し、全厚0.22mmの絶縁被膜を形成してサンプルを作製した。
比較例2では、下層として岡部マイカ(株)製「D680A」の厚み0.3mmのシート及び上層として同マイカテープ(厚み0.11mm)を2重に重ねて粘着し、全厚0.52mmの絶縁被膜を形成してサンプルを作製した。
比較例3では、岡部マイカ(株)製「D680A」の厚み0.5mmのシート及び上層として同マイカテープを(厚み0.11mm)2重に重ねて粘着し、全厚0.72mmの絶縁被膜を形成してサンプルを作製した。
【0065】
(耐熱性試験)
サンプルを立て、絶縁被膜を形成した面(表面)に対して、100mm離れた位置にてバーナーから火炎を照射し、1100℃になるように火炎の大きさを調整した。そして、サンプルの絶縁被膜を形成した面とは反対側の面(裏面)の温度(℃)を測定した。
【0066】
また、火炎照射の前後における絶縁被膜の厚さ(mm)を、ダイアルゲージを用いて測定し、膨張率(%)を求めた。
【0067】
実施例及び比較例の各サンプルの絶縁被膜の構成とともに、膨張率及び裏面温度の測定結果を、表1にまとめて示す。また、火炎照射時の裏面温度(℃)を
図3に、絶縁被膜の火炎照射前後の膜厚(mm)を
図4に、それぞれグラフ化して示す。
【0068】
【0069】
表1、
図3及び
図4に示すように、実施例1~4の各サンプルは、比較例1~3の各サンプルに比べて、火炎照射前後での膜厚の厚みの変化、すなわち熱膨張率が大きく、裏面温度が低くなっており、断熱性に優れることがわかる。また、絶縁被膜の膜厚として、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましいといえる。
【0070】
また、
図5に、実施例1(同図(A))及び比較例1(同図(B))の各サンプルの絶縁被膜を、火炎照射後に撮影した写真を示す。
図5(A)に示すように、実施例1のサンプルでは、絶縁被膜が発泡し、更に炭化して全面が黒くなっている。
【0071】
図6は、火炎照射後に実施例1のサンプルの側面を撮影した写真であるが、アルミニウム板の表面に絶縁被膜が残存し、その上の黒い部分が発泡、そして炭化して、層状を呈している。
【符号の説明】
【0072】
1 バスバー
5 バスバー本体
6a,6b 接続孔
10 絶縁被膜
11 第1層
12 第2層
100 蓄電装置
110 電池セル
111 電極
120 電池ケース