(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】高濃度インスリン製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20240709BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240709BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240709BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240709BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240709BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240709BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/12
A61K47/10
A61P3/10
A61P17/02
A61P9/10
A61K9/08
(21)【出願番号】P 2022501304
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2020069512
(87)【国際公開番号】W WO2021009027
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-07-06
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イェッペ・ストゥリス
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン・ハヴェルンド
(72)【発明者】
【氏名】カレン-マルグレーテ・ペダーセン
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-545782(JP,A)
【文献】特表2018-507869(JP,A)
【文献】国際公開第2018/060735(WO,A1)
【文献】特表2016-523807(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0245085(US,A1)
【文献】特表2010-530368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性インスリン調製物であって、
・
2400nmol/ml~4200nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
・4.0Zn/6Ins~7.0Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
・110mM~220mMの濃度のナイアシンアミドまたは0.02μg/ml~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルと、
・6mM~40mMの濃度のシトレートと、
・7.0~8.0の範囲のpHと、を含む、可溶性インスリン調製物。
【請求項2】
前記NεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの前記濃度が、約3000nmol/mlである、請求項1に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項3】
前記亜鉛イオンの前記濃度が、5.0Zn/6Ins~6.0Zn/6Insである、請求項1または2に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項4】
ナイアシンアミドを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項5】
135mM~195mM、または150mM~180mMの濃度のナイアシンアミドを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項6】
トレプロスチニルを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項7】
0.02μg/ml~0.5μg/ml、0.04μg/ml~0.3μg/ml、0.05μg/ml~0.2μg/ml、または0.1~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルを含む、請求項6に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項8】
15mM~30mM、6mM~20mM、または20mM~40mMの濃度のシトレートを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項9】
pH7.6を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項10】
フェノール系防腐剤またはフェノール系防腐剤の混合物をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項11】
前記フェノール系防腐剤の混合物が、フェノールおよびm-クレゾールである、請求項10に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項12】
前記フェノールの濃度が、1.3mg/ml~2.0mg/mlであり、前記m-クレゾールの濃度が、1.5mg/ml~2.3mg/mlである、請求項11に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項13】
3000nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
