(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】平版印刷版原版および使用方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/08 20060101AFI20240709BHJP
B41C 1/055 20060101ALI20240709BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20240709BHJP
G03F 7/09 20060101ALI20240709BHJP
G03F 7/11 20060101ALI20240709BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20240709BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B41N1/08
B41C1/055 501
G03F7/004 505
G03F7/09 501
G03F7/11 503
G03F7/027
G03F7/00 503
(21)【出願番号】P 2022520257
(86)(22)【出願日】2020-09-21
(86)【国際出願番号】 US2020051722
(87)【国際公開番号】W WO2021067054
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-01
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・メルカ
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・ミューラー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ・ケムリング
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・リチャード・ブルム
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/064696(WO,A1)
【文献】特開2012-071435(JP,A)
【文献】特開2012-158022(JP,A)
【文献】特開2014-198453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/00 - 99/00
B41C 1/00 - 3/08
B41D 1/00 - 99/00
G03F 7/00
G03F 7/004 - 7/04
G03F 7/075 - 7/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有基板であって、
粗面化されエッチングされた表面を有するアルミニウム含有板;
前記粗面化されエッチングされた表面上の内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも500nm~1,500nm以下の平均乾燥厚み(T
i)を有し、0nm超15nm未満の平均内側細孔径(D
i)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層;
前記内側酸化アルミニウム層上の中間酸化アルミニウム層であって、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚み(T
m)を有し、少なくとも15nm~60nm以下の平均中間細孔径(D
m)を有する多数の中間細孔を含み、少なくとも100個の中間細孔/μm
2~2,000個の中間細孔/μm
2以下の中間細孔密度(C
m)を有する、中間酸化アルミニウム層;および
前記中間酸化アルミニウム層上の外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも30nm~150nm以下の平均乾燥厚み(T
o)を有し、少なくとも5nm~35nm以下の平均外側細孔径(D
o)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも100個の外側細孔/μm
2~5,000個の外側細孔/μm
2以下の外側細孔密度(C
o)を有する、外側酸化アルミニウム層を含み、
前記中間酸化アルミニウム層と前記外側酸化アルミニウム層との組み合わせの乾燥厚みは、少なくとも120nm~420nm以下であり、
前記外側細孔密度と前記中間細孔密度との比(C
o
/C
m
)が少なくとも1.1:1.0であり、
D
mはD
oよりも大きく、D
oはD
iよりも大きく、
1種以上の親水性ポリマーを含み、少なくとも0.0002g/m
2~0.1g/m
2以下の乾燥被覆量で与えられる親水性層を場合により含む、アルミニウム含有基板。
【請求項2】
前記外側酸化アルミニウム層が、少なくとも40nm~140nm以下の平均乾燥厚み(T
o)を有する、請求項1に記載のアルミニウム含有基板。
【請求項3】
前記中間酸化アルミニウム層が、少なくとも70nm~280nm以下の平均乾燥厚み(T
m)を有する、請求項1
又は2に記載のアルミニウム含有基板。
【請求項4】
前記中間酸化アルミニウム層の多孔度(P
m)が、以下の式:
0.15≦P
m≦0.55
に従って定義され、式中、P
mは、3.14(C
m)(D
m
2)/4,000,000であると定義され、
前記外側酸化アルミニウム層の多孔度(P
o)が、以下の式:
0.40≦P
o≦0.75
に従って定義され、式中、P
oは、3.14(C
o)(D
o
2)/4,000,000であると定義される、請求項1
乃至3のいずれかに記載のアルミニウム含有基板。
【請求項5】
D
oが少なくとも10nm~30nm以下である、請求項1
乃至4のいずれかに記載のアルミニウム含有基板。
【請求項6】
D
mが少なくとも17nm~55nm以下である、請求項1
乃至5のいずれかに記載のアルミニウム含有基板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のアルミニウム含有基板と、
前記アルミニウム含有基板上に配置された放射感受性画像形成可能層とを含
む、平版印刷版原版。
【請求項8】
前記放射感受性画像形成可能層がネガ型であり、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分;
(b)前記放射感受性画像形成可能層が放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物;
(c)1種以上の放射吸収剤;ならびに場合により
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダーを含む、請求項
7に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
平版印刷版を提供する方法であって、
請求項
7又は8に記載の平版印刷版原版を画像形成放射に画像様露光して、露光領域および未露光領域を有する画像様露光された画像形成可能層を形成する工程、ならびに
前記画像様露光された画像形成可能層から、前記露光領域および前記未露光領域の両方ではなく、前記露光領域または前記未露光領域のいずれかを除去して、平版印刷版を形成する工程
を含む、方法。
【請求項10】
前記画像様露光された画像形成可能層中の前記未露光領域が、平版印刷インキ、湿し水、または前記平版印刷インキと前記湿し水の両方を使用して機上で除去される、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
請求項7記載の平版印刷版原版の製造方法であって、
A)電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面を有するアルミニウム含有板を提供する工程、
B)前記アルミニウム含有板をリン酸を使用する第1の陽極酸化プロセスに供して、前記電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面上に外側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、前記外側酸化アルミニウム層は、少なくとも30nm~150nm以下の平均乾燥厚み(T
o)を有し、少なくとも5nm~35nm以下の平均外側微細孔径(D
o)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも100個の外側細孔/μm
2~5,000個の外側細孔/μm
2以下の外側細孔密度(C
o)を有する、工程、
C)場合により、前記外側酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
D)前記アルミニウム含有板をリン酸を使用する第2の陽極酸化プロセスに供して、前記外側酸化アルミニウム層の下層に中間酸化アルミニウム層を形成する工程であって、前記中間酸化アルミニウム層は、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚み(T
m)を有し、少なくとも15nm~60nm以下の平均中間細孔径(D
m)を有する多数の中間細孔を含み、少なくとも100個の中間細孔/μm
2~2,000個の中間細孔/μm
2以下の中間細孔密度(C
m)を有する、工程、
E)場合により、前記中間酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
F)前記アルミニウム含有板を硫酸を使用する第3の陽極酸化プロセスに供して、前記中間酸化アルミニウム層の下層に内側酸化アルミニウム層を形成し、アルミニウム含有基板を形成する工程であって、前記内側酸化アルミニウム層は、少なくとも500nm~1,500nm以下の平均乾燥厚み(T
i)を有し、0nm超15nm未満の平均内側細孔径(D
i)を有する多数の内側細孔を含み、
D
mはD
oよりも大きく、D
oはD
iよりも大きく、前記中間酸化アルミニウム層と前記外側酸化アルミニウム層との組み合わせの乾燥厚みは、少なくとも120nm~420nm以下である、工程、
G)場合により、前記内側酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
H)場合により、1種以上の親水性ポリマーを含む親水性組成物を塗布して、少なくとも0.0002g/m
2~0.1g/m
2以下の乾燥被覆量を与える工程、および
I)前記アルミニウム含有基板上に放射感受性画像形成可能層を配置する工程
を順に含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性能特性が改善された平版印刷版原版を製造するのに有用なアルミニウム含有基板に関する。本発明のアルミニウム含有基板は、3つの別個の連続的な陽極酸化プロセスを使用して製造されて、構造特性の異なる3つの異なる酸化アルミニウム層を提供し得る。本発明はまた、平版印刷版原版に関し、該原版を画像形成および加工に供して平版印刷版を提供する方法に関する。本発明はさらに、独自の一連の陽極酸化プロセスを使用して該原版を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷では、画像領域として知られる平版インキ受容領域が、基板の親水性表面上に生成される。印刷版表面を水で湿らせて平版印刷インキを塗布すると、親水性領域は水を保持して平版印刷インキをはじき、平版インキ受容画像領域は平版印刷インキを受容して水をはじく。平版印刷インキは、多分にブランケットローラーを使用して平版印刷版から材料の表面に転写され、それにより画像が再生される。
【0003】
平版印刷版の製造に使用される画像形成可能な要素、すなわち平版印刷版原版は、典型的には、基板の最外層の親水性表面上に配置された1つ以上の放射感受性画像形成可能層を含む。該放射感受性画像形成可能層は、ポリマーバインダー材料中にあり、一緒に分散し得る1種以上の放射感受性成分を含む。あるいは、放射感受性成分がポリマーバインダー材料としても機能するか、またはポリマーバインダー材料を形成し得る。画像形成に続いて、1つ以上の放射感受性画像形成可能層の露光領域(画像形成された領域)または未露光領域(画像形成されない領域)のいずれかが適切な現像剤を使用して除去され、基板の最も外側にある親水性表面が露出し得る。露光領域が除去可能である場合、平版印刷版原版は、ポジ型であると見なされる。逆に、未露光領域が除去可能である場合、平版印刷版原版は、ネガ型であると見なされる。
【0004】
平版印刷版原版の直接デジタル熱画像形成は、これらの原版の周囲光に対する安定性のために、過去30年間に印刷業界においてますます重要になってきている。該原版は、少なくとも750nmの波長を有する近赤外線または赤外線での画像形成に感受性であるように設計されてきた。しかしながら、他の有用な平版印刷版原版は、少なくとも250nm~約450nmのUVまたは「紫色」の放射(光)を用いた直接デジタル画像形成に感受性であるように設計されている。
【0005】
平版印刷版を製造するのに有用なネガ型平版印刷版原版は、典型的には、基板の親水性表面上に配置されたネガ型放射感受性画像形成可能層を含む。ネガ型平版印刷版原版に使用される放射感受性光重合性組成物は、典型的には、フリーラジカル重合性成分、1種以上の放射吸収剤、開始剤組成物、および場合により、上記した他の成分とは異なる1種以上のポリマーバインダーを含む。
【0006】
近年、当業界では、平版印刷版の製造プロセスの簡素化に重点が置かれてきており、これらとしては、現像前の加熱工程(予熱)の省略や、平版印刷インキ、湿し水、またはその両方を使用して機上現像を実施して、平版印刷版原版中の不要な(未露光の)画像形成可能層材料を除去することが挙げられる。このようなネガ型平版印刷版原版は、最適な印刷寿命、機上現像性、インキ-水のバランス(リスタートトーニング試験を使用して決定される)、および耐擦傷性を達成するために、要素構造において多くの特徴のバランスを取ることによって設計しなければならない。1つまたは2つの特性において最適なレベルを提供し得る化学組成または構造的特徴が別の特性において損失を引き起こし得るため、これらの特性のすべてにおいて同時に高品質を達成することは容易な課題ではなかった。
【0007】
平版印刷版原版の種類とは無関係に、平版印刷は、一般に、アルミニウムまたはさまざまな金属組成のアルミニウム合金を含む金属含有基板、例えばこの目的のために当該技術分野で既知の他の金属のうち1種以上を最大10重量%含む金属含有基板を使用して行われてきた。原材料のアルミニウム含有材料は、原材料のアルミニウム含有材料のほぼ平坦な表面上の油脂および他の混入物を除去するために、塩基溶液または界面活性剤溶液を使用する「予備エッチング」プロセスで洗浄され得る。次いで、洗浄された表面は、一般に、電気化学的または機械的粒状化によって粗面化され、続いて「ポストエッチング」処理が行われて粒状化プロセス中に形成された混入物(「スマット」)があれば除去される。平版印刷版原版のための有用な基板の製造のさらなる工業的詳細は、例えば、米国特許出願公開第2014/0047993 A1号明細書(Hauckら)に見出される。
【0008】
さらなるすすぎの後、アルミニウム含有基板の表面は、一般に1回または2回陽極酸化されて親水性酸化アルミニウムが提供されるが、これは、1つ以上の放射感受性画像形成可能層が上層に形成された時点での、得られた平版印刷版原版の耐摩耗性およびその他の特性のためのものである。
【0009】
例えば、米国特許第4,566,952号明細書(Sprintschnikら)、第8,789,464号明細書(Tagawaら)、第8,783,179号明細書(Kurokawaら)、第8,978,555号明細書(Kurokawaら)、および第9,259,954号明細書(Tagawaら)、米国特許出願公開第2014/0326151号明細書(Nambaら)、ならびに欧州特許出願公開第2,353,882号明細書(Tagawaら)に記載されているように、いくつかの既知の原版基板の製造方法では、1つまたは2つの陽極酸化プロセスが使用される。
【0010】
米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(Merkaら)は、改善されたアルミニウム含有基板を有する平版印刷版原版を記載しており、この基板は、2つの異なる陽極酸化処理を順に使用して、異なる層厚、細孔径、および多孔度を有する2つの異なる酸化アルミニウム層を提供するように設計されている。アルミニウム含有基板の製造に対するこの革新的なアプローチにより、露光された原版の機上現像性および耐擦傷性が改善された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許出願公開第2014/0047993 A1号明細書
【文献】米国特許第4,566,952号明細書
【文献】米国特許第8,789,464号明細書
【文献】米国特許第8,783,179号明細書
【文献】米国特許第8,978,555号明細書
