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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】聴診システム、聴診器、及び、方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 7/04 20060101AFI20240710BHJP
【FI】
A61B7/04 U
A61B7/04 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020109205
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2022006758
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-06-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】720009479
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】村田 稔
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0297105(US,A1)
【文献】特表2019-531101(JP,A)
【文献】特開2012-024391(JP,A)
【文献】特開2006-129933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/00-7/04
H04R 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触面に配置され、聴診音を採取するための第1センサーと、
前記第1センサーの周囲に配置され、聴診音を採取するための第2センサーと、
報知部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1センサーと前記第2センサーとによる聴診音のうち、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーを判別し、
採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第2センサーである場合、判別した前記第2センサーの方向を前記報知部により報知することを特徴とする聴診システム。
【請求項2】
前記制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第1センサーとなるまで、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を、前記報知部により報知することを特徴とする請求項に記載の聴診システム。
【請求項3】
前記制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第1センサーとなった場合、前記第1センサーによる聴診音の取得を開始することを特徴とする請求項に記載の聴診システム。
【請求項4】
前記制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第1センサーとなった場合、前記第2センサーをノイズキャンセルのために用いることを特徴とする請求項又はに記載の聴診システム。
【請求項5】
接触面の略中央に配置され、聴診音を採取するための第1センサーと、
前記第1センサーの周囲に配置され、聴診音を採取するための複数の第2センサーと、
報知部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1センサーと前記第2センサーとによる聴診音のうち、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーを判別し、
採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第2センサーである場合、判別した前記第2センサーの方向を前記報知部により報知することを特徴とする聴診器。
【請求項6】
第1センサーによる聴診音と、前記第1センサーの周囲に配置された複数の第2センサーによる聴診音と、による聴診音のうち、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーを判別し、
採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第2センサーである場合、判別した前記第2センサーの方向を報知することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴診システム、聴診器、及び、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
聴診器の中には、マイク等のセンサーにより電子的に心音等の音を採取し、採取した音を増幅し、増幅した音を医師等に聴取させる、いわゆる電子聴診器と呼ばれるものがある(例えば、特許文献1参照。)。電子聴診器により取得された音は、例えば、周波数解析が行われる場合がある。特許文献2には、以下の記載がある。「テレビ電話などを用いた遠隔診療において、聴診器による診断を行う場合、マイクロフォンを内蔵したチェストピースを有する聴診器を患者自身が自己の身体に接触させて、心音などをマイクロフォンで電気信号に変換し、これを通信により遠隔の医師に送信するという方法が用いられる。しかし、患者は聴診器の使用に慣れておらず、チェストピースが体表面に適切に接触できていないことがある。このような場合、従来の聴診器では、遠隔の映像からの視覚情報を見て、チェストピースが体に接触しているかどうかを医師が判断をすることは非常に困難であり、チェストピースが体表面に適切に接触していないことによる誤診を招く恐れがあった。」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-242849号公報