5.5Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
211mMの濃度のナイアシンアミドと、
6mMの濃度のシトレートと、7.6のpHと、を含む、請求項1に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項14】
3000nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
5.5Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
161mMの濃度のナイアシンアミドと、
20mMの濃度のシトレートと、7.6のpHと、を含む、請求項1に記載の可溶性インスリン調製物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の可溶性インスリン調製物を含む、ストレス誘発性高血糖症、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病を含む高血糖症、ならびに熱傷、手術創傷、および同化作用が必要とされる他の疾患もしくは傷害、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈心疾患、および他の心血管障害の治療または予防、ならびに重篤な糖尿病患者および非糖尿病患者の治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシル化インスリンの医薬組成物の分野、およびそのような組成物を疾患の治療に使用するための方法に関する。また、本発明は、そのような医薬組成物の製造分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、1型糖尿病および2型糖尿病の両方の糖尿病の治療は、いわゆる強化インスリン治療にますます依存している。このレジメンによれば、患者は、食事に関連するインスリン必要量をカバーするための速効型インスリンのボーラス注射によって補われる、基礎インスリン必要量をカバーするための長時間作用型インスリンの1日1回または2回の注射を含む、毎日複数回のインスリン注射で治療される。
【0003】
長時間作用型インスリン組成物は、当該技術分野で周知である。したがって、1つの主要なタイプの長時間作用型インスリン組成物は、インスリン結晶または無結晶性インスリンの注射用水性懸濁液を含む。これらの組成物では、利用されるインスリン化合物は、典型的には、プロタミンインスリン、亜鉛インスリン、またはプロタミン亜鉛インスリンである。他の長時間作用型インスリン組成物は、例えば、ランタス(Lantus)(登録商標)およびトレシーバ(Tresiba)(登録商標)であり、ヒトインスリンと比較して、持続的作用特性を有する。
【0004】
結晶化インスリンは、それが注射時にプロタミン結晶化するかどうか、または注射時にインスリン組成物が結晶化するかどうかにかかわらず、潜在的な免疫原性反応、均質性、組織刺激および反応などの多くの欠点を有する。
【0005】
長時間作用型インスリン組成物の別のタイプは、pH値が生理的pHを下回る溶液であり、溶液が注射されたときにpH値が上昇するためにインスリンが沈殿する。これらの溶液による欠点は、注射時に組織内に形成された沈殿物の粒度分布、およびそれゆえ薬剤の放出特性が、注射部位の血流および他のパラメータにいくぶん予測不可能な様式で依存することである。さらなる欠点は、インスリンの固体粒子が、注射部位の組織の炎症を引き起こす局所刺激物として作用し得ることである。
【0006】
インスリンは、膵臓のランゲルハンス島で産生される51個のアミノ酸ペプチドホルモンである。その主要機能は単量体として作用し、膜貫通受容体に結合し活性化することによって脂肪および筋組織の細胞膜を横断するグルコース分子の輸送を促進することである。
【0007】
インスリンの特徴的な特性は、その六量体に会合する能力であり、この六量体では、ホルモンが生合成および保存中の化学的および物理的分解から保護される。インスリンに関するX線結晶学的研究は、六量体が3倍の回転軸によって関連する3つの二量体で構成されていることを示す。これらの二量体は、3倍軸上に位置付けられたそのコアにおける2つの亜鉛イオンの相互作用を介して密接に関連付けられる。
【0008】
高濃度医薬品製剤の形態でヒトインスリンを皮下に注射すると、それは自己会合し、ここでは単量体への解離は比較的遅い。インスリンの六量体および二量体は、単量体よりも毛細血管壁への浸透が遅い。
【0009】
亜鉛およびフェノール添加物は、貯蔵中の分解に対する予防策として、六量体形成を促進するために治療用インスリン調製物に定期的に使用される。しかしながら、この形態では、六量体が皮下を通して拡散し、二量体および単量体に解離する間、注射されたインスリンの作用は遅延される。
【0010】
インスリン製剤の強度は、単位(U)で記載され、ここで、1単位は、0.035mgのヒトインスリンに相当する。したがって、100U/mlのヒトインスリン製剤は、3.5mg/mlのヒトインスリンの濃度を有する。インスリンデグルデク(NεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリン)は、100U/ml製品および200U/ml製品として市販されている。
【0011】
インスリンの製剤は通常、酸性条件下で少量の水にインスリンを溶解することによって調製される。次いで、亜鉛を製剤に添加し、続いて中和し、フェノールおよびm-クレゾールなどの保存剤を添加する。しかしながら、濃縮インスリン製剤は、保存および使用時に不安定となる傾向があり、同様に、インスリン濃度によってPKプロファイルが変化することも重要である。
【0012】
WO2008/132224は、糖尿病の治療のための高濃度インスリン溶液を作製するための、噴霧乾燥インスリンを含む医薬組成物を開示している。