【文献】米国特許第9,259,954号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0326151号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2,353,882号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0250925号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
アルミニウム含有基板は、特定の構造の1つ以上の陽極(酸化アルミニウム)層を製造し、それにより得られる原版において特定の特性を達成するために、硫酸、リン酸、シュウ酸、他の酸、または電解質として当業者に知られている酸混合物を、さまざまなプロセスパラメータと組み合わせて適用することによって製造され得る。しかしながら、陽極酸化中に新たな機能性多孔質構造を成長させることが依然として強く必要とされており、これにより、改善された耐擦傷性、機上現像性、および改善された印刷寿命が、印刷実行開始および印刷中の平版印刷インキと湿し水との適切なバランスを犠牲にすることなく達成される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題に対処するために、本発明は、アルミニウム含有基板であって、
粗面化されエッチングされた表面を有するアルミニウム含有板;
粗面化されエッチングされた表面上の内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも500nm~1,500nm以下の平均乾燥厚み(Ti)を有し、0nm超15nm未満の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層;
内側酸化アルミニウム層上の中間酸化アルミニウム層であって、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚み(Tm)を有し、少なくとも15nm~60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含み、少なくとも100個の中間細孔/μm2~2,000個の中間細孔/μm2以下の中間細孔密度(Cm)を有する、中間酸化アルミニウム層;および
中間酸化アルミニウム層上の外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも30nm~150nm以下の平均乾燥厚み(To)を有し、少なくとも5nm~35nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも100個の外側細孔/μm2~5,000個の外側細孔/μm2以下の外側細孔密度(Co)を有する、外側酸化アルミニウム層を含み、
中間酸化アルミニウム層と外側酸化アルミニウム層との組み合わせの乾燥厚みは、少なくとも120nm~420nm以下であり、
DmはDoよりも大きく、DoはDiよりも大きく、
1種以上の親水性ポリマーを含み、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量で与えられる親水性層を場合により含む、アルミニウム含有基板を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、
本発明によるいずれかの実施形態のアルミニウム含有基板と、
アルミニウム含有基板上に配置された放射感受性画像形成可能層と
を含む、平版印刷版原版を提供する。
【0015】
本発明の平版印刷版を提供する方法は、
本発明のいずれかの実施形態の平版印刷版原版を画像形成放射に画像様露光して、露光領域および未露光領域を有する画像様露光された画像形成可能層を形成する工程、ならびに
画像様露光された画像形成可能層から、露光領域および未露光領域の両方ではなく、露光領域または未露光領域のいずれかを除去して、平版印刷版を形成する工程
を含む。
【0016】
本発明はさらに、本発明による平版印刷版原版の製造方法であって、
A)電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面を有するアルミニウム含有板を提供する工程、
B)アルミニウム含有板をリン酸を使用する第1の陽極酸化プロセスに供して、電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面上に外側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、外側酸化アルミニウム層は、少なくとも30nm~150nm以下の平均乾燥厚み(To)を有し、少なくとも5nm~35nm以下の平均外側微細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも100個の外側細孔/μm2~5,000個の外側細孔/μm2以下の外側細孔密度(Co)を有する、工程、
C)場合により、外側酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
D)アルミニウム含有板をリン酸を使用する第2の陽極酸化プロセスに供して、外側酸化アルミニウム層の下層に中間酸化アルミニウム層を形成する工程であって、中間酸化アルミニウム層は、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚み(Tm)を有し、少なくとも15nm~60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含み、少なくとも100個の中間細孔/μm2~2,000個の中間細孔/μm2以下の中間細孔密度(Cm)を有する、工程、
E)場合により、中間酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
F)アルミニウム含有板を硫酸を使用する第3の陽極酸化プロセスに供して、中間酸化アルミニウム層の下層に内側酸化アルミニウム層を形成し、アルミニウム含有基板を形成する工程であって、内側酸化アルミニウム層は、少なくとも500nm~1,500nm以下の平均乾燥厚み(Ti)を有し、0nm超15nm未満の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含み、
DmはDoよりも大きく、DoはDiよりも大きい、工程、
G)場合により、内側酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
H)場合により、1種以上の親水性ポリマーを含む親水性組成物を塗布して、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量を与える工程、および
I)アルミニウム含有基板上に放射感受性画像形成可能層を配置する工程
を順に含む、方法を提供する。
【0017】
本発明によるアルミニウム含有基板について定義された特徴の組み合わせは、改善された耐擦傷性、ならびに印刷実行開始および印刷機による印刷中の平版印刷インキと湿し水との適切なバランスを、機上現像性および長い印刷寿命を犠牲にすることなく提供する。これらの利点は、本発明のアルミニウム含有基板において得られる内側、中間、および外側酸化アルミニウム層のすべてにおいて独自の細孔および多孔度の特徴が達成されるように実施され、順に実施される3つの陽極酸化プロセスの組み合わせを使用することによって達成される。本明細書で提供されるデータが示すように、3つの酸化アルミニウム層のいずれかが求められる限界から外れている場合、耐擦傷性、非画像領域におけるインキ/湿し水のバランス、(ネガ型平版印刷版原版についての)機上現像性、または印刷寿命のうち1つ以上が、平版印刷版において何らかの形で望ましくないほど低下するか損なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明によるアルミニウム含有基板の一実施形態の概略断面図であり、アルミニウム含有板、すなわち支持材料(「Al」)上の3つの個々の独自の外側、中間、および内側酸化アルミニウム層について、相対的な深さおよび細孔径寸法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の考察は、本発明のさまざまな実施形態を対象としており、いくつかの実施形態は特定の使用に望ましい可能性があるが、開示された実施形態は、以下に特許請求されるように、本発明の範囲を限定すると解釈されたり、あるいは見なされたりするべきではない。さらに、当業者であれば、以下の開示が、いかなる特定の実施形態の考察において明示的に記載されているよりも広い用途を有することを理解するであろう。
【0020】
定義
放射感受性画像形成可能層配合物(および得られる塗布層)、加工溶液、陽極酸化溶液、親水性層配合物(および得られる塗布層)のさまざまな成分、ならびに本発明の実施に使用される他の材料を定義するために本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は、該成分を1つまたは複数含む(すなわち、複数の指示対象を含む)ことを意図する。
【0021】
本出願において明示的に定義されていない各用語は、当業者によって一般的に受け入れられる意味を有すると理解すべきである。ある用語の解釈がその文脈において該用語を無意味または本質的に無意味にする場合、その用語は標準的な辞書に記載の意味を有すると解釈すべきである。
【0022】
本明細書に明記するさまざまな範囲内の数値の使用は、別段の明示的な指示がない限り、記載された範囲内の最小値および最大値の両方の前に「約」という語が付されたものとして近似であると見なすべきである。このように、記載された範囲の上下のわずかな変動は、その範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するのに有用であり得る。さらに、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間のすべての値、および範囲の終点を含む連続的な範囲であると意図されている。
【0023】
文脈上そうでないことが示されない限り、本明細書で使用される場合、「ネガ型放射感受性平版印刷版原版」、「ポジ型放射感受性平版印刷版」、「原版」、「放射感受性原版」、および「平版印刷版原版」という用語は、本発明の特定の実施形態に言及することを意図する。「原版」という用語は、本発明に従って得られる物品に対する最も一般的な用語であると考えることができる。
【0024】
「アルミニウム含有板」という用語は、以下により詳細に記載するように、その後に処理して本発明による「アルミニウム含有基板」を製造することができるアルミニウム含有シート、ウェブ、小片、シート、箔、または他の金属形態を指すために本明細書において使用される。
【0025】
「外側細孔(単数および複数)」という用語は、外側酸化アルミニウム(または外側陽極酸化物)層に存在する微細な細孔を指す。
【0026】
「中間細孔(単数および複数)」という用語は、中間酸化アルミニウム(または中間陽極酸化物)層に存在する微細な細孔を指す。
【0027】
「内側細孔(単数および複数)」という用語は、内側酸化アルミニウム(または内側陽極酸化物)層に存在する微細な細孔を指す。
【0028】
酸化アルミニウム層は、細孔径、細孔密度、または多孔度の「有意な」差が存在する場合、互いに別個であると認められる。各酸化アルミニウム層は、少なくとも20nmの最小厚みを有する。また、隣接する2つの酸化アルミニウム層は、厚みが最大10nmの「遷移相」を介して結合し得ると考えることもでき、該遷移相においては、2つの酸化アルミニウム層の細孔構造を結合するために、細孔径、細孔密度、および多孔度は変化(または「遷移」)し得る。したがって、各酸化アルミニウム遷移相の中で、1つの酸化アルミニウム層の規定されたパラメータは、隣接する酸化アルミニウム層の規定されたパラメータに徐々に変化し得る。
【0029】
ナノメートル(nm)単位の平均外側細孔径(Do)は、親水性層および1つ以上の放射感受性画像形成可能層の塗布前に、アルミニウム含有基板表面を撮影した少なくとも100,000Xの倍率での上面SEM画像から決定され得る。あるいは、SEMによって平版印刷版原版の外側細孔径(Do)を決定するために、塗布された有機層を適切な溶媒で剥ぎ取ることも可能である。Doは、少なくとも200個の外側細孔を調べることによって決定され得る。さらに、アルゴンイオンビームスパッタリングなどの適切な技法を使用して、外側酸化アルミニウム層の異なる画分、例えばそれぞれ25%および75%を除去した後にアルミニウム含有基板表面を撮影した少なくとも100,000Xの倍率での上面SEM顕微鏡写真を比較することによって、外側細孔径Do、外側細孔密度Co、および多孔度Poが外側酸化アルミニウム層の深さの範囲で有意に変化しないと判定され得る。
【0030】
平均中間細孔径(Dm)は、アルゴンイオンビームスパッタリングなどの適切な技法を使用して外側酸化アルミニウム層を除去した後にアルミニウム含有基板表面を撮影した少なくとも100,000Xの倍率での上面SEM顕微鏡写真から決定され得る。Dmは、少なくとも200個の中間細孔を調べることによって決定され得る。さらに、アルゴンイオンビームスパッタリングなどの適切な技法を使用して、外側酸化アルミニウム層に加えて、中間酸化アルミニウム層の異なる画分、例えばそれぞれ25%および75%を除去した後にアルミニウム含有基板表面を撮影した少なくとも100,000Xの倍率での上面SEM顕微鏡写真を比較することによって、中間細孔径Dm、中間細孔密度Cm、および多孔度Pmが中間酸化アルミニウム層の深さの範囲で有意に変化しないと判定され得る。
【0031】
平均内側細孔径(Di)は、少なくとも100,000Xの倍率での断面SEM顕微鏡写真から決定され得る。断面は、1つ以上の放射感受性画像形成可能層および場合により存在する親水性層が除去された後に、平版印刷版原版またはそのアルミニウム含有基板を折り曲げることによって生成され得る。折り曲げている間に、すべての酸化アルミニウム層に亀裂が形成され、通常は最も弱い位置に新たな表面が形成されるが、この位置は通常、隣接する内側細孔間の最も薄い壁に位置する。得られた新たな亀裂表面は、多くの内側細孔の断面図を与える。本発明の場合、露出した細孔断面の少なくとも90%が0nm超15nm未満の幅を有する限り、正確な平均内側細孔径(Di)を決定する必要はない。Diは、少なくとも200個の内側細孔を調べることによって決定され得る。さらに、アルゴンイオンビームスパッタリングなどの適切な技法を使用して、外側および中間酸化アルミニウム層に加えて、内側酸化アルミニウム層の異なる画分、例えばそれぞれ25%および75%を除去した後にアルミニウム含有基板表面を撮影した少なくとも100,000Xの倍率での上面SEM顕微鏡写真を比較することによって、内側細孔径Di、内側細孔密度Ci、および多孔度Piが内側酸化アルミニウム層の深さの範囲で有意に変化しないと判定され得る。
【0032】
ナノメートル(nm)単位での外側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚み(To)、中間酸化アルミニウム層の平均乾燥厚み(Tm)、および内側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚み(Ti)のそれぞれは、本発明による3つの陽極酸化プロセスに供されたアルミニウム含有基板の試料について、少なくとも50,000Xの倍率での5つの個々の断面SEM顕微鏡写真において50個の個々の細孔の長さを測定することによって決定され得る。各酸化アルミニウム層の断面は、平版印刷版原版またはそのアルミニウム含有基板を折り曲げることによって形成された亀裂によって露出させることができる。酸化アルミニウム層の断面は、当該技術分野で周知の技法である集束イオンビーム(FIB)を使用して酸化アルミニウム層を貫通する溝を切り開くことによっても露出させることができる。
【0033】
外側細孔/μm2単位の外側酸化アルミニウム層の細孔密度(Co)は、少なくとも500nm×500nmの面積を有する正方形の所定の領域において外側細孔の数を数えることによって、少なくとも100,000Xの倍率での上面SEM顕微鏡写真から決定され得る。
【0034】
これに対応して、中間細孔/μm2単位の中間酸化アルミニウム層の細孔密度(Cm)は、アルゴンイオンビームスパッタリングなどの適切な技法を使用して外側酸化アルミニウム層を除去した後に、少なくとも500nm×500nmの面積を有する正方形の所定の領域において中間細孔の数を数えることによって、少なくとも100,000Xの倍率での上面SEM顕微鏡写真から決定され得る。
【0035】
外側細孔の一部または全部が、中間細孔の一部または全部に全体的または部分的に結合することがあり、代替的にまたは追加的に、中間細孔の一部または全部が、内側細孔の一部または全部に結合することがある。したがって、所与の酸化アルミニウム層の細孔の一部または全部が、1つ以上の隣接する酸化アルミニウム層の細孔に結合し得る。さらに、特定の酸化アルミニウム層の細孔が、同じ酸化アルミニウム層の他の細孔に結合することがある。
