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  • 特許-六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法 図1
  • 特許-六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-08
(45)【発行日】2024-07-17
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
C01B21/064 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024532902
(86)(22)【出願日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 JP2024007518
【審査請求日】2024-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2023049896
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】柿木 智行
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】油谷 真人
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/224674(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/085517(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/039586(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103964403(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
A61K 8/19
A61Q 1/12
C04B 35/5833
C08K 3/38
C08L 101/00
C08K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ嵩密度が0.08g/cm以下であり、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力が3.5kPa以上である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
目開き25μm篩上の粉体において、伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体の割合が13%以上である、請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
粒径D50が15~30μmであり、平均アスペクト比15~20である、請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
粒径D90が37~52μmである、請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
化粧料用である、請求項1~4のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項6】
請求項5記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む、化粧料。
【請求項7】
請求項5記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む、ルースファンデーション。
【請求項8】
粗六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を、嵩密度0.16~0.23/cmとなるように加熱容器内に充填し、最高温度1700℃~2100℃で3時間以上、窒素雰囲気下で加熱する加熱工程を含み、
前記粗六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積12~30m/gであり、溶出ホウ素量が1~15%である、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料としての用途に適した六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶系の層状構造を有する白色顔料であり、潤滑性、展延性、被覆力、及び化学的安定性に優れていることから、様々な化粧料の原料として使用されてきた。そのため、六方晶窒化ホウ素粉末の、化粧料の原料としての要求特性をさらに向上させようとする試みが、これまでに報告されている。例えば特許文献1では、六方晶窒化ホウ素粉末のアスペクト比、平均粒子径、比表面積、黒鉛化指数、及びタップ密度(タップ嵩密度)を一定の範囲内にすることで、塗り伸び、及び隠ぺい力が向上することが記載されている。
【0003】
一方、多様な要求特性の中でも、近年では「しっとり感」が着目され始めている。非特許文献1では、静止摩擦力と動摩擦力の差がしっとり感に寄与していることが記載されている。また特許文献2では、平均粒子径が2.5~7.0μmであり、かつ36μm以上の粒子径を有する凝集粒子の含有量を10.0体積%以下とすることで、適度な潤滑性を保ちつつ、しっとり感を高めた六方晶窒化ホウ素粉末としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2018-108970号