【0013】
WO2007/074133は、インスリンデグルデクを含む医薬組成物を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
保存および使用中に安定である濃縮インスリン製剤を有することは有利である。そのような濃縮された製剤は、使い捨て注射ペンの交換頻度を少なくし、耐久性のある注射装置におけるカートリッジの交換頻度を少なくするであろう。また、注射器具内の実質的な開発には、多くの場合、高濃度のインスリン組成物が必要である。
【0015】
インスリン製剤中のインスリン濃度が増加すると、薬物動態プロファイルが変化する一般的な傾向がある。より具体的には、インスリンの所与の用量について、製剤中のインスリン濃度が増加すると、CmaxおよびAUC(生物学的利用能)が減少する傾向がある。インスリン濃度をスケーリングする際の薬物動態特性の変化は、通常、異なるインスリン濃度が所望される異なる投与装置に入るインスリン製品に対する課題となっている。
【0016】
本発明は、先行技術の問題を解決する、NεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの特定の医薬組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、貯蔵中および使用中も安定な状態のまま、対応する通常のU200製品と実質的に同様のPKプロファイルを有する高濃度の可溶性インスリン製剤が作製され得ることが見出された。
【0018】
したがって、第一の態様では、本発明は、可溶性インスリン調製物であって、
・1800nmol/ml~4200nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
・4.0Zn/6Ins~7.0Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
・110mM~220mMの濃度のナイアシンアミドまたは0.02μg/ml~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルと、
・6mM~40mMの濃度のシトレート(citrate)と、7.0~8.0の範囲のpHと、を含む、可溶性インスリン調製物を提供する。
【0019】
本発明の第一の実施形態では、前述の亜鉛イオンの濃度は、5.0Zn/6Ins~5.5Zn/6Insである。
【0020】
本発明の別の実施形態では、前述の亜鉛イオンの濃度は、5.0Zn/6Ins~6.0Zn/6Insである。
【0021】
別の実施形態では、可溶性インスリン調製物は、110mM~220mMの濃度のナイアシンアミドを含む。
【0022】
別の実施形態では、可溶性インスリン調製物は、7.4~7.8の範囲のpHを有する。
【0023】
別の実施形態では、可溶性インスリン調製物は、フェノール系防腐剤またはフェノール系防腐剤の混合物をさらに含む。
【0024】
別の実施形態では、前述のフェノール系防腐剤またはフェノール系防腐剤の混合物は、フェノールおよびm-クレゾールの混合物である。
【0025】
別の態様では、本発明は、本発明による可溶性インスリン調製物の治療有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することによって、哺乳動物における血糖値を低下させる方法を提供する。
【0026】
本発明により、糖尿病を有する者は、用量を調整することなく、例えば、NεB29ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンのU200製剤とU500製剤とを切り替えることができる。
【0027】
また、例えば160U/日を超えるような非常に高用量の基礎インスリンを必要とする個人は、1日1回の投与でこれを達成することも可能となった。
【0028】
さらに、通常のインスリンペンまたはカートリッジは、通常3mLを含有するため、1本のペンまたはカートリッジに600Uをはるかに超える量、例えば、U500製品については1500Uが含まれ、これは、ペンまたはカートリッジの交換頻度がより少ないことを意味する。また、ペンまたはカートリッジをほとんど使い切った時に、用量を頻繁に分割する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】
図1Aは、試験製剤A~Hデータで得られた72時間までのインスリンデグルデクのPKプロファイル(平均)。
【
図1B】
図1Bは、試験製剤A~Hデータで得られた24時間までのインスリンデグルデクのPKプロファイル(平均±SEM)。
【
図2】
図2は、試験製剤A、B、F、GおよびHデータで得られた24時間までのインスリンデグルデクのPKプロファイル。
【
図3】
図3は、試験製剤1~8データで得られた72時間までのインスリンデグルデクのPKプロファイル(平均)。
【
図4】
図4は、試験製剤1、2、6および7のデータで得られた24時間までのインスリンデグルデクのPKプロファイル(平均±SEM)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
第一の態様では、本発明は、可溶性インスリン調製物であって、
・1800nmol/ml~4200nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
・4.0Zn/6Ins~7.0Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
・110mM~220mMの濃度のナイアシンアミドまたは0.02μg/ml~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルと、
・6mM~40mMの濃度のシトレートと、
