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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】光造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/129 20170101AFI20240709BHJP
   B29C 64/277 20170101ALI20240709BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20240709BHJP
【FI】
B29C64/129
B29C64/277
B29C64/393
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023500533
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041097
(87)【国際公開番号】W WO2022176283
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021024500
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正浩
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-210834(JP,A)
【文献】特表2016-513818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/129
B29C 64/277
B29C 64/393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化型樹脂におけるn個の領域R~R(nは、2以上の整数)の各々に光を照射する第1の工程~第nの工程を含み、
各領域R(iは、1≦i≦nを満たす整数)の一部は、他の領域R(jは、1≦j≦n及びj≠iを満たす整数)の一部と重なっており、
第iの工程において前記光を照射された領域Rのうち他の領域Rと重なった領域の一部又は全部である共通領域を硬化させ、
各領域R は、それぞれに対応する第iのデジタルマイクロミラーデバイスD により形成される、
ことを特徴とする光造形物の製造方法。
【請求項2】
各デジタルマイクロミラーデバイスDから前記光硬化型樹脂に至る光路上には、各デジタルマイクロミラーデバイスDに対応するレンズMが設けられている、
ことを特徴とする請求項に記載の光造形物の製造方法。
【請求項3】
各第iの工程は、同じタイミングで実施される、
ことを特徴とする請求項2に記載の光造形物の製造方法。
【請求項4】
前記共通領域に含まれるパターンの最小サイズは、前記光硬化型樹脂に光を照射する光学系である照射光学系の分解能未満である、
ことを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の光造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形物の造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光造形法の一態様であるステレオリソグラフィには、ガルバノスキャナを用いてレーザ光を走査する走査型と、デジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micromirror Device,DMD)を用いてパターニングされた光を投影する投影型とがある。投影型においてDMDに入射する光は、レーザ光源により生成された光であってもよいし、水銀ランプなどに代表されるランプにより生成された光であってもよい。例えば、非特許文献1のFigure 5には、波長λが405nmであるレーザ光を用いた投影型のステレオリソグラフィの光学系が示されている。
【0003】
非特許文献1の光学系において、レーザ光は、コリメートされたうえでDMD(Digital Micromirror Device)に照射される。DMDを構成する各ミラーの向きは、レーザ光の照射領域における強度分布が所望のパターンになるように制御されている。したがって、DMDにより反射されることによって、レーザ光の照射領域における強度分布は、ほぼ一様なものから所望のパターンに対応したものに変換される。所望のパターンに対応するように強度分布をパターニングされたレーザ光は、焦点距離fがf=45mmである対物レンズを用いて、光硬化型樹脂の層が表面に設けられたサンプルプラットフォームに投影される。