【0036】
したがって、中間酸化アルミニウム層および外側酸化アルミニウム層にそれぞれ存在する中間細孔および外側細孔は、一般に開いた管状細孔であるが、内側酸化アルミニウム層における内側細孔は、形状は管状であるが、一般に、アルミニウム含有支持体(または板)の一部としてしばしば「バリア」層と呼ばれるものによって一端(底部)で閉じられている。このようなバリア層の乾燥厚みは非常に小さく、本明細書に記載のTiの定義には含まれない。
【0037】
本明細書で使用される場合、「放射吸収剤」という用語は、規定された領域の電磁放射を吸収する化合物または材料を指し、典型的には、少なくとも250nm(UVおよび紫色)以上、または1400nm以下の領域に吸収極大を有する化合物または材料を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「赤外領域」という用語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの場合、「赤外」という用語は、少なくとも750nm~1400nm以下であると本明細書で定義される電磁スペクトルの「近赤外」領域を含むように使用される。より高い波長が、通常、従来の「赤外」領域にあると考えられる。同様に、赤外線吸収剤は、この赤外領域において感受性を示す。
【0039】
ポリマーに関するあらゆる用語の定義を明確にするには、International Union of Pure and Applied Chemistry(国際純正応用化学連合「IUPAC」)が公表した「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl.Chem.68,2287-2311(1996)を参照されたい。しかしながら、本明細書に明示的に記載されたあらゆる定義は、支配的であると見なすべきである。
【0040】
本明細書で使用される場合、「ポリマー」という用語は、多くの小さな反応したモノマーを連結することによって形成された、比較的大きな分子量を有する化合物をいうために使用される。ポリマー鎖が成長するにつれて、ポリマー鎖はランダムな様式で折り返されてコイル状構造を形成する。溶媒の選択により、ポリマーは、鎖長が長くなるにつれて不溶性になり、溶媒中に分散したポリマー粒子になり得る。これらの粒子分散液は、非常に安定であり、本発明における使用について記載される放射感受性画像形成可能層において有用であり得る。さらに、別段の指示がない限り、「ポリマー」という用語は、非架橋材料を指す。したがって、架橋ポリマー粒子は、非架橋ポリマー粒子とは異なり、この差異は、非架橋ポリマー粒子が、溶媒和特性が良好な特定の有機溶媒に溶解し得るのに対して、架橋ポリマー粒子は、ポリマー鎖が強い共有結合によって連結されているため、有機溶媒に膨潤し得るが溶解しないという点におけるものである。
【0041】
「コポリマー」という用語は、コポリマー骨格に沿って配置された2つ以上の異なる反復単位、すなわち繰り返し単位から構成されるポリマーを指す。
【0042】
「ポリマー骨格」という用語は、複数のペンダント基が結合することができるポリマー中の原子の鎖を指す。このようなポリマー骨格の一例は、1つ以上のエチレン性不飽和重合性モノマーの重合から得られる「全炭素」骨格である。いくつかのポリマー骨格は、該ポリマーが重合反応および適切な反応物質を使用して形成される場合、炭素原子とヘテロ原子の両方を含み得る。
【0043】
本明細書に記載のポリマーバインダー中の繰り返し単位は、一般に、重合プロセスで使用される対応するエチレン性不飽和重合性モノマーに由来し、このエチレン性不飽和重合性モノマーは、さまざまな商業的供給源から得ることができ、または既知の化学合成法を使用して調製することができる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「エチレン性不飽和重合性モノマー」という用語は、フリーラジカルまたは酸触媒重合反応および条件を使用して重合可能な1つ以上のエチレン性不飽和(-C=C-)結合を含む化合物を指す。この用語は、該条件下で重合可能ではない不飽和-C=C-結合のみを有する化合物を指すことを意図するものではない。
【0045】
別段の指示がない限り、「%」(パーセント)という用語は「重量%」を指す。別段の指示がない限り、パーセンテージは、乾燥層、または該乾燥層を形成するのに使用される配合物もしくは組成物の全固形分のいずれについても同じであり得る。
【0046】
本明細書で使用される場合、放射感受性のネガ型の層は、適切な放射(例えば赤外線)に感受性であるとともに、平版印刷版の形成においてネガ型である。同様に、放射感受性のポジ型の層は、赤外線に感受性であるとともに、平版印刷版の形成においてポジ型である。
【0047】
使用
本発明のアルミニウム含有基板および平版印刷版原版は、平版印刷インキおよび湿し水を使用して平版印刷用の平版印刷版を形成するのに有用である。これらの原版は、以下に記載の構造および成分を用いて製造され、本明細書に記載の本発明のアルミニウム含有基板を含む。さらに、本発明は、以下に記載するように、適切な現像剤を使用して機外で、または平版印刷インキ、湿し水、もしくは平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して機上で、原版を画像様露光し露光された原版を加工することによって、このような平版印刷版を製造するのに有用である。本発明の平版印刷版原版は、以下に記載する適切な放射感受性画像形成材料および製造手順を使用して、ネガ型またはポジ型のいずれかであるように設計され得る。
【0048】
本発明はまた、このようなアルミニウム含有基板および平版印刷版原版の製造に有用であり、これらは後に、画像形成および平版印刷に使用するために顧客に販売され得る。
【0049】
本発明のアルミニウム含有基板
本発明において有用な本発明のアルミニウム含有基板は、上記の利点を達成するために重要な特徴および特性を有するように設計される。
【0050】
アルミニウム含有基板の製造に関する概説は、米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(上記)に見出すことができる。
【0051】
一般に、アルミニウム含有基板は、純アルミニウム材料、またはマンガン、ケイ素、鉄、チタン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、およびジルコニウムを含むがこれらに限定されない1種以上の元素を最大10重量%含有するアルミニウム合金に由来し得る。純アルミニウムまたはアルミニウム合金含有支持体(または「板」もしくは「原材料」)は、一般に、以下に記載するように処理して本発明のアルミニウム含有基板における親水性表面を形成することができる表面を少なくとも1つ有する限り、該支持体のさらなる処理が可能なあらゆる形態を有することができ、これらの形態としては、シート、連続ウェブ、ロール、およびコイル状小片が挙げられる。純アルミニウムまたはアルミニウム合金含有層を上層に蒸着または積層してアルミニウム含有親水性表面を提供するポリマーフィルムまたは紙を使用することも可能である。
【0052】
得られるアルミニウム含有基板は、現代の印刷機の条件に機械的に耐えるのに十分な厚さでなければならないが、このような印刷機の印刷胴上に設置する(または沿わせる)のに十分な薄さでなければならない。したがって、アルミニウム含有基板はまた、原版の製造および平版印刷に必要な適切な引張強度、弾性、結晶性、および導電性を有していなくてはならない。これらの特性は、標準的な方法、例えば連続的な平版印刷用支持片、ウェブ、またはコイルの製造に典型的な熱処理または冷間および熱間圧延プロセスを使用して達成され得る。すべての処理後に得られる本発明のアルミニウム含有基板の乾燥厚みは、一般に、少なくとも100μm~600μm以下である。
【0053】
原材料のアルミニウム含有支持体(またはアルミニウム含有板)は、以下により詳細に記載するように、必須の第1、第2、および第3の陽極酸化プロセスならびに追加のすすぎを実施する前に、典型的な平版印刷版原版の製造プロセス、例えば予備エッチング、水洗、粗面化、水洗、ポストエッチング、水洗を使用して処理され得る。
【0054】
原材料のアルミニウム含有板は、表面またはその付近の油脂や、金属などの混入物を除去するために、典型的には予備エッチング工程に供される。当該技術分野で知られているように、この予備エッチング工程は、水酸化ナトリウムまたは別のアルカリ水溶液、適切な量のアルミニウム、さらには特定の有機溶媒を使用して既知の濃度、時間、および温度で実施され得る。所望であれば、界面活性剤水溶液を使用して、別個のまたは追加の脱脂工程を実施することができる。当業者であれば、日常的な実験を行って最適な予備エッチング条件(例えば、最適な溶液濃度、滞留時間、および温度)を見出すことができるであろう。
【0055】
典型的には、予備エッチング工程の後、エッチングされたアルミニウム含有支持体は、既知の電気化学的または機械的粗面化(または粒状化)プロセスを使用するなどの適切な様式で「粗面化」される。電気化学的粒状化処理では、エッチングされたアルミニウム含有支持体は、5~20グラム/リットル(g/l)の塩酸および適切な量のアルミニウムの溶液中で交流電流で加工され得る。硝酸もしくは硫酸、またはこれらの酸の混合物(例えば、最大2.5重量%の1種以上の酸)の溶液を使用することも可能である。このような電気化学的粒状化溶液はまた、添加剤、例えば腐食防止剤および安定剤を含むことがあり、これらとしては、金属硝酸塩、金属塩化物、モノアミン、ジアミン、アルデヒド、リン酸、クロム酸、ホウ酸、乳酸、酢酸、およびシュウ酸が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、電気化学的粒状化は、米国特許出願公開第2008/0003411号明細書(Hunterら)に記載のプロセスを使用して行われ得る。当業者であれば、日常的な実験によって、電気化学的または機械的粒状化の最適な条件を決定することができるであろう。機械的粒状化プロセスは、例えば、適切なブラシを単独で、または研磨材、例えばシリカ粒子もしくはアルミナ粒子のスラリーと組み合わせて実施され得る。あるいは、機械的粒状化プロセスと電気化学的粒状化プロセスとの組み合わせが使用され得る。
【0056】
粗面化または粒状化中に、アルミニウム含有支持体の表面にスマットが形成され得るが、このスマットは、例えば、アルミニウム含有支持体表面の0.01~5.0g/m2を除去することができる高酸性または高アルカリ性溶液による処理を使用して、ポストエッチング工程で除去され得る。例えば、ポストエッチングは、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、または硫酸と適切な量のアルミニウムとの溶液を使用して行われ得る。ポストエッチングの量は、エッチング溶液の滞留時間、濃度、および温度を設定することによって制御され得る。ポストエッチングの適切な量は、粗面化の量および該工程で形成されるスマットの量によっても決まる。ポストエッチング処理は、スマットを除去するのに十分でなければならないが、粗面化工程で形成された表面構造をあまり多く破壊しすぎてはならない。したがって、最適なポストエッチング条件を見出すために日常的な実験を行う間に、当業者が検討し得るパラメータの多くの組み合わせがある。
【0057】
上記の工程により、電気化学的または機械的に粒状化(粗面化)されエッチングされた表面がアルミニウム含有支持体中にもたらされる。
【0058】
本発明に従って実施される次の工程は、第1の陽極酸化プロセス、第2の陽極酸化プロセス、および第3の陽極酸化プロセスを順に含み、これらの陽極酸化プロセスはすべて、個々の外側、中間、および内側酸化アルミニウム層をそれぞれ形成するために本発明にとって必須である。
【0059】
本発明の方法は、従来技術において記載されることのある追加の陽極酸化プロセス(すなわち、例えば、第4のまたは追加の陽極酸化プロセスとしてのバリア層の厚膜化)を必要とせず、その結果、すべての実施形態において、本明細書に記載の第1、第2、および第3の陽極酸化プロセスのみが必要とされる陽極酸化プロセスである。さらに、本発明の利点は、業界の多くで一般的であり、特許文献に記載されているような2つの陽極酸化プロセスのみを使用して達成することはできない。
【0060】
さらに、バリア層の厚膜化は、第3のまたは追加の陽極酸化プロセスとして当該技術分野でしばしば記載されるが(例えば、上記の米国特許第9,259,954号明細書に記載のとおり)、この処理は、単に内側酸化アルミニウム層の内側細孔とアルミニウム含有支持体(または板)との間の「バリア」を強化するために使用される。本発明の方法および物品は、バリア層を強化するためにこの教示を利用することはせず、例えば、米国特許第9,259,954号明細書(上記)において場合により行われる3つの陽極酸化プロセスとは非常に異なる。該文献では、得られるDo、Dm、およびDi(先に定義した平均細孔径)がDo>Dmの関係を有するのに対して、本発明に従って得られる酸化アルミニウム層は、Dm>Doの本質的な関係によって定義される。
【0061】
第1、第2、および第3の陽極酸化プロセスのそれぞれは、少なくとも20℃~70℃以下の適切な温度で、少なくとも1秒~250秒以下の間、少なくとも0.5g/m
2~4g/m
2以下の総乾燥酸化アルミニウム被覆量(外側、中間、および内側のすべての酸化アルミニウム層の合計)を与えるのに十分な条件で、当業者に既知の電解液として硫酸、リン酸、シュウ酸、他の酸、または酸混合物を使用して、一般に独立して実施され得る。各陽極酸化プロセスの条件は、それぞれの所望の酸化アルミニウム層特性が達成されるように選択される。さらに、陽極酸化条件は、中間酸化アルミニウム層と外側酸化アルミニウム層との組み合わせの乾燥厚み(T
m+T
o)が、2つの酸化アルミニウム層の間のあらゆる「酸化アルミニウム遷移相」を含めて、少なくとも120nm~400nm以下または420nm以下であるように設計される。本発明によれば、3つの酸化アルミニウム層の平均細孔径の関係は、D
m>D
o>D
iである。さらに、平均外側細孔密度と平均中間細孔密度との比(C
o/C
m)は、少なくとも1.1:1.0、少なくとも1.5:1.0、または少なくとも2.0:1.0であり得る。3つすべての酸化アルミニウム層の平均細孔径の相対比較を
図1に概略的に示す。連続的な第1、第2、および第3の陽極酸化プロセスの条件を以下に記載する。
【0062】
電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面を有する適切なアルミニウム含有支持体(または板)は、第1の陽極酸化プロセスに供されて、該電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面上に外側酸化アルミニウム層が形成される。
【0063】
第1の陽極酸化プロセスは、例えば、少なくとも50g/リットル~350g/リットル以下のリン酸、または少なくとも5g/l~300g/リットル以下のシュウ酸、またはこれらの酸の混合物と、適切な量、例えば5g/リットルのアルミニウムとを含む電解質組成物を使用して実施され、後で形成される中間酸化アルミニウム層(後述)に結合する外側酸化アルミニウム層が形成され得る。これらの溶液量は、本明細書に記載の所望の外側酸化アルミニウム層特性を達成するために、酸の種類、酸濃度、アルミニウム濃度、滞留時間、および温度に関して最適化され得る。このような第1の陽極酸化プロセスの代表的な詳細を、以下に記載する実施例に示す。
【0064】
次いで、得られた外側酸化アルミニウム層は、少なくとも5nmまたは少なくとも10nm、かつ30nm以下または35nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含む。さらに、外側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚み(To)は、少なくとも30nmまたは少なくとも40nm、かつ120nm以下または140nm以下または150nm以下であり得る。外側陽極酸化層の外側細孔密度(Co)は、一般に、少なくとも100個の外側細孔/μm2~5,000個の外側細孔/μm2以下であり得る。
【0065】
さらに、外側酸化アルミニウム層のナノメートル単位の平均外側細孔径(Do)および外側細孔/μm2単位の外側細孔密度(Co)は、外側酸化アルミニウム層の多孔度(Po)が3.14(Co)(Do
2)/4,000,000であると定義されるようにさらに制約されるか、または関連づけられる。外側酸化アルミニウム層の多孔度(Po)は、少なくとも0.30または少なくとも0.40または少なくとも0.45、かつ0.65以下または0.75以下または0.80以下であり得る。
【0066】