7.0~8.0の範囲のpHと、を含む、可溶性インスリン調製物を提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、可溶性インスリン調製物であって、
・3000nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
・5.5Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
・211mMの濃度のナイアシンアミドと、
・6mMの濃度のシトレートと、7.6のpHと、を含む、可溶性インスリン調製物に関する。
【0032】
別の態様では、本発明は、可溶性インスリン調製物であって、
・3000nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
・5.5Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
・161mMの濃度のナイアシンアミドと、
・20mMの濃度のシトレートと、7.6のpHと、を含む、可溶性インスリン調製物に関する。
【0033】
インスリン調製物の場合、インスリンの濃度は通常、ミリリットルあたりの単位、U/mLで与えられるNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリン100単位(100U)のU/mLは、3.66mgまたは600nmolのNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトと同等である。
【0034】
また、亜鉛を含むインスリン調製物では、六量体として計算されたインスリンの濃度に対する亜鉛濃度、すなわち、インスリン濃度を6で割った濃度を述べることが一般的である。このモル比は“Zn/6Ins”と称され、すなわち、インスリン濃度の6分の1に対する亜鉛の相対モル濃度を記述する。
【0035】
インスリン製剤中のインスリン濃度が増加すると、薬物動態プロファイルが変化する一般的な傾向がある。より具体的には、インスリンの所与の用量について、製剤中のインスリン濃度が増加すると、CmaxおよびAUC(生物学的利用能)が減少する傾向がある。これは、同じ量のインスリンが投与されるにもかかわらず、U500製剤のグルコース低下効果が、U200製剤のグルコース低下効果よりも小さいことを意味する。したがって、二つの製剤は生物学的に同等ではない。
【0036】
インスリンは、異なる濃度のインスリンが非常に望ましいいくつかの異なる投与装置に入るため、このスケーラビリティの欠如は、インスリン調製物にとって課題である。
【0037】
本発明者らは、NεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの可溶性調製物について、シトレートおよびナイアシンアミドの添加が、CmaxおよびAUC(生物学的有用性)の増加を引き起こすことを発見し、それによって、同じインスリンのU200調製物と生物学的に同等であるNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの高濃度製剤を作製することが可能になる。トレプロスチニルの添加によって同じことが観察された。
【0038】
可溶性インスリン調製物は、1800nmol/ml~4200nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンを含む。いくつかの実施形態では、前述のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの濃度は、2400nmol/ml~3600nmol/ml、または2700nmol/ml~3300nmol/mlである。別の実施形態では、ヒトインスリンのNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)濃度は、約3000nmol/mlである。
【0039】
本明細書で使用される「約」という用語は、プラスまたはマイナス10%、例えばプラスまたはマイナス5%を意味することを意図している。したがって、「約100U」という用語は、90U~110Uである。
【0040】
可溶性インスリン調製物は、例えば、酢酸亜鉛または塩化亜鉛として添加され得る亜鉛を含む。可溶性調製物は、4.0Zn/6Ins~7.0Zn/6Insの範囲の亜鉛イオンを含み得る。一実施形態では、前述の亜鉛イオンの濃度は、4.0Zn/6Ins~6.0Zn/6Insである。別の実施形態では、前述の亜鉛イオンの濃度は、4.7Zn/6Ins~5.7Zn/6Insである。別の実施形態では、前述の亜鉛イオンの濃度は、5.0Zn/6Ins~6.0Zn/6Insである。さらに別の実施形態では、前述の亜鉛イオンの濃度は、5.0Zn/6Ins~5.5Zn/6Insである。別の実施形態では、本発明による可溶性インスリン調製物は、5.0Zn/6Insの亜鉛イオンの濃度を有する。別の実施形態では、本発明による可溶性インスリン調製物は、5.5Zn/6Insの亜鉛イオンの濃度を有する。別の実施形態では、本発明による可溶性インスリン調製物は、6.0Zn/6Insの亜鉛イオンの濃度を有する。
【0041】
本発明による可溶性インスリン調製物は、110mM~220mMの濃度のナイアシンアミドまたは0.02μg/ml~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルを含む。一実施形態では、可溶性インスリン調製物は、ナイアシンアミドを含む。可溶性インスリン調製物は、一実施形態では、135mM~195mM、または150mM~180mMの濃度のナイアシンアミドを含み得る。別の実施形態では、可溶性調製物は、110mM~140mM、または190mM~220mMの濃度のナイアシンアミドを含む。別の実施形態では、可溶性調製物は、110mM~170mMの濃度のナイアシンアミドを含む。別の実施形態では、可溶性調製物は、150mM~220mMの濃度のナイアシンアミドを含む。
