(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】固形バイオマス燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
C10L5/44
(21)【出願番号】P 2022506142
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041133
(87)【国際公開番号】W WO2023084583
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2022-01-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】沖原 潤
(72)【発明者】
【氏名】引野 健治
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】山田 貴之
【審判官】菊地 則義
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-246414(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1609696(KR,B1)
【文献】特許第6785016(JP,B1)
【文献】特開2013-256565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B3/00,C10L5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃菌床を原料とする固形バイオマス燃料の製造方法であって、
5.8mm以上の粒径を有する前記廃菌床を分級して取り除く分級工程と、
加圧成形工程と、
前記廃菌床を乾燥させる乾燥工程と、をこの順に備え
、
前記加圧成形工程直前の前記廃菌床の含水率は、
64.2~
66.9%であ
り、
前記乾燥工程後の前記廃菌床の含水率は、60.6%以上である、固形バイオマス燃料の製造方法。
【請求項2】
前記廃菌床は、コーンコブを含む、請求項1に記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【請求項3】
前記分級工程は、2.9mmを超える粒径を有する前記廃菌床を分級して取り除く、請求項1又は2に記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程の乾燥時間は、前記乾燥工程における乾燥方法が送風乾燥である場合、20℃、相対湿度30%で15分間以下である、請求項1~3のいずれかに記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【請求項5】
吸水添加材を添加する、吸水添加材添加工程を更に備える、請求項1~4のいずれかに記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形バイオマス燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油、石炭、天然ガス等の化石燃料の大量消費による地球温暖化や資源枯渇といった問題に対応するため、一般廃棄物、産業廃棄物等の廃棄物をエネルギー源として再利用する技術の開発が課題となっている。
【0003】
一般廃棄物として、例えばキノコの人工栽培に用いられるキノコ培地(菌床)が挙げられる。キノコ培地(菌床)としては、コーンコブ(トウモロコシの芯)等を主成分とした培地材料が用いられる。新しくキノコ栽培を行う度に新しいキノコ培地(菌床)が使用されるため、キノコ栽培後に大量の廃培地(廃菌床)が発生するという問題がある。廃培地(廃菌床)をバイオマス燃料として使用することが考えられるが、廃培地(廃菌床)は含水率が高いため、そのままでは成形し燃料化することが困難であるという課題がある。
【0004】
上記課題を解決する技術として、草木質破砕物等の有機骨材と粘結材とを混合することで可燃性の混合物を得る混合工程と、前記混合物について含まれる水成分を利用して練ることで成形性の生じた混練物を得る混練工程と、前記混練物に圧力を加えることで成形物を得る成形工程と、前記成形物を乾燥する乾燥工程とを有する固形燃料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、混合物について含まれる水成分を利用して練ることで成形性の生じた混練物を得る混練工程を有する。混練工程は、混練によって粘りを発生させて廃菌床の成形性を高めることを目的とするものである。しかし、廃菌床を混練することにより、多くの菌糸が潰滅し、粘り成分のキトサンが放出され、廃菌床表面付近の水分に溶解して外部に粘り成分が溶出することで、好ましい成形性が得られない場合がある。また、混練により成形体の表面積が低下して乾燥性・燃焼性が低下すること、混練のための設備費用を要すること、といった課題もある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、廃菌床を混練することなく、好ましい成形性が得られる、固形バイオマス燃料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、廃菌床を原料とする固形バイオマス燃料の製造方法であって、5.8mm以上の粒径を有する前記廃菌床を分級して取り除く分級工程と、加圧成形工程と、をこの順に備える、固形バイオマス燃料の製造方法に関する。
【0009】
(2) 前記廃菌床は、コーンコブを含む、(1)に記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【0010】
(3) 前記分級工程は、2.9mmを超える粒径を有する前記廃菌床を分級して取り除く、(1)又は(2)に記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【0011】
