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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】基地局及びアンテナ制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/024 20170101AFI20240709BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20240709BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20240709BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20240709BHJP
   H04W 88/08 20090101ALI20240709BHJP
【FI】
H04B7/024
H04B7/06 950
H04B7/08 800
H04W16/28
H04W88/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022578168
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047917
(87)【国際公開番号】W WO2022163242
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2021011005
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】本江 直樹
(72)【発明者】
【氏名】武鎗 良治
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/095460(WO,A1)
【文献】特表2011-526095(JP,A)
【文献】ウメシュ アニール 他,O-RANフロントホール仕様概要,NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,2019年04月,VOL.27, No.1,pp.43-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/024
H04B 7/06
H04B 7/08
H04W 16/28
H04W 88/08
IEEE Xplore
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1,4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の指向性を有する複数の無線アンテナユニットおよび前記複数の無線アンテナユニットが接続されたベースバンドユニットを有する分散ユニットと、前記分散ユニットに対してビームフォーミング用の識別情報を含む制御信号を出力する中央ユニットとを備えた基地局であって、
前記複数の無線アンテナユニットは、各々のカバーエリアを補い合うように互いに間隔を置いて配置され、
前記ビームフォーミング用の識別情報の各々に対して前記複数の無線アンテナユニットのうちの少なくとも1つが予め対応付けられており、
前記ベースバンドユニットは、前記中央ユニットから受信した前記制御信号に含まれるビームフォーミング用の識別情報を、前記複数の無線アンテナユニットの中から該ビームフォーミング用の識別情報に対応する無線アンテナユニットを選択するために使用して、選択した無線アンテナユニットに送受信動作を行わせる一方で選択外の無線アンテナユニットは送受信動作を行わないように制御し、更に、上りリンクでは選択外の無線アンテナユニットからの信号は合成せずに選択した無線アンテナユニットからの信号のみを合成することを特徴とする基地局。
【請求項2】
請求項1に記載の基地局において、
前記分散ユニットは、前記ベースバンドユニットと前記複数の無線アンテナユニットのうちの少なくとも1つの無線アンテナユニットとの間に介在するハブを備え、
前記ハブは、前記中央ユニットから前記ベースバンドユニットを介して受信した前記制御信号に含まれるビームフォーミング用の識別情報を、前記少なくとも1つの無線アンテナユニットの中から該ビームフォーミング用の識別情報に対応する無線アンテナユニットを選択するために使用して、選択した無線アンテナユニットに送受信動作を行わせる一方で選択外の無線アンテナユニットは送受信動作を行わないように制御し、更に、上りリンクでは選択外の無線アンテナユニットからの信号は合成せずに選択した無線アンテナユニットからの信号のみを合成することを特徴とする基地局。
【請求項3】
単一の指向性を有する複数の無線アンテナユニットおよび前記複数の無線アンテナユニットが接続されたベースバンドユニットを有する分散ユニットと、前記分散ユニットに対してビームフォーミング用の識別情報を含む制御信号を出力する中央ユニットとを備えた基地局によって実施されるアンテナ制御方法であって、
前記複数の無線アンテナユニットは、各々のカバーエリアを補い合うように互いに間隔を置いて配置され、