その結果、サンプルプラットフォーム上の光硬化型樹脂の層に所望のパターンに対応するレーザ光が照射され、所望のパターンを有する光造形物が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Michael P. Lee et. al.,"Development of a 3D printer using scanning projection stereolithography", SCIENTIFIC REPORTS,5, 9875, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、走査型及び投影型の何れのステレオリソグラフィを用いる場合であっても、感光することによって硬化する光硬化型樹脂の最小サイズは、光硬化型樹脂に照射される光の最小サイズに依存している。また、光硬化型樹脂に照射される光の最小サイズは、サンプルプラットフォームに光を照射する照射光学系の分解能δに依存している。分解能δには、レイリーの分解能、アッベの分解能、及びホプキンスの分解能というようにいくつかの考え方がある。波長λ及び開口数NAを用いて、レイリーの分解能は、δ=0.61λ/NAで表され、アッベの分解能は、δ=λ/NAで表され、ホプキンスの分解能は、δ=κλ/NAで表される。なお、ホプキンスの分解能に含まれるκは、照明状態によって決まる定数であり、最小でκ=0.58である。
【0006】
このように、ステレオリソグラフィを用いる場合、サイズが照射光学系の分解能δよりも小さなパターンを含む光造形物を製造することができない。
【0007】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、照射光学系の分解能よりも小さなパターンを含む光造形物を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光造形物の製造方法は、光硬化型樹脂におけるn個の領域R~R(nは、2以上の整数)の各々に光を照射する第1の工程~第nの工程を含み、各領域R(iは、1≦i≦nを満たす整数)の一部は、他の領域R(jは、1≦j≦n及びj≠iを満たす整数)の一部と重なっており、第iの工程において前記光を照射された領域Rのうち他の領域Rと重なった領域の一部又は全部である共通領域を硬化させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る光造形物の製造方法によれば、照射光学系の分解能δよりも小さなパターンを含む光造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る製造方法を好適に実施することができる投影型及び走査型のステレオリソグラフィ装置の模式図である。
図2】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係る製造方法に含まれる第1の工程及び第2の工程における領域R及びRの模式図である。(c)は、第1の工程及び第2の工程を実施することにより光硬化型樹脂が硬化する共通領域を示す模式図である。
図3】(a)~(c)は、それぞれ、図2に示した製造方法の第1の変形例に含まれる第1の工程~第3の工程における領域R~Rの模式図である。(d)は、第1の工程~第3の工程を実施することにより光硬化型樹脂が硬化する共通領域を示す模式図である。
図4】(a)及び(b)は、それぞれ、図2に示した製造方法の第2の変形例に含まれる第1の工程及び第2の工程における領域R及びRの模式図である。(c)は、第1の工程及び第2の工程を実施することにより光硬化型樹脂が硬化する共通領域を示す模式図である。
図5図1の(a)に示したステレオリソグラフィ装置の変形例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔ステレオリソグラフィ装置〕
本発明の一実施形態に係る光造形物の製造方法について説明する前に、本製造方法を好適に実施することができるステレオリソグラフィ装置10,20の構成について、図1を参照して説明する。図1の(a)及び(b)は、それぞれ、ステレオリソグラフィ装置10,20の模式図である。
【0012】
<投影型>
ステレオリソグラフィ装置10は、デジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micromirror Device,DMD)11と、レンズ12と、容器13と、試料台14と、ステージ15とを備えている(図1の(a)参照)。また、図1の(a)には図示していないものの、ステレオリソグラフィ装置10は、光硬化型樹脂Rを露光する光Lを生成するレーザ装置を備えている。ステレオリソグラフィ装置10は、非特許文献1のFigure 5に記載のステレオリソグラフィ装置と同様に、投影型のステレオリソグラフィ装置の一例である。