【文献】国際公開2017/159752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献2に記載の課題の他、遠隔医療(診療)、在宅医療において、一般ユーザー(患者)が、聴診器で心音等を採取するとき、聴診器を身体の適切な位置に接触させる(位置合わせする)ことは容易ではなく、安定した聴診音の採取が難しいという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、容易に、安定した聴診音が採取可能な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の聴診システムは、接触面の略中央に配置され、聴診音を採取するための第1センサーと、前記接触面において、前記第1センサーの周囲に配置され、聴診音を採取するための複数の第2センサーと、報知部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1センサーによる聴診音と、前記第2センサーによる聴診音と、に基づいて、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を、前記報知部により報知することを特徴とする。
【0007】
本発明では、制御部は、第1センサーによる聴診音と、第2センサーによる聴診音と、に基づいて、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を、報知部により報知する。これにより、ユーザーは、報知された方向に、聴診器を移動させ、採取すべき聴診音を採取することができるため、容易に、安定した聴診音を採取することができる。
【0008】
第2の発明の聴診システムは、第1の発明の聴診システムにおいて、前記制御部は、前記第1センサーと前記第2センサーとによる聴診音のうち、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーを判別することを特徴とする。
【0009】
第3の発明の聴診システムは、第2の発明の聴診システムにおいて、前記制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第2センサーである場合、判別した前記第2センサーの方向を報知することを特徴とする。
【0010】
第4の発明の聴診システムは、第2又は第3の発明の聴診システムにおいて、前記制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第1センサーとなるまで、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を、前記報知部により報知することを特徴とする。
【0011】
第5の発明の聴診システムは、第4の発明の聴診システムにおいて、前記制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第1センサーとなった場合、前記第1センサーによる聴診音の取得を開始することを特徴とする。
【0012】
第6の発明の聴診システムは、第4又は第5の発明の聴診システムにおいて、前記制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、前記第1センサーとなった場合、前記第2センサーをノイズキャンセルのために用いることを特徴とする。
【0013】
第7の発明の聴診システムは、第2~第6のいずれかの発明の聴診システムにおいて、 前記制御部は、前記第1センサーと前記第2センサーとによる聴診音のうち、音量が最大の聴診音を採取したセンサーを、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーと判別することを特徴とする。
【0014】
第8の発明の聴診システムは、第2~第6のいずれかの発明の聴診システムにおいて、前記制御部は、前記第1センサーと前記第2センサーとによる聴診音のうち、採取すべき聴診音の波形に最も近い聴診音を採取したセンサーを、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーと判別することを特徴とする。
【0015】
第9の発明の聴診システムは、第8の発明の聴診システムにおいて、採取すべき聴診音の波形は、機械学習により取得されていることを特徴とする。
【0016】
第10の発明の聴診システムは、第8の発明の聴診システムにおいて、採取すべき聴診音の波形は、聴診音が採取されるユーザーの聴診音に基づく波形であることを特徴とする。
【0017】
第11の発明の聴診システムは、第8の発明の聴診システムにおいて、採取すべき聴診音の波形は、聴診音が採取されるユーザーの聴診音に基づいて学習された波形であることを特徴とする。
【0018】
第12の発明の聴診システムは、第8の発明の聴診システムにおいて、採取すべき聴診音の波形は、複数人において特徴が共通する聴診音の波形であることを特徴とする。
【0019】
第13の発明の聴診システムは、第8の発明の聴診システムにおいて、採取すべき聴診音の波形は、複数人の聴診音に基づいて学習された波形であることを特徴とする。
【0020】
第14の発明の聴診システムは、第3の発明の聴診システムにおいて、採取すべき聴診音の波形は、異常波形であることを特徴とする。
【0021】
