(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】真空槽部材用のアルミニウム合金板を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/05 20060101AFI20240709BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240709BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20240709BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20240709BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240709BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240709BHJP
【FI】
C22F1/05
C22C21/00 L
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/04 C
C22F1/00 602
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630J
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2022566688
(86)(22)【出願日】2021-06-07
(86)【国際出願番号】 IB2021054983
(87)【国際公開番号】W WO2021250545
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-11-01
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518412058
【氏名又は名称】ノベリス・コブレンツ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Novelis Koblenz GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】アウスト,デニス
(72)【発明者】
【氏名】リッツ,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤコビー,ベルント
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-500757(JP,A)
【文献】特開2009-046747(JP,A)
【文献】特開2010-133003(JP,A)
【文献】特開2008-045161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽部材、バルブ、または総アセンブリ用のアルミニウム合金板を製造するための方法であって、
(a)Mg 0.80%~1.05%、
Si 0.70%~1.0%、
Mn 0.70%~0.90%、
Fe
0.03%~0.20%、
Zn 最大0.08%、
Cu 最大0.05%、
Cr 最大0.03%、
Ti 最大0.06%、
各<0.03%、合計<0.10%の不可避不純物、残部アルミニウム、
(重量%)からなる組成を有するAl-Mg-Si系アルミニウム合金の圧延供給材を供給すること、
(b)前記圧延供給材を550℃~595℃の範囲の温度で均質化すること、
(c)前記均質化圧延供給材を1つまたは複数の圧延工程で少なくとも10mmの厚みを有する熱間圧延板へと熱間圧延すること、
(d)540℃~590℃の範囲の温度で前記熱間圧延板の溶体化熱処理(「SHT」)を行うこと、
(e)前記SHT板を急速冷却すること、
(f)前記冷却SHT板を延伸して1%~5%の永久伸びを得ること、
(g)前記延伸板を人工時効すること、
の工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記均質化圧延供給材の前記熱間圧延は、10mm~230mmの範囲の厚みを有する板へのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Mg含有率は0.85%~1.05%の範囲である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Si含有率は0.70%~0.95%の範囲である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