第1の陽極酸化プロセスが所望の時間にわたって実施された後、形成された外側酸化アルミニウム層を、所望であれば、適切な溶液、例えば水で適切な温度および時間ですすいで残留する酸およびアルミニウムを除去することができる。
【0067】
次いで、第2の陽極酸化プロセスが実施されて、外側酸化アルミニウム層(上記)の下層、かつ後で形成される内側酸化アルミニウム層(後述)の上層に中間酸化アルミニウム層が形成される。
【0068】
第2の陽極酸化プロセスは、例えば、少なくとも50g/リットル~350g/リットル以下のリン酸、または少なくとも5g/リットル~300g/リットル以下のシュウ酸、またはこれらの酸の混合物と、適切な量、例えば5g/リットルのアルミニウムとを含む電解質組成物を使用して実施され得る。これらの溶液量は、本明細書に記載の所望の中間酸化アルミニウム層特性を達成するために、酸の種類、酸濃度、アルミニウム濃度、滞留時間、および温度に関して最適化され得る。このような第2の陽極酸化プロセスの代表的な詳細を、以下に記載する実施例に示す。
【0069】
次いで、得られた中間酸化アルミニウム層は、少なくとも15nmまたは少なくとも17nmまたは少なくとも19nm、かつ40nm以下または50nm以下または55nm以下または60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含む。さらに、中間酸化アルミニウム層の平均乾燥厚み(Tm)は、少なくとも60nmまたは少なくとも70nmまたは少なくとも100nm、かつ250nm以下または280nm以下または300nm以下であり得る。中間陽極酸化層の中間細孔密度(Cm)は、一般に、少なくとも100個の中間細孔/μm2~2,000個の中間細孔/μm2以下である。
【0070】
さらに、中間酸化アルミニウム層のナノメートル単位の平均中間細孔径(Dm)および中間細孔/μm2単位の中間細孔密度(Cm)は、中間酸化アルミニウム層の多孔度(Pm)が3.14(Cm)(Dm
2)/4,000,000であると定義されるようにさらに制約されるか、または関連づけられる。中間酸化アルミニウム層の多孔度(Pm)は、少なくとも0.15または少なくとも0.18または少なくとも0.20、かつ0.50以下または0.55以下または0.65以下であり得る。
【0071】
第2の陽極酸化プロセスが所望の時間にわたって実施された後、中間および外側酸化アルミニウム層を、所望であれば、適切な溶液、例えば水で適切な温度および時間ですすいで残留する酸およびアルミニウムを除去することができる。
【0072】
次いで、少なくとも100g/リットル~350g/リットル以下の硫酸と、適切な量、例えば5g/リットルのアルミニウムとを含み得る適切な電解質組成物を使用して、必須の第3の陽極酸化プロセスが実施され、内側酸化アルミニウム層が形成される。これらの溶液量は、本明細書に記載の所望の内側酸化アルミニウム層特性を達成するために、酸濃度、アルミニウム濃度、滞留時間、および温度に関して最適化され得る。このような第3の陽極酸化プロセスの詳細を、以下に記載する実施例に示す。
【0073】
得られた内側酸化アルミニウム層は、中間酸化アルミニウム層の直下にあり、基板の粗面化されエッチングされた表面と接触しており、0(0nm)超15nm未満、または12nm以下の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含まなくてはならない。さらに、内側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚み(Ti)は、少なくとも500nmまたは少なくとも550nmまたは少なくとも700nm、かつ1000nm以下または1,500nm以下であり得る。
【0074】
第3の陽極酸化プロセスが所望の時間にわたって実施された後、形成された3つの酸化アルミニウム層を、所望であれば、適切な溶液、例えば水で適切な温度および時間ですすいで残留する酸およびアルミニウムを除去することができる。
【0075】
必須ではなく任意であるが、当該技術分野で「陽極酸化後処理」としても知られているもので、外側酸化アルミニウム層上に親水性層を設けることが通常望ましい。使用される場合、親水性層は、当該技術分野で既知の1種以上の親水性ポリマーを含む親水性層配合物から与えられて、少なくとも0.0002g/m2または少なくとも0.005g/m2、かつ0.08g/m2以下または0.1g/m2以下の親水性層の乾燥被覆量を与え得る。有用な親水性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ビニルリン酸ジメチルエステル、およびビニルホスホン酸のいずれか、およびそれらの組み合わせに少なくとも部分的に由来するホモポリマーおよびコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。特に有用な親水性ポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)は、アクリル酸またはメタクリル酸のいずれか、またはその両方に少なくとも部分的に由来する繰り返し単位を含む。有用な親水性ポリマーは、多くの商業的供給源から購入することができ、または既知のエチレン性不飽和重合性モノマーおよび重合反応条件を使用して調製することができる。親水性層および親水性層配合物は、添加剤、例えば無機酸(例えば、少なくとも0.01重量%の量のリン酸)、無機酸の塩、および界面活性剤を含み得るが、これらはすべて当該技術分野で既知である。特に有用な親水性層配合物を、実施例に関連して以下に記載する。
【0076】
陽極酸化後処理プロセスは、例えば米国特許出願公開第2014/0047993号明細書(上記)の[0058]~[0061]に記載されているようないずれかの適切な様式で実施され得る。あるいは、陽極酸化後処理プロセスは、適切な溶媒、例えば水を使用して所望の量の親水性層配合物を外側酸化アルミニウム層上に直接コーティングし、次いで得られた湿潤コーティングを乾燥させることによって実施され得る。
【0077】
これらの必須および任意のすべての処理の後、得られた本発明のアルミニウム含有基板は、いずれかの適切な形態、例えば平坦なシートまたは連続ウェブもしくはコイルの形態で、本発明による平版印刷版原版の製造の準備ができている。
【0078】
放射感受性画像形成可能層および原版
1つ以上の放射感受性画像形成可能層は、以下により詳細に記載するような適切な放射感受性画像形成可能層配合物を使用して、適切な様式で本発明のアルミニウム含有基板の表面上に、典型的には外側酸化アルミニウム層上に(例えば、この層上に直接、または親水性層が存在する場合には親水性層上に)、適切な様式で配置され得る。このような放射感受性画像形成可能層は、化学的性質においてポジ型またはネガ型であり得る。
【0079】
ネガ型平版印刷版原版:
いくつかの実施形態では、本発明の原版は、以下に記載するようなネガ型放射感受性組成物を(上記のような)適切な本発明のアルミニウム含有基板に適切に塗布して、このアルミニウム含有基板上にネガ型である放射感受性画像形成可能層を形成することによって形成され得る。一般に、放射感受性組成物(および得られる放射感受性画像形成可能層)は、(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、(b)画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物、および(c)1種以上の放射吸収剤を必須成分として含み得、場合により(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダーを含み得る。これらの必須成分および任意成分のすべてを以下により詳細に記載する。一般に、ネガ型原版には単一の放射感受性画像形成可能層のみが存在する。これは、一般に原版の最外層であるが、いくつかの実施形態では、放射感受性画像形成可能層上に配置された、最外層の水溶性親水性オーバーコート(トップコートまたは酸素バリア層としても知られる)が存在し得る。
【0080】
画像様露光後に、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して機上現像可能であるように、放射感受性画像形成可能層の成分(化合物の種類および形態ならびにそれぞれの量)を設計することが特に有用である。機上現像性のさらなる詳細については後述する。
【0081】
放射感受性画像形成可能層組成物(および該組成物から製造される放射感受性画像形成可能層)は、(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分を含み、これらのそれぞれは、フリーラジカル開始を使用して重合し得る1つ以上のフリーラジカル重合性基(またはいくつかの実施形態では2つ以上の該基)を含む。いくつかの実施形態では、放射感受性画像形成可能層は、各分子中に同じまたは異なる数のフリーラジカル重合性基を有する、2種以上のフリーラジカル重合性成分を含む。
【0082】
有用なフリーラジカル重合性成分は、1つ以上の重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上の該基)を有する1つ以上のフリーラジカル重合性モノマーまたはオリゴマーを含有し得る。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーも使用され得る。フリーラジカル重合性オリゴマーまたはプレポリマー、例えばウレタンアクリレートおよびメタクリレート、エポキシドアクリレートおよびメタクリレート、ポリエステルアクリレートおよびメタクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびメタクリレート、ならびに不飽和ポリエステル樹脂も使用され得る。いくつかの実施形態では、フリーラジカル重合性成分はカルボキシル基を含む。所望であれば、このようなフリーラジカル重合性成分の混合物を使用することができる。
【0083】
1種以上のフリーラジカル重合性成分は、放射感受性画像形成可能層の機械的特性を向上させるのに十分に大きい分子量を有して、それにより、対応する平版印刷版原版を、典型的な包装における輸送および通常の印刷前操作中の取り扱いに適したものにすることが可能である。1種以上のフリーラジカル重合性成分は、少なくとも10nm~800nm以下の粒径を有する粒状材料として放射感受性層中に存在することも可能である。このような実施形態では、別個の非重合性または非架橋性ポリマーバインダー(以下に記載)は必要ではないが、依然として存在し得る。
【0084】
有用なフリーラジカル重合性成分としては、複数(2つ以上)の重合性基を有する尿素ウレタン(メタ)アクリレートまたはウレタン(メタ)アクリレートも挙げられる。このような化合物の混合物を用いることができ、それぞれの化合物は、不飽和重合性基を2つ以上有し、化合物のうち一部は、3つまたは4つ以上の不飽和重合性基を有する。例えば、フリーラジカル重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとしたDESMODUR(登録商標)N100脂肪族ポリイソシアネート樹脂(Bayer Corp.、コネチカット州ミルフォード)をヒドロキシエチルアクリレートおよびペンタエリスリトールトリアクリレートと反応させることによって調製され得る。有用なフリーラジカル重合性成分としては、Kowa Americanから入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、ならびにSartomer Company,Inc.から入手可能なSartomer 399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer 355(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer 295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、およびSartomer 415[エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]が挙げられる。
【0085】
数多くの他のフリーラジカル重合性成分が当該技術分野で既知であり、Photoreactive Polymers: The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989、102~177頁、B.M.MonroeによるRadiation Curing: Science and Technology、S.P.Pappas編、Plenum、ニューヨーク、1992、399~440頁、ならびにImaging Processes and Material、J.M.Sturgeら(編)におけるA.B.CohenおよびP.Walkerによる「Polymer Imaging」、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989、226~262頁を含むかなりの文献に記載されている。例えば、有用なフリーラジカル重合性成分は、欧州特許第1,182,033 A1号明細書(Fujimakiら)の段落[0170]以降、ならびに米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、第6,569,603号明細書(Furukawa)、および第6,893,797号明細書(Munnellyら)にも記載されている。他の有用なフリーラジカル重合性成分としては、米国特許出願公開第2009/0142695号明細書(Baumannら)に記載されているものが挙げられ、これらのラジカル重合性成分は1H-テトラゾール基を含む。
【0086】
上記の有用なフリーラジカル重合性成分は、さまざまな商業的供給源から容易に得ることができ、または既知の出発材料および合成方法を使用して調製することができる。
【0087】
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分は、一般に、すべてネガ型放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、かつ50重量%以下または70重量%以下の量でネガ型放射感受性画像形成可能層中に存在し得る。
【0088】
本発明で使用される放射感受性画像形成可能層はまた、(b)開始剤組成物を含み得、該組成物は、適切な放射吸収剤の存在下で、放射感受性画像形成可能層が適切な画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与えて、1種以上のフリーラジカル重合性成分の重合を開始する。開始剤組成物は、単一の化合物または複数の化合物の組み合わせ(もしくは系)であり得る。
【0089】
適切な(b)開始剤組成物としては、芳香族スルホニルハライド;トリハロゲノアルキルスルホン;トリハロゲノアリールスルホン;イミド(例えば、N-ベンゾイルオキシフタルイミド);ジアゾスルホネート;9,10-ジヒドロアントラセン誘導体;少なくとも2個のカルボキシ基を有し、そのうち少なくとも1個がアリール部分の窒素、酸素、または硫黄原子に結合している、N-アリール、S-アリール、またはO-アリールポリカルボン酸;オキシムエステルおよびオキシムエーテル;α-ヒドロキシ-またはα-アミノ-アセトフェノン;ベンゾインエーテルおよびエステル;過酸化物;ヒドロペルオキシド;アゾ化合物;2,4,5-トリアリールイミダゾリル二量体(「HABI」など);トリハロメチル置換トリアジン;ホウ素含有化合物;有機ホウ酸塩、例えば米国特許第6,562,543号明細書(Ogataら)に記載されているもの、およびオニウム塩が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0090】
特に赤外線感受性組成物および画像形成可能層に有用な(b)開始剤組成物としては、米国特許出願公開第2014/0047993号(上記)の[0131]、および該文献に引用されている参考文献に詳細に記載されているオニウム塩、例えばアンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、およびホスホニウム化合物が挙げられるが、これらに限定されない。オニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジフェニルジアゾニウム、およびこれらの化合物のベンゼン環に1つ以上の置換基を導入して得られる誘導体が挙げられる。適切な置換基としては、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、クロロ、ブロモ、フルオロ、およびニトロ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
オニウム塩中のアニオンの例としては、ハロゲンアニオン、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3
