(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】干渉抑制機器及び干渉抑制システム
(51)【国際特許分類】
G06K 19/07 20060101AFI20240710BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20240710BHJP
G06K 7/10 20060101ALI20240710BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20240710BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20240710BHJP
H01Q 9/16 20060101ALI20240710BHJP
H01Q 5/10 20150101ALI20240710BHJP
【FI】
G06K19/07 260
G06K19/077 280
G06K7/10 176
H01Q3/26 Z
H01Q15/14 Z
H01Q9/16
H01Q5/10
(21)【出願番号】P 2020103618
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】武藤 英治
(72)【発明者】
【氏名】榎本 康平
(72)【発明者】
【氏名】増田 有佑
【審査官】小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-101735(JP,A)
【文献】特表2002-513490(JP,A)
【文献】特開2014-186554(JP,A)
【文献】特開2007-328634(JP,A)
【文献】特開2013-055457(JP,A)
【文献】特開2015-142224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/07
G06K 19/077
G06K 7/10
H01Q 3/26
H01Q 15/14
H01Q 9/16
H01Q 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFIDタグの電磁界干渉を抑制する干渉抑制機器であって、
電源回路と、
アンテナと、
RFIDタグの通信時間よりも長くなるように時定数を調整した
発振器と、
前記
発振器からの出力
が送出されたタイミングで、前記アンテナの特性を変化させる負荷調整器と、を備えることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項2】
RFIDタグの電磁界干渉を抑制する干渉抑制機器であって、
電源回路と、
アンテナと、
RFID読取装置から送られた特定のコマンドを検出するコマンド検出器と、
前記コマンド検出器による特定のコマンドの検出に応じて前記アンテナの特性を変化させる負荷調整器と、を備えることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の干渉抑制機器であって、
前記電源回路は、RFID読取装置からの電磁波から電力を発生させることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項4】
請求項1又は請求項2の干渉抑制機器であって、
前記干渉抑制機器は、RFIDタグと同一のラベル上に設けられ、
前記干渉抑制機器の前記アンテナと、前記RFIDタグのアンテナとが所定ギャップをもって略平行に配置されることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項5】
請求項1又は請求項2の干渉抑制機器であって、
前記干渉抑制機器は、RFIDタグに搭載されていることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項6】
請求項1の干渉抑制機器であって、
前記
発振器がタイマーから構成されることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1の干渉抑制機器であって、
前記アンテナが2素子を備えるダイポールアンテナから成り、
前記負荷調整器が、前記2素子を開放、短絡、終端することにより前記アンテナの特性を変化させることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項8】
請求項1~請求項6のいずれか1の干渉抑制機器であって、
前記アンテナが1素子と接地面とから成り、
