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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】水分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/32 20060101AFI20240710BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240710BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240710BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20240710BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240710BHJP
   B01D 61/36 20060101ALI20240710BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20240710BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20240710BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
B01D71/32
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/70
B01D71/02
B01D61/36
B01D63/06
C09D171/02
B01D69/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020146588
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041413
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】京増 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕太
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅英
(72)【発明者】
【氏名】澤村 健一
(72)【発明者】
【氏名】松本 一希
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-523592(JP,A)
【文献】特表2015-531674(JP,A)
【文献】特表2012-510365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-58、63/00-16、69/00-14、71/00-82
C07B 63/00
C07C 7/144
C09D 171/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体、多孔質セラミック層及びフッ素含有コーティング層の順で配置されてなる水分離膜であって、フッ素含有コーティング層がフッ素含有有機シラン化合物の縮合物を含み、X線光電子分光(XPS)で測定されるフッ素含有コーティング層の表面のフッ素原子濃度が1~45atomic%である、水分離膜。
【請求項2】
フッ素含有有機シラン化合物が、
(A)式(1):
【化1】
[式中、
Rfは、パーフルオロアルキル基を表す。
Xは、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表す。
a、b、c、d及びeは、同一若しくは異なって、0以上の数を表し、a+b+c+d+eの合計は、1以上であり、a、b、c、d及びeで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中で限定されない。
Yは、水素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。
Zは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。
は、水素原子又は炭素数1~4の分岐鎖状若しくは直鎖状のアルキル基を表す。 Rは、水酸基又は加水分解性基を表す。
は、水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
gは、0、1又は2を表す。
hは、1、2又は3を表す。
fは、1以上の数を表す。
2つの*は、当該箇所同士で直接結合していることを表している。]
で表される化合物、
(B)式(2):
【化2】
[式中、
Rfは、-(C2p)O-(pは、1~6の整数)で表される単位を含み、直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。
は、同一若しくは異なって、炭素数1~8の1価の炭化水素基を表す。
Qは、同一若しくは異なって、加水分解性基又はハロゲン原子を表す。
mは、同一若しくは異なって0~2の整数を表す。
kは、同一若しくは異なって1~5の整数を表す。
i及びjは、同一若しくは異なって1、2又は3を表す。]
で表される化合物、並びに、
(C)式(3):
【化3】
[式中、
は、フッ素原子が1以上置換したアルキル基である。
は、同一若しくは異なって、置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭素水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。
nは、0~3の整数を表す。]
で表される化合物、及び式(4):
【化4】
[式中、
は、アルキル基又はアリール基である。
は、同一若しくは異なって置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭素水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。
rは、0~3の整数を表す。]
で表される化合物の混合物の部分加水分解物
からなる群から選ばれる1種以上の化合物である、請求項1に記載の水分離膜。
【請求項3】
多孔質セラミック層の中心細孔径が0.3~10nmである、請求項1又は2に記載の水分離膜。
【請求項4】
多孔質セラミック層が、単層又は複数層である、請求項1~のいずれかに記載の水分離膜。
【請求項5】
多孔質支持体の中心細孔径が、多孔性セラミック層の中心細孔径より大きい、請求項1~のいずれかに記載の水分離膜。
【請求項6】
多孔質支持体の中心細孔径が0.2~3μmである、請求項1~のいずれかに記載の水分離膜。
【請求項7】
多孔質支持体、多孔質セラミック層及びフッ素含有コーティング層がこの順で積層されてなるチューブ形状の膜である、請求項1~のいずれかに記載の水分離膜。
【請求項8】
温度140℃、膜内圧力1kPa以下にて、2.5質量%含水2-エチル-1-ヘキサノールを10mL/minで送液して水分離膜に接触させたとき、当該膜を透過する水の透過流束が、0.4kg/m・h以上であり、且つ、透過液中の2-エチル-1-ヘキサノール濃度が、60質量%以下である、請求項1~のいずれかに記載の水分離膜。
【請求項9】
水分離膜の製造方法であって、多孔質支持体及び多孔質セラミック層を含む多孔質セラミック膜の多孔質セラミック層に、フッ素含有有機シラン化合物をコーティングしてフッ素含有コーティング層を形成し、X線光電子分光(XPS)で測定されるフッ素含有コーティング層の表面のフッ素原子濃度を1~45atomic%にする工程を含む、製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の水分離膜に、有機化合物及び水を含む液体混合物を接触させ、該液体混合物から水を除去して有機化合物を精製する工程を含む、有機化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載の水分離膜に、有機化合物及び水からなる液体混合物を接触させ、該液体混合物から水を分離する方法。
【請求項12】
請求項1~のいずれかに記載の水分離膜、及びそれを収めたハウジングを備えた、水分離膜モジュール。
【請求項13】