【0042】
別の実施形態では、可溶性調製物は、約160mMの濃度のナイアシンアミドを含む。別の実施形態では、可溶性調製物は、161mMの濃度のナイアシンアミドを含む。別の実施形態では、可溶性調製物は、約200nMの濃度のナイアシンアミドを含む。別の実施形態では、可溶性調製物は、204mMの濃度のナイアシンアミドを含む。別の実施形態では、可溶性調製物は、約210nMの濃度のナイアシンアミドを含む。別の実施形態では、可溶性調製物は、211mMの濃度のナイアシンアミドを含む。
【0043】
別の実施形態では、可溶性インスリン調製物は、トレプロスチニルを含む。別の実施形態では、可溶性インスリン調製物は、0.02μg/ml~0.5μg/ml、0.04μg/ml~0.3μg/ml、0.05μg/ml~0.2μg/ml、または0.1~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルを含む。別の実施形態では、可溶性インスリン調製物は、0.1μg/mlの濃度のトレプロスチニルを含む。
【0044】
本明細書に記載される可溶性インスリン調製物は、6mM~40mMの濃度のシトレートを含む。シトレート(citrate)という用語は、クエン酸塩(citrate salt)およびクエン酸(citric acid)を含むと理解されるべきである。一実施形態では、可溶性インスリン調製物は、15mM~30mM、6mM~20mM、または20mM~40mMの濃度のシトレートを含む。本明細書に記載される可溶性インスリン調製物は、6mMの濃度のシトレートを含む。本明細書に記載される可溶性インスリン調製物は、10mMの濃度のシトレートを含む。本明細書に記載される可溶性インスリン調製物は、20mMの濃度のシトレートを含む。
【0045】
本発明の可溶性インスリン調製物は、7.0~8.0の範囲のpHを有する。一実施形態では、pHは、7.2~8.0、7.4~7.8、7.0~7.5、7.4~8.0、または7.4~7.8である。別の実施形態では、可溶性インスリン調製物のpHはpH7.6である。
【0046】
可溶性インスリン調製物は、滅菌液体であるため、防腐剤を含んでいてもよく、または任意の防腐剤を含まなくてもよい。一実施形態では、本発明による可溶性インスリン調製物は、フェノール系防腐剤またはフェノール系防腐剤の混合物をさらに含む。一実施形態では、前述の防腐剤は、フェノールである。別の実施形態では、防腐剤は、フェノールおよびm-クレゾールの混合物などのフェノール系防腐剤の混合物である。別の実施形態では、防腐剤は、フェノールおよびm-クレゾールの混合物であり、フェノールの濃度は、1.3mg/ml~2.0mg/mlであり、m-クレゾールの濃度は、1.5mg/ml~2.3mg/mlである。別の実施形態では、防腐剤は、フェノールおよびm-クレゾールの混合物であり、フェノールの濃度は1.8mg/mlであり、m-クレゾールの濃度は2.05mg/mlである。
【0047】
いくつかの実施形態では、可溶性インスリン調製物は、さらなる等張性剤(isotonicity agent)を含む。一実施形態では、前述の等張性剤はグリセロールである。そのような等張性剤の添加の必要性は、可溶性インスリン調製物の他の成分の濃度が決定されるときに、明らかとなるであろう。別の実施形態では、可溶性インスリン調製物は、さらなる等張性剤を含まない。
【0048】
一実施形態では、可溶性インスリン調製物は、さらなる緩衝剤を含まない。
【0049】
一態様では、本発明は、本明細書に記載の可溶性インスリン調製物の治療有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することによって、哺乳動物における血糖値を低下させる方法を提供する。
【0050】
一態様では、本発明は、本明細書に記載の可溶性インスリン調製物を前述の対象に投与することを含む、対象における真性糖尿病の治療のための方法が提供される。
【0051】
別の態様では、ストレス誘発性高血糖症、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、ならびに熱傷、手術創傷、および同化作用(anabolic effect)が必要とされる他の疾患もしくは傷害、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈心疾患、および他の心血管障害、ならびに重篤な糖尿病患者および非糖尿病患者の治療を含む、高血糖症の治療または予防における使用のための可溶性インスリン調製物が提供される。
【0052】
本発明のインスリン調製物は、当技術分野で公知のように、例えば、実施例に記載されるように調製されてもよい。
【0053】
本発明を、以下の実施形態に要約する。
【0054】
1.可溶性インスリン調製物であって、
・1800nmol/ml~4200nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
・4.0Zn/6Ins~7.0Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
・110mM~220mMの濃度のナイアシンアミドまたは0.02μg/ml~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルと、
・6mM~40mMの濃度のシトレートと、
・7.0~8.0の範囲のpHと、を含む、可溶性インスリン調製物。
2.前述のNεB29-ヘキサデカンジオイル-ガンマ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの濃度が、2400nmol/ml~3600nmol/mlである、実施形態1に記載の可溶性インスリン調製物。