【文献】国際公開第2019/172440号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Bulletin of the Chemical Society of Japan,2020,93,399-405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、従来の六方晶窒化ホウ素粉末においても、化粧品の原料としての要求特性であるしっとり感を高めることに一定の効果が認められる。しかしながら、高いしっとり感と、その他の要求特性との両立という観点において、いまだ課題は残っている。例えば、しっとり感の高い六方晶窒化ホウ素粉末は肌への密着性が高く、粉体としてもパッキング性が高くなるのに対して、特許文献1の段落0026に記載されているようにフワフワ感のある六方晶窒化ホウ素粉末は空気を多く内包しており、タップ嵩密度の値が小さいためパッキング性は低く、六方晶窒化ホウ素粉末によって化粧料のしっとり感及びフワフワ感を両立することは困難であった。特許文献2に記載されている六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集粒子の含有量を10.0体積%以下と制限しているため、粒子のパッキング性が高まっており、しっとり感には優れているものの、フワフワ感が不十分であり、ルースファンデーションのような、フワフワとして軽やか感触が求められる化粧料においてはフワフワとした軽やかな触感と、塗り広げる際のしっとり感を両立するために、化粧料の六方晶窒化ホウ素粉末以外の他の成分の配合を調節する必要があった。
【0007】
そこで本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、フワフワとした軽やかな触感と、塗り広げる際のしっとり感との双方が得られる化粧料を容易に提供することが出来る六方晶窒化ホウ素粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、タップ嵩密度と、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力とを、特定の値に調整した六方晶窒化ホウ素粉末を配合した化粧料は、しっとり感及びフワフワ感の双方が良好であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、タップ嵩密度が0.08g/cm以下、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力が3.5kPa以上であることを特徴とする、六方晶窒化ホウ素粉末である。前記六方晶窒化ホウ素粉末は、目開き25μm篩上の粉体において、伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体の割合が13%以上であることが好ましい。また、前記六方晶窒化ホウ素粉末は、粒径D50が15~30μm、平均アスペクト比15~20であることが好ましく、粒径D90が37~52μmであることが好ましい。
【0010】
前記六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料用途であることが好ましい。また、本発明の一形態は、前記六方晶窒化ホウ素粉末を含む、化粧料、特にはルースファンデーションである。
【0011】
さらに、本発明の一形態は、比表面積12~30m/gであり、溶出ホウ素量が1~15%の粗六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を、嵩密度0.16~0.23g/cmとなるように加熱容器内に充填し、1700~2100℃で3時間以上、窒素雰囲気下で加熱する製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末により、使用時のフワフワとして軽やかな触感と、塗り広げる際のしっとり感との双方に優れた化粧料を提供することが容易となる。これにより、例えば、従来はルースファンデーションのような油分の少なくフワフワ感の高い化粧料においては、しっとり感が不足してかさつきが感じられやすかったが、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を使用することにより、フワフワ感を保ちながら、かさつきを抑えることが容易となり、化粧料設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1の六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる、伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体の一例である。
図2】本発明における六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体の長軸径a及び短軸径bを表すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<六方晶窒化ホウ素粉末>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、タップ嵩密度が0.08g/cm以下、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力が3.5kPa以上であることを特徴とする。
【0015】
前記タップ嵩密度とは、六方晶窒化ホウ素粉末の単位体積当たりの質量を示しており、粒子同士の詰まり具合の指標である。言い換えると、タップ嵩密度は、その粉体が内包する空隙量の指標としても見ることができ、その値が低いほど粉体が内包する空隙量は多くなる。粉体が内包する空隙量が多いほど、その粉体のフワフワとした触感は高まる。タップ嵩密度を0.08g/cm以下とすることで、フワフワとした軽やか感触を有する化粧料を得ることが容易となる。タップ嵩密度は、0.06g/cm以下であることがより好ましい。その一方で、ハンドリングの観点から、タップ嵩密度は0.01g/cm以上であることが好ましい。タップ嵩密度を0.01g/cm以上とすることで、化粧料等への加工及び混合がしやすくなる。
【0016】