供給液槽1、請求項1に記載の水分離膜モジュール5、透過液槽8、及び真空ポンプ9を備えた水分離装置であって、供給液槽1から供給液を水分離膜モジュール5に供給する流路Aを備え、水分離膜モジュール5から浸透気化した水を透過液槽8に供給する流路Bを備え、水分離膜11の内部、流路B及び透過液槽8の内部を減圧にするための真空ポンプ9を備えた、水分離装置。
【請求項14】
さらに水分離膜モジュール5を加熱するためのオーブンを備えた、請求項1に記載の水分離装置。
【請求項15】
請求項1に記載の水分離装置を用いて有機化合物及び水を含む液体混合物から水を分離する方法であって、水分離膜モジュール5内のチューブ形状の水分離膜の内部を減圧にして、チューブ形状の水分離膜の外周面に該液体混合物を接触させ、浸透気化法を用いて水を透過させることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミック膜の表面を改質して得られる水を分離するための浸透気化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物と水が混在する混合液から水を選択的に分離又は除去するために、浸透気化法(パーベーパレーション(PV)法)を利用した水分離膜を用いる技術が報告されている。浸透気化法とは、分離膜の片側(供給側)に分離対象物質を含む溶液を供給し、反対側(透過側)を減圧にすることにより、分離膜を透過してきた分離対象物(透過液)を蒸気化して回収する方法である。つまり、溶液に含まれる各成分の透過速度差によって、分離対象物質を選択的に透過させて分離する方法である。
【0003】
当該浸透気化法を利用して水を分離する技術としては、例えば、特許文献1には、酸で架橋されたポリビニルアルコール分離層を備えた複合膜を用いて、有機成分を含む流体混合物から水を分離する方法が記載されている。
特許文献2には、水分離用マイクロリアクタ中で、オレイン酸とメタノールとをエステル化反応して生成するオレイン酸メチルと水から、分離膜(T型ゼオライト)を用いて水を分離する方法が記載されている。
特許文献3には、フェノールとアセトンを反応させてビスフェノールAを製造する方法において、生成する水を、水選択的濾過膜(多孔質シリカ膜等の無機多孔質膜等)により除去することが記載されている。
これらの方法は、水分離膜としての機能は発揮するが、使用に伴い含まれる有機物が膜を汚染し、水分離能が低下することが確認されている。
【0004】
この問題を解決するために、例えば、特許文献4には、水及びフェノールを少なくとも含む液体からゼオライト膜を用いて水を分離する場合に、分離処理後の液体のフェノールの濃縮濃度を55mmol以下の範囲にすることで、使用に伴う透過流束の低下を抑制できることが記載されている。
特許文献5には、水とフェノールを含む液から、水を選択的に透過する浸透気化膜(DDR型ゼオライト膜等)を用いて水を分離することにより、水の濃度が減少(フェノールの濃度が増加)しても透過流束がほとんど低下しないことが記載されている。
特許文献6には、セラミック多孔質体上に有機無機ハイブリッドシリカの補修材(ビストリエトキシシリル化合物等)で補修されたゼオライト分離膜を用いて、酢酸と水の混合液から水を分離することにより、透過性能を低下させずに分離性能を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第91/08043号(特表平4-506766号公報)
【文献】特開2013-27798号公報
【文献】特開平3-291249号公報
【文献】特開2017-42724号公報
【文献】国際公開第2016/24580号
【文献】国際公開第2014/156579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来の浸透気化法を利用した水分離膜を用いる技術において、水の分離能をさらに向上でき、且つ使用に伴う水の分離能(透過性能)の低下を抑制できる水分離膜を提供することを課題とする。また、当該水分離膜を用いた水の分離又は除去方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を行った。その結果、多孔質支持体及び多孔質セラミック層からなる多孔質セラミック膜の表面を改質して得られる膜が、上記の課題を解決できること見出した。具体的には、多孔質支持体及び多孔質セラミック層からなる多孔質セラミック膜の多孔質セラミック層上に、フッ素含有有機シラン化合物をコーティングしてフッ素含有コーティング層を形成し、得られた多孔質支持体、多孔質セラミック層及びフッ素含有コーティング層の順で配置(積層)された膜が、浸透気化の原理を利用した水分離膜として優れており、上記の課題を解決できることを見出した。かかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、水分離膜、水分離膜モジュール、水分離装置、及びそれらを用いた水の分離方法を提供する。
【0009】
項1.多孔質支持体、多孔質セラミック層及びフッ素含有コーティング層の順で配置(積層)されてなる水分離膜であって、フッ素含有コーティング層がフッ素含有有機シラン化合物の加水分解縮合物を含むことを特徴とする、水分離膜。
項2.X線光電子分光(XPS)で測定されるフッ素含有コーティング層の表面のフッ素原子濃度が1~45atomic%である、項1に記載の水分離膜。
項3.フッ素含有有機シラン化合物が、
(A)式(1):
【化1】
[式中、
Rfは、パーフルオロアルキル基を表す。
Xは、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表す。
a、b、c、d及びeは、同一若しくは異なって、0以上の数を表し、a+b+c+d+eの合計は、1以上であり、a、b、c、d及びeで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中で限定されない。
Yは、水素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。
Zは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。
は、水素原子又は炭素数1~4の分岐鎖状若しくは直鎖状のアルキル基を表す。
は、水酸基又は加水分解性基を表す。
は、水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
gは、0、1又は2を表す。
hは、1、2又は3を表す。
fは、1以上の数を表す。
2つの*は、当該箇所同士で直接結合していることを表している。]
で表される化合物(以下「パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(A)」と表記することもある。)、
(B)式(2):
【化2】
[式中、
Rfは、-(C2p)O-(pは、1~6の整数)で表される単位を含み、直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。
は、同一若しくは異なって、炭素数1~8の1価の炭化水素基を表す。
Qは、同一若しくは異なって、加水分解性基又はハロゲン原子を表す。
mは、同一若しくは異なって0~2の整数を表す。
kは、同一若しくは異なって1~5の整数を表す。
i及びjは、同一若しくは異なって1、2又は3を表す。]
で表される化合物(以下「パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(B)」と表記することもある。)、並びに、
(C)式(3):
【化3】
[式中、
は、フッ素原子が1以上置換したアルキル基である。
は、同一若しくは異なって、置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭素水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。
nは、0~3の整数を表す。]
で表される化合物(以下「フッ素含有アルコキシシラン化合物(3)」と表記することもある。)、及び式(4):
【化4】
[式中、
は、アルキル基又はアリール基である。
は、同一若しくは異なって置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭素水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。