前記ビームフォーミング用の識別情報の各々に対して前記複数の無線アンテナユニットのうちの少なくとも1つが予め対応付けられており、
前記ベースバンドユニットが、前記中央ユニットから受信した前記制御信号に含まれるビームフォーミング用の識別情報を、前記複数の無線アンテナユニットの中から該ビームフォーミング用の識別情報に対応する無線アンテナユニットを選択するために使用して、選択した無線アンテナユニットに送受信動作を行わせる一方で選択外の無線アンテナユニットは送受信動作を行わないように制御し、更に、上りリンクでは選択外の無線アンテナユニットからの信号は合成せずに選択した無線アンテナユニットからの信号のみを合成することを特徴とするアンテナ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線アンテナユニットを備えた基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線アクセスシステムが普及し、豊かな生活を送るためには無くてはならないものとなっている。携帯電話の第1世代から第4世代までを振り返ると、主に無線通信の高速化のための技術が進化してきた。第5世代では、高速化に加えて超低遅延及び多数同時接続性が要求される。これらの実現のためには広帯域化が有効であること、また、周波数の利用状況がひっ迫していることから、第5世代以降では、ミリ波帯をはじめとする高周波帯の利用が効果的である。例えば、第5世代ではミリ波帯に近い28MHz帯が使用される。周波数が高くなる(すなわち、波長が短くなる)と、例えば1つの平面アンテナの受信面積が小さくなるため、マイクロ波帯と比較して伝搬損失が大きくなるという課題がある。伝搬損失が大きくなると、無線機あたりのカバーエリアが小さくなるため、コストの増大を招いてしまう。
【0003】
この課題を解決するために、第5世代ではビームフォーミング技術(BF:Beam Forming)が採用される。BF技術は、複数のアンテナを配置(アレー)し、各アンテナ素子の送信信号の振幅と位相を制御することで鋭いアンテナ指向性を得ることができる。また、アンテナ利得によって電波伝搬損失を補償することができる。
【0004】
送信BFでは、複数のアンテナから放射する送信信号の位相を制御して空間合成することで、或る場所では各アンテナから放射された電波の位相が同相に近くなって電力を強め合い、また或る場所では各アンテナから放射された電波が電力を打ち消し合う。その結果、電力を強め合う場所では合成利得を得ることができるため、電波伝搬損失を補償し、長距離伝送が可能となる。あるいは、受信機での所望信号電力対雑音電力比が大きくなるため、直交振幅変調の多値数を大きくすることで高速伝送が可能となる。
【0005】
図1を参照して、BFによって狭小ビームを形成する場合の指向性について説明する。ここでは、アンテナとして、マイクロ波帯やミリ波帯において多く採用されている平面アンテナを用いる場合を例とした。図1(a)は1サブアレイ(または1素子)の場合の例であり、アンテナビームは平面アンテナの指向性を有する。図1(b)は4サブアレイの場合の例であり、1サブアレイと比較してアンテナビームの指向性は鋭くなり、正面方向の合成電力は大きくなる。図1(c)は16サブアレイの場合の例であり、アンテナビームの指向性は更に鋭くなり、正面方向の合成電力も更に大きくなる。図1(d)は16サブアレイであるが、図1(c)とは各アンテナ素子の送信信号の位相が異なる場合の例であり、正面よりも左側にアンテナビームの指向性が向くように制御されている。アンテナ指向性を鋭くすることによって、他の無線機に与える干渉を小さくすることができ、周波数の利用効率が良くなるという利点もある。BF技術の原理や指向性制御方法などは多くの文献で公知の技術となっているので、具体的な説明を省略する。また、特許文献1に示すように、アナログBFとデジタルBFを組み合わせたハイブリッドBFの開発も進められている。
【0006】
受信BFは、各アンテナの受信信号を合成する際に、所望波の到来方向のゲインを最大化する方法や、干渉波の到来方向のゲインを最小化する方法などがある。また、複数のアンテナを備えて空間ダイバーシティを行うことで、受信性能が良くなることも知られている。また、伝搬環境の変化に応じて上記受信技術の中から最適な方法を自動的に選択して実行するアルゴリズムについても、種々の研究や実用化が行われている。
【0007】
上記の課題を解決する別の技術として、基地局における分散アンテナシステム(DAS:Distributed Antenna System)がある。図2には、分散アンテナシステムの構成例を示してある。コアネットワークと接続される基地局は、CU(Central Unit)100と、CU100に接続された複数のDU(Distributed Unit)201とを備える。CU100は、データ処理やネットワーク制御を主に実行する集中制御装置である。DU200は、無線信号処理を主に実行するユニットであり、RFユニットやアンテナなどで構成される。分散アンテナシステムでは、1つのCU100で複数のDU200を集中的に制御することで、経済的なメリットを得ることができる。
