IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図1
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図2
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図3
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図4
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図5
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図6
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図7
  • 特許-ワークピースを溶接する方法及び装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】ワークピースを溶接する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/09 20060101AFI20240709BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20240709BHJP
   B23K 9/10 20060101ALI20240709BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/073 555
B23K9/10 A
B23K9/167 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023506280
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 EP2021071397
(87)【国際公開番号】W WO2022023526
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】102020209717.8
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ラットナー、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ウィリンガー、マルティン
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-281777(JP,A)
【文献】特開平03-285768(JP,A)
【文献】特開平06-320272(JP,A)
【文献】特開2005-081383(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0102408(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非消耗溶接電極(2)とワークピース(W)との間で点火されて溶融池を生成する溶接アーク(SLB)を用いてワークピース(W)を溶接する方法であって、
前記ワークピース(W)の溶接が複数の設定可能な溶接サイクル(SZ)を含む溶接プロセスで実行され、
各設定可能な溶接サイクル(SZ)が、高電流振幅(IHSP)を有する溶接電流(I)が流れる高電流溶接段階(HSP)と、
低電流振幅(INSP)を有する溶接電流(I)が流れる低電流溶接段階(NSP)と、を有しており、
前記溶接サイクル(SZ)の前記高電流溶接段階(HSP)において、適宜設定された関連する前記溶接サイクル(SZ)で、電流パルス(SI)が前記高電流振幅(IHSP)に印加され、
前記高電流溶接段階(HSP)の開始時に、適宜設定された関連する前記溶接サイクル(SZ)で、前記溶接アーク(SLB)の非接触点火のために逆極性の高周波点火パルス(ZI)が印加される、方法。
【請求項2】
前記溶接プロセスにおいて使用される溶接ジョブは、複数の溶接サイクル(SZ)を含み、前記複数の溶接サイクル(SZ)のパラメータは、インタフェース(6)を介して設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶接ジョブの溶接サイクル(SZ)の前記パラメータは、
前記高電流溶接段階(HSP)の持続時間(Δt)、
前記低電流溶接段階(NSP)の持続時間(Δt)、
前記低電流溶接段階(NSP)の前記持続時間(Δt)に対する前記高電流溶接段階(HSP)の前記持続時間(Δt)の比、