前記負荷調整器が、前記1素子と前記接地面を開放、短絡、終端することにより前記アンテナの特性を変化させることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項9】
請求項8の干渉抑制機器であって、
前記アンテナがモノポールアンテナ、L字アンテナのいずれかであることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項10】
請求項1~請求項6のいずれか1の干渉抑制機器であって、
前記アンテナが共振器から成り、 前記負荷調整器が、電気壁、磁気壁、又は、EBG構造(Electromagnetic Band Gap:電磁バンドギャップ)としての前記共振器の振る舞いを変化させることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項11】
請求項10の干渉抑制機器であって、
前記アンテナが、マッシュルーム構造、CRLH (Composite right/left-hand:右手左手系複合)線路のいずれかであることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項12】
請求項1~請求項6のいずれか1の干渉抑制機器であって、
前記アンテナが水平面又は垂直面に対して角度を有するように配置され、RFIDタグの電磁界干渉を3次元的に変化させることを特徴とする干渉抑制機器。
【請求項13】
請求項4の干渉抑制機器であって、
一対の前記干渉抑制機器が、RFIDタグと同一のラベル上に設けられ、
一対の前記干渉抑制機器の一方のアンテナと他方のアンテナが、前記RFIDタグのアンテナを挟むように配置され、
立方形物の直角を成す一方面と他方面との角に前記RFIDタグのアンテナが位置し、前記一方面に前記干渉抑制機器の前記一方のアンテナが位置し、前記他方面に前記干渉抑制機器の前記他方のアンテナが位置するよう前記立方形物に前記ラベルが貼られることを特徴とする。
【請求項14】
請求項1の干渉抑制機器からなる干渉抑制システムであって、
前記
発振器の時定数を所定範囲でばらつかせ、複数の干渉抑制機器が異なるタイミングで前記アンテナの特性の変化させることを特徴とする干渉抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RFIDタグの電磁界干渉を抑制する干渉抑制機器、及び、該干渉抑制機器を用いる干渉抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
物品在庫管理、サプライチェーンに跨がるトレーサビリティの手段に対し、長距離読取りが可能で電源不要なパッシブ型RFIDシステムが利用されている。パッシブ型RFIDシステムは、周囲の電磁波反射体からの電波干渉によって空間的にタグの読取りが困難となる場所(マルチパス干渉点、ヌル点)が存在することを原理的な問題とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002一77164号公報
【文献】特開2008一124939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電波中継器(撹拝機)を用いて送信端末-受信端末間に電波を受け渡している。特許文献2では、機械制御された反射板により電波経路を変動させ、マルチパスの影響を低減させている。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消し得る干渉抑制機器、及び、干渉抑制システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明は、RFIDタグの電磁界干渉を抑制する干渉抑制機器(10)である。そして、
電源回路(14)と、
アンテナ(12)と、
RFIDタグ(30)の通信時間よりも長くなるように時定数を調整した発振器(18)と、
前記発振器からの出力が送出されたタイミングで、前記アンテナの特性を化させる負荷調整器( 20)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲の請求項2に記載の発明は、RFIDタグの電磁界干渉を抑制する干渉抑制機器(110)である。そして、
電源回路(34) と、
アンテナ(12)と、
RFID読取装置から送られた特定のコマンドを検出するコマンド検出器(42)と、