前記せん断付着力とは、六方晶窒化ホウ素粉末を粉体層とし、垂直応力を掛けながらせん断した際に発生するせん断応力と垂直応力の関係を示す粉体層破壊包絡線から算出され、垂直応力が作用していない場合のせん断応力を意味する。すなわち、六方晶窒化ホウ素粉末を塗布する力及び塗布対象の表面状態に影響されない、六方晶窒化ホウ素粉末内の粒子同士の付着力の指標と考えることができる。粉体を肌に塗布する際に、粉体のせん断付着力が高いほど、化粧料にしっとり感を付与することが容易となる。この理由は明らかでないが、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、粉体を肌に塗布した際に、使用者は肌と粉体との付着力の他に、粉体の粒子間の付着力も潜在的に感じ取っており、これがしっとり感を得るために重要であると考えられる。従来のしっとり感が高い六方晶窒化ホウ素粉末は、粉体に微量の水分が含まれており肌への濡れ性が高く密着性が向上し、使用者はしっとり感を高く感じると予想される。このような従来のしっとり感が高い六方晶窒化ホウ素粉末は、その外見に大きな変化はないが、粒子間を水分が繋ぐため、粒子の流動性が僅かに低下し、せん断付着力は高いが、粒子間が微量の水分で繋がれているため空隙量を多くすることが出来なかった。この結果、タップ嵩密度が高くなるため、フワフワ感を得ることは出来なかった。一方で、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、タップ嵩密度が低いため肌に塗布する際にはフワフワとした感触が得られつつ、使用者が肌に塗布した後に塗り広げる際には、粒子間の付着力が高いことにより粒子の流動性が僅かに低下しているため、上記の微量の水分が含まれる粉体を塗布した場合と類似した感触が得られる。この結果、使用者は本発明の六方晶窒化ホウ素粉末が高い濡れ性を有するものと認識してしっとり感を高く感じるものと推察される。
【0017】
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記せん断付着力が3.5kPa以上であり、3.7kPa以上が好ましく、4.0kPa以上がより好ましい。せん断付着力を3.5kPa以上とすることで、皮膚に塗布した際にしっとりとした触感を得ることができる。せん断付着力の上限は特に無いが、通常は6.0kPa以下、特には5.0kPa以下であってもよい。
【0018】
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、該六方晶窒化ホウ素粉末の目開き25μm篩上の粉体において、伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体が13%以上含まれることが好ましい。目開き25μm篩を通過しなかった比較的大きな粒子群において、伸長度0.80以上の六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体が13%以上含まれることで、タップ嵩密度が0.08g/cm以下、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力が3.5kPa以上の六方晶窒化ホウ素粉末とすることが容易となる。この理由は定かではないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0019】
すなわち、目開き25μm篩を通過しなかった比較的大きな粒子群において、伸長度の比較的高い構造体を多く含むと、凝集粒子間及び凝集粒子と単粒子の間に構造体が入り込むことで多くの空隙を有することとなり、これによりタップ嵩密度を低く調整することが容易となる。また、構造体の伸長度が高いことにより、粉体を塗り広げる際に構造体同士が噛み合いにより、瞬間的に大きな摩擦力を生じるため、前記せん断付着力が高くなり、高いしっとり感を得られるものと推察される。さらに、粉体を塗り広げる際に構造体が破壊されることで、摩擦力の低下が起き、この摩擦力の変動もせん断付着力を高くすることに寄与していると推察される。
【0020】
なお、本発明において前記構造体の伸長度とは、構造体の細長さを表す指標であり、伸長度が大きいほど構造体が細長いことを示している。前記構造体の伸長度は、図2に示すように、該構造体の縁から縁を結ぶ直線のうち最も間隔の長い直線を長軸、前記長軸に直交する該構造体の縁から縁を結ぶ直線のうち最も間隔の長い直線を短軸としたとき、長軸の長さ(長軸径a)及び短軸の長さ(短軸径b)から下記の式により算出される。長軸径a及び短軸径bは走査型電子顕微鏡により撮影した画像から計測することができる。
【0021】
【数1】
【0022】
前記目開き25μm篩上の粉体における、伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体の割合は、13%以上であることが好ましく、16%以上であることがさらに好ましい。当該割合の上限は特に無く、目開き25μm篩上の粉体の全部が伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体でもよいが、通常は25%以下、特には20%以下であってもよい。
【0023】
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、粒径D50が15.0μm以上であることが好ましく、20.0μm以上であることがより好ましい。粒径D50を15.0μm以上とすることで、単粒子同士の付着力を適度なものとし、本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料において、高い展延性及びフワフワ感を得ることが容易となる。また、粒径D50は40.0μm以下であることが好ましく、35.0μm以下であることがより好ましく、30.0μm以下であることがさらに好ましく、25.0μm以下であることが特に好ましい。粒径D50を40.0μm以下とすることで、本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料において、なめらかさを付与したり、ぎらつきの発生を抑えることが容易となる。