3.前述のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの濃度が、2700nmol/ml~3300nmol/mlである、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
4.前述のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンの濃度が、約3000nmol/mlである、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
5.前述の亜鉛イオンの濃度が、5.0Zn/6Ins~6.5Zn/6Insである、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
6.前述の亜鉛イオンの濃度が、5.0Zn/6Ins~6.0Zn/6Insである、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
7.前述の亜鉛イオンの濃度が、4.7Zn/6Ins~5.7Zn/6Insである、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
8.前述の亜鉛イオンの濃度が、5.0Zn/6Ins~5.5Zn/6Insである、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
9.ナイアシンアミドを含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
10.135mM~195mM、または150mM~180mMの濃度のナイアシンアミドを含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
11.110mM~140mM、または190mM~220mMの濃度のナイアシンアミドを含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
12.150mM~220mMの濃度のナイアシンアミドを含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
13.110mM~170mMの濃度のナイアシンアミドを含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
14.トレプロスチニルを含む、実施形態1~8のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
15.0.02μg/ml~0.5μg/ml、0.04μg/ml~0.3μg/ml、0.05μg/ml~0.2μg/ml、または0.1~1μg/mlの濃度のトレプロスチニルを含む、実施形態14に記載の可溶性インスリン調製物。
16.15mM~30mM、6mM~20mM、または20mM~40mMの濃度のクエン酸を含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
17.6mMの濃度のクエン酸を含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
18.10mMの濃度のクエン酸を含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
19.20mMの濃度のクエン酸を含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
20.7.2~8.0、7.4~7.8、7.0~7.5、7.4~8.0、または7.4~7.8のpHを有する、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
21.pH7.6を有する、実施形態20に記載の可溶性インスリン調製物。
22.フェノール系防腐剤またはフェノール系防腐剤の混合物をさらに含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
23.前述のフェノール系防腐剤が、フェノールである、実施形態22に記載の可溶性インスリン調製物。
24.フェノール系防腐剤の混合物が、フェノールおよびm-クレゾールである、実施形態22に記載の可溶性インスリン調製物。
25.フェノールの濃度が、1.3mg/ml~2.0mg/mlであり、m-クレゾールの濃度が、1.5mg/ml~2.3mg/mlである、実施形態23に記載の可溶性インスリン調製物。
26.フェノールの濃度が、1.8mg/mlであり、m-クレゾールの濃度が、2.05mg/mlである、実施形態25に記載の可溶性インスリン調製物。
27.さらなる等張性剤を含む、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
28.前述の等張性剤が、グリセロールである、実施形態27に記載の可溶性インスリン調製物。
29.さらなる等張性剤を含まない、実施形態1~26のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
30.さらなる緩衝剤を含まない、先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物。
31.3000nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
5.5Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
211mMの濃度のナイアシンアミドと、
6mMの濃度のシトレートと、7.6のpHと、を含む、実施形態1に記載の可溶性インスリン調製物。
32.3000nmol/mlの濃度のNεB29-ヘキサデカンジオイル-γ-Glu-(desB30)ヒトインスリンと、
5.5Zn/6Insの濃度の亜鉛イオンと、
161mMの濃度のナイアシンアミドと、
20mMの濃度のシトレートと、pH7.6と、を含む、実施形態1に記載の可溶性インスリン調製物。