Mg/Si比率(重量%)は0.9超である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
Mn含有率は0.75%~0.85%の範囲である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
Fe含有率は最大0.12%である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
Ti含有率は0.01%~0.06%の範囲である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記圧延供給材の前記均質化は、555℃~595℃の範囲の温度である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記熱間圧延板の前記溶体化熱処理は、545℃~580℃の範囲の温度である、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記人工時効は150℃~190℃の範囲の温度で実施される、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記人工時効は5~60時間の期間にわたり実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記急速冷却は、噴射焼入れ、または水中またはその他の焼入れ媒体中における浸漬焼入れのうちの1つによって実施される、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記人工時効はT6焼戻しを得るために実施される、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
(h)前記時効板を真空槽部材、バルブ、または総アセンブリへと機械切削すること、
(i)前記真空槽部材、前記バルブ、または前記総アセンブリを表面処理すること、
の工程を更に含む、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記表面処理は陽極酸化によって実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アルミニウム合金板は、1mm
2あたり400相未満の10μm
2超のサイズを有する相及び粒子の密度を有する、請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
真空槽部材、バルブ、または総アセンブリ用のアルミニウム合金板を製造するための方法であって、
(a)Mg 0.70%~1.05%、
Si 0.70%~1.0%、
Mn 0.60%~1.0%、
Fe
0.03%~0.20%、
Zn 最大0.2%、
Cu 最大0.10%、
Cr 最大0.05%、
Ti 最大0.1%、
Ni 最大0.06%、
各<0.05%、合計<0.15%の不可避不純物、残部アルミニウム、
(重量%)からなる組成を有するAl-Mg-Si系アルミニウム合金の圧延供給材を供給すること、
(b)前記圧延供給材を550℃~595℃の範囲の温度で均質化すること、
(c)前記均質化圧延供給材を1つまたは複数の圧延工程で少なくとも10mmの厚みを有する熱間圧延板へと熱間圧延すること、
(d)540℃~590℃の範囲の温度で前記熱間圧延板の溶体化熱処理(「SHT」)を行うこと、
(e)前記SHT板を急速冷却すること、
(f)前記冷却SHT板を延伸して1%~5%の永久伸びを得ること、
(g)前記延伸板を人工時効すること、
の工程を含む、前記方法。
【請求項19】
前記急速冷却は、噴射焼入れ、または水中またはその他の焼入れ媒体中における浸漬焼入れのうちの1つによって実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記人工時効は150℃~190℃の範囲の温度で5~60時間の期間にわたり実施される、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記人工時効はT6焼戻しを得るために実施される、請求項18から請求項20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月10日出願の欧州特許出願第20179258.7号の利益及び当該出願に対する優先権を主張するものであり、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、半導体デバイス及び液晶デバイスを製造するための装置、例えば、CVD装置、PVD装置、イオン注入装置、スパッタリング装置、及びドライエッチング装置などの真空槽の部材、ならびに、その真空槽の内部に配置される部材、を形成するためのAl-Mg-Si系合金(6XXX系アルミニウム合金としても知られている)のアルミニウム合金板を製造するための方法に関する。