rは、0~3の整数を表す。]
で表される化合物(以下「アルコキシシラン化合物(4)」と表記することもある。)の混合物の部分加水分解物(以下「フッ素含有シリコンオリゴマー(C)」と表記することもある。)
からなる群から選ばれる1種以上の化合物である、項1又は2に記載の水分離膜。
項4.多孔質セラミック層の中心細孔径が0.3~10nmである、項1~3のいずれかに記載の水分離膜。
項5.多孔質セラミック層が、単層又は複数層である、項1~4のいずれかに記載の水分離膜。
項6.多孔質支持体の中心細孔径が、多孔性セラミック層の中心細孔径より大きい、項1~5のいずれかに記載の水分離膜。
項7.多孔質支持体の中心細孔径が0.2~3μmである、項1~6のいずれかに記載の水分離膜。
項8.多孔質支持体、多孔質セラミック層及びフッ素含有コーティング層がこの順で積層されてなるチューブ形状の膜である、項1~7のいずれかに記載の水分離膜。
項9.温度140℃、膜内圧力1kPa以下にて、2.5質量%含水2-エチル-1-ヘキサノールを10mL/minで送液して水分離膜に接触させたとき、当該膜を透過する水の透過流束が、0.4kg/m・h以上であり、且つ、透過液中の2-エチル-1-ヘキサノール濃度が、60質量%以下である、項1~8のいずれかに記載の水分離膜。
項10.水分離膜の製造方法であって、多孔質支持体及び多孔質セラミック層を含む多孔質セラミック膜の多孔質セラミック層上に、フッ素含有有機シラン化合物をコーティングしてフッ素含有コーティング層を形成する工程を含む、製造方法。
項11.項1~9のいずれかに記載の水分離膜に、有機化合物及び水を含む液体混合物を接触させ、該液体混合物から水を除去して有機化合物を精製する工程を含む、有機化合物の製造方法。
項12.項1~9のいずれかに記載の水分離膜に、有機化合物及び水からなる液体混合物を接触させ、該液体混合物から水を分離する方法。
項13.項1~9のいずれかに記載の水分離膜、及びそれを収めたハウジング(外筒)を備えた、水分離膜モジュール。
項14.ハウジングが、該ハウジング内に供給液を供給する供給口5a及び該ハウジングから回収液を排出する排出口5bを有し、水分離膜が、該水分離膜の内側から浸透気化した水(水蒸気)を排出する排出口5c、及び該水分離膜の内側に溜まった液体を排出する排出口5dを有する、項13に記載の水分離膜モジュール。
項15.供給液槽1、項13に記載の水分離膜モジュール5、透過液槽8、及び真空ポンプ9を備えた水分離装置であって、供給液槽1から供給液を水分離膜モジュール5に供給する流路Aを備え、水分離膜モジュール5から浸透気化した水を透過液槽8に供給する流路Bを備え、水分離膜11の内部、流路B及び透過液槽8の内部を減圧にするための真空ポンプ9を備えた、水分離装置。
項16.さらに水分離膜モジュール5を加熱するためのオーブンを備えた、項15に記載の水分離装置。
項17.項15に記載の水分離装置を用いて有機化合物及び水を含む液体混合物から水を分離する方法であって、水分離膜モジュール5内のチューブ形状の水分離膜の内部を減圧にして、チューブ形状の水分離膜の外周面に該液体混合物を接触させ、浸透気化法を用いて水を透過させることを特徴とする、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水分離膜は、多孔質セラミック膜上に、フッ素含有有機シリカ化合物から形成されるフッ素含有コーティング層(フッ素含有有機シリカ化合物の加水分解縮合物)を有しているため、浸透気化法を利用した水の分離能に優れ、且つ、使用に伴う経時的な水の分離能(透過性能)の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の水分離膜の断面の概要を示す。
図2】本発明の水分離膜を含むモジュールの概要を示す。
図3】本発明の水分離装置の概要を示す。
【符号の説明】
【0012】
1:供給液槽
2:送液ポンプ
3:予熱コイル
4:オーブン
5:水分離膜モジュール
6:回収液槽
7:冷媒槽
8:透過液槽(コールドトラップ)
9:真空ポンプ
10:ハウジング
11:水分離膜
A:流路
B:流路
C:流路
30:水分離膜の断面(上部が供給液を供給する側)
31:フッ素含有コーティング層
32:多孔質セラミック層(第2層)
33:多孔質セラミック層(第1層)
34:多孔質支持体(平滑化層)
35:多孔質支持体
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.水分離膜
本発明の水分離膜は、多孔質支持体、多孔質セラミック層及びフッ素含有コーティング層の順で積層された構造を有し、フッ素含有コーティング層がフッ素含有有機シラン化合物の加水分解縮合物を含むことを特徴としている。水分離膜の構造の一例を、図1に示す。当該水分離膜は、通常、多孔質支持体及び多孔質セラミック層からなる多孔質セラミック膜の多孔質セラミック層上に、フッ素含有有機シラン化合物をコーティングして製造することができる。
当該水分離膜は、多孔質セラミック膜の表面が改質されているため、有機化合物と水の混合液を当該水分離膜で浸透気化処理することにより、水を選択的に分離又は回収することができ、且つ、使用に伴う水の分離能(透過性能)の低下をも抑制することができる。そのため、水分離用の浸透気化膜として有用である。
【0014】
多孔質支持体は、水分離膜の形状を支持するための基材であり、水又は有機化合物の透過性を有する無機の多孔体からなる。多孔質支持体の材料としては、例えば、アルミナ(Al)(α-アルミナ、γ-アルミナ等)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、ムライト(Al・SiO)、セルベン、コージェライト、これらの複合物からなるセラミックが挙げられ、粒径の制御し易さ、安定性、入手のし易さなどの観点から、アルミナが好ましい。
【0015】
多孔質支持体の厚みは、通常、0.5~5mm、好ましくは1~2mmである。
【0016】
多孔質支持体の形状は、本発明の水分離膜の使用形態に応じて任意の形状にすることができ、例えば、チューブ形状(円筒状)、角柱状、ハニカム形状等が挙げられる。好ましくは、チューブ形状である。チューブ形状の場合、例えば、外径が5~20mm、好ましくは10~15mmであり、内径が3~18mm、好ましくは6~12mmであり、チューブの厚みが1~3mm、好ましくは1~2mmであり、長さが100~1000mm、好ましくは200~400mmであるものが挙げられる。
【0017】
多孔質支持体には、その表面を平滑化するために平滑化層が含まれていることが好ましい(図1の34の層を参照)。平滑化層は多孔質支持体の基材と同じ材料を用いることが好ましく、例えば、多孔質支持体の基材としてアルミナを用いる場合、これと同じアルミナ微粒子を多孔質支持体の基材表面に担持させて平滑化することができる。多孔質支持体の基材へのアルミナ微粒子の担持は、公知の方法を採用することができ、例えば、バインダーにアルミナ微粒子を分散させ、これを多孔質支持体の基材表面に塗布、乾燥及び焼成することにより実施できる。
【0018】
多孔質セラミック層は、多孔質支持体の表面に形成されており、多孔質支持体が基材上に平滑化層を有する場合は、その平滑化層上に形成されている。多孔質セラミック層のセラミック材料としては、通常、シリカ、オルガノシリカ、アルミナ、ジルコニア、ゼオライト等が挙げられる。耐酸性の観点からは、シリカが好ましい。対象化合物が中性であるときにはオルガノシリカ、ゼオライト等が好ましい。
【0019】
多孔質セラミック層は、水分離能を発揮し得るフッ素含有コーティング層が接する層である。多孔質セラミック層自体も、水及び有機化合物を含む混合液から分子径の最も小さい水分子をある程度選択的に透過させるとともに、分子径の大きい有機化合物の透過をある程度阻害して両者を分離する機能を発揮する。
【0020】
多孔質セラミック層の中心細孔径は、多孔質支持体の中心細孔径より小さいことが好ましく、多孔質セラミック層の中心細孔径は、通常、0.2~100nmであり、好ましくは0.3~50nmであり、より好ましくは0.3~10nmである。中心細孔径は、ナノパームポロメトリーでガス透過が50%となるときの細孔径として定義することができる。例えば、特開2001-235417号公報、特開2019-203825号公報等を参照。