【0013】
(照射光学系)
本実施形態において、レーザ装置は、波長λがλ=405nmである光Lを生成する半導体モジュールを備えている。レーザ装置から出射された光Lは、レンズを含むコリメート用の光学系を用いて発散光から図1の(a)に示すコリメート光に変換される。なお、図1の(a)では、光Lの光束の中心軸を光軸Aとしている。光軸Aは、光Lの主光線が通る光路と一致する。
【0014】
図1の(a)においては、液体である光硬化型樹脂Rの表面(すなわち水平面)に直交する鉛直上向き方向をz軸正方向と定め、DMD11に入射する前の光Lの伝搬方向をx軸正方向と定め、x軸正方向及びz軸正方向とともに右手系の直交座標系を構成する方向をy軸正方向と定めている。
【0015】
DMD11は、マトリクス状に配置された複数のミラーを備えている。各ミラーの向きは、コンピュータにより制御されており、第1の方向及び第2の方向の何れかをとり得る。ミラーが第1の方向を向いている場合、光Lは、z軸負方向に向かって反射される。この状態をオン状態と呼ぶ。また、ミラーが第2の方向を向いている場合、光Lは、z軸負方向とは異なる方向に向かって反射される。この状態をオフ状態と呼ぶ。したがって、マトリクス状に配置された各ミラーのうちオン状態にするミラーを選択することによって、DMD11によりz軸負方向に向かって反射される光Lの照射領域における強度分布をパターニングすることができる。
【0016】
DMD11により所望のパターンに強度分布をパターニングされた光Lは、レンズ12を用いて、光硬化型樹脂Rの層の下方に位置する試料台14の主面141に投影される。レンズ12は、対物レンズとして機能する。なお、試料台14については、後述する。
【0017】
レーザ装置、コリメート用の光学系、DMD11、及びレンズ12は、ステレオリソグラフィ装置10において、光硬化型樹脂Rに光Lを照射する照射光学系を構成する。なお、照射光学系は、後述する主面141に投影される光Lのパターンをできるだけ精細にできるように調整されていることが好ましい。換言すれば、照射光学系は、その分解能をできるだけ高められるように調整されていることが好ましい。
【0018】
なお、発明が解決しようとする課題の欄に上述したように、照射光学系の分解能δには、レイリーの分解能、アッベの分解能、及びホプキンスの分解能というようにいくつかの考え方がある。波長λ及び開口数NAとしてλ=405nm,NA=1を採用した場合、レイリーの分解能及びアッベの分解能は、それぞれ、247nm及び405nmとなる。また、ホプキンスの分解能は、κが最小であるκ=0.58である場合に235nmとなる。
【0019】
(光硬化型樹脂収容系)
DMD11の下方には、容器13、試料台14、及びステージ15が設けられている。
【0020】
ステージ15は、x軸方向、y軸方向、及びz軸方向の各方向にテーブルを並進移動させることができる3軸ステージである。ステージ15は、後述する容器13及び試料台14の位置を精密に制御するために、nmオーダーの分解能を有する。nmオーダーの分解能を有するxyzステージとしては、各軸方向へのテーブルの駆動用にピエゾアクチュエータを用いるxyzステージが挙げられる。このようなxyzステージは、例えば、5nm程度の分解能を有する。なお、図1の(a)には、ステージ15のテーブルのみを示している。なお、ステージ15は、コンピュータにより制御されている。また、ステージ15のテーブルには、後述するz軸ステージが固定されている。
【0021】
ステージ15のテーブルの上には、容器13が載置されている。また、容器13の内部には、試料台14と、光硬化型樹脂Rとが収容されている。
【0022】
試料台14は、容器13の外部においてz軸方向に沿って並進移動することができるz軸ステージに接続されている。上述したように、z軸ステージは、ステージ15のテーブルに固定されている。したがって、ステージ15のテーブルを移動させた場合、容器13、z軸ステージ、及び試料台14は、同期して移動する(一体として移動する)。換言すれば、容器13に対する試料台14の相対位置であって、xy平面内における相対位置は、固定されている。なお、z軸ステージは、コンピュータにより制御されている。
【0023】
光硬化型樹脂Rは、閾値を超えるドーズ量の光Lを照射されることによって、液体から固体へ硬化する。光硬化型樹脂Rは、光造形用として市場に出回っている光硬化型樹脂のなかから用途に応じて選択することができる。
【0024】
