(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】数値制御装置、数値制御システム、プログラム及び数値制御方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/401 20060101AFI20240709BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G05B19/401
B23Q17/22 B
(21)【出願番号】P 2022559176
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039552
(87)【国際公開番号】W WO2022092115
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2020183694
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大稀
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-122939(JP,A)
【文献】特開平09-308979(JP,A)
【文献】特開2010-076536(JP,A)
【文献】特開2009-255642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/401
B23Q 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の対象と第2の対象との距離を目標距離に近付けるように制御する距離制御部と、
前記距離を計測する距離センサーが出力する前記距離によって変化する第1の信号から変換された、前記距離を示す
第2の信号をフィルターにかけるフィルター部と、
前記
第1の信号と前記距離との関係から求められる時定数を前記目標距離に基づいて決定する決定部と、
前記フィルターの時定数を、前記決定部によって決定された前記時定数に設定する設定部と、を備え
、
前記設定部は、前記距離と前記目標距離の差の符号が反転した場合、前記差が所定よりも小さくなった場合、又は前記距離が縮まる速度が所定よりも小さくなった場合に、前記フィルターの時定数を、前記決定部によって決定された前記時定数に設定する数値制御装置。
【請求項2】
前記関係を示す相関テーブルを生成する相関テーブル生成部と、
前記
第1の信号と前記相関テーブルに基づいて前記距離を求める変位量演算部と、をさらに備え、
前記決定部は、前記関係及び前記目標距離に基づいて前記時定数を算出することで、前記時定数を決定する、請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
距離センサー及び数値制御装置を含み、
前記距離センサーは、第1の対象と第2の対象との距離によって変化する第1の信号を出力し、
前記第1の信号を、前記距離を示す第2の信号に変換する変換部を備え、
前記数値制御装置は、
前記距離を目標距離に近付けるように制御する距離制御部と、
前
記第2の信号をフィルターにかけるフィルター部と、
前記第1の信号と前記距離との関係から求められる時定数を前記目標距離に基づいて決定する決定部と、
前記フィルターの時定数を、前記決定部によって決定された前記時定数に設定する設定部と、を備え
、
前記設定部は、前記距離と前記目標距離の差の符号が反転した場合、前記差が所定よりも小さくなった場合、又は前記距離が縮まる速度が所定よりも小さくなった場合に、前記フィルターの時定数を、前記決定部によって決定された前記時定数に設定する数値制御システム。
【請求項4】
数値制御装置が備えるプロセッサーを、
第1の対象と第2の対象との距離を目標距離に近付けるように制御する制御部と、
前記距離を計測する距離センサーが出力する前記距離によって変化する第1の信号から変換された、前記距離を示す
第2の信号をフィルターにかけるフィルター部と、
前記
第1の信号と前記距離との関係から求められる時定数を前記目標距離に基づいて決定する決定部と、
前記フィルターの時定数を、前記決定部によって決定された前記時定数に設定する設定部と、して機能させ
、
前記設定部は、前記距離と前記目標距離の差の符号が反転した場合、前記差が所定よりも小さくなった場合、又は前記距離が縮まる速度が所定よりも小さくなった場合に、前記フィルターの時定数を、前記決定部によって決定された前記時定数に設定するプログラム。
【請求項5】
第1の対象と第2の対象との距離を目標距離に近付けるように制御し、
