IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-空気入りタイヤ 図1
  • 特許-空気入りタイヤ 図2
  • 特許-空気入りタイヤ 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20240710BHJP
   B60C 9/04 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B60C13/00 E
B60C9/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020076491
(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2021172182
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 瞳
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-130135(JP,A)
【文献】特開平06-016017(JP,A)
【文献】特開2007-055464(JP,A)
【文献】特開2002-012709(JP,A)
【文献】特開2009-119994(JP,A)
【文献】特開2007-182100(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2011-0010564(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/04
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、前記低硬度ゴム層のJIS硬度が40~60の範囲にあり、前記サイドウォールゴム層のJIS硬度が50~70の範囲にあり、
前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記低硬度ゴム層のJIS硬度と前記サイドウォールゴム層のJIS硬度の硬度差が10~20の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記低硬度ゴム層のタイヤ径方向内側の端部がタイヤ断面高さの20%~40%の範囲にあり、前記低硬度ゴム層のタイヤ径方向外側の端部がタイヤ断面高さの60%~80%の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での厚さTrと前記サイドウォールゴム層及び前記低硬度ゴム層を合わせたタイヤ最大幅位置での厚さTsとが0.4≦Tr/Ts≦0.6の関係を満たすことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、前記低硬度ゴム層のJIS硬度と前記サイドウォールゴム層のJIS硬度の硬度差が10~20の範囲にあり、
前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項6】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、
前記低硬度ゴム層のタイヤ径方向内側の端部がタイヤ断面高さの20%~40%の範囲にあり、前記低硬度ゴム層のタイヤ径方向外側の端部がタイヤ断面高さの60%~80%の範囲にあり、
前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項7】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、
前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たし、
前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での厚さTrと前記サイドウォールゴム層及び前記低硬度ゴム層を合わせたタイヤ最大幅位置での厚さTsとが0.4≦Tr/Ts≦0.6の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、カーカス層のスプライス部に起因するサイドウォール部の外観不良の発生を抑制することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤは、カーカス層のタイヤ周方向の両端部を重ね合わせたスプライス部を有している。カーカス層のスプライス部では、スプライスによってカーカスコードの打ち込み本数が他の部分より多く、内圧充填時にカーカスコードが伸びにくいので、サイドウォール部の表面が凹むことになる。これにより、サイドウォール部の表面に筋状の凹部が形成されることがある(例えば、特許文献1参照)。このようなサイドウォール部における外観不良は、バンピーサイド(BPS)と呼ばれ、サイド剛性を低減して転がり抵抗を改善するためにサイドウォール部のゴム厚さを薄くしたタイヤにおいて顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-39574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カーカス層のスプライス部に起因するサイドウォール部の外観不良の発生を抑制することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、前記低硬度ゴム層のJIS硬度が40~60の範囲にあり、前記サイドウォールゴム層のJIS硬度が50~70の範囲にあり、前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことを特徴とするものである。
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、前記低硬度ゴム層のJIS硬度と前記サイドウォールゴム層のJIS硬度の硬度差が10~20の範囲にあり、前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことを特徴とするものである。
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、前記低硬度ゴム層のタイヤ径方向内側の端部がタイヤ断面高さの20%~40%の範囲にあり、前記低硬度ゴム層のタイヤ径方向外側の端部がタイヤ断面高さの60%~80%の範囲にあり、前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことを特徴とするものである。