ステレオリソグラフィ装置10は、光硬化型樹脂Rの自由液面に対して鉛直上向き方向から光Lを照射する自由液面方式である。したがって、試料台14は、一対の主面のうちz軸正方向側の主面である主面141が自由液面のわずかに下方に位置するように、z軸方向における位置をz軸ステージにより制御されている。その結果、主面141の上には、光硬化型樹脂Rの所定の厚み(例えば2μm以上5μm以下)を有する層が形成されている。
【0025】
容器13、試料台14、ステージ15、及びz軸ステージは、ステレオリソグラフィ装置10において、光硬化型樹脂Rを収容する光硬化型樹脂収容系を構成する。
【0026】
上述したように、DMD11によりパターニングされた光Lは、レンズ12を用いて、光硬化型樹脂Rの層の下方に位置する主面141に投影される。したがって、DMD11におけるオン状態のミラーにより構成されたパターンが、主面141上の光硬化型樹脂Rの層に転写される。その結果、主面141上に所望のパターンを有する光造形物が造形される。
【0027】
<走査型>
ステレオリソグラフィ装置20は、ガルバノスキャナ21と、レンズ22と、容器13と、試料台14と、ステージ15とを備えている(図1の(b)参照)。ステレオリソグラフィ装置20は、走査型のステレオリソグラフィ装置の一例である。
【0028】
容器13、試料台14、及びステージ15は、ステレオリソグラフィ装置10が備えているものと同一である。
【0029】
また、図1の(b)には図示していないものの、ステレオリソグラフィ装置20は、光硬化型樹脂Rを露光する光Lを生成するレーザ装置を備えている。このレーザ装置もステレオリソグラフィ装置10が備えているものと同一である。
【0030】
ガルバノスキャナ21には、レーザ装置から出射され、コリメートされた光Lが入射する。ガルバノスキャナ21は、2枚のミラーと、各ミラーの向きをそれぞれ制御する2つのモータとを備えている。ガルバノスキャナ21は、コンピュータにより制御されている。ガルバノスキャナ21は、2枚のミラーの向きを調整することによって、主面141に照射する光Lを走査することができる。
【0031】
ステレオリソグラフィ装置20において、レーザ装置、コリメート用の光学系、及びガルバノスキャナ21は、光硬化型樹脂Rに光Lを照射する照射光学系を構成する。
【0032】
レンズ22は、レンズ12と同様に、対物レンズとして機能する。
【0033】
〔光造形物の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る光造形物の製造方法について、図2を参照して説明する。図2の(a)及び(b)は、それぞれ、本製造方法に含まれる第1の工程及び第2の工程における領域R及びRの模式図である。図2の(c)は、第1の工程及び第2の工程を実施することにより光硬化型樹脂Rが硬化する共通領域Rを示す模式図である。なお、図2の(a)~(c)の上段の図は、ステレオリソグラフィ装置10が備えている試料台14の主面141を平面視した場合に得られる各領域の平面図である。また、図2の(a)~(c)の下段の図は、図2の(a)に示した線分AB上におけるドーズ量を示すグラフである。なお、主面141の上には、光硬化型樹脂Rの層が形成されている。
【0034】
<投影型のステレオリソグラフィ装置を用いる場合>
ここでは、投影型であるステレオリソグラフィ装置10を用いて本製造方法を実施するものとして説明する。光Lの波長λは、λ=405nmであり、レンズ12の開口数NAは、NA=1である。この場合、レイリーの分解能及びアッベの分解能は、それぞれ、247nm及び405nmとなる。また、ホプキンスの分解能は、κが最小であるκ=0.58である場合に235nmとなる。
【0035】
本製造方法は、図2の(a)に示す第1の工程と、図2の(b)に示す第2の工程とを含む。すなわち、本製造方法は、本発明の一態様に係る製造方法のうちn=2である場合の一例である。ただし、本発明の一態様に係る製造方法において、n=2に限定されず、nは、2以上の整数であればよい。
【0036】
第1の工程は、主面141の上の光硬化型樹脂Rにおける領域Rに対して、光Lを照射する工程である。本実施形態において、領域Rは、一辺の長さLがL=405nmである正方形である。例えば、図3を参照して後述する第1の変形例は、n=3を採用している。
【0037】
第2の工程は、主面141の上の光硬化型樹脂Rにおける領域Rに対して、光Lを照射する工程である。本実施形態において、領域Rは、領域Rと同様に一辺の長さLがL=405nmである正方形である。
【0038】
本製造方法においては、1つのDMD11を備えたステレオリソグラフィ装置10を用いるので、第1の工程及び第2の工程を異なるタイミングで順番に実施する。また、本実施形態においては、第1の工程及び第2の工程における光Lのドーズ量は、何れも等しくドーズ量Vである。
【0039】