前記距離と前記目標距離の差の符号が反転した場合、前記差が所定よりも小さくなった場合、又は前記距離が縮まる速度が所定よりも小さくなった場合、フィルターの時定数を、前記距離を計測する距離センサー
が出力
する前記距離によって変化する第1の信号と前記距離との関係及び前記目標距離に基づき決定し
た時定数に設定し、
前記第1の信号から変換された、前記距離を示す
第2の信号にフィルターをかける、数値制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置、数値制御システム、プログラム及び数値制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御装置は、加工対象物(ワーク)の表面などの対象までの距離を、ギャップセンサーなどを用いて計測する場合がある。ギャップセンサーの出力-距離特性が非線形であるため、距離の変化に対する出力の変化量(傾き)は、距離によって異なる。したがって、特性の傾きが大きくなるような距離領域では、ギャップセンサーの出力値に変動があった場合、出力値から変換される距離の値も大きく変動する。このため、このような距離領域における距離計測は、外乱成分(ノイズ)などの影響を受けやすい。また、数値制御装置は、このようなノイズの影響を受けた計測値を用いて機械の制御を行うことで、機械に振動などを生じさせる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、距離計測においてノイズの影響を防ぐことができる数値制御装置及び数値制御装置、数値制御システム、プログラム及び数値制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の数値制御装置は、距離制御部、フィルター部、決定部及び設定部を備える。距離制御部は、第1の対象と第2の対象との距離を目標距離に近付けるように制御する。フィルター部は、前記距離を計測する距離センサーが出力する前記距離によって変化する第1の信号から変換された、前記距離を示す第2の信号をフィルターにかける。決定部は、前記第1の信号と前記距離との関係から求められる時定数を前記目標距離に基づいて決定する。設定部は、前記フィルターの時定数を、前記決定部によって決定された前記時定数に設定する。
【発明の効果】
【0006】
一態様によれば、距離計測においてノイズの影響を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る数値制御システム及び当該数値制御システムに含まれる構成要素の要部構成を示すブロック図。
【
図2】ギャップセンサーの、センサー信号-変位量特性の一例を示す図。
【
図3】
図1中の制御部による第1実施形態に係る処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】
図1中の制御部による第2実施形態に係る処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、いくつかの実施形態に係る数値制御システムについて図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態の説明に用いる各図面は、各部の縮尺を適宜変更している場合がある。また、以下の実施形態の説明に用いる各図面は、説明のため、構成を省略して示している場合がある。また、各図面及び本明細書中において、同一の符号は同様の要素を示す。
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る数値制御システム1及び数値制御システム1に含まれる構成要素の要部構成の一例を示すブロック図である。数値制御システム1は、数値制御装置100が工作機械200などに対してCNC(computerized numerical control)(コンピューター数値制御)を行うシステムである。数値制御システム1は、一例として、数値制御装置100、ギャップセンサー203及び工作機械200を含む。
【0009】
数値制御装置100は、工作機械200などに対するCNCを行う装置である。数値制御装置100は、一例として、制御部110、ROM(read-only memory)120、RAM(random-access memory)130、補助記憶装置140及び制御インターフェース150を含む。そして、バス160などが、これら各部を接続する。
【0010】