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間にカーカス層が装架され、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、前記カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、前記カーカス層のスプライス部と前記サイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、該低硬度ゴム層のJIS硬度が前記サイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrと前記カーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとが0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たし、前記低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での厚さTrと前記サイドウォールゴム層及び前記低硬度ゴム層を合わせたタイヤ最大幅位置での厚さTsとが0.4≦Tr/Ts≦0.6の関係を満たすことを特徴とするものである
【発明の効果】
【0006】
本発明では、カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、カーカス層のスプライス部とサイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、低硬度ゴム層のJIS硬度がサイドウォールゴム層のJIS硬度よりも低いことにより、カーカス層のスプライス部が存在する部分の剛性を他の部分の剛性に近づけ、内圧充填時におけるカーカス層のスプライス部の伸張を促進するので、サイドウォール部の外観不良(BPS)の発生を抑制することができる。
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤにおいて、低硬度ゴム層のJIS硬度は40~60の範囲にあり、サイドウォールゴム層のJIS硬度は50~70の範囲にあることが好ましい。これにより、内圧充填時におけるカーカス層のスプライス部の伸張を促進し、サイドウォール部の外観不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0008】
低硬度ゴム層のJIS硬度とサイドウォールゴム層のJIS硬度の硬度差は10~20の範囲にあることが好ましい。これにより、内圧充填時におけるカーカス層のスプライス部の伸張を促進し、サイドウォール部の外観不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0009】
低硬度ゴム層のタイヤ径方向内側の端部はタイヤ断面高さの20%~40%の範囲にあり、低硬度ゴム層のタイヤ径方向外側の端部はタイヤ断面高さの60%~80%の範囲にあることが好ましい。これにより、サイドウォール部の外観不良が目立ち易い箇所においてカーカス層のスプライス部の伸張を促進することができる。
【0010】
低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での幅Wrとカーカス層のスプライス部のタイヤ最大幅位置での幅Wcとは0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことが好ましい。これにより、カーカス層のスプライス部が存在する部分の剛性が緩和され、内圧充填時におけるカーカス層のスプライス部の伸張が促進するため、サイドウォール部の外観不良を目立ちにくくすることができる。
【0011】
低硬度ゴム層のタイヤ最大幅位置での厚さTrとサイドウォールゴム層のタイヤ最大幅位置での厚さTsとは0.4≦Tr/Ts≦0.6の関係を満たすことが好ましい。これにより、サイドウォール部の外観不良を目立ちにくくすることができる。
【0012】
本発明において、JIS硬度とは、JIS-K6253に規定されるデュロメータ硬さであって、タイプAのデュロメータにより温度20℃において測定した硬さである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2図1の空気入りタイヤのサイドウォール部を拡大して示す側面図である。
図3図1の空気入りタイヤのサイドウォール部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1~3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。図1では、タイヤ中心線CLを境とするタイヤ幅方向の一方側の半断面のみが描写されているが、この空気入りタイヤはタイヤ中心線CLの両側で対称的な構造を有している。勿論、非対称的な構造を採用することも可能である。
【0016】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。カーカス層4の補強コードとしては、ポリエステル等の有機繊維コードが好ましく使用されるが、スチールコードを使用しても良い。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0017】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0018】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1におけるベルト層7の外周側には、トレッドゴム層11が配置されている。サイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側には、タイヤ外表面に露出するサイドウォールゴム層12が配置されている。ビード部3には、タイヤ外表面に露出するリムクッションゴム層13が配置されている。
【0019】
図2に示すように、カーカス層4は、そのタイヤ周方向の両端部41,42が互いに重ね合わされたスプライス部Sを有している。具体的に、カーカス層4のスプライス部Sでは、カーカス層4のタイヤ周方向の端部41が上層(タイヤ径方向外側)となり、カーカス層4のタイヤ周方向の端部42が下層(タイヤ径方向内側)となっている。なお、本発明に係る空気入りタイヤでは、カーカス層4のスプライス部Sとして、タイヤ周方向の両端部を突き合わせて形成されるスプライス部(バットスプライス部)を含まない。
【0020】
カーカス層4のスプライス部Sとサイドウォールゴム層12との間には、低硬度ゴム層20が配置されている。この低硬度ゴム層20は、サイドウォール部2におけるカーカス層4のスプライス部Sに対してタイヤ径方向の局所的な位置に配置されている。その際、カーカス層4のスプライス部Sのタイヤ周方向の中心位置と、低硬度ゴム層20のタイヤ周方向の中心位置とは、互いに一致するように配置される。即ち、カーカス層4のスプライス部S及び低硬度ゴム層20の各々のタイヤ周方向の中心位置は、図2に示す線分L上にある。なお、図2では、低硬度ゴム層20の幅がカーカス層4のスプライス部Sの幅よりも大きい例を示したが、これに限定されるものではなく、カーカス層4のスプライス部Sの幅を低硬度ゴム層20の幅より大きくしても良い。
【0021】