領域Rは、領域Rをx軸正方向にL/2だけ並進移動することによって得られる。したがって、領域R及び領域Rは、互いに重なっている。本製造方法においては、n=2であるので、領域R及び領域Rの重なった領域の全部が共通領域Rとなる。共通領域Rは、x軸方向に沿った長さがL/2に対応する202.5nmであり、y軸方向に沿った長さが405nmである長方形である。
【0040】
第1の工程及び第2の工程における光Lのドーズ量Vは、光Lの強度と、露光時間とに応じて所望の値に設定することができる。本製造方法においては、領域R,Rのうち後述する共通領域Rのみの光硬化型樹脂Rを硬化させ、それ以外の領域の光硬化型樹脂Rを硬化させない。したがって、ドーズ量Vは、光硬化型樹脂Rが硬化する閾値を閾値Vthとして、Vth<2V及びV<Vthを満たすように、換言すれば、Vth/2<V<Vthを満たすように設定されている。本製造方法においては、V=2Vth/3になるように第1の工程における光Lのドーズ量Vを定めている(図2の(c)参照)。
【0041】
共通領域Rにおけるドーズ量2Vは、2V=4Vth/3になる。一方、領域R,Rのうち共通領域Rと重なっていない領域におけるドーズ量Vは、V=2Vth/3である。したがって、共通領域Rの光硬化型樹脂Rのみが硬化する。
【0042】
このように、本製造方法によれば、照射光学系の分解能δ(例えば235nm)よりも小さなパターンを含む光造形物を製造することができる。
【0043】
図1の(a)に示したステレオリソグラフィ装置10を用いて本製造方法を実施する場合、各領域R,Rは、1つのDMD11により形成される。そのため、第1の工程及び第2の工程は、異なるタイミングで順番に実施される。また、光硬化型樹脂Rにおける各領域R,Rの位置(図2参照)は、それぞれ、光硬化型樹脂Rに光Lを照射する光学系である照射光学系の一部(例えば、DMD11及びレンズ12の少なくとも何れか一方)の配置に応じて定められるように構成が採用されていてもよい。また、光硬化型樹脂Rにおける各領域R,Rの位置は、それぞれ、光Lが照射される試料台14と、容器13との位置に応じて定められるように構成が採用されていてもよい。この場合、試料台14及び容器13は、同期して移動する(一体として移動する)ように構成されていればよい。また、共通領域Rに含まれるパターンの最小サイズ(図2の(a)においては、L/2)は、光硬化型樹脂Rに光Lを照射する光学系である照射光学系の分解能δ(例えば235nm)以下である場合、本製造方法は、より効果的である。換言すれば、光硬化型樹脂Rにおいて、領域Rから領域Rに至る並進移動の移動量が分解能δ以下である場合、本製造方法は、より効果的である。
【0044】
なお、本発明の一態様に係る製造方法において、n=2の場合に限定されず、nとして2以上の整数を採用することもできる。この場合、本発明の一態様に係る製造方法は、光硬化型樹脂Rにおけるn個の領域R~Rの各々に光を照射する第1の工程~第nの工程を含んでいる。各領域R(iは、1≦i≦nを満たす整数)の一部は、他の領域R(jは、1≦j≦n及びj≠iを満たす整数)の一部と重なっている。そのうえで、本発明の一態様に係る製造方法は、第iの工程において光Lを照射された領域Rのうち他の領域Rと重なった領域の一部又は全部である共通領域を硬化させる。なお、領域Rの一部の面積は、領域Rの全部の面積に対して、20%より大きく、100%より小さくてもよい。また、領域Rの一部の面積は、領域Rの全部の面積に対して、20%より大きく、100%より小さくてもよい。
【0045】
<第1の変形例>
図2に示した製造方法の第1の変形例について、図3を参照して説明する。図3の(a)~(c)は、それぞれ、第1の変形例の製造方法に含まれる第1の工程~第3の工程における領域R~Rの模式図である。図3の(d)は、第1の工程~第3の工程を実施することにより光硬化型樹脂Rが硬化する共通領域Rを示す模式図である。図2の場合と同様に、図3の(a)~(d)の上段の図は、ステレオリソグラフィ装置20が備えている試料台14の主面141を平面視した場合に得られる各領域の平面図である。また、図3の(a)~(d)の下段の図は、図3の(d)に示した線分CD上におけるドーズ量を示すグラフである。
【0046】
本変形例は、本発明の一態様に係る製造方法のうちn=3である場合の一例である。したがって、図3の(a)、(b)、及び(c)に示すように、第1の工程、第2の工程、及び第3の工程を含む。
【0047】
第iの工程(iは、1≦i≦3を満たす整数)は、各領域Rに光Lを照射する。図2の示した製造方法の場合と同様に、各領域Rは、一辺の長さLがL=405nmである正方形である。
【0048】