-、および例えば米国特許第7,524,614号明細書(Taoら)に記載されているホウ素アニオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
オニウム塩は、分子中にスルホニウムアニオンを有するオニウム塩と、分子中の適切なカチオンとを組み合わせることにより得ることができる。オニウム塩は、共有結合によって結合した少なくとも2つのオニウムアニオンを分子中に有する多価オニウム塩であり得る。多価オニウム塩の中でも、分子中に少なくとも2つのオニウムアニオンを有するものが有用であり、分子中に複数のスルホニウムまたはヨードニウムカチオンを有するものが有用である。代表的な多価オニウム塩は、以下の式(6)および(7)で表される。
【化1】
【0093】
また、特開2002-082429号公報[または米国特許出願公開第2002-0051934号明細書](Ippeiら)の段落[0033]~[0038]に記載のオニウム塩や、米国特許第7,524,614号明細書(上記)に記載のホウ酸ヨードニウム錯体も本発明に用いられ得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、(b)開始剤組成物は、開始剤化合物の組み合わせ、例えばヨードニウム塩の組み合わせ、例えば米国特許出願公開第2017/0217149号明細書(Hayashiら)に記載されている化合物Aと化合物Bとの組み合わせを含み得る。所望であれば、記載された刊行物中の構造(II)または(III)によって表される化合物Bの化合物の混合物を使用することができる。
【0095】
(b)開始剤組成物は、望ましくないラジカル反応を防止または適度にするために、場合により1種以上の適切な共開始剤、連鎖移動剤、酸化防止剤、または安定剤を含み得る。この目的のための適切な材料は、当該技術分野で既知である。
【0096】
上記の(b)開始剤組成物に有用な成分は、さまざまな商業的供給源から得ることができ、または既知の合成方法および出発材料を使用して調製することができる。
【0097】
(b)開始剤組成物は、一般に、すべて放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.5重量%もしくは少なくとも2重量%、かつ15重量%以下もしくは20重量%以下、またはさらには少なくとも4重量%かつ12重量%以下の量で、1種以上の重合開始剤を提供するのに十分な濃度で放射感受性画像形成可能層中に存在し得る。
【0098】
さらに、放射感受性画像形成可能層は、所望の放射感受性を提供するため、または放射を熱に変換するため、またはその両方のために(c)1種以上の放射吸収剤を含む。いくつかの実施形態では、放射感受性層は、赤外線に感受性であり、平版印刷版原版が赤外線放射レーザーで画像形成され得るように、1種以上の異なる赤外線吸収剤を含む。本発明はまた、約405nmに発光ピークを有する紫色発光レーザー、可視発光レーザー、例えば約488nmもしくは532nmに発光ピークを有するレーザー、または400nm未満の有意な発光ピークを有するUV放射で画像形成するように設計された平版印刷版原版にも適用可能である。このような実施形態では、放射吸収剤は、放射源に適合するように選択され得、多くの有用な例が当該技術分野で知られており、「増感剤」と呼ばれることがある。この種の有用な放射吸収剤は、例えば、米国特許第7,285,372号明細書(Baumannら)の第11欄(10~43行)に記載されている。
【0099】
本発明のほとんどの実施形態において、ネガ型放射感受性画像形成可能層は、所望の赤外線感受性を提供するために1種以上の赤外線吸収剤を含む。有用な赤外線吸収剤は、顔料または赤外線吸収染料であり得る。適切な染料は、例えば米国特許第5,208,135号明細書(Patelら)、第6,153,356号明細書(Uranoら)、第6,309,792号明細書(Hauckら)、第6,569,603号明細書(Furukawa)、第6,797,449号明細書(Nakamuraら)、第7,018,775号明細書(Tao)、第7,368,215号明細書(Munnellyら)、第8,632,941号明細書(Balbinotら)、および米国特許出願公開第2007/056457号明細書(Iwaiら)に記載されているものでもあり得る。いくつかの赤外線感受性の実施形態では、赤外線感受性画像形成可能層における少なくとも1種の赤外線吸収剤は、テトラアリールボレートアニオン、例えばテトラフェニルボレートアニオンを含むシアニン染料であり得る。このような染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載のものが挙げられる。
【0100】
低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーに結合したIR染料発色団も同様に使用することができる。さらに、IR染料カチオンを使用することができ、すなわち、カチオンは、側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホ、またはホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0101】
上記の有用な放射吸収剤は、さまざまな商業的供給源から容易に得ることができ、または既知の出発材料および合成方法を使用して調製することができる。
【0102】
放射感受性画像形成可能層中の1種以上の(c)放射吸収剤の総量は、放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%、かつ15重量%以下または30重量%以下であり得る。
【0103】
多くの実施形態では、放射感受性画像形成可能層が、上記の層中のすべての材料に対する1種以上の(d)ポリマーバインダー(またはポリマーバインダーとして作用する材料)をさらに含むことが、場合によるが望ましい。このようなポリマーバインダーは、上記した(a)、(b)、および(c)の材料のすべてとは異なる。これらのポリマーバインダーは、一般に非架橋性かつ非重合性である。
【0104】
このような(d)ポリマーバインダーは、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマー、例えば米国特許第6,899,994号明細書(Huangら)に記載されているものを含めて、当該技術分野で既知の多くのポリマーバインダー材料から選択され得る。他の有用な(d)ポリマーバインダーは、例えば国際公開第2015-156065号明細書(Kamiyaら)に記載されているように、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2種以上の繰り返し単位を含む。このような(d)ポリマーバインダーのいくつかは、例えば米国特許第7,261,998号明細書(Hayashiら)に記載されているようなペンダントシアノ基を有する繰り返し単位をさらに含み得る。
【0105】
いくつかの有用な(d)ポリマーバインダーは、粒子形態、すなわち、離散した概ね非凝集の粒子の形態で存在し得る。このような離散粒子は、少なくとも10nmまたは少なくとも80nm、かつ600nm以下または1,5000nm以下の平均粒径を有し得、一般に放射感受性画像形成可能層中に均一に分布する。例えば、1種以上の有用な(d)ポリマーバインダーは、少なくとも50nm~400nm以下の平均粒径を有する粒子の形態で存在し得る。平均粒径は、電子走査顕微鏡画像における粒子の測定、および設定された数の測定値を平均することを含む、さまざまな既知の方法によって決定され得る。
【0106】
いくつかの実施形態では、(d)ポリマーバインダーは、放射感受性画像形成可能層の平均乾燥厚み(t)未満の平均粒径を有する粒子の形態で存在する。マイクロメートル(μm)単位の平均乾燥厚み(t)は、以下の式:
t=w/r
によって計算され、式中、wは、放射感受性画像形成可能層のg/m2単位の乾燥コーティング被覆量であり、rは、1g/cm3である。例えば、このような実施形態において、(d)ポリマーバインダーは、放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.05重量%または少なくとも10重量%、かつ50重量%以下または80重量%以下を構成し得る。
【0107】
(d)ポリマーバインダーはまた、複数(少なくとも2つ)のウレタン部分を含む骨格と、ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基とを有し得る。
【0108】
他の有用な(d)ポリマーバインダーは、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、ビニルアリール、およびアリル基含有モノマー、ならびにペンダントアルカリ可溶性基を有するモノマー、例えばカルボン酸に由来し得る。これらの有用な(d)ポリマーバインダーのいくつかは、米国特許出願公開第2015/0099229号明細書(Simpsonら)および米国特許第6,916,595号明細書(Fujimakiら)に記載されている。
【0109】
有用な(d)ポリマーバインダーは、一般に、ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって決定される重量平均分子量(Mw)が、少なくとも2,000または少なくとも2万であり、かつ30万以下または50万以下である。
【0110】
有用な(d)ポリマーバインダーは、さまざまな商業的供給源から得ることができ、または例えば上記の刊行物に記載されているように、既知の手順および出発材料を使用して調製することができる。
【0111】
合計量の(d)ポリマーバインダーは、放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、かつ50重量%以下または70重量%以下の量で放射感受性画像形成可能層中に存在し得る。
【0112】
(e)当該技術分野で既知の他のポリマー材料[上記(a)、(b)、(c)、および(d)の材料とは異なる]が、放射感受性画像形成可能層中に存在し得、このような(e)ポリマー材料は、一般に、上記の(d)ポリマーバインダーよりも親水性または疎水性である。より親水性の該ポリマーバインダーの例としては、セルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびさまざまなけん化度を有するポリビニルアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。より疎水性のポリマーバインダーは、上記の(d)ポリマーバインダーよりも現像性が低く、pKa7未満のすべての酸性基およびそれらの対応する塩について20mgKOH/g未満の酸価を有し得る。このような疎水性ポリマーバインダーは、ヒドロキシル基、-(CH2CH2-O)-、および-C(=O)NH2からなる群から選択される、バインダーの親水性に寄与するセグメントを、典型的には10重量%未満、より典型的には5重量%未満含む。このような疎水性ポリマーバインダーの例としては、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ベンジルメタクリレート)、およびポリスチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0113】
放射感受性画像形成可能層への追加の(f)場合により添加される添加剤は、当該技術分野で既知の有機染料または有機染料前駆体と発色現像剤とを含み得る。有用な有機染料または有機染料前駆体としては、米国特許第6,858,374号明細書(Yanaka)に記載されているような、酸解離性ラクトン骨格を有するラクトン骨格を有するフタリドおよびフルオランロイコ染料が挙げられるが、これらに限定されない。このような(f)場合により添加される添加剤は、印刷出力着色剤として使用され得、放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも1重量%~10重量%以下の量で存在し得る。
【0114】
画像形成されたネガ型平版印刷版原版は、印刷機に進む前の可読性のために、露光領域と未露光領域とで異なる色を有することが望ましい場合がある。露光領域と未露光領域との色差は、典型的には「印刷出力」または「印刷出力画像」と呼ばれる。印刷出力が濃いと、オペレータが画像形成された平版印刷版原版を視覚的に識別し、それらの原版を印刷機ユニットに適切に取り付けることが容易になる。例えば、米国特許出願公開第2009/0047599号明細書(Horneら)は、スピロラクトンまたはスピロラクタム着色剤前駆体を使用して印刷出力画像を提供することを記載している。Igarashiらによる米国特許出願公開第2020/0096865号明細書は、酸発生剤、テトラアリールボレート、酸感受性染料前駆体、および電子求引性置換基を有する芳香族ジオールの存在に起因して印刷出力を示すネガ型平版印刷版原版を記載している。
【0115】
ネガ型赤外線感受性画像形成可能層に、1種以上のフリーラジカル重合性成分、1種以上の赤外線吸収剤、開始剤組成物、1種以上の発色性化合物、ならびにそれぞれが以下の構造(P):
【化2】
で表される1種以上の化合物であって、式中、Xは、基-O-、-S-、-NH-、または-CH
2-であり、Yは、基>N-または>CH-であり、R
1は、水素、または置換もしくは非置換アルキルであり、R
2およびR
3は、独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチル、またはアセチル基であり、mおよびnは、独立して、0または1~4の整数である、化合物を含めることによって、ネガ型赤外線感受性原版について印刷出力画像を提供することも可能である。
【0116】
放射感受性画像形成可能層は、例えば米国特許第8,383,319号明細書(Huangら)、第8,105,751号明細書(Endoら)、および第9,366,962号明細書(Kamiyaら)に記載されているように、少なくとも2μmまたは少なくとも4μm、かつ20μm以下の平均粒径を有する架橋ポリマー粒子を含み得る。このような架橋ポリマー粒子は、放射感受性画像形成可能層に、親水性オーバーコート(後述)が存在する場合は該オーバーコートに、または放射感受性画像形成可能層と、親水性オーバーコートが存在する場合は、これらの両方に存在し得る。
【0117】
放射感受性画像形成可能層はまた、さまざまな他の(f)場合により添加される添加物を従来の量で含み得、これらとしては、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、コーティング性もしくは他の特性のための界面活性剤、粘度上昇剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、現像助剤、レオロジー調整剤、もしくはそれらの組み合わせ、または平版印刷の技術分野において一般的に使用される任意の他の添加物が挙げられるが、これらに限定されない。放射感受性画像形成可能層はまた、米国特許第7,429,445号明細書(Munnellyら)に記載されているように、分子量が一般に250超であるリン酸(メタ)アクリレートを含み得る。
【0118】
親水性オーバーコート:
本発明によるネガ型平版印刷版原版のいくつかの実施形態では、放射感受性画像形成可能層は、その表面に何も層が配置されない最外層であるが、原版は、親水性層(当該技術分野では親水性オーバーコート、酸素バリア層、またはトップコートとしても知られている)を放射感受性画像形成可能層上に(これらの2つの層の間に中間層を配さずに)直接配置して設計することができる。該原版は、以下に記載するいずれかの適切な現像剤を使用して、機上および機外で現像することができる。この親水性オーバーコートは、存在する場合、一般に原版の最外層である。
【0119】
このような親水性オーバーコートは、親水性オーバーコートの総乾燥重量に基づいて、少なくとも60重量%~100重量%以下の量の1種以上の膜形成水溶性ポリマーバインダーを含み得る。該膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダーは、少なくとも30%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、かつ99.9%以下のけん化度を有する変性または未変性ポリ(ビニルアルコール)を含み得る。
【0120】
さらに、1種以上の酸変性ポリ(ビニルアルコール)が、親水性オーバーコート中の膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダーとして使用され得る。例えば、少なくとも1種の変性ポリ(ビニルアルコール)が、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、ホスホン酸、およびリン酸エステル基からなる群から選択される酸基で変性され得る。このような材料の例としては、スルホン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、カルボン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、および第4級アンモニウム塩変性ポリ(ビニルアルコール)、グリコール変性ポリ(ビニルアルコール)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