本発明は更に、Al-Mg-Si系合金板から真空槽部材を製造するための方法に関する。本発明は更に、Al-Mg-Si系合金板からバルブ及び総アセンブリを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
洗浄用ガスとしてのハロゲンを含有する反応性ガス、エッチングガス、及び腐食性ガスは、半導体デバイス及び液晶デバイスを製造するための装置、例えば、CVD装置、PVD装置、イオン注入装置、スパッタリング装置、及びドライエッチング装置などの真空槽へと供給される。それゆえ、真空槽は腐食性ガスへの腐食耐性(以下、「腐食性ガス耐性」と呼ぶ)を有する必要がある。真空槽内においてハロゲンプラズマが生成されることが多いことから、プラズマに対する耐性(以下、「プラズマ耐性」と呼ぶ)もまた重要である。近年、アルミニウム材及びアルミニウム合金材は、アルミニウム材及びアルミニウム合金材が軽量で熱伝導性に優れていることから、真空槽の部材を形成するために使用されている。アルミニウム材及びアルミニウム合金材が腐食性ガス耐性及びプラズマ耐性において十分ではないことから、それらの特性を向上させるための様々な表面品質向上技術が提案されている。しかしながら、それら特性の多くは依然として不十分であり、それら特性の更なる向上が望まれている。高硬度を有する陽極酸化皮膜でアルミニウム材またはアルミニウム合金材をコーティングすることが、プラズマ耐性の向上に有効であることが判明している。硬い陽極酸化皮膜は高い物理的エネルギーを有するプラズマによる部材の磨耗に対する耐性を有しており、その理由から、プラズマ耐性を向上させることが可能となる。真空槽部材はまた、陽極酸化後における十分に高い機械的強度、伸長度、及び色均一性、ならびに高い破壊電圧を必要とする。
【0004】
米国特許文献US-2012/0325381-A1は、真空槽用の部材を製造するために設計された少なくとも250mm厚のアルミニウムの塊の製造プロセスについて開示しており、その方法は、任意の6XXX系アルミニウム合金の塊を鋳造すること、任意選択的に、上記鋳造塊を均質化すること、鋳造塊に対して直接、溶体化熱処理を実施すること、及び任意選択的に、塊を均質化すること、塊を焼入れすること、冷間圧縮によって焼入れ塊の応力除去焼なましを行うこと、それに続いて、T652状態へと人工時効すること、を含む。本開示プロセスの重要な要素は、溶体化熱処理の前において、塊がその厚みを軽減するために熱間または冷間加工されていないことである。得られた板材はいわゆる「鋳造板」である。鋳造板の欠点は、多くの場合、凝固後の共晶状態において、鉄、マンガン、マグネシウム、及びケイ素のような元素の粒界において混合及び沈殿により生じた不可避相が、均質化処理及び溶体化熱処理のようなその後の加工工程において完全には溶解できずに、き裂発生部位として残ってしまい、その結果として、機械的特性(例えば、引張り強度、伸長度、靭性、及びその他の特性)が著しく低下してしまうこと、または、局部腐食(例えば、孔食)の発生箇所として残ってしまうこと、また更に、真空槽部材に特に関連している陽極酸化のような最終処理にとって有害であることである。鋳造合金の内部に存在する任意の酸化層はまた、その元の形態で残っており、その結果としてまた、機械的特性を低下させることになる。鋳造板材が、鋳放しの微細構造が実質的に維持されることを理由により高い費用対効果で製造され得、鋳造作業中の局所的な冷却速度に強く依存し得ることから、圧延板材と比較して、試験部位に応じて変化する機械的特性において遥かに多くのばらつきが存在し、鋳造板を多くの重要な用途にとってあまり適切ではないものとしている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本明細書に記載のアルミニウム合金材の相及び粒子を解析するための試料光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書中の以下において理解されることであるが、特に明記する場合を除き、アルミニウム合金表記及び焼戻し表記とは、2019年にAluminium Associationが公開し当業者に周知のAluminium Standards and Data and the Registration RecordsにおけるAluminium Association表記のことを意味する。焼戻し表記はまた、欧州規格EN515において規定されている。