第15の発明の聴診システムは、第1~第14のいずれかの発明の聴診システムにおいて、前記第1センサー、及び、前記第2センサーは、それぞれ、ダイアフラムと、前記ダイアフラムに貼り付けられたピエゾ素子と、から構成されることを特徴とする。
【0022】
第16の発明の聴診システムは、第1~第14のいずれかの発明の聴診システムにおいて、前記第1センサー、及び、前記第2センサーは、それぞれ、ダイアフラムと、マイクと、から構成されることを特徴とする。
【0023】
第17の発明の聴診システムは、第1~第14のいずれかの発明の聴診システムにおいて、前記第1センサー、及び、前記第2センサーは、それぞれ、マイクであることを特徴とする。
【0024】
第18の発明の聴診システムは、第1~第17のいずれかの発明の聴診システムにおいて、前記報知部は、電子機器の表示画面であることを特徴とする。
【0025】
第19の発明の聴診システムは、第1~第17のいずれかの発明の聴診システムにおいて、前記報知部は、複数の発光素子から構成されることを特徴とする。
【0026】
第20の発明の聴診器は、接触面の略中央に配置され、聴診音を採取するための第1センサーと、前記接触面において、前記第1センサーの周囲に配置され、聴診音を採取するための複数の第2センサーと、報知部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1センサーによる聴診音と、前記第2センサーによる聴診音と、に基づいて、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を、前記報知部により報知することを特徴とする。
【0027】
第21の発明の方法は、第1センサーによる聴診音と、前記第1センサーの周囲に配置された複数の第2センサーによる聴診音と、に基づいて、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を報知することを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、容易に、安定した聴診音を採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る聴診器を下面側から模式的に示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る聴診器を上面側から模式的に示す斜視図である。
図3】心音波形の一例を示す図である。
図4】実波形、STFTデータ、及び、エネルギートレンドデータの一例を示す図である。
図5】エネルギートレンドデータの一例を示す図である。
図6】(a)は、波形の切り取りを説明するための図である。(b)は、信号処理後の図である。
図7】(c)は、機械学習による分類、学習を説明するための図である。
図8】類似度の判定を説明するための図を示す。
図9】異常波形のため、判定できない場合の例を示す図である。
図10】典型的な異常心音との類似度の確認を説明するための図を示す。
図11】スマートフォンの表示画面を示す図である。
図12】聴診システムの処理動作を示すフローチャートである。
図13】聴診システムの処理動作を示すフローチャートである。
図14】聴診システムの処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る聴診システムは、例えば、聴診器と、スマートフォンと、から構成される。聴診システムでは、聴診器により採取された聴診音が、スマートフォンに送信され、スマートフォンにおいて、聴診音の解析等が行われる。なお、聴診システムは、聴診器のみから構成されていてもよい。また、聴診音の解析等を行う機器は、スマートフォンでなくてもよく、専用の機器等であってもよい。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る聴診器1を下面側から模式的に示す斜視図である。図2は、本発明の実施形態に係る聴診器1を上面側から模式的に示す斜視図である。図示するように、聴診器1は、例えば、略円柱状の下部2と、下部2の上方に位置し、下部2よりも径が小さい略円柱状の上部3と、が組み合わされた形状である。
【0032】
聴診器1(下部2)の下面2aは、聴診音が採取される人体に対する接触面となる。接触面2aには、略中央にセンサー4(第1センサー)が配置され、センサー4の周囲に複数のセンサー5(第2センサー)が配置されている。センサー4、5は、聴診音を採取するためのものである。図1では、複数のセンサー5として、4つのセンサーが示されているが、センサー5の数は、4つに限られない。
【0033】
センサー4、5は、それぞれ、例えば、ダイアフラムと、ダイアフラムに貼り付けられたピエゾ素子と、から構成される。また、センサー4、5は、それぞれ、例えば、ダイアフラムと、マイクと、から構成される。また、センサー4、5は、それぞれ、例えば、マイクである。なお、センサー4、5は、上記構成に限られず、また、上記構成のセンサーの組み合わせから構成されていてもよい。センサー4、5により採取された聴診音は、スマートフォンに送信される。
【0034】
下部2の上面2bは、複数のLED6(発光素子)が取り付けられる取付面となる。複数のLED6は、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向(採取すべき聴診音の方向)を報知する報知部として機能する。なお、ここでは、発光素子として、LED6を例示したが、これに限られない。複数のLED6は、取付面2bに、円周状に均等に配置されている。図2においては、図示されている5つのLED6のうち、真ん中のLED6が発光しており、発光しているLED6の方向が、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向(採取すべき聴診音の方向)となる。