領域Ri+1は、領域Rをx軸正方向及びy軸方向の各々に、それぞれ、L/3だけ並進移動することによって得られる。したがって、各領域Rは、互いに重なっている。以下では、領域R~領域Rのうち少なくとも2つの領域が重なった領域を第1の共通領域Rc1と呼び、領域R~領域Rのうち全ての領域が重なった領域を第2の共通領域Rc2と呼ぶ。
【0049】
第1の共通領域Rc1は、第iの工程において光Lを照射された領域Rのうち他の領域R(jは、1≦j≦n及びj≠iを満たす整数)と重なった領域の全部である。第1の共通領域Rc1は、一辺の長さが270nmである2つの正方形が重なった形状である。
【0050】
第2の共通領域Rc2は、第iの工程において光Lを照射された領域Rのうち他の領域Rと重なった領域の一部である。第1の共通領域Rc1において、最も狭い部分の幅は、191nmである。また、第2の共通領域Rc2は、一辺の長さが135nmである正方形である。
【0051】
本変形例において、第iの工程の各々における光Lのドーズ量は、何れも等しくドーズ量Vである。
【0052】
第1の共通領域Rc1を硬化させる場合における光硬化型樹脂Rが硬化する閾値を閾値Vth1とする。この場合、Vth1<2V及びV<Vth1を満たすように、換言すれば、Vth1/2<V<Vth1を満たすように、ドーズ量Vを設定すればよい。
【0053】
また、第2の共通領域Rc2を硬化させる場合における光硬化型樹脂Rが硬化する閾値を閾値Vth2とする。この場合、Vth2<3V及び2V<Vth2を満たすように、換言すれば、Vth2/3<V<Vth2/2を満たすように、ドーズ量Vを設定すればよい。
【0054】
本変形例によれば、各第iの工程におけるドーズ量Vを上述したように制御することによって、第1の共通領域Rc1又は第2の共通領域Rc2を選択的に硬化させることができる。このように、本変形例によれば、照射光学系の分解能δ(例えば235nm)よりも小さなパターンを含む光造形物を製造することができる。
【0055】
<第2の変形例:走査型のステレオリソグラフィ装置を用いる場合>
図2に示した製造方法の第2の変形例について、図4を参照して説明する。図4(a)及び(b)は、それぞれ、第2の変形例の製造方法に含まれる第1の工程及び第2の工程における領域R及びRの模式図である。図4の(c)は、第1の工程及び第2の工程を実施することにより光硬化型樹脂Rが硬化する共通領域Rを示す模式図である。なお、図4の(a)~(c)の上段の図は、ステレオリソグラフィ装置20が備えている試料台14の主面141を平面視した場合に得られる各領域の平面図である。また、図の(a)~(c)の下段の図は、図4の(a)に示した線分EF上におけるドーズ量を示すグラフである。なお、主面141の上には、光硬化型樹脂Rの層が形成されている。
【0056】
本変形例では、投影型であるステレオリソグラフィ装置10の代わりに、走査型であるステレオリソグラフィ装置20を用いて本製造方法を実施するものとして説明する。光Lの波長λは、λ=405nmであり、レンズ12の開口数NAは、NA=1である。この場合、レイリーの分解能及びアッベの分解能は、それぞれ、247nm及び405nmとなる。また、ホプキンスの分解能は、κが最小であるκ=0.58である場合に235nmとなる。
【0057】
本変形例は、光硬化型樹脂Rにおける2個の領域R,Rの各々に光を照射する第1の工程及び第2の工程を含む。本変形例では、走査型であるステレオリソグラフィ装置20を用いるので、第1の工程及び第2の工程を異なるタイミングで順番に実施する。
【0058】
本変形例において、各領域R(iは、1≦i≦nを満たす整数)は、他の領域R(jは、1≦j≦n及びj≠iを満たす整数)と重なっている。具体的には、領域Rと領域Rとは、重なっている。そのうえで、本変形例は、領域Rと領域Rとが重なった領域である共通領域Rを硬化させる。これらの構成について、本変形例は、図2に示した製造方法と同様である。
【0059】
本変形例と、図2に示した製造方法との違いは、光硬化型樹脂Rに光Lを照射する場合の方式である。本変形例では、図1の(b)に示したガルバノスキャナ21を用いてレーザ光である光Lを走査することによって、領域R,Rのパターンを光硬化型樹脂Rに転写する。
【0060】
本変形例において、領域R,Rの各々は、何れも、外縁の形状が正方形であり、且つ、環状である領域である(図4の(a)及び(b)参照)。なお、領域R,Rの各々において、外縁の一辺の長さは、2.46μmであり、環状部分の幅Wは、W=405nmである。また、領域Rは、領域Rをx軸正方向及びy軸方向の各々に、それぞれ、W/2だけ並進移動することによって得られる。
【0061】