【0024】
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、粒径D90は37.0~52.0μmであることが好ましく、37.0~45.0μmであることがより好ましく、38.0~42.0μmがさらに好ましい。粒径D90が前記の範囲であることで、本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料において、ざらつきを抑えながらしっとり感及びフワフワ感を高めることが容易となる。
【0025】
なお、本発明の一形態において、六方晶窒化ホウ素粉末の粒径D50、及び粒径D90は、それぞれ粒度分布曲線における体積基準の累積50%値(粒径D50)、累積90%値(粒径D90)を意味する。
【0026】
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、目開き25μm篩上の粉体の割合が40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。目開き25μm篩上の粉体の割合の上限は特に限定されないが、通常70質量%以下、特には60質量%以下である。目開き25μmの篩上の粉体の割合は、六方晶窒化ホウ素粉末の全部又は一部を目開き25μmの篩にかけ、篩にかけた粉末の質量と篩上の粉体の質量とから算出することができる。
【0027】
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子のアスペクト比は15.0~20.0であることが好ましく、17.0~18.0があることがより好ましい。一次粒子のアスペクト比が上記範囲であることにより、皮膚に塗布した際に、ぎらつきを抑えながら、展延性よく塗り広げることが容易となる。一次粒子のアスペクト比が15.0未満になると、本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料において、塗布時に抵抗感が発生し、展延性が低下する虞がある。また一次粒子のアスペクト比が20.0を超えると、本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料において、肌に塗布後にぎらつきが発生する虞がある。
【0028】
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量は20ppm以下であることが好ましい。溶出ホウ素量を20ppm以下とすることで、本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料を肌に塗布した際に、肌への負荷を低減することができる。
【0029】
<六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法>
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は特に限定されないが、特定の条件によって得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末を、特定の条件下で加熱処理することにより、容易に得ることが出来る。具体的には、粗六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を、嵩密度0.16~0.23g/cmとなるように加熱容器内に充填し、1700℃~2100℃で3時間以上、窒素雰囲気下で加熱する加熱工程を含み、前記粗六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積12~30m/gであり、溶出ホウ素量が1~15%である、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法を挙げることが出来る。
【0030】
(粗六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法)
前記粗六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積12~30m/gであり、溶出ホウ素量が1~15%であれば、公知のものを特に制限なく使用することが可能であり、例えば、含酸素ホウ素化合物及び含窒素有機化合物を含む原料混合物を窒素雰囲気下で加熱するメラミン法により製造することができる。
【0031】
前記含酸素ホウ素酸化物としては、例えば、三酸化二ホウ素(酸化ホウ素)、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、メタホウ酸、過ホウ酸、及びオルトホウ酸等が挙げられる。一般的には、入手が容易なホウ酸、及び酸化ホウ素が好適に用いられる。また含酸素ホウ素化合物の平均粒径は特に制限されないが、操作性及び反応性の観点から、30~800μmが好ましく、100~500μmがより好ましい。平均粒径が30μmより大きいことで、吸湿性を抑えることができ取り扱いが容易となる。平均粒径を800μm以下とすることで原料成分の偏りを抑えることができ、反応の制御が容易となる。
【0032】
前記含窒素有機化合物としては、例えば、シアンジアミド、アンメリン、メラミン、及び尿素等が挙げられる。一般的には、取り扱いの容易なメラミンが好適に用いられる。
【0033】
粗六方晶窒化ホウ素粉末製造のための原料混合物において、ホウ素/窒素の元素比(B/N)は好ましくは0.2~1.0、より好ましくは0.25~0.75である。原料混合物は、上記の含酸素ホウ素化合物、含窒素有機化合物を所定量計量し、混合することで得ることができる。混合方法は、各成分を均一に分散できれば特に制限されず、振動ミル、ビーズミル、ボールミル、及びミキサー等の一般的な混合機を使用して行うことができる。
【0034】