【0008】
図3には、図2の分散アンテナシステムにおけるDU200の構成例を示してある。また、図4には、図2の分散アンテナシステムにおけるDU200の配置例を示してある。DU200は、BBU(Base Band Unit)201と、BBU201に接続された複数のRU(Radio Unit)202とを備える。
【0009】
BBU201は、分散アンテナシステムのベースバンド信号処理や制御などを集中的に行うユニットである。RU202は、一般的な無線機の無線部に相当するユニットであり、各々のカバーエリア204を補い合うように互いに間隔を置いて配置される。CU100とBBU201、及び、BBU201とRU202は、光ファイバなどの接続ケーブル203で接続される。
【0010】
RU202は、送受信アンテナ、電力増幅部、LNA(Low Noise Amplifier)、周波数フィルタ、D/A(Digital to Analog)変換部、A/D(Analog to Digital)変換部、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調部、OFDM復調部、O/E(Optical to Electronic)変換部、E/O(Electronic to Optical)変換部などを有する。
【0011】
BBU201は、CU100から光伝送された下りリンクの信号を複数のRU202に光伝送する。複数のRU202の各々は、BBU201から分配された同一の下りリンクの信号を送受信アンテナから送信する。また、BBU201は、複数のRU202の各々から光伝送された上りリンクの信号を受信し、これらを合成する。複数のRU202からの上りリンクの信号は、通信相手となる移動局とRU202との位置関係、電波環境、雑音等により異なる。BBU201は、合成した上りリンクの信号をCU100へ光伝送する。
【0012】
BBU201に複数のRU202を接続して集中制御することで、基地局のカバーエリアを拡大することができる。また、カバーエリアの広さに対してBBU201の数を相対的に抑えることができるため、経済的である。分散アンテナシステムはカバーエリアの拡大を目的としているため、BBU201から接続ケーブル203を通じて各RU202に伝送して各RU202のアンテナから送信する信号は、BBU201に接続された全てのRU202で同一である。一方、各RU202のアンテナで受信して接続ケーブル203を通じてBBU201に伝送する信号は、RU202毎に異なっており、BBU201で合成してCU100に送信される。
【0013】
図5には、図2の分散アンテナシステムにおけるDU200の別の構成例を示してある。同図のDU200は、総合的なケーブルの長さを抑えるために、送信信号の分配及び受信信号の合成を行うHUB(分配/合成装置)205を更に備えている。複数のRU202のうちの一部は、HUB205を介してBBU201と接続される。HUB205は、BBU201とRU202の間の通信を中継するものであり、BBU201と同様に下りリンクの信号を複数のRU202に分配し、また、複数のRU202から伝送された上りリンクの信号を合成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2018-107594号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】ウメシュ・アニール,外3名、「O-RANフロントホール仕様概要」、NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル Vol.27 No.1、2019年4月、p.43~55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の方法では、下りリンクにおいて、BBU201及びHUB205は、接続されている全てのRU202へ下りリンクの信号を分配し、全てのRU202がアンテナから電波を送信する。その結果、移動局が存在しないエリアに対しても電波が送信されるので、消費電力に無駄が生じるという問題があった。また、従来の方法では、上りリンクにおいて、BBU201及びHUB205は、接続されている全てのRU202から伝送された上りリンクの信号を合成する。その結果、移動局が存在しないエリアの受信信号、すなわち雑音信号も合成してしまうので、通信品質が劣化するという問題があった。
【0017】
ミリ波帯は、屋外にある無線機から建物の中(すなわち、屋内)への透過損失がマイクロ波帯と比較して大きく、電波を受信できるエリアが小さくなる。このため、DASシステムなどを用いて屋内のカバーエリアを拡大する必要がある。しかしながら、BF機能を備えた無線機でDASを構築する場合、鋭い指向性のアンテナビームを動的に制御するために、最大のエリア拡張効果および最大の無線通信性能を必ずしも得られないという問題がある。また、無線アンテナユニットの設置に制約があるという問題もある。
【0018】