【0021】
多孔質セラミック層は単層でも複数層でもよい。複数層の場合は多孔質支持体に近い層から順にその中心細孔径が小さくなっていくことが好ましい。二層の場合の一例として、多孔質支持体(平滑化層を有する場合は、その平滑化層)の表面から順に、第1層(中心細孔径:1~10nm)及び第2層(中心細孔径:0.5~1nm)を設けることができる(例えば、図1の33及び32の層を参照)。
【0022】
多孔質セラミック層の形成は、公知の方法を採用することができる。例えば、バインダーにセラミック微粒子を分散させ、これを多孔質支持体(平滑化層を有する場合は、その平滑化層)の表面に塗布、乾燥及び焼成することにより形成できる。多孔質セラミック層が複数層の場合は、例えば、多孔質支持体上にセラミック微粒子を粒子径の大きいものから小さいものへ順に塗布、乾燥及び焼成して形成することができる。
多孔質セラミック層がゼオライトである場合、例えば、溶原料液(例えば、1-アダマンタンアミン、エチレンジアミン、シリカ及び水を含む溶液)にゼオライト微粒子を分散させ、これに、多孔質支持体を接触させ水熱合成することにより形成することができる。例えば、特開2003-159518号公報等を参照。
フッ素含有コーティング層は、フッ素含有有機シラン化合物の縮合物(加水分解縮合物)を含み、多孔質セラミック層の表面に配置されている。フッ素含有コーティング層は、多孔質支持体及び多孔質セラミック層を含む多孔質セラミック膜の多孔質セラミック層上に、フッ素含有有機シラン化合物をコーティングして形成される。
【0023】
フッ素含有有機シラン化合物としては、分子内にF-C結合及び加水分解性基が結合したケイ素原子を有する化合物が挙げられる。具体例としては、次のパーフルオロエーテル基含有シラン化合物(A)、パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(B)、フッ素含有シリコンオリゴマー(C)等が挙げられる。これらのうちから1種又は2種以上を選択することができる。
【0024】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(A)としては、例えば、式(1):
【化5】
[式中、
Rfは、パーフルオロアルキル基を表す。
Xは、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基を表す。
a、b、c、d及びeは、同一若しくは異なって、0以上の数を表し、a+b+c+d+eの合計は、1以上であり、a、b、c、d及びeのそれぞれで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中で限定されない。
Yは、水素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。
Zは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。
は、水素原子又は炭素数1~4の分岐鎖状若しくは直鎖状のアルキル基を表す。
は、水酸基又は加水分解性基を表す。
は、水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
gは、0、1又は2を表す。
hは、1、2又は3を表す。
fは、1以上の数を表す。
2つの*は、当該箇所同士で直接結合していることを表している。]
で表される化合物が挙げられる。
【0025】
Rfで示されるパーフルオロアルキル基としては、炭素数1~16の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基、さらに炭素数1~10のものが挙げられる。なかでも、CF-、C-、C-が好ましい。
【0026】
a、b、c、d及びeは、式(1)で表される化合物の主骨格を構成するパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数を表し、それぞれ独立して0~200の範囲が好ましく、0~50の範囲がより好ましい。また、a+b+c+d+e(a~eの合計)は、好ましくは、1~100の範囲である。なお、a、b、c、d及びeのそれぞれで括られた各繰り返し単位の存在順序については、式(1)にはこの順で記載されているが、これらの各繰り返し単位の結合順序はこの順に限定されず、任意の順序で構わない。
【0027】
で示される炭素数1~4の分岐鎖状又は直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。Xが臭素又はヨウ素である場合、式(1)で表される化合物は、化学結合が生成され易い。
【0028】
で示される加水分解性基は特に限定されないが、ハロゲン原子、-OR2A、-OCOR2A、-OC(R2A)=C(R2B、-ON=C(R2A、-ON=CR2C等が好ましい。ここで、R2Aは脂肪族炭化水素基(例えば、炭素数1~4のアルキル基)又は芳香族炭化水素基、R2Bは同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基(例えば、炭素数1~4のアルキル基)、R2Cは同一又は異なって、炭素数3~6の2価の脂肪族炭化水素基(例えば、炭素数3~6のアルキレン基)を表す。加水分解性基としてより好ましくは、塩素原子、-OCH、-OCである。
【0029】
で示される1価の炭化水素基は特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が好ましく、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0030】
gは、パーフルオロポリエーテル鎖を構成する炭素とこれに結合するケイ素との間に存在するアルキレン基の炭素数を表し、好ましくは0である。
hは、ケイ素に結合する置換基Rの数を表し、3-hはケイ素に結合する置換基Rの数を表す。
fは、好ましくは1~10の範囲である。
【0031】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(B)としては、例えば、式(2):
【化6】
[式中、
Rfは、-(C2p)O-(pは、1~6の整数)で表される単位を含み、直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。
は、同一若しくは異なって炭素数1~8の1価の炭化水素基を表す。
Qは、同一若しくは異なって加水分解性基又はハロゲン原子を表す。
mは、同一若しくは異なって0~2の整数を表す。
kは、同一若しくは異なって1~5の整数を表す。
i及びjは、同一若しくは異なって1、2又は3を表す。]
で表される化合物が挙げられる。
【0032】
Rfで示される基は特に限定されないが、mが各々0である場合、式(2)中の酸素原子に結合するRf基の末端は、酸素原子でないことが好ましい。また、Rfにおけるpとしては、1~4の整数が好ましい。このRfで示される基としては、具体的には、-CFCFO(CFCFCFO)CFCF-(式中、sは1以上、好ましくは1~50、より好ましくは10~40の整数である)、-CF(OC-(OCF-(式中、t及びuは、それぞれ、1以上、好ましくは1~50、より好ましくは10~40の整数で、かつt及びuの和は、10~100、好ましくは20~90、より好ましくは40~80の整数であり、式中の繰り返し単位の(OC)及び(OCF)の配列はランダムである)などが挙げられる。
【0033】
は、好ましくは炭素数1~30の1価の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリール基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。なかでも、メチル基が好ましい。
【0034】