制御部110は、数値制御装置100の動作に必要な演算及び制御などの処理を行うコンピューターの中枢部分に相当する。制御部110は、例えば、CPU(central processing unit)、MPU(micro processing unit)、SoC(system on a chip)、DSP(digital signal processor)、GPU(graphics processing unit)、ASIC(application specific integrated circuit)、PLD(programmable logic device)又はFPGA(field-programmable gate array)などである。あるいは、制御部110は、これらのうちの複数を組み合わせたものである。制御部110は、ROM120又は補助記憶装置140などに記憶されたファームウェア、システムソフトウェア及びアプリケーションソフトウェアなどのプログラムに基づいて、数値制御装置100の各種の機能を実現するべく各部を制御する。また、制御部110は、当該プログラムに基づいて後述する処理を実行する。制御部110は、当該プログラムに基づき、一例として相関テーブル生成部111、変位量演算部112、時定数演算部113、時定数切替え部114、フィルター部115及びギャップ制御部116として機能する。これら各部については後述する。なお、プログラムの一部又は全部は、制御部110の回路内に組み込まれていても良い。
【0011】
ROM120は、制御部110を中枢とするコンピューターの主記憶装置に相当する。ROM120は、専らデータの読み出しに用いられる不揮発性メモリである。ROM120は、上記のプログラムのうち、例えばファームウェアなどを記憶する。また、ROM120は、制御部110が各種の処理を行う上で使用するデータなども記憶する。
【0012】
RAM130は、制御部110を中枢とするコンピューターの主記憶装置に相当する。RAM130は、データの読み書きに用いられるメモリである。RAM130は、制御部110が各種の処理を行う上で一時的に使用するデータを記憶するワークエリアなどとして利用される。RAM130は、典型的には揮発性メモリである。
【0013】
補助記憶装置140は、制御部110を中枢とするコンピューターの補助記憶装置に相当する。補助記憶装置140は、例えばEEPROM(electric erasable programmable read-only memory)、HDD(hard disk drive)又はフラッシュメモリなどである。補助記憶装置140は、上記のプログラムのうち、例えば、システムソフトウェア及びアプリケーションソフトウェアなどを記憶する。また、補助記憶装置140は、制御部110が各種の処理を行う上で使用するデータ、制御部110での処理によって生成されたデータ及び各種の設定値などを記憶する。
【0014】
制御インターフェース150は、数値制御装置100が各装置と通信してするためのインターフェースである。数値制御装置100は、制御インターフェース150を介して加工装置300を制御する。また、数値制御装置100は、制御インターフェース150を介してギャップセンサー203が出力する信号(以下「センサー信号」という。)の入力を受ける。なお、センサー信号は、例えば、電圧又は当該電圧の値を示すデータ信号などである。あるいは、センサー信号は、電流又は当該電流の値を示すデータ信号などであっても良い。
【0015】
バス160は、コントロールバス、アドレスバス及びデータバスなどを含み、数値制御装置100の各部で授受される信号を伝送する。
【0016】
工作機械200は、一例として、数値制御装置100による制御に基づき、ワークWに対してレーザー加工又は切削加工などの加工を行う装置である。工作機械200は、一例として、固定具201、加工ヘッド202及びギャップセンサー203を備える。
【0017】
固定具201は、ワークWを固定する装置である。
加工ヘッド202は、例えば、ワークWに対する加工を行うための工具などを備える。また、加工ヘッド202は、ギャップセンサー203が取り付けられている。
【0018】
工作機械200は、数値制御装置100による制御に基づきワークWと加工ヘッド202との距離を変化させる機能を有する。この際、工作機械200は、固定具201及び加工ヘッド202の少なくともいずれかを移動させることで、ワークWと加工ヘッド202との距離を変化させる。なお、ワークWは、第1の対象の一例である。加工ヘッド202又はギャップセンサー203は、第2の対象の例である。
【0019】
ギャップセンサー203は、ギャップセンサー203又は加工ヘッド202からワークWまでの距離(ギャップ量)を計測するためのセンサーである。あるいは、ギャップセンサー203は、ギャップセンサー203又は加工ヘッド202から基準位置までの距離(変位量)を計測するためのセンサーである。ここで、基準位置とは、ワークW表面から所定の距離h離れた位置である。したがって、変位量は、変位量=(ギャップ量-h)の関係を有する。以下、変位量を用いて各処理を行う例を説明を行うが、数値制御システム1は、ギャップ量を用いて同様の処理を行う態様であっても良い。