図6を参照して、従来方式における第1の課題を説明する。同図には、建物の壁301にRU202を設置した例を示してある。RU202はBF機能を備えており、電波の伝搬距離が大きくなるが、アンテナビームの指向性が鋭くなる。そのため、遮蔽物(例えば、柱302)がある場合には、遮蔽物によって電波が阻害されてそこから先には電波が届かず、また、ミリ波では電波が回折しにくいので、予定されたカバーエリア303の範囲内に不感地帯304が発生してしまう。特に、屋内ではRU202を設置する高さが建物の壁や天井の高さによって制限されるので、遠方にビームを向けると床とビームのなす角が小さくなり、人などの比較的低い遮蔽物によっても電波が阻害されてしまう。
【0019】
図7を参照して、従来方式における第2の課題を説明する。同図には、建物の天井305にRU202を設置した例を示してある。遮蔽物は床に接している場合が多く、天井設置のRU202からは略見通し環境となるため、第1の課題は解決される。しかしながら、BFによって遠方まで電波を伝搬させる能力があるにも関わらず、屋内では天井の高さによって設置高さが制限されるため、カバーエリア303が小さくなってしまう。例えば、平面アンテナの指向性半値幅を一般的な90°として計算すると、カバーエリア303は設置高さhを半径とする円に留まってしまう。このように、BF機能付きのRU202を天井に設置する構成は、コストに対してのパフォーマンスが著しく低い。
【0020】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、カバーエリアの拡大を実現しつつ、消費電力の抑制、通信品質の向上を図ることが可能な基地局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、本発明に係る基地局は、以下のように構成される。
すなわち、間隔を置いて配置された複数の無線アンテナユニットを備え、ビームフォーミング用の識別情報を含む制御信号に基づくアンテナ制御を行う基地局であって、ビームフォーミング用の識別情報の各々に対して複数の無線アンテナユニットのうちの少なくとも1つが予め対応付けられており、アンテナ制御では、制御信号に含まれるビームフォーミング用の識別情報に対応付けられた無線アンテナユニットを無線通信に使用するために選択する。
【0022】
ここで、本発明に係る基地局は、制御信号を出力する中央ユニットと、中央ユニットと複数の無線アンテナユニットとの間に介在するベースバンドユニットとを備えた構成の場合、ベースバンドユニットが、アンテナ制御を行う機能を有し得る。
【0023】
また、本発明に係る基地局は、中央ユニットと複数の無線アンテナユニットのうちの少なくとも1つとの間に介在するハブを備えた構成の場合、ハブが、アンテナ制御を行う機能を有し得る。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カバーエリアの拡大を実現しつつ、消費電力の抑制、通信品質の向上を図ることが可能な基地局を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】平面アンテナとビームフォーミングの指向性の例を示す図である。
図2】分散アンテナシステムの構成例を示す図である。
図3図2の分散アンテナシステムにおけるDUの構成例を示す図である。
図4図2の分散アンテナシステムにおけるDUの配置例を示す図である。
図5図2の分散アンテナシステムにおけるDUの別の構成例を示す図である。
図6】従来方式における第1の課題の例を示す図である。
図7】従来方式における第2の課題の例を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る分散アンテナシステムにおけるDUの構成例を示す図である。
図9】BF機能による多素子アンテナのビームスキャンの例を示す図である。
図10】建物の天井に複数のRUが設置された様子を概略的に示す図である。
図11図10のように設置された複数のRUによるカバーエリアを平面的に示す図である。
図12図8の分散アンテナシステムにおける基地局の機能分割の例を示す図である。
図13図8の分散アンテナシステムにおけるBBU及びHUBの構成例を示す図である。
図14図8の分散アンテナシステムで使用する経路選択用テーブルの例を示す図である。
図15図8の分散アンテナシステムにおけるRUの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態について説明するに先立ち、BBUとRUとのインタフェースについて説明する。例えば第4世代までのRRH(Remote Radio Head)では、CUとBBU間やBBUとRU間の信号の伝送は、RoF(Radio over Fiber)にて行うことが主流であった。しかしながら、5Gでは信号帯域幅が数百MHzと広帯域であり、光ファイバの伝送容量が膨大になって現実的でない。そのため、送信時はOFDM変調前のデジタル信号を光伝送し、受信時はOFDM復調後のデジタル信号を光伝送することで、伝送容量を抑える方法が採用されている。また、5Gの無線周波数にはミリ波などの高周波帯が使用されるため、多素子アンテナを用いてBFを行うことが前提とされており、光伝送するデジタル信号の中に、BFに関する信号が制御信号として含まれる。