親水性オーバーコートはまた、少なくとも2μmの平均粒径を有し、例えば米国特許第8,383,319号明細書(上記)および第8,105,751号明細書(上記)に記載されている架橋ポリマー粒子を含み得る。
【0122】
親水性オーバーコートは、少なくとも0.1g/m2~4g/m2未満の乾燥コーティング被覆量で、典型的には少なくとも0.15g/m2~2.5g/m2以下の乾燥コーティング被覆量で提供され得る。いくつかの実施形態では、乾燥コーティング被覆量は、0.1g/m2~1.5g/m2以下、または少なくとも0.1g/m2~0.9g/m2以下と小さい場合があり、その結果、親水性オーバーコートは比較的薄くなる。
【0123】
親水性オーバーコートは、例えば米国特許出願公開第2013/0323643号明細書(Balbinotら)に記載されているように、1種以上の膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダー中に分散した有機ワックス粒子を場合により含み得る。
【0124】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明による平版印刷版原版は、
電気化学的に粗面化されエッチングされたアルミニウム含有板、
ネガ型であり機上現像可能な赤外線感受性画像形成可能層である放射感受性画像形成可能層であって、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分;
(b)放射感受性画像形成可能層が赤外線に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物;
(c)1種以上の赤外線吸収剤;ならびに
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なる粒子状ポリマーバインダーを含む、放射感受性画像形成可能層を有し、
アクリル酸またはメタクリル酸に由来する繰り返し単位を含むポリマーを含み、少なくとも0.005g/m2~0.08g/m2以下の乾燥被覆量で存在する親水性層をさらに有する。
【0125】
ポジ型平版印刷版原版:
本発明のいくつかの実施形態は、ポジ型であり、上記の本発明のアルミニウム含有基板上に配置された1つ以上の放射感受性画像形成可能層を含む原版である。該原版のいくつかは、本発明のアルミニウム含有基板上に配置された単一の放射感受性画像形成可能層を含むが、他の原版は、本発明のアルミニウム含有基板上に配置された内側層と、内側層上に配置された外側層とを少なくとも含む2層(「二重層」)原版である。これらの層の一方または両方は、例えば、米国特許第6,352,811号明細書(Patelら)、第6,893,795号明細書(Savariar-Hauckら)、および第8,993,213号明細書(Kawauchiら)に記載されているように、放射感受性であり得る。
【0126】
本発明のポジ型平版印刷版原版は、赤外線を使用して画像形成するように設計されており、したがって、適切に赤外線を照射すると、このような露光された原版の加工(現像)に使用されるようなアルカリ溶液(すなわち、アルカリ現像液)に可溶性、分散性、または該アルカリ溶液中で除去可能である1種以上のアルカリ可溶性ポリマーに分散した1種以上の赤外線吸収剤(上記のようなもの)を含む。したがって、これらの1つ以上の層は、その照射(露光)領域において加工溶液に対する溶解特性が変化する。1種以上の赤外線吸収剤は、原版に存在する層のうち1つ以上に存在し得る。
【0127】
2層または「二重層」のポジ型平版印刷版原版の場合、内側層(下層としても知られている)は、本発明のアルミニウム含有基板上に(または該基板上に直接)配置され、外側層(上層としても知られている)は、一般に、内側層上に(または該内側層上に直接)配置される。所望であれば、内側放射感受性層と外側放射感受性層との間に中間層が存在し得る。熱画像形成後、1つ以上の層の露光領域は、アルカリ現像液に可溶性になり、除去され得る。
【0128】
「単層」および「二重層」の両方の平版印刷版原版に有用な材料(必須材料および任意材料の両方)、該原版の構造、ならびに該原版の製造方法は、当該技術分野で既知である。多くの詳細が、例えば、米国特許出願公開第2014/0047993号明細書(上記)の[0067]~[0111]に記載されている。
【0129】
平版印刷版原版の製造
本発明の放射感受性平版印刷版原版は、以下の様式で提供され得る。(ネガ型またはポジ型のいずれかの化学的性質について)上記した材料を含む放射感受性画像形成可能層配合物は、いずれかの適切な装置および手順、例えばスピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティング、または押出ホッパーコーティングを使用して、上記のように通常は連続基板ロールまたはウェブの形態の本発明のアルミニウム含有基板に塗布され得る。放射感受性画像形成可能層配合物はまた、本発明のアルミニウム含有基板上に噴霧することによっても塗布され得る。典型的には、放射感受性画像形成可能層配合物が適切な湿潤被覆量で塗布されると、該配合物は、当該技術分野で既知の適切な様式で乾燥されて以下に記載するように所望の乾燥被覆量をもたらし、それにより、放射感受性連続物品(原版)が提供される。この物品は、既知の製造プロセスを使用して個々の原版を製造することができるいずれかの適切な形態、例えばウェブの形態であり得る。
【0130】
二重層のポジ型平版印刷版原版の場合、内側層配合物が本発明のアルミニウム含有基板に塗布されると、次いで、通常は順次の連続的な製造操作で外側層配合物が塗布され得、続いて内側層と外側層の両方が乾燥される。2つの層配合物の混合は、可能な限り回避され得る。
【0131】
製造方法は、典型的には、特定の層組成物、例えば放射感受性画像形成可能層組成物に必要なさまざまな成分を適切な有機溶媒またはそれらの混合物[例えば、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフラン、および当該技術分野で容易に知られている他のもの、およびそれらの混合物]中で混合すること、得られた層配合物を連続アルミニウム含有基板ウェブに塗布すること、ならびに適切な乾燥条件下での蒸発によって1種以上の溶媒を除去することを含む。有機溶媒(またはそれらの混合物)の選択は、二重層のポジ型平版印刷版原版については、2つの層配合物がかなりの程度まで混合することがなく、外側層配合物を塗布する際に内側層配合物が溶解しないように選択され得る。このような製造上の特徴のさらなる詳細は、米国特許出願公開第2014/0047993号明細書(上記)に記載されている。
【0132】
適切な乾燥後、本発明のアルミニウム含有基板上の単層のネガ型放射感受性画像形成可能層(特に、赤外線感受性の層)の乾燥被覆量は、少なくとも0.1g/m2または少なくとも0.4g/m2、かつ2g/m2以下または4g/m2以下であり得るが、所望であれば他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0133】
単層のポジ型平版印刷版原版の場合、単一の放射感受性画像形成可能層の乾燥被覆量は、一般に、少なくとも0.5g/m2または少なくとも1g/m2、かつ2g/m2以下または2.5g/m2以下であり得るが、所望であれば他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0134】
二重層のポジ型平版印刷版原版の場合、内側層の乾燥被覆量は、少なくとも0.2g/m2または少なくとも0.5g/m2、かつ2g/m2以下または2.5g/m2以下であり得、外側層の乾燥被覆量は、一般に、少なくとも0.2g/m2または少なくとも0.3g/m2、かつ1g/m2以下または2g/m2以下または少なくとも0.3g/m2である。所望であれば、他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0135】
ネガ型平版印刷版原版の場合、放射感受性画像形成可能層の乾燥被覆量は、少なくとも0.1g/m2または少なくとも0.4g/m2、かつ2g/m2以下または4g/m2以下であり得、保護層が存在する場合、保護層の乾燥被覆量は、一般に、少なくとも0.1g/m2または少なくとも0.15g/m2であり、かつ0.9g/m2以下または2.5g/m2以下である。所望であれば、他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0136】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果は、1つ以上の放射感受性画像形成可能層と、上記の本発明のアルミニウム含有基板上に配置された上記のいずれかの任意の層とを有する放射感受性平版印刷版原版材料の連続ウェブまたはロールである。
【0137】
個々の長方形の平版印刷版原版は、この得られた連続放射感受性ウェブまたはロールから、細長く切って複数の長手方向の小片を形成することによって形成され、それぞれの小片の幅は、長方形の平版印刷版原版の一方の寸法に等しい。長さに合わせて切断する切断プロセスを使用して、長方形の平版印刷版原版のもう一方の寸法に等しい間隔で各小片を横切る横方向の切れ目を入れ、それによって正方形または長方形の形状を有する個々の原版を形成する。
【0138】
画像形成(露光)条件
使用中、本発明の放射感受性平版印刷版原版は、1つ以上の放射感受性画像形成可能層中に存在する放射吸収剤(または増感剤)に応じて、適切な露光用放射源に露光され得る。例えば、ほとんどのネガ型およびすべてのポジ型平版印刷版原版は、少なくとも750nm~1400nm以下、または少なくとも800nm~1250nm以下の範囲内のかなりの放射を放出する赤外線放射レーザーで(例えば、ダイオードレーザーのシステムにおいて)画像形成され得る。いくつかのネガ型平版印刷版原版は、適切なレーザーを使用して、適切な画像形成放射源(例えば、250nm~750nm未満)を使用して、電磁スペクトルのUV、「紫色」、または可視領域で画像形成され得る。この画像様露光により、1つ以上の放射感受性画像形成可能層において露光領域および未露光領域がもたらされる。
【0139】
画像形成は、放射生成レーザー(またはこのようなレーザーのアレイ)からの画像形成放射または露光用放射を使用して実施され得る。画像形成はまた、所望であれば同時に複数の波長の画像形成放射を使用して、例えば複数の赤外線波長を使用して実施され得る。原版を露光するために使用される1種以上のレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性およびメンテナンスが少ないことに起因して、通常は1種以上のダイオードレーザーであるが、他のレーザー、例えばガスまたは固体レーザーも使用され得る。放射画像形成のための出力、強度、および露光時間の組み合わせは、当業者には容易に明らかであろう。
【0140】
画像形成装置は、放射感受性平版印刷版原版がドラムの内側または外側円筒面に取り付けられたフラットベッドレコーダまたはドラムレコーダとして構成され得る。有用な赤外線画像形成装置の一例は、約830nmの波長の放射を放出するレーザーダイオードを含む、型番KODAK(登録商標)Trendsetterプレートセッター(Eastman Kodak Company)およびNEC AMZISetter Xシリーズ(NEC Corporation、日本)として入手可能である。他の適切な赤外線画像形成装置としては、810nmの波長で動作するScreen PlateRite 4300シリーズもしくは8600シリーズプレートセッター(Screen USA(イリノイ州シカゴ)から入手可能)、またはPanasonic Corporation(日本)製のサーマルCTPプレートセッターが挙げられる。
【0141】
赤外線の画像形成強度は、赤外線感受性画像形成可能層の感受性に応じて、少なくとも30mJ/cm2~500mJ/cm2以下、典型的には少なくとも50mJ/cm2~300mJ/cm2以下であり得る。
【0142】
有用なUVおよび「紫色」画像形成装置としては、ProSetter(Heidelberger Druckmaschinen、ドイツ)、Luxel V8/V6シリーズ(Fuji、日本)、Python(Highwater、英国)、Mako News、Mako 2、およびMako 8(ECRM、米国)、Micro(Screen、日本)、PolarisおよびAdvantage(AGFA、ベルギー)、LS Jet(Multiformat)およびSmart‘n’Easy Jet(Krause、ドイツ)、ならびにVMAXシリーズ(DotLine、ドイツ)イメージセッターとして販売されている機械が挙げられる。
【0143】
電磁スペクトルのUVから可視領域、特にUV領域(250nm~450nm)での画像形成は、少なくとも0.01mJ/cm2~0.5mJ/cm2以下の強度を使用して、少なくとも0.5kW/cm3~50kW/cm3以下の電力密度で実施され得る。
【0144】
加工(現像)および印刷
露光されたポジ型原版:
これらの原版は、露光後に、1つ以上の露光された放射感受性画像形成可能層の露光領域を除去して、本発明に従って製造された本発明のアルミニウム含有基板の親水性の外表面を露出させ、未露光領域を無傷のまま残すのに十分な時間にわたって、当該技術分野で既知の適切な現像剤および装置を使用して、典型的には機外で加工される。使用される適切な現像剤、装置、加工条件、および場合により行われる現像前または現像後処理は、当業者には容易に明らかであり、この種のいくらかの詳細は、米国特許第8,530,141号明細書(Savariar-Hauckら)、第8,632,940号明細書(Hauckら)、第8,647,811号明細書(Chechikら)、第8,846,299号明細書(Savariar-Hauckら)、第8,936,899号明細書(Hauckら)、および第8,939,080号明細書(Levanonら)に記載されている。
【0145】
画像様露光され加工されたポジ型平版印刷版原版を使用する印刷は、既知の印刷機、平版印刷インキ、湿し水、および印刷条件を使用して行われ得る。平版印刷インキは、得られた平版印刷版の平版印刷面上の残っている未露光領域に優先的に引き付けられ、露光領域では本発明のアルミニウム含有基板の親水性表面によってはじかれる。
【0146】
露光されたネガ型原版:
画像様露光の後、放射感受性画像形成可能層中に露光領域および未露光領域を有する露光されたネガ型放射感受性平版印刷版原版は適切な様式で加工され、未露光領域と、親水性オーバーコートが存在する場合は該オーバーコートが除去され、硬化した露光領域は無傷のまま残され得る。
【0147】
加工は、同じまたは異なる加工溶液(現像剤)を1回または複数回連続して塗布する際に(処理または現像工程において)、いずれかの適切な現像剤を使用して機外で実施され得る。このような1回以上の連続的な加工処理は、放射感受性画像形成可能層の未露光領域を除去して本発明のアルミニウム含有基板の最も外側にある親水性表面を露出させるのに十分であるが、同画像形成可能層中で硬化した露光領域のうちかなりの量を除去するのには不十分な長さの時間にわたって実施され得る。平版印刷中、本発明のアルミニウム含有基板の露出した親水性表面はインキをはじくが、残っている露光領域は平版印刷インキを受け入れる。
【0148】
このような機外加工の前に、露光された原版に「予熱」プロセスを施して、放射感受性画像形成可能層の露光領域をさらに硬化させ得る。このような場合により行われる予熱は、一般に少なくとも60℃~180℃以下の温度で、いずれかの既知のプロセスおよび装置を使用して実施され得る。
【0149】
上記の場合により行われる予熱に続いて、または予熱の代わりに、露光された原版を洗浄して(すすいで)、親水性オーバーコートが存在する場合はそれを除去し得る。このような場合により行われる洗浄(またはすすぎ)は、いずれかの適切な水溶液(例えば、水または界面活性剤の水溶液)を使用して、適切な温度で、当業者には容易に明らかであろう適切な時間にわたって実施され得る。
【0150】