【0035】
スマートフォンは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の制御部を備えている。なお、以下で説明する処理等は、基本的に制御部によって実行されるが、「制御部は、~する。」という「~する」処理において、「制御部は」の文言を省略している場合がある。スマートフォンの制御部は、聴診器1から送信される、センサー4による聴診音と、センサー5による聴診音と、に基づいて、採取すべき聴診音の方向を判断する。このとき、制御部は、センサー4とセンサー5とによる聴診音のうち、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーを判別する。
【0036】
例えば、通常、制御部は、センサー4、5による聴診音のうち、音量(振幅)が最大の聴診音を採取したセンサーを、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーと判別する。以下、センサー4、5による聴診音のうち、音量が最大の聴診音を採取したセンサーを、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサー(採取すべき聴診音の方向)と判別するモードを、「通常モード」ともいう。また、例えば、オプションとして、制御部は、センサー4、5による聴診音のうち、採取すべき聴診音の波形に最も近い聴診音を採取したセンサーを、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサーと判別する。以下、センサー4、5による聴診音のうち、採取すべき聴診音の波形に最も近い聴診音を採取したセンサーを、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したセンサー(採取すべき聴診音の方向)と判別するモードを、「オプションモード」ともいう。例えば、採取すべき聴診音の波形は、機械学習により取得されている。
【0037】
「オプションモード」において、採取すべき聴診音の波形は、例えば、予め学習された個人の聴診音(例えば、心音)の波形である。何らかの理由で、聴診音に異常がある場合、制御部は、予め学習された聴診音異常波形(典型的な異常波形)との照合を行い、一致する場合、その音が最大感度でとれる方向を、採取すべき聴診音の方向であると判断する。一方で、予め学習された聴診音異常波形と類似性がない場合、制御部は、音量が最大の聴診音を採取したセンサーの方向を、採取すべき聴診音の方向と判別する。このとき、制御部は、異常フラグを立てたうえで、聴診音を記録する。
【0038】
次に、聴診音を機械学習に取り込むための方法について説明する。以下の手順で、心音(聴診音)の同期と間隔の掌握を行い、対象の心音の切り取りと機械学習による比較とを行う。
【0039】
(1)心音波形をセンサーで採取する。図3に、心音波形の一例を示す。
(2)波形の実効値、又は、STFT(Short-time Fourier transform)した後の全周波数のエネルギー(和、又は、二乗平均)を足し合わせ、時間対振幅の推移を示すエネルギートレンドデータを作成する。図4に、実波形、STFFTデータ、及び、エネルギートレンドデータの一例を示す。図4では、図3における鎖線、及び、一点鎖線の領域における実波形、STFTデータ、及び、エネルギートレンドデータが示されている。
(3)エネルギートレンドデータのピークにマークを打ち、マークの間隔から心拍同期の時間位置と心拍の周期Tを採取する。図5に、エネルギートレンドデータの一例を示す。なお、図では、センサーから採取した心音が示されており、I音に大きなピークが確認できる。
(4)周期を測定した区間について、ピークを中心として、前後に周期Tの1/2の時間で、心音波形を切り取る。図6(a)に、波形の切り取りを説明するための図を示す。
(5)切り取った区間の心音を、FFT(Fast Fourier transform)、MFCC(Mel-Frequency Cepstrum Coefficients)、又は、波形そのままの形で、学習データ、又は、テストデータとして取得する。図6(b)に、信号処理後の図を示す。
(6)未知のデータの類似性を判定する場合、(5)で予め既知の学習データ(学習モデル)を読み込ませた学習モデルを作成する。図7(c)に、機械学習による分類、学習を説明するための図を示す。機械学習アルゴリズムとしては、SVM、KNN等があるが、これらに限られない。
(7)学習モデルに対して、未知の各センサーのデータを取り込み、どのセンサーの類似度が高いか判定させる。図8に、類似度の判定を説明するための図を示す。
(8)複数のセンサーのうち、最も類似性の高い信号を採取しているセンサーの方向を、採取すべき聴診音の方向であると判定する。
(9)いずれにも類似性がない場合、異常を疑い、心音異常波形の学習モデルで類似性を確認する。類似性があれば、その音が、最大限取得できる方向を、採取すべき聴診音の方向と判定する。
(10)希望波形、異常波形ともに類似性がない場合、最大音量の方向を、採取すべき聴診音の方向であると判定する。
【0040】
上述したオプションモードは、聴診音の過去データ、及び、異常聴診音(例えば、心音)との比較機能を有する。なお、本実施形態では、通常モードとオプションモードとについて説明するが、通常モードのみから構成されていてもよい。
【0041】
オプションモードを実行するために、学習済みの聴診データは、別途データベースに保存されている。過去の自身のデータと典型的波形との比較・類似度で、略中央に位置するセンサーにより、該当音が聴取されるまで、採取すべき聴診音の方向の判定が繰り返される。ただし、心音の異常等で、学習データと変わってしまったような場合、判定できなくなる。図9に、異常波形のため、判定できない場合の例を示す。