ギャップセンサー203が出力するセンサー信号の大きさは、変位量によって変化する。例えば、センサー信号の大きさは、変位量が大きいほど大きくなる。センサー信号は、制御インターフェース150を介して数値制御装置100に入力する。また、ギャップセンサー203が距離を計測する対象は、例えばワークWの表面である。ギャップセンサー203としては、例えば、渦電流方式、静電容量方式、レーザーなどを用いた光学方式、又は超音波方式などの種々の方式の距離センサーを用いることができる。
【0020】
図2を用いてギャップセンサー203の特性について説明する。
図2は、ギャップセンサー203の、センサー信号-変位量特性の一例を示す図である。
図2に示すグラフは、縦軸が変位量g[mm]、横軸がセンサー信号V[V(ボルト)]を示す。なお、
図2に示すワークWは、一部を省略して示している。また、
図2に示すワークWの形状は一例である。
ギャップセンサー203は一例としてグラフGで示すような非線形の特性を示す。ギャップセンサー203の、変位量P1におけるセンサー信号の変化量に対する変位量の変化量の比(傾き)は、傾きm1である。そして、ギャップセンサー203の変位量P2における傾きは、傾きm2である。ここで、P1
<P2、m1
<m2である。このように、グラフGは、変位量が大きくなるほど傾きmも大きくなる。すなわち、ギャップセンサー203は、変位量が大きいほど、変位量の変化量に対するセンサー信号の変化量の比が大きくなる。また、
図2には、変位量P1におけるセンサー信号VをV1、変位量P2におけるセンサー信号VをV2として示している。
【0021】
制御部110が機能する相関テーブル生成部111、変位量演算部112、時定数演算部113、時定数切替え部114、フィルター部115及びギャップ制御部116について説明する。
相関テーブル生成部111は、センサー信号と変位量の関係を示す相関テーブルTを予め生成する。相関テーブルTは、例えば、
図2に示すような関係をテーブルの形で示す。また、相関テーブル生成部111は、生成した相関テーブルTを補助記憶装置140などに記憶する。ただし、制御部110は、相関テーブル生成部111で相関テーブルTを生成せず、数値制御装置100の外部で生成された相関テーブルを補助記憶装置140などに記憶しても良い。
なお、相関テーブル生成部111は、相関テーブルTに代えて、センサー信号と変位量の関係を示す関数を生成しても良い。補助記憶装置140は、相関テーブルTに代えて当該関数を記憶しても良い。
【0022】
変位量演算部112は、ギャップセンサー203から変位量演算部112に入力されるセンサー信号を用いて変位量を求める演算を行う。すなわち、変位量演算部112は、変位量演算部112に入力されるセンサー信号に対し、相関テーブル生成部111を用いて変位量に変換する。また、変位量演算部112は、求めた変位量を信号として出力する。なお、センサー信号は、例えば、所定の時間ごとに数値制御装置100に次々と入力される。変位量演算部112は、その一部又は全部を変位量に変換して出力する。なお、変位量演算部112は、センサー信号を、変位量を示す信号に変換する変換部の一例である。また、センサー信号は、距離によって変化する第1の信号の一例である。変位量を示す信号は、距離を示す第2の信号の一例である。
【0023】
時定数演算部113は、フィルター部115が使用する一次遅れフィルター(ローパスフィルター)の時定数を目標変位量(目標距離)などに基づいて求める。なお、目標変位量は、アプローチにおける変位量の目標値である。数値制御装置100は、変位量を目標変位量に近付けるよう制御を行う。時定数演算部113は、求めた時定数を示す信号を出力する。なお、時定数演算部113は、目標変位量に基づき一次遅れフィルターの時定数を決定する決定部の一例である。
【0024】
時定数切替え部114は、フィルター部115が使用する一次遅れフィルターの時定数を、時定数演算部113が求めた時定数の値に設定する(切り替える)。なお、時定数切替え部114は、一次遅れフィルターの時定数を、時定数演算部113によって決定された時定数に設定する設定部の一例である。
【0025】
フィルター部115は、一次遅れフィルターを備える。フィルター部115は、変位量演算部112が出力する変位量を一次遅れフィルターに入力する。これにより、フィルター部115は、当該変位量から、当該一次遅れフィルターの遮断周波数より高い周波数成分のノイズなどを取り除く。フィルター部115は、一次遅れフィルターから出力される変位量信号を出力する。なお、フィルターの出力は、一般的に、フィルター出力=(前回のフィルター出力+(目標値-前回のフィルター出力)×制御周期÷時定数)となる。