有用な現像剤は、通常の水または配合された水溶液であり得る。配合された現像剤は、界面活性剤、有機溶媒、アルカリ剤、および表面保護剤から選択される1種以上の成分を含み得る。例えば、有用な有機溶媒としては、フェノールとエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドとの反応生成物[例えば、エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)]、ベンジルアルコール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールと炭素数6以下の酸とのエステル、ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコール、およびプロピレングリコールと炭素数6以下のアルキル基とのエーテル、例えば2-エチルエタノールおよび2-ブトキシエタノールが挙げられる。
【0151】
場合によっては、水性加工溶液を機外で使用して、未露光領域を除去することによって画像形成された原版を現像し、また、画像形成および現像(加工)された原版の印刷面全体にわたって保護層またはコーティングを提供することができる。この実施形態では、水溶液は、印刷版上の平版画像を汚染または損傷から(例えば、酸化、指紋、埃、または傷から)保護する(または「ガム引きする」)ことができるガムのように作用する。
【0152】
上記の機外加工および場合により行われる乾燥の後、得られた平版印刷版は、さらなる溶液または液体と接触することなく印刷機に取り付けられ得る。場合により、UVまたは可視放射への全面露光またはフラッド露光を伴って、または伴わずに、平版印刷版にさらに焼き付けを行う。
【0153】
印刷は、平版印刷インキおよび湿し水を適切な様式で平版印刷版の印刷面に塗布することによって行われ得る。湿し水は、露光工程および加工工程によって露出した本発明の基板の親水性表面によって取り込まれ、平版インキは、放射感受性画像形成可能層の残っている(露光)領域によって取り込まれる。次いで、平版インキを適切な受容材料(例えば、布、紙、金属、ガラス、またはプラスチック)に転写して、材料上に画像の所望の像を与える。所望であれば、中間「ブランケット」ローラーを使用して、平版印刷版から受容材料(例えば、用紙)に平版インキを転写することができる。
【0154】
画像様露光されたネガ型平版印刷版の機外加工に関するいくらかの詳細は、例えば、米国特許第8,507,182号明細書(Figovら)、第8,530,141号明細書(上記)、第8,632,940号明細書(上記)、第8,632,941号明細書(Balbinotら)、および第8,889,341号(Wernerら)に記載されている。
【0155】
機上現像および印刷:
本発明のネガ型平版印刷版原版は、機上現像可能であるように設計され得る。機上現像は、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して行われ得る。このような実施形態では、本発明による画像形成されたネガ型赤外線感受性平版印刷版原版を印刷機に取り付け、印刷操作を開始する。ネガ型赤外線感受性画像形成可能層中の未露光領域は、最初の印刷された像が作られると、適切な湿し水、平版印刷インキ、または両者の組み合わせによって除去される。水性の湿し水の典型的な成分としては、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤および湿潤剤、保湿剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤、および金属イオン封鎖剤が挙げられる。湿し水の代表例は、Varn Litho Etch 142W + Varn PAR(アルコール代替物)(イリノイ州アディソンのVarn Internationalから入手可能)である。
【0156】
適切な平版印刷機は、画像形成された平版印刷版原版を保持するための版胴、画像形成された平版印刷版原版の画像形成表面に平版印刷インキを供給することができるインキングシステム、画像形成表面に湿し水を供給することができる湿しシステム、画像形成された平版印刷版原版から平版印刷インキを転写することができるブランケット胴、ブランケット胴上に1枚以上の印刷用紙(または他の印刷可能な材料)を押圧し、それによりブランケット胴から1枚以上の印刷用紙上に平版印刷インキを転写することができる圧胴、および1枚以上の印刷用紙を圧胴に供給するための印刷用紙供給システムを含み得る。本発明は特定の型番または市販の平版印刷機に限定されないが、いくつかの有用な平版印刷機は、Heidelberg USA(1000 Gutenberg Drive,Kennesaw,GA 30144)から入手可能なHeidelberg Speedmaster 74およびSpeedmaster XL 105、Koenig & Bauer(US)(2555 Regent Boulevard Dallas,TX 75261)から入手可能なKBA Rapida 105、Komori America(5520 Meadowbrook Industrial Court,Rolling Meadows,IL 60008)から入手可能なKomori LITHRONE G40として市販されている。有用な平版印刷機およびその操作の例は、例えば、J.Michael Adams、David D.Faux、Lloyd J.Rieberによる書籍「Printing Technology、第4版」、Delmar Publishers,Inc.の第12章に記載されている。
【0157】
枚葉印刷機による典型的な印刷機の始動時には、最初に湿しローラーが係合され、取り付けられた画像形成された原版に湿し水を供給して、画像形成されたネガ型赤外線感受性画像形成可能層を少なくとも未露光領域において膨潤させる。数回回転した後、インキングローラーが係合されて、画像形成された平版印刷原版の印刷面全体を覆うように1種以上の平版印刷インキを供給する。典型的には、インキングローラーの係合の後、版胴が1~15回転させられ、印刷用紙が供給され、形成されたインキ-湿し水エマルジョンを使用して、平版印刷版からネガ型赤外線感受性画像形成可能層の未露光領域が除去され、ブランケット胴上に材料が存在する場合には該材料が除去される。印刷機は版胴の15回転を超えて操作されるため、結果的に完全に現像され、機能する平版印刷版が得られる。したがって、完全に現像された平版印刷版は、赤外線露光領域に実質的に対応するインキ受容性の画像領域と、赤外線未露光領域に実質的に対応する非インキ受容性の親水性非画像領域とを有する。
【0158】
赤外線に露光された平版印刷原版の機上現像性は、原版が赤外線感受性画像形成可能層中に1種以上の(d)ポリマーバインダーを含む場合に特に有用であり、これらの(d)ポリマーバインダーの少なくとも1種は、少なくとも50nm~400nm以下の平均直径を有する粒子として存在し得る。
【0159】
本発明は、少なくとも以下の実施形態およびそれらの組み合わせを提供するが、当業者であれば本開示の教示から理解するであろうように、特徴の他の組み合わせも本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0160】
1.アルミニウム含有基板であって、
粗面化されエッチングされた表面を有するアルミニウム含有板;
粗面化されエッチングされた表面上の内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも500nm~1,500nm以下の平均乾燥厚み(Ti)を有し、0nm超15nm未満の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層;
内側酸化アルミニウム層上の中間酸化アルミニウム層であって、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚み(Tm)を有し、少なくとも15nm~60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含み、少なくとも100個の中間細孔/μm2~2,000個の中間細孔/μm2以下の中間細孔密度(Cm)を有する、中間酸化アルミニウム層;および
中間酸化アルミニウム層上の外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも30nm~150nm以下の平均乾燥厚み(To)を有し、少なくとも5nm~35nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも100個の外側細孔/μm2~5,000個の外側細孔/μm2以下の外側細孔密度(Co)を有する、外側酸化アルミニウム層を含み、
中間酸化アルミニウム層と外側酸化アルミニウム層との組み合わせの乾燥厚みは、少なくとも120nm~420nm以下であり、
DmはDoよりも大きく、DoはDiよりも大きく、
1種以上の親水性ポリマーを含み、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量で与えられる親水性層を場合により含む、アルミニウム含有基板。
【0161】
2.平版印刷版原版であって、
アルミニウム含有基板と、
アルミニウム含有基板上に配置された放射感受性画像形成可能層とを含み、
アルミニウム含有基板は、
粗面化されエッチングされた表面を有するアルミニウム含有板;
粗面化されエッチングされた表面上の内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも500nm~1,500nm以下の平均乾燥厚み(Ti)を有し、0nm超15nm未満の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層;
内側酸化アルミニウム層上の中間酸化アルミニウム層であって、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚み(Tm)を有し、少なくとも15nm~60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含み、少なくとも100個の中間細孔/μm2~2,000個の中間細孔/μm2以下の中間細孔密度(Cm)を有する、中間酸化アルミニウム層;および
中間酸化アルミニウム層上の外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも30nm~150nm以下の平均乾燥厚み(To)を有し、少なくとも5nm~35nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも100個の外側細孔/μm2~5,000個の外側細孔/μm2以下の外側細孔密度(Co)を有する、外側酸化アルミニウム層を含み、
中間酸化アルミニウム層と外側酸化アルミニウム層との組み合わせの乾燥厚みは、少なくとも120nm~420nm以下であり、
DmはDoよりも大きく、DoはDiよりも大きく、
1種以上の親水性ポリマーを含み、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量で与えられる親水性層を場合により含む、平版印刷版原版。
【0162】
3.外側細孔密度と中間細孔密度との比(Co/Cm)が少なくとも1.1:1.0である、実施形態1または2。
【0163】
4.外側細孔密度と中間細孔密度との比(Co/Cm)が少なくとも1.5:1.0である、実施形態1~3のいずれか1つ。
【0164】
5.外側細孔密度と中間細孔密度との比(Co/Cm)が少なくとも2.0:1.0である、実施形態1~4のいずれか1つ。
【0165】
6.外側酸化アルミニウム層が、少なくとも40nm~140nm以下の平均乾燥厚み(To)を有する、実施形態1~5のいずれか1つ。
【0166】
7.内側酸化アルミニウム層が、少なくとも550nm~1,000nm以下の平均乾燥厚み(Ti)を有する、実施形態1~6のいずれか1つ。
【0167】
8.中間酸化アルミニウム層が、少なくとも70nm~280nm以下の平均乾燥厚み(Tm)を有する、実施形態1~7のいずれか1つ。
【0168】
9.中間酸化アルミニウム層の多孔度(Pm)が、以下の式:
0.15≦Pm≦0.65
に従って定義され、式中、Pmは、3.14(Cm)(Dm
2)/4,000,000であると定義され、
外側酸化アルミニウム層の多孔度(Po)が、以下の式:
0.30≦Po≦0.80
に従って定義され、式中、Poは、3.14(Co)(Do
2)/4,000,000であると定義される、実施形態1~8のいずれか1つ。
【0169】
10.中間酸化アルミニウム層の多孔度(Pm)が、以下の式:
0.15≦Pm≦0.55
に従って定義され、式中、Pmは、3.14(Cm)(Dm
2)/4,000,000であると定義され、
外側酸化アルミニウム層の多孔度(Po)が、以下の式:
0.40≦Po≦0.75
に従って定義され、式中、Poは、3.14(Co)(Do
2)/4,000,000であると定義される、実施形態1~9のいずれか1つ。
【0170】
11.Doが少なくとも10nm~30nm以下である、実施形態1~10のいずれか1つ。
【0171】
12.Dmが少なくとも17nm~55nm以下である、実施形態1~11のいずれか1つ。
【0172】
13.1種以上の水溶性ポリマーを含む親水性層をさらに含む、実施形態1~12のいずれか1つ。
【0173】
14.ロール形態である、実施形態1および3~13のいずれか1つ。
【0174】
15.放射感受性画像形成可能層が赤外線感受性であり、1種以上の赤外線吸収剤を含む、実施形態2~14のいずれか1つ。
【0175】
16.放射感受性画像形成可能層がポジ型であり、放射に露光されると基板から除去可能な1種以上のアルカリ可溶性ポリマーを含む、実施形態15。
【0176】
17.放射感受性画像形成可能層がネガ型であり、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分;
(b)放射感受性画像形成可能層が放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物;
(c)1種以上の赤外線吸収剤;ならびに場合により
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダーを含む、実施形態15。
【0177】
18.放射感受性層がネガ型であり機上現像可能である、実施形態2~15および17のいずれか1つ。
【0178】
19.放射感受性層が、粒子形態である(d)ポリマーバインダーをさらに含む、実施形態18。
【0179】
20.ネガ型であり、放射感受性画像形成可能層上に配置された親水性オーバーコートをさらに含む、実施形態17~19のいずれか1つ。
【0180】
21.平版印刷版を提供する方法であって、
実施形態2~20のいずれか1つに記載の平版印刷版原版を画像形成放射に画像様露光して、露光領域および未露光領域を有する画像様露光された画像形成可能層を形成する工程、ならびに
画像様露光された画像形成可能層から、露光領域および未露光領域の両方ではなく、露光領域または未露光領域のいずれかを除去して、平版印刷版を形成する工程
を含む、方法。
【0181】
22.画像様露光された画像形成可能層中の未露光領域が除去される、実施形態21に記載の方法。
【0182】
23.画像様露光された画像形成可能層中の未露光領域が、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水の両方を使用して機上で除去される、実施形態22に記載の方法。
【0183】
24.画像様露光が赤外線を使用して行われる、実施形態21~23のいずれか1つに記載の方法。
【0184】
25.実施形態2~20のいずれか1つに記載の平版印刷版原版の製造方法であって、
A)電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面を有するアルミニウム含有板を提供する工程、
B)アルミニウム含有板をリン酸を使用する第1の陽極酸化プロセスに供して、電気化学的または機械的に粗面化されエッチングされた表面上に外側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、外側酸化アルミニウム層は、少なくとも30nm~150nm以下の平均乾燥厚み(To)を有し、少なくとも5nm~35nm以下の平均外側微細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも100個の外側細孔/μm2~5,000個の外側細孔/μm2以下の外側細孔密度(Co)を有する、工程、
C)場合により、外側酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
D)アルミニウム含有板をリン酸を使用する第2の陽極酸化プロセスに供して、外側酸化アルミニウム層の下層に中間酸化アルミニウム層を形成する工程であって、中間酸化アルミニウム層は、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚み(Tm)を有し、少なくとも15nm~60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含み、少なくとも100個の中間細孔/μm2~2,000個の中間細孔/μm2以下の中間細孔密度(Cm)を有する、工程、