上記の原料混合物を、窒素雰囲気下で加熱して反応させることで、窒化粉を得ることができる。加熱温度は1600℃以上とすれば特に限定されないが、最高温度までの温度プロファイルを、反応過程と焼成過程として、それぞれの温度域に段階的に昇温していき加熱保持することが好ましい。反応過程では700~1200℃の範囲が好ましく、800~1100℃がより好ましい。反応過程での加熱温度を前記範囲とすることで、原料混合物の揮発を抑制しながら反応を効率的に進めることができる。
【0035】
焼成過程の最高温度は、1600~2000℃が好ましく、1700~1800℃がより好ましい。最高温度を1600℃以上とすることで、含酸素ホウ素化合物の窒化反応の進行を効率的に、短時間で完結させ易くなる。また、最高温度を2000℃以下とすることで、窒素欠陥による黄変及び透明感の低下を防いだり、比表面積が小さくなりすぎることを防ぎ、後述の加熱処理の際に効率的に粒成長させ易くなる。
【0036】
また、反応過程での保持時間は、1時間~5時間が好ましく、2時間~4時間がより好ましい。反応過程での保持時間が短すぎると、未反応原料が残存する虞があり、長すぎると生産性が低下する。焼成過程での保持時間は、1時間~6時間が好ましく、2時間~5時間がより好ましい。焼成過程での保持時間が短すぎると粒子の成長が不十分となり、結晶性が低下すると共に、粒径制御が困難となる虞があり、長すぎると生産性が低下する。
【0037】
前記窒化反応で得られた窒化粉は一般的には、数百μm以上の凝固体を含むため、凝固体が粉砕される程度の力で解砕することが好ましい。凝固体を解砕することで、粗六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積を適度なものとすることも出来る。また凝固体を解砕することで、後述の洗浄工程及び分級工程を効率的に行うことができる。凝固体が解砕可能であれば解砕方法は、特に制限されず、石臼式磨砕機、ボールミル、乾式ジェットミル、乳鉢、ロールクラッシャー、及び湿式回転ディスクミル等を使用して好適に実施することができる。
【0038】
前記解砕工程で得られた解砕粉の不純物の除去及び粗六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量を調節することを目的として、純水等を用いた洗浄を行ってもよい。洗浄方法及び洗浄に用いる純水等の量は特に制限されず、公知の方法を制限なく使用することができる。洗浄後の解砕粉の乾燥方法は特に制限されず、公知の方法を制限なく使用することができる。使用できる乾燥装置として、棚式乾燥機、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、回転型乾燥機、及びベルト式乾燥機等があげられる。なお、洗浄を過剰に行うこと等により粗六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量が少なくなりすぎた場合には、酸化ホウ素等の含酸素ホウ素化合物を添加して粗六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量を調整しても良い。
【0039】
前記解砕工程で得られた解砕粉に残る凝固体の除去として、分級を行ってもよい。分級の方法は、特に制限されず、公知の方法を制限なく適用できる。具体的には、振動ふるい機、湿式ふるい機、風力分級機、サイクロン、及び液体サイクロン等が挙げられる。ふるいの目開きは25~90μmとすることが好ましく、25~45μmとすることがより好ましい。目開きを90μm以下とすることで、粉体中の単粒子の割合を高めることができ、後述の加熱工程にて効率的に構造体を生成することができる。また目開きが25μm未満となると、処理に要する時間が長くなってしまうため、25μm以上が好ましい。
【0040】
(六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法)
本発明の一形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積12~30m/g、溶出ホウ素量1%~15%の前記粗六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を、嵩密度0.16~0.23g/cmとなるように加熱容器内に充填し、1700℃~2100℃で3時間以上、窒素雰囲気下で加熱する方法により容易に製造することができる。
【0041】
これにより本発明の六方晶窒化ホウ素粉末が得られる理由は定かではないが、本発明者らは次のように考えている。すなわち、溶出ホウ素1~15%の粗六方晶窒化ホウ素粉末を窒素雰囲気下で加熱することで、粒子表面に僅かにホウ酸が存在する状態で加熱されることになり、粒子表面で窒化反応が再び進行して、粒成長しながら一次粒子同士の一部が結合し、前記構造体が生成する。加熱時の嵩密度を0.16~0.23g/cmの範囲にすることで、粒子間に適度な隙間を残しながら、わずかに配向させることができる。配向により接触する確率の高いa面の端部で結合が起きながらも、空隙があることで構造体同士のc軸方向への結合を防ぐため、伸長度0.80以上の構造体が得られ、その結果、タップ嵩密度が0.08g/cm以下、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力が3.5kPa以上である、六方晶窒化ホウ素粉末が容易に得られると推察している。
【0042】