【0027】
5Gシステムのアーキテクチャの一例としてO-RAN(Open Radio Access Network)があり、O-RAN仕様で規定されたSplit7にて制御信号(C-plane)のフォーマットが規定されている(例えば、非特許文献1参照)。O-RANでは、BBUとRUとのインタフェースの制御信号の中に「BeamID」と呼ばれるパラメータがある。BeamIDは、RUにプリセットされた複数のBFパタンの中から1つを選択するためのBF制御情報である。
【0028】
後述する本発明の一実施形態では、BF制御情報であるBeamIDを、各RUを識別する識別情報であるRUIDに予め対応付けておく。そして、制御信号にて指定されたBeamIDに従ってBFにより狭小ビームを形成するのではなく、BeamIDに対応するRUIDを持つRUを選択し、選択されたRUを用いて移動局との無線通信を行うように制御する仕組みとなっている。以下、本発明の一実施形態に係る分散アンテナシステムについて具体的に説明する。
【0029】
図8には、本発明の一実施形態に係る分散アンテナシステムにおけるDUの構成例を示してある。本例の分散アンテナシステムでは、CU100に接続されたDU400は、BBU401と、RU402と、HUB405とを備える。なお、RU402の台数が少ない場合は、HUB405を備えなくてもよい。BBU401には、HUB405を介して、又は、RU405を介さずに、複数のRU402が接続される。CU100とBBU401、BBU401とRU402、BBU401とHUB405、及び、HUB405とRU402は、光ファイバなどの接続ケーブル403で接続される。なお、本例のRU402はBF機能を備えておらず、図1(a)のような平面アンテナの指向性を有する。
【0030】
本例の分散アンテナシステムでは、BBU401の後段(或いはBBU401の内部)及びHUB405の後段(或いはHUB405の内部)に、RU選択部410を追加してある。RU選択部410は、CU100から接続ケーブル403を通じて伝送された情報のうちのBF制御情報(すなわち、BeamID)に基づいて、BeamIDに対応するRUIDを持つRU402を選択する。RU選択部410によって選択されたRU402は、従来のRU202と同様にRF信号の送受信を行う。RU選択部410によって選択されていないRU402は、RF信号の送受信をはじめとした動作を行わない。また、BBU401及びHUB405は上りリンクにおいて、従来とは異なって複数のRU402からの信号を合成せず、選択されRU402からの信号のみを使用する。つまり、RU選択部410は、BF制御情報に対応するRU402のみを用いて移動局との無線通信を行うよう制御する。これにより、基地局のカバーエリアを実質的に拡大しつつ、下りリンクでは消費電力を抑えることができ、上りリンクでは通信品質を改善することができる。
【0031】
移動局が存在する対象エリアの送受信を行うRU402の決定方法について説明する。図9には、BF機能による多素子アンテナのビームスキャンの例を示してある。図9に示すように、5GのBF技術を適用した多素子アンテナの場合、基地局は、BeamIDを順次変更しながら移動局との無線通信に適したBeamIDをサーチし、最適なBeamIDを選択して移動局との無線通信を行う。前述したように、BeamIDは、例えばO-RANで規定された制御信号を用いてBBUに伝達される。移動局は移動する無線機であり、時間経過に伴って最適なBeamIDが変化するため、基地局は所定時間の経過後に上記の処理を繰り返す。
【0032】
従来の基地局では、サーチによって特定された最適なBeamIDに基づくBF動作を全てのRU202が行って、移動局との無線通信を行っていた。しかしながら、移動局はいずれかのRU202のカバーエリア内にしか存在しないため、他の移動局は無駄な動作をすることになる。これに対し、本例の基地局では、サーチによって特定された最適なBeamIDに対応するRU402のみを使用して、移動局との無線通信を行う。つまり、図10及び図11に示すように、或る時刻に移動局との無線信号を行うRU402は1つである。図10は、建物の天井に複数のRU402が間隔を置いて設置された様子を概略的に示したものである。図11は、各RU402によるカバーエリアを平面的に示したものである。このように、移動局が存在するエリアをサーチし、移動局との通信に最適なRUID#2を持つRU402のみを使用して、移動局との無線通信を行う。本例では、BBU401やHUB405がRU選択部410を備えることで、CU100とBBU401の間のインタフェースを変更する必要が無い。
【0033】
次に、基地局機能のCU100およびDU400への機能分割について説明する。以下では、基地局機能のCU100およびDU400への機能分割について、広く用いられているO-RAN仕様のインタフェース「split7」を例にして説明するが、これに限定するものではない。
【0034】