Qで示される加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基;アリロキシ基、イソプロペノキシ基等のアルケニルオキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンノキシム基、シクロヘキサノキシム基等のケトオキシム基;N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N-プロピルアミノ基、N-ブチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N-シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;N-メチルアセトアミド基、N-エチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基等のアミド基;N,N-ジメチルアミノオキシ基、N,N-ジエチルアミノオキシ基等のアミノオキシ基などが挙げられる。Qで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。なかでも、メトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、塩素原子が好ましい。
【0035】
mは1が好ましく、kは3が好ましい。i及びjは、加水分解性の観点から、3が好ましい。
【0036】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(A)及び(B)の平均分子量は、浸透気化による水分離能の観点から、1000~10000の範囲が好ましい。なお、平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算により測定できる。
【0037】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(A)及び(B)の市販品としては、オプツールDSX(ダイキン工業(株)製)、KY-108、KY-164(信越化学工業(株)製)、フルオロリンクS10(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン(株)製)、Novec2702、Novec1720(3Mジャパン(株)製)、フロロサーフFG-5080SH等のフロロサーフシリーズ((株)フロロテクノロジー製)等が挙げられる。
【0038】
フッ素含有シリコンオリゴマー(C)としては、例えば、式(3):
【化7】
[式中、
は、フッ素原子が1以上置換したアルキル基である。
は、同一若しくは異なって、置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭素水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。
nは、0~3の整数を表す。]
で表される化合物(フッ素含有アルコキシシラン化合物(3))、及び式(4):
【化8】
[式中、
は、アルキル基又はアリール基である。
は、同一若しくは異なって、置換基を有してもよい、炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭素水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基を表す。
rは、0~3の整数を表す。]
で表される化合物(アルコキシシラン化合物(4))の混合物の部分加水分解物が挙げられる。
【0039】
及びRで示されるアルキル基としては、炭素数1~8の分岐鎖状又は直鎖状のアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0040】
で示されるフッ素原子が1以上置換したアルキル基としては、上記アルキル基の1以上の水素原子がフッ素原子で置換された基が挙げられ、具体的は、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0041】
で示されるアリール基としては、単環又は2環以上が縮環したアリール基が挙げられ、具体的には、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基等が挙げられる。好ましくはフェニル基である。
【0042】
及びRで示される炭素数1~8の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数1~8のアルケニル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ビニル基、アリル基、クロチル基等が挙げられる
【0043】
及びRで示される炭素数3~10の脂環式炭素水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0044】
及びRで示される炭素数6~10の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基等が挙げられる。
【0045】
及びRで示される炭素数1~8の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭素水素基又は炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基(メチル基等)、アリール基(フェニル基等)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられる。
【0046】
nは0~3の整数であり、rは0~3の整数であるが、加水分解及び縮合反応が進行し適度なシロキサン架橋構造を形成させるためには、nは0、1又は2が好ましく、0又は1がより好ましい。また、rは0、1又は2が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0047】
フッ素含有アルコキシシラン化合物(3)及びアルコキシシラン化合物(4)の重量比率は、通常、1:100~100:1であり、好ましくは1:30~30:1であり、より好ましくは1:10~10:1である。
【0048】
フッ素含有シリコンオリゴマー(C)は、フッ素含有アルコキシシラン化合物(3)及びアルコキシシラン化合物(4)の混合物を部分加水分解して調製される。調製は公知の方法を用いることができる。例えば、フッ素含有アルコキシシラン化合物(3)及びアルコキシシラン化合物(4)の混合物を、水、アルコール(メタノール等)及び触媒の存在下で反応させて、フッ素含有シリコンオリゴマー(C)を調製することができる。
【0049】
フッ素含有有機シラン化合物を多孔質セラミック膜にコーティングする場合、フッ素含有有機シラン化合物を溶媒で希釈した溶液(以下、「コーティング液」と表記することもある。)を用いることが好ましい。溶媒としては、アルコール溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられ、メタノールがより好ましい。
【0050】
フッ素含有有機シラン化合物がアルコール溶媒に溶解しない場合は、フルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶媒を単独又は他の溶媒と混合して使用することができる。フッ素系溶媒は後処理を考慮して選択すればよいが、通常、沸点100℃以下のものが好ましい。フルオロカーボンは、パーフルオロヘキサン、パーフルオロイソヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン等が例示でき、パーフルオロヘキサンが好ましい。ハイドロフルオロエーテルとしては、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン等が例示でき、メチルノナフルオロブチルエーテルが好ましい。
【0051】
フッ素含有有機シラン化合物を含むコーティング液中におけるフッ素含有有機シラン化合物の濃度は、フッ素含有有機シラン化合物の分子量、溶解性、コスト等を考慮して、例えば、50~950000ppmであり、好ましくは100~500000ppmである。
【0052】
このうち、パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(A)を含むコーティング液中におけるパーフルオロエーテル基含有シラン化合物(A)の濃度は、例えば、50~10000ppmであり、好ましくは100~2000ppmである。
【0053】
パーフルオロエーテル基含有シラン化合物(B)を含むコーティング液中におけるパーフルオロエーテル基含有シラン化合物(B)の濃度は、例えば、50~10000ppmであり、好ましくは100~2000ppmである。