【0007】
合金組成または好ましい合金組成のあらゆる記載におけるパーセンテージへの全ての言及は、特に明記しない限り、重量%である。
【0008】
本明細書で用いる用語「最大」及び「最大約」は、その用語が指す特定の合金化部材のゼロ重量%の可能性を明確に含むがそれらに限定されない。例えば、最大0.08% Znは、Znを含まないアルミニウム合金を含んでいてもよい。
【0009】
本発明の目的は、真空槽部材を形成するためのAl-Mg-Si系アルミニウム合金または6XXX系アルミニウム合金のアルミニウム合金板を製造するための方法を提供することである。本発明の別の目的は、Al-Mg-Si系アルミニウム合金板から真空槽部材を製造するための方法を提供することである。本発明の更なる目的は、Al-Mg-Si系アルミニウム合金板からバルブ及び総アセンブリを製造するための方法を提供することである。
これら及びその他の目的ならびに更なる利点は本発明によって満たされ、またはそれを上回ることになり、真空槽部材用のアルミニウム合金板を製造するための方法を提供し、その方法は、下記の順番において、
(a)Mg 0.80%~1.05%、
Si 0.70%~1.0%、
Mn 0.70%~0.90%、
Fe 最大0.20%、
Zn 最大0.08%、好ましくは最大0.05%、
Cu 最大0.05%、好ましくは最大0.03%、
Cr 最大0.03%、好ましくは最大0.02%、
Ti 最大0.06%、好ましくは0.01%~0.06%、
各<0.03%、合計<0.10%の不可避不純物、残部アルミニウム、
(重量%)からなる組成を有するAl-Mg-Si系アルミニウム合金の圧延供給材を供給すること、
(b)圧延供給材を550℃~595℃の範囲の温度で均質化すること、
(c)均質化圧延供給材を1つまたは複数の圧延工程で少なくとも10mmの厚みを有する熱間圧延板へと熱間圧延すること、
(d)540℃~590℃の範囲の温度で熱間圧延板の溶体化熱処理(「SHT」)を行うこと、
(e)好ましくは、噴射焼入れ、または水中またはその他の焼入れ媒体中における浸漬焼入れのうちの1つによって、SHT板の急速冷却または焼入れを行うこと、
(f)冷却SHT板を延伸して1%~5%の永久伸びを得ること、
(g)延伸板を、好ましくはT6状態(例えば、T651)またはT7状態(例えば、T7651)へと人工時効すること、
の工程を含む。
【0010】
熱機械加工と組み合わせてAl-Mg-Si系合金の狭い組成範囲を慎重に制御することにより、得られたアルミニウム合金板は理論上、真空槽部材を製造するのに適したものとなる。合金は広範囲の厚みで利用可能であり、硬い陽極コーティングで極めて良好に陽極酸化することができる。アルミニウム板材は、真空槽部材の良好な形状安定性をもたらす高い機械的特性を有する。陽極酸化材のいくつかの特性は、板材の微細構造及び組成によって決まる。板材はその板の内部において均一に分布している相を有する微細構造を有しており、例えば、陽極酸化後の表面における板の厚み及び均一性に関して、あまり影響されない陽極層がもたらされる。本発明による得られた板材は、例えば、5%HClを使用した発泡漏れ試験で試験した際に高い腐食性ガス耐性を提供し、ISO-2376(2010)に従い測定した際に高い破壊電圧(AC、DC)を有する。
【0011】
一実施形態では、T651状態における55mm厚のAl-Mg-Si系合金板は、適用可能な標準ISO 6892-1 Bに従い、LT方向における、少なくとも250MPa、更には少なくとも265MPaの引張り降伏強度(YS)を有する。
【0012】
一実施形態では、T651状態における55mm厚のAl-Mg-Si系合金板は、適用可能な標準ISO 6892-1 Bに従い、LT方向における、少なくとも300MPa、更には少なくとも310MPaの引張り強度(UTS)を有する。
【0013】
一実施形態では、T651状態における55mm厚のAl-Mg-Si系合金板は、適用可能な標準ISO 6892-1 Bに従い、LT方向における、少なくとも8%、更には少なくとも10%の伸長度(A50mm)を有する。
【0014】