図12には、本例の分散アンテナシステムにおける基地局の機能分割の例を示してある。基地局の機能としては、RRC(Radio Resource Control)501、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)502、RLC(Radio Link Control)503、MAC(Medium Access Control)504、PHY(PHYsical layer)505、RF(Radio Frequency)506の各機能がある。
【0035】
O-RAN「split7」では、PHY505の機能が分割される。分割されたPHY505の機能のうち、CU100側をPHY-high505H、DU400側をPHY-low505Lと定義される。PHY-high505Hの機能には、[下りリンク/上りリンク]表現で、[符号化/復号]、[スクランブリング/デスクランブリング]、[変調/復調]、[レイヤマッピング/等価処理,IDFT]、[プリコーディング/チャネル推定]、[リソースエレメントマッピング/リソースエレメントデマッピング]がある。PHY-Low505Lの機能には、[送信デジタルBF/受信デジタルBF]、[IFFT/FFT]がある。RF506の機能には、[D/A変換/A/D変換]、[送信アナログBF/受信アナログBF]がある。
【0036】
PHY-high505HとPHY-low505Lは、接続ケーブル403により接続される。接続ケーブル403のインタフェース中のU-plane(User-plane)には、マッピングされた送信データ、及び、FFT(Fast Fourier Transform)された受信データが含まれる。接続ケーブル403のインタフェース中のC-plane(Control-plane)には、BF識別情報(BeamID)が含まれる。
【0037】
図13には、本例の分散アンテナシステムにおけるBBU及びHUBの構成例を示してある。BBU401は、RU選択部410と、PHY-low505Lとを含む。下りリンクでは、PHY-low505Lは、CU100からのU-planeの信号を処理し、送信信号を生成する。送信信号は、デジタル又はアナログのRoF(Radio over Fiber)信号として出力される。RU選択部410は、CU100からのC-planeの信号に含まれるBF制御情報(BeamID)に対して予め割り当てられた子機(RU402)への経路を選択する。選択されたRU202は、BBU401から受信した送信信号を電気信号に変換し、アンテナより出力する。上りリンクでは、RU選択部410で下りリンクで選択したRU202と同一の経路の上り信号を、U-planeでCU100へ送信する。BBU401とRU402の間にHUB405が存在する場合には、HUB405も複数のRU402と接続されるため、HUB405内のRU選択部410によって同様の処理を行う。
【0038】
次に、RU選択部410による経路選択方法について説明する。図14には、経路選択用テーブルの例を示してある。同図のテーブルは、図13に示したように、BU401にRU402(#1)及びRU402(#2)の2台が直接接続され、更にRU402(#3)及びRU402(#4)の2台がHUB405を介して接続されている場合の例である。BBU401は、BBU Tableを参照して、BeamIDに対応した経路を選択する。BBU Tableには、BBU401に直接接続された2台のRU402それぞれに対する2つの経路(経路1,経路2)と、BBU401にHUBを介して接続された2台のRU402に共通の経路(経路3)が設定されている。HUB405は、HUB Table♯1を参照して、BeamIDに対応した経路を選択する。HUB Table♯1には、HUB405に直接接続された2台のRU402のそれぞれに対する2つの経路(経路1,経路2)が設定されている。このような経路選択用テーブルを用いることで、BeamIDに対応するRU402を容易に特定することができる。
【0039】
図15には、本例の分散アンテナシステムにおけるRUの構成例を示してある。RU402は、図15に示すRF506の構成要素を含む。同図のRF506は、選択判別部601と、O/E変換器602と、D/A変換器603と、周波数変換部604と、電力増幅器(PA:Power Amplifier)605と、TDD-SW(Time Division Duplex-Switch)606と、アンテナ607と、LNA(Low Noise Amplifier)608と、周波数変換部609と、A/D変換器610と、E/O変換器611とを有する。
【0040】
選択判別部601は、自RUが選択されたか否かの判断を行う。一例として、RU選択部410から選択/非選択のフラグ情報を得て判断する方法がある。RU402は、自己が選択された場合にのみ下記の動作を行う(すなわち、自己が選択されていない場合は下記の動作を行わない)。
【0041】
自RUが選択されている場合、BBU401又はHUB405からの信号は、O/E変換器602で光信号から電気信号に変換される。D/A変換器603は、O/E変換によって得られたデジタル信号をアナログ信号に変換する。なお、アナログRofの場合はD/A変換器603は不要となる。周波数変換部604は、D/A変換によって得られたIF信号をRF信号に変換する。電力増幅器605は、周波数変換後のRF信号の電力を増幅する。TDD-SW606は、下りリンク(送信)又は上りリンク(受信)で経路を切り替える。下りリンクでは、アンテナ607からRF信号が送信される。