前記高電流溶接段階(HSP)で流れる前記溶接電流(I)の電流振幅(IHSP)、
前記低電流溶接段階(NSP)で流れる前記溶接電流(I)の電流振幅(INSP)、
前記低電流溶接段階(NSP)で流れる前記溶接電流(I)の前記電流振幅に対する前記高電流溶接段階(HSP)で流れる前記溶接電流(I)の前記電流振幅の比、
前記高電流溶接段階(HSP)および/または前記低電流溶接段階(NSP)で印加される前記電流パルス(SI)の振幅(ISI)および周波数(FSI)、
前記高電流溶接段階(HSP)の開始時に印加される点火パルス(ZI)の振幅、周波数および極性を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶接電流のレベルは、溶接アーク(SLB)が前記低電流溶接段階(NSP)で存在するように設定される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
溶接ジョブの前記溶接サイクル(SZ)のパラメータが、前記溶接プロセスの前または間に、ユーザインタフェース(6)を用いて溶接士によって手動で設定される、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
溶接ジョブ内の前記溶接サイクル(SZ)の前記高電流溶接段階(HSP)の電流振幅は、開始時にランプ状に増加し、次いで一定レベルに維持され、終了時にランプ状に減少する、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記高電流溶接段階(HSP)の電流振幅が最大1000アンペアであり、かつ/または前記低電流溶接段階(NSP)の電流振幅が0~100アンペアの範囲である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶接サイクルの前記低電流溶接段階で流れる前記溶接電流の電流振幅は、0アンペアと10アンペアとの間の範囲内に設定される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記高周波点火パルス(ZI)が、点火持続時間内に特定の周波数で1つまたは複数のパルスパケット内で印加され、パルスパケットが複数の点火パルスを含む、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶接サイクル(SZ)の前記低電流溶接段階(NSP)において、適宜設定された関連する前記溶接サイクル(SZ)で、電流パルス(SI)が前記高電流振幅(IHSP)に印加される、請求項1乃至のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ワークピース(W)を溶接するための溶接装置(1)であって、
非消耗溶接電極(2)と、
前記非消耗溶接電極(2)が配置される溶接トーチ(3)と、
前記溶接トーチ(3)がホースアセンブリ(4)を介して接続される溶接電流源(5)であって、保護ガスが前記ホースアセンブリ(4)を介して前記溶接トーチ(3)に供給され、前記溶接電流源(5)から前記溶接トーチ(3)に電流を供給するためのラインが前記ホースアセンブリ(4)内に配置されている、前記溶接電流源(5)と、
複数の選択可能な溶接ジョブが配置されたデータメモリであって、各溶接ジョブは、前記ワークピース(W)を溶接するための溶接プロセスの複数の溶接サイクル(SZ)を含んでいる、前記データメモリと、
前記溶接プロセスの各溶接サイクル(SZ)は、高電流振幅(IHSP)を有する溶接電流(I)が流れる高電流溶接段階(HSP)と、低電流振幅(INSP)を有する溶接電流(I)が流れる低電流溶接段階(NSP)とを有しており、
前記溶接サイクル(SZ)の前記高電流溶接段階(HSP)において、適宜設定された前記溶接サイクル(SZ)で、電流パルス(SI)が前記高電流振幅(IHSP)に印加され、前記高電流溶接段階(HSP)の開始時に、適宜設定された前記溶接サイクル(SZ)で、溶接アーク(SLB)の非接触点火のために逆極性の高周波点火パルス(ZI)が印加され、
インタフェース(6)であって、前記インタフェース(6)を介して前記データメモリから溶接ジョブを選択することができ、かつ前記溶接ジョブの溶接サイクルのパラメータを設定することができる、前記インタフェース(6)と、を備え、