Siと組み合わせたMgは、Mg2Si相の形成により強度をもたらす、アルミニウム合金内における主要な合金化元素である。Mgは、0.80%~1.05%の範囲、好ましくは0.85%~1.05%の範囲でなければならない。Mg含有率の好ましい上限は1.0%である。Mg含有率が高過ぎると、その後に適用される陽極酸化コーティングの品質に悪影響を及ぼす粗大Mg2Si相の形成が引き起こされ得る。Mg含有率が低過ぎると、アルミニウム板の引張り特性に悪影響が生じる。
【0015】
Siは0.70%~1.0%の範囲でなければならない。一実施形態では、Si含有率は、少なくとも0.75%、好ましくは少なくとも0.80%、最も好ましくは少なくとも0.84%である。一実施形態では、Si含有率の上限は0.95%である。
【0016】
一実施形態では、Mg/Siの比率(重量%)は、0.9超、好ましくは1.0超、最も好ましくは1.05超である。アルミニウム合金中の遊離Siの量を減少させることは、本発明に従い実施される比較的高温のSHT後におけるアルミニウム板の伸長度を高くする上で好都合である。
【0017】
別の重要な合金化元素はMnであり、アルミニウム板の強度を高めて結晶粒組織を制御するために0.70%~0.90%の範囲でなければならず、溶体化熱処理及び焼入れの後に再結晶化がもたらされる。好ましい下限は0.75%である。好ましい上限は0.85%である。
【0018】
Feは、0.20%を超えてはならない不純物元素である。陽極酸化後において、結晶粒度を制御し高い機械的強度及び良好な腐食耐性を得るためには、Feレベルは好ましくは最大0.12%である。しかしながら、少なくとも0.03%、より好ましくは少なくとも0.04%含まれていることが好ましい。Fe含有率が低過ぎると、望ましくない再結晶した結晶粒粗大化が引き起こされ得、アルミニウム合金が高価なものとなる。Fe含有率が高過ぎると、引張り特性の低下がもたらされ、例えば、とりわけAlFeSi相の形成に起因して、陽極酸化後の破壊電圧に悪影響が生じ、更に、腐食性ガス耐性に悪影響が生じる。
【0019】
Zn 最大約0.08%、Cu 最大約0.05%、及びCr 最大約0.03%は、許容可能な不純物であるが、その後に適用される陽極酸化コーティングの品質に悪影響を及ぼし、例えば、腐食性ガス耐性が低下することになる。一実施形態では、Znは、最大約0.05%、好ましくは最大約0.03%である。一実施形態では、Cuは、最大約0.03%、好ましくは最大約0.02%である。一実施形態では、Crは最大約0.02%である。
【0020】
Ti 最大0.06%は、鋳放しの微細構造の結晶微細化用添加剤として添加される。一実施形態では、Tiは、約0.01%~0.06%の範囲、好ましくは約0.01%~0.04%の範囲で含まれる。
【0021】
残部はアルミニウム及び不可避不純物からなる。不純物は、各最大0.03%、合計最大0.10%で含まれる。
【0022】
一実施形態では、Al-Mg-Si系アルミニウム合金は、Mg 0.80%~1.05%、Si 0.70%~1.0%、Mn 0.70%~0.90%、Fe 最大0.20%、Zn 最大0.08%、Cu 最大0.05%、Cr 最大0.03%、Ti 最大0.06%、各最大0.03%、合計最大0.10%の不可避不純物、残部アルミニウム、(及び、本明細書に記載及び請求項に記載の好ましいより狭い範囲)、(重量%)からなる組成を有する。
【0023】
一実施形態では、Al-Mg-Si系アルミニウム合金は、
Mg 0.70%~1.05%、
Si 0.70%~1.0%、
Mn 0.60%~1.0%、好ましくは最大0.95%、
Fe 最大0.20%、
Zn 最大0.2%、
Cu 最大0.10%、
Cr 最大0.05%、好ましくは最大0.04%、
Ti 最大0.1%、好ましくは0.01%~0.08%、
Ni 最大0.06%、
各<0.05%、合計<0.15%の不可避不純物、残部アルミニウム、
(重量%)を含む組成を有する。
【0024】
Al-Mg-Si-Mn系アルミニウム合金を、鋳造製品用の当該技術分野における通常の鋳造技術、例えば、直接チル(DC)鋳造法、電磁鋳造(EMC)鋳造法、電磁攪拌(EMS)鋳造法を用いて、熱間圧延板材に製造するためのインゴットまたはスラブとして提供するが、約220mm以上、例えば、400mm、500mm、または600mmの範囲のインゴット厚みを有していることが好ましい。圧延供給材の鋳造後、鋳放しのインゴットは一般的に、インゴットの鋳造表面近傍の偏析ゾーンを除去するために削られる。結晶微細化用添加剤、例えば、当該技術分野において周知の、チタン及びホウ素、またはチタン及び炭素を含有する結晶微細化用添加剤などは、微細な鋳放しの結晶粒組織を得るために、そのまま使用される。