前記粗六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は12~30m/gであり、15~28m/gであることが好ましく、20~25m/gであることがより好ましい。また前記粗六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量は、1~15%であり、2~10%であることが好ましく、3%~5%であることがより好ましい。粗六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積及び溶出ホウ素量を前記の範囲とすることで、加熱処理による効率的な粒成長、構造体の生成を可能とすることができる。すなわち、比表面積が上記の範囲であることで、粗六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子上に十分な反応点を有しつつ窒素を粉末内に流通させることができる。その上で、ホウ素源となる溶出ホウ素量が上記の範囲である事で、粒成長が進み易く、伸長度が大きな構造体の形成も容易となると推察される。また、粗六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量が15%以下であることで六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量を20ppm以下に抑えることが容易となる。
【0043】
前記原料粉末は前記粗六方晶窒化ホウ素粉末を含んでいればよく、前記粗六方晶窒化ホウ素粉末のみからなっていてもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を含んでいてもよいが、後述の加熱後の洗浄操作を省略したり、分級操作を簡略化したりすることが容易となるため、前記原料粉末は前記粗六方晶窒化ホウ素粉末のみからなることが好ましい。
【0044】
加熱温度は1700℃~2100℃が好ましく、1750℃~2000℃がより好ましく、1800℃~1950℃がさらに好ましい。前記粗六方晶窒化ホウ素粉末を加熱する際の温度を、1700℃以上とすることで、粒子を効率的に成長させながら構造体を形成させ、せん断付着力を高めることが容易となる。加熱温度を2100℃以下とすることで、窒素欠陥による黄変を防ぎ、化粧料用途として適切な色調を有する六方晶窒化ホウ素粉末とすることが容易となる。また、加熱温度によって六方晶窒化ホウ素粉末の粒径を調整することが可能であり、加熱温度を前記範囲とすることで、得られる六方晶窒化ホウ素粉末の粒径を、化粧料用途として適した範囲に調整することが容易となる。
【0045】
粗六方晶窒化ホウ素粉末を前記の方法で加熱処理して得られた六方晶窒化ホウ素粉末は、前記加熱後に不純物除去を目的として洗浄を行っても良い。洗浄は例えば純水等を用いて行うことが可能であり、洗浄方法や洗浄に用いる純水等の量は特に制限されず、公知の方法を制限なく使用することができる。
【0046】
粗六方晶窒化ホウ素粉末を前記の方法で加熱処理して得られた六方晶窒化ホウ素粉末は、不純物の除去、及び前述の粒径D90の制御等を目的として、分級を行ってもよい。分級の方法は、特に制限されず、公知の方法を制限なく適用できる。具体的には、振動ふるい機、湿式ふるい機、風力分級機、サイクロン、及び液体サイクロン等が挙げられる。ふるいの目開きは40~90μmとすることが好ましく、45~63μmとすることがより好ましい。目開きを90μm以下とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末のざらつきを抑えることができる。また目開きが小さすぎると、処理に要する時間が長くなってしまう。
【0047】
<化粧料>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の用途は特に限定されないが、化粧料用途に使用されることが好ましく、特には、固体もしくは粉末状の化粧料へ特に良く適合する。また、本発明の一形態として、前記六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料、特には、固体又は粉末状の化粧料を挙げることが出来る。化粧料に本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を配合することにより、容易にしっとり感とフワフワ感とを両立させることが出来る。そのため、従来はしっとり感とフワフワ感の両立が出来なかったり、必要に応じて他の成分の配合を調節して両立を達成したりしていたが、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を使用することによりしっとり感とフワフワ感との両立が従来よりも容易となるため、化粧料設計の自由度を高くすることが出来る。化粧料の一例を示せば、ルースファンデーション、及びフェイスパウダー等が挙げられる。化粧料全体に対しての六方晶窒化ホウ素粉末の含有割合においては特に制限はないが、0.1質量%~50質量%とすることが好ましい。上記の範囲で、本発明を化粧料に配合することで、化粧料のしっとり感及びフワフワ感の改善効果を感じやすくなる。
【0048】
<まとめ>
上述の通り、本発明の態様1に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、タップ嵩密度が0.08g/cm以下であり、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力が3.5kPa以上である。
【0049】
本発明の態様2に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記態様1において、目開き25μm篩上の粉体において、伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体の割合が13%以上であってもよい。
【0050】
本発明の態様3に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記態様1又は2において、粒径D50が15~30μmであり、平均アスペクト比15~20であってもよい。
【0051】
本発明の態様4に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記態様1~3のいずれかにおいて、粒径D90が37~52μmであってもよい。
【0052】
本発明の態様5に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、前記態様1~4のいずれかにおいて、化粧料用であってもよい。
【0053】