前記コマンド検出器による特定のコマンドの検出に応じて前記アンテナの特性を変化させる負荷調整器(20)と、を備えることを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、RFIDタグの通信時間よりも長くなるように時定数を調整した発振器からの出力が送出されたタイミングで、負荷調整器がアンテナの特性を変化させる。このため、RFIDタグのアンテナでの電磁界を通信時間よりも長い周期で変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0009】
請求項2の発明では、RFID読取装置から送られた特定のコマンド(例えば、コリジョンに対応するためのコマンド)を検出するコマンド検出器による特定のコマンドの検出に応じて、負荷調整器がアンテナの特性を変化させる。このため、RFIDタグのアンテナでの電磁界を特定のコマンドが出力されたタイミングで変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0010】
請求項3の発明では、電源回路がRFID読取装置からの電磁波から電力を発生させるため、電源不要なパッシブ型RFIDシステムに適用可能である。
【0011】
請求項4の発明では、干渉抑制機器は、RFIDタグと同一のラベル上に設けられる。そして、干渉抑制機器のアンテナと、RFIDタグのアンテナとが所定ギャップをもって略平行に配置される。所定ギャップで略平行に配置された干渉抑制機器のアンテナでRFIDタグのアンテナに対して効果的に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0012】
請求項5の発明では、干渉抑制機器がRFIDタグに搭載されている。RFIDタグのアンテナに対して効果的に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0013】
請求項6では、発振器がタイマーから構成される。正確に動作周期を設定できる。
【0014】
請求項7の発明では、アンテナが2素子を備えるダイポールアンテナから成る。負荷調整器が、2素子を開放、短絡、終端することによりアンテナの特性を変化させる。効果的に電磁界を変化させることができる。
【0015】
請求項8の発明では、アンテナが1素子と接地面とから成る。負荷調整器が、1素子と接地面を開放、短絡、終端することによりアンテナの特性を変化させる。RFIDタグが金属に取り付けられた際も、金属面を接地面とすることで効果的に電磁界を変化させることができる。
【0016】
請求項9の発明では、請求項8の干渉抑制機器のアンテナがモノポールアンテナ、L字アンテナのいずれかである。RFIDタグが金属に取り付けられた際も、金属面を接地面とすることで効果的に電磁界を変化させることができる。
【0017】
請求項10の発明では、アンテナが共振器から成る。負荷調整器が、電気壁、磁気壁、又は、EBG構造として共振器の振る舞いを変化させる。RFIDタグのアンテナに対して効果的に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0018】
請求項11の発明では、請求項10の干渉抑制機器のアンテナが、マッシュルーム構造、CRLH線路のいずれかである。RFIDタグのアンテナに対して効果的に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0019】
請求項12の発明では、干渉抑制機器のアンテナが水平面又は垂直面に対して角度を有するように配置され、RFIDタグの電磁界干渉を3次元的に変化させる。RFIDタグのアンテナに対して3次元的に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0020】
請求項13の発明では、一対の干渉抑制機器が、RFIDタグと同一のラベル上に設けられ、一対の干渉抑制機器の一方のアンテナと他方のアンテナが、RFIDタグのアンテナを挟むように配置される。そして、立方形物の直角を成す一方面と他方面との角にRFIDタグのアンテナが位置し、一方面に干渉抑制機器の一方のアンテナが位置し、他方面に干渉抑制機器の他方のアンテナが位置するよう立方形物にラベルが貼られる。RFIDタグのアンテナに対して垂直方向又は水平方向に 電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0021】
請求項14の発明では、請求項1の干渉抑制機器の発振器の時定数を所定範囲でばらつかせ、複数の干渉抑制機器が異なるタイミングでアンテナの特性を変化させる。複数の干渉抑制機器が異なるタイミングでアンテナの特性の変化させることで、相互に干渉して複雑に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1(A)はRFIDタグ用ICの回路図であり、