【0025】
均質化熱処理の目的には、少なくとも以下の目的、(i)凝固中に形成される粗大可溶性相を可能な限り多く溶解すること、及び(ii)濃度勾配を小さくして溶解工程を容易とすること、がある。予備加熱処置によってもまた、これらの目的の一部が達成される。均質化プロセスは550℃~595℃の温度範囲で実施される。一実施形態では、均質化温度は、少なくとも555℃、より好ましくは少なくとも565℃である。均質化温度における浸漬時間は、約1~20時間の範囲であり、好ましくは約15時間を超えないものであり、より好ましくは約5~15時間の範囲である。適用可能な加熱速度は、当該技術分野における通常の加熱速度である。
【0026】
10mm以上の厚みの熱間圧延板となるように熱間圧延を実施する。一実施形態では、上限は、約230mm、好ましくは約200mm、より好ましくは約180mmである。
【0027】
次の重要な加工工程は、熱間圧延板材の溶体化熱処理(「SHT」)である。板材を加熱して、可溶性合金化元素の全てまたは実質的に全ての部分を可能な限り多く溶液にする必要がある。SHTは、約540℃~590℃の温度範囲の温度で実施されることが好ましい。より高いSHT温度は、より有利な機械的特性、例えば、高いRmをもたらす。一実施形態では、SHT温度の下限は545℃であり、好ましくは550℃である。一実施形態では、SHT温度の上限は、約580℃、より好ましくは約575℃である。SHT温度が低いと、アルミニウム板の強度が低下し、一部の大きなMg2Si相が溶解せずに残り、いわゆる「ホットスポット」が生成され得、陽極酸化後の腐食耐性が低下し、破壊電圧が低下することになる。例えば、最大50mmの板厚において、より短い浸漬時間、例えば、約10~180分間の範囲、好ましくは10~40分間の範囲、より好ましくは10~35分間の範囲が極めて有効であると考えられている。比較的高いSHT温度において浸漬時間が長過ぎると、アルミニウム板の延性に悪影響を及ぼすいくつかの相の成長が引き起こされる。SHTは一般的に、バッチまたは連続炉において実施される。SHT後、板材を、100℃以下の温度、好ましくは40℃未満への高い冷却速度で冷却して、第二相の無秩序な沈殿を防止または最小化させることが重要である。その一方で、好ましくは、冷却速度を、板材の平坦度が十分となり残留応力が低レベルとなることが可能となるように、高過ぎることにならないようにすべきである。好適な冷却速度は、水、例えば、水浸漬またはウォータージェットを使用することによって達成することができる。
【0028】
SHT及び焼入れを行った板材を更に、好ましくは、その元の長さの約1%~5%の範囲で延伸することによって冷間加工して、その内部の残留応力を軽減し、板材の平坦度を向上させる。延伸は、約1.5%~4%、より好ましくは約2%~3.5%の範囲であることが好ましい。
【0029】
冷却後、延伸板材を時効、好ましくは人工時効して、より好ましくはT6状態、より好ましくはT651状態をもたらす。一実施形態では、人工時効は150℃~190℃の範囲の温度で、好ましくは5~60時間の期間にわたり実施される。
【0030】
一実施形態では、延伸板材を、過時効T7状態、好ましくはT74またはT76状態、より好ましくはT7651状態へと時効する。
【0031】
本発明の更なる態様では、真空槽部材を製造するための方法に関し、その方法は、本明細書に記載及び請求項に記載の少なくとも10mmの厚みを有するAl-Mg-Si系合金板を製造するための工程を含み、
(h)例えば、T6、T651、T7、T74、T76、またはT7651状態の上記時効板を、所定の形状及び寸法の真空槽部材へと機械切削すること、
(i)好ましくは陽極酸化によって真空槽部材の表面処理を行い、好ましくは、少なくとも20μm厚、好ましくは少なくとも30μm厚の陽極層または陽極コーティング層をもたらすこと、
(j)任意選択的に、このように陽極酸化した材を、好ましくは少なくとも約1時間の期間にわたり、少なくとも80℃の温度、好ましくは少なくとも98℃の温度の脱イオン水中に水和または密閉すること、
の続く工程を更に含む。一実施形態では、水和は、2つの工程、少なくとも10分間の期間にわたる30℃~70℃の温度の第1の工程、及び少なくとも約1時間の期間にわたる少なくとも98℃の温度の第2の工程で実施される。
【0032】