本発明の態様6に係る化粧料は、態様1~5のいずれかの六方晶窒化ホウ素粉末を含む。
【0054】
本発明の態様7に係るルースファンデーションは、態様1~5のいずれかの六方晶窒化ホウ素粉末を含む。
【0055】
本発明の態様8に係る六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、粗六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を、嵩密度0.16~0.23/cmとなるように加熱容器内に充填し、最高温度1700℃~2100℃で3時間以上、窒素雰囲気下で加熱する加熱工程を含み、
前記粗六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積12~30m/gであり、溶出ホウ素量が1~15%である。
【実施例
【0056】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を記載するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各項目の測定は以下の方法によって測定したものである。
【0057】
(1)六方晶窒化ホウ素粉末のタップ嵩密度
タップデンサーKYT-5000(セイシン企業製)を用いてタップ嵩密度(g/cm)を測定した。詳しくは、100mLの試料セルに六方晶窒化ホウ素粉末100mLを充填し、タップ速度120回/分、タップ高さ5cm、タップ回数500回の条件でタップを行った後に重量を測定し、タップ嵩密度を算出した。
【0058】
(2)六方晶窒化ホウ素粉末のせん断付着力
粉体層せん断力測定装置NS-S500(ナノシーズ社製)を用いて、JISZ8835:2016に準拠して測定を行った。詳しくは、六方晶窒化ホウ素粉末をせん断セル内に充填し、粉体層上面を平坦にした後、目標押し込み荷重160Nとして、横摺りを開始し、垂直応力及びせん断応力を経時測定することで粉体層破壊包絡線を測定した。その後、粉体層破壊包絡線とせん断応力軸との交点からせん断付着力を算出した。
【0059】
(3)六方晶窒化ホウ素粉末の構造体の伸長度及び含有割合
六方晶窒化ホウ素粉末15gを目開き25μmの篩にかけ、通過しなかった六方晶窒化ホウ素粉末(目開き25μm篩上の粉体)を回収後、その重量を測定した。前記目開き25μm篩上の粉体の一部を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られたSEM画像から、各構造体において、端部から端部を結ぶ線で最長となる線(長軸)の長さを長軸径a、前記長軸に直角に交わる直線のうち最長となる線(短軸)の長さを短軸径bとして測定し各構造体の伸長度を算出した。その後、伸長度が0.80以上である構造体の面積とその他粒子の面積を求め、全粒子の面積(伸長度が0.80以上である構造体の面積とその他粒子の面積の和)に対する伸長度が0.80以上である構造体の面積割合を求め、これを伸長度0.80以上である六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した構造体の割合とした。
【0060】
(4)六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子のアスペクト比
エポキシ樹脂(ヘンケル社製、EA E-30CL)100質量部中に六方晶窒化ホウ素粉末10質量部を分散し、得られた樹脂組成物を減圧脱泡した後、10mm角、厚さ1mmの型枠に流し込み、温度70℃にて硬化させた。
次いで、硬化した樹脂組成物を型枠から抜き出し、両面が平衡になるように研磨した後に、さらに、樹脂組成物の厚み方向に垂直な面のうち一方の面について、その中央を断面ミリング加工し、その加工面を倍率2500倍の条件でSEMにより画像を撮影した。得られた画像の中から窒化ホウ素一次粒子100個を無作為に選び、粒子の長辺(長径)及び短辺(厚み)を測定し、各平均値をそれぞれ平均長径(μm)、及び平均厚み(μm)とし、さらに、平均長径を平均厚みで除した値をアスペクト比(平均長径/平均厚み)とした。
【0061】
(5)六方晶窒化ホウ素粉末の粒径(D50)(D90)
レーザー回折・散乱式粒径測定装置MT3000(マイクロトラック・ベル株式社製)を用いて、レーザー回折法により測定した。詳しくは、エタノール50ccが充填されている装置付属の混合槽に六方晶窒化ホウ素粉末0.1gを投入し、出力40Wで20秒間の条件で超音波分散したサンプルを測定に使用し、体積基準の粒径(D50)及び(D90)を算出した。
【0062】
(6)粗六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積
フローソーブIII 2310(Micromeritics社製)を用いて、窒素ガスを吸着種としたガス吸着試験を行い、窒素吸着等温線を測定した。詳しくは、前処理として200℃で10分間真空乾燥脱気を行った粗六方晶窒化ホウ素粉末に対して、ガス流量15cm/minの条件で連続流動法を用いて窒素ガスの吸着脱離等温線を測定し、BET法により算出した。
【0063】
(7)粗六方晶窒化ホウ素粉末及び六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量
50mLアイボーイに、0.5mol/Lの濃度の硫酸水溶液50g、粗六方晶窒化ホウ素粉末又は六方晶窒化ホウ素粉末2gを投入し、液の温度を25℃に調整しながら、1分間振盪攪拌した。その後120分間静置した後に、得られた液中のホウ素量をICP発光分光分析装置(THERMO FISHER社製iCAP6500)により分析し、得られた測定結果を、試験に使用した粗六方晶窒化ホウ素粉末又は六方晶窒化ホウ素粉末の質量で除して、単位質量当たりの溶出ホウ素量(ppm)を求めた。
【0064】
(実施例1)