前記溶接装置(1)は、前記ワークピース(W)を溶接するために、前記溶接装置(1)の前記非消耗溶接電極(2)と前記ワークピース(W)との間に溶接アーク(SLB)を点火して溶融池を生成し、かつ前記インタフェースを介して設定された前記溶接ジョブの前記溶接サイクルの前記パラメータに従って複数の溶接サイクル(SZ)を含む溶接プロセスを実行するように構成されている、溶接装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電極、特に非消耗タングステン溶接電極による溶接アークによってワークピースを溶接するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接の場合、電気アークまたは溶接アークSLBの放電がワークピースと溶接電極との間で発生する。タングステン不活性ガス(TIG)溶接の場合、タングステンからなる溶接電極が使用される。他の従来のアーク溶接方法とは対照的に、TIG溶接方法の場合、使用される溶接電極は、タングステンの高い融点のために溶融しない。必要な溶接金属は、ワイヤまたはバーの形態で溶接アーク内に保持され、この状態で溶融される。溶融材料が周囲空気と反応しないことを確実にするために、不活性である保護ガスが好ましくは使用され、即ち、保護ガスは関与する材料との化学反応を起こさない。TIG溶接の場合、少数の溶接スパッタのみが生成される。さらに、使用される溶接電極は消耗しないので、溶加材または溶接金属の添加と溶接電流の電流強度とは互いに切り離される。これは、溶接プロセスのための溶接電流を比較的容易に調整することができ、必要な量の溶接金属のみが実際に供給されるという利点を提供する。
【0003】
しかしながら、インターバル溶接の場合、非消耗溶接電極は休止時間中に冷却されるため、溶接アークの点火中の特定の状況下で点火問題が発生し得る。溶接アークの点火後、非消耗溶接電極には溶接装置の電流源からエネルギーが供給される。その際、一方では、溶融池を生成するのに十分なエネルギーを提供し、他方では、過度に高いエネルギー入力を防止するために、溶接プロセス中のワークピースへのエネルギー入力が適切な範囲内にあることが重要である。
【0004】
特許文献1には、ガスタングステンアーク溶接プロセスおよびタングステン不活性ガス溶接プロセスが記載されており、溶接電流が波形で調整され、波形は、特定の全体周波数で第1の電流セクションと第2の電流セクションとの間で変化するプロファイルを有し、これらのセクションの各々は、正方向または負方向のいずれかのピーク電流と持続時間とを有し、少なくとも1つの電流セクションは、特定の全体周波数よりも大きいパルス周波数で、そのピーク電流に等しい高電流レベルと、ピーク電流の反対方向の低電流レベルとの間で切り替えられる。
【0005】
特許文献2には、アークを点火するために、電極およびワークピースの極性が短時間反転されて、電極が電流源のプラス極に接続され、ワークピースがマイナス極に接続され、極性が反転された状態で点火パルスが電極とワークピースとの間に供給されるようにすることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、消耗電極を含む溶接方法が開示されており、特許文献4には、連続的な正の溶接電流が様々な溶接段階においてそれぞれ矩形に変調されるパルスアーク溶接方法が記載されている。さらなるTIG溶接方法が、特許文献5から公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国実用新案第202006021306号明細書
【文献】独国特許出願公開第2904481号明細書
【文献】特開平06-320272号公報
【文献】独国特許出願公開第2313677号明細書
【文献】独国特許発明第60311994号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この背景技術に対して、本発明の目的は、非消耗溶接電極を用いて溶接アークによってワークピースを溶接するための方法および装置であって、溶接アークが確実に点火され、溶接プロセス中にワークピースへのエネルギー入力を最適化された方法で設定することができる方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は、請求項1に記載の特徴を有する方法によっておよび請求項11に記載の特徴を有する溶接装置によって達成される。
従って、本発明は、非消耗溶接電極とワークピースとの間で点火され、溶融池を生成する溶接アークによってワークピースを溶接する方法であって、ワークピースの溶接が、複数の設定可能な溶接サイクルを含む溶接プロセスで行われ、各溶接サイクルが、高溶接電流が流れる高電流溶接段階と、低溶接電流から溶接電流が流れない低電流溶接段階とを有する方法を提供し、