【0054】
フッ素含有シリコンオリゴマー(C)を含むコーティング液中におけるフッ素含有シリコンオリゴマー(C)の濃度は、例えば、1000~950000ppmであり、好ましくは20000~500000ppmである。
【0055】
コーティング液には、通常水を含み、触媒は含んでいても含んでいなくてもよい。フッ素含有有機シラン化合物の加水分解及び縮合反応を促進するために、水と触媒を含めることができる。コーティング液中の水の含有量は、フッ素含有有機シラン化合物のケイ素に結合した加水分解性基が加水分解される量であれば特に限定はない。触媒としては、酸又は塩基が挙げられ、酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、乳酸等の有機酸が挙げられる。塩基としては、例えば、アンモニア;トリエチルアミン等のアミン;水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基性アンモニウム塩等が挙げられる。触媒は、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。コーティング液中の触媒の含有量は、通常、0~5重量%であり、好ましくは0~0.1重量%である。
【0056】
コーティングの方法は特に限定はなく、例えば、スピンコーター、スプレーコーター、ダイコーター、バーコーター、テーブルコーター、アプリケーター、ドクターブレードコーターなどを用いて塗布する方法や、ディップコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。
【0057】
ディップコート法においては、任意の速度で、多孔質セラミック膜をコーティング液に浸漬して引き上げればよい。浸漬温度は、0~40℃であり、浸漬時間は、通常1~48時間、好ましくは3~24時間である。
【0058】
コーティング後の多孔質セラミック膜を、100~200℃(特に120~160℃)で1~10時間加熱して縮合反応を進行させた後、温度20~60℃、湿度50~90%で、1~24時間程度で熟成して本発明の水分離膜を得ることができる。
【0059】
本発明の水分離膜は、選択的な水分離能を発揮するフッ素含有コーティング層が多孔質セラミック膜表面に形成され、フッ素含有コーティング層がフッ素含有有機シラン化合物の加水分解縮合物からなることを特徴とする。X線光電子分光(XPS)で測定されるフッ素含有コーティング層の表面のフッ素原子濃度は、通常、1~45原子%(atomic%)であり、好ましくは1.5~40原子%である。本発明の水分離膜は、フッ素含有コーティング層のフッ素原子濃度がこの範囲であると、より優れた水分離能を発揮するとともに、水の分離能(透過性能)の低下をより抑制できる。
【0060】
2.水分離方法
本発明の水分離膜は、処理対象液(供給液)である水及び有機化合物を含む混合液から水を選択的に透過させて分離する浸透気化膜である。この浸透気化法では、膜を透過した水が相変化を伴い水蒸気として分離されることを特徴とする。
【0061】
混合液に含まれる有機化合物としては水と分離できるものであれば特に限定はなく、水よりも分子サイズが大きく、送液ポンプで送液可能な粘度の液体であればよく、例えば、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール化合物;アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン化合物;ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸;モノグラム、ジグライム、トリグライム等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル、アクリル酸メチル等のエステル化合物;NMP、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン等の含窒素化合物等が挙げられる。当該有機化合物は、1種又は2種以上でも良い。
【0062】
供給液に含まれる水の濃度は、広範囲から選択することができ、通常、0.005~99.5重量%であり、さらに0.01~10重量%であり、よりさらに0.03~3重量%である。
【0063】
分離工程における混合液及び水分離膜の温度は、水が気化できる温度であればよく、通常、30~200℃であり、好ましくは50~180℃であり、より好ましくは100~150℃である。水分離膜の透過側の真空度(減圧度)は、水が気化できる圧力であればよく、通常、0.01~5kPaであり、好ましくは0.1~3kPaであり、より好ましくは0.1~1kPaである。
【0064】
本発明の水分離方法は、混合液を水分離膜のコーティング層側(供給側)に接触させて、減圧にされた水分離膜の多孔質支持体側(透過側)に水を透過(浸透気化)させて実施する。
【0065】
当該膜を透過する水の透過流束は、供給液中の水分濃度、処理温度、圧力等により変動し得るが、例えば、0.1kg/m・h以上、又は0.4kg/m・h以上である。
【0066】
本発明の水分離方法によれば、回収液中の水分濃度を、供給液中の水分濃度より低くすることができる。
【0067】
本発明の水分離方法に用いられる水分離膜の特性として、典型的には、温度140℃、膜内圧力1kPa以下にて、2.5質量%含水2-エチル-1-ヘキサノール(以下、「2EH」と表記することがある。)を10mL/minで送液して水分離膜に接触させたとき、当該膜を透過する水の透過流束が、0.4kg/m・h以上であり、且つ、透過液中の2EH濃度が、60質量%以下(水の濃度が40重量%以上)である、水分離膜が挙げられる。
【0068】
本発明の水分離膜を用いて浸透気化を行うことにより、混合液から選択的に水を分離又は除去することができ、これにより有機化合物を精製したり、純度の高い有機化合物を製造したりすることができる。また、脱水縮合反応等のように平衡を伴う化学反応において本発明の水分離方法を用いることより、反応により生成する水を逐次又は連続的に反応系から分離又は除去できるため、目的とする生成物への化学平衡をシフトさせて化学反応を促進させることができる。
【0069】
3.水分離膜モジュール
本発明の水分離膜モジュールは、前記水分離膜とそれを収容するハウジングを有している。水分離膜モジュールの一態様を図2に示す。水分離膜モジュールの形状は特に限定はなく、例えば、チューブ形状(円筒状)、角柱状等が挙げられる。連続して供給液(水及び有機化合物を含む混合液)から水を分離又は回収する場合には、水分離膜11がチューブ形状(円筒状)であり、それを収容するハウジング10もチューブ形状(円筒状)であることが好ましい。
【0070】
水分離膜モジュールは、ハウジング10の一端に供給液を供給する供給口5aを有し、その他端に回収液を排出する排出口5bを有している。また、チューブ形状水分離膜の内側には、浸透気化した水(水蒸気)を排出する排出口5c、内側に溜まった液体を排出する排出口5dを有している。
【0071】
この水分離膜モジュールでは、供給液が水分離膜モジュールの一端に設けた供給口5aからハウジング10の内側と水分離膜11の外側との空間に供給される。当該供給液は、水分離膜11の外周面を流れて、水分離膜モジュールの他端に設けた排出口5bから回収液として排出される。その間、水分離膜11の内部は減圧状態に維持されているため、供給液が水分離膜11の外周面に接することで、水が水分離膜11の外側から内側に選択的に透過(浸透気化)する。気化した水は排出口5cから排出される。液体のまま水分離膜を透過してしまった場合には、水分離膜11の内側に溜まった液体を、排出口5dから抜き出すことができる。
【0072】
4.水分離装置
本発明の水分離装置の一態様を図3に示す。水分離装置は、供給液槽1、前記の水分離膜モジュール5、透過液槽8、及び真空ポンプ9を備えており、供給液槽1から供給液を水分離膜モジュール5に供給する流路Aを備え、水分離膜モジュール5の水分離膜11を透過(浸透気化)した気体を透過液槽8に供給する流路Bを備え、水分離膜11の内部、流路B及び透過液槽8の内部を減圧にするための真空ポンプ9を備えている。
【0073】