【0042】
判定できない場合、典型的な異常波形と類似する聴診音を採取しているセンサーがないか確認し、ない場合、上述の通常モードに移行する。図10に、典型的な異常心音との類似度の確認を説明するための図を示す。
【0043】
典型的な異常波形に類似すると判断した場合、異常音を取得する。このとき、5つのセンサーのうち、最も典型的な異常音との類似度が高い、聴取音を採取したセンサーを検出し、典型的な異常音が、略中央に位置するセンサーにより採取されるまで、判定を繰り返す。また、異常音を取得する場合、時間切れ機能が設けられており、長時間取得できなかった場合、エラー表示する。ただし、一回でも異常音に近しい波形を発見した場合、異常フラグを立て、ユーザーに通知する。これにより、波形取得に失敗したものの、異常音が発見された記録のみを残せる。
【0044】
制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、センサー5である場合、判別したセンサー5の方向を、採取すべき聴診音の方向として、報知する。図3は、スマートフォンの表示画面を示す図である。スマートフォン(電子機器)の表示画面は、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向(採取すべき聴診音の方向)を報知する報知部として機能する。例えば、図3では、4つの矢印が表示されており、4つの矢印により、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向が報知される。図3では、右向きの矢印が塗りつぶされており、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向として、右方向が報知されている。なお、図3では、4つの矢印でユーザーが聴診器1を移動すべき方向が報知されているが、矢印の数(方向)は、4つ(4方向)に限られない。また、矢印以外で、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向が報知されてもよい。
【0045】
本実施形態では、複数のLED6とスマートフォンの表示画面とが、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向を報知する報知部として機能するが、いずれか一方のみであってもよい。また、聴診システムが、聴診器1のみで構成される場合、聴診器1には、CPU等の制御部が設けられ、制御部は、複数のLED6により、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向を報知する。また、本実施形態では、「表示」により、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向を報知するようになっているが、「音」により、ユーザーが聴診器1を移動すべき方向を報知するようになっていてもよい。
【0046】
制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、センサー4となるまで、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を報知する。制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、センサー4となった場合、聴診器1が、聴診音を採取すべき位置となったため、センサー4による聴診音の取得を開始する。このとき、制御部は、センサー5をノイズキャンセルのために用いる。
【0047】
以下、聴診システムの処理動作を、図12~14に示すフローチャートに基づいて説明する。制御部は、時間内に採取すべき聴診音を採取できなかった場合にエラー表示等を行うため、走査タイムアップタイマーをスタートする(S1)。次に、制御部は、通常モードが優先であるか否か、すなわち、通常モード、オプションモードのいずれが優先であるかを判断する(S2)。制御部は、通常モードが優先であると判断した場合(S2:Yes)、センサー4、5による聴診音を取得する(S3)。次に、制御部は、最大音方向を算出する(S4)。次に、制御部は、最大音方向を報知する(S5)。
【0048】
次に、制御部は、センサー4、5による聴診音を取得する(S6)。次に、制御部は、略中央に位置するセンサー4が、最大音を採取したか否かを判断する(S7)。制御部は、略中央に位置するセンサー4が、最大音を採取していないと判断した場合(S7:No)、タイマーを確認する(S8)。次に、制御部は、タイマーが、タイムアップしているか否かを判断する(S9)。制御部は、タイマーが、タイムアップしていると判断した場合(S9:Yes)、時間内に採取すべき聴診音を採取できなかった旨等のエラー表示を行う(S10)。制御部は、タイマーが、タイムアップしていないと判断した場合(S9:No)、S3の処理を実行する。
【0049】
制御部は、通常モードが優先でない、すなわち、オプションモードが優先であると判断した場合(S2:No)、センサー4、5による聴診音を取得する(S11)。次に、制御部は、センサー4、5により採取した聴診音の波形を認識する(S12)。次に、制御部は、センサー4、5により採取した聴診音の波形のうち、典型的な異常波形と一致する波形を採取したセンサーが、1つ以上あるか否かを判断する(S13)。ここで、「典型的な異常波形」とは、個人に特化した波形ではなく、例えば、複数人において、異常であると考えられる特徴が共通する波形である。
【0050】