溶接サイクルの高電流溶接段階において、および任意選択的に溶接サイクルの低電流溶接段階(NSP)において、適宜設定された関連する溶接サイクルで、電流パルスが印加され、高電流溶接段階の開始時に、適宜設定された関連する溶接サイクルで、溶接アークの非接触点火のために高周波点火パルスが印加される。
【0010】
本発明による方法の1つの可能な実施形態では、溶接プロセスにおいて使用される特性曲線は、複数の溶接サイクルを含み、複数の溶接サイクルのパラメータはインタフェースを介して設定される。
【0011】
本発明による方法の1つの可能な実施形態では、特性曲線による溶接サイクルのパラメータは、特に、
高電流溶接段階の持続時間、
低電流溶接段階の持続時間、
低電流溶接段階の持続時間に対する高電流溶接段階の持続時間の比、
高電流溶接段階で流れる溶接電流の電流振幅、
低電流溶接段階で流れる溶接電流の電流振幅、
低電流溶接段階で流れる溶接電流の電流振幅に対する高電流溶接段階で流れる溶接電流の電流振幅の比、
高電流溶接段階及び/又は低電流溶接段階で溶接中に印加される電流パルスの振幅及び周波数、
高電流溶接段階の開始時に印加される点火パルスの振幅、周波数および極性を含む。
【0012】
本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、溶接サイクルの低電流溶接段階で流れる溶接電流の電流振幅は、0アンペアと10アンペアとの間の範囲内に設定される。
本発明による方法のさらなる可能な実施形態において、溶接ジョブの溶接サイクルのパラメータが、溶接プロセスの前または間に、ユーザインタフェースを用いてユーザまたは溶接士によって手動で設定される。
【0013】
溶接アークは、低電流溶接段階における溶接電流のレベルに依存して、この位置で生成される。
本発明による方法のさらなる可能な実施形態では、溶接ジョブ内の溶接サイクルの高電流溶接段階の電流振幅は、開始時にランプ状に増加し、次いで、一定のレベルに維持され、終了時にランプ状に減少する。
【0014】
本発明による方法のさらなる可能な実施形態において、高電流溶接段階の電流振幅は、最大1000アンペアである。
発明は、溶接装置の非消耗溶接電極とワークピースとの間で点火されて溶融池を生成する溶接アークによってワークピースを溶接するための溶接装置をさらに提供する。
【0015】
本発明による溶接方法および本発明による溶接装置の可能な実施形態は、添付の図面を参照して以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による溶接装置の例示的な実施形態を示す図である。
図2】本発明による溶接方法の動作モードを説明するための信号図である。
図3】本発明による溶接方法の動作モードを説明するための信号図である。
図4】本発明による溶接方法の動作モードを説明するための信号図である。
図5】本発明による溶接方法の動作モードを説明するための信号図である。
図6】本発明による溶接方法の動作モードを説明するための信号図である。
図7】本発明による溶接方法の動作モードを説明するための信号図である。
図8】本発明による溶接方法の動作モードを説明するための信号図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、ワークピースWを溶接するための本発明による溶接装置1の例示的な実施形態を示す。溶接アークSLBは、溶接装置1の非消耗溶接電極2と溶接されるワークピースWとの間で点火され、溶融池を生成する。図1に示すように、溶接プロセス中に、溶接金属ZWが供給される。非消耗溶接電極2は、ホースアセンブリ4を介して溶接電流源5に接続された溶接トーチ3上に配置される。ガス、特に保護ガスは、ホースアセンブリ4を介して溶接トーチ3に供給され得る。保護ガスは、例えばヘリウムまたはアルゴンおよびそれらの混合物である。少量の活性ガスをガス混合物に添加することもできる。非消耗溶接電極2は、例えば、タングステン電極である。ホースアセンブリ4内には、保護ガス用のガス供給ラインのみならず、溶接トーチ3に電流を供給するための電流ラインまたは溶接ラインも配置されている。この電流は溶接電流源5によって供給される。
【0018】
本発明による溶接装置1または本発明による溶接デバイスの場合、ワークピースWの溶接は、複数の溶接サイクルSZを含む溶接プロセスで実行され、そのパラメータは、溶接装置1のインタフェース6を介して設定することができる。図1に示す実施形態では、インタフェース6は、溶接電流源5のパラメータを設定するために設けられている。代替的に又は付加的に、ユーザインタフェース6は溶接トーチ3上に設けられ得る。
【0019】