流路Aには、供給液を予め加熱するための予熱コイル3が設けられる。この予熱コイル3及び水分離膜モジュール5は、オーブン4内に設置される。オーブン4で加熱される水分離膜モジュール5の温度は、通常、20~200℃であり、好ましくは100~170℃である。
【0074】
真空ポンプ9により水分離膜11の内部が減圧に維持され、水分離膜モジュール5内での浸透気化が促進される。減圧の程度は、通常、0.01~5kPa以下であり、好ましくは0.1~1kPaである。
【0075】
水分離膜11を透過(浸透気化)した気体は、流路Bを経て冷媒槽7を備えた透過液槽(コールドトラップ)8で冷却されて液体として回収される。また、水分離膜11を液体のまま透過し、モジュール内部に溜まった液体は、試験後、排出口5dから排出され、透過液槽8に回収された液体と合わせ透過液とする。
【0076】
水分離膜モジュール5の供給口5aから供給された供給液のうち、水分離膜11を透過しなかった液体は、排出口5bから排出され流路Cを経て回収液槽6に回収される。回収液をさらに供給液槽1に移すことにより、繰り返し水分離処理することができる。
【0077】
水分離膜モジュールのハウジング10、供給口5a、排出口5b~5d、流路等は、耐熱性、耐圧性、耐腐食性等に優れた材質(例えば、SUS)を用いることが好ましい。
【実施例
【0078】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
実施例及び比較例において使用した材料、試薬、測定方法等は、次のとおりである。
【0080】
(多孔質セラミック膜)
・eSep nanoAX(多孔質セラミック層の中心細孔径5~10nm、外径12mm及び長さ200mmのチューブ形状、両端から40mmをテフロン(登録商標)熱収縮チューブで保護しているため有効膜長さは120mm):イーセップ株式会社製
・eSep nanoA(多孔質セラミック層の中心細孔径2~5nm、外径12mm及び長さ200mmのチューブ形状、両端から40mmをテフロン(登録商標)熱収縮チューブで保護しているため有効膜長さは120mm):イーセップ株式会社製
・eSep nanoB(多孔質セラミック層の中心細孔径1~2nm、外径12mm及び長さ200mmのチューブ形状、両端から40mmをテフロン(登録商標)熱収縮チューブで保護しているため有効膜長さは120mm):イーセップ株式会社製
・eSep nanoC(多孔質セラミック層の中心細孔径0.5~1nm、外径12mm及び長さ200mmのチューブ形状、両端から40mmをテフロン(登録商標)熱収縮チューブで保護しているため有効膜長さは120mm):イーセップ株式会社製
【0081】
(フッ素含有コーティング剤)
・KR-400F:信越化学工業株式会社製
・Novec1720(有効成分濃度1000ppm):スリーエムジャパン株式会社製
【0082】
(フッ素含有コーティング層のフッ素原子濃度の測定)
X線光電子分光分析装置(XPS)によるフッ素含有コーティング層の表面元素測定には、アルバック・ファイ株式会社製のXPS装置(PHI 5000VersaProbeII)を用い、以下の条件で測定及び解析を行った。
X線源には単色化したAl-Kα線を用い、出力は15kV、50W、X線ビーム系は200μm、取り込み角度は45°、取り込み領域は1100~0eVとした。測定元素は予め全元素スキャンして検出された元素を使用した。全元素スキャン時のPass Enenergyは117.4eV、Sweepは1とした。フッ素濃度定量時のPass Enenergyは炭素を23.5eV、それ以外の元素を58.7eVとした。Sweepは酸素を1、それ以外の元素を5とした。測定時には電子線とArイオンを同時に照射して試料の帯電を中和した。定量はGauss-Lorentz関数によるフィッティング及びShirley法により得られたピーク面積から相対感度係数法を用いて行った。データの解析はアルバック・ファイ社製のPHI MultiPakを用いた。
【0083】
(供給液の調製)
分液ロートに2-エチル-1-ヘキサノール(KHネオケム株式会社製、以下、「2EH」と略す)及び室温における溶解度を超える水を加えて激しく撹拌後、静置して分層させた。回収した上層の水飽和2EHに新規の2EHを加え、水分濃度を2.4~2.5重量%とした供給液を調製した。
【0084】
(水分離膜の性能評価)
水分離膜モジュール(株式会社DFC製、材質SUS316のハウジング10と水分離膜11とのクリアランスは0.6mm)を図2に、それを含む水分離膜の評価装置を図3にそれぞれ示した。評価装置の流路は指定がない限り材質SUS316、外径1/16インチ、内径1mmの配管を使用した。
予熱コイル(6m)3及び水分離膜モジュール5を具備したオーブン4を140℃に設定し、送液ポンプ(島津製作所製、LC-20AP)2で供給槽1から供給液を10mL/min.で送液した。供給液は水分離膜モジュール5aから入り、5bから出てきた回収液を回収槽6に回収した。水分離膜モジュールに具えられた水分離膜の内側は真空ポンプ(株式会社FUSO製、VP-115)9で1kPa以下に減圧した。水分離膜モジュール内で透過した透過ガスは水分離膜モジュール5cから出て透過液槽(コールドトラップ)8で捕集し、透過液として回収した。
冷媒槽7の冷媒にはイソプロピルアルコール及びドライアイスを用いた。透過液の採取量は実験の再現性の観点から、透過液中の水又は2EHの少ない方が最低1.0g以上になるよう実施した。また水分離膜を液体のまま透過し、モジュール内部に溜まってしまった場合は分離膜モジュール5dから回収し、透過液槽(コールドトラップ)で捕集した液とまとめて透過液とした。
なお水分離膜モジュール5cと透過液槽(コールドトラップ)との接続には、材質SUS316、外径1/4インチ、内径4mmの配管及び内径4mmの耐圧ホースを用いた。
【0085】
(供給液又は透過液の水分測定)
供給液又は透過液の有機化合物中の水分濃度の測定は、カールフィッシャー水分濃度計(京都電子工業株式会社製、EBU-610-KF)用いて行った。カールフィッシャー水分測定溶媒は、三菱化学製のアクアミクロン脱水溶剤MEを、カールフィッシャー水分測定用試薬は、Honeywell社製のHYDRANAL- Composit 5を使用した。なお、均一溶液とならない透過液の場合は、遠心分離機(日立工機株式会社製、05P-21)を用いて3000rpm、10分間処理して分層させた後、上層の2EH中の水分を測定することとした。
【0086】
(2EH濃度の算出方法)
供給液など、均一な液体の場合は2EHの水分測定結果を用いて(式1)のように2EH濃度を算出した。
(式1) 2EH濃度(重量%)=100-2EH中の含水率(重量%)
2EHと水とが均一溶液とならない透過液の場合は、(式2)で算出した水重量を用い、(式3)のように2EH濃度を算出した。
(式2) 水重量(g)=(上層の重量(g)×2EH中の含水率(重量%)/100)+下層の水重量(g)
(式3) 2EH濃度(重量%)={(透過液重量(g)-水重量(g))/透過液重量(g)}×100
【0087】
(透過流束の算出方法)
実施例及び比較例で使用した水分離膜は外径12mm、有効膜長さ120mmであるため、有効面積は(式4)の通りとなる。式4中のπは円周率とする。水透過流束は(式5)を用いて算出した。2EH透過流束は(式5)の水重量を2EH重量に置き換えて算出した。
(式4) 有効膜面積(m)=π×0.012(m)×0.12(m)
(式5) 水透過流束(kg/m・h)=水重量(kg)/(有効膜面積(m)×透過液捕集時間(h))
【0088】
[実施例1]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXを100mLメスシリンダーに入れ、多孔質セラミック膜の上端が浸るまで(約120mL)、500000ppm濃度のKR-400Fメタノール溶液をフッ素含有コーティング剤として注ぎ、パラフィン製のフィルムで蓋をした状態で室温にて24時間静置して浸漬させた。浸漬後の多孔質セラミック膜を取り出し、旭化成株式会社製のベンコットM3-IIで余剰分のコーティング剤を拭き取った。
次いで、140℃に設定したオーブン(ヤマト科学製、イナートオーブンDN63HI)内にて3時間加熱後、温度25℃、湿度60%に設定した恒温室内にて24時間静置した。上記工程を経て、本発明の水分離膜(A)を得た。水分離膜(A)のフッ素原子濃度は12.3atomic%であった。