【0026】
ギャップ制御部116は、フィルター部115が出力する変位量に基づき、変位量を目標変位量に近付けるように、工作機械200を制御して、加工ヘッド202などを制御する。なお、ギャップ制御部116は、距離制御部の一例である。
【0027】
以下、第1実施形態に係る数値制御システム1の動作を
図3などに基づいて説明する。なお、以下の動作説明における処理の内容は一例であって、同様な結果を得ることが可能な様々な処理を適宜に利用できる。
図3は、数値制御装置100の制御部110による処理の一例を示すフローチャートである。制御部110は、例えば、ROM120又は補助記憶装置140などに記憶されたプログラムに基づいて
図3の処理を実行する。
【0028】
図3のステップS11において制御部110は、アプローチを開始するか否かを判定する。制御部110は、アプローチを開始すると判定しなければ、ステップS11においてNoと判定してステップS11を繰り返す。なお、アプローチとは、加工ヘッド202とワークWの距離を変えることで、変位量を目標変位量に近付けることである。制御部110は、例えば、アプローチの開始を指示する指示情報の入力があった場合に、アプローチを開始すると判定する。当該入力は、例えば、制御部110が実行する他のプロセスなどからの入力である。あるいは、指示情報は、他の装置から数値制御装置100に入力されても良い。指示情報は、例えば、目標変位量Pを含む。制御部110は、アプローチを開始すると判定するならば、ステップS11においてYesと判定してステップS12へと進む。
【0029】
ステップS12において制御部110は、一次遅れフィルターの時定数をリセットする。すなわち、時定数切替え部114は、フィルター部115の一次遅れフィルターの時定数を、基準時定数τBに設定する。
【0030】
ステップS13において制御部110は、指示情報に含まれる目標変位量Pに基づき時定数τを決定する。すなわち、時定数演算部113は、目標変位量Pに対応する傾きmに適した時定数τを求める。例えば、時定数演算部113は、目標変位量が
図2のP1である場合、目標変位量P1に対応する傾きm1に適した時定数τ1を求める。また、時定数演算部113は、目標変位量がP2である場合、目標変位量P2に対応する傾きm2に適した時定数τ2を求める。なお、傾きmを式で表すと、m=dg/dVである。
【0031】
なお、数値制御装置100の補助記憶装置140などは、予め定められた基準変位量PB及び基準時定数τBを記憶している。基準変位量PB及び基準時定数τBは、時定数τ1を求めるための基準となる変位量及び時定数である。基準変位量PBは、どのような値であっても良いが、目標変位量として設定されることが多いような値であることが好ましい。基準時定数τBは、基準変量に対応する基準傾きmBに適した時定数である。また、
図2には、基準変位量PBにおけるセンサー信号VをVBとして示している。
【0032】
時定数演算部113は、目標変位量Pに対応する傾きmに適した時定数τを例えば次式によって求める。
τ=(m/mB)×τB (1)
【0033】
例えば、アプローチ開始地点が変位量Ps、目標変位量が変位量P1である場合の時定数τ1は、τ1=(m1/mB)×τBである。例えば、アプローチ開始地点が変位量Ps、目標変位量が変位量P2である場合の時定数τ2は、τ2=(m2/mB)×τBである。例えば、アプローチ開始地点が変位量P1、目標変位量が変位量P2である場合の時定数τ2は、τ2=(m2/mB)×τBである。このように、時定数τは、目標変位量によって変化し、開始地点が異なっても同じ値となる。また、例えば、τBを16ミリ秒、mBを2n、m1をn、m2を4nとする。ただし、nは、正数である。この場合、τ1=(nn/2n)×16(ミリ秒)=8(ミリ秒)、τ2=(4n/2n)×16(ミリ秒)=32(ミリ秒)となる。このように、傾きmがx倍になれば時定数τもx倍となり、傾きmと時定数τは比例している。
【0034】
なお、時定数演算部113は、上記(1)式を使わずに、目標変位量Pと時定数τとの関係を示すテーブルなどを用いて、目標変位量Pから時定数τを求めても良い。当該テーブルは、予め複数の目標変位量Pについてそれぞれ時定数τを求めておくことで生成することができる。当該テーブルは、例えば、補助記憶装置140などに記憶される。
【0035】
ステップS14において制御部110の時定数切替え部114は、一次遅れフィルターの時定数を、ステップS13で求めた時定数τに設定する。
【0036】