また、低硬度ゴム層20は、ゴムの物性として、サイドウォールゴム層12よりもJIS硬度が低くなるように構成されている。また、低硬度ゴム層20は、その内部にコード又は繊維を含まないゴムシートから構成される。
【0022】
上述した空気入りタイヤでは、カーカス層4はタイヤ周方向の一部にスプライス部Sを有し、カーカス層4のスプライス部Sとサイドウォールゴム層12との間に低硬度ゴム層20が配置され、低硬度ゴム層20のJIS硬度がサイドウォールゴム層12のJIS硬度よりも低いことにより、カーカス層4のスプライス部Sが存在する部分の剛性を他の部分の剛性に近づけ、内圧充填時におけるカーカス層4のスプライス部Sの伸張を促進するので、サイドウォール部2の外観不良(BPS)の発生を抑制することができる。
【0023】
上記空気入りタイヤにおいて、低硬度ゴム層20のJIS硬度は40~60の範囲にあり、サイドウォールゴム層12のJIS硬度は50~70の範囲にあると良い。このように低硬度ゴム層20とサイドウォールゴム層12のJIS硬度を適度に設定することで、内圧充填時におけるカーカス層4のスプライス部Sの伸張を促進し、サイドウォール部2の外観不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0024】
また、低硬度ゴム層20のJIS硬度とサイドウォールゴム層12のJIS硬度の硬度差は、10~20の範囲にあることが好ましく、12~18の範囲にあることがより好ましく、14~16の範囲にあることが更に好ましい。このように低硬度ゴム層20とサイドウォールゴム層12のJIS硬度の硬度差を適度に設定することで、内圧充填時におけるカーカス層4のスプライス部Sの伸張を促進し、サイドウォール部2の外観不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0025】
上記空気入りタイヤにおいて、低硬度ゴム層20のタイヤ径方向内側の端部21(下端21)はタイヤ断面高さSHの20%~40%の範囲にあり、低硬度ゴム層20のタイヤ径方向外側の端部22(上端22)はタイヤ断面高さSHの60%~80%の範囲にあることが好ましい。即ち、図1に示すように、低硬度ゴム層20の下端21はタイヤ径方向の領域R1にあり、低硬度ゴム層20の上端22はタイヤ径方向の領域R2にあると良い。特に、低硬度ゴム層20の下端21はタイヤ断面高さSHの20%~30%の範囲にあり、低硬度ゴム層20の上端22はタイヤ断面高さSHの65%~75%の範囲にあることがより好ましい。このように領域R1,R2に低硬度ゴム層20の下端21及び上端22をそれぞれ配置することで、サイドウォール部2の外観不良が目立ち易い箇所においてカーカス層4のスプライス部Sの伸張を促進することができる。
【0026】
また、低硬度ゴム層20のタイヤ最大幅位置Pでの幅Wrと、カーカス層4のスプライス部Sのタイヤ最大幅位置Pでの幅Wcとは、0.8≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことが好ましく、1.0≦Wr/Wc≦1.2の関係を満たすことがより好ましく、1.10≦Wr/Wc≦1.15の関係を満たすことが更に好ましい。このように幅Wcに対する幅Wrの比を適度に設定することで、カーカス層4のスプライス部Sが存在する部分の剛性が緩和され、内圧充填時におけるカーカス層4のスプライス部Sの伸張が促進するため、サイドウォール部2の外観不良を目立ちにくくすることができる。
【0027】
ここで、幅Wcに対する幅Wrの比が1.2を超えると、カーカス層4のスプライス部Sは他の部分に対して凸部となり易くなるため、好ましくない。
【0028】
更に、低硬度ゴム層20のタイヤ最大幅位置Pでの厚さTr(図3参照)と、サイドウォールゴム層12のタイヤ最大幅位置Pでの厚さTs(図3参照)とは、0.4≦Tr/Ts≦0.6の関係を満たすことが好ましく、0.45≦Tr/Ts≦0.55の関係を満たすことがより好ましい。その際、サイドウォールゴム層12のタイヤ最大幅位置Pでの厚さTsは3mm以下であると良い。このように厚さTsに対する厚さTrの比を適度に設定することで、サイドウォール部2の外観不良を目立ちにくくすることができる。
【実施例
【0029】
タイヤサイズ215/65R16で、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、一対のビード部間にカーカス層が装架され、サイドウォール部におけるカーカス層の外側にサイドウォールゴム層が配置され、カーカス層がタイヤ周方向の一部にスプライス部を有する空気入りタイヤにおいて、カーカス層のスプライス部とサイドウォールゴム層との間に低硬度ゴム層が配置され、低硬度ゴム層のJIS硬度はサイドウォールゴム層のJIS硬度より低く、サイドウォールゴム層のJIS硬度A、低硬度ゴム層のJIS硬度B、硬度差(A-B)、低硬度ゴム層の上端位置、低硬度ゴム層の下端位置、幅Wcに対する幅Wrの比(Wr/Wc)、厚さTsに対する厚さTrの比(Tr/Ts)を表1のように設定した実施例1~8のタイヤを製作した。
【0030】
比較のため、サイドウォール部に低硬度ゴム層を配置していないこと以外は実施例1と同じ構造を有する従来例のタイヤを用意した。また、カーカス層のスプライス部とサイドウォールゴム層との間に他のゴム層を配置し、他のゴム層(便宜上、低硬度ゴム層と表示する)のJIS硬度がサイドウォールゴム層のJIS硬度よりも高いこと以外は実施例1と同じ構造を有する比較例のタイヤを用意した。
【0031】
表1において、低硬度ゴム層の上端位置は、タイヤ断面高さに対する低硬度ゴム層の上端の高さの比率を意味し、低硬度ゴム層の下端位置は、タイヤ断面高さに対する低硬度ゴム層の下端の高さの比率を意味する。
【0032】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により外観性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0033】
外観性:
5人のパネラーにより各試験タイヤのサイドウォール部を目視し、外観不良(BPS)の目立ち易さの程度を評価した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、外観不良が目立ちにくく、外観性が優れていることを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
この表1から判るように、実施例1~8のタイヤは、従来例に比して外観性が改善されていた。一方、比較例においては、サイドウォールゴム層のJIS硬度を低硬度ゴム層のJIS硬度よりも低く設定したため、サイドウォール部の外観不良が目立ち易くなり、外観性が悪化した。
【符号の説明】
【0036】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
12 サイドウォールゴム層
20 低硬度ゴム層
S スプライス部
図1
図2
図3