第1の工程及び第2の工程を実施することによって、領域Rと領域Rとが重なった領域の全部である共通領域Rが得られる。共通領域Rは、領域R,Rと同様に、外縁の形状が正方形であり、且つ、環状である領域である。共通領域Rの外縁の一辺の長さは、領域R,Rの外縁の一辺の長さよりW/2短く、環状部分の幅は、大部分においてW/2に対応する202.5nmである。
【0062】
このように、本変形例によれば、走査型であるステレオリソグラフィ装置20を用いても、照射光学系の分解能δ(例えば235nm)よりも小さなパターンを含む光造形物を製造することができる。
【0063】
〔ステレオリソグラフィ装置の変形例〕
図1の(a)に示したステレオリソグラフィ装置10の変形例であるステレオリソグラフィ装置10Aについて、図5を参照して説明する。図5は、ステレオリソグラフィ装置10Aの模式図である。
【0064】
ステレオリソグラフィ装置10は、光Lをパターニングする手段として1つのDMD11を備えている。したがって、図2に示した製造方法においては、第1の工程及び第2の工程の各々において、領域R及び領域Rの各々に光Lを照射するようにDMD11を順番に制御する。そのため、図2に示した製造方法(n=2の場合)は、第1の工程及び第2の工程を異なるタイミングで順番に実施する構成を採用している。図3に示した製造方法(n=3の場合)においても、この点は、同じである。
【0065】
一方、ステレオリソグラフィ装置10Aは、n=3を採用しており、光Lをパターニングする手段としてnと同数である3つのDMD11A1,11A2,11A3を備えている(図5参照)。各DMD11Aiは、第iのデジタルマイクロミラーデバイスDの一例である。また、ステレオリソグラフィ装置10Aは、各DMD11Ai(iは、1≦i≦3を満たす整数)に別個の光を入射させるために、nと同数である3つのレーザ装置を備えている(図5には不図示)。なお、図5においては、各DMD11Aiに対応する各光を代表して、各光束の中心軸である光軸ALiを図示している。
【0066】
したがって、各DMD11Aiは、光軸ALiに沿って伝搬する各光を、各領域Rの形状にパターニングしつつ反射する。このように、ステレオリソグラフィ装置10Aは、照射光学系をnと同じ数(本変形例では3)だけ備えている。したがって、ステレオリソグラフィ装置10Aは、各第iの工程を同じタイミングで実施することができる。
【0067】
各DMD11Aiにより所望のパターンに強度分布をパターニングされた各光は、レンズ12Aを用いて光硬化型樹脂Rの層の下方に位置する試料台14の主面141に投影される。レンズ12Aは、図1の(a)に示したレンズ12と同様に、対物レンズとして機能する。
【0068】
また、ステレオリソグラフィ装置10Aは、各DMD11Aiから光硬化型樹脂Rに至る各光路上には、各DMD11Aiに対応するレンズ16iがそれぞれ設けられている。各レンズ16iは、レンズMの一例である。なお、本変形例においては、上記光路のうちレンズ12Aと光硬化型樹脂Rとの間に各レンズ16iを設けている。なお、各レンズ16iとしては、配列された状態で一体化されたマイクロレンズアレイ16を用いている。
【0069】
各DMD11Aiのうち、DMD11A2は、ステレオリソグラフィ装置10のDMD11と同じ向きを向くように配置されている。DMD11A2は、試料台14の主面141上に設けられた光硬化型樹脂Rの層のうち、領域R図3の(b)参照)に光を照射する。
【0070】
DMD11A1は、光硬化型樹脂Rのうち領域R図3の(a)参照)に光を照射するように、向きを調整されている。また、DMD11A3は、光硬化型樹脂Rのうち領域R図3の(c)参照)に光を照射するように、向きを調整されている。
【0071】
このように構成されたステレオリソグラフィ装置10Aを用いることによって、各領域Rは、それぞれに対応するDMD11Ai(第iのデジタルマイクロミラーデバイスDの一例)により形成される。この場合、各第iの工程は、同じタイミングで実施されることが好ましい。
【0072】
なお、ステレオリソグラフィ装置10Aは、図1の(a)に示したステレオリソグラフィ装置10をベースにし、nと同じ数の照射光学系を有するように変更することによってえられる。同様に、図1の(b)に示したステレオリソグラフィ装置20をベースにし、nと同じ数の照射光学系を有するように変更することによって、走査型のステレオリソグラフィ装置を用いて本発明の一態様に係る製造方法を実施する場合であっても、各第iの工程を同じタイミングで実施することができる。
(まとめ)
【0073】
本発明の第1の態様に係る光造形物の製造方法は、光硬化型樹脂におけるn個の領域R~R(nは、2以上の整数)の各々に光を照射する第1の工程~第nの工程を含み、各領域R(iは、1≦i≦nを満たす整数)の一部は、他の領域R(jは、1≦j≦n及びj≠iを満たす整数)の一部と重なっており、第iの工程において前記光を照射された領域Rのうち他の領域Rと重なった領域の一部又は全部である共通領域を硬化させる。