水分離膜(A)の性能評価を行ったところ、水透過流束0.5kg/m・h、透過液の2EH濃度は10.0重量%であった。
【0089】
[実施例2]
500000ppm濃度のKR-400Fメタノール溶液を、2000ppm濃度に変更する以外は実施例1と同様の工程を経て、水分離膜(B)を得た。水分離膜(B)のフッ素原子濃度は1.1atomic%であった。
水分離膜(B)の性能評価を行ったところ、水透過流束0.4kg/m・h、透過液の2EH濃度は58.2重量%であった。
【0090】
[実施例3]
500000ppm濃度のKR-400Fメタノール溶液をNovec1720に変更し、入手した原液を希釈せずに使用した以外は実施例1と同様の工程を経て、水分離膜(C)を得た。水分離膜(C)のフッ素原子濃度は37.3atomic%であった。
水分離膜(C)の性能評価を行ったところ、水透過流束0.6kg/m・h、透過液の2EH濃度は42.3重量%であった。
【0091】
[実施例4]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXをeSep nanoAに変更する以外は実施例2と同様の工程を経て、水分離膜(D)を得た。水分離膜(D)のフッ素原子濃度は7.5atomic%であった。
水分離膜(D)の性能評価を行ったところ、水透過流束0.5kg/m・h、透過液の2EH濃度は32.2重量%であった。
【0092】
[実施例5]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXをeSep nanoAに変更する以外は実施例3と同様の工程を経て、水分離膜(E)を得た。水分離膜(E)のフッ素原子濃度は36.8atomic%であった。
水分離膜(E)の性能評価を行ったところ、水透過流束0.7kg/m・h、透過液の2EH濃度は44.4重量%であった。
【0093】
[実施例6]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXをeSep nanoBに変更する以外は実施例2と同様の工程を経て、水分離膜(F)を得た。水分離膜(F)のフッ素原子濃度は6.7atomic%であった。
水分離膜(F)の性能評価を行ったところ、水透過流束0.8kg/m・h、透過液の2EH濃度は59.5重量%であった。
【0094】
[実施例7]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXをeSep nanoBに変更する以外は実施例3と同様の工程を経て、水分離膜(G)を得た。水分離膜(G)のフッ素原子濃度は34.4atomic%であった。
水分離膜(G)の性能評価を行ったところ、水透過流束1.1kg/m・h、透過液の2EH濃度は56.2重量%であった。
【0095】
[実施例8]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXをeSep nanoCに変更する以外は実施例2と同様の工程を経て、水分離膜(H)を得た。水分離膜(H)のフッ素原子濃度は1.6atomic%であった。
水分離膜(H)の性能評価を行ったところ、水透過流束1.0kg/m・h、透過液の2EH濃度は20.1重量%であった。
【0096】
[実施例9]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXをeSep nanoCに変更する以外は実施例3と同様の工程を経て、水分離膜(I)を得た。水分離膜(I)のフッ素原子濃度は32.7atomic%であった。
水分離膜(I)の性能評価を行ったところ、水透過流束1.1kg/m・h、透過液の2EH濃度は15.5重量%であった。
【0097】
[比較例1]
多孔質セラミック膜eSep nanoAXを、水分離膜(a)とした。水分離膜(a)のフッ素原子濃度は0atomic%であった。
水分離膜(a)の性能評価を行ったところ、水透過流束1.0kg/m・h、透過液の2EH濃度は97.1重量%であった。
【0098】
[比較例2]
多孔質セラミック膜eSep nanoAを、水分離膜(b)とした。水分離膜(b)のフッ素原子濃度は0.3atomic%であった。
水分離膜(b)の性能評価を行ったところ、水透過流束1.1kg/m・h、透過液の2EH濃度は96.5重量%であった。
【0099】
[比較例3]
多孔質セラミック膜eSep nanoBを、水分離膜(c)とした。水分離膜(c)のフッ素原子濃度は0.3atomic%であった。
水分離膜(c)の性能評価を行ったところ、水透過流束1.1kg/m・h、透過液の2EH濃度は95.4重量%であった。
【0100】
[比較例4]
多孔質セラミック膜eSep nanoCを、水分離膜(f)とした。水分離膜(f)のフッ素原子濃度は0.3atomic%であった。
水分離膜(f)の性能評価を行ったところ、水透過流束1.1kg/m・h、透過液の2EH濃度は40.6重量%であった。
【0101】
実施例1~9及び比較例1~4の条件及び測定値を表1に示す。
【表1】
【0102】
表1より、フッ素含有コーティング層を有する多孔質セラミック膜を用いた場合(実施例)には、それを有しない多孔質セラミック膜を用いた場合(比較例)に比べて、透過液中の水の濃度が飛躍的に高くなることが分かった。これは、実施例では、供給液から水を高選択的に分離できること、即ち処理後の回収液中の水の含有量を大きく低減できることを意味する。この結果は、中心細孔径が同じ多孔質セラミック膜を用いた実施例と比較例を対比することにより容易に理解できる(例えば、実施例1~3と比較例1との対比)。
【0103】
(水分離膜の性能安定性)
表1の水分離膜(F)及び(G)のそれぞれに、薬品としてアルコール、カルボン酸、アルデヒド又はアミンをそれぞれ接触させ、その接触前と後の水分離膜の水分離性能(水及び2EHの透過流束)をそれぞれ測定し、その差を用いて性能安定性を評価した。
アルコールとして2-エチル-1-ヘキサノール(2EH)を、カルボン酸として2-エチル-1-ヘキサン酸(2EA)を、アルデヒドとして2-エチル-1-ヘキサナール(2EN)を、アミンとして2-エチル-1-ヘキシルアミン(2EHA)を用いた。
【0104】
(水分離膜とアルコール、カルボン酸、アルデヒド又はアミンとの接触方法)
図3に示した評価装置を用い、予熱コイル3(6m)及び水分離膜モジュール5を具備したオーブン4を140℃に設定し、2EH、2EA、2EN又は2EHAを送液ポンプ2で供給液槽1から10mL/min.で送液した。膜と接触した前記供給液の大部分は回収液槽6に回収した。回収液は供給液槽1に戻して再度供給液として利用しながら8時間送液し、膜と接触させた。
水分離膜モジュールに具えられた水分離膜の内側は、真空ポンプ9で1kPa以下に減圧した。水分離膜モジュール内で透過した透過ガスは透過液槽8で捕集し、透過液として回収した。
【0105】
(安定性の評価方法)
水分離膜の性能安定性は、初期の水分離膜の水及び2EHの透過流束から、上記薬品を接触させた後の水分離膜の水及び2EHの透過流束の差により評価した。それぞれの評価基準は以下の通りである。Cが1以上あれば不適と、Bが2以下(他の評価はA)であれば良好と、Bが1以下(他の評価はA)であれば特に良好と評価される。
<水の透過流束の差の評価>
A:0以下
B:0を超え、0.2以下
C:0.2を超える
<2EHの透過流束の差の評価>
A:0以上
B:-0.2以上、0未満
C:-0.2未満
【0106】
[実施例10]
初期性能評価後の水分離膜(F)に、2EH、2EA、2EN又は2EHAを接触させた後、再度膜性能を評価した。
【0107】
[実施例11]
初期性能評価後の水分離膜(G)に2EH又は2EAを接触させた後、再度膜性能を評価した。
実施例10及び11の測定値及び評価結果を表2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
表2より、本発明の水分離膜は、種々の薬品と長時間の接触した後でも、その水分離性能は安定的に維持されていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の水分離膜は、水の分離能に優れ、使用に伴う水の分離能(透過性能)の低下を抑制できる。
図1
図2
図3