一実施形態では、陽極酸化は、少なくとも硫酸を含む約15℃~30℃の温度の電解液、及び約1.0A/dm2~約2A/dm2の電流密度を使用して実施される。陽極酸化浴内の酸濃度は一般的に、約5~20容量%の範囲である。このプロセスは、所望の酸化層厚に応じて、約0.5~60分間を要する。硫酸陽極酸化は一般的に、約8マイクロメートル~約40マイクロメートル厚の酸化層を生じさせる。
【0033】
一実施形態では、陽極酸化は、少なくとも硫酸を含む約0℃~10℃の温度の電解液、及び約3A/dm2~約4.5A/dm2の電流密度を使用して実施される。このプロセスは一般的に、約20分間~約120分間を要する。この硬いコーティングの陽極酸化は一般的に、約30マイクロメートル~約80マイクロメートル厚または更なる厚みの酸化層を生じさせる。
【0034】
一部の実施形態では、本明細書に記載の材は、1mm2あたり400相未満の10μm2超のサイズを有する相及び粒子の密度を有していてもよい。例えば、材は、1mm2あたり100~400相の範囲または1mm2あたり250~350相の範囲の10μm2超のサイズを有する相及び粒子の密度を有していてもよい。相及び粒子としては、AlFeSi型の相及び粒子、ならびにMg2Siの相及び粒子を挙げることができる。
【0035】
以下の実施例は、本発明を更に説明するのに役立つものであるが、本発明の任意の限定を構成するものではない。別の見方をすれば、手段がその様々な実施形態、変更、及び均等物を有し得、本明細書の読解後、本発明の趣旨から逸脱することなく、それらが当業者へと示唆され得ることが明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0036】
本明細書に記載の陽極酸化用のアルミニウム合金試料について相解析実験を実施した。130mmの厚みを有する試料(本明細書では、「試料1」と呼ぶ)、40mmの厚みを有する試料(本明細書では、「試料2」と呼ぶ)、及び14mmの厚みを有する試料(本明細書では、「試料3」と呼ぶ)、を含む厚みの異なる3つの試料について調査を行った。表面近傍位置(「表面」)、4分の1厚位置(「s/4」)、及び2分の1厚位置(「s/2」)、を含む試料のそれぞれにおける3つの位置を解析した。1つの位置あたり7つの画像を1280×1024画素2(0.382μm/画素)でキャプチャした。7つの画像の0.191mm2/画像を解析し、それぞれの位置の約1.34mm2(合計で12.05mm2となる)を調査した。それゆえ、試料を広範囲にわたって調査した。
【0037】
200×の倍率の光学顕微鏡を使用して画像を取得した。同じ方法で試料を調製した。エッチングは実施しなかった。それぞれの試料について、調製法に起因する、データに対する何らかの影響(例えば、グレースケール解析ツールの使用により場合により誤解され得る細孔または引っ掻き傷など)を避けるため特別に注意を払いながら、研削及び研磨を実施した。
【0038】
解析した相及び粒子は主に、AlFeSi型の相及び粒子に加え、Mg
2Siの相及び粒子であった。ImageJソフトウェアを使用して検出を実施し、グレースケールで解析を実施した。試料画像を
図1に示す。フィルターを使用して、10μm
2超の領域を有する粒子のみをカウントした。結果を以下の表1に示す。それぞれの位置の密度を「密度(相/mm
2)」と表示した列に示し、それぞれの試料の平均密度(それぞれの試料の3つの位置の平均をとることにより計算した)を「平均密度(相/mm
2)」と表示した列に示し、9つの測定値(3つの試料、1試料あたり3つの位置)の平均をとることにより計算した総平均密度を「全試料の総平均密度(相/mm
2)」と表示した列に示す。表1に示すように、密度は250~320相mm
2の範囲である。
【表1】
【0039】
上で挙げた全ての特許、刊行物、及び抄録の全体は参照により本明細書に組み込まれる。本発明の様々な目的を実施するための本発明の様々な実施形態について記載してきた。これらの実施形態が本発明の原理を単に例示するものであるということを認識すべきである。その多数の変更及び改変は、以下の特許請求の範囲において定義する本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者には容易に明白である。
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目21]に記載する。
[項目1]
真空槽部材、バルブ、または総アセンブリ用のアルミニウム合金板を製造するための方法であって、
(a)Mg 0.80%~1.05%、
Si 0.70%~1.0%、
Mn 0.70%~0.90%、
Fe 最大0.20%、
Zn 最大0.08%、
Cu 最大0.05%、