【0074】
上記の構成によれば、領域Rのうち他の領域Rと重なった領域の一部又は全部である共通領域を硬化させるので、照射光学系の分解能よりも小さなパターンを含む光造形物を製造することができる。
【0075】
また、本発明の第2の態様に係る光造形物の製造方法においては、上述した第1の態様に係る光造形物の製造方法の構成に加えて、各領域Rは、それぞれに対応する第iのデジタルマイクロミラーデバイスDにより形成される、構成が採用されている。
【0076】
上記の構成によれば、各第iの工程を実施するタイミングを自由に決めることができる。
【0077】
また、本発明の第3の態様に係る光造形物の製造方法においては、上述した第2の態様に係る光造形物の製造方法の構成に加えて、各デジタルマイクロミラーデバイスDから前記光硬化型樹脂に至る光路上には、各デジタルマイクロミラーデバイスDに対応するレンズMが設けられている、構成が採用されている。
【0078】
上記の構成によれば、複数の第iのデジタルマイクロミラーデバイスDを用いて各領域Rを結像させる場合に各領域Rを所定の位置に確実に結像させることができる。
【0079】
また、本発明の第4の態様に係る光造形物の製造方法においては、上述した第2の態様又は第3の態様の何れか一態様に係る光造形物の製造方法の構成に加えて、各第iの工程は、同じタイミングで実施される、構成が採用されている。
【0080】
上記の構成によれば、各領域Rを一括して露光するので、各領域Rの位置が経時的な要因によりずれることを防ぐことができる。また、光造形に要する時間を短縮することができる。
【0081】
また、本発明の第5の態様に係る光造形物の製造方法においては、上述した第1の態様に係る光造形物の製造方法の構成に加えて、各領域Rは、1つのデジタルマイクロミラーデバイスにより形成され、且つ、各第iの工程は、異なるタイミングで実施される、構成が採用されている。
【0082】
上記の構成によれば、複数のデジタルマイクロミラーデバイスを用いることなく各領域Rを形成することができる。したがって、簡易な照射光学系を用いて本製造方法を実施することができる。
【0083】
また、本発明の第6の態様に係る光造形物の製造方法においては、上述した第5の態様に係る光造形物の製造方法の構成に加えて、光硬化型樹脂における各領域Rの位置は、それぞれ、前記光硬化型樹脂に前記光を照射する光学系である照射光学系の一部の配置に応じて定められる、構成が採用されている。
【0084】
上記の構成によれば、照射光学系の一部の位置を制御することにより各領域Rの位置を制御することができる。したがって、既存の投影型のステレオリソグラフィの照射光学系を用いて本製造方法を実施することができる。
【0085】
また、本発明の第7の態様に係る光造形物の製造方法においては、上述した第5の態様又は第6の態様に係る光造形物の製造方法の構成に加えて、光硬化型樹脂における各領域Rの位置は、それぞれ、前記光が照射される試料台と、前記光硬化型樹脂を収容する容器との位置に応じて定められ、前記試料台及び前記容器は、同期して移動する、構成が採用されている。
【0086】
上記の構成によれば、同期して移動する(一体として移動する)試料台及び容器の位置を制御することにより各領域Rの位置を制御することができる。したがって、既存の投影型のステレオリソグラフィの照射光学系を用いて本製造方法を実施することができる。
【0087】
また、本発明の第8の態様に係る光造形物の製造方法においては、上述した第1の態様~第7の態様の何れか一態様に係る光造形物の製造方法の構成に加えて、前記共通領域に含まれるパターンの最小サイズは、前記光硬化型樹脂に光を照射する光学系である照射光学系の分解能未満である、構成が採用されている。
【0088】
このように、本発明の一態様に係る光造形物の製造方法は、前記共通領域に含まれるパターンの最小サイズは、前記光硬化型樹脂に光を照射する光学系である照射光学系の分解能未満である場合に、より効果的である。
【0089】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
10,10A,20 ステレオリソグラフィ装置
11,11A1~11A3 デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)
12,12A,22 レンズ
13 容器
14 試料台
141 主面
15 ステージ
16 マイクロレンズアレイ
161~163 レンズ
R 光硬化型樹脂
21 ガルバノスキャナ
~R,R 領域
共通領域
c1,Rc2 第1の共通領域,第2の共通領域(共通領域の一例)
図1
図2
図3
図4
図5