(4) 前記廃菌床を乾燥させる乾燥工程を更に備え、前記乾燥工程の乾燥時間は前記乾燥工程における乾燥方法が送風乾燥である場合、20℃、相対湿度30%で15分間以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【0012】
(5) 吸水添加材を添加する、吸水添加材添加工程を更に備える、(1)~(4)のいずれかに記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、廃菌床を混練することなく、好ましい成形性が得られる、固形バイオマス燃料の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に制限されず、適宜変更が可能である。
【0015】
<固形バイオマス燃料の製造方法>
本実施形態に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、主原料として廃菌床を用いる。廃菌床は、シイタケ、ヒラタケ、マイタケ、エリンギ、シメジ等のキノコを人工栽培する際に廃棄物として発生するものである。廃菌床は、コーンコブ(トウモロコシの芯)を含み、上記以外に、米ぬか、破砕木材、オガクズ、キノコ等が含まれる場合がある。上記廃菌床は多くの水分を含んだ状態、例えば含水率が50%~70%程度の状態で排出される。本実施形態に係る固形バイオマス燃料は、原料となる廃菌床の含水率が60%超~70%程度であっても好ましい成形性が得られる。
【0016】
本実施形態に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、5.8mm以上の粒径を有する廃菌床を分級して取り除く分級工程と、加圧成形工程と、をこの順に備える。また、加圧成形工程の後に、乾燥工程、又は吸水添加材を添加する、吸水添加材添加工程のうち少なくともいずれかを有していてもよい。
【0017】
(分級工程)
分級工程は、5.8mm以上の粒径を有する廃菌床を分級して取り除く工程である。廃菌床に含まれるコーンコブは、容積比で廃菌床の多くを占め、含水率がほぼ飽和した状態にあることから他の材料との親和性が低下した状態にあり、特に粒径が5.8mm以上の大粒径のコーンコブは、成形性を低下させる一因となっていた。例えば、廃菌床の成形時に、廃菌床の非水溶性粘性成分によって廃菌床全体が圧密状態になり弾性が小さくなる。その外周側に大粒径のコーンコブが隣接すると、一体化し難くなり、大粒径のコーンコブは乾燥によって容易に脱離し、製品の均一性も損なわれる恐れがある。分級工程は、上記大粒径のコーンコブを廃菌床から取り除くことで、廃菌床の成形性を向上させることを主な目的としている。分級工程を設けることにより、混練工程を省略することができる。上記の観点から、分級工程において、2.9mmを超える粒径を有する廃菌床を分級して取り除くことがより好ましい。
【0018】
なお、上記分級工程で分離された大粒径のコーンコブは、後述する吸水添加材を別途添加すること等により固形バイオマス燃料又はその材料として利用可能である。
【0019】
分級工程における分級方法としては、篩を用いた篩分け分級や、重力、慣性力、遠心力等を用いた乾式又は湿式分級を用いることができる。これらの中でも、分級を容易に行えることから、篩分け分級を用いることが好ましい。
【0020】
(加圧成形工程)
加圧成形工程は、上記分級工程を経た廃菌床を加圧してペレット状に成形する工程である。加圧成形工程は、例えば、所定の大きさ及び形状を有する型枠に廃菌床を充填して加圧する工程が挙げられる。廃菌床の含水率や粘性にもよるが、加圧成型工程は、上記以外に、造粒装置を用いる工程であってもよい。加圧時の力は、例えば、2MPa以下とすることができる。
【0021】
(乾燥工程)
乾燥工程は、成形された廃菌床を乾燥させる工程である。乾燥工程により、成形された廃菌床の表面が乾燥し、得られる固形バイオマス燃料の耐久性を向上させることができる。本実施形態に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、分級工程により含水率がほぼ飽和した状態にある大粒径のコーンコブが除去された廃菌床を用いるため、乾燥工程における乾燥時間を低減させることができる。乾燥工程における乾燥方法としては特に限定されないが、例えば、ファン等を用いた送風乾燥、ヒーター等を用いた加熱乾燥や上記の組み合わせが挙げられる。乾燥工程における乾燥時間は、コスト低減の観点から短いことが好ましい。上記乾燥方法が送風乾燥である場合、乾燥時間は、20℃、相対湿度30%の条件下で、例えば15分間以下とすることができる。乾燥時間は15分を超えるものであってもよく、例えば1時間としてもよい。
【0022】
(吸水添加材添加工程)
吸水添加材添加工程は、廃菌床に対する質量比が、例えば1/2~1/20の範囲内となるように、吸水添加材を添加する工程である。これにより、製造される固形バイオマス燃料の成形性及び耐久性を好ましいものとすることができる。上記質量比は、1/4~1/20の範囲内であることが好ましく、1/8~1/20の範囲内であることがより好ましい。吸水添加材添加工程は、分級工程を経た廃菌床に吸水添加材を混合するものであってもよいし、加圧成形工程を経た成形された廃菌床の表面に吸水添加材を均一に付着させるものであってもよい。これにより、成形された廃菌床の表面付近の含水率を低下させ、ペレット状に成形された固形バイオマス燃料の耐久性を向上できる。吸水添加材添加工程は、分級工程を経た廃菌床に吸水添加材を混合する工程として設け、かつ加圧成形工程の後にも設けてもよい。この場合、添加される吸水添加材の質量の合計が、上記廃菌床に対する質量比の条件を満たすことが好ましい。
【0023】
吸水添加材添加工程により、廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率は、例えば40~60%にまで低下する。これにより、製造される固形バイオマス燃料の成形性が向上すると共に、固形バイオマス燃料の耐久性を確保できる。上記廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率は、45~55%であることがより好ましい。