図1(B)は本発明の第1実施形態に係る干渉抑制機器用ICの回路図である。
【
図2】
図2(A)はRFIDタグと第1実施形態の干渉抑制機器の配置例であり、
図2(B)は改変例に係る干渉抑制機器を示し、
図2(C)はモノポールアンテナからなる干渉抑制機器の例を示し、
図2(D)はL字アンテナからなる干渉抑制機器の例を示す。
【
図3】
図3 (A)、
図3(B)は、第1実施形態の干渉抑制機器の指向性変化の図である。
【
図4】
図4 (A)はRFIDタグの通信時間のタイムチャートであり、
図4( B)は第1実施形態の干渉抑制機器の負荷切替時間のタイムチャートである。
【
図5】
図5 (A)、
図5(B)は、
図2(B)の干渉抑制機器の貼付位置の例を示す説明図である。
【
図7】
図2(B)に示す干渉抑制機器の指向性変化を示す図表
【
図8】第1実施形態の別例に係る干渉抑制機器の説明図
【
図9】
図9 (A)は第2実施形態に係る干渉抑制機器用ICの回路図であり、
図9(B)は本発明の第2実施形態の改変例に係る干渉抑制機器用ICの回路図である。
【
図10】第2実施形態の干渉抑制機器の通信シーケンス図
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
無線タグリーダの読取対象となるRFIDタグ30を構成するRFIDタグ用IC30 Iの電気的構成について、
図1(A)を参照して説明する。
RFIDタグ用IC30Iは、アンテナ32,電源回路34,復調回路44,プロトコル制御回路42,不揮発性メモリ46,変調回路40,コンデンサ36,発
振器38などによって構成されている。電源回路34は、アンテナ32を介して受信した無線タグリーダからの送信信号(キャリア信号)を整流、平滑して動作用電源を生成するものであり、その動作用電源をコンデンサ36に蓄え、プロトコル制御回路42をはじめとする各構成要素に供給している。
【0024】
また、復調回路44は、送信信号(キャリア信号)に重畳されているデータを復調してプロトコル制御回路42に出力している。不揮発性メモリ46は、ROM, EEPROM等の各種半導体メモリによって構成されており、制御プログラムやRFIDタグ30を識別するための識別情報(タグID)、或いはRFIDタグ30 の用途に応じたデータなどが記憶されている。プロトコル制御回路42は、不揮発性メモリ46から上記情報やデータを読み出し、それを送信データとして変調回路40に出力する構成をなしており、変調回路40は、応答信号(キャリア信号)を当該送信データで負荷変調してアンテナ32から応答波として送信するように構成されている。なお、
図1(A)では、RFIDタグ30の電気的構成の一例を挙げたが、電磁波を媒介として無線通信を行い得る構成であれば公知の他の電気的構成を用いてもよい。
【0025】
図1(B)は本発明の第1実施形態に係る干渉抑制機器10を構成する干渉抑制機器用IC10Iの回路図である。
干渉抑制機器用IC10Iは、アンテナ12,電源回路14,コンデンサ16, クロックを構成する発
振器18,負荷調整器を構成する負荷制御回路20などによって構成されている。電源回路14は、アンテナ12を介して受信したRFID読取装置からの送信信号(キャリア信号)を整流、平滑して動作用電源を生成するも のであり、その動作用電源をコンデンサ16に蓄え、負荷制御回路20をはじめとする各構成要素に供給している。
【0026】
発
振器18は、RFIDタグの通信時間よりも長くなるように時定数が調整されており、設定された周期で出力を送出する。この出力を受けて、負荷制御回路20がアンテナ12の特性(負荷)を変化させる。発
振器18は、周期をより正確に設定できるタイマーによって構成することもできる。
図4(A)はRFIDタグの通信時間のタイムチャートであり、
図4(B)は第1実施形態の干渉抑制機器の負荷切替時間のタイムチャートである。干渉抑制機器の負荷切替時間は、RFIDタグの通信時間よりもディメンジョン的に1桁以上長くなるように設定される。
【0027】
第1実施形態の干渉抑制機器10は、電源回路14がRFID読取装置からの電磁波から電力を発生させるため、電源不要なパッシブ型RFIDシステムに適用可能である。
【0028】
図2(A)はRFIDタグ30と第1実施形態の干渉抑制機器10の配置例である。
RFIDタグ30のアンテナ32は2素子のダイポールアンテナからなり、干渉抑制機器10のアンテナ12も2素子のダイポールアンテナからなる。RFIDタグ30のアンテナ32と干渉抑制機器10のアンテナ12とは略平行に配置される RFIDタグ30のアンテナ32と干渉抑制機器10のアンテナ12とのギャップは、使用周波数の1波長以内、好適には1/2波長、更に好適には1/4波長に設定される。