酸化ホウ素(B)120g、メラミン100g(ホウ素/窒素の元素比(B/N)は0.72)を混合攪拌機にて混合し、蓋付きカーボン製容器に充填後、黒鉛タンマン炉を用いて窒素ガス雰囲気下、1000℃で4時間加熱をおこなった(反応過程)。その後、昇温を行い、1750℃まで到達させてから4時間温度を保持する(焼成過程)ことで、窒化粉を得た。次いで、得られた窒化粉を石臼式磨砕機で解砕した後に、純水で洗浄後、200℃で乾燥を行った。その後、目開き45μmの篩にて分級を行い、溶出ホウ素量4%の粗六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末を原料粉末として、窒化ホウ素で表面コーティングした蓋付きカーボン製容器に、嵩密度0.19g/cmとなるように充填し、黒鉛タンマン炉を用いて窒素ガス雰囲気下、1950℃で6時間加熱を行った。その後、目開き45μmの篩にて分級を行い、六方晶窒化ホウ素粉末を得た。製造条件、及び得られた六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2~5、比較例2~4)
製造条件を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で六方晶窒化ホウ素粉末を得た。なお、粗六方晶窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量は洗浄条件によって調節した。製造条件、及び得られた六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
実施例1で得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末について、物性評価を行った。製造条件、及び得られた六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表1に示す。
【0067】
また、上記実施例1~5及び比較例1~4で得られた六方晶窒化ホウ素粉末を用いて、以下の組成でルースファンデーションを製造した。
【0068】
六方晶窒化ホウ素粉末 20.0質量%
マイカ 32.0質量%
合成金雲母 12.0質量%
(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー5.0質量%
(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/
シルセスキオキサン)クロスポリマー 5.0質量%
ナイロン12 3.0質量%
シリカ 3.0質量%
タルク 3.0質量%
酸化亜鉛 3.0質量%
ポリメチルメタクリレートポリマー 3.0質量%
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 2.0質量%
パーフルオロオクチルトリエトキシシラン 1.0質量%
シリコーン処理ベンガラ(赤酸化鉄) 1.0質量%
シリコーン処理黄酸化鉄 0.6質量%
シリコーン処理黒酸化鉄 0.4質量%
シリコーン処理酸化チタン 6.0質量%
上記配合で得られたルースファンデーションのフワフワ感及びしっとり感について、20名の専門パネラーにより、官能評価を行った。良好と感じたパネラーが30%未満である場合を「悪い」、30%以上60%未満である場合を「普通」、60%以上80%未満である場合を「良い」、80%以上である場合を「非常に良い」として評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
評価結果において、溶出ホウ素量1~15%の粗六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を、嵩密度が0.16~0.23g/cmとなるように加熱容器内に充填し、1750℃~2100℃で4時間以上、窒素雰囲気下で加熱して六方晶窒化ホウ素粉末を得た実施例1~5は、得られた六方晶窒化ホウ素粉末は全て、タップ嵩密度が0.08g/cm以下、粉体せん断付着力が3.5kPa以上であった。そして、これらの六方晶窒化ホウ素粉末を配合したルースファンデーションは、官能評価において、フワフワ感及びしっとり感ともに良好な結果を示した。
【0071】
一方、加熱処理を行わずに粗六方晶窒化ホウ素粉末を評価した比較例1と、溶出ホウ素量が1%未満の粗六方晶窒化ホウ素粉末を加熱して製造した比較例2の六方晶窒化ホウ素粉末とでは、タップ嵩密度が0.08g/cmを超え、せん断付着力が3.5kPa未満となり、フワフワ感及びしっとり感ともに得られなかった。
【0072】
また、粗六方晶窒化ホウ素粉末を加熱処理する際に、嵩密度が0.16g/cm未満となるように加熱容器内に充填し製造した比較例3では、得られた六方晶窒化ホウ素粉末は、せん断付着力が3.5kPa未満となり、しっとり感が得られなかった。また、粗六方晶窒化ホウ素粉末を加熱処理する際に嵩密度が0.23g/cmを超えるように加熱容器内に充填し製造した比較例4では、得られた六方晶窒化ホウ素粉末は、タップ嵩密度が0.08g/cmを超えてしまい、良好なフワフワ感を得ることができなかった。

【要約】
フワフワとした軽やかな触感と、塗り広げる際のしっとり感の双方が得られる化粧料を容易に提供することが出来る六方晶窒化ホウ素粉末を提供する。タップ嵩密度が0.08g/cm以下、粉体層せん断力測定試験によって得られた粉体層破壊包絡線から算出されるせん断付着力が3.5kPa以上である、六方晶窒化ホウ素粉末により、前記課題を解決できる。前記六方晶窒化ホウ素粉末は、粗六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を、嵩密度0.16~0.23/cmとなるように加熱容器内に充填し、最高温度1700℃~2100℃で3時間以上、窒素雰囲気下で加熱する加熱工程を含み、前記粗六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積12~30m/gであり、溶出ホウ素量が1~15%である、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法により、簡便に製造できる。

図1
図2