E)場合により、中間酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
F)アルミニウム含有板を硫酸を使用する第3の陽極酸化プロセスに供して、中間酸化アルミニウム層の下層に内側酸化アルミニウム層を形成し、アルミニウム含有基板を形成する工程であって、内側酸化アルミニウム層は、少なくとも500nm~1,500nm以下の平均乾燥厚み(Ti)を有し、0nm超15nm未満の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含み、
DmはDoよりも大きく、DoはDiよりも大きく、中間酸化アルミニウム層と外側酸化アルミニウム層との組み合わせの乾燥厚みは、少なくとも120nm~420nm以下である、工程、
G)場合により、内側酸化アルミニウム層をすすぐ工程、
H)場合により、1種以上の親水性ポリマーを含む親水性組成物を塗布して、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量を与える工程、および
I)アルミニウム含有基板上に放射感受性画像形成可能層を配置する工程
を順に含む、方法。
【0185】
以下の実施例は、本発明の実施を説明するために提供され、決して限定することを意図するものではない。
【0186】
本発明の実施例1~16:
本発明の実施例1~16で使用される本発明のアルミニウム含有基板を、上記の一般的なプロセスに従って製造した。厚み0.28mmのHydro 1052アルミニウム合金小片またはウェブ(Norsk Hydro ASA、ノルウェーから入手可能)をアルミニウム含有「板」材または支持体として使用した。予備エッチング工程およびポストエッチング工程の両方を、既知の条件下でアルカリ溶液中で行った。約23℃の塩酸溶液中で電気化学的手段により粗面化(または粒状化)を行い、アルミニウム含有支持体の表面の算術平均粗さ(Ra)0.36μmを得た。これらの処理工程は、平版印刷版原版の製造に使用される典型的な製造ラインで連続プロセスで行った。次いで、得られた粗面化されエッチングされたアルミニウム含有支持体を水ですすぎ、乾燥させ、個々の粗面化されエッチングされたアルミニウム含有シートに切断した。次いで、個々のシートを個々の連続陽極酸化プロセスで3回陽極酸化した。各陽極酸化プロセス浴は、約100リットルの陽極酸化溶液を含有していた。本発明の実施例1~16のそれぞれの第1、第2、および第3の陽極酸化条件を、以下の表Iに示す。外側酸化アルミニウム層を形成するための第1の陽極酸化プロセスおよび中間酸化アルミニウム層を形成するための第2の陽極酸化プロセスは、電解質としてリン酸を使用して実施し、内側酸化アルミニウム層を形成するための第3の陽極酸化プロセスは、電解質として硫酸を使用して実施した。
【0187】
【0188】
【0189】
第1、第2、および第3の陽極酸化プロセスによって提供された各酸化アルミニウム層の細孔構造を、50,000X~150,000Xの倍率でHitachi S4100で行ったFE-SEM顕微鏡法によって評価した。陽極酸化アルミニウム含有基板の外表面に対して垂直に上面SEM顕微鏡写真を撮影した。各基板の小さな試料を180°折り曲げ、破断端部を調べることによって、基板の外表面と平行に断面SEM顕微鏡写真を撮影した。内側、中間、および外側酸化アルミニウム層のそれぞれの乾燥平均層厚み、すなわち、それぞれTi、Tm、およびToを、いくつかの断面画像から測定し、本発明の実施例の各基板の乾燥平均層厚みを以下の表IIに示す。
【0190】
アルミニウム含有基板における内側酸化アルミニウム層の内側細孔径(Di)は、断面SEM顕微鏡写真から推定した。さらに、断面SEM顕微鏡写真から、内側細孔径(Di)が内側酸化アルミニウム層の深さの範囲で有意に変化しないことが観察された。外側酸化アルミニウムの外側細孔径(Do)は、上面SEM顕微鏡写真から推定した。異なる試料位置で撮影した3枚の上面SEM顕微鏡写真における200個の細孔から平均外側細孔径(Do)を決定した。さらに、断面SEM顕微鏡写真から、外側細孔径(Do)が外側酸化アルミニウム層の深さの範囲で有意に変化しないことが観察された。同様に、中間酸化アルミニウム層の平均中間細孔径(Dm)は、スパッタリング処理によって外側酸化アルミニウム層を除去した後に、異なる試料位置で撮影した3枚の上面SEM顕微鏡写真における200個の細孔から推定した。このスパッタリング処理では、スパッタビーム(Ar+イオン)を本発明のアルミニウム含有基板の試料に、表面法線に対して45°の角度で十分な期間にわたって当てた。本発明のアルミニウム含有基板試料を90°回転させた後ごとにスパッタリング処理を3回繰り返して、SEM観察領域の表面全体で均一な除去を達成した。さらに、断面SEM顕微鏡写真から、中間細孔径(Dm)が中間酸化アルミニウム層の深さの範囲で有意に変化しないことが観察された。
【0191】
外側酸化アルミニウム層の外側細孔密度(Co)は、上面SEM顕微鏡写真における本発明のアルミニウム含有基板の投影表面積当たりの細孔を数えることによって決定した。外側酸化アルミニウム層の多孔度は、本発明のアルミニウム含有基板の最表面に平行な投影表面積に対する、上面SEM顕微鏡写真において細孔が占める面積として定義される。同様に、中間酸化アルミニウム層の中間細孔密度(Cm)は、スパッタリング処理(上記)によって外側酸化アルミニウム層を除去した後に、上面SEM顕微鏡写真における本発明のアルミニウム含有基板の投影表面積当たりの細孔を数えることによって決定した。
【0192】
【0193】
【0194】
このようにして得られた粗面化され、エッチングされ、陽極酸化されたアルミニウム含有基板のそれぞれをさらに処理し(「陽極酸化後処理」としても知られている)、以下の表IIIに示す成分を有する配合物を使用して親水性層を提供した。この配合物をバーコーターを使用して塗布し、120℃で40秒間乾燥し、次いで20~27℃に冷却した結果、0.03g/m2の親水性層の乾燥被覆量が得られた。これらの実施例ではケイ酸塩処理を使用しなかった。
【0195】
【0196】
本発明の実施例1~16のアルミニウム含有基板を使用し、該基板を以下の表IVおよびVに記載した成分を有するネガ型赤外線感受性画像形成可能層配合物でバーコーターを使用してコーティングすることによって、ネガ型平版印刷版原版を本発明に従って製造した。これにより、50℃で60秒間乾燥した後に0.9g/m2のネガ型赤外線感受性画像形成可能層の乾燥コーティング重量を得た。
【0197】
【0198】
【0199】
得られた本発明の平版印刷版原版のそれぞれを、以下に記載する試験方法を使用して、印刷寿命、機上現像性、インキと水とのバランス(リスタートトーニング試験)、および耐擦傷性に関して評価し、結果を以下の表VIに示す。
【0200】
印刷寿命評価:
印刷寿命を評価するために、各平版印刷版原版を、Trendsetter 800 III Quantum(Eastman Kodak Companyから入手可能)を使用して120mJ/cm2で画像様露光し、次いで、間に現像プロセスを行わずにHeidelberg Speedmaster SM 74印刷機(Heidelbergから入手可能)に取り付けた。換言すれば、印刷機を用いて機上でそれぞれを現像した。印刷機は、Varn Supreme 6038 + Par湿し水およびOF Kodak Kreide黒色平版印刷インキ(Janecke+Schneemann Druckfarben GmbH)を用いて操作した。印刷寿命の印刷試験は、得られた各平版印刷版で15万刷まで実施した。印刷を継続しながら、平版印刷版を徐々に摩耗させた。
【0201】
各平版印刷版の「印刷寿命」は、50% FM20スクリーンで印刷された用紙の色調値が1000番目の用紙で得られた色調値の70%以下に減少するまでに印刷された用紙の数として定義される。色調値の測定には、Techkon Spectro Densスペクトル濃度計を使用し、結果を以下のようにスコア化した。
A:8万枚以上
B:6万枚以上8万枚未満
C:4万枚以上6万枚未満
D:2万枚以上4万枚未満
E:1万枚以上2万枚未満
F:1万枚未満
【0202】
機上現像性:
印刷寿命試験と同じ露光および印刷機条件下で機上現像性を評価したが、各平版印刷版について最初の1000枚の印刷用紙のみを評価し、印刷版全体を120mJ/cm2で露光するのではなく、各原版をセグメントに分けて50mJ/cm2~300mJ/cm2の異なるエネルギーで露光した。最初の10回転では、印刷機を湿し水のみで操作し、その後平版インキを平版印刷版に供給し、印刷用紙を機械に供給した。機上現像プロセス中に、放射感受性画像形成可能層の未露光領域は、最初は平版インキを印刷用紙に転写した。未露光領域(非画像領域に対応する)で印刷用紙上の平版インキ濃度が肉眼で見えなくなったときに機上現像を終了し、以下のようにスコア化した。
A:用紙5枚以下で現像終了;
B:用紙5枚超10枚以下で現像終了;
C:用紙10枚超15枚以下で現像終了;
D:用紙15枚超30枚以下で現像終了;
E:用紙30枚超50枚以下で現像終了;
F:用紙50枚以内では機上現像不可
【0203】
耐擦傷性:
耐擦傷性を評価するために、高耐久性精練パッド(家庭用洗浄用に販売)を直径50mmの円形の重りの下に置き、600mm×200mmの長方形の形状に切断した各平版印刷版原版のネガ型放射感受性画像形成可能層側の上で0.2m/sの一定速度で引っ張った。100g、300g、600g、900g、および1200gの異なる重りを使用して、各平版印刷版原版の異なる領域でこの手順を繰り返した。その後、原版を100mlのCuSO4溶液に20℃で60秒間浸漬した。この溶液中でCuSO4は、擦り傷の中で露出したむき出しのアルミニウム金属と反応し、これにより擦り傷は茶色がかった色になった。CuSO4溶液は、151gのCuSO4*5H2Oを800mlの1.0モル濃度のHClに溶解し、次いで、得られた溶液を等量の脱イオン水で希釈することによって得た。このようにして処理された各平版印刷版原版を目視で評価し、個々の茶色がかった擦り傷の総数を決定した。ここで、重りのうち1つでの1回の実施において擦り傷が10個以下であれば実際の数として記録し、重りのうち1つでの1回の実施において擦り傷が10個を超えれば「20」として数えた。評価には以下のスコア化方法を使用した。
A:30未満の擦り傷;
B:30以上40未満の擦り傷;
C:40以上50未満の擦り傷;
D:50以上60未満の擦り傷;
E:60以上70未満の擦り傷;
F:70以上の擦り傷。
【0204】
リスタートトーニング試験
リスタートトーニングを評価するために、印刷寿命試験について記載したのと同じ露光条件を適用した。露光された平版印刷版の試料をSpeedMaster SX 52印刷機に取り付け、Bottcher fount S-3021湿し水およびOF Kodak Kreide黒色平版印刷インキ(Janecke+Schneemann Druckfarben GmbH)を使用して機上で現像した。3千刷の後、後湿しなしに印刷機を停止した。15分後、印刷版の予備湿しなしにリスタートトーニングを試験した。リスタートトーニング試験のために、含水量を塗布限界近くで操作して、リスタートトーニングにおける差を引き立たせた。大型スキャナを使用し、続いて特定の領域での輝度を分析することによって印刷用紙を評価した。非画像領域および20μmの格子状部を分析した。特定の領域の輝度が最大値に達したとき、印刷版を汚れなしと評価し、結果を以下のようにスコア化した。
A:20枚未満;
B:20枚以上30枚未満;
C:30枚以上40枚未満;
D:40枚以上50枚未満;
E:50枚以上60枚未満;
F:60枚以上。
【0205】
【0206】
表VIに示す結果は、本発明の実施例1~16の原版に使用されるアルミニウム含有基板が、優れた印刷寿命、迅速な機上現像性、印刷再開中の優れたインキと水とのバランス、および良好な耐擦傷性を与えたことを示している。15nm未満の内側細孔径(Di)および少なくとも550nmの内側層厚み(Ti)を有する、アルミニウム含有基板中の内側酸化アルミニウム層で構成された原版は、全体的に良好な耐擦傷性を示した。内側層厚み(Ti)を大きくすると(>700nm)、耐擦傷性がより向上した。外側酸化アルミニウム層の層厚(To)および中間酸化アルミニウム層の層厚(Tm)も耐擦傷性に寄与したが、その程度はより小さかった。
【0207】
外側酸化アルミニウム層の平均細孔径(Do)が24nm未満であり、外側層厚み(To)が150nm未満である場合に、効果的な機上現像が達成された。機上現像は、Toが120nm未満である場合にさらに改善された。
【0208】
印刷再開中のインキ-水のバランスは、アルミニウム含有基板がDm>Do>Diの関係によって表される3つの酸化アルミニウム層の細孔径を有し、外側酸化アルミニウム乾燥層厚み(To)が120nm未満であり、その外側細孔径(Do)が24nm未満である原版について優れていた。
【0209】
外側酸化アルミニウム層と中間酸化アルミニウム層との累積(合計)乾燥層厚み(To+Tm)(2つの酸化アルミニウム層の間に存在し得る酸化アルミニウム遷移相を含む)が120nm超であり、内側酸化アルミニウム層が存在する場合に、良好な印刷寿命が得られた。外側酸化アルミニウム層と中間酸化アルミニウム層との累積乾燥層厚み(To+Tm)(2つの酸化アルミニウム層の間に存在し得る酸化アルミニウム遷移相を含む)が150nm超であり、外側酸化アルミニウム層の平均外側細孔径(Do)が15nm超であり、内側酸化アルミニウム層の厚み(Ti)が600nm超である場合に、印刷寿命が優れていた。
【0210】
比較例1~10:
以下にCE1~CE10と表示した比較例の平版印刷版のアルミニウム含有基板および原版を、粗面化されエッチングされた基板を以下の表VIIに記載のパラメータを使用して陽極酸化したことを除いて、本発明の実施例1~16について上記したのと同様に製造した。本発明のアルミニウム含有基板の利点を示すために、比較例のアルミニウム含有基板の大部分は、さまざまな先行技術の教示に従って、1つまたは2つの酸化アルミニウム層のみを有するように設計した。例えば、CE1、CE5、CE6、およびCE8で使用される原版は、単一の酸化アルミニウム層を含むアルミニウム含有基板で構成され、CE2、CE3、CE4、およびCE7で使用される原版は、2つの酸化アルミニウム層を有するアルミニウム含有基板で構成された。しかしながら、CE9およびCE10に使用された原版は、3つの酸化アルミニウム層を有するアルミニウム含有基板で構成されたが、これらの3つの酸化アルミニウム層の組み合わせの特徴は、本発明の範囲外であった。
【0211】
【0212】
CE1~CE10の原版を構成するために製造され使用された平版印刷版の基板を、本発明の実施例1~16の本発明のアルミニウム含有基板および原版を評価するための上記の技法と同じ技法を用いて評価し、決定された構造的特徴を以下の表VIIIに示す。
【0213】
【0214】
【0215】
上記の比較例のアルミニウム含有基板CE1~CE10を使用して、本発明の実施例1~16について上記した親水性層配合物およびネガ型放射感受性画像形成可能層配合物を塗布することにより、CE1~CE10の比較例の原版を製造した。得られた平版印刷版原版を画像様露光し(適切な場合)、本発明の実施例1~16について上記したのと同じ手順および評価試験を使用して評価した。これらの評価の結果を以下の表IXに示す。
【0216】
【0217】
本発明の範囲外である比較例CE1~CE10について表IXに示す結果は、本発明のアルミニウム含有基板を含む本発明の実施例1~16から得られた結果に対する、各比較例の原版についての1つ以上の欠点を明らかにしている。比較例は、内側酸化アルミニウム層がない(CE2、CE5、CE6、およびCE8)か、または内側酸化アルミニウム層が十分に厚くない(CE9)かのいずれかのために、不十分な耐擦傷性を示した。
【0218】
印刷再開中のインキと水とのバランスは、CE4およびCE6~CE8について優れてはいなかった。これは、アルミニウム含有基板が外側酸化アルミニウム層または中間酸化アルミニウム層のみを含み、両方の層を含んではいなかったためである。外側酸化アルミニウム層(中程度の細孔径)がない場合、かわって最表面となる中間酸化アルミニウム層の細孔径が大きいため、リスタートトーニング挙動が特に悪化した。比較例の原版はまた、外側酸化アルミニウム層と中間酸化アルミニウム層との累積層厚み(Tm+To)(2つの酸化アルミニウム層の間に存在し得る酸化アルミニウム遷移相を含む)が120nm未満である場合に、不十分な印刷寿命を示した(CE1、CE3、およびCE5参照)。外側酸化アルミニウム層がなく、したがって細孔径の大きい中間酸化アルミニウム層が最外層のアルミニウム表面として露光された場合、機上現像性は不十分になった(CE7およびCE8参照)。
【0219】
3つの酸化アルミニウム層を有するアルミニウム含有基板の機上現像性も、外側酸化アルミニウム層が24nm超の平均細孔径(Do)および150nm超の厚み(To)で形成された場合には優れてはいなかった(CE10)。