33.先行する実施形態のいずれかに記載の可溶性インスリン調製物の治療有効量を、そのような治療を必要とする対象に投与することによって、哺乳動物における血糖値を低下させる、方法。
34.実施形態1~32のいずれか一つに記載の可溶性インスリン調製物を前述の対象に投与することを含む、対象における真性糖尿病の治療のための、方法。
35.ストレス誘発性高血糖症、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、ならびに熱傷、手術創傷、および同化作用が必要とされる他の疾患もしくは傷害、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈心疾患、および他の心血管障害、ならびに重篤な糖尿病患者および非糖尿病患者の治療を含む、高血糖症の治療または予防における使用のための、実施形態1~32のいずれか一つに記載の可溶性インスリン調製物。
【実施例】
【0055】
実施例1-ブタ研究用の製剤
この研究の目的は、トレシーバ(登録商標)U100、トレシーバ(登録商標)U200および3000nmol/L(U500)での同様のデグルデクの製剤を比較し、フェノールおよびm-クレゾールの組み合わせをフェノールのみで置き換える効果を評価し、相対的亜鉛濃度(Zn/6Ins)を低下させる効果を評価し、ナイアシンアミドの添加の効果を評価し、さらにブタ研究によるシトレートの添加の効果を評価することであった。製剤は、使用試験および保存による物理的および化学的安定性について事前に試験する必要がある。
【0056】
インスリンデグルデクを約8mMまで水に加え、溶解させた。pHを0.2N NaOHによりpH7.6に調整し、ストック溶液を滅菌濾過し、含量を決定した。インスリンデグルデクストック溶液に、過剰の水、グリセロール(20%(w/vol))、フェノール(500mM)、m-クレゾール(160mM)、ナイアシンアミド(1000mM)、クエン酸三ナトリウム(100mM)、および酢酸亜鉛(20mM、塩酸でpHを6.6に調整)を記載された順序で添加した。酢酸亜鉛は徐々に添加した。次いで、0.2N水酸化ナトリウム/塩酸で、pHを7.6に調整し、容量を水で調整し、製剤を滅菌濾過した。製剤を、インスリンペン用3mLカートリッジに充填した。
【0057】
カートリッジのサブセットを、30℃で12週間使用試験し、各カートリッジの1mL製剤に25μLの空気を加え、1分/日回転させた。カートリッジは、目視検査により定期的に検査され、期間中、製剤のいずれについても変化または粒子形成は見出されなかった。製剤を、30℃で12週間の共有結合高分子量生成物(HMWP)の決定による化学的安定性について試験したが、全てが安定で、ほぼ同じ低い共有結合二量体形成率であることが分かった。
【表1】
【0058】
実施例2-動物実験、研究KMRP180802
16頭のメスの家畜ブタ(平均体重約80kg)を、試験前に一晩絶食させ、試験インスリン製剤の投与の8時間後に給餌した。インスリンデグルデクの異なる製剤を調査するために、各ブタは、表2に概説されるスケジュールに従って、バランスのとれた非無作為化クロスオーバーデザインで表1に記述された製剤の投与を受けた。
【表2】
【0059】
研究中、1頭のブタを交換する必要があったため、合計で17頭のブタが研究された。
【0060】
朝、ブタに投与し、2つの抗体を利用した特定の発光酸素チャネリング免疫アッセイ(luminescent oxygen channeling immunoassay)を使用してインスリンデグルデクを測定するために、
図1に示すように試料を採取した。
【0061】
ノンコンパートメント解析(Phoenixソフトウェア)によって導出されたAUCについてデータ解析を行い、製剤が意図される濃度とわずかに異なるため、用量正規化AUC(AUC/用量)を計算した。
【0062】
結果
製剤AおよびBの比較は、製剤BのPK曲線が、U100製剤のPK曲線よりも平坦であることを示すが、総用量正規化AUCは、顕著な違いはない(
図1Aおよび表3)。製剤Bは5.5Zn/6インスリン分子(トレシーバ(登録商標)U200など)が含有され、製剤Aは5Zn/6インスリン分子(トレシーバ(登録商標)U100など)が含有されていた。5Zn/6インスリン分子を含む製剤C中のインスリン濃度を3000nmol/mlに増加させることにより、PK曲線のさらなる平坦化が観測されるが、製剤AおよびBに比べて約18%の生物学的利用能の減少は明らかである(
図1Aおよび表3)。この比較的大きな低下は、インスリンデグルデクの3000nmol/mlの製剤を1200nmol/mlの製剤と生物学的に同等にすることは困難であり、同等の血糖降下効果を与えるためにU200製剤と比較してU500製剤の方が高用量が必要であることを示す。19mMのフェノールおよび19mMのm-クレゾールから60mMのフェノールおよび0mMのm-クレゾールへの変更は、PKプロファイル(製剤Bと比較して約20%のAUC/用量の低下)にさらなる影響を与えなかったが、Znの低下は、生物学的利用能を部分的に増加させ、シトレートまたはナイアシンアミドのいずれかを添加すると、製剤AおよびBと比較して生物学的利用能がより強く増加した。製剤GおよびHについては、製剤Bと比較したAUCの低下は、製剤Fで見られたものよりも少なく、製剤Gについては10%のみであり、製剤Hについては2%のみであった。
【0063】
ブタは、ヒトには見られないインスリンデグルデクの吸収における早期のピークを呈する。したがって、Cmaxの推定および比較は、不確実性を伴う。第2のピーク(投与後10~12時間あたりに生じる最大曝露)を考慮すると、製剤Fの低下は、製剤Bの約38%であることが観察された。Cmaxは、製剤G(製剤Bと比較して10%低下のみ)および製剤H(製剤Bと比較して21%低下のみ)で増加した。これらの違いは、
図1Bおよび
図2で確認できる。明確にするために、