制御部は、センサー4、5により採取した聴診音の波形のうち、典型的な異常波形と一致する波形を採取したセンサーが、1つもないと判断した場合(S13:No)、センサー4、5により採取した聴診音の波形のうち、採取すべき聴診音の波形と類似する波形を採取したセンサーがないか否かを判断する(S14)。ここで、「採取すべき聴診音の波形」は、過去に教師データとして学習された、聴診音が採取されるユーザーの聴診音波形、又は、典型的な聴診音波形(例えば、複数人において、特徴が共通する聴診音の波形)である。
【0051】
制御部は、センサー4、5により採取した聴診音の波形のうち、採取すべき聴診音の波形と類似する波形を採取したセンサーがないと判断した場合(S14:Yes)、通常モードに移行するため、S3の処理に移行する。一方で、制御部は、センサー4、5により採取した聴診音の波形のうち、採取すべき聴診音の波形と類似する波形を採取したセンサーがあると判断した場合(S14:No)、採取すべき聴診音の波形に最も合致した聴診音を採取したセンサーを判別する(S15)。次に、制御部は、判別したセンサーの方向を報知する(S16)。次に、制御部は、センサー4、5による聴診音を取得する(S17)。次に、制御部は、採取すべき聴診音の波形に最も合致した聴診音を採取したセンサーが、略中央に位置するセンサー4であるか否かを判断する(S18)。
【0052】
制御部は、採取すべき聴診音の波形に最も合致した聴診音を採取したセンサーが、略中央に位置するセンサー4でないと判断した場合(S18:No)、タイマーを確認する(S19)。次に、制御部は、タイマーが、タイムアップしているか否かを判断する(S20)。制御部は、タイマーが、タイムアップしていると判断した場合(S20:Yes)、時間内に採取すべき聴診音を採取できなかった旨等のエラー表示を行う(S10)。制御部は、タイマーが、タイムアップしていないと判断した場合(S20:No)、S15の処理を実行する。
【0053】
制御部は、センサー4、5により採取した聴診音の波形のうち、典型的な異常波形と一致する波形を採取したセンサーが、1つ以上あると判断した場合(S13:Yes)、異常音を略中央に位置するセンサー4が採取するようにするため、センサー4、5により採取した聴診音の波形と、機械学習による異常波形と、の類似度を確認する(S21)。次に、制御部は、異常波形が最大となる方向を報知する(S22)。次に、制御部は、センサー4、5による聴診音を取得する(S23)。次に、制御部は、略中央に位置するセンサー4が採取した聴診音の波形が、異常波形と最も適合しているか否かを判断する(S24)。
【0054】
制御部は、略中央に位置するセンサー4が採取した聴診音の波形が、異常波形と最も適合していないと判断した場合(S24:No)、タイマーを確認する(S25)。次に、制御部は、タイマーが、タイムアップしているか否かを判断する(S26)。制御部は、タイマーが、タイムアップしていると判断した場合(S26:Yes)、異常フラグを立て(S27)、時間内に採取すべき聴診音を採取できなかった旨等のエラー表示を行う(S10)。制御部は、タイマーが、タイムアップしていないと判断した場合(S26:No)、センサー4、5による聴診音を取得し(S28)、S15の処理を実行する。
【0055】
制御部は、略中央に位置するセンサー4が採取した聴診音の波形が、異常波形と最も適合していると判断した場合(S24:Yes)、異常フラグを立てる(S29)。
【0056】
制御部は、略中央に位置するセンサー4が、最大音を採取していると判断した場合(S7:Yes)、又は、採取すべき聴診音の波形に最も合致した聴診音を採取したセンサーが、略中央に位置するセンサー4であると判断した場合(S18:Yes)、又は、S29の処理の後、センサー4による聴診音の取得を開始する(S31)。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、制御部は、センサー4による聴診音と、センサー5による聴診音と、に基づいて、採取すべき聴診音の方向を判断し、判断した聴診音の方向を報知する。これにより、ユーザーは、報知された方向に、聴診器1を移動させ、採取すべき聴診音を採取することができるため、容易に、安定した聴診音を採取することができる。
【0058】
なお、上述した「採取すべき聴診音の波形」は、例えば、以下のとおりとなる。
(1)聴診音が採取されるユーザーの聴診音に基づく波形。具体的には、聴診音が採取されるユーザーの聴診音に基づいて学習された波形
(2)複数人において特徴が共通する聴診音の波形。具体的には、複数人の聴診音に基づいて学習された波形。
(3)採取すべき聴診音の波形は、異常波形である。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上述の実施形態には限られるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【0060】
上述した実施形態では、制御部は、採取すべき聴診音に最も近い聴診音を採取したと判別したセンサーが、センサー5である場合、判別したセンサー5の方向を、採取すべき聴診音の方向として報知するが、これに限られず、センサー5の方向以外を、採取すべき聴診音の方向として報知するようになっていてもよい。例えば、制御部は、隣り合うセンサー5が同じ聴診音を採取している場合、隣り合うセンサー5の中間位置の方向を報知するようになっていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、聴診システム、聴診器、及び、方法に好適に採用され得る。
【符号の説明】
【0062】
1 聴診器
2 下部
2a 接触面
2b 取付面
3 上部
4 センサー(第1センサー)
5 センサー(第2センサー)
6 LED(発光素子)
図1
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