各溶接プロセスは、1つまたは複数の溶接サイクルSZを含む。本発明による溶接装置1の場合、溶接プロセスの各溶接サイクルSZは、高電流溶接段階HSPおよび低電流溶接段階NSPを有する。高電流溶接段階HSPの間、高電流振幅を有する電気溶接電流Iが流れるのに対し、溶接サイクルSZの低電流溶接段階NSPでは、低電流振幅を有する溶接電流Iのみが流れる。
【0020】
高電流溶接段階HSPでは、適宜設定された関連する溶接サイクルSZで、生成された溶融池に振動を生成するための電流パルスがさらに印加される。さらに、高電流溶接段階HSPの開始時に、適宜設定された関連する溶接サイクルSZで、溶接電極2とワークピースWとの間の間隙をイオン化するために、溶接アークSLBの非接触点火のための高周波点火パルスZIが印加される。表面張力を破壊するために、電流パルスがオンにされる。RPI(逆極性高周波点火パルス)は、点火特性を改善するために使用される。溶接電流の極性反転は、タングステン電極におけるより高い温度を意味し、その結果として、電極とワークピース表面との間の空隙がより効果的にイオン化される。
【0021】
溶接プロセス中、複数の溶接サイクルSZを含む溶接ジョブが使用され得る。これらのパラメータは、溶接装置1のインタフェース6を介して設定され得る。本発明に従って、溶接ジョブの溶接サイクルSZのパラメータは、ユーザインタフェースを用いて、例えば電流源5に設けられたユーザインタフェース6を用いて、溶接プロセスの実行前または実行中に溶接士によって手動で設定され得る。本発明に従って、溶接パラメータを設定するための複数の選択可能な溶接ジョブがデータメモリ内に配置されている。1つの可能な実施形態では、このデータメモリは溶接電流源5に組み込まれる。代替的に、データメモリは、データインタフェースを介して溶接電流装置1に接続され得る。溶接ジョブは、例えば、溶接ジョブの定義された閾値またはトリガ点に到達すると直ちに適応され得る。
【0022】
本発明による溶接装置1の1つの可能な実施形態では、データメモリに保存された溶接ジョブが、最初に読み出され、選択された溶接ジョブの様々な溶接サイクルSZの溶接パラメータの設定後に、適宜適応され、かつデータメモリに書き戻される。このようにして、各溶接士は、自身の経験および優先度に応じて溶接ジョブを適応させ、さらなる使用のために前記ジョブをデータメモリに保存するという選択肢を有する。
【0023】
図2は、溶接アークSLBを用いてワークピースWを溶接するための本発明による方法の動作モードを説明するための信号図を示す。溶接アークSLBは、非消耗溶接電極2とワークピースWとの間で点火され、この位置に溶融池を生成する。ワークピースWの溶接は、図2に示すように、設定可能な溶接サイクルSZを含む溶接プロセスで実行される。各溶接サイクルSZは、高電流溶接段階HSPおよび低電流溶接段階NSPを含む。高電流溶接段階HSPの間、高電流振幅IHSPを有する溶接電流Iが流れる。後続の低電流溶接段階NSPでは、低電流振幅INSPを有する溶接電流Iが流れる。電流振幅INSPが閾値を超える場合、低電流溶接段階にも溶接アークSLBが存在する。図2に示された例示的な実施形態の場合、低電流振幅INSPは0に等しく(INSP=0A)、即ち、アーク放電は発生しない。高電流溶接段階HSPの持続時間はΔtであり、低電流溶接段階NSPの持続時間はΔtである。設定可能な溶接サイクルSZの持続時間は、T=Δt+Δtである。溶接サイクルSZの高電流溶接段階HSPでは、適宜設定された関連する溶接サイクルSZで、図2に示すように、溶融池内に振動を生成するために、高電流振幅IHSPに電流パルスがさらに重畳される。パルス周波数は、好ましくは0.2Hz~20kHzである。電流パルスSIの電流振幅は、0A~1100Aの範囲内であり得る。さらに、高電流溶接段階HSPの開始時に、適宜設定された関連する溶接サイクルSZで、溶接電極2とワークピースWとの間の間隙をイオン化するために、溶接アークSLBの非接触点火のための高周波点火パルスZIが印加される。図2の例示的な実施形態の場合、1つの点火パルスのみが示されている。しかしながら、高電流段階HSPの開始時に複数の点火パルスZを生成することもできる。
【0024】
溶接サイクルSZは、図2に示すように、様々なパラメータを含む。これらのパラメータは、高電流溶接段階HSPの持続時間Δt、低電流溶接段階NSPの持続時間Δt、低電流溶接段階NSPの持続時間Δtに対する高電流溶接段階HSPの持続時間Δtの比、高電流溶接段階HSPで流れる基本溶接電流Iの電流振幅IHSP、低電流溶接段階NSPで流れる溶接電流Iの電流振幅INSP、低電流溶接段階NSPで流れる基本溶接電流INSPの電流振幅に対する高電流溶接段階HSPで流れる基本溶接電流INSPの電流振幅の比、高電流溶接段階HSPで溶接電流Iに重畳される電流パルスSIの振幅ISI及び周波数FSI、および高電流溶接段階HSPの開始時に印加することができる点火パルスZIの振幅IZI、周波数及び極性である。