【0029】
第1実施形態の干渉抑制機器10において、上述したように発振器18は、RFIDタグの通信時間よりも長くなるように時定数が調整されて出力を送出する。この出力を受けて、負荷制御回路20が、ダイポールアンテナの2素子を開放、短絡、終端することによりアンテナ12の特性を変化させる。効果的に電磁界を変化させることができる。このため、RFIDタグのアンテナでの電磁界を通信時間よりも長い周期で変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0030】
図3(A)、
図3(B)は、
図2(A)に示すようにRFIDタグと1体1に向かい合い隣接するように配置された第1実施形態の干渉抑制機器の指向性変化の図である。
図3(A)はダイポールアンテナの2素子を開放した際の特性を示す。ダイポールアンテナの本来の全方向性を備える指向性を持つ。
図3(B)ダイポールアンテナの2素子を短絡した際の特性を示す。短絡された際にアンテナの指向性は0°方向へ偏る。容量値を変化させることで、干渉抑制機器のアンテナの電気長を変化させ、導波器としての動作、反射器としての動作を切り替えて指向性を制御する。八木アンテナと同様にして指向性を制御する。この例では、干渉抑制機器のアンテナの指向性を2素子の開放、短絡で制御したが、この代わりに、アンテナに誘導性負荷、容量性負荷を接続、非接続にすることで、アンテナの指向性を調整することも可能である。
【0031】
図2(A)の例では、RFIDタグと1体1に干渉抑制機器が配置された。第1実施形態の干渉抑制機器は、複数のRFIDタグと、複数の干渉抑制機器とがランダムに配置された際にも、周囲の電磁波反射体からの電波干渉によって空間的にタグの読取りが困難となる場所(マルチパス干渉点、ヌル点)の電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0032】
第1実施形態の干渉抑制機器を用いるシステムでは、干渉抑制機器の発振器18の時定数を所定範囲でばらつかせ、複数の干渉抑制機器が異なるタイミングでアンテナの特性を変化させる。複数の干渉抑制機器が異なるタイミングでアンテナの特性の変化させることで、相互に干渉して複雑に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0033】
図2(B)は、RFIDタグ30を搭載するラベル98に一対の干渉抑制機器10 (1) , 10 (2)が搭載されたRFIDタグラベル100を示す。一対の干渉抑制機器10 (1) , 10 (2)がRFIDタグ30を挟むように配置される。一対の干渉抑制機器10 (1) , 10 (2)のアンテナ12とRFIDタグ30のアンテナ32は平行に配置されている。
【0034】
図7は、1対の干渉抑制機器10 (1)のアンテナ素子のON, OFFと干渉抑制機器10 (2)のアンテナ素子のON, OFFとによる指向性の変化の対応を表している。 干渉抑制機器10 (1)がON、干渉抑制機器10 (2)がONで狭指向性となる。
干渉抑制機器10 (1)がON、干渉抑制機器10 (2)がOFFで指向性を備える。 干渉抑制機器10 (1)がOFF、干渉抑制機器10 (2)がOFFで無指向性となる。
干渉抑制機器10 (1)がOFF、干渉抑制機器10 (2)がONで指向性を備える。
このように、干渉抑制機器のON, OFFで指向性を変化させ、複数の干渉抑制機器が異なるタイミングでアンテナの特性の変化させることで、相互に干渉して複雑に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0035】
図5 (A)、
図5(B)は、
図2(B)に示されるRFIDタグ30と一対の干渉抑制機器10 (1) , 10 (2)が搭載されたRFIDタグラベル100が立体的に配置され、3次元的に電磁界を変化させる例を示す。RFIDタグの貼られる 検出対象は立方形物90である。
図5(A)の例では、立方形物90の直角を成す一方面(垂直面)90V1と他方面(垂直面)90V2との角VCにRFIDタグのアンテナ32が位置し、一方面90V1に干渉抑制機器10 (1)の一方のアンテナ12 (1)が位置し、他方面90V2に干渉抑制機器10 (2)の他方のアンテナ12 (2)が位置するよう立方形物90にRFIDタグラベル100が貼られる。この例では、電磁界を水平方向に変化させることができる。
【0036】