Cr 最大0.03%、
Ti 最大0.06%、
各<0.03%、合計<0.10%の不可避不純物、残部アルミニウム、
(重量%)からなる組成を有するAl-Mg-Si系アルミニウム合金の圧延供給材を供給すること、
(b)前記圧延供給材を550℃~595℃の範囲の温度で均質化すること、
(c)前記均質化圧延供給材を1つまたは複数の圧延工程で少なくとも10mmの厚みを有する熱間圧延板へと熱間圧延すること、
(d)540℃~590℃の範囲の温度で前記熱間圧延板の溶体化熱処理(「SHT」)を行うこと、
(e)前記SHT板を急速冷却すること、
(f)前記冷却SHT板を延伸して1%~5%の永久伸びを得ること、
(g)前記延伸板を人工時効すること、
の工程を含む、前記方法。
[項目2]
前記均質化圧延供給材の前記熱間圧延は、10mm~230mmの範囲の厚みを有する板へのものである、項目1に記載の方法。
[項目3]
Mg含有率は0.85%~1.05%の範囲である、項目1または項目2に記載の方法。
[項目4]
Si含有率は0.70%~0.95%の範囲である、項目1から項目3のいずれか1項に記載の方法。
[項目5]
Mg/Si比率(重量%)は0.9超である、項目1から項目4のいずれか1項に記載の方法。
[項目6]
Mn含有率は0.75%~0.85%の範囲である、項目1から項目5のいずれか1項に記載の方法。
[項目7]
Fe含有率は最大0.12%である、項目1から項目6のいずれか1項に記載の方法。
[項目8]
Ti含有率は0.01%~0.06%の範囲である、項目1から項目7のいずれか1項に記載の方法。
[項目9]
前記圧延供給材の前記均質化は、555℃~595℃の範囲の温度である、項目1から項目8のいずれか1項に記載の方法。
[項目10]
前記熱間圧延板の前記溶体化熱処理は、545℃~580℃の範囲の温度である、項目1から項目9のいずれか1項に記載の方法。
[項目11]
前記人工時効は150℃~190℃の範囲の温度で実施される、項目1から項目10のいずれか1項に記載の方法。
[項目12]
前記人工時効は5~60時間の期間にわたり実施される、項目11に記載の方法。
[項目13]
前記急速冷却は、噴射焼入れ、または水中またはその他の焼入れ媒体中における浸漬焼入れのうちの1つによって実施される、項目1から項目12のいずれか1項に記載の方法。
[項目14]
前記人工時効はT6焼戻しを得るために実施される、項目1から項目13のいずれか1項に記載の方法。
[項目15]
(h)前記時効板を真空槽部材、バルブ、または総アセンブリへと機械切削すること、
(i)前記真空槽部材、前記バルブ、または前記総アセンブリを表面処理すること、
の工程を更に含む、項目1から項目14のいずれか1項に記載の方法。
[項目16]
前記表面処理は陽極酸化によって実施される、項目15に記載の方法。
[項目17]
前記アルミニウム合金板は、1mm
2
あたり400相未満の10μm
2
超のサイズを有する相及び粒子の密度を有する、項目1から項目16のいずれか1項に記載の方法。
[項目18]
真空槽部材、バルブ、または総アセンブリ用のアルミニウム合金板を製造するための方法であって、
(a)Mg 0.70%~1.05%、
Si 0.70%~1.0%、
Mn 0.60%~1.0%、
Fe 最大0.20%、
Zn 最大0.2%、
Cu 最大0.10%、
Cr 最大0.05%、
Ti 最大0.1%、
Ni 最大0.06%、
各<0.05%、合計<0.15%の不可避不純物、残部アルミニウム、
(重量%)からなる組成を有するAl-Mg-Si系アルミニウム合金の圧延供給材を供給すること、
(b)前記圧延供給材を550℃~595℃の範囲の温度で均質化すること、
(c)前記均質化圧延供給材を1つまたは複数の圧延工程で少なくとも10mmの厚みを有する熱間圧延板へと熱間圧延すること、
(d)540℃~590℃の範囲の温度で前記熱間圧延板の溶体化熱処理(「SHT」)を行うこと、
(e)前記SHT板を急速冷却すること、
(f)前記冷却SHT板を延伸して1%~5%の永久伸びを得ること、
(g)前記延伸板を人工時効すること、
の工程を含む、前記方法。
[項目19]
前記急速冷却は、噴射焼入れ、または水中またはその他の焼入れ媒体中における浸漬焼入れのうちの1つによって実施される、項目18に記載の方法。
[項目20]
前記人工時効は150℃~190℃の範囲の温度で5~60時間の期間にわたり実施される、項目18または項目19に記載の方法。
[項目21]
前記人工時効はT6焼戻しを得るために実施される、項目18から項目20のいずれか1項に記載の方法。