【0042】
上りリンクでは、アンテナ607で移動局からのRF信号を受信する。LNA608は、アンテナ607によって受信されたRF信号を増幅する。周波数変換部609は、増幅後のRF信号をIF信号に周波数変換する。A/D変換器610は、周波数変換後のIF信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。E/O変換器611は、A/D変換によって得られた電気信号を光信号に変換する。なお、アナログRofの場合はA/D変換器611は不要となる。
【0043】
図15では、説明を簡潔にするために必要な機能ブロックのみを示したが、当業者には周知である、バンドパスフィルタ、AGC(Automatic Gain Control)、AFC(Automatic Frequency Control)などの種々の機能ブロックが、図示した機能ブロックの間に挿入されてもよい。
【0044】
以上のように、本例の基地局は、間隔を置いて配置された複数のRU402を備え、BeamIDを含むBF制御情報に基づくアンテナ制御を行う基地局であって、BBU401及びHUB405が有するRU選択部410が、上記アンテナ制御として、BF制御情報に含まれるBeamIDに予め対応付けられたRU402を無線通信に使用するために選択する処理を行う。CU100は、本発明に係る中央ユニットに対応し、BBU401は、本発明に係るベースバンドユニットに対応し、RU402は、本発明に係る無線アンテナユニットに対応し、HUB405は、本発明に係るハブに対応する。
【0045】
このような構成によれば、基地局のカバーエリアを実質的に拡大できるだけでなく、下りリンクでは、選択されなかったRU402はRF信号を送信しないので消費電力を抑えることができ、上りリンクでは、選択されなかったRU402の受信信号(雑音信号)を合成しないので通信品質を向上させることができる。また、RU402は、BF機能が不要であり、多数のアンテナ素子を備える必要もなく、指向性が広い単一又は少数素子のアンテナで十分なため、装置コストを抑えることが可能である。
【0046】
なお、上述した構成は、屋内での利用に特に効果的であるが、屋外で利用しても構わない。また、BBU401とRU402間の信号、BB401とHUB405間の信号、及び、HUB405とRU402間の信号は、光信号でもよく、電気信号でもよい。また、これらの信号を光信号とする場合、CU100とBBU401の信号と同じ信号を用いてもよく、CU100とBBU401の信号とは異なる信号に置き換えてもよい。また、BF識別情報に応じて1つのRU402を選択する機能を持つ分散アンテナを使用してもよい。
【0047】
また、上記の説明では、1つのBeamIDに対して1つのRU402を対応付けているが、1つのBeamIDに対して複数(例えば、2つ)のRU402を対応付けてもよい。これは、2つのRU402の中間部分に移動局が存在する場合や、移動局が移動して在圏のRU402が切り替わる場合などに有効である。
【0048】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明したが、本発明はここに記載された無線通信システムに限定されるものではなく、他の無線通信システムに広く適用することができることは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0049】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【0050】
この出願は、2021年1月27日に出願された日本出願特願2021-011005を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、複数の無線アンテナユニットを備えた基地局に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
100:CU、 200:DU、 201:BBU、 202:RU、 203:接続ケーブル、 205:HUB、 301:壁、 302:柱、 303:カバーエリア、 304:不感地帯、 305:天井、 401:BBU、 402:RU、 403:接続ケーブル、 405:HUB、 406:RU選択部、 501:RPC、 502:PDCP、 503:RLC、 504:MAC、 505H:PHY-high、 505L:PHY-Low、 506:RF、 601:選択判定部、 602:O/E変換器、 603:D/A変換器、 604:周波数変換部、 605:電力増幅器、 606:TDD-SW、 607:アンテナ、 608:LNA、 609:周波数変換部、 610:A/D変換器、 611:E/O変換器
図1
図2
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図15