図5(B)の例では、立方形物90の直角を成す一方面(垂直面)90V1と他方面(水平面)90H2との角HCにRFIDタグのアンテナ32が位置し、一方面90V1に干渉抑制機器10 (1)の一方のアンテナ12 (1)が位置し、他方面90H2に干渉抑制機器10 (2)の他方のアンテナ12 (2)が位置するよう立方形物90にRFIDタグラベル100が貼られる。この例では、電磁界を垂直方向に変化させることができる。
【0037】
この例では、一対の干渉抑制機器10 (1)、10 (2)が、RFIDタグ30と同一のラベル98上に設けられ、一対の干渉抑制機器10 (1)、10 (2)の 一方のアンテナ12 (1)と他方のアンテナ12 (2)が、RFIDタグのアンテナ32を挟むように配置される。そして、立方形物90の直角を成す一方面と他方面との角にRFIDタグのアンテナが位置し、一方面に干渉抑制機器の一方のアンテナが位置し、他方面に干渉抑制機器の他方のアンテナが位置するよう立方形物にラベルが貼られる。RFIDタグのアンテナに対して垂直方向又は水平方向に電磁界を変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0038】
図2(C)はモノポールアンテナ12Mからなる干渉抑制機器10の例を示し、
図2(D)はL字アンテナ12Lからなる干渉抑制機器10の例を示す。
図2(C)、
図2(D)に示す干渉抑制機器10は、金属板等の接地面G上に取り付けられる。干渉抑制機器の一方のアンテナ端子が接地面Gに、他方のアンテナ端子がモノポールアンテナ12M, L字アンテナ12Lに接続される。そして、設定されたタイミングで、干渉抑制機器10は、2つのアンテナ端子のON・OFFを繰り返す。
【0039】
図2(C)、
図2(D)に示す例では、アンテナが1素子12M、12Lと接地面Gとから成る。
図1(B)に示される負荷制御回路20が、1素子12M、12Lと接地面Gを開放、短絡、終端することによりアンテナの特性を変化させる。RFIDタグが金属に取り付けられた際も、金属面を接地面Gとすることで効果的に電磁界を変化させることができる。
【0040】
図6は、第1実施形態の干渉抑制機器10の動作フローである。
RFID読取装置から送信信号(キャリア信号)が送信されると、これを受信し (S12)、
図1(A)に示される電源回路14は、整流、平滑して動作用電源を生成し、その動作用電源をコンデンサ16に蓄える。コンデンサ16からの電源供給を受けて発
振器18は、
図4(B)に示される設定された周期で出力を送出する この出力を受けて、負荷制御回路20がアンテナ12の特性(負荷)を変化させる負荷状態制御を行う(S14)。
【0041】
図8は第1実施形態の別例に係る干渉抑制機器の説明図である。
第1実施形態の別例では、アンテナがマッシュルーム状素子12Mmを複数並べてなるマッシュルーム構造12MMから成る。マッシュルーム構造12MMは共振器を構成し、該共振器の状態は、
図8(A)に示すように開放に、また、
図8(B)に示すように短絡に切り替えることで、直列共振、並列共振と変化する。これにより、電気壁、磁気壁、又は、EBG構造(Electromagnetic Band Gap:電磁バンドギャップ)としての共振器の振る舞いを変化させ、空間の電磁界分布に作用する特性を制御することが可能になる。ここで共振器としては、マッシュルーム構造の他、CRLH (Composite right/left-hand:右手左手系複合)線路を
用いることもできる。
【0042】
第1実施形態の別例では、アンテナが共振器から成る。
図1 (B)に示される負荷制御回路20が、電気壁、磁気壁、又は、EBG構造として共振器の振る舞いを変化させる。RFIDタグのアンテナに対して効果的に電磁界を変化させることで 電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0043】
[第2実施形態]
図9(A)は、第2実施形態の干渉抑制機器110を構成する干渉抑制機器用IC10Iの電気的構成を示す。
干渉抑制機器用IC10Iは、アンテナ12,電源回路34,復調回路44, プロトコル制御回路42,不揮発性メモリ46,負荷制御回路20,コンデンサ36,発
振器38などによって構成されている。電源回路34は、アンテナ12を介して受信した無線タグリーダからの送信信号(キャリア信号)を整流、平滑して動作用電源を生成するものであり、その動作用電源をコンデンサ36に蓄え、プロトコル制御回路42をはじめとする各構成要素に供給している。
【0044】