【0025】
接士またはユーザは、溶接プロセスの前または間に、1つの可能な実施形態におけるユーザインタフェース6を介して様々な溶接パラメータを設定することができる。さらに、溶接ジョブの溶接サイクルSZのパラメータは、溶接プロセスの前または間に検出された測定値に依存して状況に応じて設定することができる。高電流溶接段階HSPにおける溶接電流Iの電流振幅は、最大1000アンペアであり得る。
【0026】
溶接アークSLBを点火するために、高電流溶接段階HSPの開始時に高周波点火パルスZIが印加される。溶接アークSLBを点火する目的で、異なる点火プロセス、特にHF点火を実行することができる。有利には、HF点火は逆極性を有する(逆極性点火RPI)。非接触点火手順は、複数のパルスパケット内の高周波点火パルスZIを用いて実行することができる。溶接アークSLBの非接触点火は、主に、溶接電極2とワークピースWとの間の間隔をイオン化する役割を果たす。溶接アークSLBの点火後、溶接電流Iがオンに切り替えられる。高周波点火パルスZIは、1つまたは複数のパルスパケット内で、点火持続時間内に所定の周波数で印加され得る。その結果、溶接電極2とワークピースWとの間の空気または周囲ガスの予備イオン化が達成されて、溶接アークSLBの迅速かつ確実な点火が行われる。パルスパケットは、複数の点火パルス、例えば最大500個のHF点火パルスを含むことができる。点火パルスZIの数は、選択された点火持続時間および点火パルスZIの周波数に依存し得る。溶接回路へのHF点火の結合は、例えば、容量的(コンデンサ)または誘導的(コイル)に行うことができる。1つの可能な実施形態では、点火パルスZIの周波数および数は、異なる用途に対して設定することができる。パケット内で印加される点火パルスZIによって、溶接アークSLBの正確で信頼性のある迅速な点火を達成することが可能である。
【0027】
点火が実行された後、図2に同様に示されるように、生成された溶融池内に振動を生成するために、高電流溶接段階HSPのさらなる過程において電流パルスSIが高電流振幅IHSPに重畳される。これらの電流パルスSIの振幅ISIも同様に設定することができる。高基本溶接電流IHSPに重畳された電流パルスSIによる、高電流溶接段階HSP中のパルス的なエネルギーの導入によって、溶融池が振動させられる。溶融池の振動により、関与するワークピースW間で溶融池がより一緒に流れ易くなる。さらに、もたらされるエネルギー入力は、電流パルスの振幅ISIによってより正確に制御することができる。1つの可能な実施形態では、電流パルスSIの様々なパルスパラメータ、特にパルス高さ、パルス幅、パルス周波数、パルス休止およびパルス形状は、電流源5上のユーザインタフェース6を介して設定することができる。
【0028】
図3は、本発明による溶接方法の動作モードを説明するためのさらなる信号図を示す。図示された実施形態では、高周波点火パルスZIの印加は、第1の溶接サイクルSZ中にのみ行われる。続く第2の溶接サイクルSZの間、溶接アークSLBは、高周波点火パルスZIを印加することなく点火される。図3に示す例示的な実施形態の場合、低電流溶接段階NSP中の電流振幅INSPは0である(INSP=0A)。
【0029】
図4は、本発明による方法のさらなる例示的な実施形態を示す。図4に示す例示的な実施形態の場合、低電流溶接段階NSP中の電流振幅INSPは、0ではなく、その代わりに、ユーザによって例えば0~3アンペアの指定範囲内に設定することができる。高電流溶接段階HSP中の重畳された電流パルスSIの期間(デューティサイクル)は、同様に図4に示されており、かつ1つの可能な実施形態において、エネルギー入力を制御するためにユーザによって適宜設定され得る。より多くのパルスが設定されるほど、エネルギー入力はより高くなる。この例示的な実施形態の場合、溶接アークSLBは、高周波点火パルスZIを印加することなく点火される。
【0030】
図5は、本発明による方法のさらなる例示的な実施形態を示す。この実施形態の場合、0~3アンペアの範囲内の低電流振幅INSPを有する溶接電流Iが、低電流溶接段階NSP中に同様に流れる。図5に示される例示的な実施形態の場合、電流パルスSIは、高電流溶接段階HSP中に高電流振幅IHSPに重畳されない。従って、電流パルスSI及び正極性ZIを有する高周波点火パルスは、好ましくは、ユーザの用途及び優先度に応じてオン又はオフに切り替えられ得る。