【0024】
吸水添加材添加工程で用いられる吸水添加材としては、特に限定されないが、粉砕もみ殻を用いることが好ましい。もみ殻は、含水率が5~15%程度と低く、廃菌床に含まれるコーンコブと、他の材料との間に親和性を発現させる繋ぎの役割を有しているものと推察される。また、粉砕もみ殻は廃棄物として発生するものであり廃菌床と混合して固形バイオマス燃料を作成する際に、原料の全てを生物由来の有機性資源とすることができる。粉砕もみ殻は、もみ殻を粉砕加工したものであり、もみ殻が粉砕されることで表面積が増大し、吸水量・保水量が増大する上に、体積が低下することから、製造される固形バイオマス燃料の発熱量を向上させることができる、という利点を有する。
【0025】
吸水添加材としては、上記以外に、オガクズ、破砕木材、木質チップ等の有機性資源や、吸水性樹脂等により構成される吸水材を用いてもよい。上記吸水添加材は、1種又は2種以上を併用してもよい。上記吸水添加材は、所定の大きさ未満に粉砕されて用いられることが、成形性の観点から好ましい。
【0026】
本実施形に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の工程を備えていてもよい。また、本実施形に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、廃菌床を混練する工程を有さないものである。廃菌床を混練する工程を有さないことで、混練による成形体の表面積の低下を抑制でき、製造される固形バイオマス燃料の乾燥性・燃焼性を好ましいものとすることができる。また、混練にかかる設備費用や手間を低減することができる。
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。
【0028】
(固形バイオマス燃料の製造)
<実施例1>
廃菌床を目開きが2.9mmの篩を用いて分級し、2.9mmを超える粒径のコーンコブを除去した廃菌床を用いて、以下の手順により固形バイオマス燃料を作成した。まず、内径が16mm、高さ20mmの塩化ビニル管を型枠として用い、上記分級後の廃菌床を圧縮しない程度に充填した。次に、型枠上部から指圧により任意量の水分を排出しながら圧縮し、成形体を作製した。成形体を観察し、後述する成形性評価を行った。成形体の圧縮前の嵩密度は、0.80g/cm3、圧縮後の圧縮率は0.66であった。上記圧縮率は、上記型枠に充填した廃菌床の、圧縮前後の高さの変化率から算出した数値を意味する。次に、成形体を15分間送風により乾燥(温度20℃、湿度30%)させ、実施例1に係る固形バイオマス燃料を作成した。また、成形前、成形後、乾燥後それぞれの廃菌床の含水率を、水分計MOC63u(島津製作所社製)を用いて測定した。結果を表1に示した。
【0029】
<参考例2~4、比較例1~4>
篩の目開き、乾燥時間、及び測定した嵩密度、及び圧縮率を表1に示すものとしたこと以外は、実施例1と同様の手順にて、各実施例、参考例、及び比較例に係る固形バイオマス燃料を作成した。
【0030】
(評価)
[成形性評価]
圧縮後の成型体を目視で観察し、以下の基準により、固形バイオマス燃料の成形性について評価を行った。評価2を合格とした。結果を表1に示した。
2: 成形体が緻密であり、剥離が発生していない
1: 成形体の少なくとも一部に剥離が発生している
【0031】
[重量減少率]
各実施例、参考例、及び比較例に係る固形バイオマス燃料を、5mの高さから落下させて衝撃を加え、試験後の固形バイオマス燃料の状態を観察し、以下の式(1)により重量減少率を算出した。結果を表1に示した。
重量減少率=(落下試験直前の重量-落下試験直後の重量)/落下試験直前の重量*100 (1)
【0032】
[変形率]
、落下時の衝撃で固形バイオマス燃料が押し潰されて変形した場合の、元の形状からの変形度合いを目視により観察して数値化した。結果を表1に示した。
【0033】
[耐久性評価]
上記重量減少率及び変形率の結果に基づき、各実施例、参考例、及び比較例に係る固形バイオマス燃料の耐久性評価を行った。評価2以上を合格とした。結果を表1に示した。
3: 重量減少率5%未満,かつ変形率25%未満
2: 重量減少率5%以上10%未満,または変形率25%以上50%未満
1: 上記以外
【0034】
【0035】
表1に示す結果より、各実施例に係る固形バイオマス燃料は、各比較例に係る固形バイオマス燃料と比較して、好ましい成形性及び耐久性が得られる結果が確認された。
【0036】
[乾燥性評価]
<参考例5>
参考例5に係る固形バイオマス燃料を、以下の手順により作成した。廃菌床を目開きが2.9mmの篩を用いて分級し、2.9mmを超える粒径のコーンコブを除去した廃菌床を用いた。内径が20mmの塩化ビニル管を型枠として用い、上記分級後の廃菌床を圧縮しない程度に充填した。次に、型枠上部から指圧により任意量の水分を排出しながら圧縮し、成形体を作製した。作成した成形体を送風により乾燥させ、それぞれ乾燥前(初期)、1h乾燥後、3h乾燥後、5h乾燥後の重量及び含水率を測定することで、乾燥後合計重量及び乾燥後減水量を求めた。廃菌床の含水率は、水分計MOC63u(島津製作所社製)を用いて測定した。結果を表2に示した。
【0037】
<比較例5~8>
比較例5~8では、分級されていない廃菌床を原料として用いた。比較例5及び6では、廃菌床を手指によって数十秒から数分程度混練した。上記以外は参考例5と同様として、表2に示す時間での乾燥後の乾燥後合計重量及び乾燥後減水量を求めた。結果を表2に示した。
【0038】
【0039】
表2に示す結果より、参考例5に係る固形バイオマス燃料は、各比較例に係る固形バイオマス燃料と比較して、短時間でより多くの水分が減少しており、好ましい乾燥性が得られる結果が確認された。