ステップS15において制御部110は、工作機械200を制御してアプローチを開始する。すなわち、変位量演算部112は、センサー信号から変位量を求める。そして、フィルター部115は、当該変位量を一次遅れフィルターに入力してノイズを取り除く。さらに、ギャップ制御部116は、ノイズが取り除かれた変位量と、目標変位量を比較し、当該変位量が目標変位量より大きい場合、加工ヘッド202とワークWとの距離を短くするよう加工装置300を制御する。当該制御に基づき、加工装置300は、加工ヘッド202とワークWとの距離を短くする。対して、ギャップ制御部116は、当該変位量が目標変位量より小さい場合、加工ヘッド202とワークWとの距離を長くするよう加工装置300を制御する。当該制御に基づき、加工装置300は、加工ヘッド202とワークWとの距離を長くする。変位量演算部112、フィルター部115及びギャップ制御部116は、以上の処理を、変位量が目標変位量と等しくなるまで続ける。ここで、変位量が目標変位量と等しくなるとは、変位量が、目標変位量から所定の誤差範囲内となることを示す。
【0037】
ステップS16において制御部110は、アプローチが完了するのを待ち受ける。制御部110は、変位量が目標変位量と等しくなったならば、アプローチが完了したと判定する。制御部110は、アプローチが完了したと判定するならば、ステップS16においてYesと判定してステップS11へと戻る。
【0038】
第1実施形態の数値制御システム1によれば、数値制御装置100は、アプローチのたびに、目標変位量に応じた時定数を用いる。したがって、第1実施形態の数値制御装置100は、傾きmが大きい変位量領域においても変位量の計測におけるノイズの影響を小さくすることができる。
【0039】
また、第1実施形態の数値制御システム1によれば、数値制御装置100は、傾きmと比例した時定数を用いる。このため、第1実施形態の数値制御装置100は、目標変位量における傾きmにかかわらずノイズの影響を同程度にすることができる。
【0040】
〔第2実施形態〕
第2実施形態の数値制御システム1の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
以下、第2実施形態に係る数値制御システム1の動作を
図4などに基づいて説明する。第2実施形態の数値制御装置100の制御部110は、
図3に代えて
図4の処理を実行する。
図4は、数値制御装置100の制御部110による処理の一例を示すフローチャートである。制御部110は、例えば、ROM120又は補助記憶装置140などに記憶されたプログラムに基づいて
図4の処理を実行する。
【0041】
制御部110は、第2実施形態では、
図4のステップS13の処理の後ステップS15へと進む。このように、ステップS14の処理を行わないので、アプローチ開始時点でのフィルター部115の一次遅れフィルターの時定数は、ステップS12で設定された基準時定数τBとなっている。
【0042】
制御部110は、第2実施形態では、ステップS15の処理の後、ステップS21へと進む。
ステップS21において制御部110は、変位量が目標変位量付近になるのを待ち受ける。例えば、制御部110は、例えば、次の(A)~(C)のいずれかの方法を用いて変位量が目標変位量付近になったことを判定する。
【0043】
(A)制御部110は、目標変位量と変位量の差dの、正負を示す符号が反転した場合に、変位量が目標変位量付近になったと判定する。アプローチ時、変位量は、例えば
図5に示すような変化で目標変位量に近付いていく。
図5は、変位量の時間変化の一例を示す図である。なお、
図5では、一例として、開始地点を変位量Psとし、目標変位量をP1とした場合の変位量gの時間変化を示している。制御部110は、変位量gが目標変位量P1に近付くように加工ヘッドを加速させる。そして、制御部110は、変位量gが目標変位量P1に近付いたら加工ヘッドを減速させる。このとき、変位量gは、目標変位量P1を行き過ぎる。すなわち、差dの符号が反転する。なお、差dは、例えば、d=g-P1で表すことができる。なお、差dの符号が反転する時刻をt1とする。差dの符号が反転するということは、加工ヘッド202が目標変位量を通り過ぎたということである。したがって、制御部110は、差dの符号が反転したことをもって、変位量が目標変位量付近になったとみなすことができる。なお、制御部110は、
図5に示すようにその後も変位量gが目標変位量P1と等しくなるまで、何度か差dの符号を反転させながら、すなわち加工ヘッドの進む方向を何度か反転させながら変位量gを目標変位量P1に近付ける。
【0044】