【0031】
図6は、本発明による方法のさらなる例示的な実施形態を示す。図示された例示的な実施形態の場合、低電流溶接段階NSP中に電流は流れない(INSP=0A)。さらに、溶接アークSLBは、各溶接サイクルSZ(逆極性点火RPI)の開始時に、HF点火パルスZIによってそれぞれ点火される。
【0032】
図7に示す例示的な実施形態の場合、電流パルスS1は、高電流溶接段階HSP及び低電流溶接段階NSPの両方において印加される。
図8は、本発明による方法の動作モードを説明するためのさらなる信号図を示す。図8は、全体として可能な溶接ジョブを形成する複数の溶接サイクルSZを示す。図示の例示的な実施形態の場合、溶接ジョブ内の溶接サイクルSZの高電流溶接段階HSPの電流振幅IHSPは、開始時にランプ状に増加し、複数の溶接サイクルSZにわたって一定に維持され、終了時にランプ状に減少する。1つの可能な実施形態では、溶接ジョブ内に含まれる様々な溶接サイクルSZの溶接パラメータは、個別に設定され得る。さらなる可能な実施形態では、例えば図8に示されるような特定の基本特性曲線GKLは、データメモリから読み出すことができ、任意選択的に、溶接プロセスの前または間に溶接士によって関連する用途のために調整または設定され得る。1つの可能な実施形態において、データメモリから読み出された基本特性曲線または溶接ジョブは、溶接パラメータが適応された溶接ジョブとしてユーザによって設定された後に、対応するデータメモリに書き戻され得る。データメモリは、例えば、溶接デバイスの溶接電流源5内に設けられ得る。対応して適応された溶接ジョブは、関連するユーザによってデータベースエントリとしてデータメモリに書き戻され、その後、後続の溶接プロセスのためにユーザによって使用され得る。このようにして、ユーザは、基本溶接特性曲線GKLをユーザの特定の要件および優先度に合わせて個別化し、必要に応じて溶接プロセスのために前記曲線をデータメモリから読み出す選択肢を有する。本発明による溶接方法は、非消耗溶接電極2の確実な点火と、溶接プロセス中のエネルギー入力の正確な設定とを可能にする。これにより、形成される溶接シームの品質を向上させることができる。
【0033】
1つの可能な実施形態において、溶接デバイス1は、表示ユニットを有するグラフィカルユーザインタフェース6を有する。グラフィカルユーザインタフェース6は、例えば、溶接電流源5に一体化され得る。代替的に、ユーザインタフェース6は、溶接トーチ3上に、または溶接デバイス1のコントローラと通信するポータブルデバイス上に設けることもできる。ユーザインタフェース6は、例えば、ユーザ又は溶接士が溶接ジョブの様々な溶接サイクルSZの様々な溶接パラメータを個々に設定することを可能にするタッチスクリーンを含む。好ましい実施形態において、個々の溶接サイクルSZを含む溶接ジョブは、ユーザインタフェース6の表示ユニット上に表示され、ユーザ自身の目的のためにユーザによって適応され得る。例えば、1つの可能な実施形態において、図8に示される溶接ジョブは、表示ユニットを介してユーザに表示される。ユーザは、タッチスクリーンを対応して操作することによって、溶接ジョブの特定のポイント、例えば、個々の溶接サイクルSZの特定の段階(HSP,NSP)にズームインすることができる。例えば、2本の指を反対方向に移動させることによって、溶接ジョブ内の特定の点にズームインまたはフォーカスして、この位置で特定の溶接パラメータを手動で設定することが可能である。例えば、ユーザは、対応する指の動きによって、タッチスクリーン上の振幅および持続時間または期間を減少または延長または増加させることができる。これにより、ユーザは、対応する溶接ジョブを迅速かつ直感的に適応させることができる。例えば、ユーザは、手動入力コマンドによって、例えばタッチスクリーンの表面をタップすることによって、様々な溶接サイクルSZに対して個別に溶接サイクルSZの開始時に点火パルスZIまたは点火パルスパケットを設定または解除することができる。重畳された電流パルスSIの振幅は、溶接ジョブの各溶接サイクルSZに対するユーザによる対応する入力によって個々に適応され得る。これにより、溶接ジョブまたは特性曲線を溶接士のために簡単かつ柔軟に適応させることができ、従って、個々の用途に最適に適応させることができる。高電流溶接段階HSPの開始時に印加される点火パルスZIの振幅、周波数及び極性は、例えばユーザによって手動で選択され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8