図1Bは、24時間のみにプロットされたすべての平均データを示し、
図2は、24時間にプロットされたデータのみを含む製剤A、B、F、GおよびHのデータを示す。
【表3】
【0064】
結論
U500製剤がU200製剤と生物学的に同等ではない範囲において、インスリンデグルデクを1200nmol/ml(U200)から3000nmol/ml(U500)に濃度を上げる場合、およびU200製剤と比較してU500製剤の高用量が同等の血糖降下効果を与えるために必要とされる場合には、相対的生物学的利用能の低下および後期Cmaxの低下が観察される。我々は、シトレートおよびナイアシンアミドの両方がAUCと部分的にCmaxをほぼ回復することを示してこの問題を解決し、また、シトレートおよびナイアシンアミドの組み合わせを試験して、U200トレシーバ(登録商標)と生物学的に同等であり、同じ用量のU500製剤とU200トレシーバ(登録商標)が同等の血糖降下効果をもたらすであろうU500製剤を作製するように誘導した。
【0065】
実施例3-ブタ研究用の製剤 JSTU190601
この研究の目的は、デグルデクU200と類似のデグルデク製剤を3000nmol/L(U500)で比較し、2つのレベルでシトレートの効果を評価し、等張性にナイアシンアミドを添加してグリセロールを省略することの効果を評価し、シトレートおよびナイアシンアミドの2つの組み合わせの効果を評価し、および最後に追加のブタ研究によりトレプロスチニルを追加することの効果を試験することであった。製剤は、使用試験および保存による物理的および化学的安定性について事前に試験する必要がある。
【0066】
インスリンデグルデクを約7mMまで水に加え、溶解させた。pHを0.2N NaOHによりpH7.8に調整し、ストック溶液を滅菌濾過し、含量を決定した。デグルデクストック溶液に、過剰の水、グリセロール(20%(w/vol))、フェノール(500mM)、クレゾール(160mM)、酢酸亜鉛(20mM、塩酸でpHを6.6に調整、徐々に添加)、ナイアシンアミド(1000mM)、クエン酸三ナトリウム(300mM)、およびトレプロスチニル(10μg/mL)を記載された順序で添加した。次いで、0.2N水酸化ナトリウム/塩酸で、pHを7.6に調整し、容量を水で調整し、製剤を滅菌濾過した。製剤を、インスリンペン用3mLカートリッジに充填した。
【表4】
【0067】
実施例4-動物実験
この研究は、Lars Jonsson,Hillerodvej 70,Lynge,Denmarkから引き渡されたSPF起源のメスLYDブタ16頭を対象に実施された。順化期間の開始時、ブタの体重は59.5~68.5kgの範囲内であり、最初の投与日では予想される最小体重は70kgであった。研究中、追加の動物4頭が利用可能であり、これらのうち3頭はカテーテルの機能不全および/または感染のため含められた。
【0068】
動物は、試験前に一晩絶食させ、試験インスリン製剤の投与の8時間後に給餌した。インスリンデグルデクの異なる製剤を調査するために、各ブタは、表5に概説されるスケジュールに従って、バランスのとれた非無作為化クロスオーバーデザインで表4に記述された製剤の投与を受けた。
【表5】
【0069】
4頭の追加動物のうち3頭を使用して、機能不全のカテーテルを有する動物と交換したので、合計19頭のブタを試験した。注射カテーテルの不具合のため、合計で7回の投与は実施されなかった。第8群からの1頭の動物は、その動物におけるサンプリングが、インスリン投与後150分を超えてその日に不可能であったため、データ解析から除外された。
【0070】
結果:
図3は、実験JStu190601からのPK曲線を示す。実施例2は、シトレートまたはナイアシンアミドのいずれかを添加すると、生物学的利用能がどのように増加したかを示し、JStu190601では、シトレートおよびナイアシンアミドの組み合わせを試験した。表6は、シトレートおよびナイアシンアミドの濃度を用量設定して、U500製剤のAUCをU200製剤と一致させる方法を示す。具体的には、シトレートおよびナイアシンアミドの両方を含有する製剤6も製剤7も、AUCに関して製剤1とは顕著に異なっておらず、数値的には、U500インスリンデグルデク製剤7のAUCは、U200インスリンデグルデク製剤1の2%以内であった。
【表6】
【0071】
ブタは、ヒトには見られないインスリンデグルデクの吸収における早期のピークを呈する。したがって、Cmaxの推定および比較は、不確実性を伴う。明確にするために、
図4は、24時間にプロットされたデータのみを使用した、製剤1、2、6、および7のデータを示す。第2のピーク(投与後10~12時間あたりに発生する最大曝露)を考慮すると、U500製剤2の低下は、U200製剤1のそれに対して約42%である(p<0.001)ことが観察された。Cmaxは、6mMのシトレートと211mMのナイアシンアミドを含有するU500製剤6(製剤1と比較して4%の低下のみ、統計的に有意ではない)で増加し、20mMのシトレートと161mMのナイアシンアミドを含有する製剤7でさらに増加した(製剤1と比較して10%の増加、統計的に有意ではない)。
【0072】
我々は、ナイアシンアミドとシトレートの両方を製剤に添加する場合、AUCと後期Cmaxの両方を調整することで、我々が探索したU200製剤空間におけるナイアシンアミドとシトレートの濃度を有するデグルデクU500製剤が、臨床試験においてトレシーバ(登録商標)U200と生物学的に同等であることを証明できるほど十分に近づけて、デグルデクU200製剤中の値に一致させることができることに留意する。
【0073】
結論:
実施例4は、インスリンデグルデクのU500製剤におけるシトレートおよびナイアシンアミドの適切な組み合わせによって、CmaxとAUCの両方をU200デグルデク製剤と一致させることが可能であり、それによって、トレシーバ(登録商標)U200と生物学的に同等であるインスリンデグルデクのU500製剤を作製することが可能であることを示す。