また、復調回路44は、送信信号(キャリア信号)に重畳されているデータを復調してプロトコル制御回路42に出力している。不揮発性メモリ46は制御プログラムなどが記憶されている。プロトコル制御回路42は、不揮発性メモリ46から 上記情報やデータを読み出し、RFID読取装置から送られたコマンドを識別し、予め設定されたコマンドが検出された際に、負荷制御回路に出力を送り、アンテナ12の負荷を変化させる。ここでは、アンテナ12は2素子のダイポールアンテナからなり、コマンドが検出される度に、2素子の開放、短絡、終端を切り替える。
【0045】
図11は、第2実施形態の干渉抑制機器の動作フローである。
本願のコマンド検出器に相当するプロトコル制御回路42は、RFID読取装置から送られた送信信号を受信し(S22)、コマンドを確認する(S24)。そして、コマンドが特定コマンド、例えば、RFID読取装置から通信エラー、コリジョンによる未応答の際に用いられるコマンドであるかを判断する(S26)。 そして、特定コマンドが送られた際(S26: Yes)、負荷状態を制御する(S28)。上述したように、ダイポールアンテナを構成する2素子の開放、短絡、終端を切り替える。特定コマンドが送られない限り(S26:No)、負荷状態の制御を行わない(S30)。
【0046】
図10は、RFID読取装置と第2実施形態の干渉抑制機器との間の通信シーケンス図である。
RFID読取装置は、RFIDタグ側に、応答内容、状況に応じて送信コマンドを変えて送出する。RFIDタグは、コマンドの内容とコマンドを受け取ったときのタグの状態により異なる応答をRFID読取装置側に送る。
図10の例では、一台のRFID読取装置に対して、3
個のRFIDタグ(RFIDタグ1, RFIDタグ2、 RFIDタグ3)が応答し、RFID読取装置から特定のコマンドが送出された際に、干渉抑制機器がアンテナ特性を変化させる。
【0047】
まず、RFID読取装置から読取り開始のコマンドであり、タグのフラグ、セッションパラメータを指定するコマンド[Select]が送信されると、干渉抑制機器はアンテナ特性を変化させる(1)。高速でセッション切替、連続で同一タグを読取りたい場合に効率的にタグ読取率向上が可能になる。
【0048】
RFID読取装置から第1フレーム(最初の読取周期)の開始のコマンドであり スロットルカウンタ設定+タグ状態に応じて応答許容状態(Arbitrate)、応答状態(Reply)にするコマンド[Query]が送られると、干渉抑制機器はアンテナ特性を変化させる(2)。 読取り1サイクル、インベントリ毎に周囲の電磁界を変化させることで効率的にタグ読取率の向上が可能になる。このコマンド[Query]に応答してRFIDタグ1から受信を知らせる[RN16]がRFID読取装置側に送られ、RFID読取装置からタグ応答成功を知らせる[Ack]がRFIDタグ1に送られ、RFIDタグから[EPC]で応答する。応答成功したタグ(ここでは、RFIDタグ1)は、次のサイクル開始まで応答しないようにインベントリフラグが反転する。
【0049】
ここで、RFID読取装置から[QueryRep]が送られる毎に、タグはスロットルカウンタを減少させる。 RFIDタグは、[Query],L[QueryRep]. [QueryAdjust]を受け取った際、タグのスロットルカウンタより出力される値が0であるときに[RN16]応答を行う。 RFID読取装置から[QueryAdjust]が送信された際に、タグはスロットルカウンタを再設定する。
【0050】
RFID読取装置から、フレーム中のスロットを進める+タグのスロットルカウンタを減らす+応答を促すコマンド[QueryRrp]が送られると、干渉抑制機器はアンテナ特性を変化させる(3)。読取りフレーム中、常に負荷状態が変化することで応答衝突の回避率を上げ、読取速度の向上が可能になる。
【0051】
このRFID読取装置からのコマンド[QueryRep]に応答して、RFIDタグ2、 RFIDタグ3から受信を知らせる[RN16]がRFID読取装置側に送られるが、応答衝突(コリジョン)によってタグ応答が成功しない。[RN16]応答が衝突した場合、応答失敗。RFID読取装置側から再度[QueryRep]が送信される。応答夫敗したタグは次のフレーム開始、([QueryAdjust] 又は[Query])を受けるまで応答できない。
【0052】
RFID読取装置からフレーム1中での2回目のコマンド[QueryRep]が送られるが、RFIDタグからの応答は無い。[QueryRep]に応答して干渉抑制機器はアンテナ特性を変化させる(3)。
【0053】
RFID読取装置からフレーム1中での3回目のコマンド[QueryRep]が 送られる。[QueryRep]に応答して干渉抑制機器はアンテナ特性を変化させる(3)。
【0054】