(B)制御部110は、変位量の変化速度が所定の閾値TH1以下となった場合に、変位量が目標変位量付近になったと判定する。制御部110は、変位量が目標変位量に近付くと、加工ヘッド202が目標変位量を行き過ぎないように変位量の変化速度を減速させる制御を行っている。したがって、制御部110は、変位量の変化速度が所定の閾値以下となったことをもって、変位量が目標変位量付近になったとみなすことができる。なお、例えば、閾値TH1は、数値制御装置100の設計者又は管理者などによって予め定められる。
【0045】
(C)制御部110は、変位量と目標変位量の差の絶対値が所定の閾値TH2以下となった場合に、変位量が目標変位量付近になったと判定する。なお、閾値TH2は、例えば、数値制御装置100の設計者又は管理者などによって予め定められる。
【0046】
制御部110は、変位量が目標変位量付近になったと判定するならば、ステップS21においてYesと判定してステップS22へと進む。
【0047】
ステップS22において制御部110は、一次遅れフィルターの時定数を、ステップS13で求めた時定数τに変更する。すなわち、時定数切替え部114は、フィルター部115の一次遅れフィルターの時定数を、ステップS14で求めた時定数τに設定する。制御部110は、ステップS22の処理の後、ステップS16へと進む。
【0048】
制御部110は、第2実施形態では、ステップS16においてYesと判定したならば、ステップS11へと戻る。
【0049】
ステップS21において(A)の方法を用いた場合を例に、以上の処理によって時定数がどのように変化するか説明する。なお、ここでは、開始地点を変位量Psとし、目標変位量をP1とする。制御部110は、差dの符号が反転するまで、すなわち時刻0から時刻t1までは、時定数τの値を時定数τBとする。そして、制御部110は、差dの符号が反転したならば、すなわち時刻t1において時定数τの値を時定数τ1に切り替える。そして、制御部110は、アプローチ完了まで時定数τの値を時定数τ1とする。
【0050】
第2実施形態の数値制御システム1は、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0051】
また、第2実施形態の数値制御システム1によれば、数値制御装置100は、変位量が目標変位量付近になったと判定した場合に、一次遅れフィルターの時定数を、ステップS13で決定した時定数に変更する。したがって、第2実施形態の数値制御装置100は、目標変位量付近以外において、時定数を大きくすることによる応答性の低下及び、それによるオーバーシュートを防ぐことができる。
【0052】
上記の第1実施形態及び第2実施形態は、以下のような変形も可能である。
フィルター部115が用いるフィルターは、一次遅れフィルターに限らない。フィルター部115は、例えば、ハイパスフィルター、バンドパスフィルター又はバンドストップフィルターを用いる。
【0053】
上記の実施形態では、制御部110がセンサー信号を変位量に変換した。しかしながら、ギャップセンサー203が、センサー信号を、変位量などの距離を示す信号に変換し、当該信号を出力しても良い。この場合、ギャップセンサー203は、変換部の一例として機能する。
【0054】
上記の第2実施形態では、数値制御装置100は、アプローチ開始後、アプローチ完了までにおいて時定数を1回変更した。しかしながら、数値制御装置100は、複数回時定数を変更しても良い。
【0055】
制御部110は、上記実施形態においてプログラムによって実現する処理の一部又は全部を、回路のハードウェア構成によって実現するものであっても良い。
【0056】
実施形態の処理を実現するプログラムは、例えば装置に記憶された状態で譲渡される。しかしながら、当該装置は、当該プログラムが記憶されない状態で譲渡されても良い。そして、当該プログラムが別途に譲渡され、当該装置へと書き込まれても良い。このときのプログラムの譲渡は、例えば、リムーバブルな記憶媒体に記録して、あるいはインターネット又はLAN(local area network)などのネットワークを介したダウンロードにより実現できる。
【0057】
以上、本発明の実施形態を説明したが、例として示したものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 数値制御システム
100 数値制御装置
110 制御部
111 相関テーブル生成部
112 変位量演算部
113 時定数演算部
114 時定数切替え部
115 フィルター部
116 ギャップ制御部
120 ROM
130 RAM
140 補助記憶装置
150 制御インターフェース
160 バス
200 工作機械
201 固定具
202 加工ヘッド
203 ギャップセンサー