フレーム2の開始とともに、RFID読取装置から、タグのスロットルカウンタ再設定(新規フレーム開始)十応答を促すコマンド[QueryAdjust]が送られると、干渉抑制機器はアンテナ特性を変化させる(4) 。1フレーム内の読取り環境を保全し、かつ、通信経路確保済みのタグ読取りを阻害する可能性最小で、 読取り率向上が可能になる。
【0055】
第2実施形態の干渉抑制機器では、RFID読取装置から送られた特定のコマンド(例えば、コリジョンに対応するためのコマンド)を検出するコマンド検出器(プロトコル制御回路)42による特定のコマンドの検出に応じて、負荷制御回路20がアンテナ12の特性を変化させる。このため、RFIDタグのアンテナでの電磁界を特定のコマンドが出力されたタイミングで変化させることで、電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0056】
第2実施形態の干渉抑制機器では、RFID読取装置側のRFIDタグを読取る送信コマンドによって干渉抑制機器の状態を変化させる。適切なタイミングで負荷制御、周囲電磁界変化を可能とし、効率的にRFIDタグ読取り枚数を増加させることができる。
【0057】
[第2実施形態の改変例]
図9(B)は本発明の第2実施形態の改変例に係る干渉抑制機器用ICの回路図である。 第2実施形態の改変例の干渉抑制機器130は、RFIDタグ用IC130I内に干渉抑制機器の機能を備える。RFIDタグ用IC130Iは、アンテナ32, 電源回路34,復調回路44,プロトコル制御回路42,不揮発性メモリ46,変調回路40,コンデンサ36,発
振器38などによって構成されている。これにより、RFIDタグとしての機能を果たす。更に、干渉抑制用のアンテナ12,負荷制御回路20を備え、第2実施形態の干渉抑制機器110と同様に、設定されたコマンドの受信に応じて、干渉抑制用のアンテナ(バイポールアンテナ)12の2素子の開放、短絡、終端を行う。
【0058】
第2実施形態の改変例の干渉抑制機器は、干渉抑制機器がRFIDタグに搭載されている。RFIDタグのアンテナに対して効果的に電磁界を変化させることで、 電磁界干渉を抑制し、電磁界干渉によるタグの読取りの困難を解消することができる。
【0059】
八木アンテナやパラボラアンテナを用い利得を増大させる方法(以下:[利得増大]として参照)、 或いは、中継器を用いて通信路を延長する方法(以下:[中継器]として参照)では、現場の環境ごとに合わせ込んで設置することになり、レイ アウト変更時に再設計が必要で、導入に電磁界の調査が必要となる。これに対して 第1実施形態、第2実施形態の干渉抑制機器(以下:[実施形態の干渉抑制機器]は、通信環境の空間ヌル位置を変化させることで通信路を確保するので、干渉抑制機器を貼るだけでよいため、導入が容易であるのに加え、レイアウト変更に対しても調整が必要にならないという変更耐性を有する。
【0060】
配置自由度という観点において、[利得増大]では、必要な利得を満たすように固定タグから半波長以内のどこかで、環境の影響により自由度は異なる。[中継器]では、RFID読取装置とRFIDタグとの間に中継器を配置する必要がある。[実施形態の干渉抑制機器]では、RFIDタグに近接して配置することが望ましいが、負荷状態が可変であるため、設置箇所の自由度は高い。
【0061】
他タグへの影響という観点において、[利得増大]では、影に設置されたタグの遮蔽物となる。[中継器]では、対象タグに対してのみ効果を発揮する。[実施形態の干渉抑制機器]では、影響の有無を切り替え可能である。
【0062】
ロバスト性という観点において、[利得増大]と[中継器]では、レイアウト変更時に再設定が必要となる。[実施形態の干渉抑制機器]では、ヌル位置変化を目標とするため、レイアウト変更に対しても調整が必要にならないという変更耐性を有する。
【0063】
既存現場への整合性とうい観点において、[利得増大]では、タグ1つ1つに対して合わせ込みが必要となる。[中継器]では、中継器の設置場所を確保することが必要となる。[実施形態の干渉抑制機器]では、干渉抑制機器を貼るだけでよいため、導入が容易である。
【符号の説明】
【0064】
10 :干渉抑制機器
12 :アンテナ
12L :L字アンテナ
12M :モノポールアンテナ
12 MM :マッシュルーム構造
14:電源回路
18 :発信器(クロック)
20 :負荷制御回路(負荷調整器)
30 :RFIDタグ
32 :アンテナ
34 :電源回路
42 :プロトコル制御回路(コマンド検出器)
90 :立方形物
90V1 :一方面
90V2 :他方面
98 :ラベル
100 :RFIDタグラベル
110 :干渉抑制機器